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1 企業環境研究年報 No.20, Feb. 2016 21 世紀自動車産業グローバル化の特質と 日本中小企業の経営環境変化 清 晌一郎 (関東学院大学) 要  旨 各国自動車産業グローバル化にはいくつかの類型があり,その総体としてのグローバル化 が進行している。具体的には,①自動車メーカー自身の輸出・海外生産の拡大(日本,韓国), ②自国市場に外資を呼び込んだグローバル化(中国,インド,アメリカ),③グローバル展 開の拠点・ハブ(タイ,インドネシア,ブラジル・メキシコ)などである。 アジア新興国を中心とした自動車産業発展は,①各国の富裕層・中間層上層を対象とした 「疑似モータリゼーション」によって成立し,②市場の狭隘性や景気循環に対応する投資重 点の変更によるリスクの地域分散を通じた持続的成長が一つの特徴である。今後のグローバ ル展開では,イスラム圏,アフリカなどでの市場争奪戦が課題となる。 日本自動車産業のグローバル展開は急であり,新しい環境エンジン,自動運転システムの 商品化,そして TNGA に見られるグローバル調達・生産システム展開など,排ガス規制問 題で VW が停滞する中,欧米企業の水準を引き離して,日本企業のプレゼンスを高めている。 自動車部品産業ではとりわけ2014年~ 2015年にかけて売上高は36.9%増,従業員数で38.9% の増加があり,さらに今後の北米市場の活況が期待されている。 2014年の1次アンケート分析では,単独・連結ともに自動車部品メーカーの業績好調,海 外拠点は新増設ラッシュ,国内は新増設と縮小閉鎖がほぼ均衡。海外進出は1次の80%,80 社に対応する総拠点数は278件で1社当たり6.7拠点。1次の中でも売上高1兆円越えの巨大企 業と300億円未満の中小企業ではギャップ大きい。1次にも小規模企業が多数あり,その下に 7000社以上の2次・3次が存在,その海外進出は516社中99社,約19%である。 2012年の2次・3次アンケート結果では,サプライヤーの4分の3が受注減,単価低減,経営 内容悪化。しかしどの規模階層・業種でも4分の1が受注拡大,5%以上の利益率を確保。海 外展開と新技術開発をめぐって部品メーカー・関連サプライヤーの2極分化が鮮明である。 以上自動車部品・付属品製造業では2000年代,特にリーマンショック以降,小零細企業の事 業所数,従業員数,製造品出荷額の減少が著しく,産業構造変化が進んでいる。 海外事業の発展,急速な技術革新の中で,在来型中小企業の急速な衰退がみられる中,グ ローバル化と地域再生・持続型社会の形成とは二者択一を迫られるのか,あるいは矛盾する 両者をともに成功させるのか,困難な政策選択となろう。 キーワード 自動車産業グローバル化の類型,新興国の疑似モータリゼーション,景気循環のグローバル 地域分散,日本自動車・部品産業のグローバル急成長,国内中小企業の停滞・衰退

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1企業環境研究年報No.20, Feb. 2016

21 世紀自動車産業グローバル化の特質と 日本中小企業の経営環境変化

清 晌一郎(関東学院大学)

要  旨 各国自動車産業グローバル化にはいくつかの類型があり,その総体としてのグローバル化が進行している。具体的には,①自動車メーカー自身の輸出・海外生産の拡大(日本,韓国),②自国市場に外資を呼び込んだグローバル化(中国,インド,アメリカ),③グローバル展開の拠点・ハブ(タイ,インドネシア,ブラジル・メキシコ)などである。 アジア新興国を中心とした自動車産業発展は,①各国の富裕層・中間層上層を対象とした「疑似モータリゼーション」によって成立し,②市場の狭隘性や景気循環に対応する投資重点の変更によるリスクの地域分散を通じた持続的成長が一つの特徴である。今後のグローバル展開では,イスラム圏,アフリカなどでの市場争奪戦が課題となる。 日本自動車産業のグローバル展開は急であり,新しい環境エンジン,自動運転システムの商品化,そしてTNGAに見られるグローバル調達・生産システム展開など,排ガス規制問題でVWが停滞する中,欧米企業の水準を引き離して,日本企業のプレゼンスを高めている。自動車部品産業ではとりわけ2014年~ 2015年にかけて売上高は36.9%増,従業員数で38.9%の増加があり,さらに今後の北米市場の活況が期待されている。 2014年の1次アンケート分析では,単独・連結ともに自動車部品メーカーの業績好調,海外拠点は新増設ラッシュ,国内は新増設と縮小閉鎖がほぼ均衡。海外進出は1次の80%,80社に対応する総拠点数は278件で1社当たり6.7拠点。1次の中でも売上高1兆円越えの巨大企業と300億円未満の中小企業ではギャップ大きい。1次にも小規模企業が多数あり,その下に7000社以上の2次・3次が存在,その海外進出は516社中99社,約19%である。 2012年の2次・3次アンケート結果では,サプライヤーの4分の3が受注減,単価低減,経営内容悪化。しかしどの規模階層・業種でも4分の1が受注拡大,5%以上の利益率を確保。海外展開と新技術開発をめぐって部品メーカー・関連サプライヤーの2極分化が鮮明である。以上自動車部品・付属品製造業では2000年代,特にリーマンショック以降,小零細企業の事業所数,従業員数,製造品出荷額の減少が著しく,産業構造変化が進んでいる。 海外事業の発展,急速な技術革新の中で,在来型中小企業の急速な衰退がみられる中,グローバル化と地域再生・持続型社会の形成とは二者択一を迫られるのか,あるいは矛盾する両者をともに成功させるのか,困難な政策選択となろう。

キーワード自動車産業グローバル化の類型,新興国の疑似モータリゼーション,景気循環のグローバル地域分散,日本自動車・部品産業のグローバル急成長,国内中小企業の停滞・衰退

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企業環境研究年報 第 20 号2

く維持されてきた(表−1)。②2000年以降,中国・ASEANなどの成長を受けて新興国向け対外投資が拡大したが,リーマンショックで落ち込んだ後,超円高の中で海外生産の激増と国内生産の減少が開始された。この間中小企業基本法改正,再改正,関連諸法整備が進んだが自動車部品・関連中小企業の状況は好転せず,半期に一度の値引き,あるいは3年間30%の値引きなどの合理化運動の中で受注単価の低下と受注量の減少・不安定化が進んだ。自動車部分品・同付属品製造業の従業員4人以上の事業所では,2003年から2013年にかけて,従業員29人以下の階層で事業所数69.7%,従業員数77.2%,売上高83.0%であるのに対し,従業員数1000人以上の 階 層 で は そ れ ぞ れ120.0 %,153.4 %,251.1%であり,大手企業の発展に対して小零細企業の衰退が著しい(表―1)。 こうした中小企業・小規模事業所に対する近年の政策対応を見ると,現状5%以下の開廃業率の引き上げ(10%),黒字事業所70万社(27.4%)から140万社に引き上げ,今後5年間

はじめに

 本稿の目的はリーマンショック以降,2010年代に入って急速に進む世界自動車産業のグローバル化の実態を明らかにし,その中での日本自動車・同部品産業と関連中小企業の経営の展望について考えることにある。一般に対外直接投資拡大によるグローバル化の進展は国内投資縮小と産業基盤空洞化をもたらすと考えられるが,この点に関して日本ではどのような歴史的経緯を辿ったのか,簡単に要約しておこう。①米国の1957-8年不況以降の多国籍企業の出現,欧州企業による対抗投資の中,日本では65年(昭和40年)不況以降,対外直接投資に替わって輸出型経済構造を形成,これに伴って産業規模が異常に巨大化した。1991年のバブル崩壊,日米構造協議・経済協議,円高・合理化の悪循環,1995年には世界最適調達表明と,輸出依存型からの転換は苛烈を極めたが,対外投資に伴う部品輸出増など,自動車・同関連産業の労働者数,関連中小企業数はよ

表−1 自動車部分品・附属品製造業(4人以上)の事業所数・従業員数・製造品出荷額の推移事業所数

  1985 1995 2003 2008 2010 2013 2013/20034 ~ 29人 8,204 7,877 6,783 6,116 5,152 4,729 69.7%30 ~ 99人 1,435 1,467 1,428 1,593 1,531 1,533 107.4%100 ~ 299人 568 652 708 809 759 737 104.1%300 ~ 499人 128 138 159 184 168 156 98.1%500 ~ 999人 120 135 129 139 138 135 104.7%1000人以上 54 56 55 80 64 66 120.0%

従業者数  1985 1995 2003 2008 2010 2013 2013/2003

4 ~ 29人 86,559 83,414 76,440 71,564 63,117 58,998 77.2%30 ~ 99人 79,672 80,134 81,262 90,200 86,736 86,206 106.1%100 ~ 299人 92,436 108,136 115,805 136,309 128,339 125,541 108.4%300 ~ 499人 48,983 53,691 60,242 69,990 65,047 59,725 99.1%500 ~ 999人 83,183 94,143 88,528 95,145 95,593 92,156 104.1%1000人以上 117,453 111,190 121,038 201,049 173,361 185,689 153.4%

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 3

で新たに1万社の海外展開を目指す数値目標が提示されている。政策実現のための制度は充実しており,事業展開も国,地方,ジェトロ,中小企業基盤整備機構をはじめとする関係団体,日本政策投資銀行をはじめ,各種の金融機関など,相当手厚く推進されつつある1)。 以上,政策遂行の目標は実現不可能と思えるほど意欲的であるが,足元における経済情勢は決して楽観的ではなく,特に中国経済の減速,アメリカの景気回復に伴う金利の引き上げ,中東オイルマネーの減少など,難しい局面を迎えている。また他方で自動車・部品メーカー間の市場競争は熾烈化の一途をたどっており,技術革新をめぐってVW社の排ガス規制違反やタカタのクレーム問題など,様々な問題が噴出している。 本稿では,21世紀に入って一本道のように進んでいると思われがちなグローバル化の具体的な特徴を,各国における生産・販売・輸出入などの状況を再度分析する中で明らかにするとともに,日本自動車・部品産業グローバル化の現状について,統計資料および2012年,2014年に実施したアンケート調査の一部を紹介し,日本における自動車関連中小企業の置かれた位置,直面する諸問題を考える糸口を提示したい。

1,21世紀世界自動車産業グローバル化の 実態-地域別の特徴

 世界の自動車産業は2000年代に入って,大幅な生産規模拡大と技術革新を内容とする巨大な

変動を経験しつつある。この中で2つの点が重要である。第一に,2003年から2014年にかけて世界の自動車生産は48%も増加し,記録的な成長を続けると同時に,世界経済そのものが自動車産業への依存傾向を深めている。表−2,2014年の世界自動車生産台数は8,975万台に達し,世界各社の設備投資計画を踏まえると世界生産は1億台に達すると予想されている。第二に,この生産規模拡大の中心が新興諸国にあり,その結果,アジア・大洋州地域の生産台数が全世界生産台数の52.7%を占めるに至ったことである。しかしさらに注目すべきは,日中韓台湾の東アジア地域が躍進するアジア太平洋地域の81.1%,3,840万台,全世界生産の42.7%にも達

製造品出荷額等  1985 1995 2003 2008 2010 2013 2013/2003

4 ~ 29人 877,669 1,110,382 1,036,611 1,115,520 847,101 860,385 83.0%30 ~ 99人 1,440,006 2,012,074 1,963,791 2,444,137 2,089,436 2,014,401 102.6%100 ~ 299人 2,242,604 3,365,519 4,013,325 5,221,423 4,383,779 4,453,176 111.0%300 ~ 499人 1,287,106 1,919,104 2,547,150 3,115,564 2,929,965 2,657,814 104.3%500 ~ 999人 2,505,756 3,425,968 3,584,957 4,702,661 4,094,331 4,001,066 111.6%1000人以上 4,512,165 5,330,157 6,816,035 15,874,377 14,064,852 17,117,616 251.1%

資料 工業統計表産業編()。規模別データについては,特定規模(少数・秘匿のため)でデータのない年度を除外している。   自動車・同付属品製造業のピークは2007年(同上,規模別データ不揃い)

表−2 世界地域別自動車生産台数(2014年)

地域 地域生産台数 地域総計EU 1,697,688 欧州計 20,382,459CIS 2,224,456 北米計 11,660,699 米州計 21,284,523中南米計 7,229,934日本 9,774,558 日中韓台計

38,401,603アジアの81.1%

世界全体の42.7%

中国 23,722,890韓国 4,524,932台湾 379,223タイ 2,532,577 アジア大洋州計 

52.7%47,372,100  

インド 3,880,938インドネシア 3,840,160アフリカ 636,519 計708,348

世界合計 89,747,430台資料 日本自動車工業会資料による

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企業環境研究年報 第 20 号4

した上,日本および韓国自動車産業の海外現地生産が2000万台を超えたことによって,全世界生産のおよそ60%を日中韓自動車産業が支配下に置くという途方もない現実が生み出されている。アジア大洋州地域のこの現実をどう理解するかは,歴史的な分析を踏まえた議論が必要であろうが,とりあえず,世界各地域のグローバル化と成長の軌跡を,地域別に俯瞰してみよう。

(日中韓) 表−3は2000年代を中心とした日中韓台湾の自動車生産台数および中国市場シェア推移である。この中でまず韓国の成長の軌跡をみると,表―3に示すように,韓国自動車産業のモータリゼーションは1990年代に進み,1997年段階で国内生産規模は300万台に達した。人口4,500 ~5,000万人の韓国市場でのこの生産量実現は輸出ドライブと各社の過剰投資競争の結果であり,1997年のアジア通貨危機は韓国経済を直撃,倒産の危機に直面した韓国自動車メーカーは外資との提携によって生き延びる以外になく,ル

ノー・三星,大宇・GMなど外資系企業が参入して国内市場のグローバル化が進んだ。この中で合併した現代・起亜は市場の70%を占める独占企業であり,輸出の飛躍的拡大によって2007年に400万台水準の国内生産を実現,2000年代に入るとインド,中国,および主要輸出先アメリカでの海外生産を開始,海外生産規模はリーマンショック時の150万台から現在400万台を超えることとなった。他方,日本自動車産業の海外現地生産は2012年から海外生産が急増して2013年度の実績は1,748万台,国内の977万台と併せて,グローバルな生産支配の規模は2,725万台に達している。韓国自動車産業の海外生産は2013年の時点で411万台に達しており,国内の452万台と併せてそのグローバル生産支配は863万台となる2)。従って日韓併せてその生産支配は3,588万台にも達する3)。 これに対して中国自動車産業の場合は,発展の経緯を全く異にしている。改革開放の開始以来,中国政府は乗用車の国産化に取り組んできたが,1970年代,80年代,90年代に至るまで,

表−3 日中韓台湾の自動車生産・販売台数推移� (単位万台)

生産台数 日本 韓国 中国乗用車販売台数 中国4輪車計

台湾計年 世界

(万台)海外生産

国内生産

日本計

海外 国内生産

うち輸出

韓国計

民族系

日系 欧州系

米系 韓国系

1980 2,858 ― 1,104 1,104 - 12 2.5 12 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 22 13.21990 4,825 338 1,349 1,687 - 132 34.7 132 0.6 0.3 2.6 0.8 0.0 47 36.31995 5,004 556 1,006 1,562 - 253 97.8 253 8.9 2.4 18.7 2.5 0.0 143 40.62000 5,837 629 1,014 1,643 - 311 170 311 51.2 8.0 38.5 3.5 0.0 207 37.22002 5,895 765 1,026 1,771 13 315 149 328 97.1 18.8 57.8 12.4 2.1 329 33.42004 6,396 981 1,051 2,032 ※50 347 237.9 397 138.0 57.1 76.4 32.5 21.3 523 43.12006 6,933 1,097 1,148 2,245 101 384 264.8 485 218.6 108.3 96.5 59.4 40.5 719 30.32008 7,076 1,165 1,158 2,323 146 382 268.4 493 268.2 176.5 120.2 65.0 43.9 930 18.32009 6,179 1,012 793 1,805 190 351 214.8 500 465.8 218.0 172.4 100.7 81.5 1,379 22.62010 7,763 1,318 963 2,281 260 427 277.2 683 634.6 269.4 240.0 141.4 104.3 1,826 30.32011 8,010 1,338 840 2,178 314 466 315.2 780 609.3 281.7 280.8 159.3 117.5 1,842 34.32012 8,424 1,586 994 2,580 250 456 317.1 706 653.1 251.7 334.2 179.3 134.1 1,927 33.92013 8,750 1,676 963 2,639 411 452 308.9 863 725.7 295.7 405.0 223.2 158.9 2,212 33.82014 8,975  1,747 977 2724 441 453 306.3 894 761.1 319.5 481.5 253.8 176.1 2,372 37.9

資料  直接に連続している統計がないため,日本自動車工業会統計をベースに,韓国は自動車産業ハンドブックなどの各種資料を用い一部推計,中国の乗用車市場シェアは fourin 資料に基づいて高英月氏作成。

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 5

国有企業を含めた民族系資本での国産化はできず,もっぱら外国資本との合弁生産によってかろうじて自動車生産を行ってきたのであり,その生産規模は1997年段階で150万台,90年代を通じてメーカー百数十社で200万台水準に拡大した。中国での市場が一挙に拡大したのは2000年のWTO加盟決定(実際の加盟は2003年)以降であり,以後毎年100万台を超える能力が拡大,2008年に930万台,2009円には1,379万台,2010年には1,826万台という驚異的な数字を示した。この成長の背景には,リーマンショック後に4兆元の資金を投入した中国政府の不況対策があり,その後の不動産投資,株式バブルにつながる一連のバブル経済の連鎖があることは言うまでもない。なお2011年以降,生産量の増大はやや停滞する中で2012年に大規模な投資を推進,投資による成長を持続しようとした結果,生産能力は5,000万台に肥大化,市場規模2,500万台と考えてもなお2,500万台という史上空前の過剰能力が顕在化しつつある。以上の中国における自動車産業の発展を特徴づけるものは,外国資本と技術の国内への導入による国内市場

そのもののグローバル化である。表―2には2014年の民族系企業の生産が761万台,市場の32%を占めると示されているが,民族系企業の自主開発モデルも多くは外資系技術や外国技術者の利用によって成立しており,深刻な過剰生産の中でその生き残りが課題となっている。

(ASEAN・インド) ASEANの状況をみると,2013年以降,中国市場の停滞とアメリカによる資金の引き上げ,金利引き上げの動きの中で次第に停滞感が強まっている。ASEANの中で特徴的な動きを見せているのはタイとインドネシアであるが,両国はいずれも1980年代から生産を開始し,90年代に30-40万台程度の生産能力の基礎を作り上げてきた。生産量の飛躍的拡大はタイが先行し,2000年代に150万台水準,2010年代にはさらに拡大して250万台水準に到達した。タイの国内市場は70 ~ 130万台程度で変動しており,およそ100万台は輸出によって賄われなければならない構図である。他方,インドネシアは2007年までは40万台水準で経過してきたが,リーマン

表−4 ASEAN・インド,北中南米の自動車産業動向� (万台)

タイ インドネシア

マレーシア

ASEAN インド イラン ブラジル

メキシコ アメリカ カナダ生産台数(万台)年 世界 生産 生産 生産 生産計 生産 生産 生産 生産 輸出 販売 生産 輸入 計1980 2,858 7 18 10 11 117 49 1.8 1,124 801 359 1371991 28 26 23 82 36 96 36 881 445 1891995 5,004 53 38 31 135 63 163 93 78 1,512 1,199 478 2402000 5,837 41 35 36 119 80 28 168 192 106 1,781 1,277 649 2962002 5,895 58 35 46 148 90 45 181 138 1,750 1,227 700 2632004 6,396 93 42 47 192 152 79 232 156 118 1,730 1,196 680 2712006 6,933 119 30 50 208 196 90 261 207 160 1,705 1,126 700 2572008 7,076 139 60 53 270 231 127 322 218 173 1,349 868 690 2082010 7,763 165 70 57 310 354 160 364 235 149 1,177 774 591 2072011 8,010 146 84 53 299 393 165 344 269 174 1,304 866 617 2142012 8,424 245 107 57 427 418 100 343 302 198 1,478 1,034 773 2462013 8,750 246 121 60 444 388 74 374 307 195 1,588 1,105 733 2372014 8,975  188 130 60 398 384 109 315 337 221 1,684 1,166 764 239

資料  直接に連続している統計がないため,日本自動車工業会統計をベースに,各国については fourin 資料に基づいて作成

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企業環境研究年報 第 20 号6

ショック以降投資が拡大,およそ150万台の生産を行うに至った。タイ,インドネシア共に圧倒的に日本車の市場シェアが高く,この能力拡大投資も日系企業を中心に展開されている。 インド市場に関しては90年代に60万台水準までは拡大したが,2000年代に入って一気に規模が拡大,2012年には400万台を突破することになった。ここでは民族系,欧米系,韓国・日本系も入り乱れた市場争奪戦となっており,世界最安モデルの開発競争が行われて来たが,2013年以降市場は停滞し,路線を転換して「世界最安の部品供給基地」を目指すといった議論が行われている。インドの乗用車市場ではスズキ自動車が先鞭をつけ,一時は市場の80%以上を確保していたが,2000年代の急成長の中で投資が追い付かず,結果的にマルチスズキの市場シェアは50%を切ることになった。なお日系企業はインドを超えてパキスタンまで進出,その先のイランでは既に年産100万台水準を超えており,今後イスラム圏の拡大可能性は高いものと思われる4)。

(北中南米) アメリカ市場の販売台数はリーマンショックで1700万台から1177万台にまで落ち込んでいたが次第に回復し,2014年は1,684万台と以前の水準を回復しつつある。これに伴い,史上最低の金利水準の引き上げが行われ,ドル高と新興国からの資金の引き上げが随伴することになる。このような好調にもかかわらずアメリカでの自動車生産 台数はリーマンショック後で774万台,2014年でも1166万台にとどまっている。その理由は表−4に示すようにアメリカの自動車輸入台数は2010年591万台,2014年764万台に上り,これによって市場が満たされているからである。アメリカ市場は構造的に輸入に依存しており,特に現状ではアメリカでの新たな設備投資計画は一件もなく,投資面で活況を呈しているのはメキシコに集中,フォード,GM,クライスラー,VW,のほか,日系は日産にホンダ,

マツダ,トヨタの新プロジェクト,およびダイムラー日産の新プロジェクトなどが進んでいる。メキシコの国内販売台数は100万台程度で,2014年段階でのメキシコの生産台数337万台の内,既に221万台が輸出されているが,アメリカ市場で消化できる能力にも限界があり,その後,過剰能力の処理は南米市場との結びつきに大きくかかわってくるものと思われる。 ブラジルは早い段階で欧米メーカーが進出し,350万台市場に対して支配的な地位を確立している中,近年,日系企業も投資を具体化し始めた。しかしアメリカの金利引き上げの中,景気動向が悪化している。ブラジルでは労働組合の影響も強く,賃金引上げ・物価上昇の中で資材・部品・完成車の価格は国際水準をはるかに超えて高く,過剰能力を輸出でカバーすることも困難で景気変動の影響を受けやすい。南米の将来展望を考えた場合,ブラジルが軸となって南米市場を拡大する動きと,メキシコの生産力拡大,対米輸出からさらに展開して南米市場とも結びつく可能性もあり,動向が注目される。

(欧州・CIS) 表−5に欧州および CIS の状況を示すが,ここでは欧州自動車産業の惨憺たる状況が示されている。西洋で生産量を維持しているのは,ドイツ,スペイン,イギリスであるが,このうちドイツはアウトバーン速度無制限を維持しながら高馬力・高速走行を参入障壁とした独特の高機能市場を形成しており,これら高級・高機能車の輸出と低級車種の輸入で貿易量も多い。欧州ではイギリス(日系メーカーの拠点),スペイン(欧州メーカー中心)が外資によって生産量を維持しているが,外資の参入から防衛されているフランス・ベルギーは2000年代に入っての15年間で生産台数はほとんど半減,イタリーも同じ時期には3分の1にまで縮小してしまっている。これに対してポーランド(人口3800万),チェコ(1049万),スロヴァキア(546万),ルーマニア(2148万)などの東欧諸国で

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 7

は次第に生産が拡大しているが,市場そのものが狭隘であり,その限界を迎えて次に移ることを繰り返している。欧州からの投資はトルコ(7275万),そしてロシア(1億4300万)にまで拡大されているが,2010年代に入ってやや停滞的な傾向を見せている。

2.自動車産業グローバル化の展開メカニズム

(1)疑似モータリゼーションと景気変動の地域分散

 以上俯瞰した2000年代を中心とした自動車産業におけるグローバリゼーションの現実に踏み込んでみると,いくつかの,極めて重要な特徴が明らかになってくる。第一に,自動車産業グローバル化の中心的な成長地域である新興諸国のモータリゼーションは,当該地域における富裕層・中流層を対象とした限定されたモータリゼーション,いわば「疑似モータリゼーション」とでもいえる状況になっている。一般に先進資本主義国における自動車の販売台数は,景気変動による増減や各国独自の経済事情にもよるが,

概ね人口の20分の1程度の水準に到達している。したがって各国における人口規模の20分の1を算出した上,当該年度の自動車販売台数と対置すると,その国の市場の成熟性が簡易的に把握することができると思われる。表―6に当該国の国民一人当たり GDP産出額,人口規模十の20分の1の数値,自動車販売台数を並列してみると,アメリカ,日本,ドイツなどの先進国市場が概ね80-110%の範囲にあるのに対し韓国68.8%とかなりの水準であり,その下にブラジル35.9%,イラン34.8%,中国34.8%,タイ25.4%,メキシコ20.6%と並ぶ。これに対してインドネシアは10.1%,インドは5.1%とごく初歩的な段階にある。 もちろん,先進国並みの人口の20分の1レヴェルの販売水準に到達するためには,国内に十分な富が蓄積されて,国民の消費生活が豊かである必要がある。日本においても新車販売台数が急速に拡大したのは1965年の155万台,1970年に409万台,75年に430万台,80年に501万台であり,1980年の数値をみると日本の総人口1億1706万人に対して,この年の一人当たり名目 GDP は2111ドル,総人口に対する販売台

表−5 欧州各国の自動車生産台数推移� (万台)

生産台数(万台)イギリス ドイツ フランス イタリー スペイン ベルギー ポーランド チェコ スロバキアルーマニア トルコ ロシア 南アフリカ年 世界1980 2,858 131 388 337 161 118 93 43 23 13 5 220 381990 4,828 156 498 377 212 205 125 31 24 21 210 331997 5,235 194 502 383 182 256 110 49 43 17 34 118 371999 5,626 197 569 318 170 285 102 57 38 13 11 30 117 322001 5,630 169 569 363 158 285 119 35 47 18 7 27 125 412003 6,065 185 551 362 132 303 91 32 44 28 10 53 128 422005 6,655 180 576 355 104 275 93 61 60 22 19 88 136 532007 7,327 175 621 302 128 289 83 79 94 57 24 110 166 532009 6,179 109 521 205 84 217 54 88 98 46 30 87 73 372010 7,763 139 591 223 84 239 56 87 108 56 35 109 140 472011 8,010 146 615 224 79 237 60 84 120 64 34 119 199 532012 8,424 158 565 197 67 198 54 65 118 93 34 107 223 542013 8,750 160 572 174 66 216 50 59 113 98 41 113 218 552014 8,975  160 591 182 70 240 51 59 125 99 39 117 189 57

資料 Fourin 自動車統計年刊などによる。一部推計。

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企業環境研究年報 第 20 号8

数の比率は4.2%(20分の1との比較は85.6%)。これに対して表―6で新興国・発展途上国の実情をみると,国民所得水準のギャップ,高速道路・インフラ未整備,大気汚染や交通渋滞などの社会的制約,様々な問題に直面しており,タイで130万台,インドネシアで130万台程度が市場の限界となっており,その後の市場の伸びはかなり難しく,インドの状況ははるかに遅れている。 第二の特徴は,自動車メーカー自身がこのような限界のある市場に対して投資を展開し,その果実を確保すると次々に新たな生産拠点や販売市場を探し出し,柔軟に投資先を切り替えてゆくという投資行動の機敏さ,それによる景気変動リスクの分散にある。具体的には2000年代初頭の中国への集中的投資の後,リーマンショックからの立ち上がり過程で中国から次第にASEAN・インドへの投資に切り替え,中国をはじめASEAN,特にタイ,インドネシアで労働力不足と労働賃金上昇が生じると周辺の新々興国への投資を拡大,インドからパキスタンのカラチへ,あるいはタイからカンボジア,ベトナムのホーチミンへと生産拠点の展開は多方面にわたっている。直近の状況では,中国経済の停滞,ドル金利の上昇と資金のアメリカへの還流による景気低迷の中,投資の焦点はメキシコに向けられている。こうして自動車メーカー,大手部品メーカーの投資先は全世界に分散され,景気動向に従って重点を移しながら安定的に利益確保を追求する。 以上,新興諸国での自動車産業発展の様相を

要約すると,自動車生産ゼロ,単なる完成車輸入の段階からKD生産が始まり,次第に20万台,30万台という規模に達して最小限の生産基盤が形成される時代,外資の投資によって100万台水準にまで拡大する時代と,それぞれに様相は異なるが段階を踏んで成長することになる。このような発展は,早晩労働賃金の上昇を導き,また景気循環による市場の限界を認めると次の地域への投資先の移動を行い,当該国は,一定水準の生産基盤を維持したまま,次の成長を待つことになる。 個々の市場においては,本格的モータリゼーションではなくともそれぞれの国における富裕層・中間層上層を対象とした限定されたモータリゼーションを次々に引き起こし,途上で限界を迎えたら次の投資先に重点を移行させる。この重点の移行によって,投資主体である自動車メーカー・部品メーカーは次々に成長市場を手に入れ,継続的な成長を可能とすることができる。すなわち多国籍生産による市場の先取りと同時に,グローバル分散経営による資本制生産に特有の景気循環の吸収という成果を生み出している。

(各地域の成長を主導する自動車メーカー間の競争) このような各国自動車産業の成長・発展の内実は,世界市場での覇権をめぐる自動車メーカー通しの熾烈なシェア獲得競争によって支えられている。表−7および付表は2004年以降の上位メーカー別の世界新車販売台数および各

表−6 各国の人口・一人当たりGDP・2014年自動車販売台数比較

ドイツ 日本 中国 韓国 タイ インド ネシア インド イラン ブラジ

ルメキシコ

アメリカ

人口 0.8億 1.27億 13.5億 0.5億 0.7億 2.4億 12.2億 0.7億 1.95億 1.13億 3.1億人口÷20(A) 411万 635万 6800万 241万 346万 1200万 6123万 370万 975万 567万 1552万

 GDP・人・千米㌦ 4.78 3.6 0.76 2.80  0.59 0.35  1.61  0.54  1.16  1.08 5.442014販売(B) 336万 556万 2349万 166万 88万 121万 317万 129万 350万 117万 1684万

B/A 81.7% 87.6% 34.8% 68.8% 25.4% 10.1% 5.1% 34.8% 35.9% 20.6% 108.5%資料 各種データによる。人口は国連「世界の人口推計」による2010年の推計による。一人当たり GDP は2014年

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 9

メーカーの販売市場構成の変化の推移である。2014年の数値で見ると,上位6社で5,279万台(市場占有率58.8 %),10社で6755万台(同75%)に上っている。まず販売台数推移に鮮明であるが,この間の自動車メーカー間の市場シェア争いは熾烈であり,トヨタ,GMの優位,ルノー日産の安定的な伸びに対して,VW,現代・起亞の躍進は著しく,他方,フォードはその凋落が顕著である。 上位6社の変動の内容をみると,いくつかの特徴をみることができる。まず米国メーカーのうち,GMは北米市場のウェイトを200万台減少させ,代わりに中国市場での大幅な生産拡大によって生産台数を維持,世界3位の位置を守った。これに対してフォードの場合は米国市場で100万台以上後退,中国その他の市場でも後退,総販売台数を減らして凋落が著しい。世

界市場での躍進が著しいVWの場合,欧州で80万台を拡大,中国市場で大幅に販売を拡大し,販売の3分の1,利益の半分を中国市場から得ることによって世界一の生産台数を実現した。VW社のもう一つの特徴は北米市場のウェイトが低いことだが,その販売拡大を号令したのが2005年であり,以後,2015年9月に明らかになった北米での排ガス規制での不正に手を染め続けることになるが,この間の生産台数の拡大は30万台程度である。もう1社,驚異的な躍進を続けた現代・起亜の場合,中国を中心にすべての地域で生産台数を拡大している。他方,トヨタ自動車は中国への展開は遅れたが,主要市場を北米と日本で構成し,新規投資よりも稼働率向上を追求して高い利益率を上げている点が注目される。なお2015年12月にルノー日産グループの中では,日産自動車がフランス政府の介入に

表−7 メーカー別・世界自動車販売台数� (単位万台)

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014※

Toyota Group 745 803 867 918 877 761 827 788 963 987 1,023VW Group 506 509 564 609 608 653 725 833 903 941 1,014GM Group 879 905 893 926 820 720 804 875 907 946 992Renault/Nissan 560 588 563 583 575 567 676 745 750 773 847Hyndai Group 322 379 404 420 439 517 599 675 695 723 771Ford 783 782 726 767 686 485 536 534 539 691 632

資料 各種データによる。人口は国連「世界の人口推計」による2010年の推計による。一人当たり GDP は2014年

表−7(付表) 各メーカーの販売市場構成比の変化� (%,総生産台数は万台)

トヨタ VW GM Renault 日産 現代・起亜 Ford年次 2004 2013 2004 2013 2004 2013 2004 2013 2004 2013 2004 2013

総生産台数 745 963 506 902 879 906 560 773 321 723 783 590南米 1.7 3.5 9.1 10.2 6.4 10.9 2.6 7.8 1.3 6.0 4.0 9.0北米 30.8 25.4 10.4 9.4 61.2 34.0 23.6 21.0 24.4 20.3 52.4 48.6西中東欧 13.1 8.2 62.7 41.4 21.1 14.4 47.5 36.7 23.4 17.4 30.6 22.8日本 32.1 23.3 1.4 1.1 - - 14.8 8.8 - - 0.2 -韓国 - - - - - - - - 25.0 15.2 - -中国 - 8.8 - 32.3 - 33.2 - 12.3 - 21.9 - 11.5アジア 13.6 19.3 13.2 2.0 17.5 3.5 5.9 6.4 14.2 7.0 4.4 3.5その他 8.8 11.6 2.2 3.6 3.5 3.7 4.5 6.9 13.8 12.2 4.7 4.5

出所 Fourin 世界自動車統計年刊(2009,2014)より作成

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企業環境研究年報 第 20 号10

異議を申し立て,必要な場合に日産がルノーの株を買い増す方針を打ち出しており,ルノー日産の中で日産自動車の発言権が増している。 以上の自動車メーカー別の世界市場シェア競争の内容をみると,第一に,分散的に成長する世界の市場を次々に確実に確保すること,第二に,この分散する市場での収益性を高め,確実な利益に結び付けることの2つが重要なテーマとなってくる。2015年上半期の収益性をみると,トヨタ自動車は生産量拡大よりも収益性を重視しており,特に2016年まで新工場増設を行わず,既存工場の稼働率向上を目指した結果,VWに比べてはるかに高い収益性を実現することとなった。

3.日本自動車・同部品産業のグローバル化の現状

 2014-15年の世界自動車産業のグローバル競争の動向をみると,日本自動車産業のプレゼンスが増していることを重要な特徴点として挙げることができる。それは2015年9月に明らかになったVW社のアメリカにおける排ガス規制に関する不正の発覚を契機として,日本におけるハイブリッド技術や自動運転などの技術的優位性とともに,経営面でもトヨタ自動車をはじめとする日本企業の品質水準の高さ,多国籍経営における収益性の高さなどが鮮明になり,その結果としても顕在しつつあるものと考えることができる。その具体的内容として,日本自動車産業のグローバル展開の実態を示しておこう。

(1)日本自動車・同部品産業の海外進出先数と雇用人員

 日本自動車産業の2013年度の国内生産は963万台,2014年は977万台となったが,近年の特徴は,2009年以降,海外生産が急拡大し,2014年度の実績は1,748万台と,僅か5年の間に72%も生産台数を増加させた。自販連の国内新車販売台数は2013年が556万台,2014年が537万台であるから,2014年度の国内生産・海外生産の総台数2,725万台のうち,僅かに19%を占めるにすぎず,海外市場への依存度は81%にも達し,2013年度の63%に続いて全生産に占める海外生産の比率は3年連続で6割を超えることとなった。 自動車産業の海外現地生産は,1980年代にアメリカ,1990年代に欧州とアジア,そして2000年代に入って中国,2010年代に入ってインドやアセアン,そして直近ではメキシコと,その主たる投資先を変遷させてきた。その海外拠点数を表―8で見ると,自動車メーカーの全生産拠点は4輪が184,2輪・2/ 4輪,部品などの拠点が122,合計で306拠点となっている。また自動車部品メーカーの海外拠点数は2015年8月の調査によると1,989拠点となっており,その雇用人員数は,自動車部品産業で2013年の646,000人から14年は897,522人へ38.9%も増大した。また海外事業の売上高は,2013年の10兆1700億から2014年には13兆9261億円へ36.9%の伸びを示した。 自動車メーカーを含む全自動車産業の海外雇用は少なくとも120万人を超え,売上高は30兆

表−8 日本自動車・部品メーカーの現地生産工場数および雇用人員

自動車メーカー 部品メーカー生産拠点数 部品メーカー総雇用人員4輪 2輪・部品等 2013 2014 2013 2014

欧州計 19 8 215 213 68,054 67,760人北中南米米計 20 15 428 451 116,058人 185,600人アジア計 107 81 1265 1,283 446,891人 573,981人

中近東・アフリカ他 21 3 41 42 15,315人 20,181人合計 184 122 1949 1,989 646,318人 897,522人

資料 日本自動車工業会・日本自動車部品工業会資料による

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 11

表−9 日本自動車部品産業の海外事業地域別業績−1(上段:今回2015年7月,中段前回2014年7月,下段:前々回2013年7月調査結果)

北米 欧州 アジア うちASEAN うち中国 中南米 その他 合計

(全世界)

売上高(億円)

2015 43,351 14,678 69,941 29,488 27,640 9,216 2,076 139,261

2014 30,180 11,608 53,767 27,533 21,270 4,125 2,024 101,704

2013 27,931 9,515 44,861 22,886 16,976 5,101 1,444 88,852

1社平均売上高(億円)

310 143 123 130 108 125 86 153

302 153 133 167 122 106 101 159

220 108 89 108 79 113 72 113

当該国内向け比率(加重平均・%)

91.0 54.1 72.0 56.4 82.1 58.0 37.3 74.1

89.0 57.7 70.9 63.1 78.3 87.7 39.6 74.6

93.4 69.8 73.9 69.1 76.7 66 41.1 78.9

うち日系自動車メーカー向(%)

68.4 18.3 53.0 45.9 59.5 40.8 14.8 52.9

74.5 27.5 54.3 53.8 56.0 61.3 28.6 56.8

71.4 13.3 53.8 56.3 54.5 45.5 29.9 54.1

うち当該国自動車メーカー向(%)

10.5 31.2 8.0 1.4 9.8 12.1 22.3 11.0

7.9 26.8 6.6 0.9 11.1 23.9 10.7 10.0

14.8 53.1 9.3 1.6 11.2 18.6 10.6 16.7

輸出比率(加重平均・%)

9.0 45.9 27.2 43.6 17.9 42.0 62.7 25.5

11.0 42.3 29.1 36.9 21.7 12.3 60.4 25.4

6.6 30.2 26.1 30.9 23.3 34.0 59.9 21.1

うち日本以外向け(%)

8.0 45.7 14.0 22.7 7.3 41.7 62.7 17.9

9.6 42.2 15.9 21.8 9.7 12.2 60.4 17.8

(5.7) (29.8) (13.8) (18.1) (9.8) (33.9) (59.9) (14.7)

単年度黒字法人比率(%)

78.1 77.3 79.7 81.8 78.1 38.7 78.9 75.9

77.1 74.6 81.7 90.0 79.3 63.3 68.8 78.7

78.8 61.4 77.3 85.6 70.8 71.4 68.8 75.4

累積黒字法人比率(%)

66.1 64.9 73.0 77.0 73.3 41.9 57.9 68.2

63.0 58.5 80.2 86.4 81.4 65.5 62.5 73.7

55.5 59.4 75.2 79.8 75.3 69.7 75.0 70.0

配当法人比率(%)

43.5 30.8 46.5 49.1 45.0 14.3 23.5 41.4

43.2 25.5 55.7 63.2 53.7 32.1 43.8 48.7

28.6 19.0 53.1 57.4 52.9 30.3 33.3 43.8

出所 日本自動車部品工業会・「海外事業概況調査」報告より作成

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企業環境研究年報 第 20 号12

円を大幅に上回るものと推定される。日本国内の自動車産業の規模を平成26年度労働力調査及び平成25年工業統計表で見ると,自動車製造業178,000人,自動車車体製造業17,000人,自動車部分品・付属品製造業608,000人,合計803,000人,製造品出荷額52兆円の国内事業規模は昨年度に比べて順調に増加しており,国内・海外ともに好調に推移しているといってよい。なお,工業統計表による自動車および部品産業の総従業員数は1990年に788,783人であるが,この時期以降,従業者数は現在までほぼ維持されており,横ばいの状態にある。現在,自動車関連の従業員数は関連部門を含めて約550万人でその数は年々増加しており,日本の全就業人口6,351万人の8.7%を占める巨大なものとなっている。

(2)急拡大する日本自動車部品産業の海外事業 このような自動車メーカーのグローバル展開に対応する自動車部品産業の動向を紹介しておこう。表−9,10は日本自動車部品工業会が毎年夏に実施している「海外事業概要調査」の

結果であるが,特筆すべきことは2014年から2015年にかけて,海外事業の売上高が36.9%増加,また従業員数も38.9%増加と急成長を遂げていることである。総売上高については,アジアが総額の50.2%,北米が31.1%であり,この両地域で実に全世界売上の81.3%を占める。1社平均売上高では,北米が圧倒的に大きく,310億円と第二位の欧州143億円を引き離している。製品の国内向け比率では北米91.0%,中国82.1%が高く,ASEAN では僅かに56.4%,欧州では54.1%にとどまっており,それぞれの地域の狭隘性及び周辺地域への展開のハブとしての機能が拡大している点が見てとれる。 部品生産拠点の販売先の内,日系自動車メーカー向けの比率を見ると,北米68.4%,中国59.5%が高いが,欧州では18.3%と少なく,外国企業相手のビジネスが中心であることがわかる。その結果当該国の自動車メーカーとの取引は,欧州では31.2%,中南米で23.9%となっている。逆にアセアンをはじめ,アジア地域の国々では当該国の自動車メーカとの取引はほとんど

表−10 日本自動車部品産業の海外事業地域別業績−2(上段:今回2015年7月,中段前回2014年7月,下段:前々回2013年7月調査結果)

北米 欧州 アジア うちASEAN うち中国 中南米 その他 合計

(全世界)

現地調達率(%)

78.3 75.9 74.5 71.5 77.5 55.8 61.4 73.4

74.8 73.1 69.9 67.8 71.8 62.5 56.7 70.1

72.9 70.2 67.1 66.9 66.8 54.7 61.8 67.5

総雇用者数(人)

92,826 67,680 573,981 313,112 181,495 92,774 20,181 847,522

75,288 68,054 446,891 254,233 157,061 40,770 15,315 646,318

77,512 68,589 455,144 259,216 159,417 45,489 15,378 662,121

1社平均雇用者数(人)

618.8 627.4 976.2 1,333.8 684.9 1,189 807.2 893.1

602.3 773.3 899.2 1,222.3 744.4 970.7 729.3 836.1

587.2 762 882 1183 741 1011 732 823.5

1人当り売上高(百万円)

48.4 22.2 12.4 9.5 15.8 10.1 10.4 16.8

47.7 17.6 13.3 11.8 15.1 13.8 13.3 17.6

36.9 14.0 10.0 9.0 10.8 11.2 9.4 13.3

出所 日本自動車部品工業会・「海外事業概況調査」報告より作成

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 13

ない。また輸出比率の高いのは欧州45.7%,アセアン43.6%となっており,性格は異なるがいずれも当該地域の過剰生産=競争が激しく,また当該地域での技術蓄積の高いほど,周辺地域への部品輸出など,ハブ的な機能を高めていることが推定される。 経営状況を見ると,単年度黒字法人比率が高いのはアセアン,アジア地域であるが,北米,欧州を始め,全般的に75%以上の企業が黒字となっている。但し累積ではアジアで73%,特にアセアンは77%,中国では73.3%を示している。また配当法人は高いところで49.1%(アセアン),45.0%(中国)などアジアは比較的高いが,米国43.5%,欧州30.8%という水準になっている。また1社あたりの従業員数ではASEANの1333人が非常に高いが,従業員一人当たり売上高で見ると,北米が4,840万円と別格の水準を示しており,特に近年の北米市場の景気回復を考えると注目される展開となっている。さらに現地生産の内容に立ち入った指標をみると,現地調達率については平均的にかなり高く,米

国で78.3%,中国で77.5%に達し,アジア地域でも74.5%,全世界平均でも73.4%となり,昨年から3-5%ほど高く,いわゆる深層現調化が急速に進んでいることが分かる。既にみたように,総雇用者数では2014年度の雇用者総数646,318人に対して,2015年度は847,522人と激増しており,中でもアジア地域は実に573,981人と,67.7%をアジアでの雇用が占めている。

4.自動車・同部品関連1次サプライヤー,2次・3次サプライヤー調査の結果

 冒頭に示したように21世紀に入って,特にリーマンショック以降,小零細企業の事業所数,従業員数,売上高ともに減少傾向にあり,自動車産業の産業構造も次第に変化しつつある。2010年代の日本自動車産業の構造変化について,筆者が研究代表を務める調査研究プロジェクト「自動車産業におけるグローバルサプライヤーシステムの変化と国際競争力に関する調査研究(科研費・2011-2015年度)」では,下記の2つのアンケート調査を実施した。その概要を示し

表−11 貴社の経営動向 (対2010年度比)

連結 単独回答数 増加 不変 減少 回答数 増加 不変 減少

売上高の変化57社 44 9 4 93 55 13 25100% 77.2 15.8  7.0 100% 59.1 14.0 26.9

受注数量の変化51 43 4 4 87 53 11 23100% 84.3  7.8 7.8 100% 60.9 12.6 26.4

販売先数の変化50 35 13 2 87 36 46 5100% 70.0 26.0 4.0 100% 41.4 52,9 5.7

営業利益の変化57 37 6 14 92 48 12 32100% 64.9 10.5 24.6 100% 52.2 13.0 34.8

海外売上比率の変化57 42 10 2 79 38 28 13100% 77.8 18.5 3.7 100% 48.1 35.4 16.5

従業員数の変化54 43 6 8 93 40 26 27100% 75.4 10.5 14.0 100% 43.0 28.0 29.0

購入部品・材料比率の変化57 20 20 4 79 30 42 7100% 45.5 45.5 9.1 100% 38.0 53.2 8.9

研究開発費比率の変化44 23 23 4 84 29 39 6100% 46.0 46.0 8.0 100% 46.4 46.4 7.1

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企業環境研究年報 第 20 号14

ながら,現在問題となっている国内自動車・同部品産業空洞化の実態を可能な限り明らかにしたい。

(1)自動車関連1次サプライヤーの調査結果【海外オペレーション中心に成長する1次サプライヤー】 表−11,売上高について,連結ベースでは77%の企業が売上高を増加させているのに対し,単独ベースでは26.9%の企業が売上高を減少させており,グローバル・オペレーションの成長に対して,国内での単独事業は停滞傾向が見られる。受注数量については,連結ベースでは同様に連結ベースでの伸びが高い。販売先数は,明らかに連結ベースの方が増加している企業が多く,単独ベースでは不変という回答が多い。 これに対して営業利益率では,連結ベースで増加が64.9%,減少が26.6%,単独ベースでは増加が52.2%,減少が34.8%であり,共通の傾向は,不変と答えた企業の割合が,連結で10.5%,単独で13.0%といずれも低かったこと

であり,増加の傾向の方が強いにしても,両極分解的な様相を呈している。海外売上比率の増加傾向を見ると,連結ベースで77.8%,単独ベースでは48.1%が増加であるが,連結ベースの方が高い数値が出ている。 従業員数については,連結ベースでの増加傾向が強いのに対し,単独ベースでは増加は43%,に留まり,減少が29%にも上っている。売上高に対する購入部品・材料比率に関しては,増加と不変が相半ばしているが,単独の方がやや増加傾向が鈍い。研究開発費比率は,連結・単独とも全く同じ傾向にあり,増加と不変がほぼ拮抗しており,減少はごく少ない。 以上,指標の全体を通して,国内オペレーションを主軸としている単独事業の内容に比べて,海外オペレーションを含む連結での事業展開が盛んであり,売上高,受注数量,販売先数,従業員数のいずれも,連結事業における伸びが顕著であり,日本自動車部品産業の資本蓄積基盤=成長基盤の主軸が国内から海外を中心とするグローバル・オペレーションに移行しつつある

表−12 海外・国内事業の再編

回答企業数 回答率100%

海外事業再編回答企業数86

海外拠点・工場の新増設 70 81.4%海外事業拠点の縮小・整理 8 9.3その他 15 17.4

国内事業再編回答企業数83

国内拠点・工場の新増設 34 41.0%不採算部門の縮小・整理・国内能力縮小 37 44.6その他 15 19.3

表−13 社内合理化運動の実施状況(複数回答可)

回答総数90社 比率ライン数削減,能力削減 29 32.2 生産品目の絞り込み 13 14.4内外製区分の見直し 55 61.1 セル生産方式拡大 9 10.0部品の共通化推進 37 41.1 全面自動化の推進 21 23.3モジュール化の推進 23 25.8 その他 16 17.8

調査票タイトル 実施時期 総発送数 回答数 回収率

自動車関連2次・3次企業アンケート調査 2012年12月 7000社 938社 13.72%

自動車部品メーカー(1次)に関する実態調査 2014年03月 605社 109社 18.02%

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 15

ことが鮮明である。なお購買・外注と開発についてはいずれも増加と不変が相半ばしており,国内・海外において顕著な差は認められない。【海外・国内拠点の再編】 経営動向の変化に対応する海外・国内拠点の再編については(表−12),海外拠点・工場の新増設が81.4%にのぼり,圧倒的なトレンドを作り出している。他方,国内事業の再編については,44.6%の企業が不採算部門の縮小・整理・国内能力縮小を上げているのに対し,他方で41.0%の企業が国内拠点・工場の新増設を上げており,単純に国内の縮小再編だけでなく,国内での新増設も有力な手段であることが注目される。【社内合理化運動の内容】 対応策の一つとしての社内合理化について表−13をみると,内外製区分の見直しが全体6割にも上っており,ついで部品の共通化の推進41.1%,ライン数削減・能力削減となっている。この内外製区分の内容については,外注加工分野の社内への取り込み,海外生産での地場産業育成のノウハウの内製化,あるいはグローバル形成をサポートする系列サプライヤー育成のための外製化など,様々な理由が推測される。【自動車関連仕入れ先の状況】 次に自動車関連仕入先数別の企業数分布をみ

てみよう(表−14)。連結での回答企業数が少ないために,きちんとした比較は難しいが,単独の数値を見ると,全般的に見て国内単独では仕入先数が少ない企業も,多い企業もあり,多様な形で分布しているのに対し,連結での回答を見ると,むしろかなり仕入先数が多いほうに分布している。この理由を推察するに,海外生産においては,社内リソースが不十分な中で初期投資を節約し,経営の安定を目指すために,外部からの購買・外注(日本からの輸出を含む)で対応していることが推察されるほか,海外生産には仕入先企業数の多い企業,すなわち多数の部品を使って組立・製造を行う企業の方が向いており,逆に仕入先数の少ない,恐らくは原材料費率の高い企業にとっては,海外生産は困難なものである可能性も考え得る。【経営動向の変化に対応する対仕入先政策】 回答企業の経営動向変化への対応策についての表−15で,社内合理化運動のトップに挙げられた内外製区分の見直しに関連して,仕入先に関する対応策についての回答を見よう。先ず国内・海外におけるサプライヤー数の増減の状況を見ると,国内では仕入先数の増加と減少が相半ばしており,不変が56%を占めている。これに対して海外の状況を見ると,増加が43.8%,ついで不変52.5%であり,減少はごく少ない。

表−14 自動車関連仕入先数別の企業分布(購入部品・材料)

種別 回答数・回答率 0社 1-20社 21-50社 51-100 100-300 300社以上

連結回答件数28社 0 4 3 4 4 13回答率100% 0.0% 14.3 10.7 14.3 14.3 46.4

単独回答件数89社 2 8 8 18 15 9回答率100% 3.3 13.3 13.3 30.0 25.0 15.0

表−15 国内・海外の仕入先数の増減

回答数・回答率 増加 不変 減少

国内回答数 93社 18 56 19比率 100% 19.4% 60.2 20.4

海外回答数 80社 35 42 3比率 100% 43.8 52.5 3.8

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企業環境研究年報 第 20 号16

海外生産における現地化の推進,あるいは深層現調化の推進と,それに伴う現地サプライヤーの増加,あるいはASEAN に典型的に見られるように,海外に進出した拠点同士,あるいは日系企業同士の間での資材・部品購買が活発化している状況がここには示されているように思われる。【貴社の海外研究開発部門の状況】 さて,グローバル・オペレーションを展開して,世界各地の自動車メーカーに販路拡大を求めることになると,それぞれの地域での研究開発拠点の形成が課題となる。現在の海外研究開発拠点の設置状況に関する設問への回答は,表−16に示されている。ここでは設問項目を以

下の4つのカテゴリーに整理した。一つは現地化に関連して重視されるテスト・評価,それにアプリケーション・ソフト開発,そして基本設計,さらに基礎的な研究開発の4項目である。これに対する回答は興味深いものであった。 先ず,回答企業のうち,それぞれの拠点に研究開発拠点を持っている企業は,多くても10社を超える程度であること,これは回答総数108社から見ると著しく少ないが,逆に言えば研究開発機能を海外拠点としてもてる企業は,自動車部品メーカーの中でもせいぜい上位10%の大手企業に限られると考えることもできる。具体的な数値を見ると,北米13,欧州12という配置に続いて中国10,ASEAN9となっている。各

表−16 貴社の海外研究開発拠点(部門)数及び機能について

回答件数 テスト・評価 アプリケーション・ソフト開発

基本設計 研究開発

欧州12 9 8 7 6

100.0% 75.0 66.7 58.3 50.0

北米13 9 9 8 5100.0 69.2 69.2 61,5 38.5

中南米3 1 2 1 1100.0 33.3 66.7 33.3 33,3

中国10 7 6 5 3100.0 70.0 60.0 50.0 30.0

ASEAN9 4 6 5 3100.0 44.4 66.7 55.6 33.3

インド5 2 3 2 1

100.0 40.0 60.0 40.0 20.0

その他1 1 1 1 0

100.0 100.0 100.0 100.0 0.0

表−17 今後の設置・増強計画

欧州 北米 中南米 中国 ASEAN インド その他回答数 17 20 13 20 21 12 10

有り3 4 2 4 5 4 117.6 20.0 15.4 20.0 23.8 30.8 10.0

なし14 16 11 16 16 9 982.4 80.0 84.6 80.0 76.2 69.2 90.0

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 17

地域の特徴を見ると,欧州,北米,中国がやや似たパターンを示しており,テスト・評価が69~ 75%,基本設計が58.3%,61.5%となっている。これに対し,アプリケーション・ソフト開発は欧州66.7%,米国69.2%,中南米66.7%,中国60.0%,ASEAN66.7%,インド60%と,どの地域でも一定の比率でみられ,特段の差はない。また研究開発については,欧州の50%,北米の38.5%がやや高いが,他は30%程度であって,この分野での展開はこれからという状況である。 表−17,研究開発拠点の今後の設置・増強計画については,各地域の回答企業数に対して欧州17.6%,北米20.0%,中南米15.4%,中国20.0%,ASEAN23.8%,インド30.8%と,計画のある企業は概ね20%程度に留まっている。グローバル・オペレーションを進める上で,相手企業に対応した開発拠点設置は重要な課題であるにも拘わらず,それぞれで80%近い企業が計画を持っていないという点,メガ・大手サプライヤと中堅・中小サプライヤーとの間の階層的なギャップを埋めることはなかなか困難な課題であるように思われる。

【海外拠点の現地調達・仕入先企業数の割合】 海外拠点における仕入先の動向は,今後の日本の関連産業・中小企業の海外展開を考える上でも極めて重要なテーマである。表-18に示すように,まず回答企業の現地調達率について設問した。回答企業の少なさはおくとして,現調率は欧米で80%以上5),中国・ASEAN で70%程度からインドで74%,中南米で64.7%という水準になっている。これらの地域の中で外資系企業に依存する割合の高い地域は,欧州が71.4%と抜きんでており,ついで米国の42.4%,中国の30.0%となっている。 これに対して日系企業に対する依存度はどうであろうか。欧州の数値は僅か1%であり,日系企業の進出が少ない中,現地での調達はもっぱら外国系企業に依存せざるを得ない現実が表現されている。その他の地域での日系企業依存では,大量の日系企業が進出して日本自動車産業の拠点化しているタイでの61.4%という数値を示している。次いで中国の47.6%,中南米の37.6%であり,ASEAN,中国での日系企業依存が高いことが注目される。 他方,海外現地生産拠点における現地民族系

表−18 海外拠点の現地調達率・仕入先企業数の割合

現地調達率仕入先企業数

民族系企業 欧米系企業 日系企業

欧州回答数10社 回答企業数 7 7 1

平均現調率82.6% 平均値 13.6% 71.4% 1.0

米国回答数21社 回答企業数 16 16 16

平均現調率81.2% 平均値 16.1 42.4 41.4

中南米回答数11社 回答企業数 9 9 9

平均現調率64.7% 平均値 32.4 30.0 37.6

中国回答数29社 回答企業数 20 19 19

平均現調率70.0% 平均値 44.5 10.3 46.5

ASEAN回答数30社 回答企業数 21 21 23

平均現調率70.7% 平均値 32.5 8.8 61.4

インド回答数10社 回答企業数 5 4 5

平均現調率74.6% 平均値 73.8 1.3 23.2

その他回答数3社 回答企業数 2 2 2

平均現調率30.7% 平均値 26.0 7.0 67.0

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企業環境研究年報 第 20 号18

企業への依存度はどうであろうか。現地民族系企業への依存が最も高いのはインドであり,ここでは日系企業のネットワークが弱く,外資系もそれほど出ていない状況の下で,現地化せざるを得ない状況がある。他に現地民族系企業依存が高いのは中国44.5%,ASEAN32.5%,中南米32.4%ということになる。これらの数値はインドの75%は別格としても,新興諸国では低コスト生産の追求が進み,「現地化の追求」はそれ自身が今や最大のテーマとなって強力に推進されていることをうかがわせる。日本国内の関連企業の見積りの方が安くても,現地材に切り替えられてしまう,といった事例も聞く。 さて現地での民族系企業への依存が高まっていることは,それなりに現地仕入先企業の育成が進んでいることの反映であろうか。この点に関する設問は,表−19にまとめられている。この中で現地企業の育成について,全般的に順調と答えている企業は欧州22.2%,米国30.3%,中国30.3 %,ASEAN とインドはそれぞれ13.6%と16.7%であり,相当厳しい状況が見て取れる。困難の比率が高いのは中南米50.0%,ASEAN36.4%,インド33.3%,米国30.3%,中

国25.0%であり,日本企業の海外生産の歴史が既に4半世紀を超え,それなりの指導育成を経た上での「困難」という回答には重みがある。この状況を反映して,全般的に最も多い回答は「一進一退」であり,欧州で55.5%,ASEANで60%,インド・中南米50%,中国は45%にも上っている。「日本人がいてきちんと管理していればやるが,いなくなってしばらくすると崩れてくる」。多くの日系企業が述懐するこの現実は,日本自動車・部品産業の海外現地生産において,現地化はやるべきだが,「やり過ぎるとリスクを背負い込む」という現地化のパラドックスを如実に示しているのかもしれない。

(2)自動車関連2次・3次サプライヤー調査結果の概要(2012年11月実施)

【回答企業の概要】 次に2012年に実施した2次・3次サプライヤー調査の概要を示すと,以下のとおりである。表―20,回答事業所の85%は従業員100人以下で予想外に企業規模が小さく,外注先数は5社未満が71%で階層構造の底は予想外に浅い。リーマンショック後の対策として非正規・正規

表−19 現地仕入先企業の育成状況及び日系企業進出の必要性現地企業の育成状況 日系企業の進出必要性

回答数 順調 一進一退 困難 回答数 是非必要 必要 不要

欧州9 2 5 2 10 2 4 4100.0 22.2 55.6 22.2 100.0 20.0 40.0 40.0

米国13 4 5 4 16 3 7 6100.0 30.8 38.5 30.3 100.0 18.8 43.8 37.5

中南米8 0 4 4 10 2 4 4100.0 0.0 50.0 50.0 100.0 20.0 40.0 40.0

中国20 6 9 5 21 3 14 4100.0 30.0 45.0 25.0 100.0 14.3 66.7 19.0

ASEAN22 3 11 8 25 6 14 5100.0 13.6 60.0 36.4 100.0 24.0 56.0 20.0

インド6 1 3 2 7 1 4 2100.0 16.7 50.0 33.3 100.0 14.3 57.1 28.5

その他2 0 1 1 3 0 2 1100.0 0.0 50.0 50.0 100.0 0.0 66.7 33.3

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 19

従業員数を減らし,外注先も削減しているケースが多い。研究開発費なしが53.3%,3%未満が81.7%を占めており,エンジニア数5人以下が全体の75%と,技術基盤の薄さが目立つ。 これらの企業の最終取引先はトヨタ自動車52.1%,ホンダ技研37.8%,日産自動車37.4%で,この3社の業界全体への影響が非常に大きい。主要取引先が1次サプライヤーである企業が55.6%,2次サプライヤーであるものが22.5%であり,主要取引先からの支援は「特にない」47.6%,その他の支援内容は改善の指導や情報共有が主たる内容である。主要製品の量産規模は月産10,000個以上の製品が56.3%,500個未満が28.3%,その設計は納入先設計のものが79.5%,自社設計は僅かに7.4%に過ぎない。受注単価が上がっているケースは殆どなく,原材料費の上昇は工賃の圧縮でカバーし,58.8%の企業で単価が低下している。

【回答企業の経営動向】 受注数量・売上高では受注減少が62.3%,売上高減少が62.0%と全体として厳しい状況が続いているが,この中で受注増加が25.8%,売上高増加が29.2%,利益率5%以上の企業も4分の1ある。両者の中間で売上高,受注数量ともに安定している企業の比率は少ないから,いわば両極分解(2極化)ともいえる傾向を見せており,今後も業界の変動がさらに進むものと思われる。受注拡大のケースとして名古屋地区から電子関連精密加工を行う諏訪地区への発注が増えた例もあり,また同業他社の倒産・廃業によって仕事が集中し,繁忙を極めているケースなど,ある種の構造変動が進んでいることもが推測される。【海外進出の現状】 表−21,海外進出の実績と計画については,519社中「実績あり」71社,「計画あり」27社,

表−20 回答企業の概要(従業員規模・自動車関連の売上高比率)

従業員規模 回答件数計 10人以下 11 ~ 20人 21 ~ 50人 51 ~ 100人 101 ~ 300人 301人以上

全体865  141  160  272  167  111  14 100.0  16.3  18.5  31.4  19.3  12.8  1.6

自動車関連売上比率

回答件数計 20%未満 20 ~ 40%未満

40 ~ 60%未満

60 ~ 80%未満

80 ~ 100%未満 100%

全体839  103  69  82  111  257  217 100.0  12.3  8.2  9.8  13.2  30.6  25.9

表−21 海外現地生産の有無,人材確保,進出しない理由

海外現地生産の有無  回答企業数 518

 現地駐在員の確保

回答企業数 97

 あり71  

自社の既存人材で確保 67中途採用などで新たに確保 29取引先からの支援 7

開始を計画中 27経営現地化により駐在廃止 7その他 11

なし  

420 海外進出をしない理由

回答企業数 382現地の販売先・輸出先を確保できない 62国内に進出計画を立案・実行できる人材がいない 52現地での経営を担う人材がいない 100進出に伴う投資資金の負担が重い 164国内生産に特化する方針である 223

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企業環境研究年報 第 20 号20

計98社にとどまる。残り421社は進出の意向はなく,「現地の販売先を確保できない」,「国内にプロジェクトを進める人材がいない」,「現地の経営を任せる人材がいない」,「進出の投資負担が重い」と答え,224社が国内生産に特化する方針であると答えている。進出実績の内容を見ると,82社が現地日系企業に販売し,36社が日本への逆輸入を行っている。 海外進出先,進出形態,進出時期,販路に関するそれぞれの問いへの回答を取りまとめると,表−22のようになる。まず進出形態について言えば,欧米は単独進出が多いのに対し,中国・アセアンについては合弁および技術提携のウェイトが相対的に高まっていることが見て取れる。進出時期についてみると,欧米,アセアンが90年代,2000年代に多いのに対し,中国についてはごく最近,2010年代の回答が多いのが特徴となっている。次いで,現地工場の販路についての設問に対しては,欧米への進出では現地日系企業の他,現地欧米系への販売がかなり高い比率になっている。しかし中国およびアセアンについては,現地日系への販売の他,日本への逆輸入も一定の比率になっている。

まとめ

 以上に叙述した本稿の内容をもう一度要約し,その含意を考えてみよう。①冒頭で自動車部品・付属品製造業の従業員規模別の推移を見た。ここでは2000年代に入って,特にリーマンショック以降,小零細企業

の事業所数,従業員数,製造品出荷額の減少が著しく,産業構造の変化が進んでいることが確認された。②世界自動車産業グローバル化の実態分析では,日中韓台湾の全世界に占める生産台数の割合が60%に上っている。その発展も自動車メーカー自身のグローバル展開(日本,韓国),市場そのものに外資を呼び込んだグローバル化(中国,インド,アメリカ),先進国企業のグローバル展開の拠点・ハブ(タイ,インドネシア,ブラジル・メキシコ)など,いくつかの類型があり,その総体としてのグローバル化が進行している。③以上の新興国・新新興国・途上国に対するグローバル化の特徴を整理すると,第一に自動車産業のグローバル展開は,各国の富裕層・中間層上層を対象とした「疑似モータリゼーション」によって成り立っており,第二に市場の狭隘性や景気循環には投資重点の変更,移動を行うなど,地域分散によるリスク回避と成長の継続が一つの特徴になっている。今後のグローバル化には,2000年代前半の中国のような発展ケースは必ずしも想定され難く,イスラム圏,アフリカなどの世界市場争奪戦が展開されるものと思われる。④日本自動車産業のグローバル展開は急であり,排ガス規制問題でVWが停滞する中,新しい環境エンジン(HV,PHV,ロータリーエンジン,スカイアクティブ,FCVなど),自動運転システムの商品化,そしてTNGAに見られるグローバル調達・生産システムの展

表−22 海外進出の形態,進出時期,現地工場の販売先

進出形態 最初の進出時期 販売先

合弁 単独 技提 ~ 70 80s 90s 00s 10s 現地日系

現地欧米系

現地民族系

第3国輸出

対日逆輸入

米国 1 8 1 1 1 3 5 1 9 5 1 0 0欧州 1 2 0 0 1 0 0 3 2 3 0 0 0中国 12 24 10 0 0 11 15 20 34 5 6 5 22アセアン 13 27 5 0 1 18 13 1 37 4 4 5 14

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21世紀自動車産業グローバル化の特質と日本中小企業の経営環境変化 21

開など,欧米企業の水準を引き離して,日本企業のプレゼンスが高まっているものと思われる。自動車部品産業の海外事業ではとりわけ2014年~ 2015年にかけて売上高は36.9%増,従業員数で38.9%の増加があり,さらに今後の北米市場の活況が期待されている。⑤単独でも連結でも自動車部品メーカーは好調な業績を上げている。売上高,受注数量,販売先数,営業利益,海外売上比率,従業員数,購入部品・材料比率,研究開発費比率など,いずれも増加傾向にあり,海外拠点については新増設ラッシュであるのに対し,国内においては新増設と縮小閉鎖がほぼ均衡し,やや停滞傾向が見える⑥回答企業の海外オペレーションについて言えば,海外生産を実施している企業は80社,1次サプライヤーの80%に上る。この進出実績に対応する総拠点数は278件,1社当たり6.7拠点であるが,1次サプライヤーの売上高規模別にみた1兆円越えの巨大企業と,300億円に満たない中小サプライヤーとの間には,大きなギャップが存在し,自動車関連1次サプライヤーの中にも予想以上に企業規模の小さい企業が多数存在している。その下に,さらに7000社を超える2次・3次サプライヤーが存在するが,その海外進出は,計画も含めて516社中99社,約19%という水準にある。⑦このような状況の下で,2012年段階のアンケート結果を見る限り,2次・3次サプライヤーの経営状況は改善されていない。その特徴は,約4分の3の企業が受注減,単価低減のなかで経営内容を悪化させているのに対し,どの規模階層・どの業種分類に従ってもほぼ4分の1の企業が受注を拡大し,5%以上の利益率を確保している。同様の状況はこの間実施したインタビュー調査にも表れている。高収益企業の特徴は,第一に不透明な情勢の下でともかくも海外進出を果たした企業であり,「中国で2割の利益を出すのは容易。笑いが止まらない」という発言もある。第二は,

自動車の電子化,新しい環境エンジン・自動運転システムなど,新分野を中心とした技術開発や生産技術革新である。 以上を日本国内の自動車関連2次・3次サプライヤーの経営環境・展望との関連の裡に総括しよう。本稿で明らかにした自動車業界における経営環境変化の特徴は,①世界自動車産業におけるグローバル化の進展が,疑似モータリゼーションを次々に引き起こしながら成長市場を移動してゆく地域分散スタイルである,②その中での市場競争の激化は,新しい圧倒的な生産技術,世界市場に先立つ新技術開発を不可避とする,以上2点である。その上で,③国内中小企業経営については,統計上からもアンケート調査からも,国内生産の停滞傾向と小零細企業の存立基盤の縮小および自動車部品・関連業界における2極化を顕著な傾向として検出することができる。 ここでは①,②と③は全く矛盾した傾向であり,これを統一的に理解しうる方策は,以下の2つの選択でしかありえない。その第一は,①,②の傾向に沿って海外展開を進め,あるいは新しい製品技術,生産技術の開発を行って,成長市場に参入することであり,第二は,国民経済の衰退をもたらしつつあるグローバリゼーションの流れに異論を述べ,農業や中小企業などの存立基盤の維持を主張する方向である。ますます「資本のゲーム」の色彩を強めるグローバル企業の競争に組織されるのか,あるいはグローバリズムそのものに反対し,国民経済のバランスのとれた発展,地域の再生を考えるのか,難しい選択であるともいえるが,矛盾する2つの政策を同時に成功させる取り組みが求められているとも理解することもできよう。

注1)柿沼重志・中西信介「中小企業・小規模事業者政策の現状と今後の課題」立法と調査,2013.9,No3442)Fourin 自動車月報などによる。

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企業環境研究年報 第 20 号22

3)自動車メーカーの国籍をどう扱うかは難しい。一般的には支配的な力を及ぼす資本の国籍で考えることが妥当だろうが,近年の日本企業のケースをみると,一定の年月を経たのちに自らの株式を買い取るケース(マツダ),あるいは GMの所有する株式をトヨタに買収されるケース(いすゞ,富士)などがあり,単純ではない。本稿での日本企業の分類は資本参加を受けている場合でも,もともとの国籍で判断している。4)ゴールドマンサックス調査部は2003年10月にBRICs に続く潜在性を秘めた国としてイラン,インドネシア,エジプト,韓国,トルコ,ナイジェリア,バングラディッシュ,パキスタン,フィリピン,ベトナム,メキシコの11か国を上げている。この中にはイスラム圏の国々が多い点,注目される。もちろん,この調査レポートそのものがこれらの国への投資を誘導する目的のもとに公表されていることも留意すべきである。5)ここでの現調率の高さは,実際の現調率の高さと混同されるケースが多い。実際には日系自動車メーカーは日系サプライヤーから購買すれば,高い現調率の達成は容易である。1次サプライヤーは日系の他のサプライヤーと現地民族系企業,欧米系サプライヤーから購買し,後は日本からの輸入に頼る。これらの構造を見た場合,真の現調率が公表される一般的現調率と乖離しているのは当然である。