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脱塩器内部品のリスクベースメンテナンス方法に もとづく最適な保全周期設定の研究 鈴木 茂雄 A study of the Optimal Period Setting Based on the Risk Based Maintenance Method of Desalter Unit's Internal Components by Shigeo SUZUKI* Maintenance planning of stationary equipment in the petroleum plant is based on information of maintenance inspection history, daily routine inspection history and operation monitoring trend recording, and level evaluation of likelihood of damage and degrees of influence of damage when damage occurs is performed using failure mode and effects analysis (FMEA) worksheet. Risk controls such as avoidance and removal, reduction, dispersion and tolerance are taken in accordance with the degrees of influence. While Electro-Dynamic Desalter (EDD) which is important to corrosion reduction of the atmospheric distillation unit is a pressure vessel, EDD is treated as electrical equipment since the internal structure in which 124 or more electrode plates are set has a function of agglomerating and removing fine water droplets which are impurities in crude oil by applied voltage 20-40kV.References concerning risk-based maintenance (RBM) for a large number of running EDD all over the world cannot be found. Damaged parts of EDD internals both in and outside Japan were sampled, and analysis in the viewpoint of failure physics, remaining life evaluation technology for non-metallic materials by a simple non-destructive testing method and knowledge of setting optimum maintenance period are obtained. The details are therefore described in this paper. Key words: Failure mode and effects analysis, Electro-Dynamic Desalter, Risk-based maintenance, Optimum maintenance period, Reliability, Availability, Maintainability 1 供用期間における圧力容器の性能および機能維持の ための保全計画は, 定期開放検査履歴, 日常検査履歴 および運転監視記録などのデータベースをもとに, 障モード影響解析(FMEA)ワークシートをベースとして, 損傷の発生確率と破損発生時における被害影響度リス クレベルを評価し 1) , その影響度に応じて回避・除去, 移転, 低減, 分散, 保有・許容のリスク対応 1),2) を実行 する. さらに, 受容されない領域のリスクは, 受容可 能領域(ALARP) 2) への対応として, 定期修理検査工事 (SDM)での補修, 取替および検査有効度 2) のランクを上 げて損傷に対する腐食減肉速度, 割れ伝播の進展速度 を評価する. また, 傾向管理検査として日常検査(OSI; On stream inspection), 定期修理検査(SDM; Shutdown Maintenance)で監視する. ここで問題なのは, 定期開 放検査履歴または, 運転監視記録としてリストアップ された該当機器での損傷モードであり, 該当外の機器 は事後保全となり最悪の場合は, 損傷の影響による計 画外運転停止を余儀なくされる. 静電脱塩器(EDD; Electro-Dynamic Desalter)は圧力 容器である.しかし, 内部構造は 124 枚以上の電極板(金属材料)に印加電圧 20kV から 40kV によって原油中の 不純物である微粒水滴を凝集, 除去する機能を有して いるために, 電気設備の扱いとなる. さらに, 圧力容 器の耐圧貫通部のシール機能は, 非金属材と金属材と の組合せである. したがって, 非破壊検査の検査有効 度からは, 金属-非金属の組合せのために検査範囲も限 定的となる. 損傷に対し OSI 検査は装置を停止して機器 を開放し、内部入挿する必要があるので不可能である. さらに, SDM 検査での外観目視検査による数年先の余寿 命評価は, 事後保全評価と同等であることが懸念され . EDD 装置が使用されているのは, 著者らの調査から は国内外に 30 基以上建設されているが, 損傷事例およ EDD に関するリスクベースメンテナンス(RBM)文献も 稀有である. 本稿では国内外における EDD 内部品で損傷 した小サンプル品から, 故障物理 3) の着眼点として解析, 非金属材料に対する非破壊検査による設備診断検査技 術および, リスクベースメンテナンス(RBM)による最適 原稿受理 平成28103Received Oct.3,2016 2017 The Society of Materials Science, Japan * 鈴木技術士事務所 314-0146 神栖市平泉 , Hiraizumi, Kamisu, 314-0146 「材料」 (Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 66, No. 10, pp. 713-718, Oct. 2017 解  説

A study of the Optimal Period Setting Based on the Risk

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脱塩器内部品のリスクベースメンテナンス方法に

もとづく最適な保全周期設定の研究† 鈴木 茂雄*・

A study of the Optimal Period Setting Based on the Risk Based Maintenance Method of Desalter Unit's Internal Components

by

Shigeo SUZUKI*

Maintenance planning of stationary equipment in the petroleum plant is based on information of maintenance inspection history, daily routine inspection history and operation monitoring trend recording, and level evaluation of likelihood of damage and degrees of influence of damage when damage occurs is performed using failure mode and effects analysis (FMEA) worksheet. Risk controls such as avoidance and removal, reduction, dispersion and tolerance are taken in accordance with the degrees of influence. While Electro-Dynamic Desalter (EDD) which is important to corrosion reduction of the atmospheric distillation unit is a pressure vessel, EDD is treated as electrical equipment since the internal structure in which 124 or more electrode plates are set has a function of agglomerating and removing fine water droplets which are impurities in crude oil by applied voltage 20-40kV.References concerning risk-based maintenance (RBM) for a large number of running EDD all over the world cannot be found. Damaged parts of EDD internals both in and outside Japan were sampled, and analysis in the viewpoint of failure physics, remaining life evaluation technology for non-metallic materials by a simple non-destructive testing method and knowledge of setting optimum maintenance period are obtained. The details are therefore described in this paper.

Key words: Failure mode and effects analysis, Electro-Dynamic Desalter, Risk-based maintenance, Optimum maintenance period, Reliability, Availability, Maintainability

1 緒 言

供用期間における圧力容器の性能および機能維持のための保全計画は, 定期開放検査履歴, 日常検査履歴および運転監視記録などのデータベースをもとに, 故障モード影響解析(FMEA)ワークシートをベースに損傷の発生確率と破損発生時における被害影響度リスクレベルを評価し 1), その影響度に応じて回避・除去, 移転, 低減, 分散, 保有・許容のリスク対応 1),2)を実行する. さらに, 受容されない領域のリスクは, 受容可能領域(ALARP)2)への対応として, 定期修理検査工事(SDM)での補修, 取替および検査有効度 2)のランクを上げて損傷に対する腐食減肉速度, 割れ伝播の進展速度を評価する. また, 傾向管理検査として日常検査(OSI; On stream inspection), 定 期 修 理 検 査 (SDM; Shutdown Maintenance)で監視する. ここで問題なのは, 定期開放検査履歴または, 運転監視記録としてリストアップされた該当機器での損傷モードであり, 該当外の機器は事後保全となり最悪の場合は, 損傷の影響による計画外運転停止を余儀なくされる.

静電脱塩器(EDD; Electro-Dynamic Desalter)は圧力容器である.しかし, 内部構造は124枚以上の電極板(非金属材料)に印加電圧 20kV から 40kV によって原油中の不純物である微粒水滴を凝集, 除去する機能を有しているために, 電気設備の扱いとなる. さらに, 圧力容器の耐圧貫通部のシール機能は, 非金属材と金属材との組合せである. したがって, 非破壊検査の検査有効度からは, 金属-非金属の組合せのために検査範囲も限定的となる. 損傷に対しOSI検査は装置を停止して機器を開放し、内部入挿する必要があるので不可能である. さらに, SDM 検査での外観目視検査による数年先の余寿命評価は, 事後保全評価と同等であることが懸念される. EDD 装置が使用されているのは, 著者らの調査からは国内外に 30 基以上建設されているが, 損傷事例および EDD に関するリスクベースメンテナンス(RBM)文献も稀有である. 本稿では国内外におけるEDD内部品で損傷した小サンプル品から, 故障物理 3)の着眼点として解析, 非金属材料に対する非破壊検査による設備診断検査技術および, リスクベースメンテナンス(RBM)による最適

† 原稿受理 平成28年10月 3日 Received Oct.3,2016 ©2017 The Society of Materials Science, Japan * 正 会 員 日本コムシス㈱ 〒141-8647 東京都品川区東五反田,Nippon COMSYS Corporation, Business Division, shinagawa-Ku,

Tokyo 141-8647

脱塩器内部品のリスクベースメンテナンス方法に

もとづく最適な保全周期設定の研究† 鈴木 茂雄*・

A study of the Optimal Period Setting Based on the Risk Based Maintenance Method of Desalter Unit's Internal Components

by

Shigeo SUZUKI*

Maintenance planning of stationary equipment in the petroleum plant is based on information of maintenance inspection history, daily routine inspection history and operation monitoring trend recording, and level evaluation of likelihood of damage and degrees of influence of damage when damage occurs is performed using failure mode and effects analysis (FMEA) worksheet. Risk controls such as avoidance and removal, reduction, dispersion and tolerance are taken in accordance with the degrees of influence. While Electro-Dynamic Desalter (EDD) which is important to corrosion reduction of the atmospheric distillation unit is a pressure vessel, EDD is treated as electrical equipment since the internal structure in which 124 or more electrode plates are set has a function of agglomerating and removing fine water droplets which are impurities in crude oil by applied voltage 20-40kV.References concerning risk-based maintenance (RBM) for a large number of running EDD all over the world cannot be found. Damaged parts of EDD internals both in and outside Japan were sampled, and analysis in the viewpoint of failure physics, remaining life evaluation technology for non-metallic materials by a simple non-destructive testing method and knowledge of setting optimum maintenance period are obtained. The details are therefore described in this paper.

Key words: Failure mode and effects analysis, Electro-Dynamic Desalter, Risk-based maintenance, Optimum maintenance period, Reliability, Availability, Maintainability

1 緒 言

供用期間における圧力容器の性能および機能維持の

ための保全計画は, 定期開放検査履歴, 日常検査履歴

および運転監視記録などのデータベースをもとに, 故

障モード影響解析(FMEA)ワークシートをベースとして,

損傷の発生確率と破損発生時における被害影響度リス

クレベルを評価し 1), その影響度に応じて回避・除去,

移転, 低減, 分散, 保有・許容のリスク対応 1),2)を実行

する. さらに, 受容されない領域のリスクは, 受容可

能領域(ALARP)2)への対応として, 定期修理検査工事

(SDM)での補修, 取替および検査有効度 2)のランクを上

げて損傷に対する腐食減肉速度, 割れ伝播の進展速度

を評価する. また, 傾向管理検査として日常検査(OSI; On stream inspection), 定期修理検査(SDM; Shutdown

Maintenance)で監視する. ここで問題なのは, 定期開

放検査履歴または, 運転監視記録としてリストアップ

された該当機器での損傷モードであり, 該当外の機器

は事後保全となり最悪の場合は, 損傷の影響による計

画外運転停止を余儀なくされる.

静電脱塩器(EDD; Electro-Dynamic Desalter)は圧力

容器である.しかし, 内部構造は 124枚以上の電極板(非

金属材料)に印加電圧 20kV から 40kV によって原油中の

不純物である微粒水滴を凝集, 除去する機能を有して

いるために, 電気設備の扱いとなる. さらに, 圧力容

器の耐圧貫通部のシール機能は, 非金属材と金属材と

の組合せである. したがって, 非破壊検査の検査有効

度からは, 金属-非金属の組合せのために検査範囲も限

定的となる. 損傷に対し OSI検査は装置を停止して機器

を開放し、内部入挿する必要があるので不可能である.

さらに, SDM 検査での外観目視検査による数年先の余寿

命評価は, 事後保全評価と同等であることが懸念され

る. EDD 装置が使用されているのは, 著者らの調査から

は国内外に 30 基以上建設されているが, 損傷事例およ

び EDD に関するリスクベースメンテナンス(RBM)文献も

稀有である. 本稿では国内外における EDD内部品で損傷

した小サンプル品から, 故障物理 3)の着眼点として解析,

非金属材料に対する非破壊検査による設備診断検査技

術および, リスクベースメンテナンス(RBM)による最適

† 原稿受理 平成28年10月 3日 Received Oct.3,2016 2017 The Society of Materials Science, Japan

* 正 会 員 鈴木技術士事務所 〒314-0146 神栖市平泉903-145,Kamisu, Ibaraki, 314-0146

鈴木技術士事務所 〒 314-0146 神栖市平泉 , Hiraizumi, Kamisu, 314-0146

「材料」 (Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 66, No. 10, pp. 713-718, Oct. 2017

解  説

03-2016-0109-(p.713-718).indd 713 2017/09/25 16:20:16

断面部のはく離状態を Fig.3 に示す. 6 年間使用材(供試材 B)と 12 年間使用材(供試材 C)ともに断面がはく離しており, 前者では電極板が凸に変形しはく離先端がシャープであるが, 後者では上下に変形しはく離先端は鈍化傾向に見える. さらに, 平面部も劣化による貫通孔が発生しているので材料強度も極端に低下している. なお, 電極板は強度部材ではないので脱塩機能性を評価することになる.

Fig.4 の横軸には後述 Fig.7 の硬度を示し, 供試材A(未使用材), 供試材 B および供試材 C からの硬度測定結果を示している. 縦軸は電気抵抗値の測定結果を示している. 測定の選定位置は, 外観目視検査で最も経年劣化が過酷な供試材Cの表面が真黒く変色劣化した範囲を重度劣化レベル(供試材 C)とし, 外観目視検査で色彩が薄れてくる程度に応じて中度劣化レベル(供試材 B), 軽度劣化レベル(供試材 B)および健全域レベル(供試材A)としている. 測定結果からは, 電気抵抗値と硬度値には良い相関関係があり, 硬度が軟化傾向を示すと電気抵抗も低下している. また, 重度劣化レベルと健全域レベルとの比較では, 3 倍強の電気抵抗値に差が生じていた. このことから, 供試材Cでの電極板に流れる電流値も大幅に減少し, 脱塩, 脱水機能低下の要因となっていた.

電気抵抗値 Rは, 式(3)によって求められる. 物体の長さ Lと断面積 A’は各供試材 A, B および Cとも変化が小さいので一定とすれば, 電気抵抗率ρは経年劣化とともに電極板マトリックスに原油および不純物の浸透, 拡散拡大による腐食と材料密度変化, 外観目視検査での表層部の多数の微小割れおよび端面のはく離による塑性ひずみの発生などが関係し, 電気抵抗と硬度による傾向管理と評価が可能となる.

A'Lρ=R (3)

Fig.5 での引張試験は, JIS 規格番号 6号形, ロード

セル 100kN, クロスヘッド移動速度 2mm/min, つかみ間隔 145mm の条件で行った. 供試材 A は 66.52MPa, 供試材 C は 5.32MPa と 1/10 以下の値であった. さらに, 電極板取付ボルト穴が横に並列設計となっているので応力集中の干渉効果で式(4)での応力集中係数は 3.0 以上となる. このため電極板交換作業時に電極板ボルト穴に多数のき裂が,6年を経過した頃から認められ, 数カ所の電極板が機器底部に脱落していた.

)23

21( 4

4

2

2

0 xa

xa

y ++=σσ (4)

ここで, σy;ボルト穴中心を通り遠方応力に平行な線上の垂直応力, σo;遠方引張応力, a;ボルト穴半径, x;ボルト穴中心を通り遠方応力に平行な線上のボルト穴中心からの距離である. Fig.6 は供試材 B および C の走査型電子顕微鏡(SEM)の観察結果を示している. 供試材Bはマトリックスとガラス繊維の境界での, エネルギー分散型分光器の成分分析からは原油中の不純物である硫黄, カルシウム, 鉄分などが浸透, 拡散および堆積しており, 堆積内部には膨潤による, 空孔とき裂が確認できる. 供試材Cは, マトリックスに幅100μmのき裂が肉厚方向10mm深さに多数確認された. また, ガラス繊維にもき裂が多数認められ,電極板の寿命となっている. 供試材 A, B および

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Elec

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istan

ce (Ω

)

Rockwell hardness(HRM)

Fig.3 Macro observation of damage comparison with specimens B and C.

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0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

Tens

ile s

tress

/MPa

Elongation rate (mm)

Fig.5 Comparison result of tensile test of virgin material and specimen C.

Fig.4 Relationship between deteriorated electrode plate and electric resistance value.

な保全周期設定の知見が得られたので詳述する.

2 原油の静電脱塩器の機能と影響度 2・1脱塩器の原理と機能 原油脱塩器は原油中の塩分, 水分および無機塩の不

純物を除去することをいい, その装置を脱塩器(Desalter)という. 不純物は, 原油中に浮遊して長期間沈殿分離せず安定な微粒水滴のまま残存する 4). さらに, 微粒水滴は原油中の有機酸, アスファルト, 硫酸塩, 炭酸カルシウムおよび粘土微粒子などが水滴表面に吸着し, 強靭な吸着量となり, 安定な微粒子水滴を形成する. 水滴表面の吸着量は式(1)のラングミュアの吸着等温式で求められる.

(1)

(

ここで, Γ; 水滴表面の吸着量, C; 不純物濃度, σ; 水滴の界面張力であり, 式(1)の dσ/dcが大きいほど吸着量は多くなり安定な微粒水滴を形成する. この微粒水滴を凝集,除去することは原油中の不純物を除去することになる. 脱塩器では原油中の微粒水滴に対して電圧を印加すると微粒水滴には分極電荷が誘起され分極力が生じる. Fig.1 は脱塩,脱水のメカニズムで, 隣接する2つの微粒水滴には分極力が作用し, 微粒水滴はお互いに引き合った結果は接触, 衝突し合体する. このとき分極力 Fは式(2)で表される.

4

232

31

ZErKrF = (2)

ここで, r1, r2;水滴の半径, E;電場強度, Z;2 つの水滴の中心間距離, k;溶液物性値である.

原油中に浮遊する微粒水滴に印加電圧が高いほど,

水滴径が大きいほど, さらに水滴同士が接近しているほど水滴の合体は促進される. 合体した大きな水滴は電気力に打ち勝って下方に沈降し, 定期的に排水とし

て圧力容器外に排出処理される. 2・2 脱塩器内部品の劣化, 損傷と保全方式 原油中の水分, 塩分および固形物, 無機塩を残留したまま熱交換器, 加熱炉, 配管および蒸留塔へ通油すると, 腐食減肉, 孔食, 閉塞, コーキング, さらにクリープ損傷などの様々な損傷, 障害が発生する. 脱塩器内部品のOSI検査は装置を停止しない限り不可能である. そのためにSDM機器開放検査において発見された損傷または劣化部品の補修に対して, 数年先の寿命予測が必要である. しかし, 電気設備としてのMTTF(Mean time to failure:非修理系の部品取替)とした考え方では, リスクベースメンテナンス(RBM), 信頼性中心保全(RCM)の潮流からは取り残されている. 脱塩器をさらに困難にさせているのは運転側からの性能要求は電気設備であり, 異常時は通電を停止し, バイパス運転が可能であることも寄与し, 損傷モードを故障物理として発生していることを認識していないケースもある.しかし, バイパス運転は後工程機器の損傷を早めることになる. Fig.2 は,本研究としての脱塩器内部品を示している.

非金属材-金属材の組合せ構成品に対する損傷の発生確率とその影響度を評価することになる. 図中 aa(エンドアダプターおよびОリングの組合せ)および図中 bb(電極板と金属ボルトの組合せ)における損傷メカニズムのリスクランキング評価と対応に関して, 事後保全, 一次リスクランキング 1)および二次リスクランキング 1)での保全性, 信頼性および稼働性を含めた保全周期設定の比較評価とする.

3 損傷した供試材の調査結果および考察 3・1 電極板の調査結果 電極板の本体はガラス繊維プラスチック(厚み約32mm), 導電部にカーボンファイバーを張付けて全体をポリエステル系でコーティングされている. 供試材の

dcd

RTC σ・−=Γ

Fig.1 Schematic diagram of a basic desalination mechanism of desalter.

Fig.2 Schematic diagram of installation of electrode plates and O ring.

形成する . 水滴表面の吸着量は式 (1) の吸着等温式

で求められる .

714 鈴  木  茂  雄

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断面部のはく離状態を Fig.3 に示す. 6 年間使用材(供試材 B)と 12 年間使用材(供試材 C)ともに断面がはく離しており, 前者では電極板が凸に変形しはく離先端がシャープであるが, 後者では上下に変形しはく離先端は鈍化傾向に見える. さらに, 平面部も劣化による貫通孔が発生しているので材料強度も極端に低下している. なお, 電極板は強度部材ではないので脱塩機能性を評価することになる.

Fig.4 の横軸には後述 Fig.7 の硬度を示し, 供試材A(未使用材), 供試材 B および供試材 C からの硬度測定結果を示している. 縦軸は電気抵抗値の測定結果を示している. 測定の選定位置は, 外観目視検査で最も経年劣化が過酷な供試材Cの表面が真黒く変色劣化した範囲を重度劣化レベル(供試材 C)とし, 外観目視検査で色彩が薄れてくる程度に応じて中度劣化レベル(供試材 B), 軽度劣化レベル(供試材 B)および健全域レベル(供試材A)としている. 測定結果からは, 電気抵抗値と硬度値には良い相関関係があり, 硬度が軟化傾向を示すと電気抵抗も低下している. また, 重度劣化レベルと健全域レベルとの比較では, 3 倍強の電気抵抗値に差が生じていた. このことから, 供試材Cでの電極板に流れる電流値も大幅に減少し, 脱塩, 脱水機能低下の要因となっていた.

電気抵抗値 Rは, 式(3)によって求められる. 物体の長さ Lと断面積 A’は各供試材 A, B および Cとも変化が小さいので一定とすれば, 電気抵抗率ρは経年劣化とともに電極板マトリックスに原油および不純物の浸透, 拡散拡大による腐食と材料密度変化, 外観目視検査での表層部の多数の微小割れおよび端面のはく離による塑性ひずみの発生などが関係し, 電気抵抗と硬度による傾向管理と評価が可能となる.

A'Lρ=R (3)

Fig.5 での引張試験は, JIS 規格番号 6号形, ロード

セル 100kN, クロスヘッド移動速度 2mm/min, つかみ間隔 145mm の条件で行った. 供試材 A は 66.52MPa, 供試材 C は 5.32MPa と 1/10 以下の値であった. さらに, 電極板取付ボルト穴が横に並列設計となっているので応力集中の干渉効果で式(4)での応力集中係数は 3.0 以上となる. このため電極板交換作業時に電極板ボルト穴に多数のき裂が,6年を経過した頃から認められ, 数カ所の電極板が機器底部に脱落していた.

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0 xa

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y ++=σσ (4)

ここで, σy;ボルト穴中心を通り遠方応力に平行な線上の垂直応力, σo;遠方引張応力, a;ボルト穴半径, x;ボルト穴中心を通り遠方応力に平行な線上のボルト穴中心からの距離である. Fig.6 は供試材 B および C の走査型電子顕微鏡(SEM)

の観察結果を示している. 供試材Bはマトリックスとガラス繊維の境界での, エネルギー分散型分光器の成分分析からは原油中の不純物である硫黄, カルシウム, 鉄分などが浸透, 拡散および堆積しており, 堆積内部には膨潤による, 空孔とき裂が確認できる. 供試材Cは, マトリックスに幅100μmのき裂が肉厚方向10mm深さに多数確認された. また, ガラス繊維にもき裂が多数認められ,電極板の寿命となっている. 供試材 A, B および

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ce (Ω

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Rockwell hardness(HRM)

Fig.3 Macro observation of damage comparison with specimens B and C.

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0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

Tens

ile s

tress

/MPa

Elongation rate (mm)

Fig.5 Comparison result of tensile test of virgin material and specimen C.

Fig.4 Relationship between deteriorated electrode plate and electric resistance value.

な保全周期設定の知見が得られたので詳述する.

2 原油の静電脱塩器の機能と影響度 2・1脱塩器の原理と機能 原油脱塩器は原油中の塩分, 水分および無機塩の不

純物を除去することをいい, その装置を脱塩器(Desalter)という. 不純物は, 原油中に浮遊して長期間沈殿分離せず安定な微粒水滴のまま残存する 4). さらに, 微粒水滴は原油中の有機酸, アスファルト, 硫酸塩, 炭酸カルシウムおよび粘土微粒子などが水滴表面に吸着し, 強靭な吸着量となり, 安定な微粒子水滴を形成する. 水滴表面の吸着量は式(1)のラングミュアの吸着等温式で求められる.

(1)

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ここで, Γ; 水滴表面の吸着量, C; 不純物濃度, σ; 水滴の界面張力であり, 式(1)の dσ/dcが大きいほど吸着量は多くなり安定な微粒水滴を形成する. この微粒水滴を凝集,除去することは原油中の不純物を除去することになる. 脱塩器では原油中の微粒水滴に対して電圧を印加すると微粒水滴には分極電荷が誘起され分極力が生じる. Fig.1 は脱塩,脱水のメカニズムで, 隣接する2つの微粒水滴には分極力が作用し, 微粒水滴はお互いに引き合った結果は接触, 衝突し合体する. このとき分極力 Fは式(2)で表される.

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31

ZErKrF = (2)

ここで, r1, r2;水滴の半径, E;電場強度, Z;2 つの水滴の中心間距離, k;溶液物性値である.

原油中に浮遊する微粒水滴に印加電圧が高いほど,

水滴径が大きいほど, さらに水滴同士が接近しているほど水滴の合体は促進される. 合体した大きな水滴は電気力に打ち勝って下方に沈降し, 定期的に排水とし

て圧力容器外に排出処理される. 2・2 脱塩器内部品の劣化, 損傷と保全方式 原油中の水分, 塩分および固形物, 無機塩を残留したまま熱交換器, 加熱炉, 配管および蒸留塔へ通油すると, 腐食減肉, 孔食, 閉塞, コーキング, さらにクリープ損傷などの様々な損傷, 障害が発生する. 脱塩器内部品のOSI検査は装置を停止しない限り不可能である. そのためにSDM機器開放検査において発見された損傷または劣化部品の補修に対して, 数年先の寿命予測が必要である. しかし, 電気設備としてのMTTF(Mean time to failure:非修理系の部品取替)とした考え方では, リスクベースメンテナンス(RBM), 信頼性中心保全(RCM)の潮流からは取り残されている. 脱塩器をさらに困難にさせているのは運転側からの性能要求は電気設備であり, 異常時は通電を停止し, バイパス運転が可能であることも寄与し, 損傷モードを故障物理として発生していることを認識していないケースもある.しかし, バイパス運転は後工程機器の損傷を早めることになる. Fig.2 は,本研究としての脱塩器内部品を示している. 非金属材-金属材の組合せ構成品に対する損傷の発生確率とその影響度を評価することになる. 図中 aa(エンドアダプターおよびОリングの組合せ)および図中 bb(電極板と金属ボルトの組合せ)における損傷メカニズムのリスクランキング評価と対応に関して, 事後保全, 一次リスクランキング 1)および二次リスクランキング 1)での保全性, 信頼性および稼働性を含めた保全周期設定の比較評価とする.

3 損傷した供試材の調査結果および考察 3・1 電極板の調査結果 電極板の本体はガラス繊維プラスチック(厚み約32mm), 導電部にカーボンファイバーを張付けて全体をポリエステル系でコーティングされている. 供試材の

dcd

RTC σ・−=Γ

Fig.1 Schematic diagram of a basic desalination mechanism of desalter.

Fig.2 Schematic diagram of installation of electrode plates and O ring.

715脱塩器内部品のリスクベースメンテナンス方法にもとづく最適な保全周期設定の研究

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電子線マイクロアナライザ(EPMA)によるエンドアダ

プターの局部孔食に付着していたスケール分析結果は,硫黄,フッ素, 鉄, 酸素, クロム, 炭素, ニッケルである. なお, 原油中の NaCl などの塩化物成分は検出されなかった. この理由は, Fig.1 に示すように電極板より上部にエンドアダプターが設置されているため, 接液原油環境は既に脱塩, 脱水された原油であり塩化物の影響による孔食および粒界腐食では無いことが判明された.一方で,エンドアダプター材 JIS G4316 SUS312Lの化学成分に含まれていないものとしては, 硫黄, フッ素, 酸素がある. 特にフッ素はハロゲン元素としてpHの低下を招き腐食を加速する因子である. Fig.12 はОリングを取り外す際に破損した破面を示

している. 外面表面には多数の微小割れがあり, 割れは外表層近傍のボイドとつながっていた.

フッ素コーティングは硬度が高く, Оリングの取付

時にはつぶし代の繰返し作用で外面域に多数の微小割れが生じさせ, 原油の浸透拡散を助長し, 膨潤の繰返しでОリング全体を劣化させた. 破面におけるエネルギー分散型 X線分析(EDX)では, フッ素, カルシウムが多く濃縮し検出された. このことからОリングにコーティングされたフッ素成分が腐食に対して強く影響していた. Fig.13 はバイトン製フッ素Оリングの機械的物性,

温度依存性および調査結果から, 縦軸にシール保持率, 横軸に供用期間とした場合には, Оリングのシール保持率が 80%で更新時期となる.

4 保全性,信頼性,稼働性の評価

脱塩器のアベラビリティ 5)は式(5)によって求められ, アベイラビリティにもっとも影響し保全時間が長くなる要因の対応として, 経年劣化に伴う内部品の損傷モードのスクリーニングによる発生確率およびその影響度のリスクマトリックスランキング 6)~8)評価することで, リスクは需要可能領域(ALARP)に低減できる.

)()()()(

MRRtA保全性信頼性

信頼性稼動率+

= (5)

Fig.12 SEM observation of O-ring fracture surface and micro cracks on outer surface.

Fig.9 Macro observation of sound area and pitting area at end adapter.

Fig.11 Micro observation of intergranular corrosion in the ring .groove.

Fig.13 The relationship between age and the seal retention.

Fig.10 Macro observation of sensitization of pitting area.

C の表面に対してロックウェル硬さスケール測定条件は, 圧子 1/16”鋼球, 試験荷重 150kg, スケール Mにて実施した.

供試材 A を除き, 外観目視検査で電極板表層が原油

浸透の影響により著しく黒く変色劣化および膨潤している個所を選択し, Fig.7 に示す硬度結果を得た. 供試材 B では, 測定箇所により測定点の硬さ比較で 3-4HRMのバラツキがある. しかし, 供試材Aではどの測定箇所を測定しても均一であり, 供試材Cはどの測定箇所に対しても軟化傾向を示し, 測定箇所での相違いは無かった. 供試材Cは引張試験と同様に全体に硬度値も低下していた. このことから, 供試材 Cの経年劣化の過程は, 表面マトリックスの膨潤による軟化, 微小割れ, 板厚中間層では拡散拡大した原油中の不純物のトラップによる腐食, ガラス繊維の破断, 絶縁破壊などが影響し, 経年劣化が進行し, 電極板自重により容易に破断に至った.

3・2 エンドアダプターとОリング材の調査結果 エンドアダプターとОリングの機能性の模式図をFig.8 に示す. 外部変圧器から高電圧を脱塩器胴板のノズルを通して電極板に通電する。そのために脱塩器本体とノズル取付間での絶縁機能, 耐圧気密性能および耐熱性を維持するために, エンドアダプターとОリングの組合せとなっている. 材料選定基準は, エンドアダプターは原油中の水溶性不純物に対する耐食および耐熱性材である JIS SUS312L を, Оリングも同様に耐食, 耐熱性能としてバイトン製フッ素ゴムの組合せとして選定されていた.

最適なОリングの装着および圧縮条件であっても,

Оリングは変形し原油浸透と膨潤が発生する.さらに, Оリング中の配合剤が部分的に溶解し, エンドアダプターに付着する.この現象の影響として, Fig.9 に示すようにエンドアダプター表面に黒く変色した範囲に, 健全域(1)と局部孔食域(2)とが共存した状況となっている. 局部孔食深さは0.3~1.3mmであった. 局部孔食範囲は, Fig.10 に示す結晶粒界に幅をもった溝状の鋭敏化(クロム欠乏層)が観察され, その範囲に集中して局部孔食が認められた. 脱塩器の運転温度は最大 180℃であることを考慮しも, オーステナイト系ステンレス鋼が鋭敏化温度までには至らない. さらに, 機器を開放するためのスチームパージの最大温度 200℃以下である. したがって, エンドアダプターの鋭敏化は, 製作時の切削加工熱によって生じ, 仕上面での寸法精度の要求が高い部位に発生していた. さらに, Fig.11 のミクロ観察に示すようにエンドアダプターのОリング溝コーナー域には鋭敏化は認められないが, Оリング材から溶解したハロゲンイオンがОリング溝コーナーで濃縮した影響で, 孔食および, 粒界腐食が認められた. 他のエンドアダプターも同様にОリング溝コーナー域に粒界腐食が認められた. しかし, 応力腐食割れの起点としての前駆な駆動力には至っていない. それは, Оリングを締め付けてもОリング溝には応力腐食割れが生じる下限界値以上(KISCC)の引張負荷応力が生じないためと考える.

Fig.7Relationship between hardness measurement and aged deterioration in electrode plates.

Fig.6 SEM observation of damage due to aged deterioration of the electrode plates.

Fig.8 Damage generation region of the end adapter.

Specimen C

Specimen A

Specimen B

Specimen C

716 鈴  木  茂  雄

03-2016-0109-(p.713-718).indd 716 2017/09/25 16:20:17

電子線マイクロアナライザ(EPMA)によるエンドアダ

プターの局部孔食に付着していたスケール分析結果は,硫黄,フッ素, 鉄, 酸素, クロム, 炭素, ニッケルである. なお, 原油中の NaCl などの塩化物成分は検出されなかった. この理由は, Fig.1 に示すように電極板より上部にエンドアダプターが設置されているため, 接液原油環境は既に脱塩, 脱水された原油であり塩化物の影響による孔食および粒界腐食では無いことが判明された.一方で,エンドアダプター材 JIS G4316 SUS312Lの化学成分に含まれていないものとしては, 硫黄, フッ素, 酸素がある. 特にフッ素はハロゲン元素としてpHの低下を招き腐食を加速する因子である. Fig.12 はОリングを取り外す際に破損した破面を示

している. 外面表面には多数の微小割れがあり, 割れは外表層近傍のボイドとつながっていた.

フッ素コーティングは硬度が高く, Оリングの取付

時にはつぶし代の繰返し作用で外面域に多数の微小割れが生じさせ, 原油の浸透拡散を助長し, 膨潤の繰返しでОリング全体を劣化させた. 破面におけるエネルギー分散型 X線分析(EDX)では, フッ素, カルシウムが多く濃縮し検出された. このことからОリングにコーティングされたフッ素成分が腐食に対して強く影響していた. Fig.13 はバイトン製フッ素Оリングの機械的物性,

温度依存性および調査結果から, 縦軸にシール保持率, 横軸に供用期間とした場合には, Оリングのシール保持率が 80%で更新時期となる.

4 保全性,信頼性,稼働性の評価

脱塩器のアベラビリティ 5)は式(5)によって求められ, アベイラビリティにもっとも影響し保全時間が長くなる要因の対応として, 経年劣化に伴う内部品の損傷モードのスクリーニングによる発生確率およびその影響度のリスクマトリックスランキング 6)~8)評価することで, リスクは需要可能領域(ALARP)に低減できる.

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MRRtA保全性信頼性

信頼性稼動率+

= (5)

Fig.12 SEM observation of O-ring fracture surface and micro cracks on outer surface.

Fig.9 Macro observation of sound area and pitting area at end adapter.

Fig.11 Micro observation of intergranular corrosion in the ring .groove.

Fig.13 The relationship between age and the seal retention.

Fig.10 Macro observation of sensitization of pitting area.

C の表面に対してロックウェル硬さスケール測定条件は, 圧子 1/16”鋼球, 試験荷重 150kg, スケール Mにて実施した.

供試材 A を除き, 外観目視検査で電極板表層が原油

浸透の影響により著しく黒く変色劣化および膨潤している個所を選択し, Fig.7 に示す硬度結果を得た. 供試材 B では, 測定箇所により測定点の硬さ比較で 3-4HRMのバラツキがある. しかし, 供試材Aではどの測定箇所を測定しても均一であり, 供試材Cはどの測定箇所に対しても軟化傾向を示し, 測定箇所での相違いは無かった. 供試材Cは引張試験と同様に全体に硬度値も低下していた. このことから, 供試材 Cの経年劣化の過程は, 表面マトリックスの膨潤による軟化, 微小割れ, 板厚中間層では拡散拡大した原油中の不純物のトラップによる腐食, ガラス繊維の破断, 絶縁破壊などが影響し, 経年劣化が進行し, 電極板自重により容易に破断に至った.

3・2 エンドアダプターとОリング材の調査結果 エンドアダプターとОリングの機能性の模式図をFig.8 に示す. 外部変圧器から高電圧を脱塩器胴板のノズルを通して電極板に通電する。そのために脱塩器本体とノズル取付間での絶縁機能, 耐圧気密性能および耐熱性を維持するために, エンドアダプターとОリングの組合せとなっている. 材料選定基準は, エンドアダプターは原油中の水溶性不純物に対する耐食および耐熱性材である JIS SUS312L を, Оリングも同様に耐食, 耐熱性能としてバイトン製フッ素ゴムの組合せとして選定されていた.

最適なОリングの装着および圧縮条件であっても,

Оリングは変形し原油浸透と膨潤が発生する.さらに, Оリング中の配合剤が部分的に溶解し, エンドアダプターに付着する.この現象の影響として, Fig.9 に示すようにエンドアダプター表面に黒く変色した範囲に, 健全域(1)と局部孔食域(2)とが共存した状況となっている. 局部孔食深さは0.3~1.3mmであった. 局部孔食範囲は, Fig.10 に示す結晶粒界に幅をもった溝状の鋭敏化(クロム欠乏層)が観察され, その範囲に集中して局部孔食が認められた. 脱塩器の運転温度は最大 180℃であることを考慮しも, オーステナイト系ステンレス鋼が鋭敏化温度までには至らない. さらに, 機器を開放するためのスチームパージの最大温度 200℃以下である. したがって, エンドアダプターの鋭敏化は, 製作時の切削加工熱によって生じ, 仕上面での寸法精度の要求が高い部位に発生していた. さらに, Fig.11 のミクロ観察に示すようにエンドアダプターのОリング溝コーナー域には鋭敏化は認められないが, Оリング材から溶解したハロゲンイオンがОリング溝コーナーで濃縮した影響で, 孔食および, 粒界腐食が認められた. 他のエンドアダプターも同様にОリング溝コーナー域に粒界腐食が認められた. しかし, 応力腐食割れの起点としての前駆な駆動力には至っていない. それは, Оリングを締め付けてもОリング溝には応力腐食割れが生じる下限界値以上(KISCC)の引張負荷応力が生じないためと考える.

Fig.7Relationship between hardness measurement and aged deterioration in electrode plates.

Fig.6 SEM observation of damage due to aged deterioration of the electrode plates.

Fig.8 Damage generation region of the end adapter.

717脱塩器内部品のリスクベースメンテナンス方法にもとづく最適な保全周期設定の研究

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式(5)の信頼性(R)と保全性(M)は式(6)によって与えられる.

= 1

0)()(

tdttRR信頼性

)()()( 11 tRTtFTM rf +=保全性 (6) ここで, F(t1)は故障分布関数, R(t1)は信頼度関数, Tfは故障保全の平均時間, Trは定期保全に要する平均時間である. したがって, 保全周期設定 t1のアベイラビリティ A(t1)は式(5)に式(6)を代入すると式(7)が与えられる.

++=

1

1

0 111

0 111

)()()(

)()( t

rf

t

tRTtFTdttR

dttRtA (7)

一方で, 脱塩器内部品の保全周期設定には事後保全, 一次リスクランキング 6)~8), 二次リスクランキング 5)~

7)による設定がある. いま Trの定期保全時間を一定とすれば, Tfの故障保全時間には大きな相違がある. 次に脱塩器内部品の損傷に対し故障保全時間を比較する. (1) 事後保全は, 脱塩器内部品において破損が発生するまで保全のアクションを取らないので, 式(8)に示すように破損対応および, それらの影響による故障保全時間となる. 事後保全; D 事後保全=C 復旧対応+C 緊急資機材購入+C 計画外生産停止ロス

+C官庁指導ロス+C地域対策ロス (8) (2)一次リスクランキングは, 機器開放時での内部の外観目視検査での評価となるので, 式(9)の損傷対応およびその影響による故障保全時間となる.とうぜん故障の保全時間比較では事後保全が長時間となる. 一次リスクランキング; D 一次リスクランキング=C 補修対応+C 追加資機材購入 (9) (3)二次リスクランキングは, 本調査からの非破壊検査計測(硬度測定, 電気抵抗測定)による損傷の傾向管理、損傷メカニズム分析からの最適な部品交換となるので, 故障保全時間 Tfは発生しない。したがって, 二次リスクランキング評価でのアベラビリティ A(t2)の保全時間は式(10)となる.

+=

1

1

0 11

0 12

)()(

)()( t

r

t

tRTdttR

dttRtA (10)

このことから, 故障保全時間が発生しない二次リスクランキングが部品レベルでの最適保全周期設定を決定される. 従来は, 脱塩器内部品は電気設備としての事後保全であった. 本稿では MTTF 中心の保全から, リスクベースメンテナンスとしての損傷発生確率×その影響度のリスクマトリックス評価することで, リスクの高い部品に対する設備診断技術によって需要可能領域(ALARP)に低減することおよび, 最適な保全周期設定ができる.

5 結 論 脱塩器内部品に使用されている金属材料と非金属材

料の組合せ部品の経年劣化に対し, リスクベースメンテナンスにもとづく損傷の発生確率およびその影響度の低減, 保全周期設定のための成果を次に述べる.

(1)電極板の経年劣化の損傷は,原油中の不純物の浸透, 拡散,ガラス繊維とマトリックスの界面層に滞留, 滞留部での腐食と多数の割れ発生, 浸透拡散の繰返し, 中間層に到達しガラス繊維の劣化とともに,表面にもマトリックスの劣化に伴い多数の微小割れが発生する. この状態で電気抵抗値が未使用材と比較し約3倍強の電気抵抗値の低下となるので脱水,脱塩機能も低下する. (2)電極板の引張強度の低下と硬度測定での軟化傾向には良い相関関係があり, 硬度測定値は電極板の取替時期の指針となり得る. (3)エンドアダプターは, Оリングにおけるコーティングとしてのフッ素成分溶解の影響で, 局部孔食, 粒界腐食が発生した.さらに, 局部孔食は製作時での切削加工熱による鋭敏化も影響している. (4)Оリングでは, シール保持率 80%で表面層に多数の微細割れが発生し, 復元力が極端に低下するので取替時期となる.

参 考 文 献 1) K. Shigemitsu and A. Fuji, “Maintenance by the risk assessment RBI / RBM introductory”, Japan Institute of Plant Maintenance ,(2002). 2) API Recommended practice 581 second edition, (2008). 3) A. Oshima, “Equipment management petroleum institute”. Petro Tech Vol. 25, No. 9 Based on the failure physical, pp.702-707 (2002). 4) M. Yamaguchi and T. Nakayama, “Crude oil electrostatic desalination technology static electricity Journal”. Vol20, No.2 (1996). 5) H. Shiomi, “Aims to travel free; reliability and integrity of

the concept and how to proceed”, Gijutsuhyoronsha, pp.47-49(1983).

6) S. Sakai, "Risk-based materials engineering and materials technology." Risk-based foundation of engineering. JIM Journal, Vol. 66, No. 12 , pp.1170-1176 (2002). 7) S. Sakai, “Application of bayes theorem for the failure probability data collection of equipment in the risk-based inspection(Principle of the first report bayes theorem),” JHPI, Vol.42, No.5 (2004). 8) S. Sakai, “Application of Bayes theorem for the failure probability data collection of equipment in the risk-based inspection (use of in the second report guidelines).” JHPI, Vol.43, No.1 (2005).

R(t)dt

R(t)dt

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