16
平成27年度製造基盤技術実態等調査 (スマートテキスタイル市場の拡大に関する調査)報告書 平成28年2月 一般社団法人 繊維学会

平成27年度製造基盤技術実態等調査平成27年度製造基盤技術実態等調査 (スマートテキスタイル市場の拡大に関する調査)報告書 平成28年2月

  • Upload
    others

  • View
    8

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

平成27年度製造基盤技術実態等調査

(スマートテキスタイル市場の拡大に関する調査)報告書

平成28年2月

一般社団法人 繊維学会

目 次

第 1章 本事業の概要

1-1.事業目的 1

1-2.事業概要 1

1-3.実施体制 2

第2章 CEA tech調査報告

2-1.調査概要 3

2-2.調査内容 3

2-3.今後の展開について 6

2-4.まとめ 7

第3章 日仏シンポジウム調査報告

3-1.調査概要 8

3-2.調査内容 8

3-3.まとめ 12

第4章 調査報告まとめ 13

1

第1章 本事業の概要

1-1.事業目的

日本の繊維産業が有する高性能・高機能繊維は医療、モビリティ、航空・宇宙、土木・

建築、産業資材、ユニフォーム等様々な用途で活用されており、フランスの繊維産業は

糸や織物に機能性を付与させるテクニカルテキスタイルの優れた技術を有し、繊維製品

の高付加価値化を進めている。

日本の先端素材とフランスのアプリケーション技術のマッチングによりグローバルな

共同市場開拓が見込まれる中、2012 年 12 月に開催された第 26 回日仏産業協力委員会に

おいて、繊維、ロボット、スマートコミニティーの 3 分野でセクター別WGを設置する

ことが提案され、両国で合意した。2013 年 3 月に東京で開催された第 1 回日仏繊維WG

を始め、第 2 回日仏繊維WGや日仏繊維ワークショップが実施され、具体的な協力案件

の一つとして、スマートテキスタイルが検討されている。

スマートテキスタイルでは近年様々な分野でユーザーや利用者から得られるデータを

収集し、これらを分析することで得られる情報を新たなサービス等につなげる動きが出

始めている。繊維分野では、通信会社と組んで、着るだけで生体情報の連続計測を可能

とした事例製品が既に出てあり、機能繊維の新たな用途拡大につながるものと期待され

る。

日仏繊維WGのもと 2016 年 12 月に開催した、スマートテキスタイルシンポジウムに

参加し、現地のフランス企業や欧州専門家等へ調査を行うことにより、我が国繊維メー

カーの高機能・高性能繊維の強みを生かし、ユーザー産業との連携強化の枠組の検討を

目指し、スマートテキスタイルの新規開拓を促進する。

1-2. 事業概要

2015 年 12 月 8 日にフランスでスマートテキスタイル研究の最先端を行く CEA tech へ

の調査、さらに 12月 9 日にはINSA(リヨン)で開催された日仏スマートテキスタイ

ルシンポジウムへの参加し、スマートテキスタイルの研究開発動向の調査を行った。

なお、各調査の詳細は第2章および第3章に記載する。

①欧州専門家調査

日 時 2015年 12月 8日

場 所 Crowne Plaza Lyon-Cite International

(22, Quai Charles de Gaulle, 69463 LYON Cedex 06, France)

内 容 「CEA tech」調査

2

参加者 CEA tech Strategic Partnership Manager Pierre-Damien Berger

Scientific Advisor Dr. Sophie Mailley

信州大学・平井教授、福井大学・堀教授、

東京工業大学・鞠谷教授(繊維学会学会長)、

福井県工業技術センター・増田主任研究員

②スマートテキスタイルシンポジウム

日 時 2015年 12月 9日 8:30-18:00

場 所 INSA Lyon(フランス国立応用科学院リヨン校)

20 Avenue Albert Einstein, 69100 Villeurbanne, フランス

参加者 約 50名

(日本側参加者)

信州大学・平井教授、佐古井准教授、

福井大学・堀教授

東京工業大学・鞠谷教授(繊維学会学会長)、

福井県工業技術センター・増田主任研究員

1-3. 実施体制

本事業の推進に当たっては、一般社団法人繊維学会および当学会における日仏交流を

推進する目的で設立された一般社団法人繊維学会・スマートテキスタイル研究推進委員

会による事業全体の統括の下、産学官の共同体制を構築し、下記調査メンバーで本事業

を実施した。

★調査メンバー

東京工業大学 教 授 鞠谷 雄士(一般社団法人繊維学会・会長)

福井大学 教 授 堀 照夫

(一般社団法人繊維学会・スマートテキスタイル研究推進委員会、委員長)

信州大学 教 授 平井 利博

信州大学 准教授 佐古井 智紀

福井県工業技術センター 主任研究員 増田 敦士

3

第2章 CEA tech調査報告

2-1 調査概要

日 時 2015年 12月 8日 12:30-16:00

場 所 Crowne Plaza Lyon-Cite International

(22, Quai Charles de Gaulle, 69463 LYON Cedex 06, France)

参加者 CEA tech Strategic Partnership Manager Pierre-Damien Berger

Scientific Advisor Dr. Sophie Mailley

信州大学・平井教授

福井大学・堀教授

東京工業大学・鞠谷教授(繊維学会学会長)

福井県工業技術センター・増田主任研究員

2-2 調査内容

1)CEA tech概要

CEA tech は、フランスの原子力・新エネルギー庁の研究機関で、Leti(エレクトロ

ニクス)、List(ソフトウェア、システム構築:オフィスはパリ)、Liten(エネルギー、

ナノマテリアル;繊維はこの研究部門で対応)の3つの部門から構成される。

約 4,500人が働いており、研究資金の約 20%は公的なものであるが、残りは民間企業

や競争的研究事業より集めている。

大学等のシーズと企業のニーズの橋渡しとして、基礎研究と製品開発の間を取り持つ

研究開発を行っている。そのため、所属する研究者の大半も企業の研究所出身者が多い。

Industrial Partnership のセクション(約 20名)では、企業からの相談などのコン

サルティングや共同研究などのプロジェクト開発を行う。具体的な相談内容に基づき最

適な研究担当者をピックアップして対応しているので、研究分野が異なり幅広い分野に

またがる開発内容でも、最適な成果や人材を持ち寄った形で提案できている。

研究開発で現在、約 500社の企業と連携しており、中にはヘルスケアを扱っている日

本企業もある。CEA tech としては海外との連携として、アメリカ、日本に注力してお

り、海外の研究開発拠点もこの 2か国に設置している。

2)CEA techの研究動向

現在スマートテキスタイルに関連するテーマとして CEA techとして 1テーマ、Liten

から3テーマ紹介を受けた。特に「e-thread」や「Pro-Tex」は日本より進んでおり、

今後の技術連携等の可能性もある。また、こうした取り組みは、日本国内企業のスマー

トテキスタイル開発の参考になる。各研究テーマの概要は以下に記載する。

4

CEA tech① e-thread

電子部品(1mm以下)を糸形状に加工するプロジェクト。

小型基板の両側に導電ワイヤを挟む部分を作成し、基板に搭載した電子部品とワイ

ヤを電子部品の上から蓋をする方法で接続固定して、電子部品搭載糸を構成する。こ

の方法で作成した UHF 帯 RFID ファイバーは非常に高性能で、数 m の通信距離を維持

できている。同じ出力のリーダーで認識試験を行っており、既存のタグよりかなり通

信性能が優れている。

図1.「e-thread」の概略図、拡大写真、およびサンプル写真

Liten① CEA Li-ion cells

ウエアラブル用途に向けたフレ

キシブルリチウムイオンバッテリ

ー。

スマート衣料では、テキスタイル

との一体化や装着時に違和感を感

じないなど、電源のフレキシブル性、

軽量化、薄層化が求められる。

現在開発しているプロトタイプ

は図2に示すように非常に薄く、パ

ッケージ後でおおよそ 10cm×20cm

×5mmのサイズ。

Liten② Pro-Tex

各種センシングデバイス(GPS、温度、アンテナ、可視アラーム、ワイヤレスモジ

ュール、フレキシブルバッテリー)を搭載した高機能防護服(消防服)の開発プロジ

ェクト。汗を検知する Na+センサは消防服用途の場合、着用者の消耗度の検知、スト

図2.フレキシブルバッテリー写真

5

レス検知として使用する。また、スポーツ分野では着用者の運動能力指標として使用

できるなど、この開発の要素を様々な分野に展開する。特に着用者周辺領域のみでモ

ノ・機器・環境の情報を収集するセンシングネットワークを構成するシステムを開発

している。

図3.「Pro-Tex」に使用される各種センサの写真

Liten③ Sol-Tex

2014 年から始まった 5 年間の研究開発プロジェクトで、スマートテキスタイルに

搭載して発電するための太陽光発電糸を開発する。具体的には、モノフィラメント表

面に太陽光発電機能を被膜で構成した太陽光発電糸を開発している。発電性能の目標

は 10W/m2.

3)国内スマートテキスタイル関連技術の動向調査

欧州での製品開発・普及の可能性を調査する目的で、現在、日本で実施しているスマ

ートテキスタイル関連分野の研究について説明し、欧州での動向および製品開発の可能

性について調査を行った。

具体的には、スマート機能のある高機能高分子に関する研究として、日本側から「高

分子アクチエーター」、「熱可塑性複合材料用芯鞘構造糸」、高機能加工技術に関する研

究として「超臨界技術によるテキスタイル加工技術」、e-テキスタイルに関する研究と

して「太陽光発電テキスタイル」について説明し、CEA tech 側の関心事項について聞

き取りを行った。

CEA tech 側からは、特にセンサ、アクチュエータおよび太陽光発電テキスタイルに

関心があるとのことであった。太陽光発電テキスタイル資料の要望があったので、後日、

繊維学会が発表に使用した資料を送付することとなった。

また、繊維強化材料の利用拡大でリサイクル技術が EUでのターゲットになっている

とのことであり、高分子アクチエーターの研究紹介の中で最近のトピックスとして紹介

6

した「太陽光発電パネルのリサイクル技術開発」への関心が高く、この技術資料および

研究者交流を推進したいとの要望があった。これについては関連研究者を紹介し、共同

研究の可能性を検討することとした。

なお、日本側のプレゼン概要は以下のとおり。

○高分子アクチエーター

各種高分子材料による電動アクチエーターの、技術開発事例を紹介。柔らかい対象物

をつかむグリッパーや電気で焦点を制御できるレンズなど具体的製品化案についても

紹介。

最近のトピックスとして、太陽光発電パネルのリサイクル技術も紹介。

○太陽光発電テキスタイル

現在、福井県工業技術センターを中心とする産学官チームで開発している太陽光発電

テキスタイルについて、作成方法とその特徴、ラミネート加工について、現在の製品開

発事例を紹介。

○超臨界技術によるテキスタイル加工技術

超臨界二酸化炭素技術について、その原理、装置、そして応用事例として難染色材料

の染色、金属などの機能材料封入による高機能化等について紹介。

○熱可塑性複合材料用芯鞘構造糸

高速紡糸技術を応用した複合繊維の開発の一つとして、ポリエステル単一材料による

リサイクル性に優れた熱可塑性繊維強化複合材用の芯鞘構造繊維について、その開発コ

ンセプト、開発内容について紹介。

2-3 今後の展開について

スマートテキスタイルに関する分野の研究は、欧州や日本だけでなく世界中で活発に

行われている。その中でも、欧州はエレクトロニクス技術を応用した分野では日本より

多様な開発が行われており、日本の先を進んでいるテーマも多いことがわかった。特に

バイタルセンシングの分野などの研究では、CEA tech の開発した技術を基にして、ベ

ンチャー企業(シチズンサイエンス)が誕生しており、現段階はこれまでの多様な製品

開発から一歩進んで具体的ビジネス展開(デジタルシャツ)に移行しているとのことで

ある。このように研究を基にした産業化のスキームは、スマートテキスタイル分野に限

らず、今後日本においても参考にしていく必要性が見込まれる。

また、今回を含めこれまでの技術交流を継続することで相互の研究の進展、さらには

ビジネス展開の可能性について協議した。現段階より一歩進むには人的交流が不可欠で

7

はないかとの CEA tech から提案があり、そのひとつとしてポスドクの交流などについ

ての意見交換も行われた。これについては、これまでも CEA tech から信州大学に要望

が出ており、この研究交流(研究者交流)については信州大学のみでなく、繊維学会の

広いチャネルを活用した研究交流を推進する方向で継続的な情報交換を進めることで

合意した。なお、研究者交流には企業の研究者も含めた開発研究なども含め、知財の扱

いなどについてはケースバイケースで対応することとした。

2-4 まとめ

スマートテキスタイルは、高分子材料を中心とした材料開発分野からエレクトロニ

クスと融合した異分野融合の分野まで、さらに基礎的な研究から生産技術に近いもの

まで幅広く行われている。欧州はエレクトロニクスと融合した異分野融合の分野が進

んでおり、日本は材料開発分野が進んでいる印象を受けた。地域的な距離があること

で連携が困難であるが、逆にビジネス展開では競合よりは連携できる可能性も高く、

相補的な研究開発ができるよう繊維学会としても今後とも交流を進めていく。

8

第3章 日仏シンポジウム(スマートテキスタイルシンポジウム)

3-1 シンポジウム概要

日 時 2015年 12月 9日(水) 8:30-18:00

場 所 INSA Lyon(フランス国立応用科学院リヨン校)

20 Avenue Albert Einstein, 69100 Villeurbanne, フランス

参加者 約 50名

(日本側参加者)

信州大学・平井教授、佐古井准教授、

東京工業大学・鞠谷教授(繊維学会学会長)

福井大学・堀教授

福井県工業技術センター・増田主任研究員

3-2 シンポジウムの内容

参加者は約 50 名、会場は椅子がほぼ埋まっており盛況であった。参加者の大半は大

学・研究機関関係であったが、TechTera 以外に Uptex 関係者、企業からも数人参加し

ており日本側の発表内容に興味を示していた。シンポジウムはプログラム(別紙1)に

従い開催された。20 テーマの予定であったが、2 件キャンセルがあり 18 テーマで行わ

れた。今回のシンポジウムでは化学・高分子系の内容が多く見受けられた。技術的には

ナノテクノロジーを活用するものが多く、またその技術の応用としては医療、ヘルスケ

ア(バイタルセンシング)や環境関連が多い。以下に各テーマの概要を報告する。

【シンポジウム発表内容】

①Keynote lecture “Overview of innovations in the Textile and Clothing Industry”

Isabelle FERREIRA (IFTH)

IFTH の紹介。主な研究開発内容として「炭素繊維」、「生物由来材料」、「スマートテ

キスタイル」、「ナノテクノロジー」、「複合材料」、「製品開発」などの紹介があった。

②Keynote lecture “Nanostructured Polymers for Designing Innovative Materials

Used as Fibers, Textiles, and Composite structures”

Jean-francois GERARD (INSA Lyon)

新規イオン液体や粘土鉱物などの分散系がポリマーなどと形成する海島構造などの

ナノ構造により、繊維やテキスタイル、複合材料に用いられる材料改質をおこなう。

この手法により強度や接着性の向上など物性の向上が期待されている。

③Keynote lecture “Electro-active conventional textile polymers as smart materials

– Autonomic Materials - ”

9

Toshihiro HIRAI (SHINSHU University)

電圧を付加することで、アクチエーターとなる様々な繊維系汎用高分子ゲルにつ

いて、その誘電特性と用途事例、機械エネルギーへの変換、光屈曲、圧電効果(セン

サー)などへの応用、今後の課題について紹介。

④“Enhanced fiber : tomorrow fashion and sustainable industries”

Corinne DOREL (MAP INSA Lyon)

Second skin としてのアパレルというコンセプト提示。微生物の生成物を利用した、

生分解性高分子のデンプン系繊維の開発。納豆繊維は吸湿性があるので、湿度制御性

能なども期待されている。アミロイドのエレクトロスピンニングなども紹介。

⑤“Protein are naturally SMART and optimized material”

Claire LESIEUR (ENS Lyon)

タンパク構造についての解析。シルクや蜘蛛の巣を形成するタンパクの折りたたみ

構造が誘起する強靭さとスマートさの所以を構造論的に解説。折りたたみ構造の可逆

性がスマートさの由来である。

⑥“Inkjet printing of electroactive material for sensors and actuators applications”

Jean-Fabjen CAPSAL (LGEF INSA Lyon)

プリンティドエレクトロニクス技術を利用して、PET フイルム上に金属成分のイン

クで電極を構成し、その電極間に電気特性のある高分子(PA、Pu、シリコン、

P(UDF-TiFE-CFE))を塗布してピエゾ感圧センサやアクチエーターを作る。メディカ

ル用途などに展開する予定。

⑦“Development of the solar energy harvesting textiles”

Atsuji MASUDA (Industrial Technology Center of FUKUI)

球状太陽光発電素子を使用した太陽光発電テキスタイルの試作開発について。開発

した太陽光発電テキスタイルの発電性能、樹脂加工した場合の特性と耐久性評価、お

よび最近の製品試作事例を紹介

⑧“Polymer nano-fibers by nano-fluidics and characterization of electrical and

dielectrical properties”

Anatoli SERGHEI (IMP University CLAUDE BERNARD)

ナノポアへのポリマーのキャピラリー流動による導入を利用した新規ナノファイバ

ー作製技術。数十時間をかけて導入後ナノポアを溶解して繊維束を得る。制限された

スペース内の PS の不思議な蛍光発光(閉じ込め効果による)、PVDF の結晶化動力学、

電場誘起の流動などにも言及。

10

⑨“Electrospinning of PVDF aligned fibers and their potential in neural tissue

engineering”

Luanda LINS (INSA Lyon)

PVDF をエレクトロスピニングで紡糸した時、その巻取り速度で糸の配向性が変わ

り、それによりピエゾ特性が変化する。神経再生の分野では、部位等により異なる特

性の材料要求があり、本実験の巻取り速度を変えることで、同一素材でも各部位に対

応した特性の材料提供が可能となる。

⑩ “Development of functional thermoplastic multifilament by melt spinning

process-Application on the detection”

Aurelie CAYLA (GEMTEX-ENSAIT)

温度により電気伝導性が変化する、感温繊維の開発。原理は融点が異なる高分子と、

導電性素材として CNT を使用して糸を構成し、低融点高分子の融点近傍で CNT が流

動して電気抵抗が変化することで温度を検知するシステム。9大学、23 の連携グルー

プでの EU プロジェクト。

⑪“Towards safer by design silver nanoparticles and nanowires”

Geraldine SARRET (ISTERRE)

市販の銀イオンを利用した抗菌等のテキスタイルの場合、銀の含有量が数%以上あ

るが、そのうちの 20%以上が最初の洗濯で喪失されてしまう。そこで、AgS で安定化

した外層を持つ、Ag+を徐放できる糸を、芯鞘構造を利用して開発した。

⑫“Contribution of electrospinning to fabricate functional filaments and fibers”

Vincent SALLES (LMI University CLAUDE BERNARD)

エレクトロスピニングを使用した、生分解性材料の医療分野での製品開発、作製し

たファイバーをグラファイト化し、エレクトロニクスやエネルギー分野での製品に応

用、磁場振動によるエネルギーハーヴェストにも応用し、極めて高い電流を発生させ

ている。これによるガスセンサや触媒等の環境分野での製品開発の紹介。

⑬“Textile reinforced concrete (TRC): a new generation composite for rehabilitation

and strengthening buildings and infrastructures”

Patrice HAMELIN (ENISE)

強化材料として、繊維でなく各種テキスタイル(織物、編物)を使用した場合の物

性について報告。材料や各種特性により、繊維強化の場合より優れた特性が得られる。

注目すべきは、ISO などを睨んで、基準化に供するための予測用シミュレーション技

術を開発していること。

⑭“Fabrication of Fiber-reinforced single-polymer Composites through Compression

11

Molding of Bicomponent Fibers”

Takeshi KIKUTANI (TOKYO INSTITUTE OF TECHNOLOGY)

高速紡糸技術を利用して、単一素材のポリエステル繊維でありながら糸を芯鞘構造と

して、鞘成分を非晶状態にすることで融点を低く設定できる。これにより、芯が強化繊

維部分、鞘がマトリックスとなる繊維強化複合材を実現する繊維の製造方法およびその

特性について紹介

⑮“Carbon nanotubes as nanofillers and yarn-like fibers in epoxy matrices for

designing advanced composites”

Jannick DUCHET-RUMEAU (IMP UMR CNRS #5223)

EU project FP7. CNT はマトリックス材料であるエポキシとの界面接着性が良好

であり、複合材料の物性向上として活用できる可能性が高い

⑯“New wave for water-free dyeing and finishing”

Teruo HORI (FUKUI University)

非水染色方法の一つである超臨界二酸化炭素染色について、原理と基礎試験データ、

その技術を使用した製品開発事例、および世界におけるこの技術の製品化の状況につ

いて紹介

⑰“Microstructure evolution of sheath-core polyester fiber used in thermal insulation

nonwoven controlled by thermal analysis”

Selim ZAHOUR (PEG S.A.S-AMME/LECAP laboratory)

鞘に融点 130 度の共重合ポリエステル、芯に通常のポリエステルを配した芯鞘型複

合繊維を用いた熱融着型不織布の特性

⑱“Solar radiation analysis for thermal comfort considering transmission through

clothing distribution – An example of summer polyester sport uniform -”

Tomonori SAKOI (SHINSHU University)

熱的な快適性を評価するためのモデルを提案し、夏用ポリエステル素材の服におい

て、素材の色による太陽光反射および透過性能評価を行った結果、素材の色による影

響は少ないことを示した。

12

3-3 スマートテキスタイル関連企業へのヒアリング

シンポジウムの後に、スマートテキスタイル関連企業から個別にヒアリングを実施。

①高機能糸の製造販売会社

日本の技術は非常に興味深く、2014 年 9 月 28 日~10 月 1 日に開催した、繊維学会国

際シンポジウム(ISF2014)にも参加し情報収集しており、その時から太陽光発電テキ

スタイルには注目している。2016 年 1 月 14 日~16 日に日本で開催されるウエアラブル

EXPOにも参加する予定である。

e-テキスタイルなどスマートテキスタイルはこれからの技術として期待しており、今

後の事業化に向けて欧州を含め研究開発の動向に注目している。

②化学会社(フランス支社)

世界的な化学・電気素材企業のフランス支社。

各種ウエアラブル技術を用いた製品がでてきており、今後e-テキスタイルなどスマー

トテキスタイル分野が成長すると期待されている。この分野向けの材料を検討するため

にも、自社でも具体的な研究開発に取り組んでいる。

3-4 まとめ

今回のシンポジウムでは、基礎開発の発表が中心の内容であり、今後の欧州における

スマートテキスタイル研究開発動向を把握するには非常によい機会であった。

具体的には、化学・高分子系ではナノテクノロジーを活用するものが主流であり、日

本と同様で、CNT(カーボンナノチューブ)などのナノテク材料が今後の開発として重要

な役割を担うと推測される。繊維の技術についてはやはり日本が先端を進んでいるが、

複数の技術を融合したり、異分野技術を取り込んだりする分野ついては欧州でもユニー

クな研究が多く、こうした交流は今後の国内におけるスマートテキスタイル研究開発の

推進において非常によい刺激になる。

また、その技術の応用としては医療、ヘルスケア(バイタルセンシング)、もしくは環

境関連が中心となっている。やはりテキスタイル材料の可能性としては、その軽さ、薄

さ、フレキシブル性を活かした医療やヘルスケアがターゲットのひとつとして重要であ

ることが再認識された。特に、ヘルスケア等の分野に貢献する個々の技術は欧州と日本

で遜色ないが、こうした応用分野での製品化もしくは事業化ではテキスタイル分野の技

術者だけでなく、医療やシステム関連など複数の異業種分野が連携することが不可欠で

あり、こうしたコーディネートや連携に関しては欧州を参考とすべき点が多い。

13

第4章 調査報告まとめ

スマートテキスタイルは、高分子材料を中心とした材料開発分野からエレクトロニク

スと融合した異分野融合の分野まで、さらに基礎的な研究から生産技術に近いものまで

幅広く行われている。全般的には、欧州はエレクトロニクスと融合した異分野融合の分

野での研究開発が進んでおり、日本は材料開発分野が進んでおり、また研究開発の視点

や着眼点も互いにことなるなど、こうした交流は今後の国内におけるスマートテキスタ

イル研究開発の推進において非常によい刺激になる。さらに、相互補完的なテーマは共

同研究・共同開発の可能性も高い。

今後ともフランスとの交流を進め、共同開発もしくは共同研究を推進し、将来の両国

間でのビジネス展開が望まれる。

以上

14

別紙1