13
1 トランスバーサル等化器 デジタルマイクロ波通信方式において、伝送路で発生する波形ひずみは、非常に大きな 課題である、この伝送路における波形ひずの線形等化の手段として、トランスバーサル等 化器は有効である。ここでは、その基本原理を等価ベースバンド系により説明し、さらに 実現方法をベースバンド等化器と Passband(中間周波数帯)等化器について説明する [1] [1]本資料の説明の基本的事項は、NEC COMSAT 研究所へ提出した Proposal に記載 された渡辺孝次郎氏による解析を参照している。但し、本資料の文責は、野口にある。) 1.等価ベースバンド系による説明 取り扱う伝送路モデルを図1に示した。図1において、伝送路の出力信号は、式(1)表すことができる。 AnX n n=−∞ ・・・・・(1) また、k 番目の1サンプル出力は、式(2)で表すことができる。 Bk = AnXk, n n=−∞ ・・・・・(2) ここで、 {A n } = 伝送路への入力データ列(複素定数列) X(t) = 伝送路の等価ベースバンドのインパルスレスポンス(複素信号) X -n X(t-nT) X k,-n X(t 0 +kT-nT) C X (Channel) (Transversal Filter ) G B Y {A n } 図1 等価ベースバンドモデル もし、図1において伝送路(X)とトランスバーサルフィルター(C)の合成等価ベースバンド モデル(G)のインパルスレスポンスを G(t)とすると、G(t)は式(3)で与えられる。

[1] B {A X C Ytknogu/contents/bunnsho_bako/...2> ・・・・・(9) ここで、 < > は、データ列にわたる期待値である。 E を C の関数、 C i をi番目の

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 1

    トランスバーサル等化器

    デジタルマイクロ波通信方式において、伝送路で発生する波形ひずみは、非常に大きな

    課題である、この伝送路における波形ひずの線形等化の手段として、トランスバーサル等

    化器は有効である。ここでは、その基本原理を等価ベースバンド系により説明し、さらに

    実現方法をベースバンド等化器と Passband(中間周波数帯)等化器について説明する[1]。

    ([1]本資料の説明の基本的事項は、NECが COMSAT研究所へ提出した Proposalに記載

    された渡辺孝次郎氏による解析を参照している。但し、本資料の文責は、野口にある。)

    1.等価ベースバンド系による説明

    取り扱う伝送路モデルを図1に示した。図1において、伝送路の出力信号は、式(1)で

    表すことができる。

    AnX − n

    n=−∞

    ・・・・・(1)

    また、k番目の1サンプル出力は、式(2)で表すことができる。

    Bk = AnXk, −n

    n=−∞

    ・・・・・(2)

    ここで、

    {An} = 伝送路への入力データ列(複素定数列)

    X(t) = 伝送路の等価ベースバンドのインパルスレスポンス(複素信号)

    X-n ≜ X(t-nT)

    Xk,-n ≜ X(t0+kT-nT)

    CX

    (Channel) (TransversalFilter )

    G

    B

    Y{An}

    図1 等価ベースバンドモデル

    もし、図1において伝送路(X)とトランスバーサルフィルター(C)の合成等価ベースバンド

    モデル(G)のインパルスレスポンスを G(t)とすると、G(t)は式(3)で与えられる。

  • 2

    Gn = CmX − n − m

    M

    m=−M

    ・・・・・ 3

    ここで、

    {Cm}=トランスバーサルフィルターのタップ係数(複素数)m=-M~M

    Gn ≜ G(t-nT) ・・・・(4)

    トランスバーサルフィルターの出力は、次のように与えられる。

    Yk = AnGk, n

    n=−∞

    ・・・・・ 5

    = AnCm

    M

    m=−M

    Xk, −n − m

    n=−∞

    ・・・・・ 6

    = Cm

    M

    m=−M

    ( An

    n=−∞

    Xk, −n − m ) ・・・・・ 7

    = Cm

    M

    m=−M

    Bk, −m ・・・・・ 8

    次に、式(9)で評価関数を定義する。

    E≜ ・・・・・(9)

    ここで、< >は、データ列にわたる期待値である。

    Eを Cの関数、Ciを i番目の Cとして、次の不等式を満たしている。

    aE(C1)+(1-a)E(C2) ≥ E(aC1 + (1-a)C2 ) : 0 ≤ a ≤ 1 ・・・・・(10)

    (この不等式は、=0、=0 であることから、

    左辺―右辺=a(1-a)[{ Cm1M

    m=−M Bk, −m }2+{ Cm

    2Mm=−M Bk, −m }

    2]≧0

    として、導かれる。)

    したがって、この不等式(10)は、EがCの凸関数であることを意味しており、式(11)の手

    順により、Cの最適点を得る事ができる(これは、最小2乗誤差形アルゴリズム( MSE 法)

    と呼ばれる)。

    Cmi+1 =Cm

    i - α δE

    δCm ・・・・・(11)

    ここで、

  • 3

    δE

    δCm ≜

    δE

    δRe(Cm) + j

    δE

    δIm(Cm) ・・・・・(12)

    =2 ・・・・・(13)

    α=定数 、 i=繰り返し手順番号 、 *= 複素共役

    かくして、式(14)を得る。

    Cmi+1 =Cm

    i - 2α ・・・・・(14)

    なお、式(12)から式(13)の導出に関しての補足説明は、次の通り。

    Q=Yk-Ak

    ここで、

    Re(Cm)=c, Im(Cm)=d, Re(B)=x, Im(B)=y

    として、Qは、次のような形式で書くことができる。

    Q=a+jb+(x+jy)(c+jd)

    したがって、

    |Q|2=Re(Q)2+Im(Q)2 , Re(Q) = a + cx – dy, Im(Q) = b + dx + cy

    したがって、

    δ|Q|2

    δc=2(Re(Q)

    δRe (Q)

    δc + Im(Q)

    δIm (Q)

    δc)

    =2(Re(Q)x + Im(Q)y)

    δ|Q|2

    δd=2(-Re(Q)y + Im(Q)x)

    よって、

    δE

    δCm=

    δ|Q|2

    δc + j

    δ|Q|2

    δd

    =2((x-jy)Re(Q)+(y+jx)Im(Q))

    =2(Re(Q)+Im(Q))(x-jy)

    =aQB* QED

  • 4

    2. Passband Transversal Equalizer(中間周波数帯トランスバーサル等化器)

    次に中間周波数帯トランスバーサル等化器について検討します。始めに中心タップに

    限定して検討します。中心以外のタップについては、4項で取り扱います。

    まず、

    B(t)=R (t)exp(-jωct) ・・・・・(15)

    ここで、R (t)は R(t)の解析信号(analytic signal)です。

    即ち、R (t)= R(t)+jR(t) , x =xのヒルベルト変換。

    したがって、Bt,-m=R t,-mexp[-jωc(t-mT)] ・・・・・(16)

    また、式(8)より、

    Yk = Cm

    M

    m=−M

    Bt − m ・・・・・ 17

    式(16)により、

    Yk = Cm exp(jmωcT)R t,−m

    M

    m=−M

    exp(−jωct) ・・・・・ 18

    = C m R t, −m

    M

    m=−M

    exp(−jωct) ・・・・・ 19

    ここで、

    C m =Cm exp(jmωcT) ・・・・・ 20

    また、 Re(C m)=c, Im(C m)=d ・・・・・(21)

    Re(R )=r, Im(R )=r ・・・・・(22)

    とすると、

    C R =cr - dr + j(dr + cr ) ・・・・・(23)

    =cr – (dr) + j( dr + (cr) ) ・・・・・(24)

    =cr – dr + j(cr − dr ) ・・・・・(25)

    =cr – (dr) +j(cr − (dr) ) ・・・・・(26)

    となります。

    最適点への制御は、次式で与えられます。

    C mi+1 =C m

    i - 2α ・・・・・・(27)

  • 5

    3. 回路構成

    3.1 ベースバンド型トランスバーサル等化器

    ベースバンド型トランスバーサル等化器の回路構成は、式(8)と式(14)から導くことがで

    き、図2に示されます。式(14)において Akは受信器における未知信号であるので、Ykの再

    生出力信号 Yk を Akの推定値として用いなければなりません(これをゼロフォーシング(Z

    F)アルゴリズムと呼びます)。また、Bkは復調信号であり、Bk の実数部は復調信号の同

    相チャンネルデータであり、Bkの虚数部は、復調信号の直交チャンネルデータです。 M=2

    の場合の詳細な回路構成を図 3-1と図 3-2に示した。

    Im(Yi)

    Im(C)Re(C)

    cos

    sin

    複素掛け算

    複素共役

    累算器

    -2α∫( )

    Re(B)

    Im(B)

    Re(B)

    複素掛け算

    -Im(B)

    Re(Yi)

    Re(Yi- )

    Im(Yi- )

    Re( ) ≒ Re(Ai)

    ≒ Im(Ai)

    +-

    -Im( )

    図2 直交振幅変調信号に対するトランスバーサル等化器のベースバンド構成

    Ts

    +

    Ts

    d

    w-2

    d-2

    c-2 d-2

    c-2

    w-2

    v-2

    v-2

    ++

    +-

    +

    ++

    Ts

    +

    Ts

    d

    w-1

    d-1

    c-1 d-1

    c-1

    w-1

    v-1

    v-1

    ++

    +-

    +

    ++

    Ts

    +

    Ts

    d

    w-0

    d-0

    c-0 d-0

    c-0

    w-0

    v-0

    v-0

    ++

    +-

    +

    ++

    Ts

    +

    Ts

    d

    w+1

    d+1

    c+1 d+1

    c+1

    w+1

    v+1

    v+1

    ++

    +-

    +

    ++

    +d

    w+2

    d+2

    c+2 d+2

    c+2

    w+2

    v+2

    v+2

    ++

    +-

    +

    ++

    I channel

    Q channel

    Re( )≒Re(Ai)

    Re(Yi)

    Im(Yi)

    Im( )≒Im(Ai)

    図 3-1ベースバンド型トランスバーサル等化器の詳細構成(信号部)

  • 6

    Ts

    Ts

    Ts

    Ts

    Ts

    Ts

    Ts

    Ts

    I channel

    Q channel

    Re( )

    ≒Re(Ai)

    Re(Yi)

    Im(Yi)

    Im( )

    ≒Im(Ai)

    +-

    +-

    +-

    +-

    +-

    +-

    ++

    ++

    ++

    ++

    ++

    +-

    (1/T)∫T

    -2α

    W-2

    (1/T)∫T

    -2α

    W-1

    (1/T)∫T

    -2α

    W0

    (1/T)∫T

    -2α

    W+1

    (1/T)∫T

    -2α

    W+2

    (1/T)∫T

    -2α

    V-2

    (1/T)∫T

    -2α

    V-1

    (1/T)∫T

    -2α

    V0

    (1/T)∫T

    -2α

    V+1

    (1/T)∫T

    -2α

    V+2

    図 3-2 ベースバンド型トランスバーサル等化器の詳細構成(制御信号発生部)

    3.2 中間周波数帯トランスバーサル等化器

    中間周波数帯トランスバーサル等化器の回路構成は、式(19)と式(23)と式(26)から導く

    ことができます。式(22)において、rは、受信中間周波数帯信号を示しています。したがっ

    て、式(23)~式(26)に対応して4種類の回路構成を作ることができます。これを図 4に示

    した。

    +

    -+

    +

    +-

    -

    -

    +

    +

    ++

    r

    r

    r

    r

    r

    r

    cr

    c

    c

    d

    c

    cd

    d

    d

    d

    cr

    cr

    crcr

    dr

    dr

    dr

    exp(-jωct)

    exp(-jωct)

    exp(-jωct)

    exp(-jωct)

    d

    Hilbert transform

    tapped delay

    Complexmultiplication

    a) Eq(23)

    b) Eq(24)

    c) Eq(25)

    d) Eq(26)

    図4 中間周波数帯トランスバーサル等化器の回路構成

  • 7

    図 4に示された基本的な構成に対して、より実用的な構成を導くことができます。まず、

    中間周波数帯信号 Xのヒルベルト変換は、90度移相器によって実現できます。これを、

    図 5(a)に示します。

    図 4(c)と図 4(d)に示されたヒルベルト変換と複素掛け算器の従属接続は、復調操作と同

    じです。

    なぜなら、もし、Yが、次式で表され、

    Y=(x + j x ) exp(-jωct)

    また、 X=a cosωct – b sinωct であれば、 Y= a + j b となります。

    即ち、Yは、Xを復調することによって得られます。この結果による回路構成を図 5(b)に

    示した。

    rr

    exp(-jωct)

    a)ヒルベルト変換の実現

    b)復調操作の実現

    rr

    rr

    rr

    ba

    cosωct

    sinωct

    rabLPF

    LPF

    +90°-90°

    図5 実用的な回路構成

    図 4(d)と図 5から、図 6に示される非常に実用的な回路構成を導くことができる。

    cosωct

    sinωct

    r

    a

    bLPF

    LPF

    +90°

    ++

    d

    c

    図 6中間周波数帯トランスバーサル等化器の実用的構成

  • 8

    図 6に基づき、M=2の場合における、中間周波数帯トランスバーサル等化器の詳細回路構

    成を図 7-1と図 7-2に示した(補足説明を下記した)。

    Re(Yi)c+2

    Ts

    c-2

    v-2

    Ts

    c-1

    v-1

    +

    Ts

    c-0

    v-0

    Ts

    c+1

    v+1 v+2

    w-2

    d-2

    w-1

    d-1

    ++

    w-0

    d-0

    w+1

    d+1

    w+2

    d+2 Im(Yi)

    ++

    ++

    ++

    ++

    ++ ++

    ++

    cosωct

    sinωct

    LPF

    ++

    LPF

    r

    図 7-1中間周波数帯トランスバーサル等化器の詳細回路構成(信号部)

    Ts Ts Ts Ts

    Re(Yi)

    Im(Yi)

    ++

    (1/T)∫T

    -2α

    V-2

    (1/T)∫T

    -2α

    V-1

    (1/T)∫T

    -2α

    V0

    (1/T)∫T

    -2α

    V+1

    (1/T)∫T

    -2α

    V+2

    (1/T)∫T

    -2α

    W-2

    (1/T)∫T

    -2α

    W-1

    (1/T)∫T

    -2α

    W0

    (1/T)∫T

    -2α

    W+1

    (1/T)∫T

    -2α

    W+2

    90°90° 90° 90° 90°

    LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF LPF

    cosωct

    -sinωct

    r

    +

    -+

    -

    ( 90°移相器は、信号側でなくローカル側に挿入しても良い)

    図 7-2中間周波数帯トランスバーサル等化器の詳細回路構成(制御信号発生部)

  • 9

    図3と図7を比較することにより、ベースバンド型より中間周波数帯型の方が、回路構成

    が大幅に簡素化されることがわかる。

    ここで、図 7-2に関する補足説明をします。

    Y − A = a + jb B = c + jd

    とすると

    (Y - A)B*=ac + bd + j( ad – bc )

    次に、

    M = acosωct − bsinωct

    R = ccosωct − dsinωct

    とすると、

    Yk-Ak=(Mk + jMk )e-jωct

    Bk,-m=(Rk,-m + jRk, −m )e-jωc(t-mT)

    よって、

    (Y - A)B*ejωcmT=(Mk + Mk ) (Rk,-m - jRk, −m )

    = MkRk,-m + (MkRk, −m) + j(-MkRk, −m +Mk Rk,-m)

    ={MkRk,-m + (MkRk, −m) }+ j{Mk(-Rk, −m )+(Mk(−Rk, −m) ) }

    ここで、

    次図の等価変換を利用する。

    M

    M

    R

    R

    +

    +

    LPF

    かくして、図 7-2を得る事ができる。

  • 10

    4. 中間周波数帯トランスバーサル等化器の初期調整と安定操作領域に関する検討

    実は、中間周波数帯トランスバーサル等化器においてZFアルゴリズムを用いる場合

    には、タップ間の位相差を考慮する必要がある。すなわち、主タップに対する各タップと

    の遅延線による位相差を考慮する必要がある。このθは、

    θ=ωcT+θ0 ・・・・・(28)

    ここで、ωc= 搬送波周波数、T=遅延量、θ0=定数

    で与えられる。

    まず、MSEアルゴリズムの場合について、検討します。

    式(9)で与えられた評価関数は、各タップに対して、次のように修正されます。

    E≜ ・・・・・(29)

    同様に、

    δE

    δC m ≜

    δE

    δRe(C m ) + j

    δE

    δIm(C m ) ・・・・・(30)

    =2 ・・・・・(31)

    となります。

    そして、最適点への制御は、次式で与えられます。

    C mi+1 =C m

    i - 2α ・・・・・・(32)

    ここで、ゼロ・フォーシング(ZF)アルゴリズムの場合、基本的には式(32)と同等に制

    御となるが、Akの代わりに用いる Ykの再生出力信号 Yk が、中心タップの出力であるため、

    他のタップでは位相θ分のずれを考慮した制御となる。

    これは、右図のように示される。今P点よ

    りQ点まで到達する場合、本来なら最短距

    離で到達すべであるのに対して、P点より

    その方向に対してーθずれた方向に進むこ

    とになる。 Re(C)

    Im(C)

    P

    Q

  • 11

    このようなθの影響をうけても、最終的にQ点に到達する条件は、明らかにP点からQ

    点に向かう成分が必要なことであるので、

    |θ|< π/2・・・・・・(33)

    として与えられる。

    この様子は、残留誤差Eが、右図のように

    P点から螺旋を描きながら下がって行って、

    Q点の安定点に到達することを意味してい

    る。

    Im(C)

    Re(C)

    |E|2

    Q

    P

    ここで、位相差の変動要因とその影響について検討します。必要条件は、

    |θ|< π/2

    ですが、式(28)より、

    θ=ωcT+θ0

    であり、安定条件は、

    |ωcT+θ0|< π/2 ・・・・・・(34)

    となります。

    今、ωcとTの変動分を、それぞれ⊿ω、⊿Tとすると、安定条件は、

    |ωc⊿T+⊿ωT+⊿ω⊿T+θ1|< π/2 ・・・・・・(35)

    と書きなおせます。

    ここで、⊿ωは、入力搬送波周波数の変動であるので、実用上では搬送波のキャプチャー

    周波数範囲ωpに相当する変動を想定すれば良い。この場合ロック周波数範囲も等しくなる

    (初期位相誤差が偏っているとしても、少なくともマージンが大きい片側に関しては言え

    る)。なお、搬送波のキャプチャー周波数範囲ωpは、方式によりますが、デジタルマイクロ

    波システムでは、500KHz程度を想定すれば良い。

    一方、⊿Tは、遅延線の変動分である。遅延を実現する手段として、ケーブル、SAW、

    遅延素子などがある。ケーブル、SAWのように、時間変動要因が極めて小さいものと、遅

    延素子としてコアを利用した回路素子を用いた場合には、経時変化要因などにより数%程

    度の変動があるものなどがり、それぞれに即した調整が必要です。

    式(35)を書きなおして、

  • 12

    |(⊿T/T)+(ωp/ωc)+(ωp⊿T/Tωc)+(θ1/Tωc) |< (π/2)(1/Tωc) ・・・・・(36)

    で考える。第3項は、無視できるので、

    |(⊿T/T)+(ωp/ωc)+(θ1/Tωc) |< (π/2)(1/Tωc)=(1/4)(fs/fc) ・・・・・(37)

    となります。

    θ1は、初期値合わせの項であり、遅延時間 Tによる位相ωcTのmod(2π)分の位相誤差

    による影響も含めて考える。

    ωp/ωcは、今 fc=70MHz、fp=50kHzとして、7.14*10-3

    程度になる(これは、位相で評価して、7°程度である)。

    これを最悪評価して書き直すと、

    |(⊿T/T)+(θ1/Tωc) |

  • 13

    表1より、初期位相と遅延時間の変動には、数%~10%程度の余裕となることがわか

    る。もし、遅延を実現する手段として、ケーブル、SAWのように、時間変動要因が極めて

    小さい場合には、θ1に対してωp/ωcよりかなり大きな調整余裕が許される。しかし、遅延

    素子としてコアを利用した回路素子を用いた場合には、経時変化要因などにより、数%程

    度の変動があり、なるべくθ1を詳細にあわせ、できればωp/ωc程度に合わせることが必要

    となる。特に、50MB/70MHzや 90MB/70MHzのシステムでは、なるべく安定な遅延素子

    を用いてθ1に大きな余裕を持たせることが実用上必要である。

    θ1の調整には、まず90°単位での調整が現実的です。すなわち、まず{θ1、θ1±π/2、

    -θ1}の何れかを選択して、系が安定に動作することを確認します。実際には、これは復

    調器における信号に組み合わせにより容易に実現できます。次にループを閉じた状態で、

    搬送波周波数を変化させ、ロック周波数範囲のバランスを調べる方法が有効です。片側に

    極端に少ない範囲とならないように調整することにより、より適切な調整とすることがで

    きる。

    以上