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- 27 - 原研における超伝導工学研究:ITER から発電炉へ 日本原子力研究開発機構 礒野 高明、奥野 清 1.はじめに 原研(現在、日本原子力開発機構に統合)では、 トカマク型核融合発電炉を目指した研究開発 を行っており、プラズマを閉じ込め、制御する ための磁場を発生する大型・強磁場の超伝導コ イルを開発してきた。 6 極の国際協力で建設準 備が進められている国際熱核融合実験炉 (ITER) 用の超伝導コイルが現在の開発ターゲ ットである。ITER に必要な超伝導コイルは、 プラズマを閉じ込める磁場を発生するトロイ ダル磁場(TF)コイルが 18 個、プラズマ電流を 誘起する中心ソレノイド(CS)6 個、プラズマ の形状を制御するポロイダル磁場(PF) コイル 6 個である(1)ITER では、高さ 1214m というこれまでにない大きさで 1213T とい う強磁場の発生が要求され、これを実現するた めには数多くの技術的課題を解決する必要が あった。このため、 1992 年から開始された ITER 工学設計活動(EDA)では、日本、欧州、ロシア、 及び米国が協力し、 8 年の歳月をかけて大型超 伝導コイル(CS モデル・コイル、TF モデル・ コイル)を開発した。本稿では、モデル・コイ ルの成果を紹介すると共に、更に強磁場を求め られている発電炉に向けた超伝導導体開発に ついて紹介する。 2.ITER 工学 R&D の成果と実機に向けた課題 3 種類コイルのうち TF コイルと CS は強磁 場であるため超伝導材料としてニオブスズを 使用する。超伝導導体は、外径 0.8mm のニオ ブスズ超伝導線材を約 1000 本撚ったケーブル をステンレス鋼の管( ジャケット) に入れた構 ( ケーブル・イン・コンジット) である。TF コイル用導体は円形外形であり、ステンレス鋼 の板( ラジアルプレート) に埋め込みコイルと する。 CS 用導体は角形外形(2)で、これを重 ねてコイルとする。 CS モデル・コイル(3)は外径 3.6m、高さ 2.8m、重量 110t の超伝導パルスコイルであり、 参加 4 極で撚線を製作、ジャケット材は米国が 製作、撚線をジャケットに挿入し圧縮成型する (コンパクション)作業は欧州、コイル化は日本 と米国で行い、そのうち内層側を米国、外層側 を日本が製作と、国際協力で開発したコイルで ある。 2 つの層の一体化及び試験は原研で実施 1 ITER 超伝導コイルの構成 2 ITER CS 用超伝導導体

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原研における超伝導工学研究:ITER から発電炉へ

日本原子力研究開発機構 礒野 高明、奥野 清

1.はじめに

原研(現在、日本原子力開発機構に統合)では、

トカマク型核融合発電炉を目指した研究開発

を行っており、プラズマを閉じ込め、制御する

ための磁場を発生する大型・強磁場の超伝導コ

イルを開発してきた。6 極の国際協力で建設準

備が進められている国際熱核融合実験炉

(ITER)用の超伝導コイルが現在の開発ターゲ

ットである。ITER に必要な超伝導コイルは、

プラズマを閉じ込める磁場を発生するトロイ

ダル磁場(TF)コイルが 18 個、プラズマ電流を

誘起する中心ソレノイド(CS)が 6 個、プラズマ

の形状を制御するポロイダル磁場(PF)コイル

が 6 個である(図 1)。ITER では、高さ 12~14m

というこれまでにない大きさで 12~13T とい

う強磁場の発生が要求され、これを実現するた

めには数多くの技術的課題を解決する必要が

あった。このため、1992年から開始された ITER

工学設計活動(EDA)では、日本、欧州、ロシア、

及び米国が協力し、8 年の歳月をかけて大型超

伝導コイル(CS モデル・コイル、TF モデル・

コイル)を開発した。本稿では、モデル・コイ

ルの成果を紹介すると共に、更に強磁場を求め

られている発電炉に向けた超伝導導体開発に

ついて紹介する。

2.ITER 工学 R&D の成果と実機に向けた課題

3 種類コイルのうち TF コイルと CS は強磁

場であるため超伝導材料としてニオブスズを

使用する。超伝導導体は、外径 0.8mm のニオ

ブスズ超伝導線材を約 1000 本撚ったケーブル

をステンレス鋼の管(ジャケット)に入れた構

造(ケーブル・イン・コンジット)である。TF

コイル用導体は円形外形であり、ステンレス鋼

の板(ラジアルプレート)に埋め込みコイルと

する。CS 用導体は角形外形(図 2)で、これを重

ねてコイルとする。

CS モデル・コイル(図 3)は外径 3.6m、高さ

2.8m、重量 110tの超伝導パルスコイルであり、

参加 4 極で撚線を製作、ジャケット材は米国が

製作、撚線をジャケットに挿入し圧縮成型する

(コンパクション)作業は欧州、コイル化は日本

と米国で行い、そのうち内層側を米国、外層側

を日本が製作と、国際協力で開発したコイルで

ある。2 つの層の一体化及び試験は原研で実施

図 1 ITER 超伝導コイルの構成

図 2 ITER CS 用超伝導導体

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した。CS モデル・コイルは、最初の定格通電

で 46kAの電流で 13T を発生する目標を達成し、

これはCS実機(40kA, 13T)とほぼ同じ条件であ

る(図 4)。また、CS モデル・コイルに挿入して

試験した単層コイル(CS インサート)では、目

標を遙かに超える 1.2T/s の励磁速度を達成し

(図 5)、1 万回の繰返し通電でも性能の変化が

無いことを確認した。CS モデル・コイルは

ITER CS実機 6モジュールの 1個分とほぼ同じ

大きさであることから、CS 製作に必要な基盤

技術はほぼ確立したと言える[1],[2]。

一方、TF モデル・コイル(図 6)は、高さ 4m、

幅 3m のレーストラック型のコイルであり、欧

州で開発・試験され、80kA の通電で 10T の磁

場を発生する目標を達成した[3]。TF コイル実

機の運転条件 68kA,11.8T から少しずれるが、

電磁力としては同等であり、性能としては実機

を見通せる成果である。しかしコイル製造技術

の点では TF コイル実機はこの約 3 倍の大きさ

であり、製造手法をスケールアップする必要が

ある。現在、スケールアップを目的とした実規

模での要素試作を実施している。

図 3 CS モデル・コイル. 原子力機構にある真空容器へ

の組み込みが完了したところ

図 6 欧州で開発・試験された

TF モデル・コイル

CS

CS Model Coil

10

20

30

40

50

60

70

5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

Ope

ratio

nal C

urre

nt (k

A)

Magnetic Field (T)

80

90

15

LHD (1999)

TF Coil

LCT (1987)

Tore Supra (1989) TRIAM (1988)

DPC�(1988~1990)

~1990

TMC (1982~� 1985)

TF Model�Coil

ITER

TF Insert

~2000

Nb3SnNbTiDC OperationPulsed Operation

図 4 モデル・コイルの主要成果 CSモデル・コイルは実機の運電条件と同じ46kA,13Tを達成。TF モデル・コイルは 80kA,10T を達成。

July 2, 2000

50

40

30

20

10

0

Coil Current [kA]

Coil

Current

1.2T/s

3020100Times [s]

13T

- 1.5T/s

図 5 CS インサートのパルス通電結果

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3.発電炉に向けた導体開発

ITER 用超伝導材料として Nb3Sn が採用され、

その性能は飛躍的に進歩した。しかし、発電炉

の経済性向上のためには、更なる強磁場を発生

することが有効である。そこで、16T~20T の

強磁場発生の可能性を有する先進超伝導材料

として、Nb3Al 線材(発生磁場は 16~17T)と高

温超伝導材料(HTS, 発生磁場は 17~20T)の 2

つを候補とし、図 7 に示す開発目標を設定して

研究を行っている。

大型 Nb3Al コイルの開発実績として、EDA

期間中に開発した Nb3Al インサート(図 8)があ

る。CS モデル・コイルに組込み、12.5T 中で

60kA の通電目標達成に成功しており、コイル

化技術は確立している[4]。しかし、16T の強磁

場発生には特性上 Nb3Al インサートに用いた

ジェリーロール法ではなく RHQT 法 Nb3Al 線

材[5]を用いる必要があり、2000℃という高温

で製造されることから安定化銅の付加が課題

となっている。現在、RHQT 法 Nb3Al 線材の周

りに銅線を撚合せた後縮径することで銅を付

加する開発を行っている。

一方、HTS は大型コイルの開発実績はなく、

開発には長い時間を要する。原研では HTS の

中で量産が可能で 4Kでの臨界電流密度が最も

高い Bi-2212 を選択し、12T で 10kA 通電する

導体の試作[6]を行った。しかし、Nb3Sn や

Nb3Al を用いた導体と最も異なるのが超伝導

体を生成する熱処理であり、酸素中での熱処理

であり、かつ温度精度の要求がより厳しい。こ

のため熱処理方法を確立することが重要な課

題である。また、Bi-2212 線材では製法上銀が

必要であるが、核融合に応用するには銀の削減

が必要である。これは銀が貴金属であると同時

に、放射化し易く、炉の解体時に放射性廃棄物

図 9 試作した 10kA HTS 導体

図 7 発電炉に向けた導体開発目標

φ42.6 mmφ42.6 mm

図 8 Nb3Al インサート

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として取り扱われるためである。線材中の銀の

削減する開発も行っている。

4.まとめ

原研の超伝導工学研究の現状として、ITER

CS 実機(40kA, 13T の大型 Nb3Sn コイル)の製作

に必要な技術は実証したが、TFコイル実機製

作には大型化の技術確立が必要であり、実規模

での要素試作を実施している。

将来に向けた開発として、高磁場(16~20T)

の発生が望まれており、先進線材(RHQT法Nb3Al,

Bi-2212)を用いた導体開発を行っている。

参考文献 [1] K. Okuno, Progress in the Superconducting Magnet

Technology through the ITER CS Model Coil Programme, IEEE Trans. on Appl. Supercond., 14 (2004) 1376-1381

[2] K. Okuno, H. Nakajima, N. Koizumi, From CS and TF Model Coils to ITER: Lessons Learnt and Further Progress, in: Proceedings of the 19th International Conference on Magnet Technology.

[3] A. Ulbricht, Test results of the ITER Toroidal field model coil experiment in the TOSKA facility of the Forschungszentrum Karlsruhe, Fus. Eng. Des. 66-68 (2003) 103-118

[4] N. Koizumi , T. Takeuchi, K. Okuno, Development of advanced Nb3Al superconductors for a fusion demo plant, Nucl. Fusion 45 (2005) 431-438.

[5] T. Takeuchi, Nb3Al Superconductors, IEEE Trans. on Appl. Supercond., 12 (2002) 1088-1093

[6] T. Isono et al., Development of 10 kA Bi2212 conductor for fusion application, IEEE Trans. on Appl. Supercond., 13 (2003) 1512-1515.