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報告 要約 従来のスーパーハイビジョンの2倍のフレーム周波数を持つフルスペックスーパーハイビジョン を実現するために,3,300万画素,フレーム周波数120Hzのイメージセンサーを開発した。120 Hz順次走査の高速動作を実現するために,2段サイクリック型A/D(アナログ/デジタル)変 換回路と多並列信号出力回路を新たに開発した。撮像実験を行って,開発したイメージセンサー がフレーム周波数120Hzで動作し,動画像の画質が改善されること,2.5Wの低消費電力である ことなどを確認した。 ABSTRACT A 33-Mpixel CMOS image sensor operating with a frame frequency of 120 Hz was fabricated and tested as a first step toward developing“full-spec”Super Hi-Vision, which has double the frame frequency of the previous Super Hi-Vision. The sensor was equipped with new two-stage pipe -lined cyclic analog-to-digital converters and parallel digital readout circuits to achieve high- speed operation for 120-Hz frame frequency progressive scanning. The experimental results revealed that the sensor could run at a frame frequency of 120 Hz with a power consumption of only 2.5 W and that the frame frequency of 120 Hz improves the image quality of Super Hi-Vision motion images. 120Hzスーパーハイビジョン用の イメージセンサーの開発 北村和也 渡部俊久 大竹 島本 † NHK-ES Super Hi−Vision Image Sensor Operating with a Frame Frequency of 120 Hz Kazuya KITAMURA, Toshihisa WATABE , Hiroshi OHTAKE and Hiroshi SHIMAMOTO † NHK-ES NHK技研 R&D/No.141/2013.9 15

120Hzスーパーハイビジョン用の イメージセンサーの開発 - …*1 画素数7,680×4,320,フレーム周波数120Hz,順次走査,階調12 ビット,広色域RGBのSHVシステム。

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報告

要約 従来のスーパーハイビジョンの2倍のフレーム周波数を持つフルスペックスーパーハイビジョンを実現するために,3,300万画素,フレーム周波数120Hzのイメージセンサーを開発した。120Hz順次走査の高速動作を実現するために,2段サイクリック型A/D(アナログ/デジタル)変換回路と多並列信号出力回路を新たに開発した。撮像実験を行って,開発したイメージセンサーがフレーム周波数120Hzで動作し,動画像の画質が改善されること,2.5Wの低消費電力であることなどを確認した。

ABSTRACT A 33-Mpixel CMOS image sensor operating with a frame frequency of 120 Hz was fabricated andtested as a first step toward developing“full-spec”Super Hi-Vision, which has double the framefrequency of the previous Super Hi-Vision. The sensor was equipped with new two-stage pipe-lined cyclic analog-to-digital converters and parallel digital readout circuits to achieve high-speed operation for 120-Hz frame frequency progressive scanning. The experimental resultsrevealed that the sensor could run at a frame frequency of 120 Hz with a power consumption ofonly 2.5 W and that the frame frequency of 120 Hz improves the image quality of Super Hi-Visionmotion images.

120Hzスーパーハイビジョン用のイメージセンサーの開発

北村和也 渡部俊久† 大竹 浩 島本 洋† NHK-ES

Super Hi−Vision Image Sensor Operating with a FrameFrequency of 120 Hz

Kazuya KITAMURA, Toshihisa WATABE†, Hiroshi OHTAKE and Hiroshi SHIMAMOTO

† NHK-ES

NHK技研 R&D/No.141/2013.9 15

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多並列信号出力回路

48 LVDS出力

A/D変換回路 (7,808/2)

相関2重サンプリング回路 (7,808/2)

  画素アレイ  7,808 (H)×4,336 (V)

相関2重サンプリング回路 (7,808/2)

A/D変換回路 (7,808/2)

出力回路の1ブロック

488

48 LVDS※出力垂直走査回路

(4,336)

垂直走査回路

(4,336)

多並列信号出力回路

※ Low Voltage Differential Signaling。

1.はじめに次世代の放送サービスの1つとして,ハイビジョンより高品質で臨場感の高いスーパーハイビジョン(SHV:Super Hi-Vision)の研究・開発に取り組んでいる。従来のSHVのフレーム周波数は60Hz1)であったが,2012年に,より滑らかな動きを再現することのできるフレーム周波数120Hzと,実物に近い色再現ができる広色域のSHVがITU-Rで勧告された2)。当所では,120Hzのフレーム周波数と広色域のSHVをフルスペックSHV*1と呼び,それを実現するための研究・開発を進めている。今回,フルスペックSHVカメラを実現するために,フレーム周波数120Hzで動作するSHV用のイメージセンサーを開発した。120Hzで動作させるために,高速動作が可能な2段サイクリック型A/D変換回路と多並列信号出力回路を新たに開発した。開発したイメージセンサーの画素数は約3,300万,フレーム周波数は120Hz,階調は12ビットである。また,イメージセンサーの温度上昇やそれに伴うノイズの増加を抑制するために,低消費電力化を図った。本稿では,開発したイメージセンサーの構成と動作について述べた後,2段サイクリック型A/D変換回路と多並列信号出力回路について解説する。また,センサーの仕様と,このセンサーを用いた3板式カラー撮像装置の諸特性を報告する。

2.イメージセンサーの構成と動作開発したイメージセンサーの基本構成を1図に示す。イメージセンサーは中央に配置した画素アレイと,その左右に形成した垂直走査回路,画素アレイの上下に形成した相関2重サンプリング回路(ノイズ除去回路),A/D変換回路,多並列信号出力回路から成る。画素アレイの総画素数は7,808×4,336で,そのうちの7,680×4,320が有効画素である。画素サイズは2.8μm×2.8μmで,感度を向上させるために各画素上にオンチップマイクロレンズを形成した。また,ノイズを抑制するために埋め込みフォトダイオード構造を採用した。各画素で発生した映像信号(アナログ信号)を垂直走査回路を使って,例えば,奇数番目の画素列を上方向に,偶数番目の画素列を下方向に読み出す。なお,画素列ごとに相関2重サンプリング回路とA/D変換回路を設けている。相関2重サンプリング回路でアナログ信号のノイズを除去した後,A/D変換回路で12ビットのデジタル信号に変換する。最後に,デジタル信号を16のブロックに分割し,多並列信号出力回路を通してセンサーの外部に出力する。

3.2段サイクリック型A/D変換回路フレーム周波数120 HzのSHV用のイメージセンサーでは,画素列ごとにA/D変換回路(列並列A/D変換回路)を設けているので,1つのA/D変換回路では1秒間に4,336画素のアナログ信号を120回繰り返してA/D変換しなければならない。1回のA/D変換に割り当てることのできる時間は1.92(=1.0/(4,336×120))μsであり,この時間内に画素からのアナログ信号を12ビットのデジタル信号に変換する必要がある。一般に,高解像度イメージセンサー用の列並列A/D変換回路としては,シングルスロープ型3)*2,逐次比較型4)*3,サイクリック型5)*4などが用いられている。この中で,サイクリック型A/D変換回路は高速動作が可能で,高速度撮像用途のイメージセンサーなどに用いられている。しかし,最新のサイクリック型A/D変換回路でもフルスペックSHVに必要な速

*1 画素数7,680×4,320,フレーム周波数120Hz,順次走査,階調12ビット,広色域RGBのSHVシステム。

*2 アナログ信号(電圧)を時間とともに電圧が線形に増加する波形と比較してデジタル信号に変換する方式。

*3 アナログ信号(電圧)を参照電圧と比較して上位ビットから,逐次,デジタル信号に変換する方式。1ビット変換する度に参照電圧を1/2にする。

*4 アナログ信号(電圧)を参照電圧と比較して上位ビットから,逐次,デジタル信号に変換する方式。参照電圧を一定とし,1ビット変換する度にアナログ電圧の差またはアナログ電圧を2倍にして参照電圧と比較する。回路を巡回動作させるので,サイクリック型と呼ばれる。

1図 イメージセンサーの基本構成

報告

NHK技研 R&D/No.141/2013.916

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入力

入力

スイッチ

11 サイクル

12 ビット

12 ビット

(a) 従来のサイクリック型A/D変換回路

(b) 2段サイクリック型A/D変換回路

1段目

-1 サイクル

スイッチ1 スイッチ2 2段目

2

N12- サイクルN

上位  ビットN 下位 (12- ) ビットN

Vin

Vin Vin1

度を満たしてはいない。そこで,今回,2つのサイクリック型A/D変換回路を連結した2段サイクリック型A/D変換回路を新たに開発し,高速度化した。2図に従来のサイクリック型A/D変換回路と2段サイクリック型A/D変換回路の模式図を比較して示す。2図(a)に示すサイクリック型A/D変換回路では,アナログ信号(電圧)と参照信号を比較し,アナログ電圧が参照電圧よりも高い場合にはデジタル信号の1を出力するとともに,アナログ電圧から参照電圧を差し引いた値を2倍に増幅する。逆に,アナログ電圧が参照電圧よりも低い場合にはデジタル信号の0を出力するとともに,アナログ電圧を2倍にする。いずれの場合においても,2倍にした電圧を回路内でフィードバックして,再度,参照電圧と比較する。電圧を2倍にする動作と,それをフィードバックする動作が1つのサイクルとなり,1サイクルごとに1ビットのデジタル信号を生成する5)。2図(a)のサイクリック型A/D変換回路では,入力側に接続したスイッチがオンになると,画素から出力されたアナログ信号が回路に入力され,最上位ビット(12ビット目)を生成する。スイッチがオフになった後,巡回動作を11回繰り返し,11ビット目から1ビット目までを順次出力する。2図(b)に示す2段サイクリック型A/D変換回路は,サイクリック型A/D変換回路を2つ直列に接続したものである。2図(b)の2段サイクリック型A/D変換回路では,画素からのアナログ信号は,スイッチ1を通して1段目のサイクリック型A/D変換回路に入力される。1段

目では12ビットのデジタル信号のうち,上位 N ビットを生成する。N ビットまで変換した後のアナログ信号(残りの信号)をスイッチ2を通して2段目に入力し,2段目で下位(12 - N )ビットを生成する。2段目で下位ビットを変換している間に,1段目では次の画素のアナログ信号を変換する。2つのサイクリック型A/D変換回路をこのようにパイプライン方式で動作させるので,1段構成のサイクリック型A/D変換回路と比較して変換速度を速くすることができる。サイクリック型A/D変換回路では供給した電力の大半は回路内の増幅回路で消費される。2段構成の全体の消費電力は1段目の変換ビット数に依存するので6),シミュレーションを行って消費電力の低減効果を検討した。1段目の処理ビット数 N を変化させて,2段サイクリック型A/D変換回路(12ビット階調)の消費電力を求めた結果,N =4の場合に消費電力が最小となることが分かった6)。そこで,1段目で上位4ビットを,2段目で下位8ビットを変換することにした。3図に,実際に試作した2段サイクリック型A/D変換回路を用いて測定した変換時間と消費電力の結果を,従来のサイクリック型A/D変換回路と比較して示す。2段サイクリック型A/D変換回路の変換時間は1.92μsであり,フルスペックSHVの要求仕様を満たしている。また,消費電力は従来のサイクリック型A/D変換回路の約1/3であることが分かった。

2図 サイクリック型A/D変換回路の模式図

NHK技研 R&D/No.141/2013.9 17

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変換時間 (µs)

3.0µs

1.92µs

2段サイクリック型A/D変換回路

従来のサイクリック型A/D変換回路

2段サイクリック型A/D変換回路

従来のサイクリック型A/D変換回路

消費電力 (µW)

300µW

100µW

(a) 変換時間 (b) 消費電力

4

3

2

1

0

400

300

200

100

0

A/D変換回路出力(488×12ビット)

メモリーアレイ(488×12ビット)

データ伝送路2×12ビット133Mbps

CML送信回路(488×12ビット)

水平走査回路

2×12ビットCML受信回路 マルチプレクサー 133Mbpsを

533Mbpsに変換

6 LVDS6ビット

533Mbps×6ポート

4.多並列出力回路フレーム周波数120HzのSHV用のイメージセンサーでは,全ての画素のデジタル信号を1/120秒の間にセンサーの外部に出力する必要がある。そのため出力データレートは48Gbps以上(画素数(7,808×4,336)×フレーム周波数(120)×階調(12))となる。そこで,デジタル信号を読み出す回路を多並列化することで高速度化を図った。開発したイメージセンサーの多並列出力回路(16ブロックで構成)における1ブロック分の回路構成を4図に示す。A/D変換回路の数は1ブロック当たり488(=7,808/16)である。A/D変換した12ビットのデジタル信号をメモリーアレイに格納した後,CML(Current Mode Logic)回路と呼ばれるデータ伝送回路を通して各列から順次読み出す(水平走査)。このCML回路には高速のデータ伝送が求められるので,CML回路をブロックごとに多並列化することにした。CML回路の並列数をCML回路の動作の安定性と消費電力を考慮して決定した。並列数を増やすことで1つの

CML回路に要求される伝送データレート(=48Gbps/(並列数×階調(12)))を低減することができ,より安定したデータ伝送が可能となる。しかし,並列数を増やすことで,消費電力が増加する。そこで,計算機シミュレーションを行って,CML回路の伝送データレートと消費電力および動作の安定性の関係を調べた。このとき,動作の安定性の指標としては伝送される信号のアイパターン開口電圧を用いた。一般に,データレートが速くなるとジッター量が増加するので,アイパターンの開口電圧が小さくなり,データ伝送の安定性は低下する。5図(a)にCML回路の伝送データレートとアイパターンの開口電圧の関係,5図(b)に伝送データレートと消費電力の関係を示す。5図(a)に示すように,伝送データレートが150Mbps以上ではアイパターンの開口電圧が減少しCML回路の安定性が低下する。一方,5図(b)に示すように,伝送データレートが100Mbps以下では消費電力が大幅に増加することが分かった。このため,CML回路の伝送データレートを133Mbpsとし,全体の並列数を32に決定した。すなわち,各ブロックを2(=32/16)並列化に決定した。CML回路を通して各列から読み出されたデータ信号を4図に示すマルチプレクサーで133Mbpsから533(=133×4)Mbpsに速度変換し,各ブロックに配置した6つのLVDS(Low Voltage Differential Signaling)ドライバーを通してセンサー外部に読み出す。この結果,16ブロック全体でデータレート51.2(=533×6×16/1,000)Gbpsを達成することができた。

5.イメージセンサーの仕様開発したSHV用のイメージセンサーの外観を6図に示す。また,その仕様を従来のフレーム周波数60Hzのセンサー7)と比較して1表に示す。開発したイメージセンサーは対角長25mmと小型であり,レンズや光学プリズムなど

3図 2段サイクリック型A/D変換回路の変換時間と消費電力

4図 多並列出力回路の1ブロック

報告

NHK技研 R&D/No.141/2013.918

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160

120

80

40

00 50 100 150 200 300250 0 50 100 150 200 300250

400

300

200

100

0

伝送データレート(Mbps)

(a) 伝送データレートとアイパターンの開口電圧の関係 (b) 伝送データレートと消費電力の関係

アイパターン開口電圧(mV)

消費電力(mW)

伝送データレート(Mbps)

のサイズの小型化に有利である。また,従来のイメージセンサーより消費電力が小さいという特徴がある。

6.カラー撮像装置の試作と評価開発したセンサーを評価するために,3板式カラー撮

像装置を試作した。7図に撮像装置の外観を,8図にその構成を示す。8図に示すように,撮像装置はカメラヘッド部とカメラコントロールユニット部から成る。カメラヘッド部は光学プリズムと赤,緑,青用の3個のイメージセンサー,3枚のヘッド基板(センサー駆動基板),総

開発したイメージセンサー

従来のイメージセンサー

有効画素数 7,680 × 4,320 7,680 × 4,320

フレーム周波数 120Hz 60Hz

階調 12ビット 12ビット

スキャン方式 プログレッシブ プログレッシブ

対角長 25mm 33mm

消費電力 2.5W 3.7W

5図 CML回路の特性

1表 イメージセンサーの仕様

6図 イメージセンサーの外観

7図 3板式カラー撮像装置の外観

NHK技研 R&D/No.141/2013.9 19

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光学プリズムレンズ

カメラコントロールユニット部

カメラヘッド部

リタ-ン映像

HD-SDI×16

HD-SDIドライバー

HD-SDIドライバー

HD-SDIドライバー

4K×2K/120Hzプロジェクター(間引き映像)

電源ボード

ヘッド基板

ヘッド基板

ヘッド基板

HD-SDIレシーバー

HD-SDIレシーバー

HD-SDIレシーバー

リターン映像

映像処理部

• 画素の並び替え• 固定パターンノイズの除去• ゲイン処理• ガンマ処理• 輪郭補正処理

G

R 20

20

20

20

20

20

20

20

20

20

20

20

96LVDS

96LVDS

96LVDSB

被写体の移動方向

(a)フレーム周波数60Hz

被写体の移動方向

(b)フレーム周波数120Hz

計60個のHD-SDIドライバーで構成される。各センサーから出力される51.2Gbpsのデジタル信号はヘッド基板上の20本のHD-SDIフォーマットの伝送路に割り当てられ,HD-SDIドライバーを通して出力される。カメラコントロールユニット部では,HD-SDIフォーマットのデジタル信号からディスプレーのフォーマットに合わせてデータの並び替えを行うとともに,固定パターンノイズの除去,ゲイン処理,ガンマ処理,輪郭補正処理などを行う。また,

現状では,7,680×4,320画素,フレーム周波数120Hzで映像を表示できるディスプレーがないので,センサーから得られる7,680×4,320画素の信号から3,840×2,160画素を抜き出して,3,840×2,160画素,フレーム周波数120Hzで動作するプロジェクターを用いて映像を表示した。9図に試作した3板式カラー撮像装置の撮像例を示す。9図は開発したイメージセンサーがフレーム周波数120Hzで動作し,良好なカラー映像が得られることを示している。また,動きの速い被写体を撮像した例をフレーム周波数60Hzの場合と比較して10図に示す。フレーム周波数120Hzの場合はフレーム周波数60Hzの場合より,動きの速い被写体を撮影したときの動きぼやけが小さく,フレーム周波数120HzのイメージセンサーがSHVの動画質を改善できることが確認された。試作した3板式カラー撮像装置の仕様を2表に示す。フレーム周波数120Hzで動作す

カラー方式 3板式カラー

感度 2,000lx, F4.8

S/N※ 51.2dB※ S/Nは1/16エリア(HDTV解像度)を抜き出して測定。

8図 3板式カラー撮像装置の構成

9図 3板式カラー撮像装置の撮像例 10図 動きの速い被写体を撮像した例

2表 3板式カラー撮像装置の仕様

報告

NHK技研 R&D/No.141/2013.920

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るカメラの感度は2,000lx,F4.8で,S/Nは51.2dBであった。ただし,S/Nはイメージセンサーから1/16のHDTVに相当するエリア(1,920×1,080画素)を抜き出して測定した。

7.まとめフレーム周波数120Hzで動作するSHV用のイメージセンサーを開発した。フレーム周波数を120Hzにするために,2段サイクリック型A/D変換回路と多並列信号出力回路を開発した。また,2段サイクリック型A/D変換回路とすることで消費電力を抑制した。更に,3板式カラー撮像装置を試作し,評価実験を行った結果,フレーム周波数120HzのイメージセンサーがSHVの動解像度を改善できることが確認された。今後,センサーの高感度化などを図るとともに,番組制作に使用できるフルスペックSHV

カメラの早期の実現を目指す。なお,フレーム周波数120Hzで動作するSHV用のイメージセンサーの開発は静岡大学との連携で進めた。

本稿は2012 International Broadcasting Convention講演論文集に掲載された以下の論文を元に加筆・修正したものである。K. Kitamura, T. Watabe, H. Shimamoto, H. Ohtake, S.Kawahito†1, T. Kosugi†2, T.Watanabe†2, T. Yanagi†3, H. Kikuchi†4,T. Yoshida†3 and N. Egami:“Development of 33-megapixel120-Hz CMOS Image Sensor and Experimental ColorCamera System,”Proceedings of 2012 International Broad-casting Convention(2012)†1 Shizuoka University, †2 Brookman Technology, Inc.,

†3 Hitachi Kokusai Electric Inc., †4 Link Laboratory Inc.

NHK技研 R&D/No.141/2013.9 21

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参考文献 1)M. Sugawara, M. Kanazawa, K. Mitani, H. Shimamoto, T. Yamashita and F. Okano:“Ultrahigh-definitionVideo System with 4000 Scanning Lines,”SMPTE Motion Imaging Journal, Vol.112, No.10-11,pp.339-346(2003)

2)Rec. ITU-R BT.2020,“Parameter Values for UHDTV Systems for Production and InternationalProgramme Exchange”(2012)

3)T. Toyama, K. Mishina, H. Tsuchida, T. Ichikawa, H. Iwaki, Y. Gendai, H. Murakami, K. Takamiya, H.Shiroshita, Y. Muramatsu and T. Furusawa:“A 17.7Mpixel 120fps CMOS Image Sensor with 34.8Gb/sReadout,”ISSCC Dig. Tech. Papers, pp.420-422(2011)

4)I. Takayanagi, S. Osawa, T. Bales, K.Kawamura, N. Yoshimura, K. Kimura, H. Sugihara, E. Pages, A.Andersson, S. Matsuo, T. Oyama, M. Haque, H. Honda, T. Kawaguchi, M. Shoda, B. Almond, P. Pahr, S.Desumvila, D. Wilcox, Y. Mo, J. Gleason, T. Chow and J. Nakamura:“Progress in 1.25-inch Digital-Output CMOS Image Sensor Developments for UDTV Applications,”Proc. Int. Image SensorWorkshop, pp.304-307(2009)

5)J. H. Park, S. Aoyama, T. Watanabe, K. Isobe and S. Kawahito:“A High-speed Low noise CMOS ImageSensor with 13-b Column-parallel Single-ended Cyclic ADCs,”IEEE Trans. Electron Devices, Vol.56,No.11, pp.2414-2422(2009)

6)渡部:“スーパーハイビジョン用120Hzイメージセンサー,”NHK技研R&D, No.134, pp.4-11(2012)

7)S. Huang, T. Yamashita, Y. Wang, K. L. Ong, K. Mitani, R. Funatsu, H. Shimamoto, L. P. Ang, L. Truong andB. Mansoorian:“A 2.5inch, 33Mpixel, 60fps CMOS Image Sensor for UHDTV Application,”Proc. Int.Image Sensor Workshop, pp.308-311(2009)

きたむらか ず や

北村和也わ た べとしひさ

渡部俊久

2000年入局。福岡放送局を経て,2003年から放送技術研究所において超高速度撮像デバイス,高フレームレートSHV撮像デバイスの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部専任研究員。

1991年入局。新潟放送局を経て,1994年から放送技術研究所において固体HARP,冷陰極HARP撮像板,有機撮像デバイスおよび高フレームレートSHV撮像デバイスの研究に従事。2012年からNHKエンジニアリングシステム先端開発研究部チーフエンジニア。

おおたけ ひろし

大竹 浩しまもと ひろし

島本 洋

1982年入局。同年から放送技術研究所において固体撮像デバイス,超高速度CCDおよび高フレームレートSHV撮像デバイスの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部主任研究員。

1991年入局。金沢放送局を経て,1993年から放送技術研究所において固体撮像素子を用いた撮像技術,スーパーハイビジョン用カメラおよびイメージセンサーの研究・開発に従事。2007年から2010年までNHKエンジニアリングサービスに出向。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部主任研究員。博士(工学)。

報告

NHK技研 R&D/No.141/2013.922