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漫画とエロティシズム
永山 薫
■エロティシズムと性表現とポルノグラフィ
性と表現にかかわる用語はある程度使い分ける必要があること エロティックな表現と性表現とポルノ表現は重なり合う部分もあるが、それぞれの核心
は別のところにある 性表現、あるいはエロティックな表現を含む作品をポルノと呼ぶのは恣意的で政治的な
言説である ●それぞれの核心
性表現はセックスそのものを描くこと。ここで言うセックスとは性器、性行為(性交、
フェラチオ、肛門性交、指その他の部位、用具による性器への刺激)を指す。性を主なテ
ーマとしない、例えば恋愛を描いた漫画にも性表現は登場する。 ポルノグラフィは性欲を高める、あるいは性的ファンタジーを楽しむための表現である。
ポルノグラフィにはハードコアとソフトコアがある。ハードコアは無修正の性器・性交描
写がメインとなるポルノを指す。ソフトコアも性的興奮を意図する表現だが、ハードコア
描写を含まない。 エロティシズム表現は性表現、ポルノ表現を含む場合もあるが、全く含まない場合も多
い。漫画においては物語性だけでエロティックに描くことも可能だし、フェティシズムや
暗喩によってエロティシズムを表現することもできる。 ここでは芸術性、学術性については問わない。 ●表現と受容
表現は表現者だけでは成立しない。 表現者と受容者(読者、観客、消費者)がいて初めて成立する。 無人島で表現行為を行った場合、表現者自身が唯一受容者となる。 自分とは最初の他者である 表現は表現者と受容者の共犯関係で成り立っている ただし、表現者の意図通りの受容がなされるとは限らない
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受容=解釈は 1 種類ではなく、受容者の数だけ存在する そこには誤読も、意図的な誤読もあり、二次的な創作もある ●エロスとは何か?
語源はギリシア神話の愛神・エロス。翼を持った少年、あるいは幼児の姿で描かれる。 ローマ神話だとアモール、クピドン、クピド。キューピッドの語源→キューピーさん。
■エロティシズムと性表現とポルノグラフィ
漫画を絵とテキストによるシーケンシャルな表現であることを確認した上で戦後漫画史
におけるエロティシズム、性表現を概観する ただ美術史におけるエロティシズム表現の継承もあることはある 歴史的視点を縦軸とするが、横軸=横断的な視野が必要 漫画は時の社会、経済、文化、政治、規範、世相とは無関係ではいられない ●戦後~60年代
漫画のエロティシズムを時系列に従って見る 漫画の歴史はいくらでも遡れるが、ここでは戦後に限定する。 40~50 年代前半には地下出版物を除いて性表現そのもの、ポルノ表現は存在しない。 50 年代後半から大人向け週刊誌、漫画誌に艶笑漫画、お色気漫画という形でエロティッ
クな表現がオーバーグラウンド化『土曜漫画』『週刊漫画 Times』など(後者は現役)。 清水崑、小島功、歌川大雅、杉浦幸雄など 60 年代中期(東京オリンピック前後)も雑誌が増加してもエロティシズム表現に関して
は大きな変化はない。 笠間しろう、凡天太郎など 手塚治虫、石森章太郎も大人漫画誌で執筆 参照:米澤嘉博『戦後エロマンガ史』(2010.青林工藝舎) 受容者としての証言:手塚治虫のエロティシズム、トキワ荘世代漫画に萌えたケースも ●60年代末~70年代
60 年代末の政治の季節 ヒッピームーブメント フリーセックス←ヴィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」 性表現が青年漫画、ガロ、COM では当たり前になっていく 68 年、永井豪の『ハレンチ学園』で、少年漫画にギャグのエクスキューズありのお色気
路線が登場→ブーム化
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70 年、少女漫画 24 年組の大泉サロン。ここから少女漫画の性表現が切り拓かれていく キーパースン増山法恵、竹宮惠子、萩尾望都、山岸凉子、 70 年初期、三流劇画ブーム→75 年にピーク。 三流劇画はポルノ的表現で先鋭化。初めてジャンルとしての「エロ漫画」が成立 エロさえあればなんでもあり→テーマ、モチーフの多様化(SM、同性愛、異性装、ス
カトロ、フェティシズム) ガロ系作家の流入 71 年、日活ロマンポルノ(88 年まで) 75 年第 1 回コミケット開催→SF ファンダムからのスピンアウト やおい同人誌(用語としてのやおいは 79 年頃) 77 年、石井隆『名美』 石井は 75 年デビュー 77 年、ダーティ松本『肉の奴隷人形』松本の 75 年デビュー 78 年、『COMIC JUN』創刊→3 号から『JUNE』耽美漫画→後の BL へ 中島梓の小説道場 78 年、高橋留美子『うる星やつら』→ハーレム物へと受け継がれる 79 年、『Be in LOVE』創刊→レディースコミック ●70年代末~80年代
やおい同人誌に対抗する(?)形でロリコン漫画同人誌出現 キーパースン吾妻ひでお、蛭児神建 写真界の美少女ヌードブーム(60 年代~70 年代) ディレッタントによるアリスブーム(70 年代~ アニメの美少女キャラ人気→『ルバン 3 世カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』 82 年(店頭には 81 年末?)最初のロリコン漫画商業誌『レモンピープル』(あまとりあ
社)創刊 吾妻ひでお、あさりよしとお、内山亜紀、千之ナイフ、谷口敬 初期には中島史雄、ダーティ松本など三流劇画家も 80 年代前半に三流劇画退潮、ロリコン漫画が主流に 性表現、ポルノ表現は後退するが、多様化はさらに進む ロリータから童顔巨乳美少女キャラの時代へ 88~89 年東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件 89 年、有害コミック騒動 ●90年代
90 年、宗教団体による有害コミック反対キャンペーン 1990 年 9 月 4 日、朝日新聞・社説『貧しい漫画が多すぎる』
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91 年、東京都議会が「有害図書類の規制に関する決議」を採択 「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」(麻生太郎会長) 問題視されたのは遊人『エンジェル』、上村純子『いけないルナ先生』 前者はソフトコア的、後者はエロティックなコメディ 少年誌ではエッチコメディが定着、青年誌では性表現のある作品も多数 ロリコン漫画は自主規制で単行本発行点数激減。 91 年、自主規制「成年コミック」マーク 90 年代前半「成年コミック」マーク後、エロ漫画バブル開始
成年コミックの性表現、エロティック表現の多様化さらに進む 90 年代中期、ショタブーム→男性ジャンルと女性ジャンルの交流
93 年の「電撃」を冠した雑誌が角川書店から 5 誌同時創刊→萌えブームへ 95 年頃、「萌え」が用語として確立。「萌え」は性なきポルノグラフィの側面も
96 年、ストックホルムで開催された「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」で
日本の漫画が槍玉に挙げられる。 97 年、『コミック夢雅』(オークス)創刊。陵辱系台頭の先駆け。ネオ劇画 非成年系の萌え系増加で成年系からの読者離脱の穴を埋めるため過激化した側面も 99 年、「児童買春、児童ポルノに係わる行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案」
施行 90 年代末~0 年代にかけて、鬼畜系が増加 成年コミックの性表現は進化し続けるが、中には透明な男性器、解剖学表現など、妙な
進化も。 ●00年代~
成年コミックマーケットの縮小 出版不況 萌え系読者の外部流出 非成年コミックジャンルの過激化が問題視される→非実在青少年騒動へ 規制の論理はワイセツではなく青少年に有害 問題視されたのは男性向けジャンル及び、女性向け TL(いずれもソフトコア)「非実
在青少年」キャラクター、BL の一部のハードコア化またはレディコミ化した部分 参考資料(直接的な資料のみ) ★『エロマンガスタディーズ』(06 年、拙著、イースト・プレス) ★『戦後エロマンガ史』(10 年、米澤嘉博、青林工藝舎) ★日本でのマンガ表現規制略史(1938~2002) http://picnic.to/~ami/kisei/ryakushi.htm