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1
トランスバーサル等化器
デジタルマイクロ波通信方式において、伝送路で発生する波形ひずみは、非常に大きな
課題である、この伝送路における波形ひずの線形等化の手段として、トランスバーサル等
化器は有効である。ここでは、その基本原理を等価ベースバンド系により説明し、さらに
実現方法をベースバンド等化器と Passband(中間周波数帯)等化器について説明する[1]。
([1]本資料の説明の基本的事項は、NECが COMSAT研究所へ提出した Proposalに記載
された渡辺孝次郎氏による解析を参照している。但し、本資料の文責は、野口にある。)
1.等価ベースバンド系による説明
取り扱う伝送路モデルを図1に示した。図1において、伝送路の出力信号は、式(1)で
表すことができる。
AnX − n
∞
n=−∞
・・・・・(1)
また、k番目の1サンプル出力は、式(2)で表すことができる。
Bk = AnXk, −n
∞
n=−∞
・・・・・(2)
ここで、
{An} = 伝送路への入力データ列(複素定数列)
X(t) = 伝送路の等価ベースバンドのインパルスレスポンス(複素信号)
X-n ≜ X(t-nT)
Xk,-n ≜ X(t0+kT-nT)
CX
(Channel) (TransversalFilter )
G
B
Y{An}
図1 等価ベースバンドモデル
もし、図1において伝送路(X)とトランスバーサルフィルター(C)の合成等価ベースバンド
モデル(G)のインパルスレスポンスを G(t)とすると、G(t)は式(3)で与えられる。
2
Gn = CmX − n − m
M
m=−M
・・・・・ 3
ここで、
{Cm}=トランスバーサルフィルターのタップ係数(複素数)m=-M~M
Gn ≜ G(t-nT) ・・・・(4)
トランスバーサルフィルターの出力は、次のように与えられる。
Yk = AnGk, n
∞
n=−∞
・・・・・ 5
= AnCm
M
m=−M
Xk, −n − m
∞
n=−∞
・・・・・ 6
= Cm
M
m=−M
( An
∞
n=−∞
Xk, −n − m ) ・・・・・ 7
= Cm
M
m=−M
Bk, −m ・・・・・ 8
次に、式(9)で評価関数を定義する。
E≜ ・・・・・(9)
ここで、< >は、データ列にわたる期待値である。
Eを Cの関数、Ciを i番目の Cとして、次の不等式を満たしている。
aE(C1)+(1-a)E(C2) ≥ E(aC1 + (1-a)C2 ) : 0 ≤ a ≤ 1 ・・・・・(10)
(この不等式は、=0、=0 であることから、
左辺―右辺=a(1-a)[{ Cm1M
m=−M Bk, −m }2+{ Cm
2Mm=−M Bk, −m }
2]≧0
として、導かれる。)
したがって、この不等式(10)は、EがCの凸関数であることを意味しており、式(11)の手
順により、Cの最適点を得る事ができる(これは、最小2乗誤差形アルゴリズム( MSE 法)
と呼ばれる)。
Cmi+1 =Cm
i - α δE
δCm ・・・・・(11)
ここで、
3
δE
δCm ≜
δE
δRe(Cm) + j
δE
δIm(Cm) ・・・・・(12)
=2 ・・・・・(13)
α=定数 、 i=繰り返し手順番号 、 *= 複素共役
かくして、式(14)を得る。
Cmi+1 =Cm
i - 2α ・・・・・(14)
なお、式(12)から式(13)の導出に関しての補足説明は、次の通り。
Q=Yk-Ak
ここで、
Re(Cm)=c, Im(Cm)=d, Re(B)=x, Im(B)=y
として、Qは、次のような形式で書くことができる。
Q=a+jb+(x+jy)(c+jd)
したがって、
|Q|2=Re(Q)2+Im(Q)2 , Re(Q) = a + cx – dy, Im(Q) = b + dx + cy
したがって、
δ|Q|2
δc=2(Re(Q)
δRe (Q)
δc + Im(Q)
δIm (Q)
δc)
=2(Re(Q)x + Im(Q)y)
δ|Q|2
δd=2(-Re(Q)y + Im(Q)x)
よって、
δE
δCm=
δ|Q|2
δc + j
δ|Q|2
δd
=2((x-jy)Re(Q)+(y+jx)Im(Q))
=2(Re(Q)+Im(Q))(x-jy)
=aQB* QED
4
2. Passband Transversal Equalizer(中間周波数帯トランスバーサル等化器)
次に中間周波数帯トランスバーサル等化器について検討します。始めに中心タップに
限定して検討します。中心以外のタップについては、4項で取り扱います。
まず、
B(t)=R (t)exp(-jωct) ・・・・・(15)
ここで、R (t)は R(t)の解析信号(analytic signal)です。
即ち、R (t)= R(t)+jR(t) , x =xのヒルベルト変換。
したがって、Bt,-m=R t,-mexp[-jωc(t-mT)] ・・・・・(16)
また、式(8)より、
Yk = Cm
M
m=−M
Bt − m ・・・・・ 17
式(16)により、
Yk = Cm exp(jmωcT)R t,−m
M
m=−M
exp(−jωct) ・・・・・ 18
= C m R t, −m
M
m=−M
exp(−jωct) ・・・・・ 19
ここで、
C m =Cm exp(jmωcT) ・・・・・ 20
また、 Re(C m)=c, Im(C m)=d ・・・・・(21)
Re(R )=r, Im(R )=r ・・・・・(22)
とすると、
C R =cr - dr + j(dr + cr ) ・・・・・(23)
=cr – (dr) + j( dr + (cr) ) ・・・・・(24)
=cr – dr + j(cr − dr ) ・・・・・(25)
=cr – (dr) +j(cr − (dr) ) ・・・・・(26)
となります。
最適点への制御は、次式で与えられます。
C mi+1 =C m
i - 2α ・・・・・・(27)
5
3. 回路構成
3.1 ベースバンド型トランスバーサル等化器
ベースバンド型トランスバーサル等化器の回路構成は、式(8)と式(14)から導くことがで
き、図2に示されます。式(14)において Akは受信器における未知信号であるので、Ykの再
生出力信号 Yk を Akの推定値として用いなければなりません(これをゼロフォーシング(Z
F)アルゴリズムと呼びます)。また、Bkは復調信号であり、Bk の実数部は復調信号の同
相チャンネルデータであり、Bkの虚数部は、復調信号の直交チャンネルデータです。 M=2
の場合の詳細な回路構成を図 3-1と図 3-2に示した。
Im(Yi)
Im(C)Re(C)
cos
sin
複素掛け算
複素共役
累算器
-2α∫( )
Re(B)
Im(B)
Re(B)
複素掛け算
-Im(B)
Re(Yi)
Re(Yi- )
Im(Yi- )
Re( ) ≒ Re(Ai)
≒ Im(Ai)
+
+-
-Im( )
図2 直交振幅変調信号に対するトランスバーサル等化器のベースバンド構成
Ts
+
Ts
d
w-2
d-2
c-2 d-2
c-2
w-2
v-2
v-2
++
+-
+
++
Ts
+
Ts
d
w-1
d-1
c-1 d-1
c-1
w-1
v-1
v-1
++
+-
+
++
Ts
+
Ts
d
w-0
d-0
c-0 d-0
c-0
w-0
v-0
v-0
++
+-
+
++
Ts
+
Ts
d
w+1
d+1
c+1 d+1
c+1
w+1
v+1
v+1
++
+-
+
++
+d
w+2
d+2
c+2 d+2
c+2
w+2
v+2
v+2
++
+-
+
++
I channel
Q channel
Re( )≒Re(Ai)
Re(Yi)
Im(Yi)
Im( )≒Im(Ai)
図 3-1ベースバンド型トランスバーサル等化器の詳細構成(信号部)
6
Ts
Ts
Ts
Ts
Ts
Ts
Ts
Ts
I channel
Q channel
Re( )
≒Re(Ai)
Re(Yi)
Im(Yi)
Im( )
≒Im(Ai)
+-
+-
+-
+-
+-
+-
++
++
++
++
++
+-
(1/T)∫T
-2α
W-2
(1/T)∫T
-2α
W-1
(1/T)∫T
-2α
W0
(1/T)∫T
-2α
W+1
(1/T)∫T
-2α
W+2
(1/T)∫T
-2α
V-2
(1/T)∫T
-2α
V-1
(1/T)∫T
-2α
V0
(1/T)∫T
-2α
V+1
(1/T)∫T
-2α
V+2
図 3-2 ベースバンド型トランスバーサル等化器の詳細構成(制御信号発生部)
3.2 中間周波数帯トランスバーサル等化器
中間周波数帯トランスバーサル等化器の回路構成は、式(19)と式(23)と式(26)から導く
ことができます。式(22)において、rは、受信中間周波数帯信号を示しています。したがっ
て、式(23)~式(26)に対応して4種類の回路構成を作ることができます。これを図 4に示
した。
+
-+
+
+-
-
-
+
+
++
r
r
r
r
r
r
cr
c
c
d
c
cd
d
d
d
cr
cr
crcr
dr
dr
dr
exp(-jωct)
exp(-jωct)
exp(-jωct)
exp(-jωct)
d
Hilbert transform
tapped delay
Complexmultiplication
a) Eq(23)
b) Eq(24)
c) Eq(25)
d) Eq(26)
図4 中間周波数帯トランスバーサル等化器の回路構成
7
図 4に示された基本的な構成に対して、より実用的な構成を導くことができます。まず、
中間周波数帯信号 Xのヒルベルト変換は、90度移相器によって実現できます。これを、
図 5(a)に示します。
図 4(c)と図 4(d)に示されたヒルベルト変換と複素掛け算器の従属接続は、復調操作と同
じです。
なぜなら、もし、Yが、次式で表され、
Y=(x + j x ) exp(-jωct)
また、 X=a cosωct – b sinωct であれば、 Y= a + j b となります。
即ち、Yは、Xを復調することによって得られます。この結果による回路構成を図 5(b)に
示した。
rr
exp(-jωct)
a)ヒルベルト変換の実現
b)復調操作の実現
rr
rr
rr
ba
cosωct
sinωct
rabLPF
LPF
+90°-90°
図5 実用的な回路構成
図 4(d)と図 5から、図 6に示される非常に実用的な回路構成を導くことができる。
cosωct
sinωct
r
a
bLPF
LPF
+90°
++
d
c
図 6中間周波数帯トランスバーサル等化器の実用的構成
8
図 6に基づき、M=2の場合における、中間周波数帯トランスバーサル等化器の詳細回路構
成を図 7-1と図 7-2に示した(補足説明を下記した)。
Re(Yi)c+2
Ts
c-2
v-2
Ts
c-1
v-1
+
Ts
c-0
v-0
Ts
c+1
v+1 v+2
w-2
d-2
w-1
d-1
++
w-0
d-0
w+1
d+1
w+2
d+2 Im(Yi)
++
++
++
++
++ ++
++
cosωct
sinωct
LPF
++
LPF
r
図 7-1中間周波数帯トランスバーサル等化器の詳細回路構成(信号部)
Ts Ts Ts Ts
Re(Yi)
Im(Yi)
++
(1/T)∫T
-2α
V-2
(1/T)∫T
-2α
V-1
(1/T)∫T
-2α
V0
(1/T)∫T
-2α
V+1
(1/T)∫T
-2α
V+2
(1/T)∫T
-2α
W-2
(1/T)∫T
-2α
W-1
(1/T)∫T
-2α
W0
(1/T)∫T
-2α
W+1
(1/T)∫T
-2α
W+2
90°90° 90° 90° 90°
LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF
cosωct
-sinωct
r
+
-+
-
( 90°移相器は、信号側でなくローカル側に挿入しても良い)
図 7-2中間周波数帯トランスバーサル等化器の詳細回路構成(制御信号発生部)
9
図3と図7を比較することにより、ベースバンド型より中間周波数帯型の方が、回路構成
が大幅に簡素化されることがわかる。
ここで、図 7-2に関する補足説明をします。
Y − A = a + jb B = c + jd
とすると
(Y - A)B*=ac + bd + j( ad – bc )
次に、
M = acosωct − bsinωct
R = ccosωct − dsinωct
とすると、
Yk-Ak=(Mk + jMk )e-jωct
Bk,-m=(Rk,-m + jRk, −m )e-jωc(t-mT)
よって、
(Y - A)B*ejωcmT=(Mk + Mk ) (Rk,-m - jRk, −m )
= MkRk,-m + (MkRk, −m) + j(-MkRk, −m +Mk Rk,-m)
={MkRk,-m + (MkRk, −m) }+ j{Mk(-Rk, −m )+(Mk(−Rk, −m) ) }
ここで、
次図の等価変換を利用する。
M
M
R
R
+
+
LPF
かくして、図 7-2を得る事ができる。
10
4. 中間周波数帯トランスバーサル等化器の初期調整と安定操作領域に関する検討
実は、中間周波数帯トランスバーサル等化器においてZFアルゴリズムを用いる場合
には、タップ間の位相差を考慮する必要がある。すなわち、主タップに対する各タップと
の遅延線による位相差を考慮する必要がある。このθは、
θ=ωcT+θ0 ・・・・・(28)
ここで、ωc= 搬送波周波数、T=遅延量、θ0=定数
で与えられる。
まず、MSEアルゴリズムの場合について、検討します。
式(9)で与えられた評価関数は、各タップに対して、次のように修正されます。
E≜ ・・・・・(29)
同様に、
δE
δC m ≜
δE
δRe(C m ) + j
δE
δIm(C m ) ・・・・・(30)
=2 ・・・・・(31)
となります。
そして、最適点への制御は、次式で与えられます。
C mi+1 =C m
i - 2α ・・・・・・(32)
ここで、ゼロ・フォーシング(ZF)アルゴリズムの場合、基本的には式(32)と同等に制
御となるが、Akの代わりに用いる Ykの再生出力信号 Yk が、中心タップの出力であるため、
他のタップでは位相θ分のずれを考慮した制御となる。
これは、右図のように示される。今P点よ
りQ点まで到達する場合、本来なら最短距
離で到達すべであるのに対して、P点より
その方向に対してーθずれた方向に進むこ
とになる。 Re(C)
Im(C)
P
Q
-θ
11
このようなθの影響をうけても、最終的にQ点に到達する条件は、明らかにP点からQ
点に向かう成分が必要なことであるので、
|θ|< π/2・・・・・・(33)
として与えられる。
この様子は、残留誤差Eが、右図のように
P点から螺旋を描きながら下がって行って、
Q点の安定点に到達することを意味してい
る。
Im(C)
Re(C)
|E|2
Q
P
ここで、位相差の変動要因とその影響について検討します。必要条件は、
|θ|< π/2
ですが、式(28)より、
θ=ωcT+θ0
であり、安定条件は、
|ωcT+θ0|< π/2 ・・・・・・(34)
となります。
今、ωcとTの変動分を、それぞれ⊿ω、⊿Tとすると、安定条件は、
|ωc⊿T+⊿ωT+⊿ω⊿T+θ1|< π/2 ・・・・・・(35)
と書きなおせます。
ここで、⊿ωは、入力搬送波周波数の変動であるので、実用上では搬送波のキャプチャー
周波数範囲ωpに相当する変動を想定すれば良い。この場合ロック周波数範囲も等しくなる
(初期位相誤差が偏っているとしても、少なくともマージンが大きい片側に関しては言え
る)。なお、搬送波のキャプチャー周波数範囲ωpは、方式によりますが、デジタルマイクロ
波システムでは、500KHz程度を想定すれば良い。
一方、⊿Tは、遅延線の変動分である。遅延を実現する手段として、ケーブル、SAW、
遅延素子などがある。ケーブル、SAWのように、時間変動要因が極めて小さいものと、遅
延素子としてコアを利用した回路素子を用いた場合には、経時変化要因などにより数%程
度の変動があるものなどがり、それぞれに即した調整が必要です。
式(35)を書きなおして、
12
|(⊿T/T)+(ωp/ωc)+(ωp⊿T/Tωc)+(θ1/Tωc) |< (π/2)(1/Tωc) ・・・・・(36)
で考える。第3項は、無視できるので、
|(⊿T/T)+(ωp/ωc)+(θ1/Tωc) |< (π/2)(1/Tωc)=(1/4)(fs/fc) ・・・・・(37)
となります。
θ1は、初期値合わせの項であり、遅延時間 Tによる位相ωcTのmod(2π)分の位相誤差
による影響も含めて考える。
ωp/ωcは、今 fc=70MHz、fp=50kHzとして、7.14*10-3
程度になる(これは、位相で評価して、7°程度である)。
これを最悪評価して書き直すと、
|(⊿T/T)+(θ1/Tωc) |
13
表1より、初期位相と遅延時間の変動には、数%~10%程度の余裕となることがわか
る。もし、遅延を実現する手段として、ケーブル、SAWのように、時間変動要因が極めて
小さい場合には、θ1に対してωp/ωcよりかなり大きな調整余裕が許される。しかし、遅延
素子としてコアを利用した回路素子を用いた場合には、経時変化要因などにより、数%程
度の変動があり、なるべくθ1を詳細にあわせ、できればωp/ωc程度に合わせることが必要
となる。特に、50MB/70MHzや 90MB/70MHzのシステムでは、なるべく安定な遅延素子
を用いてθ1に大きな余裕を持たせることが実用上必要である。
θ1の調整には、まず90°単位での調整が現実的です。すなわち、まず{θ1、θ1±π/2、
-θ1}の何れかを選択して、系が安定に動作することを確認します。実際には、これは復
調器における信号に組み合わせにより容易に実現できます。次にループを閉じた状態で、
搬送波周波数を変化させ、ロック周波数範囲のバランスを調べる方法が有効です。片側に
極端に少ない範囲とならないように調整することにより、より適切な調整とすることがで
きる。
以上