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91 石油・天然ガスレビュー
TACT SYSTEM
K Y M C
S波を利用した貯留層解析技術−P-S変換波地震探査の最新技術動向−
JOGMEC 技術調査部[email protected] 松澤 進一
アナリシス
石油・天然ガスの探鉱・開発において、3次元地震探査の精度向上は、より高精度な地下の構造・油ガス層性状の把握に必須となっている。こうしたなか、P波を扱う通常の反射法地震探査に加えて、S波を利用した地震探査が注目を浴びている。S波は、P波と比べて孔
こう
隙げき
内流体に左右されにくい、フラクチャーの発達する層を通過すると波が分離する、などの特徴から、P波反射法地震探査のみでは得がたい油ガス層の構造・貯留層性状の把握が可能とされている。なかでも、P波が地下の地層境界でS波に変換する波を用いるP-S変換波地震探査は、
通常のP波反射法地震探査と同じ震源を用いることが可能であることから、S波を観測するための受振器を設置するのみで精度の高いS波の情報が入手可能となり、近年では世界の陸域および海域の油ガス田で適用される機会が増えてきている。 本稿では、岩石の物理的性質とP-S波変換波の特徴についてレビューするとともに、P-S変換波地震探査に関するデータ取得から処理・解析の技術、並びに最近の動向を紹介する。
1. はじめに
2.1. S波の性質
地震波にはP波とS波があり、P波が縦波(粗密波)と呼ばれるのに対して、S波は横波(剪
せん
断だん
波)と呼ばれる。P波とS波の伝
でん
播ぱ
の様子を図1に模式的に示す。P波は進行方向への媒質の伸縮により伝播するのに対して、S波は進行方向と直交する方向への媒質の振動により伝播する。ここで注目される点として、体積変化の有無が挙げられる。P波は媒質を構成する各粒子および粒子間の孔隙の体積が伸縮することにより波が伝播するのに対して、S波は横ずれ(剪断)を起こすのみで、形状は変化するものの体積変化を伴わない。媒質の伸縮や横ずれに
対する強度はP波やS波の速度と関連し、一般的にはP波速度(以下、Vp)が孔隙内流体の違いに影響を受けるのに対して、S波速度(以下、Vs)は孔隙内流体の影響を受けにくく、粒子間の結合強度に左右される。 図2に、米国メキシコ湾における砂岩貯留岩のコアサンプルについて、実験室で測定したVpとVsとの関係を示す。この図より、孔隙率や孔隙を満たす流体(この場合は水とガス)の違い等により、さまざまなVpやVsを示すことが分かる。一般的にVpは①孔隙率の上昇や②
2. S波の利用とP-S変換波No volum
etric strain
Volum
etric strain
P 波 S波
波の進行方向
出所:Goodway B, 2001に加筆
P波とS波の性質図1
1 2 3 42
3
4
5
6
孔隙率
増加
減少
ガス飽和砂岩水飽和砂岩
Vs(km/s)
Vp(km/s)
1 2
水飽和のまま孔隙率のみが増加
孔隙率一定で水からガスに変化
出所:Takahashi, 2000を修正
米国メキシコ湾砂岩貯留岩コアサンプルを利用した実験室でのVpとVsとの関係図2
922007.9 Vol.41 No.5
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アナリシス
ガス飽和により速度の低下が起こるが、Vsはガス飽和に対する変化量が小さい。地震探査データの解析から、貯留層においてVpの低下が観測された場合には、VpのみならずVsを組み合わせることにより、速度低下の要因を推定することができる(VpとVsの比〈以下Vp/Vs値〉などが利用される場合が多い)。また、Vp/Vs値は岩相による変化を示す場合もあり、孔隙内流体のみならず岩相の変化をとらえることができる場合も多い。 一方、S波は、フラクチャーの発達などにより物理的な性質が方向により違う(異方性を持つ)媒質を透過すると、振動方向に直交する二つのS波に分離する、といった現象が起こる(図3)。この現象をスプリッティングという。フラクチャーの発達方向に振動するS波は伝播速度が早く(S1)、フラクチャーに垂直な方向に振動するS波の伝播速度は遅い(S2)。分離した二つの波の速度差はフラクチャーの発達度と関連することから、S波を利用して貯留層におけるフラクチャーの発達方向および発達密度を推定することができる。
2.2. P-S変換波とは
地震探査において、震源から発したP波は、地下の異なる物理的性質を持つ地層境界(物性境界)において、一部のエネルギーは反射し、残りのエネルギーは透過する(図4)。通常の反射法地震探査(以下、P-P反射法地震探査と呼ぶ)では、この性質を利用して、反射したP波(以下、P-P反射波と呼ぶ)を地表で観測して、物性
境界面を平面的に把握する。 物性境界面に対して斜めに入射したP波は、反射・透過P波に加えて、反射・透過S波を発生する。これらのS波はモード変換波とも呼ばれ、P-S変換波と呼ぶ。P-S変換波は、物性境界面から受振器までをS波として伝わること、また振幅が物性境界におけるVsの変化量に関係することから、S波に関する情報を有し、これを解析することによって貯留層の特性を把握することができる。物性境界面におけるP波の入射角と反射・透過波との間には、スネルの法則*1が成り立ち、
sinθ 1
Vp1=sinθ 2
Vp2=sinφ 1
Vs1=sinφ 2
Vs2 ……………… (1)
の関係がある。VpはVsに比較して一般的に2倍程度の速度を持つことから、θ>φとなる。 物性境界でP波がS波に変換する位置をP-S変換点(P-S Conversion Point)と呼ぶ。図5は発震点と受振点の位
S1S2
出所:Barkved O., et al, 2004より
S波のスプリッティング図3
11
11 sinsin
P
S
VV=
1
1
2
2
1
1 sinsinsinSPP VVV
==スネルの法則:
P1S1
S2
P1
P2
Vp2 Vs2 2
Vp1 Vs1 1
1 1
2
S反射角 P入射角< 1
P-S waveまたはC-wave
p
p
出所:㈱地球科学総合研究所,2007
物性境界におけるP波入射に対する反射P波,S波と透過P波,S波図4
震源(S)受振点(R) 受振点(R)
S-R中点 S-R中点P-S変換点
P-P P-S
深度、速度によらない 深度とVp/Vsに依存
PP
PP
PPPP
PP
PP
PPPP P
P
PP
PP SS
SS
S
S
ACP(asymptotic conversion point)漸近変換点
CP(conversion point)変換点
MP(Mid point)中点
漸近変換点
P
PS
S
出所:㈱地球科学総合研究所,2007
反射点・変換点と発震点・受振点との関係図5
*1:スネルの法則とは波動一般の屈折現象における二つの媒質中の進行波の伝播速度と入射角・屈折角の関係を表した法則のことである。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋)
93 石油・天然ガスレビュー
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S波を利用した貯留層解析技術 −P-S変換波地震探査の最新技術動向−
置に対する、P-P反射波とP-S変換波の伝播経路およびP-P反射点・P-S変換点を示す。水平な複数の物性境界を仮定した場合、P-P反射点は常に発震点と受振点の中点
(Mid Point)となる。しかし、P-S変換波はスネルの法則に基づき、入射角より反射角の方が小さいため、P-S変換点は中点より受振点側に分布し、さらに深度による変化が生じる。P-S変換点は十分な深度を仮定した場合には漸近近似が可能となり、これを漸近変換点(ACP:Asymptotic Conversion Point)と呼ぶ。漸近変換点は地層のVp/Vs値および発震点と受振点との距離(Xsr)によって決まり、Vp/Vs値が2の場合は受振点から1/3*Xsrの距離となる。
2.3. P-S変換波地震探査
S波の性質を利用した探査は1980年代から行われている。陸域ではS波震源と上下および水平2方向の振動を観測する3成分受振器を使用して、物性境界面での反射S波(S-S波)をとらえるS波反射法地震探査が行われた。しかし、表層付近の低速度層による影響を受けやすく、その補正が難しいうえに、調査費用が高価で、しかもS波は流体(海水)中を伝播しないことから海域における有効なS波震源がなく、小規模な調査が試行的に行われた程度であった。 一方、P-S変換波のデータ取得は、通常のP-P反射法地震探査と同様に、陸域ではダイナマイトやバイブレーター、海域ではエアガンを震源として使用することができる。言い換えれば、P-P反射法地震探査の受振器を3成分受振器に変更するだけでデータ取得が可能となる。しかし、P-S変換波地震探査は発震点から変換点まではP波で伝わり、変換点から受振点まではS波として伝播することから、データ処理や解析の時点で非常に複雑となる。一例として、図6のように、P-S変換波は同じ深
度の物性境界面からの反射波にもかかわらず、P-P反射波に比べて遅れて到達する。これは、VpはVsに比較して2倍程度の速度を持つ特徴があり、P波+S波の到達時刻で表わされているからである。P-S変換波のデータ解析では、一般的にP-P反射波データと組み合わせて解析が行われることが多く、同じ物性境界からの反射波と変換波とを対応づけることが重要となる。
2.4. 振幅と地震波速度
地震探査データにおける振幅は、地震波速度と密接な関係がある。物性境界面における入射波に対する反射波の振幅(エネルギー)の割合は、反射係数と呼ばれる。反射係数(R)は、P波が物性境界に垂直に入射した場合には、物性境界の上位と下位のP波速度(Vp)と密度
(ρ)を用いて、以下の式で表すことができる(図7)。
R0=ρ2Vp2–ρ1Vp1ρ2Vp2+ρ1Vp1
……………… (2)
ここで、密度と速度の積を音響インピーダンスと呼ぶ。反射係数は物性境界面における音響インピーダンスの差と和の比によって決まることが分かる。一方、物性境界面にP波が入射角θを持って斜めに入射した場合には、反射係数の式は複雑となり、物性境界面への垂直入射時の反射係数R0と入射角θに依存するR0からの変化量によって近似することができる。
Rpp=R0+Gsin2θ ……………… (3)
この式による反射係数(反射波振幅)の変化をAVO(Amplitude Versus Offset)と呼ぶ。Gは反射面の上位および下位層のVpとρだけでなく、Vsにも関係する値であり、間接的にS波情報を利用するのがAVO解析である。AVOのアトリビュート(属性)としては、R0やGが利用される場合が多い(一般的にIntercept〈切片〉、
Tp
Tp
Tp
Ts
Ts
Ts
P-P反射波 S-S反射波P-S変換波 P-P反射波 S-S反射波P-S変換波
P波 P波 P波 S波 S波 S波
深度 時間
P-P反射波・P-S変換波・S-S反射波の時間領域での断面の見え方図6
PP
PP PP
PP
PP
R0 Rpp( )
11, pVp
22, pVp
岩石物性と反射係数図7
942007.9 Vol.41 No.5
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アナリシス
Gradient〈勾配〉と呼ばれる)。 一方Rppは、境界面の上位層と下位層におけるVp,Vs,ρおのおのの相対変化量に、入射角とVp/Vs値に関連するCa, Cb, Crの各係数を掛け合わせた和で近似することもできる。
Rpp=Ca∆VpVp
+Cb∆VsVs
+Cr∆ρρ ……………… (4)
Rppは、反射法地震探査においてさまざまな距離を持つ発震点・受振点の組み合わせによる振幅変化から、観測値として得ることができる。複数のRppの観測値から(4)式を用いて、貯留層におけるVp,Vs,ρの情報を求めるのがAVOインバージョン*2と呼ばれる処理である。一方、P-S変換波の反射係数は次式で近似される。
Rps=Db∆VsVs
+Dr∆ρρ ……………… (5)
Db, Drは入射角や反射角、Vp/Vs値に関連する係数である。この式の特徴として、P-S変換波の観測値はVpの変化に依存していない点が挙げられ、(4)式に比べて容易にS波情報が抽出できることが分かる。また、後に述べるジョイント・インバージョンと呼ばれる手法からVp,Vs,ρの決定精度の向上が期
待され、P-P反射波のみを利用したAVOインバージョンに比べて貯留層解析に関する精度が高いと言われている。 簡単な2層モデルを仮定した場合のP-S変換波は図8のようになり、入射角がゼロ(垂直入射)の場合にはP-S変換波は発生しないこと、また同じ入射角でも震源に対する受振器の方向により振幅の極性(正または負)が異なること、が特徴として挙げられる。
3. P-S変換波データ取得技術
3.1. データ取得計画
データ取得計画の段階では、P-S変換波によりデータが得られる領域(P-S変換点分布)に注意を払う必要がある。図9は東西方向に受振器を1測線設置し、南北方向に1測線の発震を行った場合の反射点(変換点)分布を示す。水平な地層境界面を仮定した場合には、P-P反射波の反射点は発震点と受振点の中点となることから、その分布は正方形となる。しかし、P-S変換波の場合には変換点は受振器寄りとなり、その分布は受振器測線方向を長辺とした長方形となる。 P-S変換波を利用した調査は、解析の段階でP-P反射波との組み合わせで利用される場合が多いことから、P-P反射波およびP-S変換波の双方の情報を利用できる領域が希望する構造を十分にカバーしているかどうかを検討したうえで、データ取得の仕様を決定することが重要で
ある。なお、地下構造が複雑な場合には、反射点や変換点の位置も複雑となることから、実際の構造形態を考慮した反射点・変換点の分布を確認する必要がある。
3.2. 受振器と記録システム
P-P反射法地震探査は上下動のみ(1成分)を観測するのに対して、P-S変換波や、震源にS波を利用するS-S反射波を利用した地震探査は、複数の(3成分)振動方向を観測することから、マルチコンポーネント地震探査と呼ばれることも多い。3成分受振器でデータを収録する目的は、各々の方向の振動を単に観測することではなく、受振器における地表の振動を忠実に再現することである。図10はおのおのの受振器で得られた振動の情報を用いて、3次元的な地表の振動を表示したもので、ホドグラムと呼ばれる。
出所:Stewart R., et al, 2007を編集
2層水平モデルにおけるP-P反射波・P-S変換波の反射係数と発震記録図8
*2:地下の物性変化量に震源の地震波形を重ね合わせた波が地震探査データであるが、逆に地震探査データと震源波形から物性変化量を推定し、これを基に地下の地層物性情報を求める処理をインバージョンと言う。重合後の地震探査データから音響インピーダンスを求める通常のインバージョンに対して、重合前のCDPギャザーから物性情報を求める処理をAVOインバージョンと呼ぶ。
95 石油・天然ガスレビュー
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S波を利用した貯留層解析技術 −P-S変換波地震探査の最新技術動向−
受振器の分野で近年目覚ましい発展を遂げたのは、MEMS加速度センサーの開発である。MEMSとはMicro Electronics Mechanical Systemの略であり、半導体技術を用いて機械構造をシリコン基板上に製作したものである。身の周りでも、自動車のエアバッグやインクジェッ
ト・プリンターのインクヘッドなどに応用されている。MEMS加速度センサーを利用した受振器(以下、MEMS 3C 受振器:図11)の特徴としては、①超小型である②受振器の傾きを測定することができる、などが挙げられ、従来の可動式コイルを利用した3成分受振器と比較して、特に陸域におけるデータ取得の効率が格段に上がる。また、データの品質上でも、センサーと電子回路を組み合わせて直接デジタル・データを出力する点や、高周波帯域における歪
ひずみ
が格段に小さい点などの長所が挙げられる。 記録システムにおける処理能力の向上も、データ取得技術の大きな発展要素として挙げられる。マルチコンポーネント地震探査では、各受振点において3成分のデータが取得されることから、通常のP-P反射法地震探査に比べて、単純に3倍の情報量が得られる。これらのデータを瞬時に記録システムへ転送し、さらにテープなどのメディアに記録しなければならない。また、大量の情報を一度に取り扱うことができれば、受振器の数を増やすこともでき、データの品質向上につながる。
3.3. 陸域データ取得技術
陸域におけるデータ取得技術は、MEMS 3C受振器の開発による普及が目覚ましい。通常のP-P反射法地震探査では、各受振点において複数の受振器を設置(受振器アレイ)して波を重ね合わせることにより、表面波や周辺ノイズを除去する。一方MEMS 3C受振器は、各受振点において一つだけ受振器を設置する(シングルセンサー)。地表近傍の表層では地震波速度の非常に遅い層が存在し、P波に比べてS波はその影響を受けやすく、各アレイ内でのP-S変換波の到達時刻が異なってしまい、これを重ね合わせてしまうと波の形が崩れて、正確な振動が観測できなくなってしまうためである。なお、表面波については3成分データ特有の偏向フィルターと呼ばれる処理
(「4.3.偏向フィルター」参照)で除去が可能である。 また、MEMS 3C受振器の利点としては、図12にも見られるように、従来のP波用システムを利用する場合に比べて、大幅に資機材が軽減され、現
(1)
(2) 水平面ホドグラム
鉛直面ホドグラム
観測波形
Input time window
2
3
1
出所:Din M., et al, 2005を編集
3成分受振器取得データを用いたホドグラムの作成例図10
出所:Sercelホームページより
MEMSを利用した受振器の例図11
コイル型 3成分受振器 コイルとMEMSセンサー比較 MEMSを利用した3成分受振器
出所:Stewart R., et al, 2007を編集
東西受振器ライン、南北発震ラインの場合のP-P反射点(左)・P-S変換点(右)分布図9
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アナリシス
場における効率的なデータ取得を可能にする。ただし、シングルセンサーであるため周辺ノイズの影響を受けやすく、重合数を十分確保するなどの注意が必要である。 3成分受振器の設置に際しては、特に水平成分の地面の振動を正確に測定するために、しっかりと地面に設置する(カップリングを確保する)ことが必要である。このため、現場では受振点にドリルで浅い穴を掘って受振器を埋設する。また、従来のコイル型3成分受振器は、水準レベリングのための気泡が付いており、水平設置に十分気をつけなければならない。これは、設置に際しての水平性が水平振動の感度に影響を与えるためであり、受振器設置の現場作業効率を大きく下げている。一方、MEMS 3C受振器では、受振器の傾きを測定しているこ
とから、処理の段階で傾斜を補正することが可能であり、受振器の傾斜がある程度許容される、という利点がある。
3.4. 海域データの取得技術
海域においてP-S変換波のデータを取得するためには、S波が海中を伝播しないことから、海底設置型の受振器が必要となる。海底設置型の受振器としては、①OBC
(Ocean Bottom Cable)②OBS(Ocean Bottom Seismometer)の2種類のシステムが利用されている。また、海域においては、海底面の振動を測定する3成分受振器に加えて、処理の段階で多重反射を除去することを目的として、海水の圧力振動を測定するハイドロフォンを併設することがある。この場合、海域においては4
成分の受振器を利用することになる(4C地震探査)。 OBCとは受振器をケーブルで接続し、記録システムを搭載した船舶もしくはブイまでデータを転送するシステムである(図13)。基本的な受振器の構成は陸域と同様だが、大きく異なる点は、設置時にケーブルが軸方向に回転することから、受振器の鉛直方向を保つ工夫が必要な点である。MEMS 3C受振器を採用しているOBCはどの角度でも動作が可能であるうえに、受振器の傾きも測定していることから、大きな問題にならない。しかし、従来のコイル型3成分受振器を採用したOBCの場合は、ケーブルが回転しても常に鉛直方向が保たれるようなシステム(ジンバル式)を使用することが必要である。 ケーブル設置時には、海流を考慮したう
えで、希望する位置へ可能な限り正確に沈下させることが必要で、ある程度の経験に頼ることになる。最終的にケーブルが設置された位置を知るためには、音波による測位が行われる。また、いったんケーブルを設置した後にも、海象条件によりケーブルが軸方向へ回転するのを防ぐため、図13の写真の場合にはケーブルにラバーを取り付ける工夫がなされている。 OBSは、各受振点に必要なすべての要素(3成分受振器・ハイドロフォン・レコーダ・データストレージ・クロック・バッテリーパック)を装備した、
MEMS sensor
Signal digitizing unit
P-wave geophones
BatteryLine conditioning unit
MEMS sensor
Multicomponent geophones
コイル型受振器P波データ取得
コイル型受振器3成分データ取得
MEMS受振器3成分データ取得
上:コイル型受振器P波データ取得中:コイル型受振器3成分データ取得下:MEMS受振器3成分データ取得出所:CGGVeritasホームページより
陸域データ取得現場システム比較図12
出所:Barkved O., et al, 2004, WesternGecoホームページより
OBCデータ取得の概念図図13
97 石油・天然ガスレビュー
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S波を利用した貯留層解析技術 −P-S変換波地震探査の最新技術動向−
自律型の機器(ノード)である(図14)。海底地震の測定用に、学術的研究目的で長年開発されてきたこの技術が、商用目的に利用されるようになったのは最近のことである。設置には主にROV(Remote Opera ted Vehicles)が利用され、目的の位置に設置することができる。また、単体の重量が重いため、取り扱いが大変な半面、海底面との良好なカップリングが得られる。一般的にOBSは、400m×400m程度の粗い格子状に設置され、データの品質を確保するために発震を密に行う必要がある。数日から数週間のデータ取得後は、音波指令などにより各ノードはアンカーを切り離し、海面に浮上してきた機器を回収する。 おのおののシステムの利点として、OBCは①敷設が比較的容易、②リアルタイムにデータが伝送されるために記録の品質確認が可能、またOBSについては①カップリングが良好、②障害物に左右されないことから必要な
位置に配置でき、生産施設の直近や直下に設置することも可能、などが挙げられる。また、OBCシステムの使用範囲は水深2,000m程度までであるのに対して、ROV操作によるOBSシステムは水深3,500m程度まで使用可能と言われている。
3.5. データ取得技術動向
データ取得技術の最新動向としては、次世代型受振器の開発と、データ取得手法の改善に向けた構想が挙げられる。次世代型受振器として注目されているのは、光ファ
イバーセンサーを利用したシステムである。MEMSと異なり、受振器側での電源が不要なことから、特に海域において受振器を固定して永続的に利用(LoFS:Life of Field Survey)する4D地震探査(繰り返し地震探査)での貯留層モニタリングに有効である(図15)。一部の会社では既にテスト使用段階が終了し、今後本格的に商用化に向けて動き出す見込みである。 また、特に海域におけるP-S変換波のデータ取得は非常に高コストであり、その主たる要素としては、海底にOBCやOBSを設置することによるデータ取得効率の低下が挙げられる。これを回避する一つの技術として、曳
えい
航こう
型OBC(図16)を開発するといった構想も提案されている。
出所:SEND Signal Elektronik GmbHホームページより
OBSデータ取得概念図図14
出所:DeKok, 2006より
曳航型OBC構想図図16
出所:Weatherford,Wavefield Inseisホームページより
光ファイバーセンサーを用いた受振器システムと記録データ例図15
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4. P-S変換波データ処理技術
4.1. P-P反射波データ処理との比較
P-P反射波データの処理は、現場記録に振幅補償やノイズ抑制・デコンボリューション*3などの前処理を実施し、共通反射点編集(CDPビンニング)後に速度解析・重合・マイグレーションといった過程を経るが、P-S変換波のデータ処理も同様である。 図17は、P-S変換波のデータ処理フローを簡略化して示している。特にS波は、振動方向を考慮に入れる必要があることから、処理の初期段階で震源を中心とする座標系を取り入れる点、また表層の影響を補正する際には、発震点側と受振点側で伝播する波の種類が違うこと(発震点側でP波、受振点側でS波)を考慮するなど、いくつかの特有な処理項目を有する。最も特殊なのは共通変換点編集(CCPビンニング:Common Conversion Point Binning)で、Vp/Vs値によるP-S変換点の位置変化を処理に取り入れている点が挙げられる。これらの処理項目から、代表的な六つの処理について、4.2.以降に簡単に説明する。
4.2. 鉛直方向補正(Vertical Orientation
Recovery)
3成分で取得したデータの鉛直方向を合わせることは、地表の振動を忠実に再現するために重要な処理である。従来のコイル型3成分受振器では、現場で注意深く受振器を水平に設置する必要があった。しかしMEMS 3C受振器は、地表振動の速度ではなく加速度を検知するシステムであり、重力加速度のデータを使って受振器の傾きを推定することができる。図18は、受振器の設
置時の傾きにより、鉛直成分のデータに水平成分が混入している現場記録の例であり、VOR処理後では混入していた水平成分が取り除かれて、鉛直方向のみのデータが取り出されている様子が分かる。
4.3. 偏向フィルター(Polarization Filter)
受振器の項目で述べたとおり、今日のMEMS 3C受振器はシングルセンサーで設置される。このため、受振器アレイ効果を利用した表面波の抑制は不可能であるが、3成分受振器が地面の振動を立体的にとらえている特徴を利用することで、むしろアレイが不要となった。これは、表面波の持つ特性を利用して、取得したデータから表面波に特有な振動を分離して、除去することができるためである(図19)。この処理は、P-S変換波のみならず、通常のP-P反射波に対しても有効な技術であり、また起伏の激しいエリアでもP-P反射法データの品質向上
適用前 適用後
出所: Maxwell P. and Criss J., 2006より
偏向フィルター処理図19
出所:㈱地球科学総合研究所,2007
P-S変換波データ処理フロー図17
出所:㈱地球科学総合研究所,2007
鉛直方向補正処理(Vertical Orientation Recovery)図18
*3:観測された地震波は、地下でさまざまな影響を受けて波が変形しており、これらの影響を取り除いて、鮮明な地下構造のイメージを得るための処理。
99 石油・天然ガスレビュー
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に有効な技術と言われている。
4.4. 座標系回転(Radial-Transverse
Coordinate Rotation)
水平で一様な複数の地層境界面を仮定した場合、P-S変換波は発震点と受振点を結ぶ平面上を振動する波として伝播し(Radial Component)、平面を横切る方向
(Transverse Component)の振動は発生しない。一方、受振器はXYZ座標系に基づき、ある一定の方向に水平2成分をそろえて設置されるため、実際の波の振動方向と一致せず、発震点を中心とした座標系(RTZ座標系)に疑似的に変換し(図20)、P-S変換波を抽出する必要がある。なお、この座標系の変換は、水平に堆
たい
積せき
した地層などの回転対称軸が鉛直な異方性を持つ媒体(VTI:Vertical Transverse Isotropy)では適用可能だが、一方向に並んだ鉛直フラクチャーを持つ地層などといった、回転対称軸が水平な異方性を持つ媒体(HTI:Horizontal Transverse Isotropy)では、異なる手法を用いる(「5.3. フラクチャー解析」参照)。
4.5. 表層静補正
陸域の処理では、P-S変換波が受振器側で受ける表層による影響が非常に大きい。静補正量は、発震点側の下方進行P波と受振点側の上方進行S波の補正値の両方を加算したものであり、これらを別々に摘出する必要がある。震源側のP波補正量は、通常のP-P反射法処理から得られる値を利用する。一方、受振器側のS波静補正量を求める試みはさまざまになされているが、一つの手法
としてP-P反射波が表層の下面で生じた変換透過S波を利用して、受振器側のS波静補正量を求める手法が利用されている。
4.6. 共通変換点編集とP-S変換波の速度解析
共通変換点編集(CCPビンニング)は、P-P反射波処理の共通反射点編集(CDPビンニング)に相当する処理である。図5で見たように、水平な複数の地層境界面を仮定した場合でも、P-S変換点は発震点と受振点の中点の真下に位置せず、Vp/Vs値によって変化し、また深度によっても位置が変化する。このため、処理の初期段階ではVp/Vs値を仮定して漸近変換点(ACP)を利用した簡易的なビンニング(ACPビンニング)が行われる。 ACPビンニングされたデータを利用して、P-S変換波の速度解析が行われる。速度解析を通じてVp/Vs値が得られるが、ビンニングが正確に行われていないために速度解析結果の正確性に欠けている。一般的には、P-S変換波速度解析後に、得られたVp/Vs値を利用してCCPビンニングを再度やり直し、精度の高いVp/Vs値を求め
るための繰り返し処理が行われる(図21)。
4.7. 重合前マイグレーション
P-S変換波の処理では、通常のP-P反射波データの処理と同様に、地層傾斜を考慮した処理(DMO:Dip Move Out)を実施して、重合後マイグレーションを実施する。しかし、P-S変換波のDMO処理にもVp/Vs値を利用する点、また特に異方性を有するデータではビンニングやDMOの処理が複雑となることから、近年ではこれらのプロセスを避けるために、重合前マイグレーション処理の開発が精力的に行われている。重合前マイグレーションではP-S変換波の速度モデルを構築する必要が
あり、Vp/Vs値とP-S変換波速度(Vc)を変化させて生成したいくつもの共通イメージング点(CIP:Common Imaging Point)において、重合効果が最も高くなる(対象イベントがフラットになる)Vp/Vs値およびVcを選択し、速度モデルを構築する。
4.8. データ処理技術動向
データ処理については、その処理フローはある程度確
XYZ 座標系
発震点に対するRTZ座標系
出所:Stewart R., et a1, 2007を編集
座標系の回転(震源を中心とした座標系への疑似的な変換)図20
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アナリシス
立されてきているが、表層静補正、P-P反射波とP-S変換波の対応づけ(「5.P-S変換波データ解析技術」で詳述)を含む速度解析や速度モデル構築など、P-S変換波に特有な問題点が残されている。これらの解決を図るとともに、新しい受振器(MEMSや光ファイバーを利用した受振器)に対応した処理技術を開発していくことが求められている。また、現状では座標系の回転を行うなどして振幅情報のみを利用した処理が行われているが、実際の振動をホドグラムレベルで取り扱い、異方性情報を取り込んだ処理を開発することが必要である。
5. P-S変換波データ解析技術
5.1. P-P反射波とP-S変換波データの対応づけ
P-S変換波のデータ解析が単独で利用されるケースとしては、ガスクラウド*4下の構造イメージングなどが挙げられるが、同時に取得されているP-P反射波データと組み合わせて解析が行われることが多い。そのため、同一の物性境界で生成された波をP-P反射波データとP-S変換波データとで正確に対応づける必要がある。両データの対応づけが難しい理由として、P-S変換波データは時間軸がP-S変換波到達時間で表示されていることから、P-P反射波データと同じ時間軸で表示した場合には見かけの断面が大きく異なること、また反映している物性情報が異なることから波形や振幅が異なる場合があること、などが挙げられる。正確な対応づけを行うためには、坑
こう
井せい
において検層データを利用した合成地震記録を作成し、慎重に両データを対応づけることが求められる(図22)。また、VSPデータが取得されている場合には、記録上でのP-S変換波の発生深度を併せて確認することができる。 データ対応付けの結果として、各
おの
々おの
のホライズンを平面的に解釈した結果から、その時間差を利用して、解釈ホライズン間の平均的なVp/Vs値を算出することができる。これは、データ処理におけるビンニングの初期モデルや、後に示すインバージョンの拘束条件として利用される。
左:P-S変換波、右:P-P反射波出所:㈱地球科学総合研究所,2007
坑井検層データを利用した合成地震記録によるホライズン対比図22
P-P 波処理
P-S 速度解析
Vs:Vp,Vc より算出
Vp
Vp
Vc
重合速度解析
重合速度解析
→
Vc→
前処理
ビンニング
Vc速度解析
Vp/Vs 更新
繰り返し解析
Vp 情報
Vp/Vs初期値
出所:㈱地球科学総合研究所,2007
CCPビンニングと速度解析図21
*4:地下のガス貯留層からシールの欠如や断層の存在などにより、ガスが漏れ出ている場合、地震探査データで見られる、雲のように白抜けになった(振幅が弱くなった)データの範囲が存在する現象。浅部において局所的に少量のガスを含む地層が存在した場合にも同様の見え方をする。
101 石油・天然ガスレビュー
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S波を利用した貯留層解析技術 −P-S変換波地震探査の最新技術動向−
5.2. インバージョン技術
P-P反射波データからインバージョン処理を通じてVpやVsに関する情報を抽出することと同様な処理が、P-S変換波についても行われる。P-P反射波データでは、重合後データを利用した通常のインバージョン処理のほかに、近年では重合前のデータを利用したAVOインバージョンと呼ばれる処理が主流となりつつあり、結果として貯留層のVp,Vs,ρを算出し、これらを組み合わせて岩相変化や孔隙内流体の推定に利用されている。 一方、P-S変換波を利用した場合には、P-P反射波とP-S変換波の重合前AVO情報を同時に解く手法が用いられる。これをジョイント・インバージョンと呼ぶ。通常のP-P反射波インバージョンでは、処理の過程で震探処理の重合速度や坑井での検層データを導入する手法が一般的であるが、ジョイント・インバージョンでは、P-P反射波データとP-S変換波データのホライズン対比から直接的に得られたVp/Vs値の低周波成分を導入できることから、解の決定精度が高いとされている。図23は、水平2層モデルに対するAVOインバージョンの決定精度を比較したものである。P-P反射波のみを利用した場合に比べて、P-S変換波を同時に利用することにより、飛躍的にエラーが改善されている。
5.3. フラクチャー解析
マルチ・アジマス*5と呼ばれる手法で取得された3次元P-P反射法地震探査データから、振幅や重合速度の方位依存性を利用したフラクチャー解析も実施可能である。しかし、P-S変換波では、S波の特徴の一つとして挙
げられるスプリッティングの現象(「2.1.S波の性質」参照)を利用して、フラクチャー解析が行われる。 データ処理の初期段階で、受振器は震源を中心とする放射方向(Radial Component)と接線方向(Transverse Component)に一致するように、疑似的な座標系の回転が行われる(「4.4.座標系回転」参照)。しかし、一方向に卓越したフラクチャーの存在など、HTI異方性が存在する場合には、異方性の存在する地層でスプリッティングが生じ、任意の方向では放射方向と接線方向の両方でS1およびS2のP-S変換波が観測される。これらは処理の過程で、Alford回転*6と呼ばれる処理を実施して、S1およびS2方向への各々の振動を反映した二つの断面を作成する。Alford回転処理からS1・S2の方向が推定され、S1とS2の伝播速度の差(到達時間差)からフラクチャーの発達密度を推定する。 なお、地表で観測されるスプリッティングは、P-S変換波が生じた層準から地表までのすべての異方性を有する地層に影響を受けている(図24)。このため特定層準の異方性を抽出するためにレイヤー・ストリッピングと呼ばれる処理が必要となる。これは、浅部を対象としたAlford回転を実施後に、S2成分の時間遅れを補正し、異方性情報を取り除いたうえで、貯留層を対象としたAlford回転を再度実施し、解析を行う手法である。
5.4. ガスクラウド下のイメージング
データ解析とは異なるが、P-S変換波の用途として最も確立されているのが、ガスクラウド下の構造イメージングである。ガスを含んだ層をP波が通過する際には、
SSJPPI ZZfZZf Δ=Δ=
(注)Zp=Vp*ρ、Zs=Vs*ρ出所:Margrave G. et al., 2001より
ジョイント・インバージョンによる解の誤差図23 出所:㈱地球科学総合研究所,2007
複数のフラクチャーが存在する地層を伝播する場合のP-S変換波のスプリッティング現象図24
*5:反射法地震探査における地震波は、発震点と受振点を結ぶ平面上を伝播するが、地層の物理的性質が方位に依存する(異方性が存在する)場合には、波の伝播方向により観測した地震波から得られる情報も異なる。P-P反射法地震探査では、異方性情報を抽出するために、解析点においてさまざまな波の伝播方向(マルチ・アジマス)を得られるようなデータ取得仕様を採用する必要がある。
*6:3成分受振器における水平2成分の観測データを疑似的に回転させながら共通変換点(CCP)における振幅変化を解析し、スプリッティングを起こした2方向の振動方向を特定する処理。
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ガスの影響でエネルギーが減衰するため、通常のP-P反射波では良好なイメージングが得られない。一方、孔隙内流体の影響を受けにくいS波の性質を利用し、下方進行P波はガスクラウドを避けた伝播経路を通り、変換点
で発生したP-S変換波が上方進行S波としてガスの影響を受けずに受振器へ到達した波を利用することで、イメージングの問題を回避することができる(図25)。
5.5. データ解析技術動向
Vp/Vs値の抽出やフラクチャー解析に見られるように、データの解析と処理は非常に関連が深く、これらを統合的に取り扱えるソフトウエアの開発が必要とされている。また、ジョイント・インバージョンもこれまでに適用された例は少なく、異方性を考慮した技術の開発も含め、事例を積み重ねていくことが重要である。一方、VSPデータは通常3成分受振器で取得されていることから、これらのデータとの統合が必要である。特に、3D VSPを取得して、これをP-S変換波データと統合解析し、解析の精度向上が図られることが期待される。
本稿は、平成18年度に実施された技術動向調査「P-S変換波を利用した反射法地震探査に関する動向調査」の結果を取りまとめたものである。可能な限り技術的な詳細は省いたつもりであるが、処理の項目についてはP-P反射法地震探査データ処理を基礎としていることから、物理探査技術者向けの内容となっている点、ご了承頂きたい。 P-S変換波は、P-P反射波のみを利用する従来からの反射法地震探査と比較して、S波を受振器で観測している点からもS波情報を直接的に抽出していると言え、S波の特徴を利用した構造・貯留層性状把握を目的とした場合には、精度の高い評価結果を得ることが期待される。しかし、多くの場合、データ取得費用が高価なことから、普及には至っていない。 今般の技術動向調査では、P-S変換波のデータ取得に要する概略的な費用も、調査項目として取り上げたが、取得条件や仕様に大きく左右されることから実際の数値
として表現することはできなかった。しかし、データ取得効率の観点からの考察では、海域における費用はP-P反射波のデータ取得に比べて数倍から10倍近い費用を要するとされているのに対して、陸域に限ればMEMSを利用したデジタル受振器の普及からデータ取得効率も大きく変わらず、1~3割程度の費用増加に収まるとも言われている。今後の需要によっては、現状でのデータ取得機器の不足も補われ、急速に普及することが期待される。 石油開発企業にとって、P-S変換波データを取得すべきかどうかは、そのデータから得られる情報の価値を十分に検討する必要があり、目的に応じては実フィールドに適用する選択肢になり得るであろう。いまだ成熟していない技術分野であることから、今後の急速な発展の余地が残されており、継続して技術動向を把握していくことが必要と考える。
6. おわりに
P down
S up
Mode conversionat target
Gas
P-P 反射波断面 P-S 変換波断面
P-S変換波断面はP-P反射波断面を比較する為に時間軸を縮めて表示している出所:WesternGecoホームページに加筆
ガスクラウド下のイメージング図25
【参考文献】1.高橋功, 2004, 地震探査振幅・AVO解析による石油・天然ガス貯留層物性評価, 非破壊検査, 第53巻5号, 269-2732. (株)地球科学総合研究所, 2007, 平成18年度技術動向調査「P-S変換波を利用した反射法地震探査に関する動向調査」
報告書3.物理探査学会, 1998, 物理探査ハンドブック, 第1章:反射法地震探査4.渡辺克哉, 2000, 新世代地震探査技術4C Seismicとは何か, 石油/天然ガスレビュー, 第6号, 107-1175.渡辺克哉, 2004, 4C地震探査, 石油技術協会誌, 第69巻第1号, 94-102
103 石油・天然ガスレビュー
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S波を利用した貯留層解析技術 −P-S変換波地震探査の最新技術動向−
6.Barkved O., et al, 2004, The Many Facets of Multicomponent Seismic Data, Olifield Review, 42-567.De Kok R., 2006, The ocean-bottom recording trade-off, The Leading Edge, Vol 25, No.8, 928-9338.Din M., et al., 2005, Shallow subsurface mapping using Receiver Functions, CSEG National Convention, 397-4009. Goodway B., 2001, AVO and Lame Constants for Rock Parameterization and Fluid Detection, CSEG Recorder,
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執筆者紹介
松澤 進一(まつざわ しんいち)埼玉県出身。千葉大学大学院理学研究科地学専攻(修士課程)修了。1995年、石油公団(当時)入団。石油資源開発(株)への出向や地質調査部での海外地質構造調査事業に係る広域地質評価業務などを経て、2005年より現職。探鉱出資事業などの技術評価・プロジェクト管理業務の他、技術動向調査事業として最新技術の情報収集を実施。