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平成 26 年度 海外農業・貿易事情調査分析事業(米州) プロマーコンサルティング 2 チリ チリは南北に長い地形から多様な農林水産業が展開しているが、特に果実・ワイン、水産物、木材・チップ等の分野で 輸出を伸ばしており、日本への輸出も堅調である。以下では、チリの農林水産業と農林水産物に係る貿易政策等につい てとりまとめる。 社会 面積 756,000 平方キロメートル (日本の 2 倍) 首都 サンティアゴ 言語 スペイン語 宗教 カトリック(全体の 88%) 人口 17,819,054 人(2014 年) 人種構成 スペイン系 75%、その他の欧州系 20%、先住民系 5% 非識字率 16.6%(2012 年) 政治 政体 立憲共和制 大統領 ミチェル・バチェレ・ヘリア (Michelle Bachelet Jeria) 議会制度 上下両院制(上院 38 名、下院 120 名) 主要政党 新多数派(Nueva Mayoría)、野党会派 (Alianza) 経済 実質 GDP 成長率 4.1% (2013 年) 名目 GDP 2,772.4 億ドル(2013 年) 一人当たり GDP 15,776 米ドル(名目、2013 年) 為替レート 1 ドル=495 ペソ(2013 年平均) インフレ率 3.0%(2013 年、2009 年ベース) 失業率 5.7%(2013 年) 外貨準備高 410.8 億ドル 対外債務残高 1,307.2 億ドル 輸出額 774 億ドル 輸入額 750 億ドル 対日 関係 チリの対日輸出額 7,757 億円(2013 年) チリの対日輸入額 1,658 億円(2013 年) 在留邦人数 1,447 人(2013 年 10 月) 在日チリ人数 607 人(2012 年) 日系法人数 76 社(2013 年 10 月) 出所)外務省、JETRO、INE、チリ中央銀行 表 1 チリ概要 図 1 チリ地図 出所:Courtesy of the University of Texas Libraries, The University of Texas at Austin 6

2 チリ - maff.go.jp...平成26 年度 海外農業・貿易事情調査分析事業(米州) プロマーコンサルティング 2 チリ チリは南北に長い地形から多様な農林水産業が展開しているが、特に果実・ワイン、水産物、木材・チップ等の分野で

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平成 26 年度 海外農業・貿易事情調査分析事業(米州) プロマーコンサルティング

2 チリ チリは南北に長い地形から多様な農林水産業が展開しているが、特に果実・ワイン、水産物、木材・チップ等の分野で輸出を伸ばしており、日本への輸出も堅調である。以下では、チリの農林水産業と農林水産物に係る貿易政策等についてとりまとめる。

社会

面積 756,000 平方キロメートル (日本の 2 倍)

首都 サンティアゴ 言語 スペイン語 宗教 カトリック(全体の 88%) 人口 17,819,054 人(2014 年)

人種構成 スペイン系 75%、その他の欧州系 20%、先住民系 5%

非識字率 16.6%(2012 年)

政治

政体 立憲共和制

大統領 ミチェル・バチェレ・ヘリア (Michelle Bachelet Jeria)

議会制度 上下両院制(上院 38 名、下院 120名)

主要政党 新多数派(Nueva Mayoría)、野党会派(Alianza)

経済

実質 GDP 成長率 4.1% (2013 年) 名目 GDP 2,772.4 億ドル(2013 年) 一人当たり GDP 15,776 米ドル(名目、2013 年) 為替レート 1 ドル=495 ペソ(2013 年平均) インフレ率 3.0%(2013 年、2009 年ベース) 失業率 5.7%(2013 年) 外貨準備高 410.8 億ドル 対外債務残高 1,307.2 億ドル 輸出額 774 億ドル 輸入額 750 億ドル

対日関係

チリの対日輸出額 7,757 億円(2013 年) チリの対日輸入額 1,658 億円(2013 年) 在留邦人数 1,447 人(2013 年 10 月) 在日チリ人数 607 人(2012 年) 日系法人数 76 社(2013 年 10 月)

出所)外務省、JETRO、INE、チリ中央銀行

表 1 チリ概要 図 1 チリ地図

出所:Courtesy of the University of Texas Libraries, The University of Texas at Austin

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表 2 チリマクロ経済データ

2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年

実質 GDP 成長率(%) 6.0 5.6 4.6 4.6 3.7 -1.0 5.8 5.8 5.4 4.1

(基準年) 2003 年 2003 年 2003 年 2003 年 2003 年 2008 年 2008 年 2008 年 2008 年 2008 年

一人あたりの GDP(名目) - ドル 6,168 7,565 9,416 10,428 10,712 10,168 12,712 14,540 15,300 15,776

消費者物価上昇率(%) 2.4 3.7 2.6 7.8 7.1 -1.4 3.0 4.4 1.5 3.0

失業率(%) 10.0 9.3 8.0 7.0 7.7 10.0 7.1 6.6 6.1 5.7

輸出額 (FOB) - (100 万 USD) 33,025 41,974 59,380 68,561 64,510 55,463 71,109 81,438 77,965 76,684

輸入額 (FOB) - (100 万 USD) 22,869 30,665 36,433 44,430 58,436 40,103 55,372 70,398 75,458 74,568

貿易収支(国際収支ベース) - (100 万 USD) 10,156 11,309 22,947 24,132 6,074 15,360 15,736 11,040 2,508 2,117

GDP 産業別構成 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年

(単位:100 万ペソ)

金融業 8,252,215 8,946,350 9,352,007 10,237,715 16,311,758 16,558,933 17,666,607 19,235,940 20,730,700 21,584,486

鉱業 4,585,327 4,406,827 4,436,556 4,583,481 13,164,592 13,028,242 13,218,971 12,535,539 13,010,328 13,806,669

商業・レストラン・ホテル業 5,313,188 5,764,234 6,161,216 6,540,317 9,166,284 8,638,183 9,929,826 11,136,852 12,016,211 12,814,520

個人向けサービス業 6,112,124 6,315,976 6,549,766 6,856,501 9,502,672 9,788,294 10,283,205 10,998,735 11,452,161 11,860,127

製造業 8,985,620 9,520,422 9,896,182 10,196,414 10,506,172 10,060,808 10,318,155 11,100,605 11,481,365 11,509,029

農林業 1,994,737 2,179,570 2,323,865 2,339,644 2,711,891 2,594,121 2,603,169 2,876,570 2,819,033 2,951,485

漁業 747,248 754,243 727,576 740,495 405,094 347,386 346,794 420,654 442,337 385,952

その他 18,256,360 19,375,023 20,443,803 21,151,560 32,079,469 31,859,295 33,860,911 35,658,191 37,605,991 39,110,039

総計 54,246,819 57,262,645 59,890,971 62,646,127 93,847,932 92,875,262 98,227,638 103,963,086 109,558,126 114,022,307

出所)JETRO

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2.1 主要作物の生産・貿易動向

農業概況 2.1.1

地理・気候

チリの国土は南北 4,200 キロにまたがり北はペルーとアタカマ砂漠を通じて接し、南は米州大陸最南端

のディエゴ・ラミレス諸島にまで広がっている。西は太平洋に面し、東側はアルゼンチンとアンデス山脈

を通じて接しており、その東西の幅は最大で 375 キロ、最小で 90 キロと非常に細長い国土である。標高

は海抜 0 メートルからアンデス山脈の 7,000 メートル近い連峰があり、チリの南北に縦断するアンデス山

脈とコスタ山脈の間に盆地が形成されている。降雨量についても北部のアタカマ砂漠は世界でもっとも乾

燥した砂漠として有名であり、年間の降雨量は 1mm 以下である一方、南部では年間の降雨量は最大で

3,000mm を超す地域がある。

このように、チリは緯度の違いや高低差が大きく異なることから、その気候は非常に変化に富んでいる。

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図 2 チリの農牧林業地域区分

出所)地図:ODEPA, 2013, Panorama de la Agricultura Chilena

最北部

北部

中部

南部

最南部

砂漠地帯 オアシスでの果実・園芸作物 ラクダ飼養

半乾燥地帯 渓谷地域での果実・園芸 ピスコ・乾燥果実加工業 乾燥地帯でのヤギの飼養

中間温暖地帯 果実・園芸 ワイン用ぶどう・ワイン製造 工芸作物 植林プランテーション

湿潤温暖地帯 穀物 肉牛飼養・酪農 乳業 植林プランテーション

多雨寒冷地帯 牛の飼養(北部) 羊の飼養(南部) 天然林での伐採 チリ南極圏

砂漠 アンデス山脈 アンデス丘陵地 横断渓谷

沿岸乾燥地域 北部乾燥地域 内陸乾燥地域

太平洋島嶼地域 中間低地 隔離丘陵地

推移帯 コイロナル(乾燥地) 南極

チロエ西部 アンデス圏丘陵地 雨林

低地乾燥地 湿地 チロエ島嶼部

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図 3 チリの行政区分

出所)地図:ODEPA, 2013, Panorama de la Agricultura Chilena

XV アリカ・パリナコタ

I タラパカ

II アントファガスタ

III アタカマ

VI オヒギンス

IX ラ・アラウカニア

RM 首都圏

V バルパライソ

IV コキンボ

VIII ビオビオ

VII マウレ

X ロス・ラゴス

XIV ロス・リオス

XII マガジャネス

XI アイセン

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出所)ODEPA 同上

農村人口 全体に対する割合

VIII ビオビオ 351,529 16.2

VII マウレ 291,526 13.4

IX ラ・アラウカニア 281,978 13.0

VI オヒギンス 257,539 11.9

RM 首都圏 251,109 11.6

2,171,745 100.0全国合計

州名

農業人口

チリ統計局が発表した 2012 年の国勢調査によれば、チリ人の 87%は都市部に住んでおり、残りの 13%に当たる 217 万人が農村部に住んでいる。都市部の人口が多く、その中でも特に中部のサンティアゴ首都

圏とバルパライソ-ビニャ・デル・マル都市圏、そして中南部のコンセプシオン-タルカワノ都市圏が最も

人口が集中している地域である。厳しい環境状況が影響して、チリの最北部や最南端部に位置する州の人

口規模は小さい。 表 3 都市・農村別の人口(2012 年)

人口 割合 都市部 14,462,858 86.9% 農村部 2,171,745 13.1% 合計 16,634,603 100%

出所)ODEPA ,“Panorama de la Agricultura Chilena 2013”

表 4 州別人口(2012 年) 州名 農村人口 都市部人口 農村人口割合

XV アリカ・パリナコタ 17,226 196,590 8.1 I タラパカ 12,734 287,287 4.2 II アントファガスタ 13,299 534,164 2.4 III アタカマ 24,197 267,857 8.3 IV コキンボ 142,795 564,859 20.2 V バルパライソ 159,464 1,575,453 9.2

RM 首都圏 251,109 6,434,576 3.8 VI オヒギンス 257,539 620,245 29.3 VII マウレ 291,526 676,810 30.1 VIII ビオビオ 351,529 1,620,469 17.8 IX ラ・アラウカニア 281,978 631,087 30.9

XIV ロス・リオス 108,926 255,666 29.9 X ロス・ラゴス 227,798 570,343 28.5 XI アイセン 21,189 78,420 21.3 XII マガジャネス 10,436 149,032 6.5

合計 2,171,745 14,462,858 13.1 出所)ODEPA 同上

農村人口が最も多い州はビオビオ州、マウレ州、アラウカニア州と中南部の州が多く占めている。人口

比率でみてみると、コンセプシオンの街を擁するビオビオ州は都市に住む人口が多く、同州以外では中南

部のアラウカニア州やマウレ州が 30%を超えている。 表 5 農村人口の最も多い 5 州(左)及び農村人口比率の最も高い 5 州(右)

人口比率IX ラ・アラウカニア 30.9VII マウレ 30.1XIV ロス・リオス 29.9VI オヒギンス 29.3X ロス・ラゴス 28.5

13.1

州名

全国平均

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生産面積・農場規模

生産者数及び所有面積の規模に関する最新の統計は 2007 年のものであり、これによればチリ全土の農

場数は 30 万農場になる(個人・企業を含む)。農林業の農場総面積は 5,170 万ヘクタールに及ぶものの、

その中には道路やため池、痩せ地なども含まれており、農林業に適した土地は実際には 3,551 万ヘクター

ルである 1。

生産者の 89.2%は個人であり、企業を含む団体の生産者は 10.8%と少ない一方で、それぞれの所有面積

を見てみると個人生産者の所有面積は全体の 1/4 に過ぎず、団体が 74.9%と大半を占めている。また、個

人と団体の所有面積をその生産者数で割った単純平均でみると、個人の場合の一生産者あたりの所有面積

は平均で 48.3 ヘクタールである一方、団体は 1,188 ヘクタールとなっている。

表 6 生産者数(2007 年) 農場数(戸) 割合 (%) 面積(ha) 割合 (%) 一農場あたりの面積(ha)

個人 268,787 89.2 12,970,589 25.1 48.3 団体※ 32,589 10.8 38,725,143 74.9 1,188.3 合計 301,376 100 51,695,732 100 171.5 ※ 企業、世襲やパートナーシップ、先住民共同体等を含む

出所)ODEPA 同上

しかしながら、各生産者単位の所有面積を見てみると、10 ヘクタール未満は全体の 58.4%と過半数を占

めており、1,000 ヘクタール以上の面積を所有している生産者単位は全体の 1.1%に過ぎない。

表 7 所有面積別の生産者数(2007 年) 面積(ha) 土地なし※ 0.1 - 4.9 5 - 9.9 10 - 19.9 20 - 49.9 50 - 99.9 100 - 499.9 500 - 999.9 1,000 以上 合計

生産者数 1,824 125,334 48,711 45,338 40,275 16,972 16,741 2,722 3,459 301,376 割合(%) 0.6 41.6 16.2 15.0 13.4 5.6 5.6 0.9 1.1 100 ※ 土地を所有していない牧畜や畜産関係製造者を指す 出所)ODEPA 同上

次表では所有面積規模別の総面積を示している。10 ヘクタール未満の小規模生産者が全生産者数の過半

数を占めているとは対照的に、彼らが所有している面積は、チリ国内の農林業に使用可能な総面積の 1.2%のみである。他方で、総生産者の 1.1%に相当する 1,000 ヘクタール以上の大規模生産者は、使用可能総面

積の 82.6%を占めており、少数者による土地の寡占状況が看て取れる。

表 8 所有面積別の総面積(2007 年) 面積(ha) 0.1 - 4.9 5 - 9.9 10 - 19.9 20 - 49.9 50 - 99.9 100 - 499.9 500 - 999.9 1,000 以上 合計

所有面積 239,602 343,053 633,837 1,250,556 1,172,607 3,507,799 1,865,352 42,682,927 51,695,733

割合(%) 0.5 0.7 1.2 2.4 2.3 6.8 3.6 82.6 100

出所)ODEPA 同上

農場総面積 5,170 万ヘクタールの内、実際に農林業に使用されている総面積は 1,847 万ヘクタールであ

ると農業政策調査庁(ODEPA)が積算している 2。その内訳は次頁表のとおりだが、最も使用されている

地域は南部の XII 州であり、その大半は畜産分野であると考えられる。

1 ODEPA, “Panorama de la Agrciultura Chilena” 2013. 2 農林業に使用可能な総面積の内、実際に農林業に使用されている面積を指す。(同 ODEPA p.38)

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表 9 州別の使用面積(2007 年)

州名 生産者数 使用面積

(ha) 一生産者あたりの使用面積 (ha)

XV アリカ・パリナコタ 2,497 175,573 70.3 I タラパカ 1,979 501,553 253.4 II アントファガスタ 2,000 668,335 334.2 III アタカマ 2,925 109,484 37.4 IV コキンボ 15,777 3,262,067 206.8 V バルパライソ 17,734 510,347 28.8

RM 首都圏 12,805 338,679 26.4 VI オヒギンス 25,249 777,020 30.8 VII マウレ 41,904 1,754,538 41.9 VIII ビオビオ 62,797 1,950,728 31.1 IX ラ・アラウカニア 58,069 1,788,710 30.8

XIV ロス・リオス 16,529 699,498 42.3 X ロス・ラゴス 35,717 962,178 26.9 XI アイセン 4,002 776,774 194.1 XII マガジャネス 1,392 4,197,645 3,015.5

合計 301,376 18,473,128 61.3 出所)ODEPA 同上

GDP・雇用における農林水産業

農林水産分野の雇用人口は 2012 年では 83.7 万人を記録した。同年のチリ全体における雇用者数は 774万人であったことから、農林水産業の雇用者数は全体の 10.8%を占めることになる。雇用者数の推移を見

てみると上下があるものの、全体に対する割合は年を追うごとに低くなっている傾向が看取できる。全体

的な雇用の増加に対して農林水産業の雇用者数が横ばい傾向にあるためであり、農林水産業の雇用が減少

しているわけではない。

表 10 雇用者数の推移(2003 年~2012 年) 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

全雇用者数(人) 5,680,615 5,875,871 5,975,874 6,422,896 6,655,075 6,689,704 6,994,835 7,401,866 7,589,408 7,742,419

うち、農林水産 779,447 796,021 823,434 845,205 834,377 816,166 798,803 852,400 820,877 837,781

割合(%) 13.7 13.5 13.8 13.2 12.5 12.2 11.4 11.5 10.8 10.8

出所)ODEPA 同上

表 11 チリ GDP と農林水産業 GDP 成長率の推移(2004 年~2013 年) 単位:%

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 全 GDP 6.0 5.6 4.6 4.6 3.7 -1.7 5.8 5.8 5.4 4.1 農林水産業 GDP 8.3 9.3 6.6 0.7 2.9 -1.1 0.3 10.5 -2.0 4.7

出所)ODEPA

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主要作物の生産動向 2.1.2

農業

チリの農業部門は特に果実の分野では順調な発展を遂げつつある。温暖で乾燥した気候、豊富な伏流水、

病害虫の少ない環境に恵まれ、ぶどう・プラム・柑橘等の果樹分野で、大規模な農場経営や契約栽培が発

達し、輸出志向を高めている。その一方で、小麦や米、てん菜、油糧種子などの土地利用型耕種作物や、

野菜栽培については小規模な経営が多く、広大な農地を抱えるアルゼンチンなど近隣諸国からの輸入が増

加しているという側面もある。

チリの果物・ナッツ生産は順調な輸出に支えられ、生産面積が拡大している。最も生産されているのは

ぶどうで、地中海性気候の中部で品質の高いぶどうの生産ができ、生食用のほか、ワインに用いられるも

のも多い。次いでりんごの生産が盛んで、大規模農場が発達している。近年輸出向けに成長著しいのがア

ボカド、クルミ、オリーブ、さくらんぼである。オリーブ生産の増加の背景には、1998 年以降チリのオリ

ーブオイル業界に新規参入が相次ぎ、非常に品質の高い製品が生産されるようになってきたことが挙げら

れる。さくらんぼの生産面積も過去 10 年で 2.4 倍増加し、生産量のほとんどが輸出向けである。

表 12 果樹生産面積の推移(ヘクタール) 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 生食用ぶどう 50,960 50,952 50,846 52,187 53,339 52,655 53,851 53,523 53,727 52,234 りんご 34,820 35,247 34,972 34,963 35,075 35,029 35,030 36,579 37,545 37,207 アボカド 26,731 26,744 26,759 33,837 33,531 34,057 36,388 35,679 36,355 31,727 クルミ 9,616 9,734 10,067 11,135 12,549 15,451 16,254 18,256 18,989 24,404 オリーブ 5,742 5,795 8,001 8,597 11,985 12,874 15,091 16,650 18,307 19,737 スモモ 14,443 14,462 14,889 14,636 18,536 18,651 21,001 18,929 18,554 17,408 さくらんぼ 7,125 7,621 9,922 10,054 12,468 13,143 13,174 15,198 16,243 16,933 桃 12,940 12,942 13,152 13,532 14,951 13,925 13,885 13,926 13,848 12,928 キウィ 6,606 6,707 8,734 8,740 10,769 10,922 10,920 11,916 11,086 10,632 アーモンド 5,820 5,822 5,827 6,192 6,924 7,617 8,545 8,621 8,548 8,569 オレンジ 8,225 8,225 8,210 8,868 7,473 7,435 7,839 8,004 7,836 7,452 なし 6,945 6,879 6,639 6,429 6,633 6,225 6,547 6,720 7,185 7,299 レモン 7,240 7,234 7,173 7,935 7,649 7,235 7,106 7,714 7,094 5,993 ネクタリン 6,818 6,818 6,819 6,603 6,038 5,376 5,350 5,317 5,338 5,209 アンズ 2,023 2,022 2,017 1,906 1,770 1,469 1,405 1,234 1,406 1,094 その他果樹園 15,038 18,634 23,632 23,941 25,129 25,426 26,078 36,597 38,001 38,218 合計 221,092 225,837 237,660 249,553 264,819 267,491 278,462 294,865 300,061 297,044 出所)ODEPA

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表 13 果樹生産量の推移(千トン) 2004/05 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 ぶどう* 1,900.0 2,250.0 2,300.0 2,350.0 2,400.0 2,600.0 2,903.9 3,149.4 3,200.0

生食用ぶどう 1,150.0 - - - - - - - - - りんご 1,300.0 1,300.0 1,350.0 1,400.0 1,504.1 1,330.6 1,624.2 1,588.4 1,625.0 - アボカド 160.0 160.0 205.0 209.6 122.6 232.2 166.4 156.2 160.0 - クルミ 14.5 14.5 26.0 28.0 24.0 26.0 32.5 37.5 38.0 - オリーブ 26.0 26.0 30.0 36.0 38.7 54.0 58.0 66.0 74.0 74.3 スモモ 250.0 250.0 244.0 250.0 234.0 296.0 298.0 293.2 300.0 - さくらんぼ 32.0 32.0 41.0 45.0 70.4 41.1 60.4 85.8 90.0 - 桃・ネクタリン* 311.0 311.0 345.0 370.0 372.0 388.0 357.0 319.9 325.0 桃 215.0 - - - - - - - - -

ネクタリン 96.0 - - - - - - - - - キウィ 150.0 150.0 170.0 185.0 185.6 227.0 229.0 237.1 240.0 - アーモンド 9.8 9.8 15.0 17.0 18.0 20.0 22.0 24.0 24.5 - オレンジ 140.0 140.0 148.0 150.0 160.0 135.0 134.0 141.0 145.0 - なし 210.0 210.0 199.0 195.0 185.0 191.0 180.0 190.0 191.0 - レモン 165.0 165.0 145.0 155.0 166.0 162.0 155.0 153.0 160.0 - アンズ 23.0 22.0 20.0 18.0 18.1 17.6 14.0 15.0 16.0 - その他果樹園 210.7 - - - - - - - - - 合計 4,152.0 - - - - - - - - - 出所)2004/05 年は ODEPA(2004/05 年以降は生産量を公開せず) 以降は FAOSTAT *はすべて FAOSTAT

ワイン用ぶどうはチリで最も栽培されている果物であり、2011 年では 12.5 万ヘクタールを占めていた 3。

ワイン用ぶどうはチリの多くの地域で栽培され、第 3 州から第 10 州まで広がっている。栽培面積の約 75%はカベルネ・ソビニョンやメルローなどの赤ワイン用品種、残りの 25%はソビニョン・ブランやシャルド

ネ等の白ワイン用ぶどう品種である。これらのぶどうから作られるワインの生産量も輸出の増加に伴い、

大きく伸びており過去 10 年でその生産量は倍増した。赤ワインの生産量が最も多く、近年ではスパーク

リングワインの生産と輸出も増え始めている。

表 14 ワイン用ぶどうの栽培面積 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

栽培面積(千 ha) 110.1 112.1 114.4 116.8 117.6 104.7 111.5 116.8 125.9 -

ワイン生産量(百万 l) 668 630 789 845 828 868 1,009 884 1,046 1,255 出所)ODEPA

小麦は南部の小規模農家の典型的な作目で、国内農家の保護のために輸入小麦・小麦粉に対してこれま

でプライスバンド制が導入されていたが、WTO 協定に違反しているとして、2014 年に廃止された 4。畜

産の拡大にともなって飼料需要が増加し、オート麦やトウモロコシ等の栽培も盛んであるが、飼料の自給

率は 4 割程度にとどまる。コメの生産もみられるが、アルゼンチンからの低価格の輸入米に押され、近年

は減少傾向にある。

菜種は過去 30 年で最も栽培面積を増やした作物で、30 年前は 2,730 ヘクタールに過ぎなかったが、現

在では 4 万ヘクタール弱である。近年では単収の高いキャノーラが導入され、南部で盛んなサーモン養殖

業のエサに用いられるようになったことから、その栽培面積と生産量も上昇に転じた。現在では養殖業界

以外にも菜種油の高い栄養分に関心がもたれ、一般家庭用でも消費が増えている。しかし国内生産の著し

い成長にもかかわらず、供給が需要に追い付かず 2013年に約 4万トンの菜種油がカナダから輸入された 5。

3 この統計には生食用ぶどう(約 5 万ヘクタール)及び蒸留酒ピスコ(ぶどうから出来る蒸留酒)用ぶどう(約 1 万

ヘクタール)は含まれていない。 4 2.1.3 節を参照のこと。 5 (ODEPA 2014a)

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表 15 耕種作物作付面積の推移(ヘクタール)

2004/05 2005/06 2006/07 2007/08 2008/09 2009/10 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14

小麦 419,660 314,720 232,439 270,546 280,644 264,304 271,415 245,277 253,627 254,857 オート麦 76,680 90,190 82,471 97,936 101,101 75,873 105,643 100,936 126,833 136,339 トウモロコシ 134,280 123,560 126,236 134,706 128,277 122,547 119,819 139,268 142,826 117,418 ジャガイモ 55,620 63,200 54,899 55,976 45,097 50,771 53,653 41,534 49,576 48,965 菜種 12,130 13,520 11,496 17,250 25,135 10,983 18,568 32,750 40,883 37,486 米 25,030 27,980 21,764 20,960 23,680 24,527 25,121 23,991 21,000 22,398 ライコムギ 8,720 8,279 20,006 19,243 17,907 20,964 23,988 19,363 20,878 20,134 てん菜 31,410 27,670 20,914 14,850 12,870 16,264 20,236 19,495 18,039 18,335 大麦 21,530 29,060 18,540 20,623 18,513 16,854 20,184 14,806 13,202 15,677 ライムギ 47 47 1,685 1,117 2,135 1,458 149 404 818 818 その他の穀物 - - - - - - - - 1,494 1,493 インゲン豆 23,540 25,650 11,671 11,965 16,718 13,512 12,532 6,428 11,050 14,670 ルピナス 25,300 28,490 21,150 15,250 10,283 29,887 23,257 21,467 19,605 11,687 レンズ豆 1,160 1,150 914 940 955 1,222 1,321 1,013 1,168 1,061 ヒヨコマメ 3,090 3,960 3,039 3,090 1,888 1,885 1,981 1,334 2,286 679 えんどう豆 1,414 1,557 1,521 1,262 2,752 2,481 1,109 1,815 1,725 674 その他豆類 475 594 288 260 299 190 274 136 183 199 加工用トマト 7,295 7,740 7,294 6,902 4,350 6,244 6,325 7,149 7,630 8,404 オシロイバナ 1,780 2,660 3,547 3,610 4,356 3,053 2,652 3,939 5,219 3,846 加工用チコリー - - 1,427 - - 3,186 2,861 2,489 2,440 2,380 葉タバコ 3,090 2,770 2,779 2,010 1,652 2,509 2,312 2,324 2,319 2,065 その他加工用産品 - - - - 11,034 3,342 3,340 1,530 422 388 合計 852,251 772,797 645,562 698,496 714,443 674,090 719,182 689,227 743,223 719,973 出所)ODEPA

表 16 耕種作物生産量の推移(千トン) 2004/05 2005/06 2006/07 2007/08 2008/09 2009/10 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14

小麦 1,852 1,404 1,105 1,238 1,145 1,524 1,576 1,213 1,475 1,358 オート麦 357 435 342 384 344 381 564 451 680 610 トウモロコシ 1,508 1,382 1,123 1,365 1,346 1,358 1,438 1,493 1,519 1,186 ジャガイモ 1,116 1,391 835 966 925 1,081 1,676 1,093 1,159 1,061 菜種 41 47 43 67 79 44 71 114 156 136 米 117 160 110 121 127 95 130 150 130 135 ライコムギ 51 46 95 93 81 129 114 81 116 104 てん菜 2,598 2,200 1,634 1,208 1,042 1,421 1,951 1,824 1,886 1,732 大麦 102 137 88 96 73 97 123 76 80 82 ライムギ 2 2 7 5 8 5 1 1 4 4 その他の穀物 - - - - - - - - - - インゲン豆 45 50 19 20 28 23 24 11 19 18 ルピナス 63 70 47 32 12 73 44 39 41 17 レンズ豆 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 ヒヨコマメ 3 3 3 3 2 3 2 1 2 0 えんどう豆 2 2 3 2 3 2 2 3 1 1 その他豆類 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 加工用トマト 470 533 329 316 273 451 567 622 677 766 オシロイバナ 3 5 7 8 10 8 3 5 11 6 加工用チコリー - - 52 - - 184 157 127 133 129 葉タバコ 10 8 8 6 6 8 7 8 8 6 その他加工用産品 - - - - - - - - - - 合計 8,340 7,878 5,852 5,930 5,506 6,888 8,452 7,313 8,097 7,353 出所)ODEPA

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野菜の生産は減少傾向にある。スィートコーン、レタス、玉ねぎ、トマト、かぼちゃ、さやいんげん、

ニンジン等が生産されている。小規模・自給的な野菜生産が多い。このうち、トマトは比較的大規模経営で、

ピュレやペーストに加工されて輸出されているが、ブドウ栽培に押されて栽培面積は拡大していない。花

き生産はそれほど盛んではないが、アルストロメリア、ユリ、カーネーションなどがあり、多少の輸出が

ある。

表 17 野菜作付面積の推移(ヘクタール) 作物 2007 2009 2010 2011 2012 2013

トウモロコシ 10,500 11,458 11,234 10,813 13,358 9,772 レタス 6,885 7,357 7,309 7,502 7,293 5,426 生食用トマト 6,309 5,318 5,165 4,902 5,464 4,908 タマネギ(長日) 4,087 4,213 4,197 4,359 4,338 4,347 カボチャ 5,086 5,498 5,878 5,673 4,518 4,069 ポロト・グラナド(poroto granados) 2,760 3,032 3,324 3,163 3,197 3,207 人参 3,820 4,638 3,751 4,309 3,990 3,069 メロン 3,054 3,130 3,279 3,197 3,805 2,957 スイカ 2,906 3,159 3,264 3,281 2,694 2,881 タマネギ(短日) 1,938 1,931 1,990 2,009 2,839 2,724 アスパラ 2,215 2,936 2,759 2,701 2,396 2,305 ポロト・ベルデ(poroto verde) 2,838 2,890 3,172 3,195 2,445 2,251 グリーンビーンズ(arveja verde) 2,873 2,969 2,185 2,730 2,172 2,221 ソラマメ 1,904 1,922 2,359 2,209 1,532 1,744 アーティチョーク 4,996 5,875 4,651 4,409 2,959 1,733 キャベツ 1,539 1,733 1,753 1,485 1,813 1,682 カリフラワー 1,269 1,505 1,285 1,575 2,033 1,486 ビーツ 1,108 1,336 1,604 1,430 1,515 1,209 イチゴ 1,546 - - - 1,498 1,183 ピーマン 1,567 1,489 1,474 1,153 1,006 1,076 ニンニク 1,043 1,253 1,258 1,463 1,322 1,049 ズッキーニ 1,078 1,142 996 1,080 832 1,030 ブロッコリー 750 - - 771 943 854 トウガラシ 1,291 1,431 965 1,174 1,006 640 ホウレンソウ 712 - - 590 850 622 フダンソウ 667 - - 673 723 604 セロリ 763 827 673 719 563 369 オレガノ 574 504 452 554 464 351 キュウリ 468 - - 221 426 306 その他の野菜 7,275 6,791 6,745 5,810 2,258 2,407 合計 82,275 84,336 81,721 83,149 78,755 67,297

出所)ODEPA 注)生産量については公表せず。

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畜産

チリの食肉生産は特に豚肉と鶏肉で発達している。国内の食肉消費のうち最も多いのが鶏肉で、その次

は豚肉、牛肉の順である。主要な養鶏企業 2 社(アグロスーペル社、アリスティア社)が国内供給のほと

んどを占めており、輸出も独占している。養鶏の盛んな地域は VI 州(飼養数の 61%を占める)と首都圏

であり(同 35%)、その他 XIV、I 及び II 州でも養鶏が行われている。豚肉は検疫条件の合意により各国

への輸出が加速化しており、生産量も増加している。輸出向け養豚の主要な担い手は大規模な養豚&パッ

カーの複合企業である。養豚が最も盛んに行われている地域は中部の VI 州であり、全飼養数の 78%が飼

養されている。首都圏(同 13%)、VIII 州(同 4%)及び VII 州(同 3%)がこれに続く。

牛は現在約 300 万頭が飼養されており、輸出向けに一部穀物肥育が行われているものの、一般的には自

然あるいは人工の牧草地に放牧する粗放的な飼養形態が中心である。牛肉はまた、隣国のアルゼンチンや

パラグアイ等からの輸入が多い。牛の飼養は北の XV 州から最南端の XII 州まで行われているが、チリ中

南部、特に X 州(同 34%)、XIV 州(同 18%)及び IX 州(同 17%)が大きなシェアを占めている。

南部の寒冷地では羊、北部の山間地では山羊なども飼養されている。また、馬で牛を追う伝統的な馬術

競技であるロデオが盛んに行われており、馬の飼養も多い。しかし、羊肉・山羊肉・馬肉などの生産は非

常に限られている。乳業では国内大手ソポローレ社(ニュージーランド資本)等によって近代的な乳製品

製造設備の拡充がはかられ、輸出も行われている。

表 18 食肉の生産推移 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

鶏肉(ブロイラー)

飼養数(千羽)※ 23,931 25,261 27,058 25,530 28,530 27,290 313,190 31,654 32,066 31,954

屠畜数(千羽) 193,406 205,795 220,833 204,733 218,539 224,385 224,472 249,852 254,143 259,936

生産量(トン) 535,002 549,925 613,757 581,034 611,511 604,048 593,837 657,043 674,397 680,571

豚肉

飼養数(千頭)※ 2,189 2,395 2,750 2,859 2,790 2,725 2,706 2,824 3,325 2,793

屠畜数(千頭) 3,975 4,328 4,742 5,007 5,220 5,143 5,064 5,272 5,959 5,499

生産量(トン) 372,845 410,664 467,866 498,706 522,423 513,741 498,489 527,857 583,673 550,035

牛肉

飼養数(千頭)※ - - - 3,739 - - - - - 3,008

屠畜数(千頭) 821 864 950 964 1,005 867 819 725 762 791

生産量(トン) 208,259 215,583 237,553 241,677 240,257 209,853 210,745 190,979 197,571 206,285

※各年 6 月 30 日現在の数

出所)ODEPA 及び INE より編集

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林業

国土の 21%にあたる約 1, 650 万 ha の豊かな森林を有するチリは、1980 年代後半以降に急成長した日

本向けチップ輸出をはじめとして、パルプや製材の好調な輸出市場を背景として大きく発展を遂げた。当

初は天然林の伐採に頼っていたが、1990 年代の政治的安定を背景に日本や米国などの外国資本が入り、植

樹後 15-20 年で伐採可能なラジアタパインやユーカリの産業植林が進められ、1990 年代末頃から天然材

に替わって植林材の割合が増加した。 表 19 チリの用途別土地面積

用途 千 ha 都市、工業地域 260 農地(耕作地) 3,399 潅木、草地 21,303 森林 16,545 天然林 13,517 人工林 2,414 ラジアタパイン 1,471 ユーカリ 774 その他 169 その他 614 湿地、沼地 3,584 裸地、砂地、砂漠 25,034 その他 5,542 合計 75,666 出所)Anuario Forestal 2014 より Promar 編集

現在のチリの天然林は寒冷多雨の南部、第Ⅹ州、第Ⅺ州、第Ⅻ州に位置しており、この地域にはまだ手

付かずの原生林も多く残されている。中南部の第Ⅶ州、第Ⅷ州、第Ⅸ州は経済的に木材伐採に適した地域

で、天然林の伐採と伐採跡地や農地・荒地への産業植林が進み、人工林の割合が約半分に達した。

表 20 チリの州別人工林、天然林の種類別分布(千 ha) 人工林 天然林

合計 州

ラジアタパイン林

ユーカリ林 その他 小計 常緑樹林 Lenga Coihue de Magallanes

Roble-Raulí-Coihue

Ciprés de las Quaitecas

Coihue- Raulí Tepa

硬葉樹林 その他 小計

I 0 - 7 0 7 7 II 0 - 0 0 0 III 0 - 0 0 0 IV 0 3 81 84 0 31 0 31 115 V 0 6 0 6 1 105 1 106 113 首都圏 9 38 1 48 99 7 106 153 VI 69 43 3 115 0 160 25 185 300 VII 406 45 4 456 1 9 153 51 171 385 841 VIII 605 304 10 920 12 136 481 48 19 72 769 1,688 IX 265 204 14 484 51 109 471 120 1 213 964 1,448 XIV 100 76 9 185 206 143 4 253 0 280 0 22 909 1,093 X 16 55 3 74 1,282 510 127 245 43 393 0 228 2,827 2,902 XI 0 43 43 1,900 1,400 939 159 0 4,399 4,442 XII 0 0 51 1,314 929 377 0 2,672 2,672 合計 1,471 774 170 2,414 3,504 3,621 1,999 1,603 580 842 473 738 13,360 15,774

出所)Anuario Forestal 2014 より Promar 編集 注)以下はチリの林地の区分け。 Lenga (Nothofagus pumilio)レンガを中心とする広葉樹林 Coihue de Magallanes (Nothofagus betuloides)ナンヨウブナ属等を中心とする樹林 Roble-Rauli-Coihue(Nothofagus obliqua、N. alpina、N. dombeyi): ナンヨウブナ属等を中心とする樹林 Cipres de las Quaitecas (Pilgerodendron uvifera)針葉樹林 Coihue-Rauli-Tepa (Nothofagus dombeyi、Nothofagus alpina、Laurelia philippiana)コイゲ、ラウリ、テパ林 出所)海外林業コンサルタンツ協会 2013 年「開発途上国の森林・林業」http://www.jofca.or.jp/_files/publication/M07.pdf

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表 21 人工林・天然林面積の推移(千 ha、2008-2012 年) 2008 2009 2010 2011 2012

植林 2,256 2,320 2,342 2,395 2,414

天然林 13,559 13,579 13,600 13,600 13,183 出所:Anuario Forestal 2014 及び INE の資料を基にプロマー作成

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水産

チリは世界有数の漁業国である。最も重要な魚種は魚粉などの加工材料になるカタクチイワシ、アジ、

マサバ、ニシンなど多獲性回遊魚と、フィレやホールで食用に輸出される養殖サケ・マスであり、他に底

魚、イカ、貝類、海藻、ウニなどが挙げられる。しかし、近年の資源枯渇の影響で、アジの漁獲量が大き

く減少しており、10 年でその水揚げ量は 1/7 にまで縮小した。その結果、チリ全体の水産物生産量も 10年で約 120 万トン減少した。他方で、養殖魚である鮭鱒類は増加傾向をたどっている。2007 年に発生し

た ISA ウィルスがサーモンの養殖に大きな被害を与え、その影響で 2009 年及び 2010 年のアトランティ

ックサーモンの生産量は激減したが、政府の規制強化と業界のウィルス対策が講じられ、その後生産が回

復している。

チリで水揚げされた水産物のうち、9 割以上が魚粉や冷凍等に加工される。多獲性回遊魚やイカなどが

魚粉原料となり、サケ・マス、底魚、貝類やウニなどは冷凍され、そのほか魚脂、フィレ、すり身等がある。

加工場は第Ⅹ州に位置するものが多い。チリでは魚粉工場や大規模サケ・マス工場では積極的に外国資本や

技術を導入し、近代的で最高水準の加工施設を備えている。しかし、イカ・タコ、アサリなど貝類、ウニ

などの比較的小規模な加工場では加工やパッキングなどの技術が未熟であることが指摘されている。

表 22 水産物生産量の推移(千トン) 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

カタクチイワシ 823 1,860 1,549 995 1,394 1,117 955 755 1,191 904 803

アトランティックサーモン 280 349 386 376 331 389 204 123 264 400 493

ニシン 304 356 290 440 281 795 855 751 887 848 237

アジ 1,421 1,452 1,430 1,380 1,303 896 835 465 247 227 231

ギンザケ 92 90 102 118 105 92 120 123 160 163 146

ニジマス 115 127 123 151 162 149 150 220 224 263 146

その他 936 943 651 982 598 487 639 387 454 333 288

小計 3,971 5,176 4,531 4,443 4,174 3,925 3,758 2,824 3,428 3,138 2,344

甲殻類

クルマエビ 1.3 0.8 1.1 1.0 1.5 1.3 3.3 2.8 4.5 6.8 8.4

セントージャガニ(Centolla) 3.0 3.1 3.2 4.1 2.9 3.2 3.0 3.4 5.7 6.5 5.7

コエビ(Camaron nailon) 3.6 3.7 3.9 4.5 4.5 4.6 4.6 4.8 4.5 4.3 4.6

マルモーラガニ(jaiba marmola) 4.9 5.3 4.6 5.1 4.2 5.4 4.2 4.3 4.7 3.8 3.8

その他 3.4 4.6 6.9 3.5 4.5 6.2 7.1 6.3 5.0 9.1 9.2

小計 19.1 20.5 22.9 22.3 20.5 24.0 25.3 25.0 30.1 37.0 37.5

軟体動物

チリイガイ(chorito) 61 79 88 127 161 188 176 222 289 258 255

アメリカオオアカイカ 15 175 297 251 124 146 56 200 163 145 106

マゼランイガイ 5 3 3 4 4 6 2 5 5 5 9

その他 65 99 72 75 72 70 66 71 68 50 39

小計 145 356 460 457 362 408 301 499 526 458 409

海藻

小計 349 411 425 339 340 412 456 381 418 447 530

その他

小計 189 406 499 493 402 449 340 532 559 489 440

全種類合計

全国合計 4,528 6,014 5,478 5,298 4,937 4,810 4,580 3,762 4,435 4,111 3,353 出所)Sernapesca

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主要作物の貿易動向 2.1.3

チリの 2013 年の農林水産物・食品輸出額は 188 億ドルで、これは同国の経済を支える銅を中心とする

鉱物資源輸出に次いで大きく、総輸出額のうち 24.3%を占める。チリは人口が約 1,800 万人と限られてお

り、農林水産業の発展は国外市場によって支えられている。

農林水産分野では 1970 年代後半から日本企業を含む外資が積極的に導入され、木材チップや魚粉生産

が増加、1980 年代中旬になって日米の企業やチリ財団等が産業化を育成してきたサケ・マス養殖が商業ベ

ースに乗り、チリ最大の輸出向け水産物となる。また生鮮果実やワインの輸出も、チリ政府の業界発展に

向けた様々な施策に加え、米国政府の積極的な中南米農業開発輸出支援の支えもあって、米国向けを中心

に大きく増加を見せた。2000 年代には新規市場の開拓を通じて果実輸出の増加と食肉産業の急成長を達成

し、中南米経済をリードする国となっている。

輸出品目別には、果実・ナッツ(主にぶどう、りんご/なし、アプリコット/ネクタリン、クルミ等)が

39.9%と最も重要である。次いで魚介類(主にサーモン等)が 21.8%、木材等が 11.8%、飲料・アルコー

ル(主にワイン)が 10.3%、食肉(主に豚肉、鶏肉)が 4.6%と続く。それぞれのシェア別でみると、果実

はここ 10 年でそのシェアを約 5%伸ばした半面、木材のシェアは 7%小さくなっている。

図 4 チリの農林水産物・食品輸出の推移(2004~2013 年)

出所)ITC 注)HS01~24 及び 44 の計

他方の輸入は増加傾向を続け、特に食肉の輸入が大きく伸びている。 図 5 チリの農林水産物・食品輸入の推移(2004~2013 年)

出所)ITC 注)HS01~24 及び 44 の計

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

(%) (百万米ドル)

その他

HS20 野菜、果実調製品

HS02 食肉、くず肉

HS22 飲料、アルコール、酢

HS44 木材等

HS03 魚介類

HS08 果実、ナッツ等

輸出の内農林水産物シェア(%)

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

6.0%

7.0%

8.0%

9.0%

10.0%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

(%) (百万米ドル)

その他

HS17 砂糖、甘味料

HS15 油脂・ろう等

HS22 飲料、アルコール、酢

HS10 穀物

HS23 残留物、くず

HS02 食肉、くず肉

輸入の内農林水産物シェア(%)

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表 23 農林水産物・食品の貿易収支(百万米ドル) 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出 9,045 10,118 11,431 12,779 14,759 13,018 14,110 17,008 17,137 18,807

輸入 1,892 2,131 2,678 3,467 4,633 3,391 4,551 5,918 6,387 6,849

収支 7,153 7,987 8,753 9,312 10,126 9,627 9,560 11,091 10,750 11,958

出所)ITC

表 24 農林水産物・食品の主要貿易相手国(百万米ドル)

輸出 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

米国 3,090 3,173 3,632 3,663 3,751 3,343 3,534 4,023 4,094 4,796

日本 1,331 1,488 1,551 1,531 1,712 1,683 1,883 2,443 2,331 1,985

中国 210 293 338 400 495 597 581 855 1,083 1,423

ブラジル 141 161 232 292 368 422 577 645 749 959

メキシコ 93 134 161 227 341 214 315 358 421 647

オランダ 274 287 330 420 597 476 516 637 608 759

ロシア 337 377 413 525 554 492 543 601 563 590

英国 386 436 468 545 561 467 516 609 551 597

韓国 135 170 225 294 286 304 338 482 508 547

ペルー 100 102 123 169 207 183 234 292 371 364

その他 2,950 3,498 3,959 4,712 5,885 4,836 5,073 6,062 5,859 6,141

合計 9,045 10,118 11,431 12,779 14,759 13,018 14,110 17,008 17,137 18,807

輸入 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

アルゼンチン 680 904 1,092 1,497 1,877 1,352 1,430 1,798 2,212 1,482

米国 119 128 331 475 543 256 459 626 710 1,192

ブラジル 344 304 175 200 266 187 363 530 716 848

パラグアイ 91 109 172 211 367 414 613 594 196 555

エクアドル 70 77 100 122 148 121 161 215 229 254

ペルー 83 69 119 120 171 70 193 232 244 242

中国 22 26 34 57 89 63 101 172 181 238

カナダ 49 46 60 75 109 115 96 152 145 196

コロンビア 48 56 68 75 92 101 170 215 202 182

メキシコ 14 16 19 29 67 48 71 113 133 150

その他 372 395 507 605 906 664 894 1,270 1,417 1,511

合計 1,892 2,131 2,678 3,467 4,633 3,391 4,551 5,918 6,386 6,849

出所)ITC

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果実、ナッツ類

チリの農産品輸出金額のうち、果実・ナッツ類は約 4 割を占めている。その中でも、ぶどうは最も多く

2013 年には 19 億ドルを記録した。りんご及びなしはこれに続き、そのほかの果実としてクランベリー及

びキウィが含まれている。これら上位輸出品目の最大の輸出先はいずれも米国であり、同国はチリ果実・

ナッツの最大貿易相手国である。

輸出金額の大きな割合を占めている同分野はチリ政府の支援を受けて、既に自由貿易協定を結んでいる

国とは、植物検疫条件にかかる輸入許可を得るための働き掛けを行っている。また、検疫条件をクリアし

た国とは病害虫リスク管理のためのシステム・アプローチ認証取得に関する協議を進めており、現在では

米国とはいちじく、レモン、チェリモヤ及び生食用ぶどうに関する協議を行っており、日本とはチリ産さ

くらんぼのシステム・アプロ―チ認証取得の協議を得て、2014 年に検疫措置が変更になった。

さくらんぼの輸出金額も大きく、2013 年には 4 億ドルに達した。さくらんぼの最大の輸出先は中国で

あり、チリ産農産品の中では最大の対中輸出品目である。

表 25 果実、ナッツ類の輸出推移

HS 品目名 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 輸出額 (百万米ドル) 0806 ぶどう(生鮮及び乾燥) 935 1,012 1,083 1,131 1,427 1,316 1,496 1,635 1,658 1,897 0808 りんご、なし及びマルメロ(生鮮) 478 411 522 666 836 609 753 817 861 1,024 0810 その他の果実(生鮮) 221 251 294 348 432 360 528 602 636 746 0809 あんず、さくらんぼ、桃、プラム及びスロー 227 266 305 349 469 339 505 639 684 679 0802 その他のナット(生鮮のもの及び乾燥) 50 94 89 114 175 130 208 275 275 338 0811 冷凍果実及び冷凍ナット 112 117 145 174 250 215 229 320 293 336 0813 乾燥果実(第 08.01 項-第 08.06 項を除く。) 78 101 123 126 163 133 163 152 187 194 0804 なつめやしの実、いちじく、パイナップル等 140 171 122 224 157 264 189 228 178 192 0805 かんきつ類の果実(生鮮のもの及び乾燥) 50 54 72 87 93 111 149 165 173 185 その他 3 5 7 6 11 12 9 9 10 9 輸出量 (千トン) 0806 ぶどう(生鮮及び乾燥) 738 787 878 825 899 925 843 923 886 937 0808 りんご、なし及びマルメロ(生鮮) 863 763 844 895 904 808 959 936 896 975 0810 その他の果実(生鮮) 152 153 171 190 203 229 245 262 297 353 0809 あんず、さくらんぼ、桃、プラム及びスロー 228 224 201 231 254 215 212 267 264 344 0802 その他のナット(生鮮のもの及び乾燥) 12 15 16 19 23 30 30 42 40 49 0811 冷凍果実及び冷凍ナット 74 80 90 102 103 91 106 124 113 119 0813 乾燥果実(第 08.01 項-第 08.06 項を除く。) 42 41 50 50 50 52 74 64 84 69 0804 なつめやしの実、いちじく、パイナップル等 115 135 111 146 85 166 108 103 92 97 0805 かんきつ類の果実(生鮮のもの及び乾燥) 74 78 87 94 104 109 139 157 167 169 その他 3 5 4 3 6 6 3 4 4 3

出所)ITC

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表 26 ぶどう(HS コード 0806)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 米国 573 600 629 604 687 694 754 688 666 782 中国 3 4 9 19 16 19 22 49 119 196 オランダ 66 78 72 95 137 103 114 152 142 145 カナダ 9 14 21 37 53 41 62 80 100 125 英国 71 81 88 93 112 89 98 117 110 115 ロシア 16 29 23 31 73 47 79 66 65 90 メキシコ 37 36 45 50 46 38 43 51 50 49 ブラジル 3 5 11 8 8 20 19 30 44 46 日本 11 13 10 10 10 10 15 18 28 34 その他 147 152 175 184 285 255 290 384 332 316 合計 935 1,012 1,083 1,131 1,427 1,316 1,496 1,635 1,658 1,897 輸出量 (千トン) 米国 413 445 492 442 445 480 420 412 366 414 中国 2 3 6 10 9 12 10 24 55 88 オランダ 63 68 69 69 99 83 71 88 83 80 カナダ 1 1 3 3 2 5 8 20 18 18 英国 47 54 68 61 68 60 56 56 57 49 ロシア 16 27 19 26 49 34 48 40 36 42 メキシコ 37 33 39 42 29 29 23 27 28 23 ブラジル 4 6 10 8 6 15 13 20 24 25 日本 10 9 8 7 6 6 8 8 13 14 その他 145 141 163 156 186 201 186 227 205 184 合計 738 787 878 825 899 925 843 923 886 937

出所)ITC

表 27 りんご、なし及びマルメロ(HS コード 0808)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 米国 88 55 86 130 125 82 123 106 151 163 オランダ 58 46 57 65 105 61 58 73 66 119 コロンビア 25 23 29 46 55 50 69 73 92 106 台湾 21 34 45 40 44 36 57 56 61 70 エクアドル 19 21 23 27 35 27 38 43 48 54 サウジアラビア 33 30 31 33 39 26 45 44 42 53 ロシア 21 17 13 17 36 24 31 43 33 40 ブラジル 5 5 7 5 7 5 16 11 20 40 ペルー 10 12 12 15 21 25 34 33 40 38 その他 199 168 218 288 370 273 280 334 307 341 合計 478 411 522 666 836 609 753 817 861 1,024 輸出量 (千トン) 米国 141 80 110 150 119 107 140 112 140 154 オランダ 114 108 96 97 111 92 74 81 70 105 コロンビア 53 52 57 72 69 73 93 89 96 108 台湾 21 35 42 33 35 32 52 47 45 52 エクアドル 44 49 46 49 50 46 57 57 58 63 サウジアラビア 55 50 58 49 53 37 62 56 50 57 ロシア 46 37 26 29 42 34 43 53 38 40 ブラジル 11 11 15 8 8 7 24 14 21 40 ペルー 30 32 34 33 35 49 59 49 50 47 その他 348 309 360 376 380 333 356 378 328 308 合計 863 763 844 895 904 808 959 936 896 975

出所)ITC

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魚介類

魚介類の輸出金額は近年増加傾向にある。チリが最も輸出している品目はアトランティックサーモン及

びギンザケであり、その主な輸出先は米国である。他方、トラウトは日本が最大の輸出先となっている。

アトランティックサーモンの生産に大きな被害を与えた ISA ウィルスの影響で 2009 年及び 2010 年の輸

出量は減少したが、日本向けのトラウトの輸出に大きな影響はなかった。なお、これら 3 種は養殖魚であ

りチリ南部で養殖及び加工され、輸出されている。

近年では米国や日本の他にロシア、ブラジル及び中国等の新興国に対する輸出も増加しており、ブラジ

ルの場合は陸路での輸出が主である。人口が比較的に豊富で、陸路インフラも整備されているチリ南部第

10 州のプエルトモンはサーモン産業の養殖・加工及び輸出の重要な拠点となっている。他方で、11 州以

南の地域でのサーモン養殖が増えているものの、労働力確保及び交通インフラの未整備といった課題から、

人件費及び物流コストが高くなるというデメリットを抱えている。

規模が大きく異なるが、サーモン以外の主な輸出魚介類はアジ、イカ(Dosidicus gigas(アメリカオオ

アカイカ))等である。

表 28 魚介類の輸出推移 HS 品目名 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 0304 魚のフィレその他の魚肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 1,018 1,171 1,503 1,534 1,536 1,153 1,008 1,449 1,548 1,986 0303 魚(冷凍、第 03.04 項を除く。) 554 720 847 828 966 1,042 1,031 1,440 1,293 1,355 0302 魚(生鮮、冷蔵、第 03.04 項を除く。) 115 113 131 176 205 200 271 301 288 443 0305 魚(乾燥し、塩蔵又は塩水漬け)、くん製した魚等 75 84 85 81 81 79 78 110 106 104 0307 軟体動物、水棲無脊椎動物等 121 116 127 125 184 169 124 219 122 99 0308 水棲無脊椎動物等 0 0 0 0 0 0 0 0 55 61 0306 甲殻類 22 23 20 19 23 18 29 45 48 49 0301 魚(生きているものに限る。) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 輸出量 (千トン) 0304 魚のフィレその他の魚肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 242 269 244 240 232 173 126 159 214 242 0303 魚(冷凍、第 03.04 項を除く。) 272 313 314 346 296 328 232 286 335 272 0302 魚(生鮮、冷蔵、第 03.04 項を除く。) 36 37 30 37 46 46 51 55 65 36 0305 魚(乾燥し、塩蔵又は塩水漬け)、くん製した魚等 11 11 10 8 7 6 6 7 7 11 0307 軟体動物、水棲無脊椎動物等 26 28 31 29 28 24 41 97 85 26 0308 水棲無脊椎動物等 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0306 甲殻類 2 2 2 2 2 2 2 3 4 2 0301 魚(生きているものに限る。) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

出所)ITC

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表 29 魚のフィレ、魚肉(HS コード 0304)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 米国 569 611 778 833 762 523 429 682 798 1,103 日本 202 196 254 228 256 257 309 441 421 375 ブラジル 12 11 20 23 32 30 28 30 58 97 ドイツ 65 124 163 149 144 80 29 48 36 80 フランス 44 56 78 79 73 68 45 54 52 67 メキシコ 16 18 29 32 36 33 34 38 46 61 ポーランド 3 7 4 8 7 8 13 16 15 22 コロンビア 5 4 5 6 7 9 10 12 14 21 カナダ 16 14 21 35 51 48 35 37 20 19 その他 87 131 150 143 168 97 75 91 88 143 合計 1,018 1,171 1,503 1,534 1,536 1,153 1,008 1,449 1,548 1,986 輸出量 (千トン) 米国 125 133 109 112 104 67 44 67 105 120 日本 40 37 37 36 38 35 36 45 51 43 ブラジル 4 3 4 4 7 6 4 4 10 14 ドイツ 15 26 26 21 21 13 6 6 6 11 フランス 15 16 17 17 14 15 9 8 9 11 メキシコ 4 4 5 4 5 5 4 4 6 7 ポーランド 1 3 2 3 3 4 6 6 6 7 コロンビア 2 2 1 1 1 2 1 1 2 3 カナダ 3 3 3 5 7 6 4 4 3 2 その他 33 43 39 35 32 21 13 13 15 21 合計 242 269 244 240 232 173 126 159 214 240

出所)ITC

表 30 冷凍魚(HS コード 0303)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 日本 356 436 435 406 484 564 591 780 675 450 ロシア 6 19 48 72 91 51 78 94 100 289 中国 16 28 46 32 47 64 52 93 70 84 ナイジェリア 19 24 44 46 26 55 16 53 95 74 タイ 21 36 36 40 47 32 44 84 71 56 韓国 13 17 34 34 35 32 22 59 42 47 ベトナム 0 1 4 5 5 8 13 37 34 40 米国 19 14 23 20 26 21 24 24 15 31 ペルー 9 20 5 10 15 23 31 15 5 30 その他 96 125 173 163 189 193 161 201 185 255 合計 554 720 847 828 966 1,042 1,031 1,440 1,293 1,355 輸出量 (千トン) 日本 114 115 111 114 132 123 111 133 146 106 ロシア 3 8 12 20 25 13 14 15 23 53 中国 5 9 13 10 14 22 12 17 14 18 ナイジェリア 51 58 78 94 27 64 16 38 70 63 タイ 7 10 9 11 13 7 8 13 15 10 韓国 6 7 9 8 8 8 5 9 9 9 ベトナム 0 0 1 1 1 2 2 6 6 7 米国 3 2 3 3 3 3 2 2 2 4 ペルー 19 41 8 18 16 26 26 11 4 23 その他 62 63 71 67 57 61 36 41 45 74 合計 272 313 314 346 296 328 232 286 335 367

出所)ITC

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木材等

ラジアタパイン等の針葉樹を原料とする木材の輸出が最も多く、その主な輸出先は中国である。建材、

家具材や集成材が主な用途である同品目は米国及びメキシコ向けの輸出が減少傾向にある半面、中国及び

韓国への輸出が増えている。他方日本への輸出は横ばいである。なお、チリは人工林からの輸出を主に行

っており、その生産性が高い 6。

木材と同じく家具材の他に建築内装材、収納家具、梱包資材等の用途がある繊維板の最大の輸出先は米

国、メキシコ及びカナダの北米地域である。また、木材と同じく、その輸出金額は 2008 年まで順調に上

昇傾向にあったが、その後の米国における金融危機、それに伴う住宅建設の低迷の影響を受け、2008 年に

大きく落ち込んだ。なお、近年は上昇傾向に転じている。

紙パルプ用に使われる木材チップはチリではユーカリが原料である。木材チップの最大の輸出先は日本

である。日本は木材チップを輸入したあと国内の工場で製紙が行われる一方で、中国はチリから木材チッ

プではなく、薬品処理が施された化学木材パルプを輸入している。日本に比べて中国はチリから加工工程

の進んだ半製品を買っているが、その原料となるユーカリが同じであることから、中国からの輸入増加が

木材チップと同じ原料であるユーカリの価格に影響を与えていると考えられる。

チリ中南部の第 8 州は林業が最も盛んな地域であり、同州の港(Coronel、Lirquén、San Vicente)は

木材品の主要な輸出港となっている。特に Lirquén 港では、チリの二大林業企業である CMPC 及びアラ

ウコ社の親会社(前者は Matte Group、後者は Angelini Group)は同港湾株式のそれぞれ 70%と 24%を

所有しており、輸出の大きな役割を担っている。 表 31 木材などの輸出推移

HS 品目名 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 輸出額 (百万米ドル) 4407 木材(縦にひく等で、厚さが 6mm を超えるもの) 634 714 752 828 738 429 549 677 703 813 4411 繊維板(木材その他の木質) 231 235 264 281 307 240 276 310 318 345 4401 チップ等 137 162 192 221 339 275 340 412 370 315 4409 さねはぎ加工等を連続的に施した木材 333 262 326 220 199 140 179 200 231 273 4412 合板、ベニヤドパネルその他積層木材 142 208 230 250 351 289 333 415 282 254 4410 パーティクルボードその他これに類するボード 17 15 17 23 25 20 25 28 35 78 4418 木製建具及び建築用木工品 117 95 103 96 90 55 65 70 75 74 その他 87 77 65 76 61 58 54 63 69 59

出所)ITC

表 32 木材(HS コード 4407)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 中国 20 24 26 33 34 36 59 92 126 201 米国 263 273 316 226 178 112 102 110 95 117 メキシコ 101 141 137 160 148 82 87 88 88 86 韓国 9 9 10 18 26 20 40 63 64 82 日本 74 65 70 76 81 39 60 89 81 70 サウジアラビア 28 30 30 47 39 19 40 45 40 38 ベトナム 3 4 5 16 13 10 15 20 27 34 コスタリカ 1 2 2 13 20 8 11 24 30 31 ペルー 3 5 5 10 14 11 20 23 23 30 その他 130 162 152 228 187 93 114 124 129 124 合計 634 714 752 828 738 429 549 677 703 813

出所)ITC 注)立方メートルとトンが混在するため輸出量は示せず。

6 (北野浩一 2006)

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表 33 繊維板(HS コード 4411)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 米国 140 144 172 145 119 101 107 97 102 163 メキシコ 21 27 32 54 65 51 58 71 67 64 カナダ 28 19 15 17 19 21 27 25 34 30 コロンビア 4 7 7 16 25 20 23 33 28 26 ペルー 5 8 11 12 21 14 16 23 25 23 エクアドル 2 4 4 7 12 9 13 16 16 11 グアテマラ 2 3 3 3 6 4 5 6 8 5 トリニダードトバゴ 1 1 0 4 4 3 5 4 4 4 コスタリカ 2 2 3 2 6 2 4 2 4 4 その他 25 20 16 22 31 15 18 34 29 15 合計 231 235 264 281 307 240 276 310 318 345 輸出量 (千トン) 米国 175 180 211 168 136 116 117 105 106 144 メキシコ 60 79 78 121 144 117 111 138 124 106 カナダ 31 22 16 17 19 22 28 27 34 25 コロンビア 12 19 16 32 51 45 45 59 44 40 ペルー 17 23 27 25 39 29 31 39 38 34 エクアドル 6 14 12 16 25 18 24 27 27 18 グアテマラ 6 6 6 4 10 6 9 9 11 7 トリニダードトバゴ 2 1 1 7 6 6 8 6 5 5 コスタリカ 8 6 6 4 11 4 8 3 6 5 その他 92 55 43 41 62 32 36 76 53 23 合計 409 406 415 435 504 395 417 489 447 408

出所)ITC

29

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飲料、アルコール、酢

チリワインの輸出金額及び輸出量はともに過去 10 年で大きく伸びている。10 年前に比べ最大の輸出先

は英国から米国に取って替わり、日本も現在では第 3 位の輸出先となっている。国内関係者の話によれば、

チリワインの対日輸出増加には EPA の関税引き下げが大きな役割を担っている。これらの従来の輸出先

以外に、中国やブラジルなどの新興国への輸出も目立つ。

ワインの生産地は第 3 州から第 10 州まで広がっており、輸出にもっとも使われる港湾はチリ中部第 5州のバルパライソ港である。ワイン製造業者からなる Wines of Chile によれば、2013 年のチリワイン 1箱(9 リットル)の平均輸出金額(FOB)は 29.9 米ドルであり、10 年前の 24.1 米ドルより 5 ドル上がって

いる。同協会は 1 箱あたり 30-40 ドルの価格帯のワインを輸出促進しており、2020 年には輸出されるワ

インの平均輸出金額を 37 ドルまで引き上げる目標を掲げている 7。

表 34 飲料、アルコール、酢の輸出推移 HS 品目名 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 2204 ぶどう酒及びぶどう搾汁 844 883 966 1,258 1,378 1,381 1,547 1,696 1,798 1,890 2208 エチルアルコール及び蒸留酒、リキュール等 11 18 12 14 12 14 18 24 32 34

その他 7 8 11 20 23 18 22 18 20 16

出所)ITC

表 35 ぶどう酒(HS コード 2204)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 米国 145 148 153 189 203 245 247 277 303 291 英国 159 153 163 230 222 218 237 235 228 238 日本 33 29 30 41 55 65 81 100 127 156 中国 20 9 21 40 51 54 83 92 144 150 オランダ 33 36 42 54 67 72 79 97 95 98 ブラジル 25 28 37 51 52 63 71 90 95 93 カナダ 49 53 56 68 80 77 89 93 93 92 ドイツ 57 65 53 71 64 65 73 72 63 78 デンマーク 51 50 48 56 70 62 61 61 53 59 その他 272 311 362 458 513 460 525 578 597 635 合計 844 883 966 1,258 1,378 1,381 1,547 1,696 1,798 1,890 輸出量 (千トン) 米国 58 56 55 62 71 140 120 127 157 153 英国 84 79 80 102 96 113 124 108 102 112 日本 17 13 13 18 23 27 36 40 48 61 中国 30 7 39 71 48 56 61 35 64 83 オランダ 15 15 18 22 25 27 30 34 34 35 ブラジル 12 12 14 19 18 22 25 28 31 29 カナダ 33 26 23 30 32 38 30 26 24 31 ドイツ 54 47 40 59 48 46 54 41 35 58 デンマーク 34 29 26 29 30 30 27 23 21 25 その他 137 137 169 200 199 196 226 203 236 296 合計 474 421 476 611 590 694 732 666 752 884

出所)ITC 注)2013 年は千立法メートル

7 (Vinos de Chile 2014)

30

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食肉、くず肉

食肉(特に豚肉及び鶏肉)の輸出は近年増加傾向にあり、その主な輸出先は日本及び韓国、ロシアなど

である。特に豚肉の場合、日本は輸出全体の 4 割を占め、韓国およびロシアを合せると、3 国はチリ全輸

出金額の 7 割以上を占める。食肉最大手企業の Agrosuper を始め、チリ大手の食肉企業は日本に拠点を設

け、アジア市場を重要視している。Agrosuper 社は飼料作りの工程から自社で行っており、また日本や韓

国の顧客が好む霜降りの肉が出来るための交配も行っている。豚肉輸出業界の団体であるチリポーク

(Chilepork)もアジア市場を重要視しており、毎年アジア諸国を回り、チリ産豚肉のトレーサビリティ

ー及び無害性に関するセミナーを実施している。

家禽肉の最大の輸出先は米国であり、メキシコがこれに続く。

表 36 食肉・くず肉の輸出推移 HS 品目名 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 0203 豚の肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 235 295 312 360 338 340 323 403 464 409 0207 家禽の肉及び食用のくず肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 111 159 180 173 225 230 236 284 283 284 0206 食用のくず肉(牛、豚、羊、やぎ等) 14 25 22 24 26 21 26 34 44 50 0201 牛の肉(生鮮及び冷蔵) 28 51 48 38 60 38 35 40 40 32 0204 羊又はやぎの肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 20 24 23 21 24 27 33 45 29 29 0209 家禽の脂肪及び豚の筋肉層のない脂肪 7 7 6 7 11 13 14 19 21 26 0210 肉及び食用のくず肉等 11 10 13 14 39 27 32 69 53 25 0202 牛の肉(冷凍) 16 35 15 34 23 22 34 35 14 14 0208 その他の肉及び食用のくず肉 1 1 1 1 1 1 1 1 1 0

出所)ITC

表 37 豚肉(HS コード 0203)の主な輸出先の推移

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸出額 (百万米ドル) 日本 153 186 175 185 119 123 137 190 173 165 韓国 52 68 71 107 85 112 95 100 119 80 ロシア 0 0 0 0 19 2 5 17 53 53 中国 0 0 0 0 0 0 0 6 13 28 コロンビア 2 1 1 3 7 5 5 12 20 20 ドイツ 3 4 12 12 27 16 16 18 13 11 ペルー 0 1 1 1 1 2 5 6 8 9 米国 0 0 1 4 8 3 5 3 9 8 アルゼンチン 3 6 4 3 5 4 14 16 9 7 その他 22 29 46 46 67 73 41 36 47 29 合計 235 295 312 360 338 340 323 403 464 409 輸出量 (千トン) 日本 43 53 49 49 27 23 24 30 27 31 韓国 19 25 24 36 29 44 37 33 36 23 ロシア 0 0 0 0 7 1 2 5 20 17 中国 0 0 0 0 0 0 0 3 9 21 コロンビア 1 1 1 2 3 2 2 4 7 7 ドイツ 1 1 3 3 7 5 4 3 3 2 ペルー 0 1 1 1 1 1 2 2 3 3 米国 0 0 1 1 2 1 1 1 3 2 アルゼンチン 2 3 2 2 2 2 5 5 3 2 その他 13 14 20 20 27 32 17 13 21 12 合計 79 98 100 112 104 112 94 101 133 120

出所)ITC

31

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表 38 チリ農産物の需給表(2011 年) 単位:千トン

供給 消費 供給におけ

る輸入割合

生産におけ

る輸出割合 生産量 輸入量 輸出量 在庫変動 供給量計 食料 飼料・種子 加工・その他

穀物 3,908 2,841 501 -112 6,133 2,455 2,855 824 46% 13%

小麦 1,576 780 215 -29 2,112 1,861 189 61 37% 14%

コメ 87 110 0 0 196 141 3 53 56% 0%

大麦 123 75 75 0 122 12 24 85 61% 61%

トウモロコシ 1,438 713 49 0 2,101 373 1,503 225 34% 3%

オーツ麦 564 0 159 -50 355 30 308 17 0% 28%

その他 120 1,163 3 -33 1,247 38 828 383 94% 3%

イモ類 1,690 110 4 -300 1,496 1,179 146 170 7% 0%

ジャガイモ 1,676 80 4 -300 1,453 1,166 146 140 6% 0%

その他 14 30 0 0 43 13 0 30 70% 0%

豆類 73 24 17 0 82 59 16 6 29% 23%

ナッツ類 62 7 61 0 7 15 0 0 100% 98%

油糧種子 143 182 22 10 313 47 0 266 58% 15%

大豆 0 139 11 0 128 1 0 128 109%

その他 143 43 11 10 185 46 0 138 23% 8%

植物油 74 291 18 -47 301 134 0 170 97% 24%

大豆油 23 201 2 0 222 83 0 140 91% 9%

その他 51 90 16 -47 79 51 0 30 114% 31%

野菜 2,123 46 627 2 1,544 1,173 0 375 3% 30%

トマト 726 4 459 0 271 90 0 182 1% 63%

タマネギ 295 2 86 0 211 181 0 30 1% 29%

その他 1,102 40 82 2 1,062 902 0 163 4% 7%

果物 6,390 324 3,852 2 2,864 894 0 2,082 11% 60%

柑橘類 294 36 159 0 172 175 0 30 21% 54%

バナナ 185 0 0 184 173 0 11 101%

りんご 1,588 24 1,455 0 157 151 0 6 15% 92%

その他 4,508 79 2,238 2 2,352 395 0 2,035 3% 50%

コーヒー・ココア 0 45 19 0 27 24 0 3 167%

酒類 2,137 135 669 -567 1,035 1,007 0 30 13% 31%

ワイン 1,518 5 663 -567 292 294 0 0 2% 44%

ビール 596 75 1 0 671 671 0 0 11% 0%

その他 23 24 4 0 42 42 0 0 57% 17%

肉類 1,401 265 314 0 1,351 1,386 4 0 20% 22%

牛肉 191 163 11 0 343 343 0 0 48% 6%

羊肉・ヤギ肉 17 0 6 0 10 10 0 0 0% 35%

豚肉 528 19 145 0 401 401 0 0 5% 27%

鶏肉 657 83 112 0 628 628 0 0 13% 17%

ミルク 2,630 196 331 0 2,494 1,745 674 75 8% 13%

魚介類 3,348 288 2,365 23 1,294 228 1,039 26 22% 71% 出所)FAOSTAT

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日本向け輸出有望品目の状況 2.1.4

果実・ナッツ

チリ側が日本への輸出を期待している品目

オレンジ、さくらんぼ、りんごジュース

チリの主要農産物の国際競争力・評価

チリでは米国や欧州からの積極的な外資の導入によって果実産業育成を図った結果、ドール、デビット・

デル・クルト、ユニフルッティ、デルモンテ、チキータ、コペフルッツ等の大手輸出企業が生鮮果実の輸

出の 4 割程度を占めており、また生産の面においても、1 社あたり生産面積 500 ヘクタール以上の大規模

生産者が、生産面積の 2 割を占めている。

輸出促進の状況

チリ産果実の輸出促進を担っているのが、チリ輸出業者協会(Asociacion de Exportadores de Chile A.G. – ASOEX)である。ASOEX は、1935 年に設立された生鮮果実の輸出業者らの協会である。ASOEX が扱

う果実の種類は、生鮮ぶどう、りんご、柑橘、キウイなど 60 種類を超える。ASOEX は会員の自主的な加

盟による組織であり、350 社の果実の生産兼輸出業者、及び輸出業者等で組織されている。チリ全土には

果実輸出企業が 650 社、5 ヘクタール以上の生産面積を持つ生産者/企業が 7,000 社ほどあるが、ASOEXの会員企業 350 社は大手の生産者と輸出業者を全て含んでいるため、チリの果実総栽培面積の 60%以上、

輸出量の 96%を占めている。各国との植物衛生協定に係る実施機関としての役割も担っている。国内 7か所に地域事務所と、EU、米国に海外現地事務所を持つ。

チリ果実生産者連盟(FEDEFRUTA)は、チリの大規模果実生産者等の 1,000 農場と、地域別の果実生

産者団体 20 団体を代表する民間団体である。ロビー活動と輸出促進、統計・生産予測の作成、地域別・

作物別の生産委員会の運営等を担っている。輸出促進では ASOEX と協調した活動を行っている。

ASOEX で扱う果実のうち、特に重要な果実については ASOEX の傘下にさらに 7 つの品目別委員会(ブ

ルーベリー委員会、かんきつ類委員会、キウイフルーツ委員会、さくらんぼ委員会、生鮮ぶどう委員会、

ドライフルーツ委員会、プルーン委員会)が設置されている。

ASOEX 内のかんきつ類委員会によれば、チリ国内の柑橘類の栽培面積は 2003 年の 1.6 万ヘクタールか

ら 2014 年には約 2 万ヘクタールに増え、最も多く栽培されている品種はクレメンティーン及びみかん、

オレンジ(Navel 種)、そしてレモンである。輸出量も 2003 年の 5 万トンから 2014 年には約 16 万トン

に達し、オレンジは約 6 万トンで最も多く、チリ政府は対日輸出に期待している。

さくらんぼについて、日本では検疫有害動植物として指定されているコドリンガがチリ産さくらんぼに

発生したことから、日本に輸出されるさくらんぼには臭化メチルによりくん蒸が義務付けられていた。し

かし、2014 年にはくん蒸に代わる「システム・アプローチ」方式が採用され、収穫後のさくらんぼの賞味

期限がくん蒸時より大幅に伸び、船での輸出が可能になった。そのため、ASOEX は輸出増加に期待して

いる 8。

チリの最大の農業輸出品目りんごの調製品であるりんごジュースについても、チリ政府は同品目の対日

輸出に期待している。

8 (ASOEX 2014)

33

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サーモン

チリ側が日本への輸出を期待している品目

アトランティックサーモン

チリの主要農産物の国際競争力・評価

チリにおけるサーモンの養殖は日本などの技術の導入により発展を遂げており、国内市場が小さいため、

従来から輸出志向の高い産業である。また、養殖業者には中小企業も多く含まれており、業界団体に加盟

している養殖業者は 17 社を数える。チリ産サーモンの最大の消費国である日本の企業 3 社、ノルウェー

企業 1 社及びカナダ企業 1 社が進出しており、競争力の高い産業である。他方で、世界最大のサーモン生

産国であるノルウェーに比べると、中小企業の数が多く規模経済が発揮されていない産業でもあり、生産

費用が比較的高い状況が続いている。2007年に初めて確認された ISAウィルスはその後広範囲に広がり、

2009 年及び 2010 年はチリの生産量が大きく減少した。2009 年以降、政府は規制強化に乗り出し 2010 年

には ISA ウィルスの発生件数がなくなり、生産量が再び増加傾向にある 9。しかし、政府が打ち出した新

しい規制に耐えられない中小企業が発生すると言われており、今後業界の再編が進むと考えられる。

輸出促進の状況

サケ養殖業者協会(サーモン・チリ、SALMONCHILE)は 1986 年にサーモンとトラウトの生産業者

らによって設立された団体で、2002 年に流通業者らを加えて現在のサーモン・チリとして改組した。サー

モン・チリは、民間企業と政府機関との間をつなぐ役目を持っており、規制や産業振興等の役割を担う。

また、サーモンの国際価格等の貿易情報等の情報収集と会員企業への提供も行っている。その他、環境保

護や労働条件整備、社会責任等の問題にも関与している。国際貿易については、EU や米国からチリ産冷

凍サーモンがダンピングにあたるとして WTO に提訴された問題では、チリ側の業界を代表して有利な情

報の収集やとりまとめ等にあたった 10。協会の会員企業数は現在 76 社である。25 社の生産者と、その他

輸出業者などの関係会社で成り立っている。チリサーモン生産企業約 30 社のうち 25 社が会員企業で、輸

出全体の 90%を担っている。

これまで、サーモン・チリ自身はほとんどプロモーション活動を行ってこなかった。また、チリ輸出振

興局(PROCHILE)はサーモンを重要品目の一つとしているが、業界がジェネリックプロモーション活

動に重点を置いていなかったため、果実やワインに比べると PROCHILE のプロモーション活動も小さか

った 11。しかし、近年になってサーモン・チリは初めて、輸出促進活動の重要性を感じている。

例えば、もともとブラジルはサーモンの消費国ではなかったが、2005 年頃からサンパウロを中心にひろ

がるスシ文化に目をつけたサーモンの輸出がはじまり、ここ数年で飛躍的に伸びた。ブラジルの最近の発

展や、中産階級が比較的裕福になっていることなどから今後もさらにサーモンの消費が期待される一方、

中国などアジア圏からスシに用いることのできる安価な養殖魚が大量に輸出されていることから危機感を

感じた業界は、ブラジル市場における優位性を保つため、輸出促進活動を行うことが必要だと考えた。そ

こで、2012 年 4 月から 2 年間の計画でブラジルにおけるプロモーション活動を開始している。

チリはトラウトの最大の生産国である一方、日本は最大の輸入国である。しかし、近年チリではトラウ

トが罹患する SRS が蔓延し、トラウトの生産量が激減している。そのため、日本でもアトランティックサ

ーモンの輸入が増えている。

9 (SUBPESCA 2013) 10 (United Nations 2006) 11 (Campos 2006)

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その他品目

チリ側が日本への輸出を期待している品目

はちみつ

チリの主要農産物の国際競争力・評価

農業政策調査庁(ODEPA)によれば、チリの天然はちみつの生産量は 2013 年には 9,592 トンを記録し、

ニュージーランドと同水準であった。また、生産されるはちみつのほとんど(8,195 トン)は輸出に向け

られ、チリは現在では世界第 20 位の輸出国である 12。2007 年にはチリ国内の飼育戸数は 10,523 戸を数

え、その巣箱(蜂群)は 454,489 であった。飼育家の多くは個人であり(9,631 戸)、法人は少なく(892戸)、一飼育戸数の平均蜂群数は 43 であるが、蜂群が 9 以下の飼育戸数は全体の半分を占めており、飼育

家間の差が大きい。主な生産地はチリ中南部の第 6~第 8 州である。

近年蜂群の数は増加傾向にあり、輸出金額も堅調に推移していることから、チリ政府は養蜂産業の発展

を目的に 2013 年 9 月に「国家養蜂委員会(Comisión Nacional de Apicultura)」を創設した。米国及び EUなどでは蜂の数が減少しているにもかかわらず、はちみつの需要が高いまま維持されており、原生林を蜜

源とするチリ産はちみつは GMO 等の問題を抱えずに競争力のある品目として期待されている。

輸出促進の状況

国家養蜂委員会は官民の代表が参加し、養蜂産業の政策に関する農業省の諮問機関としての役割を担っ

ている。官側からは農業政策調査庁(ODEPA)、農牧開発局(INDAP)、農牧庁(SAG)、森林公社(CONAF)、農業イノベーション基金(FIA)、農牧調査研究所(INIA)、森林研究所(INFOR)及びチリ食品無害性

品質庁(ACHIPIA)の代表が出席し、民間側からは「養蜂全国ネットワーク(Red Apícola Nacional)」、養

蜂協同組合連盟(Fedemiel)及び養蜂輸出協会(Agem A.G.)の他にチリ種苗生産者協会(ANPROS)、チリ果

実生産者連盟(FEDEFRUTA)及び 4 つの大学で構成されている。同委員会では 4 つの小委員会(養蜂

の衛生及び栄養、持続可能性、職業化及び技術改良、品質及び市場)が設置された。同委員会が設定して

いる 2020 年の目標数値は、80 万の巣箱(蜂群)、一巣箱の平均収量を 35 キロまで引き上げ、職業化され

た飼育家を 1 万人育てることである。また、養蜂産業の GDP を 2005 年の約 3,000 万ドルから 2020 年に

7,700 万ドルに、輸出金額を 2013 年の 2,700 万ドルから 5,200 万ドルに引き上げることを目指している。

2013 年チリ産はちみつの最大の輸出先はドイツ、フランス、米国と続き、そのほとんどは欧米諸国であ

る。他方で、ODEPA の分析によれば日本は、米国、ドイツ、英国に続き世界で 4 位のはちみつ輸入国で

あり、アジア諸国の中では重要なポジションにあり 13、チリ政府は日本向けの輸出増加に期待している。

12 (ODEPA 2014b) 13 (ODEPA 2014b)

35

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その他品目

チリ側が日本への輸出を期待している品目

乳製品

チリの主要農産物の国際競争力・評価

チリの生乳の生産は、主要 4 社(Colún、Soprole、Nestle 及び Watt’s)が全体の約 8 割を占めている。

その内 Soprole と Nestle は外資系(Soprole はニュージーランド資本の Fonterra 社の子会社)である。

2010 年 11 月に Nestle と Soprole は合併を発表し、その意思を自由競争保護裁判所に申告した。しかし、

国家会計検査庁(Fiscalía Nacional Económica)が 2011 年 3 月に調査報告を発表し、両社の合併が実現

すれば、消費者が支払う牛乳の価格が上昇する恐れがあると指摘し、当時の農業大臣も反対の意を示した

ことから、両社は合併の申告を取り下げた。

チリは現在、主にニュージーランド及びアルゼンチンから乳製品を輸入しており、その約半分(2.4 千

トン)はチーズである。他方、メキシコ、ベネズエラ及び中国に対して粉乳及びチーズ、コンデンスミル

クなどを輸出している。主な生産地はチリ南部の第 10 州及び第 14 州である 14。

輸出促進の状況

チリの乳製品輸出業者を束ねる団体としてチリ乳製品輸出業者協会(EXPORLAC CHILE)がある。同

協会は 8 社で構成されており、チリで生産される乳製品の 95%、輸出の 94%を占めている。同協会は 2003年に設立され、チリ産乳製品の輸出条件を改善することが目的であり、設立以降チリ政府が交渉してきた

自由貿易協定の交渉ラウンドに関係団体として参加してきた。EXPORLAC はまた、チリ製造業振興協会

(SOFOFA)及び全国農業協会(SNA)の正式加盟団体であり、半官半民の組織であるチリ財団が実施す

る競争力強化のプログラムに積極的に参加している。

チリ政府は、チーズ等チリ産乳製品の対日輸出が増えることを期待している。

14 (ODEPA 2015)

36

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2.2 農業政策

チリの農業は銅をはじめとする鉱業部門に依存している同国輸出品目の多様化に大きな役割を担ってい

る。チリ政府の農産品に対する輸入関税率は一部の品目を除き一律 6%と設定されており、自由貿易協定

を結んでいる相手国に対してはより低い関税率を定めている。チリにとっての重要度の高い品目である小

麦、小麦粉及び砂糖にはプライスバンド制度が設定されていたが、WTO の裁定に従い、2014 年に廃止と

なった 15(2.2.4 を参照)。政府が行っている積極的な経済連携政策を通じてチリ産の農林水産品もワイン

及び果実以外に、近年では豚肉及び鶏肉等の輸出も増加し、多様化が進んでいる。

こういった背景を踏まえ、チリ国内の作付状況も変化を遂げており、従来の根菜類及び豆類に取って替

わり、輸出競争力のあるぶどうや林業に使われる樹種等が増えている。

WTO によれば、チリは中小規模の生産者に向けた国内支持を行っている一方で、生産に応じた支援策

は特に設けられていない。さらに、近年、農業に向けられた政府の予算額が増加傾向にあるが、その内容

は灌漑、中間財購入、生産性向上及び職業訓練の分野に向けられている。それに加え、インフラ整備、研

究開発及び監査機能の強化に対する予算も近年増えていると WTO が指摘している。 図 6 チリ農林水産関連予算の推移(百万ペソ)

出所)DIPRES(農業予算に SUBPESCA 及び SERNAPESCA の予算を合算)

チリ農業政策は農業省及び同省の傘下にある 5 つの機関が中心的な役割を担っている。これらの 5 機関

は農牧開発局(INDAP)、農牧庁(SAG)、森林公社(CONAF)、国家灌漑委員会(CNR)及び農業政策

調査庁(ODEPA)である。

INDAP は 1993 年に創設され、その目的は小規模生産者の経済、社会及び技術的な発展の促進である。

具体的には、小規模生産者の生産性向上及び融資へのアクセス、市場へのアクセス等の支援を行う。SAGは 1967 年に設立され、チリ国内の動植物検疫に関する監視・監督を行っている。チリ国内の動植物に影

響を与え得る外的病害虫等の監視を行うとともに、チリ国内で生産される農産品の衛生証明書を発行して

いる。CONAF は 1973 年に設立され、チリ国内森林資源の保全、適切な管理及び活用が目的である。主

な活動範囲は国立公園や保全地域の管理、森林放火の予防及び森林法の運用、監督である。CNR は 1975年に設立され、灌漑面積の拡大及び改善が設立目的である。現在では、右目的以外に灌漑及び排水インフ

ラに係る民間プロジェクトの促進及び灌漑地域の発展が活動範囲となっている。ODEPA は 1993 年に設

立され、その所掌範囲は国の分野別政策及び技術支援プログラムの調整に貢献すること、対外貿易交渉を

15 (ODEPA 2011)

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015

ODEPA

CNR

SERNAPESCA

SUBPESCA

農業次官官房

CONAF

SAG

INDAP

37

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支える情報を提供すること、農林水産分野における調査の実施、及び幅広く情報を提供することである。

水産業については、チリでは経済振興観光省管轄の漁業次官官房(SUBPESCA)が管轄している。同

次官官房は 1976 年に設立され、養殖を含む水産業に関する政策を策定し、1978 年に設立された漁業庁

(SERNAPESCA)は同政策に関する技術・環境衛生面の規定及びその監督を担っている。

2015 年の農業関連予算(農業省予算に経済振興観光省傘下の SUBPESCA 及び SERNAPESCA の予算

を合算したもの)では INDAP は全体の 42.9%、SAG は 18.9%、CONAF は 12.6%、農業次官官房(本省)

は 10.7%、SUBPESCA(6.8%)、SERNAPESCA(5.1%)、CNR は 1.9%及び ODEPA は 1.0%をそれぞれ

占めた。

なお、農家の規模に関する定義は一つではないことに留意する必要がある。INDAP が行っている支援

策の対象となる「小規模生産者」の定義は、農業省が定義しているものとは必ずしも一致しない。また、

同定義を用いた作付面積の割合及び統計データは統計局(INE)が収集していない。そのため、具体的な

人数を把握することは困難である。なお、FAO の報告書によれば、2007 年に INDAP の支援対象者とな

った小規模生産者は 118,762 人に及んだ 16。参考までに INDAP 及び農業省の定義を表記する。 表 39 小規模生産者の定義

INDAP の定義

農業省の定義

小規模生産者 (Pequeño Productor Agrícola)

小規模農業又は家族農業

(Pequeña Agricultura o Agricultura Familiar)

・基礎的な灌漑を有する栽培面積は 12 ヘクタール未満(その所有形態は問わない)であること

・自給を行う生産者及び零細企業を指す、その年間売り上げは 2,400UF 以下の者を指す

小規模農業事業者又は農林業分野中小企業 (Pequeño Empresario Agrícola o PYME del Sector Silvoagropecuario)

・総資産(動産・不動産・金融商品・現金等)は3,500UF17を下回っていること

・年間売り上げは 2,400UF - 25,000 UF は小規模企業 ・年間売り上げは 25,000UF - 100,000 UF は中規模企業

・農業活動が主たる収入源であること

農林業分野大企業 (Grandes Empresas Silvoagropecuarias)

・年間売り上げは 100,000 UF 以上の生産者、企業及び輸出業者 出所)INDAP 及び農業省

次項ではピニェラ政権(2010-2014 年)及びバチェレ第 2 期目(2015-2018 年)の具体的な農業政策に

ついて詳述する。

ピニェラ政権の農業政策 2.2.1

ピニェラ政権は 2010 年に、農業分野における「5 大戦略」と「25 の約束」を発表した 18。これらの政

策が目指すチリの農業像は「持続可能な農食林業大国」であり、具体的には①生産規模に関わらず全ての

生産者に起業、生産活動及び成長する機会を平等に付与すること、②現在および将来のチリ人にとって天

然資源の持続可能な使用及び古来の伝統を保存しながら、農業活動は生活水準の向上、貧困の克服及び農

村部の総合開発に寄与すること、③全ての消費者がチリ産の無害且つ高品質な食品にアクセスでき、世界

的な食料需要の高まりからチリの気候、天然資源、公的機関及び生産者を活し、世界に寄与することであ

16 (FAO 2013) 17 UF(Unidad de Fomento)は物価変動を調整した不動産・家賃等に用いられる価値表示制度。2014 年 12 月 9 日現在

1UF=24,627.1 ペソである。 18 (Ministerio de Agricultura 2013)

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るとしている。ピニェラ政権農業政策のキーワードは「競争力強化」及び「イノベーション」である。

ピニェラ政権の掲げた 5 大戦略は以下の通り: 農林食品分野のイノベーション及び競争力強化

流通チェーン、透明性のある市場

発展のための維持可能な環境の確保

農業省の近代化

21 世紀に向けた農村社会の整備

農林食品分野のイノベーション及び競争力強化

第 1 の戦略であるイノベーション及び競争力強化は、ピニェラ政権が就任当時から農業分野に限らず掲

げてきた大きな戦略的な柱である。そのためにピニェラ大統領は経済振興観光省の政策に競争力強化の方

針を与え「競争力強化アジェンダ」を発表した。また同政権は 2012 年を「起業年」、その翌年を「イノベ

ーション年」として据え、全分野における競争力強化に取り組んだ。このような横断的な政策の一環とし

て、農業省は 2011 年に「農業競争力強化テーブル」を開催し、各生産分野の課題を吸い上げ、これらに

対す対応策の策定と実施を行なった。

イノベーション及び競争力分野の具体的な政策として、農業省は①家族農業および零細企業の振興、②

起業並びに企業活動の促進、及び③農業発展のエンジンとしてのイノベーションを挙げている。

チリ農業省の定義では家族農業は生産者規模の最小単位であり、自給を行う生産者及び零細企業を指す、

その年間売り上げは 2,400UF 以下の者を指す。ピニェラ政権はこれまで零細生産者向けに行われた支援に

条件を付けることにより、生産者の持続可能な競争力強化を促した。具体的には技術指導の受講と引き換

えに投資支援を行うというものである。これまで、融資を受けた生産者の内、農牧開発局(INDAP)からの

技術指導を受けた割合は 57%(74,514 人)にとどまっていたが、2013 年にはその割合は 72%(138,301 人)

まで増加した。また、INDAP の技術指導のための政府予算も 2009 年対比で 75%増加した。対象となっ

た市町村も 2009 年の 261 から 22 増えて 283 を数えた。特に先住民に対する技術指導も強化され、2012年には全先住民世帯の 50.5%に当たる 5 万世帯が技術指導を受けた。

また、生産者の立場からより大きな生産チェーンへの統合を促すため、生産性の高い生産者向けに「技

術指導及び生産連携サービス(SAT)」が継続されたが、より効果的な成果を出すために、対象者の選別が

行われ、ある程度均質な生産体制を有している生産者向けへの支援が行われた。具体的には継続的な技術

指導のみならず、その実施過程及び品質のモニタリングが行われた。その結果、2011-2012 期で INDAPの SAT プログラムに参加した生産者の生産性はぶどうでは 31%、コメでは 21%、牛肉では 20%の増加を

みた。

起業及び企業活動の促進について、チリ経済開発公社(CORFO)が行っている融資の保証事業の条件

を緩和し、その利用を促進した。2010 年に短期及び長期事業を促すための条件が修正され、企業の規模に

応じてその保証金額が最大 18,000UF まで拡大された。さらに長期事業融資額の 80%まで保証が可能とな

り、60 カ月以上の事業の場合、2 年間の据え置き期間が設けられた。また、これらの保証内容は輸出事業

融資にも適用され、為替リスク保険も対象となった。その結果 CORFO の保証を受けた融資件数は 2013年に 87,484 件に及び 2010 年の 20 倍に及んだ 19。

イノベーションについて、ピニェラ政権は農業に限らず、国内の R&D 投資に対する税制優遇を強化し

た。農業分野では「技術コンソーシアム」と言われる民間企業の集合体に対する CORFO からの支援金制

度に該当しない企業向けの新制度「技術共同体(Asociaciones Tecnológicas)」が創設された。また、チリ

19 農業分野以外の保証も含まれる。

39

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政府は CORFO を通じて国際的な研究機関の招致政策「国際的な優秀機構(Centers of Excellence)」を積

極的に行っており、農業分野ではオランダのワーグニンゲン、バイオ技術ではドイツのフラウンホーファ

ー研究機構がチリにイノベーション拠点を置いた。また、農業イノベーション基金(FIA)及び農牧調査研究

所(INIA)の役割が変更され、FIA はニーズを抱えている中小生産者のイノベーションに対する支援が明

確化された。

流通チェーン、透明性のある市場

第 2 の戦略である流通チェーン、透明性のある市場に関する具体的な政策として、農業省は①生産チェ

ーンへの統合、②透明性のある市場、及び③市場開放の深化を挙げている。

生産チェーンへの統合は INDAP の「生産連携プログラム」が中心になり、流通業者及び加工業者と生

産者の連携を促進した。具体的には流通業者及び加工業者が自分たちのニーズに合致した技術指導を生産

者に対して施すプログラムが始められた。2009 年に 1,125 の連携プログラムが実施された一方、2013 年

にその数は 8 千件に達し、2014 年には 1 万件に及ぶと農業省が見積もっている。こうした生産連携プロ

グラムでは、生産者は商品供給力の向上が図られ、流通及び加工業者はニーズに合った品質の商品を得る

ことが出来るというメリットがある。

また、生産チェーンの統合を促すもう一つの重要な柱は取引の契約化である。取引の契約化を促すため、

農業省は農業分野に特化した売買契約情報に関する任意登録制度を定める法案を提案した。取引の契約化

は双方にとって法的な保障を与えるとともに、こうした契約の長期化が図られることにより、生産チェー

ン内の協力関係が生まれ、イノベーション事業への共同投資の可能性が増えることを農業省が示唆してい

る。

市場の透明化は国内農産品と輸入農産品の公平な競争を保障するために必要であり、ピニェラ政権は特

に輸出国側で様々な補助を受けている輸入農産品に対する監視体制を強化した。具体的には「輸入品価格

の歪みの有無を調査する国家委員会(CNDP)」の役割を強化した。また、セーフガードの有効期間を 2年から 4 年に延長した。実際には 2011 年に農業省の通報を受け、CNDP がアルゼンチン産小麦の輸入に

関する調査を行った結果、不当な競争が認められ、10.8%の追加関税が課されることになった。その他に

農業政策調査庁(ODEPA)の迅速な情報発信を促すため、タブレットの活用が始められ、マウレ州及び

ビオビオ州での調査活動が強化された。

市場開放の深化については、チリは既に 23 の自由貿易協定を有しており、世界的な農業輸出国の地位

を確たるものにするため、政府は各協定の有効活用に積極的に取り組んでいる。具体的には農業省と外務

省の連携が必要であり、新たな市場への輸出を可能にするための交渉と必要な措置の実施が行われている。

ピニェラ政権では 37 の市場に 98 の農産品が衛生条件をクリアして輸出が可能となった。

ピニェラ政権はさらに有望な輸出品の特定を行うため、生産者団体との連携を行う「国際貿易委員会

(Comité de Comercio Internacional)」を設立した。同委員会は外務省の国際経済関係総局(DIRECON)、

農業省、SAG 及び ODEPA で構成され、各農産品の生産者団体の参加が定期的に行われている。民間セク

ターが要請した品目を委員会が特定及び分析し、輸出を可能にするための検疫障壁を取り除く作業に取り

組む。ピニェラ政権はまた、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)及び太平洋同盟といった広域自由貿易

圏構想にも積極的に関わった。

発展のための維持可能な環境の確保

第 3 の戦略である持続可能な環境の確保に関する具体的な政策として、農業省は①水資源の課題、②土

壌の保全、③森林の保全、及び④再生可能エネルギーを挙げている。

40

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水資源の重要性を鑑みてピニェラ政権は、公共事業省(MOP)が所轄する「水資源国家戦略 2012-2025」の一環で、農業省とは「灌漑国家戦略」を策定した。具体的な政策としては 2020 年までに 16 のダムの建

設を掲げた。これにより、ダム貯水能力は 36%増えることになる。また、灌漑事業向けの予算も増加した。

その結果、ピニェラ政権の 4 年間で合計 770 キロメートルに及ぶ用水路の改修が行われ、灌漑面積は 6.6万ヘクタール増加した。また、水の有効活用を行うための技術改良として、オンタイムで水位を確認でき

るシステムが導入された。また灌漑事業を所掌とする国家灌漑委員会(CNR)と農業省はチリの灌漑政策

である「灌漑促進法」の改正を行い、特に中規模灌漑事業に対する支援が盛り込まれることになった。

土壌の保全について、チリで深刻になりつつある土壌劣化に関する対策が含まれている。ピニェラ政権

は 2010 年に「農地の持続可能な環境のためのインセンティブ制度」の法制化を行なった。土壌劣化の進

行状況について把握するため、天然資源情報センター(CIREN)の下で「チリにおける土壌劣化の現状と

今後の見通し」プログラムが実施され、土壌劣化の進んでいる地域の特定と地図の作成が行われた。これ

らの情報を元に農業省は土壌劣化対策のための予算を深刻な地域に優先的に充てた。土壌の生産能力を改

善する農法の導入プログラムが実施され、その対象は 66,601 農家、合計で 63 万ヘクタールに及んだ。ま

た、植林促進法案である DL701 法の修正案が議会に提出され、これにより土壌劣化の可能性のある林業

に適した地域での植物の植林が促されることになるとしている。

森林の保全では原生林の保全のための資金供与や DL701 法修正案のような植林地域の保全対策が含ま

れている。特に原生林の保全を規定する原生林法の修正が行われ、保全目的の予算が 4 年で 45%増加し、

保全対策が行われた面積は 33,546 ヘクタールに及んだ。また DL701 法の下では新たに植林された面積は

年間で約 2 万ヘクタール増えた。また、森林火災の対策予算も増加され、人員の増加とともに、通信手段

及び機器のデジタル化も進められた。森林火災を起こした者に対する罰則も強化された。

再生可能エネルギーの対策はピニェラ政権の「エネルギー国家戦略 2012-2030」の一環として、自家

発電が促されている。チリ経済振興観光省が行った調査ではチリの農業分野が近年抱えている大きな課題

の一つはエネルギー問題であり、生産者の競争力が削がれる原因の一つとなっているとされている。エネ

ルギー問題に対応するため、農業省はエネルギー省及び再生可能エネルギーセンターと連携し、農業活動

から出る産物を元にした再生可能エネルギーの促進政策が策定された。具体的には CNR の実施している

再生可能エネルギー支援プロジェクトに小型の水力発電事業や、ソーラーパネル等の再生エネルギーを活

用した灌漑施設プロジェクト等が対象とされた。また、農業イノベーション基金(FIA)を通じて林業に

おける再生可能エネルギーに対する支援策も開始し、森林公社(CONAF)は発電用の木材エネルギーの

経済的可能性について調査を始めている。

農業省の近代化

第 4 の戦略である農業省の近代化に関する具体的な政策として、農業省は①適切な機構及び適正な公共

政策、②効率的な政府、③省庁地方事務所の脱中央集権化、及び④市民参加の促進を挙げている。

機構及び公共政策の適正化について、ピニェラ政権は農業省の近代化を大きな目標として掲げた。具体

的には現在の農業省を「農業食料水産林業省(Ministerio de Agricultura, Alimentos, Pesca y Recursos Forestales)」へと名称を変え、より総合的な役割を担わせることである 20。水産及び林業分野を含む生産

品及び食品の全生産チェーンを新農業省に管轄させ、全ての生産過程を網羅することにより、食品の無害

化が保障されることが最大の目的である。新農業省に関する法案は 2013 年 12 月に議会に提出された。ま

た、無害化政策の大きな柱を担うにチリ食品無害性品質庁(ACHIPIA)が農業省に創設された。ACHIPIAの役割については 2.3.4 で詳述する。

20 現在では漁業庁(SERNAPESCA)は経済振興観光省の管轄内であり、食品の安全基準に関する規定は保健省の所轄であ

る。

41

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効率的な政府について、農業省と関連機関の協力体制が強化され、これまでなかった各機関からの農業

省への定期的な報告体制が確立された。また、農業省からは各州にある省庁地方事務所(SEREMI)に対

する政策指針の伝達体制も整備された。また、省内の情報共有も促され、予算執行の状況を確認できるオ

ンラインシステムも設置された。またイノベーション、R&D 及び技術移転の分野で整合性のある政策を

行うため、省内の 4 つの技術研究機関(FIA、INIA、INFOR 及び CIREN)を調整するイノベーション・

ユニットが創設された。

省庁地方事務所(SEREMI)の脱中央集権化政策では、各州のニーズにあった政策実施を可能にするよ

うな政策が行われた。具体的には同政策を実施するために各 SEREMI の所長の評価が行われ、脱中央集

権化を実施できる適任者の任用が行われた。また、中央政府の指示系統モデルが州レベルでも再現され、

各州のニーズに合致する農業関連プログラムを実施するための資金の確保が所長の新たな任務となった。

これらの資金は内務省の地方開発次官官房が用意している「地方開発基金(FNDR)」から、農業分野に充

てるように働きかけなければならない。さらに、農牧庁(SAG)では、地方事務所の人事権は各事務所に

移譲され、3 つの広域委員会(北部、中部および南部)が創設され、各地域にもっとも適した政策実施に

関する調整が行われている。

市民参加の促進について、農業省内に「市民対応情報提供総合システム(SIAC)」が創設され、市民か

らの問い合わせ、苦情及び意見等は農業省及び各関係機関の担当者に共有される省内ネットワークが整備

された。また、市民への情報提供の一環として、農業省は年次報告書を作成し公表している。

21 世紀に向けた農村社会の整備

第 5 の戦略である 21 世紀に向けた農村社会の整備に関する具体的な政策として、農業省は①農村社会

の機会とニーズ、及び②農村開発に関する国家政策を挙げている。

農村社会の機会とニーズでは、農業省は農業活動分野のみならず、農村社会全体のニーズについての対

応策を含めている。具体的には 2010 年 2 月にチリ中南部で発生した巨大地震の農村における被害状況を

調査するため、農業省は住宅都市計画省(MINVU)と連携し地方事務所及び INDAP を活用した。調査の結

果、住宅のニーズが高い農村地域では MINVU が INDAP と協力して被害地域の復興のための対策を実施

した。また、農業省は通信次官官房と連携し、農村地域への電話回線及びインターネットの普及活動に協

力した。その他に、INDAP は教育省と連携し、僻地の子供が学校に通学する際の課題点についての調査

を行った。教育分野では農業省は自前の予算と教育省の指導の下で、優秀な成績で農業学校を卒業した学

生に対する海外トレーニング奨学プログラムを創設した。2012 年には 20 名がニュージーランドで酪農分

野でのトレーニングを受け、2013 年にはプログラムは豪州にも拡大され、灌漑及び果実栽培に関するトレ

ーニングを含め、合計で 34 名が参加した。また、国有資産省と連携し、農業省は INDAP を通じて、土地

所有の正規化を促すプログラムを実施した。

農村開発に関する国家政策の政策について、農業省が総合的な農村開発を扱う機関の不在及び長期的な

政策の欠落を補うため、2011 年から他省庁と連携しながら「農村地開発に関する国家政策(Política Nacional de Desarrollo Rural Territorial)」の構想を作成した。同政策では農業省の他に住宅都市計画省、

環境省、公共事業省及び地方開発次官官房が参加し、農村開発に重要な項目を 5 つ特定した。それらは①

競争力、②環境、③生活水準、④文化および⑤ガバナビリティである。その他に、チリの農村開発につい

て考える場を設け、有識者との意見交換及び一般市民向けのセミナーが開催された。

「2010-2014 年」農業政策の進捗状況

農業省が 2013 年 9 月に発表した報告書では、ピニェラ政権 4 年間の農業分野での実績について記され

42

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ている 21。「5 大戦略」及び「25 の約束」の中で示された 127 の具体的な行動の内、ピニェラ政権は 104を 2013 年 8 月時点で既に履行しており、15 は政権内に履行する見込みであるとしている。4 年間の農業

分野における約束の履行率は 94%に達する計算である。履行が果たされなかった行動は、農業省の組織変

更、代替可能エネルギーの競争力強化及びイノベーションに関するプロジェクト数の増加、2010 年 2 月

27 日のチリ南部大地震からのインフラ復興、違法な引水に対する罰則強化の法制化、林業法 DL701 の修

正等である。

21 (Gobierno de Chile 2013)

43

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第 2 バチェレ政権の農業政策 2.2.2

2013 年 12 月の大統領選で勝利したバチェレ元大統領(2006―2010 年)は 4 年ぶりに大統領に帰り咲

き、ピニェラ中道右派政権からの政権交代を果たした。バチェレ政権 2 期目の選挙公約を見てみると、最

大の公約として掲げているのは教育改革であり、その財源確保のためには税制改革を提唱している。これ

らの二大公約の他に、チリの選挙制度を大幅に修正する憲法改正も掲げ、選挙の結果勝利を果たした。

また、バチェレ大統領が掲げている公約の中には、先住民に対する歴史的な土地の返還といった、これ

までの成長モデルを修正する政策も含まれており、農業分野でも小規模生産者に焦点が当てられ、包摂的

な発展に関する政策が目立つ。競争力強化及びイノベーションがキーワードであったピニェラ政権と比較

すると、第 2 バチェレ政権では小規模生産者及び包摂的な発展がキーワードであると言える。

表 40 バチェレ政権 2 期目の主要な選挙公約

教育改革 税制改革

(2014 年 9 月 10 日議会で可決) 憲法改正

託児所・保育所の増設 GDP 比 3%の税収増 多数二人制の改革

高等教育(6 年間)の無償化 法人税率の引き上げ 先住民の認知

公立大学の新設 再投資に対する優遇制度の廃止

出所)Michelle Bachelet (2013)

下表はバチェレ政権 1 期目、ピニェラ政権及びバチェレ政権 2 期目の農業政策の比較である。主要な項

目を比較すると、政権交代が行われてもチリは伝統的に一貫した政権運営を行っており、それは農業政策

の分野でも同様であるようにみえる。

表 41 歴代政権の農業政策の推移 2006-2010 2010-2014 2014-2018

バチェレ 1 期目 ピニェラ政権 バチェレ 2 期目 農業政策の 5 柱 農業政策の 5 柱 (重点分野)

・農産食品分野でのチリの能力強化 ・農林食品分野のイノベーション及び競争力強化

・家族農業の生産性強化 ・農産品の品質向上

・全体的な開発の推進 ・流通チェーン、透明性のある市場 ・労働面の強化 ・水利用の整理

・新たな国際情勢に対応するための農牧林業に関わる公的制度の改革と近代化

・発展のための維持可能な環境の確保 ・農業保険の利用促進 ・市場の確保及び開拓

・チリのエネルギーの多様性確保と拡大 ・農業省の近代化 ・農業省の指導力強化 ・林業の促進

・自然再生資源の持続的利用と生物多様 性の保全

・21 世紀に向けた農村社会の整備 ・関連機関の強化 ・病害虫との闘い

出所)八丁 信正 (2007) 「チリの農業政策ー展望と課題ー」、農業省 (2013) "Visión, Logros y Desafíos 2010-2014", Minagri webpage

しかし、2 期目のバチェレ政権の農業政策は発展した農業分野に小規模生産者及び先住民などの包摂を

促進し、特に家族農業に焦点を当てている。また、人材開発、特定の分野でみられる不均衡な成長、小規

模生産者が抱える融資及びリスク回避メカニズム、より良い生産技術、水資源及び市場への平等な機会へ

の困難なアクセスといった課題に取り組むとしている 22。バチェレ政権は 10 の重点分野を設定している。

22 (Michelle Bachelet 2013)

44

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家族農業の生産性強化

家族農業(AFC)の生産性強化について、生産者の生産性、競争力及び市場へのアクセスの向上に資する

政策を実施する。具体的には投資、人材開発、研究開発及びイノベーションの移転に重点が置かれる。重

要な分野ごとの戦略が策定され、競争力の向上を実現するためのボトルネックとなっている課題を特定す

ることが掲げられている。実施されるプログラムでは生産者の組織化及び組合化が促され、「技術移転グル

ープ」及び協同組合が強化され、技術指導に対する優先的なアクセスが確保される。

また、土地所有の正規化を促すため、「土地所有正規化プラン」の適用範囲が拡大される。人材開発の分

野では INDAP 及び労働社会福祉省内の研修・雇用庁(SENCE)を通じて、農業学校、専門学校及び大学

との提携を模索することが盛り込まれている。また、INDAP の融資を超過債務している小規模生産者に

対して、対象者の状況を勘案しながら救済策を講じることが明記されている。

労働面の強化

労働面の強化について、労働現場での衛生及び安全要件を順守するための監視プランを策定し、違反者

に対する罰則を適用する。また、季節労働者の保護を目的に「農業における季節労働及び季節労働者に関

する法令」を策定し、議会に提出する。

農業保険の利用促進

農業保険の利用促進では、中小生産者の加入を促し、4 年間で保険のカバー率を 50%増加することを目

標にする。

農業省の指導力強化

農業省の指導力強化では、一次生産者から消費者までの生産チェーンの関係者の参加を含めた、官民協

働プログラムを復活させることが明記されており、分野別の視点から脱し、クラスター及び生産チェーン

(畑から食卓までのチェーン)からの視点を持つことを掲げている。

関連機関の強化

関連機関の強化では、食品の無害化政策の管轄機関として食品無害性品質庁(ACHIPIA)の役割を強化

することが明記されている。

農産品の品質向上

品質向上の面では、生産者及び生産者ネットワークに対して品質向上及び差別化のための支援を行う。

これら二項目をチリ農業の競争力強化の柱として据え、差別化に資する認証の取得を促進する。INIA の

行う研究活動やプロジェクトを、健康食品生産のための機能食材の特定、取得及びその活用の研究へと焦

点を移すことが掲げられている。品質向上を行うためには、農業省内の研究・イノベーション機関の整理

と強化が必要であると説明されている。

水利用の整理

水資源の利用について、バチェレ政権 2 期目では、水法の修正を行い、水は公用目的の国家資源として

位置付けることを掲げている。また、用水路、深井戸及び灌漑施設の改善が行われ、そのための予算が増

加される見込みである。干ばつに対応するために、短・中・長期的な政策を策定する「水資源大統領代理」

を任命する。大型な灌漑事業について、各地におけるダムの建設プログラムを進め、灌漑面積の増加を促

45

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すことが説明されている。さらに、法律第 18.450 号で定められている灌漑事業への予算を増加し、地方

行政機関及び生産者団体などとの共同プログラムを拡大する。特に小規模生産者が土壌改良及び課外施設

に投資するための支援金を用意することが盛り込まれている。

市場の確保及び開拓

市場の確保及び開拓では融資費用およびリスクを軽減することにより、商品の流通を改善させることが

掲げられている。そのためには輸出促進基金の適用を拡大する。輸出促進の面では、主要国にある農務ア

タッシェの役割の再定義と再配置が行われ、海外市場へのアクセスを深化させるために PROCHILE の強

化が行われる。また、農業向けの為替リスク軽減、及び基本財価格の変動リスク軽減に関する金融商品を

開発する。また、畜産業に対する融資商品の近代化も検討されると謳っている。さらに、食品及び林業分

野で消費者または生産者に不利益をもたらす取引を監視する組織を ODEPA 内に創設する。また、チリの

生産者と輸出業者に対する海外からのダンピング及び補助金関連の非難に対応するための「市場保護基金」

を創設することも盛り込まれている。

林業の促進

林業分野では植林を促進する DL71 法の 2 年間の延長を行うとともに、同法に中小生産者が参加できる

ための修正案を策定する。林業に特化した「林業研究、開発及び技術移転プログラム」を実施する。また、

中小企業の製品差別化と付加価値化を促すための戦略を策定することが掲げられている。

病害虫との闘い

病害虫への対策として、輸出を脅かす病害虫の発生に対する緊急プログラムを創設し、また、農牧庁

(SAG)の技術力を強化することも具体的な政策の一つとなっている。

上記の重点分野以外に、バチェレ政権 2 期目では、2009 年に法制化された「植物新品種法(通称「モ

ンサント法」)の再検討が公約の中に明記されている。同法は世界知的所有権機関(WIPO)の「植物の新

品種の保護に関する国際条約(UPOV 条約)」に準ずる内容となっており、植物の新品種を開発した者の

知的財産権が認められるものである。生産性及び競争力の向上、または技術開発の促進を目的に 1 期目の

バチェレ政権が同法の法制化に取り組んだが、モンサント社に代表される民間企業による新品種の独占が

進むという市民社会からの反対の声を受け、2 期目のバチェレ政権は同法の見直しを行うことを謳ってい

る。

その他の政策(漁業分野)

チリの漁業(養殖を含む)は経済振興観光省傘下の漁業次官官房(SUBPESCA)の管轄となっている。

そのため、農業省で述べられている政策には漁業が含まれていない。SUBPESCA が発表している

2014-2018 年の政策では「陸からの1海里には海草、底生資源及び小規模養殖業があり、チリ小規模漁業

の将来がここにある」と記されており、小規模漁業者に焦点があてられている。具体的には SUBPESCAは小規模養殖業の法律の制定、小規模漁業団体が漁獲を行っている海域の一定の所有権の付与が挙げられ

ている。その他に、底生資源漁業の維持可能な発展のための法的枠組みの制定も記されており、海草資源

の回復のための支援も挙げられている。

「2014-2018 年」農業政策の進捗状況

バチェレ政権は 2014 年 3 月に発足し、同年 6 月には政権就任後 100 日目には履行すると公約した 50の約束の進捗状況について発表した。農業分野では 3 つの約束を掲げた。それらは以下のとおりである:

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INDAP の融資を超過債務している小規模生産者に対して、対象者の状況を勘案しながら救

済策を講じる。

旱魃に対応するために、短・中・長期的な政策を策定する「水資源大統領代理」を任命する。

小規模漁業促進基金の予算を倍増し、インフラ、職業訓練、資源増加及び流通化を支援する。

INDAP の債務者に対して、INDAP 代表の行政通達を通じて「債務不履行者」に該当する者の債務が

2014 年 4 月 10 日付で帳消しになった。INDAP はさらに、5 年以内の債務履歴を有する者で返済が困

難な約 7 千の小規模生産者に対してケースごとの返済計画プログラムを行うことを発表した。

「水資源大統領代理」について、バチェレ大統領は 2014 年 3 月 28 日に Reinaldo Ruiz Valdés を任

命した。Valdés 大統領代理は 2008 年から 2010 年の間農業省次官、その前は ODEPA の局長を務めた

人物である。

小規模漁業促進基金は経済振興観光省の漁業次官官房(SUBPESCA)が管轄している基金であり、

漁業団体の自主的なプロジェクトに対して政府が資金的な支援を行うためのものである。バチェレ大統

領は 2014 年 4 月 11 日に同基金の予算を倍増することを発表した。

47

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農産品の品質向上に向けた施策 2.2.3

バチェレ政権の「農産品の品質向上」とは具体的には食品の無害性の保証を意味している。チリ政府の

大きな目標は「畑から食卓まで安全な食品を保証する」ことであり、種々な政策はこの目標に向かってい

る。バチェレ政権下の農業省が行っている主な政策は以下の通り:

灌漑政策(農地の拡大)

地方市場の活性化(農村開発)

食品の無害性(品質向上)

食品の付加価値化(品質向上)

チリ政府は「Potencia Alimentaria(農産品立国)」をめざし、2009 年に「食品無害性国家政策(Política Nacional de Inocuidad de los Alimentos)」を発表した。これにより、農業省内にチリ食品無害性品質庁

(ACHIPIA)が設置され、同庁はチリの食品の無害性と品質向上を所掌とした。ACHIPIA は EU の欧州

食品安全庁(EFSA)をモデルに作られ、具体的には以下の 3 機関と連携している:

保健省(MINSAL):国内に流通する食品の安全性を監督

経済振興観光省内の漁業庁(SERNAPESCA):輸出用の水産物の安全性を監督

農業省内の農牧庁(SAG):輸出用の農産品の安全性を監督

これらの 3 機関に加え、農業省、外務省の国際経済関係総局(DIRECON)及び大統領府の代表者が

ACHIPIA の諮問委員会(agencia consultiva)を構成し、チリ国内外の食品の品質を保証している。また、

チリ政府は国際的な食品の規格を決めるコーデックス委員会への積極的な参加を 2009 年の政策でも定め

ている。具体的な行動としては、ACHIPIA はチリ国内関係者から意見を吸い上げ、それをコーデックス

委員会に反映させることを目指している。これは結果的にはチリ農産品の国際競争力強化につながる。

また、保健省は省令 No.187(Resolucion Exenta)を通じて、食品加工者の製造工程に関する衛生管理法

を導入している(実質的には HACCP の基準に準じている)。これによりチリ国内の加工者は国際的に共

通する基準を保障できるようになっている。農業省はこれを支援し、HACCP に関する人材育成や説明会

等を行い、その普及に努めた。現在では HACCP の民間認証機関がチリに多数存在し、企業の中で国際標

準である HACCP を自主的に取得する動きがある。

さらに、ACHIPIA では無害化のみならず、品質改善についても焦点を当てることを期待されている。

具体的には安全上問題とされない品質であっても、商業の観点から重要とされる品質の保証についても

ACHIPIA が調整機関として他機関と連携することが考えられている。このアプローチについては例えば、

SAG では有機食品に関する規定を定めている事例があり、または保健省の HACCP 基準といったような

品質保証の規定を全フードバリューチェーンを通して見ることのできる機関として ACHIPIA に権限が与

えられるよう議論が進んでいる。

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プライスバンド制度の廃止と今後の小麦政策 23 2.2.4

1986 年から続いていた小麦や小麦粉のプライスバンド制度は、2007 年に WTO の農業協定に違反して

いると判断され、2014 年には廃止された。

プライスバンド制度は国内の価格安定を図る目的で導入され、最高価格と最低価格を設定し、輸入価格

がその価格帯を下回るときは差額分の特定関税を課し、上回るときは関税を免除することによって、国内

に入る価格を一定に保つ仕組みである。植物油、砂糖、小麦及び小麦粉について適用された。ただし、導

入時から最低価格は国際価格を大きく上回って設定され、実質上、国内小麦農家の保護のための輸入障壁

となっていた。また、小麦についてはセーフガードもたびたび発動されたことから、主要輸出国であるア

ルゼンチンがプライスバンドが可変輸入課徴金にあたるという点およびセーフガードについて WTO に申

し立て、2001 年にパネルが設置された。WTO 裁定に従い、チリは 2003 年に価格帯を大幅に引き下げ(小

麦:最低価格 128 米ドル/トン,最高価格 148 米ドル/トン)、これを 2007 年まで固定とし、その後 2014年まで漸減させ、その後は廃止を含めて検討するとした。アルゼンチンはこの措置を不服として、2005年に再度 WTO に提訴、2007 年にはチリの措置が不適切とする裁定が出された。2008 年にチリは議会で

新たなプライスバンド法案を議論したが、否決され、現行法が 2014 年に期限切れを迎えることから、そ

のまま廃止となった。

この間、2007 年以降、国際的な小麦価格は高騰し、チリの定めた価格帯を大きく上回る状況となった。

このため、特定関税は課されない状況が続いている。小麦はチリの主食であり、農産物栽培面積の多くを

占める品目であるが、アルゼンチンに比べて経営規模が小さく、6 割程度の自給率であったため、農業保

護的施策が少ないチリで、プライスバンドを通じて比較的手厚い保護が与えられてきた。生産量、生産面

積ともに減少傾向ではあるものの、現在は国際価格の高騰によって下げ止まりの様相をみせている。プラ

イスバンド制度の廃止は、現状の国際相場が続けば、農業生産には影響を与えないものと考えられる。さ

らに、近年のアルゼンチン側からの小麦の輸出制限にも影響され、現在では小麦の最大の輸入相手国は米

国となっており、チリは同国との FTA の枠組みの中でプライスバンド制度を 2015 年 1 月 1 日から廃止す

ることを約束しており、実質的な自由貿易へと移行しているといえる。

出所)ODEPA 及び COTRISA

23 宮石幸雄, 2013, 「カントリーレポート:チリ」http://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/project/cr_24_03.html

0

250

500

750

1,000

1,250

1,500

1,750

2,000

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

(千トン) (千Ha)

生産面積(左軸) 生産量(右軸)

100120140160180200220240260280300320340360380400

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

(米ドル/Ton)

最高価格(FOB) 最低価格(FOB) 輸入価格(CIF)

図 7 小麦生産の推移 図 8 プライスバンドと輸入価格の推移

49

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表 42 チリの小麦及び小麦粉の輸入推移 小麦 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸入額 (百万米ドル)

米国 7 6 47 142 150 53 116 142 60 241

カナダ 26 21 33 45 55 80 35 60 39 70

アルゼンチン 11 10 97 97 80 31 6 23 178 15

ウルグアイ 0 0 0 0 17 0 0 0 6 2

その他 1 0 0 2 7 3 0 0 1 0

合計 45 37 177 286 310 167 157 226 283 327

輸入量 (千トン)

米国 40 30 296 518 400 223 470 417 178 704

カナダ 120 105 172 151 123 321 142 164 117 191

アルゼンチン 62 57 561 411 221 134 20 75 597 41

ウルグアイ 0 0 0 0 37 0 0 0 17 4

その他 6 0 0 9 12 10 0 0 2 0

合計 228 191 1,029 1,088 792 688 633 656 911 940

小麦粉 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

輸入額 (百万米ドル)

アルゼンチン 3 3 4 9 8 4 3 0 3 1

ペルー 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

イタリア 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

その他 1 0 0 2 3 2 0 1 0 0

合計 4 3 4 11 11 6 3 1 3 2

輸入量 (千トン)

イタリア 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

アルゼンチン 5 3 3 5 1 0 0 0 1 0

ペルー 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

その他 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0

合計 6 3 3 5 2 0 1 0 1 0

出所)ITC

50

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地理的表示(GI)制度 24 2.2.5

産業財産法に地理的表示及び原産地名称に関する章が設けられており、「第 IX 章:地理的表示及び原

産地名称」の 94 ~104 条に規定されている。チリ産業財産庁(INAPI)が管轄している。チリの地理的

表示は以下の 3 点を目的とする。①該当地域の生産者の組織化の奨励及び促進、②該当商品の国内市場及

び国際市場に対するアクセスの促進、③広告宣伝、並びに地域、国内及び国際レベルで販売する商品の改

善。

INAPI 自身も地理的表示と原産地名称は基本的には同じものであると説明しているが、地理的表示につ

いては、商品の特性に影響を与える要因は自然条件とし、世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連

の側面に関する協定(TRIPS 協定)で定められた定義が採用されており、原産地名称では、商品の特性に

影響を与える要因として自然要因に加えて人的要因(ノウハウや経験等)があると明記し、世界知的所有

権機関(WIPO)の原産地呼称の保護及び国際登録に関するリスボン協定における定義が用いられている。

法的な保護効力について一部ワイン及びスピリッツに限定されている項目があるものの、地理的表示の

対象となる商品について制限する規定はない。地理的表示の登録第一号は第 1 州ピカ市産のレモンであり、

その後スペイン産の菓子等の海外の商品の登録がある。現在では 5 つのチリ産商品が地理的表示として登

録されている。

原産地呼称については、農業省が 1995 年に省令第 464 号において、ワインに関する原産地呼称法を定

めた。同法では産地、品種の種類及び収穫年等に関する表示の規定が記載されている 25。ワイン以外の原

産地呼称では、キューバ産葉巻(Habanos)やメキシコ産テキーラ等の外国産商品も登録されており、チ

リ産商品として民芸品の他に、伝統的な製塩法を用いて作られるカウイル・ビイェルカ産の塩が登録され

ている。

なお、チリにおいては、外国の地理的表示及び原産地呼称は、産業財産権法に従い、認可申請が可能で

あり、登録できる。ただし、登録本国において保護されているか、使用されている場合に限られる。なお、

登録後に、本国において保護又は使用されなくなった場合は、当該保護が失効する。

表 43 チリ産の原産地呼称及び地理的表示一覧 地理的表示

Limón de Pica 第 1 州ピカ市産のレモン

Langosta de Juan Fernandez フアン・フェルナンデス諸島産の大エビ

Atún de Isla de Pascua イースター島産のキハダマグロ

Cangrejo Dorado de Juan Fernandez フアン・フェルナンデス諸島産のカニ

Dulces de la Ligua 第 5 州リグア市産の菓子

原産地呼称

Sal de Cahuil Boyeruca Lo Valdivia 第 6 及び第 7 州にまたがるカウイル・ボイェルカ地方産の塩

Alfareria de Pomaire 首都州メリピリャ市ポマイレ地方産の陶芸品

Alfarería de Quinchamalí 第 8 州キンチャマリ地方産の陶芸品

Chamantos y Mantas Corrales de Doñihue 第 6 州ドニゥエ地方産の織物 出所)INAPI

24 社団法人日本国際知的財産保護協会, 2012, 諸外国の地理的表示保護制度及び同保護を巡る国際的動向に関する調

査研究 http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken_kouhyou/h23_report_01.pdf 25 (Ministerio de Agricultura 1995)

51

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表 44 ワインの原産地呼称一覧

出所)農業省

WINE REGION SUB-REGION ZONE

COPIAPO VALLEY

HUASCO VALLEY

LA SERENA Costa

VICUÑA Andes

PAIGUANO Andes

OVALLE Costa

MONTE PATRIA Andes

PUNITAQUI Entre Cordilleras

RIO HURTADO Andes

SALAMANCA Andes

ILLAPEL Andes

ZAPALLAR Costa

QUILLOTA Costa

HIJUELAS Entre Cordilleras

PANQUEHUE Entre Cordilleras

CATEMU Entre Cordilleras

LLAILLAY Entre Cordilleras

SAN FELIPE Entre Cordilleras

SANTA MARIA Andes

CALLE LARGA Andes

SAN ESTEBAN Andes

CASABLANCA VALLEY CASABLANCA Costa

SAN JUAN Costa

SANTO DOMINGO Costa

CARTAGENA Costa

ALGARROBO Costa

MARGA MARGA Costa

SANTIAGO Andes

PIRQUE Andes

PUENTE ALTO Andes

BUIN Andes

ISLA DE MAIPO Entre Cordilleras

TALAGANTE Entre Cordilleras

MELIPILLA Entre Cordilleras

ALHUE Entre Cordilleras

MARIA PINTO Entre Cordilleras

COLINA Entre Cordilleras

CALERA DE TANGO Entre Cordilleras

TIL TIL Entre Cordilleras

LAMPA Entre Cordilleras

RANCAGUA Entre Cordilleras

REQUINOA Andes

RENGO Andes

PEUMO Entre Cordilleras

MACHALI Andes

COLTAUCO Entre Cordilleras

SAN FERNANDO Andes

CHIMBARONGO Andes

NANCAGUA Entre Cordilleras

SANTA CRUZ Entre Cordilleras

PALMILLA Entre Cordilleras

PERALILLO Entre Cordilleras

LOLOL Costa

MARCHIGUE Entre Cordilleras

LITUECHE Costa

LA ESTRELLA Entre Cordilleras

PAREDONES Costa

PUMANQUE Costa

RAUCO Entre Cordilleras

ROMERAL Andes

VICHUQUEN Costa

MOLINA Andes

SAGRADA FAMILIA Entre Cordilleras

TALCA Entre Cordilleras

PENCAHUE Entre Cordilleras

SAN CLEMENTE Andes

SAN RAFAEL Entre Cordilleras

EMPEDRADO Costa

CUREPTO Costa

SAN JAVIER Entre Cordilleras

VILLA ALEGRE Entre Cordilleras

PARRAL Entre Cordilleras

LINARES Entre Cordilleras

COLBUN Andes

LONGAVI Entre Cordilleras

RETIRO Entre Cordilleras

TUTUVEN VALLEY CAUQUENES Entre Cordilleras

CHILLAN Entre Cordilleras

QUILLON Entre Cordilleras

PORTEZUELO Costa

COELEMU Costa

YUMBEL Entre Cordilleras

MULCHEN Entre Cordilleras

MALLECO VALLEY TRAIGUEN Entre Cordilleras

CAUTIN VALLEY

OSORNO VALLEY

AREA

ATACAMA REGION

ELQUI VALLEY

LIMARI NALLEY

CHOAPA VALLEY

COQUIMBO REGION

LEYDA

MAIPO VALLEY

CACHAPOAL VALLEY

COLCHAGUA VALLEY

RAPEL VALLEY

TENO VALLEY

LONTUE VALLEY

CLARO VALLEY

CURICO VALLEY

LONCOMILLA VALLEY

MAULE VALLEY

CENTRAL VALLEY REGION

ACONCAGUA REGION

ITATA VALLEY

BIO BIO VALLEY

AUSTRAL REGION

SOUTH REGION

SAN ANTONIO VALLEY

ACONCAGUA VALLEY

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2.3 貿易政策

FTA/EPA 政策の動向 2.3.1

1990 年の民政移管以降、チリは積極的な経済連携協定の締結に取り組み、現在ではそのネットワークは

23 本、計 61 か国に及ぶ。これは世界 GDP の 90%の国と地域に有利な条件で輸出が行えることを意味し

ている。

表 45 チリの経済協定一覧(2014 年 8 月現在) 経済連携協定/自由貿易協定 調印済み協定 部分的到達協定

発効年月 国 発効年月 国

調印年月 国

発効年月 国

1997 年 7 月 カナダ 2007 年 9 月 日本

2012 年 9 月 香港

2007 年 8 月 インド

1999 年 7 月 メキシコ 2008 年 3 月 パナマ

2013 年 10 月 タイ

2008 年 6 月 キューバ

2002 年 2 月 中米 5 カ国 2009 年 3 月 ペルー

2003 年 2 月 EU 2009 年 3 月 豪州

2004 年 1 月 米国 2009 年 5 月 コロンビア

経済補完協定(ACE)

交渉中

2004 年 4 月 韓国 2010 年 1 月 エクアドル

発効年月 国

TPP

2004 年 12 月 EFTA 2011 年 3 月 トルコ

1993 年 4 月 ボリビア

太平洋同盟

2006 年 10 月 中国 2012 年 4 月 マレーシア

1993 年 7 月 ベネズエラ

インドネシア

2006 年 11 月 P4 2014 年 1 月 ベトナム

1996 年 10 月 メルコスール

出所)DIRECON

チリのこうした対外開放政策は政権が代わっても堅持されており、コンセンサスの取れている政策であ

ると言える。ピニェラ政権ではアジア諸国への接近が積極的に行われ、同政権中ではベトナム、マレーシ

ア、中国(投資部門)、香港及びタイとの自由貿易協定が署名され、インドとは部分的到達協定から自由貿

易協定への拡大交渉が始められた。ピニェラ政権はまた、広域な自由貿易圏構想に関する交渉にも積極的

に関わり、同政権内では太平洋同盟及び環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉が進められた。こう

して、ピニェラ政権の貿易政策の特徴はアジアでのプレゼンス強化であったということが出来る。

ピニェラ政権と比べ、第 2 バチェレ政権はアジア重視の姿勢を保ちつつ、近隣諸国、とくにメルコスー

ルとの関係を重視していると言われている。アジア重視の姿勢としては、2015 年 1 月時点ではチリ政府

はインドネシアとの自由貿易協定の交渉を行い、今後フィリピンとの交渉に関心を示している。また、ア

ジア各国との二国間協定のみならず、バチェレ政権は ASEAN 全体との関係強化も模索している。バチェ

レ政権はさらに、アジア太平洋の特別大使としてエドゥアルド・フレイ元大統領を任命し、同地域におけ

るチリのプレゼンス向上及び中国等からの投資誘致に大きな役割を果たすことを期待されている。また、

チリ政府は、既結の貿易協定では十分に活用がされていない分野があるとチリ政府が見ており、特に SPS及び TBT 等の非関税障壁の分野で、今後貿易協定の有効活用のための交渉を行うことを目指している。

他方、近隣諸国との関係強化においては、外務省の国際経済関係総局(DIRECON)は現政権ではラテ

ンアメリカ諸国に焦点を置くことを掲げており、アジア太平洋とメルコスールの統合にチリが主要な役割

を果たすことを目指している。太平洋同盟及びメルコスールとの関係については後述するとして、チリ政

府はアジア及び中南米以外で関心を示している地域としては、ユーロアジアと言われるロシア及び旧ソ連

諸国、その他に GCC の中東諸国及び南アフリカが挙げられる。特にロシアは果実、ワイン及び食肉等の

農林水産分野で有望な輸出貿易相手国になることを期待している。

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太平洋同盟とメルコスールとの関係

2010 年にペルーの当時大統領であったアラン・ガルシア大統領の呼び掛けにより、ペルー、チリ、コロ

ンビア及びメキシコからなる自由貿易圏構想「太平洋同盟」の交渉が開始された。同構想では物品や人の

自由移動のみならず、より「深い統合」が目指されており、アジア太平洋に目を向けたプラットフォーム

の形成が目的とされている。物品貿易について、当初の予定は総品目の 90%の即時撤廃、残りのセンシテ

ィブ品目の段階的な撤廃が挙げられたが、交渉の末、ペルーは 99%、チリは 98%、コロンビアは 97%、

メキシコは 96%の品目の即時撤廃を約束した。同同盟は枠組みの大筋合意に至っているものの、協定は未

発効である。

チリは既にメキシコ、ペルー及びコロンビアと自由貿易協定を締結しており、農林水産品分野ではチリ

は 3 国に対して輸出超過の状況である。太平洋同盟では、人の移動および人的交流に関する取組が進めら

れ、証券市場の統合化も実施されている。

メルコスールとは経済補完協定が結ばれており、2014 年に双方の農林水産品の関税率が撤廃された。チ

リはメルコスールとは輸入超過の状況にあり、特に食肉及び穀物の輸入が多い。バチェレ政権がアジアに

対して目を向けつつ、メルコスールへの接近を図っている理由としては、中国はブラジルの最大の、そし

てアルゼンチンの第 2 位の輸出相手国であるためであり、この貿易にチリがプラットフォームの役割を担

うことに期待しているからである。2014 年 11 月にチリ外務省主催のセミナー「地域統合:太平洋同盟と

メルコスール」が開催され、この催しに合わせて国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は太平

洋同盟とメルコスールの統合に関する報告書を発表した 26。

ECLAC の報告書では物品の市場アクセスよりも、制度の統合及びインフラの整備に関する提言がなさ

れている。具体的には太平洋同盟及びメルコスールの生産体制を広域化し広域的なバリューチェーン化の

形成が提言されており、そのための物流、ロジスティックス、エネルギー、通信インフラの整備が不可欠

であると指摘されている。また、規制の統合、規格の相互承認を促すことにより、生産の統合が図られる

と ECLAC が述べている。規制の統合では原産地規則の統一化を例示しており、その他に人の自由な移動、

サービス貿易に関する統計の共同作業、科学技術の協力も提言に盛り込まれている。また、大西洋と太平

洋を結ぶインフラの整備、産業政策の協調及び連携を進めるべきであるとしている。

制度面のみならず、政治的なコンセンサスの必要性も同報告書の中で示唆されている。中南米でその存

在感が増している中国及び ASEAN の関係づくりに向けて各国ごとの政策よりも、地域全体との連携が必

要であるとし、そのために、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)が大きな役割を果たし得る

としている。また、G20 にはアルゼンチン、ブラジル及びメキシコが入っていることから、太平洋同盟と

メルコスールの接近が進めば、中南米の一つの立場が形成され、国際場面においてより大きな発言力が発

揮できると指摘している。

DIRECON 及びチリ外務省はこの報告書の提言に対して好意的であり、今後これらの提言の実現に取り

組むものと考えられる。このように、太平洋同盟及びメルコスールへの取り組みは農林水産分野及び貿易

分野のみならず、チリにとってより大きな政治的な意味を含んでいると言える。

26 (ECLAC 2014)

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主要国との貿易状況 2.3.2

米国との貿易状況

米国との関係について、チリは 2003 年 6 月に米国との自由貿易協定に署名し、2004 年 1 月に発効した。

同協定の下では関税率削減は即時、2、4、8、10 及び 12 年と定められており、協定発効から 10 年経つ

2015 年 1 月 1 日からは両国貿易の 100%の品目(7,705 品目)は無関税で取引が可能となる。2015 年に

関税率がゼロになる品目は米国のセンシティブ農林水産品目(乳製品、砂糖、アボカド、トマトペースト、

ワイン等)である。米国は 2008 年までチリの最大の輸出相手国であり、2012 年にはチリ全輸出の 12%、

チリ全輸入の 23%を占めていた。DIRECON の分析では 2007 年までチリは輸出超過だったが、それ以降

米国からの輸入はチリからの輸出を超えるようになっている 27。農林水産分野では米国からの小麦や食肉

(牛及び豚)の輸入が増加しており、特に小麦は最も大きな農林水産輸入品であり、2013 年の輸入金額は

1.8 億米ドル、輸入量は 62 万トンを記録した。これはチリが同年に輸入した小麦(94 万トン)の 66%に

相当する。小麦は小麦粉、食用油及び砂糖と同様にチリ側が対米 FTA でセンシティブ品目として 12 年間

の段階的撤廃の品目として指定しており、したがって 2015 年 1 月 1 日から関税がゼロとなっている。食

肉について、輸入実績がなかった牛肉は 2013 年に 1 万トンまで増え、豚肉については 1.6 万トンでチリ

が同年に輸入した豚肉の約 48%を占めるまでに至っている。ODEPA の調査によれば、畜産関係の貿易で

はチリは 2012 年に約 1.7 億米ドルの輸入超過を記録した 28。

また、農林水産品は全輸出の約半分を占め、2013 年には 50.9%を占めた。その中でも、サーモンと生鮮

果物が主要な輸出品目となっている。FTA 締結前に比べ、現在では 519 品目の輸出が新たに増えており、

その 25%は生鮮果物である。特にクレメンティーンとマンダリンは FTA 発効後に最も輸出が伸びた農林

水産品目である。チリと米国はともに TPP の交渉に参加しており、米国は 2013 年 6 月に太平洋同盟への

オブサーバーを申請している。両国の間ではチリ産いちじく、レモン、チェリモヤ及び生食用ぶどうの病

害虫リスク管理のためのシステム・アプローチ認証取得に関する協議が行われている 29。

表 46 チリの主な対米農林水産品輸出品目(百万米ドル)

HS 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

総輸出額 5,020 6,716 9,418 8,679 8,053 6,226 6,921 9,044 9,604 9,812

農林水産品の輸出額 3,090 3,173 3,632 3,663 3,751 3,343 3,534 4,023 4,094 4,796

0304 魚のフィレ(生鮮、冷蔵又は冷凍) 569 611 778 833 762 523 429 682 798 1,103

0806 ぶどう(生鮮のもの及び乾燥) 573 600 629 604 687 694 754 688 658 782

0810 その他の果実(生鮮) 111 132 153 174 205 183 318 351 339 382

2204 ワイン及びぶどう搾汁 145 148 153 189 203 245 247 277 303 291

1005 とうもろこし 46 54 79 100 133 116 126 136 222 275

4409 面に沿つて連続的に加工を施した木材 315 248 310 198 172 119 150 164 183 232

4411 繊維板(木材その他の木質の材料のもの) 140 144 172 145 119 101 107 97 102 163

0808 りんご、なし及びマルメロ(生鮮) 88 55 86 130 125 82 123 106 157 163

0805 かんきつ類の果実(生鮮、乾燥) 10 19 24 38 39 69 94 118 118 143

0809 さくらんぼ(サワーチェリーを除く) 生鮮 118 139 158 170 209 144 197 190 147 143

出所)ITC

27 (DIRECON 2014) 28 (ODEPA 2013a) 29 (DIRECON 2014)

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表 47 チリの主な対米農林水産品輸入品目(百万米ドル) HS 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

総輸入額 3,570 5,133 6,177 7,865 11,949 8,002 10,011 15,095 18,593 16,104

農林水産品の輸入額 119 128 331 475 543 256 459 626 710 1,192

1001 小麦及びメスリン 7 6 47 142 150 53 116 142 60 241

2209 食酢及び酢酸から得た食酢代用物 0 0 0 0 0 0 0 0 0 142

2303

でん粉製造の際に生ずるかすその他これに

類するかす、ビートパルプ、バガスその他の

砂糖製造の際に生ずるかす及び醸造又は蒸

留の際に生ずるかす

5 17 39 65 99 27 52 85 75 72

2301 肉、くず肉、魚又は甲殻類、水棲無脊椎動物

の粉、ミール及びペレット並びに獣脂かす 0 0 0 0 0 0 0 11 35 60

0203 豚の肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 0 1 1 5 5 3 10 26 41 56

2309 飼料用に供する種類の調製品 7 8 10 11 10 9 20 35 41 49

2106 調製食料品(他項に該当するものを除く) 13 18 22 24 32 26 42 42 50 48

0201 牛の肉(生鮮及び冷蔵) 0 0 0 0 1 1 6 19 46 47

2203 ビール 0 0 0 0 3 4 12 17 38 42

0207 肉及び食用のくず肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 0 0 0 0 1 1 19 39 33 42

出所)ITC

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中国との貿易状況

中国政府は 2008 年に初めて対中南米政策に関する公式文書を発表した。同政策では 4 つの目標が定め

られ、両地域の関係強化を図る 4 つの分野が列記されている。経済分野では中国政府は中南米の国や地域

統合機構との自由貿易協定の締結に「前向きな配慮」をすることを明記し、中南米の鉱業や製造業等の他

に農業、林業及び水産業の分野への中国企業の投資を促進することが述べられている。その他に、中国は

農業の科学技術分野の面での交流や協力関係を強化していくことが示されている 30。

2008 年の政策を継承する形で、習近平国家主席が 2014 年 7 月にブラジルを訪問した際、今後 5 年間

(2015-2019 年)の中国・中南米関係に関する 5 項目を発表した。2 つ目の項目である「互恵協力の堅持、

共同発展の促進」では中国政府は 5 か年協力計画(China and Latin America and the Caribbean Countries Cooperative Planning 2015-2019)を掲げ「1+3+6」の協力モデルを提唱している。「1+3+6」協力モデルは「1 計画、3 原動力、6 分野」を指している。中国の提唱する 5 か年協力計画では 3 つの原

動力は貿易、投資及び資金協力であり、今後 10 年で中国と中南米の貿易額が 5,000 億ドルに到達するこ

とを目標としている。また、協力の柱となる 6 分野の内、農業はインフラ建設とともに含まれており、中

国政府は両地域の農業協力には今後 5,000 万ドルの協力基金を投資すると発表している 31。

チリは中国とは既に自由貿易協定を結んでおり、物品分野は 2006 年 10 月に発効している。チリは中南

米諸国の中で最も早く中国と自由貿易協定を結んだ国である。この協定では中国側は 4,752 品目の関税率

を 5 年以内に撤廃している。これらはチリの対中国輸出の 96.5%に相当する。両国はその後サービス分野

等の市場開放を補完協定という形で 2008 年に合意し 2010 年 8 月から発効している。投資分野について

は 2012 年 9 月に合意し、現在は議会の批准手続中である 32。

米国の場合と異なり、チリの対中国輸出全体の 8 割以上は銅を含む鉱物が占めている一方、農林水産品

の輸出割合は限定的だがその増加率は著しい。2008 年から中国はチリの農林水産品の最大輸出相手国とな

っている。中国との FTA が発効した 2006 年から 2013 年まで、チリの対中輸出額は 3.6 倍増加した一方

で、農林水産品は同じ時期に 7.7 倍以上増加した。その中でも輸出実績のなかった品目で近年になり輸出

が増えているものが多い。DIRECON の分析によれば、2012 年に中国に輸出された 506 品目の内、333品目は FTA 前には輸出実績がなかった品目であった。チリ政府はさらに、アボカド、ネクタリン、皮付き

クルミ及びレーズン等の産品の植物検疫に係る輸入許可を申請している 33。

なお、農林水産品分野ではないものの、木材関連の輸出では針葉樹の化学木材パルプ(HS コード 4703.11及び 4703.21)の輸出も盛んであり、2013 年には 8.5 億米ドル、129 万トンの輸出を記録した。

30 (Ministry of Foreign Affairs, The People’s Republic of China 2008) 31 (Ministry of Foreign Affairs, The People’s Republic of China 2014) 32 (DIRECON 2013) 33 (DIRECON 2013)

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表 48 チリの主な対中農林水産品輸出品目(百万米ドル)

HS 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

総輸出額 3,442 4,895 5,255 10,505 8,519 13,028 17,324 18,620 18,098 19,219

農林水産品の輸出額 210 293 338 400 495 597 581 855 1,083 1,423

0809 さくらんぼ(サワーチェリーを除く) 生鮮 0.9 0.1 1.7 8.2 19.6 12.4 41.7 106.1 208.7 286.8

4407 木材(縦にひき若しくは割り、平削りし又は丸はぎし

たもので、厚さが 6mm を超えるもの) 20.4 24.3 25.8 33.3 34.0 36.5 58.6 92.3 126.3 200.9

0806 ぶどう(生鮮のもの及び乾燥) 2.8 3.5 8.9 19.1 16.3 19.5 21.5 49.5 118.0 196.2

2301 肉、くず肉、魚又は甲殻類、水棲無脊椎動物の粉、

ミール及びペレット並びに獣脂かす 90.1 168.2 171.8 205.0 248.1 322.2 201.8 212.6 180.2 181.3

2204 ワイン及びぶどう搾汁 19.7 9.1 21.1 40.2 51.4 54.0 83.4 91.6 144.5 149.6

1212

海草その他の藻類、ローカストビーン、てん菜及び

さとうきび(生鮮のもの及び冷蔵し、冷凍し又は乾燥

したもの)

6.0 6.3 8.0 13.0 20.5 25.5 37.1 42.4 52.9 94.3

0303 魚(冷凍) 16.3 28.2 45.6 32.2 47.4 63.8 52.2 93.1 69.9 83.7

0203 豚の肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 5.8 12.6 28.0

0810 その他の果実(生鮮) 0.4 0.4 0.4 0.6 0.7 0.2 0.7 2.7 12.2 27.8

0206 食用のくず肉(牛、豚、羊、やぎ、馬、ろ馬、ら馬又

はヒニーのもので、生鮮、冷蔵又は冷凍) 0.5 0.2 0.3 1.0 0.3 0.2 0.1 3.6 14.5 26.0

出所)ITC

表 49 チリの主な対中農林水産品輸入品目(百万米ドル) HS 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

総輸入額 2,472 3,227 4,393 6,066 8,277 6,189 9,971 12,691 14,432 15,702

農林水産品の輸入額 22 26 34 57 89 63 101 172 181 238

4412 合板、ベニヤドパネ等の木材 1 2 4 6 9 1 6 14 22 26

1109 小麦グルテン 0 0 0 2 2 1 3 2 10 19

1604 魚(調製又は保存に適する処理をしたもの)、キャ

ビア及び魚卵から調製したキャビア代用物 0 0 0 0 1 3 7 38 23 18

1605 甲殻類、軟体動物及びその他の水棲無脊椎動物(調

製し又は保存に適する処理をしたものに限る) 0 0 0 0 1 0 6 11 13 15

1504 魚又は海棲哺乳動物の油脂及びその分別物 0 0 0 0 0 0 0 7 0 12

4418 木製建具及び建築用木工品(セルラーウッドパネ

ル、組合わせた寄せ木パネル及びこけら板を含む) 0 1 2 3 5 2 4 5 8 11

4411 繊維板(木材その他の木質の材料のもの、有機物質

により結合してあるかないかを問わない) 1 1 1 2 6 3 7 10 12 9

4419 木製の食卓用品及び台所用品 1 1 1 1 1 1 2 2 2 9

4421 その他の木製品 3 3 4 4 6 5 6 8 9 9

0713 乾燥した豆(さやを除いたものに限る) 1 0 0 0 2 1 0 2 5 8

出所)ITC.

58

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日本との貿易状況

日本との経済連携協定(EPA)は 2007 年 3 月に署名され、同年 9 月に発効した。従来からチリの主な

輸出品目は銅であり、対日輸出の約 6 割を占めている。協定発効により、両国貿易品目の 95%が即時撤廃

の対象となった。農林水産分野に限定すると、53%のチリ産輸出品目が関税の即時撤廃の対象となった 34。

主要な品目について詳しくみてみると、鮭鱒類の中ではトラウト及びギンザケは段階的な関税率撤廃の

対象となっている一方、アトランティックサーモンは対象外となっている。日本で生食用に供されるトラ

ウトはチリが世界最大の養殖国であり、日本は最大の輸出先相手国となっているが、近年では魚病 SRSの大量発生及び政府指導による強制水揚げによって生産量が減少している。この影響を受け、EPA の対象

外となっているアトランティックサーモンの輸入が増えている。世界的にみて鮭鱒の需要が増えており、

特に中国、ブラジル及びロシア等の新興国でその消費が著しく増加している。チリはノルウェーと並ぶ有

数の輸出国であることから、日系企業の中には、日本への安定供給と世界市場を取り込むために生産者の

立場を採り、チリの企業を買収した企業もある。.

林業分野では、加工されていない木材は EPA 締結前から特恵枠で一定量が無税で輸入されていたが、

EPA では関税率が撤廃された。紙パルプ用に使われる木材チップについては EPA 前から関税率がゼロで

あり、EPA の直接的な効果は限定的である。他方で、EPA 発効前の 2006 年と 2013 年の輸出実績を比べ

てみると、チリ産木材チップは約 1.7 倍伸びていることがわかる。チリ・中国間の貿易と比較してみると、

日本は木材チップを輸入し国内で製紙が行われる一方で、中国は木材チップに薬品処理を施した化学木材

パルプをチリから輸入している。木材についても、日本に比べて中国はチリから加工工程の進んだ半製品

を買う傾向にあるが、その原料となるユーカリは同じである。そのため、中国の輸入傾向によって木材チ

ップの原料でもあるユーカリの価格が変動する可能性が高い。なお、日本国内でも製造される合板は EPAの対象外となっている。

食肉について、日本側は関税割当を設定し、その枠内では優位な関税率を設定している。特に最も大き

い割当数量は豚肉であり 2011 年は 6 万トンであった。その他に鶏肉(5,500 トン)、牛肉(4,750 トン)

トマトピューレ(5,000 トン)等の割当数量が設けられている。DIRECON によれば、2011 年の割当数量

使用率は豚肉 54.4%、鶏肉 87.1%、牛肉(枝肉 0.8%、くず肉 45.8%)であった 35。チリ産豚肉の多くは

アジア諸国に輸出されており、その中で日本が最大の輸出先である一方で、中国及び韓国の場合は FTAにより輸入関税が撤廃されていることも影響し両国への輸出が近年特に増えている。とりわけ日本向けに

加工輸出されているロースや肩ロース等のプレミアムカットは韓国や中国にも輸出され始めている。チリ

は国内需要の約 18%を米国等の輸入品に頼っている半面、国内生産量の約 49%をアジア諸国に輸出して

いる現状である 36。他方で、チリは日本産の牛肉、鶏肉、豚肉、トマトペースト及びトマトジュースに対

して割当量を設定しているが、2011 年にはその使用率はゼロであった。

ワインは EPA 締結後大きく伸長した品目の一つである。特にバルクワインは関税率ゼロとなっており、

他国産に比べて価格競争力がある(バルクワインの一般関税率は 45 円/リットルである)。現在チリはバル

クワインの第一の供給国である。また日本にボトルワインを輸出する上位 5 カ国(フランス、イタリア、

スペイン、アメリカ、チリ)の中でチリだけが日本と EPA を締結しており、その恩恵を受け輸出量を伸

ばしている。

また、2014 年 2 月からチリ産さくらんぼに係る検疫措置が変更になり、システムアプローチを適用し

た指定生産地の生果実の輸入が認められた 37。

34 (ODEPA 2013b) 35 (DIRECON 2012) 36 (ASPROCER 2014) 37 (農林水産省 2014)

59

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他方で、日本からチリに輸出されている農林水産品の内、種子が最も大きな割合を占めており、特にブ

ロッコリー、タマネギやニンジンの種子が輸出されている 38。

表 50 チリの主な対日農林水産品輸出品目(百万米ドル)

HS 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

総輸出額 3,907 5,011 6,479 7,515 6,339 5,102 7,719 9,119 8,335 7,661

農林水産品の輸出額 1,331 1,488 1,551 1,531 1,712 1,683 1,883 2,443 2,331 1,985

0303 魚(冷凍) 356 436 435 406 484 564 591 780 686 450

0304 魚のフィレその他の魚肉(生鮮、冷蔵し又は冷凍) 202 196 254 228 256 257 309 441 421 375

4401 のこくず及び木くず、薪材並びにチップ状又は小片状の木

材 137 158 184 220 321 270 310 371 368 313

0203 豚の肉(生鮮、冷蔵又は冷凍) 153 186 175 185 119 123 137 190 173 165

2204 ワイン及びぶどう搾汁 33 29 30 41 55 65 81 100 127 156

4407 木材(縦にひき若しくは割り、平削りし又は丸はぎしたもの

で、厚さが 6mm を超えるもの) 74 65 70 76 81 39 60 89 81 70

0308

水棲無脊椎動物(生きているもの、生鮮、冷蔵、冷凍、乾

燥、塩蔵、くん製又は塩水漬けしたもの、甲殻類及び軟体

動物を除く)並びにその粉、ミール及びペレット

0 0 0 0 0 0 0 0 53 59

0305 魚(乾燥、塩蔵、くん製又は塩水漬けしたもの)並びにその粉、

ミール及びペレット 39 49 51 42 34 39 38 56 59 55

2301 肉、くず肉、魚又は甲殻類、水棲無脊椎動物の粉、ミール

及びペレット並びに獣脂かす 69 64 83 74 57 69 101 63 52 44

0806 ぶどう(生鮮のもの及び乾燥) 11 13 10 10 10 10 15 18 26 34

出所)ITC

表 51 チリの主な対日農林水産品輸入品目(百万米ドル) HS 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

総輸入額 991 1,270 1,465 1,983 3,210 1,594 3,392 2,957 2,596 2,495

農林水産品の輸入額 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2

1209 播種用の種、果実及び胞子 0.2 0.6 0.3 0.4 0.3 0.3 0.4 0.6 0.7 1.2

2106 調製食料品(他の項に該当するものを除く) 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.1 0.3 0.4 0.4 0.3

2101 コーヒー、茶又はマテのエキス、エッセンス及び濃縮物

並びにこれらをもととした調製品 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.2

1704 砂糖菓子(ホワイトチョコレートを含む、ココアを含有し

ないもの) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.1

出所)ITC

38 (DIRECON 2012)

60

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農産物の輸出促進政策 2.3.3

チリは国内人口が少ないため、産業発展は輸出に負う所が大きい。チリは伝統的に銅の輸出国であるが、

農林水産品の輸出も近年盛んに行われ、その輸出量及び金額は増加傾向にある。また、チリ全体の農林産

品の貿易バランスは輸出超過であり、チリにとって農林水産業は重要な外貨獲得及び雇用創出源である。

1960 年代には輸入代替産業育成政策から、輸出促進による産業育成政策へと全面的に舵を切った。この

時期にチリ経済開発公社(CORFO)は新しい輸出産業育成のために、水産業セクターでは漁業振興研究

所(IFOP)を設立、また園芸作物では「果物開発計画」を策定、輸出相手国の市場や検疫条件の調査、

国内の栽培適地の調査、米国からの技術移転、そして包装・保管・輸送施設等への公共投資を行っている。

チリは1970年に史上初の選挙による社会主義政権を誕生させて世界の注目を集めたが、急速な農地改革、

企業国有化、さらに米国との経済関係断絶と米国 CIA による政治的工作等により経済が失速し、1973 年

に米国の支援を受けたピノチェトによる軍事革命に至る。ピノチェト政権下で当初導入された極端な自由

主義施策は経済の大混乱を招いた。しかし、その後政策を修正しながら、積極的な外資の参入政策と輸出

志向型の産業育成を図った。1974 年には輸出振興局(PROCHILE)が設立されている。農業の分野では、

チリは国際競争力のない穀物等に対する政府補助の削減や撤廃を進め、これらは輸入の拡大によって補う

こととし、一方でチリの比較優位を生かした収益率の高い農産物である園芸作物と畜産へ生産をシフトさ

せ、国際競争力を高めることとした。1970 年代から 1980 年代にかけて、水産業や林業の分野では日本企

業を含む外資の導入によって産業が活性化する。また米国の USAID はこの時期、中南米諸国の「非伝統

的産品 39」の農業開発を積極的に手掛けるようになり、チリ政府の様々な施策とも呼応して、米国向けの

果実やその他の園芸作物輸出が大幅に増えることになる。

チリは 1980 年代の中南米諸国で起きた債務危機をいち早く乗り越え、1990 年に平和裏に民政に移行し

た。同時にチリは、「開かれた地域主義」を標榜して中南米諸国の中でもかなり早い段階で貿易の自由化を

図るようになった。WTO の原加盟国として積極的に活動するほか、1994 年に APEC に参加、1996 年に

南米南部共同市場(メルコスール)の準加盟国となった。また米国、EU、カナダ、ニュージーランド、

韓国、中国、メキシコ、その他中南米諸国などと、積極的に FTA 等を締結している。これらの貿易協定を

通じて、チリは農林水産物の分野では果物・食肉、木材・チップ・パルプ、サケ・マス類などの重要品目

に関して、主要輸出国に対して検疫条件の合意や関税の減免などによる規制の撤廃を求めてきた。逆に国

内農業については、最も弱い分野である小麦とテンサイ糖に対しては保護的な政策を多少残しながらも、

これらに次いで弱い分野であった植物油や乳畜産業などに対してはセーフガードなど一時的な措置で対応

しつつ全般的には保護的政策を削減し、競争力のある分野の発展拡大を進めている。

チリは 1990 年代後半から 2000 年にかけて銅価格の低迷や輸出の伸び悩み、水産資源の大幅な減少など

に直面した。しかし新規市場の開拓を通じて果実輸出の増加と食肉産業の急成長を達成し、また水産資源

保全策の成果も徐々に現れ、同時に訪れた中国需要急増による銅や鉱物資源価格の高騰により、経済は

2000 年代には好調に転じており、中南米の経済をリードする国となっている。チリは輸出促進のための組

織については中南米の中でもリーダーシップをとったかたちとなり、周辺諸国でも PROCHILE の体制を

見習って、コロンビアで PROCOLOMBIA、ペルーで PROMPERU、アルゼンチンで EXPORTARG 等が

設立されている。

39 一般に、この地域の従来の輸出作物であったコーヒーや綿、砂糖、バナナ等を「伝統的産品」とし、生鮮果物や野

菜、ナッツ類等を「非伝統的産品」とする。ただし、国によって定義は異なる。

61

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PROCHILE

外務省の一部局である輸出振興局(PROCHILE)が、全ての製品・品目の輸出促進を担当する組織で

あるが、輸出商材の中心をなす農産物が特に活動の中心的課題となっている。

PROCHILE は 1974 年の設立当初は経済振興観光省管轄下にあったが、1979 年に外務省の国際経済関

係総局(DIRECON)の下に移された。これまで、半官半民にする、あるいは独立行政法人化等の議論が

度々行われてきたが、現在までのところ、外務省の一部局との位置づけを維持している。

なお、DIRECON は組織として外務省に属する部局であるが、予算組みは外務省本体とは別枠となって

おり、財務省と直接交渉を行うことができ、独自の事業実施や管理体制、人事権を持つ特殊な組織である。

さらに PROCHILE の活動資金としては、DIRECON から配分される予算のほかに、外務省の DIRECON以外の部局、農業省等他の省庁から配分される予算等も有する。中でも、農業省から拠出される金額が最

も大きい。

農業省

農業省も、輸出促進活動に大きく関係している。

まず、農業省の輸出促進活動予算の大部分は、PROCHILE に割り当てられる。この予算を活用して、

PROCHILE が独自に農林水産物・食品輸出促進活動を行う。

また、農業省の農業政策調査庁(ODEPA)には、国際関係部があり、農産物の国際関係、貿易協定、

国際的な農業交渉および農産物の外国貿易を管轄しており、国際交渉の他にも、農産物輸出促進のための

基礎的な調査活動等に携わっている。

なお、この ODEPA の下に、米国、メキシコ、アルゼンチン、日本、EU、中国、インド、ブラジル、

カナダの主要 9 国/地域に農業省から在外公館に派遣される農務アタッシェが置かれており、現地で数名の

現地スタッフを雇用して、農務部を形成している。一般に多くの国では農務部は貿易交渉や検疫問題等を

担当するのみであるが、チリの農務部は輸出促進活動にも一部携わっている。ただし、これら農務部の活

動資金も、農業省から直接割り当てられるのではなく、PROCHILE を通して送金されている。

さらに、農業省には農業イノベーション基金(FIA)が設置されている。同基金は農業の技術革新や普

及活動、技術協力等に用いることができるが、後述の果実輸出促進のための品目別委員会等が同基金から

支援を得ているなど、輸出促進目的で活用することも出来る。

また、農業省の管轄下にはチリ産食品の輸出拡大を通じた産業発展を推進することを目的として、2006年に「チリ農産品立国審議会(Consejo Chile Potencia Alimentaria)」が設置された。同審議会は DIRECON、

PROCHILE、後述の CORFO 等を含む関係政府機関及び主要な業界団体の代表ら 30 名から構成され、海

外市場アクセス拡大や企業競争力向上等の戦略を策定し、各機関/団体の毎年の行動計画について調整して

いた。同審議会の一つの成果として 2009 年に発表された「食品無害性国家政策(Política Nacional de Inocuidad de los Alimentos)」があり、さらに ACHIPIA の設立構想が挙げられる(詳述は 2.2.3 参照)。

経済振興観光省

水産業については、経済振興観光省傘下の漁業庁(SERNAPESCA)がこれを担っているが、水産分野

の政策の立案・策定・監督、及び水産分野の詳細な公式統計の整備、中小規模漁業者への支援、規制の監

督、輸出水産物の品質安全管理などを主要業務としており、直接の輸出促進活動は行っていない。水産物

の輸出促進活動は PROCHILE に一任されている。

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また、経済振興観光省傘下のチリ経済開発公社(CORFO)は、1939 年に設立されたチリの産業発展を

支える、企業育成とイノベーション促進のための政策実施機関である。経済振興観光大臣の他に、外務省、

財務省、農業省、企画省等の担当大臣らが参加する理事会の下で運営されており、資金供与、企業育成、

市場調査、研究施設設立や技術交流の推進等の幅広い分野で活動を展開している。CORFO 自身は海外市

場での輸出促進活動を手掛けていないが、市場の需要調査や輸出のための新しい技術開発等、さまざまな

局面で企業や団体は CORFO の提供するファンドを利用することが出来る。例えばシーフード・チリ社は

チリ大学等の協力を得て、米国における養殖カレイの需要調査を行った際、調査費用の半額を CORFO か

ら得た 40。CORFO は、ファンドの他に、輸出ローンや市場調査等のサービスも提供している。

民間機構

また有力な輸出産品、例えば果実、ワイン、サーモン、食肉等については輸出業者や生産者らの加盟す

る輸出促進のための協会組織が設立されている。主な団体を以下に挙げた。

これら協会への加盟は義務ではなく、任意参加であるが、有力な協会はいずれも会員企業による輸出が

全体の 90%以上を占める形となっており、組織率は非常に高い。これらの協会は、PROCHILE や CORFOから予算補助や事業委託を受けているところも多く、また海外現地での商談等の活動は PROCHILE の海

外事務所に協力を仰ぐケースもしばしばみられ、協会と政府機関の関係は緊密である。

生鮮果物・野菜・ナッツ - チリ果物・野菜輸出業者協会(ASOEX) - チリアボカド委員会(Chilean Hass Avocad Committee) - チリクルミ生産者・輸出業者委員会(Chilean Walnut Producers and Exporters’

Association) - チリ果物生産者連合(FEDEFRUTA)

畜産・食肉 - チリ食肉加工冷蔵協会(FAENACAR) - チリ鶏肉生産者協会(APA) - チリ豚肉生産貿易協会(ASPROCER) - 全国加工食肉生産協会(ANIC)

漁業・水産物 - 全国漁業協会(SONAPESCA) - チリ鮭マス協会(SALMONCHILE)

ワイン - ワイン・オブ・チリ(Wines of Chile/Vinos de Chile) - チリ高級輸出ワイン協会(Asociacion de Productores de Vinos Finos de

Exportacion) 林業

- チリ木材協会(CORMA)

輸出促進に向けた官民連携

第 2 バチェレ政権は、農林水産品の輸出促進を推し進めるために、農業省が主導する「農産品輸出官民

審議会(Consejo Público-Privado de Exportadores de Alimentos)」を 2014 年 11 月に発足させた。同審議

会ではチリ産農産品の輸出促進に力点が置かれ、官民の緊密な連携、及び政策策定のための協議の場とし

40 (フィッシャー 2003)

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て今後定期的に開催されるとみられる。具体的に協議される内容としては輸出プロモーション基金の創設、

衛生的非常事態の際の対応、電子衛生証明書、情報の標準化、食品の無害化、海外におけるプロモーショ

ン活動、小規模生産者の取り込み、SAG の近代化などである。

2014 年 11 月 13 日に第一回会合が行われ、政府側からは農業省、PROCHILE 及び ODEPA が参加し、

民間側からは SNA、SOFOFA、ASOEX、FEDEFRUTA、APA、ASPROCER、Vinos de Chile、SALMONCHILE、EXPORLAC、FAENACAR、SONAPESCA、食品工業協会(CHILEALIMENTOS)、オリーブオイル生産者協会(CHILEOLIVA)、ナッツ生産輸出業者協会(CHILENUT)及び軟体動物養

殖協会(AMICHILE)が参加した。

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2.4 農業・食品分野を含む投資促進政策の動向 41

投資促進政策の概況 2.4.1

チリは国際的にみて外国投資の受け入れの公平性、透明性が高いとされており、政府も積極的な海外投

資誘致を図ってきた。基本的には内外非差別を原則としている。500 万米ドル以上 42の外国直接投資は

1974 年に制定された外国投資法(DL600)、1~500 万米ドルの場合はチリ中央銀行外為規則第 14 章に則

ることとされている。特に DL600 において投資家はチリ政府と契約を交わす形式とすることで透明性が

担保され、これにより積極的な外国投資の呼び込みに成功してきた。ただし、チリではバチェレ政権 2 期

目の公約によって、2014 年 10 月に次節(2.5 節)に示す税制改革法が施行となり、それに基づいて 2016年 1 月 1 日をもって DL600 が廃止されることになった。政府は 2014 年 9 月に、DL600 に替わる新しい

制度について検討するため、専門委員会を発足させたが、政府への提案提出は 2015 年初頭になる見込み

である。

DL600 に係る外国直接投資の受け入れを管轄し、政府を代表して契約を結ぶのが、外国投資委員会(CIE)

である。CIE は経済振興観光大臣、財務大臣、外務大臣、計画協力大臣、中央銀行総裁によって構成され、

必要に応じてほかの分野の大臣も参加し、大統領に指名された副大統領がこれを監督する。CIE はチリが

海外直接投資を呼び込む魅力的な国であることを広く知らしめるために、外国投資家に対する法令・規制

等の情報提供や、海外での投資促進活動等も一手に担っている。また、海外直接投資に係る統計情報の収

集、公開も役割の一つである。

チリの外国投資促進には、前述の外国投資委員会のほかに、2.3.3 節に挙げた CORFO と PROCHILEも積極的な役割を果たしてきた。経済開発公社(CORFO)は 2000 年から「インベスト・チレ」という投

資促進プログラムを開始し、経済成長力を強化し、生産や輸出基盤の多様化を図る目的で、投資振興活動

や投資誘致を手掛けてきた。ただし、同プログラムは 2012 年に CIE に移管された。他に、たとえば「ス

タートアップ・チリ」というイノベーション促進のための革新的事業立ち上げを国内外から誘致するプロ

グラムなども実施している。PROCHILE は外務省傘下で在外公館等に多く出先機関を持ち、これまでも

海外における投資促進活動を担ってきたが、2014 年には CIE と海外における投資促進活動に係る契約を

締結し、CIE のさまざまな活動に対して緊密な体制で支援を行えるようになった 43。

農林水産業・食品分野に係る投資促進 2.4.2

CIE の投資誘致活動の主要 5 分野は、鉱業、エネルギー、インフラ、観光、食品産業となっている。こ

のうち、食品産業の主要な構成部門として農業や漁業が含まれている。また、そのほかバイオテクノロジ

ー分野もその他の注目分野としており、これに農業等が含まれている。

実際の投資では、鉱業が最も大きく 2009~2013 年では 44.9%であり、農業・漁業分野は 0.2%にすぎ

ない。2009~2013 年の投資拠出国としては、日本は 6 位で 2.9%を占め、ほとんどが鉱業分野である。1974~2012 年の累計では、農林水産業関連では 55 億米ドルの受け入れがあり、日本は 5 位、5.1%を占める。

41 海外投融資情報財団 2012「チリ投資セミナー:日本・チリ経済連携協定を超えて――チリにおける投資機会―」https://www.joi.or.jp/modules/seminarreport/index.php?page=article&storyid=201 42 技術や資本財持込プロジェクトでの最低投資額は 250 万ドル

43 CIE 2014 年 8 月 27 日付記事 DIRECON-ProChile and CIEChile alliance seeks to attract more foreign investment to Chile http://www.ciechile.gob.cl/en/alianza-direcon-prochile-y-cie-busca-atraer-mas-inversiones-extranjeras-a-nuestro-pais/

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農林水産関連投資の年ごとの状況を見てみると、増減がみられるが、食品・飲料・たばこ関連の投資が

最も多い。林業はこれに次いで、特に 2007 年には 1 億ドルを超える投資が記録されている。過去 10 年の

投資推移を見てみると、2012 年には 5 億ドルの投資があり突出している。CIE の統計によれば、そのほ

とんどはアルゼンチンからの投資である。同年にはアルゼンチン系食品企業の Arcor 社、Molinos Río de la Plata 社等の事業拡大及び企業買収等の動きがみられたため、投資が増えたと思われる。

図 9 チリのセクター別外国直接投資受け入れシェア(DL600 のみ、2009~2013、%)

計 1,008 億米ドル

出所)CIE

出所)CIE

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

食品・飲料・たばこ

漁業・養殖

林業

農畜産業

図 10 農林水産分野における投資の推移(百万米ドル)

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食品分野(農業含む)44

CIE は、食品分野では、特に以下の分野に投資機会があるとしている。 オリーブ:国際的な需要増を背景に、チリの生産が増加しており、加工の過程の廃棄物につ

いての有効利用に対する投資。 果実生産:国際的な需要増を背景に、特にクルミ、さくらんぼ、ベリー類の輸出向け果実生

産分野、また加工向けの果実生産分野、労働コストの増加を背景に、果実生産者向けの機械

化収穫サービスの各分野への投資。 ワイン:特にニッチ市場を狙ったスペシャリティーワインの生産への投資。オーガニックワ

イン。ワイン絞りかすを利用した「機能性食品」 肉牛:繁殖牛の育成部門への投資。 酪農:牛乳需要の拡大を背景に、酪農部門への投資。 養殖:国際的な需要増等を背景に、新しい魚種(ブリ、グチ、レッドキングクリップ、シー

バス)の養殖への投資。養殖魚の加工施設への投資。サーモン養殖企業との合弁事業。養殖

のエサ生産分野への投資。 農水産業投入物:果実生産者への支援サービス。高品質果実の輸出物流を支えるコンテナ。

ラム肉生産のための移動式屠畜設備。養殖のための機器等。 加工食品:新製品開発のためのパイロットプラント。チリの農産業の副産物の活用。

土地所有

チリでは、一般的に外国人あるいは外資系企業の土地所有に関する制限はないが、国境線から 10 キロ

以内と海岸線から 5 キロ以内の国有地について制限がある。

チリの外国投資に係る課題 2.4.3

チリへの日本からの投資に係る課題としては、主に以下が挙げられている 45。 租税条約が締結されておらず、送金への追加税課税や二重課税等、課税負担が大きい。 労働法が過度に被雇用者を優遇しており、負担が大きい。また、下請け企業の雇用の給与未

払い等についても発注者が責任を負わなければならない。 港湾費が非常に高い。また、日本が検疫証明を求めないウッドチップ等の製品に対しても植

物検疫が義務付けられている。(ウッドチップ業者) 環境規制・許認可において、一貫性や公平性を欠くことがある。また、植林などで環境団体

が無責任な広報活動を行って支障が出ることがある。 土地所有について、権利関係が明確化されておらず、不法行為の取り締まりが不足している。 「先住民固有の土地」について、先住民の判定があいまいなどの問題があるほか、植林地な

どでは不法占拠が頻発し、また改善の兆しがない。 法制度の未整備のために、司法機関にゆだねられる割合が大きく、時間がかかる。

44 CIE ウェブサイト http://www.ciechile.gob.cl/ CIE, 2014, Invest in Chile, Opportunitis in Food Industry http://www.ciechile.gob.cl/wp-content/uploads/2014/10/AGRO.pdf 45 貿易・投資円滑化ビジネス協議会「各国・地域の貿易・投資上の問題点と要望 「2014 年版」」

http://www.jmcti.org/cgibin/list_cat.cgi?code=404 (日智商工会議所 2014)

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2.5 税制改革及び租税条約の動向

税制改革 2.5.1

ピニェラ前政権の際、教育制度の改革(特に非営利化と無償化)を求めた学生運動が盛んに行われ、こ

れに労働組合が与し、チリ民政化以降最も大きな社会運動の一つへと発展した。デモと警察の衝突事件が

起き死傷者も出て、ピニェラ政権への支持率が大きく落ちた。国民の教育問題に対する関心が高く、また

ピニェラ政権の対応に対する不満もあり、2014 年大統領選挙の際、バチェレ政権は教育問題に対する公約

を次期政権の一つの柱として据えた。

バチェレ政権 2 期目の中心的な公約の一つである教育改革では、高等教育(6 年間)の無償化と公立大

学の新設が謳われている。これらの政策を遂行するための予算確保として、バチェレ政権は税制改革を実

施した。上下院で 5 カ月にわたる審議が行われ、多くの機関や団体からの声明が出されるなど、議論が難

航した。その結果、2014 年 9 月 10 日付で同改革法案は通過し、同月 26 日に大統領が署名、2014 年 10月 1 日から施行となった。税制改革法では今後 4 年間で約 83 億ドルの税収が見込まれている。

出所)JETRO

税制改革法の要点: 法人税

現行の 20%から段階的に引き上げ最終的には 25%となるみなし所得課税制度か、最終的に 27%となる現行税制のいずれかの税制を選択することになる。

個人所得税 最高税率が 35%に引き下げられる。個人株主が,みなし所得税制を採用する企業の株を保有する場合,企業

はその保有者の代わりに税を支払うことが可能となる。現行税制を採用する場合,保有者が得た個人的な収入と配当金引き出しにより税を支払うが,総合補完税から 65%を控除できる。(個人所得税または総合補完税の最高税率は 40%であり,個人の収入が課税基準となっている。)

貯蓄及び投資へのインセンティブ 再投資収益基金(FUT:ある種の免税措置)が廃止される代わりに、配当金の引き出しに関して法人税の 65%

が総合補完税の控除対象となる。 中小企業に対する配慮

現行の3種の税制が1種に統一される。2015 年以降はキャッシュフローだけで税を支払うが,2015 年以降この税制を利用する企業は,付加価値税の支払いに 60 日の猶予期間が設けられる。

みなし所得税制度 個人企業家等のみで構成される会社もみなし所得による課税制度を選択できる。運輸分野,農業分野,鉱業

分野の各企業における,同制度選択が可能となるための年間売上高が引き下げられた。(一定程度の年間売上高のある運輸分野,農業分野,鉱業分野の企業のみに適応可能な税制である。)

不動産に対する課税 特別免税の基準となる建設費の上限が引き下げられるが,免税上限額は維持される。

環境税 50MW 以上の電力を消費する固定発生源に対し,排出税が適用される。2015 年~2017 年の間に段階を追

って,ディーセルエンジン普通自動車及び中型自動車に対し,新車として最初の販売時に課税する。 その他

タバコ税について,従価税を 30%に引き下げ,特定税を 8 倍まで上昇させる(タバコ1箱あたりの価格は現行の 1,500 ペソから 2,060 ペソへと 37%値上げ)。アルコール税について,ワインとビールに 20.5%,蒸留物に 31.5%を適用する。甘味料入り炭酸飲料は 18%に引き上げられ、甘味料を含まない飲料は現行の 13%から 10%に引き下げられる。

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同改革法に対して、農林水産関連団体から様々なコメントが発表され、その多くは実質的な増税に対す

る批判的な立場であった。全国農業協会(SNA)は既にバチェレ大統領の税制改革は農業、特に零細及び

中小規模の生産者にとって大きな被害をもたらすとして、その改革の変更を求めていた。排出税について

も、バイオマスをエネルギー源とする農業企業にとって、再生可能エネルギーを使用しても課税されるこ

とは、国のエネルギー政策目標と相反するとして、その修正を求めた。

さらに、ワイン業界はアルコール税の引き上げに対しても反対の立場を示し、当初 24%まで引き上げら

れる予定だった同税が、同協会は政府及び政治家に働き掛けを行い、最終的には 20.5%になり、引き上げ

幅が小さくなった。果実生産者連盟(FEDEFRUTA)は今次改革が中小企業にとって好影響を与えると評

価しつつも、同改革法の中の FUT の廃止に関する懸念を示し、再投資に対する税制優遇がなくなれば、

農業部門の投資意欲が削がれる旨指摘している。

税制改革法案が通過した後、チリ輸出業者協会(ASOEX)は増税の分は輸出される品目の価格に転嫁

されるだろうとの見解を示し、これはチリの輸出競争力に影響を与える可能性を指摘しつつ、税制改革法

自体はチリの中小企業及びチリの教育に好影響を与えるだろうと述べている。また、もともと清涼飲料に

課されるノンアルコール飲料税(IABA)の廃止を訴えていた清涼飲料業界は、今次の増税は大きな社会

的影響を与えると指摘し、炭酸飲料を多く消費する低所得層が最も影響を受けるだろうとコメントしてい

る。

このように、税制改革に対する各産業からの意見は否定的な意見が多く見られたが、税制改革法が通過

したことを評価する意見もあり、特に将来の予見性が示されたことに対する安堵感が産業界に広がったよ

うである。

また、今次調査で日系企業に対して行ったヒアリングでは、複数の企業は FUT 及び DL600 の廃止また

は撤廃に対する懸念が示された一方で、約半年にわたり行われた議論にようやく決着がつき、将来の予見

性が示されたことに対する安心感もあり、チリの産業界と同様の反応があった。

租税条約 2.5.2

銅をはじめとする分野に多くの外国系企業がチリに進出しており、同国で得た所得を本国に送金する際、

所得源泉地国(チリ)のみならず居住地国(外国企業の本国)でも同じく課税される状況が生じる。この

ような状態は同じ所得に対する二重の課税であり、二重課税を回避、または脱税及び租税回避に対応する

ためには、両国間(所得源泉地国及び居住地国)の間で「租税に関する二重課税の回避のための条約(租

税条約)」が取り交わされる。同条約では、二重課税の回避だけではなく、投資先国における投資所得(配

当、利子及び使用料)に対する課税の軽減も取り決められる。条約の締結は二重課税の回避を通じて、相

互の投資が促進されることが目的とされる。

チリは投資促進の一つのツールとして、積極的に多く国や地域と租税条約を締結している。 表 52 チリの租税条約締結状況

発効済み 署名済み

豪州 韓国 フランス ニュージーランド 英国 オーストリア

ベルギー クロアチア アイルランド パラグアイ ロシア 米国

ブラジル デンマーク マレーシア ペルー スウェーデン 南アフリカ

カナダ エクアドル メキシコ ポーランド スイス

コロンビア スペイン ノルウェー ポルトガル タイ

出所)SII

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チリに進出している日本企業の中には、両国の投資環境を改善するためには、日本とチリ間の租税条約

の締結を望む声が聞かれる。2010 年に日智商工会議所と JETRO が在チリの日本企業向けに共同で行った

アンケート調査では 7 割の企業が租税条約の締結を望んでいると答え 46、2014 年に行われた同調査でも

早期締結を要望するコメントが寄せられている 47。

租税条約の交渉に向けた接触は既に両国間で始められており、今後交渉が始められる可能性が高い。

46 (JETRO 2010) 47 (日智商工会議所 2014)

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