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(平成 23年 3月 22日初版,
平成 23年 5月 25日修正版)
緊急提案
日本復興計画
「東日本復活5年計画」と「列島強靭化10年計画」
京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻
藤井聡研究室
(mail: fujii[at]trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp tel:075-383-3238)
【 概 要 】 平成 23年 3月 11日に起こった東日本大震災は、「被災地域の国民・法人・自治体」のみならず、
「日本経済」そのものに、どの先進諸国も未だ経験したことの無い激甚なる被害をもたらした。
しかも、その巨大地震は、いつか必ず起こるであろうと危惧されている首都東京を直撃する「首
都直下型地震」の発生確率(30年以内の発生確率が 70%)に影響を及ぼした可能性も否定できな
い。そして今回の巨大地震と同規模の「東海・南海・東南海地震」の危機が改めて認識され、巨大
津波に耐えうる防災対策の見直しの議論が改めて始められているものの、その 30年内の発生確率
は 50%~87%もの水準に達していることが知られている。この度の東日本大震災の傷が癒えぬ間
に、首都東京、東海や西日本の諸都市に、今回の大震災と同様、あるいはそれ以上の深刻な被害を
もたらす巨大地震が連発すれば、文字通り我が国は「瀕死の重傷」を負うことにすらなりかねない。
本緊急提案は、こうした、我が国が今まさに置かれている「国難」的状況を冷静に見据え、東日
本大震災で大打撃を受けた東日本が「復活」を遂げるための短期集中的な復興・復旧事業の基本方
針を「東日本復活5年計画」としてとりまとめると共に、巨大地震を中心とした様々な国家的危機
にも負けない強靭..
(レジリエント......
)な日本をつくるための諸事業の長期的方針を「列島強靭化10
年計画」としてとりまとめるものである。特に、東日本復活においては、被災者に対する就労支援
型の救済を図る「東日本ふるさと再生機構」(仮称)の設立を提案する。
そしてこれらの合計で10ヶ年で日本を強靭なる国家への「復興」を図る計画のための財源を、
■日本銀行の積極的な買いオペレーションを促す日銀・政府間の適切な協調(アコード)の下、
■年間数兆円から、最大で20兆円規模の「国債発行」を行う、
ということを基本として調達する。そしてその財源を、初期5ヶ年では「東日本復活5年計画」に
重点的に配分する一方、後期5ヶ年では「列島強靭化10年計画」に集中配分する。ただし、その
際、適正なインフレ率(2.5~3.5%程度)の上限を予め設定しながら、必要に応じて各種の対策(金
融政策や税政の見直し等)を裁量的に展開することを前提とする。
こうした諸対策を通して、日本の持続的な繁栄を期するものである。
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1.東日本復活5年計画
(1)東日本大震災の被害推計
平成 23年 3月 11日の東北関東大震災では、激しい地震の揺れに加えて、青森から千葉にかけて
の500キロにも及ぶ広い海岸域全体に巨大津波が押し寄せ、いくつもの街や村が壊滅するなど、
東北太平洋沿岸地域を中心として激甚なる被害がもたらされた。
その被害の全容が明らかになるまでしばらくの時間が必要とされているところであるが、平成 23
年 3月 17日時点で入手可能な数値から推定すると、
●復興事業費用(行政負担分:国・自治体含む)が少なくとも 46兆円
となることが想定される(算定方法の詳細は、付録1を参照のこと)。
※原子力発電所事故対策は含まない。
※ただし、この数値については、これよりもさらに高い推計値(例えば、推計値 100兆円超注 1)や低い推計値(例
えば 15兆円前後注 2)が存在する点にも留意が必要. 注 1「AIR Worldwide Releases Preliminary Estimate of Insured Losses for the Mw9.1 Tohoku Earthquake」NewsALERT
™, March 12, 2011.の報告値より、付録1と同様の計算をした場合に得られる推計値 注2『東日本大震災後の復興費用 16兆円超か、カトリーナ上回る-3M予想』ブルームバーグ、2011.3.17
(2)計画内容
●日本が持ちうる総力を結集して、「基本的」な復興を短期的集中的に実施し、5ヶ年とい
う目標年次を掲げて、計画的な復旧を図る。
●ただし、東日本の「完全」な復活のために、本5ヶ年計画終了後もさらに、継続的な5ヶ
年程度の支援(合計 10年)を行う。
●今回の震災が激甚震災であり、かつ、多くの自治体が壊滅的な被害を受けていることから、
「国費負担率」や「自治体への交付金の水準」については、被害の程度を踏まえて柔軟に
対応する(交付金も含めた国庫負担率は 50%~100%を想定)。
●付録2には、各年次の事業内容と、各年次の予算の概要を示す。また、付録3には、今回
の諸計画を支援する、その他の法的・財政的措置をとりまとめる。
●付録3にも示されているように、本計画の推進において再整備される産業・経済・インフ
ラに関わる全国的なネットワークや諸制度は、「列島強靭化10年計画」において求めら
れるものでもある。したがって、両計画の一体的推進を図る。
●被災した東日本の円滑かつ効果的な復旧・復活を企図して、「東日本ふるさと再生機構」(仮
称、10年の期限を想定)を設立する。詳細は、事項(3)を参照のこと。
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(3)「東日本ふるさと再生機構」(仮称)の設立
●基本理念 「ふるさと」を、官民一体、現地と国と全国が一体となって再生する。
①被災地の物理的な復興のみならず地域のコミュニティ(ふるさと)を再生する。
②被災者に対する就労支援型の救済 (具体的には、数万規模の雇用創出を目指す)
③全国からの支援の輪の円滑化
④被災により失われた自治体の行政機能の一部代替
●組織形態
①特別法によって設立され、国の出資を主体とした「時限」の行政法人
・10年の時限とし、10年目に存続の是非を検討
・独立行政法人通則法による管理の対象外
・2011年 7月設立を目指す。
②既存の独立行政法人や政策金融機関との密接な連携
住宅整備や被災者への低利融資など、必要な事業すべてを担うのではなく、既
存の機関と連携する。
③必要に応じて、各地域支部を設置
●機構の業務
①被災者の就労支援型救済
1) 被災地の復興関連事業における被災者の雇用創出
2) 被災地以外を含む公的サービス一般(林地整備、耕作放棄地の開墾、清掃等)
についての被災者の雇用創出
※上記 1) , 2)について、それぞれ、以下を実施。
a)機構が直接被災者を雇用して、事業を実施
b)機構が被災者に雇用機会をあっせんして、給与の一部を支給
c)事業終了後の就業のあっせん
3) 被災した企業が事業を継続する場合のオフィス賃料を補助(4百万円/年程度)
②全国からの支援の輪の円滑化
1) 被災地以外の労働者(特に若年層)に対し、復興事業関連の雇用を創出
a)機構が直接雇用して、事業を実施
b)機構が雇用機会をあっせんして、給与の一部を支給
c)復興事業終了後の就業のあっせん
d)若年労働者について、職業訓練・キャリアアップも兼ねる
2) 被災地復興に協力するボランティア・NPOに対する補助・支援
3) 義援金や支援物資の受け入れ・管理
4) 未成年被災者の一時的なホームステイのあっせんや生活費・奨学金の支給
③地域復興計画の具体化のために必要な調査・調整・提言
④必要に応じて、機構が土地を買い上げ、直接復旧・整備を行う。また、地元の雇用創
出と復興の加速化のため、コミュニティ型の会社を設立するための出資機能や債務保
証機能ももたせる(但し、復旧後は、民間に資産を売却する)。
⑤法律相談、利害調整などのソフト支援
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(4)財源
以上の「東日本復活5年計画」の財源確保のために、以下の3つの対策を行う。
①日本銀行との協調(アコード)を前提とした「震災復興国債」の発行による資金調達。
②「所得移転」(子ども手当・高速道路無料化等)のための財政支出からの転換による資金調達。
③「被災地への所得移転」のための特別税制(寄付金税額控除、および、被災地特別減税)
①日本銀行との協調(アコード)を前提とした震災復興国債の発行
後に述べる所得移転のための財政支出からの転換等で不足する分について、震災復興のため
の財源とすることを目途とした震災復興国債注 1)を発行する(年間最大で20兆円程度)。
現在の日本経済はデフレーションの状況にあるために、金融市場における需要が冷え込んで
いることから、国内民間銀行の預金残高から貸出残高を差し引いた、いわゆる「預貸ギャップ」
(あるいは、預金超過額)は、2010年 11月時点で「151兆円」に上っている(日本銀行関連
統計より)。その結果、国内銀行はその預貸ギャップを運用するために「日本国債」を購入し
たり、海外に融資先・投資先を求めたりしている。さらに、同様の資金需要不足の問題はその
他の国内投資家も抱えていることから、日本国債の金利を意味する国内の長期金利は世界でも
最低水準を推移し(すなわち、国債の9割以上が国内市場で消化されており)、かつ、海外の
融資・投資の水準は高止まりを続けている(対外純資産は 270兆円を超える水準)。こうした
客観的状況はいずれも、震災復興国債を発行しても国内市場からの需要が相当程度見込める
ことを意味している(米国のポール・クルッグマン教授も同様の指摘をしている;2011 年 3
月 15 日ニューヨークタイムズ紙“Meltdown Macroeconomics”)
ただし、数年に渡る大量の震災国債の発行によって、その供給量が需要量を超過するケース
も考えられる。その場合、長期金利が上昇していく(つまり、国債の価格が低下していく)状
況も想定されるため、金融市場における需要を支えるために、日本銀行の積極的な国債の買い
オペレーション(市場に既に出回っている国債の購入)を同時に行う事が必要である。つま
り、政府と日本銀行が十分に協調(アコード)しながら、国債を発行していく体制をとるこ
とが不可欠である注 2)。
なお、こうした日本銀行のオペレーションによってマネタリーベースが向上することで、過
剰なインフレとなることが懸念されるのではないかとの声も一部、予期されるところであるが、
上述の様に現在の物価はデフレの状況であることから、懸念される様なインフレが生ずるとは
考えられない。しかし、その継続によって長期的にはインフレ傾向が促進される可能性も考え
られるため、長期的には、インフレ率が適正な水準(2.5~3.5%程度注 3))を予め想定し、それ
を著しく超過することがない様に、適切なモニタリング(物価、金利、失業率、為替等の逐
次チェック)と、それに基づく適切な措置(金融政策、税政の見直し等)を裁量的行うこと
とする注 4)。
なお、その「裁量的」な判断を行う際に、インフレ率が適正水準を瞬間的に超過したという
ことをもってして、過敏に反応して「増税」を行ったり「金融引き締め」を行ったりするよう
5
な事があると、内需そのものがさらに凋落し、GDPが低迷し、結果、税収が大幅に落ち込む
こととなることが危惧される(本計画の(4)①「増税」の項を参照されたい)。それ故、「増
税」や「金融引き締め」の判断は慎重に行うことが望ましく、例えば、数年間の力強い経済
成長が確認でき、かつ、失業率が正常な水準まで低下することが確認できるまでは、それら
の実施を差し控えることが必要である。
注 1) 震災復興国債は「建設国債」として発行することも考えられる。事実、東日本復活5年計画には、建設
関連のものが多くを占めるからである。ただし、必ずしも建設関連のものだけではないことから、財政支出
の柔軟性を確保する意味でも、国会の議決を経て、「特例国債」扱いとすることが望ましいということも考え
られる。一方、「東日本復活5年計画」の財源としては、ここで述べている国債以外にも、「②所得移転のた
めの財政支出からの転換」なども考えられることから、建設関連項目の財源調達は国債で、非建設関連項目
の財源調達は他の財源で、という分類を行った上で、国会決議の不要な「建設国債」として、震災復興国債
を発行することも考えられる。
また、国債管理の観点のために、政府系の金融資産を担保とした国債や、利回り等を調整することで償還
期限までの売却を抑制する国債等の発行も合わせて検討することも考えられる一方、CDSの動向の逐次モ
ニタリングも必要となると考えられる。
なお、これらの諸点はいずれも事務的・実務的なものであり、本計画遂行時点に諸点勘案しながら(場合
によっては、毎年毎年)判断していくことが望ましい。また、国債発行にあたっては、後述する「列島強靭
化10年計画」のための国債と一体的に発行することが必要である。
注 2)日本においては過去、1929年の大恐慌の折りに高橋是清が財政出動と日本銀行の国債買い取りオペレ
ーション(この際には、日本銀行の直接買い取りを行っている)を同時に敢行し、不況から脱出することに
成功しており、その有効性については、歴史的に明らかにされている。さらに、リーマンショック後のアメ
リカや中国も、同様の政府と中央銀行の一体的な財政出動と金融政策によって、最悪の不況の状態から回復
することに成功している。
注 3)デフレ期に入る以前の15年間(1980年~1995年)のコアコアCPI(食料[酒類除く]とエネルギーを
除く消費者物価指数)の平均は約 2.5%であった。一方で、しばしば 3%~4%を適正インフレ率と見なす議論
も為されていることから、ここでは、2.5%~3.5%程度を適正な水準と見なすこととしている。
注 4)言うまでもなく、こうした諸点を勘案すると、「日本銀行の買いオペレーションがインフレを促進する懸
念がある」ということは、買いオペレーションそのものを否定する合理的な理由にはならない。
さらに言うと、日本銀行のバランスシートは、リーマンショック以後、大規模な買いオペレーションを重
ねてきたアメリカ、EU,イギリスといった主要中央銀行のバランスシートに比べて遙かに良好な水準にあ
り、少なくともそれらの主要中央銀行よりも、買いオペレーションによってマネタリーベースを増進させる
余地は十分に残されているものと判断できる。
②「所得移転」のための財政支出の転換
「子ども手当」や「高速道路無料化」等は、「所得移転」のための財政支出であるが、現在、
緊急に移転すべき対象は、「被災地」である。現状予算において、この転換を図ることで、年
間2.7兆円程度の財源を得ることができる。
なお、この財源はもともと「所得移転」のために検討されていた財源であることから、被災
者や被災企業に対する特別の低金利・無金利での「融資」の財源の一部に組み入れるというこ
とも考えられる。
③「被災地への所得移転」のための特別税制(寄付金税額控除、および被災地特別減税)
上記②に加えて、被災地にさらに所得を移転するための方法として、「寄付金税額控除」を
行うと共に、「被災地特別減税」を行う。
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(5)重要な留意事項:東日本の「復活」を妨げる2つの阻害要因
なお、以上に述べた「東日本復活5年計画」の円滑な遂行を、著しく阻害する要因がいくつか
考えられる。その中でもとりわけ重要なものとして、
① 「増税」
② 「TPP」等の過度な自由貿易の推進
が挙げられる。すなわち、「増税」と「TPPへの加入」は、いずれも、瀕死の状態にある「東日
本」の「復活」を著しく阻害し、復活そのものを「不可能」にせしめる効果すら懸念されること
から、回避することが不可欠である。以下、その理由について述べる。
①「増税」を回避すべき理由
「税収」は、「GDP」と「税率」の双方に依存するため(無論、双方とも大きい程に税収は増
加する)、しばしば税収増額を企図して税率の向上が議論されることがあるが、「増税」は(需要
を弱体化させることを通じて)「GDP」にマイナスの影響を及ぼすという自明の関係があるため、
増税によってかえって税収が低下してしまう、というケースがあることが知られている注 1)。
そして、「増税がGDPに及ぼすマイナスの効果」は、「各経済主体の需要が旺盛である場合」
では小さく、逆に「市場におけると需要が旺盛でない場合」では大きくなる。言うまでもなく、
デフレにある現下は後者のケースに該当している。したがって、現時点においては、増税がGD
Pに及ぼすマイナス効果は大きく、したがって、増税によってかえって税収が低下することが強
く危惧される。
したがって、現時点において増税で復興費用を捻出することを考えるのは、最も避けなければ
ならない方針の一つである。
注 2)過去の例では、消費税が3%から5%に引き上げられたときに、税収がかえって減少した。もちろん、この際の税収の減少が全て消費税増税によってもたらされたのか否かは不明であるが、この事例が、消費税増税によって税収が減少するであろうという仮説を支持する傍証的一事例であることは間違いない。なお、インフレ率が適正な水準を超過したケースにおいては、税制抜本改革の観点から消費税増税を検討することは否定しない。
②「TPP参加」を回避すべき理由
TPP加入による日本経済回復のシナリオは、デフレ下にあって需要よりも超過した過剰供給
分を、海外への輸出に振り向け、それを通して国内の需給アンバランス(すなわち、デフレギャ
ップ)を解消し、景気回復を図ろうとするものであった。
しかし、現在、日本の東北関東の被災地は圧倒的な「供給不足」に苛まれており、上記の「過
剰供給分」を振り向ける対象は、海外ではなく、被災地であることは明白である。
さらに、今回の被災地である東北地域は日本の食糧供給地帯であり、今回のTPP加入による
7
自由貿易の推進によって、諸外国の安い輸入品によって壊滅的なダメージを受けることが危惧さ
れている農業をはじめとした「第一次産業」を主体とする地域である。したがって、この被災地
の「回復」を図る状況において、「関税障壁撤廃による諸外国からの安い農産品」という第二の津
波がこの地域を襲えば、被災地の復興どころか、ますます壊滅的な被害を、当該地域が被ること
になるのは必定である。
そして何より、被災した農業地帯が「復興」に専心できるようにするためには、先行きの不透
明感・不安感を払しょくすることが不可欠であり、したがって、「TPP交渉不参加の決定」の明
言が是が非でも必要とされている。
こうした理由から、現在政府がなすべきは、この地域の産業の復旧と復興と保護なのであり、
それとは逆方向のベクトルを持つTPP参加は、現時点においては絶対的に避けなければならな
い注 1)。
なお、大震災によって農村地域が大打撃を受けたという事実を踏まえれば、米国をはじめとし
た諸外国から、TPPへの不参加という政治的決断が理解される見込みは十二分に考えられると
ころである。
注1)なお、補足的な論点ではあるが、仮に今回の震災が無かったとしても、そもそも、現在の様な円高状況下では、上記
の、関税等の障壁撤廃による、電気製品、自動車などの「輸出の増加分」よりも、農業や労働、金融サービスなどの「輸入
の増加分」の方が優越する見込みが強く、TPPによる輸出増は見込めないという危惧も考えられるところであった。さら
に、長い歴史の中で固有の文化を醸成してきた我が国には、様々な我が国固有の商習慣がとりわけ多くあるが、これらは諸
外国にとってみれば「非関税障壁」を意味するものである。したがって、「TPPによる非関税障壁の撤廃」は、「非対称的」
に日本においてだけとりわけ大きな否定的経済影響があるのではないかという点も、危惧されるところでもあった。
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2.列島強靭化10年計画
(1)概要
● 本計画は、喫緊の危機である、相当の発生確率が見込まれる
「首都直下型地震」(30年以内の発生確率 70%、想定最悪被害 102兆円)
「東海・南海・東南海地震」(30年以内の発生確率 50~87%、想定最悪被害 81兆円)
をはじめとした各種の自然災害等の様々な危機的事象による、国民の生命・財産、ならびに、
日本経済そのものに対する被害の程度を最小化し、そうした諸種の大地震に対しても「強靭」
なる地域と国家と国民経済をつくりあげるための、10ヶ年の長期計画である。
●予算については、現時点では充分に積算可能ではないが、少なくとも、首都直下型地震、東
海・南海・東南海地震のために、現在立案されている「地震防災事業」を推進するためだけ
でも、20兆円規模の財源が必要であると指摘されている。それ以外の地域の地震、水害、
ならびに、今回の震災を踏まえた「防災事業見直し分」を考慮すると、「東日本復活5年計」
とおおよそ同規模の財源が必要である。
●なお、10年計画における初期数ヶ年は「東日本復活5年計画」に重点的に配分するために
本計画へは限定的な予算配分とするが、東日本の復旧・復興が進むに従って捻出される財源
的余裕分を、本計画を割り当てることとする。
●この度の関東東北大震災の経験から、様々な課題が明らかとなった。それを受けて、既に、
さまざまな自治体/地域において、防災計画の「見直し」が始まっている。本計画は、そう
した「地方レベル」での見直しと推進を支援するとともに、「国レベル」での防災計画の見直
しと推進を行うものである。
●一方、この度の大震災は、海外からも大きく注目され、我が国の災害リスクを強く印象付け
てしまう結果ともなった。それ故、国全体の「強靭化」を果たし、我が国に立地する企業の
「安全性・信頼性」を確保し、それを全世界に改めて発信することが、我が国の「産業競争
力」を維持する上でも不可欠である。
●なお、こうした強靭化のための全面的な投資は、上記のような「直接的な防災効果」はもちろん
のこと、大規模な内需を創出して「雇用創出」「デフレ脱却」をもたらすという「経済効果」をも
たらすものでもある。すなわち、この公共投資は、単なる「財政負担」というわけではなく、日
本経済の回復という「肯定的側面」を持つことにも着目すべきである。とりわけ、「日本経済のデ
フレ脱却と経済成長」は、被災地である東北・関東各県の「早期復興」にとっても決定的に重要
である。
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(2)計画内容
●概要
数々の建物が倒壊した阪神淡路大震災後、「建造物の耐震性」が全面的に見直された。それ
と同様に、今回の東日本大震災は、
・「M9クラス」の地震想定の必要性
・「津波防災」の重要性
・ 各種の「物流・エネルギーのインフラシステム」の強靭化の必要性
- 物流・交通ネットワークの冗長性[リダンダンシー]の確保、
- 過度な効率化による備蓄量縮減路線の全面見直し、
- エネルギーの地域規格相違(電気等)の対策、 等
・ 各種レベル(国、地方、企業等)の「BCP」(事業継続計画)の策定
を、「建造物の耐震性強化の必要性」に加えて改めて明らかにした。
●各地域の地震対策の計画策定とその推進
・まずは、「内閣府」が設定している「首都直下地震」「東海地震」「東南海・南海地震」
等の諸対策・諸計画の見直し。
・それと同時に、各自治体の防災計画の見直し。
・それに基づく、政府における防災対策の推進と、自治体支援を推進。
●実施直前の各種防災事業の推進
・近年の急激な「公共事業関係費」削減のために、既に事業化されていたにもかかわらず、
その推進が差し止められていた各種の防災事業が全国に散見される。まずは、これらの
事業の促進を図る(なおその際に、上記の「計画見直し」の対象となる懸念がある場合
は除く)。
●各企業、各自治体のBCPの策定の「義務化」と「支援」
・付録3(6)参照。
●「産業的・経済的な広域BCP」(事業継続計画)の策定
・以上の「防災計画」においては、「産業・経済」についての全国的なBCP(事業継続計
画)は未だ不十分な水準であった。すなわち、大震災によって国内の供給能力の一部が
破壊された際に、各地域の「供給不足」を速やかに補うことができるような制度を、「産
業的・経済的な広域BCP」として、それぞれの項目毎に検討しておくことが必要であ
る(付録3(3)参照)。
・今回の大震災および原発事故後に、数多くの外国人が母国に「フライト」した点を勘案
した、金融を含めた各業種における外資参入傾向の政策的・計画的検討。
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●国土全体における「物流・エネルギーのインフラシステム」の強靭化
上述の各レベルのBCPを保証するためには、国土全体を見据えた上での道路をはじめと
する「物流システムの冗長性(リダンダンシー)」を確保すること(すなわち、物流ライン
の二重化・三重化)が急務である(例えば、東海の代替路としての日本海ルートの整備・強化など)。
特に、災害時にも被害を受けにくいルートを各地方と都市との間に確保しておくことが重要
である。
エネルギーシステムについても、地域的企画の相違(電気等)の対策や、各状況下での複
数エネルギー(ガス、電気等)の併用を促進し、一方が停止した場合でも他方が活用可能
となるような状況を整備する。
こうして、物流システムやエネルギーシステムについての「一部の破損」による「全シス
テムへの否定的・破壊的影響」を最小化するための強靭化対策を行う。
●エネルギー・食料の「自給率」および「一定の備蓄量」の確保
平時においては必ずしも「必要」とは見なされない「自給率」や「備蓄」は、大震災等
の異常時においては、極めて「重要な役割」を担うことが、この度の大震災の経験から改
めて明らかにされた。ついては、「列島強靭化」のため、国民生活にとって最も重要なエ
ネルギーと食料については一定の「自給率」と「備蓄」の確保を図る。
したがって、「列島強靭化」の観点からも、TPPを含めた過度な自由貿易を推進する
ことを差し控えることが必要である。
なお、原子力発電については、安全の観点等からの政策の見直しは不可避であるが、日
本の近代文明社会を支えるためのエネルギー確保の重要性を踏まえたとき、「原発全廃」
を含めた過度な否定的議論は、現実的に極めて困難である点を忘れてはならない。原子力
政策の見直しは、今回の大震災とそれに基づく事故の結果を科学的に分析した上で、冷静
に議論されるべきであることを、敢えて付言しておきたい。
●東京一極集中の緩和
「首都直下型地震」の最大の脅威は、首都東京が壊滅的被害を受けることで、日本経済
そのものが回復不能な被害を受けることである。これを避けるために、経済的、社会的な
東京一極集中の緩和を図ることが必要である。また、各機能を各地に分散させることで、
結果的に全国の各都市・地域の振興と防災力の強化が達成されることも期待される。
●各種インフラの老朽化対策
高度成長期に大量につくられた各種インフラ(橋、上下水道、ダム、堤防等)は、50年
が経過した 2010年頃から急激に老化しており、いつ「壊れても」おかしくない状況にあ
り、「平時」においても国民生活と日本経済の安全と安定が脅かされている状況にある。
その結果、今回の震災でも、適切な老朽化対策さえ施しておけば破壊せずに済んだインフ
11
ラも多数あるものと想定される。「列島強靭化」においては、この老朽化対策を徹底的に
推進する。
●地震以外のリスクへの対応
「地震対策」は、都市・地域・国家の「強靭性」そのものを向上するものである。した
がって、地震対策の推進は、他の諸種リスク(風水害、世界的食糧危機、世界的エネル
ギー危機、世界恐慌危機等)に対する「強靭性」にも関わる。
したがって、「地震対策」に加えて、それらの諸種のリスク対策も同時並行で一体的
に推進すると、極めて効果的に、各種のリスクに「強靭」な都市・地域・国家を形成す
ることが可能となる。具体的には、
・既に事業化されているにも関わらず、予算不足のために差し止められている各種事
業を推進する。例えば、抜本的な治水対策である「スーパー堤防事業」や、都市直
撃する大洪水のリスクの軽減を図るための「八ッ場ダム」をはじめとした種々の「ダ
ム事業」の推進が考えられる(なお、「ダム事業」においては、さらなる電源開発
の可能性を探ることも期待できる)。
・自治体や企業、政府が立案する地震防災計画、BCPの策定の際に、地震防災以外
の各種の危機対策も考慮する。 等
(3)財源
●本計画の財源は、長期的なものであることを勘案して「一般財源」を活用することも想定
しつつ、「東日本復活5年計」と同様に、「日本銀行と政府の間の緊密な協調」(アコード)
に基づく「国債発行」によって調達することを基本とする。その際の考え方は、「1.東
日本復活5年計画」の「(3)財源」を参照のこと。
●なお、本計画のための財源調達は、「東日本復活5年計」のための「国債発行と日銀の買
いオペレーション」の後に実施するものである。したがって、これまで、戦後日本におい
て充分に進められてこなかった「国債発行と日銀の買いオペレーション」についての「経
験」が蓄積された状況で推進されることから、その「経験」を踏まえたさらなる裁量的対
策が可能となると期待される。
12
3.「東日本復活」と「列島強靭化」の一体的計画推進
(1)一体的推進の必要性
●「東日本復活五年計画」の推進において再整備される産業・経済・インフラに関わる全国
的なネットワークや諸制度は、「列島強靭化10年計画」において求められるものでもあ
り、両計画の一体的推進が不可欠である。
●したがって、付録3に示したように、法的・財政的措置は共有するものを設置すべきであ
る。
(2)財政
●一方、「10ヶ年間」の両計画推進のための財源を、連携を図りながら調達し、各年次の
動向を見ながら双方に適宜分配していくことが望ましい。
●その際の双方をあわせた財政規模については、「今回の大震災によってもたらされるGD
Pの低下分を埋め合わせる額を最低水準とする」という考え方が適当である。それが達成
できなければ、GDPはさらに低下し、それを通して税収はさらに低迷すると共に、「東
日本復活」のための経済力を被災地外で創出し、それを被災地に投入することが、構造的
に不能となるためである。しかも、日本経済の低迷は、東アジアをはじめとした世界経済
に悪影響を及ぼすことも考えられる。今回の大震災を引き金とした「世界恐慌」の発生を
全力で食い止める国際責任があると考えられる。
●現在のところ、大震災によって年間どの程度のGDPが低下するかはさらに分析を進める
必要があるが、現在報告されている分析結果を踏まえる注2)と、GDPが年間3~4%程
度減少することが予期されるため、総額で「15~20兆円の財政出動」が、GDPの低
下を下支えするために必要である。したがって、少なくとも10ヶ年計画の初期5年間程
度は、この水準の財政出動が必要となると考えられる。
注2)「GDPは4~6月期にはマイナス2.6%、年率でマイナス10%と予測」BNPパリバ証
券 河野龍太郎チーフエコノミスト、 11/03/17、 16:51、東洋経済 online
●その財源調達の基本的な考え方は、1.(4)「財源」に記載した通りである。
13
(4)「日本復興計画」推進による「多面的な強靭化」の確保
10ヶ年の「日本復興計画」を推進することで、日本が以下のような多面的な意味で「強
靭」な国家となる。これを通じて、日本が様々な危機を乗り越える国家となり、持続的な繁
栄が期待されることとなる。
①自然災害による「人的・物理的被害」の軽減
・基本的な社会インフラシステムの強靭化、防災社会システムの高度化による、自然
災害による「人的・物理的被害」の軽減。
②自然災害・世界恐慌危機による「経済的被害」の軽減
・あらゆる次元におけるBCPの確保、食料・エネルギーについての一定の自給率と
備蓄の確保を通した、国内経済と地域経済の双方の自立性と分散性を確保すること
によって、自然災害・世界恐慌危機に襲われた後の「経済的被害」を軽減する。
③「日本の脆弱化」をもたらす大震災による「景気後退」の阻止と、「日本の強靭化」を
もたらす「経済成長」
・本10年計画の実施によって、少なくとも40~100兆円規模の内需が創出され
る(この数値は乗数効果を含まないものであるが、それを勘案すると、さらに大き
な内需創出効果が期待できる)。
・これを通して、今回の大震災によって予期されている景気後退が阻止されると共に、
さらなる「経済成長」がもたらされる。これによって、本計画終了後も、さらに、
我が国の「強靭性」を高めていく諸事業の展開が期待される
④今回の巨大震災/原発事故によってほころびを見せた日本に対する「信頼感」の回復と、
世界経済へのさらなる貢献
・世界が目撃した「未曾有の巨大震災/原発事故」から完全に立ち直ることを通じて、
世界中の「日本に対する信頼」を取り戻し、強化する。この「信頼の回復」こそが、
国際化が進展した 21世紀の世界における日本国家の安定的発展、ひいては国家全体
の強靭性の確保にとって極めて重大な意味を持つ。
・同時に、諸外国からみた「日本における災害のカントリーリスク」を低下させるこ
とで、産業競争力の維持と強化に資する。
・さらに、我が国の強靭化の経験・知識や技術は、世界をリードする新たな「防災産
業の創出」につながる。特に、我が国と同様に自然災害の多い東アジアや、気候変
動などで自然災害が増えた欧米において、新たな輸出産業として展開することがで
きる。
以上
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付録1 東日本大震災の被害想定について
(1)阪神淡路大震災における被害額と復興事業費
─────────────────
直接被害 9兆 9268億円
(建物 5.8兆円)
(港湾施設 1.0兆円)
(商工業施設 0.63兆円)
(高速道路 0,55兆円)
(ガス・電気 0.42兆円)
(鉄道 0.34兆円)
(学校等 0.35兆円)
(その他 0.85兆円)
─────────────────
総復興事業費 16兆 3000億円
(内 国負担分 6.03兆円)[37%]
(内 県負担分 2.28兆円)[14%]
(内 市町負担分 2.93兆円)[18%]
-内 行政計 11.24兆円)[69%]-
(民間・その他 5.05兆円)[31%]
─────────
(内 市街地整備 9.83兆円)
(内 福祉まちづくり 2.84兆円)
(内 社会作り 0.37兆円)
(内 産業復興 2.95兆円)
(内 都市防災 0.32兆円)
─────────
(内 ~1995年度 約 6.00兆円)
(内 1996年度 約 2.95兆円)
(内 1997年度 約 1.81兆円)
(内 1998年度 約 1.41兆円)
(内 1999年度 約 1.15兆円)
(内 2000年度~ 約 3.89兆円)
─────────────────
『林敏彦:阪神・淡路大震災復興資金と「財団法人阪神・淡路震災復興基金」の役割、(財)ひょうご
震災記念21世紀研究機構』より
(2)阪神淡路大震災と東日本大震災(2011年 5月時点)における地震保険金
阪神淡路大震災 約 783億円注 1 (1995年度地震保険加入率 兵庫県 8.4%)
東日本大震災 約 7582円注 1 (2009年度地震保険加入率 岩手・宮城・福島三県平均 19.6%)
注 1)東日本大震災の地震保険金支払い 7582 億円…阪神淡路の約 10 倍に(レスポンス,2011.5.19)より.な
お,7582 億円という数値は,5.19 時点のものであり,これよりも大きくなる見込み.
(3)これらの数値に基づく「復興事業費用(行政負担分)」の算定方法
11.24 兆円×(0.7582 兆円 /0.0783 兆円)×(8.4%/19.6%)=46.6 兆円
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付録2 「東日本復活5年計画」の計画概要と予算
●以下の予算は、執行実務可能な上限を 20兆円と見込みつつ、阪神淡路大震災の際の復興
公共事業費の支出額の推移を参照しつつ、設定した。
●ただし、ここで記載している予算は、「東日本復活5年計画」のために必要な、政府(国・
自治体)からの見込み予算額であり、「列島強靭化10年計画」のために必要な予算、「原発
事故対策」は含まれていない点に留意されたい。
(復旧期)
~2011年度 20兆円
・被災者のための仮設住宅を設置すると共に、がれき等災害廃棄物を処理する。 ・そして、橋、道路、港、農業施設、電気・ガス施設、ライフライン等のインフラ、ならびに、学校、市役所等の公共施設の復旧を行う。
・それと同時に、農業・漁業を含む被災各種企業を支援する。 ・こうした支援の中でもとりわけ、被災地域の世帯・法人への融資については、特別に低金利・無金利で「融
資」を図る金融機関/制度を設立する。 ・そして、各農漁村、各都市の復旧・復興計画を立案する。
- 仮設住宅等の被災者向け住宅確保対策、 - 災害廃棄物処理 - 社会インフラ復旧(道路、鉄道、河川、港、堤防、電気、農業基盤、地盤改良等) - 農地整備事業 - 公共施設等災害復旧事業 - 各農漁村、各都市の復旧・復興計画立案事業 - 被災企業等に対する補助や、被災者、被災企業等に対する低金利・無金利での特別融資をはじめとした支援 等
(復興開始期)
2012年度 10兆円
2013年度 10兆円
・被災地の人々の「住宅環境」を重点的に整備すると共に、 ・被災地の「諸産業」の本格的「復旧」を図る。 ・橋、道路、港等のインフラ復旧や被災者・被災企業への特別融資を引き続き行うと同時に、 ・「まちづくり」「文化・社会事業」等のソフト施策の推進を開始する。
- 公営住宅整備事業、民間住宅補助・融資事業 - 社会インフラ復旧(道路、鉄道、河川、港、堤防、電気、農業施設、地盤改良等) - 農業、林業復興のための各種事業 - 公共施設等災害復旧事業 - 被災企業、民間ライフライン企業等に対する補助・融資をはじめとした支援 - 文化財、文化施設復旧事業 等
(復興期)
2014年度 5兆円
2015年度 5兆円
・被災地の人々の「住宅環境」の整備と、 ・被災地の「諸産業」の本格的「復興」を図ると同時に、 ・橋、道路、港等のインフラ復旧や被災者・被災企業への特別融資を引き続き行い、 ・「まちづくり」「文化・社会事業」等のソフト施策をさらに強力に推進し、 ・東日本地域の「復活」を目指す
- 公営住宅整備事業、民間住宅補助・融資事業 - 社会インフラ復旧(道路、鉄道、河川、港、堤防、電気、農業施設、地盤改良等) - 農業、林業復興のための各種事業 - 公共施設等災害復旧事業 - 被災企業、民間ライフライン企業等に対する補助・融資をはじめとした支援 - 文化財、文化施設復旧事業 等
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付録3 その他法的・財政的措置として検討すべき事項
(1)被災地の債務者への対応 (短期復興)
金融円滑化法(モラトリアム法)の延長
(2)電力需給対策(短期復興)
・東京電力管内からのオフィスの移転に対する支援(事業所税減免や賃料補助など)
・業務用・家庭用自家発電や、ヒートポンプなど、電力需要削減・平準化に資する機
器の導入補助を、2年間の限定で、大幅に増額する(業務・家庭は 1/2補助、学校
や公民館などの公的機関は 2/3補助など)。
(3)独占禁止法の適用除外(短期復興・長期強靭化)
独占禁止法は、競合企業との情報交換を禁止しているが、被災企業が、顧客への供給責任を果たす
観点から、競合企業と情報を交換して代替供給・委託生産をはかる場合には、独禁法の適用除外とす
る。
また、防災・事業継続計画の観点から、被災した場合に備えて、競合企業と代替供給・委託生産を
図る協定を予め締結する場合にも、独禁法の適用除外となるような措置を講ずる。
(4)ガソリン税に対する措置(短期復興・長期強靭化)
昨年の租税特別措置法の改正により、ガソリンが 160円を 2カ月間上回る場合は暫定税率が適用さ
れず、130円を3カ月間上回る場合には暫定税率が復活するといった措置が導入されたが、これは、
現下のような緊急事態には、いたずらに現場の混乱を招くため、廃止する。
(5)労働法制に対する措置(短期復興・長期強靭化)
労働者供給(供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事すること[労働者派
遣を除く])は、原則的に禁止(職業安定法第44条)されている。そのため、危機発生時に発注者
から請負労働者に対し指揮命令することは職業安定法第 44条に違反するため、柔軟な復旧作業がで
きないおそれがある。
このため、危機の場合は、発注者であっても請負労働者に復旧作業を指揮命令できるよう、関連す
る労働法制を整備する。
(6)事業継続計画の義務化(長期強靭化)
一定規模の事業者に、事業継続計画の策定を法律で義務付ける(省エネ法と同様の誘導的な規制)。
以上
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(修正履歴)
・平成 23年 3月 23日 公表
・平成 23年 5月 25日 修正
「(1)東日本大震災の被害推計」(詳細は,付録 1)を,5月 25日時点の最新の値に基づいて
改定.あわせて、「付録2」も修正。