Upload
others
View
2
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
1
-NAPは安全・安心な地域を創造するために、地域に役立つ情報を発信します-
【25・新春号】NPO 法人 自然災害・地域防災対策支援センタ-
防災・防犯通信 ―自然災害に学ぶ防災と減災対策―「必ずやってくる巨大地震に備えて」
「防災・減災に特効薬なし、突然やってくる天災から生き残る知恵」
発行(略称)NAPサポ-トセンタ-
2013.1.15(第 9号)
日本は地震列島とも言われるように、非常に地震の多い国である。
これまで各地で地震による被害を受けてきた。現在のところ、地震
予知は不可能とされるが、南海トラフ(東海沖から四国沖の溝)を
震源とする巨大地震は、歴史的にみていつ起きてもおかしくない状
態にあるとされている。
日本の大動脈であるこの一帯に地震が起きた場合には、阪神・淡路
大地震の被害、あるいは、東日本大震災の被害を大きく上回る可能
性があると伝えられている。内閣府と中央防災会議は、最悪 32 万人
に及ぶ死者がでることを想定している。しかし、防災・減災対策を
しっかり行うことにより、被害を相当減じることが可能としている。
南海トラフ地震:死者最悪 32 万人を想定(毎日新聞・朝刊:2012.4.1)
「東海から九州沖を震源とする『南海トラフ巨大地震』について、死傷者や浸
水域など被害想定を発表した(内閣府と中央防災会議の作業部会による)。関東
から九州の太平洋側が最大 34m の津波と震度7の激しい揺れに見舞われ、最悪
のケ-スでは死者 32 万3千人、倒壊・焼失建物が 238 万6千棟に上り、1015
2
平方キロが浸水する」としている。
南海トラフ:駿河湾から九州沖まで延
びる浅い海溝。フィリピン海プレ-ト
(岩盤)がユ-ラシアプレ-トの下に
沈み、90~150 年間隔でマグニチュ-
ド8級の巨大地震を繰り返してきた。
ここを震源域とする東海、東南海、南
海地震について、国は今後30年間に
発生する確率を 60~90%と推測して
いる。
左図は南海トラフ巨大地震による
震度分布を示す。
駿河湾から九州沖に延びる浅い海溝・南海トラフ沿いで複数の震源域が連動し
てマグニチュ-ド9級の地震が発生した場合の被害想定は、駿河湾から九州沖
まで四つの領域について、それぞれ最も大きく断層が動いた場合を発生の季節
や時間帯を変えて想定されるケースでシミュレ-ションした結果。“死者数が最
悪となるのは冬の強い風(秒速8m)の深夜に駿河湾から紀伊半島沖の断層(上
図中①②③)が大きく動くケ-ス。23 万人が津波、8 万 2 千人が建物倒壊、1
万人が火災で死亡する”。“都府県別では、それぞれ最多となる地震想定は、和
歌山県が死者 8 万人、高知県が 4 万 9 千人、徳島県が 3 万 1 千人と近畿南部と
四国の太平洋岸の被害が大きい”としている。
また、大都市を抱える大阪府では 7700 人、兵庫県が 5800 人なども目立つ。
一方、全壊・焼失数が最も多くなるのは四国沖-九州沖の断層(上図④)が大
きく動くケ-ス。
深夜よりも火を使う夕方の方が被害が大きく、揺れで 134 万 6 千棟が倒壊、火
災で 74 万 6 千棟が焼失し、津波で 15 万4千棟が流失したり壊れたりする。
浸水域の最大想定は東日本大震災(561 平方キロ)の約 1.8 倍に及ぶとされる。
津波の高さは今年公表のデータを精査した結果、高知県の黒潮町と土佐清水市
で最大 34m、徳島県美波町が 24m、和歌山県すさみ町が 20m、大阪府5m、兵
庫県 9m、広島県4m などとした。津波の最高地点は局所的である場合が多く、
沿岸全体の平均では黒潮町の 19m が最大。また、震度7地域は従来とはほぼ同
じ 10 県 151 市町村だった。
防災対策による被害軽減も試算されている。建物の耐震化率が現状の 79%から
100%になった場合、建物倒壊による死者は約 8 割減少。迅速に避難した場合も、
そうでない場合と比べて最大で8割減少するとしている。
3
東海・東南海・南海地震-地震履歴から次の発生時期を読む-
南海トラフに見る発生の規則性や地震履歴から次の発生時期を予測。フィリピン海プレ-
ト(岩盤)がユ-ラシアプレ-トの下に沈み込み、約 90年~150年の間隔で M8級の巨大
地震が繰り返し発生してきた。この南海トラフを震源域とする地震は現在、昭和 1954、1944
年に起きた南海・東南海地震からおよそ 70 年近くになり、次の地震発生を国は、上述のよ
うに今後 30年間に 60~90%と推測している。
左図参照:1707(宝永4)年の宝永地
震は、日本史上最大級(2012.3.11の
東日本大震災前まで)の地震と言われ、
東海・東南海・南海の 3 つのアスペリ
ティ注)が同時に発動し M8.6であった
とされている。さらに、次の安政地震
までは約 150年近くも経過している。
最も新しい地震である 1944 年(昭和
19)年の東南海地震は東南海アスペリ
ティが単独で地震を起こしたと言われ、
南海アスペリティによる南海地震
(M8.0)はその 2年後に発生。東海震
源域のアスぺリティは残り、地震の空
白域として懸念されている。
なお、近年、考古遺跡の発掘調査、津波堆積物の年代測定から地震の編年が判定されてい
る。
注)アスペリティ::断層の固着域、断層面がゴツゴツしてプレートが引っかかる場所があるためスム-ズには動けない。
プレートの移動の負荷はここに溜まり、地震の際には、大きなエネルギーを出す場所となる。断層が動けば必ず地震が
起きるわけではない。引っかかりやすい場所が地震を起こす。この引っかかる場所をアスペリティと呼んでいる。
空白地帯となった駿河湾
この地震の規模が小さかったことから、つぎの地震までの間隔は短いと考えられている。
つまり、東海地方では、1854年の安政東海地震(M8.0)から約 150年間巨大地震が発生し
ていないため、ひずみエネルギ-(応力)の蓄積はすでに限界状態に達していることが予
想され、いつ巨大地震が発生してもおかしくない状況にあるとされる。
古文書に記された地震・津波
南海トラフ沿いに起こる巨大地震、南海地震は、過去千年余りにわたる地震活
動についての記録が残されている世界的にも例を見ない地震である。それらの
記録の中には、大阪の被害を記したものが少なからずあり、その多くが津波に
ついての記述であることは注目される(以下、大阪歴史博物館‐特別企画展の
4
資料の中からいくつかを引用する)。
「太平記」巻三十六:寛文 11年(1671)<大阪府中之島図書館蔵>
太平記によると天正 16 年(康安元年=
1361)6月 24日早朝、推定 M8強の地震が
南海トラフ沿いに発生。これにより四天王寺
では金堂が倒壊。難波浦では潮がいったん引
いた後、「大山」のような津波が押し寄せ数
百名の漁民が死亡した。この津波は上町台地
の西下、現在の下寺町まで押し寄せたとある。
津波の高さは 10m を超えたと推定されてい
る。津波到達地域は現在の安居神社(真田幸
村戦没地記念碑のある有名な神社)、通天閣
付近とされる。
<大阪歴史博物館蔵>
左図は、南海地震による大阪での津波被害を記
録した瓦版である。
水色で浸水地域(現在の大正・浪速・西区)が
示されている。
津波によって安治川と木津川口に停泊中の大
船が市中の堀川に入り込み、道頓堀川などに架
かる橋を壊して、多数の死傷者が出たことが帰
されている。
大地震両川口津波記 (安政 2年(1855)<大阪城天守閣蔵>
5
安政南海地震の翌年に被災者を供養するため碑が建造された。碑は浪速区幸町 3 丁目に現
存。石碑(大阪市指定有形文化財)は、次の南海地震を警告している。上図は、碑文の内
容の一部。写真(前頁下段)は、石碑の状況を示したもの(『大地震両川口津波記』記念誌
による)。
津波碑は木津川に架かる大正橋東詰北側にある。石碑は建立されてから約 160 年、設置場
所は幾度か変遷を経て町の人々によって保存されてきた。
さて、ユ-ラシアプレ-トとフィリピン海プレ-トの境界である南海トラフ沿
いに起こる海溝型の巨大地震・南海地震が注目される一方、内陸型地震も考え
なければならない。仁和、正平、宝永、安政、昭和の各南海トラフによる地震
被害について調べ、また、上町断層帯の活動による直下型地震が起きた場合、
その被害は近い将来起きるとされる南海トラフ巨大地震以上となることが想定
さている。大阪では、内陸直下型地震の歴史についても振り返っておく必要が
ある。慶長伏見、濃尾、北丹後、最近の地震では、阪神淡路の地震被害につい
ても調べ「防災・減災」への取り組み方を深めておくことが重要である。
国は南海トラフ地震の被害想定を見直し、津波は高知県で最大 34m、紀伊半島や四国では
数分以内に襲来する可能性を示している。限られた時間に避難し、命を守る「自助」の行
動力と咄嗟の判断を身につけておくための普段の訓練、イメ-ジトレ-ニングの重要性が
より増している。
地震は、深夜就寝中、通勤・通学途中の場合或いは豪雨の中等々、いつ起きるかは判らな
い。正しい冷静な判断と行動が生死を分けることさえあるからである。
地震災害時に取るべき行動を考え、防災意識と災害対応能力を普段の生活の中で高めて置
くことを勧めたい。
大阪を襲った主な地震(下表)
6
上表には記載されていないが「白鳳地震」681 年 11 月 9 日(天武 13 年 10 月 14 日)、土佐(高知県)を
中心に太平洋岸に M8.25 の大地震。家屋の倒壊、山崩れ、液状化発生。津波により、多くの船が沈没。ま
た、約 12 平方キロの土地が沈下して海となった。
大阪を襲った主な地震が示されているが、津波を伴う地震がいかに多いかがわかる。大枠は海溝型で津波
を伴った地震。他は、内陸型地震(大阪歴史博物館:「大阪を襲った地震と津波」特別企画展、2012.8)。
突然やってくる地震災害から生き残る知恵
・「天災は忘れた頃にやってくる」「想定外」最悪の事態を想定した“イメ-ジ
シミユレ-ション”(就寝中、職場、地下鉄・乗り物、繁華街、エレベ-タ-の
中など)を常に心がけ災害に備える。
・ 常に「今、地震が起きたら」を想定。必ず起こる大地震。防災・減災に特効
薬なし。地震被災の恐ろしさを“正しく知る”、そのための“正しい知識”、
身を守るための“正しい判断”が災害から生き残るために必要な備えと知恵
と言える。
・ 「自分の命は自分で守る」「怪我をしない」。
・ 「特に火災には注意」。
・ 「家族で防災についての話し合い」。
次の巨大地震ではどんな「想定外」が起こるか?
3.11 東日本大震災直後、多くの地震学者は「想定外の地震が起きた」と繰り返
し言われた。しかし、自然災害では想定外が起こることを前提に考えておく。
“繰り返すが!”必ず起こる大地震。常に「今、来たら」を想定。「防災・減災
対策に特効薬なし」。「自分の命は自分で守る」。「想定に惑わされるな」。
防災・減災における情報の重要性は、よく指摘されていることであるが、都市型の大災害
である阪神・淡路大震災時を再認識し、予測し得ないこと、とんでもないことが起こりえ
ることを充分考えておく。
我々、国民にとって、最も恐ろしい災害は何であろうか。古来「地震・雷・火事・親父」
という諺が示すとおり、地震はわが国と国民にとって最も恐ろしい自然災害と認識され
ている。繰り返しわが国を襲う大地震によって、数多くの命が奪われ、都市や町・村が
壊滅的な被害を受けてきた。大地震が起こると、建物、橋、道路などは強い揺れを受ける
が、十分な強さがなければ壊れてしまう。また、地表に近い地盤が振動で斜面が崩壊した
り液状化を起こしたりすると、地中に埋まっているライフライン施設は壊れてしまう。
また、地震後に発生する津波は、湾岸地域を襲い、港や町・村を壊し飲み込み甚大な被
害を引き起こす。3.11 の東日本大震災による津波被害の酷さを再認識しよう。
7
地震火災・津波火災:家屋を焼き尽くした大火災
下の写真は、阪神・淡路大震災の例。
倒壊した密集住宅地で火災が発生し、燃え広
がり、コンクリ-ト構造物への延焼。
倒壊した建物などによって道路が各所で封鎖さ
れ、水道がストップして消防活動がままならぬ中、
何箇所もの木造家屋の密集地で出火。もし風が強
ければ、類焼も大きくもっと悲惨な結果になり兼
ねない。
密集した木造家屋が延焼拡大しただけではない。鉄筋コンクリ-トで出来た耐火構造物の中にも、
倒壊や破損によって延焼阻止性能を失い、激しく燃え上がって窓から火の粉を撒き散らして火災
を拡大したものもあった。
下写真は、3.11、東日本大震災による津波火災の例
盲点だった津波火災、震災がもたらした課題。
“油の海”“燃え広がるがれき”。
津波をきっかけに浸水域で発生する火災。家
庭の石油タンク、船舶や車から漏れ出す燃料
が水面で着火した後、津波浸水域の漂流物に
延焼し燃え広がる。
東日本大震災で 131 件も発生した津波火災。
発生原因は、「自動車」が燃え出す車両火災
が津波火災の 32.3%を占める。
「複合火災」のリスクにどのように備えるか。
8
予測や対策が困難な津波火災対策の脅威。
都市火災の場合、同時多発火災で消防力には限界、その要因には、条件による
が、それぞれ「出火要因、延焼要因、消火遅延要因」がある(下図参照)。
地震時の火災は、同時多発による消防力分散、建
築物・構造物の倒壊や道路損壊による通行障害、
消火栓や水道管の被害。大量の自動車通行による
交通渋滞などの要因が複合して消化活動が阻害
され、延焼火災に発展する。
また、都市中心部では中・高層ビル風によって火
災旋風が発生し、火災は飛躍的に大きく広がるこ
とが指摘されている。
南海トラフ巨大地震、木造家屋大火災の恐
れ
木造家屋が立ち並ぶ木造密集市街地は、大阪、京
都、兵庫の 3府県だけで全国の約半分近くがある
そうである。「南海トラフ巨大地震」の被害想定
でも火災による死者は全国で最悪 2 万人を遥かに超える甚大な被害になることが想定され
ており、行政を含め対策が急がれている。
南海トラフの被害想定発表を受け、木造家屋密集地は、老朽化した建物が多い上、道路が
狭く、避難場所の公園も不足。今後の対応策として道路の拡幅、耐震補強などきめ細かな
具体化が急務である。
大阪・名古屋・中四国地域の広域災害と人の命に関わる“水と食料”
大阪・名古屋が同時被災する広域災害では、これまで経験した災害時の体験が通用しない。
発達した都市での都市型災害では、“とんでもないこと”が起こる可能性が大きい。且つ、
津波の影響で情報通信が途絶える。火災に弱い電気・電話・ガスは全面停止、情報通信の
断絶。周辺からの支援物資が来ない。特に、水と食料の確保は生命に関わる重大問題であ
る。
例えば、3 日間の水や食糧備蓄の必要性が指摘されていたが、広域災害ともなると、15 日
間の備蓄が必要だとされている。
巨大地震に遭遇する場合、命を落とさないための自助努力のポイント
中層住宅・マンションでは、その場で待機する
つぶれるのは何時も一階か途中の階、一階から逃げ出す危険を冒すより、ドア、窓を開け
9
て揺れの収まるのを待つ。
木造瓦屋根なら、何をおいても外に逃げる
「どんな大地震でも、慌てて外へ飛び出すな」と言う心得は、木造屋根では死を招く。
どんな貴重品よりも、身体と命が大事
貯金通帳、印鑑、有価証券などを取りに戻って余震に会い怪我や命を失うな。
水と食料の備蓄は、都会に暮らすものの義務と心得ること
ライフラインが寸断され都市機能が失われたときのための、水や食料の十分な備蓄。
日頃の防災意識とシミュレーションこそが命綱
災害時における対処のまずさは、日常防衛意識の低さと訓練不足からくる。
よく出歩く場所ごとに避難シミュレーションをする
繁華街、オフィス街、住宅街など場所によって防御・避難法は異なる。
携帯ラジオで全体の被害状況をいち早く知る
確実な被害状況を知る。悪質なデマに惑わされるな。
などなど。「独自の自衛で生き残る」「自助努力」が大切。
火災旋風:一口メモ
火災旋風が起こるメカニズムは研究段階と
されながらも、大規模な火災のときには、
いつでも発生する可能性がある。火災旋風
はただの竜巻と違い、炎や火の粉、煙、有
毒ガスなどを巻き込んで非常に危険を伴う
現象。旋風の温度は、1000度を超えるとさ
れ、輻射熱による被害。竜巻に似た外観に
なることがあるとされる。
参考・引用文献
1) 京都大学防災研究所監修:自然災害と防災の事典、丸善出版株式会社、2011.12。25。
2) 土井恵治 監修:地震のすべてがわかる本。成美堂出版。2005。12。10
3) 大阪歴史博物館教会:特別企画展、大阪を襲った地震と津波、2012.7.25~8.26
5)国民自衛研究会:自分だけは助かる方法、(株)データーハウス、鵜野義嗣、1995。2
6)名古屋大学災害対策室:東海地震がわかる本、東京新聞出版局、寺本峰祥、2003.4.10
7)日経アーキテクチュア編:阪神大震災の教訓、日経 BP 社、1995.3.15、第 1 版発行
8)Newton 別冊:せまりくる巨大地震、(株)ニュートンプレス、2002.10.1
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
編集・発行 NPO 法人 自然災害・地域防災対策支援センター
(略称)NAP サポートセンター 大阪事務所・神戸事務所・滋賀事務所
http://www.hi.zaq.ne.jp/nap-support/
お問い合わせは下記へ
・ 大阪事務所:090-4764-5557 ([email protected])
・ 神戸事務所:090―2350―7588([email protected])
・ 滋賀事務所:090-9692-2523 ([email protected])
・ 会員募集:入会ご希望の方を歓迎します。年会費:個人会員 6000 円、賛助会員 30000 円