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ニュートリノおよび反ニュートリノと核子・原子核の反応
:
2008年12月15日 物理学コロキウム第二
内容:1. ニュートリノ散乱における
反跳陽子の測定2. Bethe-Blochの式と飛程
3. SciBooNE実験4. まとめ
柴田研究室
05_05556 岡村 勇介
1
(stopping range)
1. ニュートリノ散乱における反跳陽子の測定
ニュートリノは素粒子のレプトンの一種で、電荷と色電荷はもたず弱電荷のみをもつ。弱い相互作用のみをする。電子ニュートリノ、μニュートリノ、τニュートリノの3種類がある。反ニュートリノはニュートリノの反粒子である。ニュートリノと核子の相互作用には、中性流の相互作用 (ボーズ粒子Zが媒介す
る) と、荷電流の相互作用 (ボーズ粒子Wが媒介する) がある。
中性流の反応 荷電流の反応
pn
W
p
p
W
pp
Z
p
0
p
Z
中性流の反応 荷電流の反応
中間子生成 中間子生成pp pn
弾性散乱
2
ニュートリノ-核子反応
・ニュートリノビームを標的にあてる。
・反跳された陽子の飛程を測定する。
重荷電粒子(陽子、 中間子、 ..)が物質中を進む時に、電子をイオン化することにより失うエネルギーを表す式。
Bethe-Blochの式
標的が軌跡の検出器にもなっている (active target)
・反跳された陽子の運動エネルギーを決定する。
・反応の4元運動量移行 を決定する。
この式から、物質中での重荷電粒子の飛程 (stoppingrange) を計算する。
・反応の微分断面積を の関数として決定する。
2Q
2Q3
2. Bethe-Blochの式と飛程(stopping range)
荷電粒子ビームによるイオン化
重荷電粒子(陽子、μなど)
電子
23
220
2
}){(4);(
bVt
bzebtF
……①電子に働く力
この を用いて電子の運動方程式を解くと、
bVm
ze
Vbt
t
bVm
ze
dt
dy
0
2
220
2
44
……②電子の移動速度
1個の電子をイオン化する際に重荷電粒子が失うエネルギー は、)(bE……③電子1個をイオン化する際に重荷電粒子が失うエネルギー
);( btF
mVb
ezdt
dt
dybtFdybtFbE
ty
ty222
02
42)(
)( 8);();()(
∵①②
4
2. Bethe-Blochの式と飛程(stopping range)
荷電粒子ビームによるイオン化
重荷電粒子(陽子、μなど)x
y
電子
電荷速度 (十分大きい)
zeV
質量電荷初めは静止
me
座標 重荷電粒子:電子:
0,Vt )(,0 ty
t時刻
23
220
2
}){(4);(
bVt
bzebtF
……①電子に働く力
この を用いて電子の運動方程式を解くと、
bVm
ze
Vbt
t
bVm
ze
dt
dy
0
2
220
2
44
……②電子の移動速度
1個の電子をイオン化する際に重荷電粒子が失うエネルギー は、)(bE……③電子1個をイオン化する際に重荷電粒子が失うエネルギー
);( btF
mVb
ezdt
dt
dybtFdybtFbE
ty
ty222
02
42)(
)( 8);();()(
∵①②
4
2. Bethe-Blochの式と飛程(stopping range)
荷電粒子ビームによるイオン化
重荷電粒子(陽子、μなど)x
y
電子
力 )(tFインパクトパラメータ
(電子と重荷電粒子の軌跡の距離)
電荷速度 (十分大きい)
zeV
質量電荷初めは静止
me
b 座標 重荷電粒子:電子:
(ただし、 )bty )(
0,Vt )(,0 ty
t時刻
23
220
2
}){(4);(
bVt
bzebtF
……①電子に働く力
この を用いて電子の運動方程式を解くと、
bVm
ze
Vbt
t
bVm
ze
dt
dy
0
2
220
2
44
……②電子の移動速度
( )bty )(
1個の電子をイオン化する際に重荷電粒子が失うエネルギー は、)(bE……③電子1個をイオン化する際に重荷電粒子が失うエネルギー
);( btF
mVb
ezdt
dt
dybtFdybtFbE
ty
ty222
02
42)(
)( 8);();()(
∵①②
4
bb
重荷電粒子
標的の単位体積中の電子の数:
このとき、標的の厚さ 、インパクトパラメータ ~ の
③ 電子1個をイオン化する際に重荷電粒子が失うエネルギーmVb
ezbE
222
02
42
8)(
(再掲)
xbb b
n
次に、標的物質中での多数の原子のイオン化を考える。
よって重荷電粒子が標的物質中で単位長さあたりに失うエネルギー は、
MIN
MAX
b
bb
b
mV
nezdbbnbE
dx
dE MAX
MIN
ln4
2)(22
0
42
……④重荷電粒子が標的物質中で単位長さあたりに失うエネルギー
∵③
x
重荷電粒子
xbbn 2インパクトパラメータ ~ の間にある電子の数は
ここで , は、重荷電粒子がイオン化できる電子のインパクトパラメータのそれぞれ最大値、最小値である。
MAXb MINb
bb b
dx
dE
5
5
MINb・ :電子が重荷電粒子と衝突するようなインパクトパラメータ
I
zebMAX
0
2
4
IMAXb・ :「電子が重荷電粒子から得る静電ポテンシャル」
=「標的物質の電子の平均イオン化ポテンシャル 」となるインパクトパラメータ
……⑤インパクトパラメータの最大値
0);0( bty
次に、インパクトパラメータとイオン化ポテンシャルを考える。
陽子、 のプラスチック(CH)中での dE
(MeV/cm)
dx
dE
水素分子
空気
ヘリウム
メタン
15.6 (eV)
36.0 (eV)
80.5 (eV)
41.6 (eV)
物質平均イオン化ポテンシャル
物質ごとの平均イオン化ポテンシャル
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
mV
zebMIN 2
0
2
4
よって、重荷電粒子が標的物質中で単位長さあたりに失うエネルギーは、
……⑥インパクトパラメータの最小値
電子の運動方程式を解いて を求め、代入すると
);( bty
I
mV
mV
nez
dx
dE 2
22
0
42
ln4
……⑦ Bethe-Blochの式(重荷電粒子が標的物質中で単位長さあたりに失うエネルギー)
6
中でのdx
dE(MeV/cm)
0
1
2
3
4
0 1 2 3 4 5 6
粒子の運動エネルギー
(GeV)
陽子
Bethe-Blochの式と飛程(stopping range)の計算
標的R
化合物標的でのBethe-Blochの式は、各元素標的でのBethe-Blochの式の和として決定される。
……⑧
化合物標的でのBethe-Blochの式
ii dx
dE
dx
dE
和
i
i
i I
mV
mV
nez 2
22
0
42
ln4
入射
停止
(ただし、 は各元素の物理量であることを示す)i
陽子
E入射後の運動エネルギー:
標的
0E入射前の運動エネルギー:
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
0 50 100 150 200 250
Bethe-Blochの式から、次のように飛程が計算できる。ただし , はそれぞれ重荷電粒子の標的物質に侵入する前、および後の運動エネルギーである。
0
0
1
0 )(E
dEdx
dEER
0E ER
(ただし、 は各元素の物理量であることを示す)i
……⑨
重荷電粒子の飛程0 50 100 150 200
粒子の入射時の運動エネルギー
(MeV)0
20
40
60
陽子
7
陽子、 のプラスチック(CH)中での飛程
R
R (cm)
80
3. SciBooNE実験ニュートリノ-核子の反応によってニュートリノの断面積を決定する実験。決定された断面積は、ニュートリノ振動などの実験にも用いられる。
'p
)0,( 2
McP
'P
Z
pニュートリノ
陽子
中性流の陽子の弾性散乱(SciBooNE data)
22 )'( ppQ
22 )'( PPQ
MT2
2Q4元運動量移行
…散乱の前後のビーム(ニュートリノ)から計算
…散乱の前後の陽子から計算
)0,( 2
McP 陽子
MT
:陽子の質量
:陽子の運動エネルギー( )陽子の運動エネルギーが決まると が決まる。
2Q散乱の微分断面積は の関数である。
2Q
25cm
プラスチックシンチレータがactive targetになっている
SciBooNE実験 フェルミ国立研究所(GeV)1~E
( )
8
4. まとめ・ニュートリノは素粒子のレプトンの一種で、弱い相互作用のみをする。電子ニュートリノ、μニュートリノ、τニュートリノの3種類がある。
・弱い相互作用を媒介する粒子には、中性のボーズ粒子Zと、電荷をもつボーズ粒子Wがある。
・ニュートリノ-核子反応の微分断面積を求めるために、反跳陽子の飛程から4元運動量移行 を決定する。飛程と運動エネルギーの関係を得るために、Bethe-Blochの式を用いる。
・Bethe-Blochの式、および飛程の式は、次のように表わされる。
電子の質量:Bethe-Bloch
2Q
m
I
mV
mV
nez
dx
dE 2
22
0
42
ln4
電子の質量:重荷電粒子の電荷:重荷電粒子の速度:標的物質の単位体積中の電子の数:標的物質の平均イオン化ポテンシャル:
Bethe-Bloch
飛程 (stopping range)
0
0
1
0 )(E
dEdx
dEER 荷電粒子の標的入射時の
運動エネルギー:0E
今後の予定:SciBooNE実験について勉強し、ニュートリノ散乱における反跳陽子のデータ
解析を行う。
(MeV/cm)
mzeV
nI
(cm)
9
12
2. SciBooNE実験について
SciBooNE実験(SciBar Booster Neutrino Experiment):ニュートリノ(反ニュートリノ)と核子の正確な散乱断面積を測定するために、2007
年6月から2008年8月まで、アメリカのイリノイ州にあるFermi Labで行われた実験。現在は実験で得られたデータの解析が行われている。
陽子標的&ビーム収束装置 崩壊領域
SciBooNE測定器
アブソーバー
加速された8GeV陽子ビーム
13
水素
空気
MINb MAXbと
2.8×10^(-13)~9.2×10^(-11)
2.8×10^(-13)~1.8×10^(-11)
標的
~1.8×10^(-11)
入射陽子の速度 の時のインパクトパラメータ
10/c
14
15
W
μニュートリノと中性子の準弾性散乱
①Wを交換する反応には、以下の図のような準弾性散乱と非弾性散乱がある。μニュートリノと陽子の非弾性散乱
μニュートリノと中性子の非弾性散乱
反ニュートリノと核子の反応にも、①電荷をもつWを交換する反応と、②中性のZを交換する反応の2種類がある。また、反応の前後で、電荷、レプトン数、バリオン数は保存する。
反ニュートリノと核子の反応
0W
W
②Zを交換する反応には、以下の図のような弾性散乱と非弾性散乱がある。
np
W
μニュートリノ陽子(中性子)の弾性散乱
μニュートリノと陽子の非弾性散乱
μニュートリノと中性子の非弾性散乱
p0
0
n
W
n
n
W
)(np)(np
Z
p
0
p
Z
n0
0
n
Z
16
よって、電子の得るエネルギー、すなわち1個の電子を電離する際に重荷電粒子が失うエネルギーEは、
mvb
ezdt
dt
dybtFdybtFbE
ty
ty222
02
42)(
)( 8);();()(
標的物質の単位体積中の電子の数をnとする。重荷電粒子が厚さΔxの標的を通過するとき、距離b~b+Δbの間にある電子数は で与えられる。
b
b
x
重荷電粒子xbbn 2
よって重荷電粒子が標的物質中で単位長さx
よって重荷電粒子が標的物質中で単位長さあたりに失うエネルギーは、
min22
0
42
ln4
2)(min
b
b
mv
nezdbbnbE
dx
dE MAX
b
b
MAX
ここで , は、重荷電粒子がイオン化できる電子の距離のそれぞれ最大値、最小値である。
MAXb minb
MAXb
zeI
0
2
4
I
zebMAX
0
2
4
IMAXb は、標的物質の電子の平均イオン化ポテンシャル を用いて、
電子の得る静電ポテンシャル 17
minb は、古典的には電子が重荷電粒子と衝突する距離と考えてよい。先ほどの電子に働く力F(t;b)を用いて電子の運動方程式を解くと、
btbvm
zev
btvmb
zebty
0
222
0
2
44);(
電子が重荷電粒子に衝突する条件は「t=0においてy=0」であるから、
bmv
ze
20
2
40
mv
zeb
20
2
min4
よって、重荷電粒子が標的物質中で単位長さあたりに失うエネルギーは、
mvnezdE 242
I
mv
mv
nez
dx
dE 2
22
0
42
ln4
21
2ln
4
2
2
2
22
0
42
c
v
cvI
mv
mv
nez
dx
dE
さらに、相対論的な粒子についてより厳密な計算を行うと次の式が導かれる。
数%の補正項1-(v/c) に依存2
18
2)1(
2ln
1 2
2
22
2
2
I
cm
A
ZDz
dx
dE e
δ:補正項。数%しか寄与しないので無視A,Z:ターゲットの原子量および原子番号m(e)c^2:電子の質量エネルギー=511[keV]I:ターゲットの電離エネルギーD=0.3071[MeV・cm^2/g]ze:入射粒子の電荷[C]β=v/c
….ベーテ・ブロッホの式
このとき入射粒子の運動エネルギーEは、入射粒子の質量M[kg]を用いて、全エネルギーから質量エネルギーを引いた式で表わされるから、
のアインシュタインの式より、
2
2
22222
1)()( Mc
McMccpMcE
βについて解くと、22
22
)(
)2(
McE
McEE
22
2
)()( pMcc
E
19
代入して、
22
2
42
22
2
222
)(
)2()2(2ln
)2(
)(
McE
McEE
cM
McEE
I
cm
McEE
McE
A
ZDz
dx
dE e
炭素原子の場合
水素原子の場合
C
H
a
a
A
ZDz 2
炭素原子の場合
水素原子の場合
C
He
b
b
I
cm 22
ここで
yMc
E
2 とおく。(b,yは無次元量、aの次元は[MeV cm^2/g] )yMc
2 とおく。(b,yは無次元量、aの次元は[MeV cm^2/g] )
20
水素と炭素の質量比は1/13 , 12/13 だから、合成(-dE/dx)は、
CH dx
dE
dx
dE
dx
dE
13
12
13
1
和
22
2
)1(
)2()2(ln
13
12
)1(
)2()2(ln
13
1
)2(
)1(
y
yyyyba
y
yyyyba
yy
y
dx
dECCHH
和
飛程R[cm]は、以下の積分で求まる。
dE
cmggcmMeVdx
dEcmR
E
0 32 ]/[]/[
1][
和
E
CCHHy
yyyyba
y
yyyyba
yy
y
dE
0
22
2
)1(
)2()2(ln
13
12
)1(
)2()2(ln
13
1
)2(
)1(
21
yMc
E
2 より dyMcdE 2
D=0.3071 [MeV cm^2/g]z=1Z={1 (水素) , 6 (炭素) }A={1 (水素) , 12 (炭素) }m(e)c^2=511×10^3 [eV]I={13.7 [eV] (水素) , 11.3 [eV] (炭素) } より、
a(H)=0.307 [MeV cm^2/g]a(C)=0.154 [MeV cm^2/g]b(H)=7.5×10^4b(H)=7.5 10^4b(C)=9.0×10^4 と求まる。
)2()2()100.9(ln)1(105.1)2()2()105.7(ln)1(105.2
)2(424425 yyyyyyyyyy
dyyy][cmR
0
][956
][
MeV
MeVE
さらに、M(陽子の静止質量)=1.7×10^(-27) [kg]c=3.0×10^8 [m/s]ρ=1.03 [g/cm^3]
22
''
'
2222
2''
2''
22'
2(
(
)(ln
13
12
)(ln
13)2(ln
)2(
)(
13
12
EE
McE
Mc
ba
Mc
baMcEE
McEE
McEa CCHHC
yをEに直すと
12aa
]/[03.1 3cmg]/[0236.013
2 gcmMeVaH
]/[142.013
12 2 gcmMeVaC 47.2
)(ln
22
Mc
bH
]/[166.013
12
132 gcmMeV
aa CH
][9392 MeVMc
28.2)(
ln22
Mc
bC
][
0
2''
22'2''
2''
22'
171.0)2(
)(394.0)2(ln
)2(
)(171.0]
McEE
McEMcEE
McEE
McEcm
MeVE
23
第一世代 第二世代 第三世代 電荷 レプトン数
電子ニュートリノ: μニュートリノ: τニュートリノ: 0 +1
電子: μ粒子: τ粒子: -1 +1
24
電磁カロリメータ
μ飛跡測定器SciBar測定器
暗室
25
To MiniBooNE
SciBooNE
26
2. SciBooNE実験についてSciBooNE実験(SciBar Booster Neutrino Experiment):ニュートリノ(反ニュートリノ)と核子の正確な散乱断面積を測定するために、○から
○まで、アメリカのイリノイ州にあるFermi Labで行われた実験。現在は実験で得られたデータの解析が行われている。
加速された8GeV陽子ビーム
陽子標的&ビーム収束装置 崩壊領域
アブソーバー
SciBooNE 測定器
27