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1979 8 月】「新経済社会 7 カ年計画」 閣議決定 「新経済社会 7 カ年計画」について 昭和 54 8 10 閣議決定 政府は、別冊「新経済社会 7 カ年計画」を昭和 54 年度から昭和 60 年度までの期間にお ける経済運営の指針とすることを決定する。 エネルギー情勢をはじめ流動的な内外諸情勢のなかにあって、計画に掲げる政策を整合 的に実施していくため、毎年、計画に参考資料 1 として添付する予測的数値の弾力的な見 直しを図りつつ、計画のフォローアップを行い、その結果を政策運営に反映するものとす る。 1 部 計画の基本的考え方 Ⅰ 計画のねらいと役割 時代は急速に変貌している。戦後四半世紀にわたって我が国の高度経済成長を支えてき た諸要因は、内外環境条件の変化により、 1970 年代に入って大きく変容した。今後もなお 新しい時代へ向けて変貌の過程が続くであろう。「昭和 50 年代前期経済計画」は、戦後の 長い我が国の経済計画策定の歩みのなかで、このような激動期の認識のもとで作られた計 画であった。この計画をその後の実績の推移に照らしてみると、それまでの高度成長期に はほとんど一貫して実績成長率が想定成長率を上回る傾向にあったが、この計画では、想 定成長率自体を従来より控え目な 6%強とし、この実現に向けて政府の異例の努力がなさ れたにもかかわらず、実績はこれをやや下回るという推移を示した。これは、内外環境条 件の変化が大方の予想をはるかに超えて厳しく、こうした変化への適応が困難を極めたか らであった。 今日においても、この計画が提起した高度成長後の新しい安定的な成長軌道への移行と いう基本課題は、まだ完全には実現されるに至っていないし、その後に生じたエネルギー 等新たな事態への適応を含めてその道筋を明らかにすることは、むしろさし迫った極めて 重要な問題となってきた。その実現のためには、刻々に変化していく内外環境条件に、よ り柔軟に対応するとともに、他方では確実に到来が予想される長期的な与件の変化を見究

1979 年8 月】「新経済社会 7 カ年計画」 閣議決定 …...【1979 年8 月】「新経済社会7 カ年計画」 閣議決定 「新経済社会7 カ年計画」について

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【1979 年 8 月】「新経済社会 7 カ年計画」 閣議決定

「新経済社会 7 カ年計画」について

昭和 54 年 8 月 10 日 閣議決定

政府は、別冊「新経済社会 7 カ年計画」を昭和 54 年度から昭和 60 年度までの期間にお

ける経済運営の指針とすることを決定する。 エネルギー情勢をはじめ流動的な内外諸情勢のなかにあって、計画に掲げる政策を整合

的に実施していくため、毎年、計画に参考資料 1 として添付する予測的数値の弾力的な見

直しを図りつつ、計画のフォローアップを行い、その結果を政策運営に反映するものとす

る。

第 1 部 計画の基本的考え方

Ⅰ 計画のねらいと役割 時代は急速に変貌している。戦後四半世紀にわたって我が国の高度経済成長を支えてき

た諸要因は、内外環境条件の変化により、1970 年代に入って大きく変容した。今後もなお

新しい時代へ向けて変貌の過程が続くであろう。「昭和 50 年代前期経済計画」は、戦後の

長い我が国の経済計画策定の歩みのなかで、このような激動期の認識のもとで作られた計

画であった。この計画をその後の実績の推移に照らしてみると、それまでの高度成長期に

はほとんど一貫して実績成長率が想定成長率を上回る傾向にあったが、この計画では、想

定成長率自体を従来より控え目な 6%強とし、この実現に向けて政府の異例の努力がなさ

れたにもかかわらず、実績はこれをやや下回るという推移を示した。これは、内外環境条

件の変化が大方の予想をはるかに超えて厳しく、こうした変化への適応が困難を極めたか

らであった。 今日においても、この計画が提起した高度成長後の新しい安定的な成長軌道への移行と

いう基本課題は、まだ完全には実現されるに至っていないし、その後に生じたエネルギー

等新たな事態への適応を含めてその道筋を明らかにすることは、むしろさし迫った極めて

重要な問題となってきた。その実現のためには、刻々に変化していく内外環境条件に、よ

り柔軟に対応するとともに、他方では確実に到来が予想される長期的な与件の変化を見究

めつつ、より長期的な視野から確かな未来を築くための方向づけを、ここで改めて行う必

要が緊急に生じている。それによって家計や企業の先行きに対する不透明感を払拭し、民

間経済の活力ある展開を図ることが、新しい安定的な成長軌道へ我が国経済を移行させる

ために不可欠の条件であることが一層明らかになってきたからである。 さらに、我が国経済の世界経済における比重の高まりに応じて、諸外国に対して、我が

国経済社会の中長期的な変化方向と、それへの政策対応の基本方向を明らかにし、国際的

な理解と協力を得る必要性もますます増大してきている。 幸い、これまでの国民挙げての努力の成果として、我が国経済は激動の 1970 年代を乗

り切り、80 年代へ向けて新しい一歩を踏み出す素地をつくり出しつつある。これを拠りど

ころとして、エネルギー事情等一段と厳しさを加えつつある国際情勢を踏まえ、我が国経

済を新しい安定的な成長軌道に乗せ、質的に充実した国民生活を実現するとともに国際経

済社会の発展に積極的に貢献していかなければならない。このための中長期的な経済運営

の指針として、ここに昭和 54 年度を初年度とし、昭和 60 年度を最終年度とする新しい経

済計画を作成することとした。 もとより、我が国は、自由な競争を基本原理とした市場経済を基調としており、積極的

な企業家精神に基づく企業の自主的な活動こそが経済社会の発展にとって不可欠である。

こうした前提のもとに作成される我が国の経済計画は、経済社会の全分野にわたって詳細

に規定し、厳格にその実施を強制するものではない。この計画は、①内外諸条件の長期的

展望のもとに、望ましく、かつ、実現可能な経済社会の変化方向を示し、②その実現を目

指して中長期にわたって政府が行うべき経済運営の基本方向を定めるとともに、重点とな

る政策目標と政策手段の体系を明らかにして、③家計や企業の経済活動の指針にしようと

するものである。それは、同時に諸外国が、我が国経済社会の中長期的方向を理解する手

がかりともなるであろう。この計画で描く経済社会の変化方向や国民生活の充実の方向に

ついては、計画の想定する内外の諸条件に大幅な変更が生じない限り、政府として、その

実現に努めるべきものであることはいうまでもない。しかし、そのすべてが、政府の手に

よって実現されるものではなく、個人、家庭、企業の自主的な活動や地域的、社会的連帯

さらには、国際的な協調に基づいて実現が図られる部分も極めて大きい。 したがって、この計画に示されている諸数値は、相互に整合性を保っているが、指標に

よってその性格は異なっている。物価、雇用等の政策上の目安数値は、計画期間を通じて

達成を期すべき基本的方向を示すものである。また、公共投資、社会保障等の指標は、計

画の想定に大幅な変化が生じない限り、政府として実現に努めるべき方向を示すものであ

る。他方、この計画に参考資料 1 として掲げる今後の経済の展望などの数値は、予測的性

格の強いものであり、毎年、実績との乖離状況を把握し、弾力的な見直しを図るものであ

る。 エネルギー情勢をはじめ流動する内外経済のなかにあっては、機動的、弾力的な政策対

応が不可欠である。その意味で、この計画に掲げる諸指標についても幅をもった解釈が必

要であり、また、指標の示す意味内容とは遊離した硬直的な運用が行われることを避けな

ければならない。 これらの点について、国民の理解と協力が求められる。

Ⅱ 新しい対応を必要としている基本的背景 1.世界経済の構造変化と我が国の役割 世界経済は現在、多極化、複雑化の様相を深めている。先進国経済においては、各国間

で経済の態様にかなりの格差が発生して国際収支の不均衡と主要通貨の動揺が生じやす

くなり、通商面でも保護貿易主義の風潮が強まっており、戦後四半世紀にわたり世界経済

の安定した発展を支えてきた IMF・GATT 体制が厳しい試練にさらされている。発展途

上国経済をみると、産油国、中進工業国がめざましい発展を示してその他の発展途上国と

の格差を拡げているが、そのような変化は発展途上国に対する先進国の経済協力にも多面

的な展開を迫っている。また、産油国の資源温存政策の強まりや石油の高価格化は、世界

の経済と貿易や国際金融に大きい影響を及ぼしつつある。一方、社会主義諸国経済では、

国際収支の制約等から従来に比べてやや成長の鈍化がみられるものの、他方では、近代化

姿勢を強く打ち出しはじめた中国経済の世界貿易へ及ぼす影響が注目されている。 激動の 1970 年代を通じて次第に明らかとなってきた世界経済の構造変化の潮流は、80年代の世界が一層多極化の様相を強めることを予想させるとともに、世界経済が安定的に

発展するためには、従来にも増して相互支援の国際協力が不可欠の条件となることを示し

ている。こうしたなかで、世界経済に大きい比重を占めるに至った我が国経済は、世界経

済から受ける影響も世界経済へ及ぼす影響もともに大きくなっていることを踏まえ、国際

的な視野に立って内外の問題解決に当たらねばならない地位に置かれている。したがって、

我が国として国際経済社会の動向と調和のとれた経済運営を行うとともに、経済、文化等

の各面にわたって近隣の太平洋地域をはじめ各国との協調関係を深め、国際経済社会の発

展に積極的に貢献していくことが必要である。そのためには、国内的な摩擦や負担を避け

て通れない場合もあることを十分認識しておかなければならない。このような基本的姿勢

なしには、今後の国際経済社会において、我が国経済が長期にわたり安全かつ円滑な発展

を遂げることも期待できないであろう。 一方、世界経済は、資源・エネルギー及び食糧の需給について不安定要因を抱えている。

エネルギーに関しては、先のイラン革命後の諸情勢が如実に示しているように、石油の供

給が不安定化、高価格化の様相を深めていること等により、計画期間を通じて楽観を許さ

ないものがある。さらに、今後、石油の増産限界の到来が予想され、核融合、太陽エネル

ギー等の新エネルギー時代までの間にエネルギー供給の谷間が生じるものとみられてい

る。また、食糧に関しても、現在の在庫水準は高いとはいえ、自然条件に左右され、かつ、

先進国等を中心とする畜産物消費の増加に伴う飼料穀物需要の増大や発展途上国におけ

る人口増加及び所得向上に伴う需要増加が見込まれる状況では、基調として不安定である

ことを見逃すことはできない。 資源・エネルギー、食糧の海外依存度が高く、かつ、これら商品の世界貿易に占める輸

入の比重が高い我が国は、今後、国内供給体制の整備、輸入の安定化、多様化等従来にも

増して経済的安全に留意した経済運営を行うとともに、日本一国だけの対応でなく、国際

的な視野で世界と協調してこの問題に取り組むことが必要となる。経済的安全は我が国の

総合的な安全保障の基本をなすものといわなければならない。 特に、最近の石油をめぐる情勢の急迫に対しては、緊急対策と並んで、中長期的視野に

立った対応も必要である。省エネルギー化の推進、石油代替エネルギーの開発利用の促進、

石油供給源の多様化等により、エネルギー需給構造の脆弱性を可能な限り克服していくこ

とが、我が国経済の安定的な発展にとって重要な前提条件となる。 2.成長経済の変貌と新たな領域の開拓 我が国経済は、いま、大きい構造変化に直面している。第 1 は、戦後四半世紀にわた

る設備投資と輪出を主導力とした我が国経済のめざましい発展により欧米先進諸国への

キャッチアップが成就し、また、そのなかで所得分配の平準化や地域格差の縮小が進み、

国民の価値観にも多様化傾向が生じていることである。第 2 は、国際的な資源・エネル

ギー、食糧等の長期的な供給事情の基調変化や土地、水、環境等国土資源の有限性など経

済成長と産業構造の与件が制約的なものへ変わりつつあることである。第 3 は、我が国

産業の高度化や中進国の工業化に伴う競争条件の変化、石油危機後のコスト・価格体系の

変化等を背景に、垂直分業型から水平分業をとり入れた型へ貿易構造が転換しつつあるこ

とである。 昭和 48 年末の石油危機を契機に生じた各種の経済的不均衡は、これまでの積極的な有

効需要政策の推進によって漸次改善されつつあるが、これをより確実なものとしていくた

めには、厳しくかつ流動的な国際情勢を冷静に受けとめつつ、中長期的な視野から我が国

経済の構造変化を踏まえ、今後の経済成長の道筋を明らかにして、家計や企業の先行き不

透明感を払拭し、民間経済の活力ある展開を図ることが不可欠の課題である。 それには、従来に比べてより国民生活の質的向上を目指す国民意識の変化、資源・エネ

ルギー制約の強まり、国際分業関係の新しい方向など諸条件の変化に適応しつつ、適正な

経済成長を図ることが必要である。 これまでの我が国の高度経済成長を支えてきた個人の高貯蓄率は、成長の減速に伴って

次第に低下していくことが予想されるものの、その低下のテンポはゆるやかで、なおかな

りの高水準で推移するものと思われる。従来はこの高貯蓄率を先進工業国へのキャッチア

ップのために傾けてきたが、今後は成長経済の内容の質的転換と各種の制約条件の克服を

促す方向へ活用されなければならない。すなわち、個人の高貯蓄は、国際的にみて整備水

準の立遅れている生活関連社会資本の充実や内外の諸条件に適応した石油代替エネルギ

ーその他の技術開発利用、産業構造の高度化、地方の定住条件の整備等の分野における新

しい民間投資へ向けて、より直接的にふり向けられなければならない。一方、国際的には、

資源・エネルギー、食糧を大きく海外に依存している我が国としては、アジアのなかでは

唯一の先進工業国という立場にあることをも考え、経済協力や海外投資を通じ、世界経済

の安定成長に積極的に貢献する方向で、高貯蓄の活用を図ることが必要である。 3.社会的要因の変化と新しい福祉社会づくり 我が国は、現在、大きい社会的変動の過程にあり、この要因は、計画期間中、さらには、

それを超えて長期的に強まっていくものと予想される。 第 1 は、人口の年齢構造が急速に高齢化することである。平均寿命の延長による中高

年人口の増加と、低出生率の持続により、これまでの若年型の人口構成は、21 世紀初頭

までの間に高齢者へ傾斜する形で従属人口比率が急速に増加していくことが確実である。

このように急テンポの人口高齢化は、西欧諸国でもいまだかつて経験しなかったものであ

り、今後、我が国は、短い年月のうちに高齢化社会への備えと対応を迫られることとなる。

そのため、活力に満ちた経済と人間味豊かな相互依存社会が調和して形成されるよう経済

社会の基盤を整える必要がある。 第 2 は、人口、産業の地域的展開の基調が、大都市への集中から地方への分散へと転

換する兆しがみえはじめていることである。計画期間中には、このような状況を踏まえ、

高度成長期に累積されてきた大都市の過密の弊害と農山漁村の過疎問題に対処し、大都市

地域の再開発と地方における定住条件の整備により、ゆとりのある生活空間の確保を目指

す地域政策の展開を図らなければならない。 第 3 は、国民の意識が量的拡大から生活の質の向上へと転換しつつあることである。

我が国の所得水準は、欧米先進諸国と肩を並べるに至り、消費生活の内容もかなり豊かに

なった。これに伴い国民の関心も、フローからストックへ、私的消費から社会的消費へ、

物財中心から心の豊かさへ、量的拡大よりゆとりと生きがいへ、経済から文化へとその重

点が移行しつつある。 このような国民意識の変化は、それ自体我が国経済の成長屈折の背景の一つをなすもの

であるが、同時に、成長が減速し、しかも人口高齢化に伴う扶養負担の増大が予想される

状況のもとで、今後このような国民意識の変化を踏まえた公的施策を推進していくために

は、相当の制度変更やこれに伴う困難があることを覚悟しなければならない。国民の公共

に対するニーズは、住宅や生活関連社会資本の整備、社会保障の充実、教育文化施策の充

実等を中心に高まっていくであろうが、これを従来どおりのやり方で充足していけば、公

共部門が肥大化して経済社会の非効率をもたらすおそれがある。効率のよい政府は、活力

があり発展性のある経済社会の基本であり、これを実現するためには、高度成長下の行財

政を見直して、施策の重点化を図り、個人の自助努力と家庭及び社会の連帯の基礎のうえ

に適正な公的福祉を形成する新しい福祉社会への道を追求しなければならない。

Ⅲ 計画期間における経済運営の基本方向

内外環境条件の変化特にエネルギーの高価格化、不安定化のなかで、これに適切に対処

しつつ適正な経済成長を図るとともに、その成長経済の中身をより直接的に国民生活の質

的充実に結びつき、かつ、国際経済社会と調和がとれるものへと転換させることがいま強

く求められている。我が国経済を、このような内容をもった新しい安定した成長軌道へ移

行させることは、家計や企業が将来への自信を回復し、それを通じて我が国経済の潜在的

活力を発揮するためにも、また、国際経済社会の発展に積極的に貢献していくうえでも、

極めて重要な問題である。 このため政府は、今日まで、公共投資を中心とする積極的な有効需要政策により経済的

不均衡の是正に全力を傾けてきた。その成果は、最近になって現れ、企業における設備投

資等の回復傾向や比較的着実な家計行動により、民間需要が次第に堅調化し、国際収支も

顕著な均衡化傾向を示すなど、事態はかなり改善しつつある。 しかしながら、構造変化の過程にある世界経済の先行きは、引き続き流動的であり、特

に今後のエネルギー供給については不確実な要因が増大している。また、国内においても

経済の各分野で、現在なお不均衡が存在するとともに、厳しい構造変化を迫られている。

このような状況下では、適切な内需の拡大を図る各般の政策努力を行う必要はあるが、そ

れだけでは問題の解決を図ることは困難な情勢であって、より長期的な視野に立った構造

政策の推進が必要になってきている。 本計画においては、こうした観点から、①経済各部門の不均衡を是正すること、②産業

構造の転換とエネルギー制約の克服を図っていくこと、③新しい日本型福祉社会の実現に

努めること、の三つを経済運営の基本として、新たな発想と決意をもって取り組むことと

する。 世界経済が変化の過程にあり、かつ、我が国の経済成長が減速したなかで、数年の間に

これらを達成することは決して容易ではない。さればといって、それ以外の道によって将

来の安全と安定を求めることもまた困難である。選択可能な道は極めて狭く、そのなかで

地道に成果を積み重ねながら最善の努力を払わなければならない。 1.経済各部門の不均衡の是正 我が国経済が、新しい安定した成長軌道へ移行するためには、物価の安定を維持しつつ、

雇用、需給、国際収支、財政等の経済各面における不均衡を是正して、今後の我が国経済

の将来に明るい展望をひらき、民間経済の活力ある展開を図り、最近実現しつつある内需

中心の安定した成長パターンを確実なものとすることが基本的課題となる。 そのため、計画期間を通じ流動的なエネルギー情勢に対応し、物価の安定に十分配慮す

るとともに、必要に応じ長期的視野に立った構造政策を講じつつ、計画期間の前半におい

ては、雇用及び対外均衡に重点を置き、適切な内需の拡大を中心に各般の政策を推進しつ

つ適正な経済成長を確保する。同時に、財政については、支出の見直しを行うとともに、

税について、負担の公平を確保しつつ、負担水準の適正化を行い、収支改善に取り組む。

計画期間の後半においては、民間投資が相当程度回復し、完全雇用が漸次実現するととも

に、国際収支は引き続き国際的に調和のとれた経常収支の水準を維持するよう努める。ま

た、財政はさらに負担水準の適正化を図り、収支の改善を達成する。 2.産業構造の転換とエネルギー制約の克服 昭和 48 年末の石油危機後のコスト・価格体系の変化、成長の減速等に伴う需要構造の

変化は世界の国際分業関係の変化とあいまって、素材産業を中心に広範な需給の不均衡を

もたらし、とりわけ構造不況業種の問題として雇用や地域経済に深刻な影響を及ぼし、我

が国経済に厳しい試練を与えた。最近に至り、景気の全般的な回復のなかで構造不況と呼

ばれた業種の多くにも明るさがみえてきている。しかし、こうした試練の背景となった内

外環境条件の変化には引き続き厳しいものがあり、これに対応して産業構造の転換が求め

られている。すなわち、石油の供給はますます不安定化、高価格化の様相を深めており、

さらに、国際分業促進の必要性もとみに高まっている。他方、消費者や企業のニーズは多

様化しつつある。そうしたなかで、物的生産における知識集約化の一層の進展が求められ、

さらに教育・文化、保健・医療、福祉等の側面でも新たなニーズに応えるサービス供給の

充実が期待されている。 このため、今後、我が国の産業構造は、資源・エネルギーを効率的に使用し、付加価値

を高めつつ、雇用機会の確保と国際分業の進展に役立つとともに、多様な財貨サービスの

供給を行うことが可能な構造へと転換していかなければならない。この転換は、基本的に

は自由な市場機構のもとで、企業の自主的行動を通じて推進されるべきものであることは

いうまでもない。ただし、政府としても、適正な経済成長の持続を図り、産業構造の高度

化を促進するとともに、急激な転換に伴う摩擦、特に雇用、中小企業、地域経済等への影

響をできるだけ減ずるよう必要がある場合には的確な措置を講ずる。 また、原子力、石炭、水力、地熱等の石油代替エネルギーと新エネルギーの開発利用に

ついて、計画期間を超えた将来の展望を踏まえ、環境保全に配慮しつつ、積極的かつ計画

的に推進するとともに、各分野における省エネルギー対策を積極的に進めることが重要で

ある。これらの施策を早急に講じていくことは、我が国経済の安定的な発展にとって重要

な前提条件であると同時に、国際経済社会との調和にも資するものである。 3.新しい日本型福祉社会の実現 我が国の国民生活の水準は、高度経済成長の過程で飛躍的に高まり、先進工業諸国に追

いつき、また、地域間所得格差も目立って縮小した。国民の経済生活が豊かになり、生活

に対する価値観が変化していくなかで、人々はフローからストックを重視し、定住志向を

深め、個人の生きがいと暖かい人間関係を基礎としたゆとりと安らぎのある福祉社会を求

めるようになっている。これまでの高度経済成長のなかで、日本人は個人として、また職

場においてその活力を十分に発揮してきたが、その反面、ともすれば、家庭や近隣社会の

人間的なつながりを見失いがちであった。しかし、今後日本人は、職場で優れた能力を発

揮するほか、生活における潤いのある人間関係をとり戻し、そのうえに充実した豊かな生

活を築くことに努めるであろう。その場合、個々人の創意工夫、努力はもちろんであるが、

公的にも家庭づくり、近隣・地域社会づくり等生活の各断面における条件整備を重視し、

そのための施策の整合化、総合化を図る必要がある。重厚で落ち着きのある国家社会は、

このような潤いのある家庭や近隣・地域社会の基礎の上に成り立つものであり、そのため

の基盤として、都市のもつ高い生産性、良質な情報と、民族の苗代ともいうべき田園のも

つ豊かな自然、潤いのある人間関係とを結合させ、健康でゆとりのある田園都市国家の構

想に向けて、諸施策の展開を図らなければならない。 欧米先進国へキャッチアップした我が国経済社会の今後の方向としては、先進国に範を

求め続けるのではなく、このような新しい国家社会を背景として、個人の自助努力と家庭

や近隣・地域社会等の連帯を基礎としつつ、効率のよい政府が適正な公的福祉を重点的に

保障するという自由経済社会のもつ創造的活力を原動力とした我が国独自の道を選択創

出する、いわば日本型ともいうべき新しい福祉社会の実現を目指すものでなければならな

い。 その過程において、多様化する国民ニーズの変化に応え、公と私がそれぞれの役割と機

能を適切に果たすことができるならば、我が国経済は、より内需中心の発展へ転換すると

ともに、大きい雇用機会を創出することが期待できよう。 しかし、それは、単に国内社会での人間関係の回復や国内市場の新発掘だけでなく、国

際的な人的交流、情報交換や国際経済との連繋交流をより深め、国際分業を円滑に前進さ

せる方向で構築されるべきである。このような意味において、新しい日本型福祉社会は、

国際社会に向かって開かれた福祉社会となるべきであり、その実現は、計画期間中及びそ

れを超えた経済運営の基本となるものである。

Ⅳ 計画の実施 1.計画の実効性の確保 この計画は、中長期的な経済運営に関する基本計画であるが、激変期における計画の意

義と限界を認識して、その実効性の確保と補完を図る必要がある。 第 1 に、この計画は、計画期間において予想される内外環境条件のもとで、望ましく、

かつ、実現可能な各種の目標水準を掲げ、これらを実現するために必要な種々の政策手段

を整合的に組み合わせることによって、今後のあるべき経済社会の姿を国民に提示し、家

計や企業が自由な経済活動を行うに際しての選択の指針にしようとするものである。その

意味では、この計画は、国民に対する問題提起と提案という性格をもっている。したがっ

て、今後、この提案に関する国民的合意形成のための努力が必要であり、要すれば、計画

の改訂を行う柔軟な姿勢が必要である。この場合、各種の政策目標を、整合的に、すべて

望ましい水準にまで完全に実現することは困難であり、ある政策目標を完全に実現しよう

とすれば、他の政策目標が犠牲となり、また、多くの政策目標を同時に達成しようとすれ

ば、それらの目標水準をそれぞれある程度下げなければならない、という関係にあるとい

う点について、国民の理解と協力を求めることが必要である。 第 2 に、この計画は、不確実性の高い今後の内外経済情勢に先見的に対応して、政策

等の提示を行うものである。したがって、計画の実施に当たっては、その指針としての安

定性を確保しつつ、内外諸情勢の変化に応じて弾力的に対処しなければならない。 特に、エネルギー供給については、なお不確実な情勢が続くものと予想されるので、こ

れに機動的、弾力的に対応することが計画の実効性を確保するうえで不可欠となる。この

ため、計画のフォローアップを十分行うとともに、状況の大幅な変化に対しては、適時に

計面の改訂を行う弾力的な対応が必要である。 第 3 に、この計画に提示した諸政策については、あらかじめ、すべての実施の条件を

整えることが困難なものもあり、その具体化に当たっては、必要に応じて制度の制定・改

廃、公共事業関係長期計画等の個別事業計画の策定等を行い、実施のための諸条件につい

ての総合的判断を加えた後に実施に移すことが必要である。 第 4 に、内外情勢の流動化に対応して、この計画の実効性を確保するためには、既存

の政策手段のみでは対応し得ない場合も予想される。このため、新たな政策手段の開発を

進める必要がある。 2.計画のフォローアップ この計画は、経済社会に関する一つの中期的な予測ないし想定を前提にしている。計画

期間を通じて内外情勢はなお流動的な状況が続くものと予想されるので、毎年、経済審議

会は、この計画を踏まえつつ、内外経済情勢の検討を行い、中長期的視点に立って、その

後の政策運営のあり方につき、政府に報告するものとする。その際、計画の前提としての

予測、想定と経済の実績との乖離状況を把握し、新たな情報に基づいて、この計画に参考

資料 1 として添付する予測的数値の必要な修正を図る。政府は、この報告を尊重し、爾

後の経済運営に反映させるように努めることとする。 なお、その検討の結果、内外情勢の大幅な変動、政策理念の変更等により、この計画に

示す目標もしくは政策運営の方向を維持することが困難又は望ましくないと認められる

場合には、適時に計画の改訂を行う。

第 2 部 計画の目標と政策

以上の基本方向を踏まえて、本計画は、①完全雇用の達成と物価の安定、②国民生活の

安定と充実、③国際経済社会発展への協調と貢献、④経済的安全の確保と発展基盤の培養、

⑤財政の再建と金融の新しい対応、を目標として掲げ、これを目指して、次のような諸政

策を整合的に実施する。

Ⅰ 完全雇用の達成と物価の安定 内外の厳しい環境のもとで、当面する厳しい雇用・失業情勢を改善し、雇用の安定を図

るとともに、物価の安定を維持していくことは、国民生活の基盤を守り、我が国経済社会

の健全な発展を図っていくうえで不可欠の要件である。雇用の増大のためには、総需要の

拡大も必要であろうが、過度の公債依存による場合には、物価上昇の危険を強めることに

なり、他方、物価安定のために厳しく需要を抑制すれば、失業の増大を伴う危険がある。

このように、完全雇用と物価安定の両立のためには、今後中期的に極めて幅の狭い成長経

路を通り抜けていかなければならない。我が国経済は、今次計画期間中あるいはそれを超

えて長期的に大きな構造変化を迫られている。このような状況に適切に対処し、完全雇用

の達成と物価の安定の両立を図っていくため、適正な経済成長を維持するとともに、構造

政策的視点を重視し、以下のような諸施策をきめ細かくかつ積極的に推進する。 1.完全雇用の達成 (1)施策の基本方向

〔1〕昭和 48 年末の石油危機後の成長の減速に伴って、労働力需給は従来のひっ迫基調

から緩和基調へと大きく転換し、厳しい雇用情勢が続き雇用バランスの回復が遅れ

ているなかで、雇用問題の重要性はとみに高まってきている。完全雇用の実現をみ

た高度成長期においては、旺盛かつ持続的な雇用機会の拡大や流動性と適応力に富

んだ豊富な若年労働力の供給という条件が存在したが、これらの条件は、本計画期

間においてはかなりの変容をまぬがれ得ない。すなわち、成長の減速により労働力

需要の伸びが全体として鈍化するもとで、産業・職業構造は知識集約化、サービス

経済化の方向を指向しながら大きく転換しつつある。他方、労働力の供給面におい

ても、計画期間中に労働力人口が約 280 万人増加するなかで、30 歳未満の若年層が

約 210 万人減少する一方、50 歳台の労働力人口が 260 万人前後増加し、一挙に中高

年齢化が進むものとみられる。そのうえ、引き続き高学歴化が進行し、また、主婦

の労働市場への参入等により、女子労働力の増加も予想される。このような労働力

需給両面での大きな条件変化のもとでは、国際経済環境の動向や景気の局面如何に

よっては、失業が増加するなど、雇用における不安定性が高まる可能性の強い時代

に際会しているといえよう。

〔2〕今後の雇用環境に対処しつつ、働く意思と能力をもつ人々に対し、その能力と適

性に応じた就業の機会を提供し、ゆとりと生きがいのある生活の基盤を培うことは、

経済社会の安定にとって基本的かつ不可欠の要件であることにかんがみ、計画期間

中できるだけ早く完全雇用を達成するため、あらゆる努力を傾注する。この場合、

我が国経済社会が民間部門の活力ある展開を基盤として発展を遂げてきた事実にか

えりみ、企業のもつ競争的体質と変化への適応転換能力を重視するとともに、国民

のもつ旺盛な勤労意欲と自助の精神に信頼を置き、これに適切に対応するよう雇用

に関連する諸政策の展開を図る。 完全雇用の状態については、多角的、総合的に判断すべきものであるが、基本的

には労働力の需給が総量としておおむね均衡し、需要不足に基づく失業がほぼ解消

された状態であると考える。これは昭和 60 年度については約 5、830 万人の労働力

人口に対して 5、730 万人程度以上の就業を確保し、完全失業者がほぼ 100 万人程

度以下となった状態であるとみられる。このような観点に立ち、本計画においては、

①昭和 60 年度の完全失業率を 1.7%程度以下とし、②特に世帯主の失業率を全体

の水準よりも低い水準にとどめ、③昭和 60 年度の有効求人倍率を 1.0 倍に近い水

準とすることを政策上の目安とする。 なお、今後、多様な形態をとって存在する不完全就業の態様をも考慮しつつ完全

雇用の状態を総合的に判断し得る指標の整備を進める。 〔3〕完全雇用を達成するためには、まず労働力需給を全体として均衡させることが必

要である。本計画期間においては、労働力人口の年平均伸び率が 0.7%程度と昭和

46~53 年度平均の 1.0%から鈍化するとみられるので、適正な経済成長を維持し

つつ、産業構造の知識集約化、サービス経済化の方向に対応した雇用機会の拡大を

図っていけば、それは雇用吸収面での効果が比較的大きい分野の発展を意味するも

のであるので、全体としての労働力需給の均衡を回復することは可能である。 しかし、同時に重要なことは、労働力需給両面にわたり厳しい構造変化に迫られ

ている本計画期間においては、性、年齢階層、知識・技能、職種、地域等による部

分的な労働力需給の不適合が問題となることに対応して、構造政策的見地から、個

別具体的に労働力需給の適合度を高めるような積極的な雇用政策の展開を図ること

である。このような要請に適切に対応していくためにも、雇用政策と全体の経済政

策や産業政策、福祉政策、文教政策等との連携を強化し、諸政策の一層総合的かつ

多面的な展開を図るよう努める。 〔4〕本計画期間においては、特に次の 3 点に重点を指向する。すなわち、第 1 に、急

増しつつある中高年齢層の雇用安定が雇用政策上最大の課題であるとの認識に基づ

き、中高年齢者に対する雇用対策を推進する。第 2 に、産業構造の知識集約化、サ

ービス経済化の方向に対応した雇用機会の拡大・創出を図る。第 3 に、ゆとりある

充実した職業生活を実現するとともに、中長期的には産業における雇用の維持拡大

にも資するよう、労働時間の短縮を推進する。 〔5〕以上のような基本的な考え方のもとに、諸政策の適切な展開を図るため、第 1 に、

各種審議会等の場を活用し、国民各層の代表から広く雇用政策に関する意見を求め、

国民的合意の形成を図り、かつ、その協力を得つつ、雇用政策を推進するよう努め

る。また、第 2 に、雇用問題は労使関係のなかで解決される領域が少なくないこと

にかんがみ、賃金、雇用慣行等の検討・改善に当たっては労使の相互理解と協力が

強く望まれるところであり、雇用政策の面でも、そのような労使の自主的努力を促

進するための条件整備に努める。 (2)具体的施策 1)労働力需給構造の変化のもとでの雇用の安定・確保 ⅰ 雇用機会の拡大・創出

〔1〕我が国の産業構造を展望すると、①知識集約的な組立加工産業、②企業活動の

外部化に伴う対事業所サービス、③家計消費の外生化に伴う余暇関連等のサービス、

④教育・文化、保健・医療、福祉等の社会的サービスなど、雇用吸収面での効果が

比較的大きい分野の発展が期待される。このような動向を踏まえつつ、基礎的な統

計資料の整備を進めるとともに、将来の発展職種に関する具体的な調査研究を進め、

新分野における雇用創出についてその見通しを検討する。さらに、今後発展する職

種の方向を踏まえつつ、人材の養成、労働条件の改善、発展条件の整備に努める。

その際、特に教育・文化、保健・医療、福祉等の分野については、国民のニーズの

高度化、多様化が進み、民間による供給の可能性が拡大するとみられるので、民間

によるサービスの供給の促進策、民間資金の活用策と併せて、専門職種の人材養成

等に努め、これらの分野での雇用の増加を図る。 〔2〕中小企業においては、現に未充足の労働力需要が根強く存在していることに加

え、知識集約化、サービス経済化の進展に伴って、多品種少量生産の分野等中小企

業に適した新たな活動領域が拡大していく可能性が大きいので、その技術力や経営

基盤の強化を図り、併せて雇用管理、労働条件等の改善の面での指導を充実し、良

質な雇用機会が拡大するよう努める。 〔3〕中高年齢化の進展や定住志向の高まりを反映して、労働力の地域間流動性が減

退してきている状況を踏まえ、地域の特性に応じその文化的・技術的蓄積を活かし

つつ、工業の再配置、農林水産業及び地場産業の振興、社会的サービス機能の充実

等を図り、地方における就業基盤の整備と雇用機会の拡大に努める。 ⅱ 部分的な労働力需給の不適合の是正 〔1〕中高年齢層をめぐる労働力需給の不均衡を是正し、その雇用の安定を図ること

は今後の雇用政策上最大の課題であり、中高年齢者の能力を十分活用することは、

我が国経済社会の長期的発展にとっても重要な要件である。 このため、高年齢者雇用率制度の運用の強化を基軸としつつ、高齢者の職業能力

と就労意欲に配慮して、65 歳までの中高年齢層を対象に積極的な雇用政策を推進

する。とりわけ本計画期間の後半には 55~59 歳層の労働力人口が急増することに

かんがみ、定年延長奨励措置等の充実活用を図り、労使の合意のもとに、賃金、退

職金制度や人事管理のあり方に必要な改善を加えつつ、計画期間中に企業の 60 歳

定年が一般化するよう努める。なお、直ちに定年延長を実施することが著しく困難

な業種や企業においては、再雇用制度等を導入して定年延長に切り替えるなど、段

階的に実施していくことも必要であろう。60~64 歳層については、再雇用、勤務

延長等の形態を含め、実質的に企業における雇用が延長されるよう努める。また、

雇用情勢に応じ、中高年齢者雇用開発給付金、高齢者雇用奨励金等の活用を図り、

中高年齢者の雇用開発、再就職を促進するとともに、自営業等も含め、就業機会の

確保に努める。このように中高年齢者の雇用を確保しつつ、その能力が有効に発揮

されるよう職業訓練の拡充、適職の研究開発を進めるとともに、企業の行う職務再

設計等に対し、情報提供等必要な援助を行う。なお、65 歳以上層については、そ

の生きがいを充たすとの観点からも、能力に応じた社会参加の機会が確保されるよ

う努める。 なお、定年延長の推進については、立法化問題を含め、政府の審議会の議を経て

検討を進める。 〔2〕高学歴化が進展するなかで、若年層が適性に応じ多様な分野でその能力を発揮

し得るよう、職業指導や職業紹介の充実、職業情報の提供等により、幅広い職業選

択を促進する。これと併せて、企業においても学歴偏重の人事管理のあり方が是正

されるよう指導する。これらを通じて広く職業に関する意識の転換を図り、若年労

働市場における職業別需給不適合の是正に資する。 〔3〕心身障害者については、その希望や能力に応じて経済的活動に参加し得るよう、

就職援護措置の拡充、職業訓練・紹介体制の整備、適職に関する研究等を推進し、

その就職に一層の援助を与える。また、心身障害者の雇用について国民の理解を深

めつつ、身体障害者雇用率制度の運用により事業主の雇用義務の履行確保に努める

とともに、身体障害者雇用納付金制度に基づく助成措置等を充実し、心身障害者の

雇用の促進を図る。 なお、重度心身障害者については、社会保障との連携を図りつつ、その雇用機会

の確保についても特段の配慮を加える。

ⅲ 失業の予防と再就職の促進 景気の変動、産業構造の転換等経済の基調変化に伴って離職者の発生が予想され

るので、機動的に雇用安定資金制度を活用し、失業の予防に努める。また、やむを

得ず発生した離職者に対しては、雇用保険給付制度等を適切に運用してその生活の

安定を図る一方、各種援護措置を活用しつつ、職業訓練及び職業紹介を機動的に実

施し、その再就職を促進する。特に、構造不況業種や不況地域からの離職者につい

ては、その再就職を促進するため特段の努力を傾ける。 また、雇用情勢に応じて、民間における雇用開発に対する助成制度の活用や不況

地域に対する公共事業の重点配分等の機動的な実施を図る。さらに、雇用に関する

行政体制の整備に努めるとともに、複雑多岐にわたる各種援護制度の整理統合及び

機能強化に努める。

ⅳ 雇用の質の維持・向上 本計画期間においては、労働力需給が概して緩和基調で推移するとみられるもと

で、臨時・パートタイム雇用に対する需要の増加や景気変動に伴い需給が大きく変

動しがちな高齢者、女子労働者の増加が見込まれる。 このような需給両面における質的な変化により、今後、労働条件の比較的低い雇

用の増加が懸念される。このため雇用管理や労働条件に関する監督・指導を強化す

るとともに、低生産性部門の近代化を推進し、不完全就業の解消に努めるなど量的

均衡のみならず雇用の質の維持・向上についても十分な努力を傾注する。

2)経済社会の発展に対応した職業能力の開発・発揮 ⅰ 職業能力の開発・向上 〔1〕経済社会の発展に伴い、職業能力の開発・向上に対する要請は今後一層強まり、

内容的にも高度化、多様化していくものと考えられる。このような要請に応えるた

め、公共、民間を通じて、産業・職業構造の新たな転換方向に対応し、かつ職業生

涯の各段階の必要に応じ得る総合的な生涯職業教育訓練体制の確立を図る。 〔2〕公共職業訓練については、他の教育訓練機関との連携の強化を図りつつ、知識

集約型職種や社会的サービス関連職種など今後雇用の発展の期待される分野に関

する訓練を拡充する方向で、養成訓練体制の整備、在職労働者に対する向上訓練の

拡充等に努める。これと併せて、中高年齢者向け訓練職種の開発や訓練方法の改善

を進め、中高年齢者に対する訓練機会の拡充を図る。 〔3〕生涯教育訓練体制の確立を図るうえで、事業主が行う教育訓練の果たす役割が

大きいことにかんがみ、事業主等に対する援助助成措置の充実、職業訓練の推進活

動を行う民間指導団体の育成強化、企業における有給教育訓練休暇制度の普及を図

る。 〔4〕以上のほか、職業能力の向上の各段階において、その技能や能力が社会的に適

正に評価されるよう、技能検定職種の拡充に努めるとともに、各種資格制度等との

連携の強化に努める。

ⅱ 職業情報の開発・整備 求職者が産業・職業構造の変化の方向を見究めつつ自らの職業経歴の将来設計を

行い、適切な職業選択を行い得るよう、その指針となる職業情報に対する要請が高

まっている。このため、求人求職活動に役立つよう、中高年齢層のニーズにも留意

しつつ、発展職種の展望、業務内容や資格要件等に関する職業情報を開発・整備し、

その提供システムを確立する。また、これとあいまって、職業相談・紹介体制の整

備を図り、職業をめぐる労働力需給の効果的な調整に資する。

3)ゆとりある充実した職業生活の実現 〔1〕国民生活にゆとりをもたらすことはもとより、中長期的には産業における雇用

の維持拡大にもつながることにかんがみ、週休 2 日制の普及促進、夏季等に連続

して休暇を取得する慣行の育成等による年次有給休暇の消化促進、あるいは過長な

所定外労働時間の縮減など、各面にわたり労働時間の短縮を推進する。 特に、週休 2 日制については、欧米諸国並みの水準に近づくことを目途として、

その一般化に努める。このため、大企業等既に週休 2 日制を採用している企業に

ついては完全週休 2 日制への移行を促進するとともに、中小零細企業、サービス

業等比較的導入の遅れている分野においても、地域ぐるみ業種ぐるみで進めるなど、

各般の工夫により週休 2 日制が一般化するよう指導を行う。また、銀行等金融機

関については、一般産業における実施状況や預貯金業務を行う他の機関の実施との

関連にも配慮しつつ、さらに国民の理解を得る等実施に必要な条件を整備すること

により、完全週休 2 日制への移行を推進する。官公庁についても、民間の普及状

況を勘案し、国民世論の動向等を踏まえつつ、週休 2 日制の導入を図る。 なお、労働時間短縮の推進に当たっては、労使の協力が必要であることは言うま

でもないので、産業や企業の実情に応じ、年間実労働時間の観点をも含め、雇用、

労働時間、賃金の関係について労使の合意が形成されるよう努める。 〔2〕労働者の健康と安全を確保していくことは、職業生活の安定にとって必須の条

件である。とりわけ、今後、人口の高齢化が急速に進展するもとで、中高年労働者

の健康の保持増進に努めることが、従前にもまして重要となる。このため、引き続

き健康診断の充実や作業環境改善の促進等に努めるとともに、中高年齢者に重点を

置いた総合的な健康管理対策の整備・拡充を図る。 また、近年、労働災害が増加傾向にあることにかんがみ、職場の安全衛生管理等

の充実を図るとともに、被災労働者の救済と社会復帰の促進のための労災補償制度

の整備・活用を図る。 〔3〕女子労働者については、職場においてその能力が十分に発揮され、かつそれに

応じた待遇を受けることができるよう、雇用機会と待遇の男女平等の促進に努める。

さらに、再就業や新たに就業を希望する婦人に対しては、職業相談・職業指導の充

実を図り、ライフサイクルに合わせた能力開発の機会の確保に努める。また、育児

休業制度の普及のための指導・援助を充実し、婦人の職業生活と家庭生活の調和を

図る。 〔4〕勤労者の長期的な生活設計に基づく豊かな職業生活の形成に資するため、勤労

者財産形成促進制度のより一層の活用を図り、勤労者の財産形成を促進する。また、

高齢者については、定年の延長、再雇用の促進等の高齢者雇用対策を進めるととも

に高齢者の生活設計に十分留意するなど、雇用政策と社会保障政策との連携を密に

し、勤労者が職業生活から所得保障のある安定した老後生活へ円滑に移行していけ

るような条件を整える必要がある。

4)国際化への対応 国際経済社会における我が国の新しい役割を踏まえて、教育訓練体制の国際化への対

応を進め、国際化時代にふさわしい人材の育成・確保に努めるとともに、海外からの研

修員の受入れ、海外における職業訓練への援助等職業訓練面での国際協力を促進し、さ

らに広く各種専門家、技能者、指導員等の国際交流を推進していく体制の整備を図る。

2.物価の安定 (1)施策の基本方向 〔1〕物価の安定は、国民生活の安定を確保し、均衡のとれた経済発展を図っていくう

えで基本的かつ不可欠の条件であることにかんがみ、政府はそのために果断な政策姿

勢をもってのぞむ。 〔2〕高度成長期には、多くの企業が需要の拡大に対応して生産性を高め、全体として競

争的、効率的な経済が形成された。このことが、海外原燃料価格の長期的安定とあい

まって卸売物価を安定的に維持してきたが、他方、消費者物価は、相対的に生産性上

昇の遅れた部門のコスト上昇を反映して持続的に上昇した。 今後の物価をとりまく諸条件は高度成長期に比べて大きく変わろうとしている。第

1 に、石油情勢に端的に現れているように海外原燃料価格は著しく不安定性を増して

おり、量的にも従来のような安定的確保は困難になってきている。第 2 に、成長減速

に伴って、これまで高い生産性上昇を示してきた分野でも生産性上昇率が鈍化し、名

目所得の引上げ要求が強まった場合には、コスト面から物価が上昇しやすくなる。ま

た、分野によっては非競争的要因が強まり、市場における価格競争が弱まるおそれも

ある。第 3 に、すでに大量の公債を抱えている我が国経済にあっては、今後も予想さ

れる公債の発行のもとで、通貨供給量の増大が物価の上昇につながる懸念がある。 このように卸売物価を含めて物価が上昇しやすくなることに加え、第 4 に、サービ

ス経済化が進むことにより、生産性が上がりにくく、効率化が十分でない分野のウエ

イトが増大し、消費者物価の押し上げ要因となるおそれがある。

〔3〕以上のような物価をとりまく環境の変化を踏まえ、物価安定のための政策姿勢の重

点を次の 3 点に置くこととする。 第 1 に、物価の動向には常に十分な配慮を払うとともに、機動的な総需要管理によ

って、物価上昇を防止しつつ適時適切な経済運営に努める。また、将来への不安感を

とり除く意味で、緊急時の物価高騰への備えを怠らないことはいうまでもない。 第 2 に、競争条件を整備しつつ、内外の構造変化への粘り強い対応努力を行う。す

なわち、国内産業との調整を図りつつ、消費市場を国際的に一層開放し、日本経済の

国際化の進展に対応すること、また、今後予想されるサービス経済化の進展に対応す

ることなど、計画期間中には大きな構造的問題に直面しなければならない。このため

物価安定の見地から、競争の促進等に努め、産業の効率化努力を一層強化することな

ど構造的諸政策を強力に展開する。 第 3 に、世界各国経済の相互依存関係の強まり、世界の一次産品価格の不安定等か

ら、いまやインフレは世界共通の問題であるとの認識に立ち、政策協調や経済協力を

通じて世界のインフレ防止にも寄与していくという政策視点を確立する。 特に、原油価格の上昇に対しては、その国内価格への反映、石油消費節約の徹底等

日本経済の適応を速やかに進める。また、中長期的にも石油供給が不安定な状況にあ

ることにかんがみ、国際協調を図りつつ、省エネルギーの推進、代替エネルギーの開

発利用の促進等により、価格高騰要因の軽減に努める。 〔4〕このように本計画においては、機動的総需要管理と併せて各般にわたる構造的諸政

策を重視する観点から、以下に掲げる物価安定政策を他の諸政策との緊密な連携のも

とに推進することとし、計画期間を通じ卸売物価をできるだけ安定的に維持するよう

努めるとともに、消費者物価の上昇を極力抑制する。この場合、消費者物価の計画期

間年平均上昇率を 5%程度にとどめることを政策上の目安とする。 〔5〕また、中長期的なインフレ傾向防止の観点からは、価格及び賃金等の諸所得がおの

ずから安定的かつ経済と整合的に形成されることが重要であるので、国民経済の動向

及び実施すべき諸政策の内容を明らかにし、国民各界の意見に耳を傾けつつその理解

と協力を得、物価安定のための諸政策について国民的合意が形成されるよう積極的な

努力を行う。 (2)具体的施策

1)総需要管理政策の機動的運営 〔1〕我が国経済は、いまや世界の経済動向に大きな影響力を持つとともに、世界のイ

ンフレの影響を受けやすくなっている。また、成長減速下では、生産能力の伸びが低

いため、総需要の急激な拡大は需給の不均衡をもたらし、物価上昇を招きやすい。こ

のような認識に立って、世界各国の経済政策とも協調しつつ、物価安定と完全雇用の

両立を目指し、適切かつ機動的な総需要管理を推進する。

特に、本計画期間においては、国民生活充実の基盤となる社会資本整備を重点的に

進めていく必要があるが、その執行に当たっては、物価情勢等にも配慮する。 〔2〕また、計画期間中、財政健全化に努めてもなお当分の間は相当程度の公債発行が継

続すると予想される。これが通貨供給量の増大につながるとすれば、ひいては物価安

定を阻害することが懸念される。このため、適切な公債管理によって円滑な公債の消

化を図るとともに、通貨供給量に十分配慮した金融政策を行う。 〔3〕一般消費税(仮称)の導入に際しては、その性格について周知徹底を図り、便乗値

上げの防止等に努める。 2)競争政策の推進 〔1〕高度成長期に比べ成長の減速とサービス経済化など構造変化に直面している今後

の日本経済にあっては、有限な資源が最も効率的に配分され、長期的な物価の安定が

確保されるために、市場における公正かつ自由な競争の重要性が従来にも増して大き

くなる。このため、流通・サービス部門を含め経済の各分野について、次のような独

占禁止政策等の展開を図る。 〔2〕第 1 に、独占禁止法の運用等を厳正に行うことである。すなわち、

① 私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法による競争制限的行為や、独占

的状態の有無及び価格の同調的引上げについて、引き続き調査、監視に努める。特

に、事業者団体については、独占禁止法の趣旨及び具体的違反事例等の周知徹底に

より、競争制限的行為の防止を図る。 ② 合併、業務提携等の動きに対しては、実態を把握し、独占禁止法の適正な運用

等によって対処する。 ③ 独占禁止法適用除外カルテルについては、引き続き必要性を検討し、その必要

の低下したものについては整理を図る。また、不況カルテル等の新たな認可に当た

っては、その必要性と期間について十分検討するとともに、その実施中も当該物資

の需給、市況等の監視に努める。 ④ 流通業、サービス業等今後需要の増大が予想される分野に対し、独占禁止法の

運用等を強力に展開する。メーカー等による流通系列化や流通部門における各種取

引慣行については、競争を阻害することのないよう調査、監視を行い、必要に応じ

て是正、見直しを進める。再販売価格維持制度についても、制度のあり方を検討す

る。 ⑤ 以上のように独占禁止法の厳正な運用等を図るべき分野が拡大することにかん

がみ、こうした分野に対する監視を強化する。 〔3〕第 2 に、各種規制制度については、可能なものについて企業体の合理化に資する

ようその活用を図ることとし、競争促進の見地から必要に応じ制度及び運用の見直し

に努める。また、今後流通部門や中小企業部門等で増大が予想される企業間の利害調

整問題の処理に当たっては、極力競争を阻害することのないよう留意する。 なお、今後新しく公的規制措置を設定しようとする場合には、規制目的や有効性と

ともに、その物価、競争条件への影響も併せ検討したうえで判断することとする。

3)低生産性部門の合理化促進 〔1〕従来我が国で消費者物価が持続的に上昇した大きな要因は、概して消費に関連の

深い分野での生産性上昇が相対的に立ち遅れたことにある。今後の物価をとりまく環

境の変化のもとで、消費者物価が大きく上昇するという事態を避けるためには、これ

らの分野の生産性向上努力が一層重要となる。 〔2〕このため、生産性向上を意図して行われている各般の諸政策の効率化を図るとと

もに、サービス、流通、中小企業、農業等低生産性部門の生産性向上努力を一層促進

する。この場合、国際比価の著しく高い分野については、我が国の諸条件を踏まえた

長期的な展望に立って着実に合理化を進める。 〔3〕また、消費の高度化、多様化に伴う需要構成の変化に即応して、中小企業の業種

転換など、新たな産業構造への円滑な転換を促進することにより、物価の安定に努め

る。 〔4〕特に、我が国の流通部門については、つとに零細、多数、多段階といった特徴が

指摘されているところであり、物価安定や省資源・省エネルギー等の国民経済的観点

からみても流通活動を一層効率化し、流通コストの増大を極力抑制する必要がある。

そのため、個別企業の合理化のみでなく流通機構全体にわたっての総合的効率化を進

める観点から、新しい流通チャネルの形成、物流施設や輸送手段の近代化及びその効

率的活用を図る。とりわけ、国民の日常生活に直結する食料品流通については、その

改善を強力に推進する。こうした政策努力と企業努力とがあいまって、流通業全体と

しての生産性向上が国民経済全体のそれに著しく遅れることのないよう期待する。 〔5〕サービス部門については、その対面性、地域性といった性格もあって相対的に効

率化が進みにくい分野であることにかんがみ、より一層の生産性向上努力を促進する。

また、サービス部門のうち需要が時間的、時期的に集中しやすいものについては、そ

の平準化の方途を検討する。さらに、今後増大が予想される社会的サービス需要に対

しては、公的部門と民間部門の資金、活力を有機的に組み合わせ、適切かつ効率的な

供給の促進を図る。

4)輸入政策の活用 〔1〕今後、経済の国際化が進展するなかで、物価の安定や消費者の選択幅の拡大を通

じて消費者利益を確保し、また国際協調を推進していくためには、消費財を中心とし

た製品等の輸入の拡大を図っていくことが重要な課題となる。このため、次のような

方向で輸入政策の活用を図る。

〔2〕関税率の引下げや、輸入割当品目の輸入枠拡大をはじめとする各種非関税障壁の

軽減、撤廃については、多角的貿易交渉(東京ラウンド)の交渉成果を確実に実施に

移していくとともに、国内生産者の生産性と競争力向上のための努力を計画的に促進

し、国内産業との調整を図りつつ市場の開放に努める。 〔3〕また、我が国の市場についての海外諸国の理解を促進する必要があるので、諸外

国に対し日本の輸入制度や流通機構についての積極的な情報提供を行う。 〔4〕他方、我が国の市場を一層開放的にし、並行輪入等輸入業への円滑な参入を促進

するため、内外貿易業者、流通業者等を対象とする競争政策の推進、消費者団体など

による輸入の促進、輸入に関連する市場情報の提供等に努める。 〔5〕さらに、これら施策の効果が国内の加工・流通段階で消滅せず、国内物価の安定

に資するよう、輸入品の流通・加工過程の合理化や競争条件の整備等を推進する。

5)生活必需物資の価格安定 〔1〕生活必需物資の価格安定は、国民の日常生活の安心感に直接つながるものである

から、それらの需給・価格動向の調査、監視を強化し、情報提供の充実等に努めると

ともに、生産、流通、消費を通じ合理化を進め、その供給と価格の安定を図る。 〔2〕特に、食料品については、生鮮食品に天候などによる大幅な価格上昇の生ずるこ

とがあり、また一部に国際的に割高な品目もみられるので、次のような各般の施策を

強力に推進する。 ① 野菜、果物については、引き続き計画的生産・出荷体制の確立促進に努めると

ともに、産地の遠隔化、人件費の増大等に対処し、輸送コストの節減に努め、その

安定的供給を図る。また、価格高騰時対策として「野菜生産出荷安定法」に基づく

対象野菜の計画的買入、保管、放出等の措置を推進する。 ② 食肉については、生産体制の合理化、飼育技術の改善等生産性向上努力を計画的

に促進するとともに、産地の流通体系や卸売市場の整備を推進することにより、食

肉流通の近代化、合理化を図る。また、価格安定制度、輸入制度等については、価

格の需給調整機能を重視し、極力国内需要に即応した適切な運用を図る。なお、生

産性と国際比価に配慮しつつこうした諸施策を整合的に進めると同時に、必要に応

じ価格安定のための方策についても引き続き検討する。 ③ 魚介類については、200 海里時代の到来という新たな情勢を踏まえ、栽培漁業の

推進等沿岸・沖合漁業の振興、遠洋漁場における生産の維持確保に努めるとともに、

適切な輸入の活用等により、その安定的供給を図る。また、生産から小売に至る流

通機構の整備、合理化を図るとともに、加工処理過程の合理化等により水産物の高

度利用を推進する。 ④ なお、今後食料消費に占める加工食品のウエイトが一層高まることが予想される

ため、そのための輸入原材料を含め、その価格動向に十分配意するとともに、食品

加工産業の生産性向上努力を促進する。

6)厳正な公共料金政策 〔1〕公共料金については、受益者負担を基本とし、徹底した能率的経営を前提とする

適正なコストに見合った厳正な料金であることを原則とする。 料金の改定に当たっては、物価の動向、国民生活に及ぼす影響等を十分考慮すると

ともに、便乗値上げが生じないよう適宜監視を行う。 〔2〕コスト原則の範囲内で、料金体系につき、個々の料金の性格に応じて資源・エネ

ルギーの節約等の公共政策目的に配慮する。 〔3〕公共料金に関連する企業体の合理化を一層促進するため、企業体の経営について

既存制度を活用して監督、指導等を行うこととし、競争により効率化を図ることが

適切な部分については、必要に応じ制度の弾力的運用等に努める。 〔4〕現在大幅な赤字を抱えている企業体については、早急に再建計画を確立して、企

業体の徹底した経営合理化を進めることを基本としつつ、企業体、利用者、行政そ

れぞれの役割を明らかにし、国民の理解を求めながら企業再建に努める。

7)物価高騰への対応 〔1〕海外インフレその他何らかの原因で物価が高騰した場合には、迅速な物資の供給、

便乗値上げの防止、敏速・的確な情報の提供等きめの細かい対策に努め、消費者の冷

静な対応を促す。また、必要に応じ「国民生活安定緊急措置法」等の運用によって機

動的に対処する。 〔2〕物価高騰が生じた場合の対策にとどまらず、国民のインフレ不安をはじめ将来へ

の不安を取り除くためにも、極力事前の対応策を図る必要がある。 このため、今後の最も大きな不安定要素とみられる海外原燃料については、国際

協調への継続的努力により、その価格と輸入の安定化を図る。また、今後とも重要

資源等の備蓄の充実に努める。 〔3〕大規模災害等に際し、円滑な市場的供給が復活するまでの間に、生活用品等の価

格の暴騰、払底を招くことのないよう、また住民が冷静な行動をとり得るよう、適

切な情報連絡体制の整備、消費者による非常食糧、身の回り品等の備蓄の促進、積

極的な消費者啓発等を通じて地域社会の安心感の増大を図る。

Ⅱ 国民生活の安定と充実

我が国の経済社会は、明治以来一世紀余にわたって、先進工業国の水準に追いつくこと

を目標とし、できるだけ高い経済成長を達成することを通じて、国民生活の水準を高めて

きた。しかし、欧米先進諸国へのキャッチアップをほぼ達成した現在では、国民生活の量

的拡大から質的向上へと国民意識が変化しつつある。 さらに長期的な変化の方向としては、我が国の人口構成は今後 21 世紀初頭にかけて急

速に高齢化することが予想されており、国民生活の各部面に大きな影響を及ぼすものとみ

られる。また、経済成長の減速のもとで、公共部門の財源上の制約が強まる反面、公共サ

ービスに対する国民のニーズはますます増大し、それに対応するためには働く世代の負担

が著しく重いものとなるなどの問題を生じさせる。こうした背景のもとで今後の我が国の

社会が進むべき基本的方向として、国民の勤労意欲の強さや社会的流動性の高さなどで示

されるような社会経済的特質を生かした新しい日本型福祉社会の創造が求められている。

それには、自由経済社会のもつ創造的活力を生かして国民生活の向上を図ることを基本と

して、効率の良い政府が適正な公的福祉を重点的に保障するとともに、個人の自立心と家

庭の安定が基礎となって、その上に近隣社会等を中心に連帯の輪が形成され、国民一人一

人が真に充実した社会生活を営むことができるような環境づくりを進めることが重要な要

件となる。 こうした公私それぞれの努力によって実現を目指す日本型福祉社会における国民生活

の姿と、それを実現するための主要な公的施策は、次のとおりとなろう。 第 1 は、安定と安らぎのある国民生活である。そのためには、国民生活の基礎である雇

用と物価の安定を図るとともに、人口高齢化などの社会的変動に対応して、社会保障が的

確な役割を果たし得るよう、年金、保健・医療、社会福祉の各部門にわたり、長期的な展

望に立って体系的な整備を進める必要がある。さらに、商品・サービスの高度化・多様化

に対応して、消費生活の安全性を確保すること、また、災害、交通事故等から国民の生命、

財産を保護するための十分な対策を実施することは、国民生活の安定にとって欠かせない

条件である。 第 2 は、ゆとりと生きがいのある国民生活である。そのためには、国民の意識が物的生

活の向上の追求からゆとりや生きがいといった精神面、文化面の充実を求める方向へと変

化することに対応して、週休 2 日制の普及などによる自由時間の一層の増加に伴い、余暇

活動や教育、文化活動等に対する国民の欲求の高まりに応えて、学校教育や社会教育など

の充実を進め、また、地域住民の文化・社会活動への参加の機会が十分に設けられるよう

配慮する必要がある。 第 3 は、快適で潤いのある国民生活である。そのためには、すべての家庭が地域特性に

応じた望ましい質と住環境を備え、かつ、長期にわたって良好な資産となり得る住宅を確

保できるようにすることを目指して、施策の拡充を図るとともに、豊かな環境の形成を目

指して、総合的な環境政策を推進する必要がある。さらに、経済活動とのバランス等に留

意しつつ国民生活の基盤となる社会資本の整備を重点的に進めることにより、計画期間中

に社会資本ストック(公的純固定資産)は現在の 2 倍近くに高まると見込まれ、国民生活

の一層の充実に資することが期待される。 同時に、以上のような三つの目標で示される国民生活の質的向上を実現するための基礎

的条件として、田園都市国家構想の理念に照らして定住圏の整備を進めるとともに、健全

な家庭や近隣社会の育成という政策視点が必要である。高度経済成長のなかで、ともすれ

ば見失われがちであった家庭や近隣社会のあたたかい人間的なつながりを抜きにしては、

真に充実した国民生活の実現は期待することができない。この意味において、公的にも家

庭の基盤を充実し、近隣社会づくりを促すための条件整備に努めることが必要であり、特

に家庭基盤の充実については、そのような視点から関連施策の総合的な見直しを行う必要

がある。

1.社会保障の整備 (1)施策の基本方向 〔1〕我が国の社会保障は、昭和 30 年代の国民皆保険、国民皆年金の実現以後、40 年代

に年金、保健・医療、社会福祉の各分野にわたり大幅な改善が図られてきた結果、制

度的には西欧諸国と比較してほぼ遜色のない水準に達している。 一方、我が国は、当面核家族化のすう勢が続くとともに、人口構造が長期的に高齢

化の一途をたどり、昭和 70 年代には 65 歳以上人口比率が現在の西欧諸国に並び、

以後は世界のどの国も経験したことがない高齢者社会となることが見込まれている。 人びとの生活の安定は、一般的には個人の自助努力に加えて、家族の相互扶助、さ

らには近隣社会をはじめとする社会連帯などのあたたかい人間関係のもとに築き上

げられるものであろう。そのなかで社会保障の基本的任務は、公的に保障すべき所得

又はサービスを適切に提供し、国民が生涯のどの段階においても不安なく生活設計を

立て得るような基礎的条件を整備することである。 したがって、今後の社会保障の方向としては、現在までに達成した西欧諸国に遜色

のない水準を維持しつつ、予想される社会的変動及び経済環境の変化に即応して、一

層的確かつ安定的にその役割を果たしていけるよう、長期的な展望に立って、体系的

に整備を進めていかなければならない。 〔2〕高齢者人口の増加、年金制度の成熟化等に伴って社会保障移転(注 1)の規模は長

期的に増大し続けることが見込まれる。それに応じて社会保障負担(注 2)等国民の

負担も高まらざるを得ないが、経済成長の減速のもとで負担の上昇が可能となるため

には、社会保障の給付内容とそれに応ずる負担の程度について、国民の理解と合意が

成立していなければならない。このため、今後の社会保障の整備を進めるに当たって

は、次の原則によることとする。 ① 緊要度の高い施策について重点的に拡充する一方、関連の各種施策の有機的連

携を図り、効率的な社会保障体系を作る。 ② 社会的公正を確保する見地から、給付と負担の両面にわたって、合理的な理由の

ない制度間の不均衡の是正を図る。 ③ 合理的で適正な給付と負担の関係を明確にすることに努め、国民の合意を形成し

ていく。 (注 1)「社会保障移転」とは、社会保障の分野において政府から家計に移転される所得

をいう。 (注 2)「社会保障負組」とは、社会保険料として、政府に移転されるものをいう。

(2)具体的施策

このような原則に立って、年金、保健・医療、社会福祉の各部門において、次のよ

うな施策を推進するものとする。 1)年金部門 〔1〕我が国の人口構造の高齢化と年金制度の成熟化に対応して、制度の長期的な均衡

と安定を目指す必要がある。このため、給付水準、給付体系、支給開始年齢、婦人の

年金及び費用負担のあり方、業務処理体制の整備、企業年金の位置づけ等について総

合的、体系的な見直しを行い、合理的な理由のない制度間の不均衡を是正し、今後避

けられない費用負担の増大に対し財政の安定を図るよう、年金制度全般にわたり計画

的に制度の改革を進める。 〔2〕このような長期的展望に立った制度改革の一環として、政府の関係審議会の審議

を踏まえて、まず、被用者年金の支給開始年齢の一定期間をかけた段階的な引上げに

ついて検討を進め、早期にその着手を図る必要がある。その際、定年の延長、再雇用

の促進等の高齢者雇用対策を進めるとともに高齢者の生活設計に十分留意するなど、

社会保障政策と雇用政策との連携を密にし、勤労者が職業生活から所得保障のある安

定した老後生活へ、円滑に移行していけるような条件を整える必要がある。 また、遺族年金について、支給要件の見直し等を行うとともに、その重点化を含

め適正な給付水準の確保に努め、さらに、福祉年金、5 年年金といった経過的年金の

給付水準の改善についても、その財源のあり方、制度の本来的な給付水準とのバラン

ス及び長期的な年金財政に与える影響を十分検討したうえで、適切に対処する必要が

ある。 〔3〕今後の年金受給者の急増、国民の年金に対する関心の高まりに対応し得る業務処

理体制を確立するため、全国オンライン・システム化を実施し、国民に対し身近な社

会保険事務所で、迅速できめ細かなサービスを提供する。

2)保健・医療部門 〔1〕地域の特性に配慮しつつ健康の増進、疾病の予防と治療、リハビリテーションま

での一貫性のある包括的保健医療体制の確立を図ることを目指し、次のような施策に

重点的・計画的に取り組む。 ⅰ 国民の健康の保持、増進を促進する。 ① 妊婦、乳児から老人に至るまでの生涯を通じる健康管理体制の充実

② 健康づくりに必要な市町村における対人保健サービス施設等の整備、技術の

開発及び人材の養成・確保 ③ 正しい食生活、運動等の実践のための健康づくりに関する知識の啓蒙普及 ⅱ 休日・夜間診療をはじめとする救急医療、へき地医療等の確保を図る。 ⅲ がん、循環器病等の専門医療機能及び老人、心身障害者等のリハビリテーショ

ン機能等の計画的整備を図る。 ⅳ 医療機関相互の役割分担の明確化など国民医療の適正かつ効率的な確保を目指

す医療供給体制の検討を行う。 ⅴ 医師、看護婦、理学療法士、作業療法士等医療従事者の養成、定着及び資質の向

上を図る。 〔2〕すべての国民が、進歩する医学・医術の成果を効果的に享受できるよう、医療情

報システムの開発等医療に関する研究体制を強化するとともに、その成果の普及を

図る。 〔3〕医薬品等の有効性及び安全性の確保を図るとともに、医薬品副作用被害について

救済制度による救済を行う。 〔4〕国際交通の拡大等にかんがみ、国際機関との連携の推進をはじめとする検疫・防

疫対策の充実を図る。 〔5〕医療費保障のための諸制度については、国民の必要な医療を保障するとともに、

近年における急激な医療費増加傾向に対処するため、医療給付と費用負担の適正化

を図ることを旨とし、次の考え方に立って基本的改革を進める。 ⅰ 医療保険については、①本人・家族間の給付格差の是正、②制度間の給付及び

財政力格差の是正、③一部負担の適正化及び家計の高額な負担の軽減、④保険料

負担の公平化、⑤保険料負担割合と患者負担割合の合理的見直しによる給付水準

の適正化、⑥保険財政の長期的安定、⑦診療報酬、薬価基準の適正化及び適正な

医療費支出対策の推進、⑧付添看護等の保険外負担問題の改善等を図る。 ⅱ 老人保健医療制度については、老人に対する総合的保健医療対策の確立の要請な

どに対応するとともに、公平かつ適正な費用負担のあり方について検討を進める。

その他の公費負担医療制度についても、給付と費用負担のあり方について検討を加

える。

3)社会福祉部門 〔1〕家庭、地域社会及び福祉施設の有機的な結合を基盤とした社会福祉サービスのシ

ステムづくりを通して、高齢化の進展等に伴い拡大し多様化する福祉需要に的確に応

えるため、次の施策に重点的に取り組む。なお、その際、地域における福祉サービス

と保健医療サービスの密接な連携に努める。 ⅰ 老人、心身障害者等の社会参加を促進する町づくり、生きがい対策事業等の推

進を図る。 ⅱ ホームヘルプサービス等の拡充及びデイサービス、ショートステイサービス等既

存施設の地域社会への開放の推進等による在宅福祉サービスの充実を図る。 ⅲ 老人、障害者等の機能の回復、児童の健全育成などを目的とし、地域福祉の基盤

の強化につながる通所、利用施設の整備を図る。 ⅳ 収容施設については、ねたきり老人、重度の心身障害者等の施設の重点的整備

を図る。 ⅴ 社会福祉サービス従事者の資質の向上を図る。 〔2〕所得水準の上昇、国民意識の変化、所得保障の拡充など経済的、社会的変化に即

応しつつ、適切な福祉サービスが提供されるよう、①公的な社会福祉サービスとその

費用負担のあり方、②市民や企業のボランタリーな福祉活動の振興、③有料老人ホー

ムなど市場機構を通じて提供されるサービスの活用、有料の対人サービスの導入等に

よる福祉需要の多様化への対応などについて検討を進める。

4)社会保障の規模 以上の諸施策を講ずることにより、社会保障移転の国民所得に対する比率は、昭和

53 年度の 12.3%から昭和 60 年度に 14.5%程度に増加させることを見込む。 また、社会保障移転の規模の増大に伴い、社会保障負担の国民所得に対する比率を、

昭和 53 年度の 9.0%から昭和 60 年度に 11%程度へ引き上げることを予定する。 2.教育の充実、学術・文化の振興 (1)施策の基本方向 〔1〕我が国の教育は、学校教育を中心として戦後 30 年の間に大きな進歩を遂げ、国民

の資質の向上と経済社会の発展に多大の貢献をしてきたが、経済社会の変化に伴って、

新しく多様な要請が教育等の領域に課せられつつある。 すなわち、高学歴社会の進行、人口の中高年齢化、産業構造や就業構造の変化等経

済社会の変化が急速に進みつつあるなかで、新たな文明社会の構築に向けて、英知と

創造性に富んだ人間性豊かな国民の育成が必要となっている。また、生活水準の向上

等により、国民の関心も物質的豊かさから心の豊かさへと移行しつつあり、さらに、

定住志向の高まりとともに生活の場における文化活動が一層重視されるようになっ

てきており、それらに伴い教育、学術、文化面での新たな対応が求められている。 〔2〕こうした社会構造や産業・職業構造の変化に伴う社会的要請に適切に対応し、か

つ、国民の生涯の各段階における多様な学習ニーズに対応した教育学習機会の確保と

いう観点から、学校数育及び社会教育の充実を図る。併せて、国民各人が自らの健康・

体力の保持増進を図り、明るく活力ある生活ができるようにするための体育・スポー

ツ等の振興や、精神的、文化的に豊かでゆとりのある国民生活の創造を図るため文化

の振興に努めるとともに、我が国の長期的な発展と国民福祉充実の基盤となる学術研

究の振興に努める。 また、我が国の教育、学術、文化の発展と、国際社会への協調と貢献を図るため、

これらの分野の国際交流を推進する。 (2)学校教育の改善充実

ゆとりのある充実した教育の実現と教育の質的水準の維持向上に重点を置いて、以下

の施策を進める。 1)初等中等教育の改善充実 〔1〕小・中・高等学校を通じて、知・徳・体の調和のとれた創造力豊かで人間性に

富む国民の育成、ゆとりのある充実した学校生活の実現、基礎的教育の重視等の観

点に立って、教育内容、方法の改善を進める。特に、中等教育の段階においては生

徒の個性、能力等に応じた教育の改善に努める。 また、心身障害児童生徒については、その障害の種類、程度に応じて適切な指導

が行われるように教育内容を改善充実することとし、特に社会的自立を目指した職

業教育の一層の充実を図る。 〔2〕就学人口の増加に対処して、小・中・高等学校施設及び特殊教育諸学校施設の

整備を進める。 〔3〕幼稚園については、保育所との調整を図りながら、入園を希望する 4、5 歳児の

就園を可能にすることを目標に整備を進める。 〔4〕教員の資質能力の向上を図るため、教員の養成及び研修の改善充実に努める。

2)高等教育の整備充実等 〔1〕大学については、経済社会の変化に伴う社会的要請に適切に対応しつつ、その

質的充実を図るとともに、計画的な人材の養成を必要とする分野の拡充や、地域間

の専門分野構成、収容力の適正化に重点を置いて、その整備を図る。 〔2〕高等教育に対する国民各層の多様な要請に応えるため、放送大学や専修学校な

ど中等教育後の教育機会の多様化を進める。特に、放送大学については、所要の準

備措置を推進し、学生の受入れを図る。また、社会人の再教育の場としての高等教

育の弾力化等の方策について検討を行う。 〔3〕大学の入学者選抜方法については、国公立大学における共通第一次学力試験実

施の経験を踏まえつつ、今後、さらに、国公私立を通して改善に努める。 〔4〕私立学校については、教育条件の維持向上や修学上の経済的負担の軽減を図る

ため、引き続き施策の充実に努める。 〔5〕国公私立を通じた授業料等教育費の適正な負担のあり方について検討する。ま

た、育英奨学制度については、合理化を図りつつ、その充実に努める。

(3)社会教育、体育・スポーツ等の振興 〔1〕生活水準の向上と自由時間の増大、高学歴化に伴う学習意欲の向上等を背景とし

て、国民各層の教養や趣味のための学習、心身の健康のための体育・スポーツ等に対

する要請が高まっている。このため、各種の社会教育施設、体育・スポーツ施設、レ

クリエーション施設等の整備、指導者の養成確保、各種の情報提供に努めるとともに、

民間ボランティア活動の育成やスポーツクラブの育成等、社会教育、体育・スポーツ

に関する各種事業の奨励を図る。また、これらの活動を通じて健全な地域社会の形成

や社会的連帯意識の涵養に資する。 〔2〕子供の豊かな人間形成に資するため、家庭教育に関する社会教育の充実を図る。

また、入口の高齢化に対応して、高齢者のための学習機会の確保や社会教育等の指導

者としての高齢者の活用に努める。 〔3〕体育・スポーツの普及に当たっては、身近な施設の確保という観点から、学校体

育施設や職場スポーツ施設の地域社会への開放を一層促進する。 (4)文化の振興

心の豊かさ、生活のゆとりと潤いを求めて国民の多様な文化活動に対する要請が高ま

っていることにかんがみ、国民一人一人が歴史と伝統に根ざした地域の特色を生かしつ

つ、新しい文化を創造していくことができるような文化環境の醸成に努める。このため、

文化財保護のための施策の充実に努めるとともに、芸術文化活動の振興等を図る。また、

これらの活動の拠点となる各種文化施設の整備に努める。 さらに、各般にわたる行政施策のなかに文化創造の視点を加味するとともに、各種施

設の整備に当たっては、地域に対する愛着と帰属感の象徴としての働きをもたせるよう

努める。 (5)学術研究の振興

独創的、先駆的な学術研究の振興を図るとともに、核融合等の新エネルギー開発、宇

宙・海洋開発、地震・火山噴火予知、がん等の難病対策などの国民生活に深いかかわり

をもつ重要な課題の解決に資する学術研究を計画的に推進する。このため、大学・研究

所等の学術研究機関の整備、優れた研究者の養成確保等に努める。 (6)国際社会への協調と貢献

我が国の教育、学術、文化の発展向上と国際社会への積極的貢献を図るため、国際性

豊かな人材を育成するための教育を推進するとともに、これらの分野の国際交流を一層

重視し、相互に対等な国際交流を促進する。このため、留学生・教育関係者・研究者の

交流、国際共同研究や発展途上国との学術交流の促進を図るほか、スポーツ・文化交流

事業の推進に努める。また、近年における海外在留邦人子女数の急増及びこれら児童生

徒の教育が国際性豊かな日本人の育成に果たす役割の重要性にかんがみ、海外子女教育

及び帰国子女教育の推進に努める。 3.消費生活の充実 (1)施策の基本方向

我が国経済の安定成長への移行、資源・エネルギー制約の強まり等から、省資源・省

エネルギー型の生活パターンへの転換をはじめとする安全で合理的な消費生活の定着

化を図ることが一層必要となる。また、所得水準の上昇、サービス経済化、自由時間の

増大等に伴い、消費支出は随意的、選択的な性格を強め、取引面でもサービス取引、消

費者信用取引、資産形成取引が増大する等の消費生活の高度化、多様化が進行する。さ

らには経済の国際化ボ進むに従い、海外消費財・サービスの流通が増加し、消費生活面

での国際化ボ進行する。一方、経済の規模拡大や複雑化、行政の役割の増大に伴い、事

業者、行政に消費者の意向を反映させる必要が一層強まる。 今後の消費者政策の展開においては、このような消費者をとりまく環境の変化を十分

に踏まえ、消費者の安全を確保するとともに、行政及び事業者における消費者指向を一

層強化し、経済における消費者主権を確保しつつ、消費者の利益の擁護、増進に努める

ことが重要である。このような考え方のもとに以下の施策を行う。 (2)具体的施策

1)消費者安全の確保 安全の確保は商品・サービスが市場に登場するために必要な最低限度の条件であり、

今後とも、商品・サービスの高度化、多様化に対応して、安全に係わる法制、基準の見

直しを引き続き行う。特に生命、健康に密接に関係する医薬品、食料品、ガス用品の安

全の確保については、特段の配慮を行う。 さらに、製造物等に起因する消費者の被害を適切に救済するため、事業者等の売手が

危険を負担するという考え方を原則とする総合的な消費者被害救済制度の確立等を促

進する。また、商品危害の事後的処理にとどまらず、消費者の誤使用を含め商品危害の

発生を予防するため、危害情報の収集・提供システムの整備等安全関連情報の提供に努

める。

2)消費者選択の適正化 独占禁止政策の厳正な実施により、公正かつ自由な競争を促進し、競争阻害要因の排

除に努める。訪問販売や通信販売等の特殊な販売方法についてはその適正化を図り、弊

害を規制する。また、消費者の合理的な選択に資するため、商品・サービスに関する適

切な情報の提供を図るとともに、規格、表示に関しても一層の適正化を進める。

さらに、省資源・省エネルギー型生活パターンへの転換を実現するため、国民の認識

を深めつつ、消費生活及び生産、流通、輸送体制の省資源・省エネルギー化への誘導を

図る。このため、過剰包装、過剰機能の適正化、商品の耐久性の確保やアフターサービ

ス体制の強化、資源の再利用の促進、エネルギー効率の高い交通機関の活用を図る。ま

た、エネルギーの効率的利用に適した住宅、製品の開発及び普及を図るため、住宅につ

いては断熱性に係る基準の設定、製品についてはエネルギー消費効率向上のための基準

の設定や表示の推進を図るとともに、その他所要の指置を講ずるよう努める。

3)消費者意向の反映及び消費者対抗力の強化 消費者ニーズや消費者苦情への迅速かつ的確な対処、並びに消費者啓発の充実等を図

るため、関係省庁及び地方消費生活センター等の消費者行政体制を整備し、相互の連携

を強化するとともに、国の機関相互での総合調整機能の充実、強化に努める。また、国

民生活センターの施設整備等の消費者サービスネットワークの一層の拡充により、消費

者苦情処理・相談体制の整備、充実、消費者の啓発に関する広範な情報の提供、消費者

教育の充実等に努める。また、事業者の苦情処理体制について、消費者窓口の設置の促

進、苦情処理基準の設定、消費者との意見交換等につき所要の指導に努める。 今後さらに行政、事業者へ消費者の意向を反映させるため、関係審議会への消費者代

表の参加の促進、消費者懇談会の開催、モニター制度の活用等を図る。 また、消費者の意向が経済社会に十分反映されるためには、消費者側における自主的

努力・対応を通して、対抗力としての消費者の地位が確立、強化されることが重要であ

る。このため、消費生活協同組合等の各種の消費者団体による消費者の自主的組織活動

を一層助長する。 以上の直接、間接の施策を通じて、消費者、事業者、行政相互間で合理的な対話が行

われる基盤の形成を促進する。

4)資産・サービス取引の増大と消費生活の国際化への対応 サービス取引、消費者信用取引、資産形成取引等の分野での取引の安全、消費者選択

の確保、情報の提供による消費者啓発の促進に努める。 特に、一般の消費者が習熟していない信用取引の分野に関しては、消費者保護の観点

から法制面の整備をも含め、所要の措置について幅広く検討を進める。 また、資産形成取引の拡大に対応して、宅地・建物取引について、取引の適正化を図

るとともに、アフターサービス体制、紛争処理体制の充実に努める。中高層共同住宅に

ついては、安全・衛生の確保のための施策や権利関係、維持補修体制の明確化などの管

理の適正化のための施策を検討する。さらに、金融資産取引に関しては、各種情報の提

供、約款の見直し等に努める。 また、消費生活面での国際化の進行に対応して消費者の利益の確保を図ることが重要

となるとみられる。このため、消費者、事業者が自ら国際商品知識の普及、向上に努め

ることはもとより、消費者行政機関等においても、輸入品流通分野における公正かつ自

由な競争の促進、規格、表示等の国際的統一問題への適切な対処等、消費者行政の国際

的対応に努める。 4.住宅の整備 (1)施策の基本方向 〔1〕我が国の住宅数は、昭和 53 年に約 3、570 万戸であり、住宅数が普通世帯数をお

よそ 300 万戸上回るなど、戸数の充実、規模の改善が進み、総じて住宅事情は、次

第に改善されつつある。 しかし、住宅の規模のほか、設備、住環境など居住条件については、その改善に対

する国民の要望は大都市地域を中心として極めて根強いものがあり、欧米諸国に比べ

て、まだ立遅れがみられる。 〔2〕このため、すべての家庭が地域の特性に応じた望ましい質と住環境を備えた住宅

を確保し、充実した家庭生活が営めるようにすることを目指し、住生活の質的改善を

中心に施策を進めることとし、長期にわたって使用することができる良質な住宅の整

備を図る。 この場合、①地方における計画的な住宅の整備を進め、地方定住に資するとともに、

住宅事情の悪い大都市地域においては、都市政策、交通政策等関連施策の総合的展開

を図り、強力かつ重点的な政策の展開を図ること、②自力では適正な居住水準を確保

することができない世帯に対して、公的資金による住宅を供給することを前提に、以

下の施策を推進する。 〔3〕なお、この計画期間中の住宅建設戸数は、おおむね現在水準程度で推移するもの

と予測されるが規模、設備及び構造等の質の向上が進むものと見込まれる。 (2)具体的施策

1)住宅の質の向上 〔1〕国民の根強い持家需要に応えて、持家対策を充実するとともに、低所得者、都市

勤労者等に良質賃貸住宅を確保し、豊かな住生活を可能とする施策の展開を図る。 〔2〕このため、公的資金援助住宅の量を確保するとともに、民間の住宅建設の適切な

誘導を図り、全体として規模の拡大、設備の向上、住環境水準の引上げ等、質の向上

に対するきめ細かい政策の推進を図る。 また、勤労者の計画的な持家取得を促進するための施策の推進を図る。 〔3〕いわゆるミニ開発等の低水準の住宅建設を抑制するため、タウンハウス等良好な

低層集合住宅等への誘導に努めるとともに、良好な建築を確保する制度の導入を図る。 既存の低水準の住宅については、建替等を進め水準の向上に努める。

〔4〕高齢化社会の到来に備えて、それにふさわしい居住形態の推進に努める。このた

め潤いのある近隣社会形成の一環として、三世代居住住宅の建設、多様な世帯構成か

らなる近隣社会が形成されるような住宅供給等を推進する。 〔5〕ゆとりのある住宅の建設を可能とするよう住宅・宅地価格の安定、住宅性能向上

に努める。 このため在来木造工法について技術開発等を進め、その生産の合理化、近代化を

促すとともに、住宅生産の工業化の促進、住宅部品・住宅設備機器・建材の開発等に

努める一方、特に分譲共同住宅の性能向上と陳腐化防止の技術を開発する。また、新

しい住宅供給システムによる住宅の普及を進める。 〔6〕住宅・宅地が一般の消費財と異なり、生活の基盤となるものであることにかんが

み、住宅・宅地の流通が安全かつ円滑に行われるように、消費者の保護・啓発を進め

る。このため性能評価情報の普及、優良な住宅部品・住宅設備機器・建材の充実・普

及、住宅性能保証の制度化、不動産流通機構の整備等を図る。 〔7〕老人世帯、母子世帯、心身障害者世帯に対する施策に引き続き配慮する。

2)既成市街地の住環境の改善と職住近接化 〔1〕住宅地の住環境の改善、土地の高度利用等による良質な市街地住宅の供給、大震

に対する防災対策の強化等総合的な居住環境の改善を推進するとともに職住近接へ

の対応を進める。 〔2〕このため、市街地の環境改善の計画づくりと地域特性に応じた多様な主体、手法、

制度の開発を進め、既存諸事業と併せて総合的な展開を図る。 特に、土地建物所有者等自ら、あるいは参加による再開発等の積極的誘導を図ると

ともに改善型、修復型事業の方策を進める。 この場合、民間部門の適切な負担のもとに良好な都市空間の確保が図られるよう努

める。 〔3〕大都市地域等の大震災害の危険度の高い地域、広域避難地、避難路周辺地域の不

燃化を図るための再開発等を進める。 開発その他により、中高層住宅、タウンハウス等の建設を進め、住環境の改善、耐

災環境づくり、職住の近接化等に資する。 〔4〕これらの市街地住宅の建設と同時に極力オープンスペースが確保されるような施

策を検討する。

3)新規宅地供給の増大とゆとりのある新市街地の形成 〔1〕新規世帯の増加及び居住水準向上のための新設住宅需要に対応できるよう必要な

宅地の供給を図る。この場合、新たに形成される市街地については、ゆとりのある生

活空間の確保を目指す。

〔2〕このため、長期的に安定した宅地供給を可能にするよう、地域の実態に即した宅

地需給の長期見通しの策定を進め、計画的宅地開発を推進する。 画的宅地開発については、関連公共公益施設整備等関連施策を進めるとともに、

大都市地域等の大規模開発について交通体系と一体的な整備を進め、また、公的宅地

開発、民間優良宅地開発及び区画整理等を積極的に推進する。 〔3〕小規模開発については、適正な規制策ないし誘導策を講じ、良好な住環境の確保

に努める。

4)大都市地域の土地対策 〔1〕域内の自然増世帯等に良好な住宅供給を可能にするよう大都市地域の土地対策を

拡充する。また、地価の動きについては十分留意し、その安定に努める。 〔2〕このため、既成市街地の再開発、市街地住宅の供給、計画的宅地開発等を進める

とともに、市街化区域内農地等の宅地化を促す一方、他の土地利用との調整を図りつ

つ、市街化区域、市街化調整区域のいわゆる線引きの見直しを進める。 〔3〕市街化区域内農地等の宅地化については、都市施設整備のプログラムに基づく土

地利用転換計画等の策定を進めるとともに、それに併せて土地区画整理事業・農住事

業等のきめ細かな政策を展開し、実効ある体制をしく。 〔4〕地価の安定については、上記施策等宅地需給緩和のための政策に加えて、「国土利

用計画法」の的確な運用、土地税制、不要不急な土地取得に対する金融の抑制的運用

により、引き続き投機的土地取引の抑制を図る。 5)既存住宅の有効活用と省エネルギー対策の推進 〔1〕今後の資源・エネルギーの制約の強まり等に対処し、住宅の省エネルギー化を促

進するとともに、良質な既存住宅等の有効活用を図り、居住水準の効率的な向上に努

める。 〔2〕このため、気候の差異等に応じた断熱性能強化等のエネルギー使用の合理化につ

いて、国民の理解を促進し、その協力を求める政策を進めるとともに、住宅の省エネ

ルギー化の促進のための住宅設備・建材等について技術開発を進める。 〔3〕増改築、改修工事等、既存住宅の適正な維持改善を進めるとともに、住み替えに

よる居住水準向上に資するよう既存住宅購入に対する援助措置、中古住宅価格の適正

評価システムの開発及び情報提供の円滑化等による市場整備、公的賃貸住宅の適正な

管理を進める。 6)関連施策の総合的展開 〔1〕実効ある住宅政策を推進するためには、国土の均衡ある発展、基盤施設の整備、

社会的経済的な条件整備等の関連施策の総合的展開が必要である。

〔2〕このため、定住構想に沿って定住圏整備を推進する等国土政策の展開を図る。 〔3〕良好な都市環境を整備するとともに、適正な住宅・宅地開発を促進するため、総

合的な施策の検討を進める。 〔4〕再開発、市街地住宅供給、計画的宅地開発等を促進するよう、関連公共施設整備

の助成を行う。 〔5〕再開発、土地所有者等による住宅・宅地供給の促進を図るため、住宅・宅地の所

有及び利用に関する現行制度・慣行の再検討を進める。 〔6〕分譲共同住宅の拡大に対応して、その適切な維持・管理の体制の確立を急ぐ。住

宅・宅地開発の開発規模による関連公共公益施設整備費負担の格差、公的賃貸住宅の

新旧家貸格差等、住宅・宅地に関する負担の格差については、その適正化を進める。 5.環境の保全・整備 (1)施策の基本方向 今後の環境政策は、経済社会の構造変化、公害の発現形態の多様化及び国民意識の変

化等に対応し、これまでの国民の健康の保護に重点を置いて実施されてきた環境保全対

策の成果を踏まえつつ、快適で潤いのある環境の形成を目指して総合的な展開を図る。 このため、第 1 に、環境基準の達成・維持を目標に公害防止対策の強化を図る。環

境基準が設定されていない汚染因子についても、人の健康の保護及び生活環境の保全を

目標に施策を進める。 第 2 に、自然環境については、地域の自然的特性及びその利用の態様に応じ適正な

保全を図るとともに、日常生活圏での自然的環境の保全と創出に努める。 第 3 に、環境汚染の未然防止を図るため、土地利用の適正化と環境影響評価の推進

に努める。 (2)総合的な環境保全対策の推進 1)関連施策の総合的推進 環境保全対策の効果的な推進を図るため、汚染因子の規制等にとどまらず、土地利用

の適正化、地域構造及び交通体系の改善等の関連施策を総合的に推進するよう努める。 また、快適で潤いのある環境の形成を図るためには、環境に係る個々の施策のなかに、

快適さの要素をより重視する視点を加味することが必要である。 2)環境影響評価の推進 環境汚染の未然防止を図るため、環境に著しい影響を及ばすおそれのある事業の具体

化に当たっては、地域住民等の意向を反映するとともに、必要に応じ適切な環境影響評

価を実施することとし、今後とも環境影響評価の技術手法の整備、向上を促進するとと

もに、効果的な環境影響評価を実施するための制度等の体制の整備を図る。

3)公害防止計画の実施の推進 公害が著しく、又は著しくなるおそれがあり、総合的な公害防止施策が必要とされる

地域として公害防止計画が策定されている地域においては、計画に即し、各般の施策の

総合的、計画的な実施に努める。 4)環境保全技術の研究開発の促進 公害防止技術、無公害生産技術、監視測定技術や環境管理、評価システム等の開発を

促進するとともに、汚染が健康、生活環境へ及ばす影響及び自然の有する浄化機能等環

境汚染のメカニズムの解明等、環境保全のための総合的な研究開発を推進する。 また、環境汚染の実態を把握するため、環境監視、測定体制の拡充を引き続き推進す

る。 (3)具体的施策 1)大気汚染対策 硫黄硬化物による汚染の防止については、環境基準の達成状況を踏まえ、今後その維

持等を図るための施策を継続する。 窒素酸化物対策としては、まず移動発生源による汚染を防止するため、特に大都市地

域及び幹線道路周辺において自動車排出ガスによる汚染が深刻であることにかんがみ、

トラック、バス等について、技術評価を進め、技術開発を促進しつつ、排出規制の強化

を行う。また、固定発生源による汚染を防止するため、排出規制の拡充等を行うととも

に、大都市地域等の高汚染地域について、自動車排出ガス規制の効果をも配慮したうえ

で、必要に応じ総量規制を実施する。 光化学大気汚染の原因物質の一つである炭化水素については、具体的な規制手法につ

き検討を行い、その結果に基づき所要の施策を講ずるとともに、効果的かつ合理的なば

いじん対策について検討し、所要の施策を講ずる。 なお、自動革による大気汚染の防止の観点から、輸送体系の効率化による交通量の節

減を図る施策を進める。 2)水質汚濁対策 河川、湖沼、海域等の水質汚濁を防止し、水質改善を図るため、必要に応じ排出規制

を強化するとともに、下水道の整備等を促進する。 また、汚濁の著しい広域的な閉鎖性水域について、汚濁負荷真の総量を削減する総量

規制を実施するとともに、堆積汚泥のしゅんせつ等水質浄化事業の促進を図る。これら

の対策のほか水質の富栄養化の防止を図るため、赤潮発生機構の解明、処理技術の開発、

処理施設の整備及び洗剤の低リン化を図る等の総合的施策を推進する。

3)騒音・振動対策 自動車交通騒音及び道路交通振動を防止するため、自動車騒音の大きさの許容限度を

できるだけ早期に強化すべく技術評価を進め、技術開発の促進を図るとともに、道路構

造の改善を推進する。 また、街路、バイパス、環状線等の整備による道路機能の分化及び沿道土地利用の適

正化を進めるとともに、輸送体系の効率化による交通量の節減を図る等施策の総合的な

推進を図る。 新幹線鉄道騒音については、環境基準の達成を目指し、音源対策、障害防止対策、土

地利用対策等を推進することとし、併せて新幹線鉄道振動の防止に努める。 航空機騒音については、環境基準の達成を目指し、発生源対策、土地利用を含む空港

周辺対策等を推進する。 工場等における事業活動、建設工事に係る騒音・振動につき従来からの規制を引き続

き行う。 4)廃棄物対策 廃棄物の処理については、再生利用等の方策を推進する一方で、排出を極力減少させ

るよう努めることにより、その減量化を図る。この場合、一般廃棄物については、し尿

処理施設、ごみ処理施設等の整備を引き続き推進するとともに、余熱利用等の有効利用

を図る。 また、産業廃棄物については、事業者処理車任を原則とし、地域の実情に応じ、適正

な処理、処分が行われるよう、共同処理、再生利用の促進等処理、処分体制を整備し、

併せて指導、監督体制の強化等を図る。 なお、廃棄物の最終処分地については、最終処分場の整備を引き続き推進するほか、

廃棄物埋立護岸の活用を図るとともに、広域最終処分体制の整備等効果的な確保対策の

推進について検討する。 5)自然環境保全対策 自然環境の現況の的確な把握に努めつつ、自然環境保全地域等の指定、鳥獣保護区の

設定、自然公園地域の整備等により、自然環境の適切な保全と利用に努める。このため、

これら地域の管理体制の整備を引き続き推進し、民有地買上げ制度の活用を図る。また、

自然歩道、国民休囁村等の施設を整備するとともに、自然景観地等への自動車の過度の

乗入れに対しては、必要に応じ境制を行い、自然の適正な利用に努める。なお、自然環

境の保全については、景観地の美化清掃等民間の協力に負う部分が多いことにかんがみ、

民間団体の健全な育成を図る。 森林及び農用地については、適切に利用しつつ、これらが有する国土保全、環境保全

等の諸機能が高度に発揮されるよう保全、整備を図る。 都市地域においては、快適で潤いのある生活環境を維持、創造するため、緑地保全地

区、都市公園等の良好な緑の空間や水辺のある空間の確保、整備を推進する。 6)歴史的環境・町並景観の保全対策 魅力ある地域社会を形成する重要な要素となっている史跡、歴史的建築物、伝統的建

造物群及びこれらと一体となっている自然景観等については、地域住民の生活との調和

を図りつつ、適正な保全に努める。 また、市街地における美観を確保するため、町並み景観の維持、向上を図る。 7)その他の主要な対策 〔1〕油及び廃棄物による海洋汚染の防止を図るため、規制の強化、監視取締体制の充

実、流出油防除体制の整備等所要の施策を講ずる。 〔2〕金属鉱山等の鉱害問題に対処するため、引き続き、鉱害防止対策を推進する。ま

た、農用地の土壌汚染に対処し、引き続き、土壌汚染防止対策を推進する。 〔3〕地盤沈下を防止するため、代替水源の確保に努めつつ、地下水採取に対する境制

を強化し、地下水の保全に努める。 〔4〕工場等における事業活動に係る悪臭を防止するため、従来からの規制を行うほか、

悪臭評価方法の改善の検討を進める。 〔5〕化学物質による環境汚染については、汚染の未然防止措置を推進するとともに、

人体への影響に関する試験研究に努める。 〔6〕都市における高層建築物等による電波障害については、最近その影響が広域化、

複雑化していることにかんがみ、これに対する対策について検討を進める。 〔7〕環境の保全は、地球的な観点から解決すべき分野が多いことを認識し、今後とも

国際的な協力の推進を図る。 (4)環境保全投資の促進と費用負担のあり方 上記の諸施策を実施するため、民間企業の公害防止投資及び公共投資の促進を図る。 公害防止のための費用については、汚染者負担を原則とするが、民間企業の公害防止

投資及び技術開発を促進するための金融等の助成を引き続きする。 公共投資については、下水道及び廃棄物処理にかかる施設の拡充を図るとともに、都

市公園、自然公園等の整備についても一層推進する。 また、自然環境の適切な管理、保全等のための費用については、保全の効用と受益の

性格、範囲などに応じ、適正に費用負担が行われるよう具体的施策について検討を進め

る。

6.安全の確保 安定と安らぎのある国民生活を実現するためには、施策の全般にわたって災害等に対す

る安全性の確保に努め、国土並びに国民の生命、身体、財産を災害から保護するとともに、

交通安全、労働安全等を図らなければならない。 このため、治山・治水施設、保安林、海岸施設、急傾斜地崩壊対策施設等の整備等を進

める。特に、都市化等開発の進展に伴い危険ポテンシャルが増大している河川については、

治水施設の整備を積極的に進めるとともに、災害発生のおそれの、ある地域での土地利用

の誘導等を併せ行う総合治水対策を推進する。一方、山地における集落地域の保全に重点

をおいた総合的な治山事業を進める。また、火災をはじめとする災害に対処するため、消

防力の充実強化を図るとともに、総合的な消防防災体制の整備を進める。 さらに、信号機、歩道等の交通安全施設の整備、通行の安全を図る防災施設の整備と車

輌の安全性の確保等を図るとともに、タンカー等船舶交通の安全対策を図り、大都市圏に

おいては、超大型タンカーの入湾を抑制し、湾内における原油のパイプライン輸送への切

り替えを検討する。また、海上災害の防止を図るため防災体制等を充実強化する。 労働者の安全を向上させていくため、依然として多い在来型の労働災害のみならず、大

型の労働災害等の防止を図ることとし、前述の対策とも併せ、労働環境の安全のより一層

の向上に努める。 以上の施策のほか、今後さらに対策の充実が必要となっている大震災対策及び自主防災

対策については、次のような措置を講ずる。 (1)大震災対策の推進 〔1〕豊かな生活空間と高度に発達した経済社会の秩序を地震による破壊から守るため、

地震予知、耐震技術の開発等の防災に関する科学技術の振興に努める一方、構造物の

耐震性の強化、都市の防災構造化、代替施設の整備、オープンスペースの確保、住民

の防災意識の高揚等の経済社会機能の安全性の確保等の施策を進める。 〔2〕その被害が甚大かつ広範に及ぶおそれの大きい地域については、上記施策に加え

て、大都市震災対策推進要綱に即して、大震火災対策として消防力を充実強化し、ま

た、安全な避難地、避難路、緊急輸送路を確保するための都市公園、道路、港湾施設

等の整備とともに、その周辺建築物の不燃化、災害発生時における災害対策活動の拠

点となる防災基地の整備等の安全性向上策を急ぐ。 また、都市構造の再編、住工混在地域、木造住宅の密集地域等の安全化を図る。 これらを実現するために、既成市街地の再開発を進める。 さらに、今後木造密集連担市街地の無秩序な拡大防止に努め、大震火災の危険度の

高い地域における木造建築物の抑制を図る。 特に、首都東京等については、我が国経済社会に与える影響が極めて大きいことに

かんがみ、以上の対策を強化する。また、「大規模地震対策特別措置法」の地震防災対

策強化地域については、同法に基づく防災対策の充実を促進する。 (2)自主防災組織の充実 災害の多様化と国民のニーズに対応してより高い安全性を確保するため、国・地方公

共団体、企業、地域社会を通じた総合的な防災体制を強化することが重要である。 このため、防災意識の高揚、防災訓練の実施、自主防災活動等を推進する自主防災組

織の充実を図るとともに、地域住民の災害時における自主防災活動の基地としてのコミ

ュニティ防災センターの整備を推進する。 7.社会資本の充実 (1)施策の基本方向 〔1〕近年、社会資本の整備水準は漸次向上しつつあるものの、先進国のそれに比較す

ると総じてかなり低位にあり、民間経済活動や、私的消費水準の向上とともに強まっ

ている社会的消費充実への欲求に比べて、社会資本サービスは相対的に遅れており、

その一層の充実が必要である。 公共投資は総需要管理政策の一環としても重要な機能を果たすものであるが、公共

投資による社会資本整備は長期的な視点から体系的計画的に推進すべきものであり、

厳しい財政事情のもとではあるが、本計画期間中におおむね 240 兆円(昭和 53 年度

価格、用地補償費を含む。)の公共投資を行い、民間経済活動との相対的なバランス

の改善とともに国民生活において必要とされる社会資本サービスの充実を図る。昭和

60 年度における社会資本ストック(公的純固定資産)は現在の 2 倍近くに高まると

見込まれる。 〔2〕社会資本の整備を推進するに当たっては、国民ニーズの高度化、多様化に対応し

つつ、国土の均衡ある発展に資するために、投資分野の選択、重点化を図る必要が

ある。 本計画期間中においては、定住構想等に沿いつつ国民生活に直接関係の深い分野

への投資に重点を置くこととし、次のように社会資本の整備を進めることとするが、

この場合、社会資本相互間あるいは社会資本と経済活動とのバランスに留意するも

のとする。 まず、日常の生活環境を改善し、国民生活の質的向上に資するため、生活環境施

設の充実を図ることとし、住宅の質の向上とともに、下水道、廃棄物処理施設、都

市公園、厚生福祉施設、文教施設等相対的に整備の遅れているものや国民の要望の

強いものの整備を促進することとし、さらに他の分野においても、生活道路、都市

高速鉄道、辺地、離島の港湾・空港、交通安全施設、都市河川、農山漁村環境施設

等国民生活に密接に関連するものについて重点を置く。 さらに、大都市への人口、産業の集中の抑制と地方の振興により国土利用の均衡

を図ることを目途に、その基盤となる基幹的交通通信施設、国土保全施設等の整備

を行うとともに、農山漁村における生産基盤を強化するため、農林漁業施設の整備

を行う。 (2)公共投資の重点 1)主要事業の内容

ⅰ 生活環境施設の整備 国民生活に密接に関連し、また、特にその充実が求められている環境衛生、公共

賃貸住宅、厚生福祉、文教の諸施設に関しては重点的な整備を図ることとし、これ

により都市部における生活環境の改善に努める。 同時に都市と農山漁村との均衡ある発展を図り、豊かな地域社会を形成するため、

農山漁村の生活環境施設の整備を図る。 このため、これらの施設について、計画期間中の総公共投資額の 3 割を上回る投

資を見込む。 (ⅰ)環境衛生 ① 水道については、昭和 00 年度におおむね国民のすべてが衛生的な水道水の安

定した供給を受けられるように、広域的な観点にたった適切な施設整備を図る。 ② 下水道については、総人口普及率を昭和 60 年度に約 55%(昭和 53 年度見込

み 28%)とすることを目標とする。 ③ ごみ処理については、昭和 60 年度に再生利用等による減量分を除き、可燃性

のごみのほぼ全量が焼却処理できるよう施設の整備を図る。 し尿処理については、下水道の普及とあいまって、計画処理区域内のくみ取り

し尿、浄化槽汚でいのほぼ全量が衛生処理できるようし尿処理施設の整備を図る。 ④ 都市公園については、昭和 60 年度に都市計画区域内人口 1 人当たり約 5.6 ㎡

(昭和 53 年度見込み 4.0 ㎡)の面積を確保することを目途として整備を進め、特

に震災時の避難困難地域において必要となる広域避難用都市公園について重点的

に整備を図る。 (ⅱ)公共賃貸住宅 ① 住宅の量的充足が進んできているなかで、住宅の質と住環境の向上に重点を置

いた総合的な住宅政策の一環として、公共賃貸住宅の充実に努め、自力では適正

な居住水準を確保できない世帯に対して必要な量の確保を図る。 ② 計画的な住宅建設事業又は宅地開発事業に関連する公共施設の整備を推進し、

良好な住宅及び宅地の供給の促進を図る。 (ⅲ)厚生福祉 ① 人口の高齢化の進展に伴い今後需要の増大が予想される各種の老人のための福

祉施設の充実を図り、とりわけ特別養護老人ホームについては現在の収容定員を

大幅に増加させるよう施設整備を図る。 また、重度の心身障害者施設等を重点に整備を図るとともに、地域における保

育需要の実態に応じ、引き続き保育所の整備を進める。 ② 人口構造の高齢化、国民の健康に対する意識の高まりに伴い、保健・医療サー

ビスに対する需要が増大してきている。このため、国民一人一人の健康状態及び

生活環境に対応した国民の健康づくりのための対人保健サービス施設等の整備を

図るほか、がん、循環器病、小児疾患、リハビリテーション等の専門医療施設の

充実及び救急、へき地医療体制の体系的整備を図る。 (ⅳ)文教 ① 小中学校等の施設については、児童生徒急増地域を中心とした新増設を重点的

に進めるとともに老朽校舎の解消に努める。 また、幼稚園、特殊教育施設、大学等の高等教育施設及び学術施設の整備を図

る。 ② 生涯にわたる学習の機会、自由時間の充実、健康・体力の増進、文化の継承、

創造等を求める国民の欲求を満たし、地域住民の自発的意志に沿った豊かな地域

社会の形成に資するための施設をより一層充実する必要がある。このため公民館、

図書館、博物館などの社会教育施設、運動場、体育館、プールなどの社会体育施

設、さらには文化会館、地方歴史民俗資料館などの文化施設について積極的な整

備を行い、整備水準の向上を図る。

ⅱ 国民生活の安定のための施設整備 (ⅰ)国土保全 我が国土は災害が発生しやすい自然条件のもとにあるうえ、近年における都市

化等開発の急速な進展がその危険性を増幅するように作用しており、災害から国

民生活を守る必要性が強まっている。このため、流域の総合的管理を重視しつつ

重要水系の流域における治山、治水施設の整備を図るとともに、都市化等開発の

進展に対応し、かつ、近年局地災害が多発している状況にかんがみ、都市や集落

地域に重点をおいた中小河川の流域に係る治山、治水施設の整備、並びに海岸及

びその背後地の状況や民生安定の面からみて重要な沿岸域に重点をおいた海岸保

全施設の整備を強力に推進するなどにより、国土の安全性を向上させる。あわせ

て生活環境の改善に資するため、水域の浄化、快適な空間の確保等のための事業

の推進に努める。 (ⅱ)水資源開発

昭和 60 年の水需要は、50 年に比べて 2 割あまりの増加が見込まれる。このよ

うな水需要の増大に対処するため、水源地域の整備を進めつつ、広域的、計画的

に水資源開発を推進するとともに、水源かん養林の整備を進め、長期的に水需給

の安定化に努める。 特に都市用水のひっ迫にかんがみ、節水型社会の形成に努めるとともに、計画

期間中の新規需要増におおむね対応するよう多目的ダム等の建設を進める。なお、

異常渇水に備えて洪水を経年的に貯留するダムについての調査、建設を進める。 (ⅲ)農林漁業 ① 農業については、総合的な食糧自給力の向上を図ることを基本とし、生産性の

向上と需要の動向に即応した農業生産の再編成に資するため農業生産基盤、共同

利用施設等の整備を進める。特に農業生産基盤については、農用地の整備率を大

幅に引き上げることとし、圃場、基幹的用排水施設、農道等の整備及び農用地の

開発を推進する。 ② 林業については、森林資源の充実に努めることとし、整備された森林の割合を

6 割程度に高めるよう造林の推進を図るとともに林道等の整備を進める。 ③ 漁業については、200 海里時代に対応して水産物の安定的な供給を図るため、

沿岸漁場の開発整備を積極的に進めるとともに、沿岸・沖合漁業港に重点をおい

て、漁港の整備を推進する。 ④ 定住のための基礎的条件整備の一環として、農山漁村地域において生産基盤と

一体として環境施設の整備を促進する。

ⅲ 交通通信施設の整備 昭和 60 年度の交通需要は 52 年度の実績に比べて旅客 3 割、貨物 5 割程度の増加

が見込まれる。 交通体系を整備し、その機能の向上に努めることは、国土の均衡ある発展、流通

の円滑化、国民生活基盤の充実等を図るうえで極めて重要である。 交通体系の充実に当たっては、経済的社会的諸制約のもとで、利用者の選好に基

づく競争原理を基礎としつつ各交通機関の特性に応じた望ましい分担関係を実現す

るための諸施策を講じ、これによって交通機関の安全性、効率性と利用者の利便を

確保し、全体としての整合性と地域社会との調和を保つように努める。 この場合、今後の環境、エネルギー、空間等の制約の強まりを考慮して都市、特

に大都市における旅客輸送、とりわけ通勤通学輸送の分野における大量公共輸送機

関の活用を積極的に図ると同時に、利用者の選択を大量公共輸送機関へ誘導するた

めの施設の改善や利用者に信頼される運行確保への努力が必要である。また、業務

交通については、自動車交通を主体としつつ大量公共輸送機関をも活用することと

し、このための施設整備を進める。 都市部の貨物輸送については、自動車が主たる輸送手段となるため、輸送の共同

化等による道路容量の合理的活用を図るとともに、施設の改善に努める。 また、交通需要が少ない地域においては、地域の実情に応じた適切な交通手段に

よるサービスの供給を図る。 一万、国際的な貿易及び交流の度合の高まりに応じ、交通の分野においてもこれ

に適切に対応することが必要である。 このような交通政策の一環として、他の社会資本の整備と整合をとりつつ、かつ、

交通施設相互間の調整を図りつつ、交通施設の効率的な整備を図る。 通信施設については、広範な通信需要に効率的に対応できるよう通信網の高度化

を図るとともに、通信品質の向上、信頼性の向上等質的充実をより一層推進する。 (ⅰ)幹線交通体系の整備 幹線交通体系の整備については、国土の均衡ある発展に資するため、長期にわ

たって計画的に着実な整備を進めることとする。 計画期間における目標はおおむね以下の通りとする。 ① 新幹線については、東北、上越の両線を開業する。また「全国新幹線鉄道整備

法」に基づく整備計画 5 線については、環境等を含め、徹底的な調査を行うとと

もに、財源措置等諸条件が整備されたうえで、投資採算等を考慮して逐次その建

設を図る。 ② 高速自動車国道については、整備計画区間の建設を促進することとし、このう

ち東北、北陸、中央、中国、九州の縦貫 5 道をはば完成させるとともに、関越道、

常磐道等と併せておおむね 4、200km の供用を図ることを目途とする。 ③ 本州四国連絡ルートについては児島・坂出ルートの建設の促進を図るとともに、

大鳴門橋、因島大橋の供用を目指す。 また、北海道、本州を結ぶ青函鉄道トンネルの完成を図る。 ④ 港湾については背後都市との調和、輸送革新の動向等に配慮しながら、流通拠

点港湾、国際港湾等の整備を図る。 また、エネルギー等資源の備蓄への対応に努めるとともに、地域の産業振興の

基盤となる港湾を整備する。 ⑤ 空港については、航空輸送需要の増大に対応するため、新東京国際空港及び東

京国際空港の整備を進めるとともに、関西国際空港の建設の推進を図り、同時に

ジェット機、大型航空横の就航に対応した地方空港の整備を推進する。 (ⅱ)生活に密着した地域交通施設の整備 人々がゆとりと生きがいのある生活を営むためには、その前提として交通施設

の整備を通じて、人と物の日常の円滑なモビリティを確保することが是非必要で

ある。 このため、地域の実情に応じ、既設の交通手段のあり方について十分検討を加

えるとともに、各種交通施設の適切な整備を進めることとする。 都市、特に大都市や大都市と同様の交通問題が発生しつつある地方の都市にお

いては、環境、空間等の社会的制約の強まりから、旅客輸送需要をできるだけ輸

送効率の高い大量公共輸送機関に誘導することとし、都市高速鉄道の整備や、既

存鉄道の有効活用を進め、地域の実情に応じてモノレール、新交通システムの調

査、建設を行い、また、バスレーンの整備やバス路線網の再編成等を行い、これ

らに伴い必要となる駅前広場や公共交通機関相互の乗換えの利便を図るための連

絡施設の整備改善を行う。 都市部の貨物輸送については、輸送の合理化を推進するための都市港湾、トラ

ックターミナル等の流通施設の効率的配置を図りその整備を進める。 同時に、都市における道路交通は、貨物輸送や業務交通をはじめとして今後と

も重要な役割を担うものであり、また、良好な街区の形成や多様な機能を有する

公共空間を確保する面からも引き続き道路の整備を進める必要がある。このため、

環状道路、バイパス等の計画的整備を図るとともに都市内道路網の体系的整備を

行う。 交通需要の少ない地方部では、今後も自動車が主たる交通機関となるため、バ

ス路線等生活の基盤となる道路の整備を促進するとともに、自家用自動革を利用

できない人々の交通手段を確保する観点から、住民生活に適応したバスの運行の

改善を図る。 なお、辺地、離島においては、海上輸送、航空輪送による住民の交通確保に努

める。 このようにして、計画期間中に地域交通施設の整備を積極的に進めることとし、

道路については、一般国道、都道府県道の整備率、市町村道の舗装率等の向上を

図り、都市内の幹線道路についても、市街地面積に対する道路密度を高めるなど

道路整備の充実を図る。 また、鉄道については、大都市における通勤通学等の需要の増加に対応してピ

ーク時の混雑度の改善等のため、その整備を図り、港湾、空港については、地方・

離島の港湾、辺地・離島の空港の整備を進めるなどの施策を推進する。 また、交通の分野における福祉の向上への要請に対応して、老人、子供、身体

障害者に対する安全性、利便性の向上に努める。 (ⅲ)安全の確保、環境の保全及びエネルギー効率の向上 調和のとれた交通体系を形成するためには、安全の確保、環境の保全及びエネ

ルギー効率の向上を図ることが極めて重要である。 ① 道路交通の安全を確保するための諸施策として、交通事故の一層の減少を図る

とともに特に歩行者、自転車利用者等の事故防止を図るため、歩道、自転車道、

歩行者専用道等の重点的整備を進めるほか、交通管制機能の充実や信号機その他

の交通安全施設の整備を進め、また防災対策を推進する。 高速・大量輸送機関としての鉄道の安全性をより高めるため、信号保安設備の

改良、防災対策などを推進する。

さらに踏切の整備や立体交差化等により陸上交通の安全を図る。 また、海上交通の安全を確保するため、航路、防波堤、船舶避難水域、航路標

識等の整備を進める。 航空については、交通量の増大、航空機のジェット化等に適切に対応できるよ

う航空保安施設の整備を促進する。 なお、大震火災等の緊急時における交通を確保するため、避難路の整備、主要

な橋梁、岸壁等構造物の耐震性の強化を推進する。 ② 潤いのある豊かな生活環境を形成するため、交通の引き起こす環境悪化の防止

及び交通施設をとりまく環境の整備・保全を図ることが緊要であり、このため、

騒音、振動、排出ガス等に起因する公害の防止に必要な施策を最大限に講ずると

ともに、道路、港湾の緑化事業や海域浄化などにより良好な環境の維持向上を図

る。 ③ 交通におけるエネルギー効率の向上を図るため、自動車燃料消費効率の改善、

省エネルギー技術の開発等を進めるとともに、地域の特性等に応じてエネルギー

効率の高い交通機関の活用を図ることが必要であり、輸送需要が大量にある場合

には、大量公共輸送機関を整備し、その利用促進を図る。 また、輸送の合理化による交通量の節減を進めるとともに、適切に交通容量を

確保して混雑を解消するなどによりエネルギー節約に努める。 (ⅳ)通信施設の整備 電気通信については、加入電話の需給均衡を維持していくほか、高度化、多様

化する国民の電気通信サービスに対する要望に応え、データ通信、画像通信、移

動通信等の施設の拡充を推進する。また、過疎地域等におけるサービスの改善を

図るため加入区域の拡大、地域集団電話の一般加入電話への変更等を進めるほか、

災害時における電気通信サービスを確保するための諸施策を推進する。 郵便については、事業運営の効率化を図るため、局舎施設の改善整備、郵便作

業の機械化、輸送方式の近代化等を推進する。 2)部門別投資額 以上のように、社会資本整備を進めるため、各部門における計画期間中の投資額は、

表のとおりとする。各年度の投資額は、経済の動向、財政の状況等を勘案して弾力的に

決める必要がある。 (3)社会資本整備に当たっての課題 社会資本整備を円滑かつ効率的に進めるため、効率的な実施体制の確立、円滑な用

地の取得、建設技術の開発・向上等による建設単価の適正な水準の確保などに配慮す

るほか、次のような点について検討を行う必要がある。

表 部門別公共投資額 (単位:億円、%)

昭和 54~60 年度累積 部門

金額(昭和 53年度価格) 構成比 環 境 衛 生 335,800 14.0 公共賃貸住宅 135,000 5.6 厚 生 福 祉 54,200 2.3 文 教 208,000 8.7 道 路 460,000 19.2 鉄 道 177,500 7.4 港 湾 68,500 2.9 航 空 27,500 1.1 電 気 通 信 130,000 5.4 国 土 保 全 178,000 7.4 農 林 漁 業 181,500 7.6 そ の 他 396,000 16.5 調 整 額 48,000 2.0 合 計 2,400,000 100.0

(注)1.環境衛生 水道、下水道、廃棄物処理施設、都市公園、自然公園 2.公共賃貸住宅 公営住宅(改良住宅を含む。)、日本住宅公団及び地方住宅供給

公社の貸賃住宅等、住宅宅地関連公共施設 3.厚生福祉 保健医療施設、社会福祉施設 4.文教 学校施設、学術施設、社会教育施設、社会体育施設、文化施設 5.道路 一般道路、有料道路 6.鉄道 日本国有鉄道、日本鉄道建設公団、本州四国連絡橋公団(鉄道分)、地下

鉄等 7.港湾 港湾基本施設、港湾機能施設等 8.航空 空港、航空路施設等 9.電気通信 日本電信電話公社 10.国土保全 治山(民有林治山及び国有林治山)、治水(水資源開発関連を含む。)、

海岸 11.農林漁業 鼻業基盤、林道、造林、漁港、沿岸漁場整備等 12.その他 災害復旧、官庁営繕、職業訓練施設、労働福祉施設、学校設備、工業

用地造成、工業用水道、公営電気、公営ガス、公営交通事業(地下鉄

を除く。)、郵便施設、電源開発株式会社、政府関係機関(日本国有鉄

道及び日本電信電話公社を除く。)の施設、国有林野事業(国有林治山

を除く。)、都市計画駐車場、交通安全施設(公安委員会分)、海上保安

施設、急傾斜地崩壊対策施設、広域廃棄物埋立処理施設、石油備蓄施

設、エネルギー技術研究施設、その他

13.調整額 今後具体化の必要が生じる事業等に充てるための調整額

1)費用負担の適正化と多様化する需要への対応 ⅰ 費用と負担の適正化 社会資本は、その公共性により、整備に必要な費用が一般財源により賄われている

場合が多い。しかしこの場合にあっても、一般財源により賄われる範囲を極力明確に

し、受益者又は原因者が特定できる場合には、公正な費用負担と適正な資源配分を目

指して費用と負担の関係の適正化を図ることが重要である。現在の受益者又は原因者

の負担の仕組みについても一層その適正化を進め、また、今後の需要の高度化、多様

化に対応して必要となる社会資本の分野においては、関連分野における民間部門の活

動を円滑に行うためにも特にその適正化に留意することが必要である。 ⅱ 高度化、多様化する需要への対応 国民ニーズの高度化、多様化へ効率的に対応するためには、必要とされる社会資本

の機能、地域の特性等に応じて民間部門の活力を引き出すことが重要である。 本来、公的部門が十分な対応をなすべき公共性の強い分野及び民間部門にまかせて

おいたのでは適切な供給が図れない分野については、費用と負担の関係の適正化を図

りつつ、公的部門が十全の役割を果たすことが必要であるが、条件が整えば民間部門

による供給も可能であるような分野においては、効率的な財・サービスの供給を行う

ため、できるだけ民間部門による供給の促進を図り、要すれば適切な誘導策を講ずる

こととし、全体として公的部門と民間部門とがバランスよく広い意味での社会資本サ

ービスの供給を図ることが必要である。 2)事業実施に当たっての検討課題 ⅰ 社会資本相互のバランスの確保 社会資本の整備に当たっては、各部門においてその計画的な実施と投資の重点化に

配慮するとともに、公共投資の効率性という観点から、各部門の整備水準相互間の適

切なバランスを保つことが必要である。このため、地域の特性に十分配慮して整備計

画を策定するとともに、事業の実施に当たっては、進度の調整など各種事業主体間の

各レベルにおける調整機能の一層の活用等を行う。 なお、地方公共団体の役割が一層期待されることとなるので、その創意や自主性の

もとに施策が講じられるよう留意する。 ⅱ 環境の保全と地域社会との調和 公共事業の実施に際して、周辺環境の保全等をめぐる地元調整の長期化等により、

社会資本整備の円滑な遂行が困難になっている例が少なくない。 社会資本の整備に当たっては、地域社会の意向を的確に把握し、その理解と協力を

得ることが重要である。

このため、事業主体は社会資本の整備が地域に与える影響を十分にとらえ、またそ

の影響が広い範囲に及ぶ場合には広域的な利害調整を円滑に進める努力が大切である。

この場合、環境の保全に十分配慮するため必要に応じ適切な環境影響評価を行って、

円滑な事業の実施を図る必要がある。 また、地域社会の側でも社会資本の公共的性格、整備の必要性等について理解し、

その整備に協力することが望まれる。

Ⅲ 国際経済社会発展への協調と貢献 今後一層多極化の様相が強まる一方、相互依存関係の高まりが予想される世界経済の主

要な課題は、通商、通貨、南北関係、資源・エネルギー等の各分野において国際協力の緊

密化を図るとともに、各国の経済運営の国際協調を推進し、世界経済の調和ある持続的な

発展を実現することにある。世界経済に大きい比重を占めるに至り、世界経済へ及ばす影

響も世界経済から受ける影響もともに大きくなった我が国は、このような国際的な視野に

立って内外の問題解決に当たらなければならない地位に置かれている。このためには、我

が国自ら適正な対外均衡の確保、貿易構造の転換、国際金融の円滑化、経済協力の拡充、

国際交流の推進等に積極的に取り組むとともに、国際的な場を通じて世界貿易の拡大、国

際通貸の安定、エネルギー需給の安定、各国の経済運営面での政策協調等に積極的な役割

を果たしていくことが必要であり、また、こうした政策を総合的かつ適切に実施すること

が、経済的安全を確保するうえでも基本をなすことを認識する必要がある。 1.適正な対外均衡の確保 世界的な国際収支不均衡是正のためには黒字国、赤字国双方の政策努力が不可欠である。

このため、我が国としても、最近実現しつつある内需中心の安定した成長パターンと対外

均衡の回復を確実なものとするため、次の政策を講ずる。 ① 経済成長を維持するに当たり、より内需の拡大に依存するような移行を促進すると

ともに、市場を外国品、特に製品に対し一層開放すること等により経常収支の水準を

国際的に調和のとれたものとするよう引き続き努力する。 ② 一方、これと並行して、経済協力の拡充と資本交流の活発化を促進する。 このような政策を適切に実施すれば、その結果、中期的な基調として、基礎収支はおお

むね均衡することになると見込まれる。 2.世界貿易拡大への貢献と貿易構造の転換 (1)世界貿易拡大への貢献 〔1〕世界的な資源の最適配分、適正な国際分業の利益の実現を図るため、保護貿易主

義の連鎖反応の危険を回避し、自由貿易体制の維持発展を図るよう積極的に貢献する。

このため、多角的貿易交渉(東京ラウンド)の成果の確実な実施による世界市場の開

放を国際的に推進するとともに、貿易摩擦解決に当たっても自由貿易体制維持の観点

から国際協調を推進する。 〔2〕世界貿易の調和ある発展を図るとの観点から、発展途上国貿易について積極的な

考慮を払う。特に一次産品価格の短期的変動は世界貿易の攪乱要因となるので、市場

メカニズムを最大限に活用しつつ短期的価格変動の安定化を図るため緩衝在庫及び

その他の措置に対する融資機関としての共通基金の早期設立に積極的な役割を果た

すとともに、輸出所得安定化につき IMF の調査を踏まえ検討する。 〔3〕また、発展途上国の福祉向上のための開発が同時に世界貿易を拡大する効果をも

つことにかんがみ、経済協力の強化と国際金融の円滑化を国際的に推進する。 (2)貿易構造の転換 〔1〕我が国の貿易構造は、産業の高度化や中進国の工業化に伴う競争条件の変化、昭

和 48 年末の石油危機後のコスト・価格体系の変化等を背景に垂直分業型から水平分

業をとり入れた型へ転換しつつあるが、今後さらに、市場メカニズムの活用を基本と

しつつ、次のような施策により、これを促進し、適正な国際分業に寄与していくこと

が必要である。 この場合、このような貿易構造の転換は、適正な国際分業の実現を通じる世界貿易

の円滑な発展がひいては我が国経済の発展と国民生活の向上にも資するとの見地か

ら、最近実現しつつある内需中心の安定した成長パターンを確実なものとしつつ、産

業構造の高度化を図るための諸施策を通じて推進する必要がある。その際、我が国の

産業や地域に影響を及ぼすことも考えられるので、雇用や地域経済にも配慮しつつ、

産業調整政策、技術開発政策を併せて推進する。 〔2〕今後の輸出に関しては、高付加価値、高技術、高性能の商品のウエイトを高めて

いく必要がある。このため、プラント、高度の機械装置等を中心に各産業分野ごとに

この方向に沿った高度化、多様化を図る。特に、プラント等については、品質の向上、

コンサルティング能力の強化、アフターサービス網の整備等その総合的な競争力の育

成に努めるとともに、輸出金融、輸出保険等について、国際的な調和に十分配慮しつ

つ拡充を図る。 〔3〕貿易摩擦を回避するため、国際的な情報収集・提供、人的交流に努めつつ輸出秩

序の維持を図る。また、産油国、社会主義国等との貿易の拡大を通じ市場の多角化を

進めるものとし、このため、経済協力、国際金融協力等を機動的に活用する。 〔4〕輸入に関しては、多角的貿易交渉の成果のうえに立って、国内産業との調整を図

りつつ、関税率引下げとその早期実施の努力、各種協定類の具体化、規格・基準及び

検査に関する手続の改善、輸入手続の簡素化、苦情処理の迅速化、残存輸入制限品目

に対する輸入枠の拡大等により、外国品、特に製品に対し市場の一層の開放を図る。

また、輸入金融の活用、並行輸入を阻害するような行為に対する独占禁止法の厳正な

運用、流通機構の合理化を促進し、必要に応じ輸入品展示の援助、使節団の交流、輸

入情報の提供等諸外国の輸出努力を喚起するための措置を講ずる。 〔5〕原燃料輸入については、貿易構造の転換及び経済的安全の確保の見地からその節

約と供給源の多角化、安定化を図る。 〔6〕我が国貿易構造の円滑な転換を図り、適正な国際分業を実現するとともに相手国

の経済発展、貿易促進にも資するため海外投資を適切に展開する。 3.国際通貸の安定と国際金融の円滑化

〔1〕国際通貸の安定のためには、主要国の基礎的な経済条件の格差改善が不可欠であ

る。このため、我が国としても適正な対外均衡の確保に努めるとともに、各国、特に

基軸通貨国たる米国にも適切な経済政策の運営を行うよう呼びかける。 〔2〕為替市場の無秩序な状態に対しては、IMF 協定に沿って介入等為替相場政策面に

おける各国との協調を維持・強化していく。 〔3〕上記のような方針により、変動相場制の安定的運営に努めながら、今後の中長期

的な国際通貨秩序の安定に関しても、国際経済情勢等を検討しつつ、国際協調のもと

に努力を続ける。 〔4〕赤字国に対するファイナンスに関し、IMF の機能充実その他の国際的融資体制の

強化に貢献する。 〔5〕国際金融、資本交流その他の対外取引に関する諸制度につき、「外国為替及び外国

貿易管理法」を改正し、原則自由、有事規制の方針のもとに為替管理の自由化を促進

し、また、貿易金融における円の活用を図るとともに、金利の一層の自由化、弾力化

等により我が国金融・資本市場の発展を図り、我が国の国際的地位と経済力にふさわ

しい資本交流の活発化と円の国際化に寄与する。 4.経済協力の拡充 我が国と発展途上国との相互依存関係が高まるにつれて発展途上国の経済社会開発

への自助努力を支援する経済協力は、その重要性が高まっており、我が国国民と発展途

上国国民の間の理解を基本として次の点に留意しつつ、政府開発援助を積極的に拡充す

るとともに、民間による協力についても、これと相互に補完しつつ、総合的に推進する

ことが必要である。 ① 「国造り」の基礎はまず「人造り」にあることにかんがみ、「人造り」のための協

力を今後の我が国援助政策において一層重視していく。 ② 発展途上国の多様な需要に対応し、資金協力を拡充・推進するとともに、発展途

上国の人造りに資する等のため、技術協力を拡大する。 ③ 発展途上国の実情及び真のニーズについて理解を深めるため、広範な分野にわた

り、人材の育成、学術・文化の振興・交流を図る。併せて我が国経済協力の現状等

についても広く国民の理解を得るよう努める。 (1)政府開発援助の積極的拡充と質的改善 〔1〕政府開発援助(ODA)につき、昭和 52 年基準の援助実績を 3 年間で倍増するとの

中期目標の確実な達成のためその積極的拡充を図り、その後においても引続き積極的

な拡充の努力を行う。政府開発援助の対 GNP 比率の国際目標(0.7%)については、

引き続きその達成に努め、当面、これを速やかに先進国水準にまで高めることを目指

す。 〔2〕援助条件の横和については、グラント・エレメントの国際目標 86%を目指し、無

償資金協力、技術協力、国際機関を通ずる協力を拡大するとともに、借款条件につい

ては引き続き緩和の努力を続ける。 〔3〕政府開発援助の支出実績の拡大のため、予算の拡充、執行の促進、援助約束の拡

大、実施手続の迅速化等、援助プロセスの全体にわたり、整合的な拡大の努力を行う。 〔4〕援助資金の質的改善及び量的拡大を図る観点から、アンタイド化を基本原則とし

て、内外にわたる諸般の事情を考慮しつつ、その着実な実行に努める。 〔5〕政府開発援助の量的拡大に伴い、政府及び政府機関で政府開発援助に関与する専

門的能力を具えた人材の養成・確保を行う。 〔6〕政府開発援助の地理的配分としては、従来、地理的、歴史的、経済的に密接な関

連を有するアジアの国を中心に供与されてきており、今後ともかかる傾向を維持する

とともに、アジア以外の地域の発展途上国との関係も緊密の度合を強めていることか

ら、これら諸国への援助も増大していくこととする。 〔7〕世界の食連関題の重要性にかんがみ、今後とも深刻な食糧の不足が予想される地

域における食糧増産計画には、上記地理的配分を勘案しつつ積極的に貢献していく。 (2)技術協力の拡大 発展途上国の人造りのための協力を推進するため、発展途上国の需要、要望を尊重し

つつ各分野にわたる専門技術者の育成のための技術協力等に加え、教育協力、地域社会

の発展への協力、人的文化的国際交流等を進める。このため実施機関、技術協力専門家

の待遇、留学生・研修員受入及び民間専門家派遣の一層の充実、相手国に対する日本語

の普及等技術協力の基盤づくりに努めるとともに、その他政府関係機関及び民間による

技術協力を振興する。特に発展途上国は資本、設備とともに企画、経営、生産、販売等

を総合した企業技術を必要としているため、我が国企業に体化した技術を応用し、雇用

者の組織的能力を活用して、企業技術の発展途上国への移転を推進する。 (3)プロジェクト・ファインディング及びコンサルティング企業の強化 政府開発援助の拡大のため、積極的なプロジェクト・ファインディングを行うととも

にコンサルティング企業の育成・強化に努める。 (4)国際機関等への協力 国際開発金融機関への出資・拠出、協調融資を拡大し、また、国連開発計画(UNDP)、

世界食糧計画(WFP)等国連諸機関への資金協力を拡大するとともに、支出に相応の

人的貢献を図る。さらに、ASEAN 等地域協力機構への協力を拡大する。 (5)発展途上国の多様化に対応する援助形態 発展途上国の多様化に伴い、援助手段の適切な組合せが必要となる。 〔1〕後発発展途上国(LLDC)及び石油危機で最も影響を受けた国(MSAC)に対して

は既往債務の救済ないし緩和と同等の無償資金協力の供与、「人間生活の基本的要請

(BHN)」充足のための無償援助の供与等を行い、量的拡充に努めるとともに後発発

展途上国向け援助のグラント化に、できる限りの努力を払う。後発発展途上国側から

の要請により借款を供与する場合には、その借款条件の綬和に引き続き努める。 〔2〕一次産品輸出国に対しては、一次産品総合プログラムに係る国際協力に努めると

ともに、民間部門との連携による資源開発、加工高度化、多様化への援助等を行う。 〔3〕工業製品輸出国に対しては、貿易の拡大均衡が世界経済の成長にも寄与すること

にかんがみ、貿易、投資の面を重視し、経済社会基盤整備のための協力にも配慮する。 〔4〕資本余剰石油輸出国に対しては、民間協力及び技術協力を振興する。 (6)経済協力行政の充実 経済協力の推進に当たっては、経済協力は長期的・専門的・組織的経験を必要とする

ため、関係省庁協議による運営の一層の円滑化を図り、実施機関の一層の充実、活用を

図る。また、政府開発援助の拡大に伴う財政的・制度的負担の増加に関し広く国民の合

意の形成を図る。 (7)海外投資活動の展開 海外投資の適切な展開を図りつつ、資本と技術の一体的移転を通じて相手国の経済開

発、貿易促進に努めるとともに、併せて我が国貿易構造の円滑な転換、資源・エネルギ

ーの安定供給の確保に資するため、大規模経済協力プロジェクト、資源開発、中小企業

の海外投資等について必要な指導、助成を行う。 また、我が国の海外進出企業の行動については OECD の多国籍企業の行動指針の遵

守を指導するとともに、他の多国籍企業の行動についても国際協調のもとに実態の把握

に努める。 5.国際交流の積極的推進

我が国が国際社会のなかで積極的役割を果たしていくためには、国際社会との調和を図

る一方、我が国の正しい実情及び独自の事情を周知させることにより、国際的な相互理解

を促進していくことが不可欠である。このため、経済の領域のみにとどまらず、広く教育、

学術、文化、観光、労働・福祉関係等の額域を含め、人的交流の促進、情報の収集・交換

の促進、対外広報活動の強化等を行う。

Ⅳ 経済的安全の確保と発展基盤の培養 内外環境条件の急速な変貌に直面する我が国経済にとっては、当面する課題である新し

い安定した成長軌道への移行を図るとともに、それを基礎として我が国経済の長期にわた

る安定的かつ持続的な発展を確保することが重要である。このため、資源・エネルギー、

食糧等我が国にとって不可欠な物資について、船舶等の輸送力の充実強化を含め、その安

定供給を確保するべく、経済的安全に留意した対外政策及び国内経済運営を行う。同時に、

計画期間を超えた将来をも見通して、我が国経済の発展基盤を培養するために産業構造転

換の推進、自主技術開発力の強化、地域政策の展開等を図る。 具体的には、以下のような諸施策を推進する。 1.資源・エネルギーの安定供給 (1)エネルギー施策の基本方向 〔1〕世界のエネルギー情勢は、先のイラン革命に端を発した石油の供給の不安定化と

大幅な原油価格の上昇により新たな局面を迎えるに至った。 すなわち、石油の量的不足とより高い価格が、全ての石油消費国において経済発展

への制約を強めてきている。このため、各国は世界のエネルギー需給、なかんずく石

油需給を共同して安定化させるための努力を強化する必要性に迫られており、自由世

界第 2 位の石油消費国である我が国としては、世界の石油需給の安定化のために大

きな国際的責務を有していることを認識する必要がある。 一方、我が国のエネルギー需給構造は、石油への依存度が高く、しかも、その石油

のほとんどを輸入に依存していることなどから、極めて脆弱なものとなっている。 このような情勢のなかで、今後我が国が安定した経済の発展と充実した国民生活の

実現を図っていくためには、脱石油化を目指しつつ、エネルギーの安定供給確保を図

ることが基本的課題である。このため、東京サミットの共同宣言の趣旨を踏まえて、

決意を新たにし、原子力、石炭等石油代替エネルギーや、核融合、太陽エネルギー等

新エネルギーの開発に最大限の努力を傾注することによって、石油への依存を可能な

限り低減させる一方、我が国の社会がエネルギーをできるだけ節約し、かつ、効率的

に使用する「省エネルギー型社会」を指向することによって、エネルギー需給構造の

脆弱性を可能な限り克服していくことが極めて重要である。

その際、エネルギー政策の効果が現れるまでの時間を充分考慮するとともに、国際

的視野に立った的確な対応が不可欠である。 〔2〕今後我が国は、計画期間を超えた将来の展望をも踏まえつつ、早急にエネルギー

の安定供給基盤を確立するため、次のような短・中・長期の諸施策を同時並行的に、

かつ、整合性と実効性をもって実施する総合エネルギー政策を展開することが必要で

ある。 第 1 に、世界の石油需給は今後ますます厳しさを増すものと予想されている。こ

のため計画期間内におけるエネルギー需給問題の解決に資するため、石油からの燃料

転換を含め石油代替エネルギーの開発利用を積極的に推進する必要がある。 さらに、今後石油の増産限界の到来が予想され、新エネルギーが本格的な利用段階

に入るまでの間にエネルギー供給の谷間が生じるものとみられている。 したがって、現段階から石油代替エネルギーの開発利用を図るべく、所要の施策を

強力に展開する必要がある。 その際、安全の確保を基本としつつ原子力の開発を促進するとともに、世界的にみ

て厳存真の極めて大きい石炭に重点を置く等電源構成の脱石油化を中心とした施策

の展開が必要であり、近い将来電力需給のひっ迫も懸念されることから、電源立地を

引き続き強力に推進する。 第 2 に、省エネルギーは、資源・エネルギーに乏しい我が国が今後の石油供給の

不安定性に対処しつつ、経済的安全を確保していくための重要な前提であり、当面の

エネルギー使用を節減するとともに、長期的なエネルギー需給の均衡を需要面から図

っていくうえでも重要な役割を担うものであることから、社会全体のエネルギー使用

効率化を目指して徹底してこれを推進する。 第 3 に、今後石油への依存を可能な限り低減させるため石油代替エネルギー等を

積極的に開発する必要があるが、当面はなおエネルギー供給の大宗を石油に依存せざ

るを得ないものと考えられる。このため、石油の安定供給確保対策及び石油の一時的

な供給削減等による緊急時の対策を強力に推進する。 第 4 に、新エネルギーの研究開発の推進は、長期的なエネルギーの安定供給の確

保のうえから重要であり、将来に向けての本格的利用を目指し積極的に推進する。 以上、エネルギー問題は国民全体が総力をあげて取り組まなければならない多くの

困難な課題を内包しており、エネルギーの需給両面にわたる政策は、国民一人一人の

理解と協力を得て取り組む必要がある。 (2)具体的エネルギー施策 1)石油代替エネルギーの開発利用の推進 ⅰ 原子力 (ⅰ)自主技術の確立

軽水炉の改良・標準化を推進するとともに、核燃料サイクルの確立、新型炉の

開発等を通じて技術を蓄積し、自主技術の確立を図る。 (ⅱ)核燃料サイクルの確立 ウラン資源を確保するとともに、ウラン濃縮、使用済み燃料の再処理、放射性

廃棄物の処理処分等自主的な核燃料サイクルを早急に確立する。 (ⅲ)新型炉の開発.利用 核燃料資源の有効利用を図るため、資源効率の高い高速増殖炉(FBR)等新型

炉の開発利用を強力に推進する。 (ⅳ)国際協調 核不拡散の要請等原子力開発利用をめぐる国際的な環境条件に対応しつつ、我

が国の原子力開発利用を円滑に推進していくため、国際核燃料サイクル評価

(INFCE)及びこれに関連する各種の協議、原子力開発利用に伴う安全問題に関

する国際協力等に対し積極的に寄与する。 ⅱ 石炭 (ⅰ)石炭火力の環境・立地対策の推進及び石炭需要の拡大 石炭の利用拡大のため、石炭火力発電所の建設を促進する。このため排煙脱硝

技術を一層向上させるとともに、石炭灰の有効利用の促進及び灰捨用地の計画的

確保に努める。また、必要な港湾機能等を備えた立地地点を地域開発計画等との

連携を図りつつ確保する。 また、電力以外の産業についても、石炭利用の拡大を図るため、環境保全に配

慮しつつ石炭への燃料転換を推進する。さらに、積み替え機能等を有するコール

センターの建設について早急に検討する。 (ⅱ)石炭の安定供給の確保 生産の近代化を図りつつ、国内炭の生産規模を現状程度に維持するとともに、

今後の石炭需要の増加に対処するため、積極的に海外炭の開発輸入を図る。この

ため、関係業界の協力のもとに安定的供給源を確保しつつ、開発利用体制を整備

する。 (ⅲ)石炭利用技術の開発 石炭の液化・ガス化技術、石炭・油混合燃料技術等石炭利用技術の開発を、必

要に応じ国際協力を図りつつ推進し、その利用の拡大を図るとともに、新規需要

分野を開拓する。 ⅲ 液化天然ガス等 液化プラント、運搬船、受入基地の建設を進めるとともに、産業用需要等の組織

化を推進することにより、一貫した開発導入体制を整備し、液化天然ガスへの燃料

転換を促進する。 また、輸入基地の建設、需要の拡大、流通体制の整備等を図り、液化石油ガスの

積極的導入を図るとともに、新燃料油の開発導入を促進する。 ⅳ 水力及び地熱 エネルギー供給面の安定度が極めて高い、水力、地熱等国内資源の開発利用を推

進する。 このため、水力については、未開発地点、再開発地点等の開発を促進するととも

に、河川総合開発事業への積極的参加等を図る。また、地熱については、厳存量の

把握等の総合的な調査を実施するとともに、環境保全等との調整及び探査・開発利

用のための技術開発を図る。 2)省エネルギーの推進 ⅰ 国民運動の展開 省エネルギーの推進に当たっては、国民一人一人がエネルギーを効率的に使用し、

また節約に努めるという認識を持つとともに、それを日常生活のなかで具体化して

いく自主的な努力を促進することが重要である。 このため、教育、情報提供、普及啓発等の活動を一層充実し、国民的合意の形成

を図るとともに、国民運動の高揚を図ることにより、官民一体となった省エネルギ

ーを強力に推進する必要がある。 ⅱ 産業、民生、輸送各部門の省エネルギー化 省エネルギーは、まず「エネルギーの使用の合理化に関する法律」を中心として

産業、民生、輸送の各部門の省エネルギー化を推進することが基本となる。このた

め、工場、事業場における積極的な省エネルギー投資等を通じてのエネルギー使用

の合理化、住宅及び建築物の省エネルギー構造化、自動車、その他のエネルギー消

費機器のエネルギー消費効率の向上を図るとともに、省エネルギーを促進するため

所要の措置を講ずる。 特に、エネルギー消費の約 6 割を占める産業分野においては、エネルギー使用効

率の向上、廃熱利用等を進めるため、省エネルギー投資を行う必要がある。 さらに、社会全体で効率的にエネルギーを使用するためには、産業構造の転換、

地域の特性等に応じた大量公共輸送機関等の活用及び熱併給システムの普及の検討

等総合的な省エネルギー対策を推進する必要がある。 ⅲ 省エネルギー技術開発の推進 省エネルギーを推進するに当たって技術開発の果たす役割は極めて大きい。この

ため、民間企業による省エネルギー技術開発を促進するとともに、民間のみでは対

応できない省エネルギー技術開発については、適正な官民負担のもとに政府が中心

となって推進する。 3)石油の安定供給の確保

ⅰ 国際協調の推進 国際エネルギー機関(IEA)を中心として石油輸入諸国間における国際協力に積

極的に寄与するとともに、経済協力等により石油輸出国との間に幅広い協力関係を

形成し石油の一層の安定供給を確保する。 ⅱ 石油開発の推進 自主開発原油の供給増加を図るため、今後とも海外及び我が国周辺の大陸棚にお

ける石油資源の開発を推進する。このため、石油公団の活用等を通じ、民間企業に

よる石油資源開発を促進するとともに技術者の養成を含めた石油開発技術水準の向

上を図る。 ⅲ 原油供給源、供給ルートの多角化 政策原油(自主開発原油及び政府間取引原油等)等について、我が国需要の相当

程度を確保するべく供給ルートの多角化を図るとともに、特定地域に偏っている輸

入先の分散化を図る。 なお、原油の重質化、需要の軽質化傾向に対応して、重質油分解技術の開発等重

質油対策を推進する。 ⅳ 石油備蓄の増強と緊急時の行政的対応の強化 IEA 諸国とも協調し、石油需給動向を踏まえつつ、民間石油企業による 90 日備

蓄目標の達成、維持に努めるとともに、さらにセキュリティーを高める観点から、

現行の国家備蓄の増強に努める。また、緊急事態に備えて、石油製品割当配給シス

テム等具体的な行政対応策を整備する。 4)電源立地の推進 ⅰ 電源構成の脱石油化 電力の長期安定供給確保を図るため、電源立地を強力に推進する。その際、石油

代替エネルギーの開発利用の拡大のため、電源構成の石油依存度の低減に重点を置

くものとする。 ⅱ 電源立地に関する国民的合意形成基盤の整備 電源立地の円滑化を図るため、電源立地の必要性及び発電所の環境保全及び安全

対策等に関し、引き続き、地元住民等をはじめ広く国民の理解と協力を得るよう努

める。 また、電源立地に当たって重要な役割を果たす地方公共団体との連携を強化し、

相互の意志疎通を図る。 ⅲ 地域住民の福祉の向上 地域住民の福祉向上を図るため、「発電用施設周辺地城整備法」等電源三法を積極

的に活用する。 ⅳ 原子力の安全対策の推進

原子力発電の立地を推進するに当たっては、安全の確保が基本となる。 このため、「原子力基本法」等の関係法令を厳正に運用するとともに、安全審査、

検査体制の充実を図る。また、原子力発電設備の信頼性実証試験の拡充等により、

安全性に関する国民の理解を深める。さらに、防災体制の強化等、防災対策の充実・

整備を行う。 ⅴ 環境保全対策の充実 適切な環境影響評価を実施するため、環境影響評価技術手法の整備向上のための

調査研究を推進する等により環境調査及び審査の充実等を図り、環境保全対策につ

いての地元の理解を得るよう努める。 5)新エネルギー技術開発の推進 核融合・太陽エネルギー等の新エネルギーの技術開発には長いリードタイム、巨額の

資金、最高水準の英知、及び多大のリスクを伴うため、所要の資金及び人材の確保を図

りつつ官民の有機的連携のもとに、政府が中心となって計画的に推進する。 また、ソーラーハウス等実用化段階に入りつつあるものについては、早期実用化を図

り、その利用普及を促進する。 さらに、新エネルギーの技術開発に当たっては、IEA 等における多国間の研究協力、

及び二国間の研究協力を積極的に推進するとともに、発展途上国等に対しても新エネル

ギーに関する技術協力を進めていく。 6)資金の確保 今後のエネルギー対策の推進のためには、巨額の資金が必要であるが、その資金の確

保に当たっては、まず民間資金を一層活用することが重要であり、そのコストも極力市

場原理に基づいて、国民経済全体で適正に負担される必要がある。エネルギー対策につ

いては、リスク、収益性、懐妊期間等から民間のみでは対応が困難な分野もあり、政府

としても、所要資金の確保を図ることとし、その方法については、受益者負担の観点を

含め検討を行う。 (3)非エネルギー鉱物資源の安定確保 非エネルギー鉱物資源は、我が国産業の基礎資材として広範な分野に利用されており、

我が国経済の持続的発展のためには、今後ともこれを安定的に確保していく必要がある。

しかし、これら資源は特定の国に偏在しており、かつ資源保有国の政治経済情勢は不安

定である場合も多く、今後の安定確保には機動的対応が必要となっている。 このため、今後とも国内資源の有効活用に努めるとともに、海外における資源開発等

を積極的に進める。 1)国内資源の有効活用

国内資源は流動的な国際資源情勢のなかにあって最も安定した供給源であることか

ら、これを有効に活用していくため、探鉱活動を促進する。 2)海外資源開発の推進 我が国は原料の多くを輸入に依存しているので、資源の安定的確保のため、資源国と

の協調を図りつつ計画的に海外資源の開発を推進する。 2.食糧等の安定供給の確保と農林水産業政策の推進 (1)施策の基本方向 〔1〕日本人の食生活は、高度成長の過程を通じて豊かになり、また、栄養摂取カロリ

ーにおいても、炭水化物・蛋白質.脂肪の摂取バランスにおいても、平均的にはほぼ

望ましいものとなってきた。この状態を安定的に維持しながら、さらに多様化・個性

化していく今後の食生活のニーズに応えつつ、食糧の安定供給を確保することは、豊

かな国民生活を実現するための一つの重要な基盤である。 しかしながら、今後の食糧供給をめぐる内外の諸条件には必ずしも楽観を許さない

ものがある。中長期的にみた世界の食糧需給は自然条件に左右され、かつ先進国等を

中心とする畜産物消費の増加に伴う飼料穀物需要の増大や発展途上国の人口増加及

び所得向上に伴う需要増加が見込まれるなど多くの不安定要因があり、現在でも一部

の発展途上国においては慢性的な食糧不足に悩まされている。 一方、我が国の国民一人当たり農用地面積はわずか 5 アールと極めて小さく、か

つ農地価格の持続的上昇によって経営規模の拡大が進まず、土地依存度の高い農産物

の生産性の向上が遅れる結果となった。比較的土地制約の少ない鶏卵・鶏肉・豚肉や

施設園芸等の生産性の向上は進んだが、土地制約の強い大豆・飼料穀物・小麦の輸入

依存度は 9 割以上と著しく高まり、また牛肉は品質格差はあるものの国際的にはか

なり割高なものとなった。また、米等は、我が国の風土に適し、かつ技術の蓄積によ

り生産性が向上した反面、需要の減退等により過剰生産の状態が強まった。このため、

国内生産の再編成を早急に実現しなければならないという課題に直面している。 〔2〕このような情勢に対応し、将来にわたって食糧等の安定供給を確保するためには、

以下のような展望を踏まえる必要がある。 第 1 は、今後の食糧消費需要は、食生活の水準からみて、量的な拡大はかなり鈍

化するとみられることである。そして今後は、食料消費の多様化・高級化に伴い加工

食品、外食等の飲食費の伸びが相対的に大きくなり、食料品の最終消費支出に占める

流通・加工・飲食店サービス部門への支払構成がさらに高まるものとみられる。この

ため、今後は多様化する国民のニーズに対応した安全、良質な食糧の安定供給を図る

こと、及び生産の効率化と併せ流通・加工・飲食店サービス部門における合理化、近

代化を図ることが重要となる。 第 2 は、今後の農業労働力の減少がかなり鈍化するとみられることである。高度

成長期においては、鼻薬労働力が急激に減少し、生産が需要の伸びに追いつかず、農

産物価格が上昇したが、今やこのようなパターンは崩れ、今後は生産の拡大要因が強

まり、食料消費需要の伸びの鈍化傾向とあいまって価格の上昇は従来より小さなもの

になるとみられる。したがって、農業依存度の高い中核的農家の経営規模を拡大し、

生産性向上を図ることにより所得を確保することが基本的に重要となる。 また、これら中核的農家が将来にわたって安定的な生産を続けていくためにも、農

村地域社会の健全な発展を図ることが重要であり、このため、生産基盤の整備と併せ

て農村における生活環境の整備、就業機会の創出等の定住条件の整備を図っていく必

要がある。 第 3 は、国際協調という観点に立って食糧をめぐる諸問題への対応を図っていか

なければならないことである。そのためには、食糧不足に悩む発展途上国への農業協

力等を通じてそれら地域の食糧増産に寄与し、ひいては世界の食糧需給の安定化に資

するといった国際的視野に立った対応が必要となろう。また、農産物の輸入について

は、国内農業における生産性の向上を図り、それとの調整を図りつつ、多角的貿易交

渉(東京ラウンド)の成果に沿って、需要の動向に応じた輸入量の拡大を図っていく

ことも必要となる。 第 4 は、木材の供給についてである。近年の林業生産は幼齢林が多いという資源

的制約に加え、生産基盤整備の立遅れ等から縮小的停滞をたどっている。このため、

供給量の 3 分の 2 を外材に依存しているが、今後は輸出国において輸出制約要因が

次第に強まるほか、世界の木材需給も長期的には不安定に推移するものとみられる。

したがって、木材生産の長期性を踏まえ今から安定供給を確保するための対応が必要

となっている。 第 5 は、国民の摂取する動物性蛋白質の半ばを占めている水産物の供給について

である。これまでは遠洋漁業を中心とする漁場の外延的拡大によって増大する需要を

賄ってきたが、200 海里時代の本格化に伴う漁場の制約に対処して、今後はいかにし

て水産物の安定供給を確保するかが重要な問題となっている。 〔3〕以上のような食糧等をめぐる内外の諸情勢と展望を踏まえ、以下の施策に重点を

おく。 ① 経済的安全という観点に立って食糧の安定確保を図るため、土地・水・労働力

等の資源の有効利用及び効率の視点に留意して総合的な食糧自給力の向上に努め

る。輸入については、国際的視野に立って長期的にその安定化を図る。 ② この場合、米の需給の均衡を図り、需要の動向に即した農業生産の再編成を推

進するとともに、生産性の高い強い体質の農業の実現を図ることが基本的に重要

である。現在中核的農家は 100 万戸を超えているが、今後ともこのような農家が

高い生産性を実現しつつ、農業生産の相当部分を担い得るよう、その経営の発展

を支援し、併せて兼業農家を含めた地域農業生産の組織化を推進する。

③ 農業生産の効率化とともに、流通.加工・飲食店サービス部門の合理化、近代

化を促進する施策の一層の充実を図り、食料品価格の安定を図る。 ④ 木材については、長期的視点に立って森林のもつ水源かん養、国土保全等の公

益的機能の充実を図りつつ、国産材の供給力を高めるとともに、外材輸入の安定

化に努める。 ⑤ 水産物については、栽培漁業の推進その他沿岸漁業等の振興により、我が国周

辺水域の開発を積極的に推進するとともに、遠洋漁場の確保に努め、併せて水産

物の高度利用を促進する。 なお、今後の施策の展開に当たっては、かなりの困難と長期間を要する問題が

少なくないことにかんがみ、長期的な目標を明確化して着実に施策を実行に移す

ことが重要である。 (2)具体的施策 1)生産性の高い農業の実現 〔1〕農業構造を改善し、生産性の高い強い体質の農業の実現を図る。このためには、

農業に意欲的に取り組み、高い生産性を実現し得る農家の経営規模の拡大を図ること

が基本であり、土地利用型農業にあっては、農地の流動化を促進するための誘導、助

長等を積極的に推進することとし、農地制度についても、地域社会の理解と協力のも

とに、これら農家に土地利用の集積が円滑に図られるよう所要の改善を行う。また、

施設型農業にあっては、資本装備の高度化等経営規模の拡大と生産の合理化を推進す

る。 〔2〕土地利用の集積と需要の動向に即した農業生産の振興を図るためには、個別経営

による努力のみでは限界があり、今後は集落のもつ自治、合意形成等の機能を再評価

し、その活用を図って、将来にわたって安定的な生産を行いうる地域ぐるみの効率的

な農業生産体制の確立を図る必要がある。 このため、農業生産の再編成、農地の流動化、生産基盤の整備、生活環境の整備等

生産から生活にわたる各種の施策を地域の創意と自主性に基づいて総合的に実施す

る。 〔3〕農業に意欲的に取り組む担い手の育成、確保を図るため、上記対策と併せ、農業

後継者等の研修教育の充実、農業金融の充実、県業技術の開発、普及等を推進する。 〔4〕農薬生産の基盤となる農用地、水等については、「国土利用計画法」「農業振興地

域の整備に関する法律」「農地法」等の適切な運用により、優良農用地の確保を図る

とともに農用地の計画的な造成、水資源の開発を図る。 また、圃場区画の整理、用排水の改良、農道の整備等を推進し、生産性の向上と土

地利用の高度化を図る。なお、農業生産基盤の整備と併せて農村の生活環項の整備を

総合的に推進し、住みよい地域社会の実現と農業生産の担い手の確保に資する。

2)農業生産の再編成 〔1〕米の需給の均衡を図るとともに、需要の動向に即応した農業生産の再編成を図る

ため、麦、大豆、飼料作物等を中心に、稲作からの転換と定着化を推進する。このた

め、地域の実態に即した集団的かつ計画的な転作を進めるとともに、排水改良等によ

る水田の汎用化、米と他作物との相対収益性の改善、技術対策等、転作しやすい条件

整備を進める。 〔2〕畑作、畜産については、生産性の向上を図りつつ、需要の動向に見合った生産の

確保を図るため、畑地、草地等の生産基盤の整備を進めるとともに、栽培・飼葦技術

の改善、普及、多収穫品種の育成、地力の維持・培養等の施策を推進する。 〔3〕今後における農産物の需給動向からみて、米から転換する作物の需給及び価格の

安定を図ることが重要であり、農産物価格政策の適切な運営を図るとともに、的確な

需給情報に基づき生産者団体を中心とした計画的な生産出荷に努める。なお、我が国

の気候、風土に適した農産物の消費の拡大を図ることが、食糧の安定確保という観点

からも重要であるので、国民の理解と合意を得ながら、米の消費拡大をはじめ、国内

で生産される農産物の有効利用を進める。 3)農産物価格政策の適正な運営と流通加工対策の充実 〔1〕農産物価格政策は変動しやすい農産物価格の安定を通じて、国民生活の安定と農

業所得の安定確保に重要な役割を果たしており、引き続き、その適正な運営を図る。

この場合、従来ともすれば所得確保の視点が重視され、需給事情についての配慮に欠

けるうらみがあったが、今後における需給の動向及び農業生産の再編成の必要性等か

らみて、価格のもつ需給調整機能、資源配分機能を重視した運営を図ることが必要で

あり、特に米とその他農産物との相対収益性については、その是正を継続的に進める。 〔2〕食糧管理制度については、米の需給均衡の回復を最重点とし、経済の実態に即し

て、米の生産・流通・消費に係る食管運営の各般の面にわたりできる限り、市場メカ

ニズムの良さが生かされるよう制度・運営の改善を図ることとし、米価については米

の需給事情、家計・物価の動向その他の事情に十分配慮のうえ、逆ざや関係の是正に

努める等両米価の適正な決定を行う。 〔3〕また、牛肉については、粗飼料基盤の充実、多頭飼養経営の育成等国内における

生産性向上のための施策を積極的に推進するとともに、流通の合理化を図り、併せて

需要の増大に応じた輸入量の拡大、価格安定制度の活用等を通じて価格の安定を図る。

また、こうした諸施策を整合的に進めると同時に、必要に応じ価格安定のための方策

についても引き続き検討する。 〔4〕食料品価格の安定を図るため、流通・加工・飲食店サービス部門の合理化、近代

化を積極的に推進する。このため、広域流通、地域流通の進展等に対応して、卸売市

場をはじめとする流通・加工施設の整備、拡充を図り、流通の効率化を推進するとと

もに、卸・小売業の近代化、合理化を進める。また、国民のニーズに沿った多様な加

工食品等を安定的に供給し得るよう食品工業、外食産業の一層の振興を図る。 さらに、食品の品質や安全性に対する消費者の要請に応え、食品に係る衛生の確保

を図るとともに、食品の規格及び品質表示制度等の拡充、強化を図る。 4)木材の安定供給の確保と林業生産体制の整備 〔1〕木材の安定供給を確保するため、国内森林資源の充実を図りつつ、国産材の生産・

加工・流通に係る事業体を強化するなど、円滑な供給を図る体制を総合的に整備する。 木材需給の安定に資するため、需給及び価格に関する情報を的確に把握し、当面、

このような情報に即して適切な外材輸入が行われるよう誘導する。また、長期的視点

に立って、開発途上国における森林資源の造成等に関する協力を推進し、輸入の安定

化に資する。 〔2〕林業生産の増大を図るため、林道網の計画的整備、植栽から保育に至る一貫した

造林事業の実施、間伐の組織的推進等による林業生産基盤の整備や林業構造の改善を

促進するとともに、計画的な施業を助長して、効率的な林業生産体制の確立を図る。 〔3〕林業生産の担い手の定着及び山村の振興等に資するため、就労条件の改善、後継

者の育成、生活環境の整備を図るほか、地域農業との一体的開発、特用林産物の生産

振興等を推進する。また、再生産可能な木材資源について、その有効利用を図るとと

もに、エネルギーとしての活用についても見直しを進める。 〔4〕国有林野事業については、森林のもつ多角的機能を高度に発揮させるため、適正

な森林施業と投資を通じて、森林資源を整備するとともに、事業全般にわたる計画的

な改善合理化を進め、収支の改善等の経営の健全化を図る。 〔5〕今後における水需要の増加、国土の保全、緑に対する国民のニーズの増大等に対

応して、森林のもつ公益的機能の高度な発揮を図るため、保安林の整備、治山事業の

推進のほか、保健休養のための森林の整備等を推進する。また、水源かん養等のため

の森林整備に要する費用の一部については、国民の理解と合意を得ながら、受益者に

応分の負担を求める方向で、負担区分の明確化に努める。 5)水産物の安定供給の確保と漁業生産体制の整備 〔1〕200 海里時代の到来という新たな情勢のもとで、水産物の安定供給を確保するた

め、我が国周辺水域を見直し、水産資源の維持・管理に留意しつつ、沖合漁業での

漁獲量の確保に努めるとともに、特に沿岸漁業の振興を積極的に推進する。このた

め、汚染された漁場の機能回復、海洋汚染の防止等漁場環境の保全を図るとともに、

魚礁の設置、増養殖場の造成等沿岸漁場の開発、整備を計画的に進めるほか、増養

殖事業の拡充及びその技術開発の強化等により栽培漁業の振興を図る。

〔2〕遠洋漁業については、二国間交渉等漁業外交の積極的な展開により、既存漁場の

確保に努めるとともに、新資源、新漁場の開発、さらには漁業に関する経済協力等

を通じて漁獲量の確保を図る。 〔3〕漁業経営の改善を進め、経営の安定化、効率化を図るとともに、漁業の生産、流

通等の基地となる漁港の計画的な整備を図る。また、海岸保全施設、漁村の生活環

境施設等の整備を図り、漁業就業者の福祉の向上に資する。 〔4〕今後の水産資源の制約に対応して、水産物の有効、高度利用を図るため、いわし、

さば等飼餌科用に回されている多獲性魚の食用としての有効利用を進めるとともに、

オキアミ、底魚類等の未利用、未開発資源の開発利用を進める。また、水産物利用

の高度化に資する処理・加工技術の研究、開発を推進する。 〔5〕漁業経営及び水産物価格の安定を図るため、産地、消費地における流通・加工施

設等の整備を図り、流通、加工の合理化を推進するとともに、水産物需給の変動に

対応するため調整保管機能等の向上を図る。 3.産業構造の転換 (1)産業構造転換の基本的考え方

1)内外環境条件の変化 我が国経済は、過去においては世界経済の速やかな拡大、豊富低廉な資源・エネル

ギーの供給、海外技術の導入による技術革新の進展、耐久消費財等新製品を中心とす

る大量消費の出現などを背景とし、設備投資と輸出を主導力として高度成長を続けて

きた。しかし、こうした高度成長を支えた内外環境条件は、今や大きく変貌している。 ⅰ 国際環境条件の変化 国際環境面の変化では、まず世界的に資源・エネルギーの制約が高まり、とりわ

け石油供給の不安定性と高価格化が強まったことである。また、貿易面においては、

発展途上国、なかでも中進国の工業化の進展に伴い我が国との競合がさらに激しく

なり、他方、欧米先進国においては失業問題等を背景に保護貿易主義的な動きが台

頭している。 さらには、我が国の経済規模の拡大に伴い世界経済における我が国の影響力も増

大したことから、単に世界経済を受け身で捉えるのではなく、その着実な発展に積

極的に寄与し、世界経済に貢献していくことが求められている。 ⅱ 国内環境条件の変化 国内においては、高度成長の過程を通じて国民の所得は増大し、耐久消費財等に

対する物財的な欲求は相当に充足されたことから、国民のニーズは生活の質の向上

へと向かい、より高度で文化的な製品に対する欲求が増大するとともに、教育・文

化、保健・医療、福祉など社会的サービスをはじめとし、各種サービスに対する需

要が増加している。こうした国民ニーズの変化は、単に消費需要の変化として現れ

ただけではない。社会資本の整備においても、国民生活の質的充実に深く係わって

いるものに重点が置かれ、その整備に必要な資材も従来とは異なった構成となって、

需要構造に影響を与えることとなった。 国民ニーズの変化に加え、需要構造は石油価格高騰によるコスト・価格体系の変

化、貿易構造の変化、設備投資の減退などから、大幅な変化を示すに至ったが、生

産構造等の供給構造はその性格から短期的には十分適応できず、労働需給や地域経

済等に多大の影響を与えている。

2)産業構造転換の方向 このような内外環境条件の変化のなかで、今後我が国の産業構造は、資源・エネル

ギーを効率的に使用し、国際分業の進展と雇用の確保に役立つとともに、多様な財貨・

サービスの供給を行うことが可能な構造へと転換していかなければならない。このた

めには、産業構造の知識集約化を進めるとともに、サービス経済化にも対応し、生産

性を向上させつつ付加価値の高い構造へ転換していくことが必要である。 また、産業の地域配置については、今後必要とされる産業活動を、単に集中を避け

地方に分散させるだけではなく、地域の総合的整備の観点を踏まえつつ、各地域にお

ける生活水準、生活環境の向上に資するとともに、地域住民のニーズに応えて適切に

財貨・サービスの供給を行い、地域の魅力を増大させるような配置にする必要がある。 今後の我が国の産業構造を展望すれば、電子機器等高度組立加工型産業やファイン

ケミカルズ等の知識集約型産業が相対的に高い伸びを示し、さらに、鉄鋼、石油化学

等の素材型産業においても、素材の安定供給という重要な役割を果たしつつ、生産性

を高め、新素材・高級素材の開発が進められるなど、総じて知識集約化の方向に進も

う。また、サービス産業の高度化が進められ、必要かつ良質のサービスが効率的に供

給される構造へと転換していくことになろう。また、就業面では、今後発展が予想さ

れ、雇用吸収面での効果が比較的大きいサービス産業、高度組立加工型産業が雇用確

保の中心となろう。 (2)産業構造転換のための政策 産業構造の転換は、自由な市場機構のもとで、創意と活力ある企業の新製品開発、

生産性向上努力など自主的行動を通じて推進されることを基本とする。政府はこのよ

うな企業の自主的努力が発揮され産業構造の転換が円滑に進められるよう、競争条件

の整備等を通じて市場機構の有効性を確保するとともに、企業活動等の今後の参考と

して各産業部門の実態を見究めつつ産業構造の長期ビジョンを提示する。 同時に、政府として適正な成長の持続を図るとともに、単に市場機構に任せておい

たのでは国民経済的にみて十分な成果が期待できないものについて、産業構造の転換

を促進するため、知識集約化、サービス供給の高度化促進のための諸施策等を推進す

る。産業構造転換の過程において生ずる摩擦については、その影響をできるだけ減ず

るよう必要がある場合には的確な措置をとる。 1)知識集約化の促進 我が国産業構造の知識集約化を促進するため、各種技術開発を積極的に推進する

とともに、電子機器、各種機械・システム産業等高度組立加工型産業やファインケ

ミカルズ等の知識集約型産業の発展を促進するほか、素材型産業における新素材・

高級素材の開発、省資源・省エネルギー化を促進し、産業全般について製品、製造

工程の高度化を図る。 特に技術の波及効果が大きい情報産業、航空機産業等の技術先端産業の基盤とな

る技術開発を推進し、その順調な発展を促進する。また、高度化する国民ニーズに

適切に応えるための医療福祉機器、社会開発関連設備機器等の開発普及を推進する。

さらに、自主技術開発力の強化に必要な人材の育成を図る。 また、プラント等を中心に輸出構造の高度化を促進するため、情報収集、コンサ

ルティング・エンジニアリング機能の一層の強化を図るとともに、輸出金融・保険

の拡充等を、国際的な調和を図りつつ推進する。 2)サービス供給の高度化促進 国民の必要とする高度な各種のサービスが、民間部門の創意・工夫を通じて、円

滑かつ効率的に供給されるよう義争条件の整備を進めるとともに、政策金融、信用

補完制度の充実等を通じ、サービス産業の発展に必要な設備投資資金等の円滑な供

給を図る。また、サービス供給分野での技術革新を促進するため、サービス供給関

連機器やシステムの開発を行うとともに、人的面からもサービス供給体制の充実を

図るため、サービス経済化に伴う職業構造の変化に対応して職業訓練等の拡充を通

じて人材の育成を図る。併せて、サービス産業の一層の実態把握のため、関連統計

の整備を行う。 今後、特に国民の要請が高まるとみられる教育・文化、保健・医療、福祉等の社

会的サービスの分野については、公私間の役割分担、費用負担のあり方を見直した

うえ、民間部門による供給を促進し、民間資金の活用を図る。 3)産業調整の円滑化 国際分業の進展、需要構造の変化等に適応できず、経営環境が構造的に悪化せざ

るを得ない産業については、企業の自助努力を基本としつつ、摩擦を回避して円滑

に産業調整を進めるため、過剰設備の処理、製品の高品質化、高加工度化など業種、

業態に応じた構造改善を推進するとともに、新製品、新技術の開発、設備投資の促

進等を通じて、成長事業分野への事業転換を図る。

産業調整に伴う雇用問題については、その重要性にかんがみ、失業の予防のため

雇用安定資金制度等を適切に運用するとともに、円滑な職業転換を促進するため職

業訓練の拡充、職業情報の開発・整備を進める。 また、現に深刻な不況に陥り、又はそのおそれのある地域等に対しては、特に中

小企業への影響を減ずるよう、金融・税制等の現行特別措置を活用するほか、公共

事業の重点配分等の機動的実施を図る。さらに、地方公共団体等を中心とした地域

再生のためのビジョンの作成に努めるとともに、中長期的観点から地場産業の振興、

企業の立地促進等の地域の実情に沿った地域経済振興のための諸施策を、民間の自

主努力を活かしつつ、国、地方公共団体、民間部門の有機的連携のもとに総合的に

推進する。 (3)中小企業政策の推進 国際分業の進展や国内需要構造の変化など、我が国産業をとりまく環境条件の変

化は、中小企業に引き続き厳しい試練を課するものであると同時に、多品種少量生

産に適した分野やサービス部門において、新たな成長分野を提供するものである。 中小企業が今後とも国民生活の安定や地域経済の発展に貢献していくためには、

自主的努力によって内外環境条件の変化に的確に対応していくことが重要である。 このため、政策面においても、中小企業の創意と活力を高めることを基本として、

このような対応が円滑に行われるよう、今後の中小企業の進むべき方向を示唆しつ

つ、重点的、効率的に以下の施策を推進する。 1)経営資源充実のための施策の推進 人的資源、経営管理力、技術・製品開発力、財務力など経営資源の充実を図るこ

とは、中小企業が環境条件に適応し、発展を続けるための不可欠の条件である。こ

のため、経営・技術情報挺供システムの充実、経営手法等の研究を踏まえた経営診

断・指導事業の充実によって経営力の強化を支援するとともに、人材育成のための

各種研修制度の充実を図る。また、研究開発の促進、技術力の向上を図るため、技

術開発に対する助成、国公立試験研究機関等による技術開発、技術指導などを推進

する。さらに、政策金融、信用補完制度を充実し、財務力の強化に資することとす

る。 2)環境変化への適応円滑化のための施策の推進 中小企業が内外環境条件の変化に円滑に適応できるよう、引き続き知識集約化の

方向を目指した構造改善事業や組合のソフト的機能の強化を重点とした組織化対策

を推進するとともに、産地中小企業の活路開拓のための産地中小企業振興対策を推

進する。

また、貿易構造の変化等により経営環境が構造的に悪化しつつある中小企業の事

業転換が円滑に行われるよう、助成措置の充実を図る。 3)経営安定化のための施策の推進 内外環境条件の急激な変化によって経営の安定が損われた中小企業に対しては、

適時、適切な経営の安定化策を講ずる。 また、中小企業をめぐる取引環境の整備を図るため、不公正な取引方法の是正や

下請取引のより一層の適正化に努めるとともに、下請中小企業の体質改善の促進の

ための振興対策を推進する。 中小企業と大企業との間の事業活動の調整のための各種法律については、中小企

業の活力の維持と適正な競争の確保を図ることを基本としつつ、中小企業の事業活

動の機会が不当に侵されることのないよう適切に運用する。 4)小規模企業対策の推進 中小企業のうち大多数を占める小規模企業に対しては、その経営基盤の強化と安

定を図るため、引き続き経営改善のための指導、相談、融資等経営改善普及事業の

充実、小規模企業共済制度の普及などにより、実態に即したきめ細かい配慮を行う。 以上の施策に加えて、中小企業の我が国経済における重要性にかんがみ、その実

態把握のための調査・研究を充実するとともに、中小企業の意見が中央・地方を通

じて行政の場に広く反映されるよう、意見交換のための機会をさらに拡充する。 (4)流通政策の推進 これからの流通政策においては、多元的流通システムのもとで、流通部門が価格

のみならず品質、サービス等の面においても多様化する消費者の欲求を充足するこ

とができるよう、流通部門の効率化とその機能の充実を図っていくことが重要であ

り、このため、有効競争の確保を基本としつつ、以下の施策を推進する。 1)商的流通機能の高度化の推進 我が国商業部門において比重の高い中小商業の効率化、体質強化を図るため、各

種の診断・指導事業を充実するとともに、引き続き中小商業近代化のための施策を

推進する。また、業種別流通実態調査とそれに基づく業種別流通近代化施策の推進

を行うとともに、契約の明文化等による取引条件の適正化の促進、効率化設備の導

入に対する助成を行い、商流部門の総合的効率化を図る。 2)物的流通の効率化の推進 物的流通の効率化のため、引き続きトラックターミナル、倉庫等を有機的に結合

した近代的物流拠点の整備を進めるとともに、幹線交通ネットワークを着実に整備

する。特に、省エネルギー等の観点から、海上幹線航路網や流通拠点港湾及びそれ

に接続する内陸交通網の整備により海路利用を促進するとともに、他輸送手段との

適切な組み合せによる協同一貫輸送システムの普及を引き続き推進する。 また、都市内交通の大宗を占めるトラック輸送の効率化を図るため、幹線交通ネ

ットワークの体系的整備と併せて都市内流通施設の効率的配置を図る。さらに、今

後の物流機能の効率化のため、共同配送等輸送の共同化及び物流情報システムの整

備を一層推進する。 (5)地域に根ざした産業の振興 地域の産業は、その発展による就業機会の増大、所得の向上等を通じて地域の振

興に重要な役割を果たすとともに、都市的生活様式の一層の普及等に伴い高度化、

多様化しつつ増大する国民のニーズに応えて、各種の財貨・サービスを適切に供給

することにより、地域の魅力を増大させ人口の定着化を促進することが必要である。 このような課題に応えて、地域の産業の発展を図るため、社会資本の整備に当た

っても地域の振興に配慮するとともに、地域の特性に応じて以下の施策を適切に推

進する。 ① 産地産業、伝統的工芸品産業等地場産業の振興を図るとともに、食品産業、観光

産業等の地元資源に基づく産業を育成する。また、地域の実情に合った適正技術の

開発・適用を促進する。 ② 商業、余暇関連産業等サービス産業の振興を図るとともに、最近の技術開発の成

果をとり入れつつ、教育・文化、保健・医療、福祉など社会的サービスの拡充を図

る。 ③ 地域社会との調和のとれた工業の導入を促進する。

また、地域の特性が十分発揮されるためには、民間の創意・工夫と活力が行政の

場に的確に反映されるとともに、公民の協力体制が一層緊密化されることが必要で

ある。このため、公民の意見交換・協力体制をさらに整備、充実する。 4.自主技術開発力の強化 (1)施策の基本方向 〔1〕科学技術は、資源・エネルギーの供給制約等の成長制約要因を緩和し、我が国産

業の活力を維持しつつ、知識集約化を通じる産業構造の高度化の原動力となるばか

りでなく、高度化.多様化する国民ニーズに応じた財貨・サービスを供給すること

により、国民生活の向上を因って行くためにも、その振興、発展を図ることが不可

欠であり、我が国経済が内外環境条件の変化に対応して長期的な発展基盤を培養し

て行くうえで、科学技術の果たすべき役割はますます大きくなっており、国民の理

解と協力を得つつその振興を図ることが極めて重要である。 〔2〕従来、我が国は主として欧米先進国からの技術導入を基盤として、欧米諸国との

技術格差の解消に努めてきたが、今後は、国際社会における工業先進国としての我

が国の役割を果たしつつ、将来にわたり、国際競争力を維持、強化して行くため、

民間部門を中心に自主技術開発力の強化、育成を図る必要がある。 〔3〕また、新エネルギー技術開発等国民経済的にみて必要性が高く、かつ、民間の負

担能力を超える大規模又は先導的、基盤的技術開発については今後とも官民の有機

的連携を図りつつ、政府が中心となって積極的に推進しなければならない。なお、

その際には随時、中間評価を行い、その結果を弾力的かつ柔軟にその後の研究活動

に反映できるよう、適切かつ効率的な研究開発推進体制を整備する必要がある。 〔4〕さらに、国民生活の質的充実と生活環境の整備を図るために必要とされる環境、

安全、医療等の福祉型技術及び、生活関連社会資本の充実を目指した社会開発型技

術等は、市場機構のみによっては、その適切な発展が期待できにくい。 このため、公的部門を中心に、これら技術の開発及び普及を図るとともに、適切

な誘導助成等による民間部門の活用を図る必要がある。 (2)具体的施策 1)民間部門の技術開発力の育成と活用 我が国の技術開発において今後とも主体となる民間部門における技術開発について

は、市場機構を通じる企業の活力の発揮が前提となるものの、民間企業における技術

開発活動は経済情勢に左右されやすく、成長減速のもとでは開発意欲の後退による技

術開発基盤の沈下が懸念される。このため、技術開発の進展段階に応じたきめ細かい

誘導助成策を講じ、その育成を図るとともに、企業化に際してのリスク軽減にも特に

配慮する必要がある。 さらに、政府が中心となって行うべき研究開発についても、民間への委託等により、

民間の研究開発能力の活用と向上を図る。 2)基礎研究の充実等 科学技術全体の発展基盤を強化し、21 世紀までを見通した科学技術の新たな飛躍を

目指したシーズを発掘し、育成するため基礎研究を充実するとともに、その成果の効

率的実用化を図る。 その際には、国公立試験研究機関、大学、研究所等の研究環境の整備を促進し、経

常的研究基盤を培う一方、重点的な研究開発とその効率化や、国際交流の推進を図る

必要がある。 また、科学技術情報の流通活動の促進を図る。

3)研究開発資金の確保 民間企業の研究開発投資に対するより一層のインセンティブを与えるため、適切な

政府負担割合等に留意しつつ、その研究開発資金の充実を図る。 政府が中心となって行う研究開発投資については、その重点的配分と効率的使用に

配慮しつつ一層充実させるほか、新エネルギー等の大規模な研究開発の推進に必要な

資金等、急増する資金需要に応えるための方策につき、その研究開発の成果によって

利益を受ける者や、その研究開発の必要性を生じさせる者に一部を負担させるなどの

新しい確保方策の導入の可否を含め、早急に検討する。 以上、国の投資努力を一層強化しつつ、国民所得の 3%を目指して計画期間中にそ

の比率を極力高めることが望ましい。 4)人材の育成 自主技術開発力の強化のためには、創造性のある人材を多く必要とするとともに、

今後重要性を増す福祉型技術等においては、境界分野に属する研究開発が主体となる

ため、総合性に富む人材が必要とされる。このため教育のみならず、適切な研究開発

システムを形成することによる研究活動を通じた研究者、技術者の訓練にも重点を置

く。 また、科学技術の進展に対応して人材を弾力的に配置するため、官・学・民の人材

の流動化を促進すること等により、これらの有機的連携を強化し、境界分野や大規模

な研究開発を充実させる。 5)国際協力の推進 新エネルギー等の大規模な技術開発等に関する先進国間の研究協力を促進するとと

もに、発展途上国に対し、人材の養成を含めた効果的な技術協力を積極的に推進する。 5.地域政策の展開 (1)地域政策の基本的考え方 高度成長の過程を通じて、大都市へ集中した人口、産業は、地方への分散傾向をみ

せはじめている。 一万、国民生活の豊かさの増大に伴い、国民の価値観は多様化し、国民の関心は、

ゆとり、潤い、安らぎ、生きがいのある生活環境を強く求める方向にある。 また、我が国経済は、安定成長軌道を歩むにつれて産業構造、就業構造等の転換が

進み、これに伴って地域経済の重要性が一層高まってこよう。このような経済、社会

的要因の変化を踏まえ、地域政策の基本的な課題として、全国土の利用の均衡を配慮

しつつ、大都市地域においては、過密の弊害を除去し、豊かな居住環境を確保すると

ともに都市機能を適正に維持・発展させるため、都市の再開発等を積極的に進める必

要がある。また、地方においては、地域の魅力の増大、就業機会の確保を図るため、

地域に根ざした経済活動の拡大と都市機能の育成を緊密に関連させながら地域の個性

と自主性を尊重しつつ、定住のための条件整備を促進する必要がある。 このためには、環境の保全に配慮し、全国土にわたる交通通信体系の整備、工業の

再配置や農林水産業、地場産業等地域の産業の育成、国土の適正な管理、高次の教育、

文化、医療等の機能の適正配置を一層促進させる必要がある。 これら定住条件の整備により、都市と農山漁村が高次に結合され、精神的なゆとり

を持った心のふれあう地域社会が有機的に連担する田園都市国家構想の理念に照らし、

自然との調和のとれた安定感のある健康で文化的な人間居住の総合的環境が形成され

ることになろう。 (2)地域政策の方向 1)地域構造改善のための諸施策の推進 以上の基本的な考え方に即し、人間と自然との調和のとれた地域構造への改善を図

るためには、地域の特性を生かしながら、生産・生活環境の整備を総合的に推進する

必要があり、そのための基盤として次の施策を推進する。 ⅰ 基幹的施設の整備 地域構造改善のための基礎的条件である交通通信体系については、国土の骨格を

形成する幹線交通体系とともに、域内交通体系の一体的整備を図り、地域社会との

調和に配慮した交通通信体系の整備に努める。 エネルギー、基幹資源型工業等の基地については、地域の振興に資するよう地域

との調和を図りつつ、環境保全、保安.防災等に十分配慮し、長期的視点から安定

的かつ効率的な供給を確保するため、産業基盤施設の整備等により開発を計画的に

推進する。 ⅱ 工業の適正配置と地域の産業の振興 就業機会の拡大を図り、人口の定着を促進するため、都市のもつ多様な機能の育

成と関連させつつ、地域の産業の発展を図る。特に、農林水産業、地場産業等地域

の特性を生かした産業の振興に努める。 工業については、工業再配置計画に沿って計画的にその適正配置を促進する。こ

のため誘導地域においては、環境保全施設等を設置すること等により工業と地域社

会の調和に努めるとともに、工業団地の計画的供給と団地内立地の促進に配慮する。

特に工業集積の低い遠隔地及び構造的裏退産業に依存している地域については、引

き続き特別な配慮を行う。農村地域等への工業導入についても引き続き計画的にこ

れを推進する。 ⅲ 教育、文化、医療機能等の適正配置 地域の魅力を増大させ、住民ニーズに応えるため都市機能の充実を図る。特に、

高次の教育・研究、文化、医療等の社会的サービス関連の諸機能を適正に配置する

とともに充実を図る。 ⅳ 国土資源の有効利用及び適正な管理 国土利用計画等土地利用に関する諸計画、水需給及び水資源開発に関する諸計画、

公害防止計画等環境の保全に関する諸計画及び全国総合開発計画等地域開発に関

する諸計画に沿って国土資源の有効利用及び適正な管理を推進する。 2)地域整備の推進 地域の整備については、①高度成長期を通じて大都市に形成された情報機能や管

理機能等の諸機能の適正配置を図ることとし、地方の中心的な都市においても人口

の過度の集中を抑制しながら中枢管理機能等の集積を図る。東京及び大阪など大都

市地域については、今後予想されるこれら地域での土地、水、自然等国土資源の有

限性を踏まえつつ、大都市機能の再編成、高度化により機能的な都市活動を確保す

る。特に、首都東京については長期的な観点から抜本的な改造についての方途を検

討する。②今後、一層の人口増加が予想される地方都市については、「工業再配置促

進法」等の運用により新規の産業を積極的かつ計画的に導入するとともに、地場産

業等既存の産業の育成・強化を図りながら、高次の教育、文化、医療等の機能を充

実し、周辺農山漁村と調和のとれた整備を行い、その都市の特性に応じた多様で魅

力のある雇用機会の確保に努める。③国民の食糧や木材の供給、国土の保全、管理

された自然の維持培養などの機能を有している農山漁村については、農林水産業の

振興とともに、就業機会の創出を図り、生活関連の社会資本の整備を進めるほか、

教育、文化、医療、商業等のサービスを農山漁村住民が不便なく享受し得るよう道

路等交通通信体系の整備を図る。 ⅰ 大都市地域の整備

大都市地域については、既成市街地及びその周辺において過密の弊害が特に著

しいことから、 ① 人口、産業の新たな集中を極力抑制するとともに、地方分散を積極的に実施

し、都市構造改善に資するよう域内再配置も含めて、大都市における物的生産、

流通機能、業務機能、中枢管理機能等諸機能の適正配置を図る。 特に、行政、経済等の中枢管理機能は、安全性の観点も含め地域的適正配置

を進める必要があり、東京都心への一点集中を是正し、周辺及び地方の中心都

市等へ広域的に展開するよう機能分担の再編を図る。 ② 土地の高度利用、建築物の不燃化を含めた都市の改造、人口及び大都市機能

の分散・再配置を進め防災性の向上に努める。 ③ 大気汚染、水質汚濁、騒音、振動等公害問題、住宅問題、交通混雑の激化等

に対処し、自然環境の保全、居住環境の改善、交通網の整備等を一層推進し、

大都市地域に居住する人々が快適で潤いのある生活が確保できるような総合

的環境の整備を図る。 ④ 居住環境が悪い既成市街地については、居住環境整備のための再開発を推進

し、住宅の改善と、オープンスペースの確保等の環境整備とを一体的に進める。

新市街地の整備に当たっては、スプロールによる環境悪化を防止するため、都

市基盤施設整備と併せた計画的な宅地開発を促進する。 ⑤ また、都市内交通混雑による都市機能の阻害、環境問題等に対処するため、

幹線道路網の整備や大量公共輸送への需要の誘導とそのための諸施設の整備

を進める。 ⅱ 地方都市の整備

① 人口の増加、都市化の進展が予想される地方都市においては、地域住民が安

定、充実した生活便益を享受し得るよう生活環境施設の整備を促進する。特に、

地方の中心的都市において、高次の教育、文化、医療等の社会的関連サービス

の機能の整備、充実を図る。 ② 交通通信網をはじめ産業の受入基盤を整備し、周辺地域を含めた都市圏域の

人々の就業の場を確保するとともに、地域住民の定住の場として、各都市ごと

に地域の特性を生かした魅力ある総合的居住環境の整備を図る。 ③ このため、歴史的な個性の保持に配慮しながら、各都市施設の整備及び中心

市街地の再開発等を推進し.都市の魅力となるような第三次産業の発展基盤や

生活環境等の整備を推進する。 また、新市街地の整備に当たっては、農業等既存産業との調整、環境の保全、

防災等に適切に対応し、計画的、段階的な推進を図る。 ④ さらに、産業活動の増大と生活活動の広域化に伴い、増大する交通需要に対

処するため、生活関連道路の整備を促進し、公共交通と自家用自動車交通など

との適切な役割分担を図る。特に大都市に類する地方中心都市においては必要

に応じ大都市に準じた施策を推進する。 ⅲ 鳥山漁村の整備

① 農山漁村は単に生産の場であるだけでなく、多くの人々の居住空間、人間的

つながりの場であり、また、農林漁業生産活動を通じて、管理された自然の維

持、培養の機能を果たしており、今後においては、地方都市との利便の相互享

受にも配慮しつつ、農山漁村を総合的に整備し人口の定住を図る。 ② 農山漁村における所得確保の機会を積極的に維持、創出するため、農林水産

業自体の振興を図るとともに、農林水産物の流通加工をはじめ地域の特性を生

かした地場産業の育成振興、適切な工業の導入等を推進する。 ③ 都市に比べ立遅れている農山漁村の道路、上水道、排水施設等の生活環境を

生産基盤の整備と併せて総合的に整備するとともに、交通、教育、医療、レク

リエーション等について、地域の実情に応じた整備、充実を図る。なお、農山

漁村のもつ豊かな自然環境を都市住民も享受し得るよう保健休養、レクリエー

ション等のための施設の整備を進める。 3)社会的サービス関連分野等への民間活用

地方における定住条件の整備の一環として高次の教育、文化、医療等の機能を適

正に配置し、社会的サービス関連の諸機能の充実を図るためには、国、地方公共団

体、民間の協力のもとに総合的な施策を進める必要がある。 この場合、教育・文化、保健・医療、福祉等今後その発展が見込まれる分野及び

これらを包摂する総合的な都市開発ないし地域開発の嶺域において、自由で創造的

な民間活力の導入を図ることが望ましい。 このため、既存の土地利用、施設整備等に配慮し、地域の事情に応じて公的施設

と民間施設とを一体的に整備するなど両者の機能が有機的に結合し、その効果が一

層発揮できるような方途について検討する。 この際、投資の対象範囲が広域的でリスク負担が大きく、投資の懐妊期間が長い

等のものについては、民間の自律的な供給が可能となるまで限時的に適切な誘導策

を講じる必要があり、このため社会的公正と効率性を維持しつつ、公民の役割分担

を明確にし、政策金融、補助金等の適切な運用のための制度的諸条件の整備を図る。

Ⅴ 財政の再建と金融の新しい対応 〔1〕 現在、国、地方を通じ、財政は、戦後例をみない不均衡状態にある。高度成長期

の財改は、多額の税の自然増収に恵まれたこともあって、年々、その一部を減税に

充てながら、将来の財政支出に結びつく諸制度の充実を含めて、増大する財政需要

に応え、おおむね収支の均衡を維持してきた。しかし、石油危機後のインフレと、

これに続く長期不況によって、財政には著しい不均衡が生じた。すなわち、昭和 50年度以降、租税収入の水準が落ち込み、その後も伸びがはかばかしくないにもかか

わらず、歳出面では、国民生活の安定と景気の回復を図るため所要の規模を確保せ

ざるを得ず、このため財政収支には大きなギャップが生じ、財政は、大量の公債及

び借入金に依存するに至っている。 例えば、国の昭和朗年度一般会計予算においては、昭和 49 年度当時 11%であっ

た公債依存度が約 40%に達し、しかも発行される国債の過半が経常支出に充てるた

めのいわゆる特例公債となっている。地方財政においても、昭和 49 年度当時 6%で

あった地方債依存度が、昭和 54 年度には 13%となっているほか、交付税及び譲与

税配付金特別会計の多額の借入れが行われている。

〔2〕 最近の景気回復傾向が定着すれば、財政収支にもある程度好ましい影響が及ぶこ

とも期待できよう。しかし、安定成長のもとでの税の自然増収は、高度成長期のそ

れに比べるとはるかに小さなものになること、他方今後とも財政需要は広範な領域

で増加していく傾向にあることを考慮すると、抜本的な収支構造の変革を行わない

かぎり、財改収支の大幅な改善は期待できず、今後とも大量の公債及び借入金への

依存を続けざるを得ないものと予想される。 しかしながら、これまでの大量公債依存により、昭和 53 年度末の国債及び地方

債の残高は合計 60 兆円を超え、その国民総生産に対する比率も 30%と昭和 49 年

度末当時の 13%から飛躍的に高まり、これに伴い、民間資金需要が活発とはいえな

い状況下で、既発債価格の急落と新発債の消化難が、既に深刻な問題となっている。

このような現象は、今後公債管理政策等の面で適切な運営を行うとしても、それだ

けでは解決は不可能であり、基本的に公債の発行額自体を抑制しないかぎり、この

ような状態の大幅な改善は現実的に困難と考えられる。加えて、今後景気回復の定

着に伴い民間資金需要が活発化してくれば、事態は一層深刻化し、さらに、かかる

事態を回避しようとすれば、通貨量が過大となって物価の急上昇を招来する危険が

あり、ひいては国民生活の基盤をくつがえすこととなりかねない。 〔3〕 このような状況を考慮すると、財政の収支構造を抜本的に改善し、その再建を図

ることは、ひとり財政ばかりでなく、国民経済にとって本計画期間の重要な課題で

あり、これに取り組むことは当面の急務である。 いうまでもなく財政は、今後の経済社会の要請に的確に応えていかなければなら

ない。それが財政本来の役割であり、本計画期間内においても、これまでに述べた

完全雇用の達成と物価の安定、国民生活の安定と充実、国際経済社会発展への協調

と責献、経済的安全の確保と発展基盤の培養という諸目標の達成のために積極的な

役割を果たさなければならない。このような財政本来の機能を果たしつつ、その再

建を図ることは、至難のことではあるが、思い切った収支構造の改善により、両者

を同時に達成しなければならない。既に述べたとおり、我が国は急速に高齢化社会

に移行する。資源・エネルギーの制約のもと、国民意識の変化に対応しつつ、今後

長期にわたり国民福祉と国際協調の両立を指向し、国際経済社会に向かって開かれ

た福祉社会を建設していくためには、計画期間を超えて財政に期待される役割は一

層増大していくであろう。 このような長期的課題に適切に対応するためにも、本計画期間において、安定成

長下における財政の基盤を確立することは、不可避の課題といわなければならない。 〔4〕 また、財政の再建を進め極力発行額を抑制しても、計画期間中相当大量に発行さ

れ累積していくものと予想される公債について、その適切な管理が必要とされる。 金融についても、このような公債の増大に加え、経済が安定した成長軌道へ移行

し、あるいは金融市場が国際化するといった新たな情勢のもとで、通貨価値の安定

に配慮しつつ、資金配分の効率化その他の要請に応えていけるよう、適切な対応を

行うことが求められている。 1.財政の機能発揮とその再建 (1)財政に対する要請への適切な対応 〔1〕国、地方を通じ、財政に対する需要は、今後とも増大していくものと見込まれる。

財政は、これに適切に対応していく必要がある。 財政支出中大きな比重を占める社会保障及び社会資本整備に関しては、まず社会保

障については、国民が不安なく生活設計が立て得るよう、長期的な展望に立って体系

的に整備を進めることとし、社会保障移転の国民所得に対する比率が、昭和 53 年度

の 12.3%から昭和 60 年度に 14.5%程度に増加することを見込む。社会資本整備につ

いても、計画期間中おおむね 240 兆円(昭和 53 年度価格、用地補償費を含む。)の

公共投資を行う。その結果、昭和 60 年度未には、社会資本ストック(公的純固定資

産)は、昭和 53 年度末の 2 倍近くに高まると見込まれる。 その他の支出についても、計画の諸目標を達成するために必要な各種施策の着実な

実施を図る。 〔2〕しかし、財政の再建が急務である状況下では、安易な財政規模の拡大は厳に戒め

なければならない。財政支出については、今後次の点に留意する必要がある。 ① 個人、家庭、企業などが責任を負うべき範囲、民間部門の創意や活力に委ねる

べき領域を極力明確化し、安易な財政依存を排する。 ② 財政支出にはそれに対応する国民の負担が必要なことを再認識し、支出が負担

に値するものであるか香かについて十分検討する。 ③ 既存制度にかかるものを含めて、財政支出について、その有効性、効率性等の

十分な吟味を行い、優先順位を明らかにし、長期的、総合的観点から、合理化、

重点化を図る。 〔3〕財政の景気調整機能に関しては、石油危横後政府は、公共投資を中心とする積極

的な有効需要政策により経済的不均衡の是正に全力を傾け、その成果が現れて景気

は回復傾向を続けている。経済が構造変化を迫られている状況下では・経済の安定

のためには、総需要管理だけでなく長期的な視野に立った構造政策が必要であるが、

各般の施策との関連に配慮しつつ、財政の景気調整機能についても、引き続きその

適切な発揮に努める。 (2)行財政の合理化 〔1〕国・地方を通じ・行政あるいは財政支出については、極力合理化に努めつつその

効率を高める必要がある。 国の行政については、経済社会の変化に即してその役割を見直すとともに、機構、

定員、事務、事業等の全般にわたり、簡素化、効率化を一層推進する。 まず、行政機構については、部局等の機構の膨張を厳しく抑制するとともに、内部

部局、地方出先機関等機構の各段階にわたり見直しを進め、引き続きその整理簡素化

に努める。行政需要の変化に即応した機構の改編も、既存機構の合理的再編成による

こととする。 国家公務員については、定員配置の合理化を一層進めるものとし、引き続き定員削

減を計画的に実施するとともに、真に必要とされる新規行政需要についても極力振替

によって対処し、増員を厳に抑制する。また、部門間の配置転換の具体化に努めると

ともに、定年制を導入する等適正な人事管理を推進する。 公社、現業等各種政府事業を合理化することとし、このため公社及び現業の経営形

態のあり方についての検討を進めるとともに、経営の合理化を推進する。また、公団、

事業団等特殊法人の組織 事業内容等の合理化を進める。 このほか、行政事務の能率化と国民の事務等の負担の軽減に資するため、行政の諸

制度、諸法令の全般について見直し、整理簡素化を推進する。 〔2〕財政支出についても、既存制度にかかるものを含めて、国はその有効性、効率性

等について厳しい検討を行う。この場合、行政経費に関して上記行政の簡素化、効率

化を行うほか、各種の政策経費についても、全面的に、かつ根底から、これを洗い直

し、合理化を行う。特に補助金等については、整理合理化を進めつつあるが、今後と

も社会経済情勢の変化に即応し、全体について見直しを行い、廃止、減額、統合・メ

ニュー化等の整理合理化を推進する。なお、補助金等の交付事務手続の簡素合理化を

引き続き進める。 我が国においては、これまで、経済の高度成長によって国民所得が急速に増加した

ため、その分配について大きな意見の相違を生じることは比較的少なかった。経済成

長率の低下に伴い、社会の各層、各集団間の利害の調整は次第に難しい問題となって

きており、このようななかでそれぞれの有する既得の利益にまで踏み込んで所要の改

革を進めていくことは決して容易ではないが、国民の理解を得ながら、順次実施して

いく必要がある。 例えば、日本国有鉄道、食糧管理制度、政府管掌健康保険制度のように大幅な赤字

を抱え、あるいは多額の財政負担を要している分野においても、根本的な赤字の解消

ないしは財政負担の軽減のための措置を講じていくこととする。日本国有鉄道につい

ては、業務運営全般について一層の効率化を推進するほか、経営のあり方について抜

本的な見直しを行い、特に効率性の低い分野については、他の輸送機関との関連にお

いて効率的な輸送体系を形成するための施策を強力に講ずる等により、経営の改善を

図るとともに、適切な利用者負担及びこれらを前提とした国の所要の行財政上の支援

とあいまって、財政の収支均衡の回復を達成することとする。このため早急に総合的

な再建策を確立する。食糧管理制度についても、長期的視野からの総合的な農業政策

のなかで、米の需給の均衡回復を最重点として必要な制度・運営の改善を行うことと

し、米価については、逆ざや関係の是正に努める等両米価の適正な決定を行うことと

する。医療保険についても、近年における急激な医療費の増加のもとで給付の平等、

負担の公平等を図りつつ、全体として保険給付と費用負担を適正なものとするため、

各医療保険制度について基本的改革を行うこととし、これにより、その財政の長期的

な安定を図ることとする。 以上のように.今後、財政について効率化、合理化を図る必要性が増大すること等

に伴い、長期的な視点から財政収支の将来のあり方を展望し、これを毎年度の財政運

営の手がかりとして役立てていくために、財政計画ないしは財政見通しの検討を進め

る。 〔3〕地方公共団体においても、行政機構の簡素合理化、定員の抑制、給与の適正化、

行財政運営の効率化等行財政の徹底した見直しが要請されているところである。国に

おいては、地方公共団体の行政機構の膨張や地方公務員の増加をもたらすような施策

を抑制し、地方公務員についても適正な人事管理を推進するため、定年制を導入し得

るよう法改正等の措置を講ずる。 (3)負担の適正化 〔1〕財政支出について徹底した合理化を行ってもなお不足が予想される財源に充てる

ため、今後国民に相当程度の租税負担を求めていかざるを得ない。国民所得に対する

租税負担の比率は、昭和 53 年度の 19.9%から昭和 60 年度に 26.5%程度になること

を見込む。 戦後の我が国の租税負担は、経済の高度成長に伴う税の自然増収の一部が減税に充

てられてきたため、国民経済の規模との対比において比較的安定し、かつ欧米主要国

よりかなり低い水準で推移してきた。国民所得に対する租税負担の比率は、昭和 48、49 の両年度に一時 22%程度にまで達したが、石油危機後の経済活動の停滞から、昭

和 50 年度に大幅に低下し、以後低水準のまま推移している。 今後、景気回復横向の定着に伴い、ある程度の税の自然増収を期待することは可能

であろうが、その額は、高度成長期に比較すればはるかに限られたものになると見込

まれる。 〔2〕したがって、必要な税収を確保するためには、計画期間中に租税負担の引上げ措

置を講ぜざるを得ない。この場合、租税特別措置の徹底した見直し等を行い、租税負

担の公平を図りつつ税収の確保に努めることとするが、なお不足する財源に充てるた

め、より一般的な租税負担の引上げ措置が必要となる。 今後の税制については、直接税が引き続き我が国の税体系のなかで中心的な役割を

果たしていくが、租税負担の増加を直接税のみに求めることにはおのずから限界があ

ろう。すなわち、①所得税及び個人住民税については、負担の引上げを求める余地は

あるが、必要とされる増収額を賄うには納税者の大半を占める中小所得階層に相当の

負担増を求めざるを得ず、また、負担感の面でも問題があり、②法人税及び法人住民

税についても、その負担を若干引き上げる余地があると認められるものの、それによ

る増収額は限られている。他面、①我が国の間接税負担率は、欧米主要国に比較して

もかなり低く、また、②税収中に占める間接税の比率は、長期にわたりほぼ一貫して

低下する傾向にある。したがって今後は、間接税による負担の増加も図っていくこと

が必要である。この場合、現行の物品税等個別消費割によろうとすれば、収入面で限

度があるのみならず、経済に対して中立性を欠くこととなるおそれもある。 このため、一般消費税(仮称)を昭和 55 年度中に実現できるよう、諸般の準備を

進める。この場合、行政の簡素化・効率化、財政支出の節減合理化及び租税負担の公

平の確保を図るとともに、景気回復の定着や物価の安定に努めつつ、国民の理解を得

るよう広報活動の徹底を図るものとする。 〔3〕受益者又は原因者が特定される各種の公共サービスの対価に関しても、資源の浪

費を防ぎ、また財政の効率性を高める観点、あるいは受益又は原因に応じて負担の公

平を図る観点から、政府の個々の施策について受益又は原因と負担との関係を明らか

にし、受益者又は原因者負担の仕組みを適切に運用する。 (4)公債の適切な管理 以上の措置により、計画期間中、できるだけ早く特例公債に依存しない財政に復帰す

るものとする。地方財政については、収支の均衡を回復するようその健全化を推進する。 しかし、これによってもなお、計画期間中相当大量の公債が発行され累積していくも

のと見込まれるので、公債の発行、流通及び償還が円滑に行われるように努め、公債に

よる公的部門への資金配分が適切に行われるよう、また、公債が経済・金融面に攪乱的

な影響を及ばすことのないよう対処していくことが必要である。 このため、公債の種類の多様化、金利機能の一層の活用、流通市場の整備等の措置を

講ずる。 公債については、発行されるものの多くが償還期限 10 年の長期債であることや、市

場参加者の広がりの程度等から、当面入札による発行を増加させるにも限度があり、引

き続き引受方式に依存していく必要があるが、その場合、一層発行条件の弾力的決定に

努める。また、公債の種類の多様化の進展や市場参加者の増大等に応じて、入札による

発行方式の一層の活用を図る。 公債の流通市場の整備については、すでに公社債店頭気配発表制度の改善、流通金融

の拡充、取引所における国債の大口売買取引制度の創設、日本銀行のオペレーションに

際しての新たな方式の採用、資金運用部の市場参加等の措置が講じられてきている。流

通市場の整備は、それ自体公債の種類の多様化や金利機能の一層の活用に負うところが

大であるが、引き続き流通金融の拡充や証券会社の仲介機能の充実、異常かつ一時的な

価格変動への対応、保管や受渡決済の簡便化等について検討を進め、所要の施策を講ず

る。 (5)地方財政の健全化 地方財政は、公経済の担い手としても、国民経済において重要な地位を占めており、

本計画で想定する新たな福祉社会を構築していくうえで、地方財政の果たすべき役割は

大きい。 しかし、地方財政も大幅な収支不均衡の状況にあり、昭和 50 年度以降の地方財政は、

巨額の財源不足に対処するため、地方交付税の原資の借入れと地方債の増発に依存して

きている。 地方交付税の原資に充てるための交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金残高は、

昭和 53 年度未には 5 兆円を超え、また、昭和 54 年度においては地方交付税の原資の

30%を新たに借入金に依存している。 また、昭和 49 年度当時 6%であった地方普通会計歳入中に占める地方債の割合は、

昭和 54 年度には 13%となり、その残高も昭和 53 年度末には 20 兆円を超え、残高の

国民総生産に対する割合も、10%と昭和 49 年度当時の 6%から大幅に上昇している。 したがって、地方自治の基盤の充実を図るためには、地方財政についてその健全化を

図ることが緊急の課題である。 そのためには、国、地方を通じ行財政の合理化の徹底を図るとともに、国、地方公共

団体間の事務配分について、住民に密着した行政は住民の身近な行政主体である地方公

共団体の責任において運営するという観点、国、地方を通ずる行政全体の簡素合理化を

図るという観点等から、現行の諸制度の総合的な検討を進め、合理的な事務配分に努め

る。 これと併せて新たな行政需要に適切に対処し、ゆとりとふれ合いのある魅力ある地域

づくりを進めていくためにも、国、地方を通じ租税負担の増加を図りつつ、地方税財政

制度の基本的改正を行い、地方税、地方交付税等の一般財源を増強し、地方財政の長期

的、安定的な基盤の確立を図るものとする。 一般消費税(仮称)の導入に当たっては、その一部を地方消費税(仮称)とするとと

もに、国の収入となる一般消費税(国税)の一部を、全体として地方公共団体に適正に

財源賦与する仕組みを設けるものとする。 2.金融の新しい対応 〔1〕金融については、経済の安定した成長軌道への移行、あるいは金融市場の国際化、

さらには大量の公債の発行と累積という新しい情勢に対処して、通貨価値の安定に配慮

しつつ、資金配分の効率化その他の要請に応えていくことが必要である。 戦後の我が国では、銀行等が預金の形で個人部門の高率の貯蓄を吸収し、これを貸出

金の形で法人部門の急増する投資のために供給するという、いわゆる間接金融の方式が

とられてきた。また、金利形成については、金利水準が抑えられ、また各金融資産や金

融市場の間の裁定関係が必ずしも十分に働かずいくつかの比較的独立した市場が形成

されるという面がみられた。 このような仕組みが、戦後の我が国経済の高度成長に寄与してきたことは疑いないが、

情勢の変化に対応して、金利機能の一層の活用を図る等新たな適応が求められつつある。 〔2〕金利機能の活用については、既に一部の国債の入札による発行、日本銀行のオペレ

ーションに際しての入札方式の採用、コール及び手形金利についての建値制の漸進的な

廃止、自由な金利による CD(譲渡性預金)の導入等の措置が講じられつつある。金利

については、自由化の方向を目指して、可能な分野から自由化を進めていくこととし、

全般的に、金利が資金の需給関係をよりよく反映するよう、金利機能の一層の活用に努

める。 さらに、金利機能の活用に関連して、金融資産の多様化を図るとともに、金融機関の

業務範囲の弾力化について検討する。 直接金融ないしは債券形態による金融に関しては、公債について前記の所要の施策を

講ずるほか、企業が自己資本を充実しあるいは長期安定資金を確保することによって資

本構成を是正し、その体質を強化し得るよう、資本市場の整備を進める。 個人のための金融サービスの充実についても、引き続き十分な配慮を行う。 なお、金融の仕組みを新たな情勢に適応させていくに当たっては、これに伴う混乱を

回避し、特に信用秩序の維持、預金者の保護等に十分留意する。 〔3〕国民経済的には必要でありながら金利機能のみによっては適切な資金配分が行われ

難い分野、あるいは公的施策の実施に際し金融を手段とすることを適当とする分野に対

し、民間金融を補完し又は奨励する形で政策金融が行われている。政策金融においては、

住宅・生活環境、中小企業・農林漁業、交通・通信、海外投融資・経済協力、技術振興・

公害防除、資源・エネルギー等の分野で引き続き融資等を行うほか、今後国民のニーズ

の拡大が見込まれる教育・文化、保健・医療、福祉等の分野、及びこれらを包摂する総

合的な都市開発ないし地域開発の領域に十分配意する。なお、政策金融に関しては、財

政支出あるいは税制におけると同様見直しを行い、資金の効率的使用に努める。 〔4〕金融政策については、機動的・弾力的運営に努めることとし、引き続き金利ととも

に通貨量をも重視した政策運営を行う。この場合、適切に通貨量を管理していくための

方策について検討を進める。