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視覚及び聴覚刺激による擬似力覚の呈示に関する研究 Research on presentation of pseudo haptic force by visual and auditory stimuli
5116E003-4 臼井 亮人 指導教員 菅野 由弘 教授 USUI Akito Prof. KANNO Yoshihiro
概要:近年五感のクロスモーダルな相互作用による錯覚を利用して,知覚情報を呈示しようとする研究が盛んに行な
われている.特に触覚や力覚に関する錯覚は擬似触力覚(Pseudo Haptics)と呼ばれ,触力覚呈示の方法としての応用が考えられている.これらの研究では視覚刺激のみを呈示して錯覚を誘発しているが,実利用を考えると得られる感覚が微弱であるなど未だ問題は多い.本研究では視覚刺激だけではなく,聴覚刺激からも感覚を得られるか調べた.
具体的には弾力性のある仮想物体に対するインタラクションから擬似力覚を得られるか実験を行った.実験の結果,
視覚刺激と同程度の擬似力覚を聴覚刺激から得られた.また,視覚刺激と聴覚刺激を組み合わせて呈示することで,より強く擬似力覚を得られた.また,擬似力覚を利用した電子楽器の制作を試みた. キーワード:擬似力覚,クロスモーダリティ,錯覚,視覚刺激,聴覚刺激 Keywords: pseudo haptic force, cross-modality, illusion, visual stimulus, auditory stimulus
1. はじめに
視覚刺激による触覚や力覚の錯覚は擬似触力覚(Pseudo
Haptics)として,触力覚呈示の手法への応用が考えられて
いる.有名な研究だと,ピストンを押した際の反力を視覚
刺激によって呈示するもの[1]がある.こういった研究では,
触力覚呈示デバイスから呈示される触力覚を視覚刺激によ
って変化させるという方法を用いている.そのため VR・
AR 環境への応用や実際に利用する場合を考えた時に触力
覚呈示デバイスを装着・接触させる必要があり,手間や制
限がかかることが考えられる.
これに対し,触力覚呈示デバイスを装着・接触させずに
視覚刺激から誘発される錯覚のみで触力覚を呈示しようと
いう研究も行われている.例えば,シースルー型の HMD
で表示した映像と実際の手が接触しているように見せるこ
とで微触感錯覚を呈示するもの[2]が挙げられる.しかし,
得られる感覚が微弱であるので未だ検討の余地が多い.
これらの擬似触力覚に関する研究のほとんどは視覚刺激
に変化を加えることで錯覚を誘発しているが,得られる感
覚を高めるためには,より複合的な刺激を呈示することが
必要だと考えている.そこで本研究では聴覚に着目し,視
覚刺激だけでなく聴覚刺激からも擬似力覚を誘発させるこ
とができるか,またそれらを組み合わせて呈示することで
より強い感覚を得られるかを検討した.また擬似力覚の応
用例として,擬似力覚を利用した電子楽器の制作を試みた.
2. 呈示する視覚及び聴覚刺激
視覚刺激には「ばねオブジェクト」及びユーザの実際の
手の動きに追従する「手オブジェクト」の2つの仮想物体
が含まれる(図 1).ユーザの手の動作の認識には Leap
Motionというデバイスを使用している.認識した動作を視
覚刺激にリアルタイム反映させることで,ユーザは「手オ
ブジェクト」を実際の自分の手のように扱うことができる.
図 1 呈示される視覚刺激
ユーザは「手オブジェクト」を使用して「ばねオブジェ
クト」の先のおもりを掴み,自由に伸縮させることができ
る.「ばねオブジェクト」は弾力性を表現した動作を行う.
視覚刺激においては,「ばねオブジェクト」を掴んでいる
状態における「手オブジェクト」の動作量を実際よりも低
減させて表示することで,擬似力覚の誘発を図った.
聴覚刺激は視覚刺激における「ばねオブジェクト」の動
きに連動して変化する.具体的には,視覚刺激における「ば
ねオブジェクト」のおもりの初期位置からの移動距離に応
じて周波数が変化する音を設定した.
3. 擬似力覚についての評価実験
没入感を高めるため,視覚刺激の呈示には両眼・非シー
スルー型 HMD(HMZ-T3,SONY),聴覚刺激の呈示にはヘ
ッドフォン(MDR-CD900ST,SONY)を使用した.実際の
実験の様子を図 2に示す.実験条件として,「視覚刺激(動
作量低減なし)のみ呈示」を条件 A(標準刺激),「視覚刺
激(動作量低減あり)のみ呈示」を条件 B,「視覚刺激(動
作量低減なし)と聴覚刺激を呈示」を条件 C,「視覚刺激(動
作量低減あり)と聴覚刺激を呈示」を条件 Dとして設定し
た. 実験参加者は成人 14名であった.
実験参加者には,まず実験の概要や取得するデータにつ
いての説明をし,HMD 及びヘッドフォンの装着感とシス
テムの動作について確認を行った.
図 2 実験の様子
実験の順序について,比較のために条件 Aを行ってから
条件 B~Dからランダムで選んだ条件を呈示した.この二つ
の条件の呈示と比較を 1 セットとし,条件 A と条件 B~D
の組み合わせで全 3セットの試行を行った(例:第 1セッ
ト A→C,第 2セット A→D,第 3セット A→B).
各条件における観察時間は,参加者が「ばねオブジェク
ト」を最初に掴んだ時点から 10秒間とした.その間参加者
は「ばねオブジェクト」を自由に伸縮させたり,掴んだり
離したりして知覚される力覚について確かめた.
各セット終了後,マグニチュード推定法による評価を行
った.条件 Aで「ばねオブジェクト」を引っ張った時に知
覚した力覚(手応え)の評価値を 100 として,2 回目の条
件の評価値を整数値で回答させた.
4. 実験結果及び考察
条件 B~Dにおいて得られた評価値の平均を図 3に示す.
エラーバーは標準誤差を表す.条件 A~Dの評価値について
分散分析を行った結果,有意差が見られた(F(3,39)=12.129,
p<0.05).Ryan 法による多重比較を行った結果,条件 A と
B,条件 A と C,条件 A と D,条件 B と D,条件 C と D
の組み合わせにおいて有意差があることがわかった.
この結果から,視覚刺激において動作量を低減させて得
られた擬似力覚と同程度の擬似力覚を聴覚刺激から得られ
たと言える.また,それらを組み合わせて呈示すると,よ
り強く擬似力覚を得られたと言える.
図 3 各条件における知覚した力覚の評価値
5. 擬似力覚を利用した電子楽器の制作
本研究の実験において使用したシステムを体験した人
のうち複数人から,得られた感覚に対して「実際のばねを
引っ張っている時の感覚とは違うが,何かしら感覚はある」
といった感想が寄せられた.そういった意見からもわかる
ように,本研究の実験において使用したシステムを VR・
ARにおける力覚呈示の手法として応用していくには未だ
多くの検討の余地がある.しかし,実際のばねを引っ張っ
ているのとは何か違う不思議な感覚を生かして擬似力覚の
応用例を示すことはできないかと考えた.日常生活におい
て触力覚は,周囲の状況や存在を認識するために重要な機
能であるが,それと同時に,玩具や楽器などのエンターテ
インメント性の高いコンテンツに対しても重要な意味を持
っていると考えられる.そこで本研究では,特殊な感覚「擬
似力覚」を生かした「触っていたくなる」電子楽器の制作
を試みた.具体的には,実験で使用したコンピュータで動
作するシステムをコントローラ部分と捉え,画面上の「ば
ねオブジェクト」の動きに連動して同じ動作する,実際の
ばねの形を模倣した電子楽器を制作した(図 4).
図 4 電子楽器の外観
6. まとめ
本研究では,視覚及び聴覚刺激を用いて,弾力性のある
仮想物体に対するインタラクションから擬似力覚を得られ
るか検討した.その結果,視覚刺激だけでなく聴覚刺激か
らも擬似力覚を誘発させることができ,またそれらを組み
合わせて呈示することでより強い感覚を得られた.
擬似力覚を誘発することはできたが,どのような映像,
音でより力覚を錯覚しやすいのかなど詳しい部分の検討に
は余地が残る.また主観的評価では限界もあるため,筋電
位測定など客観評価法を利用した実験の試行やシステムの
再構築も考慮に入れた検討を進める必要がある.
また本研究では擬似力覚の応用例として,擬似力覚を利
用した電子楽器の制作を試みた.今後研究が進んだ場合,
VR・ARにおける力覚呈示の手法としての応用も期待でき
る.
参考文献 1) A. Lecuyer, S. Coquillart, A. Kheddar, P. Richard, and P. Coiffet: Pseudo-haptic feedback: Can isometric input devices simulate force feedback?; Proc. Virtual Reality Conference, IEEE, p.83-90 (2000). 2) 盛川浩志, 飯野瞳, 金相賢, 河合隆史: シースルー型HMD を用いた微触感錯覚の呈示と評価, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, Vol.18(2), p.151-159 (2013).
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50
100
150
200
条件A(基準) 条件B 条件C 条件D
評価値