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2009 年 1 月 5 日発行 中国『4 兆元』の経済対策の考察 ~消費主導型経済へのつなぎ役、 構造転換の推進役を期待~

中国『4兆元』の経済対策の考察40.0 50.0 60.0 消費(左) 輸出(右) 投資(右) (前年同期比%) (前年同期比%) (資料)国家統計局、商務部、CEIC

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Page 1: 中国『4兆元』の経済対策の考察40.0 50.0 60.0 消費(左) 輸出(右) 投資(右) (前年同期比%) (前年同期比%) (資料)国家統計局、商務部、CEIC

2009 年 1 月 5 日発行

中国『4兆元』の経済対策の考察

~消費主導型経済へのつなぎ役、

構造転換の推進役を期待~

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本誌に関するお問い合わせは

みずほ総合研究所株式会社 調査本部

アジア調査部中国室 上席主任研究員 鈴木貴元

電話 86(21)3855-8888 内線 3140 まで。

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はじめに

胡錦濤主席のG20 及びAPEC出席を間近に控えた 11 月 9 日、中国政府は、GDPの

十数%に相当する事業総額『4兆元(57 兆円)』の経済対策を実施すると発表した。その内

容は、当初、主な事業分野と、各事業分野に対する方針しか決まっていなかったが、その

後、事業を実施する政府各機関・各地方政府が競って具体的な事業を提案。さらに、11 月

27 日、取りまとめ役である国家発展改革委員会が各事業分野の大枠を発表し、実施への準

備を進めている。一方、経済成長見通し等、どのような効果があるのかという評価につい

ては、漠然としたままで、また、財源の見通しについても、中央政府が 1.18 兆元を支出す

るということ以外、はっきりとしたことは示されていない。本稿は、この経済対策の背景、

内容、効果を考察するものである。

『4 兆元』の経済対策の背景

2008 年の中国経済は、年前半の 2桁成長から、年後半は 8%台をうかがう展開となり、

減速が強まっている。生産面を見ると、11 月の工業生産は前年同月比+5.4%と、2008 年

前半まで続いた 10%台後半の伸びから大幅に減速している。在庫の積み上がりや受注の減

退などから、粗鋼(同▲11.3%)などの中間財や自動車(同▲17.5%)などの完成品に加

えて(図表1)、金属加工機械(同▲15.4%)や電気計測器(同▲25.6%)といった設備機

械でも減産が目立つようになっており、全面的な生産調整に向かいつつある。

また、需要面を見ても、厳しさが広がっている(図表2)。11 月は、輸出(ドルベース)

が同▲2.2%と、2002 年 2 月以来の減少に転じたのに加えて、全社会固定資産投資が同+

22.8%(年初来累計前年同期比+26.8%)と減速した。販売・収益見通しが大幅に悪化す

るなか、企業は、投資規模の縮小や先送りにより、設備ストックの増加を抑制し始めたよ

うである。加えて、社会消費品小売総額が同+20.8%とピークアウト、乗用車販売は同▲

14.5%と減少に転じた。世界景気の減速が鮮明になるなか、中国でも、雇用・賃上げ抑制

の動きが出てきており、家計の慎重な消費行動が数字に表れたと考えられる。 さらに、欧米で金融混乱の原因となった不動産は、中国においても、年初から販売が落

ち込み、価格の下落や新規着工の調整を通じて、景気の下押し圧力となりつつある。

(図表1)工業生産

-20.0

-10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

06/01 06/07 07/01 07/07 08/01 08/07

工業生産粗鋼自動車金属加工機械

(資料)国家統計局、CEIC

(前年同月比%)

(図表2)需要関連指標

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

06/1 06/7 07/1 07/7 08/1 08/7

-10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

消費(左)

輸出(右)

投資(右)

(前年同期比%)(前年同期比%)

(資料)国家統計局、商務部、CEIC

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そして、世界経済が金融恐慌の様相を見せるなかで、2009 年の中国経済は、さらなる減

速が見込まれる。海外、企業、家計それぞれで需要が減退することに加えて、ユーロ・新

興国通貨に対する人民元高が中国製品の競争力を低下させることなどが、中国経済にダメ

ージを与えてくると見られる。

夏場まで景気過熱を懸念していた中央政府が、リーマンブラザーズショックからわずか

1 か月後の 10 月の三中全会で、経済政策の方針を「調整」から「成長」に完全に転換し、

さらに 1か月後の 11 月にGDPの十数%に相当する『4兆元』の経済対策を打ち出したの

には、景気の実績と見通しの急速な悪化があったからといえよう(図表3)。

(図表3)2008、2009 年の経済見通し(9月調査~11 月調査)

(社)

実質GDP成長率予想 9月調査 10月調査 11月調査 9月調査 10月調査 11月調査-7.99% 0 0 0 2 0 58.0-8.49% 0 0 0 2 5 48.5-8.99% 0 0 1 3 3 59.0-9.49% 0 1 3 5 2 09.5-9.99% 7 7 10 4 3 010.0-10.5% 8 5 0 1 0 0未公表 0 2 0 0 2 0平均(%) 9.9 9.8 9.5 9.1 8.8 8.1消費者物価上昇率予想平均(%) 6.8 6.4 6.3 4.6 3.6 2.7(資料)コンセンサスフォーキャスト

2008年 2009年

『4 兆元』の経済対策の内容

(1)『4兆元』の位置づけ

・金額について

『4 兆元』という金額は、中央・地方政府だけでなく、独立採算の政府機関や企業によ

るものを含む事業の総額である。『4兆元』の事業分野と重なる公共投資(ここでは住宅を

含む)の年間投資総額は、2007 年が 9.0 兆元(前年比+22%)、2008 年が 11.2 兆元(同+

24%(見通し))(図表4)である。そして、『4兆元』の経済対策が行われない自然体での

年間投資総額の見通しは、足元、財政収入が落ち込み始めていることなどを考慮すると、

2009 年が 11.8 兆元(同+6%)、2010 年が 13.3 兆元(同+12%)と推定される。『4兆元』

という金額は、本来、これに追加される金額の目安と考えられる。

昨今、政府各機関が合計約 8兆元、各地方政府が合計約 30 兆元(「日本経済新聞」12 月

8 日)に及ぶ事業を発表しているが、これは、政府各機関や各地方政府が、中央政府(こ

の場合、投資計画の承認を行う「国家発展改革委員会」のこと)に承認を求めた金額を合

計したものである。『4兆元』の事業として承認されると、用地確保や資金調達などで利点

があるため、既存の事業も含め見込みのありそうなものを提案したようである。

なお、2008年の成長率押し上げのために、1,000億元分の事業(通年GDPに対し約0.3%、

10~12 月期のGDPに対し約 1.0%に相当)が実施に移されている(図表5)。旧正月を控

えて、社会不安を予防すべく、農村インフラ整備、医療衛生、教育文化などに事業費が手

厚く割り当てられたようである。

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(図表4)公共投資の動向(対策前ベース)

20

40

60

80

100

120

140

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

『4兆元』の経済対策を行わない場合の公共投資(左)

経済対策を行わない場合の伸び(右)

(注1)ここでの公共投資は、『4兆元』の経済対策の対象となっている住宅(ここでの金額は不動産)、交通運輸、水利・環境・公共施設管理、その他公共サービスの投資(農村部含む)。投資全体の約7割を占める。(注2)2008年は1~10月までの実績をもとに推定。2009年、2010年は、住宅に関しては景気見通しや業界見通しなどから推計。その他の公共投資に関しては、歳入見通しや、各事業の当初計画・方針などから推計。(資料)国家統計局、CEIC、みずほ総合研究所

(1000億元) (前年比%)

(図表5)2008 年 10~12 月期の先行実施事業(6大用途)

・低価格の分譲・賃貸住宅の建設の加速 100億元・農村民生計画と農村インフラ施設建設計画の加速 340億元・鉄道、道路、飛行場等重大インフラの建設計画の加速 250億元・医療衛生、教育文化等社会事業建設計画の加速 130億元・省エネ・排出削減と環境建設計画の加速 120億元・自主創新と構造調整の加速 60億元(資料)国家発展改革委員会等部門聯合召開新聞発布会(11月14日)

(発改委穆虹・副主任、財政部王軍・副部長、人民銀行易綱・副行長共同発表)

・事業主体について

『4兆元』の事業主体は、中央・地方政府、独立採算の政府機関、企業である。2007 年

の公共投資は 9.0 兆元であり、その内訳は、中央・地方政府によるものが、財政支出(2007

年 5.0 兆元)と政府消費支出(同 3.5 兆元)の差から年間 1.5 兆元、独立採算の政府機関

や企業によるものが 7.5 兆元と推定される。公共投資といっても、中央・地方政府による

直接的な実施分が少ないのが特徴である。また、中国では中央・地方政府の企業に対する

指導の強制力が強いとはいえ、計画の実行が 100%担保されている訳ではないことに、注

意が必要である。

このように、『4兆元』という金額は、「政府の外郭にある機関や企業を含んだあらゆる

事業体が行う事業のうち中央政府の奨励・支持を得たもの」、要は「中央政府のお墨付き事

業」というのが実態で、既存の事業や中長期的に実施される事業なども含んでおり、純粋

に景気押し上げ効果が認められるのは、4兆元のうち一部分であると考えられる。

(2)事業分野

『4兆元』の経済対策の事業分野は、11 月 9 日に発表された「内需促進・経済成長のた

めの 10 大措置」のなかに盛り込まれている(図表6)。これによると、事業分野は、①低

価格の分譲・賃貸住宅の建設、②農村インフラの建設、③交通インフラの建設、④医療・

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衛生、文化・教育事業、⑤生態環境建設、⑥自主開発と構造調整、⑦震災復興の 7分野と

なっている。資源、ハイテク、高付加価値なサービスといった生産活動寄りの項目よりも、

低所得者対策、交通インフラ整備といった消費活動寄りの項目に重点が置かれているのが

特徴となっている。

11 月 27 日に、国家発展改革委員会から各事業分野の大枠が示されたが、それによると、

鉄道、道路、空港等の重要インフラに 1.8 兆元(送電網もここに含まれている)、震災の被

災地の復興に 1兆元、農村インフラに 3,700 億元、生態環境建設に 3,500 億元、低価格の

分譲・賃貸住宅に 2,800 億元などとなっており、交通インフラへの配分が特に多くなって

いる。

また、地域別に見ると(図表7)、四川省や雲南省、湖北省、重慶市など「内陸・南西部」

と、江蘇省、広東省、上海市、山東省など「沿海・中南部」で提案の金額が多くなってい

るのが特徴である。昨今の輸出減退の影響が、輸出基地である沿海部に加え、出稼ぎ労働

者の帰郷を通して内陸部に波及する兆候を見せていることから、雇用確保を目的に、これ

らの地域で経済対策の提案が積極化したものと見られる。

(図表6)内需促進・経済成長のための 10 大措置

(1) 低価格の分譲・賃貸住宅の建設を加速させる。

(2) 鉄道、道路、飛行場等の重要インフラの建設を加速させる。

(3) 震災の被災地の復興需要を加速させる。

(4) 農村インフラの建設(飲料水、道路、電力網、水利等)を加速させる。

(5) 医療・衛生、文化・教育事業の発展を加速させる。

(6) 生態環境建設を加速させる。

(7) 自主開発と構造調整を加速させる。

(8) 都市・農村の所得水準を改善する。最低食糧買入価格の引き上げ、農業補助、労働者の年金等の改善。

(9) 増値税の改革により企業の投資を奨励する。企業の税負担を1200億元削減する。

(10) 経済成長に対する金融の支持を強める。商業銀行に対する貸出総量規制を取り消すなど。

(資料)報道発表を元にみずほ総合研究所作成

(図表6参考)10 大措置に基づく政府各機関の提案(合計金額約 8兆元)

住房和城郷建設部(約9,000億元)

2009~2011年までに住宅保障投資(低所得者向け分譲・賃貸住宅)を9,000億元実施する(11月13日、21世紀経済報道)。

――経済活用房(エコノミー住宅)に6,000億元(400万戸)、棚戸区(バラック)の改造に1015億元(130万戸)、廉租房(低価格賃貸住宅)に2,150億元(200万戸)を投入。

――2008年10~12月期は、棚戸区の改造と廉租房の建設に75億元分の支出を確定。――建設部での試算では乗数効果は2倍。雇用誘発効果は200万~300万人。――2007年の住宅投資は2.5兆元、増加率は20%(5,000億元が純増)。そのため年間3,000億元の追加事業は住宅投資の伸びを10%ポイント程度押し上げる可能性。

――建設部のもともとの計画では3年の間に1,300万戸の住宅保障投資を解決する必要があるとの認識。

50億元を中央政府が追加投資し、都市部汚水処理施設の建設を加速する(11月14日、新華社)

――36大中都市は2009年末までに汚水全面回収と処理の実現を目指す。また、県城(県政府所在地、県中心部)の汚水処理施設の建設に力を入れ、全国の県城の90%以上に汚水処理施設を建設する。都市部のゴミ処理施設建設を急ぎ、ゴミ処理施設建設の質を保つと同時に、ゴミ回収輸送システムの確立を急ぐ。

交通運輸部(2兆元)

2010年までの固定資産投資規模を年平均1兆元(2年で2兆元)実施する(11月13日、21世紀経済報道)。3~5年で5兆元を投資する計画も。

――2008年10~12月期は100億元、2009・10年は年1兆元、2011~13年も高水準との予定。――2009年は高速道路に4,000~5,000億元、水運関係に900億元が充当される予定。――2008年の交通インフラ投資は8,000億元(2007年7800億元)。道路が6,500億元。うち高速道路が3,300億元と推定。

――試算では、高速道路建設1億元で、直接雇用が1,800人、間接雇用が2,100人。高速道路1kmの建設で鋼材500~1,500t、セメント4,000~12,000t、アスファルト1,900tの需要が生み出される模様。

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鉄道部 2004~2010年までの鉄道建設総投資額を4兆元とする(11月13日、21世紀経済報道)(1.5兆元) ――中央政府批准の新規鉄道建設を2009、2010年各1万キロ、1兆元とする。

――2008年の鉄道建設投資3500億元、09年の鉄道建設投資は6000億元を予定。

――2012年までの車両購入費5000億元。うち2010年までに3000億元。――2010年までに旅客専用線・都市間鉄道1.6万キロを建設中とする模様。北京上海、北京石家荘、石家荘武漢、武漢広州、ハルビン大連など。3~5年で完成へ。

――2010年までに石炭輸送線1万キロを建設中とする模様。包頭西安、太原中衛(銀川)、ジュンガル朔州など。

――2010年までにチベット、新疆、甘粛等資源開発目的の西部幹線1.5万キロを建設中とする予定。

[上海鉄道局] 2008年末までに4本の鉄道建設を着工(11月14日、新華社)――寧杭(南京~杭州、251キロ、新幹線)、杭甬(杭州~寧波、300キロ、旅客専用線)、寧安(南京~安慶、257キロ、新幹線)、合蚌(合肥~蚌埠)の各区間。

民航総局(5,000億元)

2008年のインフラ投資が1,000億元、2010年まで4,000億元(うち2010年2,500億元)となると発表(11月21日、21世紀経済報道)。

――西部地域での空港やコミューター空港の整備、既存空港の拡張。――2007年152か所、2010年190か所、2020年244か所の計画が大幅に前倒しされる方向。

国家電網公司、都市・農村電力網の整備投資に2、3年間で1.16兆元投資すると発表(11月14日、新華社)

――110kV以上の送電網26万キロを整備。――当初計画は2009、10年の2年で5728億元。今回の積み増しで2年なら1.16兆元(当初比倍増)、3年なら7733億元(当初比35%増)が10年までに投資される予定。

国家発展改革委員会(約1,900億元)

広東省・陽江、セッ江省秦山の各原子力発電所、955億元の事業を認可(11月12日、国務院常務会議)

――このほか、福建省福清、浙江省方家山を年内着工予定。――原子力発電所以外での年内着工予定は、江蘇省リツ陽揚水発電所、四川錦屏と江蘇蘇南を結ぶ800キロボルト直流送電線、年産1200万トンの陜西神木紅柳林炭鉱、成都1千万トン級製油所、農村と都市の電力網改良(40億元)。

寧夏広州・香港天然ガスパイプライン、930億元の事業を認可(11月12日、国務院常務会議)

水利部 174億元の水利施設(と空港の事業を認可)(11月12日、国務院常務会議)(174億元) ――2008年の南水北調事業における中央政府投資分を当初の48億元から68億元に引き上げ。中央

ルートの丹江口ダム区移転住民対策、黄河北~ショウ河水路の南区間および、東部ルート膠東幹線水路の済南~引黄済青区間、汚水処理施設などを追加(11月14日、新華社)。

環境保護部 周生賢部長、3年間で1兆元の投資を行うと発言(11月13日、新華社)(1兆元)

(注)本表での( )内の金額の合計は約7.4兆元であるが、中国での報道では政府各機関の提案額の合計は約8兆元と報じられている。(資料)政府発表、各種報道

国家電網公司(1.16兆元)

(図表7)地方政府による提案(合計金額約 30 兆元)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

江蘇省

四川省

雲南省

広東省

陝西省

湖北省

重慶市

遼寧省

河南省

上海市

山東省

山西省

河北省

吉林省

安徽省

浙江省

福建省

江西省

海南省

北京市

天津市

黒龍江省

広西省

(億元)

(資料)日本経済新聞、みずほ投資コンサル資料等

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(図表7参考)地方政府による提案(合計金額約 30 兆元(主な内容))

北京 低価格分譲・賃貸住宅の建設、老朽化市街地の改善、社会福利施設の建設天津 水・大気環境の改善河北 農業インフラ、「南水北調」の建設黒龍江 地下鉄、「チチハル・ハルビン・大連旅客専用線」の建設、トラクター1万台増強吉林 「ハルビン・大連旅客専用線」、「長春・吉林都市間鉄道」の建設、空港修繕拡張遼寧 重要インフラの建設、サービス業地域経済の振興内蒙古 6000kmの鉄道建設山東 「沿海鉄道」の建設、「藍煙鉄道」電化工事江蘇 「北京・上海高速鉄道」、「上海南京都市間鉄道」、「泰州大橋」、「連雲港」の建設上海 軌道交通、地域間主要幹線の建設、万博事業の推進浙江 「沿海鉄道」の建設、銭塘江のレジャー航路開発福建 「浦南、泉三三明段高速道路」の建設、福清原子力発電所の改造広東 「珠江デルタ軌道交通」、「武漢広州旅客専用線」の建設広西 鉄道、高速道路、空港の建設海南 農業、新型工業、リゾート不動産、ハイテク、インフラなどの推進陝西 「西平鉄道」、「西安地下鉄」の建設、「咸陽空港」拡張安徽 鉄道、道路、橋梁の建設湖北 重大インフラの建設湖南 36条高速道路の建設、湘江と洞庭湖の汚染処理山西 鉄道、道路の建設、都市・農村送電網の改造四川 四川大地震復興事業重慶 低価格分譲・賃貸住宅の建設、農村道路等インフラの建設雲南 中国ミャンマー天然ガスパイプラインと石油化学・精錬プロジェクトの推進、雲南桂林等鉄道の建設寧夏 「寧夏経済発展の10以上の項目」の建設(資料)国際金融報(2008.11.27)

主要投資分野

『4 兆元』の経済対策の実行性の評価

『4 兆元』の大枠は、11 月 27 日に、国家発展改革委員会が、①低価格の分譲・賃貸住宅

に 2,800 億元、②鉄道、道路、飛行場、送電網等の重要インフラに 1.8 兆元、③震災の被

災地の復興に 1兆元、④農村インフラに 3,700 億元、⑤生態環境建設に 3,500 億元、⑥自

主開発と構造調整に 1,600 億元、⑦医療・衛生、文化・教育に 400 億元とすると発表した

(図表8)。ただし、先述したように、この数字には既存の事業や重複する部分が含まれて

いる。

そこで、『4兆元』の経済対策が行われない自然体での投資に対して、経済対策によって

新しく追加され、期間中に実行されると見込まれる投資がどれくらいかを、主要な事業分

野について検討した。

(図表8)『4兆元』の経済対策の大枠(11 月 27 日) 金額(億元)

鉄道、道路、飛行場、送電網 「交通運輸」、「電力・送電網等」 18,000震災の被災地の復興 「交通運輸」、「水利・環境」、「その他公共サービス」 10,000農村インフラ 「交通運輸」、「水利・環境」、「その他公共サービス」 3,700生態環境建設 「水利・環境」 3,500自主開発と構造調整 「その他公共サービス」 1,600医療・衛生、文化・教育 「その他公共サービス」 400低価格の分譲・賃貸住宅 「住宅」 2,800

(資料)政府ホームページ、みずほ総合研究所

発表項目 国家統計局の統計分類を基にした整理

(注)「電力・送電網等」は「電気・ガス・水道」。「その他公共サービス」は、「科学研究」、「教育」、「衛生・社会保障、社会福祉」、「文化・体育・娯楽」、「公共管理」

結論から述べると、『4兆元』のうち、新しく追加され、期間中に実行されると見込まれ

る投資は、2009 年約 8,000 億元、2010 年約 1.3 兆元、合計約 2.1 兆元(土地や中古設備の

購入費用を含む)である。大型の事業が比較的多いこともあり、2009 年よりも 2010 年に

集中して、投資が行われると見られる。

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事業分野で整理をすると、以下のとおりである(国家統計局の統計分類を元にした整理

に準じた)。

(1)「交通運輸」

「交通運輸」は、『4兆元』の経済対策のなかで、投資が最も多く追加され、期間中に実

行される分野となりそうである。

事業毎では、「鉄道」が特に多くなる可能性が高い。「鉄道」への投資は、鉄道部の元々の

計画では、2009~2010 年の事業規模は約 6,000 億元であった。今回提案された事業規模は

約 1.5 兆元であり、その差の約 9,000 億元が追加投資となる模様である。都市の軌道交通

(地下鉄等)整備も含めれば、追加投資は 1兆元超と考えられる。鉄道の実行可能性が高

いのは、2008 年に入り、北京五輪後の景気に不安が広がるなかで、景気の下支え役として

注目されたためと思われる。

また、「空運」も、追加投資が多くなる可能性が高い。「空運」への投資は、民航総局の

元々の計画では、2009~2010 年の事業規模は約 2,500 億元であった。今回提案された事業

規模は 4,000 億元であり、その差の約 1,500 億元が追加投資となる模様である。空運は、

昨今の景気減速で輸送量の伸びを低下させているが、戦略的にネットワーク拡充が図られ

ている分野であり、実行可能性は高いと見られる。

一方、「道路」は、経済対策のなかに高速道路・農村道路の整備が盛り込まれたものの、

工事量の水準が既に高く、大幅な積み増しが難しくなっていることや、農村への重点的な

支出は当初から予定されたものとなっていることから、追加投資は見込めない模様である。

「水運」も、港湾取扱量の伸びの低下や大型投資の一巡などを背景に、追加投資は見込め

ないようである。 (2)「電力・送電網等」

「電力・送電網等」は、「送電網」に期待がかかる。「送電網」は、従来整備の遅れが問

題となっていたため、今回の経済対策では追加投資を確保しやすかった模様だ。国家電網

公司は 2 年間で約 7,700 億元を投資すると提案した(3 年間で 1.16 兆元と発表)。国家電

網公司の元々の計画は約 5,700 億元であったため、約 2,000 億元が追加投資となりそうで

ある。一方、「電力」は、新エネルギーというニーズはあるが、全体では供給過剰感が出て

きており、今回の経済対策での追加投資は見込めないようである。 (3)「水利・環境」、「その他公共関連」

「水利・環境」、「その他公共関連」は、11 月 27 日に発表された大枠では、割り当て金

額が多い。しかし、農村・民生対策の強化という観点から、既存ベースの事業規模が大き

くなっているため、実際の追加投資はあまり多くないと見込まれる。これらのなかで「環

境」については、環境保護部の元々の計画の約 1.6 倍の割り当てがなされており、約 1,000

億元程度が追加投資となりそうである。 (4)住宅

「住宅」は、11 月 27 日に発表された大枠では、都市部の低所得者層向け賃貸住宅の建

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設を中心に 2,800 億元が盛り込まれた。この分野は、これまで取り組みが遅れており、社

会的緊急性も高いものであるため、かなりの程度が追加投資として実現しそうである。

『4 兆元』の経済効果

・マクロの効果

図表9、10 は、『4兆元』の経済対策が行われない場合の公共投資の状況と、行う場合の

状況を示したものである。

『4兆元』の経済対策の景気押し上げ効果を、2009 年について評価してみると、まず、

公共投資の伸びは、経済対策を行わない場合の+6%(前年比)に比べて、7%ポイント高

い+13%(前年比)になると試算された。また、これにより、名目GDPの伸びが 1.6%

ポイント押し上げられる(約 6,000 億元)と試算された。次に、2010 年については、公共

投資の伸びが、経済対策を行わない場合の+12%(同)に比べて、3%ポイント高い+15%

(同)になると試算された。また、これにより、名目GDPの伸びが 2.2%ポイント押し

上げられる(約 9,000 億元)と試算された(GDPデフレータは物価安定により小幅の上

昇にとどまるため、名目と実質の差は小さいと見られる)。

このGDPの押し上げ効果については、2 桁成長からの落ち込みを全て埋め合わせるに

は不十分と見られる。しかし、2008 年 9 月以降 5回に及ぶ利下げや、12 月 18 日の不動産

市場支援策の追加(2009、10 年のGDP成長率を 0.4%ポイントずつ押し上げる可能性)、

2009 年の大規模減税(GDP比1%の 3,500 億元)などと併せて考えれば、デフレ圧力や

マインドの悪化を相当程度抑えると見られる。また、2009 年は微妙だが、2010 年は目標と

している 8%成長を達成する可能性が高い。

(図表9)『4兆元』の経済対策の効果

20

40

60

80

100

120

140

160

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

-5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

『4兆元』の経済対策による追加分(左)

『4兆元』の経済対策を行わない場合の公共投資(左)

経済対策を行わない場合の伸び(右)

経済対策を行う場合の伸び(右)

(1000億元) (前年比%)

(注)ここでの公共投資は、『4兆元』の経済対策の対象となっている不動産、交通運輸、水利・環境・公共施設管理、その他公共サービス、農村の投資。投資全体の約7割を占める。(資料)みずほ総合研究所

シミュレーション

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(図表 10)需要押し上げ効果

2009 2010固定資産投資ベースでの投資の追加分 8,000 13,000 (億元)

GDP統計の固定資本形成ベースでの投資の追加分 6,000 9,000 (億元)

名目GDP押し上げ度合い(対策がない場合と比較して) 1.6 2.2 (寄与度%)

(参考)12月18日の不動産市場支援策の追加分を含めた場合 2.0 2.6 (寄与度%)

(注)固定資産投資には、土地購入費用、中古品の購入費用等が含まれるため、国民所得統計の固定資本形成

より大きい。ここでは、2005~2007年の実績を元に按分した。

(資料)みずほ総合研究所

・産業への効果

鉄道、送電網、環境、住宅を中心とした『4兆元』の経済対策は、内容から判断すると、

最初に土木・建築の投資が行われ、その後に鉄道車両、送変電設備、水処理設備等、機械設

備の投資が行われる。よって、産業別の経済効果は、まず、建築業、次に機械設備産業、

そして周辺産業へと広がっていくと考えられる。

産業連関表を見ると(図表 11)、固定資産投資による直接的な中間投入需要は、建築に

53.3%、機械設備に 34.5%が振り分けられる。次に、建築や機械設備からの間接的な中間

投入需要が、採掘や化学、建築材料、金属製品、機械設備などの産業に生じる。建築に対

する 1単位の需要が誘発する中間投入需要は、全体で 2.017 倍、そのうち金属製品に 0.364

倍分、機械設備に 0.272 倍分、建築材料に 0.225 倍分が振り分けられる。また、機械設備

に対する 1単位の需要が誘発する中間投入需要は、全体で 2.322 倍、そのうち機械設備に

0.732 倍分、金属製品に 0.481 倍分、化学に 0.305 倍分が振り分けられる。中間投入需要

の誘発は、金属製品と機械設備が特に高いものとなるようである。

『4 兆元』の経済対策では、インフラや住宅が中心であるため、建築への直接的な中間

投入需要が多く、金属製品や建築材料といった素材への波及効果が高いと見込まれる。一

方、産業連関表で高い誘発度合いを示している機械設備は、直接的な中間投入需要が多く

ないことに加えて、昨今、機械設備の過剰感が強まっていることから、波及効果は産業連

関表が示唆するほど強くないと見られる。

(図表 11)産業連関表(固定資産投資関連の波及状況)(2005 年)

  機械設備 建築

固定資産投資における投入度合い 34.5 53.3 (%)

機械設備、建築が1単位需要された場合の投入の反応度合い (倍)

農業 - 0.131

採掘業 0.188 0.201

食品製造業 - 0.029

紡績、繊維等 0.032 -

その他製造業 0.101 0.109

電力・熱・水 0.126 0.118

化学 0.305 0.197

建築材料 - 0.225

金属製品 0.481 0.364

機械設備 0.732 0.272 建築業 - -運輸通信 0.170 0.192

卸小売・飲食 0.140 0.123

不動産・リース - 0.055

その他サービス 0.049 -

合計 2.322 2.017 (資料)国家統計局

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また、輸出関連の多い軽工業や、中国の内需振興のカギを握る非製造業への需要の誘発

は小さいため、輸出産業を直接的に救済する効果や、経済構造の転換を促進する効果は大

きくないと見られる。

・最後に

『4 兆元』の経済対策の実施には、期待もかかるが、留意点も多い。一つ目は、中期的

な財政についてである。中国の国債発行残高は、足元、GDP比約 20%と、国際的に健全

といわれる 30%の範囲内にある。一方、今回の経済対策では、多額の国債の追加発行が予

定されている(2009 年はGDP比約 2.5%の 8,000 億元、12 月 24 日時事通信)。また、政

府機関債の発行や銀行からの借り入れ予定額(12 月 10 日時点で、政府機関や地方政府、

国有・地方政府関連企業が、国有銀行等と約諾した借入予定額は、GDP比約 4.0%の1

兆 3,700 億元。国泰君安証券集計)は、国債の追加発行の金額を大きく上回っている。中

期的に財政の健全性が確保されるかは心配されるところである。

二つ目は、巨額な投資についてである。中国の投資のGDP比はこれまでの投資ブーム

で 40%台という高水準に達しており、『4兆元』の経済対策が中期的な投資調整圧力をさら

に強める可能性がある。また、政治・社会的には、投資にまつわる汚職・腐敗等の問題を

発生させる可能性があり、将来のリスクファクターとなりうる。

中国政府のこれまでの景気対策は、財政・金融政策の発動、産業・地域政策の誘導、消

費環境の整備など、題目としては網羅的になっているが、その実、投資の拡大にかなり偏

っている。これは、経済政策の設計の問題もさることながら、経済構造がそれだけ投資に

依存してしまっているということであり、中国経済の持続的拡大には投資依存からの脱却

が最大の課題となる。

そうしたなか、『4兆元』の経済対策には、当面の景気下支え役になるだけでなく、イン

フラの整備を通して、消費主導型経済へのつなぎ役、中国の経済・社会の構造転換の推進

役となるよう期待されるとともに、中期的なリスクを抑えるよう一段の工夫が求められる

ところである。

(参考1)公共投資の内訳(2007 年、都市のみ)

不動産28,54343%

電気・ガス・

水道9,07014%

鉄道2,3653%

道路6,90210%

軌道交通1,0822%

水運1,1122%

空運5931%

水利・環境9,17714%

その他

公共

サービス7,54811%

(注)金額の数字の単位は億元

(資料)国家統計局

合計66,400億元

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(参考2)公共投資のシミュレーション

-10.0

-5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

2005 2006 2007 2008 2009 2010

不動産電力・送電網等交通運輸水利・環境・公共施設管理その他公共関連

(前年比%)

シミュレーション

(注)点線は経済対策を行わない場合。電力・送電網等は、ガス、水道を含むもの。

(資料)国家統計局、CEIC、みずほ総合研究所

以上

※当レポートは情報提供のみを目的として作成されたもので、商品の勧誘を目的としたも

のではありません。