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災害対応技術を強くする リスクアセスメント (第13回レスコン特別講演会発表資料改) 長岡技術科学大学 システム安全専攻 准教授 NPO国際レスキューシステム研究機構 理事 木村哲也 1

木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

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2013年8月10日第13回レスキューロボットコンテスト競技会本選の震災復興応援特別企画の一つとして実施した木村哲也先生(長岡技術科学大学)の講演のスライドです.

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Page 1: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

災害対応技術を強くするリスクアセスメント

(第13回レスコン特別講演会発表資料改)

長岡技術科学大学 システム安全専攻 准教授

NPO国際レスキューシステム研究機構 理事

木村哲也

1

Page 2: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

あなたの生活は安全ですか?• 消費生活用製品

– 家電製品、家具、衣類、子供用品、、、

• 建築物– 自宅、職場、学校、、、、

• 交通– 自動車、列車、飛行機、自転車、、、、

• 食品– 購入品、外食、学校給食、、、、

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Page 3: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

認証(基準・手順・試験所)

メーカー【第一者】

ユーザー【第二者】

認証説明請求基準、安全

認証

認証用データ説明責任

保険保険金

補償請求

残留リスク受容&保証

残留リスク開示&契約

対価&残留リスク受容

製品&残留リスク開示(教育)

一般社会のリスクマネジメント構造

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【第三者】

Page 4: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

国際的な安全の考え方• リスク=事故の酷さ×事故の発生確率

• 安全

– 許容できないリスクのないこと(freedom from unacceptable risk)

→安全でも許容できるリスクはある

→絶対安全は存在しない(絶対安全は目標)

• 事後対応の墓標安全から事前対応の予防安全へ

• 現代社会はこの安全の考えに立脚して成立

(一般製品、工場、新技術) 4

Page 5: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

リスクアセスメントの特徴• 事故を起こさずに事故のリスクを推定

• 国際的に合意*された手順

• 実施手順の明文化

• 実施結果の文章化

⇒形式知化により知の共用・改善

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*合意(consensus):本質的な問題について、重要な利害関係者の

中に妥協できない反対意見がなく、かつ、すべての関係者の見解を考慮することに努める過程及び対立した議論を調和させることに努める過程を経たうえで全体的な一致。

注記:合意は、必ずしも全員の一致を必要としない。(ISO IEC Guide 2)

Page 6: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

リスクアセスメントの手順

スタート

機械類の制限の決定(意図される使用及び合理的予見可能な誤使用の決定)

危険源の同定

リスク見積り

リスクの評価

許容可能な/適切に低減されたリスクは達成されたか

終了

リスクの低減

Yes

No

リス

ク分

リス

クア

セス

メン

6JIS B 9702

Page 7: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

情報の収集a)機械類の記述

1)使用者の情報、2)機械類の情報(ライフサイクル、設計図面、

動力源)、3)同種の機械類の設計情報、4)機械類の使用に関

する情報(使用手順書等)

b)規則,規格及び他の適用可能な文書に関連するもの

1)適用可能な規則、2)関連規格、3)関連技術仕様書、

4)安全に関するデータシート

c)使用の経験に関連するもの

1)関連機械類の事故履歴、2)使用物質・材料の情報、

3)類似機械の使用者からの情報、

d)人間工学原則

e)その他

異なる機械類の同様の危険状態、各種データベース、試作品7

参考:ISO 12100:2010 SS5.2, ISO TR 14121-2:2012 SS4.2

事故履歴なし/少=安全ではない!

Page 8: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

危険源の分類1. 機械

2. 電気

3. 熱

4. 音

5. 振動

6. 放射

7. 材料・物質

8. 人間工学

9. 環境

10.組み合わせ 8ISO 12100:2010

原因 潜在的結果

-加速,減速(運動エネルギー)-角のある部品-可動部の固定部への接近-切断部-弾力性構成要素素-落下物-重力(蓄積エネルギ)-地面からの高さ-高圧-機械類の移動性-可動部-回転部-未加工の滑りやすい表面-尖った端部-安定性-真空

-ひかれる-放り投げられる-押しつぶし-切断又は引裂き-引き込み又は捕捉-巻き込み-擦れ又は擦りむき-衝撃-注入-せん断-滑ること,つまずくこと,転倒すること-突き刺し又はパンク-窒息

Page 9: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

安全に関する国内の現状• 労働安全衛生法改正(H18.4.1)

– リスクアセスメントの努力義務化(28条の2)

• 消費生活用製品安全法改正(H19.5.14)

– 全重大事故の報告と公表の義務化(消費者庁)

• サービスロボットの市場化

- サービスロボット安全規格ISO13482の年内発行

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ISO13482:2013 Robots and robotic devices— Safety requirements — Non-medical

personal care robot

対象とするロボットの例

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Mobile servant Physical assistant People carrier

Page 11: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

ISO DIS 13482:概要1. はじめに, 2.参照規格, 3.用語と定義

4. リスクアセスメント

5. 安全要求事項と保護方策

6. (制御システムの)安全性能への要求事項

7. 検証と妥当性確認, 8. 使用上の情報

附属書A 重大危険源のリスト

附属書B 安全判断基準

附属書C ロボットの機能

附属書D リスクアセスメント例

附属書E 妥当性確認 11

Page 12: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

5. 安全要求事項と保護方策

5.1 一般

5.2 バッテリー充電関連の危険源

5.3 エネルギー蓄積と供給関連の危険源

5.3.1 高エネルギー箇所との接触

5.3.2 予期せぬ蓄積エネルギーの放出

5.3.3 電源障害とシャットダウン

5.4 ロボットの形状に関連する危険源

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Page 13: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

5. 安全要求事項と保護方策

5.5 エミッション(放射)

5.5.1 危険なノイズ

5.5.2 危険な振動

5.5.3 危険な物質と液体

5.5.4 危険な温度

5.5.5 危険な非電離放射(超音波、光等)5.5.6 危険な電離放射線

5.6 電磁干渉

5.7 ストレス、姿勢、使用に関連する危険源

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Page 14: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

5. 安全要求事項と保護方策

5.8 ロボットの運動に関連する危険源

5.8.1 一般

5.8.2 機械的不安定性

5.8.3 走行中の不安定性

5.8.4 荷物の持ち運び時の不安定性

5.8.5 衝突時の不安定性

5.8.6 荷物の積み込み/積み下ろし時の不安定性

5.8.7 安全に関連する障害物(人、ペットなど)との衝突

5.8.8 人-ロボット相互作用(接触)時の危険な物理的接触

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Page 15: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

5.8.7 安全に関連する障害物との衝突5.8.7.1 一般

5.8.7.2 本質的安全設計

速度制限、柔らかい素材の利用

5.8.7.3 安全防護及び付加保護方策

回避:制限距離の定義、停止(6.2)、速度制御(6.5)、回避行動(6.6)、手動制御

低減:障害物の発見(6.2)、衝撃低下の為の適切な設計

5.8.7.4 使用上の情報

5.8.7.5 安全性検証と妥当性確認

計測、動作中の観察、回路図の検証、ソフトのブロック図/書類の検証(IEC 61508-3参照)

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Page 16: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

5. 安全要求事項と保護方策

5.9 耐久性の不十分さ

5.10 不適切な自律動作

5.11 (ロボットの)可動部との接触

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Page 17: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

6. (制御システムの)安全性能への要求事項

6.1 一般

6.2 ロボットの停止

6.3 ソフトウエア制御によるロボットの可動範囲の制約

6.4 特異点に関する防護

6.5 速度制約と安全関連速度制御

6.6 安全関連環境計測

6.7 力の制約と安全関連力制御

6.8 ロボットの動作の制御

6.9 指示装置

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Page 18: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

6.1 一般:PLr, SILの決定が求められる機能

a)冷却ファン制御

b)エネルギーマネジメント

c)温度制御

d)レーザー通信

e)静的安定制御

f)動的安定制御

g)衝突マネジメント

h)乗車マネジメント

i)安全関連力制限制御

j)故障監視/診断

k)ロボット応用機能 18

l)非常停止

m)制御停止

n)ソフトウェアによる動作範囲制限

o)速度制限

p)非接触センシング

q)接触センシング

r)力制御

Page 19: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

災害現場で安心して使えるロボットとは?

・性能

移動能力、探査能力、救助能力、操作性、、、、

・コスト

初期コスト、運用コスト

・品質・信頼性

・安全性

技術、運用

19安心

本当に大丈夫?(妥当性確認)(技術、制度、心)

安全は安心の必要条件

Page 20: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

米国災害対応ロボット標準化性能試験法

• 米国国立標準技術研究所(NIST)国家安全保

障災害対応ロボット性能標準化http://www.nist.gov/el/isd/ks/response_robot_test_methods.cfm

• ASTM Committee E54 on Homeland Security Applicationshttp://www.astm.org/COMMITTEE/E54.htm

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Page 21: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

災害対応ロボット安全の特徴• 環境の多様性

• 選ばれた隊員による利用

• 隊長の現場判断の責任

– リスクとベネフィットのバランス

• 設計上特に注意すべきリスク

– 隊員の訓練でリスク低下が困難なリスク

– 防爆、EMC(電磁ノイズ)、人間工学、除染、保守点検

• 実証試験での安全性確保

21平成22年度災害対応ロボットの安全基準策定に関する調査研究報告書

Page 22: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

津波被災地の水中ロボットによる探査活動

2011年3月11日 東日本大震災

水中ロボットを使用した探査活動

利点• 潜水病の心配がない(探査時間・深度)• 家の屋根の下など危険箇所の探査可能• ソナーを用いることで探査効率向上 3

Page 23: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

活動概要• 2011年4月18日~23日

• 行方不明者の捜索、瓦礫探査

• 宮城県南三陸町、岩手県陸前高田市

• 公的要請に基づくボランティア的活動

(被災地での勝手なロボット活動厳禁!!!)

• メンバー

– 米国ロボット援用探査救助センターCRASAR– NPO法人国際レスキューシステム研究機構(IRS)

– IRS-U(現役消防隊員のボランティアチーム)

– 大学教員、大学生23

Page 24: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

参考情報• CRASAR-IRS 水中ロボットによる探索活動報告

(Robin Murphy教授)http://www.rescuesystem.org/IRSweb/3%20document.pdf

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Page 25: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

安全管理・後方支援としての役割

危険源の排除

余震・津波対策

1. 緊急地震速報用ラジオの設置・携帯ラジオによる状況把握2. 避難経路の確認3. 車の向きの考慮

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Page 26: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

安全管理・後方支援としての役割

作業のアシスト

• 休憩場所の確保• 伝令• 荷物運搬• 資機材管理

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Page 27: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

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落下の危険源

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落下の危険源

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広報対応の障害源

Page 30: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

安全管理で利用した情報• 国際安全規格

– 生産現場での危険源

– 鉄道での活動の障害源

– 大規模化学プラントでのリスク評価手法(津波を想定)

– アセスメント手順

• 消防教本

• 同行消防隊員(IRS-U)からの助言

• 現場作業者からの助言

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開始

活動の制限の決定

終了YES

NO

リスクの低減アベイラビリティの向上

新たな危険源/障害源は発生する

か?

A

リスクとアベイラビリティの比

他の危険源/障害源に影響を与え

るか?

保護方策が活動の制限に影響する

か?

許容可能なリスクは達成された

か?

危険源/障害源の同定

リスク/アベイラビリティの見積り

リスク/アベイラビリティ評価

A

提案するリスク・アベイラビリティアセスメント手法

NO

YES

YES

NO

YES

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Page 32: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

津波被災地での危険源(抜粋)機械安全規格上の危険源+消防隊員の経験・教本から構築

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規格上のキーワード 探査活動用危険源 活動で想定又は存在した危険源

落下物 構造物からの落下物 車載貨物や屋根瓦等崖崩れ 石垣や山の斜面

重力(蓄積エネルギー) 重量物 ロボット等地面からの高さ 転倒・転落 マンホールや破損した路面等

尖った端部 鋭利物 釘やガラス等アーク 発電機 ロボットに使用した発電機

高温又は低温の物体・材料 熱湯 やかんやタンクのお湯

粉じん アスベスト倒壊した家屋から発生したアスベスト

過剰努力(過度の労働) 過剰努力(過度の作業) 長時間の探査作業等

地震 津波 余震による津波

雪 雪 降雪水 水・海水 ロボットに付着した海水等風 風 風

Page 33: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

津波被災地での障害源(抜粋)鉄道安全規格上の障害源+消防隊員の経験・教本から構築

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規格上の障害要素キーワード

探査活動用障害源

活動で想定又は存在した障害源

アベイラビリティ-運転条件- 気温 低気温下での探査活動人的要因-人的誤り 天候 雨や雪

アベイラビリティ-運転条件- 電源 発電機の使用不可ロジスティック 燃料 ガソリンの調達不可

飲食 飲み水・食料の調達不可広報 プレス対応時間

ナビゲーション 被災地での移動時間

怪我怪我による探査時間の減少or活動

不可過度な装備 作業効率を下げるような装備過剰な荷物 荷物の積み下ろしや整理の手間長距離移動 移動による時間の消費

トイレ 被災地でのトイレ休憩アベイラビリティ-運転条件- 障害物 瓦礫等

環境条件 外部外乱 段差等 破損した道路等の段差

Page 34: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

まとめ• 安全は安心した利用の必要条件

• リスクアセスメントでリスクの「見える化」⇒設計、運用で事故を起こさずに事故低減へ

• 災害対応の多様性をリスクアセスメントで形式知化⇒知識の循環を促進

• 災害対応ロボットの更なる開発加速・普及のためには、リスクと正面から向き合い、合理的に判断する力を社会として養う必要がある。

• 「ダミアン安全」でのリスクアセスメントは?

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Page 35: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

参考資料• 厚労省RA等関連資料・教材一覧

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/

• 日機連 メーカのための機械工業界RAガイドhttp://www.jmf.or.jp/japanese/standard/pdf/hyojun_guideline.pdf

• 経産省製品安全RAハンドブックhttp://www.meti.go.jp/product_safety/recall/risk_assessment.html

• 米国国立標準技術研究所(NIST)国家安全保障対応ロボット性能標準化

• http://www.nist.gov/el/isd/ks/response_robot_test_methods.cfm

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Page 36: 木村哲也「災害対応技術を強くするリスクアセスメント」

参考資料• 蓮実雄大, 木村哲也, "国際安全規格に基づく地震・津

波被災地水中ロボット探査作業の リスク・アベイラビリティアセスメント," 計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2011),1856/1859,2011

• 蓮実雄大, 木村哲也, "国際安全規格に基づくリスクとアベイラビリティの バランスを考慮した災害対応活動方策," 日本機械学会ロボティクスメカトロニクス講演会講演論文集,1P1-S03(1)-(4),2012

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