24
31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リスクの評価 気候シナリオデータを、統計的にダウンスケーリングおよびバイアス補正を行い解析した結果、や ませ型の気圧配置の出現には、現在観測値と類似した季節変化が見られることが明らかになった。 さらに、幼穂形成前2週間の水温の変動が、水稲の穂ばらみ期耐冷性に強く作用することを明らか にすることができ、温暖化後の作付け体系構築に寄与する成果が得られた。 農研機構 東北農業研究センター 神田英司・菅野洋光,岩手大学 下野裕之 気候シナリオデータ(MIROC)を統計的に1kmメッシュにダ ウンスケーリングし、バイアス補正を行った。解析の結果、 東北地方夏季気温は太平洋側で相対的に昇温量が大きい こと等、いくつかの知見が得られた。図1には東北地方に冷 夏をもたらす “やませ”の発現インデックスPDWS(稚内と仙 台の気圧差)20102100年までの時間変化を示す。夏 季に値が高いのは現在気候と同様だが、6月の値が低め に、9月が高めにシフトしているようにみえ、今後の“やま せ”吹走時期の変化に監視が必要である。 70 2008 年次 冷害誘導処理 あり なし 2008 年次 冷害誘導処理 あり なし 図1:MIROCによる地上気圧差(稚内 -仙台)の時間変化(20102100年). 幼穂形成以前(移植から幼穂形成)の水温が穂ばらみ期の 耐冷性に影響することを明らかにした。穂ばらみ期の冷害誘 導による不稔発生は幼穂形成以前の水温が高いほど少な く、低いほど多かった(図2)。これにより、幼穂形成以前の水 温が高いほど耐冷性を高めることが明らかとなった。さらに、 耐冷性への影響は幼穂形成3週間前~1週間前の水温の影 響が大きいことを明らかにした。 図2:幼穂形成以前の長期の水温(移 植~幼穂形成)と不稔歩合の関係 冷害処理あり y = -2.7959x + 97.981 R2 = 0.7235 冷害誘導なし 0 10 20 30 40 50 60 18 20 22 24 26 28 30 不稔率(%) 移植から幼穂形成までの水温(℃) 2008 2009 2008 2009 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 地上気圧差(稚内-仙台)

31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

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Page 1: 31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リスクの評価

気候シナリオデータを、統計的にダウンスケーリングおよびバイアス補正を行い解析した結果、や

ませ型の気圧配置の出現には、現在観測値と類似した季節変化が見られることが明らかになった。

さらに、幼穂形成前2週間の水温の変動が、水稲の穂ばらみ期耐冷性に強く作用することを明らか

にすることができ、温暖化後の作付け体系構築に寄与する成果が得られた。

農研機構 東北農業研究センター 神田英司・菅野洋光,岩手大学 下野裕之

気候シナリオデータ(MIROC)を統計的に1kmメッシュにダ

ウンスケーリングし、バイアス補正を行った。解析の結果、

東北地方夏季気温は太平洋側で相対的に昇温量が大きい

こと等、いくつかの知見が得られた。図1には東北地方に冷

夏をもたらす “やませ”の発現インデックスPDWS(稚内と仙

台の気圧差)の2010~2100年までの時間変化を示す。夏

季に値が高いのは現在気候と同様だが、6月の値が低め

に、9月が高めにシフトしているようにみえ、今後の“やま

せ”吹走時期の変化に監視が必要である。

702008 ● ○

年次 冷害誘導処理あり なし

2008 ● ○

年次 冷害誘導処理あり なし

図1:MIROCによる地上気圧差(稚内-仙台)の時間変化(2010~2100年).

幼穂形成以前(移植から幼穂形成)の水温が穂ばらみ期の

耐冷性に影響することを明らかにした。穂ばらみ期の冷害誘

導による不稔発生は幼穂形成以前の水温が高いほど少な

く、低いほど多かった(図2)。これにより、幼穂形成以前の水

温が高いほど耐冷性を高めることが明らかとなった。さらに、

耐冷性への影響は幼穂形成3週間前~1週間前の水温の影

響が大きいことを明らかにした。

図2:幼穂形成以前の長期の水温(移植~幼穂形成)と不稔歩合の関係

冷害処理あり

y = -2.7959x + 97.981

R2 = 0.7235

冷害誘導なし

0

10

20

30

40

50

60

18 20 22 24 26 28 30

不稔

率(%

移植から幼穂形成までの水温(℃)

2008 ● ○2009 ▲ △2008 ● ○2009 ▲ △

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

地上気圧差(稚内-仙台)

Page 2: 31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

31020 近年の温暖化が暖地における水稲の収量・品質変動に与えている影響の実態解明

暖地における、過去30年間の長期作況試験データと気象データを解析した結果、出穂日数は早期、普通期ともに短期化していることが明らかにされた。また、品質に影響を与える登熟気温は、登熟期のシフトによって、バックグラウンドの気温上昇よりも早期では緩やかに、普通期では急勾配で上昇している傾向がみられた。

農研機構 九州沖縄農業研究センター 丸山篤志・脇山恭行

出穂

日数

出穂

日数

657075808590

50

55

60

65

70

75

80

コシヒカリ(宮崎) -7.5日

日本晴(宮崎) -0.1日

ヒノヒカリ(宮崎) -2.5日

出穂

日数

6570758085

コシヒカリ(薩摩) -8.8日

日本晴(筑紫) -4.2日

ヒノヒカリ(筑紫) -4.0日

出穂

日数

80

60

65

70

75

出穂

日数

1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 201060

65

70

75 ヒノヒカリ(宮崎) -2.5日 ヒノヒカリ(筑紫) -4.0日

出穂

日数

1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 201065

70

75

+3.1**+1.5**+3.0**+1.4**+0.5+0.5登熟期気温(℃)

+2.1*+1.3**+2.1*+1.3**+1.0**+0.8月平均気温(℃)

-1.5**+1.5-3.0**-0.8-1.0+1.0登熟日数(日)

-4.0**-2.5*-4.3**-0.1-8.8**-7.5**出穂日数(日)

筑紫宮崎筑紫宮崎薩摩宮崎

ヒノヒカリ日本晴コシヒカリ項目

+3.1**+1.5**+3.0**+1.4**+0.5+0.5登熟期気温(℃)

+2.1*+1.3**+2.1*+1.3**+1.0**+0.8月平均気温(℃)

-1.5**+1.5-3.0**-0.8-1.0+1.0登熟日数(日)

-4.0**-2.5*-4.3**-0.1-8.8**-7.5**出穂日数(日)

筑紫宮崎筑紫宮崎薩摩宮崎

ヒノヒカリ日本晴コシヒカリ項目

図:過去30年間の気温上昇による暖地水稲の出穂日数の変化(早期水稲では7~9日、普通期水稲では0~5日の短期化)

表:過去30年間の気温上昇による発育日数と登熟気温の変化傾向(品質に影響を及ぼす登熟気温は、早期水稲では7月の平均気温よりも緩やかに上昇、

普通期水稲では9月の平均気温よりも急勾配で上昇している。)

※*p<0.5, **p<0.01 (Mann-Kendall検定による)

Page 3: 31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

31030 小麦作に対する温暖化の影響解明と評価法の開発

温暖化により、日本の小麦作の問題点である作況・品質の変動が顕著になることが懸念されている。1983~2005年(産)の作物統計データ、気象データを解析した結果、播種期の遅れ、品種の変化、気温の上昇により全国的に作期が短縮していることが明らかになった。収量は登熟期間の日射、気温、降水量に左右され、気温の上昇と降水量の増加により収量が低下することが予想される。

農研機構 中央農業総合研究センター 中園 江

-5

0

5

10

15

20

北海道 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 静岡 愛知 三重 兵庫 福岡 長崎 大分

短縮

日数

(日

播種期 品種 気温の変化

図1:県別の作期の短縮日数とその要因

1983~2005年の作期(播種から出穂までの日数)の短縮日数を、1983~2005年の作期(播種から出穂までの日数)の短縮日数を、①播種期の遅れ ②品種の変化 ③気温の上昇の要因別に分割した。関東から近畿にかけて、作期の短縮に気温の上昇が大きく寄与している。

図2:登熟期間の平均気温および降水量と気候登熟量示数の関係

登熟期間は出穂後50日間とする。降水量の曲線は50mm毎に求めた 大値を回帰したものである。

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

12 14 16 18 20 22 24

収量

/日

射量

(g/M

J)

出穂後50日間の平均気温(℃)

北海道

東北

関東

東海

近畿

九州

気温

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

0 200 400 600 800

収量

/日

射量

(g/

MJ)

出穂後50日間の降水量(mm)

降水量

Page 4: 31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

31040 ダイズ生産に及ぼす温暖化の影響評価

寒冷地(盛岡)と暖地(京都)においては、ダイズの子実肥大に及ぼす気温上昇の影響が異なった。寒冷地では3℃程度の気温上昇は子実肥大速度に影響しなかったが、暖地では、気温上昇により子実肥大速度が低下し、子実が小粒化した。

農研機構 東北農業研究センター 鮫島良次,京都大学 白岩立彦

0

5

10

15

20

100

子実

乾物

重(g

/ p

lant)

エンレイ

エンレイ

スズユタカ

スズユタカ

傾きが肥大速度

外気温+3.4℃(温暖化条件)外気温+2.0℃(温暖化条件)外気温+0.4℃(現在の気温)

70

80

90

100

110

120 1粒重粒肥大期間粒肥大速度

相対

値(%

210

220

230

240

250

260

270

280

0.01

0.1

1

10

210

220

230

240

250

260

270

280

子実

乾物

1月1日からの日数

エンレイ スズユタカ

寒冷地における子実肥大の推移上図と下図は同じデータ。下図は子実肥大初期の

相対速度(RGR)に注目するため、対数目盛で表示。(温度勾配チャンバーによる実験)

傾きが相対肥大速度

暖地における子実肥大への気温の影響(エンレイ)外気温での生育に対する相対値(温度勾配チャンバーによる実験)

60

外気

+1.

2

+2.

1

+2.

8

外気温との差(℃)

Page 5: 31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価

食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。食用イネの移植は、高温登熟による品質低下回避と収量確保の面で5月中旬~末までが適する。多用途イネは、一部の極早生品種を除き、多収を確保する上で5月初旬までの早植えが適する。両者の収穫時期、乾燥施設利用が競合しない品種・作期構成をシミュレーションした。温暖化が続く場合、食用イネの作期後退と多用途イネの作期前進が予想され、収穫競合は強まる恐れがある。

農研機構 中央農業総合研究センター 松村 修

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

粗玄

米収

量(g

/㎡

)

北陸193号

北陸218号

夢あおば

アキチカラ

8/4

8/9

8/17

8/29

9/13

8/19

9/1

9/10

※シンボル横の数値は 北陸193号の出穂期

55.0

60.0

65.0

70.0

75.0

80.0

85.0

90.0

95.0

玄米

整粒

率(%

ひとめぼれ

あきたこまち

コシヒカリ

1等米基準70%以上

県等の目標80%

出穂が早い、気温高い

ハナエチゼン(高温登熟耐性品種)

図1:食用イネの登熟気温と玄米整粒率

食用イネは登熟気温が高いと玄米品質が低下する。耐性品種を除き遅植え作期が適する(試験地で5/15以降)。

図2:多用途イネの登熟歩合と収量多用途イネは登熟気温が低いと登熟歩合が

低下し減収する。早植えして出穂を前進させる作期が適する(試験地で5/初旬)。

図3:早植え多用途イネと遅植え食用イネの収穫競合シミュレーション結果競合しない多用途イネの品種と利用方法(サイレージ用、籾用)が判別できる。

0

100

30 40 50 60 70 80 90 100登熟歩合(%)

北陸193号(2007)

ハナエチゼン

あきたこまち

コシヒカリ

←  食用水稲と多用途水稲の収穫競合期間  →

夢あおば

ホシアオバ

北陸193号

リーフスター (WCS専用)

籾収穫期 ※出穂後積算気温から想定される食用品種収穫時期(収穫始から10日間)

籾収穫期(多用途追加)※食用品質が問題とならない多用途稲で+10日間想定)

WCS収穫期 ※黄熟期(出穂前10日)~籾収穫までとした場合

~9/20 10/1

5/15移植

5/1移植

8/11 8/20 8/31 9/10

50.0

55.0

24.0 24.5 25.0 25.5 26.0 26.5 27.0 27.5

出穂後30日間の日平均気温

ハナエチゼン

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31060 温暖化・高CO2環境がイネ生産過程に及ぼす複合的影響の解明

大気CO2増加(+200ppm)と水・地温上昇(+2℃)がイネの生理に及ぼす影響を岩手県雫石町の開放系水田条件で調べたところ、両処理ともに生育初期に60~70%もの大きな成長促進効果が現れた。生育とともにその効果は低下したが、穂数や一穂籾数の増加を通して約20%増収した。ただし、水温単独では、有意な増収効果は認められなかった。CO2増加の影響が品種によって異なるかを調べたところ、大粒系の秋田63号が多収で、かつCO2応答が大きいことがわかった。チャンバー実験で夜温上昇の影響を調べたところ、夜温は乾物生産は低下させなかったが、不稔を誘発させること、その発生温度は28~30℃程度と開花時の高温不稔とは大きく異なることがわかった。高温でも安定的な受粉を得るための形質として、葯の裂開長(頂部と基部)の大きさが重要な役割をはたすことを熱帯を含む水田条件で確認した。温暖化影響評価、適応技術のシーズとして重要な情報である。

農業環境技術研究所 長谷川利拡・吉本真由美・酒井英光・福岡峰彦,農研機構 東北農業研究センター 鮫島良次・兼松誠司,岐阜大 松井 勤,岩手大 岡田益己,国際イネ研究所

到穂日数

穂数

一穂籾数

m2当籾数

登熟歩合

FACE加温 0 200 400 600 800

秋田63号

タカナリ

あきたこまち

精玄米収量 (gm-2)

0

20

40

60

80

25 26 27 28 29 30 31

夜温(℃)

不稔

率(%

) 初星

コシヒカリ

ひとめぼれ

夜温**; 品種 **

夜温(℃)

不稔

率(%

)

40

50

60

70

80

90

100

200 300 400 500

y = 0.155x + 15.79r = 0.827*

葯基部裂開長(μm)

稔実率(%)

図1:2ヵ年の開放系CO2増加(FACE)、加温実験における収量および収量構成要素の処理による増加率(それぞれ、標準CO2区(Ambient)あるいは無加温区に対する相対値。横棒は95%信頼区間。)

図2:2ヵ年のFACE実験で供試した5品種の精玄米収量(横棒は標準偏差。)

図3:クライマトロンチャンバーを用いた開花直前からの夜温処理が水稲3品種の不稔率に及ぼした影響(ただし、夜温処理は20:00~4:00で、昼温はいずれも32℃。縦棒は標準偏差。**は処理の効果が1%水準で有意であったことを示す。)

図4:中国湖北省荊州の屋外水田で、気温33℃、相対湿度77%、風速約0.6ms-1、日射量650Wm-2前後の条件で開花したインディカF17品種の稔実率と葯の基部裂開長の関係(*は回帰直線が5%水準で有意であることを示す。)

P<005

登熟歩合

千粒重

収量

処理による増加率(%)

FACEAmbient

あきたこまち

コシヒカリ

IR72

FACEAmbient

FACEAmbient

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31070 温暖化・大気CO2濃度の上昇が水稲の収量・品質に及ぼす影響のモデル評価

土壌-作物系の物質代謝に加えて、群落微気象ならびに栽培管理・稲体生理要因を取り入れたイネの成長・収量・品質モデルが構築された。これにより、これまで十分考慮できなかった窒素管理の影響を含めたイネの生育・収量・品質予測が可能となった。環境応答の遺伝的変異についても考慮できる。

農業環境技術研究所 桑形恒男・長谷川利拡・吉本真由美・麓 多門,石川県立大学 中川博視

図1:イネの成長・収量・品質モデルの構造

品質予測モデルと群落微気象モデルは、イネ成長・収量モデルと結合して計算を実施することができる。

光合成光合成

窒素吸収窒素吸収

乾物生産乾物生産LAILAI葉身窒素量葉身窒素量

窒素要求窒素要求

呼吸呼吸

稔実稔実

登熟登熟

(イネ成長・収量モデル)

水温水温

(群落微気象モデル)

穂温穂温

乳白粒発生率乳白粒発生率

(品質予測モデル)

気温、CO2濃度

日射量、湿度、風速

(炭水化物量)(タンパク量)

光合成光合成

窒素吸収窒素吸収

乾物生産乾物生産LAILAI葉身窒素量葉身窒素量

窒素要求窒素要求

呼吸呼吸

稔実稔実

登熟登熟

(イネ成長・収量モデル)

光合成光合成

窒素吸収窒素吸収

乾物生産乾物生産LAILAI葉身窒素量葉身窒素量

窒素要求窒素要求

呼吸呼吸

稔実稔実

登熟登熟

光合成光合成

窒素吸収窒素吸収

乾物生産乾物生産LAILAI葉身窒素量葉身窒素量

窒素要求窒素要求

呼吸呼吸

稔実稔実

登熟登熟

(イネ成長・収量モデル)

水温水温

(群落微気象モデル)

穂温穂温

水温水温

(群落微気象モデル)

穂温穂温

乳白粒発生率乳白粒発生率

(品質予測モデル)

乳白粒発生率乳白粒発生率

(品質予測モデル)

気温、CO2濃度

日射量、湿度、風速

気温、CO2濃度

日射量、湿度、風速

(炭水化物量)(タンパク量)

-0.6-0.4-0.200.2

旭川

秋田

水戸

富山

松本

松江

佐賀

鹿児島

移植~出穂日数の変化率(日/年)

実測値

推定値

****

**

*ns

nsns

nsns

*+

+*

**

収量

品質

窒素供給窒素供給

土壌モデル(DNDC)

乳白粒発生率乳白粒発生率

背基白粒発生率背基白粒発生率施肥・有機物管理

施肥・有機物管理

収量

品質

窒素供給窒素供給

土壌モデル(DNDC)

窒素供給窒素供給

土壌モデル(DNDC)

乳白粒発生率乳白粒発生率

背基白粒発生率背基白粒発生率

乳白粒発生率乳白粒発生率

背基白粒発生率背基白粒発生率施肥・有機物管理

施肥・有機物管理

図2:背基白粒発生率と玄米タンパク質濃度との関係

δBBは高温登熟量で、出穂期以降の気温(or穂温)の関数。実線はイネ品質モデルでの関係式。「石川農総研2007年」は小谷ら(未発表)のデータ。

図3:移植~出穂日数の変化率の実測値(1980年頃~2005年)とイネ成長・収量モデルによる推定値

旭川はきらら、秋田はあきたこまち、その他はコシヒカリ。佐賀は普通期作、鹿児島は早期作。***, **, *, +は変化率の有意性(有意水準: 0.1,1, 5, 10%)、nsは有意性なし。

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32010 親潮域・混合域における海洋環境と低次生態系のモニタリングと影響評価

親潮・混合域の観測定線(Aライン)のモニタリングを実施し、①長期の時系列データのモデルの課題への提供、②実測データに基づくモデル出力の評価と改良点の提案、③データ解析による同海域の海洋環境・低次生態系要素の季節・経年変動特性及び長期変動の特性解明とその変動要素の特定等を行った。

水産総合研究センター 北海道区水産研究所 小埜恒夫

・取得データの提供・広報(HP) ・観測データに基づくモデルの評価・改善点提案

Aラインのモニタリング観測データを公開。総計15万件以上のアクセスを記録。

成果の効率的なアウトリーチに貢献した。(平成18年1月から平成21年12月までの実績)

動物プランクトン現存量が観測値とほぼ1:1対応している、類例のない程に再現精度の高いモデルの構築に貢献。

図1:A-ラインデータ公開HP画面

図2:Aライン上の観測点A9点の動物プランクトン観測結果とモデル計算値の比較結果

・観測データの解析に基づく、親潮・混合域の低次生態系経年変動の機構解明

[成層化仮説」および「ブルーム早期化仮説」という二つの仮説を提唱

し、これによって海洋環境から主要カイアシ類に至る全ての栄養段階の経年変動を、統一的に説明することに成功した。

10

100

1000

10000

70 75 80 85 90 95 100

y = 3304.8 * e^(-0.026727x) R= 0.45412

Tota

l C

hla

(mg

m-2)

YEAR

WINTER

SPRING

SUMMER

AUTUMN

Oya

図3:親潮域のケイ藻類の現存量の変化(春季の現存量が減少傾向にある。)

親潮域 混合域

図5:親潮域・混合域のC2およびC5ステージの主要3種のカイアシ類現

存量の経年変化(種毎に影響の受け方が異なる。)

4.2

4.4

4.6

4.8

5.0

5.2

5.4

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

temporal variation of the timingof seasonal mixed layer development

T30T50

T30

& T

50

year

図4:成層の早期化(1980年代以降

成層構造の形成時期が早期化している(5月初旬から4月末へ)。)

1970 2005

5月

4月

Page 9: 31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

32020 黒潮域・黒潮続流域における海洋環境と低次生態系のモニタリングと影響評価

イワシやサンマなどの浮魚類の産卵場、仔稚魚の成育場となっている黒潮の生態系の現状と変動を把握し、温暖化がもたらす影響を明らかにするため、横断する観測線Oラインにおいて毎年各季節の詳細な海洋環境観測を行った。主な観測項目は水温、塩分、栄養塩、クロロフィル、植物プランクトン、バクテリア、微小動物プランクトン、ネット動物プランクトンであり、特に微小生物による生産が重要な海域と考えられるため、これらの現存量を組成別に測定した。冬季の混合層厚の増大に伴い、冬季―初春季の基礎生産量の増加が毎年観測されたが、黒潮流路の蛇行パターンの変化などに起因すると考えられる年変動が認められた。

水産総合研究センター 中央水産研究所 杉崎宏哉

O-line

Kuroshio

図1:観測線Oライン(138°E)

黒潮大蛇行期

図2:Oライン上の黒潮内測点(34°N)の硝酸+亜硝酸濃度の経時変化(200m以浅のプロファイル)2004年後半から2005年前半の黒潮大蛇行期に栄養塩濃度の低下が認められた。

観測

ChaetocerosCoscinodiscusLeptocylindrusRhizosoleniaThalassiosiraothers_cent

300

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-500

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-500

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-500

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-500

Dinoflagellates

naked Cilliates

Tintinnids

Nauplius larvae

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-100-50

0

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-100-50

0

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-100-50

0

37987 38352 38717 39082 39447 39812

-100-50

0

0.80.8

5.6

1.6

1.63.2

6.0

1.01.01.0

1.0

3.0

1.0 2.0 3.04.0

1.0

2.02.0

0.320.240.160.16

0.08 0.080.080.16

2.8 3.2 2.82.8

2.42.0

1.62.0

1.2

0.4

0.8

0.4

0.81.0

0.20.2

0.4

2.0

2.4

1.6 0.4

0.4

0.80.8

0.4

0.8

0.6

0.1 0.1 0.10.10.2

0.1

0.4

0.1

1.00.4

0.80.8 0.4 0.4

0.40.4 0.4

0.20.20.2

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2004 2005 2006 2007 2008 2009

Year

Dep

th (m

)

図5:Oライン上の黒潮内側点(34°N;左)と外側点(30°N;右)の微小動物プランクトン現存量(mgC/m3)の経時変化(表面光量の1%深度以浅のプロファイル)2005年と2007年に高い現存量が認められた。

図4:低次生態系モデルCHOPEで得られたOライン上の黒潮内側点(34°N;上)と外側点(30°N;下)における植物プランクトンのコンパートメント(PS,PM,PLc,PLp)の総和から得られた混

合層内クロロフィル濃度の平均値と観測値の経時変化

モデルの再現性の

検討

others_centCylindrothecaNitzschiaThalassiothrixothers_pennate

0

50

100

150

200

250

2002 2003 2004 2005 2006 2007

year図3:春季黒潮内側点(34°N)の珪藻組成の年変動

0

0.2

0.4

0.6

0.8

Ch

l (m

g/

m3)

CHOPE

Chla Obs

2002 2003 2004 2005 2006

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

Chl

(mg/m

3)

CHOPE

Chla Obs

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32030 東シナ海における海洋環境と低次生態系のモニタリングと影響評価

東シナ海温暖化観測線(CK線)において、海洋環境と微細藻類を含む低次生態系のモニタリングを実施した。既存モニタリングデータの整理を行い、モニタリングデータのデータベースを構築した。また、このデータベースの解析により、冬季の鉛直混合の低下は表層への栄養塩供給を低下させるだけでなく、窒素とリン酸の供給比にも影響を及ぼすことを示した。観測データとモデル出力との比較検討を行い、モデルの精度向上に貢献した。

水産総合研究センター 西海区水産研究所 長谷川徹

東シナ海温暖化観測線(CK線)

における海洋環境と低次生態系のモニタリングの実施

モニタリングデータの取得とデータベース化

図1:CK線上の観測点(丸)

Julian day

100 200 300

Chl

.a (m

g/L)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5T-PhytPSPMPLcPLpT-ChlGFF<22<10>10

モニタリングデータの取得とデータベース化

Mixed layer depth (m)

0 50 100 150 200

PO43-

( mM

)

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

Y = 0.001X+0.15R2 = 0.63, p < 0.001

0 50 100 150 200

N:P

ratio

10

11

12

13

14

15

Y = 0.012X + 12R2 = 0.48, p < 0.001

モデル課題へのデータの提供 モデル出力の評価

データ解析による短・中期的変動の把握

図2:Chl aから見積もった植物

プランクトンのサイズ別データ(小型、中型、大型)のモニタリング(丸)とモデル(線)の比較

図3:冬季の表層混合層深度と水深10mのリン酸および硝酸(N):リン酸(P)比の関係(混合層が浅いと栄養塩が少なくなるだけでなく、NP比が小さくなることがわかった。)

全量

小型中型大型(I)大型(II)

全量小型

中型

大型(I+II)

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32040 沖合域における海洋生態系モデルの高度化と水産業への温暖化影響評価技術の開発

日本周辺域高解像度海洋低次生態系モデルを開発、改良し、極めて現実に近い植物プランクトン現存量変動を再現できるモデルが完成した。このモデル上でサンマの成長・回遊を計算することが可能となった。種々の開発したモデルを用いて、地球温暖化の影響評価を行い、植物プランクトン春季ブルームの早期化、サンマの小型化および尾数増大、マイワシの産卵場の移動を示した。

水産総合研究センター 東北区水産研究所 伊藤進一・齊藤宏明,中央水産研究所 亀田卓彦・奥西 武・高須賀明典,東京大学 小松幸生,北海道大学 山中康裕

図1:海面クロロフィル濃度(植物プランクトン現存量に対応)のモデル出力例。

日本周辺域高解像度高解像度海洋低次生態系モデルC-HOPE-eNEMUROを開発。モニタリングデータとの

比較による改良で、植物プランクトン現存量変動を現実に近い形で再現できるモデルが完成した。

図2:春季ブルームがピークに達する時期の経年変化青:モデル、赤:衛星データ。

(mgChl-a/L)

青:モデル、赤:衛星データ。

春季ブルーム(春季に爆発的に植物プランクトンが増殖する現象)の発生時期の高い再現性。

図3:マイワシ成長-回遊モデルで計算された現在(左)と温暖化条件下(右)でのマイワシの分布

カラーは密度を示し、暖色系ほど多いことを示す。温暖化時には餌が減少するが、マイワシは北上回遊を緯度で1~2°程度北に移動することによって餌不足を補い、産卵場を北に移動することによって再生産への悪影響も補償することが予想された。

020406080

100120140

2/1

4/1

6/1

8/1

10/1

12/1 2/1

4/1

6/1

8/1

10/1

12/1 2/1

体重2050年体重2000年

図4:サンマ成長-回遊モデルで計算された現在と温暖化条件下2050年でのサンマの体重(g)の季節変化

温暖化時には、餌料プランクトンの減少により、サンマの体重が減少することが予想された。一方、温暖化時には、回遊範囲が変化し、産卵期に餌の多い海域で過ごす期間が長くなり、産卵量が現在よりも増えることが予想された。

1/1か

らの

起算

体重

(g)

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32050 ニシン及びマツカワを代表種とした寒海性魚類の地球温暖化の影響評価と増養殖技術の開発

ニシンの栽培漁業では、通常は大型種苗の後期放流が有効であるが、放流時水温が高温化した場合には小型種苗の早期放流が有効である。これは、高温ほど必要餌量が増加するためである。マツカワの養殖においては、20℃以上では群平均成長速度が低下するが、稚魚期に高温負荷条件下で短期間飼育し、成長良好個体を選別すると高温でも高成長を示す群を作り出せる。

水産総合研究センター 北海道区水産研究所 安藤 忠・村上直人・白藤徳夫,宮古栽培センター 長倉 義智, 本部 大河内裕之

0

10

20

30

40

H18 H19

放流年度

回収率(%)

早期小型群

中期中型群

後期大型群

-4

-2

0

2

4

0 1 2 3 4

給餌率(%体重)

成長(

%体

重)

10℃ 15℃ 20℃

図1:厚岸H18、H19比較放流群の回収率(2歳産卵期まで)

例年はH19と同様に後期大型群の放流効果が高い。

体重維持に必要な餌量は15℃では体重の1%20℃では2%。

体重増加

体重減少

図4:マツカワの成長と温度の関係一度に多くの水槽を設定できなかったのでAとBの2回の実験を実施。20℃で 高成長速度を示す。

図5:高温負荷条件下におけるマツカワの個体別成長各個体の初期体重序列は長期間飼育後もほとんど変化せず、しかも23.5℃でも一部の個体は20℃と同等の成長速度を示す。すなわち、稚魚初期に高温負荷条件で飼育し、成長良好個体を選別することで高温耐性群を作製可能。

0

5

10

15

20

早 期小型群

中 期中型群

後 期大型群

試験区

水温

(℃)

H18 H19

図2:ニシン仔魚の水温別飼育試験における給餌率別成長高温ほど多くの餌量を与えないと成長できない。すなわち、高温時の放流は放流海域の餌量密度が高いことが必要条件になる。

図3:厚岸湾における各年・各群放流時の表面水温

H18は放流時の水温が例年よりも約5℃高かった。

例年はH19と同様に後期大型群の放流効果が高い。

7月中旬 7月下旬 8月上旬

高温下での成長優良個体

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32060 温暖化が与える日本海の主要回遊性魚類の既存産地への影響予測

日本海の水温は北部~北西海域を中心に高温化し、2100年には2.5m深で平均3.8度、100m深で2.9度昇温したが、南部では低温下するところも見られた。2050年までは、対馬暖流第3分枝が強まり、極前線(亜寒帯フロント)が大きく北上した一方で、2075年、2100年では、極前線が明確ではなくなり、渦構造が顕著に現れるようになった。

水温予測結果を基にすると、スルメイカの分布密度は、夏季には日本海沿岸域ばかりでなく、日本海中心部でもスルメイカの分布量が変化すると予測された。

日本海では暖水域のみを回遊するブリ(対馬で漁獲)の栄養段階は冷水域まで回遊するブリ(佐渡で漁獲)より高く、脂質含量が少なかった。今後、温暖化によって暖水域が広がると既存産地において脂質含量の少ないブリが多くなることが懸念される。

水産総合研究センター 日本海区水産研究所 木所英昭

図1:予測された100m深における (a)2025年、(b)2050年、(c)2075年、(d)2100年 10月の水温場

図2:水温予測結果を用いた7月の日本海における2000年、2050年および2100年のスルメイカの分布密度予測図

10.0

10.5

11.0

11.5

12.0

12.5

13.0

500 600 700 800 900

体長 (mm)

δ15N

(‰

佐渡

対馬

0

5

10

15

20

25

30

500 600 700 800 900

体長(mm)

脂質

 (%

佐渡

対馬

図3:対馬(暖水域を回遊)と佐渡(冷水域まで回遊)で漁獲したブリの脂質含量(左図)および安定同位対比(δ15N)(右図)

(一般的に安定同位対比が高いほど栄養段階が高い。)

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32070 季節的な水温変動の変化が湖沼漁業生産に与える影響の評価

全国71湖沼のうち、49湖沼において水温上昇の傾向が認められた。このような水温上昇は近隣の気温の変化と比較的一致していた。水温上昇により動物プランクトンの小型化と発生時期の早期化・短期化、ワカサギ仔魚のふ化時期の極端化、飢餓耐性低下を引き起こされることが示された。また、水温低下の遅延によって琵琶湖湖底で生じる貧酸素水塊が琵琶湖固有種のイサザに与える影響が明らかとなった。

水産総合研究センター 中央水産研究所 坂野博之,信州大学 花里孝幸,長野県水産試験場 武居 薫,滋賀県立大学 伴 修平,滋賀県水産試験場 上野世司

49/71湖沼

水温上昇傾向が見られなかった湖沼

水温上昇傾向が見られた湖沼

0 1 2 3 4 5 6 7 8

20

40

60

80

100

水温12度 水温16度

累積

死亡率

(%)

PNR

図1:公共用水域水質測定結果に基づき、表面水温の経年変化を解析した結果71湖沼中49湖沼で水温上昇の傾向が認められた。

0 1 2 3 4 5 6 7 8

飢餓日数

(ツボワムシ)

(ミツウデワムシ)

(水温)

-0.4 1.0-0.6

1.0

Asp

Bra

Pol

Ker

Fil

Bl

Bf

Dia

Eod

Cyc

Lep

図3:諏訪湖の約10年間の動物プランクトン群集の解析の結果仔魚の餌料となるワムシ類は水温と負の相関があり、出現が早期化・短縮化する。

図4:水温低下の遅延によって琵琶湖湖底で生じる貧酸素状態を模した水槽実験の結果イサザは他の底生生物に比べ低酸素耐性が高い。

図2:ワカサギ仔魚のふ化からの無給餌日数(飢餓日数)と水温の関係水温が高いほど回復不可能な飢餓日数(PNR)は短縮した。

イサザ 6hr(実験a,横転率)イサザ 12hr(実験a)

イサザ 6hr(実験b)ウツセミカジカ 6hr

スジエビ 6hr

0

20

40

60

80

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0DO(mg/L)

斃死率

または

横転率

(%)

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32080 地球温暖化が日本系サケ資源に及ぼす影響の評価

温暖化にともなう水温上昇が、降海期(稚魚)の海水適応能、沖合移動期(幼魚)の体成長、越冬期(未成魚)のカロリー消費量に与える影響と、成熟年齢が若齢化する可能性を飼育実験により確かめた。水温10~16℃の海水で稚魚を飼育した結果、何れの群も高い海水適応能を維持した。幼魚を高水温で飼育した場合、尾叉長が70-80 mmの群は高成長を示したが、80-120 mmの群では逆に成長の低下が起きた。未成魚を絶食させ、5℃と10℃の水温で飼育した結果、カロリー消費量は高水温群が低水温群に比べて1.5-2.0倍多い結果となった。分布水温より高い水温で長期飼育したが、成熟年齢の極端な若齢化は起きなかった。

水産総合研究センター さけますセンター 伴 真俊・加賀敏樹,宮古栽培漁業センター 長倉義智

150

160

170

180

血中

ナト

リウ

ム濃

度(m

M)

図1:異なる水温で飼育した稚魚の血中

ナトリウム濃度の継時変化

5100

5600

6100

6600グ

ラム

当た

りの

カロ

リー

量(C

al/g)

図3:絶食させた未成魚における

筋肉のカロリー量の変化

**

140

150

淡水 1週目 2週目 4週目 6週目 8週目

血中

ナト

リウ

10℃ 13℃10℃ 16℃

何れの群も実験期間を通じて170 mM以下の値を示し、高い海水適応能を維持していた。

4600

5100

開始時 5℃区 10℃区

1グ

ラム

当た

カロ

リー

絶食期間中に10℃区は5℃区に比べて1.5-2.0倍のカロリーを消費していた。

0

2

4

6

8

17℃ 12℃ 18℃ 13℃ 21℃ 16℃

餌1g当

たり

の尾

叉長

の伸

び(m

m)

図2:通常水温と高水温条件で飼育した成長

段階が異なる幼魚の尾叉長の伸びの比較

70-80 mm成長段階 80-100 mm 100-120 mm

尾叉長が70-80 mmの幼魚は高水温区、尾叉長が80-120 mmの幼魚は低水温区の成長が良かった。

まとめ・十分な餌が確保できる場合、通常の分布水温から5℃程度上昇した水温は、サケの生残を左右するほどの影響を与えないと考えられる。・しかし、成長段階が進んだ幼魚、あるいは越冬期の未成魚にとって、高水温は不利な要因であると考えられる。・また、水温の上昇は必ずしも極端な成熟年齢の若齢化を惹起しないと推察される。

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33110 過去のデータベースの解析による果樹の温暖化影響の解明と温暖化影響データベースの開発

温暖化の影響が、果樹の栽培にすでに影響を及ぼしていることが統計的に明らかになった。

ほとんどの樹種で、発芽期や開花期が前進していた。リンゴやカンキツでは酸の低下が早くなっている一方で、着色は遅れて、着色不良につながる場合もある。逆にニホンナシなどでは着色や果実の成熟が早まっている。リンゴの果肉軟化やナシのみつ症など成熟障害が増加している。

農研機構 果樹研究所 杉浦俊彦

4/20

4/25

4/30

5/5

5/10

5/15

5/20

5/25

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

満開

期 R2 = 0.504

2

3

3

4

4

5

5

6

22 23 24 25 26 27

収穫30日前平均気温(℃)

表面

色(カ

ラー

チャ

ート

値)

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005年次

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1985 1990 1995 2000 2005 2010

クエ

ン酸

含量

(g/1

00g)

2.6

2.7

2.8

2.9

3

3.1

3.2

3.3

3.4

3.5

1973 1978 1983 1988 1993 1998 2003 2008

果色

9.5

10

10.5

11

11.5

12

糖度

図1:リンゴ(ふじ)の開花期の前進(青森県)図2:高温年はリンゴ(つがる)の着色が遅延 (茨城県)

図3:酸含量の減少(土佐文旦、高知県) 図4:ナシは成熟が早期化(二十世紀の9月11日の果色・糖度、鳥取県)

年次年次

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33120 気温、生態反応などを考慮した果樹の栽培適地移動予測

昼温30℃夜温25℃以上で ブドウ(巨峰)の着色が大きく低下することが示されたが、着色には日

照時間など、他の影響も大きかった。

ウンシュウミカンの栽培適地移動マップを作成した。解像度が従来の10×10kmメッシュから1×1

kmメッシュ に向上したことから、地形の影響も評価できるようになった。

農研機構 果樹研究所 杉浦俊彦

0

50

100

150

200

250

300

350

24 25 26 27 28 29 30

7~8月上旬の日照時間(hr)

●:着色良好

●:着色やや良好

●:着色やや不良

●:着色不良

26.3

147

図2:着色開始期から25日間の温度条件の違いと巨峰の着色状況左から25-20℃区、30-25℃区、35-30℃区

図1: 7~ 8月上旬の気象条件と着色程度の関係(福岡県)

24 25 26 27 28 29 30

7~8月上旬の平均気温(℃)

図3:現在(左)と2050年代のウンシュウミカンの栽培適地の変化

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33210 葉菜類の収量・品質の予測(1)長日・炭酸ガス濃度上昇条件下における葉菜類の生態特性の定性的評価

高炭酸ガス濃度条件下で、キャベツ、レタスとも成長が促進されたが、面積重(葉重÷葉面積)な

どからみた受光体勢などの再生産過程にCO2の影響は、ほとんど見られないことを明らかにした。

また、レタスの限界照度が 5~10luxであることを明らかにし、これに基いて、日長・高温がレタス抽

台促進に及ぼす影響を統合的に示す推定モデル式を作成した。

農研機構 野菜茶業研究所 岡田邦彦

0

1

2

3

4

5

6

iro 1/10 iro 1/4 iro 5/8

380ppm

420ppm

480ppm

面積重(DWmg/cm2)

(キャベツ:いろどり・第2葉)

0

1

2

3

4

5

6

V 1/10 V 1/4 V 5/8

380ppm

420ppm

480ppm

面積重(DWmg/cm2)

 (レタス:Vレタス・第2葉)

面積重(葉重÷葉面積)でみた受光体勢などの再生産過程は極端な窒素栄養ストレス条件でない限りは高CO2による影響はほとんど見られない。

すなわち、高炭酸ガス濃度による影響をモデル化する際に、受光体勢に対する記述は不要であることを示している。

y = 4E-07x3 - 9E-05x

2 + 0.0099x - 0.1354

R2 = 0.8463

0

5

10

15

20

25

0 100 200 300 400 500

初夏どり

夏どり

初秋どり

日長による修正なし

有効積算温度(℃日:基準温度14℃)

抽台長

(cm)

y = 4E-07x3 - 0.0001x2 + 0.0152x - 0.1742

R2 = 0.8967

0

5

10

15

20

25

0 100 200 300 400 500

初夏どり

夏どり

初秋どり

日長による修正あり(限界日長12hr 日長温度変換係数 0.625 C/hr)

日長による修正を加えた有効積算温度(℃日:基準温度14℃)

抽台長

(cm)

葉齢5以降の14℃基準有効積算温度による抽台長モデル式を、限界日長12時間、日長温度変換係数0.625(℃/時間)(抽台長計算時に12時間以上の明期時間に対して、時間あたり、0.625℃を日平均気温に加える)で拡充し、温暖化に伴う産地北上も考慮した温暖化影響評価予測を可能とした。

図1:二酸化炭素濃度が野菜の面積重に及ぼす影響

図2:有効積算温度がレタスの抽台に及ぼす影響

Page 19: 31010 地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リス … · 31050 温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 食用イネと飼料用等の多用途イネについて、温暖化状況での合理的な作期体系を検討した。

33220 葉菜類の収量・品質の予測(2)長日・炭酸ガス濃度上昇条件下における定性的生態特性の定式化とモデル化

キャベツは高温により生育が抑制されるが、特に、結球部が比較的小さい段階での高温遭遇が

顕著に結球肥大を抑制することを明らかにし、その影響を定量的に評価・推定できるキャベツ高温

影響評価モデルを開発した。また、自然光・地植えでCO2 濃度処理試験が可能なオープントップチャ

ンバでの栽培試験から、キャベツ生育に対する高温・ CO2 濃度影響評価モデルも開発した。

農研機構 野菜茶業研究所 岡田邦彦

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

08/5/22 08/7/1 08/8/10 08/9/19 08/10/29 08/12/8

結球部乾物重(g) 2008年度

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

09/6/6 09/6/26 09/7/16 09/8/5 09/8/25 09/9/14 09/10/4

結球部乾物重(g) 2009年度

図1:キャベツ高温影響評価モデルによるキャベツ結球部乾物重のシミュレーション値と実測値

月/日 月/日

図1:キャベツ高温影響評価モデルによるキャベツ結球部乾物重のシミュレーション値と実測値

酷暑となった2008年に肥大初期から高温に遭遇した作期では結球肥大が極端に抑制されたこと、2009年は比較的冷涼で盛夏時でも結球が肥大したことなどが、モデルシミュレーションでも再現されている。

0

50

100

150

200

250

300

09/4/17 09/5/7 09/5/27 09/6/16 09/7/6 09/7/26 09/8/15

CO2区(作期1)シミュレーション値

対照区(作期1)シミュレーション値

CO2区(作期2)シミュレーション値

対照区(作期2)シミュレーション値

CO2区(作期1)実測値

対照区(作期1)実測値

CO2区(作期2)実測値

対照区(作期2)実測値

地上部乾物重(g)

図2:キャベツの高温・ CO2 濃度影響評価モデルのシミュレーション値と実測値

高温の作期での生育抑制と高CO2 濃度による生育促進がモデルシミュレーションで再現されている。

月/日

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33230 主要葉根菜類の収穫期・収量予測モデルの作成と遭遇気象環境領域の調査

公表されている市町村別季節別生産統計と青果物市況情報とを用いることで、産地の位置を市町村規模で推定し、収穫期も一週間というスケールで推定して、栽培状況を推定することを可能とした。また、一月程度の期間で収量変動を推定することを可能とし、季節別では季節内での変動の結果解析しにくい収量と気象との関係の解析を可能とした。これらの結果、従来と比較して空間的・時間的にピンポイント的に収量と気象の関係を解析できる方法が確立された。

農研機構 中央農業総合研究センター 大原源二

-80

-40

0

40

80

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30

10

月の

市場

入荷

量の

移動

平均

に対

する

対偏

差(%

)

7月の市場入荷量の移動平均に対する相対偏差(%)

図1:千葉県産キャベツの出荷量と定植面積の年度別推移の推定値と平年値

図2:千葉産キャベツの平年作付けパターン・平年収量と年度別気温推移に基づく出荷量の推定値と市場入荷量の推移

図3:熊本県夏秋どりキャベツの10a当たり収量の推定値と収穫月を含む3月間の平均気温との関係

図4:熊本県夏秋どりキャベツの7月と10

月の月別10a当たり収量の推定値(左下の異常値は1993年の冷夏年の推定値)

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33240 温暖化が葉根菜類の収量、品質に及ぼす影響評価と作期・栽培適地の移動・産地間連携評価システムの構築

公表されている市町村別季節別生産統計と青果物市況情報から青果市場への出荷時期を推定するだけでも、市場出荷量を相当程度再現でき、球揃いが、気象環境で大きく変動することを仮定する新たな収量予測モデルを構築した。そして、端境期等を対象として、対話的に栽培適地を探索する産地間連携支援システムのコア部分を概念設計した。

農研機構 中央農業総合研究センター 大原源二

図1:熊本県産の1998~2007年9月どりキャベツの青果市況情報の階級値から推定された一球重と大きい方からの累積球数との関係

圃場の栽植本数は変わらないことから、豊作年は一球重が大きいだけでなく、球揃いがよい。凶作年は一球重が小さいだけでなく、球揃いが悪い。これより、球の揃いに着目する新しい収量予測モデルが構築された。

0

1000

2000

3000

0 500 1000 1500 2000 2500

一球重の階級値(g)階級

幅1

00

gに

調整

した

単位

面積

当た

り積

算球

豊作年 凶作年

平均年 平均年平均年 平均年

平均値1100-標準偏差200(収穫) 平均値1400―標準偏差100(収穫)

平均値1000-標準偏差400(収穫) 平均値1000-標準偏差400(全株)

平均値1100-標準偏差200(全株) 平均値1400―標準偏差100(全株)

栽培適地適作期判定支援システムの概念ターゲットとなる出荷期を想定

ターゲット地域選定

栽培適地の提示

全国の市場出荷量

図2:産地間連携支援システムのコア部分の概念図

市場への供給状態から、出荷すべき時期を想定して、想定する地域内から栽培の可能性の高い地域や定植期を対話的に設定する。

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34010 農地水利用解析に基づく灌漑用水量と洪水への温暖化影響評価と将来予測

流域レベルの農地水利用を考慮した分布型水循環モデルを構築した。次に、気候モデルによる各

種気候値のバイアス補正を行い、それを分布型水循環モデルへの入力とする農業水利用と洪水へ

の温暖化の影響評価法ならびに水循環変動予測法を提案するとともに、実際に将来の温暖化影響

評価を行った。その結果、気候変動の農業用水への影響が具体的数値として評価可能となった。こ

れら一連の方法は、対応策の評価にも利用できる。

農研機構 農村工学研究所 増本隆夫・工藤亮治・堀川直紀・吉田武郎

図1:分布型水循環モデルによる流量の再現性(高田観測地点)農地の用水配分過程・積雪融雪・ダム管理モデルを組み込むことにより、分布

0

200

400

0

100

流量

(m3 /s

)

2005 高田

降水

量 (m

m/d)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

観測流量

計算流量

型水循環モデルの流量の再現性が向上した。

図2:板倉頭首工地点における月平均日流量の変化

青が現在(1981-2000)、赤が近未来(2046-2065)、緑が21世紀末(2081-2100)の結果である。図中の縦棒は各月の 大日流量と 低日流量を示す。気温上昇に伴い4月、5月の融雪流出量が減少している。

図3:代かき日数の変化

現在(1981-2000)、近未来(2046-2065)、21世紀末(2081-2100)の各期20年間における毎年の代かき日数を大きい順に並べたものである(Rank)。現在は、ほぼ一定の日数(5日程度)で代かきが終了しているが、近未来では20日を超えるような年が発生し、しかも代かき日数の年ごとのばらつきも大きくなっている。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 121

10

100

1000

1981−20002046−20652081−2100

流量

(m3 /s

)

板倉頭首工地点

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617181920210

10

20

30

順位

代かき

日数

(日)

1981−20002046−20652081−2100

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34020 地球温暖化に起因する離島の淡水レンズ地下水資源への影響評価と将来予測

電磁探査法と地下水質測定を組み合わせた調査法によって、地球温暖化による海面上昇によっ

て縮小が懸念される淡水レンズの厚さを測定することができ、海面上昇の影響評価のためのデータ

を効率的に取得できる。

農研機構 農村工学研究所 石田 聡

1. 琉球石灰岩が分布する沖縄県多良間島において、地下水観測孔における深度1m毎の

電気伝導度測定よって求められた地下水中の塩淡境界(ここでは海水と淡水の中間値で

ある2,000mS/m)深度と、ループ・ループ法(送信コイルと受信コイルを一定間隔に保って

測定する方法)の電磁探査によって求められたコイル間隔:10、20、40m、水平モード、3層構造の逆解析による導電率境界深度とは高い相関(R2=0.956)を持つ。

2. 各コイル間隔の測定で得られた見かけ導電率と、地下水中の塩淡境界深度は、コイル間

隔40mで も高い相関を持ち、近似曲線についての相関係数(R2=0.922)は1.の結果と

比べて同程度である(図1)。

3. この近似曲線を用いれば、塩淡境界が未知の地点においても1通りのコイル間隔の測定

のみで、地下水中の塩淡境界深度の推定ができる(図2)。

4. 測定時間はコイル間隔を3通りとする従来法では1地点あたり約20分であるが、本手法で

はコイル間隔を変えることによるケーブルのつなぎ替え、ゼロ点調整が不要になるので、はコイル間隔を変えることによるケーブルのつなぎ替え、ゼロ点調整が不要になるので、

1地点あたり2~3分で済み、測定時間の短縮によって潮汐による塩淡境界変動の影響が

少なくなる。これより、海面上昇の影響評価のためのデータを効率的に取得できる。

y = 25.979e-0.0301x

R2 = 0.3631

y = 31.536e-0.0239x

R2 = 0.9201

y = 43.322e-0.0137x

R2 = 0.9228

10

12

14

16

18

20

22

24

26

0 20 40 60 80

x:見かけ導電率mS/m

y:2,0

00m

S/m

深度

(m)

コイル間隔10m コイル間隔20m コイル間隔40m

0 1km

6 m

8m

10m

実測地点

推定地点

図2:コイル間隔40mの見かけ導電率によって境界を補完した2,000mS/m以下の地下水等層厚線図(沖縄県多良間島)

図1:コイル間隔毎の見かけ導電率と地下水観測孔で測定された2,000mS/m深度

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34030 詳細な氾濫解析に基づく沿岸農地の温暖化影響の評価

地盤標高が低い沿岸農地の高潮被害リスクを的確に予測するため、高分解能のモデル、データを用いた高精細高潮リスク評価モデルを構築した。また、有明海、八代海沿岸の海岸堤防を調査し、堤防の沈下スピードが早く、浸水被害の脆弱性が低くなっている実態を定量的に明らかにした。有明海沿岸域は台風の来襲も多く、今後の温暖化に向けて対策が急がれるが、本研究で開発したシミュレーションモデルにより、効率的な対策が可能になる。

農研機構 農村工学研究所 桐 博英・丹治 肇

5.400

5.600

5.800

6.000

6.200

6.400

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000

始点からの距離(m)

標高

 (T

.P.m

)

計画天端高

現況天端高

堤防・道路水 路氾濫域

航空レーザー測量による、各種施設群を含む詳細地形の再現。

堤防地盤が軟弱なため、沈下が進行している。

気象モデルによる台風の局所風速分布の再現。

高精細高潮リスク評価モデル