17
1Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投 資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任 を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2019/8/21 調査部:原田大輔 公開可 ロシア・CIS 諸国:石油ガス産業を巡る最近のトピックス(3 月~8 月) 1Gazprom の予期せぬ翻意:バルティック LNG プロジェクトから Shell が撤退 3 29 日、Gazprom が突如発表したバルティック LNG プロジェクトへの新パートナー・ RusGasDabycha の参画と Shell 撤退の背景には、同プロジェクトを一時凍結し、 NOVATEK 同時期進めてきたアルクチク LNG-2 への外資の関心を集中させるグランドデザインをロシア 政府が描いていた可能性があるかもしれない。 2.欧州向けドルージュバ原油パイプラインの汚染問題発生と収束 4 19 日、発生したドルージュバ原油パイプラインの汚染事故は、原因の究明・容疑者の拘束 (~6 月)、関係者への損害賠償の実行(8 月~)へと収束しつつある一方、 Transneft の半世紀 に亘る原油供給管理への信用に水を差すと共に、このような事故が故意に引き起こされる場合 (テロの可能性)の体制の脆弱さも露呈した。 3.米国による対露制裁:新たな第四の事象 1 4 25 、米国による新たな制裁違反事例の発表と米国企業に対する罰金の決定は、金融制裁 における融資の概念に対象ロシア企業に対する売掛金の回収も含まれるという解釈を示唆。こ れまで融資の実行主体であった金融機関が対象と考えられてきたが、物品・役務を販売する企 業も、遅延回収の場合には米国の金融制裁の違反罰則対象となる可能性がある。 4Gazprom 2015 年以降停止していたトルクメニスタン産ガスの輸入を 3 年ぶりに再開 7 3 日、 Gazprom はトルクメンガスと期間 5 年(~2024 1 30 日)で年間最大 5.5BCM のガスを購入する契約を締結。この時期にロシアがトルクメニスタンに歩み寄る背景には、財 政的に苦しいトルクメニスタンに対して対中レバレッジの提供によりロシアの重要性を認識さ せると共に、 2010 年に締結されたロシアとのウクライナとのガス供給契約が満期を迎えようと している今、対ウクライナ供給用に安価な天然ガスを調達しようとしているとも考えられる。 5Gazprom 株式(6.64%)を市場売却へ:その目的は何か Gazprom は子会社が保有する 6.64%を市場売却することを発表し、 7 25 日、 Gazprom 子会 1 既存の 3 つの事象については、拙稿「ロシア:欧米による対露制裁を巡る動き(注目される三つの事象とウクライナ大統領選が持つ 意味)」(2019 2 25 日)を参照されたい。 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/733/190225_Russia_US_EUSanctions_r2.pdf

1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-1- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2019/8/21 調査部:原田大輔

公開可

ロシア・CIS諸国:石油ガス産業を巡る最近のトピックス(3月~8月)

1.Gazpromの予期せぬ翻意:バルティック LNGプロジェクトから Shellが撤退 ・3 月 29 日、Gazprom が突如発表したバルティック LNG プロジェクトへの新パートナー・

RusGasDabychaの参画と Shell撤退の背景には、同プロジェクトを一時凍結し、NOVATEK が

同時期進めてきたアルクチク LNG-2 への外資の関心を集中させるグランドデザインをロシア政府が描いていた可能性があるかもしれない。

2.欧州向けドルージュバ原油パイプラインの汚染問題発生と収束 ・4月 19日、発生したドルージュバ原油パイプラインの汚染事故は、原因の究明・容疑者の拘束

(~6月)、関係者への損害賠償の実行(8月~)へと収束しつつある一方、Transneftの半世紀

に亘る原油供給管理への信用に水を差すと共に、このような事故が故意に引き起こされる場合(テロの可能性)の体制の脆弱さも露呈した。

3.米国による対露制裁:新たな第四の事象 1

・4月 25日、米国による新たな制裁違反事例の発表と米国企業に対する罰金の決定は、金融制裁における融資の概念に対象ロシア企業に対する売掛金の回収も含まれるという解釈を示唆。こ

れまで融資の実行主体であった金融機関が対象と考えられてきたが、物品・役務を販売する企業も、遅延回収の場合には米国の金融制裁の違反罰則対象となる可能性がある。

4.Gazpromが 2015年以降停止していたトルクメニスタン産ガスの輸入を 3年ぶりに再開

・7月 3日、Gazpromはトルクメンガスと期間 5年(~2024年 1月 30日)で年間最大 5.5BCMのガスを購入する契約を締結。この時期にロシアがトルクメニスタンに歩み寄る背景には、財

政的に苦しいトルクメニスタンに対して対中レバレッジの提供によりロシアの重要性を認識させると共に、2010年に締結されたロシアとのウクライナとのガス供給契約が満期を迎えようと

している今、対ウクライナ供給用に安価な天然ガスを調達しようとしているとも考えられる。

5.Gazprom株式(6.64%)を市場売却へ:その目的は何か ・Gazpromは子会社が保有する 6.64%を市場売却することを発表し、7月 25日、Gazprom 子会

1 既存の 3 つの事象については、拙稿「ロシア:欧米による対露制裁を巡る動き(注目される三つの事象とウクライナ大統領選が持つ意味)」(2019 年 2 月 25 日)を参照されたい。

https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/733/190225_Russia_US_EUSanctions_r2.pdf

Page 2: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-2- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

社でオランダ法人 Gerosgaz Holdings B.V. 及びキプロス法人 Rosingaz Ltd.が保有する 6.936

億普通株式(2.93%相当)を一株当たり 200.5RUB、総額 1391 億 RUB(21.9 億ドル)で機関

投資家に売却。更に今秋、残る 3.71%(2,000億 RUB 相当/31.5億ドル)についても売却する可能性がある。売却資金の使用使途については債務返済、予算や配当金への充当と見る向きも

あるが、仮説として、Gazpromの今後の成長戦略の中での有望企業との戦略提携のための株式交換を準備しているという可能性も。

6.NOVATEKの LNGとGazpromのパイプラインガスが欧州市場で拮抗し始めたのか

・8 月 5 日付コメルサント紙は、「NOVATEK が欧州市場でガスプロムの機先を制した:ロシア産 LNG とパイプラインガスは EU で主なライバル同士になった」との記事を発信。確かに

NOVATEK はヤマル LNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツク LNG プロジェクトで欧

州向け LNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom もヤマル LNG から LNG を調達し欧州へ販売しており、一概に両者が欧州市場でライバル同士となったとは言えない。寧ろ、

両者は正にロシアの国章である双頭の鷲のように、パイプライン網のある国は Gazprom が攻め、Gazprom のパイプラインが届かない国は NOVATEK の LNG で攻めながら、欧州市場シ

ェアを獲得するべく攻勢に出ていくだろう。

1.Gazpromの予期せぬ翻意:バルティック LNGプロジェクトから Shellが撤退

3月 29日、Gazpromはこれまで Shellとプロジェクト実現に向けて進めていたバルティック LNG

プロジェクトについて、LNG だけではなく大規模なガスケミプロジェクトを加えることを決定すると共に、パートナーを RusGasDabycha というロシア企業とする計画(Gazprom:50%/

RusGasDabycha:50%)を発表した 2。総事業費は 7000億 RUB(108億ドル)、西シベリアのナデ

ィム-プル-タズ・ガス田を供給ソースとして年間 45BCMの天然ガスから 13百万 tの LNG、4百万t のエタン、2.2 百万 t の LPG を生産する新たな計画で、LNG プラントの稼働開始は 2022 年~

2023年を予定。生産されるエタンは新たなパートナーである RusGasDabycha(露語で「ロシアガス生産会社」)が建設するガスケミプラントに供給される予定である。突如名乗りを上げた

RusGasDabycha はプーチン大統領の柔道仲間として知られるローテンベルク兄弟の兄アルカジー

が保有する会社と見られているが、長年バルティック LNGプロジェクトを検討し、LNG技術及びガスケミ技術で十分な実績と信用のある Shell を差し置いて、実績のないロシア企業をなぜこのタ

イミングでGazpromが選択したのか謎は深まっている。当初沈黙を守っていた Shellも 4月 10日

に正式にプロジェクトからの離脱を発表 3。6 月下旬に漸く Shell のロシア法人社長の Cederic Cremers 氏が同社撤退の理由について、「バルティック LNG 事業は当初の事業構想では、LNG プ

ラントとガスケミプラントとを分けてきた。しかし、両方のプラントを一体化するという構想に変 2 IOD/2019 年 3 月 29 日 3 IOD/2019 年 4 月 10 日

Page 3: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-3- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

わった時、わが社はその内容に同意することができなかった。」と述べ、LNG液化技術のみの提供

の可能性については「Shellは、自らが参加し、出資し、建設に係わっている事業においてのみ、技術を提供する。」として否定している。Gazpromマルケロフ副社長からは液化技術には独リンデの

技術を採用することを検討しているとの発言も出ている。

図 1 サンクトペテルブルク近郊・バルティック LNGプロジェクトの位置

(出典)Gazprom及びGoogle Mapから筆者取り纏め ※左図の通り衛星写真では用地整備が進む。

果たして、Gazpromは本当に RusGasDabychaという新興企業とバルティック LNGプロジェク

ト(+ガスケミ)を進めるつもりなのか。大胆な憶測も含むが、この背景を考察してみたい。そ

の鍵を握るのはNOVATEK が同時期並行して進めてきたアルクチク LNG-2プロジェクトである。アルクチク LNG-2プロジェクトは 2018年 5月に TOTALが 10%(最大+5%追加のオプシ

ョン付き)にて参画を表明し 4、その後、KOGAS、サウジアラムコ、JOGMEC 等も関心表明を

行う一方 5で 2018年内には参画に追随する企業は現れなかった。そこにはヤマル LNGプロジェクトが稼働してまだ一年、同プロジェクトの状況を見定め、ヤマル LNGとは異なる新技術(GBS

方式)を導入するアルクチク LNG-2の実現性をじっくり評価したいという外資の姿勢もあった。 4 http://www.novatek.ru/en/investors/events/archive/index.php?id_4=2443&afrom_4=01.05.2018&ato_4=01.08.2018&from_4=2 5 日本企業ではプーチン大統領が訪日した 2016 年 12 月に既に三井物産、三菱商事及び丸紅が同プロジェクトに関する MOU を署名し関心表明を行っている。

Page 4: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-4- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

他方、NOVATEK としてはアジア太平洋市場における LNG需給バランス上、供給余地が見込ま

れる 2023年を目指して、アルクチク LNG-2を動かす必要があった。稼働開始まで少なくとも 42カ月の開発及び建設工期が必要となるグリーンフィールドであり、北極圏に位置し、資機材輸

送・建設の期間ウィンドウが制限される LNGプロジェクトの推進のため、逆算すれば、2019年

のできるだけ早い時期に投資者を確定する必要に迫られていた。そこにGazpromが進めるバルティック LNGが対抗馬として同様に外資誘致を図り、プロジェクト実現に向けて動き出す。バルテ

ィック LNGは西シベリアから既存パイプラインでサンクトペテルブルク近郊にあるウスチ・ルー

ガ輸出ターミナルコンプレックス(図 1)へガスを輸送し、液化するプロジェクトである。 アルクチク LNG-2プロジェクトとバルティック LNGプロジェクトの比較では、供給ソースの

確保という意味では双方ともほぼ問題はないが、前者が極地・遠隔地にあり、資機材輸送に制限のある北極圏に位置し永久凍土を開発する一方、後者は特段の障害のない立地でのプラント建設

となる。また、需要地までの LNG輸送については、前者が北極海航路(欧州向け北西航路)を活

用する一方、後者は既存欧州向け PLを活用し、欧州需要地からも近接のバルト海に位置する。このように二つのプロジェクトを比較すれば、包括的なリスクが低いのはバルティック LNGプロジ

ェクトとなるであろう。

Gazpromは、サハリン-2で関係の深い Shellそして日本企業(三井物産等)にも参画に対する声掛けを行っていた。Shellは 2017年 8月からGazpromとの間でバルティック LNGプロジェクト

の FS を実施しており、2018年 5月にも共同事業に関する協定に署名している 6。同プロジェクトに不可欠な液化プロセス技術、サハリン-2及び世界での LNG事業実績に鑑みれば、Shellは実質

オペレータとしてプロジェクトに関与する前提だっただろう。日本企業に関しては、2018年 9月

の東方経済フォーラムにて、Gazprom及び三井物産との間で同プロジェクトにおける協力に関するMOU を締結している 7。また、2019年 1月には三井物産の飯島会長が訪露しGazpromミレル

社長とサハリン-2の拡張及びバルティック LNGプロジェクトについて協議を行っている 8。並行

して、12月には伊藤忠商事も三井物産と同じ内容と思われる同プロジェクトに関するMOU をGazpromと締結している 9。

このような情勢の中で、アルクチク LNG-2とバルティック LNGが外資誘致という点で相克し始める。そして、そのプロジェクトの単純さと包含するリスクに鑑みれば外資はバルティック

LNGを選択するのが自然であっただろう。しかし、それはロシア政府が意図することではなかっ

6 https://www.gazprom.com/press/news/2018/may/article431840/ 7 https://www.gazprom.com/press/news/2018/september/article459970/ 8 https://www.gazprom.com/press/news/2019/january/article473520/ 9 https://www.gazprom.com/press/news/2018/december/article470681/ ※伊藤忠商事とGazpromとの間ではウラジオストク LNGプロジェクトが 2010 年から立ち上がり、両者は協力関係を深めていたが、対中輸出やサハリン各プロジェクトの供給余力から同プロジェクトへの供給ソースが不確定となり、Gazprom はプロジェクトを延期中。

Page 5: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-5- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

た。ロシア政府の意図は、欧州というドル箱市場を死守するため、パイプラインによる天然ガス

輸出を独占ガス企業体のGazprom、減退する埋蔵量を補完する資源フロンティア・北極開発を推進し、LNGによる天然ガス輸出をNOVATEK に分担することで欧州市場シェアをパイプライン

及び LNG双方で拡大していきながら、パイプラインではドイツ(Nord Stream及びNord Stream

2)及びイタリア・南欧(トルコストリーム)、LNGではフランス(NOVATEK への直接出資及びヤマル・アルクチク各 LNGプロジェクトへのTOTAL参画)を取り込む形で欧州域内の分断

を図ることにある 10。

そのように見ると、Gazpromが 2017年から進めようとしてきたバルティック LNGプロジェクトは、NOVATEK のヤマル LNG及びアルクチク LNG-2と欧州市場でかち合ってしまい、ロシ

ア全体の国益を損ねる可能性のあるプロジェクトでもあることが分かる。Gazpromとしては 2020年に始まる IMO規制によって環境意識の強いバルト海で船舶用燃料としての LNGバンカリング

を中心とする需要が増加するという見通しもあっただろう。また、ヤマル半島という同じ生産地

域にあり多大な優遇税制を受けるNOVATEK のプロジェクト、片や、ロシア政府からの徴税が強化されている国営Gazpromという「不公平な」状況の中、Gazpromにはバルティック LNGを進

めることで、同じ欧州市場をターゲットとするNOVATEK の LNGプロジェクトに対抗していく

という考えもあったのかもしれない。さらに同プロジェクトはグリーンフィールドとはいえ、既に建設予定地の整地は進んでおり、資機材輸送インフラも完備していることから、建設が始まれ

ばスケジュール通り又は早く完成できる可能性もある。アルクチク LNG-2のように今にこだわる必要のない時間的余裕のあるプロジェクトとも言えるだろう。

いずれにせよ、バルティック LNGの推進については一旦外資の注目から外し、ロシアにとって

プライオリティの高いアルクチク LNG-2に集中するべく、RusGasDabychaという実績不確かな会社をパートナーとさせることがロシア政府上層部で「決定」された可能性があるのではない

か。結果、Shell撤退発表の 2週間後、4月 25日には CNPC及び CNOOCによる各 10%参画が

発表され 11、5月 22日には参画が噂されてきたサウジアラムコが米国シェール LNGプロジェクト参画(ポートアーサー)を選択し 12、残る 10%について最終的に 6月 29日に三井物産及び

JOGMEC によるコンソーシアムが参画することを決定する 13。 7月 18日には、Shellの Ben van Beurden最高経営責任者がプーチン大統領と面談した。出席者

にはミレル社長はなく、ノヴァク大臣及びシルアノフ第一副首相であった。クレムリンが公開し

10 詳細は拙稿「ロシアが急速に進めるガス供給ルート多様化の背景に迫る~2019 年に起動する 3 大国際天然ガスパイプラインプロジェクト(Nord Stream 2、TurkStreamおよび「シベリアの力」)とその課題について~」(2019 年 7 月)を参照されたい。 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/812/201907_19a_new_02.pdf

11 http://www.novatek.ru/en/press/releases/index.php?id_4=3173&quarter_3=2&mode_5=event&mode_20=32&from_4=3 http://www.novatek.ru/en/press/releases/index.php?id_4=3174&quarter_3=0&mode_5=event&mode_20=662&from_4=3

12 https://www.saudiaramco.com/en/news-media/news/2019/sempra-lng-asc-port-arthur 13 http://www.novatek.ru/en/press/releases/index.php?id_4=3280

Page 6: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-6- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ている面談内容でもGazpromとの関係やバルティック LNGについての言及はなく、Gazprom

Neftとの西シベリアでの上流開発協力に関するものだった 14。果たして、Gazpromによるバルティック LNGプロジェクトが RusGasDabychaという新パートナーという隠れ蓑を覆っているだけ

で、将来 Shellを再度迎え入れて再起動するのか、それとも RusGasDabychaと共に初となるロシ

ア企業だけのバルティック LNGを推進していくのかどうか、アルクチク LNG-2の FIDが完了した後、徐々に判明していくだろう。

2.欧州向けドルージュバ原油パイプラインの汚染問題発生と収束 ドルージュバ(露語で「友好」)原油パイプラインは 1960年に建設

が開始され、1964年に完成した総延長 4,665km(当時のソ連領内3,004km、ポーランド 675km、東独 27km、チェコスロヴァキア

836km、ハンガリー123km)の世界最長原油パイプラインのひとつで

あり、オペレータは国営 Transneft、輸送能力は日量 120万~140万バレル(口径はロシア領内で最大 1,020mm→最終地で 426mm)、ソ連時

代から半世紀以上に亘ってロシアにとってはハードカレンシー獲得、

欧州にとってはエネルギー安全保障の一翼を担う大動脈となってきた原油輸送パイプラインである 15。

ドルージュバ PLに立つ看板(サマーラ)

図 2 ドル-ジュバ原油パイプラインの通過国

(出典)RIA ノーヴォスチ資料 16に筆者加筆

14 http://en.kremlin.ru/events/president/news/61044 15 例えば 2018 年のロシア原油輸出量(日量 535 万バレル)であり、その約 4 分の 1 を同 PLが輸送している。 16 https://ria.ru/20141015/1028355511.html

Page 7: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-7- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

そのパイプラインに不穏な動きが露呈したのが 4月 19日、ベラルーシがロシアから輸入した原

油に通常値の 100倍にあたる有機塩素化合物 17が含まれており、品質の低下が見られることから、同国の 2ヶ所の製油所への輸入停止に踏み切ったという報であった。4月 24日にはポーラン

ド通過区間のオペレータである Pern 社が、「同 PLによるロシアからの原油供給を停止せざるを

得なくなった。」と発表。Transneftも技術的問題が発生していることを認め、4月 30日にはプーチン大統領がトカレフ Transneft社長を呼び、「輸出管理の不行き届きがロシアの名声を貶めてい

る。」と叱責し、早期の状況解決と原因究明を命じている 18。5月 7日にはノヴァク・エネルギー

大臣が原油汚染に関して Transneft社社員 4名を拘束したと発表。他方で、既に送油され、各石油港で荷積みされたタンカー原油について、主要原油トレーダーが引き取りを拒絶した結果、約

100万 t(730万 BBL)に及ぶ原油タンカー10隻分が買主を探して地中海を彷徨うという混乱が発生した 19。Transneftは汚染原油の回収を進めつつ、汚染されていない原油を送油することで事

態を徐々に改善させ、現在、関係者の関心は Transneftによる賠償額支払いに移ってきている。

ベラルーシのルカシェンコ大統領は原油汚染による被害がベラルーシだけで 1億ドルに上ると発言したのに対し 20、ノヴァク・エネルギー大臣は損害賠償の総額は全体で 1億ドル未満の規模と

牽制 21。Transneftとの間で原油売買・輸送トランジット契約の交渉を控えているベラルーシ及び

ウクライナにとって格好のカードを与える事件となった。 6月に入り、サマーラ地方裁判所は 4名の容疑者について、同州ネクラソフカにあるパイプライ

ン接続地点で 100万 RUB(約 160万円)相当の原油を盗み、その代わりに有機塩素化合物を混入させた疑いで 6月末まで自宅軟禁に置くことを決定 22。6月 24日には同パイプラインの管理に当

たっている Transneft-Druzhbaのオレグ・ボゴモロフ社長の更迭が発表された 23。

7月 19日には遂にポーランドOrlen 社が Transneftに対し汚染原油に伴う損害に対する第一弾請求を行ったのを受け、Transneftの取締役会は汚染原油の損害賠償としてバレル当たり最大 15

ドルを支払うことを承認 24。8月には最初の損害賠償金の支払い(290万ユーロ)がウクライナの

UkrTransNaftaに対して実行されている。今後、汚染原油による製油所への損害(腐食)が査定され、賠償額を巡る協議が Transneftとの間で行われながら、徐々に収束に向かっていくと考え

られる。 さて、原因が究明され、容疑者が捕まり、事態が収束している一方で、今回の事件では二つの問

17 有機塩素化合物は原油の生産促進に使用されるものであるが、製油所の精製装置を傷める可能性があるため、製油所に供給される前に通常除去される。

18 Prime/2019 年 4 月 30 日 19 ロイター/2019 年 5 月 8 日 20 VTBCapital/2019 年 5 月 13 日 21 Prime/2019 年 5 月 16 日 22 Prime/2019 年 6 月 11 日 23 Prime/2019 年 7 月 2 日 24 Prime/2019 年 7 月 24 日

Page 8: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-8- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

題が未解決のままとなっていると思われる。一つ目の問題はネクラソフカで混入した有機塩素化

合物が、ウラルブレンドが生まれる Transneftの原油集積基地であるサマーラを経由して1,500km離れたベラルーシで初めて異常値として検知されたという点であり、過去半世紀に亘っ

て行われてきた、ロシア側の品質管理を揺るがす杜撰なマネジメントが露呈してしまったという

点である。この点は担当社長の更迭によって管理体制の一新が図られているが、再度同様の問題が起きる場合には過去築いてきたロシア産原油の信用を更に失うことになるだろう。もう一つの

問題は、なぜ 4名の容疑者は盗んだ原油の計量を誤魔化すために、コストのかからないかつ入手

し易い水を混入させず、高価で取扱いも注意を要する有機塩素化合物を混入させたのかという点である。本件で得をする者、損をする者を考えてみると、前者は対露交渉カードを手に入れた旧

東欧諸国であり、後者は信用を失い損害賠償を払うことになった Transneft、そしてロシア政府である。そのように考えると、今回の原油汚染はロシアの信用を失墜させることを目的としたある

種の対露テロとも考えられなくもない。国土に原油及び石油製品合計で 78,300kmものパイプラ

インを擁する Transneftはこれまでもパイプラインの警備を行ってはいるが、今回の事件を経て、これまで以上に危機安全管理の強化が急務となっている。

3.米国による対露制裁:新たな第四の事象 4月 25日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が、米国企業の新たな制裁違反事例と、対象と

なった米国企業との間で制裁金支払いについて妥結したと発表した 25。同国の制裁違反事例として公表されているものは、2017年 7月 20日の ExxonMobil(SDN対象であるセーチン社長との取引

行為(8 文書を締結)に対する罰則適用であり、200 万ドルの罰金を課すもの。現在も係争中)に

続くものだが、今回の事例は、分野別制裁(SSI)である金融制裁(対象企業に対する融資(debt financing)期間の制限。2015年時点で「90日を超える融資」を禁止するものだったが、2017年 8

月の新制裁法(CAATSA)発動後、「60日超」に短縮)の違反として、その融資の概念が制裁対象

企業であるRosneftに対する米国企業の売掛金の回収にも適用されるという点で極めて特殊な事例であるだけでなく、これまで融資を行う金融機関が対象と考えられてきた同金融制裁が、サービス・

機器を提供・販売する一般企業にも適用されるという点で多大な影響を及ぼす事例となった。 事の発端は丁度 4 年前の 2015 年 8 月 19 日に遡る。米国石油開発関連ソフトウェア企業 Haverly

Systems, Inc(テキサス州とカリフォルニア州に事務所を持つニュージャージー州の中小産業ソフ

トウェア・プログラミング企業 26)は、Rosneft に提供したソフトウェアのライセンス及び保守サービスに関連して、Rosneftに請求書(2通)を発行。請求書には発行日から 30~70日の支払期日

が規定されており、Rosneft は支払いを実行するために同社に対して税務書類を要請。その後、税

務書類の入手・遣り取りに数カ月を要した結果、RosneftからHaverly Systems, Incへの支払い(請 25 米国財務省 OFAC リリース:https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20190425.aspx 26 Haverly Systems, Inc 社 HP:https://www.haverly.com/main-products

Page 9: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-9- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

求書 1 通分)は請求書発行から約 9 カ月後の 2016 年 5 月 31 日に実行された。また、残る請求書

については金融機関が制裁を事由にRosneftからの送金を断るというアクシデントが生じたものの、最終的に 2017年 1月 11日にHaverly Systems, Incへの支払いが実現した。しかし、OFACはこの

売掛金の回収に要した期間を Directive 2(Rosneft を含む対象企業への 60 日超の融資を禁止する

金融制裁を規定)違反であり、売掛金の期限内の遅延収集は禁止されているとHaverly Systems, Incに通知。同社と協議・調停の結果、同社は罰金 75,375USD(当初OFAC は最高民事罰金額として

590,282USDを想定していたが、減額)を支払うことに合意したものである。

図 3 欧米の対露制裁:これまでの経緯

(出典)米国政府(国務省及び財務省)及び欧州連合による制裁規定から筆者取り纏め

今回の違反認定は、米国による金融制裁における融資の概念に、Rosneft等対象企業に対する売掛金の回収も含まれるという解釈を示唆するものである。これまでは融資の実行主体であった金融機

関が対象と考えられてきたが、対象ロシア企業に制裁対象(所謂、将来的石油生産ポテンシャルを有する大水深・北極海・シェール層の開発)ではない、物品・役務を販売する企業もその対価回収

Page 10: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-10- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

に当たって、60日を超えて売掛金の資金回収ができなかった場合には、米国の金融制裁の違反罰則

対象となるという事例となった。制裁対象ロシア企業が故意に支払いを遅らせる場合が生じた場合でも同様に米国制裁に抵触する可能性を示唆するものでもある。また、今回の件は氷山の一角であ

り、既にOFACでは「第二、第三のHaverly Systems」について調査が行われている可能性もある

ことから、今後の動向・OFAC の発表に注目が集まる。

4.Gazpromが 2005年以降停止していたトルクメニスタン産ガスの輸入を 3年ぶりに再開

7月 3日、Gazpromは国営トルクメンガスと期間 5年(~2024年 1月 30日)で年間最大 5.5BCMのガスを購入する契約を締結した。これは既に 2019 年に入ってから 2 件目のトルクメニスタン産

ガス購入契約であり、一件目は短期契約で、4 月 15 日から 6 月 30 日までの期間に Gazprom が1.155BCMの天然ガスを購入 27したもので、それに続く契約となる。

従前、Gazprom はトルクメニスタン産ガスの長期購入契約をトルクメンガスと締結していたが、

この契約に基づいて最後に同国からガスが供給されたのは 2015年であった。Gazpromは中央アジア諸国から購入したガスを欧州に再販しており、同年の Gazprom の CIS 域外向け平均輸出価格は

1,000CM当たり 243ドル。同時期トルクメニスタン産ガスの輸入価格は 1,000CM当たり約 240ド

ルで、実はロシア側にとっては不採算であった。Gazpromはトルクメンガスに価格引き下げ交渉を行うも合意に至らず、同年半ば、ガスプロムは一方的に購入を停止・契約を「一時休止」して、そ

の後、両者は係争中だった経緯がある 28。 世界第一の埋蔵量を誇り、供給余力でも問題がない Gazprom が突如訴訟を棚上げし、トルクメ

ニスタンの天然ガスを購入する判断に至った背景には何があるのだろうか。

前掲のヴェードモスチ紙では、ガス販売による国庫収入がどうしても必要なトルクメニスタン側がイニシアチブを取って、和解に向けた動きを本格化させ、両国首脳会談の枠組みを持ち出して長

期契約締結にこぎつけたとしている(国家エネルギー安全保障基金のアレクセイ・グリヴァチ副所

長)。最近ではロシアの独立新聞が「経済低迷により国民の過半数に当たる 300 万人が国外流出」しているというショッキングな報道 29も出ているトルクメニスタンだが、実際、2009 年の対中天

然ガス輸出パイプライン稼働とウクライナへの輸出減少を経て、これまでのロシアの地位に取って代わり、中国が台頭してきたのは事実である。投資家に有利な生産物分与契約(優先投資回収が認

められている)で外資には開放されていなかった有望陸上鉱区に中国を参画させ、ウズベキスタン、

カザフスタンを経由して中国に輸出する天然ガスパイプラインも中国の融資で建設してきたため、ロシアへの輸出に比べて対中輸出は輸出量(販売量)から輸出価格及びタリフと中国(CNPC)に

コントロールされている可能性が高い。

27 Prime/2019 年 4 月 16 日 28 https://www.vedomosti.ru/business/articles/2019/07/03/805779-gazprom-kontrakt 29 https://special.sankei.com/a/international/article/20190711/0001.html

Page 11: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-11- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図 4 トルクメニスタンからの既存天然輸出パイプラインと国別容量 30

(出典)JOGMEC

トルクメニスタンから中国向けには 2018年 33.3BCMの天然ガスが出荷されているが、ロシアが

この中国と比較して購入量としては大量とはいえないまでも今後 5 年間に亘って手を差し伸べた背景には次の理由があると考えられる。まず、これまでロシアが自らトルクメニスタンを中国に与

するよう仕向けてしまったという事情もあるため、過去 10 年間に亘って対中依存度を深め、財政

的に苦しいトルクメニスタンに対してロシアの重要性を改めて認識させることである。対中交渉カードを与え、中国とガス価格等の条件交渉をトルクメニスタンと行わせることは、中国の天然ガス

市場を狙っているロシアにとっても良い影響がある。そして、2010 年に締結されたロシアとのウクライナへのガス供給契約が今年満期を迎えようとしている。これまでもトルクメニスタン産ガス

はウクライナへ供給されてきた経緯もある。まもなくロシアにはゼレンスキー新政権とのガストラ

ンジット契約更改交渉が控える中、対ウクライナ用に安価な天然ガスを用立てる必要がロシアには出てくる。その際の供給ソースとして安価なトルクメニスタン産ガスをウクライナに割り当てると

30 トルクメニスタン情勢(対露・対中関係)に関しては、拙稿「20XX 年、トルクメニスタンの天然ガスは海を越えて輸出されているだろうか?~トルクメニスタンの最近の情勢と内陸に位置する豊富な天然ガス資源の輸出方法についての考察~」(2014 年 1 月)を参照されたい。https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/5/5125/201401_077a.pdf

Page 12: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-12- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

いう意図もあるかもしれない 31。

5.Gazprom株式(6.64%)を市場売却へ:その目的は何か

Gazprom ミレル社長は 6 月に同社子会社が保有する 6.64%を市場売却することを発表。7 月 25

日、Gazprom 子会社でオランダ法人Gerosgaz Holdings B.V. 及びキプロス法人 Rosingaz Ltd.が保有する 6.936億普通株式(2.93%相当)を一株当たり 200.5RUB、総額 1391億 RUB(21.9億ドル)

で機関投資家に売却した。これによりGazpromの流動株式は 46.02%に増加している 32。この取引

では外国投資家の購入は許されず、モスクワ証券取引所を通じて買い注文が取り纏められた。全ての株式が単独または共同の非公開の買い手の 1件の注文に基づき売却された模様で、買い手にはプ

ーチン大統領に近いアルカジー・ローテンベルグ(前述 1.で述べた RusGasDabycha のオーナーでもある)の関係組織も含まれると報じられていたが、同氏は否定している。また、同様に別子会

社が保有する残る 3.71%(2,000 億 RUB 相当/31.5 億ドル)についても今秋にも売却する可能性

がある。8月 7日付のヴェードモスチ紙では、この時期に株式売却を決断した背景分析として、同社が今これら株式を売却する財務上の必要性は特にないが、理論的には、売却資金を債務返済に充

てることや同社の投資プログラムではガスケミプラント(アムール GPP)建設費用の増加の可能

性や配当金に充当する(結果、配当はロシア政府へ渡る)必要性が挙げられている 33。 理由については様々な解釈が成り立つ今回のGazprom株式の売却だが、ひとつ大胆な仮説を立て

てみたい。それは Gazprom の今後の成長戦略の中での有望企業との戦略提携のための株式交換の準備にあるのではないかというものだ。つまり今回の売却は一時的に株式を一箇所に集めるプロセ

スにあり、今後まとめられた株式を戦略提携対象会社との株式交換に使うのである。例えば、2012

年に Rosneft が TNK-BP を買収した際に、BP が保有する TNK-BP 株式(50%)と Rosneft 株式(キャッシュ+18.5%)を交換し、BP は役員を 2名派遣すると共に Rosneftと戦略提携を確立した

ことが記憶に新しい 34。Gazpromの場合、既にガスの買い手企業であるドイツやイタリアからも少

数ながら株主に迎えているが、この他、どのような企業との戦略提携があるだろうか。今後拡大する中国市場において、シベリアの力パイプラインでのガス需要家である CNPC(ペトロチャイナ)

や将来的な LNG市場を見据えたインド企業という仮説もあるかもしれない。しかし、Gazpromにとって最も重要な欧州というドル箱市場を確保するという命題とロシア政府が対欧州戦略(対露制

裁/NATO の東方拡大)を練って行く上で必要なのは、実はウクライナなのではないか。2006 年

31 トルクメニスタン産ガスのウクライナへの供給に関しては、拙稿「ロシアが急速に進めるガス供給ルート多様化の背景に迫る~2019

年に起動する 3 大国際天然ガスパイプラインプロジェクト(Nord Stream 2、TurkStreamおよび「シベリアの力」)とその課題について~」(2019 年 7 月)P22~P25 を参照されたい。 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/812/201907_19a_new_02.pdf

32 Prime/2019 年 8 月 8 日 33 https://www.vedomosti.ru/business/articles/2019/08/07/808279-gazprom-mozhet-prodat-aktsii-200 34 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/4/4802/1212_b04_motomura_ru.pdf

Page 13: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-13- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

及び 2009 年とウクライナ供給途絶問題を経て、ウクライナ迂回ルートである Nord 及び South

(Turk)両ストリームを着々と建設し、ウクライナ包囲網を築いてきたロシアだが、対露制裁の根本であるウクライナ問題をロシア寄りに収束させなければ、欧州市場の確保は盤石ではない。ウク

ライナではゼレンスキー新政権が誕生し、丁度今年失効するガストランジット契約(2010 年締結

/契約期間 10年間)交渉も控える中、ウクライナとの結束を深め、供給者であるGazpromとロシアから欧州へ至る大動脈を握る国営石油ガス企業である Naftogaz との株式交換・持合いをベース

とする戦略提携を構築することは、Gazpromだけでなく、ロシア政府の対欧州戦略でも理に叶って

いる。感情論はあるが、保有するパイプラインに流すガスが無ければ何も生み出さないNaftogazにとっても同様である。今回のまとまった株式売却の真の目的は、9 月以降予定されているプーチン

大統領及びゼンレンスキー新大統領の初会談、そして、Gazprom及びNaftogaz との契約交渉の中で明らかになるかもしれない。

6.NOVATEKの LNGとGazpromのパイプラインガスが欧州市場で拮抗し始めたのか 8 月 5 日付コメルサント紙は、「NOVATEK が欧州市場でガスプロムの機先を制した:ロシア産

LNG とパイプラインガスは EU で主なライバル同士になった」というある意味ショッキングな記

事を掲載した 35。今年上半期を見ると、欧州市場で Gazprom の主な競争相手となったのはNOVATEK を中心とする LNG供給業者であり、中でも欧州向け LNG輸出の増加幅が最も大きか

ったのがNOVATEK(9.5BCM増加)で、米国やカタールの LNG生産者を上回ったという。一方、Gazprom の欧州向け輸出は前年同期と同程度であったことから、Gazprom の従来の競争相手に代

わり、新たな競争相手として中でも主要なライバルとなったのは NOVATEK となったとの結論の

記事となっている。

図 5 欧州への主要 LNG供給者:2018年及び 2019年上半期の比較(単位:BCM)

(出典)コメルサント紙(2019年 8月 5日付)から筆者抜粋

35 https://www.kommersant.ru/doc/4052442

Page 14: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-14- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

確かに、ロシアのガス輸出分野での発展が著しい NOVATEK は 2017 年 11 月に稼働を開始した

ヤマル LNG プロジェクトが順調に生産を拡大しており(今年年間 1,650 万 t を達成予定。更に年内に第 4 トレインで年間 90万 t のオビ LNG プロジェクトを起動中)、更に小規模ながらクリオガ

ス・ヴィソーツク LNGプロジェクトで年間 66万 tの LNG生産を行っている。これらが欧州向け

で 9.5BCM という上半期最大の供給量を達成した背景にある。他方、記事でも言及されている通り、欧州のガス需要が伸びているため、Gazprom のガス販売量は NOVATEK の LNG 供給増加に

よって減少はしていない。

図 6 Gazprom及びNOVATEK の主要指標の比較

(出典)各社年次報告書から筆者取り纏め

では、この上半期の結果を以って、NOVATEK が Gazprom の機先を制し、欧州市場でライバル同士となると言い切れるかというのはまだ早計だろう。まず、細かい点だが、ヤマル LNG プロジ

ェクトからの LNG については 2014 年 5 月に Gazprom 子会社の Gazprom Marketing & Trading

Page 15: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-15- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

Singapore が 20年間・年間 3百万 tの長期引取契約を締結 36しており、Gazpromが欧州(アジア)

向けの販売当事者でもある点に留意が必要である。ヤマル LNG が稼働後、ARC7 級タンカーの不足から約 8 割が欧州に向かっている現状や中国シェアを考えれば、今回の 9.5BCM の増加の中に

は Gazprom が販売者となって入っているものがあると考えるのが自然であるし、そうすることで

欧州シェアを守り、パイプラインの届かない欧州諸国へ販路を拡大するべく、Gazprom がヤマルLNGプロジェクトと長期契約を締結したことも背景にある。

では、今後どのような展開が考えられるだろうか。まず、NOVATEK はヤマル LNG プロジェク

トに続き、2023年にはアルクチク LNG-2を立ち上げ、2030年までに 53百万 t(72BCM)~70百万 t(95BCM)に LNG 生産量を拡大する野心的な計画を描いている 37。アルクチク LNG-2 に関

しては、その生産量の 8割をアジア太平洋へ、2割を欧州向けに販売する計画をミヘルソン社長が言及しているが、ヤマル LNG プロジェクトも含め、便宜的に半分を欧州、半分をアジア太平洋市

場向けと想定すると、2030年時点では最大 47.5BCMの LNGが欧州へ向かうことになる。

他方、Gazprom(及びNOVATEK 以外のガスを生産する石油会社)が 2030年時点でどの程度の天然ガスを生産し、輸出するのかついて試算するべく、まずエネルギー省の長期エネルギー見通し

を見てみよう 38。2030年時点では悲観ケースで 746BCM、楽観ケースで 858BCMの天然ガスが生

産されることが想定されており、輸出量が現在の実績からその 3 割と推定すると、224BCM~257BCM となる。欧州向けを抽出するため、アジア向けのサハリン-2LNG プロジェクト第三トレ

インまでの輸出量(1,620 万 t=22BCM)及び NOVATEK による LNG プロジェクト分(最大47.5BCM)の合計 69.5BCMを差し引くと、155BCM~188BCMが 2030年にロシアから欧州向け

に輸出される総量となる。

図 7 2030年時点のGazprom及びNOVATEKの欧州向け輸出量見通し試算(単位:BCM)

エネルギー省 Gazprom NOVATEK 欧州 生産量見通し 輸出量見通し 輸出量見通し 輸出量見通し 需要見通し

楽観 858 257(※2) 188(※1) 最大 47.5 (※3)

450 悲観 746 224(※2) 155(※1) ※1:欧州向けのため、サハリン-2プロジェクトの LNG は含まず。 ※2:ロシアの生産量に対する輸出量割合を過去の実績から 3 割と想定。 ※3:NOVATEKが主導する LNGプロジェクトの仕向け地を欧州 50、アジア太平洋 50%と想定。 ※4:ロシアからアジア太平洋向け LNGをサハリン 2+NOVATEK分=69.5BCMと想定。

(出典)エネルギー省、NOVATEK、IEA-WEOから筆者試算

36 http://www.novatek.ru/en/investors/events/archive/index.php?id_4=883&afrom_4=01.05.2014&ato_4=06.06.2014 37 NOVATEK プレゼンテーション「Expanding Our Global LNG Footprint From 2018 to 2030: Energy Affordability, Security &

Sustainability」(2019 年 6 月 3 日) 38 https://minenergo.gov.ru/system/download-pdf/1920/69055

Page 16: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-16- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

また、IEA の世界エネルギー見通しから 2030年の欧州の需要見通しを引き出すと、リファレンス

ケースでは 450BCMとなっていることも参考されたい。 このように見ると、NOVATEK が最大限輸出する前提で、2030年時点でGazpromの輸出量見通

しは楽観ケースで 2017 年のレベルを下回り、悲観ケースでは 2015 年レベルに留まることになる

(図 8)。更に欧州の需要は既にピークアウトしており(2000 年で 487BCM、2025 年で 472BCMに減少)、市場競争は激しくなることが予想される。このような状況において、Gazpromはさらに

輸出シェアを拡大し、国際価格で天然ガスを販売し、利益の最大化を図るはずだろう。しかし、そ

れはNOVATEK に対してGazpromが戦いを挑み、共食いで達成するのでは、ロシアの戦略として本末転倒である。GazpromとNOVATEK とは正にロシアの国章である双頭の鷲のように、双方が

欧州市場シェアをそれぞれ獲得していく方法を選ぶだろう(図 9)。そのベースはパイプライン網のある国は Gazprom が攻め、Gazprom のパイプラインが届かない国は NOVATEK の LNG で攻め

るということであり、莫大な優遇税制を敷かれた上流開発と北極海航路という特殊輸送で値下げ余

力のない NOVATEK はベストエフォートで市場シェアを取り、依然バーゲニングパワーを有するGazprom のパイプラインガスは、北アフリカ、中東そして米国からの天然ガス(パイプライン・

LNG双方)に対して値下げ攻勢でシェアを獲得していくことになるだろう。

図 8 Gazprom Exportの欧州向け輸出量推移(単位:BCM)

(出典)Gazprom Export39

39 http://www.gazpromexport.ru/en/statistics/

Page 17: 1 LNG 3 29 LNG NOVATEK LNG-2 2 4 19 6 3 4 7 5...NOVATEK はヤマルLNG プロジェクトやクリオガス・ヴィソーツクLNG プロジェクトで欧 州向けLNG 供給を拡大しているのは事実。他方、Gazprom

-17- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図 9 欧州各国のロシア産ガスへの依存度とロシアが進める市場確保・開拓のターゲット

(出典)BP 統計より筆者取り纏め

図 10 ドイツ向け天然ガス輸入価格及びOECD全体の天然ガス輸入価格の推移

(出典)BP 統計 2019及び IMF 資料より筆者取り纏め

その際の参考指標として、ドイツによる天然ガス輸入価格とその他OECD諸国平均天然ガス輸入

価格のスプレッドが挙げられる(図 10)。ドイツは Gazprom にとって輸出量の 3 割弱を占める最大顧客であり、Gazpromのプロフィットの源泉とも言えるが、その他OECD諸国はそのドイツよ

り高い天然ガスを調達しており、そのスプレッドは年々開いている(図10)。言い換えれば、Gazprom

はそのシェアに対して対抗できる十分な余力を持っているとも言えるだろう。 (了)