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11章の目的
噴火前に温度、組成の異なる複数のマグマが混合したことを示す組織が観察される。
火山地下では、マグマの供給と噴出が繰り返され、異なる種類のマグマが混合するという流体学的現象が起こる。
噴出物の岩石学的性質から得られた観察事実
この観測事実から、混合の物理過程※2やマグマ溜り周辺の現象について得られる情報は何か考えていく。
目的
※2 アナログ実験を用いて現象の本質を半定量的に捉えていく
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11章の流れ
アナログ流体実験によるマグマ混合過程の解析法
マグマ混合過程の各論
(1)マグマ溜まりへの供給(2)密度成層の逆転(3)マグマ溜まりからの噴出(4)変形する火道
地球科学的応用
(地質学的•岩石学的観察事実から得られる知見)
マグマ溜りの描像
(9章〜11章総括)
(11.1章)
(11.2章)
(11.3章)
(11.4章)
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アナログ流体実験による解析法
運動方程式を数学的に解くのではなく、実験結果に対し次元解析に基づく物理的洞察を加える。
ナビエストークスの方程式を無次元化し、そこで現れる無次元数(Re、Ri)とマグマ混合過程を支配する力のバランスを考える。
ナビエストークスの方程式(11.4)は、マグマの混合過程を引き起こす流体運動がRe、Riの2つのパラメータで記述されることを示している。
慣性力/粘性力(Re)、浮力/慣性力(Ri)、粘性力/浮力( (ReRi)‐1 )という力のバランスの観点から、マグマの混合過程は理解できる。
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マグマ混合過程の各論
白:低温低密度高粘性マグマ(珪長質マグマ)( 〜1000℃〜2300kgm‐3 >106Pas )
黒:高温高密度低粘性マグマ(苦鉄質マグマ)( 〜1200℃〜2700kgm‐3 〜103Pas )
※ (2)のみ、白:高密度 黒:低密度
(1) (2)
(3)(4)
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地球科学的応用貫入岩の露頭や火山噴出物の標本中に、非平衡組織※3が含まれることがある。
生成のシナリオ(1)異なる物理化学的条件で複数のマグマが形成(2)それらのマグマが機械的に混合して標本(または露頭)スケールで非平衡状態が緩和
(3)緩和過程の中途段階で凍結
※3 化学組成の異なる岩石が不規則な形状で接する組織、あるいは、1つの標本中に熱力学的に平衡共存し得ない鉱物を含む組織 の総称
マグマ混合過程の各論で得られた知見
観察される
非平衡組織
混合メカニズムやマグマの供給・噴出の物理過程について新たな制約条件を得る
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噴火様式と混合メカニズム
火山岩の非平衡組織と噴火様式の関係から制約条件について考える。
爆発的噴火の噴出物 ‐‐‐‐‐ 異なるマグマが明瞭な縞状を示す「縞状軽石」
非爆発的噴火で形成 ‐‐‐‐‐ 混合マグマが均質な気質を持つ傾向
した溶岩流や溶岩ドーム噴火様式によらず何らかのマグマ混合を示す非平衡組織が観察される
慣性力によって乱流状態を作ることが混合の駆動力となる
乱流状態を必要としない
高Reの上昇流が期待される爆発的噴火 → 様々な状況でマグマが混合する機会がある
低Reの上昇流しか期待されない非爆発的噴火 → 「変形する火道中の上昇」或はそれと本質的に等
価なメカニズムでマグマが上昇したことを示唆する
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マグマ混合に伴う苦鉄質マグマの結晶化
高温高融点の苦鉄質マグマが低温の珪長質マグマに混合した場合、苦鉄質マグマの結晶化の程度から、混合メカニズムについて得られる制約条件を考察する。
リキダス上にに乗る高温マグマAと低温マグマBが混合した際の温度変化と混合メカニズム(a) AとBを一気に混合 (b) AにBを少量ずつ加えながら混合
不均質性の波長(Lλ)が小さい時、温度•化学組成
の変動が速やかに均質化される。( T=(Lλ)2/DT Lλが小さい時、Tも小さい)
T =拡散過程による均質化の時間スケールDT =拡散係数T=(Lλ)
2/DT は(9.13)式を参照( )
物質の拡散が起こる前に熱拡散による温度の均質化が完全に進行したならば、その温度がソリダス以下なら、Aは完全に固結する。
Aが固結することなく、Bと混合する
(a)
(b)
温度の拡散が物質の拡散より速く進行
( のため)
「混合比」「高温マグマの結晶化の程度」という岩石学的事実から、混合メカニズムに関する制約条件が得られる可能性。
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苦鉄質マグマが珪長質マグマより低密度になる条件
「密度逆転による混合」が有効な混合メカニズムになるためには、マグマ溜まりの中で下層マグマが上層マグマに比べ低密度になることが必要条件。
(1)苦鉄質マグマが珪長質マグマより低密度になる(2)高密度苦鉄質マグマが低密度珪長質マグマの上位に位置する。 → 次のスライド
一般にマグマの密度は結晶分化作用の進行に伴って減少する。
第一次近似としてマグマの密度がSiO2量で決まる(SiO2量が多いと密度は小さくなる)
苦鉄質マグマは結晶分化作用の進行に伴い、SiO2量が増え、組成が珪長質に近づいていく。
結晶分化作用で形成された苦鉄質マグマの組成は珪長質であり、仮にこの状態で混合しても、もはや苦鉄質マグマと珪長質マグマの混合とは見なすことができない。
苦鉄質マグマに水が含まれる場合も、珪長質マグマより低密度になると考えられるが、通常の地学的条件では考えづらい。
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マッシュ状マグマ溜りにおけるマグマ混合(1)
これまでの議論→マグマ溜り中に液体状態のマグマが存在することが前提
この状態は限定的!
1、マグマの実効融点が周囲の岩石の実効融点より低い場合2、マグマが共融点組成に近い化学組成を持つ場合 ←9章P324 参照
大陸地殻中の珪長質マグマがマッシュ状である状況(半分固結した状況)を考慮する
必要がある。
「高密度苦鉄質マグマが低密度珪長質マグマの上位に位置する」状況を生み出す上でも、マッシュ状珪長質マグマ溜りは重要である。
以下では、マッシュ状珪長質マグマ溜りに高温な苦鉄質マグマが供給される状態を考えて行く。
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マッシュ状マグマ溜りにおけるマグマ混合(2)
苦鉄質マグマの振る舞いは、苦鉄質マグマの貫入レベルが「苦鉄質マグマとマッシュの密度差」に支配されるか、「マッシュの力学的強度」に支配されるかで大きく異なる。
苦鉄質マグマがマッシュの下位に貫入(密度: 苦鉄質マグマ>マッシュ)
苦鉄質マグマによってマッシュが熱せられ溶融。液体状態の珪長質マグマとマッシュの境界が移動。
高密度苦鉄質マグマが低密度珪長質マグマの上位に位置する状況が生まれる。
野外における観察事実はこの状況を支持。
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新しい「マグマ溜りの描像」に向けて
様々な観測によるマグマ溜まりの証拠
•深成岩体から推定されるマグマ溜り
•地質学的手法(噴出物の量、カルデラ、噴火直前の火山分布)から推定されるマグマ溜り
•地球物理学的手法から推定されるマグマ溜り
•岩石学的な分化の場としてのマグマ溜り
これらを包括的に説明するマグマ溜りの描像を提案する。このマグマ溜りの性質を決定する物理過程を総括する。
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多様な観測事実を包括的に説明する「マグマ溜り」の描像
「マグマ溜り」の描像は、右図のような構造(マッシュ状)を持ち、高
温の苦鉄質マグマがマントルから繰り返し供給される系である。
多様な観察事実を以下のように説明できる。
1、火山地下でしばしば地震波の衰退域、低速度域、震源の空白域が観測される。この領域に地震波横波が通過する場所を含んでいる。全領域が液体状態ではなく、部分的に溶融したマッシュ状マグマ溜まりを示している。
2、噴火で噴出するマグマは「液体領域」を源としている。噴出量は少量~1012m3で多様であり、その変動幅は、
液体領域の規模および「液体領域の何割が噴出したか」を反映する。
3、珪長質深成岩体はマグマ溜まりが固結した「化石」であると解釈され、マグマ溜まりが広がった最大領域を指す。
4、マグマ溜りの中の液体領域はマントルからのマグマ供給や噴出に応じて短期的に生成消滅を繰り返す。噴出物の岩石的特徴は、マグマ溜りの中で一時的に生じた液体領域の性質を反映する。
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マグマ溜りの性質を支配する物理過程地殻中に高温マグマが供給される
比較的短い時間の間に供給された熱量に応じた規模のマッシュ状領域が形成 (急冷)
一度形成されたマッシュ状領域は長時間存在し続ける (徐冷)
液体領域の分化の程度によっては、急冷期間中に低い実効融点をもつ領域が形成され、その領域は徐冷期間中も液体状態で存続する。
液体領域に多数の二重拡散対流層が形成された場合、熱輸送効率が落ち、急冷期間の時間スケール
が長くなる。
新たな制約条件
(1)マグマ溜りの規模(2)マグマ溜りの岩石学的進化
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= 火山の長期的噴出率Cv = 比熱L = 潜熱
マグマ溜りの規模(1)マグマ溜りの規模と火山の長期的噴出率の関係について (長期変動で考察)
マグマ供給に伴う熱の供給の長期平均(Qin)マグマの噴出に伴う熱の放出の長期平均(Qout) (ΔQ= Qin ‐Qout)マッシュ領域表面からの伝導による熱の放出(Qioss)
マグマ溜り全体の長期変動はこれらのバランスにより決定される。
球形のマグマ溜りが無限に広がる媒質中にある時の3次元定常状態の熱伝
導を考える。
表面積温度勾配
r = マグマ溜りの半径の長時間平均k = 熱伝導率T∞ = 無限遠での地殻の温度TEFT = マグマ溜りの境界の実効融点
とすると、平均的径rは、 と見積られる。
また粗い見積りをする。(マントルから供給された高温マグマが熱だけを地殻に残してすべて噴出すると仮定)
火山の長期的噴出率とマグマ溜りの規模の関係式を得た。
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マグマ溜りの規模(2)日本の火山および大陸内部の大規模カルデラ形成に伴う火山は、 の値が105~107m3/yrであることを用いると、マグマ溜りの規模が数百mから数km程度であると得られる。
多くの日本の火山において、地球物理学的手法により大規模なマグマ溜りが検知されない。噴出量が102km3に及ぶ大規模カルデラを形成する噴火が、高い 値を持つ
火山に限られる。
説明がつく点
説明がつかない点
大陸内部の大規模カルデラ形成を伴う火山の中で105m3/yr程度の比較的低い
値を持つ火山は、一回の噴出量(>102km3)がマグマ溜りの規模(~100km3)を上回る。マントルから供給されたマグマが熱を地殻に残してすべて噴出するという仮定が成り立たない。
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マグマ溜りの岩石学的進化マグマ溜りが有する、マッシュ領域の内部で液体領域が生成消滅するという空間的・時間的な二重構造についての制約条件を、噴出物の岩石学的性質から考えていく。
個々の噴出物は、・マグマ溜りの中で一時的に生じた液体領域の性質を反映する・マグマ溜りの長期的化学的進化の履歴に関する情報を持つ
マグマ溜りが空間的時間的な二重構造を有するという前提に立って火山史形成、噴出物の化学分析値などの地質学的岩石学的データや班晶の成因について再解釈することによって、マグマ溜りの岩石学的進化において異なる時間スケールの物理過程が果たす役割を識別することができるものと期待される。
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参考資料