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2.3 電気変位(4.3 The Electric Displacement2.3.1 物質中の Gauss の法則(4.3.1 Gauss’s Law in the Presence of Dielectrics前節で,静電場中に置かれた誘電体の内部には体積拘束電荷 ρ b = -∇ · P が,表面には表面拘束電荷 σ b = P · ˆ n が生じることを学んだ.よって,誘電体が存在する場合の電場は,誘電体の拘束電荷が作る電場と とそれ以外の電荷が作る電場の重ね合わせになる.ここで,拘束電荷以外のふつうの電荷を(自由電荷(free chargeと呼ぶ.自由電荷は真電荷(true chage) と呼ばれることもある.自由電荷は,誘電体中の原子・ 分子から離れて自由に移動することのできる,導体中の電子などである.誘電体が存在する場合,全電荷密 度は ρ = ρ b + ρ f (2.56) となる.この全電荷密度より作られる電場 E に対する Gauss の法則は,微分形で書くと 0 · E = ρ = ρ b + ρ f = -∇ · P + ρ f (2.57) となる.(2.57) 式の右辺の -∇ · P を左辺に移項して divergence の項をまとめると · ( 0 E 0 + P)= ρ f (2.58) となる.ここで電気変位(electric displacementD 0 E + P (2.59) によって定義すれば,物質中の Gauss の法則は · D = ρ f (2.60) と拘束電荷を含まない形で表すことができる.物質中の Gauss の法則の積分形は S D · da = Q f enc (2.61) となる.ここで Q f enc = V ρ f dτ は考えている領域中に含まれる自由電荷の総和である.物質中の Gauss 法則の表式は自由電荷のみを含むので,誘電体中の電場を考える際には非常に有用である.なぜなら,通常 の問題では自由電荷が作る電場によって誘電体に分極が生じ,その結果として拘束電荷が生じるので,自由 電荷密度 ρ f がわかっていたとしても拘束電荷密度 ρ b はあらかじめわかっているものではないからである. (2.60) 式の導出には表面分極電荷 σ b が含まれていないが,これは以下のように考えればよい.現実の誘電 体では表面で分極が不連続にゼロになるわけではなく,表面付近の有限の厚さで分極が急激に(しかし滑ら かに)減少し,ゼロになると考えられる.この場合は,表面分極電荷はゼロとなり,その代わりに表皮の領 域で ρ b が急激に,しかし連続的に変化することになる.Gauss の法則を積分形 (2.61) で表した場合は表面に おける特異性の影響は見えなくなる. 例題 (Example 4.4: 2.19 のように,長い直線導体が線密度 λ で一様に帯電している.直線導体は 半径 a の誘電体で覆われている.このときの電気変位 D を求めよ. 2.19: 解答:2.19 のように,Gauss 面を半径 s 長さ L の円筒にとって Gauss の法則 (2.61) を適用すると D(2πsL)= λL (2.62) となる.よって D = λ 2πs ˆ s (2.63) を得る.この表式は誘電体の内外両方で正しい.誘電体の外部で P =0 であるから E = 1 0 D = λ 2π 0 s ˆ s, for s>a (2.64) となる.誘電体内部の電場を決めるためには分極 P がわかっていなければならない. 48

2.3 電気変位(4.3 The Electric Displacement2.3 電気変位(4.3 The Electric Displacement) 2.3.1 物質中のGaussの法則(4.3.1 Gauss’s Law in the Presence of Dielectrics)

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2.3 電気変位(4.3 The Electric Displacement)2.3.1 物質中のGaussの法則(4.3.1 Gauss’s Law in the Presence of Dielectrics)

前節で,静電場中に置かれた誘電体の内部には体積拘束電荷 !b = !" · P が,表面には表面拘束電荷"b = P · nが生じることを学んだ.よって,誘電体が存在する場合の電場は,誘電体の拘束電荷が作る電場ととそれ以外の電荷が作る電場の重ね合わせになる.ここで,拘束電荷以外のふつうの電荷を(自由電荷(free

charge)と呼ぶ.自由電荷は真電荷(true chage) と呼ばれることもある.自由電荷は,誘電体中の原子・分子から離れて自由に移動することのできる,導体中の電子などである.誘電体が存在する場合,全電荷密度は

! = !b + !f (2.56)

となる.この全電荷密度より作られる電場 Eに対する Gaussの法則は,微分形で書くと

#0" ·E = ! = !b + !f = !" ·P+ !f (2.57)

となる.(2.57)式の右辺の !" ·Pを左辺に移項して divergenceの項をまとめると

" · (#0E0 +P) = !f (2.58)

となる.ここで電気変位(electric displacement)を

D # #0E+P (2.59)

によって定義すれば,物質中の Gaussの法則は

" ·D = !f (2.60)

と拘束電荷を含まない形で表すことができる.物質中の Gaussの法則の積分形は!

SD · da = Qfenc (2.61)

となる.ここでQfenc ="V !fd$ は考えている領域中に含まれる自由電荷の総和である.物質中のGaussの

法則の表式は自由電荷のみを含むので,誘電体中の電場を考える際には非常に有用である.なぜなら,通常の問題では自由電荷が作る電場によって誘電体に分極が生じ,その結果として拘束電荷が生じるので,自由電荷密度 !f がわかっていたとしても拘束電荷密度 !b はあらかじめわかっているものではないからである.(2.60)式の導出には表面分極電荷 "bが含まれていないが,これは以下のように考えればよい.現実の誘電

体では表面で分極が不連続にゼロになるわけではなく,表面付近の有限の厚さで分極が急激に(しかし滑らかに)減少し,ゼロになると考えられる.この場合は,表面分極電荷はゼロとなり,その代わりに表皮の領域で !bが急激に,しかし連続的に変化することになる.Gaussの法則を積分形 (2.61)で表した場合は表面における特異性の影響は見えなくなる.

例題 (Example 4.4): 図 2.19のように,長い直線導体が線密度 %で一様に帯電している.直線導体は半径 aの誘電体で覆われている.このときの電気変位Dを求めよ.

図 2.19:

解答:図 2.19のように,Gauss面を半径 s長さ Lの円筒にとってGaussの法則 (2.61)を適用すると

D(2&sL) = %L (2.62)

となる.よってD =

%

2&ss (2.63)

を得る.この表式は誘電体の内外両方で正しい.誘電体の外部では P = 0であるから

E =1

#0D =

%

2&#0ss, for s > a (2.64)

となる.誘電体内部の電場を決めるためには分極 Pがわかっていなければならない.

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2.3.2 真空中の電場との相違点(4.3.2 A Deceptive Parallel)

図 2.20:

(2.60)は真空中の電場に対する Gaussの法則において電荷密度 !を自由電荷密度 !f に置き換え,"0EをDに置き換えただけで同じ形をしている.このことから,Dは Eと同じようなものであると考えがちであるが,実際は両者には大きな違いがある.特に,Dに対しては「Coulumbの法則」なるものは存在しない:

D(r) != 1

4#

!r" r!

|r" r!|3 !f (r!)d$ ! (2.65)

電気変位Dと電場 Eの類似はそれほど単純なものではない.一般に,ベクトル場Aを一意に決めるためには発散# ·Aと回転#$A を同時に知る必要がある.電場の

場合は常に#$E = 0が成り立っているので発散のみを考えれば良く,したがってGaussの法則# ·E = !/"0

により電場が電荷分布によって決まることが保証される.ところが,Dの回転は常にゼロとは限らない.なぜなら

#$D = "0(#$E) + (#$P) = #$P (2.66)

であり,#$Pがゼロでなければならない理由は無いからである.上の例題の場合はたまたま#$P = 0であるが,一般には分極の回転はゼロにならない.例えば図 2.20のように一様な分極 Pを持つ誘電体が真空中に置かれた場合を考えて,誘電体内と真空をまたがるループ上で Pを積分すると,明らかに

"P · dl != 0

である.したがって Stokesの定理により,ループ内の領域では#$P != 0となる場所がなければならない.実際には誘電体と真空の境界上で#$Pが無限大になっている.また,#$D != 0であることはDを一般にはスカラーポテンシャルの勾配で表すことは出来ないことを意味する.もしも系が球対称,軸対称,面対称などの対称性を持っていれば,Gaussの法則 (2.61)を用いて,電場を

求めるときのように,Dを求めることができる.このような対称性がある場合は,実は自動的に#$P = 0

となることが示される.もしも系が上記の対称性を持たない場合には,Dが自由電荷のみによって決まると仮定することは許されないため,電場を求めるときと同様な手続きによってDを求めることはできない.

2.3.3 静電場の境界条件(4.3.3 Boundary Conditions)

!f

D!above

D!below

図 2.21:

!f

D!above

D!below

図 2.22:

真空中の電場 Eに対する境界条件は以下で与えられる.(Gri!thsの Sec.2.3.5を見よ.)

E"above " E"

below =1

"0% (2.67)

E#above "E#

below = 0 (2.68)

境界の上下での電気変位をDabove = "Eabove +Pabove (2.69)

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Dbelow = !Ebelow +Pbelow, (2.70)

と書いて,境界条件 (2.67),(2.68)をDに対する境界条件に書き換えよう.境界面に垂直な成分については

D!above !D!

below = !(E!above ! E!

below) + P!above ! P!

below (2.71)

この式に (2.67)を使うとD!

above !D!below = " + P!

above ! P!below (2.72)

となる.ここで,P!above = !Pabove · nabove = !"b,above (2.73)

P!below = Pabove · nbelow = "b,below (2.74)

である.ただし,nabove, nbelow はそれぞれ境界の上下の誘電体表面の法線ベクトル,"b,above,"b,below は上下の誘電体表面における拘束電荷密度である.境界面における拘束電荷密度は,上下からの寄与の和 "b =

"b,above + "b,below であるから,結局のところ

P!above ! P!

below = !! ("b,above + "b,below) = !"b (2.75)

となる.これを用いると,D!

above !D!below = " ! "b (2.76)

となる.ところで," = "b + "f であるから,

D!above !D!

below = "f (2.77)

を得る.次に,境界面に平行な成分については

D"above !D"

below = !0(E"above !E"

below) +P"above !P"

below (2.78)

であるが,(2.68)を用いるとD"

above !D"below = P"

above !P"below (2.79)

を得る.以上の結果は,真空中の静電場の境界条件を導いたときと同様にして,物質中のGaussの法則より直接導

くことも可能である.まず,図 2.21の直方体表面を Gauss面にとって Gaussの法則 (2.61)を適用すると!

SD · da = Qfenc = "fA (2.80)

となる.ここで ! " 0とすれば (2.77)を得る.次に,図 2.22のループにそってDを線積分すると"E · dl

より !D · dl = !0

!E · dl+

!P · dl =

!P · dl (2.81)

となる.ここで !" 0の極限をとると (2.79)を得る.

2.4 線形誘電体(4.4 Linear Dielectrics)2.4.1 電気感受率,誘電率,比誘電率(4.4.1 Susceptibility, Permittivity, Dielectric

Constant)

前節で,電気変位Dを導入することによって物質中のGuassの法則を自由電荷のみを用いて書くことができた.これにより,系が対称性を持つ場合については真空中で電場を求めるときと同様にGaussの法則を用

50

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いて電気変位を求めることができる.しかし,物質中の電場を求めるためには分極を知る必要がある.電場によって誘電体にどのような分極が生じるかは,物質によって異なる.多くの物質では電場が弱ければ分極は電場に比例する.そのような場合,Pを

P = !0"eE (2.82)

と書くことにする.ここで比例定数 "e は媒質の電気感受率(electric susceptibility)と呼ばれる."e は無次元の量であり,その大きさは問題となる物質のミクロな構造や温度等に依存する.分極が (2.82)式に従う物質を線形誘電体(linear dielectrics)とよぶ.(2.82)式に現れる電場 Eは自由電荷からの寄与と分極からの寄与の両方を含んでいる.例えば誘電体を外

部電場 E0 の中に置いたとしよう.分極 Pを (2.82)式から直接計算することはできない.外部電場 E0 は物質に分極Pを引き起こし,分極がさらに電場を作る.分極による電場は全電場Eに寄与するので,それが分極を変化させる.このような考え方を(原理的には無限に)繰り返すことによって分極を求めることは,常に可能なわけではない.それよりも,自由電荷 #f から電気変位Dを求められる場合には,Dを先に求めてしまうのが最も簡単なやり方である.線形誘電体では電気変位は

D = !0E+P = !0E+ !0"eE = !0(1 + "e)E (2.83)

となるので,Dも Eに比例する.そこで,比例係数を !として

D = !E (2.84)

と書く.ここで! = !0(1 + "e) (2.85)

は物質の誘電率 (permittivity)とよばれる.(真空中では分極する物質が無いので "e = 0であり,したがって ! = !0 となる.このことから !0 は真空誘電率と呼ばれる.)また,(2.85)を !0 で割った無次元の量

!r = 1 + "e =!

!0(2.86)

は比誘電率 (relative permittivity)または誘電定数 (dielectric constant)と呼ばれる.いくつかの代表的な物質について誘電定数を表に示す.

Material Dielectric Constant Material Dielectric Constant

Vacuum 1 Benzene 2.28

Helium 1.000065 Diamond 5.7

Neon 1.00013 Salt 5.9

Hydrogen 1.00025 Silicon 11.8

Argon 1.00052 Methanol 33.0

Air (dry) 1.00054 Water 80.1

Nitrogen 1.00055 Ice (!30!C) 99

Water vapor (1100!C) 1.00587 KTaNbO3 (0!C) 34,000

表 2.2 誘電定数(指定が無ければ 1気圧 20!Cのときの値)出典:Handbook of Chemistry and Physics, 79th ed.

(Boca Raton: CRC Press, Inc., 1997)

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例題(Example 4.5): 図 2.23のように,半径 aの導体球に電荷Qが帯電している.導体球は半径 b,誘電率 !の線形誘電体で覆われている.このとき誘電体内外における電場を求め,導体球の中心におけるポテンシャル(無限遠方をポテンシャルの基準とする)を求めよ.また,誘電体に誘起される拘束電荷密度を求めよ.

図 2.23:

解答:Gaussの法則 (2.61)を用いて電気変位Dを求めると導体球外部では

D =Q

4"r2r (r > a) (2.87)

を得る.導体球内部では E = P = D = 0である.(2.84)より電場 Eは

E =

!"""#

"""$

Q

4"!r2r, for a < r < b

Q

4"!0r2r, for r > b

(2.88)

したがって中心におけるポテンシャルは

V = !% 0

!E · dl = !

% b

!

&Q

4"!0r2

'dr !

% a

b

&Q

4"!r2

'dr !

% 0

a(0)dr

=Q

4"

&1

!0b+

1

!a! 1

!b

'(2.89)

電場 Eから分極と拘束電荷を求めることができる.分極は誘電体内部で

P = !0#eE =!0#eQ

4"!r2r (2.90)

となる.よって体積拘束電荷は$b = !" ·P = 0 (2.91)

となる.表面拘束電荷は

%b = P · n =

!"""#

"""$

!0#eQ

4"!b2=

#eQ

4"(1 + #e)b2外側の表面

! !0#eQ

4"!0a2= ! #eQ

4"(1 + #e)a2内側の表面

(2.92)

となる.内側の表面電荷が負になるのは,導体球表面の正電荷が負電荷を引きつけるためである.この負電荷のために誘電体内部の電場が 1/4"!0(Q/r2)から 1/4"!(Q/r2)に減少する.この観点からは誘電体は不完全な導体のようにもとらえることができる.なぜなら,もしも a < r < bの領域が完全な導体であれば誘起電荷は a < r < bの領域における電場を打ち消すように生じるはずであるが,誘電体の場合は電場は部分的にしか打ち消されないからである.

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外側の表面

内側の表面

図 2.24:

誘電体の外側表面の拘束電荷の総和はQb =

!e

1 + !eQ (2.93)

となる.一方,誘電体の内側表面の拘束電荷の総和は !Qb である.したがって,導体表面の電荷 Qも合わせると,この系は半径 a,電荷 Q ! Qb = 1/(1 + !e)Q = ("0/")Qの帯電球殻と半径 b,電荷 Qb の帯電球殻からなる系と見なすことができる(図 2.24).これら二つの球殻から作られる電場は容易に求めることができて,r > bでは原点に点電荷 Qが置かれたときの電場と等しくなり,a < r < bでは原点に点電荷Q!Qb = ("0/")Qが置かれたときの電場と等しくなる.これは (2.88)式と一致する.

線形誘電体の場合であっても 2.3.2節で議論した EとDの相違は残ることに注意されたい.Dと Eが比例することから"#D = 0が成り立つと思われがちであるが,これは,誘電率が空間的に変化する場合には成り立たない.なぜなら,

"#D = "# "(r)E = "(r)("#E) +""(r)#E = ""(r)#E (2.94)

となるからである.誘電体が空間の一部を占める場合や,誘電率が異なる物質が接続されている場合がその例である.例えば,図 2.20で示した,分極した誘電体と真空の境界で"#D $= 0となる状況は,誘電体が線形誘電体であったとしても変わらない.

図 2.25: 誘電体中の点電荷.

もしも全空間が一様な線形誘電体で埋め尽くされていて,"が空間のどこでも一定であれば

"#D = "("#E) = 0 (2.95)

となる.これと Guassの法則の微分形

" ·D = "" ·E = #f (2.96)

より,電場は真空中に自由電荷 #f のみが存在する場合と同様に求めることができる.誘電体が存在しない場合に自由電荷のみが作る電場を Evac とすると誘電体が存在する場合の電場は Evacにおいて "0を "に置き換えたものになる.したがって

E ="0"Evac =

1

"rEvac (2.97)

となる.結局,全空間が一様な誘電体で埋め尽くされている場合,電場は単に比誘電率の因子だけ減少することになる.(実際には全空間に誘電体を埋め尽くす必要は無く,電場がゼロである領域には誘電体が存在しなくても良い.なぜなら電場がゼロであれば分極もゼロになるので,誘電体があっても無くても関係ないからである.)

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例えば,大きな誘電体の中に自由電荷 qが置かれているときに作られる電場は

E =1

4!"

q

r2r (2.98)

となり,電場は真空中に比べて減少する.これは,誘電体媒質の分極によって自由電荷の周りに逆符号の拘束電荷が生じ,電荷を部分的に遮蔽するためである(図 2.25).

例題(Example 4.6):平行版コンデンサーの両極板間が比誘電率 "r の誘電体で充たされている.このとき静電容量はどうなるだろうか?

図 2.26: 誘電体で充たされた平行板コンデンサー.

解答:電場は両極版間の領域にのみ存在するので,誘電体の存在によって電場は 1/"r の因子だけ小さくなる.同様に極板間のポテンシャル V も 1/"r の因子だけ小さくなる.したがって,電気容量 C = Q/V は比誘電率の因子だけ増大する.

C = "rCvac (2.99)

実際にコンデンサーの電気容量を増大させるのにこの方法が用いられる.

ところで,結晶のように方向性を持つ物質では分極しやすい方向としにくい方向があり,電場の向きと分極の向きは必ずしも一致しない.その場合,電場と分極の関係は (2.82)式ではなく,より般化された関係式

Px = "0(#exxEx + #exyEy + #exzEz)

Py = "0(#eyxEx + #eyyEy + #eyzEz)

Pz = "0(#ezxEx + #ezyEy + #ezzEz)

(2.100)

によって表される.ここで #exx,#exy, · · · は感受率テンソル(susceptibility tensor)と呼ばれる.一方,(2.82)で表されるのは液体やガラスなどの方向性を持たない物質である.方向性を持たない誘電体のことを等方的な(isotropic)誘電体という.特に断りが無ければ「線形誘電体」と言った場合は「等方的な誘電体」を意味すると考えてよいだろう.

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