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2014 年度 京都府立大学 ACTR(大学による地域貢献事業) 報告書2 2014 2015 3 31 京都社会的共同親プロジェクト 京都府立大学 ACTR・津崎哲雄研究室 京都中小企業家同友会・社会問題研究会

2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

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Page 1: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

2014 年度

京都府立大学 ACTR(大学による地域貢献事業)

報告書2 2014

2015 年 3月 31日

京都社会的共同親プロジェクト

京都府立大学 ACTR・津崎哲雄研究室

京都中小企業家同友会・社会問題研究会

Page 2: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

目 次

Ⅰ 第 1-2回京都社会的共同親プロジェクトのまとめの言葉

前川 順・・・・・・・・・・ ・1頁

Ⅱ 2014年度におけるプロジェクトの活動概要とその成果

① 活動の背景と展開・・・・・・・・・・・・・・・ 3頁

② 活動の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5頁

③ 実習参加者人数・・・・・・・・・・・・・・・・・8頁

④ 各種啓発活動・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 9頁

⑤ 活動の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14頁

Ⅲ 第2回京都社会的共同親プロジェクト・啓発集会

みんなで拓こう 子どもの未来(2014/10/15)の記録

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15頁

Ⅳ プロジェクト研究報告・研修会記録

・社会的養護を巣立つ若者への取り組みに関する一考察

-公的支援と市民参加の視点-・・・・・・・・・41頁

・『夢がもてる著者を一人でも二人でも:

中小企業親(=社会的共同親)への期待』・・ ・・62 頁

Ⅴ 総括に代えて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70頁

Page 3: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

Ⅰ 第 1-2回社会的共同親プロジェクトのまとめの言葉

前川 順

2年前に児童養護施設京都府立桃山学園の女子高校生4人が夏休み就労体

験実習に挑んだことがすべての始まりです。

就労体験実習と自然に発生した人間対人間の友情は実習終了後も続き、今

では本当の親戚のような錯覚さえ覚えるほどの付き合いになっている例もみ

られます。彼女たちとの距離感は様々ですが、着実に親密なものになってい

ます。これらの有効性は府立桃山学園のみならず、昨年から実習が始まった

迦陵園の関係者も認めているところです。

就労体験実習において誤解があってはならないことを記します。実習先へ

の雇用は施設側も企業側も考えてはなりません。雇用を前提とした実習であ

ってはならないのです。あくまでも職業観を養い適職を探索するための実習

です。お互いに肩の力をぬいた関係が実習終了後の人間関係構築につながっ

ているのだと思います。慎重になりすぎないチャレンジが功を奏しているの

かもしれません。

雇用ありきでは企業側は負担を感じますし、施設側はいわゆる良い子しか

送り出さないようになるでしょう。これが雇用を考えない大きな理由です。

(実習から雇用に至った例は存在します。雇用を否定はしません。)

施設によっては「体制が整ってから」とおっしゃるところもあります。し

かし、桃山学園との取り組みも充分に整ってから行ったものではなく、ひと

つひとつ薄紙を剥がすようにして先の見えない、答えがわからないことを“勇

気をもって”行ってきました。 実習や、それに代わる有効な取り組みを考

えている間にも、毎年多くの若者が不安を抱えながら巣立っていきます。

私は問いたい「いつ、体制が整うのですか?」と。

一歩を踏み出した若者たちは確実に変わってきました。また、実習に送り

Page 4: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

出した施設職員さんの意識も変わってきました。勿論、中小企業家同友会会

員の意識も然りです。恐れずに一歩前に出る勇気を先ずは大人たち(施設関

係者、中小企業家同友会会員)が持つことです。傍にいる職員さんの勇気は

必ずや子どもたちに伝わりプラスの影響を与え合う関係になると信じており

ます。

京都中小企業家同友会社会問題研究会のメンバーは児童福祉において、ま

た教育分野においても素人です。平素は自身の企業経営に没頭しています。

小さな会社ではありますが、誇りをもって働いています。社会的養護のもと

に育つ子どもたちへのメンタルケアはもちろん、教育的な指導もできません。

しかし、いざ自身の仕事のことになると思いのたけを子どもたちに語ること

ができます。見せることができます。このことによって子どもたちは職種に

関係なく、働くことに、また実習を通して知り合った大人そのものに魅力を

感じてくれるのだと考えられます。

就労体験実習を難解なもの、困難が付きまとうものと考える必要はありま

せん。時には上記のようにシンプルな考えが必要です。

卒業を目前に控えた高校3年生の女生徒と交わした会話は私たちの取り組

みを象徴しているのかもしれません。「僕らは家族ではないし、親戚でもない。

職場の上司でもなければもちろん施設の職員でもない、なんだろうね・・・

やっぱり友達か。」親友になる日も近い予感がします。

すべての社会的養護のもとにくらす子どもたちが地域社会といい関係を築

き、負の連鎖を断ち切ることができるように前に進みたいと考えています。

今、2月の下旬、私たちの関わっている児童養護施設の子どもたちから高

校受験結果の報が届く。これほど喜び、落胆する自分に驚いています。すで

に児童養護施設の子ども・若者と中小企業家の関係を超えていることを実感

しています。

Page 5: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

Ⅱ 2014年度におけるプロジェクトの活動概要とその成果

(1) 活動の背景と展開

京都中小企業家同友会の有志が児童養護施設(や里親・ファミリーホーム)でくらす子

ども・若者(小中高生・専門学校生など)を対象にして、その施設職員・関係者と協働し

つつ、自らの職場に長期休暇中、3 日から 7 日くらい実習生として受け入れ、実際の中小

企業における職場での就労体験を行う就労準備支援実習が開始されたから、ほぼ二年余が

経過した。この実習の目的は上記のとおりであるが、副産物として、施設・里親・ファミ

リーホームにおいて子どもや若者の養護を担当される方々とは違う、実社会の大人の他者

との人間関係を体験できることが起こる。これは、まもなく訪れる社会への旅立ちの準備

の機会を提供するということと新たな大人との接触を体験することが同時に進行する、社

会的養護で暮らす子ども・若者にとって意味のある体験であり、そうした体験を可能にし

た京都の中小企業家有志のヴォランタリーな活動である。これが、私たちが取り組んでい

る全国でも珍しい社会的養護における市民参加として極めて斬新な活動である、京都社会

的養護プロジェクト「施設・里親で暮らす子どもの未来を拓く」である。昨年に続き、本

年度も本報告書の各所に記したような様々な活動を通じて、18歳-20歳になると一人で社

会的に自立を強いられる社会的養護で暮らしてきた子どもや若者に対するささやかではあ

るが意義のある社会的養護で暮らす子ども・若者への支援活動である。

本プロジェクトでは、2013年度においては、中小企業家の方がたが桃山学園の子どもら

と信頼関係を築きあげ、就労準備支援実習に参加したい子どもの希望を聞いて、最適な中

小企業家とマッチングさせ、その職場で実習を体験し、そのふりかえりの機会として実習

報告会を催し、受け入れた中小企業家も事後に所感を述べてもらうことを前提に、実習参

加者のふりかえりを(文章化して準備し)口頭で発表してもらう実習報告会が実施され、

参加した子どもも受け入れた中小企業家もそれぞれにその効果を実感したことが明らかで

あった。

さらに、この方式についての啓発集会を府民対象に京都府立大学で実施するとともに、

そのために必要な講演会や研修会を行い、その内容を文書化・公刊(報告書・ブックレッ

ト第1号)して、啓発ツールとし広く配布して、このプロジェクトによる社会的養護児童

への新たな支援方式(この時点では桃山学園方式と呼ばれていたが)の普遍的応用の可能

性や実施体制の組織化・効率化・ネットワーク化を進めてきた。そして、2014 年度では、

さらに新たな展開が進行していった。ここではその概要を報告する。

実際の実習配属やその準備・事後活動(配属マッティング相談会や反省会)の実績は、

Page 6: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

次節以降に提示した統計数字で確認していただきたい。

では、本年度における進展の主なものを3点挙げておこう。2013年度報告書にも明確に

記されているが、同年度の成果に基づく新たな課題の第一は、桃山学園以外の児童養護施

設が加わり、一施設を超えた固有な有効性を探ることであった。新規たな展開の成果の第

一はこの課題に関して起った。それが迦陵園(京都市の民間-社会福祉法人立-児童養護施

設)の参加と同園にける積極的取組を通じて起こったのである。迦陵園におけるプロジェ

クトの進展は、目を見張るものであり、桃山学園というある意味で特殊な経営事情に基づ

く児童養護施設のみならず、府下の児童養護施設のすべてがそうである民間・社会福祉法

人施設において実施可能な活動であるのかどうか検証する、ささやかな実証実験であった。

それが著しい成果を発揮しつつ、桃山学園とともに、現在は社会的共同親プロジェクトの

両輪を担ってくれるようになっているのである。

第二は、ファミリー・グループホームからの初めての実習依頼があり、中小企業家チー

ムは要請があってから、丁寧に対応し、まず訪問してニード調査のための聴き取りをおこ

ない、本人も交えて希望を確認し、実習配属・日程を同意し、実習を行ってもらい、実習

体験報告会は、ファミリーホームは施設ではないのでそこでは行えないので、同友会事務

所の会議にて行った。今後もファミリーホームや里親家庭からの要望があれば、これまで

積み上げてきたノウハウで、実習対象となる子ども・若者が児童養護施設で暮らしていよ

うとも、ファミリーホームに委託されていようとも、里親家庭で生活していようとも、現

在実施中の方法と理念で対応できることを実証できたといえよう。

第三は、メディアを通じての啓発活動の進展である。これについては、以下の(4)「社

会的共同親プロジェクトに関する民啓発活動」に詳細はゆずるが、NHK 京都放送局の貢献

は特筆されるであろう。地味な社会活動にこそ目を注ぐ公共放送の面目躍如たるところで

ある。

最後に、関連領域の年次大会における活動報告の機会である。メディアの影響もあろう

が、2 年間の実績を踏まえて、2つの全国組織が 2015 年 10 月に開催される年次研修会に

おいて、本プロジェクトの成果を発表する機会を提供してくれている。秋田で開催される

全国児童養護施設協議会・全国大会および愛媛で開催される中小企業同友会の「第18回

障害者問題全国交流会」においてである。

Page 7: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

(2) 活動の概要

2014 年度 児童養護施設 2園とファミリーホームに対する 京都中小企業家同友会社会問題研究会の取り組み

① 子どもたちとの懇談会

桃山学園

と き 子供の参加数 職員の参加数 同友会の参加数 備 考

6 月 30 日 9 5 14 OB1 *

7 月 31 日 10 5 17

10 月 6 日 14 5 12

12 月 3 日 16 5 12

1 月 16 日 14 5 12 OB1

2 月 19 日 14 5 13 OB4

*OB とはこのプロジェクトに参加して社会人となった施設卒園者

迦陵園

と き 子供の参加数 職員の参加数 同友会の参加数

6 月 28 日 12 5 9

7 月 23 日 10 6 7

10 月 18 日 10 5 13

12 月 25 日 13 5 16

1 月 30 日 9 4 15

2 月 23 日 12 4 14

ファミリーホームゆんたく

と き 子供の参加数 職員の参加数 同友会の参加数

7 月 7 日 1 2 2

12 月 4 日 3 2 2

2 月 17 日 0 2 3 大人間の協議

Page 8: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

② 実習報告会

桃山学園

と き 子 供 の 参 加 数 職 員 の 参 加 数 同 友 会 の 参 加 数

4 月 28 日 12 人 7 人 18 人

9 月 2 日 14 人 7 人 22 人

迦陵園

と き 子 供 の 参 加 数 職 員 の 参 加 数 同 友 会 の 参 加 数

4 月 23 日 6 6 10

9 月 24 日 7 4 17

ゆんたく

と き 子 供 の 参 加 数 職 員 の 参 加 数 同 友 会 の 参 加 数

9 月 16 日 1 1 27(定例委員会で

行う)

③ 卒園生を囲む会・桃山学園

と き 卒 園 生 の 参 加 数 職 員 の 参 加 数 同 友 会 の 参 加 数

7 月 6 日 1 1 17

1 月 24 日 1 1 14

職員は敢えて施設長のみが参加し、OB と同友会会員の交流強化をねらう。

④ 施設における卒園式への中小企業家同友会会員の参加

2015 年 3 月の予定として、同友会会員が桃山学園に 10 名、迦陵園に 5 名が それぞれ

の施設の卒園式に出席することになっています。これらの参加予定人数は、施設側から

指定されました。会場のキャパシティーの問題です。制限がなければもっと多くの会員

が参加を希望したでしょう。施設としても苦渋の指定でした。

Page 9: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

(3) 2014 年 9 月末現在における社会的共同親

プロジェクト就労準備支援体験実習参加者数

桃山学園 ( 延べ 31名 = 高校 18 中学 10 小学3 )

実習時期

参加人数

学年 性別 実 習 先 業 種

平成 24年夏期

4名

高校4

高 3

高 2

高 2

高 1

女児

女児

女児

女児

製造業(製菓)

接客業(飲食店)

接客業(飲食店)

接客業(飲食店)

平成 25年春期

6名

高校4

中学2

高 2

高 1

高 1

高 1

中 1

中 1

女児

男児

女児

女児

女児

男児

製造業(シール印刷)

サービス業(自動車整備)

物流業(食品)

医療福祉(介護職)

医療福祉(介護職)

製造業(印刷会社)

平成 25年夏期

8名

高校5名

中学3名

高 2

高 2

高 2

中 2

中 2

中 2

高 3

高 1

女児

女児

女児

男児

男児

女児

女児

女児

教育学習支援業(英会話教室)

小売業(コンビニエンスストアー)

清掃業

製造業(木工所)

製造業(機械製造)

清掃業

*京都工芸大学校にて体験実習

*京都工芸大学校にて体験実習

平成 26年春期

5名

高校3

中学2

高 2

高 2

高 2

中 2

中 2

女児

女児

男児

男児

女児

清掃業

サービス業(写真業)

卸売業(花屋)

同友会事務局

製造業(陶芸)

平成 26年夏期

8名

高 3

高 2

中 3

女児

女児

男児

製造業(木工所)

医療福祉(保育園)

清掃業

Page 10: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

高校2

中学3

小学3

中 3

中 3

小 6

小 5

小 4

男児

女児

女児

女児

女児

小売業(コンビニエンスストア)

サービス業(クリーニング)

*見学体験 清掃業・シール印刷

*見学体験 清掃業・シール印刷

*見学体験 清掃業・シール印刷

迦陵園 (延べ 13名=高校8 中学1 小学1 専学2 18 歳+1)

実習時期

参加人数

学年 性別 実 習 先 業 種

平成 26年春期

6 名

高校4

専門学校1

18歳1

高1

高2

高3

高3

18歳

専1

男児

女児

男児

女児

男児

女児

PC関係

設計事務所(見学)

造園業

接客業(飲食店)

写真スタジオ

接客業(飲食店)

平成 26年夏期

7名

小学1

中学1

高校4

専門学校1

小6

中3

高2

高2

高3

高3

専1

男児

女児

男児

女児

男児

女児

女児

農家宿泊体験

製造業(木工所)

接客業(飲食店)

工務店(見学)

接客業(飲食店)

製造業(製菓)

医療福祉(介護職)

全参加人数概要 施設 延べ 高校 中学 小学 専門 18 歳+ 男児 女児

桃山学園 31 18 10 3 8 23

迦陵園 13 8 1 1 2 1 6 7

合計 44 26 11 4 2 1 14 30

Page 11: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

(4) 社会的共同親プロジェクトに関する民啓発活動

① NHKテレビによるプロジェクトの紹介と啓発

本年度は、このプロジェクトの活動の様子が NHKによって何度も紹介された。TVに取り

上げられることは時期尚早と考えられなくもないが、2年余の活動実績が公共放送局のテ

レビで取り上げられるということは、世間に報道する価値のある市民活動であると客観的

に評価されているひとつの目安になるともいえよう。

プロジェクトの立ち上げに関わった同友会会員である楠本さんは、彼女が開設している

このプロジェクトを紹介するフェイスブック(において、そのことを喜び、次のようにコ

メントしている。

私たちの取り組みの様子が、今年に入ってから、NHKETVのハートネット TVや NHK京都

の報道特別番組、そして NHK「京いちにち・ニュース 610」(京都ローカル、2014年 10

月 21日放映)、「ウィークエンド関西」(関西地区限定)に続き、今朝(2014年1

1月4日)は「おはよう日本」で全国放送されました。

顔も名前を隠すことなく、強く生きだした子どもたちの姿を追ってくださっている

NHKさんの報道姿勢には気迫を感じます。NHK京都放送局さんは、子どもたちの実習受け

入れと、子どもたちとの交流に、半年以上いっしょにご参加くださっています。仲間と

しての信頼を得てくださったのちにカメラが入り、おかげで、なんの違和感もない番組

になりました。18歳で社会に出る不安と憂鬱を抱えながら、様々な仕事体験や、おっち

ゃん・おばちゃんたちとの出会いを足掛かりに、「自分が頑張れる道」を見つけた少女

の笑顔が、ステキです。(楠本貞愛さんの「本プロジェクト」フェイスブックから)

② ハートネット TV「児童養護施設出身者 過酷な現実」放映 4回シリーズ

2014年 7月 30日(水曜)再放送 8月 6日(水曜)シリーズ 「施設で育った私」第4回

反響編で取り上げられ、以下のような文面が NHKのウェブサイトに載っています。

今、虐待や貧困、離婚などが理由で、実の親と暮らせない子どもたちが増えています。

児童養護施設や里親など「社会的養護」で育つ子どもは、全国でおよそ4万7千人。ハー

トネット TV・7月の特集では、親に頼れず「施設」などで育つ若者たちが、社会へと巣立

ち、”自立”していくために何が必要なのか、3回にわたってお伝えしました。

第4回は、寄せられたカキコミやメールをもとに、テーマについて考える反響編。施設

を出た後、実家などの頼る場所もなく、虐待など深い心の傷を抱えた状態で一人、社会で

Page 12: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

の自立を迫られる若者たち。放送後は、30~40代の人たちを中心に、貧困や心の問題に直

面しているという声が多く寄せられました。そして、もう一つ多かったのが、施設で育っ

た若者たちを支えたいという“声”。京都で始まっている、地域の企業家たちが子どもた

ちの“自立”を見守る取り組みなどを紹介し、社会でどんなサポートができるのか考えま

す。

施設で育っても、どんな環境に生まれても、安心して社会で自立していけるために何が

必要なのか。放送中に視聴者の皆さんから寄せられるツイートも取り上げながら考えてい

きます。

★京都社会的共同親プロジェクト

京都中小企業家同友会の有志が、児童養護施設で暮らす中高生を自らの職場に受け入れ

(夏休み・春休みの一定期間)、職業体験実習を通して社会へ出る準備の手助けを行って

います。また、実習に加えて、定期的に施設を訪問し交流する機会も設けています。子ど

もたちが施設職員以外の地域の大人と人間関係を結ぶことで、子どもたちの育ちや退所し

た後の生活を見守っていこうと取り組んでいます。

※京都府立大学との共同プロジェクトです。

http://www.nhk.or.jp/heart-net/tv/calendar/2014-07/30.html 2015年 3月 12日閲覧

久保純子アナと電話で話している前川さん

実習体験報告会の一場面

(上の 2枚の写真も、これ以降登場する写真もー啓発会議のものを除きーすべて楠本貞愛さんのフェイスブックに載っているものを活用させていただきました。啓発会議の司会・報告者・会場の写真は全て映像に関心のある迦陵園のひとりの若者が撮影したものです。)

Page 13: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

③ NHK京都による TV番組「特集・児童養護施設の子どもたちに生きる力を」

NHK京都が製作した表記の報道番組は、「京いちにち・ニュース 610」(京都ローカル、

2014年 10月 21日)および「ウィークエンド関西」(関西地区限定)に続き、2014年 11

月4日には「おはよう日本」において「児童養護施設施設:子どもたちに将来の夢を」と

いうテーマの特集で、全国放映されました。

NHKによる地域・全国放送で啓発が進む

ケーキ店で実習体験した迦陵園の女子高生

④ ブックレット第2号の公刊と配布

ブックレット第2号

2014年度

ブックレット第1号

2013年度

Page 14: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

⑤ その他の啓発素材となった刊行物など ⅰ 楠本貞愛さんのフェイスブックを通じてのプロジェクトの啓発

これは本プロジェクトの言いだしっぺの一人である楠本さんが公開している

フェイスブックで、プロジェクトの進展を逐一フォローアップしてくれてお

り、頼もしい啓発媒体であり、報告書の PDF版もアップされており、誰でも

アクセスでき、読めるようになっている。貴重な現代的啓発媒体の活用!一

度閲覧する価値あり。アドレスは以下の通り。

https://ja-jp.facebook.com/pages/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E7%A4%BE%E4%BC%9

A%E7%9A%84%E5%85%B1%E5%90%8C%E8%A6%AA%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%

82%A7%E3%82%AF%E3%83%88/350445578420650

ⅱ「同友京都」270 号 京都中小企業家同友会 2014年 11 月 15 日

Page 15: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

ⅲ 東本願寺系列の雑誌『同朋』(2015 年4月1日号 桜風舎)に

掲載された記事

Page 16: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

(5)2014年度における活動の成果

京都社会的共同親プロジェクトの第2年目の成果は、以下の 4点あげられよう。

(1) 京都社会的共同親プロジェクトの支援対象としている社会的養護でくらす若者たち

への就労準備支援実習の契機をもたらした京都中小企業同友会・前川順氏の講話と第

二回府民啓発会議(キャンッパスプラザ)での実習体験者と実習担当職員の報告がブ

ックレット第2号として公刊され、ブックレット第 1号とともに、活動の起源や当事

者による活動評価をわかりやすく解説するツールが充実してきている。2000部印刷し、

約千冊配布した。(2) 京都社会的共同親プロジェクトの第2回啓発集会がキャンパ

スププラザ京都を会場に開催され、約百名の各方面からの参加者を得て成功し、府下

の関係者・市民に社会的養護でくらす若者たちへの就労準備支援実習という社会貢献

活動への認識が昨年いじょうに広まった。なお、この会議は NKH京都の取材チームに

よって最初から終りまで記録され、後の補足取材を経て、上記の②NHK 京都による番

組「特集・児童養護施設の子どもたちに生きる力を」として完成され、2014 年 10月

21日に関西圏、2014年 11月 4日に全国放送された。特に NHK京都放送局の協力が群

を抜いており、ある若者は実習体験をさせてもらい、かつ写真撮影の趣味を生かした

アルバイトを行わせてもらったりしている。

(3)府立桃山学園だけであった参加・協働施設に民間・社会福祉法人迦陵園が加わり、両

園において子ども・若者を対象とする就労準備支援実習が実施されるようになり、実

習を希望する子ども・若者の数が増加し、2年間で参加した子どもは延べ45名(2

014年9月末時点)に達した。

(4) 児童養護施設施設のみならず、今年度はファミリーホーム からの要請があり、そこ

で暮らす子どもの就労準備支援実習を実施できた。里親からの要請はまだないが今後

起こる可能性は予測できないが、里親委託の有効性を補足する潜在的可能性は少なく

ない。

(5) 中高生を対象に構想され、実際の就労準備支援実習を実施してきたが、両園において、

実習体験した中高生の情報に接した小学生が同じような実習体験を希望してきており、

すでに延べ4名が実習を行っているが、これは 18歳に近い社会的自立をひかえている

若者などとは違った効果をもたらす実践となる潜在的可能性のある事態であり、今後

も積極的に推進すべきであろう。

Page 17: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2
Page 18: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

Ⅲ 第2回京都社会的共同親プロジェクト・啓発集会

みんなで拓こう 子どもの未来の報告

① 2014 年 10 月 15日 14:00-17:00 (キャンパスプラザ京都)

京都社会的共同親プロジェクト第2回啓発集会の記録

みんなで拓こう子どもの未来:

夢が持てる若者をひとりでもふたりでも!

集会の次第

「夢が持てる若者を ひとりでもふたりでも!」をテーマに、社会的養護下で育つ子ども

たちの自立支援のあり方についてみんなで一緒に考える会です。

プログラム

司会者挨拶 下神波奈さん(京都府立大学公共政策学部 4回生・津崎ゼミ)

1 挨拶 楠本貞愛さん(きたやま南山/京都中小企業家同友会)

2 DVD上映 NHKハートネット TV「児童養護施設出身者 過酷な現実」短縮版放映

3 報告1 児童養護施設卒園生(プロジェクト・/実習経験者)

4 報告2 澤亮太さん(迦陵園児童指導員・プロジェクト担当)

Page 19: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

5 報告3 前川順さん(ジュンブライダル/京都中小企業家同友会)

6 質疑応答 報告その他について意見交換・質疑

7 まとめ 津崎哲雄(京都府立大学/京都社会的共同親プロジェクト代表)

○司会者・下神波奈さんの挨拶と進行の説明

機器の不具合により開始が遅れて申し訳ありません。皆様、本日は

お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。只今より第 2回

「京都社会的共同親プロジェクト」啓発集会を開始致します。私は京

都府立大学の津崎先生のゼミ生で本日、司会を務めさせていただきま

す。至らぬところは多々あるとは思いますがよろしくお願いします。

本日は京都中小企業家同友会による就労体験実習の体験者、子どもを

送り出す施設、受け入れる企業家の 3者の報告を中心に進めてまいります。最後の方に質

疑応答の時間を設けておりますので、多くの質問、コメントが頂ければ幸いです。なお会

場の皆様には携帯電話はお切りいただくか、マナーモードに設定してくださるようお願い

します。本日の撮影は当方に撮影者がおりますので、ご遠慮願います。

でははじめに、きたやま南山の社長で養育里親をされている楠本貞愛さんより開会の挨

拶です。楠本さん、お願いします。

○挨拶・楠本貞愛さん

こんにちは。昨年は第1回「京都社会的共同親プロジェクト」を京都府立大学で開催さ

せていただき、私たちが取り組もうとしていることをたくさんの方に知っていただくこと

を目的にお集まりいただきました。あれから1年、今回は、私たちの取り組んできたこと

を皆様にご報告できる会が、このような形でできますことを、関係者の皆様に心から感謝

申し上げます。

社会との関わりが極端に薄い児童養護施設の子ども達と長年関わってこられた前川順さ

ん(ジュンブライダル社長)は、府立桃山学園の子どもたちのために七五三の晴れ着を着

せて記念写真を撮るというボランティアを続けてこられたのですが、前川さんは、これだ

けで本当に子どもたちのためになっているのか、もっと必要なことは別にあるのではない

かと疑問を持たれ、京都中小企業家同友会の仲間に呼びかけて、子どもたちのため、就労

支援につながる職業体験実習をさせようと、踏み出されました。

この職業体験実習は、子どもたちが社会には色々な仕事があるということや、大人たち

Page 20: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

が真剣に生きている姿を現場で学ぶという貴重な体験を積むだけでなく、毎月1回同友会

のおっちゃん・おばちゃんたちと親しく対話し、思いを語って befriendlyな信頼関係をつ

くるという活動です。

前川さんの熱い思いと、そこに賭けた府立桃山学園の当時の施設長や担当職員の勇気あ

る一歩が、私たち同友会の仲間を動かし,子どもたちとの信頼を育み、子どもたちにも一

歩を踏み出す勇気を与えました。そして、左京区の児童養護施設「迦陵園」の皆様にもあ

とに続く勇気を与え、現在、2施設の子どもたちが、同友会の仲間たちとの絆をつくり、

就労体験実習をスタートさせております。

「このままで良いのだろうか、もっとできることがあるのではないだろうか」という、

前川さんの思いから始まった私たちの活動は、子どもたちだけでなく、ここに関わる大人

たちをも変えていきました。

思いもよらない大きな成果をもたらした、そんな報告を、今年社会人になった桃山学園

の卒園生の体験談も含め、お聞きください。

真剣に実習経験者・佐藤さんの報告に聴き入る前川さん・楠本さん、参加者のみなさん

(報告1)

○児童養護施設卒園生・佐藤さん 皆さんこんにちは。桃山学園を卒園したサトウと申し

ます。こんなに大勢の人の前で話すこともそうそうないので、とても今、緊張しています。

お聞き苦しいところはたくさんあるかもしれないのですが、最後までよろしくお願いいた

します。

Page 21: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

私は2年前、初めての第1回目の就労体験に参加させていた

だきました。初めてのことだったので、職員さんも手探りだっ

たと思いますが、「どうだろう」と誘われたときに、ただおもし

ろそうなことだなと思い、参加をすることに決めました。

体験する職種を決める際に、将来は介護の仕事がしたいと思

っていたのですが、自分の知らない仕事、どんな仕事があるの

かっていうことに興味があり、知らない仕事をすることでさま

ざまな体験ができると思い、前川さんたちとさまざまな相談を

し、1回目の体験では自分がしたことで喜んでもらえるような仕事がしてみたいと思い、

接客業を選びました。

それまでバイトもしたことがなかったので、どのように体験で動いてよいのかわからず、

とても戸惑ったのですが、実習体験中とても優しく、さまざまなことを教えていただきま

した。

ですが、私が体験実習中に、子ども用のコップを手が滑って落としてしまい、内心「あ

っ、どうしよう。やってしまった」ととてもあせりました。もちろん報告をして、片付け

までさせていただいたのですが、その後はやはりコップを落とさないようにとても気を付

けて実習に挑みました。最後の振り返りを行ったときにオーナーの方から「気遣いが大事

だよ」ということを教わりました。

第2回目の体験では、シールを製造している工場に行くことになりました。2回目の体

験では特に職種を希望せず、今までに体験したことのない職種にチャレンジしてみたいと

いう希望を出し、シール工場のほうに体験に行かせていただくことになりました。

シールを作っている工場に行くということは、シールをどのように作っているかという

ことを今まであんまり深く考えたことがなく、どのように作られているかなどあんまり知

らなかったので、ここからできた商品の検品や包装、そこからさらに納品するところまで

一緒に行かせていただいたり、とてもさまざまな体験をさせていただいて、普段何気なく

使っているものでも、やはりそういう仕事があるということを知ることができ、とてもす

ごいことなんだなと思いました。

やはり、世の中には私が知らないだけでいろんなお仕事があって、すごいことだと思い

ました。一度、体験に遅刻してしまったこともありましたが、何度失敗してもやり直せる

というお話を、そのシール工場の社長さんからしていただきました。

今現在は桃山学園を卒園して、中学校のころから希望していた介護の仕事についていま

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す。介護をしたいと思ったきっかけは、校外学習で介護のデイサービスに行かせていただ

くという体験から、もともとお年寄りが好きという理由もあったのですが、もっとさまざ

まな、もっとお年寄りに関わっていける仕事がしたいと思い、高校もそのような高校に通

い、今現在、介護の仕事に就くことができています。

働き始めて、どのように先輩や利用者の方とコミュニケーションをとってよいのかがわ

からず、とても困ることもあったのですが、今はやはり少しずつ慣れて、お話させていた

だいたりしています。

仕事ももちろん覚えることがたくさんあって、人によって違ったりするので大変なので

すが、やはりそこはケアをして喜んでいただけるという点につきるかと思います。

やはり悩み事など、自分の中では解決できないことなどあるのですが、そのようなこと

は今もときどき桃山学園のほうに寄らせていただき、職員の方や中小企業家同友会の方た

ちに相談し、解決していければいいかなと思っています。

今年の夏ごろ、中小企業家同友会の方たちと近況報告を兼ねた交流会をさせていただき

ました。夜からだったのですが、皆さんお忙しい中、たくさんの方が来てくださり、とて

も楽しくって、今まで以上に体験を通す中だけでなく、深く交流できたのではないかと思

っています。

これから桃山学園で中小企業家同友会の方たちと交流や職場体験というのを通して、中

学生だけでなく、小学生なども体験に参加したいと言っていたり、見学をするだけでも自

分の将来就きたい仕事について、見学や体験を通して自分自身で積極的に考えていけるの

ではないかというふうに私は思います。

体験を通して、自分の目で見て、体験したことによって、自分の将来について考えられ

ると思うので、とても良いことだと思います。

前にハートネットTVのほうで言われていたことで、働くということに希望が持てない

というふうに思っている子はやっぱり多いと思うのですが、それは前の私自身にも少し当

てはまっており、働くということを積極的に考えられていないということもありました。

しかし、今働くことにより、お給料が発生しているということを考えると、どこか遠い

ところへ出かけたり、趣味にお金を使ったり、なにか楽しいことをすることなど、たくさ

んの新しい選択肢が生まれて、どのように自分がなりたいのかということを考え、どのよ

うな仕事につきたいのかということを真剣に考え始め、その仕事に就けたとき、やっぱり

難しいことや挫折することもあると思うのですが、それを乗り越えるととても楽しくなる

と思うので、後輩たちやこれからの私自身の将来に向けてとてもいいことだと思うのです。

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これから後輩たちも、何か自分自身の楽しみ、趣味などを持ち、これからもいろんなこ

とに挑戦してほしいと思っています。

ご清聴ありがとうございました。

(報告2)

○澤亮太さん(迦陵園児童指導員・プロジェクト担当) 皆さん、

こんにちは。まず初めになんですけども、訂正と言いますか、こち

らの迦陵園と書いてあるプリントがあるんですけれども、こちら延

べの人数が書かれておりますプリントに、中学 1年生の女の子を一

人入れるのを忘れておりましたので、人数が全部プラス 1となりま

すのでご確認をお願いします。

私は京都の左京区にあります迦陵園という児童養護施設で児童指

導員をしております澤と言います。今年で 3年目のまだまだ新人です。日々、いろいろな

仕事に追われてはおりますが楽しく毎日を過ごさせて頂いています。大勢の方を前にして

お話をするのは初めての経験ですので、聞き取りにくいところがあると思いますがご了承

下さい。

私からは、大きく分けてふたつの事についてお話させて頂きます。ひとつ目は迦陵園で

の社会的共同親プロジェクトの取り組みについてです。二つ目は私自身、なぜこの仕事を

選んだのかということについて少しお話させて頂きますのでお付き合い下さい。

今回の本題である社会的共同親プロジェクトについてお話しする前に、まず児童養護施

設とはどういう所なのか、児童指導員とはどんな仕事をしているのか、という事を簡単に

ではありますが、ご説明したいと思います。

児童養護施設とは、保護者が様々な理由で子どもを養うのが難しくなった時に児童相談

所という最近テレビなどでよく耳にする機会が増えたかと思いますが主に家庭の児童に関

する相談受付やその家族支援を行っている所です。その児童相談所が児童をいったん家庭

から離した方が良いと判断した時に子どもをお預かりする所が児童養護施設です。昔の言

葉で言うと孤児院に相当します。施設でお預かりする理由は養育するのが困難な場合、家

庭の不仲や児童の問題行動が著しい時、経済的理由、テレビなどでよく言われている虐待

などそれぞれの家庭によって多種多様にあります。お預かりする期間は児童それぞれの家

庭状況によって変わってきますが、早ければ数ヶ月で退所という事もありますし、長い期

間になると幼児さん2才の頃から施設を出なくてはいけない年齢の高校を卒業する18才ま

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での 15年もの間、施設で生活を送る児童もいます。生活様式はそれぞれの施設によって少

人数から大人数まで様々な形態がありますが、基本的に衣食住といった家での生活を想像

して頂いたら分かりやすいかと思います。施設は子どもにとって家のかわりです。そこで

3食ご飯も食べますし、幼稚園や学校・塾へも通えます。アルバイトに行っている児童も

居り、夜になるとそれぞれの部屋で眠りにつきます。そういった一般的と言われている日

常生活を複数人が一つ屋根の下で送っているところを児童養護施設と言います。そして、

そこで保育士や児童指導員さらに細かく言いますと、調理師や栄養士・事務員や心理療法

士など多くの人が保護者代わりとして勤務しています。

では、本題に入っていきたいと思います。この社会的共同親プロジェクトが桃山学園さ

んで行われていると聞き、施設長と一緒にどのような取り組みをしているのか一度、見て

みようと思い見学へ行かせて頂きました。見学へ行く前、この話を聞いた時の印象としま

しては、中学校で行うチャレンジ体験というものを想像しておりました。これは私が中学

高時代におこなったことがあるものなのですけれども地元の会社へ行き、お仕事を数日間

体験させて頂くというものでした。桃山学園さんで見学させて頂き感じた事はまず子ども

が主役だという事です。ひとつのテーブルに各会社の方が 2・3人座りそこに子どもがひと

り入るという形で面談がおこなわれていました。このプロジェクトは子どもとざっくばら

んにいろいろな会話をして、最近ハマっていることはあるのか・どういう事に興味がある

のか・やってみたいお仕事はあるのかなど他愛もない話を入れながら少しずつ子どもの興

味のあるモノを引き出していきます。そして、その子のチャレンジしてみたい事が見つか

ると実習という形で体験させて貰うので積極性がとても高く、自発的に子どもが行動でき

ているという所がこのプロジェクトの良いところであり、驚いた所でした。その後も何度

か桃山学園さんに足を運ばせて頂き、皆さんのご協力があって今年の 1月に初めて迦陵園

で企業さんと児童との面談を実現することができました。私としましては、面談はまだま

だ先の事だろうと思っていましたので、うちの園で果たして上手く行くのか・児童と企業

さんとの会話がはたして成立するのだろうか、とそんなことばかり考えていました。職員

自身、初めての経験でしたのでどのように準備をしたら良いのか・桃山学園さんの様子を

みさせていただいていたので、段取りは何となくわかりますがその分よけいにより良いも

のにしようと、どうしても比べてしまい右往左往していました。

そんな中で第一回目が始まったのですが児童の方はと言いますと、始まった直後は誰や

このおじちゃん・おばあちゃんはといった顔をして下を向いたり目を合わせなかったりと、

とても警戒しているようで、質問をされてもボソッと返事する程度でした。いきなり初対

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面の人 2・3人に囲まれたら一般の子どもでも緊張してはなしにくくなると思います。まし

てや、施設で暮らしている児童はそれぞれに悩みやトラウマを持っていたり人との距離感

が掴みにくかったりとコミュニケーション能力を十分に養う環境で暮らせていなかったと

いう面を少なからず持っている、ということを頭の隅に置いて頂けたらと思います。私だ

けかもしれませんが、思春期の頃は周りの大人と距離を置きたいと思っていましたが、大

人に不信感を抱いている点で考えてみると、児童にとってはそれが長期に渡って続いてい

る感じだと思います。それでも 10分ほど話をしていると企業さんの話術の上手さも勿論あ

るのですが、相手が施設職員でなく第三者である事、話をしているうちにこの人は自分の

味方なのだという事を少しずつ感じ始め会話が徐々に弾んでいきました。中にはその場に

居るだけで精一杯の児童も居りますが、その会話の場に出てこられたということだけでも

その子にとってはとても大きな一歩で、園の児童とひとくくりにするのではなく個人、一

人の子どもと大切に向き合っていると感じられることこそが児童にとって大切な事なのだ

と感じました。

迦陵園が行かせてもらった実習先ですけれども、見て頂いた通りいろんな職種のところ

へ行かせてもらっています。書き漏れていましたが、中学一年生の女の子ですけども、こ

の子は普段なかなか学校に行きにくい児童でして毎日を園の中で過ごしています。この実

習の時は工務店さんに行かせてもらったんですけれども、ちゃんと行くと言って楽しみに

しながら工務店さんの方へ見学、中学 1年生はまだ小さいということで見学という形で現

場を見させてもらい、中学生ながらもいろいろ感じたことがあったようです。

平成26年の夏に迦陵園では初めて小学校6年生の男の子が農家さんのところに宿泊体験

として行かせて頂きました。この児童は迦陵園に幼児さんの頃からずっと居りまして今ま

で施設で生活しています。ですので、迦陵園の外で泊まった経験があまりなく、一般家庭

のお家に泊まるのは初めての経験でした。夜はちょっと遅くまでテレビを見たりして、本

当にいい体験だったと本人は言っておりました。

それから迦陵園としての面談は今年の 9月までに 5回行わせて頂き、実習で体験した事

を発表する報告会は、迦陵園で先月おこなった報告会を合わせて 2回目とまだまだ動きは

じめた所です。報告会とは児童が希望した仕事先で実習をおこなった後、働く事の楽しみ

や大変さ・想像と実際におこなった時の違いなど様々な事を経験し考えた事を自分の口か

ら発表するという児童にとっては一番の見せ場であり、とても緊張する場面でもあります。

しかし、自分の口から発表するという事がとても大切で、そうすることによって実習で学

んだ事の振り返りを行うことができ、一連のこの動きに対してのけじめをつける事で達成

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感を得られ、自己肯定感を高める事ができます。周りの人に褒めてもらう・認めてもらう

という行為が児童の達成感、自分はやればできるのだという自分の事を大切に思う心を育

てていきます。そうして獲得した経験を今後の将来を考える時に、子ども自身が叶えたい

夢の選択肢の一部として頭の隅にでも刻まれていればこれほど素晴らしいものはないと思

います。

この断幕も、小学校 6年生の女の子に書いてもらいました。習字を習っていた児童で一

緒にではありますが完成することができました。第二回の「第」のところが左側にちょっ

とたれていると思うのですけども、そのことによって後半やる気がなくなってしまいまし

たが、一生懸命頑張ってくれておりました。

実習をさせて頂く上でなかなか上手く行かない場面もやはりあります。職員側・児童側

それぞれにあると思います。しかし、それでもプロジェクトをおこなう前とおこなった後

ではどちらがよかったかと問われると迦陵園の職員全員がやって良かったと自信を持って

答えられます。住んでいる場所が施設である以上、自己決定できる範囲はどうしても限ら

れてきます。一般的な家庭と比べると、様々な面で制限があることは否めません。集団生

活の中で児童の命や安全・衣食住を確保するためにはどうしてもそういったことが必要な

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場面も出てきます。自らの意思で体験する場所・会社・職業を選ばせて頂き、自分で決め

た所へ実習へ行かせて頂く。自分でやろうやろうと決めた事は、普段ならあまり長続きし

にくい児童であっても実習は最後まで行うことができた子もおります。このプロジェクト

の主役はあくまで児童です。児童が企業さんに対して失礼なことをしないだろうかと思っ

てしまい、職員の口がすっぱくなりがちになりそうですが、児童が自分でやると決めたこ

とです。私たちは児童が実習に向かいやすいようにそっと後押しをする。実習から帰って

来たらどんな感じだったのか聞いてみる。そうしたちょっとした支えで児童みずから決め

た事をやりきろうと思える事ができます。前に進もうとしている想いを私たち職員も受け

止めながら、これからもプロジェクトを長い目で見ていき、継続していけたらと思ってお

ります。

長くなりましたが最後に私自身についてのお話を少しさせて頂きます。私は今月の末で

26才を迎えますが、中学 1年生から高校を卒業するまでの 6年間、施設に入所していた時

期がありました。期間が長い児童ですと十数年入所している児童もいますので、期間とし

てはそんなに長くはない年数ですが施設で暮らしていました。施設職員は一年目に新人研

修というものがありまして、各施設の新人が集まって研修を行うという研修会があります。

その中で他施設の先生方にも数名ではありましたが、施設出身者が居られました。同じよ

うな境遇で施設職員を目指している方が居られ、実際にそういう方がたくさんいるのだと

改めて実感することができました。私の場合、生活していた施設も迦陵園ですし働かして

頂いているのも迦陵園ということになります。私自身、足りないながらも自分なりに考え

て迦陵園に就職しようと決めました。

私が入所していた頃に施設に居た児童で、現在も引き続き在園している児童も数人おり

ます。しかし、私が入所していた時はその児童たちは幼児さんや小学校低学年でしたので、

就職してから覚えているか聞いてみましたが覚えていないみたいでした。

福祉学科の大学で、社会福祉士という資格を取る為には、実際に施設を学ぶという事で

学校から色々な福祉施設へ一ヶ所だけ大学が決めた施設へ約 1カ月、勉強のいっかんとし

て実習に行きます。僕の場合はずっと泊まり込みで実習をおこないました。実習先は迦陵

園とは違うところを選ばせていただきました。実習生としてではありますがその時、初め

て養護される側からする側へとなり施設職員の大変さを実習生ながらもひしひしと感じま

した。

そこで実習させて頂いた事が僕の中では今までで一番と言っていいくらい大切なものと

なり、それからご縁もありそこの施設で非常勤として働いていました。実習生といっても

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そこの施設はすうじゅうにんと実習生が来ておりまして、その状況の中から私を非常勤と

して選んで頂いた事もスゴく大きかったですし、どんな相談にも気楽に乗って頂いていま

したので今でもとても大切に思っております。そういった事もあり、この仕事を正規の職

員として頑張っていこうと決めることができました。

私の場合、運よく奨学金を借りることができましたので四年制大学に通うことができま

した。大学へ通えることで将来の選択肢が大きく広がると思いますし何より卒園後、色々

な心境の変化を自分自身で整理することのできるとても大切な時間を持つことができます。

もしもこの期間なしに卒園後にいきなり就職していたとしたら、おそらく仕事を続けられ

なかったと思います。大学生時代はアルバイトを 3つ掛け持ちし、奨学金の金額を少し多

めに設定してそこからも少し生活費にあてていました。さらに私の場合、親は違うところ

に住んでいましたが、住む家はありましたので家賃が発生せず税金を払うだけで済みまし

た。家がある・奨学金を借りられた、この2つが揃うというとても好条件な状況があった

からこそ大学を卒業して就職に向かうことができました。一般的な家庭ですとこのふたつ

は比較的、簡単に揃えることができると思います。しかし、施設退所者はそう簡単にはい

きません。家庭状況が良くないから施設入所になった訳ですから家を確保できるというケ

ースは珍しいです。卒園後はアパートかマンションを借りることが多く、家賃が一番の負

担になってきます。進学を考える際も一番、頭を抱えることが学費をどう支払うのかとい

うことです。高校生時代にアルバイトを頑張り、お金を貯めたとしても新生活が始まる際

には、かなりの金額が必要となってきます。私も高校生の時は2つのアルバイトを、多い

時ですと週6回はおこなっていました。そのため、進路を選ぶ段階で進学を断念せざるを

得ない児童もでてきます。学費を払うということはものすごくハードルが高いもので、そ

れを継続するためにはその子のやる気はもちろんのことですが、生活面・金銭面に少しで

も余裕を持てるという事が必要なのだと私自身感じました。少し贅沢に聞こえるかもしれ

ませんが、余裕を持つという事は全ての行動にゆとりができ、うまくいかない出来事があ

っても被害が深刻化せず柔軟に対応できるようになります。しかし、余裕を持って生活が

できるということはかなり難しい条件で、ほとんどの方はぎりぎりのラインで毎日を精一

杯過ごしています。順調に生活がすすめばいいのですが、何かつまずいてしまうとせっか

く進学して新しい生活を始めることができたのに途中で学校をやめてしまうという良くな

い結果になることも少なくありません。私の知っている範囲だけでも仕事を辞めた・学校

を退学したという卒園生を多く聞きます。もちろん、進学だけが全てではありませんが、

私にとって大学に行けたという事は大きなメリットでありました。楽しくないことばかり

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が並んでしまっていますが、決して悪いことばかりではなく私にとってはとても楽しい大

学生生活でした。

それから迦陵園での就職が決まり、勤めてすぐの頃はやはりもともと住んでいた場所で

したので、仕事場という自覚が足りなかったと思います。所々キレイにされているのでそ

ういった感情は普段はありませんが、お手洗いだけは形も全て僕が入所していた頃と同じ

ですので懐かしいなぁ~と思いながら用を足しておりました。しかし、そんな感覚も半年

ぐらいすれば薄れていき一年が経とうとした時には完全に仕事場として割り切れるように

なっていました。

正直な所、自分の感情の変化や卒園後に必要なものなどは自分の経験から少なからずわ

かる面もありますが、子どもから職員になった経験を生かしてどのように児童への支援を

工夫しているかは私自身考えても答えがなかなか浮かんできません。子どもの頃に悩んで

いた事は、職員さんが常に考えておられる事でもありましたし、施設と学校近辺しか知ら

ないので考える力が弱く視野もとても狭くなっていました。そんな視野が狭い状態で施設

を卒園してたった一人で暮らし始めましたので、最初は小さな事でも苦労しました。そん

な中でも今だからこそ当時を振り返ってみて、人との繋がりこそが大切なのだと感じてお

ります。ひとつひとつの関わりはとても小さいものかもしれません。しかし、そういった

人達と数人・数十人と関わりを持つようになればこれほど強い味方は他にはいません。ど

んな些細なことでもその子どもを心配してくれる・時には相談相手になってくれる・一緒

にご飯を食べに行ってくれる、こういったひとつひとつの関わりがその子どもを作ってい

るように思えます。関係を切るのは簡単です、連絡をしなければ児童から連絡があること

はあまりありません。その児童の意識が高くない限り連絡を取ろうとしない・また取りた

くてもあと一歩が出ないからです。生活が苦しい・悩み事があると助けてのサインを出せ

る卒園生は大丈夫です。一番気にかけないといけないのは、助けて欲しいのに助けの求め

方がわからず、ずっと一人で考え込んだり自分なんてどうなってもいいとやけになってし

まうタイプの子です。卒園後の生活まで職員もなかなか手がまわらないのが現状です。そ

れでも定期的に連絡したり、なるべく多くの相談先を児童に教える事でその先、少しでも

良い方向に将来を持っていけるようになるのではないでしょうか?社会的共同親プロジェ

クトは施設に居るあいだはもちろん、卒園後も縁を切ろうと思っておられる方は一人もい

ません。施設で暮らした期間は人生のほんの一部でしかありません。その何倍もの時間を

生きていかなければならない中で、熱い思いを持った方々と一生の関わりができるという

ことはその子にとって財産であり、かけがえのない存在になるものだと思っております。

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そういった方と関われることで、多くの時間を生きなければならないという考え方から、

多くの時間を生きることができるというふうに考え方もきっと変化すると思います。全国

の施設で毎年、多くの児童が施設を卒園します。ひとりの卒園生に熱い思いを持った方が

ひとり以上関わり、社会全体で一緒に歩んでいこうというぐらいこのプロジェクトが広が

っていくことを望んでいます。

長い間、お話しを聞いて頂きありがとうございました。以上で終わります。

(報告3)

○前川順さん ジュンブライダルのおっちゃんでございます。

NHKってひどいとこで、生放送で、リハーサルの質問と二つとも違う質問をされたん

ですね。今度、会ったらなんかちょっとお返ししときたいなという気持ちでおります。

きょうは本当にたくさんの方にお集まりいただきまして、ありがとうございました。

きょうもNHK京都放送局がカメラを回していただいております。後で、「私や、僕は映

してもらったら具合悪い」という方がおられましたらお申し出ください。編集していただ

けると思いますので、よろしくお願いいたします。

まず、きょうは佐藤さん、ナイスでした。(拍手)

1週間前の水曜日にリハーサルをしたのですが、そのときはものすごい状態でございま

して、きょう私はこの報告で彼女をどう慰めるスピーチをするかということで、すごく考

えてたんですけども、その計画を台無しにしてくれましたね、ありがとうございました。

それから澤さんも、ご自身の体験を踏まえて、今後にかける、その職業にかける意気込

みを熱く語っていただきました。こういう人がいると、非常に先が楽しみだなと思います。

私、常々澤さんに言ってるんです。あなたが迦陵園最後の園長になっていただきたい。

あなたが辞める頃には、社会的養護の必要がなくなる世の中にしていきましょうと。その

代わり施設を老人ホームにして、私を入れください。よろしくお願いしたいと思います。

冗談ばっかり言ってますけども、ちょっとこれは本心ですね。子供たちが家庭で暮らせ

る社会にならなければなりません。

この就労体験実習が始まったのは、実はきょうもお越しですけど、桃山学園の前伊藤園

長の進退をかけた決断だったと思うんです。子どもたちが外へ行って、何をするかわから

ない。もしかしたら、私は園長と歳が同じぐらいだと思うのですが、こんなことは今まで

しゃべったことはありませんが、恐らく心の中に辞表を携えての決断だったと思います。

また今回始まった迦陵園さんの施設長も同じような決断をされて、何かあったら責任を取

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るのはやはりトップだと。トップの決断というのがやはり、世の中を変える。トップの決

断がその現場を変えるというのは、これは同友会では当たり前のことなんですけども、施

設でもそうだったかなと思います。この勇気ある決断が、子どもさんにも伝わって、実習

に参加し、そしてその決断が同友会の会員にも伝わって、我々を本気にさせたと言うこと

をこの場を借りまして、改めて皆さんにお伝えしたいと思います。本当に伊藤さん、あり

がとうございました。迦遼園の松浦園長もよろしくお願いします。

もう一つは、私たちは子どもさんの潜在的な力というのを信じるべきだとも思います。

先ほど、佐藤さんからの報告がありましたしテレビでもやっていましたけども、食事会を

この7月に行いました。そのときに桃山学園の現溝川園長がお越しでしたので、その最後

の閉めのあいさつをお願いしたんですけれども、「子供たちの力を信じて頑張ります。」と

力強く宣言されました。

このような園長がおられたら、大丈夫だと思うんです。施設って、親代わりじゃないで

すか。親が子どもを信じなかったら、誰が信じるんですか、ということをいつも思ってい

るのですが、溝川園長はそれを宣言していただきました。当日、いちばん大きな拍手があ

がりました。とにかくうれしいことだと思います。

最近、よくこのように児童養護施設と中小企業家同友会とのお話をさせていただく機会

があります。そんな時、なぜ同友会さんはこんなことができるんですかということを聞か

れるんです。他にもいろんな経済団体とか組合とかがあると思うんですけども、よく聞か

れます。私も聞かれたときに、答えに詰まってしまいます。なぜでしょう。

私たち中小企業家同友会の会員は人間尊重の経営というのを行うように、いつも学んで

います。例えば社長さんと新入社員さんとか、例えば専務さんと平社員。親と子とか、人

間というのはもちろん、年齢であったり、役割であったり、職場でも何処でも縦の関係と

いうのが必ずありますし、雇用関係、契約関係というのはありますけども、同友会という

のは、その基本はあくまでも、一人一人が尊重すべき一人の個人対個人だと、平等だとい

うこと、この根幹の上に人間関係を構築していこうということを努力している団体です。

出来上がってるとは言えないかもしれませんけれども、常々そういうふうなことを努力し

ていこうとしている団体です。

これは耳にタコができるほど聞いてますから、最初に施設に行ったときは、中小企業家

同友会と施設にいる子どもたちという関係がありました。しかし回数を重ねていきますと、

次第にフラットになってきていることを実感します。これは私だけではなく、同友会のメ

ンバーで施設を常に訪れているメンバーは、同じことを実感していると思います。ですか

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ら子どもさんたちも、私たちを受け入れてくれていると思います。「何だろう、この人、偉

そうに言うな」とか、「上から目線だな」とかいうのであれば、私たちが訪問してもあまり

出てきてくれないと思うんです。でも、面談する子どもさんの人数が少しづつ増えてきて

いるというのは、まあまあ受け入れられているのかなあと思います。

子どもさん一人と同友会の会員が2~3人で、テーブルを挟んで会話するんですけども、

当初は会話が成り立たないのではないかと思ったんです。何をしゃべっていいかわからな

い。でも、まぁやってみなければしょうがないということでやってみたら意外と話が進ん

で、所定の 20分をオーバーして、いつも会話を止められるぐらいです、止めに入るのは桃

山学園ではん西山さん。そな感じで話は進んでおります。なんかこう、支援してあげよう

というような気持ちじゃないですよね。一緒に幸せになっていきたいなということをいつ

も思ってますから、長いこと続いているんじゃないかなと思います。

企業家というのは費用対効果を常に考える生き物になっておりますので、100 の仕入れ

で 110の売上、150の売上。100の労力で 110、150を目指すように体ができています。た

だし、子どもさんたちとの関係においては、100 の労力で一つの成果があったら、もうび

っくりするくらいうれしいですね。こんなうれしいことはない。だから私たちは新鮮なの

かもしれないですね。100 の労力を使ってゼロでも別にめげないです。明日また 100 を目

指したらいい、いや、1目指したらいい。 100 なんか返ってきたら、嬉しすぎて、もう泡

吹いて死んでしまうかもしれないですね、嬉しすぎて。それぐらいの気持ちでやっており

ます。

今年の夏休みの実習で、一つだけエピソードを披露したいと思います。 我々の仲間で

最初からかかわってくださっている、お掃除の会社の社長で眞野さんという方がおられる

んです。その人が休んだら、皆、その人の体のことを心配するぐらいに来てくださってる

んです。

例えば、ケーキ屋さんとか、コンビニとか、カフェ等というと、子どもたちは「わあ、

行きたい」と言いますけれど、掃除のとこに体験に行くかと言ったら、誰も手を上げない

んです。1回目も手を上げない。2回目も手を上げない。3回目も手を上げない。4回目

も手を上げない。それで5回目だったんですけども、お掃除を体験したいというよりも、

眞野さんのところででいっしょに仕事をしてみたいということに変わったみたいです。

そこで体験をした中学3年の男子がいて、その男子は読書が大好きでお小遣いのほとん

どを書籍に充てて、年に数回支給されている、お小遣いとは別の衣服費ですか、それもど

うも本に充ててるみたいです。どうも服は増えていない。それぐらい本が好きな子が、お

Page 33: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

掃除の会社に行きました。夏の暑いときですから、きっとそこのスタッフの人が何回もお

茶とかジュースとかをごちそうしてくれたみたいです。それはしますわね、暑いなか中学

生がたった一人で来てるんですから。

体験発表会が終わった後に、こっそりその中学生がごちそうになったお礼と言ってポッ

プコーンを眞野さんに渡していたんですね。ごちそうしてくれた社員の人にお返しという

ことで。先ほど言いましたように、お小遣いがない子が、すごくおいしいジュースだった

と思うし、一生忘れられないジュースだったと思うし。後日、眞野さんはメールでそのこ

とを知らせてくれたんです。「僕はポップコーン一つで何でもします」銭、金の話じゃない

ですね。気持ちが伝わるということなんです。

ここまで話しすれば、何かすごくいいようにいってる、何も問題がないみたいに聞こえ

ますよね。ところが、私が今日、この席に立ったのは、反省点、問題点を報告しなければ

ならない、と考えたからです。本来、今回は実習を受けられた社長さんにもっとお話をし

てもらおうということだったんですけども、問題点がいろいろとございまして、それを整

理してお話ししなけれなならない。私に責任があるということでもう一度ここにしゃしゃ

り出てきました。

いちばんの問題点といいますのは、まず私たちは、施設にいる子どもさんにばかり目を

取られて、卒業したお子さんのフォローが全然できてなかったんです。実はあこがれてい

る職業に行った子が、その会社を辞めてしまいました。仕事がつらいとかじゃなしに、人

間関係で少しつまずいて、相談せずに辞めてしまった。今年は佐藤さんを呼んで食事会を

したんですけれども、去年の春先からそういうことをしていれば、もしかしたらその子は

辞めなかったかもしれないなという、その子に申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。今

も謝りたいんですね。何もしてあげられなかった、フォローができなかったことに対して

のお詫びをしたい気持ちでいっぱいです。

実習なんていうのは、よく考えたら、これからずっと続いていく私たちと子どもさんた

ちの長い付き合いの中のほんの序章にすぎないのですね。これを痛切に思いました。

施設の子どもさんは、施設を出ても、私たちとずっと付き合っていく気持ちでいてほし

いなと思います。ありがた迷惑を実感してほしいなという思っています。ですから、その

ことをどういうふうにして、どう拡めていくかいうことに関しましては、まず同友会の会

員の中で、もう少し我々のメンバーを増やしていって、ウマの合うおっちゃん、おばちゃ

んを増やしていきたいと思っています。誰とすごくウマが合うかというのはこれはわかり

ませんから、たとえばあした会うお子さんと、我々のメンバーの一人が、ものすごく意気

Page 34: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

投合するような可能性もあるわけですから、そこを進めていきたいと思います。

それと同友会のメンバーさんによく言われるんですけど、私らは何を支援したらいいの、

どうしたらいいの。例えば、士業(サムライ業)とか、税理士、司法書士それに土地家屋

調査士とか。一般の人でも知らない職業を子どもたちが知ってるわけもなく、その人が土

地家屋調査士とか測量の話をしても、子どもさんはわかるわけもない、そういった人も結

構おられるんです。でもこのまえ同友会の片岡さんとしゃべっていて、一つ明快な答えが

見つかりました。何をしたらいいか。簡単です。自己紹介をするんです。

うどん屋の田中です。それでいいんです。自己紹介する。木工所の山田です。それでい

いんです。

そうすれば、何をしてもらいたいかは、子どもさんが我々の引き出しを上手に開けてく

れます。自分たちがしたいことをちゃんと子どもが探してくれる。ですから企業家の皆さ

んは、施設に行って自己紹介をしていただいたらそれで結構です。何もこういうことをし

てあげようとか、こういうことで力になってあげようなんて、そういう力を入れずに接し

たほうがいいのではないかなと思います。

先ほど上映したテレビの視聴者からのメールで、「一般の主婦に何かできることはないで

しょうか」という質問がありました。これについては企業家ではない一般の主婦の方とか、

あるいは大学の研究機関の方とか、学校の先生とか、何をすればいいか、どうすればいい

か、私には明快な答えを今ここで言える準備はないんですね。この後、5時まではこの会

場を使えますので、もし終わっても、私たちに何ができるかというのを少しお話が個々に

できればいいなと思っています。

これは報告会ではありますけれども、次へつながる一つのたたき台のようなプロジェク

トであってもいいのかなと思います。ですから、一般の方よりも関係者の方のほうがこの

中では多いのかもしれませのでぜひ残っていただいて、今後への課題などを教えていただ

きたいと思います。

時間がまいりましたので、これで終了したいと思います。きょうはどうもありがとうご

ざいました。

(まとめ)

○津崎哲雄さん 皆さんに心よりお礼を申し上げます。昨年、第1回は京都府立大学を

会場にやったものですから、だいぶん僕の授業の学生を動員できまして、120 名ぐらい来

たんですけど。ことしはそんなことを期待できず、授業を受講している学生は1名来てい

Page 35: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

るだけです。しかしながら実質 100名近くの府民や府外からご参集くださりありがとうご

ざいました。

佐藤さんとか澤さんの話を聞いて、いろんな感想があると思うんですけど、やっぱり社

会的養護という家庭で暮らせない若者たちが、どういう気持ちでそういう生活を味わった

か、あるいは実際に施設で暮らしているのか、ということは、いい点も悪い点も、そうい

う子どもたち自身、あるいは施設を離れた、里親から離れたような若者たちに訊けば一番

よくわかるわけですね。ところが日本の場合、そういうところまで行政の実践畑の人たち

が気持ちが追い付いていないことがあります。予算が少ないということもありますし、こ

ういう問題というのは、市民一般には関係ないことだというふうに大概の人は思ってるわ

けですね。きょうもこの会に本当人に一般市民が来て下さるのか不安でしたが、百名ちか

くの方々が来られたので、大喜びです。とはいえ、しょっぱなからテクニカルなエラーが

あってごたごたしてしまい誠に申し訳なかったです。これはもう代表者の失態でございま

す。ほんとに頭を下げお許しを願うばかりです。

京都のこの地域に、きょうは東京からも、三重県伊勢市からも、大津からも奈良県から

も集まってきてくださいました。なにしろ、京都の人だけではないんです。私はこういう

活動は、ひとりの、施設や里親家庭を離れる、あるいは新しい制度であるファミリーホー

ムというような資源を離れるような若者たちが、一人でも二人でも社会的に自立をして納

税者になるということは、これはもうある意味で、現状から言えば奇跡に近いような現実

が存在していることに関わっています。もちろん大成功した人がいるのは知ってます。カ

レー屋の人も知っています。施設を離れた若者が何人も「俺もカレー屋をやりたい」と言

っていたのを何回も耳にしたことがあります。まあそういう方もいるでしょう。外国でも、

施設を出て総理大臣になった人もいます。オーストラリアにはかつて施設出身の総理大臣

がいたことがあります。そういう人もまあ誕生する可能性はあるとは思うんですけど、大

多数の子どもや若者は、このまま放っておいたら、ほんとうに、所得税や地方税を払える

ような意味での社会的に自立した大人になるのは、非常に難しい境遇に陥るのですね。非

常に困難な環境での暮らしが待っている社会に放り出されます。そういう問題がなぜ起こ

るかというと、国が悪いとか行政が悪いって我々も多くの人も言うんですけど、しかし国

民一人一人が、市民一人一人が、府民一人一人が、そういう子どもたちの問題にほとんど

無関心で知らないということが根源にあります。みなさんも知らなかったでしょう。中小

企業家の方々がたくさんこう集まってもらって非常にありがたいんですけど、前川さんが

こういう活動を始めなかったらたぶん誰もこんな現実があったという事実はだれも知らな

Page 36: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

かったでしょう、ね。

そこに僕は京都府下でのこの活動の意義があると思うんです。東京は大企業がたくさん

集まっておりまして、ビデオでありました「ゆずりは」のようなものだけじゃなくて、も

っと専門的な相談機関というものが、東京都が予算を出したり、あるいはいろんな大会社

が社会的貢献で寄付をして成り立っている専門の相談機関がけっこうあります。関西とか

京都でも、そういうものはもちろん欲しいんですよ。もちろん欲しい、それがあってあた

りまえなんですけれども、やはりその基盤としては、やっぱり京都流の、関西流の市民・

府民一人一人が、自分の近くにそういう施設があるのかないのか、自分の家の近くに里親

さんはいるのかいないのか、ファミリーホームはあるのかないのか、あったらそこの子ど

もに声を一声かけてあげようとか、そういうことが実はもっと大事なのです。まあ、その

ような「おっちゃん」、「おばちゃん」としての人間関係を若者と築くことが、このプロジ

ェクトの大切な一面なのですね。もちろん、こうした人間関係はなかなか大変でしょうか

ら、プロジェクトでのビフレンディング(Befriending)、友達になるっていうようなこと

は実際には相当難しいかもしれませんが、、この京都で誕生した新しい市民運動としての社

会的共同親プロジェクトでは、市民の中でも中小企業家の方々はそういう活動に適した立

場にいることがわかりますね。具体的にいえば、施設や里親家庭で暮らす子どもや若者に

社会的自立に備えるための就労体験実習の場を提供するということが可能だと稀有な立場

なんですね。

きょうお配りした資料に書いてろいますが、私が 40年ほど研究していますイギリスのこ

ういう分野では、社会的共同親というような言葉でコーポレイト・ペアレント(Corporate

Parent)と表現しています。この言葉を翻訳したんですけど、この会場に、僕と一緒に 14

年前に『社会的共同親と養護児童』というボブ・ホルマンという人の本を翻訳した華頂大

学の山川宏和さんも来ていますが、日本で初めてそういうことを意味するこの言葉をたぶ

ん我々が発見し確認したと思います。

どういう人が社会的共同親になるかというのは、配布したプリントのダンディー市とい

う自治体の行政資料で説明されています。この間イギリスから独立するのに失敗したスコ

ットランドの有名な自治体なんですけど、そこではどういうふうな立場の市民が社会的共

同親なのかが書かれています。地方議員が社会的共同親の代表なんです。日本ではなかな

か地方議員がそういう意識を持ってくれませんんが。通常はやはり子どもの生活と直接か

かわりのある職業人で、学校の先生とか、あるいは保育士とか、弁護士とか、あるいは医

者とか、公務員とか、そういう人たちが、みんな全員で社会的共同親であり、その一部だ

Page 37: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

ということになります。そしてそういうことに関心のある主婦であるとか、あるいはそう

いう専門的な職業を持ってない一般市民が、やはり社会的共同親としての大多数を占めて

いるということになります。そうした方々には、里親になるとか、養親になるとか、保護

司になるとか・・・という方法もありますけど、やはり施設中心の日本の社会的養護にお

いて子どもたちを支援するというと、直接、間接的にはやはり施設で暮らしている子ども

や施設から離れた若者たちに何らかの形で接触できる立場の「おっちゃん」、「おばちゃん」

的な立場になれるようなきっかけみたいなものは、新しい発想での市民活動ですね。前川

さんみたいな人が、そうですね 100人も存在していたら、恐らく京都府下の施設はずいぶ

んと自立支援についての仕事が楽になると思うんです。それほどこの活動には潜在的可能

性に満ちているともいます。

時間が来ましたので、これ以上演説するわけにはいきません。私は来年京都府立大学を

定年退職しますので、関心のある人は 12月 11日に最終講義が府立大学でありますので、

聴きに来てください、と宣伝しときます。

ほんとうに本日は皆さんありがとうございました。ぜひ、この活動を覚えておいてくだ

さい。中小企業家の方はぜひ一度足を突っ込んでみようと思ってください。一般市民の方、

あるいは施設に勤めている方、澤さんが報告されたように、この活動は子どもたち一人ひ

とりを助けるという側面もありますが、それ以上に施設養護のあり方を変える活動なんで

す。これを経験した施設の職員と、そうじゃない施設の職員は全然考え方が違うようにな

ると思います。ぜひ、施設で働いている方は、わが施設でも実践してみようという気にな

って、本日の情報を持ち帰り施設長さんに勧めてみてください。

さまざまな不手際がありましたけれども、今日はほんとうに集まって下さってありがと

うございました。心より感謝いたします。どうぞこのささやかな、しかし重要な活動を覚

え、支援してくださいますようお願い申し上げます。それではこれをもちまして閉会とい

たします。ありがとうございました。

□ 参加者によるフィードバック・コメント

(「参加してよかった」、「ためになった」程度のものは、省略しました。また記

載者名は省略し、職名・分野名のみを参考に残しました。)

自身の生い立ちにより、必要性を感じ、子どもたちのサポートを少しずつ行っています。

Page 38: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

前川さんの言葉、胸にしみました。私自身も本当に同じように思います。このプロジェク

トが沢山の子どもの幸せな将来につながる様、強く願います。貴重な時間をありがとうご

ざいました。

施設出身の子どもたちが就職したが長続きしない(できない)という点に、これほど目を向

けて活動してくださっていることを本当にうれしく思います。施設だけではどうしても支

えきれない現状の中で前川さんが“実習は序章にすぎない”と話されたこと、力強く思い

ます。また、津崎先生のお話の中にあった社会的共同親にみんなが関心を持ってもらえる

よう、私たち施設で働く側も努力していかなくてはと思いました。今までとは全く違う角

度からの支援についてきかせて頂き、本当にありがとうございました。

うちの○□が###で実習後、中小企業会館での発表と晴れの舞台の体験をすることがで

きました。ありがとうございました。彼女は自分の進路を就職(作業所を含む)ではなく、

***という生活支援・学習支援の場に行くことを決めました。自分で考えて、自分の進

路を決めたことを大いに評価しています。又、次回高 1女子の面接も快く受けていただき

感謝しております。今後とも、宜しくお願い致します。(他にも定時制高校、通信制高校に

通う子がいますが、アルバイトとしても仕事が続きません。彼女達には自立するまでの力

をどうつけていくのか、悩むところです。) 【家庭養護関係者】

施設の現場で考えるとマイナス思考になってしまっている中、子どもの可能性を信じる事

で未来を築ける事に気付かされた集まりだと感じました。施設で働いているのですが是非

取り組んでみたいと考え、取り組んでおられる施設に見学に行き、施設全体で一歩を踏み

出せるよう前向きに検討したいと思います。【施設職員】

施設退所後の就労の相談などのケアを、親身になって中小企業の方々の協力の取り組みを

構築していこうという思いが伝わり、とても素晴らしく、とても感激致しました。

京都市で保育士をしています。行政職員として今後、障害や虐待の子ども・家庭と関わる

機会があるかと勉強中です。同友会の大槻さんを通じてこのプロジェクトを知り、関心を

持ちました。親・地域・社会、誰かが一人でも子どもに温かい思いを持って関わり合うこ

Page 39: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

とがすごく大事だと感じます。今回お話を聞いて、具体的に自分には何ができるのか、考

えていきたいと思いますが、まずはこのプロジェクトに関心を持って知ることをしていき

たいと思いました。ありがとうございました。

ありがとうございました。伊勢の児童養護施設の職員をしています。施設職員としての視

点できかせていただきました。社会との繋がりとして、地域のスポーツ活動やアルバイト

などは力を入れていますが、就職等自立してからの社会との繋がりは、作りにくさを感じ

ています。三重県では同じ活動はありませんが、まずは個々で体験実習を依頼し、理解し

ていただくことなど、個々の繋がりから始めることかなと思いました。三重の中小企業家

同友会へのアプローチを施設側からしてみることも一つだと考えました。熱い想いを持っ

て子どもをみて下さる方を自分で見つける必要性があるかと感じました。ありがとうござ

いました。

人生を生きる意味が「働く」を通して、生きる価値に変わる「就労体験」が、地域社会に

根づき、地域雇用の促進と地域の活性化、また地域住民が関わる共育の現場が創出できる

プロジェクトになれば、社会にとって豊かな希望になると思います。本日はありがとうご

ざいました。

津崎先生たちにより取り組まれている社会的養護における社会的共同親という考え方が、

こうして京都で事業として運営されていることに感慨を覚えます。社会的共同親としての

市民ということのためには、中小企業・施設とも今後の規模をどのように大きくするのか、

思案のしどころではないでしょうか。ご成功をお祈りします(というか活動に参加します)。

【研究者】

職場実習を体験された卒園生の方のお話、悩んだこと、考えてきたことがわかりやすくよ

かったです。実習体験前と体験後の変化がわかり、活動の意義を感じました。前川さんを

はじめとする同友会の方々の「支援する」のではなく「何かを一緒にする」というスタン

ス、そしてつき動かされる思いのなかで、この活動が成り立っているのだとあらためて感

じました。

施設入所児童の自立支援、施設と地域(企業)との連携、つながり、今とても必要とされて

Page 40: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

いますが、なかなか取り組みが難しい部分でありますが、貴重な取り組みについて聞かせ

ていただき、たいへん刺激を受けました。どうもありがとうございました。

「社会的共同親」についても初めてふれることができたのですが、それを京都で実施し、

さらに拡がりを作っていかれようとする同友会の活動にもふれることができ、大変勉強に

なりました。“おっちゃん”、“おばちゃん”に限らず、もっともっと色んな人が同じような

思いを持つ社会になればと思いました。

施設に入所している子どもたちを受け入れる中小企業家同友会の方たちも、送り出し、フ

ォローされる施設の職員さんたちも、子どもたちに体験させるため、またそのことを通し

て自己肯定感を持たせるために様々な努力や連携をされているんだろうなと感じました。

施設にいる全ての子どもが参加しているのでしょうか?それとも希望者だけ?報告の中で

SOSが出せない子どもの方が心配との話もありましたが、参加しない(できない)子ども

はどうなるのでしょうか。

実際に施設入所し、その後施設職員となった澤さんのお話をお聞きし、退所後の生活が垣

間見えたことが大きな収穫であった。同友会の方々の熱い思いに胸が熱くなった。

前川さんの人間としての魅力に感激しました。行政もひとつ限界を越えないといけないな

と、あらためて思いました。

当事者の方、施設職員の方の話は参考になりました。中小企業家同友会の方や様々な方々

といっしょに子どもたちの支援を考えていきたいと思っています。

10年ほど前に 2年間、児童養護施設でボランティアをしていましたが、自分がいっぱいい

っぱいになってやめてから、もんもんとした日々を過ごしていました。前川さんのお話を

あの頃の私にも聞かせてあげたかった。ほんとうに胸が熱くなりました。私にも、もう一

度何ができるか考え直していこうと思っています。ハートネットTVにメールを出したこ

とも、私にできるせいいっぱいのひとつの行動でした。そのひとつひとつを積み重ねて行

きたいです。(今日はボランティアでお世話になった施設の先生と再会できました。つなが

Page 41: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

りの広がりを感じています。)

児童養護施設で働いております(保育士として働き 28年。自分の子育ての中で失敗をしつ

つ 4児の母です。子どもの支援に日々、「共に生きる」ことへの学びと喜びの連続です)。

当事者の方の話や前川さんの話をお聞きして感銘を感じ、自分自身のできることとして「社

会的養護の理解」や「里親制度」の周知に力を入れていきたいと思います。【副施設長】

津崎先生の講義を聞いて、ケアリーヴァ―の人の活動や「こうのとりのゆりかご」につい

て興味を持ち、今回の講義にも参加しました。「社会的共同親プロジェクト」については名

前しか知らなくて、職業体験実習に関することだということも今日知りました。しかした

だ単に実習できるだけではなくて、1人の人間同士として前川さんたちと子どもたちが関

わりあっているということが感じられたし、一般の市民にもできることがあるのではない

かと思えました。【学生】

はじめての参加で、すごく大勢の方がおみえになっていて、関心のある方、関わられてい

る方がすごく多くおられるんだなと思いました。自分は親せきに養育→養子縁組里親をし

ていた方がいたり、また里親に一時期なりたいと思っていたので、興味があった状態で、

佛大の社会的養護の講義を受け、さらに興味を持ち、夏以降、様々なシンポジウムに参加

しています。児童養護施設出身の人は就労がなかなか難しいということは講義で聞いてい

たので、このようなプロジェクトがあることは、すごく意義のあることだなと思います。

今後自分の関われる範囲がありましたら、なにかしらの形で関われるのかなと思いました。

また、なにかありましたらよろしくお願いいたします。

可視化できていない領域を「見える化」して声に出した点は大変意義がありますね。専門

家だけの解釈から、地域社会のステークホルダーが関心を持つきっかけとしては素晴らし

かったです。既存の家族を前提とした支援のあり方ではなく(あるいは子育てという現象を

対象にするのではなく)、「社会的共同親」も含めた家族そのものの再考についても、必要

ですね。【大学職員】

とてもわかりやすく現実、将来とてもたくさん考えていくことが多いと思いました。自分

の場所を見つける、見つけてもらえる時に顔を思い出してもらえるそんざいに慣れたらと

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思います。何もできません。毎日、子供さん達のお顔を見に行っているだけですが、子供

さん達とこれからもかかわっていきたいです。

昨年より更にプロジェクトに厚みを増したように思いました。児童、施設関係者、双方に

とって意義のある取り組みだと思います。今後に期待しています。

日本の福祉行政の忘れられている部分、個所があることがよくわかる。息子の高校時代の

同級生も施設出身でカレーライスを3杯食べて、息子と合わせて6杯がなくなり、私はウ

ドンを食べたことを思い出します。良いお話でした。

企業の社会的貢献をもっともっと広めていただきたいです。働く=自信につながり=志を

持てると思います。産まれは平等ではなくても、幸せになる権利は平等であってほしいと

願います。前川さんや津崎さんのような方が増え、想いが伝わりますよう。

社会から施設へのアプローチの大切さを痛感。地域の課題のとらえかたによっては、“支え

あう地域”としての実践例で、誰もがとりくめる活動だと思う。市民の活動にまでなるこ

とが、それぞれ(高齢者も、しょうがい者も、施設の子どもも含めて)“支えあい”を感じ

られるのではないか…。実際に今の私では実習生をうけいれること…くらいがやっとのう

つわではあるが、先パイたちが行っている活動が、同友会だけでない広いフィールドで行

われていることを熱望します。ただ、現実は簡単にはいかないので、地道に一つ一つてい

ねいに…ですね。応援しています。本日はありがとうございました。

中小企業家同友会と桃山学園とのつながりから迦陵園への広がりを見せ、自立支援への取

り組みを高く評価したい。【施設長】

確かに今回の問題は今後の社会にとっても考えて行かねばならない大きな問題だと考えさ

せられた部分はあります。ただ、まだ家庭内に残されたまま親の保護下にいるにもかかわ

らず、見捨てられた子供たちが少なくないことも、あまり焦点のあてられない社会問題で

はないかと思って活動いたしております。家庭内であって心身症を発症してまでも親に振

り返ってほしかった子供たちの事、18歳になったからと言って釜ヶ崎に捨てられてしまう

精神障害児の問題、“親が子供を大切”にしていないことで起こる様々な問題に目をそむけ

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ずとりくんで行けたらと思っております。本日は貴重な振り返りの時間をありがとうござ

いました。

施設退所後については今までなかなか支援がいきとどかないところであった。その中で、

この社会的共同親プロジェクトについては、希望をいだかせるものです。この動きがさら

に広がることをお祈りしています。

Ⅳ 補遺(研究調査報告および研修会記録)

研究調査報告

社会的養護を巣立つ若者への取り組みに関する一考察

-公的支援と市民参加の視点-

下神 波奈(プロジェクト研究協力員)

目 次 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 第1章 社会的養護当事者に対する自立支援の現状

第1節 社会的養護当事者の自立を妨げる諸条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 第2節 社会的養護制度における自立支援の現状 第1項 児童養護施設における自立支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 第2項 措置延長制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 第3項 自立援助ホーム(児童自立生活支援事業)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

第2章 児童養護施設退所者及び退所する若者に対する自治体・専門機関の実践 第1節 児童養護施設における自立支援コーディネーター(東京都)・・・・・・・・・・・・・・・48 第2節 退所者への取り組み アフターケア相談所「ゆずりは」 第1項 開所の背景と活動内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 第2項 「ゆずりは」からみるアフターケアの意義と課題・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

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第3章 京都社会的共同親プロジェクトから見る新たな展望 第1節 京都府中小企業家同友会による就労体験実習 第1項 成立の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 第2項 就労体験実習における活動の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59

第2節 退所した若者とのつながり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60 第3節 京都社会的共同親プロジェクト~府民啓発集会~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 引用・参考文献資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63

はじめに

日本には家庭で暮らすことができず、児童養護施設や里親など社会的養護で育つ子どもが約 4 万 6 千

人いる。また現在子どもが措置される背景では虐待が最も多く、養育環境の問題が複雑化している。ま

た適切な家庭養育を受けられないことは、子どもの健全な発達の大きな障害となり得る。社会的養護で

は複雑な問題を負わされた子どもの心身の傷の回復を図り、健やかな成長を保障し、社会へ巣立てるよ

う自立に向けた支援が行われる。しかしその対象は児童福祉法により 18 歳未満の児童と規定されてお

り、18 歳になり高校卒業すると施設や里親を離れねばならない。巣立った若者の多くは親を頼れず、

自分の力で生活の基盤を築いて生活費を稼ぎ、日々の暮らしのやり繰りをして生きていかなくてはなら

ない。また児童養護施設の子ども:職員の比率が少なく(5.5:1)、入所児 1 人に、まして退所者に対す

る充分な支援は難しい環境になっている。退所者に対するフォローは職員が余暇に善意で行っているケ

ースも少なくない。さらに退所者の現在の生活を知ることは、社会的養護の制度下で行われる支援を評

価する指標の一つになると考えられるが、日本では全国的な追跡調査が存在しない。施設でも連絡のつ

く退所者はごく僅かであり、社会的養護を巣立った若者がその後どうなったか、その全体像は把握され

ていないのである。全国規模ではないがいくつか存在する退所者へのアンケート調査では、退所者が充

分な自立準備のできぬまま、あるいは家庭という後ろ盾のない状態で社会に出ることの厳しい現状が現

れていた。またこの種のアンケートでは施設と接触できている余裕のある退所者が対象となっているた

めに、現実はより過酷であると考えられている。

上記のように児童養護施設等の退所者が困難な自立を強いられる現状があることに問題意識を抱い

た自治体・社会的養護関係者・市民の中から、社会的養護下の子どもや巣立った若者に対する支援や実

践が生まれている。本稿では児童養護施設等で行われる自立支援の内容と課題を整理した後、独自に始

まった公私の支援体制・実践について取り上げ、社会的養護を巣立つ若者に対する取り組みの課題と展

望について考察していく。なお社会的養護とは里親や児童自立支援施設など複数の資源形態があるが、

措置人数が最も多い児童養護施設を研究対象とする。

第1章 社会的養護当事者に対する自立支援の現状

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第 1 節 社会的養護当事者の自立を妨げる諸条件

社会的養護下で育った子どもは、一般家庭で育った子どもよりも社会生活への移行後に抱える困難が

多い傾向にある。その実情は自治体や団体によって行われた児童福祉施設の職員や、施設から連絡の施

設退所者を対象にした調査から窺える。こうした調査結果を参考に社会的養護当事者、とりわけ児童養

護施設退所者の自立の困難さについてあげていく。

① 進学の困難・中退の多さ

児童養護施設退所者の大学への進学率は 2012 年時点で 12.3%(全高卒者では 53.2%)と低い。1また東

京都下の最終学歴調査によると大学卒業者はわずか 1%であり、2学業の継続が難しい現状がある。進学

には学費と生活費の工面が条件となる。それが難しいとなれば進学を諦めざるを得ない。また奨学金を

利用し進学できたとしても、退所して家庭復帰できず、家族を頼れないとなると一人で生活しなくては

ならない。生活費を稼ぐためにアルバイトなどで収入を得なければならないが、学業の時間を確保する

ことが難しくなったり、体を壊してしまうなど学業を続けることが難しい現状があるのである。

② 経済的な不安定

低学歴から正規就労が難しかったり、できたとしても仕事が合わないと感じたり職場の人間関係不調

で早期辞職してしまうケースが施設退所者には多い。早期辞職すると次も正規職に就くことは難しい。

年金や保険に加入する余裕も少なく、もしもの時の備えすらままならない。また家族を頼れない中、大

きな病気や怪我で働けなくなると収入がなくなり、借家の場合はすぐに住まいを失う。後ろ盾がないま

ま社会に自立していくことは、何か支障があり働き続けられなくなると即、生活が立ち行かなくなる非

常に不安定なものである。

③ 自己肯定感の低さ・過去の体験によるトラウマ

虐待やネグレクトにより親から愛される体験を奪われたこと、自分自身の存在を否定されたことは、

子どもの生きる力を育む大きな障害となる。また大勢の子どもに対して職員の配置が圧倒的に少ない施

設では、深い心の傷は癒しきれないことが多い。これは自己肯定感の低さ、自分自身への諦めにも繋が

り、夢や希望を持つこと、そのために努力すること、あるいは自分自身を大切にすることを難しくして

しまう。また過去の経験から他者を信じられず人間関係がうまくいかなかったり、自暴自棄な行動を取

ったり、何らかの障害を負ったりと、生涯を通して虐待やネグレクトによるトラウマに苦しめられる人

もいる。

④ 孤独感・心の支えのなさ 1 厚生労働省 2014年「社会的養護の現状について(参考資料)」

(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_01.pdf 最終閲覧 2014年 12月 14日) 2 高橋亜美、藤原由美 2010年「公益財団法人日工組社会安全財団一般研究助成最終報告書 児童養護施設退所者のアフターケア支援

の取り組み」p.13

(https://www.syaanken.or.jp/wp-content/uploads/2012/05/A-07.pdf 最終閲覧 2014年 12月 14日)

Page 46: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

東京都が行った「施設退所直後に困ったことは何か」という質問に対して最も回答が多かったのが孤

独感・孤立感である。3施設の集団生活の中で育ってきた子どもにとって、一人暮らしへ移行すること

は大きな環境の変化である。また自由記述では施設職員の忙しい様子を知っているだけに、悩みや不安

があっても気軽に相談しにいけないという回答も多かった。4退所直後に慣れ親しんだ大人を頼れるか、

心の支えとなる人物の存在がいるかどうかは、退所後の子どもの長い人生を左右するのではないかと考

えられる。

第2節 社会的養護制度における自立支援の現状

社会的養護下の子どもに対する自立支援が明確に定められたのは 1997 年、50 年ぶりに改正された児

童福祉法においてである。1997 年の児童福祉法改正により、子どもが自立した社会人として生きてい

けるよう「自立を支援すること」が目的に加えられた。さらに 2004 年の法改正においては、社会的養

護体制の強化を目的に、入所児童の年齢要件を見直すとともに「施設退所者への支援」を児童養護施設

の業務として位置づけた。5このように社会的養護を巣立つ子、巣立った若者に対する支援の必要性が

法的に明文化されてきた。しかしその実施については万全とは言い難い状況がある。

第1項 児童養護施設における自立支援

児童養護施設におけるケアは子どもの状態に合わせて 4 つの段階を経て展開されていく。

アドミッションケア(admission care)は、施設の入所前後に必要な援助のことである。自立支援の方

針を示す児童自立支援計画の策定が義務付けられており、この段階で策定される。6しかし具体的な指

針はなく全面的に現場の運用に委ねられている状態である。7インケア(In Care)は心身の健全な発達を

目的とした日常生活場面における支援をいう。生活習慣を身につける生活支援や学習援助の他、自信を

つける言葉がけ、問題行動の抑止などがある。8どれも細やかな対応が必要とされる。リービングケア

(Leaving Care)は、退所する直前の自立に必要な力を獲得するための援助を指す。退所後は養護問題が

解決していれば家庭に復帰となるが、家族の援助が期待できない場合もあり、単身生活に移行すること

も多い。実生活の諸々の技能を獲得すべく、家事の体得や社会生活の知識をつける支援がある。9最も

難しいのは、良好な対人関係を築く力や、自己肯定感をつけることであり、特定の大人が子どもに寄り

添い続ける必要がある。しかし施設ではその職員配置から充分なケアが行われているとは言い難い。ア

3 東京都福祉保健局 2011年「東京都における児童養護施設等退所者へのアンケート調査報告書」p.16

(http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/08/DATA/60l8u200.pdf 最終閲覧 2014年 12月 14日) 4 同上 pp.27-33 5 厚生労働省 2004年「『児童福祉法の一部を改正する法律』の施行について」

(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-fukushi-shikou.html 最終閲覧 2014年 11月 26日) 6 児童自立支援対策研究会編 2009年『子ども・家族の自立を支援するために』 財団法人日本児童福祉協会 pp.131-132 7 井村圭壯、相沢譲治 2014年『保育と社会的養護』学文社 pp.83-85 8 児童自立支援対策研究会 上掲 pp.132-133 9 小野沢昇、田中利則、大塚良一編 2013年『子どもの生活を支える社会的養護内容』ミネルヴァ書房 pp70-71

Page 47: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

フターケア(After Care)は、施設を退所した者を対象に行われる支援である。後ろ盾がない若者の生活

は非常に不安定で、困窮状態に陥りやすく、他者あるいは自らを傷つけることもあり、それらを未然に

防ぐためにも、退所者と面識のある施設職員によるフォローが必要となる。しかし入所中の子どもの支

援で手一杯な施設において十分なアフターケアを行うことは困難である。また法的にアフターケアが位

置づけられたものの公的に補助があるわけではなく、現場の職員の善意と努力によって実施されている

状況である。

第2項 措置延長制度

自立に必要な諸能力に不安がある若者に対し、18 歳を過ぎても入所を認め、支援を継続する制度が児

童福祉法第 31 条 2 項に定められている。例外規定として実施されて来たが、2011 年の厚生労働省通知

「児童養護施設等及び里親等の措置延長等について」によって柔軟に運用するよう通達された。しかし

充分に活用されているとは言い難い現状がある。

制度の適用は満 20 歳までという年齢規定により、支援は長くても 2 年しか続けられない。その上、

この適用期間は 20歳になる誕生月いっぱいであるため、4月生まれの者は 1年しか施設に留まれない。

子どもの状態を鑑みずに年齢で一律に支援を打ち切ることに、この制度の限界が感じられる。また通知

により制度運用に当たっては、他の児童との関係に配慮が必要であると記されている。さらには入所児

童への養育の質の低下を招くならば措置延長は行わないということまで遠まわしに言及されている。上

記に述べたことなどを背景に、措置延長が適用される若者はごく僅かであると考えられる。

第3項 自立援助ホーム(児童自立生活支援事業)

自立援助ホームは施設での保護を受けられない 15 歳から 20 歳までの働く若者の自立を支援する事

業である。1997 の児童福祉法改正で初めて法制化され、第二種社会福祉事業として位置づけられた。

由来となる実践は、1950 年代後半から関係者ボランティアによって始められた。10若者が入所する経

緯は様々で施設退所者の場合、退所後すぐに入所する者、家庭復帰後に家族と関係が悪化した者、仕事

で失敗し家を失った者など多様である。11

入所者の大半は虐待などを受け、彼らが心に負った傷は深刻である。虐待による心の傷や、人間不信、

自己否定感、絶望感は根深いため容易には克服できず、職員は彼らの生きる力の回復のために粘り強く

接している。入所者の中には基本的な生活習慣や社会生活に必要な知識を得る機会がないまま自立を強

いられた者も多い。規則的正しい生活の習慣づけや、金銭管理の方法など自立に必要なスキルを獲得す

るよう援助を行う。ホームによっては、より安定した職に就けるよう高卒認定資格の取得や進学支援が

10 佐々木淳子 2001年 京都府立大学府立大学卒業論文「自立援助ホームにおける支援の現状と課題」pp.1-6

11 上掲 小野沢、田中、大塚 p.70

Page 48: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

行われている。12

しかし自立援助ホームには課題がある。第 1 に入所できるのは 20 歳までという年齢制限を設けてお

り、入所者の利用期間は 1 年から 3 年程度となり、20 歳を超えた退所者に対する公的な支援制度は整

っていない。第 2 に月 3 万円程度の食費などの自己負担である。つまり働いて収入を得ていることが自

立援助ホームへの入所条件なのである。仕事を辞めて費用を支払えなくなった者がそのまま入所し続け

ることは、他の入所者の士気に影響を与えるため、場合によって退所することが求められる。本来、働

けなくなるほど追いつめられた子どもこそ支援が必要な状態はずなのだが、自立援助ホームはそうした

子どもを留めておくことができない制度上の矛盾を抱えている。ホームを出た後の生活を気にかけ退寮

生との面接や電話相談なども行うが、これが退所者支援の限界となっている。13

第 2 章 児童養護施設退所者及び退所する若者に対する自治体・専門機関の実践

本章では、各自治体や団体による全国に先駆けた実践を紹介し、社会的養護を巣立つ若者に必要な支

援体制を考察していきたい。

第 1 節 児童養護施設における自立支援コーディネーター(東京都)

自立支援コーディネーターとは、東京都が 2012 年、独自に児童養護施設に配置した専門職であり、

ケアワークとは完全に独立して、子どもの進学や就職のサポートと退所者に対する生活相談と支援を専

門的に行う。その役割として以下の 4 つがあげられている。14

1. 自立支援計画書及び退所後援助計画書の作成及び計画に基づく支援

2. 児童の学習・進学支援、就労支援等に関する社会資源との連携、他施設や関係機関との連携

3. 高校中退者など個別対応が必要な児童に対する生活指導、再進学又は就労支援

4. 施設退所者に関する継続的な状況把握及び支援(アフターケア)

自立支援コーディネーターの役割と意義について、2 つの事例をあげて考察していきたい。なお以下

の事例は「ハートネット TV(NHK 教育テレビジョン)」で 2014 年 7 月 2 日に放送された『シリーズ「施

設」で育った私 第 2 回“巣立ち”を支える児童養護施設の試み』を参考に筆者がまとめたものである。

○事例1 : 退所が近づいた子どもへの自立に向けた支援

高校生の K(17 歳・男性)は、来春に施設を退所して進学する予定である。K は 4 歳から 10 年以上にわたり施

設で暮らしてきた。退所後は 1 人で生活しなくてはならず、その練習のために、自立支援コーディネーターの計画

のもと一人暮らし体験プログラムを開始した。1週間、離れにある自立訓練棟のワンルームにて 1 人で生活する。

12 社会福祉法人 子供の家「あすなろとゆずりは」ホームページ

(http://asunaro-yuzuriha.jp/ 最終閲覧 2014年 11月 26日) 13 同上 14 東京都社会福祉協議会地域福祉推進委員会 2012年『提言 2012』「提言Ⅳ 社会的養護を離れた若者への支援について」

(https://www.tcsw.tvac.or.jp/info/report/teigen/documents/2012-1-4.pdf 最終閲覧 2014年 12月 13日)

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施設生活での家事体験を活かし、1 日を通した生活の営み(買い物、調理、掃除、お金のやり繰り)を自分でこなす。

K にとって金銭を自身で管理する生活は、施設では主体的に取り組めなかった初めての体験であるために開始直

後はうまくいかず、予算を越えてしまっていた。また K は集団生活に慣れているため、帰宅後の 1 人で過ごす時間

に寂しさと不安を見せていた。自立支援コーディネーターは数日おきに部屋を訪れ、K の生活の様子を確認しに

来た。その際にコーディネーターは困っていることはないか何気ない会話を交わしながら、K を励まし見守っていた。

プログラム終盤には、Kは手際よく食事を作れるようになっており、「料理のペース、冷蔵庫の中のものの使い回し、

一番できるようになったっていう自信がある。一人暮らし始めて、そこは自信もってやってける気はします。」と語る

ようになった。

多くの児童養護施設において退所が近づいた子どもへの支援は、施設の日常生活を通して行われてい

る。しかし他の子どものケアも兼ねながら行える自立支援には限界がある。施設の中には一人暮らしに

必要な資金の計算を子どもと行い、それをもとに計画的な貯蓄を子どもが行えるよう援助するなど、退

所後の生活を子どもが具体的に考えられるような支援を行う例もある。しかしそれも施設と職員の努力

と工夫によって成り立っている場合が多く、施設間にばらつきが見られる。そうした現状がある中、一

人暮らしの体験をする機会が入所中に用意されていること、子どもに合わせた指導や助言など計画的な

支援を行う職員がいることには大きな意義がある。施設生活から一人暮らしへ移行する際の子どもへの

負担を軽減し、その後の生活を円滑に営む可能性を高める効果的な自立支援の 1 つであると考えられる。

入所中の子どもに対して、奨学金制度の紹介などの進学支援や就労支援はもちろんのこと、ケアワーク

から独立して業務に専念できることから、自立支援はより個別的なものとなり、さらに幅広いものにな

るのではないかと思われる。

○事例 2:退所者への支援 いつでも相談できる存在になる

Y(19 歳・女性)は現在、自身と同じ状況の子どもを助けたいと保育の勉強のために専門学校に通っている。Yは

両親からの虐待で中学 3 年の時に入所した。退所後、両親に引き取られるも言葉の暴力が日々繰り返され、さら

に入所中に自身の将来のためアルバイトで貯めた 120 万円をすべて両親に奪われた。その後も Y に収入がある

度に没収され、このままでは人生が駄目になってしまうと家を飛び出した。学費は奨学金、生活費は早朝からアル

バイトを2つ掛け持ちして捻出するもアパートを借りる余裕はなく、今は交際相手の家に身を寄せている。Yは「夜に

も働きたいが体を壊して病院送りになりそう。保険証も持っていないので」と月 10 万円にも満たない収入で何とか

生活している。Y は入所中から信頼を寄せる自立支援コーディネーターのもとを訪れた。Y は最近、交際相手から

家を出るよう言われており、今後どう生活を立て直せるか相談した。コーディネーターは Y と共に経済状況を整理

した。交際相手から経済的に自立して生きる解決法はその日のうちには出なかったが、これから模索していこうと

約束した。別れの際にコーディネーターは「気を付けて。また連絡してね、こちらも連絡するけど。またね。」と声を

かけ、Y を見送った。

東京都の退所者アンケートにおける「退所前後にはどのような支援が望ましいか」という質問に対し

て最も多いのが「生活相談、仕事相談、対人関係の相談など、相談事全般の窓口」がほしいという意見

であった。15自由記述の中でも、退所後に抱いた施設への希望として「退所後、相談できる場所となっ

てほしい」という声も目立った。さらに「施設の職員は人手不足で忙しいので相談したことはない。職

15 東京都福祉保健局 上掲 p.18

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員の待遇を改善してほしい」との意見もある。16施設退所者の中には相談できる相手がいなくて辛さを

感じる人が多いこと、それを施設に期待したが、職員が忙殺されている様子を見て諦めているというケ

ースがあることがうかがえる。退所者に限らず、いきなり専門機関に相談を持ちかけることは難しい。

その際に、慣れ親しんだ施設の職員が、相談に乗り、専門的な支援への仲介などという役割を果たすこ

とができれば、退所者が困難から脱出する近道になり得る。施設の職員として子どもが入所しているう

ちから関わり信頼関係を築きやすいこと、そして退所者が必要とする様々な支援のネットワークを施設

の外部に構築し最大限に活用できることは、自立支援コーディネーターの強みである。

日常の生活支援から、自立支援、退所者支援は施設によってその内容や重点にはばらつきがある。施

設で生活をおくる子どもは大人の都合で家庭で育まれる権利を侵害されており、さらに自分で施設を選

べない。社会的養護下の子どもに学習支援を行うNPO法人 3keysの一員で、自立支援コーディネーター

である早川悟司氏は、コーディネーターが児童養護施設等の支援の「標準化」を担うべきであると述べ

る。標準化とは他施設のコーディネーターや外部機関との連携して、子どもの自己選択・自己決定を最

大限に保障し、施設間の格差で子どもが人生を左右されないよう、子どもの利益を最優先する支援環境

を社会的養護の制度下全体に整えて行くことである。そのためにもコーディネーターには、適切に制度

や社会資源を把握し、正確に情報を子どもに提供する技術が求められる。移り行く制度や資源を敏感に

察知し、時にはそれらを開拓することが必要となってくるだろう。専門職として機能するためには、独

立性、資質、方針、組織化、教育といった要素が整えられることが望ましいが、17現在、資質や方針、

組織化はそれぞれのコーディネーターの努力によって支えられており、教育に関しては制度が誕生して

まだ 3 年目で模索状態である。

また 1 施設につき 1 人という配置についても今後再考が必要である。施設の規模や子どもの状況に合

わせて柔軟に対応できるだけのコーディネーターが配置されるのが望ましい。さらに現在コーディネー

ターを配置しているのは東京都だけであるが、社会的養護下にいる子どもの最善の利益を保障するなら

ば、全国の児童養護施設をはじめとする児童福祉施設に配置すべきである。しかし運営の財源が 1 施設

につき国からの支出が 200 万円であり、常勤職員をおけるよう東京都がそれぞれの施設に約 530 万円

ずつ補助している現状があることを鑑みるに、すぐさま実現することは難しいと思われる。

第 2 節 退所者への支援 アフターケア相談所「ゆずりは」

第1項 開所の背景と活動の内容

社会的養護経験者のあらゆる困難に対する相談・支援を専門に、精力的に活動する組織がある。東京

16 同上 pp.27-33

17 タイガーマスク基金ホームページ 「インタビュー#9 早川悟司 自立支援コーディネーターによる児童養護施設の支援標準化を」

(http://www.tigermask-fund.jp/interview/012-1.html 最終閲覧 2014年 12月 13日)

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都小金井市に 2011 年に開所されたアフターケア相談所「ゆずりは」である。運営母体は社会福祉法人

「子供の家」であり、児童養護施設「子供の家」(1949 年創立、1950 年認可)と自立援助ホーム「あす

なろ荘」(1988 年開設)を有している。「ゆずりは」成立の経緯に公的支援の抱える問題が窺える。「ゆず

りは」の代表であり創始者である高橋亜美氏は「あすなろ荘」の職員であった頃、児童養護施設退所者

が社会に出ることの厳しさに向き合ってきた。ホームレスになる者、性風俗に従事する者、刑務所に入

る者、果ては自殺する者など、悲惨な現状を目の当たりにしてきた。さらに虐待によるトラウマなどの

回復には長い時間を要するが、社会的養護の「最後の砦」といわれる自立援助ホームでさえ 20 歳まで

の数年間しか支援できないことに限界を感じていた。多くの施設で後手に回っているアフターケアの機

能の拡充を図り、「ゆずりは」を起ち上げたのである。18

「ゆずりは」に寄せられる相談は緊急性の高いものや、問題の解決が個人の力では非常に困難なもの

が多い。支援内容は多岐にわたるが、ここでは大きく下図の5つに分類する。生活支援は様々な困難を

抱える退所者に、助言と有効な資源の提供を行う。生活保護の申請や、DV(デートDVも含む)からのシ

ェルターや婦人相談所への保護などの際には、退所者と関連機関の仲介役となり、確実に支援に繋ぐ。

また生活保護受給世帯、とりわけ子を持つ女性にはスタッフが家庭訪問を行う場合がある。育児・生活・

仕事を一人で担い、精神的・肉体的に追い込まれやすい環境の母親をねぎらい、一時的に子の面倒をみ

ることもある。相談者の中には宗教にのめり込み、脱退したくても脅され、多額の金銭を取られてしま

うこともある。トラブルの解決や、債務整理のための自己破産手続きをする場合などには弁護士等の専

門家と連携し、問題の解決を図る。19

・自己破産手続き ・生活保護の申請同行、受給動向、受給者世帯の家庭訪問 ・DVからの保護・相談 ・予期せぬ妊娠・中絶:中絶費用工面、手術後の精神的ケアなど ・子育て相談 ・保険等の申請手続き代行 ・宗教団体への警告

・高卒認定資格取得のための学習会・教材の貸し出し ・就学資金(奨学金など)の紹介や仲介 ・ゆずりは基金

・基金訓練プログラムの仲介 ・CSR(企業の社会的責任)事業を推進する企業との提携 ・ハローワーク同行 ・履歴書等、必要書類の作成

・不動産屋への同行 ・安全で安価なアパートの紹介 ・入居や退去時のトラブル介入

・服役者への面会、手紙のやり取り ・退所者サロン ・地域住民への学習サロン

18 社会福祉法人「子供の家」 上掲 19 こがねいコンパス編集部「こがねいコンパス」『小金井の人たち File.4施設を出た若者を支援する高橋亜美さん』

(http://www.koganeicompass.com/ 最終閲覧 2014年 11月 16日)

① 生活支援

②就学支援

③就労支援

④住居支援

⑤その他

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表 1 「ゆずりは」における支援(筆者作成)

就学支援では進学を諦めざるを得なかった退所者を、負担の少ない形で就学へ繋ぐ。高卒認定資格取

得のための学習会は、毎週木曜日午後に行われる。講師は大学生ボランティアで、利用者は年間 5 人程

度である。「ゆずりは基金」を設立し、高卒認定試験の費用を助成したり、特例だが進学費用に充てる

など退所者の事情に合わせた支援を行う。20

就労支援はハローワーク同行、就労訓練プログラムや給付金の紹介を行う。またCSR事業を推進する

企業との連携により、退所者に対する配慮・サポート体制を社会全体に広げることや、インターン制度

を活用して働く機会を増やすことを目指している。21

住宅支援では保証人の確保が難しい退所者に、不動産会社から保証人が不要な住居を紹介してもらう

他、支援団体との連携によって保証人を得る。また家賃の値下げの交渉を行い、入・退居時などのトラ

ブルには弁護士と共に介入する。22

その他、服役中の退所者と面会や手紙で交流し、出所後の生活の見通し立てる支援もある。2013 年

度からは東京都の事業として週 2 日、退所者サロンを実施している。サロンの中心は社会的養護当事者

のスタッフである。「ゆずりは」に通う交通費がないという相談者については、スタッフの方から彼ら

の住居の近くまで出向くなどの対応も行っている。23

第 2 項 「ゆずりは」からみるアフターケアの意義と課題

「ゆずりは」は退所者にとってのセーフティネット機能を果たし、その要素は 3 つにまとめられる。

1 つは専門機関とのネットワークである。「ゆずりは」では退所者の相談に合わせ、弁護士や司法書士、

病院・医師、警察、行政、不動産会社などと協力して退所者を必要とする支援に繋ぐ。このネットワー

クは困難な問題に対応するには不可欠である。

次に退所者と機関との仲介役を担うことである。「ゆずりは」の支援では、関連機関への同行も行う。

これは退所者一人では、必要とする社会資源に繋がりにくい状況があることを示唆している。ある相談

者は、生活保護の申請の際に「若いから働ける」や「努力が足りていないだけ」と相手にされなかった。

彼は幼少期の虐待のトラウマに苦しみ、辞職するほど追い込まれていたが、相談をする以前に窓口の相

談員に門前払いにされ、自分は誰にも理解してもらえないと絶望したという。24見た目は五体満足の若

者であるために、その背景にある生きづらさが理解されず、助けを求められないことも多いのだという。

20 加瀬進 2013年「平成 25年度厚生労働省社会福祉推進事業『子ども・若者の貧困防止に関する事業の実施・運営に関する調査研究

事業』報告書」(http://www.mhlw.go.jp/ 最終閲覧 2014年 11月 16日) p.90 21 社会福祉法人「子供の家」上掲

22 高橋、藤原 上掲 p.18

23 加瀬 上掲 p.90

24 加瀬 上掲 p.91

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そのため関連機関への支援の申請の際に「ゆずりは」のスタッフは仲介者として、退所者の辛さ、困難

を代弁し、退所者が確実に資源に繋がり、最大限に活用できるよう尽力するのである。

3 つ目は退所者が自らの力で他者を頼ることができる環境づくりである。「ゆずりは」では退所者に

対し様々な配慮がなされている。面接の際にはリピーターとなってもらえるように丁寧に傾聴すること

を意識しており、メールでの相談は、返信の文面を複数のスタッフで確認した後に送るという。25 ま

た相談は具体的な解決方法があるものだけでなく、漠然とした不安や、理不尽な境遇に対する憤りなど

を抱えきれない時に「ゆずりは」を訪れる相談者もいる。そのたびにスタッフは真剣に向き合って相談

者の感情を受け止め、決して見放さないこと、いつでも「ゆずりは」に足を運んでほしいということを

伝えるという。苦しい胸の内を吐露し、他者から自己を受け入れられることそれ自体が、退所者の心の

支えとなり、退所者が声を発して自身を表現する力になっていると考えられる。

退所者に配慮されたセーフティネットの構築は欠かせないが、アフターケア事業には厳しい運営状況

がある。「ゆずりは」の常駐職員は代表である高橋氏と専従職員 2 人(児童養護施設職員の経験を有する)

の 3 人であり、社会的養護当事者のスタッフ 1 人が掃除や事務仕事、退所者サロンなどを担っている。

この体制で2013年に対応した相談は6000件を超えた。また年間に要する事業費は 1500万円程である。

初年度は自主事業としてすべて法人からの持ち出しで実施した。2 年目からは東京都の社会的養護の事

業として年に 735 万円の助成を受けているが、不足分は法人の持ち出しのほか、寄付金で補填しており

決して余裕のある職員体制と財源ではない。26また「ゆずりは」の相談者には退所後何十年も経てなお

苦しむ人々がいる。これは不適切な養育が子どもに与える影響が根深いこと、苦しむ退所者を社会が放

置し続けたことを示す。全国にアフターケア体制の整備することが急務である。

公的支援について述べてきたが、社会には依然として退所者が困難を抱えやすい環境が存在し、市民

が社会的養護に関心を抱き、自ら社会的養護で暮らす子どもや巣立つ若者のために行動する市民参加の

方向性が必要であると考える。そうした試みが京都で生まれており、次章ではその可能性について検討

していきたい。

第3章 京都社会的共同親プロジェクトからみる新たな展望

本章では京都中小企業家同友会による就労体験実習をはじめとする、京都社会的共同親プロジェクト

という日本では類を見ない実践から、一般市民による社会的養護を巣立つ若者を支える取り組みの課題

と展望について述べる。

第 1 節 京都府中小企業家同友会による就労体験実習

25 同上 pp.90-91

26 同上 pp.92-93

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第 1 項 成立の経緯

就労体験実習など本プロジェクトの中心である前川順氏は、もともと京都市伏見区の児童養護施設A

(以下、A園)と交流を持っていた企業家である。児童養護施設の子どもに関心を持ち、自身が慶事の貸

衣裳と写真スタジオを経営していることからA園の子どもの七五三に合わせ、着物を着付け撮影した写

真をプレゼントするという活動を行っていた。活動を通し、社会的養護のもとで暮らす子どもが抱える

複雑で辛い背景を知る中で強い問題意識を抱き、所属する京都府中小企業家同友会(以下、同友会)の協

力を得て社会問題研究会を起ち上げ、賛同した会員と共に就労体験実習を開始したのである。

同友会として就労体験実習を取り組むことになったのは、多くの議論とA園とのやり取りを通して、

厳しい自立を迫られる子どもの事情に最も即しており、同友会の強みを活かせる形であるとの結論に至

ったからである。A園の職員が最も頭を抱える問題は、子どもが退所後に就職しても仕事が続かないこ

とであった。高校の就職指導を経て正規就労には就けるが、数か月あるいは数週間で辞職するケースが

多く、1 年以上勤められる者はごく僅かである。また早期辞職した場合に次も正規職に就くことは難し

く、保険や年金に加入できないため大きな病気や怪我をすれば途端に生活が立ち行かなくなるというよ

うな、非常に不安定な環境で生活せざるを得ない。そのほかにも早期辞職のリスクが多いことから、子

どもが自分に合った職業を見つけ長く仕事を続けられるようにと、同友会の企業家が子どもを実習生と

して受け入れる案が生まれた。当初は適職探索が主目的であったが、あるとき里親として里子を育てる

同友会の楠本貞愛氏から「社会に出た後も心の支えがなければ子どもは踏ん張れず、仕事を辞めてしま

う」という意見があった。それを受けて実習は子どもが信頼でき、親身になってくれる大人と関係を築

くことを重視するようになった。そのため実習先を選ぶ際は、「どの企業に」ではなく「どの人に」子

どもを託すかが論点となる。一方でA園では、中高生のうちアルバイトや部活動に取り組む一部を除い

て多くの子どもが、休日や長期休暇は施設の中で時間をつぶしている状態が続いていた。このままで子

どもは無事に自立していけるのか、施設の外に出て自分でやりたいことを見つけてほしいと問題意識を

持ち、新しい支援を模索していた施設職員が同友会の企業家と出会い、2012 年の夏からA園と同友会

による就労体験実習が始まったのである。その活動は広がりを見せ、2014 年の春から新たに左京区の

児童養護施設B(以下、B園)が参加している。

第 2 項 就労体験実習における活動の概要

就労体験実習は年に 2 回、春夏の子どもの長期休暇に行われる。中学生からの参加を想定しており、

1 人の子どもが実習に参加する機会は複数回ある。実習の流れは下図の通りである。

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図 1 京都中小企業同友会による施設児童の就労体験実習の流れ(前川順:作成)

実習前に数回の面談を重ねて子どもと企業家が関係を築きながら、子どもの希望と照らし合わせなが

ら実習先を決定していく。実習は 1 企業につき子ども 1 人であり期間は中学生で 3~4 日、高校生で企

業にとっての 1 週間である。その後、施設で実習報告会が開催される。ここではお世話になった企業家

を招待し、子どもは自身の言葉で自らの体験を発表するのである。筆者は寛大な同友会と施設の方々か

らの誘いを頂き、今年度の夏期実習として行われた面談と実習報告会に参加した。以下ではその経験を

Page 56: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

もとに概要を述べるとともに考察を加えていくこととする。

●実習準備のための事前面談

夏期の就労体験実習の実施に際して 6 月にA園、B園それぞれで事前面談が行われた。筆者は 6 月

30 日にA園で行われた面談に参加した。参加者は筆者を除き同友会から 10 名、施設関係者 3 名(2 名は

A園職員、1 名はB園の施設長)、そして実習に参加する 7 名の中高生である。午後 7 時にA園の集会

所にまず大人だけで集合し、諸説明を受けた後に子どもを迎え入れた。座席は椅子を車座に配置し、大

人と子どもが交互に座るようになっていた。全体のプログラムとしては①自己紹介、②各テーブルに分

かれて面談、③各テーブルの発表という流れである。自己紹介では参加者全員が名前、所属、好きな食

べ物を述べた。短い時間の中でそれぞれがユーモアのある自己紹介をし、和やかな雰囲気が生まれた。

面談ではA園の職員は退出し、4 つのテーブルに大人が 2~3 人に分かれて子ども 1 人ずつと話し合う

形で行われた。これは初回の実習事前面談の失敗した経験から生まれた。初回は参加者全員が車座にな

って行ったのだが、子どもの一人がネガティブな語りを始めてから他の子どもは声を出すことができな

くなったという。そのため同友会で馴染みのあるこのグループ討論方式を取り入れたところ、各々が大

いに、ときに施設職員には打ち明けなかったことまで語るようになったという。今回は子ども1人につ

き 15~20 分の面談が予定されていたが、各テーブルで話が盛り上がったためにテーブルを 1 つ増やし

たほどである。筆者もテーブルに着いて中学 3 年生の男子と高校 1 年生女子の 2 人の面談に加わり、同

友会の方 2 人と子どものやり取りを観察することができた。子どもの部活動や好き・嫌いな科目など学

校での様子、趣味のためにお小遣いのやり繰りに苦労していることなど様々な会話で盛り上がった。ま

た高校生の女子は将来、英語教師になりたいという夢があり、そのために大学に進学し、できれば留学

に行きたいと思うが費用を工面することが難しく悩んでいると語った。それに対し同友会の 1 人は生活

費を稼ぎながら学業に打ち込むことの難しさに触れたものの否定はせず、奨学金や学内の留学制度を利

用する手があるほか、自身が添乗旅行員として世界を回り少し言語を勉強できた経験を語った。さらに

同友会員の中に就職後、ワーキングホリデーを利用して言語を習得した者がいることを教え、その会員

と会話する機会を設けることを約束した。面談での会話を通して深く印象に残ったのは、同友会の人々

が自身の経験や他のロールモデルを示し、子どもの選択肢の幅を広げようと試みていたことである。施

設外の様々な経験を積んだ人々と交流することで、施設と学校だけでは出会うことのなかった多様な価

値観に触れることで、子どもの可能性を広げたり、様々な視点で物事を考えられるのではないだろうか。

この面談、すなわち施設の外にいる大人と子どもが会話すること自体に意義があるように感じられた。

また子どもの目指す生き方の手本となるような人を見出し、子どもと繋ぐことを可能にする人脈と行動

力は同友会の方の強みであるように感じた。

午後 8 時半には面談が終了した。子どもは全員生活棟に戻り、退出したA園の職員が集会所に戻った

Page 57: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

後、各テーブルの発表をもとに実習先の大まかな見通しを立てた。各テーブルの発表からは子どもの実

習先の希望だけではなく学校生活やアルバイト、特技、趣味など様々な会話があったことが報告され、

どのグループも活発なやり取りが中高生と大人の間で交わされたことが窺えた。その中で同友会の人々

が子どもから聞いた話と、職員が語る普段の子どもの印象が大きく食い違うケースが 1 つあった。また

虐待の経験が要因と思われるその子どもが起こした問題により今年の実習に参加することはできない

が子どもが同友会の人々と話がしたいと希望したため、面談の参加を許可したという事情を説明した。

その子どもと面談を行った同友会の二人はとりわけ大きな衝撃を受けたように見えた。しかし実習の企

画者から子どもが受けた虐待の問題が根深いこと、時間をかけて向き合い続ける必要があり、同友会と

しても勉強していこうと励ましを受け、落ち着きを取り戻したようであった。面談などの子どもとの交

流は企業側の人々にとっても、子どもや施設のことを知る機会となっていると思われる。そしてこのよ

うに同友会の人々が子どもを理解しようと歩み寄り、向き合い続けてきたからこそ就労体験実習は続き、

同友会の人々と子どもが親しく話ができる今の関係が築かれてきたのだと思われる。

●就労体験実習

2012 年の夏からA園の子どもを対象に始まったこの実習は徐々に参加人数を増し、今年度は新たに

B園からも実習生を受け入れた。1 度の実習につき、各企業が受け入れる子どもは 1 人のみである。こ

れは複数で行くと職場で話し込むなど実習に集中できないことや、他の子どもと自身を比較してしまう

ことが想定されるからである。また実習先の人々が 1 人の子どもに集中して関わりを持てるようにとの

配慮もある。

A園:延べ 31 名(高校 18、中学 10、小学 3) B園:延べ 13 名(高 8、中 1、小 1、専 2、18 歳+1)

表 2 京都府中小企業家同友会就労体験実習の参加者数(津崎教授が作成した資料を筆者が改変)

●実習報告会

報告会はそれぞれの施設で開催される。筆者はB園で開かれた実習報告会に参加した。観客は実習先

の企業家、出席を希望した同友会の会員、実習には参加していないが出席を希望した子ども(年少の子

Page 58: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

どもが多い)が主である。今回は同友会のこの取り組みを取材する NHK の記者とカメラも会場に入っ

た。

進行は B 園の就労体験実習の代表者の職員である。園長挨拶の後に今回実習した子どもが入場し、

それぞれが自分の言葉で自身の体験した実習を報告する。そして受け入れ先の企業家が所感を述べ、子

どもに個別に担当した施設職員から見た実習中の出来事や子どもの変化などを報告し、質疑応答が行わ

れた後に次の子どもの発表に移る。B園の実習に参加した子どもは 7 名であり報告会の参加者は、体調

不良で欠席した 1 名を除く 6 名である。

実習を体験した子ども、受け入れた企業の人々、送り出した施設職員の 3 者にとって、この報告会は

就労体験実習の集大成である。発表の中で、実習先の企業について「優しくて好きな人ばかりの職場」

と感想を述べた子どもがいた。同友会が就労体験を企画する目的は適職探索以上に、子どもが一人でも

多く親密な人間関係を築き、彼らが社会に巣立った後も心の支えとなる存在をつくることである。27こ

の言葉は実習先の企業家にとって、そして実習を主催する同友会の人々にとって最も感慨深いものであ

ったことと思われる。発表では実習を通して自身の夢がより明確になったという子どもや、自身の特技

を活かして新たな挑戦ができたと語る子どもがいれば、できないことが多い自分と向き合うことになり

落ち込んだという子どももいた。それぞれに異なる環境で実習し、体験したことも得られたものもそれ

ぞれに異なると思うが、子どもにとって実りのある実習だったようである。企業側の所感は、まるで「自

分の子どもの自慢大会」のような印象を受けた。実習中にいかに成長したか、どれほど真面目に取り組

んでいたかなどを大勢の前で語り、実習をやり遂げた子どもを大いに称賛した。中には実習が終わった

後も助っ人として働いてもらい大変な戦力になったというエピソードがあったり、自宅に食事に招くと

約束したり、ぜひうちに就職してほしいと述べる企業家もいた。期間としては決して長くない実習の間

に、これ程までに企業の人々と子どもの間に関係が築かれていたことを目にし、就労体験実習の意義が

感じられた。また施設職員のコメントでは実習前と後の子どもの変化や、実習中の子どもの様子、そし

て施設側にも変化があったことが語られた。子どもを施設の外の大人に預けること、子どもをよく知り

間近で見守ってきた施設の人々も子どもと同様に不安があり気を張ることが多いことと思われたが、そ

の分施設としても子どもと共に成長したことや達成感があったことが窺えた。そしてこの報告会は実習

に参加していない子どもにも影響を与えていたことがわかった。施設の職員によるとその子どもたちは

発表者を羨ましそうに見ていたという。ほとんど子どもとの関わりを持っていない筆者にも、おそらく

様々な不安を抱き、大変な思いをしながらも実習をやり遂げ発表を行う姿は立派なものに見えた。傍で

実習中の様々な苦労をも見てきた子どもはなおさら、大勢の観客の前で発表を行う中高生を見て憧れの

27 このことを本プロジェクトでは befriendingと表現している。befriend(親しむ、尽くす、味方になる)という動詞が由来である。

この語源は Be Friend! 友なれ!であると考えられている。

Page 59: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

ような思いも抱いたことと思われる。就労体験実習が始まって以来、特に年少の子どもから実習に行き

たいという声が大きくなっている。早い段階から実習に関心を持つことで自身の将来を見つめる力が醸

成されることや、幼いうちから同友会の人々と信頼関係を築いているため将来的にも交流が続くのでは

ないかと期待される。

本節では就労体験実習の目的と概要、そして実習を通して子ども、受け入れ先の企業、施設に大きな

影響がもたらされたことについて述べた。次節ではその就労体験実習のプログラムを経験し、今年度に

A園を退所した子どもと同友会の大人たちとの交流について取り上げる。

第 2 節 退所した若者とのつながり

今年度、7 月 6 日に就労体験実習の経験者でA園を退所した子どもとの夕食会が、同友会の馴染みの

ある料理屋で催され、筆者も参加することができた。出席者は同友会の企業家10余名とA園の前園長(退

所者とは面識がない)、そして現在は社会人として働いているA園の退所者 1 名(以下Cさん)である。彼

女の同期生で同じく今年度に施設を退所した女性も招待したそうだが今回は欠席であった。夕食会は午

後 7 時から 9 時頃まで行われた。その中で筆者の印象に残った物事について挙げていきたい。

まずA園の職員(以下Dさん)についてである。Dさんは開催場所がわからないCさんと待ち合わせ、

共に料理屋に現れた。Dさんにも参加の誘いがあったが、Cさんを送り届け、同友会の人々に挨拶を終

えると帰園したのである。同友会の一人は退所者だけを同友会に託したのは、施設に隠し事がないこと

の証拠であると感嘆した。Dさんの行動からは、A園が子どもと同友会を信頼していること、そして退

所者から施設に対してどんな批判があっても受け入れる覚悟が窺えた。さらにA園のその姿勢が同友会

と子どもの活発な交流と就労体験実習を可能にする要素の 1 つであると思われる。

次に同友会の人々とCさんとのやり取りである。何気ない会話からCさんの生活や職場での悩み事を

引き出し、参加者がそれぞれに親身に受け止めてCさんを励ましていた。夕食会の終盤には出席者のほ

ぼ全員がCさんに連絡先を教え「もし何か困ったり、仕事を辞めたいと思ったときは、何時でも、誰に

でもいいから相談すること」をCさんと約束した。また半ば冗談を交えながら会話を通してCさんには

味方が大勢いること、いつまでも同友会はCさんを無条件に信じて見守り続けていくこと、Cさんもま

た受け身の存在ではなく、頼れる存在であることを伝えていた。また農場経営を営む企業家の女性から

Cさんに、自宅の畑から収穫した取れたての野菜のおすそわけがあった。一人暮らしのCさんの生活の

足しになればという配慮と、親が子どもに仕送りするようなあたたかい関係がCさんと同友会の大人の

間にも築ければという思いがあったという。

このように夕食会全体を通して、同友会の大人たちがCさんの親戚であるかのように親密な交流が行

われた。しかし1つ気になったことは、同友会の人々も気がかりであると述べていた、A 園のもう一人

の退所者の存在である。彼女はCさんと連絡を取り合っているそうだが「いま懐かしい人たちに会えば

Page 60: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

自分は駄目になる」と退所後一度も施設を訪れてはおらず、今回の夕食会も同じ理由で断ったのだとい

う。退所後も施設や馴染みの人との関係を保ち会いに出てこられる子どもと比べて、そうでない子ども

が抱える精神的な負担や問題は大きいと考えられる。就労体験実習についても同様のことが言える。面

談や実習に参加できる子どもよりも、そうできない子どもが抱える問題の方が深刻であることが多い。

同友会でもこの問題意識が共有されており、そうした子どもとどのように関係を築くか、そしてできる

ことを探すことが今後の課題であると述べていた。

第 3 節 社会的共同親プロジェクト~第2回府民啓発集会~

これまで紹介してきた京都府中小企業家同友会の有志がA園、B園を対象にした実践を京都府下に広

げて府民運動とすべく、京都社会的共同親プロジェクトを起ち上げた。社会的共同親とは 90 年代末の

英国で誕生した理念である。通常の家庭生活を奪われた子どもや若者に対し、自治体議員と住民一人ひ

とりが「自分の子」と同様にライフチャンスを保障してその自立を可能にすべく、あらゆる支援に積極

的に携わり「社会的な親」としての自覚を持って責任を果たすという意味を持つ。京都府民、社会人の

一人ひとりが社会的養護下の子どもの健全な発達、そして社会的に自立した大人期への移行を可能にす

る責任を持ち、支える風土とネットワークを構築し、いずれは全国に広がって行くようにというプロジ

ェクト関係者の信念と願いから名付けられた。このプロジェクトの一部は京都府立大学地域貢献型特別

研究活動(ACTR)との提携で行われている、 昨年度は ACTR が広報のための資金を、府大の津崎哲雄(教

授)が実践の論理化の根拠を支えた。実践を記した冊子の作成・配布、また中小企業家・施設職員・児

童相談所・里親などを対象に実践の紹介と意見交換をする集会を開催した。今年度も ACTR との提携

で、第 2 回啓発集会が 10 月 15 日にキャンパスプラザで開催された。参加者は A 園と B 園、同友会の

関係者以外にも、行政関係者や府民、遠方からの参加者など約 100 名が集まった。同友会の会員で里親

でもある楠本氏の挨拶から始まり、就労体験実習を中心に、プログラムの体験者、施設職員、同友会の

前川氏がそれぞれの立場からの報告を行った。

この第 2 回啓発集会で、筆者が大きな意味を感じたことが 2 点ある。1 つは社会的養護を経験した当

事者の 2 人が舞台に上がり、参加者の前で語ったことである。1 人は A 学園の退所者であり就労体験プ

ログラムの経験した C さんである。C さんは自らの就労体験実習の経験を語り、実習がどのように今の

自分に役立っているかを報告した。もう 1 人は社会的養護当事者であり、現在は B 園の職員として就

労体験実習の担当を務める E さんである。E さんは実習の一連の流れと子どもの成長した姿を報告する

とともに、自らの経験をもとに社会的養護下で育つ子どもが社会に出て自立することの大きなハードル

について当事者の立場から語った。社会的養護の当事者が自ら言葉を発したことで参加者に与えたイン

パクトは大きく、この集会で参加者に伝えた物事の根拠の1つになると思われる。前川氏は以前、社会

的養護下で暮らす子どもが、多くの人々に支えられながら一人前の社会人となり、いずれは同じ境遇の

Page 61: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

子どもを支えていく主体者になってほしいと発言していた。この集会で多くの市民の前で 2 人が語った

ことは、その足掛かりとなるのではないだろうか。

2 点目は前川氏が、就労体験実習をはじめとする 2 年にわたる活動を通して見えてきた反省点を報告

し、参加者に共に考えてほしいと訴えたことである。その課題とは、A園の退所者であり就労体験実習

を通して将来の夢を持った1人の若者が、自身の希望通りの職場に就職したが長くは続かず、辞職して

しまったことである。同友会とA園の職員は、退所後の若者にあまり関わりを持てなかったために、悩

みを聞いたり、引き止めることができなかったと悔やんでいることを語った。その反省から本章第 2 節

で紹介したように夕食会を開くなど、退所者との交流も増やそうと試みているが、まだ手探りの状態で

あることを語った。この集会で紹介した実践は、中小企業家が中心となって施設と協力して子どもが自

信をつけたり、施設や学校生活の外で新たな出会いの機会をつくるなど画期的な取り組みであることに

は違いない。しかしその利点を語るだけでは参加者からすれば「良い話を聞くことができた」という感

想を抱くだけで終わってしまう。または極端な例だが「同友会の中小企業家に任せればすべてうまくい

く」という風潮が生まれる可能性もある。そうなれば社会的養護の下に暮らす子ども、巣立つ若者に関

心を持っている参加者の可能性を閉じてしまいかねない。社会的養護自体の認知度が低い現状がある中

で、市民が関心を抱いたこと、問題意識を持っていること自体が大きな資源となり得る。そうした関心

の高い参加者をはじめとして、社会的養護下の子ども・経験者を社会全体で支えていくネットワーク・

風土づくりの主体的な存在となるよう府民運動を起こすことが、京都社会的共同親プロジェクトの目的

の一つである。今集会ではそのための府民円卓会議を開くことを計画していることを連絡し、全プログ

ラムの終了後に興味を持った参加者と話し合う時間を設けた。この第 2 回啓発集会は、約 2 年間の実践

で得られた実例やシステムなどの報告を通して他の児童福祉関係者や企業家、行政関係者にモデルを示

すとともに、様々な課題を乗り越えて社会的養護の下で暮らす子ども・巣立つ若者を支えるためには、

一人ひとりの協力が必要であることを参加者に訴えることで、次の活動につながるきっかけとなったの

ではないかと考えられる。

以上のように、就労支援実習をはじめとする京都府中小企業家同友会と児童養護施設の取り組みを紹

介し、その知名度を上げる以上の意義が、この第 2 回啓発集会にはあったと筆者は考える。

ところで、3 人の報告の後には質疑応答を設けていた。昨年度の集会では、様々な所属の参加者から

多くの質問がなされた。しかし今回は、口火を切った一人が、大成した施設退所者の話を引き合いに出

し、同友会のように全てお膳立てするやり方ではいけないという趣旨の発言をした。現在の社会と退所

者の実情に即していない発言であり、プロジェクト関係者、そしておそらく他の参加者にも動揺を与え

ることはなかったが、その後期待していたような参加者との活発な対話は起こらず、その点は心残りで

あった。

Page 62: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

また平日に開催したためか学校関係者、主に高等学校からの参加者がいなかったことも気にかかる。

施設退所者の多くが就職という進路を選ぶ状況の中で高校との連携がなければ、いくら社会的養護のも

とで暮らした若者に配慮のある優良な中小企業があっても、その企業への就職には繋がりづらいだろう。

子どもの進路指導に深く関わる学校関係者をどのように巻き込んでいくかも、今後の課題の一つとなる

と思われる。

おわりに

本論文では、現行の制度では社会的養護から巣立ち自立した大人期への移行が容易ではない現状があ

ること、そのことに問題意識を抱いた自治体や人々の公私にわたる支援・実践について取り上げ、社会

的養護を巣立つ若者への取り組みの課題と展望を検討してきた。社会的養護下の子どもが社会に出て暮

らしていくには、入所中から退所の直後、そしてそれぞれに困難を抱えたときの専門的な支援体制が整

えられていることと、福祉機関の外である社会においても社会的養護の許で暮らす子ども、巣立つ若者

を支えようとする風土が必要である。

児童養護施設入所中から退所後の生活に至るまでの連続的な支援は、子どもが円滑に社会生活に移行

するためには欠かせない。その例としてケアワークから離れリーヴィングケア・アフターケアを専門に

従事する自立支援コーディネーターを取り上げた。今は東京都のみだが、いずれは全国の児童養護施設

に、充分な人数のコーディネーターが配置されることが理想である。また退所後の若者が抱える問題は

深刻なものもあり、専門家の協力が必要となるケースも多い。アフターケア相談所「ゆずりは」は多様

な専門機関と連携し、退所者を各種の専門的支援へつなぐネットワークを構築している。全国の多くの

地域に社会的養護を巣立った若者を必要な支援に繋ぐセーフティネットの相談窓口が整えられるべき

だが、社会的養護を経験した若者の事情に通じ、それに配慮できる相談員の育成も必要である。専門的

な支援体制の整備が求められるが、公的な支援の枠組みの外で一般市民による社会的養護を巣立つ若者

を支える実践が生まれている。28第 3 章で取り上げた京都府中小企業家同友会の人々は、就労支援実習

を通して出会った同友会の大人が、退所後も子どもにとっていつでも気軽に頼れる親戚のような「おっ

ちゃん、おばちゃん」となれればと語っている。社会的養護を巣立つ若者にとって、社会に出た後も自

分を見守り、心の支えとなる人物が存在することは、何よりも心強いのではないだろうか。

社会的養護下で暮らしている時期から巣立った後も、社会的養護を経験したすべての若者がその長い

人生を幸福に過ごせるよう、公的支援から一般市民まで重層的に支えていく社会となることを願う。

28 神奈川県を拠点とする株式会社「フェアスタート」は、児童養護施設で育った若者を「育て甲斐のある魅力的な存在」として優良な

中小企業とマッチングしている。株式会社という形をとっているのは社会的養護を巣立つ若者への就労支援がビジネスとして成り立

つことを示すためである。他にも施設に暮らす中高生にキャリア教育や一人暮らし準備セミナー、退所者への住宅支援などを行う

NPO法人「Bridge For Smile」など様々な団体が独自の活動で若者を支えている。

Page 63: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

謝 辞

本論文を書き上げるにあたって、快くプロジェクトに迎え入れてくださった京都府中小企業家同友会

の方々、児童養護施設の方々に心より感謝いたします。そして大変お忙しい中、最後まであたたかく見

守っていただき、様々なご指導をくださった、京都府立大学の津崎哲雄教授に厚くお礼を申し上げます。

【引用・参考文献資料】 ・ 児童自立支援対策研究会編 2009 年『子ども・家族の自立を支援するために』 財団法人日本児童福祉協会 ・ 井村圭壯、相沢譲治 2014 年『保育と社会的養護』学文社 ・ 小野沢昇、田中利則、大塚良一 2013 年『子どもの生活を支える社会的養護内容』ミネルヴァ書房 ・ 佐々木淳子 2001 年 京都府立大学府立大学卒業論文「自立援助ホームにおける支援の現状と課題」 ・ 津崎哲雄編 2013 年『みんなで拓こう 子どもの未来 報告書』 京都社会的共同親プロジェクト(京都府

立大学 ACTR) ・ 前川順 2013 年『施設・里親家庭で暮らす子どもの未来を拓く ある中小企業家の歩みと思い』京都社会

的共同親プロジェクト(京都府立大学 ACTR) ・ 厚生労働省 2014 年「社会的養護の現状について(参考資料)」

(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_01.pdf 最終閲覧 2014 年12 月 14 日)

・ 高橋亜美、藤原由美 2010 年「公益財団法人日工組社会安全財団一般研究助成最終報告書 児童養護施設退所者のアフターケア支援の取り組み」(https://www.syaanken.or.jp/wp-content/uploads/2012/05/A-07.pdf 最終閲覧 2014 年 12 月 14 日)

・ 東京都福祉保健局 2011 年「東京都における児童養護施設等退所者へのアンケート調査報告書」(http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/08/DATA/60l8u200.pdf 最終閲覧 2014年 12月 14日)

・ 厚生労働省 2004 年「『児童福祉法の一部を改正する法律』の施行について」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-fukushi-shikou.html 最終閲覧 2014 年 11 月 26 日)

・ 社会福祉法人 子供の家「あすなろとゆずりは」ホームページ(http://asunaro-yuzuriha.jp/ 最終閲覧 2014 年 11 月 26 日)

・ 東京都社会福祉協議会地域福祉推進委員会 2012 年『提言 2012』「提言Ⅳ 社会的養護を離れた若者への支援について」(https://www.tcsw.tvac.or.jp/info/report/teigen/documents/2012-1-4.pdf 最終閲覧 2014年 12 月 13 日)

・ タイガーマスク基金ホームページ (http://www.tigermask-fund.jp 最終閲覧 2014 年 12 月 13 日)

・ こがねいコンパス編集部「こがねいコンパス」ホームページ (http://www.koganeicompass.com 最終閲覧 2014 年 11 月 16 日)

・ 加瀬進 2013 年「平成 25 年度厚生労働省社会福祉推進事業『子ども・若者の貧困防止に関する事業の実施・運営に関する調査研究事業』報告書」(http://www.mhlw.go.jp 最終閲覧 2014 年 11 月 16 日)

(本調査報告書は、下神氏による京都府立大学公共政策学部福祉社会学科 2014 年度学部卒業論文に著者自身が加筆修正したものである。)

Page 64: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

プロジェクト研修会・講演録

京都社会的共同親プロジェクト研修会(京都中小企業同友会社会問題研究会)

『夢がもてる著者を一人でも二人でも:

中小企業親(=社会的共同親)への期待』

津崎 哲雄氏

(京都社会的共同親プロジェクト代表

京都府立大学公共政策学部)

2014年 8月 30日 於・京都府中小企業会館

はじめに

皆さんこんばんは。今日は、京都中小企業同友

会の社会問題研究会にお招きくださいましてあ

りがとうございました。前川さんや楠本さんたち

と京都社会的共同親プロジェクトをやっている、

代表の津崎です。

今日は、同友会の皆さんに、また私どものプロ

ジェクトに加わっていただきたく思い、こういう

勉強会を催したということになりますので、どう

ぞしばらく私の進めの言葉を聞いて、ぜひ皆さん

方に私どものプロジェクトの支援者になってい

ただきたいと思います。よろしくお願いします。

今日集まった方は、社会的養護という言葉につ

いてあまり聞いたこともないと思いますし、子ど

もの施設だとか里親というようなことは聞いた

ことがあると思いますけれども。我が国の社会的

養護、すなわち里親あるいは実の親じゃなくても

いいんですけども、自分の家庭で暮らせない子ど

もたちが、どのように国家や社会による養育をさ

れているのかということについての簡単なDV

Dが最近出ましたので、紹介します。

これはヒューマン・ライツ・ウォッチというニ

ューヨークに本部のある国際人権団体が作りま

して、私もちょっと登場しますけれども、5月1

日にリリースされた、14~15 分で非常に簡潔に

まとまったいい資料ですので、まずそれをご覧い

ただきまして、その後、私が話を続けたいと思い

ますので、よろしくお願いいたします。

それでは、すみませんけれども、DVDの映写

をよろしくお願いいたします。

(DVD上映中)

それでは、DVDをご覧になったと思いますの

で、私の話を続けたいと思います。今日は、皆さ

んにレジュメをお配りいたしました。タイトルが

「夢がもてる若者を一人でも二人でも: 中小企

業親への期待」というふうなタイトルにしてみま

した。

どのような話になるかと言いますと、1から5

番までテーマが書いてあるんですけれども、時間

の関係でたぶん3番のイギリスの所はちょっと

カットしなきゃならないようになるかもしれま

せん。ご容赦いただきたいと思います。

さて、私の友人の、イギリス人のロジャー・グ

ッドマンという人が、だいぶん前に日本の児童養

護施設に1年ほど通いまして調査をして、それを

2000 年ぐらいに本を出しまして。私が、2006 年

に翻訳しまして、外国人が見た日本の児童養護施

設というようなことで、非常に優れた本を書いて

いるわけですけども、その中でグッドマンは、社

会的養護を受けている日本の子どもたちは、日本

国民の中ではマイノリティ中のマイノリティで

あるというふうな定義をしているわけです。つま

り、日本にはさまざまな少数者問題、マイノリテ

ィの問題があるわけです。皆さん方はアイヌの問

題だとか、あるいは被差別部落の問題だとか、在

日韓国・朝鮮人の問題であるとか、そういう少数

者の問題のことでも考えているのかもしれませ

Page 65: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

んが。

実は、日本の社会の中でマイノリティ中のマイ

ノリティっていうのが、いわゆる施設や里親で暮

らしている子どもたちであるというふうなこと

を言うてるわけです。

このことはどういうことを意味するかといい

ますと、社会の中で、ほとんどそういう子どもた

ちは、人口としては目に見えない。ないしは、一

般市民の関心の対象にほとんどならないような

人口であるということになります。DVDの中で、

私も一言触れたんですけど、とにかく日本の人口

の中で4万人ぐらいの子どもたちのことですか

ら、大多数の人々には見えない、感じられない、

そういったようなことになるわけです。

そういう子どもたちが施設を出たり、里親から

離れて社会に旅立った後どうなっているかとい

うことが、我々、社会的共同親のプロジェクトの

関心なわけであります。皆さんの中で何人かの方

は、最近、NHKの Eテレでありました『ハート

ネット TV』という番組が7月6・7・8の3回

シリーズで、施設を退所された子どもたちの問題

を3回放送しました。4回目は、その放送を見た

人たちの応答をまとめまして、そしてまた新たな

材料を使って話を展開していったのです。その4

回目に、私どものプロジェクトがNHKによって

取り上げられて、私は直接そういうことをやると

いうよりも背後でやっているわけですから、NH

Kの人に、前川さん、楠本さんに話を聞いてくれ

ということをもって番組が出来上がったわけで

す。

わずか2年ぐらいしかやってない活動であり

ますので、NHKに取り上げられるということは

こっちもびっくりしたんですが、そういう意味で

は非常にユニークな取り組みであるということ

がNHKによって受け入れられたわけです。そし

て全国放送で流れたということになるんですね。

NHKの『ハートネット TV』の番組のウェブサ

イトのところに、どういうような形で紹介された

かというような部分がありますので、関心のある

人はぜひ読んでいただきたいんですけども、京都

府立大学との共同による京都社会的共同親プロ

ジェクトと記されており、こういうふうに説明を

されています。

京都中小企業家同友会の有志が、児童養護施設

で暮らす中高生を自らの職場に受け入れて、夏

休み・春休みの一定期間、職業体験実習を通し

て社会へ出る準備の手助けを行っています。ま

た、実習に加えて、定期的に施設を訪問し、交

流する機会を設けています。

子どもたちが施設職員以外の地域の大人の

方々、「おっちゃん・おばちゃん」と子どもたち

が表現するのにふさわしいような中小企業の担

い手といいますか、中小企業家さんとの間で人間

関係を築いているのです。施設にいるうちでもそ

うですし、施設を離れてからも、本来は問題が起

こったら、施設の職員に相談をするとか里親さん

のところに絶えず相談をするというようなこと

が本来は望ましいんですけども、そういうことが

できないような子どもたちも少なくありません。

また、施設の職員の方も、ほんとうに少ない人数

で大勢の子どもたちの生活をサポートしていま

すので、施設を出ていった子どもたちへの支援と

いうのはなかなか手が回らないので、施設や里親

以外の大人の人が、そういう子どもたちの支援を

するというような、指導をするというような、要

するに困ったときに話を聞いてあげるという、そ

ういったような大人の存在というのが、子どもた

ちには非常に必要ということになってくるわけ

ですね。

『ハートネット TV』の番組で、皆さん、記憶

があると思いますけれども、第1回目は施設を出

た若者たちの問題について非常に詳しくドキュ

メントをしてましたね。ホームレスになる。それ

から留置所や刑務所に入る。それから女性ですね、

風俗店で働く。こういったような三つの問題が大

きく取り上げられています。ほんとうはもうちょ

っと詳しく調べればわかるんですけど、精神病院

なんかに入っている若者も少なくないんですね。

そこまでNHKは、たぶん取材できなかっただろ

うと思います。

それは第1回から第3回まで、第4回も含めて

非常に詳しくNHKの『ハートネット TV』のウ

ェブサイトのところに、紙芝居みたいなかたちを

もって内容を文字にして大切な場面は写真で入

っておりますので、もし番組を見られなかった人

は、それを読んだらわかると思います。私自身も、

Page 66: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

実は見てないんです。ほんとうは見ないとあかん

かったんですけども、どうもうちのテレビの調子

が悪くて、あるいは前川さんたちがその番組の日

程について報告を受けておりませんでしたので

見てないんです。

しかし、ウェブサイトを読めば、何があったか

って非常によくわかる。前川さんが、総合司会の

久保純子さんですか、クボジュンって呼ばれてい

るアナウンサーの人と電話で直接話をするとい

うような場面があったように書いてありました。

おもしろかっただろうなあ推測しています。久保

純子さんのコメントがこういうことでしたね。

おせっかいな地域のおっちゃん・おばちゃんの

話をするために前川さんが電話で言ったわけで

す。

久保さんは、悩んでいるとき、苦しいとき、人

に話を聞いてもらうことでどれだけ気持ちが楽

になるかわかります。私も自分の中のそういう悩

みは、溜め込まずになるべく話をするようにして

います。前川さんのように話を聞いてくださる方

がいることは、そういう子どもたち、若者たちに

とって、ほんとうに大きな支えになると思います。

というように書いてあります。

ですので、前川さんや楠本さんのやっている活

動というのは、目立たないわけですけれども、非

常に大切なことであるというふうに言えるわけ

ですね。

そういう話をずっとして終わるわけにはいき

ません。レジュメの2番目に入ります。皆様方に

どういうことをお願いしたいかということが、2

番目に出てくるわけですね。要は、そういう子ど

もたちの多くを社会が放置するわけでありまし

て、そうしたらまちがいなく、納税者にはならな

いということははっきりしてるわけですね。しか

し、1人でも2人でも、そういう若者が、社会的

にちゃんと一人前になれるように、そしてできれ

ば自分でちゃんと税金を払うというような社会

人になれるような支援を、市民として、市民の社

会貢献というんでしょうか、とりわけ中小企業の

方はそういう立場に立ちやすいような立ち位置

にあると思いますので、お願いしたいわけであり

ます。

それでレジュメ2番目の①に、社会的養護を離

れる若者に必要なこと。②に社会的養護を離れる

前に必要なこと。③には社会的養護を離れてから

あと必要なこと、というように私は整理していま

す。3番目からいいますと、とにかく施設を出て、

あるいは里親さんから離れて話し相手というん

でしょうか、とにかく自分が何かで困ったときに、

本来は施設職員や里親さんが話し相手になって

くれればいいんですけれども、いろいろな都合で

そうなれないような子どもさんには、おっちゃ

ん・おばちゃん的な中小企業のおじさん・おばさ

ん、しかもそれはその中小企業のおっちゃん・お

ばちゃんのところで中高校生のときに就労準備

の実習をしたことがあるという、背景があるから

可能なわけです。だから、かたちだけ見たら社会

的共同親プロジェクトというのは、施設に入って

いる中高生を夏休みや春休みに中小企業の方々

に実習をさせてもらおうということのように見

えるんですけどね。もちろん、実習をしてもらう

ということも大切なんですけれども、むしろその

あとのほうが大事なんですね。実習をすることに

よって、その実習を受け入れてくれた中小企業家

さんは、女性であれ男性であれ、おっちゃんであ

れ、おばちゃんであれ、そのあと、あの子はどな

いしてるんだろうかなあ、ほんなら一回施設に行

ってみようか。そういうきっかけになるためには、

そういう実習のまとめの会というんでしょうか、

反省会・報告会みたいなものが施設でありますの

で、実習を受け入れた方は全部、そこに行って反

省会に参加して、実習をした若者ともう一回顔を

合わせて、しっかりしていて頑張ってるかと、自

分のところで実習したことによって、将来の仕事

でどういうところに就きたいかということにつ

いて、いい影響があったのかどうかというのは、

確かめることができるわけですね。

そういうようなことで、施設を出てからのいわ

ゆる大人の存在というようなことで、ほんとうは

中小企業家さんでなくても別にかまわないわけ

です。一般市民の方々が、そういう関心を持って

施設の子どもたちの話し相手になればいいんで

すけれども、まるで接触したことがないような大

人ならそういうわけにもいきませんので、なんら

かのきっかけを。施設の子どもたちに音楽を教え

るとか、英会話を教えるとか、習字を教えるとか、

Page 67: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

いわゆる学習ボランティアだとか趣味のボラン

ティアというようなことを通してやるというこ

ともありうるわけですが。皆さんの大多数は中小

企業家さんですので、中小企業家さん方は自分が

やってる仕事をベースにして、ある意味で施設の

子どもたちと交わることができるということな

ので、施設におる間にそういうかかわりをまずや

って、そこから少しずつおっちゃん・おばちゃん

と施設を離れた若者というようなかんじになっ

ていただければいいわけですね。

ですから、2番目の②のところですね。離れる

前に必要なことが、実習に行くことなんですけれ

ども、それはたぶん施設の方だとか里親さんも、

もうすでにかなり意識されていると思うんです。

中3とか高3の年齢になると、やはり自分が将来

どういう仕事に就くか、就きたいのか、あるいは

そのためにどういう高校に進学するのかとか、あ

るいはどういう大学や専門学校へ行きたいのか

というような気持ちをだいたい普通は持つんで

すね。一般家庭の子であれば、そのことだけを真

剣に考えればいいわけです。

なんとなれば、学費であるとか、あるいは下宿

をどこにするとか、そういうことについて悩む必

要がないからです。ところが施設を離れる子ども

たちは、要は進学したいんだけども、学費は誰も

出してくれない。となると僕は、私は進学できな

い。俺はほんなら中卒で就職するしかないんだ、

俺は、私は 18 歳で高校を出たらすぐに就職する

んだというような、見通ししかないわけです。だ

から同級生が、大学進学の学科選びのことについ

て、志望校の話なんかをしているときに乗ってい

けないわけですね。そうですので、これは施設に

入ってるときに、できれば 15 歳ぐらいから、将

来はどういう方向に進みたいのかというような

ことを、やはりある程度、本人に決めさせるよう

な働きかけを、施設でも里親でもやらなきゃいけ

ないのでしょうね。

3番でイギリスのことについて私は触れない

と言ったんですけども、そこのところの3番目の

ところを一言だけ言っておきます。イギリスでは、

義務教育が終わる 16 歳になれば、そういう子ど

もたち一人一人に個別アドバイザー、パーソナル

アドバイザーという大人の人が一人一人にはり

付くようになっています。これは、施設職員でも

里親さんでもありません。外部の人が、はり付か

なきゃならないようになっているわけです。です

から 16歳ぐらいから 22~23歳ぐらいまでその人

がずっと、その子の話し相手になるということで

す。これはもちろん自治体の人から手当をもらっ

て、仕事としてやるわけですのでボランティアで

はありません。ただしその人は、そういう、将来

どういう仕事に就きたいのかとか、どういう住居

に住むのかとか、どういう学校に進むのかとか、

そういうことについて全部、相談に乗らなきゃい

けないということになるんですね。それから社会

的養護から離れたら、最低限5年ぐらいは若者が

どこで何をしてるかということは、所在をいつも

しっかりと把握しておらなきゃならないという

役割があるわけです。そういうものが日本でもで

きたらいいんですけど、なかなか難しいですから、

要は話し相手の対象になるようなおっちゃん・お

ばちゃんみたいなものを何とかして、施設におる

間に人間関係を築いておいて、出たらそのおっち

ゃん・おばちゃんの所に相談に行けるという、そ

のことが保障されるのですから、それは重大なラ

イフ・チャンス保障となります。

施設の職員の方には多少、耳が痛いかもしれま

せんけれど、そういうことを施設の人がやってく

れれば、我々、こんなことは全然考える必要はな

いわけです。しかし、やっぱり早く施設から出た

いというような子どもたちや、あるいは、施設の

先生にそんなこと言えるかいなというような子

どもたちの声は、逆に言うと、施設を出て施設に

相談に帰るということは、あいつはもう失敗した

んだなと、あいつはもうだめだったんだなという

ような扱い方をすることがありますので、なかな

か施設に足が向かないんですね。というわけで、

自分自身で問題を解決しようということになっ

て、やっぱり下り坂の道を歩むということになる

わけです。それで、できれば外部の人でそういう

大人の相談できる人がいたらいいということに

なりますね。

さてレジュメの1番ですが、社会的養護を離れ

る若者に必要なことと書いてあるんですけども、

2番と3番のところを踏まえていいますが、ここ

のところが少しわかりにくくなるんですけどね。

Page 68: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

15歳や 18歳の若者にとっては、自分がなんで施

設におるのか、自分がなんで里親さんのもとで暮

らしてきたのかとか、そういうふうな心理・社会

的に言えば、自己同一性というようなものが出来

上がっているかどうかということです。自分のこ

れまでの 15年間なり、あるいは 18年間なりで生

き方についての納得はできているかどうかとい

うことです。

これは、僕の教え子なんかが、イギリスのライ

フストーリーワークと言われているようなもの

を施設の子どもたち一人一人にやらなきゃいけ

ないというようなことで、自分の勤める施設で実

践していますが、イギリスなんかではずいぶん昔

からやっているんです。施設で暮らしてる子ども

一人一人が、自分の家族と自分の関係はどないな

ってるんかとか、そういうことがはっきり自分の

中で納得できてないと、これからのことについて

の意味がなかなかはっきりしたかたちでもって、

構想できないわけです。そんなことよりも 15 歳

や 18 歳になってまだ、自分の親は自分を迎えに

来てくれるんだろうかとか、自分の親は自分に対

して何をしてくれるんだろうかなあということ

について、もやもやしておったら、もう全然、あ

る意味ではっきりと自分の将来の夢みたいなこ

とを持つことができない。こういうふうになって

しまうわけです。僕の教え子はそれを「あいまい

な喪失感」と名づけ、研究しています。

だから、社会的養護から離れる子どもたちにと

って、本当に一番大切なことは、もう自分はこの

道で行くんだというふうなことを、施設を離れ、

社会的養護を離れる前にはっきりと自分でもっ

て考え出せるような心理的な状態でしておかな

いと、後が大変なことになるのです。そんなこと

ができてなくて、とにかく年齢がきて学校を卒業

して、ある意味で放り出されたいり、あるいは出

ていかなきゃならないということになってしま

うと、そのあとのことは、予想通り坂道を下ると

いうようなことになるんです。

日本でも、厚労省が 20 歳の誕生日になるまで

は施設での生活を延長してもよろしいと通達し

ているんです。これは皆さんご存知だと思います。

国は 18 歳、19 歳の子どもを施設や里親さんが、

措置延長というかたちで預かってもいいと言う

てるんですけれども、実は延長することになって

も国は委託費・措置費を半分しか出しませんので、

あとの半分は都道府県や市町村の折半になり、自

治体負担になりますので、赤字が続いている自治

体がそういうことを積極的にやるはずがありま

せん。ですから、大多数の自治体はそんなことを

積極的にはやりません。児童相談所に施設の職員

が、この子はすいませんけど 20 歳までおらせて

くださいと言ったって、ほとんどの児童相談所は、

それは認めませんね。そんな具体例を言うと、み

んな子どもが 20 歳までおりたいと言ってしまい

ますので、それはもう非常に厳しい組織規準です。

日本全体で 100人ぐらいしか、措置延長を受けて

ないそうだと聞きましたから。3000人か 4000人

ぐらい毎年施設を出るのに、100名ぐらいですか

ら、ごくわずかの子しかそういうふうな扱いをさ

れないということで、なかなか難しい。

大多数の子どもはとにかく、中卒で出る子も結

構おりますけども、大多数の子は 18 歳で出るわ

けです。出なきゃならないというふうにほとんど、

高3ぐらいになると自分でもって自覚するわけ

です。施設から大学に行けたらなあというふうな

気持ちを持つ可能性が、ほとんどないわけです。

ですので、ますます早く施設を出たほうがいいだ

ろうという気になってしまうんです。

もうひとつ、『ハートネット TV』の番組の第2

回目のときに、東京都のいわゆる児童養護施設が

雇用している自立支援コーディネーターの話が

出てきてました。あれは、東京都のある民間施設

が自分のところのお金で、日常の世話をしたりす

るような保育士さんや指導員とはまったく別の

職種として、ある意味でイギリスのそういう専門

職なんかと非常によく似たような形でもって採

用してやってみたら、非常にうまくいったのです。

イギリスでも社会的養護を(施設ではなく多くは

里親家庭)を出ていく若者たちの中でも、非常に

社会的に排除される人口の割合が高くなった。だ

から若者が施設にいる間にいろいろと世話をす

るわけです。どういう進路に進みたいのかとか、

就職試験のためにさまざまな指導をするとか、あ

るいはいろんな所に実習に行かせて体験をさせ

るとか。社会的共同親プロジェクトでやっている

ように、適職探索の経験を積むとか、そういうこ

Page 69: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

とを専門にやる職員を雇用して、非常にいい実績

を上げたので、東京都の児童養護施設は全児童養

護施設にそういう職員が一人ずつはり付いてる

わけですね。しかし、1人の人件費はどれぐらい

でしょうか、500万か 600 万ぐらいを東京都が出

してるわけですけれども、ほかの自治体はそうい

うことをやる可能性はほとんどありませんので、

東京都のように金持ちの自治体であれば可能な

仕組みということになります。ゆくゆくそれは厚

労省が、全国の児童養護施設なんかにそういう職

員を置くということを決断してくれればいいわ

けですが、今のところでは、ほとんどそういう可

能性がありませんので、結局、京都で我々がやっ

てるような、ほぼボランティアとしての市民の自

発的な活動の中でそういう若者たちと人間関係

を作るような大人の存在というのが必要になっ

てくるわけです。

だいぶん時間が過ぎました。2番目のところは

私の説明ではわかりにくかったかもしれません。

要するに皆さんがそういう施設で暮らしている

子どもたちととにかく何らかの人間関係を作っ

てほしいために、施設で暮らしている若者たちの

不安であるとか、自分の行く末についての心配事

であるとかいうようなことについての共通事項

みたいなものを説明したわけであります。

レジュメの4番目のところ、イギリスのところ

は飛ばしますが、一言だけ触れておくと、イギリ

スでももちろん 18 歳までが社会的養護対象の年

限になってるわけです。イギリスも基本的には

18 歳になれば、社会的養護は離れなきゃならな

いんですが、2年前に新しい仕組みを作りまして、

これがなかなかおもしろいんです。日本にもこう

いう考え方が近いうちにできてきたらいいんで

すが。何かというと、そういう若者を社会に出す

ためには、若者たち自身が、俺は、私は、もう社

会に出る自信がついたというふうな気持ちに本

当はならないといけないわけです。日本やあるい

はそれまでのイギリスの若者たちも、不安と心配

と自信のなさでもって無理やりに社会に押し出

されていたんです。

イギリス政府は、そういうことを懸命に調査し

てはっきりさせました。22 歳の誕生日を迎える

までは、里親であれ、家庭であれ、あるいは施設

であれ、本人が希望すれば滞在し続けることがで

きるというふうな法律を通過させたわけです。考

え方は、単純に言えば日本なんかでも 20 歳を過

ぎて 21 歳までいわゆる施設や里親さんで暮らせ

るというふうなことが、イギリスではできるよう

になったわけです。次第に成果が出てきていると

いう調査報告がでてきています。実社会に出る年

限を遅らせたということは、やっぱり失敗する若

者の数を減らすということにつながっているみ

たいですね。イギリスだって、そういう里親さん

を離れたとか施設を離れた若者たちは、社会のど

ん底でもってホームレスや、あるいは十代で未婚

の母になる可能性というのは非常に高かったわ

けですが、そういういわゆる社会の病理が目に見

えるかたちで少なくなってきているのはそうい

う施策のおかげでしょう。

しかし 18歳・19歳・20歳・21歳と4年間も、

たくさんその子どもたちに対して国は税金を使

って支援をせんとあかんわけですから、膨大な、

やっぱりこういう児童福祉予算というよりも、18

歳でイギリスの若者はもう大人になっているわ

けですから、そういう経歴や生い立ちの子ども、

若者に対して、やっぱり手厚く、社会的自立をす

るための予算を組んでいるということなんです

ね。

そういう説明をすればきりがありませんので、

最後のまとめに入りたいんですけど。じゃあ今日

皆さんが 100 名以上集まっておられるわけです

けれども、一部は中小企業家さんでない人もおる

んですけれども、やはり前川さんや楠本さんがや

られているようなことを自分としてはどういう

ふうに引き受けるのか。あれは彼らが勝手にやっ

ていることだ、ないしは俺にはあんなことはでき

ないというふうに思うのかどうかですね。同友会

の会員の…

中断 (録音が途切れていました)

…大切なのは、社会的養護の子どもたちに関心を

持ち、あるいはそういう子どもたちを支援する、

そういう子どもたちに関わる、あるいはそういう

子どもたちの抱える問題にかかわり、問題そのも

のを自分が知るというようなことですね。

Page 70: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

これは今日配布した東京のブリッジフォース

マイルという有名な、そういう施設を離れる子ど

もたち、施設を出る子どもたちを支援する専門団

体があるんですが、そこのウェブサイトに載って

いるものです。社会的養護の子どもと一般市民の

かかわり方の種類というのが四つに分けて書い

てありますね。

1番、金品による支援という参加。2番、ボラ

ンティア活動を通じての支援という参加。3番目

は、こういう社会的養護についての問題について、

そういうことについて知ることと伝えること、で

すね。つまり大多数の国民はそういうことについ

て知らないわけですので、まず知ったということ

だけでも大きな前進なわけですね。そういう意味

では、皆さんはこの段階はもうクリアしておると

いうことです。しかし後半のところの伝えること

というのは、まだ果たしているかどうかはわかり

ません。今日集まったのがご主人であれば奥さま

にとか、あるいはご親戚の方にとか、あるいは奥

さまであればだんなさんとか子どもたちに、ちゃ

んとこういう問題の存在について知らせるとか

啓発をするというようなことを、そういうことだ

けでも顕微鏡的に見れば、こういう問題について

の支援もするということになるわけですね。

1番とか、とてもおもしろいですね。とにかく

直接子どもたちと触れたくないという人は、お金

を寄付してください。あるいは物品の寄付でもい

いんです。古本でもよろしいというふうに書いて

ありますね。古着は困りますけどね。我々の社会

的養護プロジェクトに寄付してくれといってい

るわけじゃありません。こういうことをやるため

に、施設は施設でもってやっぱり出費がいるわけ

ですので、ぜひ施設のほうに寄付を、この目的だ

けに絞って寄付をすることは非常に好ましいし、

いちばんの金品提供になると思うんです。

それで4番ですね。企業、特に中小企業の方の

支援の参加のやり方というのは、もちろん企業と

して寄付をする、ないしは人材を派遣するとか、

あるいはオフィス環境を提供するとか、あるいは

ネットワークを提供するとかいろいろとあるで

しょう。はっきり言いまして、いわゆる施設に入

っている子どもたちの職業体験プログラム、ある

いは実習プログラム、そういうものを提供して実

習をさせてあげるということが、ある意味で企業

家として非常にやりやすいような支援のあり方

だと思うんです。

ブリッジフォースマイルの4番のところのい

ちばん最後のところに、中高生の職業体験プログ

ラム、ジョブ・プラクティス実施というのが書い

てあるんですね。これは専門機関ですので、関東

の何百社・何千社の会社と契約をして、東京ない

しは神奈川、あるいはその他の関東の施設の子ど

もたちを実習に送るためのデータベースをつく

ったりして、仲介として非常に大規模にやってい

るわけですね。ブリッジフォースマイルというの

は、有名なパソナという会社の社会貢献部門です

から、パソナがそういうことをやるための職員の

人件費を、たぶん4~5人分ぐらいは払っている

んでしょう。それから立派なオフィスを設けて、

事務費なんかも全部払っているわけですから、ど

れぐらい持ち出しをしてるのか知りませんけど

も、そういう意味では非常に専門的な機関である

わけです。

だけど皆さん、社会的共同親プロジェクトの京

都の我々がやっていることはそこにとどまらな

いわけですね。職業体験プログラムだけで東京の

プログラムは終わってしまうわけです。実習を受

けた企業家さんと、そういう実習をした施設の子

どもさんたちの人間関係というのは、終わったら、

もうそこでもっておしまいなんですね。公式な関

係が終わったら、おそらく、むしろ腐れ縁という

んでしょうか、そういうものがないように、その

場でもって一応関係は終了ということになって

しまうわけですね。そういう意味ではまったくか

たちは似ているんですけども、我々が目指してい

るものはちょっと方向が違います。実はそれから

あとが京都方式では重要になってくるわけです

ね。おそらく東京のこういう専門機関がやってい

るような実習、おそらく全国規模で、施設の子ど

もが長期休暇のときに職場体験をするというよ

うなことは各地でやられているわけなんですけ

ど、しかし唯一その実習の機会を通して、実習を

する中高生と実習を受け入れた大人が、そのあと

も施設を訪問して交わりの機会を設けるとか、あ

るいは直接や間接に誕生会に招かれるとか、クリ

スマスのときにケーキを持ってくるとか、あるい

Page 71: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

は年賀状をもらうとか、そういうインフォーマル

な関係を築けるというような部分もできている

関係ですので、非常にユニークな実践だと私は確

信しています。

たぶんNHKが、なぜ『ハートネット TV』の

ときにブリッジフォースマイルと、それからいわ

ゆる有名な東京の施設が設置した、施設を出た子

どもたちのための専門的な機関、「ゆずりは」と

いう機関を紹介したその二つの間に、京都方式を

やっぱり紹介しているというのは、それなりの理

由があるからでしょう。専門機関は専門機関とし

て必要でしょう。しかし専門機関でないような貢

献の仕方という、つまり一般市民ができることを、

どういったようなかたちでもってやるかという

のを考えたときに、京都の我々がやっている方式

というのは非常にユニークなものだと思います。

東京のように専門機関が設置できないような、地

方のさまざまな施設や里親で暮らしている子ど

もたちのためには、むしろ共通的にできるような

実践としては、東京のものよりはより普遍的な社

会的養護への市民貢献モデルになるのではない

でしょうかね。

NHKのディレクターというのは、やっぱりそ

ういうところを見ているんですね。だから我々の

京都の実践というのを取り上げてくれたのでは

ないかと思います。ほかにある専門機関、専門的

なそういう組織というのを取り上げれば、たぶん

探したらあると思うんですけど、そういうのをや

っぱり出さなかったということが、ある意味でN

HKのディレクターの見識だと思いますけどね。

逆に言うと、我々はそれだけ、ある意味で非常に

大切な試みだということでもって全国的に紹介

されたわけでありまして、だから今日も役員の方

に聞きますと、そのテレビ番組を見て、今日のこ

の研修会に参加を申し出たという方があるとい

うことを聞きまして、私もびっくりしました。や

っぱりテレビの力というのは大きいですね。その

方もこれを機会に、中小企業側ではないにしても、

ぜひ施設の子どもたちを助けてあげるような、な

んらかのかたちでの支援をしていただきたいで

す。

さて、もうまとめに入りたいと思います。むす

びに私が書いておりますが、社会的養護で暮らす

子どもや若者、社会的養護を旅立つ若者が、1人

でも2人でも夢を持てる状態が起るよう支援す

るのが目標ですね。ヒューマンライフウォッチの

調査報告のレポートには「夢が持てない」と書い

てありますね。これはヒューマンライフウォッチ

が調査したときに、大阪の 90 名の大規模施設が

VTRに出てましたけれども、その施設で暮らす

若者に、実質的にこのレポートを作成した猿田弁

護士が尋ねたわけです。「君は将来この施設を出

たら、なにをするの、どんな夢を持ってるの」と

質問したら、「夢なんかあるわけねえだろう」と

つっけんどんに答えたというエピソードをタイ

トルにしているのです。夢が持てない、夢なんか

持てるはずはないでしょう、僕らがどういう生活

をしているのか、僕らがどういう立場であるかと

いうのは、あんたら、ちゃんとわかってるのとい

うような意味合いで答えたらしいんです。夢が持

てない、まったく将来がどうなるか自分にもわか

らない、夢なんか持てるはずがないという率直な

応答があったわけですね。だからレポートのタイ

トルになっているわけです。しかしそれは大なり

小なり、すべて施設で暮らしている若者たちが持

っている課題なんです。ですので、そういう夢が

持てないような社会に放り出された若者が、税金

を払うような社会人になるはずがありませんね、

そうでしょう。ですから我々がやっていることは、

決して大きなことをやってるわけでもない。京都

市内、あるいは京都市、あるいは京都府下の施設

や里親で暮らしている子どもたちの1人でも2

人でも、自立できるような子どもが出ればそれで

いいわけです。我々は2年間ぐらいやっています

けど、数えるぐらいしかそういう関係が保ててい

る子どもはいませんよ。何十人も何百人も、そう

いう子どもたちと関係が保てて、おっちゃんやお

ばちゃんとの関係になっている、なれているわけ

ありません。だって楠本さんと前川さんを中心に

そんなに多くない中小企業家が中心となってや

っているわけですからね。数は多くなくても、そ

れぞれが数人の若者のおっちゃんやおばちゃん

になっているわけですからね。

今年も新しく迦陵園という施設が加わってく

れたんですけども、しかしそれで何十人の子ども

たちとそういう関係が持てるわけでもありませ

Page 72: 2014年度 ACTR京都社会的共同親プロジェクト報告書2

ん。ほんとにやることは非常にささやかな小さな

ことなんです。しかしそのことによって、我々の

プロジェクトによって、1人の若者が転落しなか

った、下り坂の人生の道を歩むようにならなかっ

たら、これこそ我々のプロジェクトが存在した意

味があると思うんですね。そういうことで、「夢

が持てる若者を1人でも2人でも」ということで

もって、今日お話をしたわけです。

4番のところにまた書いてありますけども、ど

うぞ同友会の会員の方で、特に今日ここに集まっ

てくださった方々の1人でも2人でも、我々のプ

ロジェクトに、それこそ参加していただきたい。

参加してもらえない人でも、先ほどの参加の仕方

があります。寄付でも古本でもなんでもよろしい。

あるいはそういう問題について誰かに啓発する

ことでもよろしい。あるいは 100 円でも 200円で

も寄付してくれることでもよろしい。それぞれが、

1人1人がこういう問題とかかわるかかわり方

というのは、ほんとうに創造性に富んだ営みだと

思うんですね。これは中小企業の方だったら、や

っぱりすぐにイノベーションということなんで

すね、産業的に新しい製品をつくるためのイノベ

ーションということをいうんです。しかしそうい

う工業や産業だけでイノベーションじゃなくて、

やっぱり社会をどういうふうなかたちで、あるべ

き子どもや若者を大切にする社会に導くかとい

うことについて、市民1人1人がやっぱりイノベ

ーションをしなきゃいけないですね。皆さんはほ

んとに中小企業家として、イノベーションのこと

をいつでも考えながら自分の事業を展開してい

ると思うんですけれども、ぜひこういう社会的養

護で暮らす子どもたちに援助するための作戦と

いうんでしょうか、創意工夫において、自分のイ

ノベーション、マイイノベーションというのをつ

くりあげていただきたいと思います。

そういうことのために、これからグループディ

スカッションというのがあるわけですので、ぜひ

私のつたない話を材料にして、かんかんがくがく

話し合っていただいて、よっしゃ俺は、よっしゃ

私は、これでもって私のイノベーション、かかわ

りというのを築いていきたいなというようなこ

とを、グループディスカッションの結果で意思決

定してくだされば非常にありがたいことであり

ます。

以上、時間がきましたので私の話をこれで終わ

りますが、どうぞこれから 30 分間ありますグル

ープディスカッションで、マイイノベーションを

つくり上げてください。

ご清聴感謝いたします。本日はありがとうござ

いました。

Ⅴ 総括に代えて 代表 津崎哲雄

プロジェクト代表とはいえ名ばかりで、僅かに府大 ACTR 予算執行の調整

役として、プロジェクトの裏役に徹しさせていただいた。そうした裏方の立

場から、本プロジェクトを鳥瞰する所感を二、三記し、2 年間にわたるプロ

ジェクト代表としての課業を全うしたい。

まずは、京都中小企業家同友会会員の社会貢献への潜在的可能性が、この 2

年間の就労準備支援実習受入れと事前事後の子どもらとの交流を通し、見事

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なまでに実証されたことです。これは絵空事ではありません。施設で暮らす

子どもと実習を受け入れた中小企業家の間の人間関係が、実習をとりまく

種々の交流を通して、子どもに将来展望の可能性、すなわち夢を与える具体

的契機となって出現することとなったのです。これは社会的養護という放置

されてきた分野への新たな市民参加活動であり、中小企業家によるイノヴェ

ーションといえましょう。しかも、これは中小企業家がいれば全国どの地域

でも実行でき、どの地域にも一つや二つの社会的養護資源(施設・里親・フ

ァミリーホームなど)は必ず存在しているから、その気になれば可能なので

す。この活動の拡がりがある意味で、今後日本の社会的養護が現代化するか

どうかの試金石となりうるかもしれません。

次に、前川さんが巻頭言で言及されているように、「体制が整ってから」と

しり込みし続けていれば、結局新創意工夫にみちた新たな支援活動には取り

組めません。「体制が、予算が、職員が、経営者の…行政の…労組の…同意が

整ってから」と戦後 70 年間、子どもたちは放っておかれ続けてきたのです。

このプロジェクトは、ある意味で実習に参加した個々の子どもたち以上に、

送り出すための準備・実習中の支援・事後の指導とまとめという新たな課業

に取り組んだ施設職員にとって、新たな専門職的展望に眼を開かれたはずで

す。信頼できる大人(自分)との人間関係が個々の子どもに提供できている

職員は絶無ではないでしょうが、多くはないと思います。施設職員の仕事に

は子どもへの日常的な世話だけではなく、一人ひとりにライフチャンス(人

並みの大人になるために必要な人生の機会=信頼できる大人との関わり、高

等教育への進学、地域での種々の社会教育・スポーツ活動などを経験して人

間形成を一般家庭の子らと同様に行う)保障するお膳立てをする課業も併せ

もっているはずです。施設から社会へ自立させられる若者たちが自分の将来

に明確かつ現実味のある展望を抱けるためには、発達段階に応じた種々のラ

イフチャンスを体験していなければなりません。実際はどうでしょうか。

もちろん、現状では施設での職員:子ども関係は、そうした課業が十全に

果たせるよう想定されてはいません。自らができそうもない課業は、できる

外部の人間に手伝ってもらい、少しでも子どもの将来展望に道が開けるよう

な外部の人的資源につなぐ仕事も施設職員には不可欠な課業のはずです。そ

うした外部の人的資源には児童相談所職員が理論的・形式的な施策上では想

定されるはずですが、諸般の事情によりそれはほぼ不可能ですから、ある意

味で、施設職員が児童相談所ソーシャルワーカーの機能の一部を代替せねば

なりません。ここにプロジェクトの必然性があります。中小企業家と子ども

の間の信頼関係(ラポール)が成り立つよう諸局面から、子どもを、そして

実習受入れ者である中小企業家を職員が応援(支援というよりは)するので

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す。子どものライフチャンスを保障する支援こそが施設職員の専門性であり、

この側面での不十分さが長い間この分野では見過ごされてきたのです。

通常は、あるいは常識的には、施設職員が中小企業家に担当する子どもの

就労準備支援実習を依頼するというパターンでしょうが、ここ京都ではそれ

が中小企業家の方から率先してアプローチしてくれているのです。この好機

をみすみす逃すことはないと思います。その点からも、本年度にあるファミ

リーホームから依頼があったことの意味は重大かつ貴重です。周りにいる大

人が個々の子どものライフチャンス保障にどれだけ真剣に取り組んでいるか、

ということでしょう。

最後に、本プロジェクトは京都府立大学 ACTR による 2 年間(とはいえ実

質は報告書作成と会場費などですが)の支援から離れます。施設や里親家庭

から離れる若者と同様、本プロジェクトにいよいよ自立が求められています。

中小企業家さんには、実習配属の職場を提供するだけではなく、本プロジェ

クトへの他の次元での支援も期待したいですが、この面での支援は一般市民

の方々へぜひお願いいたします。楠本貞愛さんの提案により開始され、前川

順さんはじめ京都中小企業家同友会社会問題研究会会員諸氏によって担われ

てきた本プロジェクトは、府民税活用の観点からは 120%アカウンタビリテ

ィが保障できたといえるでしょう。この 2 年間における府税投入が、社会的

に自立し、職業人として国税・府税・市税・町村税を払い込める若者を一人

でも二人でも世に送り出せる基盤の整備に通じているのであれば…。2 年間

の関わりを通じて筆者はそのことを確と信じかつ期待し、筆を擱きます。

社会的共同親プロジェクトよ、京都を超えて拡がれと祈りつつ。

『2014年度京都府立大学 ACTR・京都京都社会的共同親プロジェクト:みんなで拓こう 子どもの未来報告書 No2 2014』

発行日 2015年 3月 31日 発行者 京都社会的共同親プロジェクト

(京都府立大学 ACTR・京都中小企業同友会社会問題研究会) ・〶606-8522京都市左京区下鴨半木町 1-5京都府立大学津崎哲雄

研究室 ☎&Fax 075 703 5328 Email [email protected] ・京都中小企業家同友会・社会問題研究会(前川順) 〒615-0042京都市右京区西院東中水町 17 (京都府中小企業会館 4F) TEL:075-314-5321 FAX:075-314-5323 E-mail:[email protected]

(本書の無断での引用・複写を禁じます。 引用希望の際は上記にお申出ください!)