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2019 年4月1日
比 較 法 学 会
理事長 小川 浩三
幹事 大西 楠テア
高橋 脩一
会 員 各 位
比較法学会第82回総会を、下記の要領にて開催いたしますので、ご案内申し上げます。
記
比較法学会第82回総会
日 時: 2019年6月1日(土)・2日(日)
開催校: 東 北 大 学
責任者 芹澤 英明(東北大学法学研究科教授、本会理事)
事務担当 得津 晶(東北大学法学研究科准教授)
開催地: 東北大学 川内北キャンパス
宮城県仙台市青葉区川内 27-1
受 付: 1日目 講義棟B棟談話室
2日目 マルチメディア教育研究棟 2階
※ 報告会場(教室)や時間配分などは、変更の可能性があります。当日、会場での案内をご確認
ください。
両日の昼食としてお弁当・お茶を手配します(各日 1,000円)。ご入用の会員は、参加登録と
併せてお申込みください。お支払いは、当日、現金にて承ります。
第1日終了後に懇親会を開催します(会費 5,000円)。出席される会員は、参加登録と併せて
お申込みください。お支払いは、当日、現金にて承ります。
参加登録は、オンライン(19-20頁)またはFAX(21頁)にて、
5月 17日(金)までにお願いいたします。
可能な限り、オンライン登録をご利用ください。
※ 参加登録なしに来場される会員の方が多く、受付の遅延・資料の不足等、
運営に支障を来しております。お手数でも、ご登録をお願いいたします。
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Ⅰ. 概 要
第1日:6月1日(土)
部会報告 9:00~12:00
部会報告 英米法部会 講義棟B棟101
大陸法部会 講義棟B棟102
アジア・社会主義法部会 講義棟B棟104
英米法 大陸法 アジア・社会主義法
9:00 -9:55 中川 山倉 竹内
10:00-10:55 柳 山下 伊藤
11:00-11:55 西村 金 鄭
昼 食 12:00~13:30 講義棟B棟103
※ お弁当・お茶(1,000 円)を手配します。参加登録の際にお申込みください。
理 事 会 12:00~13:30 講義棟A棟104
会 員 総 会 13:30~14:00 講義棟B棟101
ミニ・シンポジウムA〜C 14:00~17:00
A「区分所有法制の比較から日本のマンション管理および再生を考える」 講義棟B棟 101
B「東アジアにおける行政法の基本原則の比較研究」 同 102
C「プライバシーと個人情報保護法制の国際比較―GDPRへの対応を中心として―」 同 104
懇 親 会 17:30~19:30 川内の杜ダイニング
※ 参加登録の際にお申込みください。会費(5,000 円)は当日現金にて承ります。
第2日:6月2日(日)
シ ン ポ ジ ウ ム 「家族による財産管理とその制度的代替」 9:30〜16:30
マルチメディア教育研究棟 M206
午 前 の 部 9:30~12:10
昼 食 12:10~14:00
※お弁当・お茶(1,000 円)を手配します。参加登録の際にお申込みください。
なお、学会二日目の昼食会場・控室はございませんのでご注意ください。
理 事 会 12:10~14:00 川内南キャンパス法学研究棟
午 後 の 部 14:00~16:30
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Ⅱ. プ ロ グ ラ ム 詳 細
******* 第1日(6月1日(土))*******
◯ 部会報告 9:00〜12:00
英 米 法 部 会 講義棟B棟101
9:00~ 9:55 中川 武隆(弁護士(早稲田大学博士後期課程修了))
「悪性格証拠から有罪を推認する過程-イギリス控訴院判例の分析-」
司会:中村 民雄(早稲田大学、本会理事)
10:00~10:55 柳 景子(福岡大学法学部講師)
「アメリカの非良心性法理からみる交渉力不均衡概念」
司会:中村 民雄(早稲田大学、本会理事)
11:00~11:55 西村曜子(北海道大学研究員)
「イングランドの保証契約にみる不当威圧法理の発展とその射程」
司会:会沢 恒(北海道大学、本会理事)
大 陸 法 部 会 講義棟B棟102
9:00~ 9:55 山倉 愛(お茶の水女子大学非常勤講師)
「フランスにおける公証人の助言義務:内容,生成と展開」
司会:片山 直也(慶應義塾大学、本会理事)
10:00~10:55 山下 祐貴子(島根大学法文学部講師)
「ドイツ親子法における父子関係の成否と社会的家族的関係」
司会:上田誠一郎(同志社大学、本会理事)
11:00~11:55 金 旼姝(キム ミンジュ)(広島大学社会科学研究科・法学部助教)
「ドイツ民法における共同所有制度と組合財産の帰属」
司会:鳥谷部 茂(元本会理事)
ア ジ ア・社 会 主 義 法 部 会 講義棟B棟104
9:00~ 9:55 竹内 大樹(神戸大学法学研究科博士後期課程)
「独立後のラトヴィアにおける「言語権」の保障」
司会:渋谷謙次郎(神戸大学、本会理事)
10:00~10:55 伊藤 弘子(名古屋大学大学院学術研究員)
「インド家族法における法多元性に対するグローバル化の影響」
司会:宇田川幸則(名古屋大学、本会理事)
11:00~11:55 鄭 裕靜(ジョン ユジョン)(青山学院大学非常勤講師)
「死刑制度の比較法―法と社会の変動を展望して」
司会:山口直也(立命館大学、本会理事)
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昼 食 12:00~13:30 講義棟B棟103
理 事 会 12:00~13:30 講義棟A棟104
会 員 総 会 13:30~14:00 講義棟B棟101
◯ ミニ・シンポジウム A〜C 14:00~17:00
ミニ・シンポジウム A 講義棟B棟 101
「区分所有法制の比較から日本のマンション管理および再生を考える」
企画責任者 鎌野邦樹・早稲田大学
司会 大野武・明治学院大学
「趣旨説明」 鎌野 邦樹(早稲田大学)
「フランス、ベルギ-のマンションの管理と再生」 吉井 啓子(明治大学)
「ドイツ、スイス、オ-ストリアのマンションの管理と改修・廃止」
藤巻 梓(国士館大学)
「アメリカ、イギリス、オ-ストラリアのマンション管理と解消・建替え」
岡田 康夫(東北学院大学)
「ギリシャ、カナダのマンションの管理と再生」
カライスコス アントニオス(京都大学)
「韓国、台湾、中国のマンションの管理と建替え、および全体のまとめ」
鎌野 邦樹(早稲田大学)
ミニ・シンポジウム B 講義棟B棟 102
「東アジアにおける行政法の基本原則の比較研究」
企画責任者・司会 蔡 秀卿(立命館大学)
「日本における行政法の基本原理原則」 稲葉 一将(名古屋大学)
「台湾における行政法の基本原理原則」 蔡 秀卿(立命館大学)
「韓国における行政法の基本原理原則」 尹 龍澤(創価大学)
「中国における行政法の基本原理原則」 蔡 秀卿(立命館大学)
ミニ・シンポジウム C 講義棟B棟 104
「プライバシーと個人情報保護法制の国際比較―GDPRへの対応を中心として―」
企画責任者・司会 寺田麻佑(国際基督教大学教養学部)
「EUと日本における個人情報保護法制の比較と課題」寺田 麻佑(国際基督教大学)
「ドイツにおける個人情報保護法制の構築」 大西 楠テア(専修大学)
「フランスにおける個人情報保護法制」 曽我部 真裕(京都大学)
「アメリカにおけるプライバシーと個人情報保護法制」成原 慧(九州大学法学部)
懇 親 会 17:30~19:30 川内の杜ダイニング
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******* 第2日(6月2日(日)) *******
◯ シ ン ポ ジ ウ ム 9:30〜16:30 マルチメディア教育研究棟 M206
「家族による財産管理とその制度的代替」
企画責任者・司会 能見 善久(東京大学名誉教授)
午 前 の 部 9:30〜12:10
9:30~9:35 「企画の趣旨 能見善久」 能見 善久(東京大学名誉教授)
9:35~9:50 「日本法からの問題意識」 水野 紀子(東北大学)
9:50~10:25 「ドイツ」 吉永 一行(東北大学)
10:25~11:00 「フランス」 石綿 はる美(東北大学)
11:00~11:35 「アメリカ」 溜箭 将之(立教大学)
11:35~12:10 「中国」 中原 太郎(東京大学)
昼 食 12:10~14:00
*学会二日目の昼食会場・控室はございませんのでご注意ください。
理 事 会 12:10~14:00 川内南キャンパス法学研究棟
午 後 の 部 14:00〜16:30
14:00~14:35 「韓国」 金 亮完(山梨学院大学)
14:35~15:00 「総括」 水野 紀子(東北大学)
【15:00~15:20 休 憩】
15:20~16:30 質 疑 ・ 討 論
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Ⅲ. 要 旨
******* 部 会 報 告 *******
◎ 英 米 法 部 会
悪性格証拠から有罪を推認する過程-イギリス控訴院判例の分析-
中川武隆
(弁護士・早稲田大学博士後期課程修了)
イギリスのコモン・ローは、同種前科などの類似事実から、被告人が同種犯罪を犯す性向を持つ
と認定し、次いで、被告人は、起訴された同種犯罪を犯した蓋然性が高いと推認すること(これを
「性向推認」と言う)を禁止し、一定の場合に、前科などの類似事実証拠を有罪認定に使用するこ
とを許容していた。しかし、2003 年刑事司法法(新法という)は、このコモン・ローのルールを廃
止し、類似事実証拠は、事件の争点に関連性があれば許容される、ただし、その証拠の許容が手続
きの公正さを害するときは、排除すべきものと規定した。
このように、新法が、性向推認の禁止の原則を放棄し、性向推認を許容したことにより、裁判上、
弊害が生じていないのか。イギリス控訴院の判例によって検証する。
検証の結果、類似事実証拠は、有罪認定のために、適切、有効に利用されていることが判明する。
裁判官が、陪審に対し、類似事実証拠の利用につき、適切な推認過程を説示している。その中で、
「他の証拠」の重要性が意識され、性向推認でない推認過程がまず探求され、その結果、性向推認
に依拠する場合は、かなり限定されている。
関連文献:中川武隆『悪性格証拠と推認過程-イギリス控訴院判例の分析-』(2019 年 7 月出版予
定); 笹倉宏紀「同種前科による事実認定」井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選(第 10 版)』
(有斐閣、2017 年)144 頁。
アメリカの非良心性法理からみる交渉力不均衡概念
柳 景子
(福岡大学法学部・講師)
アメリカの非良心性法理 (Unconscionability) は、非良心的(unconscionable)な契約または契約条項
を無効とする、いわゆる契約内容規制の法理であり、現在は統一商事法典(Uniform Commercial Code;
U.C.C.)の第 2 編 302 条の規定として知られている。同法理の適用について、判例・学説は、一般
的に、非良心性は契約締結過程の非良心性(Procedural unconscionability; 手続的非良心性)と、契約内
容そのものの非良心性(Substantive unconscionability; 実体的非良心性)とに分けられ、これら 2 種類
の非良心性がそろって初めて、契約や契約条項が非良心的であると判断されるとの立場をとってい
る。本報告は、非良心性法理が、手続的非良心性という要件を通して、Inequality of bargaining power 、
すなわち、わが国で一般的に「交渉力不均衡」と呼ばれる法理として機能していること、及び、ア
メリカ法の Inequality of bargaining power の議論を分析・参照することにより、わが国の交渉力不均
衡概念の再評価・再定義の可能性を示唆するものである。
関連文献:拙稿「アメリカの非良心性法理の判断構造―手続的非良心性の要件を中心に(1)〜(2・
7
完)」早稲田法学会誌 62 巻 1 号 183 頁(2011)、2 号 225 頁(2012) ; 同「アメリカ法における
『交渉力不均衡』概念の生成」早稲田大学大学院法研論集 145 号 285 頁(2013) ; 同「アメリ
カにおける非良心性法理の展開-- Inequality of Bargaining Power としての非良心性--」(学位(博
士)論文、早稲田大学、2018) ; 同「現代における非良心性法理の展開」福岡大学法学論叢 63
巻 4 号掲載予定(2019)。
イングランドの保証契約にみる不当威圧法理の発展とその射程
西村 曜子
(北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター・研究員)
融資の際に保証契約が締結されるという実態は、広く海外にもみられ、個人保証人については、
交渉力不均衡ゆえに法的保護が必要であることも、もはや各国共通の問題意識である。
こうした中、イングランドでは、配偶者保証に関する O’Brien貴族院判決を契機に、不当威圧に
よる保証の規律が図られてきた。同判決は、主債務者による保証人への不当威圧につき債権者の悪
意を擬制し、擬制を回避するには債権者の「合理的措置」を要するという「悪意擬制の理論」を示
した。同理論は、契約当事者間での不当威圧が想定されてきたところを、主債務者という第三者に
よる不当威圧を包摂するものとして重要な意義を有する。その後の Etridge 貴族院判決は、同理論
を支持し、課題とされてきた「合理的措置」の内容を明示した。ここで示された合理的措置は、一
見すると保証人の救済に欠け、金融の維持に偏するものといえる。しかしながら、判例法は、「保
証人の任意性欠如」のリスクに応じて、合理的措置を多層的に設定し、保証人保護と金融維持の調
整を図る理論を構築していると位置づけられるのである。
本報告では、複数のケースの比較分析から、悪意擬制理論の意義及び射程を明らかにする。
関連文献:拙稿「保証契約締結プロセスの規律 -イングランドにおける信頼の濫用法理の考察を中
心に-」(学位(博士)論文、北海道大学、2017 年);同「保証契約締結プロセスの規律(1)~(4)
-イングランドにおける信頼の濫用法理の考察を中心に-」北大法学論集 69 巻 2 号(2018 年)25-90
頁;同 69 巻 6 号(2019 年 3 月掲載予定);同 70 巻 1 号(2019 年 5 月掲載予定)。
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◎ 大 陸 法 部 会
フランスにおける公証人の助言義務:内容,生成と展開
山倉 愛
(お茶の水女子大学・非常勤講師)
フランスにおける公証人は、例えば日本に比べ、大きな社会的かつ法的な役割を有する。法的な
責任が問題となる場合、厳格な民事責任を負う。公署義務と助言義務の 2 つの義務が主要な義務と
して民事責任を導くとされる。公署義務は公署行為という公証人の職務から内在的に発生する公証
人の固有の職務に基づく義務である一方、助言義務は公署義務を実質化するために派生して生成し
た義務であると言われる。助言義務は、現在の公証人制度を定立する根本法である共和暦Ⅺ年風月
25 日法では黙示的にしか示されていなかったが、1890 年代から破棄院判決を中心とする判例法で
形成され成立し、その後、拡大の一途を見せ、今や、公証人を公証人たらしめている主要な義務と
なり、近年において、内容が変質しているとも言われる。助言義務の内容は情報提供義務と共通す
る側面も有する。また、専門家責任や職業的公序とも密接に関連する。公証人の枠内にとどまらな
い広い射程を持ちうる対象である。
関連文献:山倉愛「フランスにおける公証人の民事責任―職,公序,不法行為責任―」お茶の水女
子大学人文科学研究第 12 巻 319 頁(2016); 山倉愛「日本における公証人制度に関する覚書―
制度,法的責任,実態―」お茶の水女子大学人文科学研究第 14 巻 243 頁(2018)。
ドイツ親子法における父子関係の成否と社会的家族的関係
山下 祐貴子
(島根大学法文学部・講師)
法的な親子関係が、血縁関係の存在を基礎とすることはいうまでもない。しかし、血縁上の親子
関係と法的な親子関係が一致しない場合が生ずることは避けられない。その場合に、直截に血縁関
係の存否に即して法的な親子関係の成否を決するのか、それとも何らかの例外を認めるべきなのか、
といった問題は、実親子法の根幹にかかわる問題である。
本報告は、日本における法的父子関係の在り方を検討するにあたり、比較の対象としてドイツに
おける血縁主義の限界についての分析を試みるものである。具体的には、ドイツにおいて 2004 年
に導入された生物学上の父による法的父子関係の否認権に着目し、否認を阻む要件として規定され
た「社会的家族的関係」の存在をめぐる最新の連邦通常裁判所の決定および 2017 年に公表された
親子法改正提案を紹介する。それを踏まえて、徐々に明らかになりつつある「社会的家族的関係」
が、ドイツ親子法においていかなる意義を有するのかについて検討したい。
関連文献:拙稿「ドイツにおける父子関係の成否と社会的家族的関係」同志社法学 68 巻 2 号(383
号)121-180 頁; 拙稿「ドイツ親子法における社会的家族的関係の意義」同志社法学 70 巻 5 号(402
号) 109-147 頁。
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ドイツ民法における共同所有制度と組合財産の帰属
金 旼姝(キム ミンジュ)
(広島大学社会科学研究科・法学部・助教)
日本民法上の共有及び組合に関する規定がドイツ民法(以下、BGB)の規定を参考にしたのは、
周知の事実である。しかし、日本民法上の共有に関する規定と内容上類似している BGB の規定は、
債務関係編の「共同関係(Gemeinschaft; BGB 第 741 条ないし第 758 条)」が主であり、物権編の「共
有(Miteigentum;BGB第 1008 条ないし第 1011 条)に関する規定は、その補充的規定と解されている。
また、組合に関する規定(Gesellschaft;BGB 第 705 条ないし第 740 条)は上記の共同関係の規定の
前に別の節として位置付けられており、「合有(Gesamthandseigentum)」という物権法的な概念は明文
上存在せず、「合手的拘束(Gesamthänderische Bindung;BGB 第 719 条)」として現れているものであ
る。一方、2001 年の組合の権利能力(Rechtsfähigkeit)を認めた BGHZ 146, 341 判決以後、2009 年
には組合と取引する第三者保護のために、組合財産であることを土地登記簿に公示できるようにす
る規定が設けられた(BGB 第 899a 条及び GBO 第 47 条第 2 項)。本報告は、このような団体法的・
債務法的規律の中で、組合財産が不動産である場合にその帰属及び公示はどのように行われていた
のか、近時の判例及び改正による組合の権利能力及び登記能力の認定は、どのように適用されてい
るのかについて詳しく検討する。そのため、まず、BGB における共同所有制度及び組合に関する規
律の仕組みについて概観し、組合財産の帰属とその公示に関する学説、判例及び改正事項を分析す
る。最後に、日本民法上の共同所有制度及び組合財産の帰属に関する問題において若干の示唆を提
供する。
関連文献:拙稿「ドイツ民法における共同関係に関する研究(一)、(二)、(三・完)−BGB 第 741
条以下を中心に−」広島法学第 40 巻 3 号(平成 29 年 1 月)、第 41 巻 1 号(平成 29 年 6 月)、第
41 巻 4 号(平成 30 年 3 月)、「ドイツにおける共同所有に関する研究−共有と組合の関係を中心
に−」広島法学第 41 巻 3 号(平成 30 年 1 月)、「組合財産の帰属に関する共有主義の再検討−BGB
草案の内容を端緒として−」広島法学第 42 巻 4 号(平成 31 年 3 月刊行予定)。
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◎ ア ジ ア・ 社 会 主 義 法 部 会
独立後のラトヴィアにおける「言語権」の保障
竹内 大樹
(神戸大学法学研究科・博士後期課程)
ラトヴィアは独立回復当初、ソ連時代にラトヴィアへ移住した多くのロシア語系住民を含む旧ソ
連市民に対して自動的に市民権を与えず、ロシアへの自発的な帰還を求めていた。しかし、ラトヴ
ィアは早期の欧州評議会加盟、EU 加盟を目指していたため、彼らの是正勧告を無視することはで
きなかった。そこで、ラトヴィアは、1994 年の国籍法制定以降、市民権付与の規制を緩和し、多民
族からなるラトヴィア市民の形成へと舵を切ったのである。その一方で、国家語であるラトヴィア
語に与えられた社会統合機能はその後増大傾向にあり、1999 年の一部私的領域での国家語使用の義
務化に加え、2019 年 9 月には中等教育課程での教育言語の完全な国家語化が行われる予定である。
この点につき、ロシア語系住民が、憲法第 114 条が規定する「少数派民族に属する者が有する、自
身の言語、民族的、文化的特徴性の維持、発展の権利」に基づいて「言語権」を主張することは、
憲法裁判所が 2001 年 12 月 21 日判決の中で「ラトヴィア語の使用領域を狭めることは国家の民主
主義体制に対する脅威として見なされる」と判示したことを踏まえると、非常に困難であると考え
られる。
関連文献:Rasma Karklins, “Ethnopolitics and Transition to Democracy: The Collapse of the USSR and
Latvia”, The Woodrow Wilson Center Press, 1994; 渋谷謙次郎「『国民国家』の位相と『言語の権利』(三・
完) −ソビエト連邦の「国民国家」化にいたるまでの「民族」と「国家」の比較法的考察に向けた一
試論−」,早稲田大学大学院法研論集第七四号, 1995 年; 河原祐馬「ラトヴィア共和国の言語政策と
少数民族問題 ―「国家語」法をめぐる動向を中心に―」, 岡山大學法學會雜誌, 52 巻 3 号, 2003 年;
Silova, I, “From Sites of Occupation to Symbols of Multiculturalism -Reconceptualizing Minority Education
in Post-Soviet Latvia-”, Information Age Publishing, 2006; Jennie. L. Schulze “Strategic frames: Europe,
Russia and Minority inclusion in Estonia and Latvia”, University of pittsburgh press, 2018.
インド家族法における法多元性に対するグローバル化の影響
伊藤 弘子
(名古屋大学大学院 学術研究員)
本報告は,人的不統一法国の典型であるインドで近年のグローバル化の進展と新しい家族像への
対応を目的とした法整備が進められている状況を確認し,将来的にグローバル・スタンダードを採
用する統一法による法多元性の解消が達成されうるかを考察することを目的とする。インドでは,
近年,離婚宣言による婚姻解消や複婚規制等,当事者が固有法の適用を選択した場合についても,
一般法を強行的に適用し固有法の適用範囲を制限する判例変更が頻繁になされている。グローバル
化の進展により同性婚や代理懐胎等への関心も高くなり,人権・子の最善の利益等のグローバル・
スタンダード達成を目標とする家族関係法の再構築が求められている。植民地時代のインドの成文
法(例えば刑法典)は,モデル法として他の植民地にも移植され,インドにおける動向は,現在の
コモン・ロー諸国に影響を与える。本報告では国民の大多数がムスリムであるバングラデシュの状
況と対比しつつ人的不統一法国の法整備につき検討する。
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関連文献:伊藤弘子「インドにおける法多元性と法の抵触」国際私法年報第 19 号 (2017) 82-108 頁;
Hiroko ITO, ‘International Commercial Surrogacy: Why Manji Could not Establish Parenthood’ Family
Law News, ewsletter of the International Bar Association Legal Practice Division, Vol.6, Number 1,
pp.57-60, 2013; 伊藤弘子「インドにおける代理出産の現状と出生子の法的取扱い」戸籍時報
第 631 号(2008)24-33 頁。
死刑制度の比較法 ― 法と社会の変動を展望して
鄭 裕靜 (ジョン ユジョン)
(青山学院大学・非常勤講師)
死刑制度は、長らく哲学的・理論的な対象とされ、刑罰の目的や効果の面から分析されてきたが、
死刑廃止を展望すると、その変遷や変動を適確に分析し、人びとが判断するための有用な資料を提
供することが重要である。
王雲海博士の「社会特質論」は、「精神・文化から社会を」解明するという手法をとり、権力的
社会(中国)、文化的社会(日本)、法の支配する社会(アメリカ)という3つの社会類型を析出し、
韓国を混合型と分類して、死刑もこのような社会現象に含まれるとする。このような静態的な分析
方法に対して、質的変化や構造的な変動によって死刑が廃止されたり減少したりする事象を分析す
るために、「死刑」に関連する社会現象が、法制度のみならず、法思想や法感情などの「心性」に
もかかわり、社会的に共有されている「価値」や「行動様式」にかかわるとみて、いわば総合的に
把握する必要がある。とりわけ「共益的正義論」という分析視角から、静態的な類型論ではなく、
動態的な類型の変動・変遷を理論的に解明する試論を提供したい
関連文献:鄭裕靜「あなたは死刑についてどう思われますか。―法学(日本国憲法を含む)の教育
実践報告から」青山スタンダード論集 第 13 号(2018); 新倉修・鄭裕靜(共著)「死刑廃止のた
めの論点──日本における議論の起点および韓国における死刑の執行停止(モラトリアム)と廃止
の展望」青山法務研究論集 第 13 号(2017); 王雲海『死刑の比較研究~中国、米国、日本~』成
文堂(2005); Yunhai Wang, The death penalty and society in East Asia: How to understand and compare the
death penalty in China, Japan and South Korea, Hitotsubashi journal of law and politics, vol. 40, 2012.
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******* ミ ニ・シ ン ポ ジ ウ ム *******
◎ ミニ・シンポジウム A
区分所有法制の比較から日本のマンション管理および再生を考える
企画責任者 鎌野邦樹(早稲田大学)
司会 大野武(明治学院大学)
今日、日本では620万戸を超えるマンションが存在するが、そのうちの相当数は、高経年であ
り、かつ居住者の多くを高齢者が占める。このような事情の下で、マンション法制に関し、次のよ
うな2つの学術的な問いを発したい。第一は、《区分所有者が、相互に各人の利益に配慮しながら、
建物を持続的に維持するために、円滑かつ合理的に共同で管理するためにはどのような制度が必要
か》という問いであり、第二は、他方で、《マンションを円滑かつ適正に「再生」(改良・建替え)
または「終了」(解消)させるためには、いかな制度が構築されるべきか》という問いである。
第一の問いに関しては、日本の区分所有法制においては、区分所有者ないしその団体(管理組合)
は、過半数決議により建物の管理が可能であり、4分の3以上の特別多数決議により変更・改良が
可能であるという2つの方法を原則としているが、日本法には、ドイツ法において見られるような、
それらについての区分所有者間の義務付けはなく、また、フランス法、ベルギ-法、ギリシャ法等
において見られるような、より多様な選択肢は用意されていない。第二の問いに関しては、日本の
区分所有法制においては、一般的には、5分の4以上の特別多数決議により建物全部を取り壊して
建て替えるという方法しか用意されておらず、比較法的には、特別多数決による、韓国法(改正案)
において見られるようなリモデリング制度、アメリカ法やイギリス法において見られるような解消
(建物敷地売却)制度、オ-ストラリア法において見られるような再生(建替えまたは売却)制度、ま
たは、スイス法において見られる廃止(分割)請求制度やフランス等において見られるような行政法
と連携した荒廃区分所有建物制度は用意されていない。
本企画においては、以上のような問題意識から、下記の通り、各報告者が、日本と共通した、ま
たは日本の固有の課題との関連において、諸外国の法制(および可能な限り実態)について報告する。
なお、各報告者の報告においては、それぞれの割り当てられた時間内において、それぞれの報告に
関連する事項等について、本企画に係る研究についての共同研究者(吉井報告に関しては寺尾仁・
新潟大学准教授、藤巻報告に関しては伊藤栄寿・上智大学教授、岡田報告に関しては花房博文・創
価大学教授、カライスコス報告に関しては角田光隆・神奈川大学教授等)が、コメントを行うこと
を予定している。
報告:
「趣旨説明」 鎌野 邦樹(早稲田大学)
「フランス、ベルギ-のマンションの管理と再生」 吉井 啓子(明治大学)
「ドイツ、スイス、オ-ストリアのマンションの管理と改修・廃止」藤巻 梓(国士館大学)
「アメリカ、イギリス、オ-ストラリアのマンション管理と解消・建替え」
岡田 康夫(東北学院大学)
「ギリシャ、カナダのマンションの管理と再生」
カライスコス アントニオス(京都大学)
「韓国、台湾、中国のマンションの管理と建替え、および全体のまとめ」
鎌野 邦樹(早稲田大学)
13
関連文献:鎌野邦樹「マンションの解消(建替え・建物敷地売却)をめぐる立法等の経緯と外国法制」マン
ション学 56 号 69-82 頁、2017 年 ; 鎌野邦樹「居住者の高齢化と高経年マンション-法はどう向き合うか
-」『早稲田法学の現在 浦川道太郎先生・内田勝一先生・鎌田薫先生古稀記念論文集』115-139 頁、成文
堂、2017 年 ; 鎌野邦樹「区分所有法・集合建物法の日韓比較-韓国法の日本法継受とその後の発展」マ
ンション学 55 号 82-95 頁、2016 年 ; 岡田康夫、鎌野邦樹「オ-ストラリアの新しいマンション法」マン
ション管理通信 366 号 18-21 頁、(公財)マンション管理センタ-、2016 年 ; 岡田康夫「オ-ストラリア
区分所有法をみる―ニュ-・サウスウェ-ルズ州を中心に―」マンション学 51 号 154-161 頁、2015 年 ; 吉
井啓子「ベルギ-のマンション法の展開-2018年改正の概要-」マンション学 60号 149-152頁,2018年 ; 吉
井啓子「ベルギ-の区分所有法の概要」法学論叢 87 巻 2=3 号 321-340 頁、2015 年 ; 吉井啓子「フランス
区分所有法の新展開-2014 年 ALUR 法よる改正」『社会の変容と民法の課題(上巻)』265-286 頁、成文堂、
2018 年 ; 藤巻 梓「スイス民法典における共有と階層所有権」『民法法学の歴史と未来』321-340 頁、成
文堂、2014 年 ; 藤巻 梓「スイスにおける廃止(解消)について」マンション学 51 号 175-180 頁、2015 年 ;
鎌野邦樹、カライスコス・アントニオス「ギリシャのマンション法」マンション管理通信 396 号 20-23 頁、
2018 年。
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◎ ミニ・シンポジウム B
東アジアにおける行政法の基本原則の比較研究
企画責任者・司会 蔡 秀卿(立命館大学教授)
本ミニ・シンポジウムは、東アジア(日本、台湾、韓国及び中国)における行政法の基本原則の
意味内容及びその具体化の様相を比較研究することにより、東アジアの行政活動に対する法的拘束
の基本原則の到達点を明らかにすることを主たる目的とする。また、グローバルな(又は国際的な)
公共事務が存在することを前提にして、東アジアにおいてグローバルな公共事務(又はグローバル
な行政活動)への法的拘束の基本原則に係る理論基盤の構築をも目指したい。
第1報告は、日本行政法の生成と発展を明治期から 1945 年、1945 年から冷戦終結まで、冷戦終
結後のグローバル化の 3 つの時代に分け、特に戦後及び冷戦終結後のグローバル化の時代における
法治主義をめぐる論議の特徴を示し問題点を提起するとともに、法治主義以外の基本原則の状態を
整理する。
第 2 報告は、台湾行政法の生成と展開を 1945 年から 1991 年、1991 年以降の 2 つの時代に分け、
各時代における法治国・依法行政の意味合いを整序するとともに、法治国以外の基本原則について
は憲法との共通基本原則として明確性の原則、平等原則、比例原則、信頼保護の原則、不当連結禁
止の原則、適正な手続の原則を挙げ、民事法との共通基本原則として誠実信義の原則、裁量濫用禁
止の原則、事情変更の原則を挙げ、行政法独自生成・展開の基本原則として公正・公平の原則、公
益の原則、利益衡平の原則、経済性・効率性の原則を挙げ説明し、これらの原則に関する代表的な
大法官解釈及び裁判例を紹介する。
第 3 報告は、韓国行政法の生成と展開を軍事独裁体制・開発独裁、民主化後の 2 つの時代に分け、
各時代における法治主義の意味合いを整序し、憲法裁判所及び大法院の判例を通じて韓国における
法治主義の特色の一端を明らかにする。
第 4 報告は、中国行政法の基本原則の生成と変遷を 1985 年以前、1985 年から 1989 年まで、1989
年以降の3つの時代に分け、各時代における学説の状況を整理するとともに、基本原則である依法
治国・行政法治における「法」の意味を立法法の構造を通じて明らかにし、基本原則に関する指導
案例を紹介する。
最後に東アジアにおいて、グローバルな行政活動への法的拘束の基本原則に係る理論基盤を考え
てみたい。
報告:「日本における行政法の基本原理原則」 稲葉一将(名古屋大学)
「台湾における行政法の基本原理原則」 蔡 秀卿(立命館大学)
「韓国における行政法の基本原理原則」 尹 龍澤(創価大学)
「中国における行政法の基本原理原則」 蔡 秀卿(立命館大学)
関連文献:蔡秀卿「東アジアの行政法の共通基本原則の形成可能性ー東アジアの行政法の共通性の
模索のための準備的考察」大阪経済法科大学法学論集 71 号 31 頁以下(2012 年); 蔡秀卿「東
アジアにおける行政法の共通基本原理の形成可能性ー行政に対する法的拘束の基本原理の普遍
性と特殊性」名古屋大学法政論集 255 号 853 頁以下(2014 年)。
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◎ ミニ・シンポジウム C
プライバシーと個人情報保護法制の国際比較―GDPR への対応を中心として―
企画責任者・司会 寺田麻佑(国際基督教大学)
本ミニ・シンポジウムは、EU と米国において個人情報保護法制が様々に整備されているなか、
その国際的な波及効果や個人情報保護法制の具体化の内容を比較法的に検討し、特にプライバシー
に関する様々な考え方などを比較することにより、個人情報保護法制の現状と課題に関する最先端
の議論を整理するとともに、それぞれの法制度のなかから、今後の社会における検討が必要となる
ビッグデータの取扱いとプライバシーの保護の在り方とのの調整の必要な状況について本質的な
問題としてのパーソナルデータの利活用の在り方に関する比較法的考察と検討を行うものである。
個人情報保護法制は、プライバシーの考え方(理念)の違いに基づき、特に典型的には米国と欧
州においては異なった規制の在り方がとられていることが特徴的である。しかし、EU において近
年制定された EU 一般データ保護規則(GDPR)の影響力は特に大きく、GDPR の規制内容に適す
るように(もしくは何らかの形で整合性を図るために)日本の個人情報保護法も改正されている。
また、世界中の個人データを集積する GAFA(Google, AMAZON, Facebook, Apple)は全て米国を本
拠地とする企業であり,個人データを巡る法規制や政策は米国の動向を差し置いては不十分な検討
にとどまるところ、GAFA も GDPR の影響を注視し、様々な利用規約の改定(規制強化)をおこな
っている。以上のような状況のなか、本企画は、国内の比較法研究者を中心に、国内および海外の
個人情報保護法制に関する現状についてプライバシーの問題を巡る規制の在り方を中心に関連す
る問題について報告を行い、議論を行うことを目的としている。具体的には、企画責任者である寺
田麻佑より日本と EU の個人情報保護法制についての報告、成原慧よりアメリカと日本における表
現の自由の問題やプライバシーの問題と個人情報保護法制の問題に関する報告、曽我部真裕よりフ
ランスにおける表現の自由やプライバシー・個人情報保護の諸問題の報告、そして大西楠テアによ
って、ドイツにおける連邦と州における個人情報保護法制の構築に関する報告を予定している。
報告: 「EU と日本における個人情報保護法制の比較と課題」寺田麻佑(国際基督教大学)
「ドイツにおける個人情報保護法制の構築」大西楠テア(専修大学)
「フランスにおける個人情報保護法制」曽我部真裕(京都大学)
「アメリカにおけるプライバシーと個人情報保護法制」成原慧(九州大学法学部)
関連文献:寺田麻佑『EU とドイツの情報通信法制―技術の発展に即応する規制と制度の展開』(勁
草書房、2017年) ; 成原慧『表現の自由とアーキテクチャ』(勁草書房、2016 年) ; 大西楠
テア「難民危機後のドイツ・デモクラシー 民主的正統性と連邦憲法裁判所」宮島喬・木畑洋
一・小川有美(編)『ヨーロッパ・デモクラシー 危機と転換』(岩波書店、2018 年) ; 曽我部
真裕「自己情報コントロール権は基本権か?」憲法研究3号(2018年11月)
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******* シ ン ポ ジ ウ ム *******
家族による財産管理とその制度的代替
企画責任者 能見善久(東京大学名誉教授)
1.企画趣旨
日本の高度成長期に蓄えられた富は、多く高齢者の個人資産となっており、それらを狙う犯罪も
増加している。財産管理の問題は、日本社会が抱える喫緊の課題である。
明治民法が個人財産制を導入するまで、日本社会は、家がいわば括弧付きの「法人」として財産
の法主体となる、江戸期以来の家産制を引きずった社会であった。家産制においては、家の当主が
財産を管理する。しかし個人財産制においては、個人が財産を有する限り、それぞれ自らあるいは
他人に依頼して財産を管理しなければならない。そして未成年者、精神障碍者、認知症高齢者など
の無能力者には、何らかの財産管理の手法が必要になる。もとより明治民法もこれらに対応する制
度を設けた。未成年者の財産管理については、親権者に処分権限すら認める極端に広範な代理権限
を承認し、親権者と子の利益相反行為すら特別代理人の選任によって可能としたが、特別代理人の
選任手続きは敷居が高かったため、逆に子の財産を守る機能を担うことになった。そして成人の無
能力者には、禁治産・準禁治産制度を創設した。しかし、この行為無能力制度はほとんど用いられ
ず、家族が事実上の後見人として財産管理を行ってきた。
成年後見法の改正は、禁治産・準禁治産制度を廃止して実効的な成年後見制度を立法しようとし
たが、対象者のごく一部にしか用いられていない。最判平成6年 9 月 13 日民集 48 巻 6 号 1263 頁
は、事実上の後見人であった家族による行為の追認拒絶を認容したものの、追認拒絶が信義則違反
になる場合がありうることを広く認めたが、この広範な例外の承認は、事実上の後見人による取引
が実際によく行われている現状では、必要とされる法的曖昧さであろう。親族後見人が被後見人の
財産を着服した事件で、広島高判平成 24 年 2 月 20 日判タ 1385 号 141 頁は、家庭裁判所が後見監
督を怠ったとして国家賠償請求を認容した。しかし現状の家庭裁判所は、成年後見人の選任と監督
を十分に行える体制だろうか。そして親族後見人の選任は減少し、専門職後見人の選任が増加して、
後見にかかる費用が増加している。
本シンポジウムでは、民法の母法であるドイツ法・フランス法のほか、アメリカ法を含めて、西
欧法のこの問題への対処をみるとともに、近代法の個人財産制を機能させる点では、日本法と同様
の困難を抱えていると想像される中国法と韓国法を対象として、日本の状況と問題点を比較法的な
観点から検討したい。
2.各報告概要(報告順)
(1)ドイツ 吉永一行(東北大学)
世話法として知られるドイツにおける成年後見制度と、親権者による未成年者の財産管理を対象
として報告を行う。ドイツでは、世話法による旧来の禁治産制度から成年後見制度への改正も含め
て、比較的頻繁に改正が行われているが、それにより公的機関の関わり方がどのように変化したの
か、また条文に現れる家族観がどのように変化したのかという側面を明らかにする。
(2)フランス 石綿はる美(東北大学)
フランス法では、成人の無能力者の財産管理のためには、法律上の保護措置として、後見をはじ
め将来保護委任など多様な制度が用意されている。報告では、まず、これらの制度を概観し、制度
間の関係性を明らかにする。次いで、法律上の保護措置の代替としても利用される夫婦財産制や相
続・贈与といった制度を紹介する。報告に通底する問題意識は、財産管理の担い手としての家族の
役割と、それら担い手に対する監督のあり方である。
17
(3)アメリカ 溜箭将之(立教大学))
未成年であれ、能力を喪失した成人であれ、アメリカにおける無能力者の保有する財産の管理は、
後見制度を通じて行われる。後見人には家族が選任されることも多いが、裁判所による監督を通じ
て、無能力者の財産管理の適正さが担保される。報告ではまず後見制度を概観するが、後見制度は
費用と時間がかかり、現実には事前のプラニングで極力避けるべきとされる。報告の後半では、信
託を中心とした制度的代替と、代替手段の円滑な利用を可能にする立法の動向を追う。
(4)中国 中原太郎(東京大学)
要保護成年者及び未成年者を対象とする監護(後見)制度や夫婦財産制度等を概観し、現代中国
法における家族財産管理の法制度の特徴を明らかにする。これらは必ずしも成熟したものではなく、
不安定な要素を多く抱えるが、伝統的な家族観や社会の変化を前提に、とりわけ家族や家族以外の
主体(住民組織、行政機関、民間組織等)にどのような役割が期待されているかという観点に着目
した分析を行いたい。
(5)韓国 金亮完(山梨学院大学)
財産管理能力を欠く(あるいはそれが不十分な)者のための韓国法上の制度(以下「財産管理制
度」という。)は、日本法上のそれと類似するものとなっている。しかしながら、韓国においては、
財産管理制度の利用状況が日本に比してかなり低いのが現状である。本報告では、財産管理制度の
内容が類似するにもかかわらず、利用状況が低いことに焦点を当て、①韓国の財産管理制度の俯瞰、
②財産管理制度の利用率の低さの背景を踏まえた上で、③日本法の観点からみた韓国における財産
管理制度の位置づけを報告する。
関連文献:能見善久他編著『信託法制の新時代』(弘文堂、2017 年); 水野紀子・窪田充見編集代
表『財産管理の理論と実務』(日本加除出版、2015 年); 水野紀子「民法と社会的・制度的条件」
公証法学 47 号 1-38 頁(2018 年)。
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Ⅳ. 開催校ならびに事務局からのお願い
1.オンライン登録システムを利用して、ご参加の旨をご登録ください。
オンライン参加登録の手順(詳しくは 19-20頁を参照)
・ 比較法学会ホームページ(http://www.asas.or.jp/jscl/)から登録画面にお入り下さい。
・ 会員番号の入力が必要となります。封筒の送付ラベルにある 004から始まる 10桁の番号が
会員番号です。また、パスワードは、2010年に、会費請求時に同封してお知らせしており
ます。お忘れの方、また、2010 年度以降のご入会の方は、ホームページトップ上掲の「会
員情報変更」→「オンライン会員登録はこちらから」→「パスワード問い合わせ」
(http://www.asas.or.jp/jscl/info/member_henko.html)より発行してください。
・ 2010年度からの試みであることから所定のファックスでの登録(21頁)も受付けますが、
事務作業の効率化のため、可能な限り、オンライン登録をご利用ください。
・ 登録方法が不明な場合は、学会支援機構(TEL:03-5981-6011)までご連絡ください。
・ 登録の〆切は、オンライン・FAXともに、5月 17日(金)必着とさせていただきます。
・ 参加登録なしに来場される会員の方が多く、受付の遅延・資料の不足等、運営に支障を来し
ております。お手数でも、ご登録をお願いいたします。
2.両日の昼食としてお弁当・お茶を手配します(各日 1,000 円)。ご入用の会員は、参加登録と
併せてお申込みください。お支払いは、当日、現金にて承ります。
なお、6月2日(日)は、学内の食堂は営業しておりません。
3.第1日終了後に懇親会を開催します(会費 5,000 円)。出席される会員は、参加登録と併せて
お申込みください。お支払いは、当日、現金にて承ります。
4.会場への経路は 22頁をご参照ください。
5.報告会場の変更などは、当日受付でご案内します。
6.会場に関する事前の問い合わせは、下記にお願いいたします。
仙台市青葉区川内27-1東北大学法学研究科
東北大学法学部 得津 晶
TEL: 022-795-6190 E-mail: [email protected]
***************************************************************************************
【事務局からのお知らせ】
比較法学会の会員管理業務は、一般社団法人・学会支援機構に委託しています。所属変更・入
会申込・退会届・叙勲等申請のための在籍期間確認・雑誌購読のご連絡は、同機構・比較法学
会係宛にお願いいたします。その他の....
お.問い合わせに限り........
、学会事務局にご連絡ください。
一般社団法人 学会支援機構 比較法学会係
〒112-0012 東京都文京区大塚 5-3-13 小石川アーバン4階
E-mail:hikakuhou@asas-mail.jp TEL:03-5981-6011 FAX:03-5981-6012
比較法学会事務局
〒101-8425 東京都千代田区神田神保町 3-8 専修大学法学部 大西楠テア 高橋脩一
19
Ⅴ.オンライン参加登録の手順について
① 比較法学会ホームページ(http://www.asas.or.jp/jscl/index.html)から、総会参加登録ページへア
クセスしてください。クリックしますと以下の画面が表示されます。
② 入力フォームの手順
③ 参加情報入力の手順
①年会費請求書や封筒に印字され
ている 004から始まる 10桁の数
値が会員番号です。
②パスワードは、2010 年度第 1 回
目の会費請求書に同封の「登録
情報ログインパスワードに関す
るお知らせ」にてご案内してお
ります。
登録画面に入りますと
現在、学会支援機構に
登録されているご自身
の氏名・所属機関・住
所の情報が表示されま
す。
③2011 年度以降のご入会の方で、
パスワードが不明の方はこちら
から発行手続きをお願い致しま
す。
④パスワードを紛失された場合に
は、左記の[パスワード問い合わ
せ]から再発行の手続きをお願
いします。
20
④ 参加登録内容の確認
①(*)は必修選択の項目
となりますので、選択漏
れの無いようにお願い
致します。
② Q1 で「参加する」と選
択された方は、Q2、Q3、
Q4、Q5、Q6、Q8へお進み
下さい。
③ Q1 で「参加しない」を
選択された方は、Q5へお
進み下さい。
④ Q5 で「参加する」と選
択された方は、Q7へお進
み下さい。
⑤ Q5 で「参加しない」を
選択された方は Q9 へお
進み下さい。
⑥ 最後に「確認画面へ」
を押して、参加登録内容
の確認を行って下さい。
登録内容をご確認下さい。
左記に標記された参加登録
内容でよろしければ、登録
ボタンを押してください。
登録後、登録完了のメール
がお手元に届きます。
それで参加登録受付は終
了です。
21
※ この頁をコピーして、FAXでの登録にご利用ください。※
可能な限り、オンライン登録(19-20頁)をご利用ください。
一般社団法人学会支援機構内 比較法学会係 行
FAX:03-5981-6012
(該当箇所に☑印を記入)
第1日 6月1日(土) □ 参加する □ 参加しない
午 前 : □ 英米法部会
□ 大陸法部会
□ アジア・社会主義法部会
会 員 総 会 : □ 出席 □ 欠席
午 後 :
□ ミニ・シンポジウムA「区分所有法制の比較から日本のマンション管理および再生を考える」
□ ミニ・シンポジウムB「東アジアにおける行政法の基本原則の比較研究」
□ ミニ・シンポジウムC「プライバシーと個人情報保護法制の国際比較―GDPRへの対応を中心と
して―」
第2日 6月2日(日) □ 参加する □ 参加しない
シンポジウム「家族による財産管理とその制度的代替」
□ 午前・午後ともに参加 □ 午前のみ □ 午後のみ
***************************************************************************************
♦ お弁当・お茶(各日 1,000 円。当日、現金にてお支払いください。)
第1日目: □ 要 □ 不要 第2日目: □ 要 □ 不要
♦ 懇親会(第1日 17:30〜19:00。会費 5,000 円。当日、現金にてお支払いください。)
□ 参加する □ 参加しない
***************************************************************************************
(変更のある方は☑印を記入)
□ 氏名:
□ 住所:
□ 所属:
□ メールアドレス:
※準備の都合上、5 月 17日(金)までに到着するようにご送信ください。
22
東北大学川内北キャンパス・キャンパスマップ
〇仙台空港・仙台駅から東北大学川内キャンパスへのアクセス
仙台空港アクセス線
各停25分/快速17分
650円 地下鉄東西線
八木山動物公園行き 南2出口
6分:200円 キャンパス
直結
JR在来線・東北新幹線
*地下鉄東西線川内駅「南2出口」が、東北大学川内キャンパスに直結しています。
*6月1日(土)は講義棟B棟、6月2日(日)はマルチメディア教育研究棟を会場とし
て実施いたします。
仙
台
空
港 川
内
駅
仙
台
駅
東
北
大
学
川
内
キ
ャ
ン
パ
ス
1 日目会場・受
付:談話室
2 日目受付・シンポ
ジウム会場
23
理事会会場
法学研究棟 3 階
大会議室
法学研究棟 3 階
大会議室
マルチメディア教育研究棟
2 日目受付・シンポジウム会場
B 棟
1 日目会場・受付:談話室