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アベノミクス総点検 ー金融政策15年の議論ー 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 19857198641987119871019887198941990119901019917199241993119931019947199541996119961019977199841999119991020007200142002120021020037200442005120051020067200742008120081020097201042011120111020127基準貸付利率 無担保コールレート (出所)日銀

20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

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アベノミクス総点検  ー金融政策15年の議論ー

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2003

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2004

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2005

年1月

2005

年10

2006

年7月

2007

年4月

2008

年1月

2008

年10

2009

年7月

2010

年4月

2011

年1月

2011

年10

2012

年7月

基準貸付利率

無担保コールレート

(出所)日銀

(出所)日銀

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アベノミクス3本の矢

•  これからの2年間をデフレ脱却への集中対応期間と位置付け、政府・日銀一体となった取り組みが必要

•  想定されるのは、①金融政策、②財政政策、③成長戦略を組み合わせた三段構えの対応。一層の金融緩和を実施 する中で、財政政策から成長戦略へのバトンタッチが重要に

(資料)みずほ総合研究所の資料を参考に作成

Page 4: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

安倍政権の経済政策の方針

(資料)みずほ総合研究所の資料を参考に作成

•  コンクリートから人へ  •  ムダづかいの根絶  •  国民の生活が第一(鳩山政権、菅政権)  •  強い経済、強い財政、強い社会保障(菅政権)  •  誰にも居場所と出番がある共生社会(野田政権)  

民主党政権

•  経済、外交、安保、教育、暮らしの危機を突破  •  金融政策、財政政策、成長戦略の「三本の矢」によ

るデフレ脱却  •  「縮小均衡の分配政策」から「成長による富の創

出」へ  •  世界で一番企業が活動しやすい国へ  •  海外投資収益の国内還元を成長に(産業立国、

GNI大国)  •  ハイブリッド経済(産業立国+貿易立国)

安倍政権

政府

家計

企業

政府

企業

直接給付 消費増

・投資増  ・利益増

雇用増・賃金増 税収増

税収増

社会保障改革  ⇒分配   ・所得増  

・将来不安払拭  

企業支援  

有効需要創出  

雇用増・賃金増  

消費増  税収増

税収増

・所得増  

家計 ⇒パイの拡大

・投資増  ・利益増

⇒  分配  

生活者重視   プロビジネス(企業活動重視)  

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政権交代に伴う経済政策主要10分野の政策変化

(資料)みずほ総合研究所を参考に作成

項目 政策の変化の度合い 政策の変化の方向性 問題点・リスク

① 成長戦略 一定の変化 ・製造業を営む産業競争力強化に力点(プロビジネス)・GNI(国民総所得)の 大化を図る。

・戦略を一から議論するため。時間がかかる(結果的に特定される重点分野が従来のものと重複する可能性も大)

② 金融政策 大幅な変化 ・デフレ脱却に向けて、より大胆な金融政策を日銀に求める姿勢 ・物価目標未達時の日銀の信認低下や、インフレ懸念の高まりによる長期金利上昇リスクも

③ 財政・税制 大幅な変化

・12年度は「国債44兆円枠」を突破。当面は機動的な財政政策を推進。・6月に「骨太の方針」を策定し、財政健全化に向けた方針を定める。

・財政健全化に関するマーケットからの信認が得られないと金利上昇リスクも。

④ 通商政策 実質的に大差なし ・TPPへのスタンスは、野田政権に比べやや慎重 ・TPP交渉参加の意思決定が遅れれば、日本の国営機を反映させる余地が乏しくなる。

⑤ 震災復興・国土強靭化

大幅な変化 (国土強靭化)

・復興を重視する姿勢は民主党政権と変わらず。・国土強靭化に向け予算を増額し、既存施策の量的拡大を図る。

・震災前からの地域の構造的問題は解消されない可能性も。

⑥ 社会保障 一定の変化 ・原稿制度をベースに必要な見直しを図る。・70〜74歳の医療費の自己負担引き上げの判断は参院選後に先送り

・給付の適正化が遅れれば、社会保障が財政圧迫要因に。

⑦ 地方分権 一定の変化 ・民主党政権が導入した地域自主戦略交付金(使途が制限される補助金からの転換)を廃止へ

・交付金制度の再設計など、財源移譲が課題。

⑧ 環境・エネルギー 大幅な変化 ・より現実的な政策方針(原発依存度の低下という方向性は民主党と共通するが、経済への悪影響をもたらす目標設定は避ける方針)

・電源構成のベストミックスの確率に時間がかかる(10年以内に確立する方針)

⑨ 雇用・子育て 一定の変化(子育て)

・雇用政策は、大枠で民主党と大差なし。・子育て支援は、高校無償化に所得制限を設ける等対象を制限。

・「成長による富の創出」の政策方針のもと、企業収益が拡大しても、家計所得の増加に結びつくかどうかは未知数。

⑩ 農業 一定の変化 ・幅広い農業者層向けに支援強化(直接支払いの拡充、公共事業の再拡大)

・幅広い農業層向けの支援拡充は、担い手による農地集約を一層妨げ、農業再生への歩みを遅らせる可能性も

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デフレ脱却

「日銀がデフレからの早期脱却を目的として、金融緩和を推進している」(G20麻生太郎財務相)

「デフレ脱却に向けて私の考え方に共鳴していただける方を人選したい。確固たる決意と能力のある人ということに尽きる」(安倍総理 日銀総裁人事での発言)

アベノミクスは日本にとって妥当な解か。  「本質はデフレの解消だ。考慮すべきは3点。第1にデフレが日本経済の真の問題か。第2に構造改革との関係。第3に他国への悪影響だ」  (カリフォルニア大バークレー校のアイケングリーン教授)

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金融政策におけるイシュー

•  デフレから脱却  

•  インフレターゲットの設定  

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デフレの何が問題なのか?

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2009  

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2011  

2012  

CPI総合(前年比)

CPI総合

(出所)総務省

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インフレとデフレそれぞれのデメリット

インフレのコスト

デフレのコスト

1.  強制的な所得再配分機能(年金の受給者等)  2.  債務者に有利な、債権者に不利な所得の再配分が個人の努力とは

無関係に行われる。  3.  貨幣価値を下落させることで、国民の冨を強制的に減らす。  4.  貨幣価値の安定性を損なう。貨幣の交換手段としての役割が阻害さ

れる場合は、市場経済の効率性が大きく低下する。  5.  労働者の生活不安が高まり、賃金要求態度がより先鋭的・急進的に

なる。  

1.  デフレの元では、失業率が高いことが多い(フィリップス曲線)  2.  インフレとは逆の再配分が強制的に行われる。  3.  貨幣価値を上昇させる。デフレが深刻になると、将来もっと物価が下

がるかもしれないという予想が支配的になり、人々の買い控えが起こることもある。  

4.  人々のデフレ期待が高まると「実質金利」が上昇し。設備投資等の投資意欲が減退する(ゼロ金利政策を行っても、デフレ期待のため、実質金利はプラスになる)。  

(出所)中谷(2007)を参考に作成

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デフレの論点

•  デフレ(物価が持続的に下落すること)が問題である 大の理由は「社会のリフレッシュ」、すなわち新陳代謝を妨げることです。お金が社会の中で回らないために雇用が減り、ビジネスチャンスが減り、福祉やセーフティネットも切り詰められ、生きるための想像力や希望が狭められてしまう(勝間・宮崎・飯田(2010))。  

•  断言しますが、「良いデフレ」というものはありません。なぜなら、デフレというのはモノの値段が下がるという現象に付随して、様々なデメリットがあるからです。 大の問題は失業です。ほかにも住宅ローン破綻が増える、企業の倒産が増える、といった問題もあります(上念(2010))。  

•  いま国民生活に多大な苦しみをもたらしているのは、デフレと円高である。(浜田(2012))

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2000年前後におけるデフレの議論

1.  デフレでは産業構造の調整は進まない  

2.  不良債権問題も解決しない  

3.  財政危機が深刻化  

4.  銀行危機から脱却できない  

5.  生保の経営危機につながる  

6.  年金制度も破綻の危機に

岩田規久男編(2003)

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2000年前後におけるデフレの議論

1.  デフレでは産業構造の調整は進まない  

2.  不良債権問題も解決しない  

3.  財政危機が深刻化  

4.  銀行危機から脱却できない  

5.  生保の経営危機につながる  

6.  年金制度も破綻の危機に

岩田規久男編(2003)

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デットデフレーション

ある時点で過剰債務の状態が起こっていたとする。債務者と債権者がパニックに陥って、「債務の清算」へと走る結果を産む。

1.  「債務の清算」の結果、「投売り」が発生する。 2.  銀行ローンが繰り延べされないことにより、「預金通貨の減少」が生まれ、同時に

「貨幣の流通速度の低下」が起こる。「投売り」によって生じた、預金通貨と貨幣の流通速度の減少とは、次に、

3.  「物価水準の下落」、言い換えれば、「ドルの価値の上昇」を産む。もしも、この物価水準の下落がリフレ政策によって抑えられない場合には、次に

4.  「企業の純資産価値のさらなる低下」が生まれ、その結果、「破産」が起こる。そして

5.  「利潤の低下」が起こり、それが損失を生んでいる企業に、 6.  「生産」、「販売」、「雇用」の削減を促す。このようにして、「損失」、「破産」、「失

業」が積み重なる結果、 7.  「悲観論」と「自信喪失」とが生まれる。そのためさらに、 8.  「買い控え」が起こり、それがさらに一層、「貨幣の流通速度の減少」を深刻なもの

とする。こうした8項目が重なった結果は、 9.  「利子率の複雑な錯乱」である。すなわち、名目利子率は低下するのに、実質利

子率は上昇するのである。

Fisher,Irving(1933)、竹森(2002)

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金融危機の影響を取り入れた経済学のモデル

B.Bernanke,M  Gertler,S.Gilchrist(1996)"The  Financial  Accelerator  and  the  Flight  to  quality",Review  and  Economics  and  StaWsWcs,Vol78,pp.1-­‐15.  

資産価格の変動が企業の純資産の増減をもたらし、金融仲介機能を通じて実体経済の変動を大きくするというもの。デットデフレーションをモデル化。

外部ショックにより、地価が下落した場合、担保価値も下落し、結果とし経済活動も悪化するというもの。

Financial Acceraleter

Kiyotaki,N and John Moore(1997).“Credit Cycles”,Journal of Political Economy,Vol.85,pp473-492.

Credit Cycles

Fisher,Irving(1933).“The Debt Deflation Theory of Great

Depression”,Econometrica,vol.1,pp.337-357

デフレによる債務負担の増加とデフレの悪循環。1990年代後半の日本のデフレ現象を1933年時点で見事に表現していた。

Debt Deflation

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15  

金融危機からの実体経済への波及

F.S Mishkin(2009)”The Econmics of Money,Ban king and Financial Market”Addison Wesley

金融機関の BS悪化

資産価格の 下落

金利の上昇 不確実性の

増加

逆選択 モラルハザード悪化

経済活動低下

銀行危機

逆選択 モラルハザード悪化

経済活動低下

予期せぬ物価の 下落

逆選択 モラルハザード悪化

経済活動低下

第一段階 金融危機

第ニ段階 銀行危機

第三段階 デットデフレーション

金融危機を引き起こす要因

要因の変化による結果

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不良債権が経済を蝕む理由

不良債権があることを明示的にしないため、非効率な企業へ追い貸しを行うこと。いわゆる「飛ばし」。

不良債権問題が深刻になり、債務過剰企業が増えると、これらの企業が企業間サプライチェーンを破壊し不況を長引かせるという仮説。

Zombie Lending (追い貸し)

Peek,Joe and Eric S.Rosengre[2005].“Unnatural Selection:Perverse Incentives and the misallocation of credit in Japan”,American Economic Review,95,September,pp1144-1166(23). 等

デットディス オーガニゼーション

Ito,T and Y.N.Sasaki(2002) .“Impacts of the Basle Capital Standard in Japanese Banks Behavior”,Journal of the Japanese and International Economies等

金融危機により、銀行の自己資本が既存した銀行が、自己資本比率規制を達成するために、貸出を抑制する現象。

Credit Crunch

(貸し渋り)

小林慶一郎・加藤創太(2001) 『日本経済の罠』日本経済新聞社 等

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デフレは、不良債権問題と合わさった時、マクロ経済にとって大きな脅威となる。これはケインズやフィッシャーが強調した通りだ(Keynes(1931),Fisher(1933))。(中略)しかし、その後今日まで続く日本経済の閉塞状況の原因は、デフレ以外のところに求められるべきだ。筆者はそう考える。

出所:吉川(2013)

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不良債権比率推移

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500,000  

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2,500,000  

3,000,000  

3,500,000  

総与信 不良債権比率

(億円) %

(出所)金融庁 金融再生法開示債権等の推移

・竹中プランで不良債権を処理した後は、不良債権比率は長年2%をきっている状況。  ・直近において、隠れ不良債権の存在を指摘する声もある。

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なぜデフレの脱却が必要か

不良債権問題の処理

金融危機からの脱却

経済の活性化     

○処理済み

○リーマンショックでの

「金融面」での影響は限定的

×デフレ期待が経済を

減速させている

Page 20: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

インフレターゲットとは何か。  何のためにやるのか。  

どんなメリットがあるのか。

Page 21: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

日本銀行の金融政策、ことに量的緩和とインフレ・ターゲットをめぐる議論は、内外の経済学者、エコノミストだけでなく、政治家等も交えて、幅広い論者に広がっている。本来、専門技術的な問題にも関わらず、これほどまでの国民的な大論争となった経済学のテーマも少ないであろう。

小宮隆太郎+日本経済研究センター編(2002)「金融政策論議の争点 日銀批判とその反論」日本経済新聞社

Page 22: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

インフレターゲットとは

1.  金融政策の主たる目的としての物価安定を目指すために中央銀行が明示的にマンデートすること、並びにこの目的を達成するための実行の責任を追うもの  

2.  物価上昇に対して量的なターゲットを明示するもの  

3.  幅広い情報を考慮に入れた上で、インフレ圧力へのフォワードルッキングな評価に基づいた政策アクション  

4.  金融政策の戦略と実行の透明性

(出所)  Heenman,  Peter  ,and  Roger(2006)  白川(2008)

Page 23: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

インフレターゲットの実践例

インフレ率はCPI総合(英国はRPI総合)の前年比 データ出所:IMF  InternaWonal  Financial  StaWsWcs (出所):日本銀行企画室(2000)

インフレ・ターゲット採用国 非採用国

ニュージーランド

カナダ 英国 スウェーデン オーストラリ

ア 日本 米国 ドイツ

70年代 11.5 7.4 12.6 8.6 9.8   9.1 7.1 4.9

80年代 12.0 6.5 7.9 7.9 8.4 2.5 5.6 2.9

90年代 2.0 2.2 3.3 3.3 2.5   1.2 3.0 2.3

11.5  

7.4  

12.6  

8.6  9.8  

9.1  

7.1  

4.9  

12.0  

6.5  

7.9   7.9  8.4  

2.5  

5.6  

2.9  2.0   2.2  

3.3   3.3  2.5  

1.2  

3.0  2.3  

0.0  

2.0  

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8.0  

10.0  

12.0  

14.0  

ニュージーランド

カナダ 英国 スウェーデン オーストラリア 日本 米国 ドイツ

70年代 80年代 90年代

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現代マクロ経済学におけるインフレターゲット

(出所:加藤(2007))

本説を読んだ読者は、今後、もし「インフレ・ターゲッティングとは何?」と聞かれた場

合、「以下のような目的関数を持つ中銀が動学的 適化の1階の 適化条件に従って政策運営を行うという考え方」と回答をして

もらいたい。少なくともSvensson教授は100点をくれるはずである。

min :Et βjyt+ j2 +θ(π t+ j −π

∗)2#$ %&j=0

∑GDPギャップ インフレ率と目標インフレ率の乖離

中銀の目的関数は、GDPギャップとインフレ率の分散の加重和を無限期間に渡って 小化することである。

Page 25: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

実務会と学会の理解の違い

•  『インフレ目標政策』が、社会的な厚生関数を 大化する『動学的な 適化の枠組み』であるということ、さらに市場参加者に物価安定のためのアンカーを提供するものであることとする本質が十分に理解されていないことは、不幸なことである。  

•  具体的な望ましい物価上昇率の数値は各国で違いがあってよいが、本来「インフレ目標政策」は、物価を安定させることを目標とする政策であり、またGDPギャップの変動を小さくすることを目指す政策である(中略)、中央銀行が物価安定の重要性を極めて高く評価する場合にも、政策当局は、GDPギャップの変動に対応すべきであり、 適な利子率政策は、GDPギャップの変化に対応することが求められる。  

(出所)岩田(2010)

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マネーの増加は経済にどのような影響を与えるのか?

Page 27: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

ベースマネーとマネーストックの違い

ベースマネー

マネーストック

現金(日本銀行発券発行高+貨幣流通高)  +  

日銀当座預金(第2章)

M1=現金通貨+預金通貨 M2=現金通貨+国内銀行等に預けられた預金 M3=M1+準通貨+CD(譲渡性預金)=現金通貨+全預金取扱

機関に預けられた預金 広義流動性=M3+金銭の信託+投資信託+金融債+  

銀行発行普通社債+金融機関発行CP+国債+外債

※  現金通貨:銀行券発行高+貨幣流通高

預金通貨:要求払預金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備)−調査対象金融機関の保有小切手・手形  M1:対象金融機関(全預金取扱機関):M2対象金融機関、ゆうちょ銀行、その他金融機関(全国信用協同組合連合会、信用組合、労働金庫連合会、労働金庫、信用農業協同

組合連合会、農業協同組合、信用漁業協同組合連合会、漁業協同組合)  M2:対象金融機関:日本銀行、国内銀行(除くゆうちょ銀行)、外国銀行在日支店、信金中央金庫、信用金庫、農林中央金庫、商工組合中央金庫 M3:対象金融機関:M1と同じ。

準通貨:定期預金+据置貯金+定期積金+外貨預金 広義流動性: 対象機関:M3対象金融機関、国内銀行信託勘定、中央政府、保険会社等、外債発行機関

 

Page 28: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

日銀でコントロールできるマネーとは

中央銀行による公開市場操作

マネーストックの増減  銀行貸出(信用創

造)を通じて、マネーストックに波及

ベースマネーの増減  (日銀にある各銀行の当座預金)  

買いオペ・売りオペ  (第7章)  量的緩和  (第9章)

池上彰(2009)「日銀を知れば、経済がわかる」平凡社新書  第9章 P164  

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マネタリーベースとマネーストックの時系列推移

-­‐25  

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-­‐15  

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-­‐5  

0  

5  

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1999  

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2001  

2002  

2003  

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2005  

2006  

2007  

2008  

2009  

2010  

2011  

2012  

前年増減率

ベースマネー マネーストック

0  

2  

4  

6  

8  

10  

12  

14  

0  

2,000,000  

4,000,000  

6,000,000  

8,000,000  

10,000,000  

12,000,000  

2003  2004  2005  2006  2007  2008  2009  2010  2011  2012  

残高

ベースマネー マネーストック

(出所)日本銀行  マネーストックはM3季節調整済み  増減率については、2003年以前は、マネーサプライベースのM3を使用

単位:億円

% 信用乗数

Page 30: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

日銀当座預金残高がドンドン増え続けることを、金融業界では「ブタ積み」と自嘲する表現がうまれた。

0  

50,000  

100,000  

150,000  

200,000  

250,000  

300,000  

350,000  

400,000  

450,000  

500,000  

1981  

1982  

1983  

1984  

1985  

1986  

1987  

1988  

1989  

1990  

1991  

1992  

1993  

1994  

1995  

1996  

1997  

1998  

1999  

2000  

2001  

2002  

2003  

2004  

2005  

2006  

2007  

2008  

2009  

2010  

2011  

2012  

マネタリーベース平均残高/うち 日銀当座預金

マネタリーベース平均残高/うち 日銀当座預金

単位:億円

2006年  量的緩和解除

2010年  包括的な金融緩和策  

(出所)日本銀行

Page 31: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

GDPの構成

Y= C +  I  +  G  +  (EX  –  IM)   GDP 消費 投資 政府支出 輸出 輸入

純輸出

民間 終消費支出(C) 59%

民間住宅(I) 3%  

民間企業設備(I)

13%  

民間在庫品増加(I)

-­‐2%

政府 終消費支出(G)

19%  

公的固定資本形成(G)  4%

公的在庫品増加(G)  0%

純輸出(NX)  2%  

開差 0%  

0  

100,000  

200,000  

300,000  

400,000  

500,000  

600,000  

1994  

1995  

1996  

1997  

1998  

1999  

2000  

2001  

2002  

2003  

2004  

2005  

2006  

2007  

2008  

2009  

2010  

2011  

2012  

開差

純輸出

公的在庫品増加

公的固定資本形成

政府 終消費支出

民間在庫品増加

民間企業設備

民間住宅

民間 終消費支出

C

I

G

NX

(出所):内閣府 2012年1月〜12月実質 GDP

実質GDP

(出所):内閣府

Page 32: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

Y(GDP)

C(消費)

I(投資)

G(政府支出)

NX(純輸出)

項目 統計指標例 影響を受ける変数  

政策変数

支出面から見たGDP

現在及び将来所得(恒常所得仮説等)  不確実性(ランダムウォーク仮説)  金利と貯蓄(ConsumpWon  CAPM)  

金利  株価(トービンのQ)  将来の不確実性(不完備市場)等

為替(変動、固定)  貿易協定等

財政赤字  国債の発行状況(金利)等  

資本蓄積、人的資本、TFP  (GDPの供給面、経済成長理論)  

GDPの  支出面  

国内総生産(内閣府)  景気動向指数(内閣府)  日銀短観(日銀)  失業率(総務省)  

消費支出2世帯以上  (総務省)  

法人企業統計(財務省)  機械受注(内閣府)  

公共工事請負金額  (保証事業会社協会)  

輸出・輸入(財務省)  外貨準備(財務省)  

Page 33: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

【参考】マクロ経済学におけるIssue

•  Chap1  The  solow  growth  model  •  Chap2  Infinite-­‐horizon  and  

overlapping  generaWons  models  •  Chap3  New  growth  theory  •  Chap4  Real  business  cycle  theory  •  Chap5  TradiWonal  Keynesian  theories  

of  fluctuaWons  •  Chap6  Microeconomic  foundaWons  of  

incomplete  nominal  adjustment  •  Chap7  ConsumpWon  •  Chap8  Investment    •  Chap9  Unemployment  •  Chap10  InflaWon  and  monetary  policy  •  Chap11  Budget  deficits  and  fiscal  

policy  

•  第Ⅰ巻 はじめに  •  第1章 一般理論  •  第2章 古典は経済学の公準  •  第3章 有効需要の原理  

•  第Ⅱ巻 定義と考え方  •  第4章 単位選び  •  第5章 期待が算出と雇用を決める  •  第6章 所得、貯蓄、投資の定義  •  第7章 貯蓄と投資という言葉の意味をもっと考える  

•  第Ⅲ巻 消費性向  •  第8章 消費性向Ⅰ:客観的な要因  •  第9章 消費性向Ⅱ:主観的な要因  •  第10章 限界消費性向と乗数  

•  第Ⅳ巻 投資の誘因  •  第11章 資本の限界高率  •  第12章 長期期待の水準  •  第13章 金利の一般理論  •  第14章 金利の古典派理論  •  第15章 流動性を求める心理と事業上のインセンティブ  •  第16章 資本の性質についての考察あれこれ  •  第17章 利子とお金の本質的な性質  •  第18章 雇用の一般理論再説  

•  第Ⅴ巻 名目賃金と物価  •  第19章 名目賃金の変化   •  第20章 雇用関数  •  第21章 価格の理論  

•  第Ⅵ巻 一般理論が示唆するちょっとしたメモ  •  第22章 事業サイクルについてのメモ  •  第23章 重商主義、高利貸し法、印紙式のお金、消費不足の理

論についてのメモ  •  第24章 結語:『一般理論』から導かれそうな社会哲学について  

ケインズ(1936)「雇用・利子・貨幣に関する一般理論」   D・Romer(2003)「Advanced  MacroEconomics  2nd  ediWon」  

Page 34: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

GDP主要統計データ

0.1  

-­‐0.7   -­‐0.6  

0.6  

0  

-­‐1.3   -­‐1.2   -­‐1.2  

-­‐1.6   -­‐1.7  

-­‐1.4   -­‐1.3  -­‐1.1  

-­‐0.9  

-­‐1.3  

-­‐0.5  

-­‐2.2  

-­‐1.9  

-­‐0.8  

-­‐2.5  

-­‐2  

-­‐1.5  

-­‐1  

-­‐0.5  

0  

0.5  

1  

400,000  

420,000  

440,000  

460,000  

480,000  

500,000  

520,000  

540,000  

名目GDP   実質GDP   GDPデフレーター変化率 出所:内閣府

Page 35: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

日本の物価上昇率  2008年のリーマンショック以降、デフレ傾向が顕著に

-­‐2%  

-­‐1%  

0%  

1%  

2%  

3%  

4%  

5%  

6%  

7%  

8%  

9%  

1980  

1981  

1982  

1983  

1984  

1985  

1986  

1987  

1988  

1989  

1990  

1991  

1992  

1993  

1994  

1995  

1996  

1997  

1998  

1999  

2000  

2001  

2002  

2003  

2004  

2005  

2006  

2007  

2008  

2009  

2010  

2011  

2012  

CPI総合前年比

CPI総合

(出所)総務省統計局

Page 36: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

デフレの要因は何か

•  金融要因  – マネーサプライ不足⇒金融政策  

•  需要要因  – 人口減少、リーマンショック、東日本大震災等による

需要ショックに総需要不足⇒財政政策  

•  供給要因  –  IT財の普及や中国からの安い輸入品の増加   ⇒良いデフレ論

Page 37: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

貨幣数量説

M × V =   P × Y 物価 マネーサプライ 流通速度

実質GDP  (取引量とすることもある)

・貨幣の流通速度、実質GDPが一定とすると、マネーサプライを増やせば、物価は上昇する。  ・「インフレはいついかなるときも貨幣的現象である」(ミルトン・フリードマン)  

Page 38: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

貨幣の需給均衡式

MV =   PY  M  =  k  ×  PY ただし、 K=1/V マーシャルのk

マーシャルのkが一定ならば、名目マネーサプライと名目GDPは比例的であり、Yが完全雇用GDPに固定されていれば、マネーサプライと物価は同じ速度で変化する。    ⇒貨幣の中立性命題    古典派の二分法   

Page 39: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

39  

金融政策波及経路 オペレーション

中央銀行当座預金

オーバーナイト金利 貸出供給 資産価格 為替レート

担保価格

総支出 Y=C消費+I投資+G政府支出+NX純輸出

予想物価上昇率 中長期金利

実質長中長期金利

金利チャネル

信用チャネル 為替チャネル 量的緩和チャネル

Kuoner  and  Mosser(2002)及び白川(2008)を参考に作成

資産チャネル

Page 40: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

期待を考慮にいれた  金融政策の波及経路

政策金利

期待 金融市場金利

通貨・銀行信用 資産価格 銀行貸金利 為替相場

物価動向

輸入価格

実物経済の実需関係

国内価格

賃金・物価

外部ショック

リスクプレミアムの変化

銀行自己資本の変化

世界経済の動向

財政政策の変化

商品価格の動向

(出所)湯元(2011)

Page 41: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

It's  Baaack:    Japan's  Slump  and  the  Return  of  the  Liquidity  Trap

•  ゼロ金利の状況においては、経済は流動性の罠に陥るため、量的緩和の効果はない(貨幣数量説はなりたたない)。  

•  クルーグマンのモデルでは、「現在」と「将来」の2期間モデル。たとえ、現在が流動性の罠に陥っているとしても、将来は陥っていないと仮定している。  

•  「将来」インフレが起こることを人々に確信させることで、「現在」の流動性の罠から脱出できる。  

•  具体的には、年率4%のインフレをインフレターゲットを通じて実現する。  •  アメリカの代表的な計量経済学のモデルおいては、実質GDPを1%増大させるた

めに必要な長期利子率の低下は0.75%。日本のGDPギャップ5%を縮小するために、必要な期待インフレ率は、約4%。  

•  クルーグマンのモデルは、将来インフレが確実に起こることで、期待インフレ率を上昇させ、実質利子率を下落させるというもの。  –  実質金利の下落が、投資Iの増加を通じて、支出を増やす。  

フィッシャー方程式  実質金利↓=名目金利−期待インフレ率↑

Page 42: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

アベノミクスでイシューになっていない  重要な論点

•  物価の上昇は、通常金利の上昇につながる。  •  日銀による国債買い入れの増額は、国債バブルの

温床になる。  •  貿易赤字、経常赤字の現況において、円安は日本

経済にとってネガティブな側面を持つ。  •  財政政策を増やすことで、財政赤字が増える。  •  経済の本質的な成長の源泉である、資本蓄積、人

的資本、イノベーションに関わる成長戦略が見えてこない。  

Page 43: 20130216 wkb×fed勉強会 アベノミクス総点検

後に

•  財政・金融政策が期待された効果を生み出さなかったことに対する苛立ちは、さらに極端な政策対応の引き金とさえなりかねなかった。  –  「財政支出の乗数効果が低下しているのならば、政府は財政規模を

いっそう拡大させなければならない」  –  「マネーサプライの波及効果が限定的であるならば、日本銀行はあら

ゆる資産を購入して貨幣供給をいっそう拡大しなければならない」  という主張が有力な政治家、財界人、経済学者から発せられてきた。  

•  逆に、「効を奏しない景気対策から財政再建へと舵をきり直すべきである。」という主張が世紀末の政争の原因となったことも記憶に新しい。  

齊藤 誠(2002)「先を見よ、今を生きよ―市場と政策の経済学」日本評論社