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-1- 平成25年度司法書士試験解説 午前の部 午前の部第1問 正解4 誤り。株式会社の政治献金が認められるかが問題となったが、判例は、会社は自然人 たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持・推進・反対する自由があり、政治献金 もその一角であるとして、これを認めた(最判昭45.6.24)。「自然人と別異に 扱うべきである」とする本肢は誤りである。 誤り。入国の自由は、外国人には、保障されない。国際法上、外国人には入国の自由 は認められない。 正しい。公務員の政治活動は、現行法上一律に制限されている。判例は、公務の中立 性により合理的で必要やむを得ない限度であれば政治的行為の禁止は許容される、とす る(最判昭49.11.6。猿払事件判決)。 正しい。在留外国人のうち永住者等で居住区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を 持つに至ったと認められる者につき、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公 共団体の公共的事務の処理に反映させるため、法律で、地方公共団体の長、その議会の 議員等に対する選挙権を与える措置を講ずることは、憲法上禁止されてはいない(最判 平7.2.28)。そうした措置を執ることが「憲法上禁止されない」のであるから、 そうした措置を執らなくても違憲にはならない。 誤り。判例は、「喫煙の自由が憲法13条で保障されているとしても、監獄内で喫煙 の自由を認めると、火災発生による被拘禁者の逃亡、通謀による罪証隠滅、監獄内の秩 序維持の支障が予想される。喫煙禁止という程度の自由の制限は必要かつ合理的なもの である」とする(最判昭45.9.16。未決拘禁者喫煙禁止事件判決)。本肢は、「制 限の必要性等について考察するまでもなく」とあるから、誤りである。 よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。 ★難易度:易。基本的な判例問題である。アイが誤りであるから、4と5に絞られ、ウと オの正誤の判断は容易であり、正解可能である。 午前の部第2問 正解3 資格喪失説である。党籍を保持することが、憲法43条1項の「全国民を代表する選 挙された議員」の要件であるとすると、議員が党籍を失った場合、憲法43条の要件を 満たさなくなるから、議員の資格を喪失することとなる。 資格保有説である。資格保有説では、議員が党籍を失っても議員の資格を保有する結 果、比例代表選挙において政党を選択した民意とかけ離れた結果を生む、との批判が可 能である。 資格喪失説である。憲法43条1項の代表の意味を、自由委任ととらえると、政党の 党議拘束に反して政党を除名されたとしても議員資格を失うことはないこととなる。こ のことは、資格喪失説に対する批判となる。 資格喪失説である。政党の党議拘束に反した場合に議員資格を失うこととなると、政 党と議員との間に命令・服従関係を生じさせることとなる。このことは、資格喪失説に 対する批判となる。 禁:無断複製(C)飯島正史 平成25年度司法書士試験解説

平成25年度司法書士試験解説 午前の部 午前の部第1 …ア Cの見解の根拠となるものとして適切である。仮差押えによる時効中断効がいつまで

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平成25年度司法書士試験解説

午前の部

午前の部第1問 正解4

ア 誤り。株式会社の政治献金が認められるかが問題となったが、判例は、会社は自然人

たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持・推進・反対する自由があり、政治献金

もその一角であるとして、これを認めた( 判昭45.6.24)。「自然人と別異に

扱うべきである」とする本肢は誤りである。

イ 誤り。入国の自由は、外国人には、保障されない。国際法上、外国人には入国の自由

は認められない。

ウ 正しい。公務員の政治活動は、現行法上一律に制限されている。判例は、公務の中立

性により合理的で必要やむを得ない限度であれば政治的行為の禁止は許容される、とす

る( 判昭49.11.6。猿払事件判決)。

エ 正しい。在留外国人のうち永住者等で居住区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を

持つに至ったと認められる者につき、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公

共団体の公共的事務の処理に反映させるため、法律で、地方公共団体の長、その議会の

議員等に対する選挙権を与える措置を講ずることは、憲法上禁止されてはいない( 判

平7.2.28)。そうした措置を執ることが「憲法上禁止されない」のであるから、

そうした措置を執らなくても違憲にはならない。

オ 誤り。判例は、「喫煙の自由が憲法13条で保障されているとしても、監獄内で喫煙

の自由を認めると、火災発生による被拘禁者の逃亡、通謀による罪証隠滅、監獄内の秩

序維持の支障が予想される。喫煙禁止という程度の自由の制限は必要かつ合理的なもの

である」とする( 判昭45.9.16。未決拘禁者喫煙禁止事件判決)。本肢は、「制

限の必要性等について考察するまでもなく」とあるから、誤りである。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な判例問題である。アイが誤りであるから、4と5に絞られ、ウと

オの正誤の判断は容易であり、正解可能である。

午前の部第2問 正解3

ア 資格喪失説である。党籍を保持することが、憲法43条1項の「全国民を代表する選

挙された議員」の要件であるとすると、議員が党籍を失った場合、憲法43条の要件を

満たさなくなるから、議員の資格を喪失することとなる。

イ 資格保有説である。資格保有説では、議員が党籍を失っても議員の資格を保有する結

果、比例代表選挙において政党を選択した民意とかけ離れた結果を生む、との批判が可

能である。

ウ 資格喪失説である。憲法43条1項の代表の意味を、自由委任ととらえると、政党の

党議拘束に反して政党を除名されたとしても議員資格を失うことはないこととなる。こ

のことは、資格喪失説に対する批判となる。

エ 資格喪失説である。政党の党議拘束に反した場合に議員資格を失うこととなると、政

党と議員との間に命令・服従関係を生じさせることとなる。このことは、資格喪失説に

対する批判となる。

禁:無断複製(C)飯島正史

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オ 資格保有説である。資格保有説においては、議員は、特定の選挙人や党派の代表者で

はないから(自由委任)、政党の党議拘束に反して政党を除名されたとしても議員資格

を失うことはないこととなる。

よって、資格保有説は、イとオであり、3が正解となる。

★難易度:易。見解問題である。文意から解答は可能である。アイがいずれの説であるか

の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午前の部第3問 正解5

ア 正しい。日本国憲法は、 高裁判所に違憲審査権を与えた。なお、明文規定はなくて

も、下級裁判所にも違憲審査権は認められる( 判昭25.2.1)。

イ 正しい。判決も、違憲審査の対象となる。

ウ 誤り。国会内部の議事手続については司法権は及ばない( 判昭37.3.7)。及

ぶとすると、国会の自律権を害するからである。

エ 正しい。条約が違憲審査の対象とならないとなると、憲法に反する条約が締結されて

もこれを違憲無効とすることができず、その結果として憲法が改正されることとなり、

硬性憲法の建前に反するとの批判が可能である。

オ 誤り。法令の解釈として複数の可能性がある場合、憲法に適合する解釈をとり、法令

自体の違憲判断を回避する方法(合憲限定解釈)が可能である。「常に違憲と判断する」

とする本肢は誤りである。

よって、誤っている肢はウとオであり、5が正解となる。

★難易度:易。基本的な判例問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ること

により正解可能である。

午前の部第4問 正解2

ア 誤り。成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる(民法9条本文)。成年後

見人の同意があっても同じである。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為

については、この限りでない(但書)。したがって、本肢は誤りである。なお、被保佐

人に関する本肢の記述は正しい。

イ 正しい。保佐人は、原則として、代理権はない。ただし、家庭裁判所は、保佐開始の

審判の請求権者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定

の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる(代理権付

与の審判、民法876条の4第1項)。

ウ 誤り。後見開始の審判とパラレルである。すなわち、家庭裁判所は、一定の請求権者

の請求により、補助開始の審判をすることができる。補助開始の審判の請求権者は、本

人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官で

ある。

エ 正しい。家庭裁判所は、補助開始の審判の請求権者又は補助人若しくは補助監督人の

請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければなら

ない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければなら

ないものとすることができる行為は、民法13条1項列挙行為(本肢の贈与が含まれる。)

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の一部に限る(民法17条1項)この審判があった場合は、被補助人が審判で定められ

た特定行為をする場合は、補助人の同意を要する。この審判がない場合は、被補助人の

行為能力は、なんら制限されないこととなる。

オ 正しい。本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなけれ

ばならない(民法15条2項)。これに対し、保佐開始の審判には、本人以外の者の請

求による場合であっても、本人の同意は要しない。

よって、誤っている肢はアとウであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ること

により正解可能である。

午前の部第5問 正解4

ア 誤り。無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその

行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなされる

(民法119条)。このように、無効な行為の追認には遡及効はない。

イ 誤り。無効な出生届を縁組届に転換することは認められない( 判昭50.4.8、

判平9.3.11)。

ウ 正しい。制限行為能力者の債務を保証した者は、制限行為能力者の債務負担行為につ

き取消権を有しない(大判昭20.5.21)。

エ 正しい。追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後(制限行為能力の場合

は行為能力者となった後、詐欺又は強迫の場合は詐欺を発見し又は強迫から免れた後)

にしなければ、その効力を生じない(民法124条1項)。さらに、制限行為能力者は、

行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追

認をすることができない(2項。同項は、成年被後見人についてこの規定を置くが、他

の制限行為能力者にもあてはまる。)。

オ 誤り。全部又は一部の履行は、法定追認事由である。取消権者が履行する場合のみな

らず、相手方の履行を受領する場合も含む(大判昭8.4.28)。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な判例問題である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切るこ

とにより正解可能である。

午前の部第6問 正解5

ア Cの見解の根拠となるものとして適切である。仮差押えによる時効中断効がいつまで

継続するかについては、説が分かれる。判例は、③の継続説を採っている。

①非継続説

仮差押えの登記がされ、又は仮差押命令が送達された時点で中断するとともに中断

事由が終了し、時効は新たに進行を始める。

②吸収説

本案の判決確定まで中断効が継続し、確定時から時効は新たに進行を始める。

③継続説

執行保全の効力が存続する限り(仮差押命令が生きている間は)は、中断効は継続

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する(=時効は進行しない)。仮差押えの被保全債権について本案の勝訴判決が確

定しても、中断事由は終了しない( 判平10.11.24)。

本問の場合、Cの見解(時効消滅)の根拠となるのは、①(非継続説)と②(吸収説)

を執った場合であり、③(継続説)を執った場合は、時効の中断が継続しているから、

時効は完成しておらず、Cの見解の根拠とはならない。

本肢は、①(非継続説)であり、Cの見解の根拠となる。

イ Cの見解の根拠となるものとして適切である。③(継続説)に対しては、「仮差押命

令を得るには疎明で足りる。そのような、比較的簡易な方法である仮差押えによって半

永久的な中断効を認めるのは相当ではない」との批判がなされる。これは、①(非継続

説)又は②(吸収説)の理由となり、Cの見解の根拠となる。

ウ Cの見解の根拠となるものとして適切ではない。「債務者には、起訴命令、事情変更

による取消命令等の手段があるので酷でない」は、③(継続説)の理由であり、Cの見

解の根拠とはならない。

エ Cの見解の根拠となるものとして適切である。本肢は、②(吸収説)の内容であり、

Cの見解の根拠となる。

オ Cの見解の根拠となるものとして適切ではない。中断事由である仮差押えと裁判上の

請求を同様のものととらえれば、裁判上の請求による中断が終わった時(判決の確定)

に仮差押えによる中断も終了することとなるが、別の中断事由であることを強調すると、

判決が確定しても仮差押えによる中断は終了しないこととなる。このことは、③(継続

説)の理由となり、Cの見解の根拠とはならない。

よって、Cの見解の根拠となるものとして適切ではない肢はウとオであり、5が正解とな

る。

★難易度:中。重要判例に基づく見解問題である。三毛猫倶楽部のレジュメで勉強してい

れば、アイエについての判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午前の部第7問 正解3

ア 正しい。相続放棄には遡及効があるので、本肢のBは遡って無権利者となり、Bを承

継したDも無権利者となる(無から無)。無権利者との関係は対抗関係ではなく、Cは、

未登記でこれに対抗することができる。相続放棄には第三者保護規定はないから、Dが

登記を得ていても、Cはこれに対抗することができる。このことは、DがBの相続放棄

の前後のいずれに現れたかを問わない。

イ 誤り。生前贈与の受贈者(B)と、特定遺贈の受遺者(C)の関係は対抗関係である。

先に登記をした方が勝つ。

ウ 誤り。遺産分割によって遺産を取得した者(B)と遺産分割後に現れた者(D)の関

係は対抗関係である。遺産分割の遡及効は法の擬制であり、遺産分割後に第三者が現れ

た場合は、当該擬制は働かず、Cが2分の1の持分を取得したという事実は覆らない。

したがって、Cが相続した持分2分の1についてBDに二重譲渡したのと同様の関係と

なる。したがって、Bは、未登記では、所有権全部をDに対抗することはできない(

判昭46.1.26)。

エ 正しい。生前売買の買主(D)と、相続人(BC)との関係は対抗関係ではないが、

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相続人からの特定承継人(E)との関係は、対抗関係である。先に登記をした方が勝つ。

オ 誤り。Aの遺言により、Cの相続分(甲土地の持分)は4分の1となり、Cの持分と

して登記し、さらにDが差押えをした2分の1のうち、当該4分の1を超える部分は無

権利となる。権利者と無権利者との関係は対抗関係ではなく、無権利者は、登記があっ

ても無権利の部分についての権利を主張することはできない( 判平14.6.10)。

よって、誤っている肢はイウオの3個であり、3が正解となる。

★難易度:易。個数問題であるが、基本的な判例問題である。

午前の部第8問 正解3

1 誤り。即時取得は、取引の安全を図るための制度であるから、取引による取得である

ことが要件である。相続による取得は、取引による取得ではないから、Bは、甲を即時

取得しない。

2 誤り。即時取得に必要な取引自体は、有効な瑕疵のないものでなければならない。錯

誤により無効な取引、制限行為能力や詐欺・強迫により取り消された取引、無権代理の

ため無効な取引の相手方は、即時取得で保護されない。即時取得は、取引の相手方が無

権利であることを治癒することにより取引の安全を図る制度であり、取引行為自体の瑕

疵(無効、取消原因等)を治癒するものではないからである。ただし、無効等の取引の

相手方とさらに取引をした者については、即時取得の適用がある。すなわち、無効等の

直接の取引の相手方は即時取得できないが、直接の相手方からさらに取引をした者は、

即時取得が可能である。本肢のBは、制限行為能力者Aの直接の相手方Dから取引によ

って甲を取得した者であるから、甲を即時取得しうる。

3 正しい。即時取得は、取得者が平穏・公然と動産の占有を始めた者であり、かつ、善

意無過失であることが要件である。この要件は、取得者が占有を開始したとき(引渡し

を受けたとき)に備わっていなければならない。

4 誤り。本来、平穏、公然、善意、無過失は即時取得者が立証責任を負うべきである。

しかし、占有は平穏、公然、善意であると推定され(民法186条1項)。また、占有

者は権利者であると推定されるから(民法188条)、その者と取引をした者の無過失

も推定される( 判昭41.6.9)。したがって、これらの要件の立証責任は、即時

取得によって権利を失う者が負う。

5 誤り。無権代理人の直接の相手方であるBは、甲を即時取得しない。

よって、正しい肢は3であり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な判例問題である。

午前の部第9問 正解1

ア 誤り。現物分割は、実質的に、分割した各共有物の持分についての交換である。また、

全面的価格賠償は、実質的に、持分の売買である。すなわち、共有物分割の時に売買又

は交換がなされたのであるから、共有物分割の効力は遡及しない。

イ 正しい。共有関係は、当事者の意思に基づかなくても、法律の定めにより共有関係が

成立することががある。他人の包蔵物の中での埋蔵物を発見した場合や、動産が付合・

混和したが合成物・混和物の主従を区別することができない場合等である。

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ウ 誤り。共有する権利についての登記を登記義務者に請求する行為は、共有物の保存行

為であるから、登記権利者(地役権設定登記の場合は地役権者=要役地の共有者)の一

人が単独ですることができる。

エ 誤り。共同相続した賃貸不動産の、相続開始から遺産分割までの賃料債権は、各相続

人が相続分に応じて確定的に取得し、当該不動産の遺産分割によっても影響は受けない

(遡及しない。 判平17.9.8)。

オ 誤り。共有物分割の訴えにおいて、共有者間に持分譲渡があったがこれをもって他の

共有者に対抗することができないときは、裁判所は、当該持分がなお譲渡人に帰属する

ものとして共有物分割を命じなければならない( 判昭46.6.18)。

よって、正しい肢はイの1個であり、1が正解となる。

★難易度:難。判例問題である。個数問題であり、解答は困難である。

午前の部第10問 正解3

ア 賃借権の場合のみ正しい。地上権者は、土地の所有者の承諾なく自由に、その地上権

を譲渡し、土地を賃貸することができる。これに対し、賃借権を賃貸人に無断で譲渡し

た場合、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができる(民法612条)。

イ 地上権の場合のみ正しい。抵当権は、地上権を目的として設定することができる。こ

れに対し、抵当権を賃借権に設定することはできない。

ウ 賃借権の場合のみ正しい。賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務

を負う(民法606条1項)。これに対し、地上権は、その目的である土地を直接支配

するから、地主に修繕義務はない。

エ 地上権の場合のみ正しい。設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合は、地上

権の存続期間は、慣習があれば、それによって定まり(民法268条1項)、慣習がな

い場合は、地上権者は、いつでもその権利を放棄することができる。慣習がなく、地上

権者が地上権を放棄しない場合は、裁判所が、当事者の請求により、20年以上50年

以下の範囲内において、工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情

を考慮して、その存続期間を定める(2項)。賃借権には、裁判所が存続期間を定める

旨の規定はない。

オ 地上権と賃借権の双方について正しい。地上権は、時効取得が可能である。また、土

地の賃借権については、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが

賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは、時効取得が可能である(

判昭43.10.8)。

よって地上権のみ正しい肢は、イとエであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文・判例問題である。アイエの正誤の判断は容易であり、肢を

切ることにより正解可能である。

午前の部第11問 正解2

ア 誤り。留置権者は、善管注意義務をもって留置物を保管しなければならない(民法2

98条1項)。これに違反した場合は、債務者は、留置権の消滅請求をすることができ

る(3項)。過失(保管義務義務違反)によって、留置物の一部を壊したということは、

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保管義務違反があったのであり、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

イ 正しい。留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない(民法300条)。

ウ 正しい。留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これ

を自己の債権の弁済に充当することができる(民法297条1項)。留置権者が収取で

きる果実には、自然果実と法定果実を含む。ただし、法定果実(賃料)が生じる賃貸は、

債務者の承諾がなければすることができない(民法298条2項)。債務者の承諾があ

れば、留置物を賃貸して、賃料を被担保債権の弁済に充てることができる。

エ 正しい。民事執行法は、留置権に基づく競売を認める(形式競売。民事執行法195

条)。しかし、留置権には優先弁済的効力はないから、競売代金から優先弁済を受ける

ことはできない。

オ 誤り。借地人が借地契約終了に際し、建物買取請求権を行使し、売買代金債権を取得

した場合、当該建物につき留置権が成立するほか( 判昭33.6.6)、借地人は、

建物留置に必要な土地の占有をすることも認められる( 判昭18.2.18)。ただ

し、賃料相当分は不当利得となるから、これを返還しなければならない(大判昭18.

2.18)。

よって、誤っている肢はアとオであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文・判例問題である。アウの正誤の判断は容易であり、肢を切

ることにより正解可能である。

午前の部第12問 正解5

1 正しい。物上代位による差押えの前に一般債権者が金銭債権に対して差押え、仮差押

えの執行をした場合であっても、物上代位が優先し、抵当権者はなお債権を差し押さえ

て物上代位をすることができる( 判昭59.2.2、 判昭60.7.19)。

2 正しい。抵当権者が賃料債権に対して物上代位による差押えをした後は、第三債務者

は抵当権設定登記後に取得した反対債権による相殺をもって抵当権者に対抗できない

( 判平13.3.13)。物上代位による差押前であれば、抵当権設定登記後に取得

した反対債権で相殺することも許される。

3 正しい。抵当権者は、買戻代金に物上代位することができる( 判平11.11.3

0)。

4 正しい。集合動産譲渡担保の効力は、目的動産が滅失した場合の損害填補のために譲

渡担保権の設定者に対して支払われる保険金請求権にも及ぶ( 判平22.12.2)。

5 誤り。物上代位による差押えの前に転付命令が第三債務者に送達された場合は、抵当

権者は物上代位をすることができない( 判平14.3.12)。

よって、誤っている肢は5であり、5が正解となる。

★難易度:易。判例問題である。2の内容は元の判例を裏から読んだ場合であり、4は聞

き慣れない判例であったかも知れないが、5は有名判例であるから、容易に解答可能で

ある。

午前の部第13問 正解4

ア 正しい。抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間

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は、抵当権消滅請求をすることができない(民法381条)。

イ 正しい。抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力

が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない(民法382条)。

ウ 誤り。抵当権消滅請求に対して、抵当権者が競売の申立てをした場合において、当該

抵当権者が競売の申立てを取り下げるには、他の抵当権者の承諾は要しない(改正点)。

エ 誤り。抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる(民

法390条)。

オ 正しい。抵当不動産の第三取得者は、抵当不動産について必要費又は有益費を支出し

たときは、民法196条(占有者の費用償還請求に関する規定)の区別に従い、抵当不

動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができる(民法391条)。

抵当不動産の第三取得者が、抵当不動産につき必要費または有益費を支出して、民法3

91条に基づく優先的な費用償還請求権を有しているにもかかわらず、抵当不動産の競

売代金が抵当権者に交付されたため、第三取得者が償還を受けられなかったときは、第

三取得者は抵当権者に対し不当利得返還請求権を有する( 判昭48.7.12)。

よって、誤っている肢はウとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文(判例)問題である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢

を切ることにより正解可能である。オの判例は聞き慣れないかも知れないが、オについ

て判断するまでもない。

午前の部第14問 正解4

ア 誤り。抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なる場合は、後に同一になっても法

定地上権は成立しない( 判昭46.10.14)。

イ 誤り。1番抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なる場合は、後に同一人になっ

た後に2番抵当権が設定されても、法定地上権は成立しない( 判平2.1.22)。

ただし、この場合において、1番抵当権が消滅していた場合は、法定地上権は成立する

( 判平19.7.6)。1番抵当権者を害するから法定地上権が成立しないとされて

いたのであるなら、その1番抵当権が消滅したのであれば、成立を認めてよいからであ

る。

ウ 正しい。土地と建物が同一の共有形態である場合で、土地の共有持分に抵当権が設定

された場合、法定地上権は成立しない( 判平6.4.7)。

エ 正しい。更地に抵当権が設定された場は、たとえ抵当権者が建物の建築を予め承認し

ていても、法定地上権は成立しない( 判昭51.2.27)。

オ 誤り。更地に抵当権が設定された後、建物が建てられ、建物に抵当権が設定された場

合は、建物について競売がなされて土地と建物の所有者が別人となったときに法定地上

権が成立するが、その後、土地について競売がなされたときは、法定地上権は土地の買

受人に対抗できない(消滅する。)(大判昭11.12.15)。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な判例問題である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切るこ

とにより正解可能である。

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平成25年度司法書士試験解説

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午前の部第15問 正解4

ア 誤り。 一部譲渡は、譲渡人と譲受人との間の契約(合意)でするが、設定者の承諾

が効力要件である。

イ 誤り。元本の確定前に債権者又は債務者の交替による更改があったときは、その当事

者は、抵当権と異なり、根抵当権を更改後の債務に移すことができない(民法398条

の7第3項)。

ウ 正しい。元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者や、元本の確定前に債務者

のために又は債務者に代わって弁済をした者は、その債権について根抵当権を行使する

ことができない(1項)。

エ 正しい。根抵当権者が死亡した場合は、相続人と根抵当権設定者(現在の所有者のこ

と。債務者とは限らない。)の合意により相続人の中から指定根抵当権者を定め、相続

開始から6か月以内に指定根抵当権者の合意の登記をすると、根抵当権は、相続開始の

時に存する債権のほか、指定根抵当権者が相続の開始後に取得する債権を担保する(民

法398条の8第1項)。相続開始から6か月以内に指定根抵当権者の登記をしないと

きは、根抵当権の元本は、相続開始の時に確定したものとみなされる(4項)。

オ 誤り。保証人が抵当権(元本確定後の根抵当権についても、同様に考えることができ

る。)へ一部代位した後、抵当権が実行された場合、債権者が代位者に優先する( 判

昭60.5.23)。これに対し、抵当権が二つの債権を担保するものであり、保証人

がそのうちの一つだけを保証していた場合において、保証人が自己の保証債務を全部弁

済して、抵当権に一部代位した場合は、抵当権の実行に際して債権者は保証人に優先し

ない( 判平17.1.27)。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文(判例)問題である。オの判例の根抵当権への応用に思い当

たらなくても、アイエの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午前の部第16問 正解1

ア 正しい。連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分に

ついてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる(負担部分につき絶

対的効力がある。民法437条)。

イ 誤り。連帯債務者の一人と債権者との間に混同(債権混同。本肢の場合、Bの債務に

ついて、債権混同が生じている。)があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたも

のとみなされる(絶対的効力がある。民法438条)。その後、弁済をしたものとみな

された連帯債務者が、負担部分に応じて他の連帯債務者に求償することとなる。「30

万円全額について連帯債務の履行を請求することができる」とする本肢は、誤りである。

ウ 誤り。連帯債務者の一人と債権者との間に更改(本肢の場合、AB間で更改をしてい

る。)があったときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する(絶対的

効力がある。民法435条)。

エ 正しい。反対債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負

担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる(負担部分につき絶

対的効力がある。民法436条2項)。

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平成25年度司法書士試験解説

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オ 誤り。連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分

については、他の連帯債務者も、その義務を免れる(負担部分につき絶対的効力がある。

民法439条)。

よって、正しい肢はアとエであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アエの正誤の判断は容易である。

午前の部第17問 正解5

ア 正しい。債務者が弁済者となるのは当然であるが、第三者も債務者に代わって弁済を

することができるのが原則である(民法474条1項本文)。第三者の弁済の可否をま

とめたのが次表である。

場合 可否

債務の性質が許さない場合(但書)(例:名演奏家の演奏、学者の講演等) ×

当事者が反対(第三者弁済不可)の意思表示(特約)をした場合(但書) ×

上記以外 利害関係を有しない第三者 債務者の意思に反する場合(2項) ×

が弁済する場合 債務者の意思に反しない場合 ○

利害関係を有する第三者が弁済する場合 ○

このように、当事者が反対(第三者弁済不可)の意思表示(特約)をした場合は、債

務者の意思に反するか反しないかにかかわらず、第三者弁済は禁止される。

イ 正しい。第三者弁済の可否(ア)は、債権者の善意悪意に関係ない。

ウ 正しい。利害関係を有しない第三者が弁済する場合で債務者の意思に反しない場合は、

当該第三者は弁済をすることができる。弁済をすることができる者の弁済を、債権者は

拒むことはできない。

エ 誤り。借地の地代の弁済については、借地上の建物の賃借人は法律上の利害関係を有

する( 判昭63.7.1)。

オ 誤り。 弁済をするについて正当な利益を有する者がする代位である。弁済をするに

ついて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する(民法500条)。

よって、誤っている肢はエとオであり、5が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文(判例)問題である。アイウでピンとこなくても、エオが正

解肢であることは容易に判断できるであろう。

午前の部第18問 正解1

ア 正しい。賃借人が支出した費用の償還は、賃貸人が返還を受けた時から1年以内に請

求しなければならない(民法621条、600条)。この除斥期間とは別に、必要費の

償還請求権については、支出の時から消滅時効が進行する。

イ 誤り。賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義

務を負う(民法613条1項本文)。ただし、本規定は、賃貸人が転借人に対して直接

義務を負うことを定めたものではない(我妻有泉コンメ第2版追補版P1129)。し

たがって、転借人は、賃貸人に対して、直接費用償還請求権を行使することができない。

ウ 誤り。賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃

貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる(民法608条1項)。この請求

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権を担保するため、賃借人は、留置権を行使することができる。

エ 正しい。債務不履行により契約が解除された後は、債権は消滅するから、債務者は反

対債権で相殺をすることはできない(相殺には遡及効があるから、遡って履行遅滞はな

かったこととなり解除は無効である、という主張はできない。 判昭32.3.8、我

妻P352)。

オ 誤り。賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の

時に、占有者の有益費償還請求の規定(民法196条2項)に従い、その償還をしなけ

ればならない。ただし、賃借人が賃借建物に付加した増築・新築部分が、賃貸人への返

還以前に、賃貸人、賃借人いずれの責めにも帰すことのできない事由により滅失したと

きは、特段の事情のない限り、当該部分に関する有益費償還請求権は消滅する( 判昭

48.7.17)。

よって、正しい肢はアとエであり、1が正解となる。

★難易度:中。判例問題である。聞き慣れない判例があるかも知れないが、ウエの正誤の

判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午前の部第19問 正解4

ア 正しい。使用貸借において、存続期間も使用目的も定めなかった場合は、貸主は、い

つでも返還を請求することができる(民法597条3項)。

イ 誤り。賃貸借の解約は、存続期間の定めがない場合にすることができる。

ウ 正しい。請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の

解除をすることができる(民法641条)。

エ 誤り。各当事者は、いつでも(特別な事由がなくても)、委任契約を解除することが

できる(民法651条1項)。委任者の利益のみならず受任者の利益のためにも委任が

なされた場合(報酬支払いの特約がある場合等)であっても、委任者が委任契約の解除

権を放棄したものとは解されない事情がある場合は、委任者は、本規定によって委任契

約を解除することができる( 判昭56.1.19)。この場合は、損害賠償の必要は

ない。その点、本肢は誤りである。なお、当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の

解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。た

だし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない(2項)。

オ 正しい。寄託契約において、返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得な

い事由がなければ、その期限前に返還をすることができない(民法663条2項)。逆

に言えば、やむを得ない事由があれば、期限前に返還できることとなる。

よって、誤っている肢はイとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。条文(判例)問題である。エについて悩むかも知れないが、これについて

判断しなくても、アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能であ

る。

午前の部第20問 正解2

ア 正しい。女は、前婚の解消又は取消しの日から6か月を経過した後でなければ、再婚

をすることができない(民法733条1項)。嫡出推定の重複を防ぐためである。この

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規定に違反した婚姻は、婚姻取消しの対象となる。ただし、前婚の解消若しくは取消し

の日から6か月を経過し、又は女が再婚後に懐胎したときは、取り消すことはできない。

イ 誤り。判例は、別居中の妻の不知の間に夫が勝手に協議離婚届を提出した場合におい

て、その後、妻が夫から慰謝料の支払いを受ける合意が成立した場合は、妻が調停成立

の際に協議離婚を追認したものといえる、とした( 判昭42.12.8)。このよう

に、判例は、離婚の追認を認めている。

ウ 誤り。本肢の場合、前婚の協議離婚の取消しにより、重婚となるから、後婚を取り消

すことができる(基本コンメ第三版P32)。

エ 正しい。婚姻が成立するためには、両当事者の婚姻意思の合致が必要である。姻成立

に必要な意思は、実質的意思である。その結果、非嫡出子を嫡出子にするためにした婚

姻は、形式的意思があっても実質的意思がないから無効である( 判昭44.10.3

1)。

オ 誤り。離婚に必要な意思は、形式的意思でよい(実質的意思を要する婚姻、縁組、離

縁と異なる。)。例えば、夫Aが生活保護を受けるため、収入のある妻B(旧法時の事

件)との離婚届が提出されたが婚姻生活は継続された場合、離婚は有効である。Aの死

後、BがAの第三者に対する損害賠償請求権を相続するため、離婚無効を主張すること

は認められない( 判昭57.3.26)。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な判例問題である。アウ又はアエの正誤の判断は容易であり、肢を

切ることにより正解可能である。

午前の部第21問 正解2

ア 誤り。推定される嫡出子との父子関係を否定する方法は、嫡出否認の訴えに限られる

(民法774条、775条)。この訴えの提起権者は父に限られる(民法772条)。

したがって、父が嫡出否認の訴えを提起しない限り、母や真実の父等は父子関係を否認

することはできず、真の父は認知をすることはできない。

イ 正しい。認知をするには、意思能力があれば足り、行為能力は要しない。したがって、

父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を

要しない(民法780条)。

ウ 正しい。成年の子の認知するには、その子の承諾を要する(民法782条)。

エ 誤り。胎内にある子の認知するには、母の承諾を要する(民法783条1項)。

オ 正しい。非嫡出子の親権は、母が行うが、父が認知した子に対する親権は、父母の協

議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う(民法819条4項)。

よって、誤っている肢はアとエであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アウの正誤の判断は容易であり、肢を切ること

により正解可能である。

午前の部第22問 正解2

ア 正しい。本肢の場合、Cの弁済充当行為は相続の単純承認事由にあたるから、Cの相

続放棄は無効である。したがって、相続人は、配偶者Bと子Cであり、配偶者Bの相続

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分は2分の1の450万円である。

イ 誤り。相続の承認及び放棄は、熟慮期間内でも、撤回することができない(民法91

9条1項)。したがって、本肢の場合、第一順位の血族相続人である子が相続の放棄に

より相続人とはならないから、血族相続人は第二順位の直系尊属であるEとなり、配偶

者Bの相続分は3分の2の600万円となる。

ウ 誤り。本肢の場合、第一順位の血族相続人である子が相続の放棄により相続人とはな

らないから、血族相続人は第二順位の直系尊属であるEとなり、配偶者Bの相続分は3

分の2の600万円となる。Eは、その後死亡しているが、Aを被相続人とする相続が

開始した時点では存在していたから、相続人及び相続分に変更をもたらさない。

エ 正しい。受遺者が遺贈者死亡以前に死亡した場合は、遺贈は無効となる。したがって、

本肢の場合、F(相続人ではない。したがって、Fへの遺贈は、特別受益ではない。)

への遺贈は無効である。したがって、Eへの遺贈額300万円を除いた600万円につ

き配偶者Bが2分の1の300万円、子CDがそれぞれ4分の1の150万円を相続分

として取得することとなる。

オ 誤り。CDEが相続を放棄した場合、配偶者Bの他に相続人となるのは、第三順位の

血族相続人である弟Fである。すると、Fへの遺贈は共同相続人への遺贈であるから、

これは特別受益となる。したがって、遺産900万円のうち、配偶者Bの相続分は4分

の3の675万円となり、Fの相続分は4分の1の225万円から遺贈額の100万円

を控除した125万円となる(Fは、相続分のほか、遺贈として100万円を取得する。)。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★難易度:易。条文問題である。不動産登記法の相続登記対策をしっかりやっていた場合

は、容易であったろう。アウ又はアエの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより

正解可能である。

午前の部第23問 正解2

ア 誤り。相続開始より相当以前になされた特別受益にあたる贈与は、減殺請求を認める

ことが特別受益者に酷であるなどの特段の事情がない場合に限り、これに対する減殺請

求が認められる( 判平10.3.24)。本肢は、原則と例外が逆である。

イ 正しい。遺留分減殺の対象となる贈与には、相続開始前の1年間にしたもの、及び、

これより前にしたものでも当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした

ものが含まれる(民法1030条)。

ウ 正しい。贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、これを減殺することができない(民

法1033条)。

エ 誤り。受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返

還しなければならない(民法1036条)。

オ 正しい。受遺者等が現物返還義務を免れるのは、価額弁償を現実に履行し、又は履行

の提供をした時であり、価額弁償の意思表示のみでは足りない( 判昭54.7.10)。

よって、誤っている肢はアとエであり、2が正解となる。

★難易度:中。条文・判例問題である。アウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることに

より正解可能である。

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午前の部第24問 正解2

ア 正しい。AがBを車のトランクに監禁したところ、前方不注意のCが運転する車が当

該車に衝突し、トランクに監禁されていたBが傷害を負い死亡した場合、AがBをトラ

ンクに監禁した行為とBの死亡の因果関係は肯定され、監禁致死罪が成立する( 決平

18.3.27)。

イ 誤り。本肢の場合、AがナイフでBを刺した行為とBの自殺との間には因果関係は認

められず、殺人罪は成立しない。

ウ 誤り。柔道整復師の指示により、風邪をひいた被害者が水をとらず脱水症状の末死亡

した場合、指示と死亡の因果関係は肯定され、業務上過失致死罪が成立する( 決昭6

3.5.11)。因果関係がない、とする本肢は誤りである。

エ 誤り。犯人の暴行によって被害者の死因となった傷害が形成された後、第三者によっ

て加えられた暴行により死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間

の因果関係は肯定され、傷害致死罪が成立する( 決平2.11.20。資材置場事件)。

オ 正しい。公園、引き続きマンション居室において長時間執拗な暴行を受けた被害者が、

隙を見て逃走後、犯人に極度の恐怖感を抱き、犯人の追跡から逃れるため、高速道路に

進入し、自動車に衝突、礫過され死亡した場合、暴行と死亡の因果関係は肯定され、傷

害致死罪が成立する( 判平15.7.16)。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★難易度:易。重要であるが、三毛猫倶楽部で頻繁に取り上げる、その意味では基本的な

判例問題である。アウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

イは常識で分かるであろうが、判断する必要はない。

午前の部第25問 正解4

ア 誤り。急迫とは、法益侵害が目前に迫ってきていることをいう。過去や将来の侵害は、

急迫性がないから、これに対する正当防衛は認められない。本肢は、過去の侵害に対す

る反撃であり、急迫性がないから正当防衛は認められない。

イ 誤り。本肢の場合も、過去の侵害に対する反撃であり、急迫性がないから正当防衛は

認められない。

ウ 正しい。本肢の場合は、侵害に急迫性が認められる。また、正当防衛が成立するため

には、防衛行為が必要性と相当性を満たしたものでなければならないが、暗い脇道に連

れ込まれそうになったのに対して胸部を強く押す行為は、これらの要件をも満たしてい

る。したがって、正当防衛が成立する。

エ 誤り。防衛行為をした者が、積極的加害意思を有していた場合も、侵害の急迫性は否

定される。例えば、敵対する団体の再来襲に備え鉄パイプ等を用意する等、積極的加害

意思があった場合は急迫性が否定され、正当防衛は認められない( 決昭52.7.2

1)。

オ 正しい。自らが招いた侵害(自招侵害)に対しても、正当防衛が成立する余地はある。

( 判平20.5.20参照)。本肢の場合、挑発行為(肩がぶつかった)が招いた侵

害(ナイフでの切りつけ)は、挑発行為を大きく超えるものであり、こうした場合、自

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招侵害に対する正当防衛が認められる。

よって、正しい肢はウとオであり、4が正解となる。

★難易度:易。判例問題である。具体的な判例を知らなくても、正当防衛の基本の理解が

あれば、解答は容易である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正

解可能である。

午前の部第26問 正解2

ア 誤り。同姓同名の名義を使用して文書を作成した場合、人格の同一性が認められる場

合は偽造ではないが、同一性を偽れば偽造となる( 判平5.10.5。同姓同名の弁

護士の名義を使用した事例。)。

イ 誤り。本肢の登記申請は、真の所有者名義にするものであるといっても、所有権移転

の事実はなかったのであるから、「公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿

その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若し

くは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた」

(刑法157条1項)にあたり、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪が成立する。

ウ 正しい。本肢の場合、錯誤に陥った名義人本人を道具として用いた間接正犯であり、

私文書偽造罪が成立する。

エ 誤り。公立高校長の名義を冒用して中退した生徒の卒業証書を偽造し、これをその生

徒の父親に提示する行為は、文書の行使にあたる( 決昭42.3.30)。

オ 正しい。代理権(代表権)がない者(A)が、「C代理人(代表)」という肩書き付

で文書を作成することは、C名義の冒用であり、偽造にあたる( 判昭45.9.4)。

よって、正しい肢はウとオの2個であり、2が正解となる。

★難易度:中。判例問題である。ウ以外は必ず学習する判例であり、判断は容易である。

ウは、間接正犯であることに思い至れば判断できたであろう。個数問題であったため、

若干解答が困難となった。

午前の部第27問 正解4

ア 正しい。本店の所在地を日本国外の地とすることはできない(会社法コンメンタール

P289)。

イ 誤り。変態設立事項(現物出資事項が含まれる。)は、必ず、定款に記載(記録)し

なければならない(相対的記載事項。会社法28条)。

ウ 正しい。発起人は、会社成立の時までの間、その選任した設立時役員等(定款で選任

された者を含む。)を解任することができる(会社法42条)。設立時役員等の解任は、

発起人の議決権の過半数(設立時監査役を解任する場合にあっては、3分の2以上に当

たる多数)をもって決定する(会社法43条1項)。

エ 誤り。設立時募集株式の引受人は、払込期日又は払込期間内に払込みをしないときは、

当該払込みをすることにより設立時募集株式の株主となる権利を失う(会社法63条3

項)。通知された期日までに出資をしなければ失権するのは発起人である。

オ 正しい。発起人の任務懈怠責任を免除するには、総株主の同意が必要である(会社法

55条)。

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よって、誤っている肢はイとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。登記や裁判所の管轄を考えれば本店の所在地を

国外とすることはできないことに思い至るであろうが(ア)、これについて判断をしな

くても、イウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午前の部第28問 正解5

ア 誤り。公開会社が取締役会の決議で募集事項を定めた場合は、株主に対して、払込期

日(又は払込期間の初日)の2週間前までに募集事項等を通知しなければならない。この

通知は、公告をもって代えることができる(会社法201条3項、4項)。このように、

公示方法は通知又は公告であり、公告かつ通知とする本肢は誤りである。

イ 誤り。有利募集の場合は、取締役は株主総会において理由を説明しなければならないが

(会社法199条4項)、株主割当ての場合は、取締役は、有利募集に関する説明義務を

負わない。

ウ 正しい。割当てを決定するのは、通常、代表取締役である。ただし、譲渡制限株式の割

当てには、(公開会社、非公開会社を問わず)定款に別段の定めがない限り、株主総会の

特別決議(取締役会設置会社は取締役会の決議)を要する(会社法204条2項)。公開

会社は取締役会設置会社であるから、取締役会の決議で決定する。

エ 誤り。引受人が募集株式の株主となった時(効力発生日)におけるその給付した現物

出資財産の価額が、これについて募集事項として定められた価額に著しく不足する場合

は、発行等に関する職務を行った取締役又は執行役、その他関与した取締役は当該不足

額を支払う義務を負う。関与した取締役等とは、議案を提案したり、取締役会で決議に

賛成(議事録に異議を述べた旨の記載がないと賛成と推定)した取締役等をいう。ただ

し、次の各場合は、取締役等は責任を負わない(会社法213条1項、2項)。

①検査役の調査を受けた場合

②職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明した場合(過失責任)

オ 正しい。募集株式の引受人は、株主となった日(効力発生日)から1年を経過した後

又はその株式について権利を行使した後は、錯誤を理由として募集株式の引受けの無効

を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として募集株式の引受けの取消しをすることが

できない(会社法211条2項)。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ること

により正解可能である。

午前の部第29問 正解1

ア 誤り。自己株式の取得と異なり、自己株式の質受けには、なんら制限はない。

イ 正しい。例外的に子会社が親会社株式を取得した場合、剰余金の配当請求権等の自益

権は、認められる。

ウ 誤り。子会社に対して、組織再編(吸収分割を含む。)の対価として親会社株式が交

付された場合、子会社は、対価たる親会社株式を取得することができる。

エ 正しい。子会社が取得した親会社株式は、相当の時期に処分しなければならない(会

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平成25年度司法書士試験解説

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社法135条3項)。

オ 正しい。株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その

効力を生じない(会社法128条1項)。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡の

効力発生には、株券の交付は要しない(同項)。子会社が親会社株式を処分する場合は、

原則通り、株券の交付を要する。

よって、誤っている肢はアとウであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アウの正誤の判断は容易である。

午前の部第30問 正解3

ア 正しい。少数株主(総株主の議決権の100分の3以上)は、株主総会の目的である

事項(議題。当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由

を示して、株主総会の招集を請求することができる(会社法297条1項)。この請求

をした株主は、次のいずれかの場合は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集すること

ができる。

①請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合

②請求があった日から8週間(定款で短縮可)以内の日を会日とする株主総会の招集

の通知が発せられない場合

イ 誤り。株主総会の招集通知は、次に定める時期までに発しなければならない(会社法

29条1項

株式会社の種類 招集通知を発しなければならない時期

公開会社 取締役会設置会社 会日の2週間前まで

非公開会社 会日の1週間前まで

非取締役会設置会社 会日の1週間(定款で短縮可)前まで

書面投票、電子投票を可とした場合 会日の2週間前まで

このように、設問の非公開会社である取締役会設置会社は、会日の1週間前までに招

集通知を発しなければならず、非取締役会設置会社と異なりこの期間を定款で短縮する

ことはできない。

ウ 誤り。取締役会設置会社においては、株主総会の招集通知は、書面(通知書)でしな

ければならない。書面の代わりに株主の承諾を得て電磁的方法ですることができる(電

子通知)。口頭ですることはできない。

エ 正しい。書面投票を可とした場合は、招集通知の際、株主総会参考書類及び議決権行

使書面を交付しなければならない(会社法301条)。

オ 正しい。裁判所は、総会検査役(本肢の検査役)の報告があった場合において、必要

があると認めるときは、取締役に対し、次に掲げる措置の全部又は一部を命じなければ

ならない(会社法307条1項)。

①一定の期間内に株主総会を招集すること

②調査の結果を株主に通知すること

よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アイウの正誤の判断は容易である。

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平成25年度司法書士試験解説

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午前の部第31問 正解5

ア 誤り。株主(公開会社の場合は、6か月(定款で短縮可)前から引き続き株式を有す

る者)は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する

行為(以下、「違法行為」という。)をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合

において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害(監査役設置会社又は委員会設

置会社の場合は、回復することができない損害)が生ずるおそれがあるときに差止めが

認められる(会社法360条1項)。委員会設置会社以外の公開会社(=監査役設置会

社)においては、要件が「回復することができない損害」となるから、本肢の場合、株

主の差止請求権は認められない。

イ 誤り。会社法が定める要件を満たす少数株主は、役員に不正行為等があったにもかか

わらず解任議案が否決された場合等の場合は、裁判所に当該役員の解任を求めて訴えを

提起することができる(会社法854条)。解任議案の否決が要件であるから、本肢は

誤りである。

ウ 正しい。委員会設置会社以外において、取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすお

それのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を株主(監査役設置会

社にあっては、監査役。監査役会設置会社にあっては、監査役会)に報告しなければな

らない(会社法357条、419条3項)。

エ 誤り。監査役は、取締役会に報告義務を負う場合において、必要があると認めるとき

は、取締役(招集権者がいるときはその者)に対して、取締役会の招集を請求すること

ができる。この請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の

日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした

監査役は、取締役会を招集することができる(会社法383条)。取締役に対して招集

請求をすることなく招集できるとする本肢は誤りである。

オ 正しい。会計監査権限しか有しない監査役は、取締役の違法行為の差止請求権を有し

ない(会社法389条7項)。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★難易度:易。条文問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正

解可能である。

午前の部第32問 正解2

ア この見解は第2説である。持分会社の無限責任社員は、第三者の間接損害に対しても

賠償責任を負う。これとの違いを強調するのであれば、会社法429条1項の損害賠償

請求は間接損害の場合を除くとする第2説となる。

イ この見解は第1説である。株主代表訴訟は、取締役の会社に対する任務懈怠によって

会社に損害が生じ(もって、株主に損害が生じ)た場合、すなわち、間接損害に対して

提起することができる。第三者に株主を含め、かつ、間接損害を含むとする第1説に立

つと、会社法429条1項の規定は、株主代表訴訟と変わらなくなり、株主代表訴訟の

意義が失われかねないこととなる。

ウ この見解は第1説である。資本金や準備金の額が少額である企業が多いことを強調す

ると、間接損害を被った第三者が会社のほか取締役にも会社法429条1項の規定によ

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り賠償請求をすることを認める見解に傾く。

エ この見解は第2説である。総株主の同意で取締役の会社に対する任務懈怠責任を免除

すると、会社法429条1項の損害賠償請求は直接損害に限るという第2説においては、

損害を受けた第三者が取締役に対して責任を追及することが困難になりかねない、と考

えることは可能である。

オ この見解は第1説である。第1説に基づき、会社法429条1項の規定により第三者

が間接損害について取締役に対して損害賠償請求をすることは、債権者(第三者)が債

務者(株式会社)の第三債務者(取締役)に対する債権を代位行使して直接自己への弁

済を求めることとパラレルである。

よって、この見解が第2説である肢はアとエであり、2が正解となる。

★難易度:中。見解問題である。文意を読み取ればさほど解答が困難なものではない。ア

ウ又はアエの見解がいずれの説であるかの判断は容易であり、肢を切ることにより正解

可能である。

午前の部第33問 正解4

ア 誤り。事業譲渡等(事業の全部の譲受けを含む。)には、債権者保護手続は要しない。

イ 誤り。株式会社が資本金の額を減少する場合において、次のいずれにも該当する場合

は、株主総会の特別決議ではなく、普通決議で資本金の額を減少することができる(会

社法309条2項9号)。

①定時株主総会において、決議事項を定めること

②資本金の額の減少額が、定時株主総会の日(取締役会の承認により計算書類が確定

する場合は、取締役会の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定め

る方法により算定される額を超えないこと

この場合でも、債権者保護手続は要する。

ウ 正しい。組織変更前持分会社の債権者は、組織変更について異議を述べることができ

る。したがって、債権者保護手続を要する(会社法781条、779条)。

エ 正しい。完全親子会社間で、完全子会社を吸収合併存続会社とする吸収合併をする場

合も、当該完全子会社の債権者は、組織変更について異議を述べることができる。した

がって、債権者保護手続を要する。

オ 誤り。株式会社が新設分割をする場合において、人的分割以外の場合は、新設分割後、

新設分割株式会社に債務の履行(連帯保証人としての履行請求を含む。)を請求できな

い債権者が、新設分割について異議を述べることができる。人的分割の場合は、新設分

割株式会社の全債権者が、新設分割について異議を述べることができる。なお、新設分

割により新設分割設立会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が、新設分割株式会社

の総資産額(純資産額ではない)として法務省令で定める方法により算定される額の5

分の1(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割

合)を超えない場合は、新設分割会社において株主総会の決議が不要となるが、この場

合に債権者保護手続が不要となるわけではない。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切るこ

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とにより正解可能である。

午前の部第34問 正解1

ア 誤り。持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合又はある社員の終身の間持分会

社が存続することを定款で定めた場合には、各社員は、事業年度の終了の時において退

社をすることができる。この場合においては、各社員は、6か月前までに持分会社に退

社の予告をしなければならない(会社法606条1項)。

イ 正しい。後見開始の審判を受けたことは、持分会社の社員の法定退社事由であるが(会

社法607条1項7号)、持分会社は、これを退社事由としない定款の定めを設けるこ

とができる(2項)。

ウ 正しい。退社した持分会社の社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを

受けることができる(会社法611条1項本文)。

エ 誤り。退社した持分会社の社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務につい

て、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う(会社法612条1項)。

オ 正しい。持分会社がその商号中に退社した社員の氏若しくは氏名又は名称を用いてい

るときは、当該退社した社員は、当該持分会社に対し、その氏若しくは氏名又は名称の

使用をやめることを請求することができる(会社法613条)。

よって、誤っている肢はアとエであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アエの正誤の判断は容易である。

午前の部第35問 正解2

ア 誤り。数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担し

たときは、その債務は、各自が連帯して負担する(連帯債務者になる。)(商法511

条1項)。ただし、債権者にとって商行為であっても連帯債務者にはならない。

イ 正しい。保証人がある場合において、次の場合は、主たる債務者及び保証人が各別の

行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担する(保

証人は連帯保証人になる。)(2項)。

①債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき

②保証が商行為であるとき

ウ 誤り。商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息を請求するこ

とができる(商法513条1項)。商人が商人以外の者に金銭を貸し付けても、当然に

利息付きにはならない。

エ 正しい。商行為によって生じた債務の法定利率は、年6分である(商法514条)。

この規定は、一方的商行為にも適用がある。

オ 正しい。商行為によって生じた債権は、商法に別段の定めがある場合を除き、5年間

行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に5年間より短い時効期

間の定めがあるときは、その定めるところによる(商法522条)。この規定は、一方

的商行為にも適用がある。主たる債務者が商人であり、保証人が商人でない場合の保証

人の弁済によって発生した求償権は、この短期消滅時効の適用を受ける( 判昭42.

10.6)。

よって、誤っている肢はアとウであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ること

により正解可能である。

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午後の部

午後の部第1問 正解3

ア 誤り。独立当事者参加の申出は、書面でしなければならない(民事訴訟法47条2項)。

この書面は、当事者双方に送達しなければならない(3項)。

イ 正しい。独立当事者参加の申出は、参加の趣旨及び理由を明らかにして、参加により

訴訟行為をすべき裁判所にしなければならない(4項、43条)。

ウ 誤り。上告審における独立当事者参加は認められない( 判昭44.7.15)。そ

れまでであれば許されるから、控訴審ですることもできる。

エ 正しい。独立当事者参加には、必要的共同訴訟の規定(民事訴訟法40条1項~3項)

が準用される結果、一人につき訴訟手続の中断・中止事由が生じた場合は、全員との関

係で停止する。

オ 誤り。参加前の原告又は被告は、相手方の承諾を得て訴訟から脱退することができる

(民事訴訟法48条前段)。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文(判例)問題である。アイエの正誤の判断は容易である。

午後の部第2問 正解3

ア 誤り。当事者が死亡した場合において受継すべき者は、相続人、相続財産管理人その

他法令により訴訟を続行すべき者である。ただし、相続人は、相続放棄をすることがで

きる間は、受継できない(民事訴訟法124条3項)。

イ 正しい。労働者の提起した労働契約上の地位を有することの確認を求める訴訟は、当

該労働者が死亡した場合は、当然に終了する( 判平1.9.22)。

ウ 誤り。相続人が訴訟を承継した場合は、被承継人の訴訟状態の地位をそまま承継する

(新堂P731)。

エ 正しい。当事者の死亡は、本来、訴訟の中断事由であるが(民事訴訟法124条1項)、

訴訟代理人がある間は、中断しない(2項。訴訟代理人の代理権は消滅しない。)。

オ 正しい。訴訟手続の中断又は中止があったときは、期間は、進行を停止する。この場

合においては、訴訟手続の受継の通知又はその続行の時から、新たに全期間の進行を始

める(民事訴訟法123条2項)。

よって、正しい肢はイエオの3個であり、3が正解となる。

★難易度:中。条文(判例)問題である。イの判例は聞き慣れなかったかも知れない。労

働契約上の地位は一身専属的なものであることに思い至れば解答可能である。個数問題

なので、若干、困難であった。

午後の部第3問 正解2

ア 正しい。当事者の一方が主張した事実について、裁判所がこれを認定して確定したの

であれば、他方が当該事実を援用しなくても、裁判所は、当該事実を判決の基礎とする

ことができる。

イ 誤り。仲裁の合意があることは、抗弁事由であり、職権調査事項ではない。したがっ

て、被告がその主張をしていなければ、裁判所は、訴えを却下することはできない。

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ウ 誤り。同時履行の抗弁権は、文字通り抗弁権である。したがって、被告がその主張を

していなければ、裁判所は、これを判決の基礎とすることはできない。

エ 正しい。債務不履行による損害賠償請求権において、裁判所は、債務者の主張がなく

ても過失相殺をすることができるが、債権者の過失は債務者に証明責任がある、とする

( 判昭43.12.24、藤田P50)。本肢の場合、債務者が債権者の過失となる

事実を主張し、裁判所がこれを認定しているから、過失相殺についての主張がなくても

裁判所は過失相殺をすることができる。

オ 誤り。所有権移転登記手続訴訟において、所有権の移転の経過につき、原告が、Aか

らBが買い受けBから原告が相続した旨を主張し、被告が、AからCが買い受けCの死

亡により被告が相続したと主張した場合、AからBが買い受けBがCに死因贈与したと

認定することは弁論主義に違反する( 判昭55.2.7)。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★難易度:中。判例問題である。当事者双方が認めた事実は裁判所を拘束するが、当事者

一方が主張し裁判所が認定した事実も当然判決の基礎となるからアは正しい。そこでウ

を検討する。抗弁権は当事者が行使しなければ裁判所はこれを判決の基礎とすることが

できない旨の理解があれば、正解可能であったろう。イウオは聞き慣れない判例であっ

たかも知れないが、判断しなくても正解可能である。

午後の部第4問 正解4

ア 正しい。挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書(法律関係

文書)の所持者は、当該文書について提出義務を負うが(民事訴訟法220条)、専ら

自己の利用の目的として作成した文書については、法律関係文書にあたらない( 決平

12.3.10)。

イ 誤り。文書提出命令に係る文書が公務秘密文書に該当するかどうかについて意見を聴

かれた監督官庁が、当該文書の提出により次に掲げるおそれがあることを理由として当

該文書が公務秘密文書に該当する旨の意見を述べたときは、裁判所は、その意見につい

て相当の理由があると認めるに足りない場合に限り、文書の所持者に対し、その提出を

命ずることができる(民事訴訟法233条4項)。

①国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそ

れ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ

②犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維

持に支障を及ぼすおそれ

この場合でも、提出命令が絶対に発出できないわけではないから、本肢は誤りである。

ウ 正しい。裁判所は、第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には、その第三

者を審尋しなければならない(2項)。

エ 誤り。当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する

相手方の主張を真実と認めることができる(民事訴訟法224条1項)。この場合にお

いて、相手方が、当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により

証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、

その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる(3項)。認めることが「で

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きる」のであり、「認めなければならない」とする本肢は誤りである。

オ 正しい。文書提出命令の申立てについての決定に対しては(申立ての認容、却下のい

ずれに対しても。)、即時抗告をすることができる(民事訴訟法223条7項)。ただし、

証拠調べの必要がないことを理由として申立てを却下する決定に対しては、その必要

があることを理由として即時抗告をすることができない( 決平12.3.10)。

よって、誤っている肢はイとエであり、4が正解となる。

★難易度:中。条文(判例)問題である。アエの判断にてこずるかも知れないが、イウ

の正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午後の部第5問 正解1

ア 正しい。確定判決があった場合でも、他に時効中断の方法もないときは、勝訴した

原告は再度の給付の訴えを提起することができる(大判昭6.11.24)。

イ 誤り。口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決につい

て、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となっ

た事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することが

できる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限

る(民事訴訟法117条1項)。

ウ 正しい。既判力は「主文の判断」(訴訟物についての判断)につき生じ、「理由中の

判断」には生じない(民事訴訟法114条1項)。

エ 誤り。既判力に違反した判決も当然無効ではない。上訴又は再審によって取消しの対

象となる(新堂P596)。

オ 誤り。既判力は、事実審(控訴審まで)の口頭弁論終結時(標準時=基準時)までに

生じた事項について生じる。基準時までに生じた事項は、後日、蒸し返すことはできな

い。基準時後に生じた事項については、既判力によって遮断されない。

よって、正しい肢はアとウであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文(判例)問題である。アの判例について判断ができなくても、

イウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午後の部第6問 正解3

ア 正しい。仮差押命令は、債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発す

ることができる(民事保全法20条2項)。将来債権についての給付の訴えが原則認め

られない本案の手続とは異なる。

イ 誤り。仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。ただし、動産の仮差

押命令は、目的物を特定しないで発することができる(民事保全法21条)。

ウ 正しい。保全命令の申立てについての決定(却下(棄却)、保全命令)には、理由を

付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨

を示せば足りる(民事保全法16条)。

エ 誤り。 債務者が仮差押解放金を供託したことを証明したときは、保全執行裁判所は、

仮差押えの執行を取り消さなければならない(民事保全法51条1項)。これは、仮差

押命令の取消しではない。

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オ 正しい。保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から2週間を経過した

ときは、これをしてはならない(民事保全法43条2項)。

よって、誤っている肢はイとエであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アウの判断ができなくても、イエの判断により

正解可能である。

午後の部第7問 正解4

ア 誤り。留置権は、担保不動産競売によっても消滅しない。買受人は、留置権の被担保

債権を弁済する責任を負う(民事執行法188条、59条4項)。

イ 正しい。担保不動産競売事件の期間入札において、自らが 高価額で買受けの申出を

したにもかかわらず、執行官の誤りにより当該入札が無効と判断されて他の者が売却許

可決定を受けたため買受人となることができなかったことを主張する入札人は、当該売

却許可決定に対し執行抗告をすることができる( 判平22.3.16)。

ウ 誤り。 高価買受申出人又は買受人は、買受けの申出をした後天災その他自己の責め

に帰することができない事由により不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売

却許可決定前にあっては売却の不許可の申出をし、売却許可決定後にあっては代金を納

付する時までにその決定の取消しの申立てをすることができる。ただし、不動産の損傷

が軽微であるときは、この限りでない(民事執行法188条、75条1項)。

エ 誤り。差押債権者が、買受けの申出があった後に強制競売の申立てを取り下げるには、

高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意を得なければならない(民事

執行法188条、76条1項)。ただし、買受人が期限までに代金を納付しなかった場

合は、その者の同意は要しない。

オ 正しい。競売の対象とされた土地上に、競売対象外の建物が存在する場合でも、執行

裁判所は、当該土地の引渡命令を発令することができる( 決平11.10.26)。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★難易度:難。条文・判例問題である。イの判例は、三毛猫倶楽部では紹介しているが、

判断が難しかったかも知れない。オの判例も聞き慣れなかったかも知れないが、土地を

目的とする競売がなされたのであれば、建物の存在にかかわらず土地について引渡命令

が発令されうることに思い至れば解答は可能であった。

午後の部第8問 正解3

ア 誤り。司法書士は、一般的業務又は簡裁訴訟代理等関係業務に関する事務を受任しよ

うとする場合には、あらかじめ、依頼をしようとする者に対し、報酬額の算定の方法そ

の他の報酬の基準を示さなければならない(司法書士法施行規則22条)。求めの有無

は関係ない。

イ 正しい。司法書士は、補助者を置いたときは、遅滞なく、その旨を所属の司法書士会

に届け出なければならない。補助者を置かなくなったときも、同様である(司法書士法

施行規則25条2項)。

ウ 誤り。司法書士は、一般的業務については、正当な事由がある場合でなければ依頼を

拒むことができない(司法書士法21条)。これに対し、認定司法書士は、簡裁訴訟代

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理等関係業務については、正当な事由がなくても依頼を拒むことができる(同条参照)。

「法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代

理すること」は、一般的業務であるから、正当な事由がなければ拒むことはできない。

エ 誤り。司法書士又は司法書士であった者は、正当な事由がある場合でなければ、業務

上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない(司法書士

法24条)。「正当な事由」には刑事事件において証人として証言する場合が含まれる

(注釈司法書士法P260)。したがって、本肢の場合、司法書士及び司法書士であっ

た者のいずれも業務上の秘密を証言することができる。

オ 正しい。司法書士は、連合会の定める様式により事件簿を調製しなければならない(司

法書士法施行規則30条1項)。事件簿は、その閉鎖後5年間保存しなければならない

(2項)。

よって、正しい肢はイとオであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。エは判断に手間取るかもしれないが、アイの正

誤の判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午後の部第9問 正解1

ア 正しい。弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷

のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金

を供託することができる(民法497条)。

イ 誤り。弁済場所の特約がなく、債権者の住所が不明の場合の弁済供託は、債権者の

後の住所地の供託所にする(昭39全国会議)。本肢の供託は、賃貸人の 後の住所地

の供託所に対してする。

ウ 誤り。賃料の支払日が「前月末日」と定められている場合は、平成25年7月分の賃

料は平成25年6月30日に初めて発生する。賃料が発生する前に弁済の提供をして拒

否されても供託はできない。

エ 正しい。建物の賃料の増額について当事者間に協議が調わないときは、賃借人は、増

額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額( 低で従前の額)の賃料を支

払うことをもって足りる(借地借家法32条2項)。借地人等が相当と認める額を提供

したが受領を拒否された場合は、受領拒否を供託原因として供託することができる。

オ 誤り。弁済供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない(民

法495条3項)。その場合は、供託者は、供託官に対し、被供託者に供託通知書を発

送することを請求することができる(供託規則16条1項)。

よって、正しい肢はアとエであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アエの判断で、正解可能である。

午後の部第10問 正解3

ア 誤り。法令の規定に基づき印鑑を登記所に提出することができる者(法人の代表者)

以外の者(個人)が供託金の払渡しを請求する場合(その額が10万円未満である場合

に限る。)において、支払委託をした官公署の証明書を供託物払渡請求書に添付したと

きは、供託物払渡請求書に印鑑証明書の添付は要しない(供託規則26条3項)。本肢

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は、法人が払渡しを受ける場合であるから、この規定の適用はない。

イ 正しい。事業者以外の第三者の営業保証供託は認められない。営業保証供託は、事業

者の信用力のチェックの意味もあるからである。

ウ 誤り。保管替えは、供託物が金銭又は振替国債であることが要件である。現物の移動

を要する有価証券については、保管替えは認められない。

エ 正しい。供託金の差替えは、供託物取戻請求権について譲渡、質入れ、差押えがされ

ていないことが要件である。供託物の差替えは、実際に供託物の取戻しをするから、通

常の取戻しと同様、供託物取戻請求権の譲渡等がある場合は、認められない。

オ 誤り。保証として金銭を供託した場合には、担保の効力は供託金利息には及んでいな

いので、供託者は、毎年、供託した月に応当する月の末日後に、同日までの供託金利息

の払渡しを請求することができる。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ること

により正解可能である。

午後の部第11問 正解2

ア 誤り。還付請求権が譲渡され、その譲渡通知書(譲渡人=被供託者によるもの)が供

託所に送達された場合、供託受諾の明示がなくても、供託受諾があったとみなされる(昭

35.5.1民甲17号)。

イ 正しい。供託受諾は、被供託者の一般債権者も債権者代位権を行使してすることがで

きる。

ウ 正しい。被供託者の供託受諾は、供託受諾書(書面)を供託所に提出してする(供託

規則47条。口頭でしても受諾にならない。)。この書面に印鑑証明書の添付は要しな

い。

エ 正しい。供託受諾は撤回できない(昭37.10.22民甲3044号)。

オ 誤り。共有家屋の家賃の弁済供託につき、数人の被供託者の一人から供託受諾があっ

た場合、その者の分については取り戻すことはできないが、他の被供託者の分は、なお

取り戻すことができる(昭36.8.26民甲1624号)。

よって、誤っている肢はアとオであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な条文(先例)問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を

切ることにより正解可能である。

午後の部第12問 正解3

ア 誤り。変更登記は、本来は、利害関係人がない場合、又は利害関係人の承諾を得て

する場合は付記登記であり(不動産登記規則3条2号柱書)、それ以外の場合は主登記

である。しかし、根抵当権極度額変更は、実体的に利害関係人の承諾が必要だから、

常に付記登記でできる。

イ 正しい。破産手続開始の登記は、所有権についてする場合は主登記であり、所有権

以外の権利についてする場合は付記登記である(記録例698)。

ウ 誤り。賃借権を先順位抵当権に優先させる旨の登記は、主登記でする。

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エ 正しい。所有権以外の権利についてする処分の禁止の登記は、付記登記でする。

オ 誤り。自己信託による所有権の変更登記は、主登記でする(記録例518)。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることに

より正解可能である。

午後の部第13問 正解5

ア 正しい。同一の登記名義人についての錯誤による氏名更正登記と、住所移転による

住所変更登記は、同一の申請情報で申請することができる。

イ 正しい。管轄が同一であり、同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権(共

同担保権)に関する登記であって、登記の目的が同一であるときは、同一の申請情報

で申請することができる(不動産登記令4条、不動産登記規則35条)。すなわち、共

同担保権の設定、移転、変更、更正、抹消は、登記の目的が同一であれば、申請人や

原因日付が異なっていても同一の申請情報で申請(一括申請)することができる。

ウ 誤り。元本確定登記の申請は、根抵当権登記名義人と設定者の共同申請又は根抵当権

登記名義人による単独申請である。他方、代位弁済による根抵当権の移転登記は、弁済

者と根抵当権登記名義人の共同申請である。申請人が異なるから、これら二つの登記を

同一の申請情報で申請することはできない。

エ 誤り。本肢の場合、甲土地についてはCが登記権利者となりAが登記義務者となって

共同で申請する。乙土地についてはCが登記権利者となりBが登記義務者となって共同

で申請する。登記義務者が異なるから、これらの登記を同一の申請情報で申請すること

はできない(共同担保権とは異なる。)。

オ 正しい。信託財産に属していた権利が信託財産に属さないものとなった場合は、信託

登記の抹消と権利の変更登記をする。これら二つの登記は、同時に、同一の申請情報で

しなければならない(不動産登記法104条1項、不動産登記令5条3項)。

よって、誤っている肢はウとエであり、5が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることによ

り正解可能である。

午後の部第14問 正解2

ア 正しい。本肢の場合、A株式会社とB株式会社の代表取締役が同一人であるから、役

員構成的にはいずれにとっても利益相反取引である。他方、根抵当権の設定は、債務者

にとっては利益であり設定者にとっては不利益であるから、結局、本肢の根抵当権設定

は、設定者のB株式会社において利益相反取引となり、B株式会社の取締役会議事録が

添付情報となる。

イ 誤り。本肢の場合、代表取締役Bの債務を担保するためA株式会社の持分(及びBの

持分)に抵当権を設定したことになるので、利益相反取引となり、A株式会社の取締役

会議事録が添付情報となる。

ウ 誤り。本肢の場合、解除の当事者であるA株式会社とB株式会社の代表取締役が同一

人であるから、役員構成的にはいずれにとっても利益相反取引である。他方、解除によ

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る仮登記の抹消は、設定者にとっては利益であり仮登記権利者にとっては不利益である

から、結局、本肢の解除は、抵当権者のB株式会社において利益相反取引となり、B株

式会社の取締役会議事録が添付情報となる。

エ 正しい。子が相続した不動産上の根抵当権の指定債務者を親権者とすることは、利益

相反行為にあたり(登研530号)、家庭裁判所の選任した特別代理人が子に代わり合

意をし、又は子が合意をするのに同意をしなければならず、特別代理人の選任を証する

情報が添付情報となる。

オ 誤り。理事の利益相反取引の制限については、取締役とパラレルである(一般社団法

人等に関する法律84条)。すなわち、利益相反取引をする理事は、社員総会(理事会

設置一般社団法人においては理事会)の承認を受けなければならず、社員総会議事録又

は理事会議事録が添付情報となる。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることによ

り正解可能である。

午後の部第15問 正解3

ア 正しい。承諾書の押印に関する印鑑証明書については、有効期間の定めはない。

イ 誤り。所有権の買戻権の登記名義人が登記義務者となる場合は、所有権登記名義人が

登記義務者となる場合に準じて、当該登記義務者の印鑑証明書を提供しなければならな

い。

ウ 誤り。所有権以外の権利の登記名義人が登記義務者となる場合は、登記識別情報が提

供されている限り、当該登記義務者の印鑑証明書の提供は要しない。しかし、登記識別

情報を提供しない場合は、印鑑証明書の提供を要する。

エ 正しい。同意書又は承諾書の押印に関する印鑑証明書については、原本還付を請求す

ることはできない。承諾書には、登記原因についての承諾書(議事録を含む。)と登記

上の利害関係人の承諾書のいずれも含まれる。

オ 正しい。建物新築の場合は、未登記のうちに申請するから、所有権の登記はなされて

いない。したがって、登記義務者は、所有権登記名義人にはあたらない。登記識別情報

も初めから提供不要であるから、印鑑証明書を提供することはない。

よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることによ

り正解可能である。

午後の部第16問 正解4

1 誤り。2番付記1号の仮登記に基づく本登記をしても、まだ2番仮登記は仮登記のま

まであり後順位のFの仮差押登記は抹消されない。したがって、Fは利害関係人にはあ

たらず、その承諾証明情報の提供は要しない。

2 誤り。3番仮登記に係る条件付所有権は実体的にDに移転しており移転登記もなされ

ているから、3番仮登記に基づく本登記の申請は、Dが登記権利者となってしなければ

ならない。

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3 誤り。2番仮登記を抹消すると、2番付記1号の仮登記も抹消されるから、2番付記

1号の仮登記名義人のEは、2番仮登記の抹消において利害関係人にあたり、その承諾

証明情報の提供を要する。

4 正しい。仮登記名義人は、仮登記を受けた際の登記識別情報を提供して、単独で、自

己の仮登記の抹消を申請することができる。2番付記1号は仮登記であるから、その仮

登記名義人Eは、単独で当該仮登記の抹消を申請することができる。

5 誤り。3番付記1号は本登記であるから、仮登記名義人による仮登記の抹消の単独申

請の適用はない。

よって、正しい肢は4であり、4が正解となる。

★難易度:中。各肢で問題となっている登記が仮登記か本登記かの見極めができれば正解

可能である。

午後の部第17問 正解4

1 正しい。子Cが廃除されると、Cの子Eが代襲相続人となる。したがって、本肢の相

続人は、配偶者B、子D、代襲相続人Eとなる。廃除は戸籍の記録事項であるから、廃

除の記載のある戸籍の全部事項証明書を提供して、BDEのための相続登記を申請する

ことができる。

2 正しい。遺産分割協議書は、数通併せたものでもよい。

3 正しい。相続人中、破産者がいる場合、遺産分割における当事者適格を有する者は、

破産者ではなく破産管財人である。したがって、遺産分割協議があった場合は、破産管

財人と共同相続人(破産者を除く。)が作成した遺産分割協議書並びに裁判所の許可が

あったことを証する情報が必要となる(平22.8.24民二2077号、登研755

号)。

4 誤り。遺産分割に代わる代償として相続人固有の不動産を他の相続人に移転する場合

の登記原因は、有償であれば「遺産分割による売買」、無償であれば「遺産分割による

贈与」である(平21.3.13民二646号、登研740号)。これは相続登記では

ないので、その申請は、原則通り共同申請である。

5 正しい。民法第897条の祭祀財産承継による所有権移転登記は、祭祀財産の承継者

が遺言や審判で定められている場合でも、単独申請ではなく、遺贈の場合に準じ、権利

承継者を登記権利者、相続人全員又は遺言執行者を登記義務者とする共同申請による(登

研723号)。したがって、本肢の場合は、Eが登記権利者となり、BCDが登記義務

者となって共同で申請する。

よって、誤っている肢は4であり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。5は聞き慣れないかも知れないが(三毛猫倶楽部で

は紹介済み)、5を判断するまでもなく正解可能である。

午後の部第18問 正解4

ア 誤り。勝訴した原告について一般承継があった場合は、一般承継人による登記申請に

よって申請することができるから、承継執行文の付与は要しない。

イ 正しい。共有物に関する登記の抹消請求及び登記申請は、共有物の保存行為にあたる

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から、Aの共同相続人の一人であるCは、単独で抹消登記手続を命ずる確定判決を得て、

抹消を申請することができる。

ウ 誤り。執行決定のある仲裁判断には確定判決と同一の効力があるから、登記手続をす

ることを内容とした執行決定のある仲裁判断によって、登記権利者のBは、単独で、所

有権移転登記を申請することができる。

エ 正しい。債務者の意思表示(被告の登記申請)が、反対給付との引換えに係るときは、

執行文は、債権者が反対給付又はその提供のあったことを証する文書を提出したときに

限り付与され、執行文の付与された判決正本又は判決と同一の効力を有するものの正本

(和解調書の正本を含む。)を提供して、単独申請をすることができる。

オ 誤り。判決による単独申請の場合は、執行力のある(注)確定判決の判決書の正本(執

行力のある確定判決と同一の効力を有するもの(調停調書、和解調書、審判書等)の正

本を含む。)でなければならない(不動産登記令7条1項5号ロ(1))。ただし、送達

証明書は不要である(昭36.8.19民甲2060号)。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切ること

により正解可能である。

午後の部第19問 正解3

ア 誤り。滞納処分による差押登記後に公売がなされた場合、公売による所有権移転登

記及び差押登記の抹消のほか、差押登記に後れる抵当権(消滅する。)の登記の抹消は、

官公署(税務署長)が嘱託する(国税徴収法121条、125条)。登記官が職権です

るのではない。

イ 正しい。仮処分債権者の権利実現の登記と同時に仮処分債権者の申請により後順位の

登記の抹消が申請され、当該登記が抹消された場合は、仮処分の登記は、登記官が職権

で抹消する。

ウ 誤り。登記官は、買戻しによる権利の取得の登記(移転登記)をしたときは、職権で、

買戻特約登記を抹消しなければならない(不動産登記規則174条)。ただし、買戻し

に遅れる登記で買戻しにより消滅した権利の登記については、職権抹消の規定はないの

で、その抹消は、原則通り申請又は嘱託による。

エ 誤り。個人である債務者に係る破産手続開始の登記がされている不動産について、破

産管財人が裁判所の許可を得て任意売却し、所有権移転登記がなされた場合、破産手続

開始の登記の抹消は、裁判所書記官の嘱託によってする(破産法258条3項)。

オ 正しい。保全仮登記に基づく本登記がされた場合は、後順位の登記の抹消がなくても

(この点、所有権に関する登記請求権を保全するために仮処分登記がされた場合と異な

る。)、仮処分の登記は、登記官が職権で抹消する(不動産登記法114条)。

よって、正しい肢はイとオであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることによ

り正解可能である。

午後の部第20問 正解2

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ア 正しい。抹消回復登記は、抹消申請の際に登記権利者であった者が登記義務者となり、

登記義務者であった者が登記権利者となって、共同で申請する。相続登記が不適法に抹

消された場合は、相続人が単独で申請する。登記名義人となっていない者は、登記義務

者とはならない。

イ 誤り。本権申請は、所有権登記名義人Aが登記義務者となる場合であるから、その印

鑑証明書を提供しなければならない。

ウ 正しい。抹消回復登記の申請については、登記上の利害関係人(当該登記の回復につ

き利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。)がある場合には、その承諾

を要し(不動産登記法72条)、当該第三者の承諾を証する当該第三者が作成した情報

又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供しなけれ

ばならない(不動産登記令別表27添付情報欄ロ)。

エ 誤り。抹消回復登記の登録免許税は、不動産の個数1個につき1,000円である(登

録免許税法別表第一、一(十四))。

オ 誤り。全部が抹消された登記の回復の場合、主登記(乙区4番)で抹消回復登記をし

た後、抹消に係る登記と同一の登記が抹消前と同一の順位番号(乙区1番)でなされ

る(不動産登記規則155条)。

よって、正しい肢はアとウであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることに

より正解可能である。

午後の部第21問 正解4

1 申請できない。民法646条2項による移転の原因日付は、当該移転の日につき特約

があるときはその日であり、それ以外の場合には登記申請の日である。本肢の場合、原

因日付についての特約があるから、日付は、平成25年6月30日となる。

2 申請できない。離婚に際し、当事者間の協議により、不貞行為をした夫(有責配偶者)

が妻に財産分与とは別に慰謝料として不動産を給付する場合、登記原因は、「年月日慰

謝料債権の給付」ではなく「代物弁済」である(登研531号)。代物弁済による所有

権移転登記の原因日付は、登記申請の日ではなく、契約日であるから、本肢の場合、日

付は、平成25年6月30日となる。

3 申請できない。保佐人の同意は、登記原因の日付に影響しない。本肢の場合、日付は、

契約日の平成25年6月30日である。

4 申請できる。民法上の組合において、各組合員から組合契約による出資として、業務

執行組合員に不動産の所有権を移転した場合の所有権移転登記の登記原因は、「年月日

民法第667条第1項の出資」である。原因日付は、出資をした日であり、本肢の場

合は、平成25年7月1日である。

5 申請できない。所有権(の持分)の放棄は、相手方のない単独行為であり、他の共

有者の了知は日付に影響しない。本肢の場合、原因日付は、放棄の意思表示がなされ

た平成25年6月30日である。

よって、申請できる肢は4であり、4が正解となる。

★難易度:難。ほとんどの受験生は、民法646条2項による移転の原因日付は申請日

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であるとして、正解肢とするであろう。

午後の部第22問 正解5

1 誤り。本問の用益権は、甲土地を承役地とし、乙土地を要役地とし、設定の目的を「地

中電線路埋設」とする地役権である。地役権は、承役地又は要役地に用益権が設定され

ている場合は、当該用益権者が設定契約の当事者となり、登記申請人となることができ

る。

2 誤り。地役権は、承役地の一部を目的として設定し、登記をすることができる。地役

権設定登記においては、地役権の範囲が登記事項となる。

3 誤り。設定の目的は、抵当権設定登記の絶対的登記事項である。

4 誤り。地役権設定登記においては、存続期間は登記事項ではない。

5 正しい。地役権設定登記においては、地役権者の氏名及び住所は登記されない。

よって、正しい肢は5であり、5が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。全肢とも判断は容易である。

午後の部第23問 正解4

1 ②は登記事項ではない。地代又はその支払時期の定めは、地上権設定登記の相対的登

記事項である。これに対し、地上権の譲渡を禁止する定めは、登記事項ではない。

2 ②は登記事項ではない。債務者の氏名又は名称及び住所は、不動産工事の先取特権の

絶対的登記事項である。これに対し、不動産工事の先取特権は利息は担保しないから、

利息は登記事項ではない。

3 ②は登記事項ではない。存続期間の定めは、質権設定登記の相対的登記事項である。

これに対し、使用収益をしない旨の定めは、質権設定登記の相対的登記事項であるが、

使用収益ができる旨の定めは登記事項ではない。不動産質権は、使用収益をすることが

できるのが原則だからである。

4 いずれも登記事項である。債権に付した条件は、抵当権設定登記の相対的登記事項で

ある。また、権利消滅の定めは、権利一般の登記事項である。

5 ①は登記事項ではない。採石権の内容、採石料の定め、採石料の支払時期の定めは、

採石権設定登記の相対的登記事項である。これに対し、採石権の譲渡を禁止する旨の定

めは、登記事項ではない。

よって、①と②のいずれも登記事項となるのは4であり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。全肢とも判断は容易である。

午後の部第24問 正解4

ア 誤り。DがBの持分に対する抵当権を放棄した場合は、Dの抵当権はA持分のみを目

的とするものとなるから、1番抵当権をA持分の抵当権とする変更登記をする。この登

記は、Bが登記権利者となり、Dが登記義務者となって共同で申請する。その持分に抵

当権が存続するAは登記権利者とはならない。

イ 正しい。抵当権の債務者について相続が開始した場合において、共同相続人が債権者

の承諾を得て遺産分割によって相続人の一人を抵当債務の承継人とした場合は、相続を

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登記原因とし、当該相続人だけを債務者とする抵当権変更登記を申請することができる。

ウ 誤り。損害金を「年14.5%」から「年14.5%(年365日日割計算)と更正

することは、抵当権にとって利益であるから(登研406号)、後順位抵当権者(本問

の場合はE)が登記上の利害関係人となり、その承諾証明情報を提供しなければ主登記

で実行される。承諾証明情報を提供しなければ登記を申請することはできないわけでは

ない。

エ 正しい。不動産の代物弁済による債権消滅の効力は所有権移転登記をした時に生じる。

したがって、本肢の場合、2番抵当権者Eへの共有者全員持分全部移転登記をした時に

2番抵当権は消滅したから、Eが登記権利者兼登記義務者となってその登記の抹消を申

請することができる。

オ 誤り。譲渡担保権を取得したというだけでは不動産の所有権が確定的に移転したと

は言えない。譲渡担保により不動産の所有権が抵当権者に移転したとしても、当該抵

当権が混同で消滅したということはできない( 判平17.11.11)。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。オの判例の判断がつかなくても、アイウの正誤の

判断は容易であり、肢を切ることにより正解可能である。

午後の部第25問 正解1

ア 誤り。会社分割による権利(元本確定前の根抵当権を除く。)移転登記の登記原因証

明情報は、会社分割の記載のある承継会社又は設立会社の登記事項証明書と、吸収分割

契約書又は新設分割計画書である(平18.3.29民二755号)。

イ 正しい。会社分割による権利の移転登記は、原則通り、登記権利者と登記義務者の共

同申請でする。したがって、登記義務者の登記識別情報を提供しなければならない。

ウ 誤り。元本の確定前に根抵当権者を分割会社とする会社分割があったときは、設定者

による確定請求があった場合を除き、根抵当権は、会社分割の時に存する債権のほか、

承継会社又は設立会社が会社分割後に取得する債権及び分割会社が会社分割後に取得す

る債権(丙債権)を担保する(民法398条の10第1項)。すなわち、根抵当権は分

割会社と設立会社又は承継会社との共有になる。会社分割により根抵当権が共有となっ

た場合にすべき登記は、会社分割による根抵当権の一部移転登記である。この登記は、

承継会社又は設立会社が登記権利者となり、分割会社が登記義務者となって、共同で申

請する(判決がある場合は単独申請)。これと異なる定めが吸収分割契約や新設分割計

画でされていても、根抵当権者又は根抵当権の債務者に会社分割があった場合の民法の

規定は強行規定であるから、いったん、根抵当権一部移転登記や債務者変更登記をしな

ければならない(平13.3.30民二867号)。

エ 正しい。抵当権の債務者が分割会社となる会社分割をしたが、抵当債務が承継されな

かった場合は、当該抵当権にはなんら変更は生じないから、当該抵当権に関する登記を

申請する必要はない。

オ 正しい。元本の確定前に債務者を分割会社とする会社分割があったときは、設定者に

よる確定請求があった場合を除き、根抵当権は、会社分割の時に存する債務のほか、承

継会社又は設立会社が会社分割後に負担する債務及び分割会社が会社分割後に負担する

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平成25年度司法書士試験解説

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債務を担保する(2項)。すなわち、根抵当権の債務者が増加する。会社分割により根

抵当権の債務者が増加した場合にすべき登記は、根抵当権の債務者変更登記である。こ

の場合、承継会社又は設立会社が会社分割前から負担する債務は担保されないから、こ

れを担保させたい場合は、債権の範囲を変更して会社分割前の債務を加え、債権の範囲

の変更登記をすることとなる。

よって、誤っている肢はアとウであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な先例問題である。アウの正誤の判断は容易であり、正解可能であ

る。

午後の部第26問 正解5

ア 誤り。仮登記処分命令の管轄裁判所は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所である

(不動産登記法108条3項)。

イ 誤り。仮登記義務者の承諾がある場合は、仮登記権利者が単独で申請することができ

る(不動産登記法107条1項)。この場合、仮登記義務者は申請人とならないから、

「登記義務者の印鑑証明書」の提供は要しないが、承諾書の押印に関する印鑑証明書の

提供は要する。ただし、承諾書が公正証書で作成されている場合は、その印鑑証明書の

提供も要しない。

ウ 誤り。所有権移転請求権の一部移転登記がされている場合、すなわち、請求権が共有

の場合は、各共有者のための本登記は同時に申請しなければならない(昭35.5.1

0民三328号)。本登記をするための余白は一つしかないからである。

エ 正しい。担保仮登記に基づく所有権移転の本登記の原因日付は、清算金見積額の通知

が債務者等に到達して2か月を経過した日となり(初日不算入で2か月の期間の末日の

翌日である。)、それより前の日付による申請はすることができない(昭54.4.2

1民三2592号)。仮登記原因が、「代物弁済予約」、「条件付代物弁済」であるとき

は、担保仮登記として取り扱われ、上記の原因日付の制約が生じる。ただし、この場合

であっても、本登記の申請に際して非金銭債務担保である旨(仮登記担保法の適用はな

い。)を証する情報を提供した場合は、担保仮登記としては取り扱われない(原因日付

の制約はない。)。

オ 正しい。抵当権抹消仮登記に基づく本登記(抵当権抹消登記)を申請する場合におい

て、抵当権移転登記がなされている場合の登記義務者は、当初の抵当権登記名義人でも、

現在の抵当権登記名義人でもどちらでもよい。ただし、当初の登記名義人が登記義務者

となる場合は、現在の登記名義人は登記上の利害関係人となり、その承諾証明情報の提

供を要する。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることに

より正解可能である。

午後の部第27問 正解2

ア 正しい。抵当権の順位変更登記の登録免許税額は、順位変更に係る抵当権の個数に1,

000円を乗じた額である。敷地権付区分建物にされた抵当権の登記は、敷地権の抵当

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権の登記の効力もあるから、本肢の場合、抵当権の個数は4個となり、登録免許税額は

4,000円となる。

イ 誤り。抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更登記の登録免許税額は、登録免許税法

13条2項が適用され、不動産の個数に1,500円を乗じた額である。

ウ 誤り。抹消登記の登録免許税額は、不動産の個数に1,000円を乗じた額である。

ただし、不動産の個数が20個を超えた場合は2万円である。本肢の場合、抹消する抵

当権の登記は2個であるが、不動産の個数は1個であるから、登録免許税額は1,00

0円である。

エ 誤り。本来、更正登記の登録免許税額は、不動産の個数に1,000円を乗じた額で

ある。ただし、所有権一部移転登記を所有権移転登記に更正する場合は、更正登記によ

って実質的に移転する部分について移転登記の登録免許税額を納付する。本肢の場合、

実質的に移転するのは不動産の2分の1の持分(移転する持分の価格は50万円)であ

り、売買による所有権(の持分)の移転登記の税率は1,000分の20であるから、

登録免許税額は1万円である。

オ 正しい。地上権、永小作権、賃借権若しくは採石権の設定の登記がされている土地又

は賃借権の設定の登記がされている建物について、その土地又は建物に係るこれらの権

利の登記名義人がその土地又は建物の取得に伴いその所有権の移転の登記を受けるとき

は、当該登記に係る登録免許税の税率は、本登記の税率に100分の50を乗じて計算

した割合となる(登録免許税法17条4項)。本肢は、この場合にあたるから、相続登

記の税率は、本来の1,000分の4に100分の50を乗じた1,000分の2とな

り、登録免許税額は、2,000円となる。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アは若干悩むかも知れない。オは登録免許税法の特

則であって学習が行き届いてないかも知れない。しかし、イウエが誤っていることの判

断は容易であり、正解可能である。

午後の部第28問 正解1

ア 誤り。役員が選任決議前に就任承諾をしていた場合は、選任決議の時に役員に就任す

る。登記期間は、就任の時(選任決議)から進行する。

イ 正しい。現実に本店を移転した後に取締役会で本店移転を決定した場合の移転年月日

は取締役会の決議の日であり、登記期間は、その日から進行する。

ウ 誤り。事業を譲り受けた会社(注:外国会社を含む。)が譲渡会社の商号を引き続き

使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責

任を負う(会社法22条1項)。ただし、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社が

その本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記(免責の

登記)した場合には、適用しない(2項)。免責の登記を事業譲受から1か月以内にし

なければならない旨の規定はない。

エ 誤り。持分会社の本店所在地における設立登記については、登記期間の定めはない。

オ 誤り。内国会社が本店所在地ですべき変更登記、支配人の登記、種類変更の登記、組

織変更の登記、組織再編の登記、解散登記、継続登記、清算人の登記、清算結了の登記

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に関する規定は外国会社に準用される。ただし、登記期間は「3週間」となる(会社法

933条4項)。登記すべき事項が外国において生じたときは、登記の期間は、その通

知が日本における代表者に到達した日から起算する(5項)。

よって、正しい肢はイの1個であり、1が正解となる。

★難易度:中。基本的な問題である。ウ以外は基本である。ウは、登記期間の有無につい

て悩むかも知れない。個数問題なので、この点が若干難易度を上げたところである。

午後の部第29問 正解3

ア 適切である。発起設立の場合の「払込みがあったことを証する書面」は、設立時代表

取締役又は設立時代表執行役の作成に係る払込取扱機関に払い込まれた金額を証明する

書面に払込取扱機関における口座の預金通帳の写しを合綴したもので足りる。これに対

し、募集設立の場合は、払込みを証する書面として、「株式払込金保管証明書」を添付

しなければならない。

イ 適切ではない。定款作成後又は設立時発行株式に関する発起人の同意後であれば、定

款認証前であっても発起人は出資の履行をすることができる(昭31.5.19民四1

03号)。

ウ 適切ではない。本来、「払込みがあったことを証する書面」は、発起人の口座に振り

込まれたことを証する書面だが、設立時代表取締役(設立時代表執行役)の口座でもよ

い。この場合は、発起人代表が口座名義人に払込金受領の権限を授与する旨を委任した

代理権限証書も添付する。

エ 適切である。「払込みがあったことを証する書面」は、預金通帳の記載上、「入金」、

「振込入金」等の原因により口座に金員が払い込まれたことが明らかになるものである

必要がある。口座に一定の残高があることを示す預金通帳(入金記録のないもの)だけ

では「払込みがあったことを証する書面」とはならない。

オ 適切である。募集設立の場合は、会社成立後でなければ出資金の引き出しができない。

これに対し、発起設立の場合(合綴書面が添付書面となる場合)は、発起人は、会社成

立前に金銭の払戻しを受けることができる。

よって、適切でない肢はイとウであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイウの適切であるか適切でないかの判断は容易で

ある。

午後の部第30問 正解2

ア 正しい。株主名簿管理人を設置したことによる変更登記を申請する場合は、定款と契

約書(さらに、定款に具体的な株主名簿管理人の定めがない場合は、取締役会議事録(取

締役会設置会社の場合)も)が添付書面となる。

イ 誤り。株式の分割と同時に発行可能株式総数を増加する場合において、株式会社が現

に二種類以上の株式を発行しておらず、発行可能株式総数の増加割合が株式の分割によ

る発行済株式の総数の増加割合以下である場合は、株主総会の決議を要しない。本肢の

場合、現に二種類以上の株式を発行しているから、株主総会の決議を要し、株主総会議

事録が添付書面となる。

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ウ 誤り。株式の強制取得(全部取得条項付種類株式の取得を含む。)の際、株券を現実

に発行していた場合は株券提供公告を要し、株券提供公告をしたことを証する書面が添

付書面となる。

エ 誤り。株式無償割当ての際の割当株式数の通知をしたことを証する書面は、添付書面

とはならない。

オ 正しい。単元株式数は、次のいずれをも超えてはならない(会社法188条2項、会

社法施行規則34条)。

①1,000

②発行済株式の総数の200分の1

本肢の場合、発行済株式の総数の200分の1は500株であるから、単元株式数を

1000株とすることはできない。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることによ

り正解可能である。

午後の部第31問 正解4

ア 誤り。株式の併合により資本金の額に変更は生じないから、登記すべき事項として変

更後の資本金の額は記載しない。

イ 誤り。株式の併合をして発行済株式の総数が減少しても、当然には、発行可能株式総

数は減少しない。

ウ 正しい。種類株式発行会社においては、株式の併合は、種類株式ごとに行われるから、

株式の種類ごとに併合比率が異なってもよい。

エ 誤り。種類株式発行会社においては、株式の併合は、種類株式ごとに行われる。異な

る種類の株式を併合することはできない。

オ 正しい。株券発行会社が株式の併合による変更登記を申請する場合は、株券提供公告

関係書面(株券提供公告をしたことを証する書面又は併合に係る株式の全部について株

券を発行していないことを証する書面)を添付しなければならない。

よって、正しい肢はウとオであり、4が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイウの正誤の判断は容易であり、肢を切ることに

より正解可能である。

午後の部第32問 正解1

ア 正しい。住居表示実施によって住所に変更が生じた場合は、変更登記があったとはみ

なされないので、住所変更登記を申請しなければならない。

イ 誤り。取締役会設置会社において、代表取締役の就任による変更の登記の申請書には、

選定に係る取締役会議事録の押印に関する市区町村長作成の印鑑証明書を添付しなけれ

ばならない。ただし、議事録等に変更前の代表取締役(委員会設置会社の場合は、取締

役である代表執行役)が登記所への届出印で押印している場合を除く。本肢の場合、変

更前の代表取締役Aは取締役を辞任しているから、代表取締役B選定に係る取締役会に

出席する資格はない。したがって、当該取締役会の議事録に出席取締役として押印する

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ことはできないから、出席取締役及び出席監査役の押印に関する印鑑証明書の添付は省

略することはできない。

ウ 正しい。代表取締役のうち、少なくとも一人は、日本に住所を有していなければなら

ない(昭59.9.26民四4974号)。

エ 誤り。代表取締役は、その前提として取締役でなければならない。取締役であれば、

権利義務承継取締役、仮取締役、取締役職務代行者であるとを問わない(昭39.10.

3民甲3197号)。

オ 誤り。役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数(定数)が欠け

た場合(欠員が生じた場合)には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに

選任された役員(仮取締役等を含む。)が就任するまで(定数を回復するまで)、なお

役員としての権利義務を有する(権利義務承継取締役等)。権利義務承継者については、

後任が就任して定数を回復した場合にその就任登記と同時にするのでなければ退任登記

をすることはできない。権利義務を承継するのは、任期満了又は辞任によって退任した

場合に限る(会社法346条1項)。例えば、欠格によって欠員が生じても、解任され

た者は権利義務承継者にはならず、その退任登記をすることができる。

よって、正しい肢はアとウであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アウの正誤の判断は容易であり、正解可能である。

午後の部第33問 正解3

ア 正しい。会計監査人が、任期満了に係る定時株主総会で別段の決議がされなかったた

め重任した場合は、就任承諾書の添付は要しないが(平18.3.31民商782号)、

株主総会議事録、資格証明書(登記事項証明書)の添付は要する。

イ 誤り。会計監査人には、権利義務承継の規定の適用はないから、唯一の会計監査人が

辞任した場合、後任の就任登記と同時でなくても、その辞任登記を申請することができ

る。

ウ 誤り。会計監査人の登記においては、書類等備置場所は登記事項とならない(書類等

備置場所が登記事項となるのは会計参与である。)。

エ 正しい。会計監査人を監査役(監査役会、監査委員会)が解任した場合の解任による

変更登記の申請においては、「監査役(監査委員)全員の同意書」が添付書面となる(ハ

ンドブック第2版P467)。

オ 正しい。株式会社が社外取締役等(社外取締役、会計参与、社外監査役又は会計監査

人)の会社に対する責任の制限に関する規定の設定(変更、廃止)をした場合は、その

旨の登記を申請しなければならない。なお、当該規定を設定した場合は、責任限定契約

を締結した社外取締役又は社外監査役につき社外取締役又は社外監査役である旨が登記

事項となるので、社外取締役(社外監査役)である旨の登記を申請しなければならない。

責任限定契約を締結した者がいなくても、定款の規定は登記しなければならない。

よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題であるが、ひっかけが多かった。ウは会計参与と会計監査人

のひっかけであるし、オは社外取締役又は社外監査役である旨の登記とのひっかけであ

る。内容自体は、普段の学習の範囲内であり、アイウの正誤の判断で肢を切ることによ

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り正解可能である。

午後の部第34問 正解1

ア 合同会社のみに該当する。株式会社の 初の清算人の登記の申請においては、必ず定

款を添付しなければならない。これに対し、持分会社(合同会社を含む。)の 初の清

算人の登記の申請においては、定款は、清算人が定款で定められ、又は法定清算人の場

合のみ添付書面となる。

イ 合同会社のみに該当する。株式会社の 初の清算人の登記においては、清算人の氏名

及び代表清算人の氏名及び住所が登記事項となる。これに対し、持分会社(合同会社を

含む。)の 初の清算人の登記においては、清算人の氏名又は名称及び住所のほか、代

表権を有しない清算人がある場合のみ、代表清算人の氏名又は名称が登記事項となる。

ウ いずれにも該当しない。 初の清算人の登記の申請においては、株式会社であると持

分会社(合同会社を含む。)であるとを問わず、印鑑証明書は添付書面にはならない。

エ いずれにも該当する。清算株式会社及び清算合同会社は、遅滞なく、債権者に対し、

一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者に

は、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、2か月を下ることが

できない。(会社法499条、660条)。したがって、いずれの場合も、清算人が、

その就職の日から2か月内に清算結了の登記を申請した場合、当該申請は受理されな

い(昭33.3.18民甲572号、ハンドブック第2版P712)。

オ いずれにも該当する。株式会社であると持分会社(合同会社を含む。)であるとを問

わず、清算結了登記は、本店所在地及び支店所在地でしなければならない。

よって、いずれか一方の場合のみ該当する肢はアとイであり、1が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの判断により、正解可能である。

午後の部第35問 正解5

ア 正しい。一般社団法人の設立登記の申請書には、定款を添付しなければならない。

イ 正しい。一般社団法人の存続期間又は解散の事由について定款の定めがあるときは、

その定めは登記事項である。したがって、存続期間が廃止された場合は、廃止による変

更登記を申請しなければならない。

ウ 誤り。一般社団法人が解散した場合には、当該一般社団法人は、当該一般社団法人が

合併後存続する一般社団法人となる合併をすることができない(一般社団法人等に関す

る法律151条)。

エ 正しい。理事会設置一般社団法人における代表理事の就任による変更登記を申請する

場合は、取締役会設置会社における代表取締役に関する規律と同様、再任の場合を除き、

就任承諾書の押印に関する印鑑証明書を添付しなければならない。

オ 誤り。社員の資格の得喪に関する定めは、一般社団法人の登記事項ではない。

よって、誤っている肢はウとオであり、5が正解となる。

★難易度:易。基本的な問題である。アイの正誤の判断は容易であり、肢を切ることによ

り正解可能である。

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午後の部第36問解説

1甲土地について

1)実体関係

甲土地の持分を2回に分けて取得し甲土地を単独で所有していた民事二郎が、登記され

た住所から他所に移転した後、死亡した。法定相続人は、配偶者民事冬子と兄民事一郎で

ある。

民事二郎は、遺言をしていた。そのうち、甲土地に関する内容は、甲土地の3分の2の

持分を民事夏子(相続人ではない。)に遺贈し、3分の1の持分を法定相続人である民事

冬子に相続させる、遺言執行者を法務春男とする、というものである。

これにより、甲土地の3分の2の持分は遺贈により民事夏子に移転し、残りの3分の1

の持分は相続により民事冬子に移転したこととなる(相続人に対して相続させる旨の遺言

による取得原因は、相続である。)。

2)すべき登記

同一不動産につき、一部を遺贈し、残部を相続させる旨の遺言がある場合は、まず遺贈

登記を申請してから、相続登記を申請すべきである(登研523号。相続登記を先にする

と、相続人と被相続人との共有(死者との共有)が生じてしまう。)。また、遺言者(登

記義務者)の住所が登記上の住所から他へ移転している場合は、遺贈登記の前提として、

登記名義人住所変更登記を要する(登研380号)。

以上により、甲土地についてすべき登記は、次のとおりである。

①2番、3番所有権登記名義人住所変更

②所有権一部移転(遺贈)

③民事二郎持分全部移転(相続)

3)甲土地1件目

a.登記の目的

「2番、3番所有権登記名義人住所変更」である。

b.登記原因及びその日付

「平成12年1月1日住所移転」である。

c.申請人

亡民事二郎である。遺言執行者の法務春男が代理して申請するが、代理人の氏名等は

申請人欄には記載しない。

d.添付情報

a)登記原因証明情報

登記原因証明情報として、住所変更の記載のある民事二郎の住民票の除票の写し

(エ)を提供する。

b)代理権限証明情報

代理権限証明情報として、遺言執行者の法定代理権を証する民事二郎の遺言書(ア)

及び民事二郎の死亡の記載のある戸籍の一部事項証明書(カ)並びに法務春男の委任

状(解答上不問)を提供する。

e.登録免許税

変更登記の登録免許税は、不動産の個数に1,000円を乗じた額であり、本申請の

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場合は「金1,000円」である。

4)甲土地2件目

a.登記の目的

「所有権一部移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成25年3月8日遺贈」である。日付は、遺言者の民事二郎が死亡した日である。

c.申請人

登記権利者として受遺者の民事夏子を記載し、遺言執行者がある場合は登記義務者と

して遺言者の亡民事二郎を記載する。所有権の一部の移転であるから、移転した持分3

分の2を記載する。代理人である遺言執行者の氏名等は申請人欄には記載しない。

d.添付情報

a)登記済証

登記義務者の民事二郎が生前甲区3番で登記を受けた際に交付を受けた登記済証

(チ)を提供する。民事二郎が甲区3番で登記を受けたのはオンライン指定前である

から、登記識別情報ではなく登記済証を提供する。なお、甲区2番の登記は代位申請

によってなされたものであるから、登記済証は添付情報とはならず、本人確認情報を

提供する(後記)。

b)登記原因証明情報

登記原因証明情報として、民事二郎の遺言書(ア)及び民事二郎の死亡の記載のあ

る戸籍の一部事項証明書(カ)を提供する。

c)印鑑証明書

所有権登記名義人が登記義務者となる場合であるから、登記義務者民事二郎の法定

代理人である遺言執行者法務春男の印鑑証明書(ソ)を提供する。

d)住所証明情報

所有権の(一部の)移転登記の申請であるから、登記権利者民事夏子の住所証明情

報を提供する。具体的には、民事夏子の住民票の写し(シ)を提供する。

e)代理権限証明情報

代理権限証明情報として、遺言執行者の法定代理権を証する民事二郎の遺言書(ア)

及び民事二郎の死亡の記載のある戸籍の一部事項証明書(カ)並びに法務春男と民事

夏子の各委任状(解答上不問)を提供する。

f)本人確認情報

甲区2番の登記は代位申請によってなされたものであるから、登記済証は添付情報

とはならず、司法書士法人シビルローが作成した本人確認情報を提供する(ト)。

e.課税価格

課税価格は、移転した持分の価格であり、金1,616万1,000円である。

f.登録免許税

遺贈による所有権(の一部)の移転登記の登録免許税額は、課税価格に1,000分

の20を乗じた額であり、本問では、金32万3,200円である。なお、受遺者が相

続人である場合、相続証明情報の提供により登録免許税の税率は相続登記の税率と同一

となるが、本問では受遺者は相続人ではないので、その適用はない。

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5)甲土地3件目

a.登記の目的

「民事二郎持分全部移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成25年3月8日相続」である。日付は、遺言者の民事二郎が死亡した日である。

c.申請人

相続人の民事冬子の単独申請である。被相続人を括弧書きする。所有権の一部の移転

であるから、移転した持分3分の1を記載する。なお、遺言執行者がある場合でも、遺

言執行者には、当然には、相続登記の申請代理権はない。答案作成上の注意事項3に「法

務春男のほかに他の者が申請をすることができる場合であっても、法務春男が登記の申

請をする」とあるが、これは、法務春男に申請代理権がある場合であり、相続登記につ

いては法務春男には申請代理権はないから、本注意書きは該当しない。

d.添付情報

a)登記原因証明情報

登記原因証明情報として、民事二郎の法定相続人を特定することができる戸籍の全

部事項証明書等(コ)、民事二郎の死亡の記載のある戸籍の一部事項証明書(カ)(コ

には含まれていない旨の括弧書きがある。)、民事冬子の戸籍の一部事項証明書(キ)

(コには含まれていない旨の括弧書きがある。)、被相続人の登記上の住所が本籍と

異なる場合の「同一性を証する情報」として民事二郎の住民票の除票の写し(エ)、

「相続させる」旨の遺言を証する民事二郎の遺言書(ア)を提供する。

※コには含まれていない旨の括弧書きがあることから、カを提供させるのが出題意

図と考えられるが、民事二郎の戸籍の全部事項証明書のほかに一部事項証明書を

解答させる点は疑問である。

b)住所証明情報

所有権の(持分の)移転登記の申請であるから、登記権利者民事冬子の住所証明情

報を提供する。具体的には、民事冬子の住民票の写し(サ)を提供する。

c)代理権限証明情報

代理権限証明情報として、民事冬子の委任状(解答上不問)を提供する。

e.課税価格

課税価格は、移転した持分の価格(下三桁切捨て)であり、金808万円である。

f.登録免許税

相続による所有権(の一部)の移転登記の登録免許税額は、課税価格に1,000分

の4を乗じた額であり、本問では、金3万2,300円である。

2乙土地について

1)実体関係

乙土地を単独で所有し、特例有限会社である有限会社甲乙丙興産のために抵当権を設定

していた民事二郎が、登記された住所から他所に移転した後、死亡した。法定相続人は、

配偶者民事冬子と兄民事一郎である。

民事二郎は、遺言をしていた。そのうち、乙土地に関する内容は、乙土地を換価処分し、

その代金を公益社団法人ジャスティスに遺贈(寄付)する、遺言執行者を法務春男とする、

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平成25年度司法書士試験解説

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というものである。

遺言執行者の法務春男は、この遺言を実行し、乙土地を司法秋男に売却した。当該売買

契約には、所有権移転時期を代金の支払時とする旨、及び、売買による所有権移転登記の

申請の前に、抵当権設定登記の抹消を申請する旨の特約があった。法務春男は、平成25

年7月5日に代金を支払い、同日、乙土地の所有権は司法秋男に移転した。また、法務春

男は、乙土地の抵当権者である株式会社甲乙丙興産(有限会社甲乙丙興産は、商号変更に

より通常の株式会社に移行している。)に被担保債権の全額を弁済して同社の抵当権を消

滅させた。

2)すべき登記

不動産を換価処分し、その代金を遺贈する旨の遺言により遺言執行者が当該不動産を売

却した場合は、当該不動産の所有権は、売買により買主に移転する前にいったん相続人に

帰属しているから、前提として相続登記を申請しなければならない。本問では、まず、相

続人民事冬子及び民事一郎のための相続登記を申請する。なお、被相続人の住所に変更が

生じている場合であっても、相続登記の前提として、登記名義人住所変更登記は要しない

(遺贈と異なる。)。

本問では、法務春男と司法秋男の売買契約中の特約により、司法秋男への所有権移転登

記の申請前に、1番抵当権の抹消を申請する。ところで、1番抵当権者の有限会社甲乙丙

興産は、商号変更(通常の株式会社への移行)により株式会社甲乙丙興産となっており、

本来は、登記名義人名称変更登記を申請すべきところであるが、所有権以外の権利を抹消

する場合で登記義務者の氏名等に変更が生じている場合は、登記名義人氏名等変更登記を

省略して、変更証明情報を提供して直接抹消を申請することができる。したがって、1番

抵当権の登記名義人の名称変更登記は省略することができる。

以上により、乙土地についてすべき登記は、次のとおりである。

①所有権移転(相続)

②1番抵当権抹消

③共有者全員持分全部移転(売買)

3)乙土地1件目

a.登記の目的

「所有権移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成25年3月8日相続」である。日付は、遺言者の民事二郎が死亡した日である。

c.申請人

相続人の民事冬子及び民事一郎の単独申請である(申請人が数人ある場合でも全員が

登記権利者であれば、単独申請である。)。被相続人を括弧書きする。登記名義人とな

る者が複数あるので、各相続人の持分を記載する。なお、遺言執行者がある場合でも、

遺言執行者には、当然には、相続登記の申請代理権はない。答案作成上の注意事項3に

「法務春男のほかに他の者が申請をすることができる場合であっても、法務春男が登記

の申請をする」とあるが、これは、法務春男に申請代理権がある場合であり、相続登記

については法務春男には申請代理権はないから、本注意書きは該当しない。

d.添付情報

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a)登記原因証明情報

登記原因証明情報として、民事二郎の法定相続人を特定することができる戸籍の全

部事項証明書等(コ)、民事二郎の死亡の記載のある戸籍の一部事項証明書(カ)(コ

には含まれていない旨の括弧書きがある。)、民事冬子及び民事一郎の各戸籍の一部

事項証明書(キ、ケ)(コには含まれていない旨の括弧書きがある。)、被相続人の登

記上の住所が本籍と異なる場合の「同一性を証する情報」として民事二郎の住民票の

除票の写し(エ)を提供する。

※コには含まれていない旨の括弧書きがあることから、カを提供させるのが出題意

図と考えられるが、民事二郎の戸籍の全部事項証明書のほかに一部事項証明書を

解答させる点は疑問である。

b)住所証明情報

所有権の移転登記の申請であるから、登記権利者民事冬子及び民事一郎の住所証明

情報を提供する。具体的には、民事冬子及び民事一郎の各住民票の写し(サ、ス)を

提供する。

c)代理権限証明情報

代理権限証明情報として、民事冬子及び民事一郎の各委任状(解答上不問)を提供

する。

※遺言書(ア)の提供は要しない。法定相続人や法定相続分を修正するものではない

し、遺言執行者が申請人となるわけでもないからである。

e.課税価格

課税価格は、金3,636万3,000円である(下三桁切捨て)。

f.登録免許税

相続による所有権移転登記の登録免許税額は、課税価格に1,000分の4を乗じた

額であり、本問では、金14万5,400円である。

4)乙土地2件目

a.登記の目的

「1番抵当権抹消」である。

b.登記原因及びその日付

「平成25年7月5日弁済」である。

c.申請人

登記権利者として前件申請により所有権登記名義人となった民事冬子と民事一郎を記

載し、登記義務者として、株式会社甲乙丙興産を記載する。本問では、法人が申請人と

なる場合の代表者の資格及び氏名は省略する。なお、1番抵当権の抹消は、遺言の執行

に必要な行為であるから、遺言執行者には代理権が認められ、遺言執行者の法務春男が

民事冬子と民事一郎を代理して申請することとなる。ただし、代理人である遺言執行者

の氏名等は申請人欄には記載しない。

d.添付情報

a)登記済証

登記義務者の株式会社甲乙丙興産が乙区1番で登記を受けた際に交付を受けた登記

済証(テ)を提供する。乙区1番の抵当権設定登記がされたのは、オンライン指定前

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であるから、登記識別情報ではなく登記済証を提供する。

b)登記原因証明情報

登記原因証明情報として、債務弁済証書(イ)(不動産及び抵当権の表示があるか

ら、登記原因証明情報として適格である。)を提供する。

c)資格証明情報

法人が申請人となる場合であるから、資格証明情報として、株式会社甲乙丙興産の

登記事項証明書(ウ)を提供する。

d)代理権限証明情報

代理権限証明情報として、遺言執行者の法定代理権を証する民事二郎の遺言書(ア)

及び民事二郎の死亡の記載のある戸籍の一部事項証明書(カ)並びに法務春男と株式

会社甲乙丙興産の代表者の各委任状(解答上不問)を提供する。

e)変更証明情報

名称変更を証するために、株式会社甲乙丙興産の登記事項証明書(ウ)を提供する。

この書面は、資格証明情報にもなる(上記)。

e.課税価格

登記の抹消申請の登録免許税は定額課税であるから、課税価格はない。

f.登録免許税

変更登記の登録免許税は、不動産の個数に1,000円を乗じた額であるが、不動産

の個数が20個を超える場合は2万円である。本申請の場合は「金1,000円」であ

る。

5)乙土地3件目

a.登記の目的

「共有者全員持分全部移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成25年7月5日売買」である。日付は、代金の支払いによって所有権移転の効

力が生じた日である。

c.申請人

登記権利者として買主の司法秋男を記載し、登記義務者として民事冬子と民事一郎を

記載する。この登記は、遺言の執行に必要な行為であるから、遺言執行者には代理権が

認められ、遺言執行者の法務春男が民事冬子と民事一郎を代理して申請することとなる。

ただし、代理人である遺言執行者の氏名等は申請人欄には記載しない。

d.添付情報

a)登記識別情報

登記義務者の民事冬子と民事一郎が前々件で登記を受けた際に通知を受けた登記識

別情報(ツ)を提供する。前件申請により登記名義人となる者が後件申請において登

記義務者となる場合は、登記識別情報は提供したとみなされ、現実に提供することを

要しないが、本問では提供するものとして解答する。

b)登記原因証明情報

本申請のために作成された登記原因証明情報(オ)を提供する。

登記原因証明情報においては、債権行為と物権変動が記載されていなければならな

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平成25年度司法書士試験解説

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いので、本問では、売買契約があったこと、所有権移転時期を代金支払時とする特約

があったこと、代金支払いによって所有権が移転した旨の記載が必要である(解答の

第2欄参照)。

c)印鑑証明書

所有権登記名義人が登記義務者となる場合であるから、登記義務者の法定代理人で

ある遺言執行者法務春男の印鑑証明書(ソ)を提供する。

d)住所証明情報

所有権(共有者全員持分)の移転登記の申請であるから、登記権利者司法秋男の住

所証明情報を提供する。具体的には、司法秋男の住民票の写し(セ)を提供する。

e)代理権限証明情報

代理権限証明情報として、遺言執行者の法定代理権を証する民事二郎の遺言書(ア)

及び民事二郎の死亡の記載のある戸籍の一部事項証明書(カ)並びに法務春男と司法

秋男の各委任状(解答上不問)を提供する。

e.課税価格

課税価格は、金3,636万3,000円である(下三桁切捨て)。

f.登録免許税

売買による所有権(共有者全員持分)の移転登記の登録免許税額は、課税価格に1,

000分の20を乗じた額であり、本問では、金72万7,200円である。

午後の部第37問解説

1資本金の額の減少

設問会社の平成25年5月25日付けの臨時株主総会において、資本金の額の減少を決

議している(別紙3)。

資本金の額の減少は、原則として、株主総会の特別決議で決定し(普通決議で足りる場

合もある。)、必ず、債権者保護手続をとらなければならない。その効力は、決議で定め

た効力発生日に生じるが、債権者保護手続が完了していない場合はその限りではない。効

力発生日は、取締役の過半数の一致(非取締役会設置会社の場合)又は取締役会の決議(取

締役会設置会社の場合)により変更することができる。

本問では、株主総会の決議は可決承認されている。減少額は資本金の額と同額である。

資本金の額の減少額は、効力発生日における資本金の額を超えることはできない。という

ことは、効力発生日における資本金の額と同額を減少し、資本金の額を0円とすることが

できることを意味する。したがって、本問の資本金の額の減少額については、問題はない。

債権者保護手続は、原則として、債権者に対して1か月以上の異議申述期間を定めて官報

で公告し、かつ各別に催告をするが、定款で定めた公告方法が日刊新聞紙又は電子公告で

ある場合で、これらの方法でも公告をした場合(二重公告)は、各別の催告は、省略する

ことができる。設問会社は、公告及び催告を行っている(別紙6の2)。この公告に対し

て債権者1名が異議を述べた(同)。異議を述べた債権者がある場合は、資本金の額の減

少が当該債権者を害するおそれがない場合を除き、これに対して弁済、担保提供、弁済目

的の信託のいずれかをしなければならないところ、設問会社は、当該債権者に対して弁済

をしている(同)。

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平成25年度司法書士試験解説

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なお、株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、効力発生日

後の資本金の額が、効力発生日前の資本金の額を下回らないときにおける、資本金の額の

減少は、取締役の過半数の一致(非取締役会設置会社の場合)又は取締役会の決議(取締

役会設置会社の場合)ですることができる(会社法447条3項)。本問の資本金の額の

減少は、この場合にあたる。しかし、この場合であっても、株主総会の決議で決定できな

いわけではない。

以上により、定められた効力発生日の平成25年6月28日に資本金の額が金1000

万円減少して金0円となり、その旨の変更登記を申請することとなる。

【添付書面】

「株主総会議事録」※資本金の額の減少の決議を証するために、平成25年5月25日

付けのものを添付する。

「公告及び催告をしたことを証する書面」※1通ずつ2通添付する。

「異議を述べた債権者に弁済をしたことを証する書面」※異議申出書と弁済を証する領

収証書を合わせて2通添付する。

2自己株式の無償取得

平成25年5月25日、取締役A及びCが、平成25年6月28日付けで株主から自己

株式を無償で取得することを決定し、実行している(別紙6の4)。

株式会社は、株主との合意により自己株式を無償で取得することができる。この場合は、

会社法が定める自己株式取得の手続による必要はなく、株式会社はなんらの会社法上の手

続なく自己株式を取得することができる(金子・自己株式の実務Q&A)。

本問では、発行済株式全部(200株)を会社が無償で取得することを取締役の過半数

の一致で決定し、株主全員との間で、平成25年6月28日付けでそれぞれから取得する

旨の合意をしている。したがって、平成25年6月28日、発行済株式の総数(200株)

が、自己株式になったこととなる。なお、株式会社が発行した株式が自己株式になっただ

けでは登記事項に変更は生じないから、登記の必要はなく、添付書面は不問である。

3株式の消却

平成25年5月25日、取締役A及びCが、平成25年6月28日付けで株主から取得

した自己株式の消却を決定している(別紙6の4)。

株式の消却は、自己株式についてのみすることができるから、株式を消却するには、い

ったん自己株式としなければならない。その決定は、取締役の過半数の一致(非取締役会

設置会社の場合)又は取締役会の決議(取締役会設置会社の場合)で行う。

設問会社は非取締役会設置会社であるから、取得の決定は、取締役の過半数の一致で行

うべきところ、取締役3名中2名の一致があるから、この要件を満たしている。消却する

株式は、取得したばかりの自己株式200株である。したがって、平成25年6月28日、

発行済株式の総数は、200株減少して0株となり、その旨の変更登記を申請することと

なる。

なお、通常、発行済株式の総数を0株とすることは許されないが、100パーセント減

資の際は、いったん発行済株式の総数が0株となることがある。100パーセント減資と

は、既存の株主全員を株主でなくしたうえで、新しい出資者に出資させることであり、資

本金の額を減少するとともに、自己株式を取得し、取得した自己株式を消却したうえで、

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募集株式を発行してその目的を達成する(論点解説新会社法、登記インターネット86号)。

本問は、この後、募集株式が発行されており、100パーセント減資がなされたものであ

る。

【添付書面】

「取締役の過半数の一致があったことを証する書面」

4募集株式の発行

1)募集事項の決定

設問会社の平成25年5月25日付けの臨時株主総会において、募集株式の発行を決議

している(別紙3)。

株主割当て以外の方法による非公開会社の募集株式の募集事項の決定は、取締役(会)

に委任する場合を除き、株主総会の特別決議でするところ、本問では、株主総会の決議は

可決承認されている。発行条件は、上記の株式の消却により、発行済株式の総数が0株に

なることである。発行する募集株式の数は200株であり、募集株式発行後の発行済株式

の総数は200株であるから、発行可能株式総数(800株)を超えず、超過発行にはあ

たらない。払込剰余金は定められておらず、出資金1,000万円全額が資本金に組み入

れられる。また、引受けの申込みを条件とする割当決議もなされている。

【添付書面】

「株主総会議事録」

2)申込み、割当て、出資

その引受けの申込みを条件として割当てが決定されていた株式会社乙野商事が、200

株の募集株式全部の引受けの申込みをし、払込期日である平成25年6月28日に払込み

をした(別紙6の7)。

譲渡制限株式の割当ては、非取締役会設置会社の場合は、株主総会の特別決議でしなけ

ればならないところ、本問では、募集事項の決定に係る株主総会において、株式会社乙野

商事の引受けの申込みを条件として、同社に割り当てる旨の決定をしている。こうした条

件付き割当決議は有効である。この決定は特別決議の要件を満たしている(株主全員が賛

成している。別紙6の3)。募集株式の発行の効力は、払込期日を定めた場合は、払込期

日に生じる。したがって、平成25年6月28日、次のとおりの変更が生じ、その旨の変

更登記を申請することとなる。

発行済株式の総数

0株+200株=200株

増資額

(1株あたりの払込金額5万円-払込剰余金0円)×200株=1000万円

変更後の資本金の額

0円+1000万円=1000万円

【添付書面】

「募集株式の引受けの申込みを証する書面」

「払込みがあったことを証する書面」

「資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面」

※株式会社の募集株式の発行の場合は、金銭出資のみでもこの書面を添付する。

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5株式の譲渡制限に関する規定の変更

設問会社の平成25年6月28日付けの臨時株主総会において、株式の譲渡制限に関す

る規定の承認機関を株主総会から取締役会に変更する旨の定款変更決議がなされている

(別紙4)。

設問会社は、取締役会を置くこととなるので(後記)、それに伴う変更である。株式の

譲渡制限に関する規定の変更は、設定と異なり、株主総会の特別決議のみですることがで

きる。本問では、定款変更決議は可決承認されたから、平成25年6月28日、株式の譲

渡制限に関する規定が変更され、その旨の変更登記を申請することとなる。

【添付書面】

「株主総会議事録」

6支店移転

平成25年6月18日、取締役A及びCが、支店を同月25日に移転することを決定し

ている(別紙6の5)。

支店移転は、非取締役会設置会社においては、取締役の過半数の一致で決定すべき事項

であるところ、本問では、取締役3名中2名が一致しているから、この要件を満たしてい

る。したがって、平成25年6月25日に、決定どおり支店が移転され、その旨の支店移

転登記を申請することとなる。

【添付書面】

「取締役の過半数の一致があったことを証する書面」

7支配人を置いた営業所移転

移転した支店には支配人Bが置かれていた。支配人を置いた支店を移転した場合、支店

移転登記と支配人を置いた営業所移転登記は同時に申請しなければならない。支配人は、

本店所在地においてのみ登記されるから、同時申請をしなければならないのは、本店所在

地においてである。したがって、本店所在地において、支店移転登記と併せて、支配人を

置いた営業所移転登記を申請することとなる。

【添付書面】

※支店移転を証する書面のほか、別段の書面の添付を要しない。

8支配人の代理権消滅

平成25年6月26日、支配人Bについて、後見開始の審判が確定している(別紙6の

6)。

受任者が後見開始の審判を受けたことは、委任の終了事由であるから(民法653条3

号)、支配人の代理権は、後見開始の審判によって消滅する。したがって、平成25年6

月26日、支配人Bの代理権は後見開始の審判によって消滅し、その旨の登記を申請する

こととなる。

【添付書面】

「後見開始の審判書謄本」

9支配人の解任

平成25年6月28日、設問会社は、取締役会設置会社となった後、取締役会の決議で

支配人Bの解任を決定している(別紙5)。しかし、この決定の前に支配人Bの代理権は

消滅し、Bは支配人ではなくなっている。したがって、この解任決議は無効であり、当該

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決議に係る登記を申請することはできない。この旨を、解答欄の第3欄に記載する。

10機関設計の変更

設問会社の平成25年6月28日付けの臨時株主総会において、取締役会と監査役を置

く旨の定款変更決議がなされている(別紙4)。

これらの機関は株式会社の任意機関であり、定款で置くと定めた場合に置くことができ

る機関である。定款変更は、株主総会の特別決議でするところ、本問では、定款変更決議

は可決承認されたから、平成25年6月28日、設問会社は、取締役会設置会社及び監査

役設置会社となったこととなる。○○設置会社の定め設定登記は、○○の就任登記と併せ

てでなければすることはできないが、監査役が就任しているから、この点問題ない。した

がって、これらの定めの設定登記を申請することとなる。

【添付書面】

「株主総会議事録」

11取締役の欠格事由該当

平成25年6月26日、取締役Bについて、後見開始の審判が確定している(別紙6の

6)。

成年被後見人であることは、取締役の欠格事由である(会社法331条2号)。したが

って、取締役Bは、平成25年6月26日、取締役を資格喪失し、その旨の変更登記を申

請することとなる。

【添付書面】

「後見開始の審判書謄本」

12取締役の任期変更

設問会社の平成25年6月28日付けの臨時株主総会において、取締役の任期を「選任

後10年以内に終了する事業年度のうち 終のものに関する定時株主総会の終結の時ま

で」から「選任後2年以内に終了する事業年度のうち 終のものに関する定時株主総会の

終結の時まで」に変更する定款変更決議がなされている(別紙4)。

定款変更は、株主総会の特別決議でするところ、本問では、定款変更決議は可決承認さ

れたから、平成25年6月28日、設問会社の取締役の任期は変更されたこととなる。取

締役の任期が変更された場合は、既存の取締役も変更後の任期に服し、変更後の任期によ

ると過去に任期が満了すべき場合は、定款変更時に任期満了退任する。本問では、取締役

AとCの任期が短縮の結果過去に満了したこととなるから、定款変更日である平成25年

6月28日に任期満了退任し、代表取締役Aは資格喪失退任し、その旨の変更登記を申請

することとなる。取締役Bは、既に資格喪失している。なお、後任が就任しない場合は取

締役及び代表取締役に欠員が生じ、これらは権利義務承継者となり、後任が就任するまで

退任登記はできないが、後任が就任しているので、この点問題ない。

【添付書面】

「株主総会議事録」

13取締役及び監査役の就任

設問会社の平成25年6月28日付けの臨時株主総会において、取締役3名及び監査役

1名が選任され、いずれも就任を承諾している(別紙4)。

設問会社は取締役会設置会社となり、取締役の定数が3名以上となったが、既存の取締

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役がすべて退任したので(上記)、取締役の選任を要する。また、設問会社は監査役設置

会社となったので、監査役の選任を要する。そこで、取締役及び監査役を選任したもので

ある。役員選任の決議要件は、「役員選解任の普通決議」の要件である。本問では、選任

決議は可決承認され、就任承諾もあるから、選任日である平成25年6月28日、取締役

D、同E、同F、監査役Gが就任し、その旨の変更登記を申請することとなる。

【添付書面】

「株主総会議事録」

「就任承諾書」※本問では、就任の承諾を証する書面として議事録の記載を援用するこ

とはできる場合であっても、援用しないで解答する。

14代表取締役の就任

設問会社の平成25年6月28日付けの取締役会において、代表取締役Dが選定され、

被選定者は就任を承諾している(別紙4)。

設問会社は取締役会設置会社となり、取締役会設置会社においては、代表取締役は取締

役会の決議で選定することとなっているので、取締役会で代表取締役を選定したものであ

る。就任承諾もあるから、選任日である平成25年6月28日、代表取締役Dが就任し、

その旨の変更登記を申請することとなる。

【添付書面】

「取締役会議事録」

「就任承諾書」※本問では、就任の承諾を証する書面として議事録の記載を援用するこ

とはできる場合であっても、援用しないで解答する。

「印鑑証明書」※代表取締役Dは新任だから、就任承諾書の押印に関する印鑑証明書を

添付しなければならない。また、変更前の代表取締役Aは取締役でなくなっており、出

席取締役として取締役会議事録に押印することができないから、出席取締役3名及び出

席監査役1名の印鑑証明書を合計4通添付する。Dの印鑑証明書は、就任承諾書の押印

に関する印鑑証明書と取締役会議事録の押印に関する印鑑証明書の二つの意味で添付す

るが、合わせて1通でよい。したがって、印鑑証明書の通数は、合計で4通である。

15登記の事由

次のとおりである。

「資本金の額の減少

株式の消却

募集株式の発行

株式の譲渡制限に関する規定の変更

取締役、代表取締役及び監査役の変更

支配人を置いた営業所移転

支配人の代理権消滅

支店移転

取締役会設置会社の定め設定

監査役設置会社の定め設定」

16登記すべき事項

次のとおりである。

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「平成25年6月28日変更

資本金の額 金0円

同日変更

発行済株式の総数 0株

同日変更

発行済株式の総数 200株

資本金の額 金1,000万円

同日変更

株式の譲渡制限に関する規定

当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。

平成25年6月26日取締役B資格喪失

平成25年6月28日取締役A、同C任期満了退任

同日代表取締役A資格喪失退任

同日次の者就任

取締役 D

取締役 E

取締役 F

東京都新宿区戊町2番地

代表取締役 D

監査役 G

平成25年6月25日東京都新宿区丙町1番地の支配人Bを置いた営業所移転

支配人Bを置いた営業所 東京都中央区丁町1番地

平成25年6月26日支配人B後見開始の審判

平成25年6月25日東京都新宿区丙町1番地の支店移転

支店 東京都中央区丁町1番地

平成25年6月28日取締役会設置会社の定め設定

同日監査役設置会社の定め設定」

17登録免許税

登録免許税額は、金20万円である。内訳は次のとおりである。募集株式の発行は、増

資の税区分に該当し、増資額(1,000万円)に1,000分の7を乗じた額であり、

本問では7万円である。取締役、代表取締役及び監査役の変更は、役員変更の税区分に該

当し、申請1件につき3万円である。ただし、資本金の額が1億円以下の場合は1万円で

ある。本問では1万円である。支配人の代理権消滅は、支配人の選任又は代理権消滅の税

区分に該当し、申請1件につき3万円である。取締役会設置会社の定め設定は、申請1件

につき3万円である。支店移転は、移転した支店1か所につき3万円であり、本問では3

万円である。その他の登記(資本金の額の減少、株式の消却、株式の譲渡制限に関する規

定の変更、支配人を置いた営業所移転、監査役設置会社の定め設定)は、その他変更の税

区分に該当し、申請1件につき3万円である。

18添付書面

①「株主総会議事録」

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資本金の額の減少及び募集事項の決定を証するため平成25年5月25日付けの株主

総会議事録を1通、定款変更及び役員の選任決議を証するため平成25年6月28日付

けの株主総会議事録を1通、合計2通添付する。

②「取締役会議事録」

代表取締役の選定を証するため、1通添付する。

③「取締役の過半数の一致があったことを証する書面」

株式の消却を証するため平成25年5月25日付けのものを1通、支店の移転を証す

るため平成25年6月18日付けのものを1通、合計2通添付する。

④「公告及び催告をしたことを証する書面」

資本金の額の減少のための債権者保護手続をしたことを証するため、各1通、合計2

通添付する。

⑤「異議を述べた債権者に弁済をしたことを証する書面」

異議申述書1通及び弁済したことを証する書面1通、合計2通添付する。

⑥「募集株式の引受けの申込みを証する書面」

1通添付する。

⑦「払込みがあったことを証する書面」

1通添付する。

⑧「資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面

面」

1通添付する。

⑨「就任承諾書」

取締役の就任承諾書を3通、監査役の就任承諾書を1通、代表取締役の就任承諾書を

1通、合わせて5通添付する。

⑩「印鑑証明書」

4通添付する。通数については既述した。

⑪「後見開始の審判書謄本」

1通添付する。

⑫委任状

1通添付する。

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