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Y e ll f o r y oung talents 大学へ入学した当時、将来は中学校の理科 の教師になりたいと考えていました。そのた めに教職課程を履修し、昨年度末には無事に 中学・高校の理科の免許状を取得することが できました。しかし、教職には就かずに、大学院 へ進学しました。大学院への進学は学部入学 当時からの希望で、より深く勉強して教員とな るときの糧にしたいという思いがありました。 大学院進学に対する動機が大きく変わった のは、実際に研究室に通うようになってからの ことです。遺伝情報研究室の小林聡教授や先 輩方のご好意で、学部3回生の夏から研究室 に通わせていただきました。実験や研究につ いて生き生きとディスカッションをしている先 輩方を見て研究の面白さを感じ、さらに実際 に自分自身の手で実験して結果を出していく 中で、その世界に引き込まれていきました。問 題を解決するためのアプローチを考えて計画 を立て、それに従って実験を行う。得られた結 果から考察し、さらに生じた問題に対する実験 を行う。このような追究の過程に楽しさを感じ ました。大学院進学に対する動機はその楽し さであり、現在でも日々の研究の原動力にも なっています。 研究室に通い始めてから、もうすぐ2年がた とうとしています。正直、この2年間は順風満 帆だったとは言えません。やるべきことを十分 にこなせなかったり、思うように結果が出な かったりすることにいら立ちを感じることもあ りました。研究の方向性について悩み、投げ出 したくなったこともありました。しかし今、楽し く充実した日々を送れているのは、親身に相 談に乗ってくださる先生方や先輩方、苦楽を 分かち合っている同期や後輩の皆に支えられ てのことです。本当にありがとうございます。 さらに、実家を離れて一人暮らしをしている私 のことを、いつも気にかけてくれる両親には 感謝してもしきれません。 おかげさまで、9月に日本生化学会大会で 自分の研究について発表することが決まって います。自分の研究を外部の方に聞いていた だく初めての機会です。しっかりと準備をして 臨み、多くの方とのディスカッションや交流を 通して見識を深めたいと考えています。大学 院に進学したことで、学部生のときとは違った ことに挑戦することができており、本当によ かったと思っています。今後も、感謝の気持ち をもちながら、より一層研究に精進していき たいと思います。 医生命システム専攻 遺伝情報研究室 畠中 惇至 17

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Yell for young talents 先輩からのエール

 大学へ入学した当時、将来は中学校の理科

の教師になりたいと考えていました。そのた

めに教職課程を履修し、昨年度末には無事に

中学・高校の理科の免許状を取得することが

できました。しかし、教職には就かずに、大学院

へ進学しました。大学院への進学は学部入学

当時からの希望で、より深く勉強して教員とな

るときの糧にしたいという思いがありました。

 大学院進学に対する動機が大きく変わった

のは、実際に研究室に通うようになってからの

ことです。遺伝情報研究室の小林聡教授や先

輩方のご好意で、学部3回生の夏から研究室

に通わせていただきました。実験や研究につ

いて生き生きとディスカッションをしている先

輩方を見て研究の面白さを感じ、さらに実際

に自分自身の手で実験して結果を出していく

中で、その世界に引き込まれていきました。問

題を解決するためのアプローチを考えて計画

を立て、それに従って実験を行う。得られた結

果から考察し、さらに生じた問題に対する実験

を行う。このような追究の過程に楽しさを感じ

ました。大学院進学に対する動機はその楽し

さであり、現在でも日々の研究の原動力にも

なっています。

 研究室に通い始めてから、もうすぐ2年がた

とうとしています。正直、この2年間は順風満

帆だったとは言えません。やるべきことを十分

にこなせなかったり、思うように結果が出な

かったりすることにいら立ちを感じることもあ

りました。研究の方向性について悩み、投げ出

したくなったこともありました。しかし今、楽し

く充実した日々を送れているのは、親身に相

談に乗ってくださる先生方や先輩方、苦楽を

分かち合っている同期や後輩の皆に支えられ

てのことです。本当にありがとうございます。

さらに、実家を離れて一人暮らしをしている私

のことを、いつも気にかけてくれる両親には

感謝してもしきれません。

 おかげさまで、9月に日本生化学会大会で

自分の研究について発表することが決まって

います。自分の研究を外部の方に聞いていた

だく初めての機会です。しっかりと準備をして

臨み、多くの方とのディスカッションや交流を

通して見識を深めたいと考えています。大学

院に進学したことで、学部生のときとは違った

ことに挑戦することができており、本当によ

かったと思っています。今後も、感謝の気持ち

をもちながら、より一層研究に精進していき

たいと思います。

研究室生活が私にもたらしたもの

研究室生活が私にもたらしたもの

医生命システム専攻遺伝情報研究室

畠中 惇至

 私が医療情報システム研究室に配属され

早くも1年が経ち、春から大学院生に新しく仲

間入りをしました。私は3回生の時、就職と院

進学に悩み、校内で行われる理系向けの企業

説明会に参加するなど初めは就職活動をして

いました。しかし理系向けということもあり、周

りには大学院生も多く、質疑応答などで自分

の知識や技術面、そして物事を考える力に未

熟さを感じました。そのため、研究を行いなが

ら知識、技術、思考力などを身に付け、少しで

も成長して社会に出たいと思い院進学を決意

しました。

 研究室生活では、意識の高い仲間や先輩、

後輩に囲まれながら毎日良い刺激を受けてい

ます。自分の研究を進めるに当たり、何事も原

因、理由、どの様に解決して行けばよいのかな

ど、考えるべきことは多くあります。私自身、自

分の研究を始めるまでは、ここまで一つの物

事に対して自ら深く追求していくということが

なかったように思います。そのため、初めはど

の様に研究を進めていくべきなのか、どの様

な角度から攻める必要があるのかなど悩むこ

とが多くありました。しかし、困った時には親身

になって話を聞いてくださる先生方、先輩方、

そして同級生に助けられながら、常に諦めず

頑張って研究を進めています。

 また、私の研究室では月に1回研究室内で

の発表会があります。研究発表を重ねる度に、

自分自身の研究を振り返り、相手に上手く伝

える方法を考える良い機会となっています。

そして、先生方や研究室員から頂く質問も貴

重な意見として今後の研究に活かしていくこ

とが出来ます。また、研究室員みんなの研究

発表を聞くことで、自分とはまた違った分野の

研究についても触れることができ、知識の幅

を広げることが出来ていると感じています。

 この研究室に配属されてまだ1年と少しし

か経っていませんが、自分でも少しずつ成長

していることを実感しています。研究室での

生活はこれまでの生活より、考えることも多

く、困難も少なくありません。しかし、これらの

事を仲間たちと試行錯誤しながら乗り越えて

いく生活はとても有意義で自分自身の成長に

必要不可欠な経験だと感じています。これか

らも大学院生活では、多くの物事に興味を持

ち、積極的に研究を進めていきたいと思って

います。そして、研究を通して少しずつでも着

実に自分を成長させていきたいと思います。

私はもうすぐ初めて国内学会へ参加します

が、事前準備を万全に、自分の研究をより多く

の人に聞いて頂き、今後の研究に活かせるよ

うな実りある学会発表にしたいと思います。

進路決定と研究室生活

進路決定と研究室生活

医工学・医情報学専攻 医情報学コース医療情報システム研究室

郡 悠希

1716

11

臨床適用可能なヒト角膜内皮培養プロトコールの開発非増殖

形質転換

臨床応用可能なヒト角膜内皮の大量培養

1人分のドナー角膜から数百人分の移植用細胞の作成が可能になる

ROCK 阻害剤

MSC 馴化培地 (MSC 骨髄間葉系幹細胞)

TGFβシグナル阻害

Okumura N, (Koizumi N). IOVS. 2009.

Okumura N, (Koizumi N). PLoS One. 2013.

Nakahara M, (Koizumi N). PLoS One. 2013.

Doshisha Protocol

 大学入学当初から将来は研究で食べてい

きたいと漠然ながら想い描いていました。こ

の想いは学部4年間を過ごしても変わらな

かったため大学院に進学することを決意しま

した。

 大学院で学ぶにあたって1つ心に決めたこ

とがありました。それは「成果にこだわること」

です。学部卒の人よりも2年も長く勉強する

のだからその分、研究で何かしらの成果を出

したいという意識がありました。そのために論

文の国際誌への投稿を目標に実験に取り組

み、またモチベーションを保つための短期的

な目標として学会発表を定めました。しかし実

験は思うようにいかず失敗の連続でした。「研

究に向いていないのではないか」という想い

を何回も抱きましたが、その度に「やらなけれ

ば結果は出ない」と自分自身を鼓舞し、取り組

み続けました。そうこうしている内にコツとい

うものが分かり状況は徐々に改善していきま

した。そして1つの目標として掲げていた学会

発表も何回かすることができました。

 学会発表において1番印象的だったのは修

士2年の時に参加した国際学会です。当初は

ポスター発表だけを行う予定でした。しかし学

会開催1カ月前に「Your abstract has

been selected for oral presentations」

というメールが届きました。つまり聴衆の前で

の発表が決まりました。人前で発表すること、

英語が苦手な私にとって大きな負担であり成

し遂げられるかどうか不安でした。学会が近づ

くにつれ不安は募る一方、不安を打ち消すよ

うに毎日、日付が変わるまで資料作りとプレゼ

ンテーションの練習を繰り返しました。迎えた

発表当日、予想通り緊張しましたがその時に

支えてくれたのは何百回と発表練習を繰り返

したという「事実」でした。結果、決して上手に

出来たとは言えませんが練習通り行うことが

でき、無事終えることができました。この経験

は私にとって1つの自信となりました。

 このような研究生活を送ってきた結果、現

在、予てからの目標だった国際誌への論文投

稿目前まで来ました。ここまで頑張ることが出

来たのも多くの人の支えがあったからだと思

います。多くの成長の機会を与えてくださっ

た小林聡先生、苦楽を共にし、切磋琢磨してき

た研究室のメンバー、気分転換に遊んでくだ

さった先輩、友達、後輩、そしていつも温かく

見守ってくれた両親に心からお礼を申し上げ

たいと思います、本当にありがとうございまし

た。来年度からは入学当初からの念願かなっ

て企業で診断医薬の研究開発に従事します。

同志社大学で得た経験を活かして一歩一歩

着実に成長していき、新たな目標を達成でき

るよう日々精進していきたいと思います。

 角膜内皮細胞が傷つき、角膜が濁ってしまう「水疱性角膜

症」。現在は、亡くなった方から提供された角膜組織を用いた角

膜移植以外に治療法がなく、ドナー角膜の不足や角膜移植後

にも内皮細胞が減ってしまうなどの問題があります。小泉範子教

授・奥村直毅助教らの研究グループは、生体外で培養した角

膜内皮細胞を患者さんの眼に移植するという再生医療の開発

に取り組んできました。「角膜内皮細胞は非常に再生しにくい細

胞のため、いかに効率良く培養するかが一つのポイントです」。

 小泉研究室では、2009年にROCK阻害剤という化合物が

霊長類の角膜内皮細胞の増殖を促進する働きがあることを報

告しました。しかし、それだけでは臨床応用が可能な量の細胞を

安定的に確保できるわけではありませんでした。健康な角膜内

皮細胞は整ったハニカム構造をしていて、角膜の中の水を汲み

出すポンプの役割を果たしています。しかし、角膜内皮細胞を生

体外で培養すると、細長い線維芽細胞のような形に形質転換

して、異常なタンパク質を産生し、本来の角膜内皮細胞としての

機能をなくしてしまうと言います。小泉教授らはTGFβという増

殖因子が、角膜内皮細胞の形質転換を促すことを突き止めまし

た。「TGFβの働きを抑制する化合物を用いることで、角膜内皮

の形質転換を防ぎ、正常に近い高い密度で培養できるようにな

りました」と笑みをこぼします。

 もう一つ、再生医療で注目されている骨髄間葉系幹細胞

(MSC)には、細胞を増やしたり炎症を抑える効果があることが

知られています。このMSCを培養したときの培養液(馴化培地)

を角膜内皮細胞の培養に使うことで、細胞の増殖が加速する

のだと言います。「ROCK阻害剤とTGFβシグナル阻害、そして

MSC馴化培地を組み合わせることによって、ヒト角膜内皮細胞

の大量培養技術を確立し、理論的には一つのドナーから数百

人分の移植細胞の作成が可能となりました」とその成果を説明

します。

 こうした培養技術とともに、小泉教授らは角膜内皮細胞を角

膜の裏側にダイレクトに注入して定着させる、世界で初めての細

胞移植技術を開発しました。従来の角膜移植に比べて、患者さ

んの負担が軽く、より正常に近い角膜内皮を再建できるのが特

徴で、iPS細胞の研究者たちからも注目されています。2013年

12月には、厚生労働省の承認のもと、京都府立医科大学で臨

床試験を開始。これまでに11例の治療が行われました。0.05

だった患者さんの矯正視力が、数か月後には1.0まで回復する

など、明確な治療効果が確認されています。

 「今後は、さらに細胞培養法や移植技術を改良して、よりよい

治療効果が得られる方法を確立するとともに、企業と連携しな

がら、安定した品質の細胞を広く世界に提供できる製品化の仕

組みを考えていきたいですね」。現在、ドナー角膜は世界的に不

足している状況です。小泉教授らの治療技術が普及すれば、

角膜再生医療はより身近な存在になるでしょう。小泉教授が同

志社大学で研究を始めて約10年。かつて夢のようだった技術

がいよいよ現実になってきました。心がわくわくと躍ります。

再生が難しい角膜内皮細胞を生体外で効率的に培養する方法を研究

世界初の再生医療で患者さんが失った光りを取り戻す

基礎研究から臨床応用へ世界初の角膜内皮細胞移植を開発小泉 範子 医工学科 教授

教員の横顔 Noriko Koizumi研究テーマは、難治性角膜疾患に対する再生医学的治療法の開発。「ヒト角膜内皮細胞の増殖を可能にする革新的基盤技術の開発と角膜再生医療への応用」が内閣府のプログラムに採用されるなど、その取り組みは世界的に注目を集めている。同志社大学に生命医科学部が開設され、今年で7年目を迎える。「卒業生が社会で活躍する姿を見るのが、何よりの楽しみ!」と優しげな眼差しを送る。

大学院での生活を終えて

先輩からのメッセージ

医生命システム学科

医生命システム専攻遺伝情報研究室

深谷 恒介

1514

様々な要素技術を結集しユビキタスな医療デバイスを開発 仲町 英治 医工学科 教授

刺されても痛くない !?蚊の針のメカニズムに学ぶ

現在、糖尿病の患者数は約 1,080 万人。糖尿病を発症する可能性が高い予備群を合わせると、近い将来、その数は2,000 万人以上にのぼるといわれています。糖尿病の患者さんは一日に何度も血糖値を測定し、必要に応じてインスリンを注射しなければなりません。「いつでもどこでも血糖値を簡単に測定できるユビキタスな医療デバイスの開発で、患者さんの負担を軽減できないでしょうか」。医工学科の仲町英治教授が最初に取り組んだのは、“ 痛くない ” 針の開発です。蚊に刺されても気づかないのはなぜか? 仲町教授は蚊の針をSEM(走査電子顕微鏡)で分析してモデル化し、わずか内径 30μmのマイクロ針を創製することに成功。グルコースセンサや通信ネットワークを搭載した電解マイクロポンプを組み合わせることで、まったく新しい腕時計型の測定装置を試作しました。ボタン一つで採血や血糖値の測定、ホームドクターへの情報提供、インスリンの投与まで行ってくれるオールインワンのモデルで、在宅医療の新たなスタイルを提案するきっかけとなったといいます。「医学だけでなく、機械や電気、材料、情報…。様々な知識と技術を活用して、新しいものを生み出していく楽しさがありますね」と仲町教授は研究室の魅力を説明します。

二つの微小な “目 ”で毛細血管の位置を自動探索

第一世代のデバイスは、腕の血管を的確に見つけることが難しく、残念ながら実用化には至りませんでした。しかし、「横た

わる困難が多いほど、チャレンジのしがいがあります」と仲町教授。血管を自動的に探索できる装置を作ろう!「血管が集中する指の第二関節の小静脈に的を絞りました」。仲町教授が開発した三次元血管位置探索ユニットは、赤外線透過光を使って二つのカメラで別々の画像を撮影し、その画像間のズレから血管の深さを計測するというもの。0.06mmの精度で血管の探索を行うことが可能になったといいます。さらに、従来の電解式のポンプに代わって、新たに真空の負圧を用いた吸引ユニットを設計して、採血の安定性を高めました。「様々な企業との連携を視野に入れながら、何とかこの医療デバイスを社会に普及させていきたいですね」。要素技術の転用はすでにスタートしています。例えば、腹腔鏡手術を行う際、この三次元血管位置探索技術を使って、病巣に隠れた血管の位置を確認できないかという研究が行われるなど、同志社大学発のシーズが臨床現場で花開く日もそう遠くはないようです。現在、仲町教授の研究室の学生諸君が中心となって、より

小型化したポータブルな第三世代のデバイス開発が進められています。健康への関心が社会的に高まる中、最終的に私たちの前にどのような進化形でその姿を見せてくれるのでしょうか。「研究の向こうにあるゴールをしっかりと見据えることが大切」。仲町教授の視線の先には、糖尿病の患者さんの笑顔が映っているに違いありません。

バイオマテリアル研究室で、医療用デバイスの研究開発などを行っている。特に、糖尿病患者の血糖値を家庭で手軽に計測できる装置は、医療現場などからも注目されている。生命医科学部では就職担当教員として学生の指導に当たる。趣味は、テニスと旅行。世界の三大瀑布の制覇を目指している。「大自然の中で、新しい研究テーマについて想いを巡らすことは楽しい!」と話す。

教員の横顔 Eiji Nakamachi

蚊の針のSEM写真 チタン製マイクロニードルの試作品SEM

腕時計型および据置型自動血糖計測インスリン投与デバイス

大学院で糖化最終生成物(AGEs)と呼ばれる老廃物が毛髪の質に及ぼす影響について研究しました。私は、生活に身近な事柄から健康、老化予防を意識して考えてみたかったので、研究対象が多くの人になじみ深い毛髪に決まり、安堵とともに感謝していました。しかし、毛髪を使った研究は研究室では初めてでした。毛髪に関する資料を集め勉強を始めましたが、材料の選定や実験方法など一から考えることばかりで不安が強い毎日でした。例えば、毛髪の束の作成や洗浄といった実験準備段階の作業では、静電気による毛の広がりや絡まりが邪魔して、何度も失敗しながら方法や使用する道具を模索しました。このようなことは論文にも書かれていません。一つひとつの細かい試行錯誤が最も苦労した点でした。抗加齢医学会でのポスター発表は研究生活での一つの

区切りでした。直前までデータがまとまらず、焦りましたが無事に発表、多くの方からご質問を受けました。自分の研究と世の中の接点が改めて認識され、大きなやりがいを感じることができました。結果として優秀演題賞を頂く事が出来たのは、研究テーマの新規性を評価して頂けたのだと思います。

私は大学院での生活を通して、一から研究手法を作っていく難しさを学び、それを発表できた時の喜びを知りました。これから社会にでて初めての仕事に取り組む時はこの時に得た喜びを思い出し、実行する力に変えていこうと思います。

修士課程に進学するにあたり、僕が心に決めたことが一つありました。それは「興味のあることを追求する」ということでした。僕のたっての希望で、自分の力で修士での研究テーマを決めるという機会を得て、僕の興味の中心にある「癌」を研究していこうと調子の良いスタートを切ったのですが、実のところ、当初は漠然としすぎて何に取り組んでいけばいいのか分かっていませんでした。それでも、癌のない未来を作りたいという、これまた漠然とした目標を持っていたので、とりあえず、自分の中にあるモノを信じてやろうと決め、研究を始めました。全く新規の分野を研究対象に選んだのですが、知らなさ過ぎてあれこれと目移りし、一年目は只々失敗の連続で散々でした。途中、何度も辞めてしまおうかと考えましたが、それでも自分を信じ、逃げずに努力を続けました。しかし、この悲惨な状況は、二年目に突入するあたりで一歩ずつ良い方へと変わっていきました。そこには色んなカギとなる要素がありましたが、中でも現象をシンプルに捉えるようになったことが決め手だった気がします。未知の領域に足を踏み込むと、思考は踊らされがちですが、そんなときこそ冷静に状況を分析し、単純化し、そこから考えを膨らませていくことが重要だと感じています。この進歩は日々の失敗と何気ない出会いによるものだと思います。現在、国際誌に論文を投

稿できる目前まで来ました。辛抱強く我慢し、努力を続けたことが僕をここまで導いたのではないかと感じていますが、最も重要なことは自分の中の興味に臆せず向き合い行動をしたことなのではないかと思います。これから進路を考える方にも、是非、勇気を出して自分の興味に挑戦してほしいです。

医生命システム専攻抗加齢医学研究室 下出 昭彦

医生命システム専攻遺伝情報研究室 井藤 喬夫

大学院での研究生活を通して得たもの 興味のあることを追求する

医生命システム専攻先輩からのメッセージ

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就職活動を終え、「研究の成果を早く出したい」と思う日々が続いています。大学院生になってからこれまでを振り返ってみると、「伝えることの難しさ」を痛感したことが多かったように感じています。そこで、これまでに特にそのように感じた3つの出来事について述べたいと思います。

1つ目は、企業の方々と議論をしたことです。昨年4月、Biotech2012というフォーラムが東京で開催され、教授に帯同し、企業の方々に研究成果を発表する機会を与えて頂きました。これはブースの前で企業の方々と議論するポスター発表の形式でした。その際、自分自身の伝えたいことが上手く伝わらず、企業の方々が首を傾げるという場面に遭遇しました。1番伝えたいことを納得してもらうにはどうすればよいのか考えさせられました。「伝える力が欠けている」と年度初めに認識できたことは私にとって大きな収穫でした。このことをきっかけに日々の生活で「わかりやすく伝える」ということを強く意識するようになりました。

2つ目は、学会発表です。昨年12月、日本生化学会大会が福岡であり、口頭発表とポスター発表の両方を経験しました。口頭発表では多くの聴衆を前にし、聴衆の表情を伺いつつ話すことがいかに難しいか実感しました。ポスター発表では、研究に携わる多くの方々と議論することができ、論理的に話すことの大切さを感じました。学会全体を通じて、改めて伝える難しさを感じましたが、様々な人々と交流し見識を深められたことは何ものにも代え難い経験となりました。3つ目は、就職活動です。就職活動では自分の存

在を企業にアピールすることが重要です。同じ土俵に立つ学生数は何万という数になります。そういった中で、自分自身を埋没させないために、字数制限のある書面や時間制限のある面接といった制限下で、自分自身をどうアピールすればよいのか悩みました。このとき、この1年間で経験したことを踏まえ、質問に的確に答えることや、聞き手に考えさせる負担を与えないよう端的に話すことを心掛けました。そういったことを意識することで、何とか、目標としていた企業から内定を頂くことが出来ました。就職活動を終え、伝える力をさらに伸ばすことが社

会人になるまでにやるべきことだと感じています。目の前のことに全力で取り組み、何事においても納得のいく結果をだして卒業を迎えられればと思います。

“研究 ”という言葉にあまりイメージが湧かなかった学部4年生から約1年がたちました。現在私は、医療情報システム研究室の大学院1年生として、日々、研究活動に励んでおります。今回このような機会を頂いたので、私の研究内容と大学院生活について書かせて頂きます。

みなさん「ワーキングメモリ」という単語はご存じでしょうか?最近、テレビなどでもよく聞くのではないかと思います。ワーキングメモリとは情報の処理を行いながら記憶を行う概念で、容量には制限や個人差があるとされています。この容量を増加させることによって認知症の予防などに効果があることから、 DSの “ 脳トレ”でも注目されています。しかし、脳機能と関連した研究は少なく、ワーキングメモリの状態を知ることは困難です。私の研究では、ワーキングメモリの状態を知る指標を見つけることを目指しています。そのためには、脳血流量変化を測定することでワーキングメモリに関連した脳機能や脳内ネットワークの検討を行っています。大学院生活においては、前述した研究を通して大き

く成長できると感じています。 その理由は2点あります。まず、相手の意図を汲み取り、自分の意見を伝える能力が鍛えられることです。例えば、学会が挙げられ

ます。先日、私は東京大学で開催された日本ヒト脳機能マッピング学会にてポスター発表を行いました。異なった環境で活躍されている方々の質問や意見はとても斬新で、これからの研究を進めるうえで大変参考になりました。この経験より、限られた時間の中でどのような意図で質問されているのかを汲み取り、それに対して簡潔に伝えることの重要さを学びました。もう一つは、自分で考える能力が身に付くことです。学部生での座学中心の勉強と研究との違いは、自分の考えを求められる機会の多さだと感じています。研究は実験設計から解析方法まで自ら考え、結論を出さなくてはなりません。一つの結論を導き出すことは容易ではなく、何度も壁にぶつかります。その度に再考し、時にはアドバイスをもらいながら研究を進めていきます。先ほど述べた、伝える能力もどう相手にわかりやすく説明するか自分で考えるものといえるのではないでしょうか。

以上より、大学院生活では日頃から考える「種」が数多くあり、積極的に行動すればより自分の成長に繋がる場だと思います。最後になりましたが、研究活動を行うにあたって支

えて下さっている両親や先生方、研究室の方々に心より感謝致します。

医生命システム専攻医情報学コース

医生命システム専攻分子生命化学研究室 西園 貴志

医工学・医情報学専攻 医情報学コース医療情報システム研究室 真島 希実

大学院生になってからこれまでを振り返って大学院は自己成長の場

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