37
平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業 ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 4 4-1 4 ウクライナ産大豆・とうもろこしの品質とわが国実需者の受 入可能性 4.1 ウクライナ産大豆・とうもろこしの品質 4.1.1 概論 ウクライナ産穀物一般の品質及び安全性に関し、本邦商社を含む実需者へのヒアリング によれば、以下の懸念が指摘されている。 ウクライナ産穀物の品質及び安全性に係る 実需者側の問題意識 1. 残留農薬の問題 (国家として規制がなく、ほぼ野放しの状態) 2. 挟雑物の混入問題 (石、菜種、大豆等が常に混入しており、品質管理に問題) 3. 薫蒸 44 の実施義務及び残留物質の問題 (慣行上、本船上で実施されている) 45 4. GMO の問題 GMO 種子が違法に流通し、一定比率の GMO 穀物が栽培されている) このうち、多くの需要家が「残留農薬の問題が輸入に際しての一番のネック」と指摘し ている。例えばウクライナから麦を輸入する場合、「運搬してきたバルク船の荷を日本で 開ける際、しばらく扉をオープンにして農薬成分を空中放出させなければ、健康上の問題 から作業員が船内で作業できなかった」との指摘がある 46 また品質保持に係る問題として、物流インフラの不備を指摘する声も多い。国内に十分 な集荷設備が整備されておらず、輸出港までの物流インフラが品質保持におけるボトルネ ックとなっている。問題のあるインフラ施設として、①輸出港、②内陸エレベータ(保管 施設)、③産から輸出港までの物流網の 3 点が指摘されている 47 加えて、仮に日本へ輸出するとなった場合においても、輸送コストの問題が存在する。 貨物コストが 10 年前の 5-6 倍となっており、「米国産大豆・とうもろこしとの競争におい ては安価でなければ勝負にならない」との指摘がある。また実際の輸送においては海賊の 出没するマラッカ海峡やアデン湾を通過する必要があり、(コスト増に直結する)治安の 44 主に害虫駆除や防カビ・殺菌を目的として、対象物に気体の薬剤を浸透させる方法 45 ウクライナ法"About Plants' Quarantine"においては、穀物内に害虫類が発見された際に燻蒸の実施を義務 付けているが、同法には輸出穀物に特化した規定は存在せず、また燻蒸の実施やその方法(例えば「燻蒸 は本船上で行うべき」等)に関する記述は無い。他方、現地調査中のヒアリングでは、複数のアグロビジ ネス企業等から「本船上で燻蒸を実施しなければ、検疫関連当局から輸出許可が下りない」との話が聞か れた。これら事実から、本船上の燻蒸は慣行的に行われているものと推察される。 46 一方で、民間検査会社 SGS 等は「ウクライナ産穀物のサンプル検査において近年、残留農薬はほぼ検 出されていない」としている。また一部の商社は「ウクライナ産とうもろこしに対するサンプル検査では、 農薬の問題は検出されていない」としている。残留農薬の詳細は 5 章にて記載。 47 他方で、これらインフラの整備度については「近年改善されつつある」との指摘もある。特に港湾設備 については黒海沿岸の 4 港湾(オデッサ、ユズニー、イリチェスク、ニコライエフ)の施設整備が進んで いる模様。インフラ整備状況の詳細は Appendix-2 に記載。

4 ウクライナ産大豆・とうもろこしの品質とわが国 …...平成22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討業 ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析

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平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業

ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 4 章

4-1

4 ウクライナ産大豆・とうもろこしの品質とわが国実需者の受

入可能性

4.1 ウクライナ産大豆・とうもろこしの品質

4.1.1 概論

ウクライナ産穀物一般の品質及び安全性に関し、本邦商社を含む実需者へのヒアリング

によれば、以下の懸念が指摘されている。

ウクライナ産穀物の品質及び安全性に係る

実需者側の問題意識

1. 残留農薬の問題 (国家として規制がなく、ほぼ野放しの状態)

2. 挟雑物の混入問題 (石、菜種、大豆等が常に混入しており、品質管理に問題)

3. 薫蒸44の実施義務及び残留物質の問題 (慣行上、本船上で実施されている)45

4. GMOの問題 (GMO種子が違法に流通し、一定比率の GMO穀物が栽培されている)

このうち、多くの需要家が「残留農薬の問題が輸入に際しての一番のネック」と指摘し

ている。例えばウクライナから麦を輸入する場合、「運搬してきたバルク船の荷を日本で

開ける際、しばらく扉をオープンにして農薬成分を空中放出させなければ、健康上の問題

から作業員が船内で作業できなかった」との指摘がある46。

また品質保持に係る問題として、物流インフラの不備を指摘する声も多い。国内に十分

な集荷設備が整備されておらず、輸出港までの物流インフラが品質保持におけるボトルネ

ックとなっている。問題のあるインフラ施設として、①輸出港、②内陸エレベータ(保管

施設)、③産から輸出港までの物流網の 3 点が指摘されている47。

加えて、仮に日本へ輸出するとなった場合においても、輸送コストの問題が存在する。

貨物コストが 10 年前の 5-6 倍となっており、「米国産大豆・とうもろこしとの競争におい

ては安価でなければ勝負にならない」との指摘がある。また実際の輸送においては海賊の

出没するマラッカ海峡やアデン湾を通過する必要があり、(コスト増に直結する)治安の

44 主に害虫駆除や防カビ・殺菌を目的として、対象物に気体の薬剤を浸透させる方法 45 ウクライナ法"About Plants' Quarantine"においては、穀物内に害虫類が発見された際に燻蒸の実施を義務

付けているが、同法には輸出穀物に特化した規定は存在せず、また燻蒸の実施やその方法(例えば「燻蒸

は本船上で行うべき」等)に関する記述は無い。他方、現地調査中のヒアリングでは、複数のアグロビジ

ネス企業等から「本船上で燻蒸を実施しなければ、検疫関連当局から輸出許可が下りない」との話が聞か

れた。これら事実から、本船上の燻蒸は慣行的に行われているものと推察される。 46 一方で、民間検査会社 SGS 等は「ウクライナ産穀物のサンプル検査において近年、残留農薬はほぼ検

出されていない」としている。また一部の商社は「ウクライナ産とうもろこしに対するサンプル検査では、

農薬の問題は検出されていない」としている。残留農薬の詳細は 5 章にて記載。 47 他方で、これらインフラの整備度については「近年改善されつつある」との指摘もある。特に港湾設備

については黒海沿岸の 4 港湾(オデッサ、ユズニー、イリチェスク、ニコライエフ)の施設整備が進んで

いる模様。インフラ整備状況の詳細は Appendix-2 に記載。

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平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業

ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 4 章

4-2

問題も生じる48。

また最大の課題は、遺伝子組み換え作物(GMO)に係る実態が不明な点であり、「IP ハ

ンドリング(Identity Preserved Handling, 分別生産流通管理)49が適切に行われていなけれ

ば、ウクライナ産大豆を日本に輸入するインセンティブはほぼ無くなる」と指摘する需要

家は多い。

4.1.2 遺伝子組み換え作物に係る問題50

遺伝子組み換え作物(GMO)に関しては、2007 年及び 2009 年に関連法規51が制定され、

2010 年に施行された。GMO のコントロールプロセスは端緒についたばかりであり、「2010

年がウクライナにおける事実上の”GMO コントロール元年”」との指摘ある52。種子大手モ

ンサントが登録申請を行った GMO 種子について、政府からその使用認可が下りなかった

事実53から、GMO の承認・規制・登録システムは一応稼動していると判断できる。

一方で、GMO 穀物はウクライナ国内において確実に栽培されており54、とうもろこしの

5-10%、大豆の 60-70%が GMO との話も存在する55。モンサント・ウクライナ社はラウン

ドアップレディー大豆を始めとする GMO 種子をウクライナ国内で一切販売していない。

現在作付けされている GMO 大豆は、貧農等が違法に GMO 種子を国外から持ち込み、利

用しているとの指摘は多い56。とうもろこしの GMO 種子については、2008 年に国内の種

子需給が逼迫した際に北米から大量のとうもろこし種子が輸入されたが、その際に GMO

種子が多く混入していた点が指摘されている。

4.1.3 ウクライナ産大豆サンプルの加工適性試験結果

大豆、とうもろこしとも、ウクライナ国内では品位基準が定められておらず、米国のよ

うな「グレード制」は導入されていない。よってそれぞれの品質のコントロールは生産段

階で輸入側が行わざるを得ない状況にある57。

48 加えて 2011 年 2 月、チュニジアでの「ジャスミン革命」に端を発したインターネット市民革命がエジ

プトに飛び火し、ムバラク政権が崩壊するに至った。エジプトはスエズ運河を擁しており、同国の政治リ

スクの動向は、スエズ運河を利用する穀物輸入国にとって大きな懸念材料になりうる。 49 生産から流通の各段階において、遺伝子組み換え作物(GMO)が非 GMO 穀物と混入しないように分

別管理を行い、分別管理が問題なく行われたことを示す証明書とともに加工業者へ提供するシステム全般

を指す。 50 詳細については第 5 章 5.1.3 節を参照。 51 “Law of the State System of Biosafety in Creating, Testing, Transporting and Using Genetically-Modified

Organisms”及び“Presidentail Decree by National Council for Security and Defence”の 2 法。 52 農業政策省傘下の State Control Inspection of Grain Quality に対するヒアリング結果 53 モンサント・ウクライナ社に対するヒアリング結果。同社はウクライナでの GMO 種子の販売を視野に

一部種子の GMO 登録手続き申請を行っていたが、2010 年に政府より登録申請が却下された模様。 54 農業政策省でのヒアリングにおいて、同省副大臣は「大豆、とうもろこし、菜種油について、GMO 作

物の有無を政府が検査したところ、一定量の GMO 作物が含まれていることが判明した。右の結果を受け

て、今後 GMO 作物の検査体制を強化していく予定。具体的には GMO 関連検査を実施可能な 40 のラボラ

トリーを全国に整備する」と発言。 55 モンサント・ウクライナ社に対するヒアリング結果 56 モンサント・ウクライナ社を始めとする複数の農業企業によるヒアリング結果 57 詳細については 5 章にて記載。

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平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業

ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 4 章

4-3

特に大豆に関し、ウクライナ側関係者は、現在の品質では日本市場に入り込めない点を

十二分に認識している。ウクライナ大豆協会幹部はインタビューに対し、「日本への輸出

はむしろコストよりも質の確保の方が問題。日本向け大豆の栽培には生産に関する特別チ

ームの組成が必須と理解。具体的には a)どういう土地を選択するか、b)どの種子を使うか、

c)どういう農家グループに栽培を任せるかとの点に留意し、長期的な視点から栽培計画を

立案する必要がある」と述べており58、日本向け大豆の輸出開始には相当のハードルがあ

る点を理解している。

以下、ここではウクライナ産大豆の現在の品質レベルを俯瞰すること目的に、ウクライ

ナの主要な大豆品種8種について、豆腐及び味噌の加工適性に係る検査を実施した。

(1)豆腐加工適性に係る検査結果

大豆サンプルの入手に際しては、ウクライナ大豆協会の協力を仰ぎ、蛋白質含有量が多

いと思われる 8 品種(Terek 種、Khorol 種、Korsak 種、Lybid 種、Kuban 種、Cheremosh 種、

Vision 種及び Desna 種)、計 1.6kg を入手した。

以下表に分析結果を示す。分析業務は豆腐製造の国内大手である朝日食品工業㈱食品研

究所に委託し、ウクライナ産大豆の①性状と一般成分、②豆乳抽出試験、及び③豆腐加工

適性試験(官能評価を含む)の 3 種を実施した。

図表 4.1 ウクライナ産大豆の性状と一般成分に係る検査結果 (単位:%)

品種名 水分 粗蛋白質 粗脂肪 粗灰分 炭水化物

Terek 10.2 35.9 18.7 4.3 30.8

Khorol 10.1 37.6 17.1 4.7 30.5

Korsak 10.7 33.5 19.9 3.9 32.0

Lybid 7.9 36.4 18.7 6.4 30.6

Kuban 9.7 38.7 18.7 5.2 29.8

Cheremosh 8.7 34.6 18.1 4.6 34.0

Vision 8.7 33.0 21.5 4.6 32.2

Desna 9.7 36.8 18.3 4.7 30.8

評価基準1)

34%以上

検査結果出所:朝日食品工業株式会社・食品研究所

注 1):評価基準は朝日食品工業の自社基準

図表 4.2 ウクライナ産大豆の豆乳抽出試験

品種名 抽出率

%

固形分

%

粗蛋白質

%

色調 粘度

mPa.s L a b

Terek 77.6 9.18 4.10 78.1 -1.6 15.1 15.4

Khorol 77.3 9.35 4.35 77.3 -1.4 17.4 15.0

Lybid 77.3 9.08 2.87 78.3 -0.7 14.6 15.5

58 UkrSoya Association (Ukrainian Association of Soy Manufacturing、ウクライナ大豆協会 )の Victor N.

Tymchenko 会長に対するヒアリング結果

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4-4

品種名 抽出率

%

固形分

%

粗蛋白質

%

色調 粘度

mPa.s L a b

Kuban 76.6 9.08 4.28 78.9 -1.2 14.5 20.5

Cheremosh 78.4 9.50 4.45 76.1 -1.3 15.4 14.2

Desna 78.1 9.56 4.13 78.0 -0.7 13.5 18.5

評価基準1)

9.8以上 4.5以上 78以上

検査結果出所:朝日食品工業株式会社・食品研究所

注 1):評価基準は朝日食品工業の自社基準

図表 4.3 ウクライナ産大豆の豆腐加工適性試験

品種名 破断強度

g/cm2

pH

Terek 98 6.11

Khorol 90 6.22

Lybid 0 6.04

Kuban 94 6.22

Cheremosh 74 6.22

Desna 80 6.16

評価基準1)

60以上

検査結果出所:朝日食品工業株式会社・食品研究所

注 1):評価基準は朝日食品工業の自社基準

図表 4.4 ウクライナ産大豆の豆腐加工適性試験 - 官能評価

品種名 外観 甘味 こく味 不快味 食感 おいしさ

Terek 3.1 1.9 1.9 2.2 3.0 1.9

Khorol 3.7 2.1 2.1 2.1 2.7 2.1

Lybid 2.7 1.9 1.9 1.4 1.0 1.1

Kuban 2.4 1.9 2.2 2.1 2.6 2.1

Cheremosh 3.4 2.3 2.6 2.3 2.6 2.4

Desna 2.0 1.8 1.9 1.9 2.4 1.8

検査結果出所:朝日食品工業株式会社・食品研究所

注 1): 評価者数 N=7

注 2): 外観(5 良い~1 悪い)、甘味・こく味(5 強い~1 弱い)、不快味(5 感じない~1 感じる)、食感

(5 硬い~1 軟らかい)、おいしさ(5 美味しい~1 不味い)

同・食品研究所による総合評価は「全体的に不良大豆(割れ、汚れ等)が多く、Terek

種、Kuban 種及び Cheremosh 種には石豆が混入していた。また抽出率が低く、豆乳の固形

分及び蛋白質が低い。官能評価では全体的に不快味が感じられたが、Cheremosh 種は相対

的に風味が良かった」である。品種別の所見は以下のとおり。

(i) Terek 種は、抽出率がやや低く、豆乳の固形分、粗蛋白質の値が低い。破断強度

は豆腐製造に関する朝日食品工業の自社基準を上回っている。甘味、こく味が弱

く、不快な風味が感じられた。

(ii) Khorol 種は、大豆粗蛋白質の値は高いものの、抽出率がやや低く、豆乳の固形分

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 4 章

4-5

及び豆乳粗蛋白質の値は低い。破断強度は自社基準を上回り、色調も良いが、甘

味及びこく味が弱く、不快な風味が感じられた。

(iii) Lybid 種は、大豆粗蛋白質の値は問題ないものの、豆乳粗蛋白質の値が低く、豆

腐を容器から出すと崩れてしまった。官能の面でも甘味及びこく味が弱く、非常

に不快な風味が感じられた。

(iv) Kuban 種は、Khorol 種と同じく大豆粗蛋白質の値は高いものの、抽出率がやや低

く、豆乳の固形分及び豆乳粗蛋白質の値は低い。破断強度は自社基準を上回るが、

豆腐はくすんだ色をしており、甘味及びこく味が弱く、不快な風味が感じられた。

(v) Cheremosh 種は、大豆粗蛋白質及び抽出率は平均的だが、豆乳の固形分及び豆乳

粗蛋白質の値は低い。豆腐の色調は良いが、甘味及びこく味が弱く、淡白な風味

であった。

(vi) Desna 種は、大豆粗蛋白質の値は高く、抽出率も平均値であるものの、豆乳の固

形分及び豆乳粗蛋白質の値は低い。破断強度は自社基準を上回るが、豆腐は赤み

を帯びており、甘味及びこく味が弱く、不快な風味が感じられた。

(vii) なお Korsak 種及び Vision 種については、大豆粗蛋白質の値が自社基準(34%)

を下回ったため、豆乳抽出試験を実施していない。

以上より豆腐用大豆として輸入する場合、今回のサンプルに限って言えば、ウクライナ

産大豆の品質には大きな問題があるものと判断される。日本豆腐協会は、豆腐用大豆の望

ましい蛋白質含有量として 41%程度を推奨しており、右と比較した場合、今回のサンプル

は特に蛋白質含有量が低い59。他方、一部の品種(Cheremosh 種)については官能評価にお

いて相対的に高い評価が与えられており、輸入可能性の詳細検討に向けて、今後さらなる

調査が必要と思われる。

(2)味噌加工適性に係る検査結果

味噌用大豆としての加工適性に関しては、全国味噌工業協同組合連合会(社団法人・中

央味噌研究所)が 2010 年 6 月にウクライナ産大豆サンプルを検査済みであり、同連合会

より検査結果を入手した。以下、上記の検査結果を記載する。

59 今回の 8 品種のサンプルの提供に際して、既述のとおりウクライナ大豆協会は「蛋白質含有比率の高い

品種を選定した」としていた。上記検査結果に鑑みれば、概してウクライナ産大豆の蛋白質含有量は低い

と推察せざるを得ない。

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 4 章

4-6

図表 4.5 ウクライナ産大豆の味噌加工適性試験 検査結果

品種名 100粒

重(g)

発芽率

(%)

浸漬後

の重量

増加比

蒸煮後

の重量

増加比

蒸煮大豆 蒸大豆の色調

水分(%) 硬さ(g) 変動係

Y (%) x y

Terek 18.3 100 2.31 2.04 57.1 706 0.137 35.20 0.395 0.390

Khorol 15.8 100 2.32 2.07 60.7 684 0.137 36.80 0.395 0.393

Lybid 16.9 96 2.34 2.05 58.3 690 0.171 36.40 0.393 0.392

Cheremosh 19.6 100 2.37 2.08 59.5 818 0.186 36.10 0.385 0.385

エンレイ(日本産) 33.8 100 2.32 2.10 58.9 554 0.111 31.62 0.395 0.393

トヨコマチ(日本産) 32.1 96 2.36 2.10 60.1 543 0.115 35.71 0.389 0.388

評価基準 25以上 96 2.2以上 2.0以上 60程度 ~600 低:良い 高:良い

検査結果出所:全国味噌工業協同組合連合会(社団法人・中央味噌研究所)

全国味噌工業協同組合連合会(社団法人・中央味噌研究所)による総合評価は「味噌用

大豆としては 4 種とも粒が小さく、味噌用大豆の基本要件のひとつである一定の粒径

(7.3mm 以上がベター)に達していない。また蒸煮大豆の硬さが日本産大豆の上限(約

700g 程度)を大きく超えている点は問題。日本産大豆よりも色調が明るいため、加圧条件

を高くすることにより蒸煮大豆の軟化が期待できるものの、右条件が味噌製造工場で実用

的であるかの検討が必要」である60。具体的な所見は以下のとおり。

(i) 外観・100 粒重・発芽率:種皮は黄白色。臍色もほぼ黄色だが、Terek 種及び

Khorol 種はやや灰色の傾向。100 粒重について、味噌用原料としては一般的に

25g 以上の中粒種が用いられるが、4 品種とも 20g 以下の小粒種であり不適。発

発芽率は高く良好。

(ii) 17 時間浸漬後の重量増加比:浸漬後の重量増加比は 2.2 以上が望ましく、4 品種

とも条件を満たしている。

(iii) 浸漬後大豆を加圧蒸(0.75kg/cm2)した後の重量増加比:蒸煮後の重量増加比は

2.0 以上が望ましく、4 品種とも条件を満たしている。

(iv) 蒸煮大豆:味噌用としては水分が 60%程度、硬さ(50 粒を粉砕した際の平均

値)が 500~600g 程度でバラツキの尐ないもの、色調は明るいもの(Y が高いも

の)が望まれるが、4 品種のなかで最も軟らかい品種(Khorol 種)でも平均値が

684g に達しており、バラツキ(変動係数)も日本産大豆より高い傾向にある。他

方、蒸煮大豆の色調(Y 値)は 35.2~36.8 となっており、日本産大豆よりも明る

い傾向にある。

以上より味噌用大豆として輸入する場合、上記サンプルに限って言えば、ウクライナ産

大豆の品質は粒径及び硬さの面で大きな課題を有していると言える。加圧条件を高くすれ

60 なお社団法人・中央味噌研究所に対し、2010 年 11 月の現地調査時に入手した大豆サンプル(8 品種)

に対する意見を伺ったところ、「味噌用大豆としては 8 種とも粒がやや小さい。味噌用大豆の基本要件の

ひとつである「粒径 7.3mm 以上」に達しておらず、やや不適」との回答が得られた。

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 4 章

4-7

ば硬さの問題が解消される可能性はあるものの、社団法人・中央味噌研究所は「粒径の問

題から積極的に利用しようとする製造業者はいないのではないか」との見解を有しており、

短期的には輸入の可能性は極めて低いと思われる。

4.1.4 ウクライナ産とうもろこしサンプルの簡易分析結果

ウクライナ産とうもろこしは既に日本へ輸入されている。財務省貿易統計によれば、

2009 年(1 月~12 月)、ウクライナ産とうもろこしは、飼料用として約 22 万トン(金額ベ

ースで 38 億円)、その他として 3 万 8 千トン(金額ベースで 6 億 5 千万円)が日本に輸入

されている。

図表 4.6 ウクライナ産とうもろこしの輸入量(2009 年)

用途 数量(MT) 金額(千円)

飼料用 218,412 3,831,322

その他 37,852 644,382

出所:財務省貿易統計

以下、大豆と同じくウクライナ産とうもろこしの現在の品質レベルを俯瞰すること目的

に、ウクライナの主要なとうもろこし4種について、成分分析を実施した。分析に関して

は、上記表のとおり飼料用としての輸入が有望と考えられたため、水分及び粗蛋白質の含

有量に加え、残留農薬の有無についても分析を行った(分析対象農薬の選定に際しては、

「飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する農林水産省令」を参照した)。これら項目に

加え、発ガン物質として近年注視されているアフラトキシン(カビ毒)についても、残留

の存否について分析を行った。

とうもろこしサンプルの入手に際しては、SGS ウクライナ支社の協力を仰ぎ、ウクライ

ナの主要品種と思われる Kobza 種、Shalanda 種、OD385 種及び Novatsiya 種の計 4 品種、

計 800g を入手した。

以下表に分析結果を示す。分析業務は財団法人・日本食品分析センターに委託した。

図表 4.7 ウクライナ産とうもろこしの成分分析結果

検査項目 分析結果 飼料用とうもろこしの基準値、

定量下限等 分析手法

水分1)

12.5% 14.5%以下が望ましい3)

常圧加熱乾燥法

粗蛋白質1)6)

10.7% 米国産はかつて 8%、近年は 6-7%3)

ケルダール法

アフラトキシン B12)

検出せず 0.01 ppm4)

(食品は 5.0 ppb5)) 高速液体クロマトグラフ法

BHC2)

0.009ppm なし4)

ガスクロマトグラフ法

DDT2)

検出せず 0.02 ppm4)

ガスクロマトグラフ法

γ-BHC2)

検出せず 0.005 ppm4)

ガスクロマトグラフ法

アルドリン及びディルドリン2)

検出せず 0.01 ppm4)

ガスクロマトグラフ法

エンドリン2)

検出せず 0.01 ppm4)

ガスクロマトグラフ法

ヘプタクロル2)7)

検出せず 0.01 ppm4)

ガスクロマトグラフ法

フェンバレレート2)

検出せず 0.1 ppm4)

ガスクロマトグラフ法

フィプロニル2)

検出せず 0.01 ppm4)

液体クロマトグラフ質量分析法

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平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業

ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 4 章

4-8

試験依頼先: 財団法人・日本食品分析センター(試験成績書発行年月日:平成 23 年 2 月 4 日、試験成績

書発行番号:第 11005441001-01~02 号、第 11005441002-01 号、第 11005441003-01 号及び第

11005441004-01 号)

注 1): サンプル 4 品種(Kobza 種、Shalanda 種、OD385 種、Novatsiya 種)の平均値

注 2): これら検査項目に関しては、予算制約に鑑みサンプル 4 品種のうち、Kobza 種のみについて実施

注 3): 飼料輸出入協議会による

注 4): 飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する農林水産省令による(出所:農林水産消費安全技術セ

ンター(FAMIC)ウェブサイト)

注 5):食品衛生法第 6 条による

注 6): 窒素・蛋白質換算係数 k=6.25

注 7): ヘプタクロルエポキシドを含む

水分については、飼料輸出入協議会が推奨している「14.5%以下」を下回り、粗蛋白質

の含有量についても、近年の米国産とうもろこしの品質を上回る結果となっている。現在

わが国で問題となりつつあるアフラトキシン B1 についても、検出されなかった。残留農

薬についてもほぼ検出されておらず、これは現地調査でのヒアリング結果61と符合してい

る。

以上より飼料用とうもろこしとして輸入する場合、今回のサンプルに限って言えば、ウ

クライナ産とうもろこしの品質及び安全性に特段の支障は無いと思われる。

61 近年はサンプル穀物の安全検査の過程で残留農薬の数値が基準値を超えることは珍しい、とのこと(出

所:SGS Ukraine に対するヒアリング結果)

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4-9

4.2 わが国実需者の受入可能性

4.2.1 実需者に対するヒアリング結果

(1)ヒアリング結果の総括

大豆及びとうもろこしのウクライナからの輸入可能性に関し、2010 年 8 月から 2011 年 1

月にかけ、国内の実需者に対してヒアリングを実施した。

ヒアリング対象となる実需者の選定に際しては、大豆及びとうもろこしの使途に留意し、

大豆については①製油用、②食品用、③加工用の 3 用途に関連のある実需者、とうもろこ

しについては①飼料用、②加工用の 2 用途に関連のある実需者をそれぞれピックアップし、

ヒアリングへの協力を依頼した。

以下にウクライナ産大豆及びとうもろこしの受入可能性に関するヒアリング結果の一覧

を示す。

図表 4.8 実需者に対するヒアリング結果一覧

大豆/とうもろこしの使途 ヒアリング実施先 受入可能性

大豆

製油用(植物油等) 商社 A

商社 B

×

×

食品用(豆腐、油揚、納豆等) 商社 A

商社 B

日本豆腐協会

全国納豆協同組合連合会

×

×

×

加工用(みそ、醤油等) 全国味噌工業協同組合連合会 △

とうもろこし

飼料用 商社 A

商社 B

大手需要家 A

業界団体 A(及び会員企業)

飼料輸出入協議会

×

○×1)

加工用(コーンスターチ、アルコール等) 大手需要家 B

日本スターチ・糖化工業会

×

×

食品用(スナック菓子等) ヒアリング未実施2) N/A

凡例:

○:受け入れを前向きに検討

△:受け入れ可能性検討に必要な各種情報が不足している

×:受け入れ可能性は低い

注 1):品質に問題は無いとの判断も、安定供給に懐疑的

注 2):本調査検討委員会にて「受入可能性は低い」との判断により未実施

上記表のとおり大豆については、いずれの用途に関しても、各需要家は厳しい見方を有

している。ただし、豆腐用大豆及び味噌用大豆については、当該業界団体は概して消極的

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4-10

な反応ながらも「現時点では、受け入れ可能性検討に必要な各種情報が不足62」としてお

り、長期的な視点から輸入可能性を模索する姿勢を見せている。(短期的には、加工適性

試験の結果等から両団体とも極めてネガティブな反応)。

他方、とうもろこしについては、飼料用としての品質を評価する実需者が多い。ある業

界団体は「飼料用として品質に全く問題はない。最大のハードルは輸出割当措置等の政治

リスク」と、輸入可能性に対して明確なスタンスを示しており、前節での成分分析結果は

これを裏付ける形となっている。また一部の大手需要家は既に詳細な現地調査を実施済み

であり、輸入に向けて前向きな姿勢を見せている。一方で加工用については、ヒアリング

を行った団体、企業とも輸入に積極的でない。

ヒアリング先の反応について、大豆及びとうもろこし別に以下詳細を記載する。

(2)ヒアリング結果の詳細-大豆

2010 年 8 月から 2011 年 1 月にかけて、商社 A、商社 B、日本豆腐協会、全国納豆協同

組合連合会、全国味噌工業協同組合連合会に対してヒアリングを実施した。(このうち日

本豆腐協会及び全国味噌工業協同組合連合会に対しては、ウクライナ現地調査で入手した

大豆サンプルを示し、意見を伺った。)

商社 A

大豆については輸出余力が無く、また輸入大豆に対する日本の要求水準が高すぎる等の

問題があり(アルゼンチン、米国西海岸産の大豆でも日本の要求水準をクリアするのは困

難)、搾油用大豆の輸入はほぼ無理と認識している。食品用大豆の輸入には定温コンテナ

が必要だが、量が尐なく日本の大手商社が扱うレベルではない(尐なくとも 5 万トン程度

のオーダーは欲しい)。専門商社や中小ならばビジネスになるのではないか。

商社 B

大豆よりもとうもろこしの調達により関心を有している。

日本豆腐協会

業界としては原料大豆の調達多様化を推進すべきと理解している。この意味でウクライ

ナがひとつの選択肢になれば有難い。一方で、ウクライナ産大豆については、日本の消費

者の要求品質をクリアすることが大前提である点やインフラの未整備の問題に加え、①食

品用大豆は生産されているか、②もし生産されている場合、輸入量は安定的に確保できる

か、③仮に契約農家に大豆栽培を依頼する場合、ウクライナ農家は食品用大豆を実際に生

産できるか、④成分等の検査体制は確立しているか、等の懸念を有している(2010 年 6 月

に入手した大豆サンプルの分析結果から、ウクライナ産大豆はサイロ等に保管されておら

ず、野積みされている可能性が高いと認識)。

62 例えば生産・流通段階における詳細な品質管理状況など。

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4-11

なお過去にオーストラリア、ロシア、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ産大豆につ

いて加工適正試験を実施した実績があるが、豆腐加工に優れた大豆はなかった。(米、カ

ナダ産の大豆については、長年の取引実績から日本側のニーズに応じた大豆を調達できる

仕組みがほぼ完備されており、他国産と比して相当の比較優位を有している)

BOX - 日本の豆腐市場

2009 年 3 月末時点において、豆腐製造業者は全国に約 1 万 1 千存在し、1 割程度が東京に

所在。豆腐製造業者は昭和 46 年に約 3 万 9 千存在したが、消費者の食生活の変化や、豆腐

製造業者の後継者問題等の影響により、徐々に減少し、現在も、減少傾向が続いている。

平成 19 年のデータでは、豆腐油揚製造業の製造品出荷額は約 3,300 億円、小売での販売価

格は 6,000億円程度となっている。

豆腐用原料大豆使用量に関し、IOM大豆63は、2006年の 8.8万トンであったが、2010年は、4万

トンに減少すると見込まれている。減少傾向の背景には、GMO の混入(contamination)懸念が

ある。バラエティー大豆64については、カナダ及び米国大豆が太宗を占めている。米国における

大豆の収穫量は、8 千万から 9 千万トンであり、2009 年のデータでは、91%が GMO 大豆と推

定されている。

1世帯あたりの年間豆腐消費金額は、年々減少傾向にあり、2008年は 6,343円

(食品用大豆の用途別使用量に関しては、製油用約 300 万トン、食品用約 100 万トンとなって

おり、うち味噌約 14万トン、豆腐油揚約 50万トン、納豆約 13万トン(平成 19年データ)

出所:日本豆腐協会提供資料

全国味噌工業協同組合連合会

中国、北米(米・カナダ)からの輸入が大半を占めており、現時点で供給不足の問題は

発生していない。しかし中国が既に大豆輸入国となっており、またインドも今後輸入増が

見込まれるなか、組合および業界関係者は将来の供給源として他の農業国に関心を有して

いる。このなかで近年はブラジルへの新規投資(商社およびメーカーが農地購入を行って

いる)等が話題となっているほか、ウクライナについても有望な国であると認識しており、

当然ながら関心を有している。

他方、輸入に際してのコストの問題や食用大豆の生産量が尐ないとの情報があり、これ

ら基礎情報の収集段階にある。途上国であるため、先進国(オーストラリア等)のように

63 Non-GMO 大豆は、加工品の商品適性の高い特殊大豆(バラエティー大豆)と食品用大豆の標準品として

いる IOM 大豆に分けられる。IOM 大豆とはアメリカの代表的な大豆産地のインディアナ州、オハイオ州、

ミシガン州の3州から生産される大豆で、それぞれの頭文字をとって IOM 大豆と呼ばれている。これら

三州の大豆がアメリカ大豆のうち、高タンパクで食品用として適していることから、他大豆と区別され、

流通している。 64 一般的な大豆と比較して商品適性が高い大豆を、現地サプライヤーとの契約栽培によってつくる大豆の

事を特殊大豆(バラエティー大豆)と呼ぶ。

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4-12

容易に情報が入りにくいのもネック。また品質については、中国産とは言わないが、尐な

くとも米国産大豆並みの水準が欲しい。

全国納豆協同組合連合会

北米産大豆の GMO 率が近年高まっており65、業界として non-GMO 大豆の将来的な継続

確保に大きな懸念を抱いている。本音としては、納豆用大豆として全く問題のない中国産

大豆の利用拡大がベターだが、日本の消費者の近年の反応(中国産大豆の忌避66)に鑑み

れば難しい。

他方で、ウクライナ産・納豆用大豆に関しては、①納豆用大豆の安定的な供給は可能か、

②品質は要求水準をクリアしているか、③残留農薬等に関するポジティブリスト制度は整

備されているか、④原産地表示への懸念(製品の原産地に「ウクライナ」と表示されてい

た場合、日本の消費者の購買意欲は下がらないか)といった懸念を抱いており、輸入は難

しいと認識している。なお 2010 年 6 月にウクライナ農業関係者が来日した際、サンプル

大豆が持ち込まれたが、納豆に適した大豆が見当たらなかったため、本連合会としては適

性検査を実施する判断までには至らなかった。

(3)ヒアリング結果の詳細-とうもろこし

2010 年 8 月から 2011 年 1 月にかけて、商社 A、商社 B、大手需要家 A、業界団体 A、

飼料輸出入協議会、大手需要家 B、日本スターチ・糖化工業会に対してヒアリング及び電

話インタビューを実施した。

商社 A

ウクライナ産とうもろこしの輸入については興味を抱いており、品質に係る試験等を断

続的に実施しているが、①残留農薬(国家として実質的に規制がなく、ほぼ野放しの状

態)、②挟雑物の混入(石、菜種、大豆等が常に混入している)、薫蒸67の問題(制度とし

て義務化されており、対応に苦慮)がある。特に残留農薬の問題が輸出に際しての一番の

ネックと認識している。

商社 B

ウクライナを含む黒海沿岸地域は、とうもろこしの調達先として、北米、南米に次ぐ、

第 3 極と位置付けており、大豆よりも高い関心を有している(数年前まで2-3年に一度

65 大豆の国内総需要 90 万~100 万トンのうち、納豆用大豆の国内需要は 13 万トン程度(2009 年)。13 万

トンのうち、輸入については北米産が 10 万トン(non-GMO)、中国産が 8 千トン程度。残り 2 万トン程度

が国産大豆。(出所:全国納豆協同組合連合会に対するヒアリング結果) 66 中国産大豆は品質がよく、納豆用として問題なく輸入できたため数年前までは 1 万トン程度の輸入実績

があったものの、原産地表示強化の流れの中で、日本の消費者が中国産を忌避するようになり(製品の原

料表示に「中国産」と書かれていれば消費者が購入を避ける)、近年輸入量は減尐傾向にある。(出所:同

上) 67 主に害虫駆除や防カビ・殺菌を目的として、対象物に気体の薬剤を浸透させる方法

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4-13

程度の頻度で、ウクライナの穀物事情の状況をアップデートしていたが、近年の増産傾向

を受け、現在は現地調査の頻度を増やしている)。

とうもろこしの用途としては、コーンスターチ、配合飼料を検討している。飼料用米国

産とうもろこしのたんぱく質含有量が減尐傾向にあるなど、近年、米国産とうもろこしの

品質が低下傾向にある。このため、スターチメーカーよりも飼料業者の方が、米国産以外

のウクライナ産等の輸入ニーズがあるものと見ている。

大手需要家 A

調達先の多様化推進のなかで、調達先のひとつとして検討しており、ウクライナでの現

地調査を実施済みである。

業界団体 A

2009 年度の米国産とうもろこしの質が非常に悪かったこともあり、配合飼料用としての

ウクライナ産とうもろこしについては非常に興味を有している。会員企業(飼料メーカ

ー)も相当の興味を示している。ウクライナ産とうもろこしの品質はすでにチェック済み

であり、品質は良いと理解している(会員企業も同じ見解)。

最大のネックは「安定供給が可能かどうか」の点であり、今後の輸入可能性はこの 1 点

の動向に尽きる。今年のような輸出制限措置が何度も採られるようであれば話にならない。

「安定的に供給してくれるのであれば、直ぐにでも輸入したい」と思っている会員企業は

数多く存在する。逆に言えば、安定供給の問題が解決されない限り、輸入先として検討に

値しない。

飼料輸出入協議会

飼料用のウクライナ産とうもろこしは、2009 年度に輸入が開始された。利用者はまだ限

られており、輸入はトライアルの段階にあると理解している。昨年度にウクライナ産とう

もろこしが輸入されたことの背景は、①米国産とうもろこしの品質が非常に悪かった6869、

②米国産とうもろこしの GMO 比率の上昇傾向(90%以上が GMO)およびそれに伴う調達

先の多様化の動き、③ウクライナ産とうもろこしの品質が輸入側のニーズを満たしていた、

の 3 点と思われる。

ウクライナ産飼料用とうもろこしの日本側輸入者の意見について、「問題なかったとの

声が多かった」と聞いている。他方で、農薬の扱いや保管方法など、関連法規は整備され

68 飼料輸出入協議会は「近年、米国産とうもろこしの品質は低下気味と理解している。特にたんぱく含有

量が下がってきている、というのが日本の実需者の一致した見解。かつては 8%程度の含有量があったが、

現在は 6-7%に低下しているのではないか」としている。 69 上記に関連し、日本の配合飼料においては、とうもろこしの混合割合が平均 47-48%を占める。日本

のユーザは高蛋白質の配合飼料を好むため、配合割合の半分弱を占めるとうもろこしの蛋白質割合は、配

合飼料全体の品質を大きく左右する。この意味で飼料用とうもろこしの蛋白質含有量は重要な要素であり、

米国産ともろこしの蛋白質含有割合の低下傾向は大きく懸念されるところ。

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4-14

ているが施行の問題があると理解しており、輸入に際して相応のリスクがある点は認識し

ている。

BOX – 配合飼料用とうもろこしの品質基準・グレード

配合飼料用の輸入とうもろこしについて、業界内に「品質基準」なるものは存在しない。基本的に

は輸出国の規格(グレード)に沿って、輸入側がオーダーを出す。

ただし、詳細なグレードが定められているのは米国産のみと言っても過言でない。輸入側が例え

ば南米産とうもろこしを輸入する場合、米国産とうもろこしのグレード(No.1、No.2、No.3、No.4、

それ以下)に準じて輸入オーダーを出しているのが実情。(ウクライナ産飼料用とうもろこしの輸

入時もそのような対応が採られたと推測)

飼料用とうもろこしは通常、「米国産とうもろこしグレードの No.3以上(No.3 or better)」とのオー

ダーにて輸入されている。ただし、年によって当然ながら品質にバラツキがあり、「No.3 以上」と

いうオーダーを出しても、結果として No.4 以下のとうもろこしが混入することもある。(2008 年は

米国産とうもろこしの不作年であり、飼料メーカーは相当に苦労した模様)

出所:飼料輸出入協議会に対するインタビュー

大手需要家 B

コーンスターチ用のウクライナ産とうもろこしを輸入する予定はなく、興味も有してい

ない。

日本スターチ・糖化工業会

米国産とうもろこしの安定供給が続く限り、将来もウクライナ産とうもろこしの輸入を

行うことはないと考えている。コーンスターチ用として、ウクライナ産とうもろこしを過

去に輸入したことは無く、輸入可能性を検討したことも無い。仮にウクライナ産とうもろ

こしを輸入するとなった場合は、①品質、②価格、③輸送日数・輸送コスト70の面で米国

産とうもろこしよりも優位である点が必要不可欠な条件となる(ただ、仮にそうなった場

合でも、年間を通じて安定供給できるだけの輸出余力があるのか疑問があり、スポット取

引になると考える)。

BOX - 米国産とうもろこしの輸入理由

コーンスターチ用原料として、米国産とうもろこしが圧倒的に輸入されている理由は、a)とうもろこ

しの十分な供給能力があり、年間を通じて、安定供給が可能、b)品質に関し、一定の水準を確

保、c)パナマ運河経由で 35 日から 40 日程度で輸入可能であり、輸送コストの面で有利、の 3

70 ウクライナからの輸送に関し、スエズ運河経由は紅海における治安の問題(海賊等)のがあり、場合に

よっては喜望峰経由となることが想定される。その場合、より多くの輸送日数・コストを要することとな

る。

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4-15

点と思われる。

各国のとうもろこし生産量について、米国は年間 3 億 6 千万トンと圧倒的に多い。2 位の中国も

1 億トンを超える生産を記録しているが、近年の消費動向から将来の輸出余力は無い。その他、

アルゼンチン等南米でも生産されているものの、日本までの輸送には 50 日程度を要し、コスト

面で不利である。加えて、南アフリカ産については、同国がカルタヘナ条約71を締結していないと

認識しており、GMOの問題から輸入していない。

出所:日本スターチ・糖化工業会に対するインタビュー

4.2.2 ウクライナ産大豆・とうもろこしの輸入可能性

飼料用とうもろころしについては、一部の大手需要家が前向きな検討を開始しており、

輸入受け入れの可能性は低くない。一方、大豆については、主に品質の問題から各種需要

家が受け入れに積極的でなく、短期的には輸入受け入れの可能性は極めて低いと思われる。

以下、大豆及びとうもろこし別に、本邦への輸入可能性について考察する。

(1)大豆

大豆については、主に品質の問題から各種需要家が受け入れに積極的でなく、短期的に

は輸入拡大の可能性は極めて低いと思われる。ただし、豆腐用大豆及び味噌用大豆につい

ては、それぞれの業界団体が継続して情報収集を行う姿勢を示しており、輸入可能性の詳

細検討に向けて、今後さらなる調査が望まれるところである。

例えば、加工適性試験の結果から、豆腐用大豆については Cheremosh 種の官能評価が相

対的に高い。今後、輸入可能性のある品種として上記 Cheremosh 種及び類似の品質を有す

る品種をトライアルで輸入し、詳細な成分分析、加工適性試験を実施しつつ、中長期的な

輸入可能性を探ることが考えられる。味噌用大豆については、既存の品種では粒径及び硬

さの面で大きな課題があることから、①中粒径かつ硬さの一様な他品種の探索、もしくは

②そのような品種・種子のウクライナ側での新規導入が必須となる。

なおウクライナ大豆協会は、日本向け大豆輸出のオプションとして、①在ウクライナの

大手アグロビジネス企業との生産契約締結(ただし日本市場向けの種子生産に相当の時間

を要する)、②ウクライナ大豆協会との生産契約締結(既に日本市場に適した 7~8 種のカ

ナダ産大豆種子を取り扱った経験あり)の 2 種を提示している。同協会とカナダ民間企業

との生産契約の例では、カナダ側が資金提供を行い、同協会がスペシャルチームを組成し

て生産を行った。長期的な視点に立った場合のモデルケースとして、参考にすべきと思わ

れる。

71 2000 年 1 月に国連で採択。国内では 2003 年 6 月にカルタヘナ法公布(04 年 2 月から施行)。日本国内

で許可されている遺伝子組み換え作物等の詳細は、以下のリンクを参照。http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/c_about/index.html

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4-16

(2)とうもろこし

飼料用とうもろころしについては、一部の大手需要家が前向きな検討を開始しており、

中短期的には輸入可能性は低くない。品質の面では、成分分析結果のとおり、水分につい

ては、日本側が推奨している「14.5%以下」を下回り、粗蛋白質の含有量についても、近

年の米国産とうもろこしの品質を上回る結果となっている。需要家の多くが懸念していた

残留農薬についてもほぼ検出されておらず、今回のサンプルが一般的なウクライナ産とう

もろこしであるとすれば、品質及び安全性に特段の支障は無いと判断される。

長期的な視点では、(大豆とも共通するが)安定供給が可能かどうかがカギとなる。例

えば飼料用とうもろこしには大きく 2 品種(デントコーン、フリントコーン)が存在する

が、①ウクライナがどちらの品種を安定的に生産しているか、②例えばそれぞれの品種に

ついて、「収穫状況が毎年一定していない(主要な収穫月とその収穫量が毎年大きく変動

する)」といった状況では安定供給は難しいため、そのような状況にあるのか、ないのか、

の見極めが必要となる。仮に収穫月とその収穫量が大きく変動する状況にあれば「特定の

時期のスポット的な供給源」と判断せざるを得なくなる72。この点に関し、例えば飼料用

として輸入されている北米産とうもろこしは、ほぼ 1 年中栽培されており、安定供給先と

しての地位を絶対的なものにしている。

また当然ながら価格の問題も重要である。パナマックス級の船舶にてウクライナから飼

料用とうもろこし 5 万トンを輸入したくても、価格で北米産と勝負にならなければ大量輸

入のインセンティブはない。

上記の安定供給、品質、価格の問題に加えて GMO の問題は非常に大きい。確かに日本

に輸入される飼料用とうもろこしは GMO でも構わないが、これは日本の法律で特定の

GMO 種子が認可されているからである。認可 GMO 種子以外の種子で栽培された GMO と

うもろこしが輸入物に混ざっている場合は、当然ながら輸入できない。ウクライナで IP ハ

ンドリングが徹底されていないとすれば、輸入業者としては莫大なリスクを背負うことと

なり(認可種子以外の GMO とうもろこしが混入している場合、通常は輸出元へ全量返還

となる)、輸入拡大へのインセンティブは働かなくなる。

上記の問題を避けるには、例えば輸入の際の契約条件に特定の GMO とうもろこしを排

除する条項を設ける等の方法が考えられるが、IP ハンドリングが行われていないとすれば、

実際にそのような契約条件を受け入れるウクライナ側輸出業者がいるかどうかがカギとな

る。

72 逆に言えば、「ある時期に一定の収穫量が安定的に見込める」という状況なのであれば、輸入元にとっ

て使い勝手の良い輸入相手先となる。

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5-1

5 ウクライナにおけるとうもろころし・大豆に関する検査制度、

品質管理の現状、日本向け輸出に向けての改善すべき点

5.1 農産物の安全性に関する検査制度

5.1.1 安全性に関する機関・基準の概要

ウクライナには、ソビエト時代に由来する複雑且つ、費用を要する食品衛生システムが

存在しており、品質管理には、多数の政府機関が関係し、一部、重複する機能を有してい

る。ウクライナにおける国内で生産された農産品・食料品、輸入食品、動植物の安全性に

係るウクライナ政府の主要監督機関は以下のとおりとなっている。

図表 5.1 ウクライナにおける農産品、輸入食品等の安全性に係る政府の主要監督機関

機関の名称 役割

State Epidemiological Service (SES) of the Ministry of Health Care (MHCU) (保

健医療省 国家疫学サービス)

食品衛生基準の策定

食品安全に係る全事項の責任機関

State Department of Veterinary Medicine (SDVM) of the Ministry of Agricultural

Policy (MAPU) (農業政策省 国家獣医学局)

動物由来の食品、魚介類、肉類の安

全、動物衛生に係る事項の責任機関

Main State Phytosanitary Inspection Service (MSPIS) of the MAPU (農業政策省

植物検疫検査サービス) 植物衛生に係る責任機関

State Committee of Ukraine on Technical Regulations and Consumer Policy

(SCUTRCP) (消費者政策及び技術規則に関する国家委員会)

食料品に関する既存の安全・品質基

準のコンプライアンスに係る責任機関

State Ecological Inspection Service (SEIS) of the Ministry of Environment and

Natural Resources (MENRU) (環境資源省 環境保護検査サービス)

放射性物質と環境管理に係る責任機

出所:UkrAgroConsult

また、上記に加え、農業政策省は、農産品や畜産の生産、加工、貯蔵、販売の各段階お

ける品質管理の実施において、主要な役割を担っている。とうもろこし及び大豆の輸出に

関係してくる農業政策省傘下の主要な機関は下図のようになっている。

State Inspection of Plant Protection は農薬の登録作業、残留農薬の許容基準、農薬使用に関

するモニタリングを担当している。State Inspection of Grain Quality は、穀物の品質及び安

全性に関する質のチェックを担当しており、GMO のモニタリングも担当している。現在、

ウクライナ全土に 14 箇所のラボラトリーを保有しており、GMO 検査用のラボラトリーも

1 箇所保有している。全国 25 州に検査官が駐在しており、国家レベル、州レベル、地区

(Lion)レベル、3 段階の検査体制を有している。実際の検査方法に関しては、検査官が、

アグロビジネス企業等に直接出向き、サンプリングを行い、検査を実施している。

Plant Quarantine Service は、中央検疫研究所等を抱える Main State Plant Quarantine

Inspection 及び Central fumigation Team(中央燻蒸チーム)から構成されており、Main State

Plant Quarantine Inspection は、ウクライナ全土にある 27 箇所の植物検疫所、35 の検疫ラボ、

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5-2

550 箇所の検疫ポイント(うち 174 箇所は国境に存在)から構成されている73。Main State

Plant Quarantine Inspection は、規制された害虫・生物の流入の防止、規制された害虫の探

査・駆除、検疫制度の管理、植物検疫の実施、規制された生物の利用者の登録に関する活

動を行っている。また、燻蒸に関しては、2010 年 7 月現在、サイロ/倉庫における燻蒸は

UAH3.0/MT 以上、貨車での穀物の燻蒸は UAH3.5/MT 以上、港での穀物の燻蒸は

US$0.6/MT 以上の費用が課されることになっている。

図表 5.2 ウクライナ農業政策省管轄下の検査体制

農業政策省

State Inspection of Plant Protection

(農薬の登録作業、残留農薬許容基準、農薬使用に関するモニタリング)

State Inspection of Grain Quality

(品質管理を所管)

State Seed Inspection

(輸入種子の規制、チェック)

Control Inspection of Grain Quality

(輸出穀物に対する輸出前のGMOチェック)

Plant Quarantine Service

(検疫、衛生を所管)

農業政策省

State Inspection of Plant Protection

(農薬の登録作業、残留農薬許容基準、農薬使用に関するモニタリング)

State Inspection of Grain Quality

(品質管理を所管)

State Seed Inspection

(輸入種子の規制、チェック)

Control Inspection of Grain Quality

(輸出穀物に対する輸出前のGMOチェック)

Plant Quarantine Service

(検疫、衛生を所管)

出所:UkrAgroConsult および現地ヒアリングによる

State Seed Inspection は、種子を取扱う企業を監督の対象としており、種子の製造、貯蔵、

取扱い、売買、使用に関する規制、種子の純粋性や品質等を保証するための手続き的・技

術的要件の監視、種子交配等に係る文書の管理、播種する種の品質を決定するためのサン

プルの収集、種子の導入に関する権限を有している。State Seed Inspection は、種子の品質

に関する全ての文書発行の権限を有しており、輸出入において必要となる文書の発行も行

っている。

上記に加え、ウクライナには民間検査機関も存在している。SGS、Bureau Veritas、

BalticControl、Cotecna Ukrain、Control Union の 5 社がウクライナにおける主要民間検査機

関となっている。ある民間の大手検査機関へのヒアリングによると、1990 年代からウクラ

イナに進出し、農薬、重金属、微量毒物、GMO 等の検査業務に加え、穀物の輸送に係る

ロジスティクスや港での燻蒸に従事しており、農薬、重金属、微量毒物の検査については、

小麦、大麦、とうもろこし、油糧種子、砂糖等を検査の対象とし、検査は、AOAC

73 The Main State Plant Quarantine Inspection of Ukraine

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 5 章

5-3

(American Organization of Analytical Chemists: 米国公的分析化学者協会)74によるスタンダー

トに沿って実施している75。

安全性についての基準・規制に関し、ウクライナでは、現在も多くの食品、農産物につ

いて 1989 年 8 月 1 日付けで旧ソ連の保健省によって承認された文書「the Medical and

Biological Requirements and Sanitary Norms of Quality of Raw Materials and Food Products」を根

拠としている。ウクライナでは 6 つの重金属について、MBR#5061-89 において以下の基準

を定めている。

図表 5.3 ウクライナにおける重金属に関する基準

対象穀物 金属

最大許容量, 単位:mg/kg

ウクライナ基準

MBR # 5061-89, DSTU 3768:2004,

DSTU 3769:1998, DSTU

4525:2006, DSTU 4964:2008

CODEX

Codex Alimentarius

Commission

standards

欧州基準

EEC Commission

regulation #

1881/2006

Wheat, barley,

corn, soybeans

Lead 0.5 (for food, technical needs and

exports), 5.0 for feeding

0.2 0.2

Wheat,

soybeans

Cadmium 0.1 (for food, technical needs and

exports), 0.3 for feeding

0.2 0.2

Barley, corn Cadmium 0.1 (for food, technical needs and

exports), 0.3 for feeding

0.1 0.1

Wheat, barley,

corn, soybeans

Arsenic 0.2 (for food, technical needs and

exports), 0.5 for feeding

Not regulated Not regulated

Wheat, barley,

corn

Soybeans

Mercury 0.03 (for food, technical needs and

exports), 0.1 for feeding

0.02

Not regulated Not regulated

Wheat, barley,

corn, soybeans

Copper 10.0 (for food, technical needs and

exports), 30.0 for feeding

Not regulated Not regulated

Wheat, barley,

corn, soybeans

Zinc 50.0 (for food, technical needs and

exports), 50.0 for feeding

Not regulated Not regulated

出所:UkrAgroConsult

微量毒物の基準については、MBR#5061-89 において、許容値を示しているが、以下に示

すとおり、規制対象や許容値が、欧州基準と異なっている。

図表 5.4 ウクライナにおける微量毒物に関する基準

規制対象

最大許容量 単位:mg/kg

ウクライナ基準 MBR # 5061-89 欧州基準 EEC Commission

regulation # 1881/2006

とうもろこし(DSTU 4525:2006)

Aflatoxin B1 0.005 (for food, technical needs and

exports), 0.025-0.1 for feeding 0.005

B1, B2, G1 and G2 aflatoxins

totaled Not regulated

0.01 (for sort corn and using it as food

ingredient)

Fusariose toxins (totaled B1, B2) Not regulated 2.0

74 詳細は http://www.aoac.org/ 75 なお検査に係るウクライナの国家基準は上記 AOAC 基準に準拠している。

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5-4

規制対象

最大許容量 単位:mg/kg

ウクライナ基準 MBR # 5061-89 欧州基準 EEC Commission

regulation # 1881/2006

とうもろこし(DSTU 4525:2006)

Zearalenone 1.0 (for food, technical needs and

exports), 2.0-3.0 for feeding 0.2

T-2 toxin 0.1 (for food, technical needs and

exports), 0.2 for feeding 0.06 (totaled toxin T-2 and HT-2)

Dezoxinivalenol (vomitoxin)

0.2-1.0 (for food, technical needs and

exports), 1.0-2.0 for feeding 1.750

Ochratoxin A Not regulated 0.005

Palutin 0.5 for feeding Not regulated

大豆(DSTU 4964:2008)

Aflatoxin B1 0.005 (for food, technical needs and

exports), 0.025-0.1 for feeding

0.005

B1, B2, G1 and G2 aflatoxins

totaled

Not regulated 4.0

Fusariose toxins (totaled B1, B2) Not regulated 2.0

Zearalenone 1.0 0.2

T-2 toxin 0.1 0.06 (totaled toxin T-2 and HT-2)

Dezoxinivalenol (vomitoxin) 0.5-1.0 1.750

Ochratoxin A Not regulated 0.005

出所:UkrAgroConsult

放射性物質の基準については、GN6.6.1.1-30 において、許容値を示しているが、微量毒

物同様、規制対象や許容値が、国際基準や欧州基準と異なっている。

図表 5.5 ウクライナにおける放射性物質に関する基準

規制対象

最大許容量 (単位:mg/kg)

ウクライナ基準

GN 6.6.1.1-130

CODEX

CODEX STAN 193-1995

Rev.2-2006

欧州基準

EC Decree #737/90/EEC and

Union Regulation (EBPATOM)

#3954/97

Strontium Sr-90 50.0 100 Not regulated

Cesium Cs-137 20.0 1000 600

Cesium Cs-134-137 Not regulated 1000 600

Plutonium Pu-238, 129, 240

Americium Am-241 Not regulated 1 Not regulated

Ruthenium Ru-106

Iodine I-129, 131

Uranium U-235

Not regulated 100 Not regulated

Sulfur S-35

Cobalt Co-60

Strontium Sr-90

Ruthenium Ru-106

Cesium Cs-134

Cerium Ce-144

Iridium Ir-192

Not regulated 1000 Not regulated

Hydrogen H-3

Carbon C-14

Technetium Tc-99

Not regulated 10000 Not regulated

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 5 章

5-5

出所:UkrAgroConsult

5.1.2 農薬に関する管理制度と実態

本章では、ウクライナにおける農薬の登録、農薬の使用とモニタリング、残留農薬、農

薬に関する問題について記述する。

(1)農薬の登録

ウクライナでは農薬の登録システムが存在し、残留農薬の許容基準も定められている。

使用可能農薬の登録システムに係る法律としては、Law of Pesticide & Agro Chemicals があ

り、環境保護省が使用可能農薬の登録、リスト化業務を所管している。ウクライナ国内で

の農薬の販売はライセンス制であり、ライセンスを有する企業のみが参入可能な市場にな

っており、ライセンスの付与は、農業政策省の所管業務となっている。また、農薬の人体

への影響に関する研究・モニタリング等の業務は保健省が所管している76。

農薬の登録作業は、農業省傘下の政府機関である State Inspection of Plant Protection が担

当しており、農薬の登録プロセスは、2 年間の暫定登録期間において、農業政策省傘下の

登録委員会が、生化学、毒物学、生態学の 3 つの観点から審査・検査を行い、同審査・検

査を経て合格・認証となった場合、10 年間の登録許可が下りる仕組みとなっている77。

(2)農薬の使用とモニタリング

農薬の使用に関しては、既述のとおり、使用可能農薬の登録システムが整備されており、

毎年政府がイエローブックと呼ばれる「使用可能な農薬リスト」を発行している78。また、

生産者側は、毎年、農薬の使用計画を State Inspection of Plant Protection に提出することが

義務付けられている79。しかし、実際の農薬の使用量について、大豆農家へのヒアリング

では、政府による使用量に関する基準は無いと認識されており、大手農薬会社の推奨する

使用量が目安として使用されている。また、ウクライナで農薬事業を行う企業は、現時点

では、コスト面での制約により、ウクライナ国内における農薬使用量は尐ないが、農薬使

用量は確実に増加基調にあると指摘している。

政府のモニタリングについては、農薬の製造・販売に関する登録システムは機能してい

るが、一旦登録されてしまえば、企業の諸活動に対するモニタリングは行われていないと

言われている。また、生産者の農薬使用に関するモニタリングに関しても、State Inspection

of Plant Protection は全国に出張所を有しているが、検査官 1 名あたりの平均担当面積は 10

万 ha 以上となっており、検査官が絶対的に不足しているため、農薬の使用実態に係るモニ

76 現地ヒアリング(State Control Inspection of Grain Quality)による 77 地場企業へのヒアリングでは、1 年程度で登録許可を受けているとの発言もあった。 78 現地関係者へのヒアリングでは、ウクライナでは現在、約 900 種類の農薬が使用可能なものとして登録

されている。 79 現地関係者へのヒアリング

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 5 章

5-6

タリング活動は、現状、実質的には、ほぼ行われていない状況にある80。

(3)残留農薬

残留農薬については、ウクライナでは許容基準に関する規定が存在し、State Inspection of

Plant Protection が所管している81。State Inspection of Plant Protection は自前のラボを有し、

サンプルテストを通じて残留農薬のモニタリングを行っており、同機関の下で各州に配置

された Inspector がモニタリング業務を担当している82。各地区(Lion)には、品質管理を

所管する State Inspection of Grain Quality の Grain Inspector、および検疫を所管する Plant

Quarantine Service の Quarantine Inspector の 2 種の検査官が常駐している。しかし、検査の

対象は、輸出穀物および政府が買い上げる穀物のみであり、いずれの検査官も、サイロ/

エレベータレベルでのサンプルチェックを行うに留まっている83。このように、検査体制

は必ずしも十分とは言い難い一方で、ウクライナにおける農薬使用量は他国と比較して相

対的に尐なく、残留農薬許容基準は、EU や日本の基準よりも厳しいとも言われており、

ウクライナ産大豆やとうもろこしの日本への輸入を考えた場合、残留農薬は、現時点では

大きな問題とはなっていない。

(4)農薬に関する問題

ウクライナにおいて、現地で認識されている農薬に関する問題としては、旧ソ連時代の

放棄農薬と不法にウクライナ国内に輸入される農薬の問題がある。前者について、世界銀

行の文書84では、旧ソ連時代の放棄農薬がウクライナ国内の 25 州に 3 万トンあると推測し、

多くの施設において、不法、不適切な保管がなされてため、汚染に繋がっていると指摘し

ている。こうした指摘がある一方、旧ソ連時代の廃棄農薬は、ウクライナ国内に残存し、

過去には、貧困零細農家がこれらの農薬を使用して問題となったが、現在は、非常事態省

が 50 百万グリブナの予算をもち、非常事態省、内務省、環境省、衛生疫学センターの 4

機関が放棄農薬の問題に対処しており、放棄農薬は大きな問題ではないとの指摘もある85。

後者の問題については、近年、ウクライナ国内で使用が許可されていない農薬が、中国等

から不法に輸入され、低価格で販売されるため農民によく使用されている。このように不

法に持ち込まれた農薬をどのように取り締まっていくかが、今後の課題となっている。

既述のとおり、農薬の使用量は近年増加傾向にあるが、現時点では、残留農薬は、使用

される農薬の量が尐ないため、大きな問題とはなっていない。但し、検査制度の運用が不

十分であり、現在の傾向のまま、農薬使用が今後も増加する場合、輸入者にとって、残留

農薬は、ウクライナ産農産物輸入の主要なリスクの一つとなる可能性がある。

80 現地関係者へのヒアリング 81 State Control Inspection of Grain Quality へのヒアリング 82 同上 83 現地関係者へのヒアリングによる 84 http://www.worldbank.org/eca/pubs/envint/Volume%20II/English/Review%20UKR-final.pdf 85 現地で事業を展開する農薬企業等、複数の現地関係者へのヒアリングによる

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 5 章

5-7

5.1.3 遺伝子組み換え作物の現状

ウクライナ産農産物の日本への輸入を検討する場合、農薬等、安全性に関する側面だけ

でなく、日本国内の消費者の関心が高い遺伝子組み換え(GMO)作物の商業栽培の状況に

ついても把握が必要となる。本章では、ウクライナにおける GMO 管理制度、使用状況・

検査・ハンドリングについて記述する。

(1)GMO 管理制度

ウクライナでは、GMO 種子の登録・認証手続きが定められており、保健・教育科学省

が担当省庁となっている。認証に要する期間は 2 年から 3 年とされている。また、輸入さ

れる種子のチェックは、State Inspection of Seed Control が所管し、輸出穀物に対する輸出前

の GMO チェックは、Control Inspection of Grain Quality が所管している。法制度に関しては、

2007 年 5 月、ウクライナ議会は Law of the State System of Biosafety in Creating, Testing,

Transporting and Using Genetically-Modified Organisms”を採択し、2007 年 6 月、大統領によ

る同法への署名が行われている。また、同法の実施細則として、複数の規制が実施されて

おり、GMO のハンドリング基準86等も示されているが、規制システムが機能しているとは

言いがたい状況である87。

GMO の栽培については、ウクライナ政府は、2009 年 2 月、GMO 登録手続きを採択して

いる。同登録手続きの採択は、GMO 穀物の栽培を禁止するものではないため、政府の規

定のプロセスを経て GMO 種子が登録・認証されれば、ウクライナ国内で GMO 種子を活

用した栽培は可能となっている。しかし、現在までに政府により登録・許可された GMO

種子は存在していないため、現時点では、事実上、合法的に GMO 種子の流通、販売、同

種子を活用した栽培を行うことは不可能となっている。

(2)使用状況・検査・IP ハンドリング(分別生産流通管理)

ウクライナ政府は、2009 年以降、GMO の利用を規制する立場を明確にしているが、

2008 年までは GMO の利用に対する規制が整備されていなかったため、その経済性から多

くの農家によって、GMO 種子が活用されていた88。とうもろこしに関しては、2007 年から

2008 年にかけて、種子が大幅に不足した結果、米国から大量に種子が輸入され、多くの

GMO 種子が輸入されたとの指摘があり、現在、とうもろこしの作付面積の 10-15%が

GMO 種子によるものと指摘されている89。また、大豆に関しては、近年、その換金性から

作付面積が伸びており、栽培される大豆の半分以上はラウンドアップレディーダイズ90を

86 “On the provisional Criteria for Handling the Genetically Modified Organisms and Realization of Genetic

Engineering Activity in Enclosed Systems (#922, October 16, 2008)” 87http://www.fas.usda.gov/country/Ukraine/Ukraine%20Agricultural%20Economy%20and%20Policy%20Report.pdf 88 現地ヒアリングによる。 89 同上 90 ラウンドアップとは、1970 年に米モンサント社が開発した除草剤。ラウンドアップレディーダイズは、

遺伝子操作によりラウンドアップに耐性を有する遺伝子組み換え大豆を指す。モンサント社との面談で

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 5 章

5-8

含む GMO 大豆であると指摘されている91。

検査に関し、ウクライナでは 2009 年より、法律(Grain Inspection of Ukraine)により全

ての輸出穀物に対する GMO 検査が義務付けられており、State Bread Inspection の審査に合

格する必要がある。政府が大豆、とうもろこし、菜種油を対象として GMO 作物の有無を

検査したところ、一定量の GMO 作物が含まれているとの結果が出ており、結果を受けて、

ウクライナ政府は、今後、GMO 作物の検査体制を強化していく方針92を示している。現在、

ウクライナ国内には、GMO 混入有無を検査できる研究施設は 3 箇所程度しかなく、今後、

検査体制強化の方針に従い、GMO 関連検査を実施可能なラボラトリーを全国に 40 箇所整

備するとしている93。また、民間の検査機関によると、現在、GMO 検査は、生産地のサイ

ロ(ストレージ)、内陸エレベータ(輸出港に運搬する前段階の集荷施設)、輸出港のエレ

ベータの 3 箇所でサンプリングを行っている。検査については、現在、国外の検査施設に

サンプルを送付し、検査を実施しているが、GMO 検査依頼の需要増加を受け、ウクライ

ナの主要な輸出港の一つであるオデッサに大規模なラボラトリーを建設している。

IP ハンドリング(分別生産流通管理)に関し、現在まで、政府により登録・許可された

GMO 種子は存在していないため、公式には GMO 作物は存在しないことになっており、

GMO 作物と、Non-GMO 作物を分別して生産、流通、管理を行う IP ハンドリングは実施

されていない。

既述のとおり、ウクライナでは、制度的には、GMO 種子の使用は禁止されていないが、

政府の GMO 種子に対する承認が下りていないため、実質的に、GMO 種子の使用は禁止さ

れている状況にある。一方で、実際には、生産効率の面から生産者にとって魅力のある

GMO 種子は、ウクライナ国内に流入しており、GMO 種子を使用した大豆、とうもろこし

の栽培が行われている。政府は、GMO 種子の使用を規制していく立場をとっており、今

後、検査体制、ハンドリング体制(分別生産流通管理を実施するための体制)の整備が課

題となる。

5.2 農産物の品位に関する基準

ウクライナでは、とうもろこしについて、DSTU4525:2000 により基準が定められており、

以下のように 5 つのグループに分類されている94。しかしながら、品質に関するグレード

は、ウクライナでは現在、GMO 種子を一切発売しておらず、ハイブリッド種子のみを販売する戦略を

とっているとの説明があった。 91 USDA Foreign Agricultural Service “Ukraine Agricultural Biotechnology Annual (2009)”および現地の複数の関

係者へのヒアリングによる。一方、現地調査では、GMO 種子の使用率等について信頼できるデータは無

いとの意見もあった。 92 農業政策省副大臣へのヒアリングでは、ウクライナ政府は GMO 導入に積極的ではなく、且つ、GMO

のコントロールシステムは確実に整備していく、とのコメントがあった。 93 現地ヒアリングによる 94 配合飼料用とうもろこしの品質基準、グレードは、基本的には輸出国の規格(グレード)に沿って、輸

入側がオーダーを出すことになっている。但し、詳細なグレードが定められているのは米国産のみと言っ

ても過言ではなく、米国産とうもろこしのグレード(No.1、No.2、No.3、No.4、それ以下)に準じて輸入

オーダーを出している。ウクライナ産の輸入時もこうした対応になると思われる。なお、米国グレードの

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5-9

システムはない95。日本企業が、ウクライナからとうもろこしの調達を行う場合、現地に

拠点を有する所謂穀物メジャーに対して、U.S.No.3 等、米国基準96で発注することが想定

される。

図表 5.6 とうもろこしに関する分類と各基準

パラメタ とうもろこしに関する 5つのグループと各基準値

Food Concentrates

and Products

Baby

Nutrition

Groats

and flour

Starch and

Syrup Feeding

Type I-VIII types I-IX

types

Moisture, %, max 15.0 15.0 15.0 15.0 15.0

Particularly after drying, %, min 13.0 13.0 13.0 13.0 13.0

Grain admixture, %, max 7.0 3.0 7.0 7.0 15.0

Including

Germinated kernels 2.0 Not

permitted 2.0

In the range of

grain admixture 5.0

Other grains kernels and seeds out to

grain admixture Not permitted 2.0

Foreign matters, %, max 1.0 1.0 2.0 3.0 5.0

Including

Damaged kernels 0.5 Not

permitted 1.0 1.0 1.0

Mineral admixture 0.3 0.3 0.3 0.3 1.0

Including stones, slag and ore 0.1 0.1 0.1 In the range of mineral

admixture

Impurities 0.2 Not

permitted 0.2 0.2 0.2

Including

smut and ergot 0.15 Not

permitted 0.15 0.15 0.15

Russian centaury and Coronilla 0.1 Not

permitted 0.1 0.1 0.1

Heliotropium ellipticum var.

lasiocarpum and Trichodesma

incanum, castor-oil plant, ambrosia

Not permitted

Size, %, min, for corn of VII-VIII types 80.0 not limited not limited

Germination ability, %, min not limited 55.0 not

limited 55.0

not

limited

Pests infectiousness Not permitted Not permitted excluding tick

infectiousness not higher of 1st degree

出所:UkrAgroConsult

大豆については、DSTU4964:2008 により、基準が定められている。また、ウクライナで

構成指標は①ブッシェル当たり容積重(Maximum test weight per bushel、単位ポンド)、②BCFM(Broken

corn and foreign material、狭雑物の混入度、 単位%)、③DKT(damaged kernel、被害粒、単位%)の 3 種

(上記は国内ヒアリングによる)。 95 ウクライナ大豆協会へのヒアリングによる。 96 http://www.gipsa.usda.gov/GIPSA/documents/GIPSA_Documents/corninspection.pdf

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 5 章

5-10

は、大豆の種子について Super Elite, Elite, Firstly Production および Commodity Production の

種別が存在するが、収穫された大豆の品質に関するグレードシステムは無い97。

図表 5.7 大豆に関する基準

パラメタ 基準値

Moisture, %, max 12,0

Protein level on dry basis, % min 35.0

Oil content on dry basis, % min 12.0

Grain and foreign matters totally, %, max 15,0

Including foreign matters 3,0

Including unfilled beans in the amount of oilseed

matters 10,0

Castor-oil seeds Not

permitted

Pests infectiousness Not

permitted

出所:UkrAgroConsult

5.3 日本向け輸出に向けての改善すべき点

日本の大豆、とうもろこしの実需者に対するヒアリングを通じて、ウクライナ産の大豆、

とうもろこしの日本への輸入について、様々な課題が指摘されている。安定供給や品質、

インフラについては、前章および付録で指摘しているとおりであり、本稿では、残る課題

である、残留農薬等の安全性の問題、価格競争力、IP ハンドリング(GMO との識別)、情

報の公開について言及する。

(1)残留農薬等の安全性の問題

残留農薬の基準に関して、ウクライナの残留農薬基準は、日本の基準と必ずしも合致し

ていないため、輸入農産品の残留農薬は、厚生労働省所管の食品衛生法に従う必要があり、

飼料に関しては、農林水産省所管の飼料安全法に従う必要がある。現在、ウクライナにお

ける農薬の使用は尐なく、仮にウクライナ産とうもろこしや大豆が日本に輸入された場合、

残留農薬が直ちに安全性の観点から問題となる可能性は低い。安全性を確保する観点から

は、農薬の使用量も重要であるが、チェック体制が機能しているかどうかが、より一層重

要である。現在、ウクライナにおける農薬の使用、残留農薬の確認体制は、必ずしも十分

でない為、農薬の使用量は増加傾向を示している現地の状況に鑑み、今後、農薬の使用や

検査に関する管理体制・機能が強化されることが望まれる。

(2)価格競争力

安定供給が可能であり、品質面で実儒者の要求を満たし、農薬等の観点から安全性が確 97 同上

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 5 章

5-11

保された場合においても、価格に大きな影響を与える輸送コストの低減が必要となる。国

内ヒアリングでは、貨物コストが 10 年前の 5-6 倍となっており(米国西海岸から 10 年前

は日本まで 10 ドル/トンが今は 40-60 ドル/トン)、FOB ベースで相当安価でないと、他産

地と勝負にならないとの指摘がある。実際に輸送する場合、食用大豆の場合、常温コンテ

ナが必要であり、更に、コンテナ船でマラッカ海峡やアデン湾を通らねばならず、コスト

増の要因となる治安の問題も存在している。輸送コスト低減に関しては、恒常的にパナマ

ックス級の船舶で輸送を行うことにより、コスト削減を図る方法があるが、安定供給や品

質とも関係しており、短期的には難しいと考えられる。輸送コストを抑えることが難しい

場合については、種子の改良や肥料の活用等、生産性を向上させる取り組みを通じて、単

位面積当たりの収穫量を上げ、価格競争力を向上させることが必要となる。

(3)IP ハンドリング(GMO との識別)

Non-GMO の大豆、とうもろこしを輸入する為には、農場や流通段階における IP ハンド

リングの徹底が必要である。ウクライナでは、現在、公式には認められていない GMO 種

子を使用した栽培が、特に大豆で横行しているとの指摘がある。こうした現実がある一方、

公式には栽培が認められた GMO 種子がないため、ウクライナでは、分別生産流通管理は

実施されておらず、また、検査機関の数が不足している等、管理体制も十分とはいえない

状況にある。日本向け輸出を考えた場合、日本において認可された種子以外の種子で栽培

された GMO とうもろこしが輸入物に混入していた場合、通常、輸出先へ全量返還となる

ため、IP ハンドリングが徹底されていない状況下でのウクライナからの輸入は、輸入事業

者にとって非常にリスクが大きくなっている。このため、日本への輸入の前提としては、

ウクライナ国内で IP ハンドリングが徹底される必要がある。

(4)情報の公開

産地情報や作付け種付け時期等の情報に加え、残留農薬の登録、基準、モニタリングの

実施体制等、実儒者がウクライナ産とうもろこし、大豆の輸入を検討する際に必要となる

情報の公開が必ずしも十分ではなく、情報へのアクセス改善が必要である。

また、上記のウクライナ側の課題に加え、日本側の消費者の嗜好も重要であり、消費者

が、ウクライナ産の大豆、とうもろこしを受け入れるか否かも日本向け輸出の判断材料の

一つに成ると考えられる。

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平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業

ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 6 章

6-1

6 結論

6.1 とうもろこし、大豆の生産・貿易動向と将来的な見通し

ウクライナ産とうもろこし、大豆の生産は堅調であり、今後もこの傾向は続くと考えら

れる。輸出については、とうもろこしは世界的なエタノール用の需要も見込まれており堅

調、大豆の生産については国内消費用が主であり、輸出については現在のレベルで推移す

ると予想されている。

6.2 海外農業投資受入に関する諸制度の調査と農業投資を行う上での問題

ウクライナの全般的な投資環境は世界水準から見て良好とは言い難いレベルにあり、特

に法制度の整備状況と執行状況に問題がある。また、農業投資に固有の問題点として、農

地リース契約に関わるリスクやウクライナ国内でのファイナンスが困難であること、また

突然の輸出割当規制等のリスクがある。こうした現在の環境下において、外国企業による

農業投資は、尐なくとも農地をリースし生産を行うというレベルではリスクが高いと言わ

ざるを得ない。長期的な穀物の確保という観点からは、地場の大規模アグロビジネスに対

する投資、あるいはこれら企業との定期的な取引の可能性を検討すべきと思われる。

6.3 ウクライナ産とうもろこし・大豆の品質とわが国実儒者の受入可能性

大豆

需要家は受け入れに積極的でなく、短期的には輸入拡大の可能性は極めて低いと思われ

る。ただし、豆腐用大豆及び味噌用大豆については、業界団体側に情報収集意欲があり、

輸入可能性の詳細検討に向けて、今後さらなる調査が望まれる。

具体的には、生産・流通段階における詳細な品質管理状況を把握する必要があるほか、

例えば、豆腐用大豆については一部品種(Cheremosh 種)の加工適性試験結果が相対的に

高いことから、トライアルで一定量を輸入し、詳細な成分分析、加工適性試験を実施しつ

つ、中長期的な輸入可能性を探ることが考えられる。味噌用大豆については、既存の品種

では品質の面で大きな問題があることから、新規品種もしくは種子のウクライナ側での導

入を働きかける必要がある。

とうもろこし

輸入実績のある飼料用については、一部の大手需要家が前向きな検討を開始しており、

短中期的に受け入れの可能性は低くない。品質の面では、水分及び粗蛋白質含有量の面で、

近年の米国産とうもろこしの品質を上回る結果が得られている。需要家の多くが懸念して

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 6 章

6-2

いた残留農薬についてもほぼ検出されておらず、今回のサンプルが一般的なウクライナ産

とうもろこしであるとすれば、品質及び安全性に特段の支障は無いと判断される。

長期的には、価格及び後述の GMO の問題に加えて、安定供給の実現が最大のイシュー

となる。仮に収穫月とその収穫量が大きく変動する状況にあれば「特定の時期のスポット

的な供給源」と判断せざるを得なくなるが、「ある時期に一定の収穫量が安定的に見込め

る」という状況であれば、輸入元にとって使い勝手の良い輸入相手先となる。

6.4 ウクライナにおけるとうもろころし・大豆に関する検査制度、品質管

理の現状、日本向け輸出に向けての改善すべき点

ウクライナでは、農業政策省傘下に、輸入種子のチェックを行う機関、農薬の使用・残

留農薬に関する基準策定・モニタリングを実施する機関、輸出穀物に対する輸出前の

GMO 検査を所管する機関等、検査や品質管理に係る様々な機関が存在している。農薬の

取り扱いについては、販売をライセンス制とし、販売可能な農薬についても許可制を導入

しており、販売・流通に関する管理制度は整備されている。農薬の使用についても、使用

計画の提出を義務付け、各地方に検査官を配し、モニタリングを行う制度を導入している。

また、残留農薬、重金属、微量毒物等については、最大許容基準を定めており、特に残留

農薬については、欧州や日本の基準より厳しい基準とも言われている。以上より、消費者

から見た食の安全性を確保する為の制度的枠組みは存在していると言える。しかし、実際

には、農薬の製造・販売に関する登録システムは機能しているが、登録後、企業の諸活動

に対するモニタリングは行われていないと言われており、生産者の農薬使用に関するモニ

タリングも、State Inspection of Plant Protection は全国に出張所を有しているが、検査官が絶

対的に不足しているため、農薬の使用実態に係るモニタリング活動は、現状、実質的には、

ほぼ行われていない状況にあるとの指摘がある。すなわち、とうもろころし・大豆に関す

る安全性を確保するための制度、基準は存在するが、制度の運用に課題がみられる。

日本の消費者の嗜好に関係する GMO については、ウクライナでは、制度的には、GMO

種子の使用は禁止されていない。しかし、政府の GMO 種子に対する承認が下りていない

ため、登録された GMO 種子は現状存在せず、実質的に、GMO 種子の使用は禁止されてい

る状況にある。制度面では使用が実質的に禁止されている状態ではあるが、実際には、生

産効率の面から生産者にとって魅力のある GMO 種子は、ウクライナ国内に流入しており、

大豆に関しては、作付面積の 50%以上、とうもろこしについては、作付面積の 15%程度

において GMO 種子が使用されているとの指摘がある。このように、実質的には GMO 作

物が存在する一方、ウクライナ政府により承認された GMO 種子が存在しないことから、

事実上 IP ハンドリング(分別生産流通管理)は実施されていないと想定される。日本向け

輸出を考えた場合、日本において認可された種子以外の種子で栽培された GMO とうもろ

こしが輸入物に混入していた場合、通常、輸出元へ全量返還となるため、IP ハンドリング

が徹底されていない状況下でのウクライナからの輸入は、輸入事業者にとって非常にリス

クが大きい。ウクライナ政府は、GMO 種子の使用を規制していく立場をとっており、検

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平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業

ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 第 6 章

6-3

査施設等の設置は進むものと考えられるが、日本への輸出を考えた場合、今後、検査体制、

ハンドリング体制(分別生産流通管理を実施するための体制)の整備が課題となる。

日本向け輸出については、安定供給や品質、インフラ、残留農薬等の安全性の問題、価

格競争力、IP ハンドリング(GMO との識別)、情報の公開の面で課題があると考えられる。

仮に安定供給や品質面で日本の実需者の要求に応えることができたとしても、GMO 種子

の使用に関する適切な管理・モニタリング、輸送コスト等、日本向け輸出に向けた重要な

課題は残っている98。このため、現時点では、積極的にウクライナ産大豆、とうもろこし

を継続的に輸入するインセンティブは低いと考えられる。但し、長期的な食料安全保障の

視点に立てば、米国、南米と異なる大陸に存在し、輸出余力のあるウクライナは、第三、

第四の供給地となり得る潜在力を秘めている。こうした潜在性に着目し、食料安全保障戦

略の一部として、毎年、尐量ずつウクライナ産大豆やとうもろこしを輸入するなかで、現

地の生産者やアグロビジネス企業との関係を強化し、日本人の嗜好や国内の残留農薬等各

種基準に合致する大豆、とうもろこしを安定的に栽培し得る素地を作ることも一案だと考

える。

98 なお燻蒸の問題については、有効な対策を採る企業も現れている。例えば SGS ウクライナ社は現在、

新しいタイプの燻蒸方法(燻蒸用タブレットを船倉内に散布する従来の方法ではなく、「燻蒸パイプ」と

呼ばれるパイプを船倉内に挿入して燻蒸ガスを送り込み、輸出船の航海途中の寄港地、例えばエジプト等

において残留物質とともにパイプを引き抜く方法)を導入している。同社によれば、同方法の採用後は日

本の顧客から残留ガスに関するクレームが来なくなった模様。

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付録

Appendix-1 ウクライナ現地調査の概要

Appendix-2 ウクライナにおける物流インフラの整備動向

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 付録

Appendix1-1

Appendix-1 ウクライナ現地調査の概要

現地調査日程

2010 年 10 月 26 日(火)-11 月 5 日(金)、計 11 日間 (大西副主任研究員)

2010 年 10 月 31 日(日)-11 月 6 日(土)、計 7 日間 (井ノ口研究員)

現地調査目的

農業関係政府機関(検疫、品質管理サービス機関を含む)、アグロビジネス企業(穀

物メジャー、現地企業の両者を含む)、農薬販売企業、種子販売企業、農業関連コン

サルティング企業、他国ドナー、本邦商社等に対するヒアリング実施および必要デー

タの収集

穀物輸出港の視察(オデッサ Port Silo 港およびユズニーBorivage 港の 2 港)

全体調査行程及びインタビュー先

Place to

Lodge

Onishi/

Inokuchi

26-Oct Tue On air Onishi Tokyo 11:50 -(NH207)- 17:00 Munich, Munich 19:25 -(LH3232)- 22:40 Kiev (Onishi)

27-Oct Wed Kiev Onishi16:00-17:45

UkrAgroConsult

28-Oct Thu Kiev Onishi10:00-11:30

Dragon Capital

12:30-13:15

UkrRos Agro Holding

14:00-15:15

Mriya Agro Holding

16:00-17:30

UkrSoya Association

29-Oct Fri Kiev Onishi10:00-11:00

Monsanto Ukraine

14:00-15:10

NCH Advisors Inc. (USA)

16:00-17:20

Vassma (Pesticide & seeds distributer)

18:00-19:00

UkrAgroConsult

30-Oct Sat Odessa Onishi14:30-17:30

SGS Ukraine Headquarters

31-Oct Sun Odessa Onishi10:00-12:15

Odessa Container Terminal

PM

Report preparation

Odessa Onishi10:00-11:40

Site survey at Odessa Port Silo

11:55-13:10

SGS Ukraine Headquarters

Kiev Inokuchi10:00-11:30

Ukrainian Agrarian Confederation

14:00-15:00

Arista LifeScience

14:00-15:00

Ukragroprom

Kiev Onishi07:40-08:45

Move from Odessa to Kiev by air

14:00-15:00

State Inspection of Grain

Production,Ministry of Agrarian Policy

Kiev Inokuchi10:00-11:00

IFC

14:00-15:00

Credit Agricole

Kiev Onishi10:00-11:10

Renaissance Capital

12:00-13:00

Kernel

14:00-15:10

UkrSoya Association

Kiev Inokuchi11:00-12:00

Hermes(Germes) Trading

14:00-14:40

Desnagrain

15:00-16:00

USAID

On air Onishi Move to Borispol Airport

Kiev Inokuchi12:00-13:00

Center for Land Reform Policy in Ukraine

14:30-15:30

World bank

16:00-17:00

Dragon Capital

5-Nov Fri On air Inokuchi

09:30-10:30

European Bank for Reconstruction and

Development (EBRD)

Move to Borispol Airport

6-Nov Sat - Tokyo

Kiev 13:45 -(AY6808)- 15:45 Helsinki, Helsinki 17:20 -(AY073)- 10:00 (+1)Tokyo

11:00-12:45

Ministry of Agrarian Policy of Ukraine

14:00-16:15

Site survey at Borivazh Grain Terminal of Yuzhny PortMon

16:00-17:30

Mitsubishi Corporation Kiev Office

11:35-12:45

Move from Kiev to Odessa by air

4-Nov Thu

10:00-11:30

State Plant Quarantine Inspection,

Ministry of Agrarian Policy

Kiev 17:10 -(LH2545)- 18:40 Munich, Munich 19:55 -(NH209)- 15:40 (+1)Tokyo

Date Survey Schedule

16:00-17:20

Marubeni Corporation Kiev Office

1-Nov

2-Nov Tue12:00-13:00

DUPONT

3-Nov Wed

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 付録

Appendix2-1

Appendix-2 ウクライナにおける物流インフラの整備動向

日本の実需者の多くが懸念している物流の問題は、現在大幅に改善されつつある。政府、

他国ドナー等のインフラ投資に加え、民間アグロビジネス企業による穀物関連インフラへ

の投資が近年活発化しており、最新のエレベータ、物流チェーン、輸出港を有する穀物メ

ジャー、国内アグロビジネス企業が増加している99。

内陸エレベータ

特に、ここ 5 年間で内陸エレベータの建設ブームが起きている。それまで輸出穀物の取

扱において大きな影響力を有していた Landcom、Kernel 等の国内大手アグロビジネス企業

が、自社の保有する内陸エレベータの利用料を大幅に値上げしたことがブームの遠因との

指摘がある100。

以下表は、ここ 3 年間のウクライナにおける穀物収穫量と内陸エレベータ保管能力の推

移を示したものである。穀倉地帯にあたるウクライナ中央部、南部、東部においてエレベ

ータの集積が進んでいる。特にポルタヴァ、オデッサ、キロヴォグラード、ハリコフ、ザ

ポロージェおよびドニエプロペトロフスクの計 5 州(Oblast)に、保管能力ベースでウク

ライナ全土の約 47%のエレベータが集中しており、特に 2007 年以降、オデッサ州および

ポルタヴァ州でのエレベータ建設が加速している。

図表 ウクライナにおける穀物収穫量と内陸エレベータ保管能力(直近 3 年間) 単位:1,000 トン

Oblast(州)名

2007年 2008年 2009年

穀物収穫量 エレベータ保

管能力 穀物収穫量

エレベータ保

管能力 穀物収穫量

エレベータ保

管能力

全国 35260,5 29920,1 63561,7 31467,9 55464,7 33455.7

AR クリミア 1291,5 1149,6 1829,2 1199,6 1739,2 1223,0

ヴィニツァ 1927,7 1718,8 3991,4 1748,8 3668,6 1755,2

ボルイン 586,9 230,8 752,2 230,8 678,9 247,5

ドニエプロペトロフスク 2351,4 2254,5 4687,7 2301,5 3724,4 2377,2

ドニエツク 1683,1 1386,3 3085,9 1401,3 2408,7 1496,7

ジトミル 774,9 543,5 1208,1 588,3 1354,3 640,4

Zakarpatye 303,9 55,0 319,3 55,0 305,3 55,0

ザポロージェ 1806,4 2040,5 3681,1 2080,5 2951,9 2113,5

イヴァノ・フランキフスク 308,1 200,2 424,2 200,2 439,9 216,3

キエフ 1983,1 1121,3 2910,1 1172,1 2794,3 1320,0

キロヴォグラード 1819,1 2380,3 4031,9 2440,3 3449,6 2525,9

ルガンスク 1206,5 1009,2 2117,6 1049,2 1477,5 1062,8

リボフ 636,1 219,7 895,2 24,7 916,0 266,0

ニコラエフ 959,6 1705,6 3126,0 1833,4 3102,0 1989,1

オデッサ 1479,8 2627,5 4324,5 2996,2 3279,8 3074,9

99 例えばウクライナ最大のアグロビジネス企業のひとつであるニブロン社が、ミコライエフにおいて輸出

港整備に係る投資を継続中。 100 農業コンサルティング大手 UkrAgroConsult に対するヒアリング結果

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 付録

Appendix2-2

Oblast(州)名

2007年 2008年 2009年

穀物収穫量 エレベータ保

管能力 穀物収穫量

エレベータ保

管能力 穀物収穫量

エレベータ保

管能力

ポルタヴァ 3403,1 2316,6 5205,7 2709,9 4555,4 3221,3

ロヴノ 603,4 325,8 840,7 325,8 788,0 336,5

スーミ 1405,9 1025,3 2557,6 1257,1 2183,4 1271,0

テルノポリ 1190,9 567,6 1780,8 567,6 1758,1 567,6

ハリコフ 2688,1 2162,3 4439,2 2162,3 3203,1 2365,4

ヘルソン 1183,9 1408,9 2881,1 1518,9 2288,7 1586,2

Khmelnitskiy 1360,0 1185,9 2093,2 1256,9 1967,1 1291,0

Cherkassk 2147,9 1388,4 3576,2 1414,6 3698,7 1488,1

Chernovitsky 447,4 212,3 538,0 212,3 550,4 212,3

チェルニゴフ 1711,8 684,2 2264,8 720,6 2181,5 752,8

出所:State Committee of Ukraine on Statistics

エレベータの所有者は、①国営企業、②国際的な穀物メジャーのウクライナ支社及び支

店、③ウクライナ企業(食品加工企業、物流企業、アグロビジネス企業等)の 3 種に大別

される。ウクライナ政府は現在、「穀物輸出インフラチェーン」への影響力を高めようと

しており、民間のエレベータ会社を政府系会社の傘下に収める動きが活発化している101。

ウクライナ最大のエレベータ所有者であり、国内マーケットにおける最強のオペレータ

は政府系合資会社 Khlib Ukrainy である。81 基のエレベータを保有しており、総保管能力

は約 580 万トンに上る。また同社は Odessa 港及び Mikolaev 港に港湾エレベータを有して

いる。

図表 ウクライナにおける国営内陸エレベータ会社と保管能力(2010 年現在)

国営企業名 保有エレベ

ータ総数

保管能力合計

(1,000 トン) エレベータの保有州(Oblast)

Khlib Ukrainy 81 5,780 全国

State Reserve 28 2,760 ボルイン、ドニエツク、Zakarpatye、ザポロージェ、イヴァノ・フラン

キフスク、キロヴォグラード、クリミア、ルガンスク、リボフ、ニコラエ

フ、オデッサ、ポルタヴァ、ロヴノ、スーミ、テルノポリ、

Khmelnitskiy、チェルカッスイ、チェルノフツィ、チェルニゴフ

出所:農業政策省

鉄道インフラ

他方、エレベータ等の保管施設や港湾施設と比べ、鉄道輸送インフラは依然として相対

的に貧弱であり、「輸出へのボトルネック」と指摘する声は多い102。具体的には「穀物輸

送用貨車が不足している」との指摘がある103。

101 農業コンサルティング大手 UkrAgroConsult に対するヒアリング結果 102 投資銀行および農業関係コンサルティング大手 UkrAgroConsult 等へのヒアリング結果 103 農業コンサルティング大手 UkrAgroConsult に対するヒアリング結果

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 付録

Appendix2-3

以下表はウクライナにおける鉄道車両の状況を示したものである。Ukrainian Railways の

試算によれば、2010 年 12 月末現在、約 41,000 輌の貨車が不足している。このうち、貨車

の車輌数全体の約 56%を占める多目的大型無蓋貨車の不足は深刻であり、老朽化等に伴い、

2010 年末には約 35,000 輌の不足が見込まれている。

穀物輸送用貨車は現在、稼動可能な車輌が約 12,000 輌あるとされているが、このうち約

80%の 9,000 輌のみがウクライナ国内で稼動しており、車輌数の不足は深刻である。この

貨車不足に起因し、農業企業等の顧客からの輸送オーダーの約 6%、月間 6 万トンの機会

損失が発生しているとされる。Ukrainian Railways は以前に約 1,000 輌の機関車輌の調達を

計画していたが、2009 年には機関車輌を含む新規車輌の購入を休止するに至っている。

図表 ウクライナにおける鉄道貨車の状況(2009 年及び 2010 年)

貨車タイプ 稼動可能車輌数

(2009年末)

稼動可能車輌数

(2010年末、見込み)

多目的大型無蓋貨車 53,454 42,119

石油輸送貨車(4軸) 5,141 5,075

タンク貨車(8軸) 98 152

穀物輸送用貨車 10,843 11,687

セメント輸送ホッパー 2,723 2,822

有覆貨車 9,939 9,874

平台貨車 3,388 3,903

合計 85,586 75,632

出所:Ukrainian Railways データより作成

なお鉄道・トラックに替わる輸送手段として、バージを利用したドニエプル川の河川輸

送を模索する動きが見られる。バージによる河川輸送は、輸送コストの面で「最も理想的

なオプション」と指摘する専門家は多い104。国内の大手アグロビジネス企業ニブロンがト

ライアルで輸送を開始している(23 隻のバージを保有している模様)。他方で河川水深の

問題(大型船の利用は困難)、ドニエプル川の中流域に存在する多数の大規模ダムの老朽

化(それに伴う船舶河道の老朽化)等の懸念が指摘されている。

港湾施設・港湾エレベータ

ウクライナには 18 の主要港が存在し、このうちイリチェスク、オデッサ、ミコライエ

フ、ユズニー、ヘルソン(カールソン)、イズマイル、ベルジャンスク、マリウポリ、

Bilhorod-Dnistrovsky、レーニ、ケルチ、Ust-Dunaysk、Skadovsk、フェオドシヤおよびセバ

ストーポリの計 15 港が、穀物輸出及び穀物トランジット貨物の取扱実績を有している。

上記 15 港のうち、穀物の主要輸出港はイリチェスク、オデッサ、ミコライエフ、ユジ

ュニー、ヘルソン、セバストーポリの 6 港である。2009 年度の穀物輸出高はこの 6 港の合

104 投資銀行および農業関係コンサルティング大手 UkrAgroConsult 等へのヒアリング結果

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ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 付録

Appendix2-4

計で約 1,900 万トンに上っており、港湾からの全穀物輸出高の 93%を占めている。なかで

もヘルソン、セバストーポリの 2 港は 2009 年の取扱高が 2005 年の 2 倍以上、ミコライエ

フ港に至っては約 3.4 倍となっている。

図表 ウクライナ港湾の穀物取扱高(トランジット貨物を含む) 単位:1,000 トン

港湾名 2005/06 2006/07 2007/08 2008/09 2009/10

イリチェスク Illichivsk 2,433 1,639 1,140 4,379 3,438

オデッサ Odesa 2,640 2,539 1,483 3,732 3,300

ミコライエフ Mykolaiv (seaport)

+ ミコライエフ Mykolaiv (ニブロン) 1,781 1,948 1,456 4,585 6,035

ヘルソン Kherson (seaport)

+ ヘルソン Kherson grain products plant 505 733 653 1,382 1,072

ケルチ Kerch seaport

+ ケルチ Kerch fishing 71 154 120 212 230

Kilija - - - - 21

ベルジャンスク Berdyansk 204 124 74 389 455

ユズニーYuzhny 2,825 2,155 1,947 4,884 3,666

セバストーポリ Sevastopol 673 265 164 3,059 1,669

マリウポリ Mariupol 297 233 65 840 516

イズマイル Izmail 46 n/a 3 101 64

Bilhorod-Dnistrovsky n/a n/a 3 6 6

Ust-Dunaysk 198 64 n/a - 3

レーニ Reni 284 102 56 168 126

合計 11,980 9,953 7,164 23,875 20,600

出所:Committee of Ukraine on Statistics

内閣通達(The Cabinet of Ministers‟ resolution)によれば、ベルジャンスク、ゲニチェス

ク、Skadovsk、Bilhorod-Dnistrovsky、Yuzhny およびヘルソンの各港において、既に整備さ

れているバース及び穀物エレベータの拡張及び新規建設に係るプロジェクトが計画されて

いる。これらプロジェクトにより 2017 年までにウクライナ港湾の穀物取扱能力は、現行

の年間 3,500 万トンから同・6,500 万トンに倍増する(以下左図)。

Ukraine. Grain Handling Capacities Extension Plans, MMT

0

10

20

30

40

50

60

70

1998/99 2000/01 2002/03 2004/05 2006/07 2007/08 2008/09 2009/10 2010/11* 2011/12* 2012/13* 2013/14* 2014/15* 2015/16*

Ukraine. Comparison of Ports' Capacities and Grains

Handling, 1998-2010, MMT

0

5

10

15

20

25

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35

40

1998/99 2000/01 2002/03 2004/05 2006/07 2007/08 2008/09 2009/10

grain handling capacities actual grain handling

出所:Ministry of Transport and Communications of

Ukraine

図表 ウクライナ港湾の穀物取扱能力

出所:Ministry of Transport and Communications of

Ukraine

図表 ウクライナ港湾の供給余力

Page 37: 4 ウクライナ産大豆・とうもろこしの品質とわが国 …...平成22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討業 ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析

平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業

ウクライナにおける農業投資関連情報の調査・分析 付録

Appendix2-5

Ministry of Transport and Communications of Ukraine のデータによれば、過去 10 年間にお

いて、ウクライナ港湾の穀物取扱キャパシティは輸出需要を大きく上回り、2008 年度を除

いて平均 50%程度の余裕度を確保している(上記右図)。

今回の現地調査では、ユズニー湾内に新設された Borivage 港を視察した。同港は 2009

年にオペレーションを開始、最新式のエレベータ、保管施設、港湾荷役施設を有しており、

パナマックス級船舶の寄航も可能である。このようにウクライナでは近年、港湾設備の新

設・増強が続いており、ミコライエフ港においても、浚渫工事により、パナマックス級船

舶の入港、積み込みが可能となっている。