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グリーンケミカル Dec./2010 特 集 2 油脂産業の課題と未来への討議(1) Oils and Fats Industry: Challenges and Innovative Solutions(1) 10 月 19 日より 22 日にかけてマレーシア・クアラルンプール・コンベンションセンターにて頭書会議が MOSTA の主催で開催された。協賛は上記案内のごとく、そうそうたるメンバーがそろっているが、実質は大 半の会社は展示会にも出展しておらず、会議場でも空席が目立つ状況だった。昔の混雑具合からは想像でき ない閑散とした会議となってしまった。以下今号より講演の要旨を何回かに分けて掲載していく。 ◆持続可能性とバイオ燃料に対する政策が様々な 油脂価格に及ぼす影響 DR JAMES FRY, Chairman, LMC International, United Kingdom 英国 LMC インターナショナル 会長 ジェイ ムズ フライ LMC 会長のフライ博士はオックスフォード大 学で数学の修士号と経済学の博士号を取得した。 オックスフォード大学マグダーレン・カレッジで 経済学を教えた後、 1980 年に LMC インターナシ ョナル社を共同で設立し、現在は会長を務めてい

油脂産業の課題と未来への討議(1)‹±国 FOSFA インターナショナル テクニカ ル・マネージャー ジョン・ハンコック ジョン・ハンコックは、元々は物理学を学び固

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グリーンケミカル Dec./2010

・ 特 集 2

油脂産業の課題と未来への討議(1)

Oils and Fats Industry: Challenges and Innovative Solutions(1)

10月19日より22日にかけてマレーシア・クアラルンプール・コンベンションセンターにて頭書会議が

MOSTAの主催で開催された。協賛は上記案内のごとく、そうそうたるメンバーがそろっているが、実質は大

半の会社は展示会にも出展しておらず、会議場でも空席が目立つ状況だった。昔の混雑具合からは想像でき

ない閑散とした会議となってしまった。以下今号より講演の要旨を何回かに分けて掲載していく。

◆持続可能性とバイオ燃料に対する政策が様々な

油脂価格に及ぼす影響 DR JAMES FRY, Chairman, LMC International, United Kingdom 英国 LMC インターナショナル 会長 ジェイ

ムズ フライ

LMC 会長のフライ博士はオックスフォード大

学で数学の修士号と経済学の博士号を取得した。

オックスフォード大学マグダーレン・カレッジで

経済学を教えた後、1980 年に LMC インターナシ

ョナル社を共同で設立し、現在は会長を務めてい

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る。同氏は殆どの時間を同社の研究とコンサルタ

ント業に費やしており、農産物部門全体を担当し

ている。

この講演では、政府の介入と NGO の活動が植

物油脂、特にパーム油部門にどの様な思いもよら

ない影響を及ぼしているか検証する。 バイオ燃料需要が短期的に価格に反応する度合

が、食品や工業用(非食品)需要の反応度合より

もはるかに大きいため、バイオ燃料用油脂の需要

が比較的小さいにも拘わらず、植物油全体の価格

構造に大きな影響を及ぼしている。いわば「犬の

尻尾が体全体を揺り動かしている」現象を検証す

る。 バイオディーゼル市場の大きい EU では、他の

油脂に比べナタネ油の価格が上がっているが、各

国の市場および 終用途における油脂の持続可能

性の問題もあり、この価格差は比較的狭い範囲に

抑えられている。 バイオ燃料および他の用途においてパーム油に

持続可能性基準を適用したため、油脂間の価格差

に敏感な市場と価格よりも他の要因を重視する市

場との違いが鮮明になっている。この講演ではこ

うした差異とバイオ燃料に油脂の持続可能性の議

論を導入したこととがどう関連しているか論じる。

パーム油への非関税障壁としての持続可能性

その上で、バイオ燃料需要の増加と持続可能性

基準の適用を拡大することにより、将来、植物油

間の価格差、特に大豆油とパーム油の価格の関係

がどうなるか結論づける。 彼のパーム油価格予測は世界中で評価されてお

り、読者の為特別にスライド画像をいくつか掲載

する。

原油と植物油の相関性

アメリカ合衆国のバイオディーゼルと植物油価格

パームの生産性

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◆「新たな領域」に踏み込んだアジアの虎-変わ

り続けるラウリル油とオレオケミカル産業の特色

を見る MR. HARALD SAUTHOFF, Vice President, Cognis GmbH, Germany ドイツ コグニス 副社長 ハラルド・ザウトホ

ーフ

ハラルド・ザウトホーフは、入社以来ずっとコ

グニスに勤務している。現在は脂肪アルコールお

よび天然原料のグローバル・マネージメント担当

副社長として、コグニスの植物油およびオレオケ

ミカルのリスク戦略全般を担当するとともに脂肪

アルコールのグローバル事業の責任者でもある。 同氏の専門は、コグニスの主要原料でもあるトロ

ピカル・オイルである。ここ数年、油脂会議の常

連のスピーカーとしてラウリル油に関する予測お

よび市場情報の講演をしている。 同氏は、益々相互の関係を深めている様々な農

作物市場の動きを子細に追っている。コグニスに

とっては持続可能性が大きな要素になっており、

同社が天然原料から持続可能な原料に移行するに

あたり、同氏の率いる部門が大きな役割を果たし

ている。

脂肪酸地域ごとの生産能力

「アジアの虎」は新しい領域に足を踏み入れて

いる。即ち、数年に亘る脂肪酸および脂肪アルコ

ールの能力強化の時代から体質強化の時代に入っ

た。ここでは、東南アジアの市場構造に加え同地

域の資産構造も見直した。このことにより各国間

および各地域間の原料および製品の流れが変わり、

需要および供給の透明性にも影響を及ぼした。 こうした変化は、 近動きが益々早くなってい

る世界の金融市場および一般経済環境の中で起こ

っている。製品の流れに対する変化のプロセスと

影響を概観するとともに 近の市場の特長にも触

れることとする。 ◆インドネシアのパーム油産業:将来を展望する MR. DEROM BANGUN, Vice Chairman, Indonesian Palm Oil Board インドネシア インドネシアパーム油協議会 副

会長 デロム・バングン

デロム・バングン氏は化学工学を履修した後、

パーム油メーカーの Socfindo 社に入社した。同社

では、技術部門の長としてパーム油圧搾工場と精

製工場を設計・施行した。同氏はゴム工場および

パーム油工場からの環境汚染物質の処理技術に貢

献したとして、インドネシア政府から表彰された。 同氏はまた米国 MIT スローン・メネージメン

ト・スクールの上級管理職コースを履修するとと

もに英国FOSFAで油脂国際取引の教育を受けた。

インドネシアのパーム油業界を代表し、GAPKIの議長として国際会議にも出席した(1999-2009)。小規模なプランテーション会社 PT. Kinar Lapiga を設立し経営した。又、SIPEF グループ

会社である PT. Tolan Tiga の外部コミサリスを務

めている。RSPO においては GAPKI を代表して

おり、RSPO の二人目の副会長である。現在はイ

ンドネシアパーム油協議会(IPOB)の副会長でも

ある。

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インドネシアでの油やしの商業生産は 1911 年

に始まっており、大規模な産業に育つまで長い年

月がかかっている。1970 年以降インドネシアのパ

ーム油生産は急速に伸びており、1970 年に 20 万

トン程度であったものが 2000 年には 6 百万トン

以上、2009 年には約 20 百万トンとなり 40 年弱で

100 倍に成長している。 それでは、インドネシアのパーム油産業の未来

はどうなるのであろうか。 世界のパーム油需要は依然として旺盛であるが、

原料は縮小している。気候変動、地球温暖化、森

林破壊、生物多様性の喪失(特にオランウータン)、

泥炭地の利用、温室効果ガスの排出、社会的紛争

等、問題は多い。現在は持続可能性が至上命題と

なっている。そのため、栽培面積は減少するであ

ろう。従い、生産の増加は一部生産性の改善に頼

らざるを得ない。益々研究の役割が重要になって

くる訳である。 REDD スキーム、泥炭地のよりよい理解、空間

計画の再考等によって、インドネシアの油ヤシの

未来は決まるであろう。世界の旺盛な需要と貧困

の克服が今後の成長の原動力になると思われるが、

一方で、気候変動と社会不安に関連する持続可能

性の問題がこれにブレーキをかけるであろう。成

長は間違いなく減速し、成長の原動力とこれに対

する反発が均衡する所で成長は止まるであろう。 一方で、インドネシアでは下流部門での投資が

増加し、同国の経済の発展により貢献するであろ

う。 ◆油脂の国際取引に係る規制問題 DR. JOHN HANCOCK, Technical Manager, FOSFA International, United Kingodom 英国 FOSFA インターナショナル テクニカ

ル・マネージャー ジョン・ハンコック ジョン・ハンコックは、元々は物理学を学び固

体実験物理学で博士号を取得したが、油脂分野に

おいて幅広い経験を積んだ。食品業界に 35 年以上

も身を置いているが、初めは製菓会社の大手

Rowntrees(現在は Nestle の 1 部門)のココア・

チョコレート部門に勤務し、油脂グループの責任

者を務めた後、ヨーク工場の主任化学研究員にな

った。その後、ヨーロッパで も多角化した製油

工場の一つである Hull 所在の Anglia Oils (Aarhus Group の 一 部 門 で 現 在 は

AarhusKarshamn となっている)に移り、技術担

当役員として 12 年間勤務した。2001 年には

FOSFA インターナショナルに入社し、多くの国、

地域、世界の技術分野で、油脂取引の利害を代表

し促進した。

油脂の国際取引の規制問題は主に三つのカテゴ

リーに分かれる。契約上のもの、国際的なもの、

そして国内或いは地域内に関連するものである。

国際取引に従事する者はこれら 3 つの分野を良く

知っておく必要がある。規制を守らない場合、大

きな金銭的な損害を被る恐れがあるからである。

異なる国の間では大量の取引が行われ、商品は長

い期間海上輸送される。距離に伴う多くの問題を

解決するため、国際取引契約が作り出された。関

係当事者は、契約で決められた船積み書類を含み、

契約内容を理解しなければならない。リスクおよ

びリスクに対する一般の態度は変化するため、こ

れらの文書は定期的に改定される。IMO 等の国際

規則は、全ての海上取引規制する。 Codex Almentarius の実施基準の一部も適用される。向

け先に着くと、当該国の食品・飼料規則が適用さ

れる。多くの国では食品チェーンでのコンタミを

防ぐため、HACCP に基づく規則を導入しており、

これらは油脂の輸送に特別に適用される。ここで

は、これらの問題および将来どの様に規制が変更

さえるかを取り扱う。 ◆パーム油でのフライおよび健康面を理解する PROF. AUBREY PARSON, Professor and Consultant Oils and Fats Technology, South Africa 南アフリカ 油脂テクノロジー 教授兼コンサル

タント オーブリー・パーソン博士 医薬品、食品科学、香味料(特に、研究担当役

員として精油および植物抽出物に注力)分野で勤

務経験あり。南アフリカおよび英国で修学し、有

機化学で博士号取得。現在、ヨハネスブルグ大学

で大学院生を指導・監督。Odourferous bo toricusを含む植物抽出物の研究プログラムに参画。 揚げ物に使用する植物油は、 終製品の安定性、

栄養価、香り、味等の点で重要な役割を果たして

いる。使用する油の選択によって、期待される健

康面でのメッリトを含め全体の成否が決まってし

まう。 揚げ物は通常 165-185℃の温度で行われ、これ

は食品を手早く調理する上で熱を伝える も効率

の良い方法である。 揚げ物用の油は、酸価、過酸化物価、アニシジ

ン価、共役ジエン、極性物総量、トリグリセリド

重合物等の変化を定期的に測定する。 良い揚げ物用の油は、酸化安定性が良く、煙点

が高く(遊離脂肪酸が少ない)、使用中の色の劣化

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が小さいものである。 揚げた食品に吸収された油は、新しい油で補充

しなければならず、油の交換は良質の揚げ物を行

う上で重要である。 栄養価の面で言うと、揚げ物用の油には、飽和

脂肪酸およびトランス体を含む不飽和脂肪酸の少

ないものが理想的である。多価不飽和脂肪酸の少

ないものも望ましい。酸化・重合物の元になるか

らである。 ◆既成の知識を見直す-飽和脂肪酸は冠動脈性心

疾患のリスク・ファクターか DR. TILAKAVATI KARUPAIAH, Senior Lecturer & Clinical Dietitian, Dept. of Nutrition & Dietetics, Faculty of Allied Health Sciences, National University of Malaysia マレーシア国立大学 関連健康科学学部 栄養学

科 上級講師兼臨床栄養士 ティラカバチ・カル

パイア博士 ティラカバチ・カルパイア博士はマレーシア国

立大学の上級講師であり、インド、マレーシア、

オーストラリアの栄養士・栄養学協会に所属して

いる。マドラス大学学士、マレーシア大学修士、

ディーキン大学大学院で人間栄養学を修めた後、

マレーシア国立大学で博士号を取得した。栄養学、

国立 CODEX、糖尿病および腎臓病の食品問題お

よび訓練に関する様々な委員会に参画している。

セミナー、講演、書籍、研究出版物等幅広く活動 している。

20 世紀の中頃から唱えられているアンセル・キ

ーズ博士の予測定理では、人間の摂取する脂肪が

コレステロール上昇の原因であるとされた。米国

心臓学会の専門家は、高コレステロール血症の栄

養学的治療における脂肪とコレステロールの重要

性を強調した。食事療法においては、脂肪カロリ

ーとコレステロール量の減少だけではなく、飽和

脂肪油に対する多価不飽和脂肪油の摂取量の増加

を目指した。この脂肪組成モデルは、ダイエット・

ステップ1およびステップ 2 の基礎となり、飽和

脂肪油をより多く摂取すると心臓病のリスクが高

くなるという考え方の元となった。こうした考え

方が一般的となって以降、部分ケン化植物油

(PHVO)が飽和脂肪油の代替として健康に良い

とされた。 しかし、正確に言うと何を根拠にこうした主張

がなされるのであろうか。今日では、人間の栄養

摂取における油脂の心臓疾患に対する安全性の議

論はキーズの定理から離れてきている。メタボリ

ック症候における脂質異常が心疾患リスク

(CVD)の原因で、脂質とリポタンパクの異常、

高血圧、血栓傾向、内皮機能不全、全身性炎症、

インスリン耐性、酸化的ストレス等、様々な生物

学的な働きが関与している。飽和脂肪油と心臓疾

患との直接の関係は難しく未だ解明されていない。

しかし、トランス脂肪酸がアテローム生成リスク

と直接の因果関係があることが分かり、新たな悪

玉脂肪となった。食品中のトランス脂肪酸は部分

ケン化植物油(PHVO)と関連しており、トラン

ス脂肪酸許容含有量を規制する規則が導入された

ため、代替の固形油脂またはプロセスが求められ

ている。パンドラの箱が開けられ、飽和脂肪油の

基礎が見直されている。ここでは、人間の栄養摂

取における飽和脂肪油という文脈の中で心臓疾患

リスクについての現在の研究状況を検討する。 ◆パーム由来トコトリエノール研究の 近の進

展:その生体への利用可能性と健康への効果を見

直す PROF. PAUL W. SYLVESTER, Department of Basic Pharmaceutical Sciences, College of Pharmacy, University of Louisiana at Monroe, LA ルイジアナ州モンロー ルイジアナ大学 薬学部

基礎薬学科 ポール・W・シルベスター教授

P.W.シルベスター教授は西ミシガン大学で学士

号を取得した後、ミシガン州立大学で生理学の博

士号を取得した。その後、ローズウェル・パーク・

癌研究所で博士号取得後の研究を行い、現在は高

等研究所理事、B.J ロビンソン寄贈薬学教授、基

礎薬学教授を務めている。 同氏は輝かしい学問上の実績を上げており、癌

研究においても優れた地位を築いている。多くの

賞や栄誉を得ており、多くの客演講演も行ってい

る。同氏はまた補助金政策の見直しにも関わって

いる。多くの学者が同氏の指導を受けており、癌

研究の分野では、多くの書籍を出版し 100 以上の

研究論文を発表している。

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トコフェロールとトコトリエノールはビタミン

E 群に属する二つの化合物であるが、トコトリエ

ノールだけが強い抗がん作用を持っている。生体

外の実験では極めて有望な結果が得られていたが、

動物や人間に対する経口投与試験でははっきりし

た結果が得られなかった。しかし、 近の研究に

より生体外試験と生体内試験との結果の食い違い

の理由が明らかになった。トコトリエノールを経

口で血液循環系に取り込んだ場合、その多くが担

体輸送システムの調整により飽和してしまい、高

濃度のトコトリエノールに晒されるとダウン・レ

ギュレーションを起こしてしまうためである。こ

れらの問題を克服するため、研究者は新たなプロ

ドラッグ誘導体とナノ粒子の薬物送達システムを

開発し、これによってトコトリエノールの生体へ

の利用可能性と治療効果を大幅に引き上げること

が出来た。その後の研究により、トコトリエノー

ルを従来の化学的治療薬と併用すると癌治療の相

乗効果が得られ、しかも、これらをナノ粒子の送

達システムでカプセル化すると更に効果が倍加す

ることが分かった。つまり、 近の研究によりト

コトリエノールの経口投与の限界が明らかになっ

たが、新たな薬物送達システムの開発によりこれ

らの限界を克服し、トコトリエノールの癌に対す

る予防および治療効果を大幅に引き上げることが

出来るようになったのである。

◆パーム・カロテノイドと赤色パーム油によるビ

タミン A 欠乏症(VAD)対策 PROF. UMESH KAPIL, Professor of Public Health & Nutrition, All India Institute of Medical Sciences (AIIMS), India インド 全国インド医科学研究所(AIIMS)公衆

衛生および栄養学教授 ウメシュ・カピル教授 ウメシュ・カピル教授は現在、ニューデリーに

ある全国インド医科学研究所(AIIMS)の公衆衛

生および栄養学教授を務めている。この研究所で

教育および研究を始めたのは 1981 年に遡る。 同氏は全国インド医科学研究所(AIIMS)の卒

業生で、インド医学研究評議会から 3 つの国家賞

を授与されている。即ち、1992 年に Dr. B.C. Srivastava Foundation Award、1996 年に Dr. M.K. Sesadari Award、そして2002年にはDr. P.N. Raju Oration Award を受賞している。同氏はまた

医科学国家アカデミー、インド予防および社会医

学協会およびインド公衆衛生協会のフェローに任

命されている。 カピル教授はインドおよび国連の助成による

50 以上の研究プロジェクトを実施した。同氏は国

内および海外の雑誌に 200 以上の論文を発表して

いる。主な研究テーマは、母親および子供の健康

に関する微量栄養素の分野である。同氏は 1991年より、国内および国外の多くの機関のコンサル

タントとしても活躍している。 ビタミン A 欠乏症(VAD)は、世界で も広く

見られる栄養欠乏症の一つである。この欠乏症に

より失明し、健康を害し、幼児の大きな死因にも

なっている。就学前の幼児は も弱いグループで

ある。多くの開発途上国では、社会・経済的、文

化的或いは宗教的な制約により、鉄分、亜鉛、ビ

タミン A の豊富な果実の摂取は少ない。油ヤシの

原産地であるアフリカでは 5000 年近くパーム油

が消費されてきたが、1960 年代にマレーシアで油

ヤシが栽培されるまでは、世界的に食品としてパ

ーム油が大量に消費されることはなかった。赤色

パーム油にはカロテノイドが含まれており、その

生物学的価値によりビタミン A 欠乏症の予防に効

果があることには疑問の余地がない。赤色パーム

油はベータ・カロテン(カロテノイドの1種)を

豊富に含んでいるが、人体でこのカロテノイドが

ビタミン A(レチノール)に変えられるため、赤

色パーム油はビタミン A 欠乏症に苦しむ多くの

人々にとって極めて有効である。今こそ単なる生

物学的な試験に止まらず、実用研究プロジェクト

を行い、有効性試験を実施し、経済性分析を行う

べきである。これによって、ビタミン A の栄養源

として未だそれ程使われていないが、使われる可

能性のある分野で赤色パーム油の使用が広まるで

あろう。この発表では、ビタミン A の状況を改善

するために赤色パーム油を使用した場合の効果を

調査することを目的とした主要な研究結果を検討

することとする。

以 上