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1 Made in Japan の実力に関する実証研究 ―中小企業の海外市場参入戦略への提言― 日本大学法学部 臼井ゼミナール 国際マーケティング班 長田貴大 御園耕宇 片木健人 小林志帆 問題の所在 原産国効果の利用状況 Ⅱ―1 JINRO の事例 Ⅱ―2 サントリー、キリンビバレッジの事例 Ⅱ―3 日本産農産物の事例 原産国効果 Ⅲ―1 原産国効果について Ⅲ―2 原産国効果先行研究 Ⅲ―3 日本の原産国イメージ Ⅲ―4 壱岐焼酎の参入国について 分析フレームと仮説 Ⅳ―1 壱岐焼酎の国際展開に原産国効果が有効と考える理由 Ⅳ―2 仮説 Ⅳ―3 中小企業への仮説展開 検証実験およびアンケート調査 実験結果 Ⅵ―1 実験結果 Ⅵ―2 日本製品に対するイメージ Ⅵ―3 統計検証 企業訪問 インプリケーション 問題の所在 近年、日本食は欧米先進国での「過栄養」、「栄養バランスの乱れ」に起因する生活習慣 病の拡大によって、長寿国である日本の食として注目が集まっており「ヘルシー」、「美し い」、「安全・安心」、「高級・高品質」として高い評価を受け、世界的に日本食ブームが広

JINROimage01w.seesaawiki.jp/u/9/usui2009/89658b8a864bc06e.pdf3 徹底した現地化を志向し、韓国の眞露焼酎とはまったく異なる新しい製品であった。具体

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Made in Japan の実力に関する実証研究 ―中小企業の海外市場参入戦略への提言―

日本大学法学部 臼井ゼミナール

国際マーケティング班 長田貴大 御園耕宇

片木健人 小林志帆 Ⅰ 問題の所在 Ⅱ 原産国効果の利用状況 Ⅱ―1 JINRO の事例 Ⅱ―2 サントリー、キリンビバレッジの事例 Ⅱ―3 日本産農産物の事例

Ⅲ 原産国効果 Ⅲ―1 原産国効果について Ⅲ―2 原産国効果先行研究 Ⅲ―3 日本の原産国イメージ Ⅲ―4 壱岐焼酎の参入国について Ⅳ 分析フレームと仮説 Ⅳ―1 壱岐焼酎の国際展開に原産国効果が有効と考える理由 Ⅳ―2 仮説

Ⅳ―3 中小企業への仮説展開 Ⅴ 検証実験およびアンケート調査 Ⅵ 実験結果 Ⅵ―1 実験結果 Ⅵ―2 日本製品に対するイメージ

Ⅵ―3 統計検証 Ⅶ 企業訪問 Ⅷ インプリケーション Ⅰ 問題の所在 近年、日本食は欧米先進国での「過栄養」、「栄養バランスの乱れ」に起因する生活習慣

病の拡大によって、長寿国である日本の食として注目が集まっており「ヘルシー」、「美し

い」、「安全・安心」、「高級・高品質」として高い評価を受け、世界的に日本食ブームが広

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がっている 1。また、昨今のGDP(国内総生産)成長率をみると、BRICsと呼ばれる新興国

が高い成長率を達成している。このような世界的な日本食ブームの広がりや新興国の経済

発展により、日本食品の海外進出の可能性が増大している。一方、日本国内の状況は少子

高齢化にともない中長期的に見て人口が減少すると予見されている。この人口減少、少子

高齢化の進行は、日本国内の消費の縮小につながると指摘されている 2

このような成長余地が限られる国内市場と海外の先進国、新興国市場の状況を踏まえ、

多くの日本の食品企業が海外市場へ進出している。しかし、さまざまな面で困難を伴う海

外市場への進出は、中小の食品企業にとっては難しいのが現状である。本論では、人材や

情報の入手、金銭的に海外市場への進出が困難である中小の食品企業にとって、効率的か

つ効果的な海外市場でのマーケティング手法として原産国効果に着目し、中小の日本食品

企業における原産国効果にもとづく海外市場参入戦略を提言する。

本稿では、対象とする日本食品として長崎県壱岐島でのみ生産されている壱岐焼酎を扱

う。焼酎は、日本特有の蒸留酒であり、主に九州地方での生産が盛んである。そのなかで

も、長崎県壱岐島は、麦焼酎発祥の地とされており、この長崎県壱岐島で作られる壱岐焼

酎は、熊本の球磨焼酎、沖縄の泡盛とともに、産地が文化的、地理的に見ても特有である

と評価され、製品の品質や評判がその産地の地理的要素によるものであると認められた場

合にのみ認定されるWTOのTRIPS協定により、地理的表示が国際的に保護されてい

る酒でもある。 このように本稿では、世界的にも認められた伝統のある日本特有の壱岐焼酎における、

これからの海外市場参入戦略として、費用がかからず、日本企業であれば無条件で利用す

ることができ、世界的に高い評価をもつ「日本」という原産国効果を用いた海外市場参入

戦略について検証する。 Ⅱ 原産国効果の利用現状 Ⅱ―1 JINRO の事例 原産国効果を重視した海外市場参入戦略を採用した事例の一つとしてJINROのマーケテ

ィング戦略が挙げられる。JINROは、韓国焼酎市場の半分以上を占める韓国を代表する焼

酎メーカーの製品である。また、世界蒸留酒市場で 2008 年の蒸留酒販売量が世界 1 位にな

り、2001 年から 8 年連続で世界販売 1 位となっている 3

JINRO は、1979 年に日本市場に参入。日本市場に参入した JINRO 焼酎は、参入時から

1 農林水産省 平成 18 年 『海外における日本食レストランの現状について』 2 (社)日本経済団体連合会 (2006) 『産業界・企業における少子化対策の基本的取り組み

について』 3 JINRO JAPAN ニュースリリース 2009 年 7 月

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徹底した現地化を志向し、韓国の眞露焼酎とはまったく異なる新しい製品であった。具体

的な現地化の方法として、日本人の口に合う焼酎の開発を行ったほか、ラベルには英文で

「JINRO」と記載し、韓国での販売で使用していた「眞露」の文字と企業シンボルの蛙を

削除したラベルを使用した。さらにボトルにも工夫が凝らされ、グリーン色の 700ml ボト

ルを採用し洋酒のような高級感を印象付け、焼酎離れしたイメージを創り上げた。 4

以上のことから、日本での JINRO 販売のコンセプトであった「無国籍・脱焼酎」は、原

産国イメージを薄めつつ差別化を行い、日本の消費者の関心を原産国ではなく、ブランド

と製品自体に注目させるためのもので、「原産国効果」を克服し、ブランドを確立させるた

めの戦略であったといえる。

このような日本向けJINRO焼酎を開発し販売した狙いには、長年積み上げてきた焼酎造

りの技術と品質に対する自信からの「高品質・高価格戦略」があった。この「高品質・高

価格戦略」を実施するための具体的なマーケティング・コンセプトとして「無国籍・脱焼

酎」が掲げられた。「無国籍」のコンセプトには韓国産という原産国の限界を乗り越えよう

とする意図があった。これは、日本の消費者が原産国による先入観や偏見にとらわれては

JINROの高品質・高価格戦略に支障が生じるためである。「脱焼酎」には、従来の焼酎イメ

ージから脱することで、差別化を行い、高級品でありながら若者向けのお酒としての製品

イメージを確立する意図があった。

この JINRO で見られた参入当時ポジティブではなかった韓国という原産国イメージの

希薄化と製品自体のブランドの確立に力を入れる戦略は、韓国製品に対するそれまでの日

本の消費者態度が、好ましくなかったという事実を反映してのマーケティング戦略であり、

海外市場参入において原産国効果は消費者の購買意向に大きな影響を与えるものと考える

一つの事例である。 Ⅱ―2 サントリー、キリンビバレッジの事例

5

またキリンビバレッジは、「キリン 午後の紅茶」や「キリン 生茶」といった清涼飲料

ブランドを 1996 年以降、中国上海、北京、広州、さらにはタイ、ベトナムに持ち込み、事

サントリーは、2004 年から日本国内において老舗茶舗のお茶を通し、日本が大切にして

きた豊かな生活文化やスローライフの素晴らしさ、愉みといったものをコンセプトに「伊

右衛門」を販売してきた。こうしたコンセプトに基づく「伊右衛門」ブランドをグローバ

ルブランドに育成するため、2008 年より米国サンフランシスコにおいて「伊右衛門」の海

外ブランド「IYEMON CHA」を発売した。この「IYEMON CHA」は、スタイリッシュな

半透明の瓶に、「京都福寿園 伊右衛門」のロゴを配した上質感のあるパッケージを採用し、

原産国である日本のイメージをパッケージに付与して販売を行っている。

4 李炅泰 (2005) 『焼酎市場における輸入焼酎のマーケティング戦略(1)―JINRO のケー

スを中心に―』経済論叢 5 SUNTORY ニュースリリース 2008 年 4 月

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業展開を行っている 6

。これらの事業展開のうち、特に中国市場では、パッケージに日本語

の製品名称をそのまま表記し、製品の原産国が日本であることを前面に出した販売を行っ

ている。

Ⅱ-3 日本産農産物の事例 現在りんごは、日本から輸出される果実のなかで最大の輸出額となっており、日本の輸

出農産物の主要なもののひとつである 7。このりんごの海外市場での販売戦略は、英語での

「APPLE」ではなく日本語の「RINGO」として海外の消費者に認知してもらうことであり、

現地販売員への教育や消費者へ向けてのプロモーション活動を行っている 8

また、コメの海外への輸出では、日本での販売方法のようなコメの品種名を商品名やブ

ランド名とする販売は、商品のアピールポイントにならないことから、日本産をイメージ

できるブランドを付加しての販売を行っている

。さらに、販売

においては「青森産」などの産地を明記した販売を行っている。

9

さらに、世界各国において健康飲料として好評を得ている日本茶は、海外での販売にお

いて、緑茶としてではなく日本産の緑茶として、その品質やおいしさを消費者に分かって

もらい、他の茶製品との差別化を図る試飲プロモーションなどを行っている

10

このように、日本産農産物の海外進出においても製品名や品種名のみではなく日本産で

あることを活かした海外市場参入を行っている。

以上のように、海外市場への参入を果たした企業や商品は、自動的に製品に付加される

原産国イメージが、消費者の購買意向にどのような影響を与えるかを熟考した上で、原産

国イメージを前面に打ち出した事業の展開や、逆に希薄化させることで販売量を増やすな

どの原産国効果を重視した戦略を採用している。 Ⅲ 原産国効果 Ⅲ―1 原産国効果について 本稿では壱岐焼酎の国際展開において、「原産国イメージ」という消費者が持つイメージ

による「原産国効果」に注目する。

原産国イメージとは、当該製品の製造または生産を手がけ、「Made in(国名)」情報とし

6 キリンビバレッジ 事業展開

(http://www.beverage.co.jp/company/guide/expansion/index.html) 7 21 世紀政策研究所 「青森りんご輸出の現状」2007 年 8 農林水産省 農林水産物等の輸出事例(2009 年度版) 「片山りんご(株)」 9 農林水産省 農林水産物等の輸出事例(2009 年度版) 「農業生産法人(有)PFT サービス」 10 農林水産省 農林水産物等の輸出事例(2009 年度版) 「宇治の露製茶(株)」

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て表記される製品原産国のことである。一般に、製品原産国が露出されると、その国に対

するステレオタイプ化した消費者の主観的な原産国イメージ(Country Image)が働き、当

該製品の評価に有意な正負の影響をもたらすとされる。このような現象を指して「Country

of-Origin Effects」、すなわち「原産国効果」という11

Ⅲ―2 原産国効果先行研究 消費者の製品評価における国家イメージの影響を実証した先駆的な研究は、Schooler

(1965)の “Product Bias in the Central American Common Market”である。この研究で

は、200名のグアテマラ学生に4ヶ国(グアテマラ、メキシコ、エル=サルバドル、コスタ

リカ)のジュースと織物製品に対するイメージ調査を行い、生産国によって消費者評価が

異なることを実証した。それ以降、製品国籍情報の働きに関する関心が高まり、原産国効

果に関する研究が本格化した12

Johansson et al (1985)は、原産国がアメリカ、日本、西ドイツの自動車を以って、製

品評価における原産国情報の影響を調査した結果、消費者が制限された製品知識しか持た

ない場合、原産国は代理指標として働くということが確認された。またNiss(1996)は、

食品、デザイン製品、農業製品を手掛けるデンマークの輸出企業が、マーケティング活動

においてどれくらい国家イメージを活用するかを調査した。100社へのアンケート(回収率

58%)と企業マネージャー20名に対する個別インタビューを行った結果、原産国イメージ

は輸出の初期段階において目標市場への迅速な市場浸透と差別化の構築に役立つことがわ

かった。

Johansson et al (1985)、Niss(1996)の実証研究から、『焼酎』という中国市場には

ない酒類、また『壱岐焼酎』という認知度の低いブランドを売り出す初期段階においては、

日本の原産国イメージを利用することが有効であるとわかる。

Kim(1995)は、北米市場の自動車マーケット・データを用いて、原産国 が、短期的なマ

ーケット・シェアとマーケティング効果に及ぼす影響について調査した。その結果、ポジテ

ィブな原産国情報は、当該ブランドの短期的な販売実績とマーケット・シェアに正の影響を

及ぼし、かつ消費者の価格敏感度を低下させることがわかった。

焼酎を中国に輸出する際、物流コストや、関税により販売価格を中国の酒類より高価格

に設定せざるを得ないが、Kim(1995)の実証研究から、「品質がよい」、「価格に見合う価

値がある」などのポジティブな原産国情報を持つ日本の原産国イメージを利用することに

よって、消費者の価格敏感度を低下させることができることがわかる。

Alden et al (1993)は、低関与の日用品である歯磨き粉を以って、原産国効果に対する

実証調査を行った。歯磨き粉の原産国はアメリカとメキシコで、標本はアメリカ学生44名

11 李炅泰 (2007) 『消費者のカントリー・オブ・オリジン情報処理』 12 李炅泰 (2008) 『カントリー・オブ・オリジン・エフェクト研究の現状と課題に関す

る一考察』

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であった。その結果、原産国は関与度の低い日用品の消費者評価にも有意な影響を及ぼす

ということが確認された。

一般に高額な耐久財ほど原産国による製品差別力が強いといわれているが、Alden et al

(1993)

の実証研究から、歯磨き粉や食品、飲料、医薬品などの健康に直接影響する消費財でも原

産国による製品差別力が有効であることがわかる。

Ⅲ―3 日本の原産国イメージ 2008 年度の博報堂Global HABIT13

「日本製品」は、各国の製品(「アメリカ製品」「ヨーロッパ製品」「韓国製品」「中

国製品」)に比べ、新興各国で非常に高いイメージを持たれており、日本製品の品質には

高い信頼性があると考えられる。

が、注目される新興市場として、14 の国と地域《中国

(北京、上海)、香港、台湾(台北)、韓国(ソウル)、シンガポール、タイ(バンコク)、

インドネシア(ジャカルタ)、マレーシア(クアラルンプール)、フィリピン(メトロマ

ニラ)、ベトナム(ホーチミンシティ)、インド(デリー、ムンバイ)、ロシア(モスク

ワ)》を選び、日本、ヨーロッパ、アメリカ、韓国、中国の製品について品質やセンス

など6項目を調査した結果、世界14 都市における各国製品のイメージ評価は、「高品質な」、

「カッコイイ/センスがいい」、「明確な個性や特徴のある」、「楽しい」、「価格に見合

う価値がある」の5項目で「日本製品」が1 位だった。

Lin and Kao (2004)の研究14

において、原産国イメージは「消費者が、ある特定の国の製

品に付帯させるイメージ、評判、そして固定観念である」と定義されているため、新興各

国における日本の原産国イメージは日本の製品イメージと同様に「高品質な」、「カッコ

イイ/センスがいい」、「明確な個性や特徴のある」、「楽しい」、「価格に見合う価値が

ある」ということがわかる。

各項目のイメージ評価

各国製品(「日本製品」「アメリカ製品」「ヨーロッパ製品」「韓国製品」「中国製品」)

の中で、「高品質な」と回答された数値が最も高かったのは「日本製品」(70.0%)。2 位

は「ヨーロッパ製品」(46.9%)、3 位は「アメリカ製品」(41.7%)、4 位は「韓国製

品」(26.7%)、5 位は「中国製品」(17.9%)だった。

「カッコイイ/センスがいい」と回答された数値が最も高かったのは「日本製品」(43.6%)。

2 位は「アメリカ製品」(41.3%)、3 位は「ヨーロッパ製品」(39.6%)、4 位は「韓国製

13 博報堂 Global HABIT (2008), <注目される世界の新興市場・14都市の「日本製品」

に対するイメージ調査> 14 Lin, C. and T. D. Kao (2004), “The Impacts of Country-of-Origin on Brand Equity”, The Journal of American Academy of Business, Cambridge,

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品」(35.3%)、5 位は「中国製品」(17.5%)だった。

「明確な個性や特徴のある」と回答された数値が最も高かったのは「日本製品」(39.7%)。

2 位は「ヨーロッパ製品」(35.3%)、3 位は「アメリカ製品」(33.6%)、4 位は「韓

国製品」(23.5%)、5 位は「中国製品」(16.3%)だった。

「楽しい」と回答された数値が最も高かったのは「日本製品」(35.0%)。2 位は「ヨ

ーロッパ製品」(27.4%)、3 位は「アメリカ製品」(26.6%)、4 位は「韓国製品」(25.8%)、

5 位は「中国製品」(17.9%)だった。

「活気や勢いを感じる」と回答された数値が最も高かったのは「韓国製品」(41.5%)。

2位は「日本製品」(35.5%)。3 位は「アメリカ製品」、「中国製品」(ともに31.6%)、

5 位は「ヨーロッパ製品」(31.4%)だった。

「価格に見合う価値がある」と回答された数値が最も高かったのは「日本製品」(34.1%)。

2 位は「韓国製品」(29.3%)、3 位は「中国製品」(26.0%)、4 位は「ヨーロッパ製

品」(25.4%)、5 位は「アメリカ製品」(25.3%)だった。

Ⅲ―4 壱岐焼酎の参入国について 本稿では、壱岐焼酎の海外市場進出先として中国を選択した。中国は 2003 年~2007 年

の間、実質経済成長率が 10%以上となる急速な経済成長を遂げている上、その人口は 13億 3630 万人であり巨大な市場である 15

中国は、2009 年自動車の新車販売台数においてアメリカを抜き世界 1 位になる見通しで

あり、世界有数の市場となりつつある

16。この背景として考えられるのが経済的に豊かにな

った中産階級の存在である。HSBC銀行と上海復旦大学による調査では、中国本土において

経済の好調にともなう生活水準の向上などにより中産階級が増え続けており、2017 年には

1 億人を超えると予測している。この中産階級の増加は、嗜好品であるアルコールの消費量

にも影響を与えている。キリン食生活文化研究所の調査 17

さらに、日本貿易振興機構(JETRO)が行った日本企業の意識調査

によると、2007 年の国別ビール

消費量において中国が世界 1 位となり、2003 年からアメリカを抜き 5 年連続の 1 位となっ

ている。また、ビール消費量の前年比増加率においても 11.8%と高い増加率となっており、

経済成長と中産階級の増加によって嗜好品であるアルコールの消費者数、消費量がともに

増加している。 18

15 総務省統計研修所 (2009) 『世界の統計 2009』 総務省統計局

によると、アンケー

ト調査協力企業の 64.4%が、現在の海外販売先として中国を挙げ、最も高い比率となった。

また、今後 3 年の販売最重点国を問う項目においても、64.9%の企業が中国と回答し最も

比率が高かった。企業属性別にみた場合も、飲食料品製造企業の 61.7%が今後 3 年の販売

16 日経産業新聞 (2009 年 10 月 23 日) 17 キリン食生活文化研究所レポート (2008) 『世界主要国のビール消費量』 18 日本貿易振興機構海外調査部 (2009) 『世界の消費市場・環境関連ビジネス市場に関

するアンケート調査』

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最重点国として中国を挙げ最も高い比率となっている。また同意識調査内の海外市場での

ターゲットを尋ねる項目において、現在および今後 3 年以内の両方において富裕層中心の

販売を考えている企業が最も多い結果が出た。 以上の点から壱岐焼酎の国際展開における進出先国として中国を選択し、ターゲット層

としては富裕層を設定した。 Ⅳ 分析と仮説 Ⅳ―1 壱岐焼酎の国際展開に原産国効果が有効と考える理由 ① 食品など、ものによっては直接人体へ影響を与える製品に対する消費者の安全性へ

の敏感度は大きくなる。そして信頼ある製品を求める動きは、そのまま原産国イメー

ジへと移行され、安全性の高い製品をつくり出す国の製品イメージとして、購買意向

に影響を与える 19

② また、消費者が制限された製品知識しか持たない場合、原産国は代理指標として働

。なじみのない食品である焼酎も、原産国イメージの影響を受け、

安全性が高い日本製品として販売することができる。

20ことから、原産国イメージは市場浸透と差別化のため、導入期に使われる傾向が

ある 21

。消費者になじみがない壱岐焼酎を国際展開する中小企業にとって、日本とい

う国のイメージと抱き合わせて売り出すことが、展開促進の最短戦略と考える。

Ⅳ―2 仮説

さらに我々は、原産国イメージが消費者にもたらす効能が、価格戦略やパッケージ、ス

トアイメージなどの他のマーケティング効果に比べても優位性が認められ、マーケティン

グ戦略のうえで優先的に考慮されるべき要素として証明できるのではないかと考えた。

原産国効果

パッケージ

購買意向

ストアイメージ

低価格

19 Alden, D. L., W. D. Hoyer and A. E. Crowley (1993), “Country-of-Origin, Perceived Risk and

Evaluation Strategy,”Advances in Consumer Research, Vol. 20, pp.678-683. 20 Johansson, J. K., S. P. Douglas, and I. Nonaka (1985), “Assessing the Impact of Country of Origin on Product Evaluations:A New Methodological Perspective” 21 Niss, H. (1996), “Country of Origin Marketing over The Product Life Cycle: A Danish Case Study”

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Ⅳ―3 中小企業への仮説展開 Ⅰ章で述べたように、国内市場における需要の頭打ちを受け国際展開に及ぶ企業が増え

る一方で、中小企業にとって、新たな市場へ踏み出すことは容易ではない。海外展開には

多くのリスクが存在し、資金や情報量、さらには人脈などの規模に劣る中小企業は海外進

出に踏み出せないでいる。 製造業の場合、一般的に海外進出の際の方法として、現地に直轄工場を設けるほか、現

地企業との合同出資による基盤拠点の新設などがある。しかし中小企業の場合、現地に製

造拠点を置くリスクが大きいことなどの理由から、ほとんどの場合、国内からの輸出形態

がとられる。 輸出形態に関しても様々なマーケティングプランが存在する。例えば価格戦略であった

りブランド価値の付加であったりと多様であるが、これらもまた多額のコストを要するこ

とになる。我々が中小企業の国際展開の際に、原産国効果の有意性を唱えるのは、コスト

に対するむつかしさが解消されると考えたためである。パッケージなどの目に入るところ

に日本という原産国のイメージを記載することで購買意欲を刺激するという我々の考えが

顕著に認められるのであれば、原産国効果は、ただ記載するだけで効果が得られるコスト

を要しない販売戦略の一つとして、中小企業の海外進出の大きな手助けとなると考える。 Ⅴ 検証実験およびアンケート調査 この実験およびアンケート調査は、日本大学法学部、経済学部、日本語学校在籍の中国

人留学生 103 名を対象として 2009 年 11 月に実施された。

実験方法

●日本産を強調した酒・日本産・80 元 (原産国効果)

●高級店(北京飯店)で販売されていることを強調した酒・中国産・80 元 (ストアイメ

ージ)

●デザイン性の高い上品な瓶に入った酒・中国産・80 元 (パッケージ)

●低価格を強調した酒・中国産・60 元 (価格)

上記4種類の酒の写真を提示し、その中から購入したいと感じた製品を、中国にいると

想定した上で『普段自分で飲むために購入する場合(個人用)』と『プレゼント用に購入す

る場合(贈答用)』の2つの質問を行い、それぞれ1位、2位を選択してもらった。 また、実験協力者全員に対し以下の項目についてアンケートを行い、上記の実験結果と

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アンケート項目との照らし合わせを可能とした。 アンケート項目 1.出身地(例:遼寧省大連)

2.性別

3.在日月数

4.中国在住時の世帯年収(5万元~40万元以上を5段階回答)

5.日常生活における原産国の意識頻度(5段階回答)

6.日本製品のイメージについて自由回答

Ⅵ 検証結果 Ⅵ―1 実験結果 中国人留学生に対し、前章に記載した方法で個人用・贈答用それぞれで購入したい商品

についてのアンケートを行った。 個人用・贈答用それぞれ購入希望の 1 位に2ポイント、2 位に1ポイントを換算し、ポイ

ントの合計を算出した。

個人用・贈答用ともに、日本の原産国を押し出した商品と上品なパッケージを施した商

品が 1 位、2 位に入る結果となった。 個人用購買時では日本産の商品が最も多く選ばれた。留学生からは製品に対する安全性

や品質の高さといった理由があげられ、前章で示した日本の品質に対する原産国イメージ

が作用したと考えられる。一方で上品なパッケージ商品も人気で、贈答用購入時では 2 位

の日本産を引き離す結果となり、贈答用のために外観に気を使ったことも考えられるが、

10279

69

47

103 126

61

6

日本産記載 上品なパッケージ ストアイメージ 低価格

購買意向ポイントグラフ

個人用 贈答用

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現代の中国人が価格よりも、見た目やブランドなどの魅力的価値を求めるようになったこ

ともいえる。 上記の名義尺度によるポイントの総計から見ると、日本産を記載する原産国効果を付帯

する方法が、他のマーケティング要素に対して、中国人の購買意向に有効に作用したこと

が十分考えられる。 Ⅵ―2 日本製品に対するイメージ

検証実験と同時に、アンケート協力者に日本製品に対するイメージを自由記述の形で調

査を行った。その結果、最も多い回答となったのが、「品質が良い」という回答で、次に「見

た目が良い」といった製品自体のデザインや包装の良さがあげられた。3 番目に多い回答と

しては「高価格」といった回答が得られた。その他に、「技術が優れている」、「製品が小型」

や「食品が新鮮でおいしい」といった回答が見られた。また、日本製品としてイメージの

浮かぶ製品には、カメラなどの電気製品や自動車があげられた。 以上のように、日本製品に対する全般的なイメージとしては、製品に対する安全性など

の信頼が高いということ、製品のデザインが良いということなどの良い評価を得ているこ

とが分かった。その一方で、他の国の製品に比べて値段が高いといった回答が多く、日本

製品に対して高価格との印象を持つ人が多いことが分かった。 Ⅵ―3 統計検証 上記のとおり、中国人留学生に対する購入意向の実証実験は次の結果となった。

【個人用】1 位・日本産記載、2 位・パッケージ、3 位・ストアイメージ、4 位・低価格 【贈答用】1 位・パッケージ、2 位・日本産記載、3 位・ストアイメージ、4 位・低価格 順位間の検定 まず、我々が注目する日本産の記載による原産国効果と、その前後の順位の各要素との差

を確認するため、t検定(対応あり)を行った。 【個人用に購入時】 1 位日本産記載―2 位パッケージ 対応サンプルの統計量

平均値 N 標準偏差

平均値の

標準誤差

日本産 1.0303 99 .81384 .08179

パッケージ .7980 99 .85690 .08612

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対応サンプルの相関係数

N 相関係数 有意確率

日本産 & パッケージ 99 -.401 .000

対応サンプルの検定

対応サンプルの差 t 値 自由度

有意確率

(両側)

平均値 標準偏差

平均値の

標準誤差 差の 95% 信頼区間

下限 上限

日本産 - パッケージ .23232 1.39846 .14055 -.04659 .51124 1.653 98 .102

検定の結果、1 位日本産記載と 2 位パッケージとの間には差があり、個人用に購入する際

には原産国効果の優位性が確認された。 【贈答用に購入時】 1 位パッケージ―2 位日本産記載 対応サンプルの統計量

平均値 N 標準偏差

平均値の

標準誤差

日本産 1.0404 99 .76824 .07721

パッケージ 1.2727 99 .80582 .08099

対応サンプルの相関係数

N 相関係数 有意確率

日本産 & パッケージ 99 -.480 .000

対応サンプルの検定

対応サンプルの差 t 値 自由度

有意確率

(両側)

平均値 標準偏差

平均値の

標準誤差 差の 95% 信頼区間

下限 上限

日本産 – パッケージ .42424 1.31778 .13244 .16142 .68707 3.203 98 .002

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検定の結果、残念ながら 1 位パッケージと 2 位日本産記載の間には差があることがわか

る。贈答用のため、外観にこだわった回答となったことが考えられる。 2 位日本産記載―3 位ストアイメージ 対応サンプルの統計量

平均値 N 標準偏差

平均値の

標準誤差

日本産 1.0404 99 .76824 .07721

ストアイメージ .6162 99 .79163 .07956

対応サンプルの相関係数

N 相関係数 有意確率

日本産 & ストアイメージ 99 -.427 .000

対応サンプルの検定

検定の結果、2 位日本産記載と 3 位ストアイメージとの間には差があることが分かる。 t検定による結果から、原産国・パッケージ・ストアイメージ・低価格の、今回用意し

た四つの要素の中で、原産国とパッケージの二つが抜きんでていることがわかる。中国に

おいて酒類購入時には、パッケージなどの外観要素に加えて、産地などの原産国イメージ

も強く意識されているといえる。 コントロール変数の影響 次に、実験時に併せて実施したアンケートの各項目によるコントロール変数と、自分用・

贈答用それぞれの原産国のポイントとの関係を、分散分析を用いて確認した。 コントロール変数

1.出身地

対応サンプルの差 t 値 自由度

有意確率

(両側)

平均値 標準偏差

平均値の

標準誤差 差の 95% 信頼区間

下限 上限

日本産 - ストアイメージ .42424 1.31778 .13244 .16142 .68707 3.203 98 .002

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2.性別

3.在日月数

4.中国在住時の世帯年収

5.日常生活における原産国の意識頻度

1.出身地

分散分析

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

個人用 グループ間 .604 2 .302 .451 .639

グループ内 64.306 96 .670

合計 64.909 98

贈答用 グループ間 .265 2 .133 .221 .802

グループ内 57.573 96 .600

合計 57.838 98

留学生の出身地を北東部・東部・南西部の三つに区切って、検証した結果、出身地が個

人用・贈答用ともに原産国効果による購入意向に影響していないことが分かる。

2.性別

分散分析

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

個人用 グループ間 .233 1 .233 .349 .556

グループ内 64.676 97 .667

合計 64.909 98

贈答用 グループ間 .332 1 .332 .560 .456

グループ内 57.507 97 .593

合計 57.838 98

個人用は性別による差はなし。贈答用には性別の違いが原産国効果による購買意向に影響

したことを示している。

3.在日月数

分散分析

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

個人用 グループ間 1.164 2 .582 .877 .420

グループ内 63.745 96 .664

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合計 64.909 98

贈答用 グループ間 .277 2 .138 .231 .794

グループ内 57.562 96 .600

合計 57.838 98

贈答用は在日期間による差はなし。個人用には在日期間が原産国効果による購買意向に

影響している。

4.中国在住時の世帯年収

分散分析

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

個人用 グループ間 1.207 2 .604 .910 .406

グループ内 63.702 96 .664

合計 64.909 98

贈答用 グループ間 2.770 2 1.385 2.415 .095

グループ内 55.068 96 .574

合計 57.838 98

個人用・贈答用ともに世帯年収が原産国効果による購買意向に影響している。

5.日常生活における原産国の意識頻度

分散分析

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

個人用 グループ間 .863 2 .432 .647 .526

グループ内 64.046 96 .667

合計 64.909 98

贈答用 グループ間 1.597 2 .798 1.363 .261

グループ内 56.242 96 .586

合計 57.838 98

個人用・贈答用ともに世帯年収が原産国効果による購買意向に影響している。

原産国効果のポイントとアンケート項目のコントロール変数の分析結果は、各項目で分

かれる形となった。これにより、我々が行った原産国・パッケージ・ストアイメージ・価

格に対する購買意向の実証実験には、少なからずコントロール変数が作用しており、一概

にすべての場面において原産国効果が有効とはいいきれない結果となった。

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統計検証のまとめ

中国人留学生に対して行った実証実験において原産国効果は記述統計の上では上位に入

る結果となり、中国市場での販売時に日本の原産国表記を強調することの有効性が証明さ

れたといえる。しかし、統計による分析では贈答用購入時に、1位のパッケージ効果と原

産国効果との間の差があることが確認され、中国人消費者が原産国以上に外観に重点を置

いていることが分かった。また、年収や性別などのアンケート対象者のコントロール変数

によって結果が左右されたことも分析結果として分かった。今回 103 人のデータで調査を

行ったが、これの倍以上のデータで分析を行なえれば、しっかりとした結果になったかも

しれない。

Ⅶ 企業訪問

上記で述べてきた仮説と検証実験の結果を踏まえ、実際に海外への酒の輸出を行ってい

る酒造企業と酒専門の卸売企業にインタビューを行った。 今回訪問した日本酒を製造している酒造企業では、平成 12年から卸売会社を通じて主に

中国、ブラジルなどに日本酒を輸出している。

中国へは現地飲食店などに国内で製造している日本酒と同一製品を輸出している。容器

に貼っている裏側ラベルの販売会社、成分表示などは中国語表記に変えているが、表側ラ

ベルの製品名称は日本語のまま表記し、日本産の酒であること前面に出し販売している。

現在、中国での顧客層は現地の邦人と一部の富裕層である。現地で開催される展示会や、

試飲会を通じて日本酒の認知度を高める戦略を行い、さらに顧客層を広げる努力をしてい

る。

また、酒専門の卸売企業では、約 20 年前からアメリカへの日本酒の販売を開始し、現在

は行っていないがアメリカでの日本酒の現地生産も行っていた。 この企業のアメリカでの日本酒の販売活動は、現地の消費者に日本酒を認知してもらう

ため、試飲会や日本酒の飲み方、食事との合わせ方などを伝える啓蒙活動中心に行ってき

た。その結果アメリカ市場への参入から 20 年がたった現在、アメリカでの日本酒は、特別

な酒ではなく日常的な酒になってきた。特に、白ワインの代替品としてパーティーなどで

日本酒が飲まれる機会が増えてきている。また、日本酒の認知度も高まってきており、ニ

ューヨークの現地人消費者などは、日本酒の個々の銘柄をみて好みの日本酒を購入するよ

うにもなってきている。 さらに、この企業では約 10年前から中国市場への日本酒の販売を開始している。しかし、

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決算など信用問題の不安から中国での販売を積極的には行っていない。また、酒造業界全

体の考えも「中国なしでは業界が成り立たない」という流れではないということであった。 現在アメリカでの日本酒は、試飲会などの販売促進活動や日本食ブームなどにより認知

度が高まり、個々の日本酒の銘柄がブランドとなっている。しかし、今回のインタビュー

から、市場参入から個々の銘柄がブランドとして成り立つ現在のアメリカでの日本酒の販

売環境になるまで 20 年がかかったと言える。アメリカ市場参入初期において、この企業が

行った様々な日本酒の啓蒙活動と同時に、「日本」の原産国効果を合わせて活用しながら現

地消費者に向けて販売することで、より早く多くの現地消費者に日本酒を知ってもらうこ

とができたのではないかと考える。 また両企業は、中国市場の規模や成長性は重要視しているが、ターゲット顧客層を中国

在住の邦人としている点や、取引の不安という点から中国市場への参入に積極的とは言え

なかった。

Ⅷ インプリケーション

これまで中小企業の海外進出の手助けとなる最大の手段として原産国効果の有効性につ

いて述べてきた。国内市場の飽和や新興国の需要拡大などの現状を考えると、企業規模に

関わらず日本企業が海外市場の活路を探る動きは自然な流れといえる。近年、それまでの

工業製品に加え、サントリーや日清食品などの食品メーカーも海外事業を重要課題として

取り組んでいるが、地方の中小企業にとっても海外市場進出の必要性は例外でない。しか

し我々の調査では、現状の中小酒造企業の海外経営に対する認識や意欲が差し迫る危機と

して高いとは言えなかった。今後の酒類業界の動向に注目したい。 我々は、先行研究で謳われている原産国効果の強みに加わる新たな優位性を見つけるた

めの実証実験を行った。原産国効果の他のマーケティング要素に対する有意性について検

証し、パッケージ・ストアイメージ・価格戦略といった要素との購買意欲に対する影響力

を比較した。結果、記述統計上では他の要素に対するある程度の有意性があると解釈でき

た。しかし、特に贈答用の場合、原産国効果に加えてパッケージ効果もまた中国人消費者

に対して強く作用する結果となり、一概に原産国効果の有意性を述べることは難しい。だ

が、中国人消費者がデザインに対し気を使う事実が分かった。日本企業は中国市場での製

品販売において、原産国表記を強調するとともに製品パッケージを工夫することで、より

有効な販売戦略となると提言できる。 早くから海外に出回ってきた自動車や電化製品などの工業製品と新たに海外に出るよう

になった食品との違いは、文化の違いが大きく反映されるところにある。食品は工業製品

のように世界的な商品の標準化がむつかしいといえる。独特な日本の食文化は当然海外に

おいて馴染みのないものである。日本の多様な食文化を海外で受け入れてもらうためには、

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その多様性を度外視して「日本の食べ物」として受け入れさせることが重要である。その

ために特に食品においての原産国イメージの強調は必要不可欠であり、コストを要しない

観点から中小企業にとって海外進出の重要な助力となると我々は主張する。

参考文献

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