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医療ミスにみられるヒューマンエラーと 鉄道工事に伴う事故防止について 東京工業大学 工学院 経営工学系 伊藤 謙治 201767日本鉄道施設協会

2017年6月7日 日本鉄道施設協会¼ˆitoh).pdf0.310** 0.542** 事象・将来のリスクを 患者に説明 軽微 0.045 0.138-0.490**-0.003 0.263* 0.503** 重大 0.051 0.115-0.579**

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  • 医療ミスにみられるヒューマンエラーと鉄道工事に伴う事故防止について

    東京工業大学 工学院 経営工学系伊藤 謙治

    2017年6月7日日本鉄道施設協会

  • 話の概要• 人間工学の考え方とは?• ヒューマン・エラー、リスク、リスク・マネジメント• 組織事故を回避する要因:安全構造と安全文化• 日本の医療現場の安全文化は?• 安全文化は本当に安全に関係する?• 鉄道、保守用車従事者の安全文化は?• 現代的リスク・マネジメントのアプローチ:

    原因対処型潜在リスク要因解決型

    反応型 vs. 先験型アプローチ& レジリエンス• 川崎駅構内脱線事故事例への適用

  • 一生懸命使って、機械に慣れる

    マニュアルを読んで、必要な知識をたくさん覚える

    熟練者に頼んで、教えて貰う

    機械を好きになる

    ×

    ××

    ×

    ○人間の特性、機能に合うように機械を改良する

    人間の方から機械に接近

    機械の方から人間に合わせる

    ●人間の「特性」、「プロセス」をもとにして

    運動機能、感覚・知覚機能、情動・感情・感性、・・・

    ●人間にとって好ましくなるように

    使いやすい、疲れない、安全、快適、効率、学習性、保守性、拡張性、柔軟性、ワークロード、・・・

    人間工学的な考え方とは?

    機械をうまく使うにはどうすればいい?

  • 航空機事故:70%以上がパイロット

    原子力発電のインシデント:51%が直接員のエラー

    マン-マシン・システムの故障:50%以上がヒューマンエラー船舶、化学プラントなども同様にヒューマンエラーによる

    ほとんどが何らかの人間の関与による

    ヒューマンエラー研究はなぜ重要?現代の事故の多くが直接員のヒューマンエラー

    (e.g., Hollnagel, 1993; 1998)

    直接員だけでなく間接員の事故への関与

    (保守員、設計者、航空管制官、・・・)

    医療分野(アメリカでの調査)では、

    少なく見積もって44,000人が医療ミスで死亡推定値が98,000人になる可能性あり (Kohn et al., 1999)

  • 医療事故のリスクは?--- 他の災害との比較 ---リスク:1人・1年当たりの死亡確率

    米国の医療ミスによる死亡者数 (44,000人/年)

    を我が国に単純に適用すると

    米国人口 (2012): 31,387万人日本人口 (2012): 12,756万人

    (米国は日本の2.46倍)

    同じ事故率(人口比率)を

    仮定すると

    日本の医療事故による死亡者の推計: 17,886人/年

    医療リスク: 1.33%

    事故の型

    交通事故

    焼死(火災)

    労働災害

    鉄道事故

    海難事故

    自然災害

    鉱山災害

    病死

    自殺

    老衰

    全体

    全死亡者数

    4,914

    1,877

    1,075

    192

    35

    115

    2

    854,853

    30,707

    38,670

    1,141,865

    死亡確率/人・年

    3.8×10-5

    1.5×10-5

    8.4×10-6

    1.5×10-6

    2.7×10-7

    9.0×10-7

    1.6×10-8

    6.7×10-3

    2.4×10-4

    3.0×10-4

    8.9×10-3

    わが国における各種のリスク(2009年)

    日本の入院患者数(2012年): 約134万人

  • 業務・仕事プロトコル

    ルールガイドライン

    プロシージャー

    設備・機器・資材

    作業条件・環境

    チェックリスト・マニュアル

    教育・訓練

    • 権力的距離• 経営者の安全に対するコミットメント• モラール・モチベーション• コミュニケーション• リスク・エラー認知• ストレスの影響の認識• 安全に対する態度• 安全に対する認識• マネジメントに対する満足度

    ・・・

    安全構造(個人、チーム)安全文化

    パフォーマンス

    業務の遂行

    安全性・・・

    組織事故を回避する要因は?

    安全文化とは:『組織がもつ持つ安全に対する価値感、態度、認識、行動パターンの総体』

  • 0 50 100

    医師 (1002)看護師 (17772)

    薬剤師 (538)医療技術系職員 (1923)

    日本の医療現場の安全文化は? (1/3)

    コミュニケーション***

    31%

    19%

    18%

    27%

    83%

    84%

    87%

    79%

    56%

    33%

    39%

    44%

    93%

    94%

    96%

    96%

    * p

  • 0 50 100

    医師 (1002)看護師 (17772)

    薬剤師 (538)医療技術系職員 (1923)

    安全意識***

    リーダーシップ***

    能力に対する意識***

    チーム指向-個人志向***

    46%

    40%

    33%

    35%

    57%

    73%

    59%

    58%

    55%

    44%

    43%

    45%

    49%

    50%

    49%

    46%

    日本の医療現場の安全文化は? (2/3)

  • 0 50 100

    医師 (1002)看護師 (17772)

    薬剤師 (538)医療技術系職員 (1923)

    91%

    73%

    81%

    82%

    非懲罰的雰囲気***

    年功に対する敬意***

    メンバーとの競合的態度***

    チーム/ストレス管理**55%

    55%

    50%

    56%

    41%

    27%

    33%

    27%

    94%

    90%

    95%

    92%

    日本の医療現場の安全文化は? (3/3)

  • 0 50 100

    混合外科系病棟

    外来

    外来混合

    外科系病棟

    手術室外科系病棟精神・神経

    外来混合

    集中治療室

    小児科精神・神経

    手術室

    外来内科系病棟集中治療室

    権力的距離***

    非懲罰的雰囲気***

    作業プレッシャーに対する態度***

    職務満足***

    部門による安全文化の違いは?--- 看護師の所属病棟 ---

    ■強く肯定■やや肯定

    86%84%81%

    28%18%15%

    92%90%86%

    41%32%27%

    46%40%33%

    59%55%49%

    リーダーシップ***

    チーム/ストレス管理***

  • 内科系病棟外科系病棟

    集中治療室

    手術室

    外来

    精神・神経科

    小児科

    混合病棟

    -4.0

    -3.0

    -2.0

    -1.0

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    -5.0 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

    安全文化による看護師のグルーピング

    (after Itoh & Andersen, 2010)

    高職務満足・チーム/ストレス管理

    低職務満足・チーム/ストレス管理

    大きい権力的距離・懲罰的雰囲気

    小さい権力的距離・非懲罰的雰囲気

  • 0 50 100

    最大平均最小

    最大平均最小

    最大平均最小

    最大平均最小

    最大平均最小

    最大平均最小

    病院による安全文化の違いは?病棟間

    3%

    14%

    5%

    13%

    コミュニケーション***

    職務満足***

    権力的距離***

    作業プレッシャーに対する態度***

    99%

    94%

    84%15%

    55%

    33%

    14%41%

    94%

    84%

    66%28%

    42%

    19%

    10%33%

    ■強く肯定■やや肯定

    10%

    6%

    チーム/ストレス管理***

    非懲罰的雰囲気***

    72%

    55%

    33%39%

    98%

    90%

    78%20%

  • 安全文化は安全行動と関連する?--- 権力的距離とインシデント報告の関連性 ---

    4.0

    4.2

    4.4

    4.6

    4.8

    1.8 2.0 2.2 2.4

    ρ=-0.59

    (軽微ケース)

    (Itoh & Andersen, 2010)インシデント報告積極的

    消極的

    権力的距離大きい小さい

  • 看護師の報告態度と安全文化の関係

    報告行動 ケース I II III IV XI XII

    自分だけの秘密

    ニアミス -0.262* -0.242* 0.296** 0.298** 0.187 -0.225*軽微 -0.171 -0.049 0.537** -0.017 -0.272* -0.548**重大 -0.134 -0.089 0.500** 0.109 -0.188 -0.461**

    リーダー・主治医に報告

    ニアミス 0.328** 0.261* -0.409** -0.208 -0.007 0.324**軽微 0.073 -0.069 -0.553** 0.213 0.334** 0.583**重大 -0.028 -0.039 -0.504** 0.053 0.265* 0.488**

    インシデント報告を提出

    ニアミス 0.289** 0.275* -0.279* -0.295** 0.000 0.237*軽微 0.061 -0.043 -0.593** 0.180 0.343** 0.647**重大 -0.067 -0.050 -0.515** 0.086 0.310** 0.542**

    事象・将来のリスクを患者に説明

    軽微 0.045 0.138 -0.490** -0.003 0.263* 0.503**重大 0.051 0.115 -0.579** 0.041 0.248* 0.600**

    患者に謝罪軽微 0.009 -0.031 -0.392** 0.095 0.214 0.379**重大 0.056 0.052 -0.487** 0.049 0.201 0.461**

    Ⅰ. コミュニケーション Ⅱ. 職務満足

    Ⅲ. 権力的距離(-) Ⅳ. 作業プレッシャーに対する態度(-)

    Ⅺ. 年功に対する敬意 Ⅻ. 非懲罰的雰囲気

    (Itoh & Andersen, 2010)

  • 医療における安全レベルを表す客観データ(?)--- インシデント報告率 ---

    2004年 2005年 2006年 3年間平均

    転倒・転落を除く事象

    レベル 0・1 1.90 2.20 1.96 2.02

    レベル2以上 0.10 0.14 0.05 0.10

    全レベル 2.06 2.35 2.01 2.14

    転倒・転落

    レベル 0・1 0.45 0.53 0.56 0.55

    レベル2以上 0.16 0.20 0.10 0.16

    全レベル 0.61 0.73 0.66 0.67

    全事象

    レベル 0・1 2.36 2.74 2.52 2.54

    レベル2以上 0.25 0.34 0.16 0.25

    全レベル 2.67 3.08 2.67 2.81

    影響なしニアミス

    実害有り ~死亡(レベル5)

    (数値:スタッフ1人・1年あたりの報告件数)

    報告が多い方が危険?それとも安全?

  • 非懲罰的雰囲気と安全レベルの関係

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    3.8 4.0 4.2 4.4 4.6

    ρ=-0.58 (p < 0.05)

    (Itoh & Andersen, 2010)レベル2+報告率(件/人・年)

    非懲罰的雰囲気懲罰的 非懲罰的

  • 他の安全文化要因と安全レベルの関係は?--- レベル2+報告率と要因スコアの相関 ---

    安全文化要因 Spearman’s ρⅠ. コミュニケーション -0.74**

    Ⅱ. 職務満足 -0.52*

    Ⅲ. 権力的距離(-) 0.55*

    Ⅳ. 作業プレッシャーに対する態度(-) 0.69**

    Ⅴ. リーダーシップ 0.09

    Ⅵ. 安全意識 -0.28

    Ⅶ. 能力に対する意識 -0.68**

    Ⅷ. チーム指向ー個人指向 -0.32

    Ⅸ. メンバーとの競合的態度(-) 0.24

    Ⅹ. チーム/ストレス管理 -0.58*

    Ⅺ. 年功に対する敬意 -0.15

    Ⅻ. 非懲罰的雰囲気 -0.58*

    (Itoh & Andersen, 2010)

  • 鉄道(軌道会社)の安全文化は?(Itoh et al., 2003; 2004)

  • 鉄道でも安全文化は安全に効いている?

    (Itoh et al., 2003; 2004)---軌道会社の例---

    0

    0.1

    0.2

    0.4

    0.5

    -0.4 -0.2

    0.3

    0.2 0.4 0.6

    支店A

    支店B

    支店C

    支店D

    支店E

    重み付け事故/インシデント率(/100km/年)

    モラールモチベーション0

    0.1

    0.2

    0.4

    0.5

    -0.4 -0.2

    0.3

    0.2 0.4 0.6

    支店A

    支店B

    支店C

    支店D

    重み付け事故/インシデント率(/100km/年)

    支店E

    モラールモチベーション

    モラール・モチベーションが高い組織は事故が少ない!

  • 安全文化は改善できる?--- 2年後の再調査結果(1997年 & 1999年) ---

    (Itoh et al., 2003; 2004)

  • ヒューマンエラー

    エラーの根本原因

    潜在的リスク要因組織要因・管理要因、・・・

    事故・インシデント

    反応型アプローチ(発生した事故・インシデントに対する対応)

    対策予期せぬ

    大危険・ハザード

    e.g., 大地震による長時間停電、混乱、 …..予期せぬ大危険・ハザード

    事故が起こる前に事前のアクションによる安全レベルの向上(事故リスクの低減)

    対応不能

    因果関係

    分析・管理の方向

    状況のモニタリング

    安全状況/状態の判断

    状況の予測

    組織学習

    安全管理アクション

    先験型アプローチ=

    実証の発生前、発生中だけでなく、発生後の素早い、柔軟な対応

    (最小限の損害)

    現代的リスク管理のアプローチ

    反応型アプローチ vs. 先験型アプローチ(Reactive) (Proactive)

    レジリエンス・アプローチ(Resilience)

    レジリエンスのための4つの必要能力:(1)事象への応答(2)進展する状況のモニタリング(3)将来の兆し・可能性の予測(4)失敗だけでなく、成功事例からも学習

  • 直接原因のエラー対策ではなぜダメか?(1)当該事象の狭い範囲での対策 他の事故、インシデントはカバーしない。 同一事象でも、別の条件、状況でも事故は発生する。

    このような別条件に対する事象の対策にはならないことが多い。

    潜在リスク要因に対する対策では、これによりエラーを引き起こす幅広い事象をカバーするとともに、まだ発生していない事故を未然に防ぐ。

    (2)実質的な再発防止対策を導かない 事故・インシデントに至る過程でルールや作業の手続を破っている場合が多い。

    ルール・手続違反がなければ、当該事象は発生していなかった。 ルール違反、手続違反の理由、原因が調査されることは稀。 ルール・手続の遵守・徹底・確認という結論になりがち。 作業システムとしては、何も変わっていないので、作業者の意識が元に戻れば、

    事故前の状況と全く同じ。 「精神論」的管理になりがちで、懲罰文化になりやすく、さらに安全に悪影響。

    (3)安全構造に対する対策しか出てこない 作業者に関連する対策に限られ、作業/組織の管理に関する対策は出ない。 作業方法、使用設備、教育訓練など、安全構造に関する対策に限られ、組織

    全体の安全に関わる認識、体質等の文化/風土的な対策は導出されない。

  • 具体的に事例を見ていくと…………-ヒューマン・エラーと事故の関係-

    保守用車の事故事例:A駅構内の脱線事故

    基地終了予定5:05

    A駅74k335m

    入換え打合せ場所

    75k885m

    [東京方]

    下り線

    上り線

    ・マクラギ運搬・器材運搬・バ ラスト運搬

    ( ):実績

    (4:25)

    発生(4:30)

    P52ハニ

    開通表示器(クロッシング後端)

    下り1番線

    上り1番線

    [大阪方]

    76k113m

    駅長事務室前

    予定4:30

    予定4:50

    下り線本線

    上り線本線

    P51イロ

    脱線

  • A駅構内脱線事故のタイムライン分析

    当事者 発生事象/事故原因/背景要因

    責任者

    ポイント係

    責任者

    責任者

    運転者

    運転者

    + 責任者

    運転者

    運転者

    責任者

    責任者

    +運転者

    責任者

    A駅構内入換打合せ地点 到着

    トークバック(131R)で入換打合せ「上り線の東京方到着しました」

    「はい,どうぞ」

    「上り線東京方から上り本線まで入れ換え線路開通願います」

    ● ポイントの確認・切り替えを行わない (52 号ポイント未開通)

    「はい, 上り線東京方から上り本線まで入れ換え線路開通よし . どうぞ」

    責任者は「いつもより応答が早い」という感じあり (即座の応答)

    ● おかしいと思ったが注意を喚起できない

    ≪部門・組織の壁, 地位・役職上言えない(?)≫ ≪駅のポイント操作は1人の単独操作に委ねられている (一重系)≫

    「復唱します. 上り線東京方から上り本線まで入れ換え線路開通よし .」

    「はい. どうぞ.」

    モーターカー出発(前進開始)

    ○ 51 号ポイント指差称呼

    51 号ポイント通過

    × 減速のため軽くブレーキをかける ≪制限スピード阻害の心理的要因あり≫ (時間的プレッシャー, 傾斜)

    スピードが制限速度まで落ちていない

    ● 52 号分岐器の手前で一旦停止なし

    ● ポイント状態(開通表示器)の異変を感触したが, そのまま通過

    ≪通常から開通表示は見えづらい≫ ≪「ポイントが誤っているはずがない」という先入観≫

    ● そのまま通過, 運転者への指示なし

    ● 52 号ポイントの状態確認を怠る ≪連続するポイントでは2つめのポイントに注意が向かいづらい≫

    (「51 号を正常に確認・通過したので , 52 号も正常のはずと思った」)

    ×t 52 号ポイントの異変を発見 (目視確認が遅れる) 「クロッシングが山側に寄ってる」(ポイントの 30m 程度手前で発見)

    ×t ブレーキ指示(このときポイントの 17m 程度手前)

    脱輪, 脱線

    (Itoh et al., 2003)

    ポイント係

    ポイント係

  • 潜在リスク要因探索への事故分析の試行--- 川崎駅構内列車脱線事故 ---

    (2014年2月23日01:11発生)

  • 事故調査報告書記載の分析結果(運輸安全委員会, 2015)1.原因

    2.根本原因背景要因潜在リスク要因

    3.再発防止策

    線閉前の線路内に、工事用軌陸車が進入したため。 重機械安全指揮者が誘導を行っていない状況で、当該線路内に移動

    可能という(誤った思い)込み。 作業の指揮・命令、作業手順の遵守が不徹底。

    多くの問題点、不適切な行動に関する記述有り潜在リスク要因にはふれていない(?)

    指揮・命令系統の明確化と、作業実施の適切性の再確認ルール・手順の確認と徹底

    工事従事者に対する作業現場での危険の再認識と、安全行動の遵守確認と徹底

    諸規定の見直しと、教育訓練の実施 どのような教育・訓練?ルールを守らせるためには?

    これまでのルール・規程、教育訓練の徹底・厳格化(?) 軌道短絡器の設置の強化

    作業システムは本質的に変わっていない(?)

  • 数多くのヒューマン・エラー (わかる範囲で; 主要部分)(1)重機械(軌陸車)運転者+(載線補助の)作業員

    重機械安全指揮者の指示(?)の勘違い「入れていいよ」線閉を開始したという思い込み(?)重機械安全指揮者なしの軌陸車の載線作業回送列車の接近を気づかない(気づくのが遅れた)

    【重機械安全指揮者も同様】回送列車に停止を伝えなかった

    【重機械安全指揮者、工事管理者(保)も同様】

    (2)重機械安全指揮者軌陸車運転者に対する曖昧な指示「ここまでいいですよ」軌陸車の線路内の進入・載線までの誘導を行わない

    (3)工事管理者(工)重機械安全指揮者に対して具体的な指示を行っていない作業員に線閉開始の情報を伝えていない

  • エラーの背景にある要因の探索(1/3)(さらなる詳細・深い分析、様々なデータによる確認が必要)

    (1)軌陸車運転者・作業員の線閉に対する誤認

    (2)回送列車接近に対する発見の遅れ TC型無線式列車接近警報装置の不携帯、電源の切断(?)

    ( うるさい、作業がしにくい(?)、近所住民の苦情?)

    軌陸車運転者・作業員の線閉に対する意識は、それほど高くない(当日、線閉に関する状況を知ろうと思えば知り得たが、知らなかった??) 作業員の思い込み: 重機械安全指揮者がいいと言ったので、

    「線閉されていないわけがない」 線閉範囲を示すLEDがあるか、ないかでわかる(場所によっては見えない?)

    一般の工事従事者は線閉に関する情報取得に努力が必要(通常は、覚えていない??) 点呼は自社の職長から受け、線閉情報を取得 点呼時に伝えられた線閉の情報を覚えていない限り、作業中に把握できない

    (作業員はハンディ端末を持っていない。詳細情報の記憶は不可能)

    携帯者の見直し、警告方法の検討、電源切断の不可など、実質的改善、ルールの実質的見直しが必要(?)

    作業員の線閉に対して意識しない(?)

    線閉情報の共有化方法の付与(e.g., どこからでも見える線閉区間のライト?)

  • エラーの背景にある要因の探索(2/3)(さらなる詳細・深い分析、様々なデータによる確認が必要)

    (3)重機械安全指揮者の指示に対する軌陸車運転者の誤解 重機械安全指揮者と軌陸車運転者の意思疎通に問題は?彼ら2名は別会社の社員(遠慮、風土の違い?)曖昧な会話でも聞き返せない?ペアリング教育(事前打ち合わせ)は行っていなかった(?)稀には、他会社従事者とのペア、経験の浅い作業者とのペアも発生する(?)

    重機械安全指揮者なしでの線路内移動の可能性(稀ではない?) 1対N(複数)の軌陸車運転者の割り当て(?) 重機械安全指揮者の担当作業量(オーバーロード?)

    重機械安全指揮者の思い込み(作業員が指示すると思っていた) 軌陸車運転者の思い込み(線閉開始と思っていた) 軌陸車運転者としては経験が浅い(?)慣習、暗黙の了解で作業(?) 重機械安全指揮者が明確に指示を与えていなかった 指示・合図と作業内容に関する会話との不明瞭性

    時間的制約(多忙?)、人員的制約(人手不足?)、財務的制約??

    重機械安全指揮者と軌陸車運転者とのペア作業を確実にする仕組み曖昧さ・暗黙の了解を排除した指示・命令体系(?)

  • 安全を十分確保する前提で、守りやすい作業形式、ルール、手順を再確認、再構築する必要性(?)

    エラーの背景にある要因の探索(3/3)(さらなる詳細・深い分析、様々なデータによる確認が必要)

    (4)重機械安全指揮者の軌陸車誘導の省略(もしかすると、指揮命令系統の乱れ、作業手順破りの背景?)

    重機械安全指揮者のオーバーロード(作業の偏り?)、業務割り当ての問題(?)複数の重機械運転者の指示を担当(通常、またルール上は1対1?)列車見張り員、工事請負会社との打合せなど、多種類(担当外?)の業務を担当

    携帯無線機での会話による情報共有への過度の信頼必ずしも情報が伝達されている保証なし(?)

    ルール、手続が形式的になり、一部儀礼化されていた可能性(?)保安確認書で軌陸車運転者の記載漏れ(当該事象の時、たまたま?よくある?)保安打合せ票で作業箇所、確認対象の列車番号の誤記載工事請負会社では、一部規定されている教育も行われていなかった列車防護用具等の携行品の一部不携帯(使わないのに携行という意識?)

    手続の遵守、書類の記入の正確性に十分な意識が向いていない可能性(?) 何に必要かわからないが、求められる情報を出しておけばいい(?) 面倒、チェックされない、大きな問題は起こっていない、……という無意識の認識(?)

    ルール・手続遵守に対して無意識のうち、自己納得型の安全意識(?):「今まで大丈夫だから、こうやっても安全」消極的な安全文化への危険性(?)

    積極的(ポジティブ)な安全文化の醸成

  • レジリエンス増強のために考え得ること もし作業中に突発的に緊急事態, e.g., 大地震, が発生したら、 ………….

    (より大きな事象にも、的確に対処できるために)

    被害、損失を最小限に食い止める。そのためには、

    1.関連する情報・データを素早く、的確、そして継続的に獲得(この事例では) 線閉に関する情報を、誰でも、どこにいても獲得可能

    線閉情報の可視化、効果的提示手段 確実な情報伝達・通信手段

    2.緊急事態に素早く対応近隣の列車を即座に停車させる/停車を指示する手段作業員に即座に緊急指示を伝える手段緊急時の現場での意思決定手続・手順の策定

    3.突発事象にも能力を発揮できるように、全体的な安全対応を向上工事管理者だけでなく、一般作業員の線閉に対する

    意識、安全に対する意識、能力を高める組織全体にポジティブな安全文化を醸成する

  • まとめ:鉄道工事におけるリスクマネジメント 人間工学の考え方: 人間(作業者)の処理特性、作業のメカニズ

    ムに適合した作業/組織/システムの設計・改善、分析、管理、…… 組織事故を回避する要因: 安全構造と安全文化。安全文化の重

    要性と安全文化の測定方法。

    日本の医療現場の安全文化: 鉄道、保線関係への適用を踏まえ、日本の医療安全文化の現状と、組織文化の差異。

    安全文化と安全レベルの関係: 権力的距離(一般職と役職上位者との心理的な距離・隔たり)と非懲罰的雰囲気の重要性。

    鉄道、保守用車従事者の安全文化: モラール・モチベーションと安全レベルの関連性。

    現代的リスク・マネジメントのアプローチ: 潜在リスク要因解決の重要性と、反応型・先験型アプローチの併用、レジリエンス増強。

    川崎駅構内脱線事故事例: 事故の直接原因の背景にある潜在リスク要因解明の重要性と、その試み。

    E-mail: [email protected]

  • 参考文献Hollnagel, E. (1993). Human Reliability Analysis: Context and Control. Academic Press,

    London.

    Hollnagel, E. (1998). Cognitive Reliability and Error Analysis Method (CREAM). Elsevier Science, London.

    Itoh , K. and Andersen, H.B. (2010). Dimensions of Healthcare Safety Climate and Their Correlation with Safety Outcomes in Japanese Hospitals. Proceedings of the European Safety and Reliability Conference 2010 -- ESREL 2010, pp.1655-1663, Rhodes, Greece, September 2010.

    Itoh, K., Andersen, H.B. and Seki, M. (2004). Track Maintenance Train Operators' Attitudes to Job, Organisation and Management and Their Correlation with Accident/Incident Rate. Cognition, Technology & Work, 6(2), 63-78.

    Itoh, K., Seki, M. and Andersen, H.B. (2003). Approaches for Transportation Safety: Case Studies Applying to Track Maintenance Train Operations. In E. Hollnagel, (Ed.), Handbook of Cognitive Task Design, pp.603-632, Lawrence Erlbaum Associates, Mahwah, NJ.

    Kohn, L.T., Corrigan, J.M. and Donaldson, M.S. (Eds.) (1999). To Err Is Human: Building a Safer Health System. National Academy Press, Washington DC.

    運輸安全委員会 (2015). 鉄道事故調査報告書, RA2015-2.

    医療ミスにみられるヒューマンエラーと鉄道工事に伴う事故防止について話の概要スライド番号 3スライド番号 4スライド番号 5スライド番号 6日本の医療現場の安全文化は? (1/3)日本の医療現場の安全文化は? (2/3)日本の医療現場の安全文化は? (3/3)スライド番号 10安全文化による看護師のグルーピング病院による安全文化の違いは?安全文化は安全行動と関連する?�--- 権力的距離とインシデント報告の関連性 ---看護師の報告態度と安全文化の関係医療における安全レベルを表す客観データ(?)�--- インシデント報告率 ---非懲罰的雰囲気と安全レベルの関係他の安全文化要因と安全レベルの関係は?�--- レベル2+報告率と要因スコアの相関 ---鉄道(軌道会社)の安全文化は?鉄道でも安全文化は安全に効いている?安全文化は改善できる?スライド番号 21スライド番号 22スライド番号 23スライド番号 24スライド番号 25スライド番号 26スライド番号 27スライド番号 28スライド番号 29スライド番号 30スライド番号 31まとめ:鉄道工事におけるリスクマネジメント参考文献