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原研における超伝導工学研究:ITER から発電炉へ
日本原子力研究開発機構 礒野 高明、奥野 清
1.はじめに
原研(現在、日本原子力開発機構に統合)では、
トカマク型核融合発電炉を目指した研究開発
を行っており、プラズマを閉じ込め、制御する
ための磁場を発生する大型・強磁場の超伝導コ
イルを開発してきた。6 極の国際協力で建設準
備が進められている国際熱核融合実験炉
(ITER)用の超伝導コイルが現在の開発ターゲ
ットである。ITER に必要な超伝導コイルは、
プラズマを閉じ込める磁場を発生するトロイ
ダル磁場(TF)コイルが 18 個、プラズマ電流を
誘起する中心ソレノイド(CS)が 6 個、プラズマ
の形状を制御するポロイダル磁場(PF)コイル
が 6 個である(図 1)。ITER では、高さ 12~14m
というこれまでにない大きさで 12~13T とい
う強磁場の発生が要求され、これを実現するた
めには数多くの技術的課題を解決する必要が
あった。このため、1992年から開始された ITER
工学設計活動(EDA)では、日本、欧州、ロシア、
及び米国が協力し、8 年の歳月をかけて大型超
伝導コイル(CS モデル・コイル、TF モデル・
コイル)を開発した。本稿では、モデル・コイ
ルの成果を紹介すると共に、更に強磁場を求め
られている発電炉に向けた超伝導導体開発に
ついて紹介する。
2.ITER 工学 R&D の成果と実機に向けた課題
3 種類コイルのうち TF コイルと CS は強磁
場であるため超伝導材料としてニオブスズを
使用する。超伝導導体は、外径 0.8mm のニオ
ブスズ超伝導線材を約 1000 本撚ったケーブル
をステンレス鋼の管(ジャケット)に入れた構
造(ケーブル・イン・コンジット)である。TF
コイル用導体は円形外形であり、ステンレス鋼
の板(ラジアルプレート)に埋め込みコイルと
する。CS 用導体は角形外形(図 2)で、これを重
ねてコイルとする。
CS モデル・コイル(図 3)は外径 3.6m、高さ
2.8m、重量 110tの超伝導パルスコイルであり、
参加 4 極で撚線を製作、ジャケット材は米国が
製作、撚線をジャケットに挿入し圧縮成型する
(コンパクション)作業は欧州、コイル化は日本
と米国で行い、そのうち内層側を米国、外層側
を日本が製作と、国際協力で開発したコイルで
ある。2 つの層の一体化及び試験は原研で実施
図 1 ITER 超伝導コイルの構成
図 2 ITER CS 用超伝導導体
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した。CS モデル・コイルは、最初の定格通電
で 46kAの電流で 13T を発生する目標を達成し、
これはCS実機(40kA, 13T)とほぼ同じ条件であ
る(図 4)。また、CS モデル・コイルに挿入して
試験した単層コイル(CS インサート)では、目
標を遙かに超える 1.2T/s の励磁速度を達成し
(図 5)、1 万回の繰返し通電でも性能の変化が
無いことを確認した。CS モデル・コイルは
ITER CS実機 6モジュールの 1個分とほぼ同じ
大きさであることから、CS 製作に必要な基盤
技術はほぼ確立したと言える[1],[2]。
一方、TF モデル・コイル(図 6)は、高さ 4m、
幅 3m のレーストラック型のコイルであり、欧
州で開発・試験され、80kA の通電で 10T の磁
場を発生する目標を達成した[3]。TF コイル実
機の運転条件 68kA,11.8T から少しずれるが、
電磁力としては同等であり、性能としては実機
を見通せる成果である。しかしコイル製造技術
の点では TF コイル実機はこの約 3 倍の大きさ
であり、製造手法をスケールアップする必要が
ある。現在、スケールアップを目的とした実規
模での要素試作を実施している。
図 3 CS モデル・コイル. 原子力機構にある真空容器へ
の組み込みが完了したところ
図 6 欧州で開発・試験された
TF モデル・コイル
CS
CS Model Coil
10
20
30
40
50
60
70
5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
Ope
ratio
nal C
urre
nt (k
A)
Magnetic Field (T)
80
90
15
LHD (1999)
TF Coil
LCT (1987)
Tore Supra (1989) TRIAM (1988)
DPC�(1988~1990)
~1990
TMC (1982~� 1985)
TF Model�Coil
ITER
TF Insert
~2000
Nb3SnNbTiDC OperationPulsed Operation
図 4 モデル・コイルの主要成果 CSモデル・コイルは実機の運電条件と同じ46kA,13Tを達成。TF モデル・コイルは 80kA,10T を達成。
July 2, 2000
50
40
30
20
10
0
Coil Current [kA]
Coil
Current
1.2T/s
3020100Times [s]
13T
- 1.5T/s
図 5 CS インサートのパルス通電結果
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3.発電炉に向けた導体開発
ITER 用超伝導材料として Nb3Sn が採用され、
その性能は飛躍的に進歩した。しかし、発電炉
の経済性向上のためには、更なる強磁場を発生
することが有効である。そこで、16T~20T の
強磁場発生の可能性を有する先進超伝導材料
として、Nb3Al 線材(発生磁場は 16~17T)と高
温超伝導材料(HTS, 発生磁場は 17~20T)の 2
つを候補とし、図 7 に示す開発目標を設定して
研究を行っている。
大型 Nb3Al コイルの開発実績として、EDA
期間中に開発した Nb3Al インサート(図 8)があ
る。CS モデル・コイルに組込み、12.5T 中で
60kA の通電目標達成に成功しており、コイル
化技術は確立している[4]。しかし、16T の強磁
場発生には特性上 Nb3Al インサートに用いた
ジェリーロール法ではなく RHQT 法 Nb3Al 線
材[5]を用いる必要があり、2000℃という高温
で製造されることから安定化銅の付加が課題
となっている。現在、RHQT 法 Nb3Al 線材の周
りに銅線を撚合せた後縮径することで銅を付
加する開発を行っている。
一方、HTS は大型コイルの開発実績はなく、
開発には長い時間を要する。原研では HTS の
中で量産が可能で 4Kでの臨界電流密度が最も
高い Bi-2212 を選択し、12T で 10kA 通電する
導体の試作[6]を行った。しかし、Nb3Sn や
Nb3Al を用いた導体と最も異なるのが超伝導
体を生成する熱処理であり、酸素中での熱処理
であり、かつ温度精度の要求がより厳しい。こ
のため熱処理方法を確立することが重要な課
題である。また、Bi-2212 線材では製法上銀が
必要であるが、核融合に応用するには銀の削減
が必要である。これは銀が貴金属であると同時
に、放射化し易く、炉の解体時に放射性廃棄物
図 9 試作した 10kA HTS 導体
図 7 発電炉に向けた導体開発目標
φ42.6 mmφ42.6 mm
図 8 Nb3Al インサート
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として取り扱われるためである。線材中の銀の
削減する開発も行っている。
4.まとめ
原研の超伝導工学研究の現状として、ITER
CS 実機(40kA, 13T の大型 Nb3Sn コイル)の製作
に必要な技術は実証したが、TFコイル実機製
作には大型化の技術確立が必要であり、実規模
での要素試作を実施している。
将来に向けた開発として、高磁場(16~20T)
の発生が望まれており、先進線材(RHQT法Nb3Al,
Bi-2212)を用いた導体開発を行っている。
参考文献 [1] K. Okuno, Progress in the Superconducting Magnet
Technology through the ITER CS Model Coil Programme, IEEE Trans. on Appl. Supercond., 14 (2004) 1376-1381
[2] K. Okuno, H. Nakajima, N. Koizumi, From CS and TF Model Coils to ITER: Lessons Learnt and Further Progress, in: Proceedings of the 19th International Conference on Magnet Technology.
[3] A. Ulbricht, Test results of the ITER Toroidal field model coil experiment in the TOSKA facility of the Forschungszentrum Karlsruhe, Fus. Eng. Des. 66-68 (2003) 103-118
[4] N. Koizumi , T. Takeuchi, K. Okuno, Development of advanced Nb3Al superconductors for a fusion demo plant, Nucl. Fusion 45 (2005) 431-438.
[5] T. Takeuchi, Nb3Al Superconductors, IEEE Trans. on Appl. Supercond., 12 (2002) 1088-1093
[6] T. Isono et al., Development of 10 kA Bi2212 conductor for fusion application, IEEE Trans. on Appl. Supercond., 13 (2003) 1512-1515.