22
2013年度 第10回モニタリングサイト1000 シギ・チドリ類調査 交流会 三重 要旨集 日時:2014年1月25日(土) 13:00~17:00 会場:三重県教育文化会館 第2会議室 3F ミヤコドリ Haematopus ostralegus

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2013年度

第10回モニタリングサイト1000

シギ・チドリ類調査

交流会 三重

要旨集

日時:2014年1月25日(土) 13:00~17:00

会場:三重県教育文化会館 第2会議室 3F

ミヤコドリ Haematopus ostralegus

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2013年度 第10回モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査交流会

三重 プログラム

日時:2014年1月25日(土) 13:00~17:00

会場:三重県教育文化会館 第2会議室 3F

0.開会

開会挨拶

1.自然環境モニタリング 13:05~13:40

1-1・モニタリングサイト1000と生物多様センターのモニタリングの取り組み

環境省自然環境局生物多様性センター 木村 元

2.三重県のシギ・チドリ類 13:40~14:40

2-1・ミユビシギ飛来数の変化と豊津町屋海岸

日本野鳥の会 三重 平井 正志・落合 修

2-2・セイタカシギの繁殖と成長過程

日本野鳥の会 三重 今井 光昌

2-3・モニタリングサイト1000 シギ・チドリ類調査 -三重県の調査サイト-

NPO法人 バードリサーチ 守屋 年史

休憩 (40分) ポスターなど

3.砂浜のシギ・チドリ類 15:20~16:20

3-1・千葉県におけるシロチドリの繁殖状況、2013年

千葉県立中央博物館 桑原 和之 千葉市野鳥の会 箕輪 義隆・長屋 ゆみ子 行徳野鳥観察舎友の会 佐藤 達夫 (株)プレック研究所 今井 優

3-2・九十九里浜におけるミユビシギの採食生態

千葉市野鳥の会・NPO法人 リトルターン・プロジェクト 奴賀 俊光

3-3・ヘラシギを守ろう - これまで。そして私たちはこれから何を?

NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本 柏木 実

4.意見交換 16:20~16:50

5.閉会

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ポスター発表

P-1・五主海岸のシギ・チドリ

日本野鳥の会 三重 久住 勝司

P-2・シギ・チドリのために地域のみんなが水辺に集まった!

-博多湾における地域が主体となった環境管理の実践-

NPO法人 ふくおか湿地保全研究会 富田 宏・服部 卓朗

P-3・クロツラヘラサギ保全論の転換点

-流域全体の湿地環境の保全に向けた博多湾の取り組み-

NPO法人 ふくおか湿地保全研究会 富田 宏・服部 卓朗

P-4・絶滅の危機! ヘラシギは私たちに何を伝えるのか?

NPO法人 ふくおか湿地保全研究会 富田 宏

NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本 柏木 実

P-5・千葉県におけるオオメダイチドリの飛来状況、2013年

千葉県立中央博物館 桑原 和之

千葉市野鳥の会 箕輪 義隆

(株)プレック研究所 今井 優

P-6・イカルチドリとコチドリがうまく共存するには?

NPO法人 バードリサーチ 笠原 里恵

P-7・三重県 北・中部海岸におけるミヤコドリ

日本野鳥の会 三重 岡 八智子・西浦克征・今井光昌

久住勝司・安藤宣朗・平井正志

懇親会 17:30~

さくら情緒食堂 会場(三重県教育文化会館)の1Fです。

会費 3,500円

エクスカーション

1/26午前中

三重県沿岸部(雲出川・五主海岸付近)

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モニタリングサイト位置図

モニタリングサイト1000 と生物多様センターのモニタリングの取り組み

木村 元(環境省自然環境局生物多様性センター)

環境省生物多様性センターでは、日本の自然環境を長

期的に観測する重要生態系監視地域モニタリング推進事

業(モニタリングサイト1000)を実施しています。

日本の国土は、亜寒帯から亜熱帯にまたがる大小の

島々からなり、そこには屈曲に富んだ海岸線と起伏の多

い山岳など、変化に富んだ地形や各地の気候風土に育

まれた多様な動植物相が見られます。モニタリングサイト

1000では高山帯からサンゴ礁まで様々な生態系を約1000

の地点でモニタリングし、日本の自然環境の質的・量的な

変化をとらえています。

今回は、シギ・チドリ類調査以外の生態系の調査につい

ても説明しモニタリングサイト1000を紹介します。

また、生物多様性センターでは、東日本大震災の自然環境への影響を把握するため、モニタリ

ングなどの自然環境調査を行っています。この調査では、自然環境が大きく変化した青森県から

千葉県の太平洋沿岸地域において、植生や砂浜の変化について調査を行っているほか、干潟

やアマモ場、海鳥などの生態系のモニタリングを実施しています。この調査によって津波等によ

る震災の影響が自然環境にどのような影響を与えたか、さまざまな自然環境の変化が明らかに

なっています。この震災影響調査でわかったことについても紹介します。

1

1-1

図:モニタリングサイト位置図.

調査サイト 主要調査項目 サイト数(※) 調査主体

コアサイト(毎年調査)

①植生概況調査②毎木調査③落葉落枝調査④地表徘徊性甲虫類調査⑤陸生鳥類調査

20 研究者

準コアサイト(5年毎に調査)

①植生概況調査②毎木調査③陸生鳥類調査

28 研究者

陸生鳥類サイト(5年毎に調査)

①植生概況調査②陸生鳥類調査 422 市民調査員

コアサイト

①人為的インパクト調査②草本植物調査③水環境調査④指標動物調査(6項目)

18市民調査

一般サイトコアサイトの9調査中から1調査以上 174

市民調査員

①湖辺植生調査②プランクトン調査③底生生物調査

7 研究者

ガンカモ類     サイト

①ガンカモ類調査②温度調査 80 市民調査員

①植生概況調査②物理環境調査 4 研究者湿原

陸水域湖沼

分野

陸 域

高山帯

①物理環境調査(気温、地温)②植生調査(植生、ハイマツ節間成長、開花フェノロジー)③昆虫調査(チョウ類、地表徘徊性甲虫)

5 研究者

森林・草原

里地

調査サイト 主要調査項目 サイト数(※) 調査主体

砂浜 ウミガメサイト①海浜概況調査②ウミガメ産卵上陸状況調査

41 市民調査員

磯①底生生物調査②温度調査 6 研究者

①底生生物調査 等 8 研究者

シギ・チドリ類    サイト

①干潟概況調査②シギ・チドリ調査 140 市民調査員

アマモ場

①海草調査 等 6 研究者

藻場 ①海藻調査 等 6 研究者

サンゴ礁

①物理環境調査(底質、底質中懸濁物含有量)②生物生息把握(サンゴ被度、オニヒトデ調査等)

24 研究者

小島嶼

海鳥サイト①植生概況調査②全生息鳥種調査③対象種調査

30 研究者

1019陸域・陸水域・海域 合     計

海 域

沿岸・浅海域

干潟

分野

表:モニタリングサイト1000 調査項目及びサイト数. 2014年1月1日現在:※暫定のサイトを含むため、サイト数は暫定値

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2

ミユビシギ飛来数の変化と豊津町屋海岸

平井 正志・落合 修(日本野鳥の会三重)

三重県の中央部、鈴鹿市から松阪市にかけての海岸には自然の砂浜海岸が残されている。と

りわけ、津市の豊津浦・町屋浦海岸(津市田中川河口から志登茂川河口まで)は砂浜の奥行も

十分にあり、カワラナデシコ、ハマヒルガオ等の海浜植生もある。この海岸に面した海面では、ア

サリ、バカガイ、カタクチイワシなどの漁業も盛んである。これは人口密度が高く、かつ工業化が

進んだ伊勢湾岸ではめずらしい。伊勢湾最奥の名古屋港付近はすべて埋め立てられ、三重県

北部、四日市、桑名市周辺の海岸はコンクリート護岸や埋め立て地であり、知多半島側にも砂浜

海岸はほとんど残されていない。

ミユビシギは全世界で60万羽が生息するが、東アジア飛行ルートを通るミユビシギはわずかに

22,000羽とされている。日本では主に秋に2,000羽程度が観察される。豊津浦・町屋浦海岸では

ミユビシギは継続して飛来し、滞在する。ミユビシギは繁殖期である初夏に全く観察されなくなる

が、8月中下旬に秋の渡り群が到着した。本格的な観測を始めた2004年からはほぼ毎年、飛来

数がこのルートの推定生息数の1%である220羽を越えた(表)。近年は越冬する個体もかなり

あった。ミユビシギは隣接する安濃川河口、香良洲海岸、雲出川河口などでも観察され、滞在中

もこれらの海岸を行き来していると考えられる。本格的に調査した2004年から2013年の飛来数を

分析すると、秋に観察される個体数が最も多く、冬期に

もそれに続く数の個体が見られた。春には個体数が少

なくなった。この期間中の年次変動では顕著な増減傾

向は見いだせないが、減少する兆しもみられない。環

境省はミユビシギの飛来数に基づいて、豊津浦・町屋

浦をラムサール条約登録湿地の候補地とした。

この豊津浦・町屋浦海岸にはミユビシギの飛来以外

にもシロチドリが繁殖し、ミヤコドリ、キアシシギ、チュウ

シャクシギ等が飛来する。また、春秋にはユリカモメ、セ

グロカモメの大群が羽を休める。現在、この海岸を改変

する計画はないが、この海岸がシギ・チドリ類、水鳥の

棲息に重要な場所であるとの認識は行政当局も、住民

にも希薄である。海岸は、散歩やレクリエーションの場

としてしか認識していない向きもあり、草花を植えた人

もいる。日本野鳥の会三重は昨年2013年、地元、津

市、松阪市に対して、ラムサール湿地として登録するよ

う働きかけた。

2-1

表:秋の渡り時(8月から10月)の最高個体

数と年間調査回数.太字は220羽以上

を表す.

Maximum No. count

2004 318 17

2005 156 19

2006 242 21

2007 308 16

2008 348 17

2009 278 13

2010 499 20

2011 408 47

2012 300 58

2013 218 58

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2-2

セイタカシギの繁殖と成長過程

今井 光昌(日本野鳥の会三重支部)

三重県でセイタカシギの繁殖成功例は3例あるが、

2例は埋め立て地での繁殖であった。今回は池の小

さな中州での繁殖であった。繁殖場所は松阪市曽原

町の通称ボラ池と呼ばれている淡水の池(曽原大池)

である。当池では巣が雨で流されたり卵が捕食された

など2011年から2013年の3年間で5回繁殖が失敗し

ている。

ボラ池におけるただ一度の成功例、そのセイタカシギの繁殖生態を雛の生態、成長過程に重

点をおいて128日間観察した。観察と撮影は堤防上からで、巣までの距離が約40m。堤防は水面

から約7mの高さであった。五主海岸の堤防内側には複数の水路と池がありボラ池はそのうちの

一つで、水量の調節ができない池なので雨が降れば水量が増しセイタカシギの生息環境ではな

くなる。普段は水深が深いところでも20cmほどの池で、周りには葦原があり背後に水田が広がっ

ている。池の背後にあった葦原は2013年夏から太陽光発電の工事が始まりソーラーパネルに

とって変わった。シギ・チドリの生息に今後どのような影響が出るのか危惧される。ボラ池では一

年中セイタカシギが見られる。最も飛来数が多いのは8月から10月までで、他地域で繁殖した家

族が移動して来る。2013年も23羽7家族が見られた。晩秋になると1家族を残して移動して行き毎

年1家族だけ越冬する。

観察結果

2012年6月29日に1個目を産卵し4日間かけて4個の産卵を終え7月2日抱卵を始めた。抱卵か

ら23日目に2羽が孵化し24日目に3羽目、25日目に4羽目が孵化した。

表:観察されたセイタカシギのヒナの成長過程.

3

月 日 孵化後 雛の行動

7月 25日 2羽が孵化 孵化して約50分後に歩いた

7月 27日 4羽目が孵化 孵化して12時間半後に泳いだ

8月 22日 26日目 1羽の幼鳥が10m程飛んだ

8月 28日 32日目 自由に飛べるようになった

8月 29日 33日目 幼綿羽から幼羽に換羽完了した

10月 1日 66日目 親子に体長差が見られなくなった

12月 2日 128日目 幼羽から第1回冬羽に換羽した

孵化後70日目に2羽の子供がボラ池を離れ, 残った親鳥と2羽の子供は128日目を最後に池を離れた

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モニタリングサイト1000 シギ・チドリ類調査 -三重県の調査サイト-

守屋 年史(NPO法人バードリサーチ)

シギ・チドリ類調査は、主体を変えながら30年以上続く全国的な調査である。2004年度から環

境省事業モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査に引き継がれ、当会は2008年度から事務局

を務めている。

この調査は、全国に100ヵ所以上の調査サイトがあり、多くの一般ボランティアによって調査が

支えられている。継続的なモニタリング調査の結果は活用され、ラムサール登録の基礎資料

や、絶滅危惧動物の根拠資料となっている。

今回は、調査体制、長期モニタリング調査の重要性や、調査の結果からみえるシギ・チドリ類

の状況について報告する。

◯モニタリング調査体制

調査は、春(4~5月:繁殖のため北に向かう)、秋(8~9月越冬のため南に向かう)、冬(12~

2月:日本国内で冬を越す)の年3シーズンに実施されている。期間中に複数回調査を行いそ

の各種の最大数を合計し、最大渡来数としている。また一斉調査日という日を設け、全国で一

斉に個体数を数える調査を行なっている。

◯長期モニタリング調査

モニタリング調査で最も重要なことは、長く同様の調査を継続していくことである。基になる

データがあれば、環境変化が起こっても比較できる。また将来的な変化についてもある程度予

測することができる。

そのためには、無理のない調査を設定することや、仲間と共同して調査する体制をつくること

が望ましい。また、拠点となる場所ができるのは、調査に関心のある人に接点を設けるという点

で非常に有効である。調査グループがあると、なお継続しやすい。

◯シギ・チドリ類の状況

シギ・チドリ類の多くは、極北から東

南アジア・オセアニアを往復する旅鳥

である。国内では春期に最も多く観

察 さ れ る。し か し、シ ギ・チ ド リ 類 は

1970年代と比較すると大きく減少し、

2000年以降もゆるやかな減少傾向が

引き続き続いており、生息環境の保

全が重要な課題となっている。また、

三重県沿岸や周辺サイトのシギ・チド

リ類の動向について報告する。

2-3

4

図:三重県沿岸のモニタリングサイトの最大数合計の推移.

(2004年シーズンから継続しているサイトのデータ)

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

冬期(12‐2月) 秋期(8‐9月) 春期(4‐5月)

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千葉県におけるシロチドリの繁殖状況、2013年

桑原 和之(千葉県立中央博物館)、箕輪 義隆・長屋 ゆみ子(千葉市野鳥の会)、

佐藤 達夫(行徳野鳥観察舎友の会)、今井 優((株)プレック研究所)

はじめに:

シロチドリは国内に広く分布する種で千葉県のシギ・チドリ類の中で、シロチドリは最も普通に見られる種

であった。本種は千葉県内では著しく減少したため重要保護鳥類とされた(千葉県2006)。千葉県内では

繁殖地や越冬地となる湿地の減少や環境改変により生存が脅かされる種となってしまった。すでに、国内

でも生息数が少なくなっているという。本種の繁殖の現状はあまり把握されていない。今回、2013年の繁

殖状況を報告する。

調査地および調査方法:

調査は、千葉市から浦安市の東京湾岸と銚子市からいすみ市にかける外房海岸を中心に行なった。

2013年3月から9月にかけ、千葉県内約150箇所の地域を巡回した(図)。定期的に各調査地で少なくても

月1回現地調査を行なった。シロチドリの個体数を計数し、繁殖地では繁殖を確認した。巣卵が確認でき

た場合、営巣数を調べ、巣に識別番号をふり、繁殖期間中の総営巣数を求めた。雛には、標識をした。

雛などの確認情報も集約した。

結果:

1.東京湾岸:2013年の繁殖期、千葉市内では、美浜区豊砂5、検見川の浜、幕張C浜の3箇所でシロチド

リを確認した。そのうち検見川の浜で、5月に2卵1巣、7月に3卵1巣、計2巣の確認ができた。ただし、千葉

市内では雛を確認できなかった。 2013年、東京湾奥部では浦安市運動公園予定地の1ヶ所で営巣を確

認したが、そのほかの地域での、営巣、雛は確認できなかった。

2.外房海岸:2013年の繁殖期に九十九里海岸各地で、シロチドリは確認されたが、その個体数は少な

かった。さらに確認された巣、雛などは少なかった。雛は旭市下永井、椎名内、山武市の3ヶ所で確認さ

れ、旭市下永井、飯岡海岸と九十九里町の3ヶ所で巣を確認しただけであった。 4月29日大網白里町四

天木の砂礫地でシロチドリ♀1羽が抱卵中であったが、5月18日は巣や雛は確認できなかった。飯岡海岸

では5月16日1卵1巣が確認されたが、繁殖成功にはいたらなかった(齊藤敏一私信)。旭市下永井飯岡

漁港地先埋立地で6月1日に1巣3卵が確認され、 22-29日に3雛を確認した(梅田則夫私信)。6月16日に

旭市椎名内 矢指ヶ浦海水浴場では、 成鳥1羽雛2羽が確認された(池田雅実私信)。山武市 成東海岸

では7月3日にシロチドリ♀1羽、雛3羽の家族を確認した。九十九里町作田 作田川左岸の砂浜では7月5

日に3卵を抱卵中のシロチドリ♂1S1羽を確認した。夷隅川河口域では営巣や雛は確認できなかったが、

成鳥の偽傷行動が記録された。

考察:

東京湾岸はシロチドリの繁殖地としてよく知られており、1970年代は船橋市から習志野市にかける埋立

地で普通に繁殖していた。 東京湾奥部の浦安市から市川市にかける埋立地では、 2007年の繁殖地は4

箇所であったが、2008年は2ヶ所で2009年、繁殖地は確認されなかった(桑原ら2009)。浦安市で少なくと

も21巣が確認され、千葉市では2巣が確認されたが、他の地域では確認されなかった。コアジサシの繁殖

地は年々減少しているため、同じような場所で繁殖しているシロチドリも減少していると考えられる。

3-1

5

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引用文献:

桑原・箕輪・長屋・佐藤.2009.P-6.千葉県のシロチドリの繁殖状況,2008-2009年.2009年度 モニタリングサイト

1000 海域・干潟分野シギ・チドリ類個体数モニタリング調査 モニタリングサイト交流会予稿集:48-49.

2010-2012年の集計は終わっていないが、繁殖状況は不明である。ただし、2013年の調査結果から判断

してもシロチドリ繁殖個体数も減少していると考えられる。船橋市以南の東京湾岸では、近年、習志野市

や市原市内での繁殖記録の報告はない。外房海岸でも繁殖期10羽を超すような繁殖地の見落としはな

いと考えられる。千葉県では個体数が多い種であったが、急激に減少している。県レベルの保護ではな

く、2012年の環境省レッドリストでは新規に絶滅危惧II類(VU)となったが、今後は全国的に保護が必要な

種として具体的な保護対策を検討していく必要があるだろう。

図:千葉県の地形図.

6

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九十九里浜におけるミユビシギの採食生態

奴賀 俊光(千葉市野鳥の会/NPO法人リトル・ターンプロジェクト)

ミユビシギCalidris alba は全長約19cmの小型のシギ類で、国内では主に秋から春まで砂浜海

岸で見られる。千葉県の九十九里浜は南北に約60km続く国内でも最大規模の砂浜海岸であり、

最大4000羽のミユビシギが渡来する。ミユビシギは九十九里浜に一様に分布しているのではな

く、分布には偏りが見られる。その理由を調べるため、ミユビシギの分布と餌量との関係について

調べた。

九十九里浜を太平洋に流れ込む河川で9つの区域に区切り、ミユビシギの個体数、ミユビシギ

がよく採食する波打ち際の砂の中の底生動物の個体数と湿重量、さらにミユビシギから採取でき

た糞の中に含まれる底生動物の未消化物を調べた。

調査の結果、波打ち際の砂の中では、二枚貝のフジノハナガイDonax semigranosusと甲殻類

のシキシマフクロアミArchaeomysis vulgaris、ヒメスナホリムシExcirolana chiltoniの3種が優占して

いた。ミユビシギの糞からは、上記3種とさらに昆虫類の残骸を確認した。ミユビシギはこれらの餌

生物を主に捕食していたが、フジノハナガイ以外の餌生物が減少した冬期には、フジノハナガイ

を主に捕食するようになり、フジノハナガイの多い九十九里浜中央部に集まった。ミユビシギはフ

ジノハナガイを丸ごと捕食するのではなく、フジノハナガイが砂に潜る時に出す筋肉質な足の部

分(斧足)を、素早くねらって採食し、貝殻部分は捨てていた。フジノハナガイは、特に冬期のミユ

ビシギの重要な餌となっていた。

この他、フジノハナガイの生態とミユビシギによる斧足採食の影響、ミユビシギの糞の安定同位

体分析の結果について発表する予定である。

3-2

7

参考文献:

Nuka et al. 2005. Feeding behavior and effect of prey availability on Sanderling Calidris alba distribution on

Kujukuri Beach. Ornithological Science 4: 139-146.

写真1:ミユビシギ.

写真2:フジノハナガイ軟体部.

ミユビシギによる捕食跡

(矢印).

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3-3

8

ヘラシギを守ろう - これまで。そして私たちはこれから何を?

柏木 実(NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本)

2001年にロシア科学アカデミーのエフゲニー・シロエチコフスキー博士による国際北極圏踏査

が始まった当時、ヘラシギはさほど注目すべき種であると考えた人々は、国際的にも国内的にも

さほど多くなかった。確かに、魅力的で神秘的な鳥であった。しかしシギ・チドリ類の生息地であ

る干潟の保全のためには、もっと重要な種に注目すべきとの考えも頷ける状況であった。

当時私はアラスカと日本の間のハマシギ亜種arcticolaの渡りのレッグフラッグ調査に取り組んで

いた。シロエチコフスキー博士から、日本の亜種sakhalinaと比較するよい機会なので一緒に取り

組まないかとの誘いがあった。この踏査はミカドガン、コケワタガモなどやハマシギとともに、ヘラ

シギの減少の検証が重点の一つであった。危機にある東アジア・オーストラリア地域フライウェイ

の繁殖地でのモニタリング活動と考え、私も日本からの助成金の取得を含め、調査に参加した。

その結果、ヘラシギの減少は当初の

予想を遙かに超えていたことが明らか

になり、科学的な興味や、ヘラシギの

みならず、フライウェイのシギ・チドリ類

の生息地の保全にとって重要な活動

として、現在まで継続して関わってき

た。

この間北極圏踏査の仲間たちと継

続してきたヘラシギの保全・回復のた

めの活動を紹介し、日本の私たちが

できることについて考えてみたい。

◆調査活動

繁殖地においては2001年以降、チュコト半島沿岸部において航空機、キャタピラー車などを

使った調査を初めとする営巣数の調査と、主要繁殖地における繁殖生態調査を行なってきた。

中継地では、1800年代からの日本における個体数調査(シギ・チドリ類調査および、古くは狩猟

報告)がある。韓国においては2000年代初めから現地のNGOと協力して、渡りの時期の個体数

調査を行なってきた。中国ではNGOが2009年前後から沿岸域での調査が盛んに行なわれるよう

になり、渡りの知見が急速に増加した。

越冬地における調査は2000年代以前、散発的に行なわれてきたが、繁殖地調査により急速な

減少が判明して以来2004-5年の越冬期からインド・バングラデシュ・タイ・ミャンマー・ベトナムに

おいて集中的な調査を行なった。特にこれまでにほとんど情報のなかったミャンマーで2008年の

調査によって、94羽の個体が観察され、2009年以降ミャンマーとバングラデシュに集中して力が

注がれている。

図:ヘラシギ番(つがい)の確認数の変化.

個体番数

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

70

年代

2000

2002

2004

2006

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◆ 保全のための活動

調査を通した種の深刻な減少と同時に保全の活動を進めることが重要なのは言うまでもない。

日本や韓国の干潟の開発は多くの中継地を破壊してきている。越冬地では貧しい漁民によるシ

ギ・チドリ類を含めた水鳥のハンティングが行なわれている。繁殖地では希少種の大切さがわか

らずに、巣の近くに飼い犬が近づく。

これらを目にした国際北極圏踏査の参加者は自主的な「ヘラシギ回復チーム」を組織し、繁殖

地では学校に行って、ヘラシギについて子どもたちに伝え、保全のための活動を併行して行なっ

てきた。しかし調査結果の論文発表まではさほど広く注目されることがなかった。

しかし論文発表後、IUCNレッド・データ・ブック、国際湿地保全連合WIの水鳥個体数推計がそ

の結果を取り込んで脅威レベルが上げられた。日本においても環境省のレッドリストの改訂に伴

い、脅威レベルが上げられた。また、ボン条約はヘラシギに関する種別保全行動計画の策定を

決議し、2012年末に計画が発表された。

2007年1月にはタイでの調査に合わせて、これまでに観察の記録のあった国の人々に呼びか

け、種別行動計画策定に向けたワークショップが開かれ、各地の教委と課題について議論した。

また、2010年には政府と国際NGOによる水鳥保全のための枠組みである東アジア・オーストラリ

ア地域フライウェイ・パートナーシップの中に組織されたヘラシギ・タスクフォースを通して、組織

だった取り組みができるようになった。

また、越冬地では地域の人々に対する啓発のための話合いを行い、また、鳥を捕らえなくても

良いよう生活手段の補助をすることで密漁が減る成果もみられた。児童・生徒たちと一緒に、ヘラ

シギの渡りのアニメを作ると言う環境教育活動も行なわれ、少しずつではあるが、成果が現れつ

つある。

一方で、2010年以降になって、大きな資金的援助も行なわれるようになっている。人工増殖プ

ロジェクトは、水鳥湿地トラストWWTが中心に行なう。現在、28羽がケージで飼育されており、今

後、飼育下で抱卵した卵を繁殖地に運んで、放鳥する計画である。また、これと関係して、2012

年繁殖期から抱卵中の卵を人工孵化し、自然孵化の個体と一緒に渡りに参加させるヘッドス

タート・プロジェクトが行なわれている。

◆ 私たちは何ができるか

日本のヘラシギ観察データは500件ほどある。渡り経路の

中では繁殖地のロシアに次ぐ数である。それだけ多くの

人々が観察した賜物である。それをみると最近の観察は種

の減少が問題にならなかった当時観察されていた場所であ

る。観察のあった場所のデータが、今後個体数が回復したと

きのために生息地を保全する時の優先順位を示唆するとい

える。その意味で、これまでの観察地とその変化を調べ記録

することは私たちの重要な役割である。

また個々人の思い・力だけでヘラシギの保護・回復を目指すのではなく、日本の私たちの声と

してまとめて発信していくことも大切なことではないかと考えている。

9

写真:ヘラシギ.

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ポスター

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五主海岸のシギ・チドリ

久住 勝司(日本野鳥の会 三重)

五主海岸には伊勢湾岸ではめずらしく自然の広大な干潟が残されている。その南は櫛田川・

金剛川河口の浅海域と隣接する。かつては連続する干潟であったが、松阪港の建設により二分

された。五主海岸の内陸には水田、水路が隣接し、淡水性のシギ・チドリも多い。また、内陸の湿

地は荒天時にシギ・チドリが避難できる場所にもなっている。

干潟では青のり養殖、アサリ採集などの漁業が盛んであり、それとシギ・チドリの棲息とが両立し

ている。ただし、貝類を食べる海ガモ類、青のりをたべるヒドリガモなどについては漁業者からの

苦情がある。

内部の水田や水路に淡水性のシギ・チドリが飛来するため、観察される種数は多い。2002年から

2013年5月までの観察で49種のシギ・チドリが記録されている。セイタカシギはほぼ常時観察され

る。コクガン、ズグロカモメは周辺地域を含めると毎冬数羽から十数羽が越冬する。ホウロクシギ、

ダイシャクシギもよく見られる。希少種ではヘラシギ、カラフトアオアシシギの記録がある。ツルシ

ギを除いては個体数が安定しており、顕著な増減はない。ツルシギは減少傾向が著しい。また、

シロチドリも個体数が減少傾向である。

堤防内では今年(2013年)葦原が埋め立てられソーラーパネルが設置され、鳥類への影響が

懸念される。環境省は五主海岸を含む領域をラムサール条約に登録するに値する湿地との判断

を出しているが、地元自治体、住民の関心はまだ高くない。

ポスター 1

11

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ポスター 2

12

シギ・チドリのために地域のみんなが水辺に集まった!

-博多湾における地域が主体となった環境管理の実践-

富田 宏・服部 卓朗(NPO法人 ふくおか湿地保全研究会)

近年、陸上・沿岸・海洋の環境や生物多様性の評価・モニタリングにおいて、関心を持つ市民・

地域住民が主体となった“市民科学(Citizen science)”としての調査、研究は、以前にもまして重

要性が高く認識されている。市民・地域住民が主体となった活動の強みの一つが、それぞれの

地域に暮らす人たちが自然との関わりをとおして得た自然環境に対する知識、“地域知”である。

地域知は、自然環境と人の関わり方の遍歴、過去から現在までの環境の変遷について豊かな情

報を有しており、生物多様性の保全・再生にとって重要な指針を与えることが多くの事例で知ら

れている。

私たちは、博多湾東部の多々良川河口に位置する名島海岸において、地域が主体となり、

NPO、行政が一緒なって沿岸の生物多様性の保全・再生を考え、実践するプロジェクトの実現を

目指して、地域の中心である公民館を中心に1) 自然観察会の実施、2) 釣り糸被害に遭ったクロ

ツラヘラサギの劇を共催、3) 長年当地に暮らすおじいちゃん・おばあちゃんへのインタビューを

元にした環境再生ビジョンの構築、4 )シギ・チドリ類の餌を確保するために重機による清掃をス

トップして人の手でゴミ拾い、を実践している。

本発表では、地域が主体となった生物多様性の保全・再生の在り方について、そして地域、

NPO、行政が一緒になった渡り鳥保全の試みについて、上記の取り組みをもとに紹介する。

写真:清掃の様子.

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ポスター 3

クロツラヘラサギ保全論の転換点

-流域全体の湿地環境の保全に向けた博多湾の取り組み-

富田 宏・服部 卓朗(NPO法人 ふくおか湿地保全研究会)

クロツラヘラサギ(Platalea minor)は、東アジアの河口域、沿岸の地域に局所的に生息し、これら

の地域の湿地保全のシンボル的な存在である。1996年に実施された調査では推定総個体数が

400羽だったが、2013年1月に実施された調査では2725羽が記録されている。しかし、クロツラヘ

ラサギの主要な越冬地で越冬個体数が目に見えて増加しているわけではなく、主要な越冬地で

ある台湾、そして日本でも越冬個体数の増加率は低減する傾向にある(図1)。越冬地における個

体数の変動には、繁殖成績、機会的な渡りルートの変動などの要因が影響しているが、各地の

越冬地における“収容力”もまた重要な要因である。それぞれの越冬地における満潮時の休息

場(ねぐら)、採餌場所の質、人の干渉の程度、釣り糸やゴミによる負傷といった越冬地の条件は、

それぞれの越冬地の収容力に影響を与える。そのため、総個体数が2000羽を安定的にクリアす

るようになった後、繁殖地、中継地、越冬地で、収容力をどう伸ばしていくのかが重要な課題であ

る。クロツラヘラサギの越冬地で鳥を見ている私たちは今、モニタリングから実践的な保全の取り

組みへと保全のターゲットをシフトし、クロツラヘラサギの生態、環境利用を踏まえた“越冬地の収

容力”について考えていかなければならない。

これまでの私たちの調査から、博多湾で越冬するクロツラヘラサギは1)季節的に主要な採餌

場所を河口域から内陸の淡水湿地(ため池)へとシフトさせている、2)採餌場所のシフトは昼行性

から夜行性への活動時間帯の変化を伴っている、3)クロツラヘラサギが越冬地で利用している湿

地環境が、沿岸、河口域から中・上流域まで、流域というスケールで展開されている、ことが明ら

かにされた(図2)。

本発表ではクロツラヘラサギの内陸の淡水湿地利用についての調査結果と、今後の保全上の

課題について論じ、クロツラヘラサギ飛来地の保全における“流域全体の湿地環境の保全が重

要であること”について発表する。

図1:日本列島で越冬するクロツラヘラサギの個

体数. 図2:越冬期におけるクロツラヘラサ

ギの環境利用.

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ポスター 4

絶滅の危機! ヘラシギは私たちに何を伝えるのか?

富田 宏(NPO法人 ふくおか湿地保全研究会)

柏木 実(NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本)

近年、東アジアに分布する渡り性水鳥の多くの種で、個体数が急激に減少していることが知ら

れている。これは東アジアの沿岸域で引き起こされている生物多様性の消失を象徴する現象あ

る。多くの渡り性水鳥の個体数が減少する中で、最も個体数の減少が著しく、絶滅の可能性が高

い種の一つがヘラシギ Eurynorynchus pygmenus ある。ヘラシギはユーラシア大陸東端の沿岸

で繁殖し、冬をミャンマーやタイの沿岸域で過ごすことが知られており、およそ8000kmを季節的

に移動する。この長距離に及ぶ季節的な移動において、日本列島はヘラシギにとって重要な

“中継地”である。

日本列島におけるヘラシギの観察記録は、北海道から沖縄まで広範囲に分布している。また、

それらの記録は19世紀後半の採集記録から近年のモニタリングサイト1000における観察例まで、

およそ100年以上にわたり多くの観察記録が残されている。しかし、「過去から現在まで、ヘラシギ

が日本列島の沿岸環境をいつ、どこを、どのように利用していたのか。そして、ヘラシギの個体数

が急激に減少し危機に瀕している理由は何なのか」といった問いに答えうる情報は、多くが未整

理のままとなっている。

私たちはこれらの問題を解決するため、ヘラシギの観察情報の収集、整理、とりまとめを行っ

た。こうした取り組みは、ヘラシギという種の保全にとって必要な情報を提示するだけでなく、ヘラ

シギをはじめとした渡り性水鳥の生息環境の保全にとって、また日本列島の湿地環境における

生物多様性を保全にとっても重要な考察を与えると考えられる。

これまでの調査から、1874年から2012年の間に日本列島で観察された494件の記録を収集し

た。今回のポスター発表では、これらの観察記録にもとづいて1)ヘラシギ観察記録の空間的な分

布、2)ヘラシギの出現環境、3)ヘラシギ飛来地における保全上の課題、について評価した結果を

報告する。

写真:ヘラシギ.

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ポスター 5

千葉県におけるオオメダイチドリの飛来状況、2013年

桑原 和之(千葉県立中央博物館)、箕輪 義隆(千葉市野鳥の会)

今井 優((株)プレック研究所)

はじめに:オオメダイチドリCharadrius leschenaultii はト

ルコから中国西部、モンゴル、ロシアで繁殖し、アフリ

カ、インド、東南アジアからオーストラリアの海岸部で

越冬する(Hayman et al., 1986)。国内には、亜種

C.l. leschenaultii が分布するとされている。国内の干

潟、砂浜や水田などの湿地に本種は飛来するが、南

西諸島以外の地域で観察される個体数は多くない。

また、南西諸島では普通に越冬するが、そのほかの

地域では主として渡りの時期に見られる旅鳥である。

千葉県では春と秋の渡りの時期に少数が見られ、稀

に記録される種であった。ただし、本種の生息状況は

あまり把握されていない。2013年本種の記録が、千葉

県内では比較的多く得られたのでその結果を報告す

る。

調査地および調査方法:調査は、浦安市から富津市に

かける東京湾岸と銚子市からいすみ市にかける外房

海岸、利根川流域の内陸の湿地を中心に行なった。

2013年に、千葉県内約150地点の調査地を巡回し

た。定期的に各調査地で少なくても月1回現地調査を

行なった。オオメダイチドリを確認した際、性別・年齢、

行動などの記録をとった。また、本種の確認情報も集

約した。

結果1:出現時期

春と秋の渡りの時期に39例の記録が得られた。春の渡りの時期の観察記録は、1例のみであった。秋の渡り

の時期には、7-9月に38例が記録された。成鳥は7-8月上旬に見られ、幼羽(J.)もしくは冬羽に換羽中の

個体(1W.)は8月上旬から9月に記録された。10月以降は確認できず、冬期の記録は得られなかった。

結果2:分布

1.東京湾岸:2013年、千葉市内では、三番瀬、小櫃川河口、富津岬の干潟、3地域でオオメダイチドリを確認し

た。

2.外房海岸:2013年、九十九里海岸6地域の海岸部で、オオメダイチドリが確認された。砂浜では旭市飯岡海

岸、旭市椎名内、山武市の3地域で確認され、干潟では一宮川河口、長生村南中瀬長生村湿地、夷隅川

河口の3地域で確認した。

上記の記録された地域は、干潟、砂浜などの海岸周辺に限定されていた。海岸部の9地域で記録され、内

陸の水田等の湿地では1例も得られなかった(図)。干潟などの湿地では、主としてカニ類を採食していた。

考察:過去の記録を見ると本種は千葉県内では比較的稀な種であった。東京湾岸では、観察例数も観察個体

数は少なかった。たとえば、習志野市谷津干潟では1974-1983年の10年間に1979年と1981年の2ヵ年しか

記録されておらず、時期も7-8月に限定されていた。外房海岸でも少なかったと考えられる。千葉県では記

録されることが少ない種であったが、急激に観察記録が増加していると考えられる。

2013年の観察記録を集約し、過去の文献などと照合した結果、本種は、春と秋の渡りの時期に見られるが、

春の渡りの時期の飛来数は極少ないと結論できた。一般的に、秋の渡りの時期、国内に飛来するシギ・チド

リ類は、先に成鳥が飛来し、その後、幼羽が飛来する傾向がある。今回の記録も約40例しか得られなかった

が、本種は、先に成鳥が飛来し、その後、幼羽が飛来すると推定できた。また、利根川水系の湿地では1羽

も記録されず、飛来地も海岸近くに限定されていた。本種は、水田や河川の湿地ではなく、海岸の干潟や

砂浜などの湿地に飛来する種と考えられる。

図:千葉県におけるオオメダイチドリの飛来状況.2013年

に記録された39例の記録から得られた9地域を●で

示した.

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ポスター 6

イカルチドリとコチドリがうまく共存するには?

笠原 里恵(NPO法人バードリサーチ)

日本で見られるシギ・チドリ類の多くは、春と秋に日本に立ち寄っていく渡り鳥や日本で冬を越

す冬鳥ですが、日本で繁殖している種もいます。その代表的なものが、河川で繁殖するイカルチ

ドリとコチドリです。2種ともに河川の植物のまばらな、砂礫の露出した地上に皿状に浅い穴を

掘って産卵し、おもに汀線で水生昆虫を採食します。

類似した環境を好む種が同所的に生息する場合、何らかの要因ですみわけが生じるもので

す。しかし、河川のように、増水で砂礫地の礫構成、中州の形状そして流れの中での配置まで変

わってしまう一方で、増水のない年にはすぐに植物が繁茂し、露出した砂礫部分が減少してしま

うような変動が大きい環境下では、利用できる営巣場所や採食場所をめぐっての個体間の対立

が生じる可能性が考えられます。

そこで今回は、砂礫地の広い年と狭い年で、イカルチドリとコチドリの個体間関係を比較しま

した。結果として、イカルチドリがコチドリと出会った時の攻撃性は、砂礫地が広い年と狭い年の

両方に共通して高く、もともとイカルチドリがコチドリに対して攻撃性をもつ可能性が示唆されまし

た。その一方でコチドリはイカルチドリと出会っても自分から攻撃性を示すことはほとんどありませ

んでした。両者の遭遇頻度は砂礫地の広いときに低下する傾向が見られました。個体間の争い

は親個体が卵や雛を世話する時間を取ってしまいますから、2種が同所的に生息する場所で、そ

れぞれの種が平穏に繁殖活動を行うには、ある程度の面積をもった植物のまばらな砂礫地や汀

線の維持が重要であることが示唆されました。つまり、2種が共存するうえでは、増水の機能が重

要であろうと考えられます。

イカルチドリ コチドリ

写真1:2種の巣と卵.

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ポスター 7

三重県 北・中部海岸におけるミヤコドリ

岡 八智子、西浦克征、今井光昌、久住勝司、

安藤宣朗、平井正志 (日本野鳥の会三重)

ミヤコドリはかつて三重県で非常に稀な鳥であった。最も古い記録は1953 年9月20日に三重県

北部、員弁川河口においての1羽の観察である。その後1955年以降は三重県中部五主海岸で

しばしば記録されるようになった。安濃川河口におけるシギ・チドリカウントは2000年より開始され

たが、ミヤコドリの飛来数が徐々に増加した。2008年以降は冬期以外の記録も増加し、かつ、安

濃川河口だけでなく、周辺の海岸、河口の砂州などでも見られるようになった。2011年1月22日

には日本野鳥の会三重の独自調査で、これまで最高の104羽を記録した。

夏期、6月15日から9月15日の間に同一場所で複数回観察されたものを越夏記録とすると、

2000年以降しばしば越夏個体が観察されている。2008年には越夏個体が県北部と中部の双方

で記録されており、同一群が行き来している可能性もある。越夏個体は主に第1回夏羽の個体で

あり、繁殖年齢に達していないと推定される。また、一部に第2回夏羽の個体も混じる年もあっ

た。

ミヤコドリの飛来し、越冬する三重県中部の海では現在も漁業が盛んである。煮干し用のカタク

チイワシ、コウナゴ、アサリ、バカガイなどは豊富である。また、河口周辺の砂州だけでなく、自然

の砂浜海岸もかなり残されており、これらがミヤコドリの棲息、越冬を可能にしているのであろう。

ただ、地元の自治体や住民の海岸や水鳥への関心は薄い 。

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2013年度 モニタリングサイト1000 海域・干潟分野

シギ・チドリ類個体数モニタリング調査 第10回

モニタリングサイト1000交流会(三重)要旨集 第10号

発行日:2014年1月25日

編集:守屋年史

発行:NPO法人バードリサーチ

〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9

安濃川河口