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05表1-4単 - jlpa.jp

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技術レポート Vol.5 2009.1

1

IEC 62305 と JIS 化の方向

株式会社 エスデー防災研究所

新井 慶之輔

1.まえがき

IEC(国際電気標準会議)のTC81(「雷保護」専

門委員会)は、雷現象及びその被害を防ぐ保護対策に関

する世界各国の専門家による委員会として 1980 年に発

足した比較的新しい委員会である。

TC81は発足以来、雷に関する最新技術を基礎としな

がら被害防止の対策方法について鋭意審議を進め、

建物の雷保護のための雷保護システム(いわゆる避雷設

備)の規格(IEC 61024-1)を 1990 年に発行したのを

手始めに、約25年間で10件の雷保護関連規格を発行し

てきた。その後、技術の進歩と時代の経過により、それ

までに発行してきた担当分野の全規格を見直し、整理統

合することとした。

その結果、2006年1月に IEC 62305シリーズ(IEC

62305-1, -2, -3, -4)として雷保護関連のまとめた規格を

発行することができた。

このシリーズの概要と、本規格に対しての日本におけ

るJIS化の方向について概説する。

2.IEC 62305 シリーズの概要

IEC 62305シリーズは、TC 81の雷保護関連の規格を

整理統合化したもので4部作として構成されている。尚、

第5部(引込線管類)として当初計画されていた規格は、

立案途中で協議の結果、発行中止としている。(図 1 参

照)

注) :現行 JIS 又は関連する IEC 規格

:発行中止の IEC 規格

IEC 62305-1:2006

雷保護 第 1 部:一般原則

IEC 62305-2:2006

雷保護 第 2 部:リスクマネージメント

IEC 62305-3:2006

雷保護 第 3 部:物的損傷と人命への危険

IEC 62305-4:2006

雷保護 第 4 部:建築物内の電気及び

電子システム

IEC 62305-5

雷保護 第 5 部:サービス(引込線管類)

IEC 62305 シリーズ 雷保護関連 IEC 旧規格

IEC 61024-1:1990

(JIS A 4201:2003)

IEC 61312-1:1995

(JIS C 0367-1:2003)

IEC 61024-1-1:1993

IEC 61024-1-2:1998

IEC 61312-2:1999

IEC 61312-3:2000

IEC 61312-4:1998

IEC 61662:1995

IEC 61663-1:1999

IEC 61663-2:2001

図1 雷保護関連の IEC 規格の推移

技術レポート Vol.5 2009.1

2

JIS に関連する IEC 規格(IEC 62305-1, -3, -4)に

ついては、その内容を別項にて詳述するので、参照願

いたい。

2.1 第 1 部:一般原則

第 1 部は、雷保護についての基本的な考え方や共通

的な項目を規定しており、シリーズ全般の一般原則に

ついてまとめたものとなっている。

適用範囲は、「内容物、設備及び人身を含む建築物」

と「建築物に接続された引込線管類」であるが、後者

については規格化が中止となっている。そのため、「物

的損傷と人命の保護」及び「電気及び電子システムの

保護」の二つに大別される。尚、「鉄道システム」、「車

両、船舶、航空機、沖合設備」、「地下埋設高圧配管」

などは適用範囲外となっている。

ここでは、先ず落雷を電気磁気的な事象として捉え、

その落雷時の雷電流パラメータを定義することから始

めている。これは、過去の長期間に亘る雷観測データ

(CIGRE:国際大電力網会議)に基づいたもので、種

分けした雷撃電流の累積頻度分布を元にしたものであ

る。この雷電流パラメータを元に各種解析や試験並び

にシミュレーションなど検討することが可能である。

雷撃の影響は広範囲にわたるが、影響を受ける対象

物の種類、影響を与える落雷の種類、被害としての損

傷・損失の種類などについてそれぞれ種別をする。そ

して、その関連するリスクを評価することにより、雷

保護の必要性は、その許容リスクとの対比により決定

することができるとしている。

保護方法としては、人命対象の接触電圧と歩幅電圧

の低減及び物的損傷対象の直撃雷の処理、更に内部の

電気及び電子設備対象の LEMP 低減があげられ、前

者では雷保護システム(LPS)、後者では LEMP 保護

システム(LPMS)である。

建築物を LPS(Lightning Protection System)に

より保護する場合、四つの保護レベル(LPL:

Lightning Protection Level)を定義し、各 LPL に対

応して雷電流パラメータの最大値及び最小値が決めら

れている。

各 LPL に対応した雷電流の最小値は、回転球体半

径の値に関係するため、直撃雷が到達できない雷保護

ゾーン(LPZ 0B)の範囲を規定することとなる。又、

LPL に対応する最大電流値を超える雷電流に対して

は保護しないこととしているため、LPS の保護範囲と

しては、各 LPL に規定された雷電流パラメータの最

大値と最小値の間の雷電流だけに対して保護が可能で

あることになる。そのため、雷電流の発生頻度から考

慮すると、各 LPL の保護可能な範囲を計算すること

ができ、最高レベル(LPLⅠ)では 98 %となる。尚、

それ以上の保護を考慮する場合には、被害の波及を防

ぐための自動消火設備や防火壁の設置などの例があげ

られる。

2.2 第 2 部:リスクマネージメント

自然災害である雷被害を防止するための対策を実

施するにあたり、あらゆる建物や設備に対して一様に

対策を実施することは費用と労力がかかる上に大きな

無駄も発生する。

そこで先ず、対象物に対する保護の必要性を判断す

ることから始める。必要と判断された場合には、人命

の危険、社会的影響の程度又は経済的及び文化財的な

価値に見合う最も適切な対策を実施することとしてい

る。

本規格の主な内容は次の通り。

-用語の定義

-損傷と損失

-リスクとリスクコンポーネント

-リスクマネージメント

-リスクコンポーネントの評価

損傷の原因である落雷は場所によって次の 4 種(S1

~S4)に分け、その結果の損傷を D1~D3 に、発生す

る損失を L1~L4 に分類している(表 1~3 参照)。

そして、発生しうる損失の年間平均値をリスク R と

し、損失の種類に対応して R1~R4 に分類する(表 4

参照)。

表 1 損傷の原因

S1 建築物への落雷

S2 建築物近傍への落雷

S3 引込線への落雷

S4 引込線近傍への落雷

技術レポート Vol.5 2009.1

3

表 2 損傷の種類

D1 生物への傷害

D2 物質的損傷

D3 電気及び電子システムの故障

表 3 損失の種類

L1 人命の損失

L2 公共サービスの損失

L3 文化遺産の損失

L4 経済的価値の損失

(建築物及びその内蔵品)

表 4 リスクの種類

R1 人命損失のリスク

R2 公共サービス損失のリスク

R3 文化遺産損失のリスク

R4 経済的価値損失のリスク

これら各損失のリスクを算出するためには、関連す

るリスクコンポーネントを明確にして、それらを算出

しなければならない。リスクコンポーネントとは、損

傷の原因及び種類によって定まる部分的リスクであり、

各リスクはそのリスクコンポーネントを合計したもの

である。それぞれのリスクコンポーネントを算出して

おくと、対象建築物の保護を必要とした場合に、有効

な保護手段の選定に重要となる。

その結果、各リスクは次式で計算できる。

R1=RA+RB+RC+RM+RU+RV+RW+RZ

R2=RB+RC+RM+RV+RW+RZ

R3=RB+RV

R4=RA+RB+RC+RM+RU+RV+RW+RZ

ここで、RA、RB、RC、等は次のような定義である。

RA:生物の傷害に関するコンポーネント

RB:火災などの物的損傷に関するコンポーネント

RC:LEMP による内部システムの故障に関するコ

ンポーネント

対象建築物に対する各リスクコンポーネントは、次

の一般式で表わされる。

RX=NX×PX×LX

NX:危険な事象(雷放電)の回数で、落雷密度、建

物と周囲、土壌の特性などに影響される。

PX:損傷の確率で、建物の特性、保護手段などに影

響される

LX:発生損失で、建物用途、人の存在、品物の価値、

実施した対策などに影響される

これらのリスクコンポーネントを算出するときに

は、それぞれの評価に関係するパラメータを特定して、

その数値を使用する。パラメータ値は、被保護建物の

特性、環境、採用した対策などにより表より選択、又

は影響を与える要因から計算するものがある。これら

をもとにリスクコンポーネントを計算し、各損失のリ

スクを求めることができる。

以上の計算で求められた被保護建築物のリスク値 R

に対して、別途定められている許容リスク値 RT との

対比により、保護対策が必要か否かを判断することが

できる。

尚、RTの値の決定は、原則として各国当局の責任と

しているが、代表値を表 5 に示す。

表 5 許容リスク RT の代表的な値

損失の種類 RT(y-1)

人命の損失 10-5

公共サービスの損失 10-3

文化遺産の損失 10-3

ここで、R≦RT の場合には、雷保護の必要はなく、

R>RTのときには、R≦RTにまで低減するための保護

対策をしなければならない。

経済的な価値の損失を考えるときには、リスク R4

を評価することよりも、保護対策を採用する場合と不

採用の場合との経済的な損失額の算定を実施する方が

よく、経済性の確認は次式による。

CL≧CRL+CPM:保護対策の経済的効果が期待

CL<CRL+CPM:保護対策の費用対効果はない

CL :保護対策がない場合の年間損失額

CRL:保護対策がある場合の年間損失額

CPM:採用した保護対策の年間費用

このように、対象となる建物及びその内容物に対す

るリスクの評価をし、許容リスクとの対比で保護対策

を実施する場合、その具体的な対策については、他の

規格(IEC 62305-1, -3, -4)に規定された方法によら

なければならない。

技術レポート Vol.5 2009.1

4

2.3 第 3 部:物的損傷と人命の危険

本規格は、建築物の物的損傷と内部の人命危険を保

護するための「雷保護システム(LPS)に関するもの

であり、旧 IEC 規格の本文(IEC 61024-1)及びガイ

ド(IEC 61024-1-1, -1-2)をまとめたものとなってい

る。

規格の本文部分は、それを翻訳した JIS(JIS A

4201:2003)とは基本的にはあまり相違はなく、ガイ

ド部分が追加した形となっている。しかし、旧規格の

内容で若干変更されているところがあり、それを概説

する。

受雷部の保護範囲は回転球体法が基本ではあるが、

それを基にした保護角度について(60m 以下)、従来断

続的な値が表で示されていたものが、グラフで連続的

に図示された。

高層建築物への雷撃は、一般に頂部、突角部、出隅

などに受け、側撃雷を受ける確率は少ないという観点

から、側撃雷に対応する受雷部についての指針が、建

物の高さに応じて次のように明確化された。

① 60m 以下:側撃雷は一般に無視できる

② 60m 超過:上方高さ 20%部分を保護する

③ 120m 超過:超過部分の側壁部は保護する

引下げ導線及び水平環状導線の取り付け間隔が、小

さく設定され、雷電流の分流箇所を増やし、雷電流に

よる損傷の確率低減を図ったものと思われる。

人命への危険に関し、接触電圧と歩幅電圧に対する

対策が明確化された。引下げ導線の絶縁や周辺の物理

的接近制限及び警告が明記され、同様に歩幅電圧では

メッシュ接地極システムによる等電位化及び引下げ導

線から 3m 以内の物理的制限や警告が明記された。更

に、多くの具体的な実施事例が附属書に参考として記

載されているので、利用者に便利なものとしている。

2.4 第 4 部:建築物内の電気及び電子システム

本規格は、落雷によって発生する電気磁気的な影響

から建築物内の電気及び電子システムを保護するため

の基本的な対策方法について規定したもので、旧 IEC

規格(IEC 61312-1, -2, -3, -4)をまとめたものである。

したがって、規格本文(IEC 61312-1 の部分)は翻訳

して JIS(JIS C 0367-1)化したものと基本的に同じ

ものであり、変更部分は少ない。

強力な雷エネルギーから脆弱な電子機器を保護す

るためには、雷保護ゾーン(LPZ)の概念を導入し、

次の方法を効率的に構築するものとしている。

-LPZ の構築

-接地とボンディング

-磁気遮へいと配線ルート

-SPD の設置

接地とボンディングは、雷保護の基本であり、特に

電子機器の過電圧保護としての等電位ボンディングは

原則的な対策である。

磁気遮へいと配線ルートは、ケーブル内への誘導サ

ージの発生を抑制することに効果的であり、後述の

SPD の設置に対して、設置を不要にしたり小容量の

SPD で十分となるなどの大きな貢献をすることがで

きる。

SPD は侵入したサージを分流させながら機器のイ

ンパルス耐電圧以下に制限することができるものであ

り、正しい設置方法によってその効果を最大限発揮す

ることができる。

尚、ボンディング部品の最小断面積について新しく

規定された(表 6 参照)。

図 2

表 6

技術レポート Vol.5 2009.1

5

3.JIS 化の方向について

新 IEC(IEC 62305 シリーズ)について概説した

が、これらの規格は既に発行されている JIS に関連

するものであるため、(社)電気設備学会内に「雷保

護規格分野の JIS 原案作成に関する調査委員会」を

結成し関係者*)を集めて検討、審議された。 *)注:関係省庁の関係者、規格協会、IEC TC 81 国内委員、

JIS 原案作成者等

その結果、「雷保護」に関する IEC 62305 シリー

ズの各規格について、次のような結論を得た。

3.1 JIS 化の対象規格の検討

(1) IEC 62305-1「一般原則」:

この規格は、シリーズの一般原則を規定し、規格

の考え方をまとめたものとなっているため、JIS 化

が望ましい。但し、雷に関する共通的な事項を規定

しているので、単独の規格とするのではなく、他の

規格の附属書として整備する。

(2) IEC 62305-2「リスクマネージメント」:

この規格は、雷保護のリスク評価に関する規格で

ある。落雷は自然現象として確率的に取り扱う事象

であり、その被害に対しても実務的に確率的な評価

をする必要から本規格が制定された。

一方、わが国の雷保護対策は、主として法規制(建

築基準法、消防法等)の範囲で運用されてきている

ことから、本規格が JIS 化されるとその適用の難し

さが懸念される。又、リスク評価に関係する各種の

定数等について、わが国においても適用可能かどう

かに関しての疑問が残る。

以上から、本規格の JIS 化は時期尚早とした。

(3) IEC 62305-3「物的損傷と人命の危険」:

この規格は、落雷によって発生する建築物の物的

損傷と人命への危険を防止することを目的としたも

のであり、従来の IEC 61024-1 の一部及び具体的な

対策のガイド(IEC 61024-1-1, -1-2)にも対応する。

IEC 61024-1:1990 は、JIS A 4201:2003「建築物

等の雷保護」の原規格であるが、本規格の制定によ

り廃止される。したがって、現行 JIS のフォローの

点からも、本規格の JIS 化は必要となる。

(4) IEC 62305-4「建築物内の電気及び電子システム」:

この規格は、雷による電気磁気的影響から建築物

内の電気及び電子システムの被害を防止することを

目的とした規格であり、IEC 61312-1 を改正したも

のである。IEC 61312-1:1995 は、JIS C 0367-1:2003

「雷による電磁インパルスに対する保護-第 1 部:

基本原則」の原規格であるが、本規格の制定により

廃止される。したがって、現行 JIS のフォローの点

からも本規格の JIS 化は必要となる。

3.2 JIS 化対象規格の構成

IEC 62305 シリーズのうち、当面 JIS 化の対象と

なるものは、IEC 62305-1、IEC 62305-3 及び IEC

62305-4 の 3 規格であり、更に IEC 62305-1 は単独

規格とはせず、それぞれ他の規格の附属書とした。

(1) IEC 62305-3:「雷保護-第 3 部:建築物の物的

損傷と人命への危険」

この IEC の JIS 化に当たっては、新規の制定規格

として原案作成をする。しかし、内容的には、JIS A

4201 の改正と位置づける。

そのためには、IEC 62305 シリーズの共通事項を

規定している IEC 62305-1 の内容も引用することが

必要となる。そこで、IEC 62305-1 は、IEC 62305-3

の附属書として位置づけて JIS 化をおこなう。

(2) IEC 62305-4:「雷保護-第 4 部:建築物内の電

気及び電子システム」

この IEC の JIS 化に当たっては、新規の制定規格

として原案作成をする。しかし、内容的には、JIS C

0367-1 の改正と位置づける。

そのためには、IEC 62305 シリーズの共通事項を

規定している IEC 62305-1 の内容も引用することが

必要となるので、IEC 62305-1 は、IEC 62305-4 の

附属書として位置づけて JIS 化をおこなう。

ここで、両規格に附属書として IEC 62305-1 の部

分が重複することとなるが、それぞれの規格を利用

する技術者には差異があるので、利便性を重視して

両規格に添付することとした。

(3) JIS 原案作成について

上記に基づいた JIS 原案が委員会にて作成され、

既に関係部署に提出済みであるので、新 JIS の発行

は、2008 年度内(2009 年 3 月迄)が期待される。

技術レポート Vol.5 2009.1

6

IEC 62305-1 について

株式会社 エスデー防災研究所

新井 慶之輔

1.まえがき

国際的な電気・電子関係の規格を審議している

IEC(国際電気標準会議)の TC81(雷保護)にお

いて、過去に発行した関連規格を整理・統合し、そ

れを IEC 62305 シリーズとして 2006 年 1 月に発行

した。その中の IEC 62305-1 は、「雷保護-第 1 部:

一般原則」として、基本的な考え方、共通的な項目

をまとめたもので、シリーズ全般に関わるものとし

て規格化された。

本規格は、適用範囲を先ず規定し、用語の定義、

雷電流パラメータ、雷による損傷、保護の必要性と

対策、建築物の保護に対する基本的基準、その他附

属書等についてまとめたものであり、その概略を次

に説明する。

2.適用範囲と用語の定義

2.1 適用範囲

建築物及びその内部の人間並びにその内容物の保

護が適用範囲である。落雷そのものの防止は不可能

ではあるが、落雷および近傍雷による適用範囲のも

のの被害を防止することは非常に重要なことである。

しかし、それぞれの専門機関によって規定されて

いる「鉄道システム」、「車両、船舶航空機、沖合設

備」、「地下埋設の高圧配管」、「(建築物に引き込まれ

ていない)配管、電力線、通信線」などについては

本規格の適用範囲外となっている。

2.2 用語の定義

シリーズの一般原則として位置づけられる本規格

では、基本的な内容も含めてシリーズ全体で使用す

る重要な用語について定義している。

3.雷電流パラメータと雷による損傷

3.1 雷電流パラメータ

落雷を電気磁気的な事象として具体的に規定する

ために、過去の雷電流観測データを元に CIGRE(国

際大電力システム網会議)によって整理され、各種

に分類した波形(短時間及び長時間継続、リーダの

極性及び方向)を雷電流パラメータとして規定して

いる。雷保護レベルに対する雷電流パラメータの一

例として、第 1 短時間雷撃について表 1 に示す。

表 1 第 1 短時間雷撃の雷電流パラメータ

雷保護レベル Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

電流波高値 (kA) 200 150 100

電荷 (C) 100 75 50

比エネルギー (W/R) 10 5.6 2.5

時間パラメータ(μs) 10/350(T1/T2)

注:T1=波頭長、T2=波尾頂

3.2 雷による損傷

(1) 建築物への影響

落雷の持つ大きなエネルギーは、建築物自体も含

めて、内部の人間及び設備に多大な損傷を発生させ

る可能性がある。更に、その損傷の影響は、周辺へ

拡大し、地域の環境にまで波及する可能性をも含ん

でいる。そのために、影響を受ける建築物の特性や

雷撃の種類等を分類して考える。

雷撃の影響を受ける建築物の特性としては、建築

構造(木造、鉄筋、鉄骨、コンクリート造等)、機能

(住居、事務所、劇場、ホテル、工場、美術館等)、

住民と内容物(人畜、可燃物、爆発物、電子設備等)、

引込線(電力線)、通信線、配管等)、危険拡大性(避

難困難、周囲に危険、環境に危険等)などがあげら

れ、具体的な建築物の種類に応じて雷撃による影響

によって分類することとしている。

例えば、一般の住宅であれば、多くの場合その住

宅及び内部の機器の損傷だけとなるが、学校、ホテ

ル、劇場などでは照明や火災報知機などの損傷は多

くの人への影響を与えることとなる。又、通信、電

力会社などは公共サービスへの影響があり、化学プ

ラントなどでは周辺への影響も無視できない。

(2) 落雷と損傷の種類

損傷の発生源である落雷をその雷撃点により分類

し(表 2 参照)、対象物へ与える影響を考慮しなけれ

ばならない。そして、これらの落雷によって発生す

技術レポート Vol.5 2009.1

7

る損傷を表 3 のように分類して考えるものとする。

表 2 落雷の雷撃地点による分類

記号 雷 撃 地 点

S1 建築物への落雷

S2 建築物近傍への落雷

S3 引込線・管への落雷

S4 引込線・管の近傍への落雷

表 3 発生する損傷の分類

記号 発生する損傷

D1 接触電圧や歩幅電圧による生物の損傷

D2 火花放電を含む雷電流による損傷

(火災、爆発、機械的破損、化学物質の流出)

D3 雷インパルスによる内部システムの故障

(電気・電子システムの故障)

(3) 損失とその発生リスクの種類

雷により発生した損傷は、単独又は他と結合して

被保護対象物に種々の損失を引き起こすこととなる。

その損失は対象物の特性に依存する。これらの発生

損失分類して考えることが重要である(表 4 参照)。

表4 発生損失とそのリスク

記号 発 生 損 失

L1 人命の損失

L2 公共サービスの損失

L3 文化遺産の損失

L4 経済的価値の損失(建築物とその内容物)

4.雷保護の必要性と経済的利便性

雷により発生する損傷の中で、特に社会的価値の

損失(L1、L2、L3)については、対象物の保護の必

要性を評価しなければならない。又、経済的な価値

の損失(L4)については、経済的な利便性からその

必要性を判断しなければならない。そのために、こ

れらの損失発生のリスクをそれぞれ表 5 のように規

定している。

そこで、それぞれの損失発生のリスク R を計算し、

あらかじめ規定されている許容リスク RT と比較し、

雷保護の必要性を判断しなければならない。

R>RT の場合は、雷保護が必要である。

表 5 発生損失のリスク

記号 発生損失のリスク

R1 人命損失のリスク

R2 公共サービス損失のリスク

R3 文化遺産損失のリスク

R4 経済的価値損失のリスク

この場合には、評価したリスク R を、許容レベル

RT にまで低減(R≦RT)するための保護対策を実施

しなければならない。

又、経済的価値の損失を考慮するときには、リス

ク R4を考慮するよりも、保護対策の採用と不採用に

おける経済的な損失額の算定を実施して、保護の必

要性の判断をしている。

CL≧CRL+CPM:保護対策の経済的効果が期待

CL<CRL+CPM:保護対策の費用対効果はない

CL:保護対策を実施しないときの年間損失額

CRL:保護対策を実施したときの年間損失額

CPM:採用した保護対策の年間費用

このように、雷現象に対する被害防止のための保

護対策の必要性及びその対策方法については、確率

的な考え方を取り入れたリスク評価によるものが妥

当であるとしている(詳細は、IEC 62305-2:「リス

クマネージメント」を参照)。

5.保護対策方法と基本的基準

5.1 保護対策方法

雷保護が必要になった場合の保護対策方法として

は、対象物に対応し次のものが挙げられる。

(1) 接触電圧と歩幅電圧による人命の危険を低減

-露出導電性部品の適切な絶縁

-メッシュ接地システムによる等電位化

-物理的な制限と警告

注記 1):等電位化は接触電圧には効果的ではない。

2):建築物内外の土壌の表面抵抗率の増加は人命危険

の低減に効果あり。

(2) 物的損傷を低減

-建築物に対する雷保護システム(LPS)

注記 1):LPS での等電位ボンディングは、火災・爆発及び

人命の危険低減のために重要な対策である。

技術レポート Vol.5 2009.1

8

2):耐火仕切、消火器、消火栓、消火設備等の火災拡

大を制限するものは、物的損傷を低減できる。

3):保護された避難通路は、人命の保護となる。

-引込線に対するシールド線

注記 4):埋設ケーブルへの金属ダクトは、非常に効果的な

保護である。

(3) 電気・電子システムの故障を低減

-雷電磁インパルス(LEMP)に対する保護シス

テム:次の方法を単独又は組合せによる

・ 接地と等電位ボンディング

・ 磁気遮へいと配線ルート

・ 協調の取れた SPD の設置

-引込線へ SPD 設置とケーブルの磁気遮へい

注記 1):埋設ケーブルへの十分な厚さの金属製ダクトによ

る磁気遮へいは、非常に効果的である。

2):冗長性の線路と機器、自家発装置、UPS などの

設置は、損失低減に効果的である。

3):機器とケーブルの絶縁耐力(インパルス耐電圧)

の強化は、過電圧による故障に対する効果的な方

法である。

これらの保護対策方法の選定は、各損傷の種類と

程度により、又、各種方法の技術的及び経済的な側

面も考慮して、設計者及び所有者による協議の上で

決定しなければならない。

リスク評価及び最適な保護対策の選定の基準は、

IEC 62305-2 に規定している。

5.2 保護に対する基本的な基準

建築物、内容物及び引込線管類を雷から理想的に

保護するためには、十分な厚さの連続的な金属遮へ

い体で被保護物を覆い、引込線管の遮へい部の入口

でのボンディングをすることとなる。これにより、

雷電流及び雷磁界の侵入を防ぎ、雷による熱的及び

電磁力による影響や危険な火花放電並びに内部設備

への過電圧も防止できる。

しかし、このような方法は実際的でなく、又経済

的でもないので、実用的で適切な保護対策を考慮す

ることが必要である。

そのため、雷保護のレベルを分類し、それぞれに

応じて必要な保護対策を実施することとする。

(1) 雷保護レベル(LPL)

雷保護レベルとは、「実際に発生する雷放電が、一

組の雷電流パラメータの最大値及び最小値を超えな

い確率に関連する数」と定義されており、4 段階(Ⅰ

~Ⅳ)に分類されている。

LPLⅠでは、雷電流パラメータの最大値(200kA)

を超える雷撃の確率は 1%以下であり、その電流波高

値の 75%値(150kA)を LPLⅡの値とし、更に 50%

値(100kA)を LPLⅢと LPLⅣの値としている(I、

Q、di/dt は比例、W/R は二乗に比例する)。又、時

間的パラメータは変化しないとしている。

異なる LPL の雷電流パラメータの最小値は、直撃

雷が到達できない雷保護ゾーン LPZ 0B を決定する

方法としての、回転球体半径を見出すために使用さ

れている。

各LPLにおける雷電流パラメータの最大値と最小

値、それに対応する回転球体半径 r を表 6 に示す。

表 6 雷電流の最大値、最小値、回転球体半径

保護レベル Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

最大値(kA) 200 150 100 100

最小値(kA) 3 5 10 16

回転球体半径 r(m) 20 30 45 60

(2) 雷保護レベルに対する雷の確率

雷電流の累積頻度分布から、各 LPL に対応する雷

電流パラメータの最大値以下及び最小値以上の確率

から、対象物に対する雷撃発生の確率を計算でき、

それがLPLに対する保護効率といえる(表 7参照)。

現 JIS の効率値と若干が違っているが、大差なし。

表 7 雷電流パラメータに対する確率

保護レベル Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

最大値以下の確率 0.99 0.98 0.97 0.97

最小値以上の確率 0.99 0.97 0.91 0.84

最大値と最小値内の確率

(JIS A 4201 記載の効率)

0.98

(0.98)

0.95

(0.95)

0.88

(0.90)

0.81

(0.80)

(3) 雷保護ゾーン(LPZ)

雷の強大なエネルギーから脆弱な電子機器を保護

するために、雷保護ゾーンという概念を導入して段

階的にそのエネルギーを低減していくこととする。

LPZ を次のように規定し、その例を図 1 に示す。

技術レポート Vol.5 2009.1

9

・LPZ 0A:直撃雷と全雷電磁界に曝されるゾーン

・LPZ 0B:直撃雷からは保護されているが、全雷

電磁界に曝されるゾーン(領域)

・LPZ 1:サージ電流は境界のボンディングと SPD

により制限され、遮へいにより磁界は

制限されたゾーン

・LPZ 2…n:サージ電流と磁界は更に制限された

ゾーン

注記:一般に、ゾーンの番号が大きいほど、電磁環境のパ

ラメータは小さくなる。

このように、空間をいくつかのゾーンに分類する

とともに、雷のエネルギーに対して保護すべき対象

物を、耐えられるレベルにまで低減したゾーン内に

配置することで、保護が可能となる。

(4) 建築物および人の保護

建築物の物的損傷及び内部の人命保護のためには、

適切な雷保護システム(LPS)を構築しなければな

らない。LPS は、外部 LPS と内部 LPS からなり、

それぞれ次のようなもので構成されている。

① 外部 LPS:雷撃を確実に捕捉し、雷電流を安

全迅速に大地に放流する

・受雷部システム ・引下げ導線システム

・接地極システム

② 内部 LPS:建築物内部に火災や爆発などを伴

う危険な火花放電発生を防止する

・雷保護等電位ボンディング

・外部 LPS との絶縁

LPS に関する詳細な規定は、IEC 62305-3 による。

(5) 建築物の内部システムの保護

雷の脅威に対して建築物の内部システム特に電子

システムを保護しなければならない。そのために次

の対策を実施することが必要である。

① 雷電磁インパルス(LEMP)の低減

・直撃雷に起因する抵抗結合及び誘導結合によ

って発生する過電圧の低減

・近傍雷によって発生する誘導過電圧の制限

・引込線又はその近傍への落雷によって発生し、

侵入する過電圧(サージ)の制限

・機器に直接影響する磁界の低減

② LPZ の構築

・適切な LPZ の構築

・空間遮へい(磁気遮へい)

・接地とボンディング

・SPD の設置

③ サージ防護デバイス(SPD)による侵入過電

圧(サージ)の制限

・システムに接続されたケーブル内に侵入した

過電圧(サージ)は、システム及び機器の対

電圧以下に低減する

LEMP に対する保護に関する詳細な規定は、IEC

62305-4 による。

6.付属書について

6.1 付属書 A 雷電流パラメータ

落雷について基本的な説明で、その種類、特性、

雷電流パラメータに関するものである。

(1) 落雷の種類

- 基本的な雷放電

・雲から大地への下向きリーダ雷放電

・接地した建築物から雲に向かう上向きリーダ

によって開始する雷放電

多くの下向き雷放電は、平地及び低い建築物に

対して発生するが、露出した及び/又は高い建築

物では、上向きの雷放電が支配的になる。

- 持続時間による種類

・持続時間が 2ms 未満の短時間雷撃(図 2 参照)

・持続時間が 2ms 超過の長時間雷撃(図 3 参照)

図 1 LPZ に分類した例

技術レポート Vol.5 2009.1

10

更に、それらの極性(正極性又は負極性)及び雷

放電時における様相(第一雷撃、後続雷撃、重畳し

た雷撃)によって種類を分けることができる。下向

き雷放電の構成例を図 4 に、上向き雷放電の構成例

を図 5 に示す。

このような各種の雷撃を第一雷撃、後続雷撃およ

び長時間継続雷撃の 3 種類に分類し、それぞれにつ

いての雷電流パラメータを定義している。

6.2 付属書 B 解析のための雷電流の時間関数

雷電流のそれぞれの波形を、解析をするときのた

めに数式化を図っている。

6.3 付属書 C 試験のための雷電流シミュレーション

雷撃エネルギーに関する試験及び雷電流の立上り

峻度に関する試験を実施するときの試験パラメータ

と試験回路例を示している。

6.4 付属書 D LPS の構成要素への雷の影響をシミュ

レートするための試験パラメータ

LPS の各構成要素への雷の影響を実験室でシミュ

レートするために使用する各パラメータについて記

述している。各構成要素が損傷する可能性とそのメ

カニズム並びに課題について説明している。

6.5 付属書 E 各種設置場所での雷サージ

落雷地点によって建築物内の各所への侵入又は発

生する雷サージの大きさは異なるが、それぞれにつ

いて規定されていることが望ましい。

想定される雷サージを表 8 に示す。

表 8 落雷によって想定される雷サージ電流値

LPL

低圧系統 通信線

S3 S4 S1、S2 S3 S4 S2

10/350

(μs)

8/20

(μs)

8/20

(μs)

10/350

(μs)

5/300

(8/20)

8/20

(μs)

Ⅲ、Ⅳ5

(kA)

2.5

(kA)

0.1

(kA)

1

(kA)

0.01

(0.05)

0.05

(kA)

Ⅰ、Ⅱ10

(kA)

5

(kA)

0.2

(kA)

2

(kA)

0.02

(0.1)

0.1

(kA)

7.JIS 化について

本規格は、IEC 62305 シリーズの共通部分である

ため、建築物の雷保護に関する規格(IEC 62305-3)

と電気・電子システムの雷保護に関する規格(IEC

62305-4)のように所轄官庁の異なる規格の双方に対

して同じように関係する。又、本規格の内容には、

義務化すべき規定内容は含まれていない。

したがって、JIS 化に際しては、分野の異なる両

規格の読者に対して不便とならないように、それぞ

れの規格の後半に本規格を付属書として付加するこ

ととした。

図 2 短時間雷撃の波形

図 3 長時間雷撃の波形

図 4 下向き雷放電の構成要素例

図 5 上向き雷放電の構成要素例

技術レポート Vol.5 2009.1

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IEC 62305-3 と現行 JIS A 4201:2003 との相違点

株式会社 村田電機製作所

常務取締役 嶋田 章

1.はじめに

建築物等の雷保護は、JIS A 4201:2003 に基づき計

画することを、建築基準法施行令 第 129 条 15 に規

定され、現行 JIS 規格は、IEC 61024-1(1990)“建

築物等の雷保護:基本原則”をもとに改定された規

格である。

2006 年 1 月に IEC 61024 の改定規格、IEC 62305

が発行され、建築物等の雷保護は、基本概念をその

ままに、若干の修正が加えられ IEC 62305-3 “建

築物等の物的損傷と人命への危険”として改定され

た。

本項では、IEC 62035-3:2006 において JIS

A4201:2003(以降現行 JIS とする)に修正が加え

られた要点を列挙し、説明を加える事とする。

なお、共通事項として、JIS 規格で保護効率の区分

けとしていた保護レベル(LPL)は、連動して LPS

のクラス(保護クラス)とする。

2.受雷部システム

受雷部システムの基本的概念は、回転球体法・メッ

シュ法の回転球体半径及びメッシュ幅についての変

更はないが、保護角法についての保護角度は大幅に

修正が加えられている。

又、受雷部の構造について現行 JIS は、“保護範囲

の決定にあたっては金属製受雷部システムの実寸法

だけによらなければならない”としていたが、IEC

62305-3(以降新 IEC 規格とする)では、上記の条文

のほか、新たに“放射性の受雷部を使用してはなら

ない”としている。つまり、受雷部による保護範囲

があたかも数倍になったような付加処置による受雷

効果を認めないことに加え、金属製受雷部の実寸法

のみで保護範囲を決定する主旨を強調している。

2.1 保護角法

保護角法では、従来、表-1 に見られるように区分

化された地表面からの高さに応じて保護角度が決め

られ、その保護角により被保護物を保護することと

していたが、新 IEC 規格では、図-1 のグラフを用い

て保護クラスと受雷部の先端までの高さを照合し、

適合した保護角度α°により被保護物を保護しなく

てはならない。

仮に従来の保護角度と新 IEC 規格のグラフとを対

比するため、図-1 のグラフを用いて受雷部までの高

さを 10m,20m,30mで保護角度を表-2 に列挙した

ところ、20m,30mでのポイントでは、保護角度に

は若干の数値の違いは見られるが、各レベルとも JIS

A 4201 に適合するものである。

ただし、大まかな数値はグラフから保護角度をつ

かむ事は出来るものの、設計段階で受雷部までの高

さが細かな数値になる場合では、別途、表-2 のよう

に受雷部までの高さh(m)を細かく区切り保護角度

α°を確認できる一覧表が望まれる。

また、新 IEC 規定が示すグラフによる細かい保護

角度が求められるとすると、受雷部の配置が優先さ

れ、施設された受雷部により得られる保護範囲内に

被保護物を配置する設計手法が要求される。

表-1 保護レベルに応じた保護角度(JIS A 4201 より)

保護

レベル

保護角法 h(m)

20 30 45 60 60超過

α(°) α(°) α(°) α(°) α(°)

Ⅰ 25 * * * *

Ⅱ 35 25 * * *

Ⅲ 45 35 25 * *

Ⅳ 55 45 35 25 *

図-1 LPS のクラスに対応した受雷部高さ:h

80

70

60

50

40

30

20

10

0 0 2 10 20 30

h m

Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ

Class of

LPS

40 50 60

α°

技術レポート Vol.5 2009.1

12

表-2 図-1 のグラフより該当する各クラスの保護角度:α

2.2 高層建築物への側撃雷に対応した受雷部

現行の JIS 規格では、選択した保護レベルに応じた

雷撃距離 r の回転球体を用いて、例えば、大地と建

築物に球体を接触させ、回転球体が建築物側壁面の

途中に接触した場合には、その部分を突針やメッシ

ュ導体等を用いて保護する必要があった。(図-2 参

照)

新 IEC 規格では、高層ビルへの側撃雷の対応規定

として下記の指針を新たに加えている。

a.高さが 60m以下の建築物では、側撃雷は一般に

は無視できる。

b.高さが 60mを超える建築物では、上方の部分(建

物の高さの上方 20%)を保護することが望ましい。

(図-3 参照)

c.高さが 120mを超える建築物では、120m以上に

さらされる全ての部分を保護することが望まし

い。

高層建築物では、雷撃の多くは頂部、突角部、及

び出隅に受ける頻度が高く、側撃雷は全体の数%で

あり、側撃雷を受ける確率は、雷撃点が大地からの

高さが低くなるにつれ、減少するというデータによ

るものである。したがって、60m以下の建築物では、

側撃雷を受ける可能性が少なく、LPS のクラスに関係

なく受雷部の設置は必要ない。

また、建築物・塔および煙突などが 60mを超える場

合には、建築物上方より 20%の部分の受雷部設置が

要求される。

2.3 受雷部の“構造体利用” 構成部材

雷保護システムを構成する部材を建築構造材・金

属構成部材を利用することは、建物の美観を損なわ

ずコスト低減に通ずることとして現行 JIS の“はじ

めがき”でも推奨している。

新 IEC 規格では、新たな金属部材を加え表記して

いる。(表-3参照)

この内、新たな部材を除き、アルミニウムが現行

JIS では、1.0 ㎜としていたものが、0.65 ㎜と変更さ

れている。

LPS のクラス

受雷部

の高さh(m) Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

10 45 53 60 64

20 23 37 48 53

30 * 23 37 45

大地への接触点 保護範囲

側撃雷対策が必要な部分

建築物側面

側面壁への

接触点

図-2 現行 JIS の配置決定(例)

h>60m

0.8h

図-3 回転球体法による受雷部システムの設計(IEC 62305-3 より)

受雷部システム r

回転球体半径

LPS の

クラス 材料 厚さ t mm 厚さ t’ mm

Ⅰ~Ⅳ

鉛 ― 2.0

(ステンレス,亜鉛

めっき鋼)

4 0.5

チタニウム 4 0.5

銅 5 0.5

アルミニウム 7 0.65

亜鉛 ― 0.7

t :は開口,局所過熱,発火を避けられる厚さ

t’:は開口,局所加熱,発火が問題とならない金属板のみに適用

表-3 受雷部システムの金属板や金属配管の厚さの最小値

技術レポート Vol.5 2009.1

13

3. 引下げ導線システム

3.1 引下げ導線の間隔

引下げ導線システムは現行 JIS と同様、保護レベ

ルに応じて各々平均間隔が規定されているが、新 IEC

規格ではLPSのクラスⅡ~Ⅳにおいて 5m狭められ

た間隔としている。(表-4,5 参照)

3.2 水平環状導体の間隔

引下げ導線の等電位化を目的として規定された水

平環状導体は、現行 JIS では、保護レベルに関係な

く“地表面付近から垂直方向最大 20m間隔に相互接

続する”としているが、新 IEC 規格では、LPS のク

ラスが示す引下げ導線の間隔と同様とした。

これは引下げ導線システムの経路(ケージ形状)

を狭めメッシュ状をより細かくすることにより、大

地方向に向かう雷電流の分流を円滑に、且つ大地へ

の放出を均等にする事を意図していると考察される。

(表-4,5 参照)

3-3 引下げ導線配置における外周長の算定

建築物は一様な形状をしているわけではなく、敷地

の形状や建ぺい率などの条件に応じて様々な形の建

築物が計画される。IEC 62305-3,附属書 Eに記載さ

れている。外周の算定の一例を紹介する。

建築物の形状がコの字形では外周長を計測する場

合、図-4 に示すように、突角と突角との距離が表-4

より選択したレベルが示す平均間隔を超える場合の

測線は、外周長が最短になるよう“雷対策設計ガイ

ド”に紹介していたが、IEC62305-3 には、この様な

計測の指針は示されていない。

したがって、建築物の外側に沿って外周長を計測

し、選択した LPS のクラスが要求する平均間隔(表

-5 参照)以内の配置としなくてはならない。

また、□形の建築物(図-5 参照)では、中庭の内

側が 30mを超える場合には、中庭にも引下げ導線シ

ステムの規定に則した引下げ導線の施設が必要であ

る。

4.外部雷保護システム材料の最小断面積

現行 JIS では受雷部・引下げ導線及び接地極に用

いる導体の材質・断面積を表記していた。(表-6 参照)

保護レベル 引下げ導線

の平均間隔(m)

水平環状導体

の間隔(m)

Ⅰ 10 地表面付近から

垂直方向最大 20

m間隔

Ⅱ 15

Ⅲ 20

Ⅳ 25

保護レベル 引下げ導線

の平均間隔(m)

水平環状導体

の平均間隔(m)

Ⅰ 10 10

Ⅱ 10 10

Ⅲ 15 15

Ⅳ 20 20

表-4 JIS A 4201:2003 による引下げ導線の間隔

表-5 IEC 62305-3 による引下げ導線の間隔

A J

I

G

H

F

E D

C B

外周長=A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,A

を結んだ長さ

a) 雷対策設計ガイドより

A

GH

F E

D C

B

外周長=A,B,C,D,E,F,G,H,A

を結んだ長さ

b) 新 IEC 規格の解釈

図-4 コの字形の外周長計測の対比

図-5 □形の外周長計測

E F

C D

H G

A B

外周長=A,B,C,D,A

を結んだ長さ

内周長=E,F,G,H,E

を結んだ長さ

保護

レベル

材料 受雷部

(㎜2)

引下げ導線

(㎜2)

接地極

(㎜2)

Ⅰ~Ⅳ

銅 35 16 50

アルミニウム 70 25 ―

鉄 50 50 80

表-6 雷保護システムの材料の最小寸法(JIS A4201:2003)

技術レポート Vol.5 2009.1

14

新 IEC 規格では、区分を受雷部・引下げ導線シス

テムと接地極システムとの 2 種類に分けて表記して

いるが、“雷害対策設計ガイド”でも説明が加えられ

ているが、受雷部で受け止めた雷電流は建築物の外

周に施設された引下げ導線に分流して大地に放出さ

れる。

したがって、分流されることで 1 本の引下げ導線

に流れる雷電流もまた小さくなるので、受雷部導体

より許容断面積は小さくても問題はないと考察され

る。IEC 62305-3 の JIS 化においては引下げ導線の

サイズを現行 JIS(表-6 参照)に倣った検討が切望

される。

材 料 外 形 最小断面積(㎜ 2) 備 考

帯・管 50 最小厚さ 2 ㎜ 棒 50 直径 8 ㎜

より線 50 各線の最小直径 1.7 ㎜ 棒 200 直径 16 ㎜

すずめっきされた銅

帯、管 50 最小厚さ 2 ㎜ 棒 50 直径 8mm

より線 50 各線の最小直径 1.7 ㎜

アルミニウム

板、帯、管 70 最小厚さ 3mm 棒 50 直径 8mm

より線 50 各線の最小直径 1.7 ㎜

アルミニウム合金

板、帯、管 50 最小厚さ 2.5 ㎜ 棒 50 直径 8 ㎜

より線 50 各線の最小直径 1.7 ㎜ 棒 200 直径 16 ㎜

溶融亜鉛めっき鉄鋼

板、帯、管 50 最小厚さ 2.5 ㎜ 棒 50 直径 8 ㎜

より線 50 各線の最小直径 1.7 ㎜ 棒 200 直径 16 ㎜

ステンレス鋼

板、帯、管 50 最小厚さ 2 ㎜ 棒 50 直径 8 ㎜

より線 70 各線の最小直径 1.7 ㎜ 棒 200 直径 16 ㎜

材 料 外 形 最 小 寸 法

備 考 接地棒

φmm

接地導体 接地板

mm

より線 50 ㎜ 2 各線の最小直径 1.7 ㎜

棒 50 ㎜ 2 直径 8 ㎜

帯 50 ㎜ 2 最小厚さ 2 ㎜

棒 14

管 20 最小厚さ 2 ㎜

板 500×500 最小厚さ 2 ㎜(※現行 1.5)

格子板 600×600 25 ㎜×2 ㎜ 桝目

格子の最小長さ 4.8m

鉄鋼

亜鉛めっき棒 16 直径 10mm

亜鉛めっき管 25 最小厚さ 2 ㎜

亜鉛めっき帯 90 ㎜ 2 最小厚さ 3 ㎜

亜鉛めっき板 500×500 最小厚さ 3 ㎜

亜鉛めっき格子 600×600 30 mm×3 ㎜桝目

銅被覆棒 14 最小厚さ 250μm

銅被覆 99.9%銅含有

棒 直径 10mm

帯又は亜鉛めっき帯 75 ㎜ 2 最小厚さ 3 ㎜

亜鉛めっきされたより線 70 ㎜ 2

亜鉛めっきされた交差 50×50×3 各線の最小直径 1.7 ㎜

ステンレス鋼 棒 15 直径 10mm 最小厚さ 2 ㎜

帯 100 ㎜ 2

表-8 接地極の材料,外形,最小寸法 (IEC 62305-3)

表-7 受雷部導体と突針の材料,外形,最小断面積 (IEC 62305-3)

*太文字は、一般的に使用されている構成部材

*太文字は、一般的に使用されている構成部材

技術レポート Vol.5 2009.1

15

今回の IEC62305-3 では、使用可能な材質を列挙

し、個々に形状・最小断面積及び厚さ等を表記して

いる。また、前回 IEC 61024-1 の JIS 化において、

接地銅板は日本独自の規格として記載されていたが、

今回、新 IEC 規格に加えられ、最小寸法、厚さ 2t,

500×500 ㎜と表記されているが、国内の製造メーカ

ー・需要家及び市場性の側からみて、国内における銅

板の最小寸法は、厚さ 1.5t,500×500 ㎜が妥当で

あると判断される。

5. 接地極システム

接地システムの規定については大きな変更はない。

しかし、システムの名称を接地システムから雷保護

用として“接地極システム”と改められている。

また、現行 JIS では、コンクリート内に銅製の構

成部材を“使用不可”とされていたが、新 IEC 規格

では、“使用可”としている。従来、地中に施設され

た銅製接地材と基礎コンクリート内部の鉄筋とは電

位差が生じるものと考えていたが、IEC 62305-3,附

属書 E(E5.4.3.2)には、「コンクリート中の鉄筋は

土中の銅製導体と同等のガルバニック電位が生じる

ことを考慮する」と述べられていることから内部鉄

筋の腐食は、電食によるものより自然腐食によると

ころが多いと解釈することが出来る。

6. 内部雷保護システム

6-1 雷保護等電位ボンディング

等電位ボンディングの名称は、IEC 62305-3 では雷

保護等電位ボンディングと目的を明確化することと

している。

雷保護等電位ボンディングの目的は、“建築物内部

に危険な火花放電の発生させない”変わりが無く、

ボンディングに用いるボンディング用導体のサイズ

に変更が見られる。

変更が見られる箇所は、銅線とアルミニウム線で、

サイズが日本国内のケーブルサイズに適合するよう

サイズダウンされている。(表-9,10 参照)

6-2 外部雷保護の絶縁

外部雷保護システムの絶縁では、計算における絶

縁定数 km が、塩化ビニールとポリエチレンが削除さ

れた。また、引下げ導線に関連する定数 kc の内、複

数条施設した場合のkc算出計算が一部変更されてい

る。

7. 接触電圧・歩幅電圧に対する保護

生体(人体)に対する対策は現行 JIS では、“人体

保護に対する対策は、等電位ボンディングである。”

と、やや不明瞭であったが、新 IEC 規格では、新た

に接触電圧及び歩幅電圧に対する保護対策が本文に

明確に示された。基本対策を下記にまとめる。

*接触電圧に対する保護対策

露出引下げ導線の絶縁及び引下げ導線の周辺の物

理的制限及び警告

*歩幅電圧に対する保護対策

接触電圧の規定に加えメッシュ接地極システムに

よる等電位及び引下げ導線から 3m以内の物理的制

限及び警告

8.その他の附属書の紹介

IEC 62305-3 には、A~E の附属書が添付されてお

り、その項目を下記に紹介する。

附属書A(規定): 受雷部システムの配置

受雷部システムの保護範囲の見付及び回転球体法

による高層建築物への配置と側撃雷の可能性を説明。

保護レベル 材 料 IEC 62305-3 JIS A 4201:2003

断面積(㎜2) 断面積(㎜2)

Ⅰ~Ⅳ

銅 14 22

アルミニウム 22 25

鉄 50 50

保護レベル 材 料 IEC 62305-3 JIS A 4201:2003

断面積(㎜2) 断面積(㎜2)

Ⅰ~Ⅳ

銅 5 6

アルミニウム 8 10

鉄 16 16

表-10 異なるボンディング用バー相互及び導体と ボンディング

用バーと接地極システムを接続している導体の最小寸法

表9 建築物内部の金属製工作物をボンディング用バーに

接続する導体の最小寸法

技術レポート Vol.5 2009.1

16

附属書B(規定):危険な火花放電を避けるためのケ

ーブルスクリーンの最少断面積

スクリーンに流された雷電流による,活線とケー

ブルスクリーンとの間の過電圧 を回避するための

最小断面積の計算式を明記。

附属書C(参考):引下げ導線の雷電流の分流

外部雷保護システムの絶縁に関する係数及び計算

式を明記。

附属書D(参考 ):爆発の危険性を伴う建築物の

LPS に対応した追加的な情報

爆発の危険性を伴う建築物の LPS に対応した追加

的な詳細が細かく示され、本文では建築物内の内容

物によってゾーン0,1.2,20,21,22を分類してその対

応が詳しく述べられている 。

附属書E(参考): 雷保護システムの設計,施工,

保守および点検に関する指針

本文を構成する規定の根拠を細かく解説、計画~

施工・保守まで説明を加えている。

9. あとがき

IEC 62305-3 と JIS A 4201:2003 の相違点について

説明を加え列挙したが、建築物等への雷保護につい

ては基本的な点については両者に大きな変更はなく、

昨年発行した“雷害対策設計ガイド”の内容を熟知

することで IEC 62305-3 が示す外部 LPS・内部 LPS

の規定を理解することができる。

しかし、JIS A 4201:2003 の改定を視野にいれて考

察すると、

・ 構成部材の寸法についての整合性

・ 超高層ビルの側撃雷対策(配置)の検討

・ 保護角法のグラフ(保護角度の一覧表の検討)

・ 国内消防法と整合性(附属書 D)

など、少なからず検討・修正が必要と思われる部

分が見られる。また、附属書 E は、IEC 62305-3,

本文を構成する基礎的な参考資料なので、本文中

で不明瞭と思われる部分については、附属書Eを

閲覧することでより深い部分から解釈が出来るの

で一読することをお勧めしたい。

技術レポート Vol.5 2009.1

17

IEC 62305-4 について

株式会社 エスデー防災研究所

新井 慶之輔

1. まえがき

落雷は、数百メガジュール(MJ)のエネルギーを

放出するような自然現象であるが、建築物内の電気

及び電子システムを構成する電子機器が数ミリジュ

ール(mJ)のエネルギーで破損することに対比する

と、機器の保護のための対策が必要になる。

最近の電子機器の普及に伴い、それらの雷被害の

増加及び広範囲に波及する影響によって、単なる故

障費用の増大だけでなく社会的な混乱への影響も無

視できなくなってきている。

建物を雷被害から保護するための雷保護システム

(LPS)は、建物の物的損傷と内部の人命に対する

保護だけで、内部設備の電気・電子システムに対す

る保護は対象外となっている。

本規格は、これらの電気・電子システムの雷被害

から保護するための対策に関する基本的な項目につ

いて規定したものである。

本規格は、従来の規格である IEC 61312 シリーズ

(IEC 61312-1, -2, -3, -4)を統合して、共通項目部

分は IEC 62305-1 に記載し、残りの部分を整理しま

とめたものとなっている。したがって、原則的な部

分は、旧 IEC(IEC 61312-1)と大きな改定はなく、

すなわち現行 JIS(JIS C 0367-1)とも基本的に同

一であり、実施例などの具体的な例及び計算例など

の参考的な記載が大幅に増加したものとなっている。

その概要を以下に説明する。

2. 適用範囲

本規格は、雷電磁インパルス(LEMP:lightning

electromagnetic impulse)によって建築物内の内部

システム(電気及び電子システム)の故障発生を低

減するための、対策システムの設計、施工、検査、

保守および試験に関するものである。しかし、シス

テムの機能障害が発生するような雷電磁干渉(EMI)

は適用外である。

3. LEMP 保護対策の基本

強大なエネルギーをもつ雷から脆弱な電子機器を

防護するためには、基本的に次の項目を実施しなけ

ればならない。

① 雷保護ゾーン(LPZ)の有効活用

② 接地とボンディング

③ 磁気遮へいと配線ルート

④ SPD の設置

3.1 雷保護ゾーン

LEMP は強大なエネルギーを有しているため、そ

の電圧、電流及び磁界を、電子機器が耐えられるレ

ベルまでに低減するために、雷保護ゾーン(LPZ:

lightning protection zone)の概念を導入し、各種の

LEMP 低減対策に基づいたゾーン境界を形成するこ

とで、被保護システムを含む空間を各ゾーンに分割

することができ、最終的に保護可能なレベルにまで

低減させる。LPZ の概念図を図 1 に、建築物に適用

した例を図 2 に示す。

ここで、各 LPZ は次のように定義される。

① 外部ゾーン(建物の外側部分)

・LPZ 0 :雷による電磁界が減衰していない場

所で、内部システムは全雷電流サージ又はそ

の一部によって危険に曝されるゾーン。LPZ 0

は次のように分類される。

・LPZ 0A:直撃雷及び全雷電磁界の危険に曝さ

れるゾーンで、内部システムは全雷電流サー

ジの危険に曝される。

・LPZ 0B:直撃雷に対して保護されているが、

全雷電磁界により危険に曝されているゾーン。

内部システムは、部分雷電流サージにより危

険に曝される。

② 内部ゾーン(建物内で直撃雷からは保護)

・LPZ 1:電流分流と境界に設置した SPD によ

りサージ電流は制限されるゾーン。空間遮へ

いにより雷電磁界は低減できる。

・LPZ 2 … n:電流分流と SPD によって更にサ

ージ電流は制限されるゾーン。空間遮へいの

技術レポート Vol.5 2009.1

18

追加で雷電磁界は更に低減できる。

LEMP に対する保護対策を構築する場合、想定

される LEMP の強さと頻度並びに被保護機器の

絶縁耐力と重要性などを勘案して、適切な空間遮

へいと SPD の設置により、合理的で経済的な LPZ

を設計することが必要となる。

3.2 接地とボンディング

接地とボンディングは、雷保護の基本であるが、

建物の保護のための雷保護システム(LPS)が設置

されている場合にはその接地極を利用することにな

る。しかし LPS がない場合でも、保護すべき内部シ

ステムが重要なもの(例:電子システム)であるときに

は、LPS と同様な接地システム(できれば B 型接地

システム)を構築することが望ましい。工場プラン

トにおけるメッシュ状の接地極システムの例を図 3

に示す。

内部LPZ内の全ての機器間での危険な電位差を防

止するために、低インピーダンスであるボンディン

グ回路網が必要である。このようなボンディング回

路網は、磁界も低減することとなる。

ボンディング回路網は、建築物の構成要素(例:

鉄骨、コンクリート内鉄筋、エレベータ用レール、

クレーン、金属製屋根、床枠、金属管など)を相互

に接続することで構築できる。更に、ボンディング

用バー(環状ボンディング用バーと各階のボンディ

ング用バーなど)と LPZ の磁気遮へい部分とも接続

して統合することが必要である。

ボンディングに使用する材料及び寸法は、IEC

62305-3 により、ボンディング部品のための最小断

面積は表 1 によらなければならない。

表 1 ボンディング部品の最小断面積

ボンディング部品 材料 断面積

mm2

ボンディング用バー(銅又はめっき鋼) Cu, Fe 50

ボンディング用バーから接地システム

又は他のボンディング用バーへの接続

導体

Cu

Al

Fe

14

22

50

内部の金属設備からボンディング用バ

ーへの接続導体

Cu

Al

Fe

5

8

16

SPD の接続導体

クラスⅠ試験

クラスⅡ試験

クラスⅢ試験

Cu

5

3

1

3.3 磁気遮へいと配線ルート

磁気遮へいは、雷による磁界と内部設備への誘導

サージの低減が可能であり、更に、適切な配線ルー

図 1 LPZ の分割概念

図 2 対象物を LPZ に分割した例

図 3 工場プラントのメッシュ状接地極システム

技術レポート Vol.5 2009.1

19

トは、内部の誘導サージを最小化することができる。

したがって、両者の対策は、内部システムの破損の

低減に非常に有効な方法である。

(1) 磁気遮へい

空間的な磁気遮へいは、建築物全体、その一部分、

一部屋又は機器を内蔵する箱体などで構成できる。

空間遮へいは、内部の機器全てに有効な対策として

実用的ではあるが、既存設備に対しては高費用と技

術的困難さを伴うため、新築の建築物又は電気設備

に対して早期の計画段階から準備することによって

大きな効果を得ることができる。

配線に対しての磁気遮へいは、ケーブルへの金属

製電線管、金属製配線ダクト又は金属製箱体に収納

させることで可能であり大きな効果を得られる。し

かし、建築物への引込線に対する上記のような磁気

遮へいは、通常対策者の権限外となることが多い(電

力会社又は通信会社側の実施項目)。

LPZ 0Aと LPZ 1 との境界での磁気遮へい(例:格

子状空間遮へい、ケーブル遮へい装置の箱体など)

の材料及び寸法は、雷電流の通過の可能性があるた

め、LPS の受雷部や引下げ導線の規定に従うこと。

又、メッシュ幅 5m 以内の格子状空間遮へいに対し

ては、磁気遮へいの効果があるとしている。

(2) 内部配線ルート

内部配線の配線ルートについては、被保護機器へ

接続されている電力線と信号線の両者による誘導ル

ープの面積を最小にすることが必要になる。又、各

配線を磁気遮へいすることも有用な方法である。

3.4 協調の取れた SPD 保護

ケーブル内に侵入又は発生した雷サージに対する

内部システムの保護は、電力線及び信号線の両者へ

の協調の取れた SPD を設置しなければならない。

SPD は、各 LPZ の境界及び/又は機器の直前に設置

しなければならない。

設置する SPD の特性、適切な選定と適用基準の詳

細については、IEC 61643(JIS C 5381)シリーズ

を参照することとして、本規格との重複を避けてい

る。

3.5 各保護対策の実施例

LPZ を構築して雷保護を実施する場合の例を次に

示す。

(1) 隣接建物間をケーブルが接続されている場合

ケーブルの引込口には SPD を設置しなければな

らないが、ケーブルを磁気遮へいすれば SP を省略

することが可能となる(図 3 参照)。

(2) 遮へいと SPD の適用位置

① 複数の遮へいと SPD を設置した例(図 4(a))

この例は、二つの遮へいで空間を区切り、更に

二つの SPD を設置して、磁界と侵入サージを低減

することができる。この場合には高費用であるが、

大きな低減効果が期待されるので、雷エネルギー

の大きな場所や重要な被保護機器に対して実施す

ることとなる。

又、一般の鉄筋又は鉄骨建てのビルの例では、

外壁が LPZ 1 を形成し、ビル内の部屋が LPZ 2 と

なり、金属箱体内の設備や機器となる。そこで各

引込口に SPD を設置すれば、図 4(a)と同等の構成

とすることができる。

② 1 個の遮へいと SPD を設置した例(図 4(b))

この例は、建物による遮へいと SPD を 1 段階設

置するもので、一般的に適用される方法である。

比較的簡単で経済的であり、通常この方法で電

気・電子システムの雷保護は十分に効果を発揮す

図 3 相互接続された 2 個の LPZ 1

(a) SPD を設置 (b) 磁気遮へい

図 4(a) 複数の空間遮へいと SPD を使用した例

技術レポート Vol.5 2009.1

20

ることが可能である。

③ 内部配線の遮へいと SPD を使用した例

(図 4(c))

この例は、建物による磁気遮へいが実施されて

いない場合(例:木造建屋)で、ケーブル及び設

備だけを磁気遮へいした例である。一般に 5m ピ

ッチ以内ではない鉄筋メッシュの工場内や屋外設

置の設備などに適用すると効果がある。

④ 遮へい無しで SPD だけ使用した例(図 4(d))

この例は磁気遮へいを一切実施していない例で

あるが、磁気遮へいの効果を期待しない場合にも

適用可能である。既存の設備に追加の対策を実施

する場合、遮へい効果を無視して(又は遮蔽効果

の確認をせずに)SPD だけの効果を期待する例と

して、一般に実施されることが多い例である。

4. LPMS の管理

内部システムの雷保護システムにおいて、経済的

で効果的な達成をするためには、建築物の計画・設

計段階からの取組むことが推奨され、建物の構成要

素の利用、ケーブルレイアウト、装置の配置など既

存建物に対するものと比較して最適な設計をするこ

とが可能である。

最適な保護対策は、次により達成可能である。

① 対策は雷保護の専門家が決定する

② 建築物及び LPMS を含む異業種の専門家(土

木技師、電気技術者等)間での良好な協調関

係が存在する。

③ 規定の管理計画に基づく適切な管理を実施。

新築ビル、既存ビルの大幅な改修時の LPMS

に対して、各段階において実施すべき内容及び

目的並びに実効する関係者に関し官吏計画が規

定されている(IEC 62305-4 表 2 参照)。

尚、適切に設計された LPMS は、完成時の検査を

含め、定期的及び改修時、更に落雷後などには、確

実な検査および保守により、機能の維持を図らなけ

ればならない。

5. 付属書について

5.1 付属書 A:LPZ における電磁環境計算の基本

建築物内の電気・電子システムを LEMP から保護

するために必要な、LPZ 内部の電磁環境を計算する

基本事項について記載している。この内容は EMC

に関する環境に対しても同様に適用可能である。

(1) 空間遮へいと配線ルート

雷によって発生する LPZ 内部の磁界は、LPZ の空

間遮へいによって低減でき、電子システムへ影響す

るサージ(電圧、電流)は、空間遮へい、配線ルー

ト、配線の遮へい及び SPD の設置で低減化できる。

落雷時の LEMP 発生の状況を図 5 に示す。

効果的な格子状空間遮へいでは、標準的なメッシ

ュ幅は 5m いかが必要である。誘導ループ面積をで

きるだけ小さくしたケーブルの配置、ケーブル抱く

とをシ要した内部配線の遮へいなどは、サージ発生

の低減化に有効な方法である。

図 4(b) 1 個の空間遮へいと SPD を使用した例

図 4(c) 内部配線の遮へいと SPD を使用した例

図 4(d) 協調の取れた SPD だけを使用した例

技術レポート Vol.5 2009.1

21

(2) LPZ 内の磁界計算

LPZ 内の磁界については、近似計算、理論的計算

について記載している。又、計算結果に対して、実

験的評価と対比するための実験方法例を示している。

(3) 誘起電圧及び電流の計算

LPZ 内の磁界計算の結果、内部の誘導ループ内に

発生する誘起電圧及び電流の計算をすることが可能

となる。

5.2 付属書 B:既存建築物内の電子システムに対する

LPMS の実施

既存建築物及び内部設備に対して、新設備(多く

の場合電子システムを内蔵)を追加設置する場合、

雷保護対策を構築する上で制約があることが多い。

そのために、先ず、建築物の構造及び条件、既存設

備の特性などをチェックすることが必要になる。構

造的特性及び周囲環境、設備および機器の特性、そ

の他考慮すべき点などについて、リストを元にチェ

ックすることが重要である。

追加設備に可能な各種対策方法(ケーブル配置、

SPD 設置、絶縁、空間遮へい等)を検討し、経済的

で効果的な方法を実施する。

外部に装備した機器の保護対策としては、局部的

受雷部の設置により LPZ 0B内に収納し、ケーブル類

は金属製ダクト内に収納して誘起されるサージの低

減を図らなければならない。

分離された建物間を接続するケーブルラインに対

しては、メタルフリーの光ケーブルの適用又は金属

製ケーブルダクト内に収納することが有効である。

5.3 SPD の協調

ケーブル内に侵入したサージに対しては、SPD に

よって保護することとなる。複数の SPD を適用する

場合には、それぞれのエネルギー耐量に応じて SPD

間のエネルギー協調が取られていなければならない。

各 LPZ の境界に設置する SPD は、想定される侵

入波形に応じてのエネルギーに耐えなければならな

い。又、SPD の特性(電圧スイッチング形、電圧制

限形など)に応じてエネルギーの協調に関しての検

討をしなければならない。

協調の検討には、SPD の素子及びその特性の詳細

なデータ並びに回路インピーダンス(減結合素子ま

たは線路のリアクタンス)を必要とする。

5.4 協調の取れた SPD の選定及び設置

保護すべき機器及びシステムのインパルス耐電圧

Uw と接続電体での誘起電圧に適合する電圧防護レ

ベル Ipを持ち、上位 SPD と協調の取れた SPD を選

定しなければならない。接続導体での誘起電圧の影

響を防ぐために、最短距離での接続が重要である。

設置位置としては、引込口及び/又は機器直前で、

設置位置における想定サージ電流に耐える容量の

SPD を選定しなければならない。被保護機器との距

離が 10m 以上になると、回路のインピーダンスの影

響で、制限した電圧が振動により機器の端子部では 2

倍程度になることがあるので注意すること。

6. JIS 化に対して

本規格は、建築物内の電気・電子システムに対し

て雷電磁インパルスからの保護に関するものであり、

現 JIS(JIS C 0367-1)に相当するものである。そ

のため、共通部分である一般原則の IEC(IEC

62305-1)とあわせて JIS 化することが必要である。

したがって、IEC 62305-4 はそのまま翻訳し、そ

の後半の付属書部分に、IEC 62305-1 を翻訳したも

のを付属書の続きとして添付する形として新 JIS と

して発行することとする。但し、内容的には、JIS C

0367-1:2003「雷による電磁インパルスに対する保

護」の改定版として位置づけされるものである。

図 5 落雷による LEMP の発生状況

技術レポート Vol.5 2009.1

22

無線機電源装置

分電盤

家電機器

ELCB

電話モデム

ブースタ

電話回線

CATVケーブル

電源線

アンテナ

保安器

保安器

電源線

アマチュア無線機器

住宅電気設備の雷被害様相と その対策

株式会社 昭電

雷対策システム部 鈴木淳一

1. まえがき

近年、都市部において局部的に雷が発生しやすく

なっており、ゲリラ雷雨とよばれている。

ゲリラ雷雨の主な原因は、夏場に発生する積乱雲

が、都市部のヒートアイランド現象により局部的に

温度の高い地域を通過する際、雲の発達をより活発

化させるためと考えられている。それを裏付けるよ

うに近年、都市部周辺で雷被害が多発している。

内線規程において住宅用分電盤内に雷保護装置

〔サージ防護デバイス(SPD)に相当〕の設置が推

奨されているが、各種情報機器の発達により雷(サ

ージ)侵入経路が電源線のみならず、電話線、CATV

ケーブル、テレビアンテナ、更にはアマチュア無線

アンテナ等多様となっている。それらサージ侵入経

路に対して対策を施した住宅が少なく、当然のこと

ながら雷が多発するとともに被害が増大している。

住宅の雷被害についてはデータが少なく雷被害様

相を把握することが困難であった。このたび、実際

に落雷をうけた住宅を調査する機会が得られ、雷被

害の状況、雷(サージ)電流経路を検討することが

できた。ここに、調査結果を報告する。

2. 雷被害様相

2.1 住宅の様相

今回、東京北西部某所の住宅密集地域に位置する

二軒の住宅について調査を行った。何れも二階建て

の住宅で、二軒のうち一軒の二階ベランダにアマチ

ュア無線のアンテナ(地上高 6~7m)が設置されて

いた。

2.2 落雷発生と被害状況

雷害発生は、東京近郊でゲリラ雷雨が多発した 8

月 21 日 18 時頃であった。

A 様宅において住民が二階ベランダ付近に立って

雷雨の様子を眺めていたところ、アマチュア無線ア

ンテナに閃光が走り、直後に二階エアコンの動作が

停止し、分電盤の ELCB がトリップした。後に ELCB

を再投入して電源復旧したが、家電機器の殆どが動

作せず、破損していた。

同時刻、落雷のあった A 様宅の向かい側(距離に

して約 5m)に位置する B 様宅の家電製品にも被害

が発生していたことが確認された。

A様宅およびB様宅の家電機器被害状況を表1に、

落雷のあったA様宅の家電機器の系統を図1に示す。

表 1 家電機器被害状況

調査宅 被害状況

A 様宅

アマチュア無線アンテナ,アマチュア

無線機,電源装置,エアコン,給湯器,

インターフォン,テレビ,テレビブー

スタ,冷蔵庫,パソコン用プリンタ,

電話機,ADSL モデム

B 様宅 テレビブースタ,テレビ,インターフ

ォン,ADSL モデム

図 1 A 様宅の家電機器系統

3. 雷通過経路の推定

3.1 家電機器の損傷箇所調査

被害の発生した家電機器を分解し、雷の通過痕跡

を調査した。

技術レポート Vol.5 2009.1

23

1)アマチュア無線アンテナおよび同軸ケーブル

A 様宅二階のベランダに設置されたアマチュア無

線アンテナ(FRP 製)の先端が激しく損傷していた

(写真 1 参照)。

アンテナ用同軸ケーブルの被覆が裂けて内部絶縁

体,外部導体が露出し、外部導体が溶解していた(写

真 2 参照)。また,ケーブル間接続コネクタの中心導

体と外部導体間の絶縁体に黒い煤がみられ外部導体

接合部が溶解していた。

同軸ケーブルとコネクタの損傷状態より、アンテ

ナへの落雷時、同軸ケーブルの中心導体と外部導体

間で絶縁破壊し、雷電流が流れた様子が認められる。

2)アマチュア無線機、電源装置

アマチュア無線機の筐体内側と基板(電源回路周

辺)に黒い煤および,基板パターンの溶解等がみら

れる(写真 3 参照)。また,無線機用電源装置の入力

(AC100V)回路に取り付けられたヒューズが溶断

していた。

これらの状況から、アンテナ同軸ケーブルより侵

入した雷電流が、無線機、電源装置を通過し宅内の

電源回路(コンセント系統)に流出したと考えられ

る。

3)CATVブースタ

内部電源基盤周辺に黒い煤が付着し,基板パター

ンの溶解がみられた(写真 4 参照)。無線機より電源

系統に流れた電流がブースタ電源回路を通過し、

CATV ケーブル(同軸)へ流出したものと考えられ

る。

3.2 雷の通過経路

アマチュア無線機および電源装置の損傷状態より,

アマチュア無線アンテナへの落雷電流がアンテナケ

ーブルから無線機に流入し,無線機筐体~内部基板

間が絶縁破壊して AC 電源線に流出したことで,雷

電流が系統に接続されたその他の宅内機器に流入し

障害を及ぼしたと考えられる。

雷電流の推定通過経路を図 2 に示す。

A 様宅は木造住宅のため機器~大地間の絶縁が保

写真 1 落雷により損傷したアンテナ

写真 2 同軸ケーブルの損傷状態

写真 3 アマチュア無線機の損傷状態

写真 4 ブースタの損傷状態

技術レポート Vol.5 2009.1

24

れていることより、アンテナへの落雷電流が減衰せ

ずに宅内電源系統に分流し、分電盤を経由して配電

線への流出、及び通信線,CATV 線への接続機器(電

話、モデム、CATV ブースタ)を破壊して接続ケー

ブルより外部に流出したと考えられる。

近隣の B 様宅の被害については,A 様宅と同じ配

電トランスより受電していることから,配電線に流

出した電流による配電トランスの B 種接地電位が上

昇し、雷電流の一部又はサージ電圧が B 様宅に侵入

して家電機器に被害を及ぼした可能性が高い。しか

し,同時刻に付近に落雷が多数発生していたことか

ら,電話線,CATV 線の近傍への落雷によって生ず

る誘導雷などが別経路から侵入した可能性も考えら

れる。

4. 雷被害対策

A 様宅のアマチュア無線機アンテナへの落雷を防

ぐためには、アンテナが保護角に入るよう設計した

避雷針設備を建立することが望ましい。しかし、一

般住宅において敷地と高額な費用の面から現実的で

はない。

一般住宅において実施可能な雷対策(例)を図 3

に示す。

A 様宅では既に無線設備を撤去しているが、A 様

宅と同様にアマチュア無線設備のある住宅の場合は、

アンテナ用同軸ケーブルの住宅引き込み部に同軸用

SPD を設置し、有効な接地極を施工して雷電流を極

力接地へ流出する必要がある。

しかし、雷電流耐量の大きな SPD の選定、接地工事

費等を考慮すると実施が難しい場合もある。よって

簡易的な方法として、アンテナの支柱には確実な接

地工事を施すとともに、無線機不使用時や雷接近時

にはアンテナの同軸ケーブルを無線機より切り離す

方法が、無線機を雷から守る現実的な対策となる。

その上で、家庭内にあふれている各種の電子機器

を雷(サージ)被害から防ぐことを考慮することが

必要である。尚、内線規程で推奨している SPD の定

格は、クラスⅡレベルで In=2.5 kA の容量のものと

なっている。アンテナからの雷侵入(直撃雷)を考

慮せず、誘導雷サージだけを対象とすれば、一般家

庭ではこの程度の SPD を設置すればほとんどの機

器は保護可能といえる。

B 様宅も含めて、他施設に落雷した電流が配電ト

ランス B 種接地、NTT 加入者保安器接地に分流して

減衰し、又、誘導作用によって各種のケーブルから

も宅内に侵入することが考えられる。したがって、

電源線、電話線、CATV ケーブルに一般的な誘導雷

対策用 SPD(電源用は JIS 試験クラスⅡ,通信用は

カテゴリ C2 等)を設置することで対策できる。最近

図2 雷電流の推定経路

分電盤

無線機電源装置

分電盤

家電機器

ELCB

電話モデム

ブースタ

電話回線

CATVケーブル

アンテナ

電源線

アマチュア無線機器

★ ★

★:障害箇所

配電トランス

電位上昇

ELCB

電話モデム

ブースタ

電話回線

CATVケーブル

A様宅B様宅 B種接地

低圧配電線高圧配電線

:雷電流経路

技術レポート Vol.5 2009.1

25

では、コンセントと電話モジュラーまたはテレビア

ンテナコネクタを有した SPD が市販されている。こ

れらは雷電流を機器よりバイパスすることが主目的

であるため接地を必ずしも必要としないが、可能で

あれば SPD を接地極に接続し、侵入した雷電流のエ

ネルギーを接地に放流して減衰させることで、更に

安全性が高まる。

5. おわりに

「雷害対策設計ガイド(JLPA 編)」によれば、雷

被害発生率(%/世帯/年)が 1996 年~1997 年で

は 0.6%に比べ、2004 年~2005 年では 1.3%と約 2

倍に増加している。これらはパソコンを含めた情報

機器の普及と、家電機器等を構成する電子部品の弱

耐圧化が要因といわれているが、ゲリラ雷雨等の気

象変化も大きく関わっていると考えられる。よって

地球温暖化や都市部周辺におけるヒートアイランド

現象が進行する中、住宅における雷被害は今後も増

大すると思われる。

最近、住宅分電盤用の SPD や、電話、コンセント

に簡単に取り付け可能な SPD 等が家電量販店等で

市販されるようになり、一般家庭においても雷対策

の関心が高まっている。更に、一般家庭における接

地端子の普及(3P コンセント等も含む)も雷被害対

策には有効な対策の一助となろう。

今回、調査させて頂いた住宅は幸いにも雷撃によ

り人身事故や火災発生には至らなかったが、過去落

雷により住宅災害や、死亡事故が発生していること

から、他の自然災害より遥かに発生確率の高い雷被

害について先述の SPD 等で自衛策を施す必要があ

ると考える。

6.謝辞

今回の雷被害調査に対し、A 様及び B 様に置かれ

ましては、住宅内の隅々までのご案内と丁寧なご説

明、更に被害品を提供いただき、我々の調査に大変

ご協力頂きましたことを深く感謝申し上げます。

JLPA としては、これらを契機にますますの雷被

害低減と雷対策の普及に努めていく所存です。

写真 5 分電盤用 SPD(例)

写真 6 コンセント/電話用 SPD(例)

写真 7 コンセント/TV 用 SPD(例)

図3 雷対策(例)

分電盤

無線機電源装置

分電盤

家電機器

ELCB

電話モデム

ブースタ

電話回線

CATVケーブル

アンテナ

電源線

アマチュア無線機器

ELCB

電話モデム

ブースタ

電話回線

CATVケーブル

A様宅B様宅

SPD

SPD

SPD

SPD

SPD

SPD

低圧配電線

SPD

支柱