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40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:大須賀慶悟 1 . AVM に対するエタノール塞栓療法 大阪大学大学院医学系研究科 放射線医学講座 大須賀慶悟 はじめに 四肢・軟部の動静脈奇形(AVM)は,年齢とともに進 行しやすく,シャント血流増加に伴い,疼痛・腫脹・ 潰瘍・出血・高拍出性心不全などの症状に至る。深部 組織に浸潤して切除困難なことも多く,低侵襲的な塞 栓療法が第一選択になる機会が増えつつある。塞栓療 法では,血管構築と血行動態に応じた塞栓物質の選択 が重要である。特に作用の強い無水エタノール(以下, エタノール)は,有効で再発率も低いとされる一方,重 篤な合併症の報告もあり,その使用には十分な知識と 技術・経験が求められる 12。本稿では,AVM のエタ ノール塞栓療法の実際について述べる。 塞栓療法の適応 症状軽微で変化に乏しい間は保存的に観察し,疼痛・ 機能障害や増大傾向を示す場合に治療を検討する。塞 栓療法はしばしば反復を要するため,表在性の限局性 病変では一期的な根治切除を勧める場合もある。切除 適否は,術創や術後の機能障害の兼ね合いも含めて形 成外科や整形外科と協議を行う。深在性の切除困難例 では塞栓術が優先される。また,止血困難な出血時は, 緊急塞栓術が必要になる。 エタノールの特徴 タンパク変性や細胞固定作用を有するエタノールが 血管壁に接触すると,障害を受けた内皮細胞が脱落す る。内皮の脱落した血管腔では血栓が形成され閉塞に いたる。エタノールによる局所効果は注入速度によっ て異なり,急速注入(15 /sec)では,局所組織毒性 が強く,血管周囲の壊死,血管攣縮,内膜障害などを もたらす。一方,緩徐な注入(0.1 /sec)では,主に破 壊赤血球による sludge 形成による塞栓となる 3。エタ 四肢軟部血管奇形 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ノールは,中枢神経毒性,低血糖,横紋筋融解,溶血, 腎毒性,循環不全など全身副作用もあり,塞栓療法に おいては全身管理を要する。 禁 忌 肝癌に対する経皮的エタノール注入療法用の市販薬 の無水エタノール注フソー(扶桑薬品工業)の添付文書 によると,絶対禁忌は,エタノール過敏症,原則禁忌 は,重篤な肝障害(総ビリルビン値 3 /㎗以上),重篤 な出血傾向とある。 AVM に対する治療上は,重要な神 経が隣接する部位,流出静脈の拡張が著明でエタノー ルや血栓の流出制御が困難な場合など,エタノールの 投与は慎重にすべきである。 エタノール塞栓療法 エタノールは,血流の早い状態では直ちに流れ去り, 広い血管腔では希釈されるなど,その作用を十分発揮 できない。動静脈短絡部(nidus)の血管内皮に高濃度 のエタノールを十分接触させるよう,投与経路や血流 コントロールを最適化すべきである。注入時の疼痛は 非常に強く,全身麻酔が必要である。 血流コントロールの手段として,用手圧迫・ターニ ケット駆血・バルーン閉塞などがある。但し,血流を 完全に遮断するとエタノールが近位側の正常動脈枝に 溢流する恐れがあるため,正常動脈枝までの十分な距 離が確保できない場合は,静脈側への順行性血流を少 し残すぐらいがよい。実際にエタノールを注入する前 に,試験造影を行い,造影剤の挙動をよく観察し,必 要注入量を推測する。圧迫や駆血の解除時に高濃度の エタノールや大量の血栓が一気に体循環に流出する危 険もあるため,血流コントロールは定期的に解除する 必要がある。 また,エタノールは X 線透視下での視認性がないた Ethanol Embolotherapy for Arteriovenous Malformations Department of Diagnostic and Interventional Radiology, Osaka University Graduate School of Medicine Keigo Osuga Arteriovenous malformation, Embolization, Ethanol Key words 8383

1.AVMに対するエタノール塞栓療法Ethanol Embolotherapy for Arteriovenous Malformations Department of Diagnostic and Interventional Radiology, Osaka University Graduate School

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Page 1: 1.AVMに対するエタノール塞栓療法Ethanol Embolotherapy for Arteriovenous Malformations Department of Diagnostic and Interventional Radiology, Osaka University Graduate School

第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:大須賀慶悟

1 . AVMに対するエタノール塞栓療法大阪大学大学院医学系研究科 放射線医学講座

大須賀慶悟

はじめに

 四肢・軟部の動静脈奇形(AVM)は,年齢とともに進行しやすく,シャント血流増加に伴い,疼痛・腫脹・潰瘍・出血・高拍出性心不全などの症状に至る。深部組織に浸潤して切除困難なことも多く,低侵襲的な塞栓療法が第一選択になる機会が増えつつある。塞栓療法では,血管構築と血行動態に応じた塞栓物質の選択が重要である。特に作用の強い無水エタノール(以下,エタノール)は,有効で再発率も低いとされる一方,重篤な合併症の報告もあり,その使用には十分な知識と技術・経験が求められる1,2)。本稿では,AVMのエタノール塞栓療法の実際について述べる。

塞栓療法の適応

 症状軽微で変化に乏しい間は保存的に観察し,疼痛・機能障害や増大傾向を示す場合に治療を検討する。塞栓療法はしばしば反復を要するため,表在性の限局性病変では一期的な根治切除を勧める場合もある。切除適否は,術創や術後の機能障害の兼ね合いも含めて形成外科や整形外科と協議を行う。深在性の切除困難例では塞栓術が優先される。また,止血困難な出血時は,緊急塞栓術が必要になる。

エタノールの特徴

 タンパク変性や細胞固定作用を有するエタノールが血管壁に接触すると,障害を受けた内皮細胞が脱落する。内皮の脱落した血管腔では血栓が形成され閉塞にいたる。エタノールによる局所効果は注入速度によって異なり,急速注入(1~5㏄/sec)では,局所組織毒性が強く,血管周囲の壊死,血管攣縮,内膜障害などをもたらす。一方,緩徐な注入(0.1㏄/sec)では,主に破壊赤血球によるsludge形成による塞栓となる3)。エタ

四肢軟部血管奇形‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第40回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

ノールは,中枢神経毒性,低血糖,横紋筋融解,溶血,腎毒性,循環不全など全身副作用もあり,塞栓療法においては全身管理を要する。

禁 忌

 肝癌に対する経皮的エタノール注入療法用の市販薬の無水エタノール注フソー(扶桑薬品工業)の添付文書によると,絶対禁忌は,エタノール過敏症,原則禁忌は,重篤な肝障害(総ビリルビン値3㎎/㎗以上),重篤な出血傾向とある。AVMに対する治療上は,重要な神経が隣接する部位,流出静脈の拡張が著明でエタノールや血栓の流出制御が困難な場合など,エタノールの投与は慎重にすべきである。

エタノール塞栓療法

 エタノールは,血流の早い状態では直ちに流れ去り,広い血管腔では希釈されるなど,その作用を十分発揮できない。動静脈短絡部(nidus)の血管内皮に高濃度のエタノールを十分接触させるよう,投与経路や血流コントロールを最適化すべきである。注入時の疼痛は非常に強く,全身麻酔が必要である。 血流コントロールの手段として,用手圧迫・ターニケット駆血・バルーン閉塞などがある。但し,血流を完全に遮断するとエタノールが近位側の正常動脈枝に溢流する恐れがあるため,正常動脈枝までの十分な距離が確保できない場合は,静脈側への順行性血流を少し残すぐらいがよい。実際にエタノールを注入する前に,試験造影を行い,造影剤の挙動をよく観察し,必要注入量を推測する。圧迫や駆血の解除時に高濃度のエタノールや大量の血栓が一気に体循環に流出する危険もあるため,血流コントロールは定期的に解除する必要がある。 また,エタノールはX線透視下での視認性がないた

Ethanol Embolotherapy for Arteriovenous Malformations

Department of Diagnostic and Interventional Radiology, Osaka University Graduate School of MedicineKeigo Osuga

Arteriovenous malformation, Embolization, EthanolKey words

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:大須賀慶悟

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技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

め,エタノール注入前後に造影剤を注入するサンドイッチ法が基本になる。水溶性造影剤で80%程度までは希釈できるが,透視下での詳細な観察は難しい。リピオドールを混合する方法もあるが,オイルが静脈に流出するため好ましいとはいえない。 血管を即時的に閉塞させるNBCAとは異なり,エタノールの作用には時間がかかる。5~10分間隔でボーラス注入を反復し,次第に血栓化や血流が低下する様子をその都度造影で確かめる。血流低下に伴い,追加するボーラス注入量も減らす(図1)。超音波では,血栓化が進むにつれて,Bモードで徐々に血管内に点状高輝度が観察される。 エタノールは,血管腔の血液を押しやり血管内皮への接触を高めるよう,ある程度の力で圧入する必要があるが,あくまで正常動脈枝への溢流は回避する。 エタノールの過量投与は,中毒症や心肺虚脱の危険があり,使用量は制限される。肝癌用の無水エタノール製剤(フソー)の添付文書は,1日投与量が原則最大10㎖としている。AVMに対する治療では,文献上0.5~1.0㎖/㎏が上限とされている。総量だけでなく,1回毎のボーラス注入量も重要で,Mitchellらはボーラス注入当たり最大0.1㎖/㎏とし,5分以上の注入間隔を推奨している2)。Shinらは,Swan-Ganz・カテーテルを用いた検証から,ボーラス注入量が0.14㎖/㎏を超えると有意に右心負荷が増して危険としている4)。小児における至適量は十分検討されておらず,重症低血糖を認めた報告もあり,注意を要する5)。従って,大きい病変では,一度に無理せず治療を分割・反復する方がよい。

 以下,投与経路別に技術的な注意点について述べる。

1)経動脈的アプローチ(図1) 可能な限りnidus直前までカテーテルの超選択挿入に努める。流入動脈の本数が多く,屈曲・蛇行が強い場合は限界があり,手技・透視時間も長引きやすい。妥協して正常動脈枝より手前からエタノールを注入すると周囲組織の虚血障害の恐れがある。カテーテル操作によるウェッジやスパスム惹起は,血行動態を変えるが,意図せず好都合な血流コントロールにもなり得る。

2)経静脈的アプローチ 多数の流入動脈が1本の流出静脈(dominant outflow vein)に抜ける場合に有用である。流出静脈までカテーテルを逆行性に挿入し,バルーン閉塞やターニケット駆血を併用する。バルーン閉塞下では,B-RTOの要領になるが,動脈圧がかかり続けると潰瘍など脆弱な組織では出血させる恐れがある。従って,ターニケットを動脈圧以上に加圧したり,動脈側もバルーン閉塞して,動脈圧を下げておくことも考慮される。流出静脈腔が広すぎる場合は,そのままエタノールを注入しても十分な塞栓効果は望めないので,先にコイルを用いて静脈側のcavityを極力減らすとよい。その際,コイルの逸脱の回避が重要である。引き続き,エタノールを注入する場合,正常動脈まで逆流させ過ぎないように加減する。あるいは,エタノール注入を動脈側からに切り替えてもよい。

図1 10代女性。左大腿AVMに対する経動脈的塞栓術。 a : 左深大腿動脈造影。正常な筋肉枝を分岐後,末梢で動静脈短絡(nidus)を形成している。 b : Nidus直前までマイクロカテーテルを選択挿入し,ターニケット駆血下に造影剤約1㎖で造影。

屈曲蛇行する複数の流入動脈から拡張した流出静脈に移行する。近位側の正常筋肉枝に逆流しないことを確認し,エタノール1㎖を注入。

c : 5分後の造影。Nidusは減弱している。エタノール0.5㎖を追加注入。 d : 15分後の造影。Nidusはほぼ閉塞した。

a b c d

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:大須賀慶悟

技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

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3)直接穿刺アプローチ(図2) 経動脈や経静脈アプローチが困難な場合に有用である。超音波下あるいはロードマップ透視下にnidusを穿刺し,ヒットした部位が,nidusの動脈成分側か静脈成分側かを造影で見極める。バルーンやターニケットで血流コントロールしながら,nidusにうまく停留し,正常動脈まで溢れないようエタノールを注入する。穿刺針は,浅い病変には,翼を鋏で切った23~25G翼状針(約1.5㎝長)がちょうどよい。翼を切る理由は,せっかくヒットした針が翼の重さで傾いて抜けたり,穿刺を追加する際に翼同士が干渉するからである。翼状針で届かない深さでは,23G注射針(約3㎝長),さらに深い部位には23Gカテラン針(約6㎝長),22Gスパイ

ナル針(約9㎝長)などを用意する。翼状針以外では,デッドスペースの小さい(0.4㎖)延長チューブと接続する。逆血の確認は重要だが,針内に残った血液とエタノールが接触すると sludgeを作り針が詰まってしまう。シリンジを交換する際に,血液が針内に逆流しやすいため,シリンジの繋ぎ替えは,鉗子で延長チューブを先にクランプしてから行うとよい。針が標的にヒットしなかったり,ヒットしてもエタノール注入に不適切な場合は,抜針せずにそのまま置いておく。その理由は,針を抜いてしまうと出血して圧迫止血に時間を取られたり,次の穿刺部位を決めるのに残した針の位置や角度が目安になるからである。従って,実際にエタノールを注入した針よりもしばしば多い数の針

図2 50代女性。左足AVM。主訴は難治性潰瘍と疼痛。 a : 踵部足底に微細なnidusを認める。 b : 経動脈的塞栓術を試みるも,nidus直前への十分な選択挿入は困難で,足底動脈への溢流が危惧

された。 c : 直接穿刺造影。異常血管が描出される。ターニケット駆血下に無水エタノールを0.5㎖注入。 d : 2回目の治療終了時のDSA。Nidusはほぼ消失している。 e : 超音波下に25G翼状針(翼はカット)で皮下の異常血管を穿刺する様子。 f : エタノール注入終了時に針先に血液が返らないようクランプする様子。 g : 治療終了時の穿刺針の様子。

c

a b e

dfg

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:大須賀慶悟

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技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

が穿刺される。超音波で観察できる場合は,カラーモードでシャント波形を示す血流が残る部分に対して追加の穿刺を行う。

術中管理

 術前から十分な補液を行い,腎血流・尿量を確保する。水分バランスのモニターとヘモグロビン尿のチェックを兼ねて尿道カテーテルを留置する。術中は,心電図,血中酸素飽和度,終末呼気二酸化炭素濃度などのモニタリングが必要である。エタノール投与量が0.5㎖/㎏以上に達すると肺高血圧や心肺虚脱のリスクも高まるため,ニトログリセリン持続投与,Swan-Ganzカテーテル・動脈ライン・経食道エコーや集中回復室などの準備が必要となる4)。急激な肺血圧上昇の際は,純酸素投与・血栓溶解・抗凝固療法なども開始する。治療中は,皮膚障害や末梢循環不全が起こっていないか,患部周囲の色調変化や過度の腫脹など視・触診を行う。

術後管理

 急性炎症による患部の疼痛・腫脹は,術直後から約1~2週間は持続する。当日から翌日は,鎮痛剤・ステロイド・抗生物質などの投与を基本とし,必要に応じて皮膚保護,患肢挙上を行う。溶血,肝・腎機能障害,横紋筋融解,炎症反応など,血液・生化学・凝固線溶・検尿などのチェックを適宜行う。肉眼的にヘモグロビン尿を認めた場合は重炭酸ナトリウム投与による尿のアルカリ化(ヘモグロビン成分のヘマチン沈着による尿細管閉塞を予防)やハプトグロビン点滴静注を行う。ハプトグロビンは生物由来製剤であり,予防投与は控えるべきである。

合併症

 エタノールの血管外漏出や正常終末動脈枝への溢流により,皮膚壊死,筋肉障害,神経障害などが起こり得る。筋肉の術後腫脹が過度になるとコンパートメント症候群を起こす危険もある。筋肉内病変では,瘢痕・拘縮による機能障害を来す恐れもあり,急性期が過ぎたら,ストレッチングやリハビリに努める。神経障害は,多くは一過性の知覚麻痺で,ある程度強い障害では,運動麻痺が長引く恐れがある。流出路の血栓化や患部の腫脹圧迫に伴い深部静脈血栓症のリスクもある。高濃度・大量のエタノール,または多量の血栓流出による肺高血圧症や肺塞栓症は,致死的になり得る。

文献上の成績

 四肢軟部のAVMに対するエタノール塞栓術の報告は,多くが症例報告や総説で,まとまった成績は少ない。Doらは,四肢・体幹AVM 40例に対して1~24回(中央値3回)計175回のエタノール塞栓術を行い,平均

14.6ヵ月(2~48ヵ月)の観察期間中,27例(68%)で症状改善が得られ,16例(40%)で治癒したとしている6)。しかし,皮膚壊死・神経麻痺・感染・急性腎不全を含む合併症を21例(52%)に認めたとしている。Parkらは手AVM 31例に対して,1~11回(平均2.8回)のエタノール塞栓術を行い,1例(3%)で根治,22例(78%)で改善,7例(23%)は不変としている。一方,19例(61%)に合併症を認め,内訳は,皮膚壊死14例(45%),水泡7例(23%),関節拘縮6例(19%),一過性麻痺4例(13%)で,2例は切断を要したとしている7)。いずれも同じ施設からの報告だが有効性が高いと同時に合併症率も高いことが共通している。

まとめ

 AVMに対する血管内治療は,施行施設が一部の専門施設に集中する傾向があり,その有効性について高いエビデンスはないのが現状である。特に,エタノール塞栓療法は,優れた効果を示す一方,全身麻酔を必要とし,局所壊死・麻痺から致死的合併症までリスクの高い治療である。従って,他の塞栓物質や治療法とのリスク・ベネフィットを熟慮した上で,エタノール塞栓療法の適応を慎重に判断し,合併症管理も含めて集学的な専門チームにより行われるべきである。

【参考文献】1) Yakes WF, Rossi P, Odink H: How I do it. Arteriove-

nous malformation management. Cardiovasc Inter-vent Radiol 19: 65 - 71, 1996.

2) Mitchell SE, Shah AM, Schwengel D: Pulmonary artery pressure changesduring ethanol emboliza-tion procedures to treat vascular malformations: can cardiovascular collapse be predicted? J Vasc Interv Radiol 17: 253 - 262, 2006.

3) Ellman BA, Parkhill BJ, Curry TS 3rd, et al: Ablation of renal tumors with absolute ethanol: a new tech-nique. Radiology 198; 141: 619 - 626.

4) Shin BS, Do YS, Cho HS, et al: Effects of repeat bo-lus ethanol injections on cardiopulmonary hemody-namic changes during embolotherapy of arteriove-nous malformations of the extremities. J Vasc Interv Radiol 21: 81 - 89, 2010.

5) Joffe D, Bank WO: Morbidity in a pediatric patient having alcohol ablation of an arteriovenous malfor-mation. Can J Anaesth 53: 527 - 528, 2006.

6) Do YS, Yakes WF, Shin SW, et al: Ethanol emboliza-tion of arteriovenous malformations: interim results. Radiology 235: 674 - 682, 2005.

7) Park HS, Do YS, Park KB, et al: Ethanol embolo-therapy of hand arteriovenous malformations. J Vasc Surg 53: 725 - 731, 2011.

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他

2 . 静脈奇形のポリドカノールを用いた硬化療法川崎医科大学附属川崎病院 放射線科,岡山大学病院 放射線科1)

三村秀文,松井裕輔,宗田由子,道下宣成藤原寛康1),平木隆夫1),郷原英夫1),金澤 右1)

はじめに

 静脈奇形に対する積極的な治療方法としては硬化療法,手術があるが,治療方針について明確なコンセンサスはない。硬化療法は低侵襲で術後の機能・形態の障害が少ないために,第一選択の治療になりつつあるが,本邦では保険診療未承認である。我々は硬化療法の中でも局所麻酔下に簡便に施行可能なポリドカノール硬化療法,特にポリドカノールフォーム硬化療法について述べる。

静脈奇形治療法の選択

 硬化療法の適応は疼痛,腫脹,機能障害などの症状を有する病変,経過観察で急速に増大する病変など,積極的治療を要する病変である。非常に細かい血管腔から成る病変に対しては硬化療法の効果が得られにくく,手術が適している。頭頸部病変に対しては硬化療法後に整容目的のため手術が行われることが多い。当

四肢軟部血管奇形‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第40回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

施設では小学生低学年以下では全身麻酔下にポリドカノールフォームあるいはエタノール硬化療法を施行する。中学年以上では局所麻酔下のフォーム硬化療法あるいは全身麻酔下のエタノール硬化療法を選択する。

硬化剤の選択

 硬化剤の種類,硬化作用の程度,注入時の疼痛,特徴的な合併症,推奨最大容量は表1のとおりである。硬化剤の選択方法として,大きい深部病変に対しては無水エタノール,小さく皮膚あるいは神経に近い場合はポリドカノール,エタノラミンオレイト,sodium tetradecyl sulfate(STS:日本国内で入手不可),希釈したエタノールが適切であるかもしれない。ポリドカノールフォームは両者に使用可能で,多くのタイプの静脈奇形が対象となる。 ポリドカノールは下肢静脈瘤,食道静脈瘤に有効で保険認可されている。下肢静脈瘤に対しては液体のままで使用可能だが,最近ではフォームにして使用され

Polidocanol Sclerotherapy for Venous Malformations

Department of Diagnostic Radiology, Kawasaki Hospital, Kawasaki Medical SchoolHidefumi Mimura, Yusuke Matsui, Yuko Soda, Norishige Michishita

Department of Radiology, Okayama University Medical SchoolHiroyasu Fujiwara, Takao Hiraki, Hideo Gobara, Susumu Kanazawa

Venous malformation, Sclerotherapy, PolidocanolKey words

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Sclerosing power

Pain oninjection Characteristic complications Maximum dosage

(adult)

Absolute Ethanol strong severe extravasation through venous walls- skin necrosis, nerve injury cardiovascular collapse 0.5〜1㎖/㎏

5% EO(Ethanolamine Oleate) moderate mild hemolysis

- hematuria, renal failure pulmonary toxicity 20㎖

3% STS(Sodium Tetradecyl Sulfate) moderate nearly painless anaphylactic shock 4〜10㎖

3% POL(Polidocanol) week nearly painless anesthetic effect

- hypotension, bradycardia reversible cardiac arrest0.07㎖/㎏(2㎎/㎏)

表1 硬化剤の比較

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他

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技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

ることが多い。静脈瘤の径別のポリドカノール(液体)の推奨濃度は表2の通りである。フォーム作成に使用するポリドカノールの適切な濃度についてのコンセンサスはない。 フォームとは硬化剤とガスを混和したものである。硬化剤としてはポリドカノール,STS,エタノラミンオレイトが使用され,ガスとしては炭酸ガス(CO2)あるいは空気(フィルターを通した室内空気)が使用される。フォームの利点としては硬化剤の表面積,硬化剤と血管内皮との接着性を増加させる。またフォームは血管攣縮をきたし,硬化剤の効果を高める。これらの利点により液体硬化剤の量を減らし,より太い血管に対して有効であると考えられる。

術前評価

 疼痛があればその頻度を問診し,疼痛スコア(VAS:visual analog scaleあるいはNRS:numerical rating scale)を計測する。整容目的であれば写真により評価する。画像診断として超音波,MRIを行い,診断を確定し,病変の大きさ・深さや近接する重要臓器との関係を把握する。その他,血液検査(腎機能,凝固能を含む),検尿を行う。

術前処置

 当施設では術前処置として6時間絶食,2時間絶飲としている。成人に対しては手技の30分前に塩酸ヒドロキシジン(アタラックスP)25㎎筋注を行い,手技直前にフェンタニル50㎍静注を行う。前腕病変などコンパートメント症候群を来す危険性がある場合はステロイド投与を行う。術前より翌日までデキサメサゾン0.1㎎/㎏/8hr静注を行い,以後プレドニンを経口投与し一週間でテーパリングする。 疼痛のある患者に対しては,術前に疼痛・圧痛がある部位を囲むようにマーキングする。全体を一度に治療することが困難な大きい病変に対しては,疼痛がある部位を集中的に治療する必要があり,マーキングは特に重要である。

ポリドカノールフォーム硬化療法の手技

 準備する器具としては23G翼状針,22G注射針に延長チューブ接続したもの,CO2ガスター,10㎖シリンジ2個と三方活栓,超音波装置(7.5MHzプローブ)などである(図1)。 ポリドカノールフォームの作成方法は以下のとおりである。3%ポリドカノールとCO2を1:4の比率で混和する。10㎖シリンジ2個と三方活栓を用い,20往復パンピングしてフォームを作成する(図2)。これは下肢静脈瘤フォーム硬化療法のTessari法1)の変法である。 超音波ガイド下に病変を穿刺し,逆血を確認後,造影剤を注入する。造影により血管腔内に針先があること,病変の形態,病変内血流停滞の程度,造影剤の必要量,病変内から流出静脈・深部静脈への造影剤の拡がりを観察する。必要があれば血流をコントロールし,DSA下に硬化剤を注入する(図3)。一般にフォームは

ポリドカノール濃度 静脈瘤径

0.5% 1㎜未満

1% 1㎜以上3㎜未満

3% 3㎜以上8㎜以下

表2 製造メーカーによる静脈瘤径別の推奨ポリドカノール濃度(液体で使用した場合)

図1 準備する器具 a, b : 23G翼状針(bでは翼をカットしている),22G注射針と延長チューブ c : CO2ガスター

a b c

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:三村秀文,他

技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

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エタノールよりも硬化作用が弱く,効果の発現に時間を要し,血流コントロールが必要である。その方法としては駆血帯,ガーゼを巻いた鉗子,エアーターニケットなどを用いた流出静脈圧迫を行う。 ポリドカノールフォームの注入方法としては,成人では1回の注入量5㎖以下で,DSAで流出静脈に流入しない程度の量を注入する。フォームはDSAで陰性造影剤として描出され,テスト注入した造影剤や延長チューブ内の造影剤が先行することにより,流出静脈を認識できる。必要があれば5分間隔を開け,2回目の注入を行う。複数個所穿刺し,フォームを注入する。総注入量はCO2フォームの場合,成人で20㎖程度(ポリドカノールにして2㎎/㎏)としている。空気を使用したフォームを使用する場合,1回注入量,総注入量共に減らす必要があり,下肢静脈瘤硬化療法のヨーロッパコンセンサスミーティング(第2回)では空気を用いたフォーム使用量は1セッション当たり最大10㎖にするように勧告している2)。

術後管理

 前腕病変以外の四肢病変では術後3日間弾性包帯で圧迫する。術翌日皮膚,神経障害などの観察,血液検査,検尿(溶血の有無,腎障害のチェックなど)を行う。

術後評価

 術後1ヵ月で合併症の有無,術後3ヵ月で症状・外観・画像を評価する。疼痛がある場合はVAS,NRSで評価する。表在病変や顔貌については写真による外観の評価を行う。病変の大きさの変化についてはMRIあるいは超音波検査による評価を行う。

成 績

 静脈奇形のポリドカノール(液体)硬化療法の報告と

して,我々は32人の患者に対し同治療を行い,46ヵ月の平均観察期間で疼痛の改善を評価したところ,評価可能であった29人中26人(90%)で疼痛の改善がみられた。また静脈奇形のうち,10㎝以下,境界明瞭,硬化剤の停滞が良好な病変で治療効果が高かったと報告した3)。重篤な合併症は見られず,皮膚壊死もなかった。しかしながらポリドカノールを過量に投与した患者で術中の四肢・口唇のしびれ,徐脈・血圧低下がみられ,ポリドカノールの使用可能な容量が少ないことが問題であった。 Cabreraら4)によると,静脈奇形に対してポリドカノールフォーム硬化療法を50人の患者に施行し,病変の縮小は50人中46人(92%)で得られ,疼痛の改善は39人全員で得られた,と報告している。合併症としては重篤なものはなく,皮膚壊死・軟部壊死は4人(8%)でみられた。

合併症とその対策

 硬化療法の一般的な合併症として皮膚壊死,神経障害,深部静脈血栓症が挙げられる。硬化剤の血管外漏出による皮膚壊死を防ぐため,逆血の速度とテスト注入した造影剤をよく観察する。逆血がスムーズではなく,造影剤が病変内外の両方に分布する場合は硬化剤を注入しない。深部静脈血栓症の予防のために,血流コントロールにより深部静脈への硬化剤の流入を少なくする。逆に過度の駆血により硬化剤を深部静脈に暴露させないことも重要である。長時間の駆血は望ましくない。なお駆血を解除する際には硬化剤が大循環に流入するので,硬化剤による全身性の合併症にも注意が必要である。術後の皮膚壊死に対してはワセリンなどによる保湿を行う。神経障害の多くは一時的である。コンパートメント症候群を来す危険性がある場合は,前述の通りステロイド投与を行う。その他,小児に対

図2 ポリドカノールフォームの作成方法 a : 3%ポリドカノールとCO2を1:4の比率で混和する。10㎖シリンジ2個と三方活栓で20往復パ

ンピングして作成する。 b : 作成されたフォーム。

a b

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技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

図3 フォーム硬化療法の手技a : 膝窩部静脈奇形はMRI T2強調像で高信号を呈している。b : 超音波ガイド下に病変を穿刺する。c : 逆血を確認する。d : 造影剤を注入する。e : DSA下にフォームを注入する。フォームは陰性造影剤として観察される。

f : 複数か所穿刺し,硬化剤を注入する。g : 硬化療法後,病変は縮小している。

しては被曝軽減に努める。 ポリドカノールによる合併症として術中の血圧低下,徐脈が挙げられる。これはポリドカノールの麻酔作用によると考えられる。さらに可逆性であるが心停止の報告があり5),この症例では2㎎/㎏のポリドカノール(液体)をワンショットで注入されている。硬化剤の

注入量・注入速度に注意が必要である。ポリドカノールにより溶血を生じることはほとんどないが,血尿がみられれば補液を十分行う。 下肢静脈瘤に対するフォーム硬化療法の合併症として脳梗塞による不全片麻痺が報告されており,この患者では径18㎜の卵円孔開存がみられ,左心系への

dg

a b ce f

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(91)91

フォームの流入が原因と考えられた6)。この報告では空気を使用したフォーム20㎖が使用されている。卵円孔開存は一般人の約20%に存在すると言われている。前述のコンセンサスミーティングでは既知の卵円孔開存はフォーム硬化療法の相対的禁忌であり,体位やフォーム使用量について特別な注意が必要であると勧告している。CO2を使用したフォームは空気を使用したフォームより安全と考えられる7)。CO2は毒性がなく,右心系に多量に注入することが可能であるが,空気と比較してフォームの消失が速い8)。

おわりに

 静脈奇形の硬化療法は日本では保険診療未承認である。本治療の普及のためにはその必要性が広く認知されることが第一歩である。硬化療法を施行する際には患者ケアが必須であり,外来診療を含めて関わることが求められ,さらに形成外科をはじめとする関連各科との密接な関係の構築が必要である。

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ence with a new sclerosing foam in the treatment of varicose veins. Dermatol Surg 27: 58 - 60, 2001.

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3 . EO硬化療法札幌医科大学 放射線診断科

兵頭秀樹

 血管奇形は診断に難渋したり誤った治療が選択されることが多く,その難治性も相まって積極的な治療が避けられてきた。1997年に ISSVA(The International Society for the Study of Vascular Anomalies)から提唱された分類1,2)(表1)により,血管奇形はhemangioma of infancyを代表とするvascular tumorと毛細血管や動静脈・リンパ管からなる脈管の形成異常により生じるvascular malformationに大きく分けられ,これに基づいて治療法の標準化が進んだ。わが国においては形成外科学会・日本 IVR学会が中心となり,「血管腫・血管奇形ガイドライン」が発表され(執筆段階ではパブリックコメント募集が終わっている),適正な診断・治療への取り組みが急速に進んでいる。 四肢軟部血管奇形に対する治療のポイントは“いつ治療を開始するか”という点である(図1)。仮に病変が存在していたとしても臨床症状を発せずあるいは自覚したとしても痛みなどの有害症状なく経過できるもの

四肢軟部血管奇形‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第40回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

であれば(Schöbinger’s stageⅠ/Ⅱ)積極的に治療しないことが重要である。不用意に治療することで,かえって病勢を進行させる懸念があるためである。一方,痛みや潰瘍/出血等有害症状を発している(stageⅢ)にもかかわらず適切な治療が行われないと多くの症例で増悪化し心不全を招き(stageⅣ)死亡に至る場合がある。すなわち,臨床症状が認められた時が治療開始時期と考えればよく,その他の所見としてはしびれ・潰瘍・心不全徴候・心因性変化等が判断基準と考えられる3)。一方,治療の終了時期も判断に苦慮することがしばしばあり,病変が残存している場合の追加治療を如何にするかは判断に迷う。その際,治療の目標が“臨床症状の軽減”であり,病変を完全に消失することを目標とした治療は積極的に行わない点を心掛け,症例毎に検討される必要がある。

Ethanolamine Oleate Sclerotherapy

Department of Diagnostic Radiology, Sapporo Medical UniversityHideki Hyodo

Sclerotherapy, EO, Vascular malformationKey words

⇒ increase the symptom (at the yellow zone = stage III)

pregnant

injury adolescence

When should we treat vascular malformation ?

Vascular Tumor

Vascular Malformation

Simple Combined

Hemangioma Capillary malformation

Arteriovenous fistula, arteriovenous malformation, capillary-venous malformation, capillary-lymphatic-venous malformation

Other Lymphatic malformation

Lymphatic-venous malformation, capillary-lymphatic-arteriovenous malformation

Venous malformation

Hyodoh H, et al: RadioGraphics 2005; 25: S159-171*ISSVA International Society for the Study of Vascular Anomalies.

表1 ISSVA* classification(1997) ISSVA Classification of Vascular Anomalies*

図1 血管奇形治療開始時期 血管奇形は自然退縮することはなく,外傷や妊

娠等を契機として増悪する。治療開始時期の決定は患者毎で異なるが,臨床症状(痛み等)の出現(Schöbinger stageⅢ)が判断基準となる。

92(92)

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(93)93

技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

 治療前画像診断に求められることは,病変のサイズ・関与血管・血流速度と方向・周囲組織との関連性・内部性状の評価であり,盲目的な治療アプローチは慎まなければならない3~6)。現在までに様々な画像診断手法が検討されその有用性が報告されており,自験例ではMRI脂肪抑制T2強調像・脂肪抑制造影T1強調像が病変サイズや周囲との境界評価に有用と考えられる2)

(図2)。四肢血管奇形の治療に際しては駆血帯を併用した治療が行われることが多く,治療前MRI画像所見と病変内潅流の状態が異なるため治療前に完全に病変の血流動態を把握することが難しい場合がある。より安全な手技を行うためには,様々な診断法を組み合わせて病変の把握を行うことが必要であり,術者は各画像診断法の利点/欠点を熟知して治療を計画・実施する必要がある(表2)。 治療法の選択は病変毎に異なるが,病変が小さく切除後の機能障害を生じない場合には外科手術による完全切除がよい適応と考えられる。広汎病変の場合に不完全切除となることが多く術後更に複雑な血管再増生を招くため実施は避けなければならない。同様の理由で近位動脈塞栓術も実施してはならない。躯幹部病変と異なり四肢領域ではamputation・義肢装具によるQOL向上を積極的に考慮することも可能であり,患者/家族の希望にも配慮しながら治療計画することが必要となる。 硬化療法は血管奇形に対する独立した治療法として有用と考えられており,手術療法との組み合わせによる有用性が報告されている7)。一般的には臨床症状が軽微だが出現している場合が硬化療法のよい治療適応と考えられる。硬化剤は表3に示すものが現在わが国で使用されているものである。オルダミン(EO)の効果はエタノールより弱くポリドカノールより強いと考

えられており8),B-RTO(バルーン閉塞下血栓塞栓療法)でEOに習熟している日本の IVR医師は多く,我々の施設でも硬化療法の中心的薬剤として使用している5)。過去の報告からは病変サイズが長径 5㎝以下・境界が明瞭・ナイダスと呼ばれる病巣中心の血流うっ滞が得られる場合には高い治療効果が認められている(図3)3,5,9)。そのため,体表面からの駆血・用手圧迫及びバルーンカテーテルを用いた一時的血流閉鎖術等,様々な手技を駆使してナイダスの血流うっ滞を得ることが成功のkey pointとなる(図4)。我々の施設では治療フローチャートをもとに治療計画を行っているが,各施設の状況に応じた修正を加えて実施されることが望ましい(図5)。ナイダス内の血液還流が速い場合,ナイダス血流うっ滞を得る方策を駆使し硬化療法を実施することになるが,ナイダス血流うっ滞が得られない場合には残念ながら硬化療法の有用性は限定的となるため塞栓療法や amputation法等他の治療法を中心とした治療計画に変更が必要となる。 EO硬化療法の薬液はEO1バイアル(10㏄)に非イオ

•画像評価 (Fisher’s PLSD P<0.005*, <0.001**)

* * *

*

2007年JSIR金沢

1.8

1.6

1.4

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0fsGd-T1 fsT2 T1 T2

advantage disadvantage

USsurface lesion, flow

direction, direct observation

operator dependent, subjectivity, small FOV

CT objectivity, large FOV, reproducibility

radiation exposure, contrast enhancement,

static image

MRI objectivity, high signal resolve, flow direction,

time consuming, expense, NSF (when

contrast using)

Angio(DSA) time resolve, spatial resolve, flow direction

invasive, small FOV, radiation exposure

Cavography* just before the session, flow direction

invasive, small FOV, radiation exposure

*direct nidus opacify

表2 Selection of imaging modalities

図2 病変評価に適するMRシーケンス脂肪抑制T2強調像が病変と周囲組織との境界判定に最適と考えられる。症例によっては皮下脂肪内病変の評価にT1強調像が有用な場合もあり,症例毎に評価検討することが望ましい。

advantage disadvantage

absoluteethanol

strong endothelial damage,

high response rate, less expensive

painful, higher complication

rate, penetrative effect

EthanolamineOleate

excellent thrombosis effect, chemical

damage to vessel wall

may induce acute renal

failure, hemolytic effect

polidocanol over-hydration of endothelial cells, nearly painless

may induce reversible

cardiac arrest

n-butyl 2 cyanoacrylate liquid material, rapid embolization, radiolucent, feeding

arteries, feeding arteries embolization

flow dependent, less effect in large cavity, radiolucent

表3 Sclerosant, liquid embolization

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図3 硬化療法の適応過去の報告からは,病変サイズが5~10㎝以下・境界が明瞭・ナイダス血流のうっ滞が得られるものの治療効果がよいことが明らかとなっている。

Favorable result predictive factors;

Small lesion

Well defined margin

Nidus flow stasis during session

Indication to treat VM using sclerotherapy

contrast stasiswithin nidus

direct nidus puncturesclerotherapy

flow control

direct nidus puncturesclerotherapy

with flow control

palliativeembolo/sclerotherapy

and/or surgery

YES

YES

NO

NO

Vascular Malformation

asymptomatic symptomatic

Imagingfollow-up

Hyodoh H. et al. Jpn J Intervent Radiol 2006 (modified)vascular malformation sclerotherapy flow chart

+ +

Absolute ethanol

Ethanolamine Oleate

Polydocanol

NBCA

balloon / flow control

coil / embolic material

venous malformation

lymphatic malformation

arteriovenous malformation

③ ⑤

Flow control sclerotherapy: occlusion balloon

: direct injection

: nidus cavity: sclerotic / thrombotic area

prepare the nidus flow stasis

sclerosant contact the inner surface

coagulation increased the ablated area

thrombotic area is absorbed

vascular malformation is diminished

図5 硬化療法フローチャート血管奇形病変で臨床症状(痛み)があるものが治療対象であり,ナイダス内に血流うっ滞が得られる場合が硬化療法の治療適応となる。血流うっ滞が得られない場合にはEO硬化療法では治療困難であり,塞栓術や他の硬化剤を用いた治療法・外科的切除術等が治療の中心となる。

図4 硬化療法の作用機序図病変の血流うっ滞を得るため,治療域の血流を一時的に遮断しEOを注入する。薬液と壁の作用時間が確保されるため硬化療法の効果が高まり,治療域には血栓形成が促される。経過観察期間に血栓は器質化され,血管奇形は減少/消失する。

94(94)

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ン性造影剤(10㏄)を緩徐に混和させることで5% EOIに調合する。病変によってEOI濃度を高め少量高濃度のものを使用する場合がある。EO foamを作成し治療に使用することもあるが,ポリドカノールと異なりfoam化することで容量を稼ぐことは薬剤の性質上難しい。我々の施設では二酸化炭素との混和を1:1の割合で実施することで,非常に高濃度なEO foamを作成し局所治療に使用している(図6)。 すべての IVR手技に共通するが,もっとも重要な点は合併症を生じさせないことである。特に神経障害は,重篤な後遺症を永続的に生じさせ,患者の満足度の著しい低下を招くため避けたい。また,十分な医師-患

nerve blocknerve blockdirect phlebographydirect phlebography EO sclerotherapyEO sclerotherapy

To measure the nidus volume (until the vein appearance), pre session direct phlebography is recommended (the drainage veins appeared in this case). The measured nidus volume is injected at EO sclerotherapy session (7ml).

fs-T2wifs-T2wi

Gd-T1wiGd-T1wi

fs-T2wifs-T2wi

Gd-T1wiGd-T1wi43 monthspre

Because EO sclerotherapy is painful, pre-procedural anesthesia is necessary.

Within 3 days, early reaction is settled and without no skin / nerve damage reported during whole follow up period. On 43 months follow up MR images demonstrate the decreased VM volume, but not diminish. He complains no symptom, additional sclerotherapy is postponed.

Case 1. 33 y.o. male, venous malformation (Schöbinge stage III)

図7 症例1 30代男性 手掌静脈奇形左手母指球の静脈奇形。直接穿刺で造影剤の貯留が認められたためEOI硬化療法を実施(7㏄)。経過のMRIで病変の縮小が観察された。

技術教育セミナー / 四肢軟部血管奇形

foam sclerosant•mixture with CO2 /sterile air

– Polidocanol : CO2 = 1 : 2-4– EO : CO2 = 1 : 0.5-1

•small amount of foam sclerosantper injection (1 –5 ml) CO2 bomb cylinder

pumping syringe

Using foam sclerosant, the contacted surface and adhesiveness is increased in vascular malformation. So, even using small amount of sclerosant, we can achieve the greater efficacy and lower complication.

図6 薬液foam作成EO foamはポリドカノールより少量しか作成ができないため病変サイズが小さい場合に用いられる。EOと同程度のCO2と混和を行うことで細かなEO foamが作成可能である。病変への注入には1㏄シリンジを用いて注入を行い,病変外漏出のないよう注意する。

者関係が築かれていない段階では治療によって生じる一過性の副作用(発赤・潰瘍・機能低下等)により治療法に対する不信感を生じさせ,その後の治療を困難にさせてしまう場合もある。十分なインフォームドコンセントに加え医師-患者関係の構築が得られている必要がある(図7,8,9)。 血管奇形は良性疾患だが治療抵抗性であり,容易に再燃する。また,全身のあらゆる部位に生じうるため単独の治療法で治療完遂できることは少ない。十分な医師-患者関係が構築されたうえで形成外科・放射線科が協力し,経過観察-硬化療法-外科的切除までの広い治療選択枝の中から最適な治療法を行える体制で臨むことが必要であり,診療間で協力して診療に臨む必要がある。また,患者に過剰な期待を持たせないとともに過剰治療に注意を払い,症状の軽快を目的とした治療を行うことが必要である。

【参考文献】1) Enjolras O: Classification and management of the

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pre pre

Case 3. 46 F wrist venous malformation (Schöbinge stage III)

Post 6 days nerve damage (-) Because VM lesion remain, additional EO foam sclerotherapy is planned. (EO 1.0 ml + CO2 0.5 ml, tourniquet)

post 6 days post 6 days post 7 days post 7 days

Post 7 days after add. session VM lesion diminished. nerve damage (-) skin ulcer (-)

Pre treatment contact pain (+) MR imaging (not show) presented venous malformation without dilated vessel. EO foam sclerotherapy is planned with local anesthesia.

Case 2. 9 y.o. girl, venous malformation (Schöbinge stage III)

fsT2wi fsGd-T1wi

She complained left wrist swelling / pain.Phlebolith is detected on fs-T2wi.The lesion is lobulated and the nidus isenhanced on Gd-T1wi.Flow void is not detected.EO sclerotherapy is planned withtourniquet flow control.

Tourniquet is used at proximal anddistal (not presented) side;“Sandwich” method.

Direct EO injection.After pre-control phlebography (measuring the nidus volume), EO isinjected through intermittent fluoroscope guide.Small part of drainage vein is demonstrated (arrow), but the tourniquetsgive us good effect to keep the sclerosant within the nidus.

MR fsT2wiMR fsT2wipost 2 days post 10 months

After 7 years (16 y.o.), she complained wrist pain;regrowth after 7 years since initial sclerotherapy. pain (+), nerve damage (-), motion (fair)Additional sclerotherapy was planned.

Skin flare / blister is presented, but the fingers coloris preserved. She discharged without any event.

at 10 months; pain (-), nerve damage (-), motion (good)No interval change until 30 months.

Using flow controltechnique (sandwichmethod), nidus flowstasis is prepared forsclerotherapy.Using EO foam, weachieve lower quantitysclerotherapy than initialsession (to decrease theskin reaction).

EO mixed with COEO mixed with CO22

1st session 2nd session1st session 2nd session

図8 症例2 9歳女児 手首静脈奇形手首皮膚面の膨隆を伴う静脈奇形であり,MRIで静脈石が観察される。血流うっ滞のためマンシェット圧迫を使用して直接穿刺し薬液停滞が確認された。この部位からEO硬化療法を実施(3㏄)。実施より皮膚面の発赤が著明であったが手指の血流た持たれていたため経過観察,術後7日目には退縮し,皮膚潰瘍なく退院。7年後痛みが出現したためEO foamにて追加治療を行い,皮膚潰瘍/神経障害なく退院。

図9 症例3 40代女性 手首静脈瘤病変は小さいが有痛性でありEO foam硬化療法を実施(1㏄)。術後7日目には病変脱落し皮膚面の平坦化が確認された。

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(97)97

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