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シグマライフサイエンスニュース 2011 Summer The Cancer Stem Cell Hypothesis ………………………… p.2 葉酸代謝:がんの原因と治療への関連 ………………………… p.6 癌学会ランチョンセミナーのご案内 …………………………… p.10 新規のがんバイオマーカーの探索 ……………………………… p.11 がん研究:エピジェネティックメカニズム ……………………… p.14 Zinc Finger Nuclease で遺伝子改変の可能性を広げよう p.20 p53 ノックアウトラットのがん研究への応用 ………………… p.24 Sigma® の生理活性物質 新カタログ発行しました!/ Pfizer® Drug のご案内 ………………………………………… p.26 アポトーシスパスウェイ : YFG …………………………………… p.27 MS 解析 & 抗体を利用した新規腫瘍マーカー探索 …………… p.30 巻末アンケート ~お答えいただいた方全員にオリジナル図書カードをプレゼント ! がん特集号!

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シグマライフサイエンスニュース2011 Summer

The Cancer Stem Cell Hypothesis ………………………… p.2葉酸代謝:がんの原因と治療への関連 ………………………… p.6癌学会ランチョンセミナーのご案内 …………………………… p.10新規のがんバイオマーカーの探索 ……………………………… p.11がん研究:エピジェネティックメカニズム ……………………… p.14Zinc Finger Nuclease で遺伝子改変の可能性を広げよう … p.20p53 ノックアウトラットのがん研究への応用 ………………… p.24Sigma® の生理活性物質 新カタログ発行しました!/Pfizer® Drug のご案内 ………………………………………… p.26アポトーシスパスウェイ : YFG …………………………………… p.27MS 解析 & 抗体を利用した新規腫瘍マーカー探索 …………… p.30巻末アンケート ~お答えいただいた方全員にオリジナル図書カードをプレゼント ! ~

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bioreprogramming

Interest panel headerInterest panel textThe Cancer Stem Cell Hypothesis

2

The Cancer Stem Cell Hypothesisがんは従来、環境的あるいは内因的な事象が原因となって、正常細胞の中でがん遺伝子や腫瘍サプレッサー遺伝子などの決定的な遺伝子が変異することにより発症する疾患であると捉えられてきました。がんの臨床所見では、こうした変異によって細胞が原始的で極めて増殖性の状態へと形質転換した結果、クローン性の増殖が進行して白血病や固形腫瘍の発達に至る様子が確認されています 1。しかし、多くのがんの進行や腫瘍転移にみられる長い潜伏期や、細胞の脱分化、細胞不死を引き起こすイニシエーション事象のメカニズム、さらには腫瘍自体に存在する細胞の機能的あるいは表現型の多様性の起源について、この理論的枠組みで説明することは容易ではありません。一方、過去10年の研究で、悪性腫瘍は組織幹細胞の細胞成長や増殖をコントロールするメカニズムに調節異常をきたすような変異が生じ、それらの細胞が形質転換することにより発生するという証拠が相次いで示されています1-9。

成体幹細胞は、各臓器の中で個別のニッチに存在しています。細胞はこの場所で長期に生存すると同時に多能性を維持し、それぞれの臓器に存在するあらゆる細胞型を再現できる状態を保っています。これは、1) ニッチと呼ばれる微小環境の中で、静止状態を長期間維持する能力。2) 同じ形質をもつ1個の幹細胞(いわゆる自己複製)と、1個の分化 した子孫細胞を生み出すという”非対称分裂”の能力。

という幹細胞を象徴する性質として知られています。

さらに、幹細胞はアポトーシス耐性でテロメラーゼ活性やDNA修復活性が上昇しているほか、膜結合型のABCトランスポーターの存在によって化学療法薬やその他の外因性毒物が排除されることから、これらの薬物作用に対する耐性が比較的高いことなども報告されています 9-11。また、長い静止期を伴った自己複製という本来の性質上、損傷物質にさらされた幹細胞では時間とともに変異が蓄積し、悪性の形質転換を引き起こす可能性があると言われています 3。

BaileyとCushingによって、“がんは、組織特異的な少数の前駆細胞の形質転換によって開始し、継続する”と言われたのは1926年のことでしたが 10,12、ここ10年でついにDickらの研究グループは、急性骨髄性白血病(AML)にみられるすべての表現形質が、ごくわずかな白血病幹細胞(全細胞集団の0.1~ 1%)に由来するという有力な証拠を初めて発見しました 2,4。これらの細胞は、正常な造血幹細胞の細胞表面マーカーを発現していますが、正常幹細胞に比べて自己複製率が高く、免疫不全型のNOD/SCIDマウスにインジェクトした場合、ヒトAMLの表現型の多様性が等しく再現されます。

さらに最近になって、多くの白血病から幹細胞様の小集団が分離され2,4,13、脳の神経膠芽腫や髄芽腫 4,5,10,14,15、乳癌 3,16、子宮頸癌、結腸直腸癌 17,18、胃腸癌、肝細胞癌、肺癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌 6,9,19,20など多くの固形腫瘍でも同様の事実が確認されています。癌幹細胞は正常幹細胞と同様の細胞表面マーカーを示していますが(Table 1)、増殖が制御不能となった原因は、おそらく、負の増殖調節因子の応答性が低下するか、接触阻止、あるいはギャップ結合による細胞間コミュニケーション(GJIC)が失われたことにあると考えられています1,10。

Stem-like Cell Source Markers References

Brain carcinoma CD133+, nestin+, GFAP¯, β-tubulin¯

9, 14

Glioma CD133+ 21

Medulloblastoma CD133+, Hoechst 33342 dye exclusion, nestin+

15

Breast carcinoma CD44+, CD24¯/low, lineage¯, Oct4+, Cx43¯

3, 9, 10, 13

Prostate carcinoma CD44+, α2β1hi, CD133+ 9, 10

Acute or Chronic myeloid leukemia

CD34+, CD38¯, CD123+ 2, 9, 10, 11, 13

Multiple myeloma CD138¯, CD19+ 10, 20

Table:1 Cancer Stem Cell Markers

悪性腫瘍は、遺伝型と表現型の両方に多様性がみられる異常分化型の細胞から形成された新生臓器と類似していますが 1,4,7、幹細胞様細胞の小集団だけが細胞培養系や移植においてコロニー形成能を示し、NOD/SCIDマウスにインジェクトした場合でも、ヒト腫瘍の表現形質の多様性が完全に再現されています。さらに、腫瘍の幹細胞集団に機能的な多様性があることを示す証拠も挙がっています。

サイドポピュレーション細胞(SP細胞)と呼ばれる一部の癌幹細胞は、多剤排出トランスポーターであるABCB1やABCG2を発現していることから、ローダミン、ヘキストなどの色素を排除する性質を利用して同定することができます。こうしたサイドポピュレーション細胞は、その他の癌幹細胞様細胞に比べて腫瘍形成能や転移能が高いと言われており、これらの細胞が従来の化学療法レジメンに対して高い生存能力を発揮することも、その理由と考えられています15,18,19。

別の研究では、ある種の腫瘍細胞集団の中に、VEGFR2受容体を恒常的に発現する前癌幹細胞のサブセットが確認されています。これらの細胞は、腫瘍に固有の脈管構造や毛細血管床の発生源とみられており、この腫瘍固有の脈管構造が体内の循環系に配置される際に、正常な血管形成のプロセスが関与すると推測されています7。

正常幹細胞の場合、ニッチに幹細胞が補充されると自己複製が終止しますが、癌幹細胞や幹細胞由来のがん前駆細胞では自己複製が制御されないためにニッチが過密状態となり、周辺組織への浸潤がおこります13。ヘッジホッグ、Notch、Wnt、PTENのパスウェイは、正常幹細胞と癌幹細胞の両方において自己複製や増殖、生存をコントロールする経路の一部として機能していますが、悪性の多くのがんではこれらパスウェイの一つ、あるいは複数に、変異による恒常的活性化が認められています。

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3

Hedgehog and Bmi1

ヘッジホッグ(Hh)パスウェイ(Figure 1)は、成体幹細胞の静止状態と自己複製を制御しています。哺乳類のHhリガンドは、ソニックヘッジホッグ(Shh)、デザートヘッジホッグ(Dhh)、インディアンヘッジホッグ(Ihh)の3種類が同定され、中でもShhが最も良く研究されています。Hh受容体であるPTCH1は、リガンドの非存在下ではその触媒作用によって膜貫通タンパク質のSmoothened(SMO)を阻害し、シグナル伝達を阻止します。一方、PTCH1がリガンドに占有されると不活性化された状態となり、SMOが作動してシグナルが伝達された結果、Gli転写因子群が誘導されます。このうちGli1とGli2はHhシグナリングの正のモジュレーターであり、Gli3は負のレギュレーターとして機能します3,20。

Hh活性化による作用の多くは、ポリコーム遺伝子であるBmi1の誘導によって促進されます。この遺伝子は、クロマチンリモデリングを通じた転写抑制をはじめ、細胞周期の負のレギュレーターとして幹細胞の静止状態や分化に関与するp16 Ink4A、p19 ARFのような Ink-4A/ADPリボシル化因子(ARF)複合体の遺伝子発現を低下させます 3,4。これにより、増殖を促進するサイクリンD1、Myc、Snail遺伝子のGli1、Gli2による発現誘導や、Hhパスウェイの要素であるPTCH1、Gli1、Gli2のアップレギュレーションを介した幹細胞の増殖や自己複製が可能になっています19,20。

Hhパスウェイの活性化は、脳、胃、膵臓、乳房、前立腺、肺、皮膚に由来する多くのがんにみられています 9,19 。また、PTCH1の不活性化やSMOの活性化を引き起こす変異が基底細胞癌、髄芽腫、横紋筋肉腫に認められるとともに 6,20 、ある種の胃癌、肺癌、前立腺や多発性骨髄腫でもHhシグナリングの異常が確認されています20 。さらに、10種類のヒト悪性腫瘍の予後不良と相関関係を示すHh誘導性のBmi1発現に関連する11種類の遺伝子発現プロファイルが明らかにされています3,9。

a i

X

P16Ink4AP19ARF

Cyclin D1MycSnail

PTCH1 SMO

Gli

Gli

Bmi 1

Hedgehog Pathway

SHH

Gli

Figure 1. Hedgehog pathway schematic. See text for further description.

SMOの阻害は、in vitro、in vivoで転移性がん細胞の増殖や侵襲性に対する抑制効果を示しています。最も広く研究されているSMOインヒビターのシクロパミンは、幹細胞様がん細胞の増殖速度を低下させるほか、転移性がん細胞のアポトーシス性細胞死を誘導し、正常な上皮細胞には作用しないことなどが確認されています 3,6。

The Notch-γ-Secretase Pathway

Notchシグナリングは、正常な神経幹細胞の生存と増殖を促進し、分化を阻害します。この経路はT細胞白血病をはじめ、脳腫瘍、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、唾液腺癌、肺癌など、多くのがん細胞株に由来する幹細胞様細胞で活性化されており3,6,9,15、特に、髄芽腫とT細胞性リンパ芽球性白血病はNotch依存性の悪性腫瘍であることが確認されています15。

Notchの活性化(Figure 2)は、γ-セクレターゼによるNotchリガンド/レセプター複合体のタンパク分解性の切断を引き起こし、放出されたNotch細胞内ドメインフラグメント(NICD)は核へ移行して、Myc、Hes1など複数の遺伝子の発現量を増加させます22。NICD2をトランスフェクトしてNotchシグナリングを恒常的に活性化させたDAOY髄芽腫細胞株では、非トランスフェクション細胞よりも異種移植腫瘍が多く発生するとともに、培養の結果、CD133+とサイドポピュレーション幹細胞様細胞の両方の集団が増加しています。これに対して、γ-セクレターゼを阻害した場合、サイドポピュレーション細胞が全細胞数の0.01%まで減少し、軟寒天培地での細胞のコロニー形成能が90%まで阻止されるほか、免疫不全マウスで腫瘍異種移植片の形成を阻害する効果が確認されています。また、細胞に対するγ-セクレターゼ阻害の効果は、NICD2のトランスフェクションによって抑制されることもわかっています15。このようなことから、腫瘍の種類よっては、Notchシグナリングを阻害することにより、腫瘍発生に要求される細胞集団を枯渇させることが可能であるとみられています。

CSL

Notch Extracellular RegionNotch Ligand

Notch Transmembrane Region

MycHes1

Notch Pathway

γ-Secretase

NICD

NICD

NICD

Figure 2. Notch pathway schematic. See text for further description.

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bioreprogramming

Interest panel headerInterest panel textThe Cancer Stem Cell Hypothesis

4

The Wnt-β-Catenin Pathway

Wntパスウェイは、正常幹細胞の自己複製、増殖や一時的な分化を促進し、脊椎動物の四肢の発達や再生に関与しています23。また、毛包、乳腺、皮膚、腸の内層など細胞のターンオーバーが速い組織の成体幹細胞集団を維持しており、これらの成体幹細胞ニッチで発生した腫瘍では、Wntパスウェイが恒常的に活性化しています17,23。胃、膵臓、肝臓、前立腺、脳、肺のほか、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病のような一部の白血病に由来する癌幹細胞や前駆細胞においても、このパスウェイが悪性化に関与すると報告されています 6,9,16,19。

Wntファミリーは19種類の細胞外糖タンパク質で構成されています。これらの分子は、Frizzled(Fz)ファミリー受容体に結合することによってパスウェイを活性化し、β-カテニンのタンパク質分解を阻止します。これによりβ-カテニンの蓄積と核へのトランスロケーションが起こり、β-カテニンはTcf/Lef転写因子を介して遺伝子転写を促進します。Wntによるパスウェイの活性化が失われると、Axinタンパク質や大腸腺腫症タンパク質(APC)はグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(Gsk3)と複合体を形成して細胞質に存在するβ-カテニンのリン酸化を促進し、リン酸化されたβ-カテニンは次々にタンパク質分解の標的となります。

Wntパスウェイの活性化には、Fzとその共役受容体であるLDL 受容体様タンパク質5/6(Lrp5/6)との結合が必要です。Wnt/Fz/Lrp5/6複合体の形成は、Fz受容体に不可欠な構成要素であるリン酸化タンパク質のDishevelled(Dvl)を活性化し、この活性化によってAxin/Gsk3は受容体の方へ動員されることから、Axin/APC/Gsk3複合体が解離します。Lrp5/6は、Gsk3やカゼインキナーゼ1γ(Ck1γ)により次々とリン酸化され、リン酸化されたLrp5/6がAxin/Gsk3と結合して複合体を形成することにより、β-カテニンのリン酸化を阻止し、安定化させます(Figure 3)。

Wnt Pathway

OsteopontinTenascin CL1CAM

β-Catenin

β-CateninLef Cft

AxinAxin

Frizzled

Dvl

L R P5/6

Wnt

GSK3

CK1αGSK3

APCP

P

Cyclin DMycSurvivin

β-CateninAPCP

proteolysis

Figure 3. Wnt pathway schematic. See text for further description.

APCの不活性化を引き起こすか、あるいはβ-カテニンのリン酸化部位に損傷を与えるような変異では、β-カテニン誘導性の遺伝子転写が恒常的に活性化されており23,24、結腸直腸癌の場合、大部分がAPCの機能喪失か発癌性のβ-カテニン変異のいずれかを伴うことも報告されています 17。また、WntシグナリングによってサイクリンD1、Myc、サバイビン、オステオポンチン、テネイシン、L1CAMをコードする遺伝子などがアップレギュレートされており、Mycの転写を阻害すると、Wntシグナリングによって誘導される遺伝子のうち、約半数の発現がブロックされます19,23。

The PTEN-mTOR Pathway

PTEN(Phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10)は、幹細胞の静止状態を維持する腫瘍サプレッサー遺伝子であり、STAT3、mTorの両方に対する負のレギュレーターとして働いています18。mTorは、タンパク合成や細胞の増殖、生存にかかわるパスウェイを調節するセリンスレオニンキナーゼの一種で、STAT3は、幹細胞の自己複製に関与する遺伝子を制御する転写因子として機能しています。

PTENが変異、あるいは欠失すると、細胞周期の活性化やDNAの複製に関与する遺伝子の発現が増加します。こうした幹細胞では、自己複製の亢進や多分化能の維持がみられる一方、負の増殖因子に対する応答性が失われています 25。PTENの欠失は、正常な造血幹細胞をAMLの表現型へと転換させるには十分であり5、前立腺癌のモデルマウスでも、ヒト前立腺癌にみられる疾患の進行が再現されています 4。また、PTENの変異や欠失は、グリア芽細胞腫においても頻発しています25。

ラパマイシンはmTorを阻害し、PTENパスウェイの下流を抑制するインヒビターであることが知られています。この作用について、PTENを欠失させた直後にラパマイシンを投与したマウスでは白血病を発症せず、白血病の発症後にラパマイシンを投与したマウスの場合、寿命は改善されても治癒は困難であると報告されています 13,26。

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5

Conclusions

現在、がんの化学療法は、がん細胞の増殖阻止やアポトーシス誘導によって腫瘍量が低下した場合は成功であると判断されますが、原発腫瘍を除去した後、長い期間を経て遠隔部位に再発や転移をきたすことも多くあります。癌幹細胞の存在は比較的まれと考えられていますが、これらは正常な幹細胞と同様、長期にわたりニッチで静止状態を維持しており、増殖が許容された微小環境の中で活性化されます。また、造血幹細胞のように血流に乗って離れたニッチへ移動し、生存する可能性が考えられています。さらに、免疫不全マウスにおいて、このわずかな癌幹細胞の小集団が生着し、本来の腫瘍の全表現形質を再現した腫瘍が形成されるという証拠も数多く集まっています。

癌幹細胞は、正常な成体細胞では静止状態にあるヘッジホッグ、Notch、Wnt、PTENのようなパスウェイによってコントロールされるものとみられています。現在の化学療法のターゲットであるパスウェイに加え、これらのパスウェイを標的とした治療法が開発されれば、がんの再発、転移の抑制や長期生存率の改善へ向けて、新たな道筋となるかもしれません。

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bioperformance

葉酸代謝:がんの原因と治療への関連

6

哺乳類の葉酸サイクルは非常に複雑ですが、アミノ酸やヌクレオチドなどの生体分子に 1炭素単位(C1単位)を転移するという極めて重要な役割を持っています。葉酸は体内合成が不可能であるため、主として果実、野菜や強化穀物などの食物から摂取された葉酸が、このサイクルの基本分子であるテトラヒドロ葉酸(THF)の出発物質となります。葉酸は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR、EC 1.5.1.3)による酵素反応で還元され、一部が中間体のジヒドロ葉酸(DHF)になるか、あるいはすべて THFに変換されます。その後、THFは様々な酵素による酸化的修飾を通じて次々と加工され、生成した分子は C1供与体として機能するとともに(Figure 1)、残りの DHFは THFへと再利用されます。葉酸と THFは数々のプロセスに寄与していますが、このうち、がんの化学療法において二つの代謝経路が注目されています(Figure 2)。

葉酸の代謝作用の一つとして、核酸成分の産生を介した DNAの合成、修復機能が知られています。この過程では、チミジル酸シンターゼ(EC 2.1.1.45)によるメチル基付加を通じてデオキシウリジン一リン酸(dUMP)からデオキシチミジン一リン酸(dTMP, 5-CH2-dUMP)が de novo合成され、続いてデオキシヌクレオチド三リン酸へのリン酸化が起こります。チミジン三リン酸(dTTP)は、DNAの合成や修復に必須の 4種類のデオキシリボ核酸のうちの一つであり、チミジン三リン酸の細胞レベルはDNA合成を大きく左右します。

DNAの合成や修飾に影響を及ぼすもう一つの重要な葉酸経路は、ホスホリボシルグリシンアミドホルミルトランスフェラーゼ(グリシンアミドリボヌクレオチドトランスホルミラーゼ、GAR:EC 2.1.2.2)とホスホリボシルアミノイミダゾールカルボキサミドホルミルトランスフェラーゼ(5-アミノイミダゾール -4-カルボキサミドリボヌクレオチドトランスホルミラーゼ、AICAR:EC 2.1.2.3)という2種類の酵素によって維持されています。こ

葉酸代謝:がんの原因と治療への関連れらの酵素がプリンの de novo合成のプロセスで働くことにより、アデニンとグアニンの前駆体が生成し、さらに 2種類の DNA成分、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)とデオキシグアノシン三リン酸(dGTP))が合成されます。

次に、葉酸代謝で重要な反応は、5-メチル -THF-ホモシステイン S-メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.13)の作用によるホモシステインからメチオニンへの変換です。ここで再生したメチオニンの一部は、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(EC 2.5.1.6)によって ATPとともに変換され、S-アデノシルメチオニン一リン酸およびニリン酸が合成されます。 S-アデノシルメチオニンは、メチルトランスフェラーゼの重要基質として脂質やペプチドのような生体分子における 100種類以上のメチル化反応に関与しています。

また、代表的なエピジェネティック修飾であるDNAのメチル化においても S-アデノシルメチオニンがメチル基供与体として利用されることから、葉酸レベルとその代謝は正常細胞や悪性細胞におけるDNAの合成、修復や、その後の DNAをはじめとする生体分子のメチル化に不可欠な要素であり、赤血球、骨髄細胞、消化管細胞、悪性細胞など急速に増殖する細胞で葉酸代謝を妨害すると、強力な毒性効果を発揮します。このように、葉酸代謝は細胞の複製や生存に必須であることから、葉酸の代謝阻害剤の利用には毒性の問題や適用の制限がありますが、抗癌剤として成功をおさめています。

初の葉酸代謝拮抗薬であるアミノプテリンは葉酸のアナログ体(4-アミノ葉酸)であり、ジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害することによって、葉酸やジヒドロ葉酸から THFへの還元を阻止します。メソトレキサート(MTX)も葉酸のアナログ体ですが、ジヒドロ葉酸レダクターゼを直接

NN

NNH N2

OH

H

CH2

RH

CH3

N

N2

OH

H

CH2

R

HH

N

NN

NH N

OH

H

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N

N

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N

CHO

H

N5-Formimino -

-

-

- -

N

NH N

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CH

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N

N

N

N

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R

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N

NCH

NH

N 5 ,N10 -MethyleneHN

N

NH N2

OHCH

RHHN

HN

N

N

OH

H

CH2

N

N

NCH2 N5,N10-Methenyl-HN

N

NH N

OH

H

CHHHN

N

NH N2

CH2

R

N

N+

N10 -Formyl-

CH

NH4+

H O2

FA D

NADP+

FADH2

NADPH + H+

Glycine

+ CO2NH4

Glycine

Serine

Formimino-glutamate

Methionine

Homocysteine

Formate

H

H

N5-Methyl

H

Glutamate

Tetrahydrofolate

2.1.1.13

1.7.99.5

1.4.4.22.1.2.102.1.2.10

B12

3.5.1.10

2.1.2.5

CH2

N

2.1.2.1

1.5.1.5

4.3.1.4

3.5.4.9

N

HHH

HHH

HHH

HHH

HHH H

HH

+

H4 folate

H4 folateH4 folate

H4 folate

H4 folate

N

1.4.4.2 Glycine dehydrogenase (decarboxylating)

1.5.1.3 Dihydrofolate reductase

1.5.1.5 Methylene-THF dehydrogenase (NADP+)

1.7.99.5 5,10-Methylene-THF reductase (FADH2)

2.1.1.13 5-Methyl-THF- homocysteine S-methyltransferase

2.1.1.45 Thymidylate synthase

2.1.2.1 Glycine hydroxymethyltransferase

2.1.2.2 Phosphoribosylglycinamide formyltransferase

2.1.2.3 Phosphoribosylamidoimidazole- carboxamide formyltransferase

2.1.2.5 Glutamate formiminotransferase

2.1.2.10 Aminomethyltransferase

3.5.1.10 Formyl-THF deformylase

3.5.4.9 Methenyl-THF cyclohydrolase

4.3.1.4 Formimino-THF cyclodeaminase

6.3.4.3 5-Formyl-THF cyclo-ligase

6.3.3.2 Formate-tetrahydrofolate ligase

Enzymes Figure 1. テトラヒドロ葉酸の代謝サイクルと再生

図のように、THFの代謝は直線的ではなく、特定の細胞プロセスに必要なC1供与体基質を産生するようにシフトするとみられています。赤で示した部分は C1供与体を表しています。

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葉酸代謝:がんの原因と治療への関連

7

阻害するとともに、チミジル酸シンターゼを阻止する作用があり、現在もがん治療における化学療法薬として使用されています。その後、MTXに対する薬剤耐性の発達を視野にジヒドロ葉酸レダクターゼとチミジル酸シンターゼの両方、あるいはいずれかを阻害する多くの合成化合物がスクリーニングされた結果、トリメトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセドといった従来型の新しい葉酸代謝拮抗薬(葉酸の構造アナログ)が使用されるようになり、非従来型の葉酸代謝拮抗薬についても抗癌剤、抗菌剤としての機能性が検討されています。ペメトレキセドは、マルチターゲット型の葉酸代謝拮抗薬としてチミジル酸シンターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼのほか、葉酸サイクルの複数の酵素をブロックします。

葉酸代謝はがん細胞と正常細胞の両方に必要であるため、葉酸の欠乏とその結果起こるDNAの合成やメチル化の低下は、いずれの細胞に対しても毒性的な影響を及ぼします。実際、正常細胞を用いた研究で、葉酸欠乏により染色体切断や配列のミスコードを含む DNA損傷を生じることが確認されたほか、葉酸欠乏が S-アデノシルメチオニン量の減少を引き起こすことで、DNAの低メチル化をもたらす可能性があることも明らかにされています。また、ラットの in vivo研究では、葉酸欠乏に伴って、p53腫瘍サプレッサー遺伝子の特定の配列で DNA鎖切断や低メチル化が生じると報告されています 1。p53遺伝子は一般的なヒトがんの 30~50%で変異が生じていることから、葉酸の摂取不足によって p53が変化する可能性について、研究者の注目が集まっています。

現在、葉酸代謝の阻害は悪性細胞を排除するためのメカニズムとして利用されていますが、一方で細胞の葉酸レベルが不十分になり、DNA損傷や DNAメチル化が変化する状態に陥れば、正常細胞が悪性転換するという矛盾があることも否定できません。つまり、葉酸代謝を妨害、阻止することが、その後、がん化の原因となってしまうのか、あるいは悪性

P-Rib-GlycinamideP-Rib glycinamide-Formyl

P-Rib-5-Amidoimidazole-carboxamideP-Rib- amidoimidazole-

carboxamideFormyl

UMPd

dTMP

HOMOCYSTEINE

METHIONINE

GLUT AMATE

FORMATE

SERINE

GLYCINE

NH4++

CGLYCINE

N10 -Formyl-

N10 Formyl -

N 5 ,N10 -

-

Methylene-

Methylene-

Methylene-

Methyl-N5

Formimino-

N10-Formyl-

5, NN 10

Formiminoglutamate

O2

(THF)

H4 folate

H4 folate

H4 folate

H4 folateH4 folate

H4 folate

H4 folate

H4 folate

Tetrahydro- folate

UMPd

dTMP

HOMOCYSTEINE

METHIONINE

N 5 ,N10 -

-

Methylene-

Methyl-N5

(THF)

H4 folate

H4 folate

Tetrahydro- folate5, NN 10-

-

Figure 2. 炭素供与体として機能する THF代謝物の反応の一部

図は、Nicholson代謝経路マップの“葉酸 C1プール”を示しています。関連したイラストは弊社ウェブサイト(sigma.com/pathways)でもご覧いただけます。

細胞のアポトーシスやネクローシスを誘導する有効な手段となるのか、いずれの可能性をも秘めています。葉酸代謝サイクルが持つ複雑性と、その複雑性を利用してこそ細胞に不可欠な生体分子が構築、修飾されるという事実が、こうしたパラドックスの存在を許しているにほかなりません。

References:(1) Kim, Y.-I., et al., Folate deficiency in rats induces DNA strand breaks and hypomethylation within

the p53 tumor suppressor gene. Am. J. Clin. Nutr., 65, 46-52(1997).(2) Gangjee, A., et al., Recent advances in classical and non-classical antifolates as antitumor and

antiopportunistic infection agents: Part I. Anti-Cancer Agen. Med.Chem., 7, 524-542 (2007).(3) Gangjee, A., et al., Recent advances in classical and non-classical antifolates as antitumor and

antiopportunistic infection agents: Part II. Anti-Cancer Agen. Med.Chem., 8, 205-231 (2008).(4) Chapter 15: Folate and folic acid, in “Vitamin and Mineral Requirements in Human Nutrition”, World

Health Organization, Food and Agriculture Organization of the United Nations (2004).(5) Choi, S.-W., and Mason, J.B., Folate and carcinogenesis:An integrated scheme. J. Nutr., 130, 129-132

(2000).(6) McGuire, J.J., Anticancer antifolates: Current status and future directions. Curr. Pharm. Design, 9,

2593-2613(2003).(7) Bertino, J.R., Cancer research: From folate antagonism to molecular targets. Best Pract. Res. Clin.

Haematol., 22,577-582 (2009).

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bioperformance

葉酸代謝:がんの原因と治療への関連

8

葉酸代謝拮抗剤

( ± )Amethopterin hydrate

N

NN

N NH2

NH2

NCH3

O

NHHO OH

O O

• xH2O

DL-4-Amino-N10-methylpteroylglutamic acid;MTX; 4-Amino-10-methylfolic acid;Methylaminopterin C20H22N8O5 · xH2O FW 454.44 (Anh)

▶ ≥ 95%, powder

葉酸のアンタゴニストで、抗がん剤です。A7019 25 mg

100 mg500 mg

2-Amino-6-fluorobenzonitrile

CNNH2F

6-Fluoroanthranilonitrile[77326-36-4] H2NC6H3(F)CN FW 136.13

▶ 99%

タクリン関連化合物 1や葉酸代謝拮抗剤・抗菌剤のキナゾリン誘導体 2の調製に用いられる医薬品中間体です。

Lit cited: 1. Eur. J. Med. Chem. 29, 205 (1994); 2. J. Med. Chem. 33,434 (1990);429856 1 g

10 g

Aminopterin

C

O

HN CHCH2CH2CO2H

N

N

N

N

NH2

H2N

CH2NHCO2H

4-Amino-PGA; 4-Aminopteroyl-L-glutamic acid; 4-Aminofolic acid [54-62-6] C19H20N8O5 FW 440.41

葉酸のアンタゴニストです。

▶ ~98% (TLC), powderA1784 50 mg

100 mg1 g

4-Chloromercuribenzoic acid

OH

O

ClHg

4-(Hydroxymercuri) benzoic acid;4-(Chloromercurio) benzoic acid[59-85-8] ClHgC6H4CO2H FW 357.16

C5913 5 g

Folinic acid calcium salt hydrate

• xH2O

O

O

NHO

O

O

NH

HN

N

N

N

HO

H2N

H O

Ca2+

Calcium folinate; Citrovorum factor calcium salt; 5-Formyl-5,6,7,8- tetrahydrofolic acid calcium salt; Leucovorin calcium salt; 5-Formyl-5,6,7,8-tetrahydropteroyl- L-glutamic acid calcium salt; 5-HCO-H4PteGlu C20H21CaN7O7 · xH2O FW 511.50 (Anh)

ホリナートカルシウムは、ジヒドロ葉酸還元酵素の結合と、葉酸からテトラヒドロ葉酸への変換を阻害する作用によって、葉酸拮抗薬の効果を相殺します。臨床では、メトトレキサート投与後にメトトレキサートの毒性を軽減させるためにホリナートカルシウムが使用されます。また、がん治療において、5-フルオロウラシルの細胞毒性作用の促進にも使用されます。

▶ BioXtra, ≥ 99.0% (HPLC)47612 250 mg

1 g

▼ Methotrexate

HO OHNHH

O O

O

NN

N

N

NCH3NH2

NH2

• xH2O

L-Amethopterin hydrate; L-4-Amino- N10 methylpteroylglutamic acid hydrate; MTX hydrate; Methylaminopterin hydrate; 4-Amino-10-methylfolic acid hydrate; Antifolan hydrate[133073-73-1], C20H22N8O5 · xH2O, FW 454.44 (Anh)

ジヒドロ葉酸還元酵素 1の協力な阻害剤で、抗腫瘍研究用試薬 2,3です。

Lit cited: 1. Sasso, S.P., et al., Biochim. Biophys. Acta 1207, 74 (1994); 2. Huennekens, F.M., Adv. Enzyme Regul. 34, 397 (1994); 3. Nagy, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 90, 6373 (1993);

Methotrexate

Methotrexate hydrate ▶ USP規格適合製品

M9929 25 mg100 mg500 mg

Methotrexate hydrate

Methotrexate hydrate ▶≥ 98% (HPLC), powder

A6770 10 mg25 mg

100 mg500 mg

1 g

Methotrexate ▲

Methotrexate - Agarose

ジヒドロ葉酸還元酵素および他の葉酸経路酵素の精製用アフィニティ培地。1.0 M NaCl懸濁液 (0.02%チメロサール含有 )

M0269 10 mL25 mL

Pyrimethamine

N

N

Cl CH3

NH2H2N

5-(4-Chlorophenyl)-6-ethyl-2,4-pyrimidinediamine[58-14-0] C12H13ClN4 FW 248.71

46706 250 mg

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葉酸代謝:がんの原因と治療への関連

9

Raltitrexed monohydrate

HO OH

HN

OO

S

N

NH

O

CH3O

• H2O

L-グルタミン酸 , N-((5-(((1,4-dihydro-2-methyl-4-oxo-6-quinazolinyl)methyl)methylamino)-2-thienyl)carbonyl)-monohydrate; ICI-D-1694; ZD-1694; Tomudex C21H22N4O6S · H2O FW 476.50ラルチトレキセド(別名 Tomudex:アストラゼネカ)は葉酸化合物の一種でチミジル酸シンターゼの阻害剤です。急速かつ広範に代謝され、より強力なポリグルタミン酸誘導体となります。

▶ ≥ 98% (HPLC), solidR9156 10 mg

50 mg

Sulfadoxin

N

N

HNS

O O

H3CO

H3CO

NH2

[2447-57-6] C12H14N4O4SFW 310.33

▶ ≥ 95% (TLC)

スルホンアミド系抗菌剤です。4アミノ安息香酸を変換するジヒドロプロエート合成酵素を阻害します。この酵素はまた葉酸代謝経路に含まれ、DHFRの上流に位置します。スルファドキシンはマラリア治療の処方でピリメタミンと共に用いられてきました。

S7821 10 g25 g

Trimethoprim

N

NH2N

OCH3

OCH3OCH3

NH2

2,4-Diamino-5-(3,4,5-trimethoxybenzyl)pyrimidine[738-70-5] C14H18N4O3 FW 290.32

主に抗菌剤として使用されます。ジヒドロ葉酸レダクターゼに対するインヒビターで、原核生物細胞の酵素に選択的です。1,2

Lit cited: 1. D.P. Baccanari, et al., J. Biol. Chem. 264, 1100 (1989); 2.N.J. Prendergast, et al., Biochemistry 28, 4645 (1989);

▶ ≥ 98% (TLC)T7883 5 g

25 g100 g

▶ crystallized, ≥ 99.0% (HPLC)92131 1 g

5 g25 g

ジヒドロ葉酸レダクターゼおよび 葉酸結合タンパク質

ジヒドロ葉酸レダクターゼ アッセイキット

▶ DHFR アッセイキット 50-100 test / kit

DHFR活性の検出や DHFRインヒビターのスクリーニングに用いられるキットです。アッセイは、NADPH依存的にジヒドロ葉酸をテトラヒドロ葉酸へ可逆的に還元する反応におけるDHFRの触媒能に基づいています。反応の進行は、340nmにおける吸光度の減少をモニタリングして追跡することができます。 ジヒドロ葉酸 + NADPH + H+ ↔ テトラヒドロ葉酸 + NADP+

◦ 迅速かつ簡便です。 ◦ キットには細胞ライセート、組織ホモジネート、酵素精製のカラム画分中に含まれるDHFR活性の比色定量に必要な試薬がすべて揃っています。 ◦ キットにはポジティブコントロールおよびDHFRインヒビタースクリーニング用の精製酵素が含まれます◦ キット中のメトトレキサートは、原核生物や真核生物の DHFRに特異的なインヒビターであり、抗腫瘍活性を示します。 ◦ A431, NIH-3T3, CHO細胞株をはじめラット肝臓 , 腎臓 , 脳 , 骨格筋の組織抽出物やリコンビナントDHFRで試験済みです。

キット構成Assay Buffer 10x for DHFR 30 mLDihydrofolate Reductase (DHFR) human 0.1 unitsDihydrofolic acid (DHFR substrate) 3X10 mgAmethopterin (+)(methotrexate, MTX)(DHFR inhibitor) 2X10 mgNADPH (β-Nicotinamide adenine dinucleotide phosphatereduced tetrasodium salt) 25 mg

CS0340 1 kit

Dihydrofolate Reductase human

Tetrahydrofolate NADP+ oxidoreductase; DHFR▶ ≥ 80% (SDS-PAGE), recombinant, expressed in

Escherichia coli, activity: ≥ 1 units/mg protein

ヒトDHFR遺伝子は、他の哺乳動物種の DHFR遺伝子と同様に、メトトレキセートの阻害効果を、遺伝子増幅機構およびアミノ酸変異誘発により克服します。ジヒドロ葉酸レダクターゼ (DHFR)はチミジン合成における重要な酵素であり、ジヒドロ葉酸 (DHF)の還元を触媒してテトラヒドロ葉酸 (THF)を生成します。葉酸も THFに変換されますが、はるかに低率です。チミジンは DNA合成に必要な基質であり、DHFRは抗癌剤開発の標的です。メトトレキサートは、プロトタイプのジヒドロ葉酸レダクターゼインヒビターです。

ヒトDHFRは、見かけ上の分子量 25 kDa、186アミノ酸からなるタンパク質で、大腸菌 DHFRとは30%、脊椎動物DHFRとは 70%以下の相同性です。

Solution in 10 mM Tris pH 8, 1mM EDTA, 0.5mM DTT, 5 μM NADPH, protease inhibitors, and 50% glycerol.

関連遺伝子:DHFR (1719)

1unitは、pH 7.5, 22℃で 1分間に 1.0 DHFを 1μ molの THFに変換する酵素量です。

D6566 0.25 unit

Folate binding protein from bovine milk

▶ lyophilized powder

1,000倍以上精製。痕跡量の β-メルカプトエタノールを含有する場合があります。血中葉酸の放射性リガンド結合アッセイに有用です。N-メチルテトラヒドロ葉酸およびその他の葉酸アナログにも結合します。クエン酸ナトリウムとしてバッファー塩を含有する凍結乾燥粉末。1mg で約4000アッセイに対応します。包装サイズはタンパク質含量を基準にしています。

Composition

Protein ~30% (modified Warburg-Christian)

Lit cited: 1. Waxman, S., et al., Blood 38, 219 (1971); 2. Rothenberg, S.P., et al., New Engl. J. Med. 286, 1335 (1972); 3. Dunn, R.T., and Foster, L.B., Clin. Chem. 19, 1101 (1973);store at: -20 ° C

F0504 5 mg

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bioperformance

葉酸代謝:がんの原因と治療への関連

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癌学会ランチョンセミナーのご案内

葉酸研究用抗体製品抗原名 host/Clone 精製 交差 アプリケーション CAT.NO. 容量

DHFR mouse/2B10 精製イムノグロブリン humanmouserat

ELISA(i)IF(i)WB

WH0001719M1 100μg

DHFR (C 末端 ) rabbit アフィニティ精製 humanmouserat

IPWB(CL)

D0942 100μg

DHFR (N 末端 ) rabbit アフィニティ精製 humanmouserat

IPWB(CL)

D1067 100μg

Folic Acid mouse/VP-52 腹水 - ELISA(i) F5766 0.2mL0.5mL

MTHFD2 chicken アフィニティ精製 humanmouse

WB GW21998F 50μg

MTHFD2 rabbit アフィニティ精製 human WB SAB2100520 50μgMTHFD2 rabbit アフィニティ精製 human WB SAB2100521 50μgMTHFD2 rabbit アフィニティ精製 human WB SAB2100522 50μgMTHFD2 rabbit アフィニティ精製 human WB SAB1407053 50μgMTHFD2 rabbit 抗血清 Ig画分 human WB AV46038 100μgMTHFD2 mouse/4G7-2G3 精製イムノグロブリン human ELISA(i)

IHC(p)WB

WH0010797M1 100μg

5MTH Folic Acid mouse/FA-24 腹水 - ELISA(i) M5028 0.2mL0.5mL

MTR goat アフィニティ精製 humanrat

ELISA(i)WB

SAB2500656 100μg

MTR rabbit アフィニティ精製 human WB AV48473 50μgTYMS rabbit アフィニティ精製 human WB AV48543 50μgTYMS mouse/3A1 精製イムノグロブリン human ELISA(i)

IF(i)IHC(p)

WB

WH0007298M1 100μg

TYMS mouse (poly) 精製イムノグロブリン human WB SAB1406564 50μgTYMS mouse/2B2 精製イムノグロブリン human ELISA(i)

IHC(p)WB

SAB1404503 100μg

「抗体とペプチドによる制がん研究のための最新の技術」    座長:間下正雄(シグマ アルドリッチ ジャパン ライフサイエンス事業部長)

1.「ヒト癌細胞に高浸透能を発揮する新規人工配列細胞膜透過ペプチドの開発」    近藤英作 (愛知県がんセンター研究所 腫瘍病理学部 部長)2.「腸骨リンパ節を用いた効率的なモノクローナル抗体作製」    立花太郎 (株式会社細胞工学研究所)

10/5(水) 名古屋国際会議場 にてお待ちしております

癌学会にて ランチョンセミナー開催決定!

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Technical Service 03-5796-7330 [email protected]

新規のがん関連バイオマーカーの探索

11

癌の予後診断用のマーカーの必要性がんは、西欧諸国に多く見られる疾患の一つとして死因の大きな割合を占めています。一般に、ほとんどの種類のがんは年齢とともに発生率の上昇がみられることに加え、健康状態の改善など平均寿命が伸び続ける現代社会において、がんに冒される人の数は増加の一途を辿っています。また、がんの正確な予知や治療予測を行うためのバイオマーカーが不足していることから、患者が過剰な処置や不適切な治療を受けて必要以上の不快感や不安に苛まれるということも今日抱える大きな問題であり、がん患者をリスク別に分類し、より適切に階層化できるような新しい分子マーカーの必要に迫られています。

RBM3RBM3は、こうしたバイオマーカーの候補分子として、Human Protein Atlas(HPA)プロジェクト(proteinatlas.org)で初めて確認されたRNA結合タンパク質です 1,2。12名の乳癌患者由来の腫瘍検体で実施された RBM3の免疫組織化学分析では、2名の検体で穏やかな発現、6名の検体で弱い発現が確認され、4名の検体では染色が認められないという結果でした。その後、多数の乳癌患者をコホート集団とした検討が行われたところ、RBM3の発現と患者の生存期間の延長との間に関連性があることがわかり、最近、このデータが発表されました 3。また、広範囲の組織マイクロアレイ(TMA)による新しいデータで、悪性メラノーマ、卵巣上皮癌、大腸癌を含めた複数のがんについても、RBM3が患者の予後良好を示すバイオマーカーであることが明らかになっています(以下の項目参照)。

Atlas Antibodies のPrestige抗体を用いた新規のがん関連バイオマーカーの探索

HPAプロジェクト国際機構 HUPOの HPAプロジェクトでは、一日 10種類のペースで単一特異性ポリクローナル抗体(Prestige抗体)を検証しており、48種類のヒト正常組織、発症率の高い 20種類のがん、47種類の株化細胞、12種類の初代血液細胞をサンプルとしたタンパク質発現の調査研究において、これらの抗体が次々に利用されています。また、各抗体に対応するタンパク質の細胞内局在について、3種類の細胞株による検討が共焦点顕微鏡と免疫蛍光染色を使って行われており、結果の組織・細胞画像はすべて Human Protein Atlasポータルサイト(proteinatlas.org)に公開されています。サイト上で、Prestige抗体 1種類につき、免疫組織化学(IHC)、免疫細胞化学(ICC)、免疫蛍光法(IF)、ウェスタンブロット(WB)を合わせて 700を越える画像が掲載されております。さらに、これに加えて毎年、およそ 2,500種におよぶ新規タンパク質の発現と局在性に関するデータが追加されています。

乳癌乳癌が女性に圧倒的な頻度で発症するがんであることは言うまでもありません。乳癌患者に対する根治的治療としてはまず外科手術が行われ、多くの場合はこれと組み合わせて補助療法が行われますが、補助療法には多大な費用がかかるほか重度の副作用を伴う場合もあることから、過剰処置を軽減するという臨床的な必要に迫られているのが乳癌治療の現状です。よって、患者を予後のカテゴリー別に分類して階層化することが極めて重要であり、これが、特定の患者に対して最適な治療法を選択する一助になると考えられます

抗体の常識を超えた、ヒト抗体・発現データベースAtlas Antibodies の Prestige Antibodies® が買えるのは Sigma® だけ!

◦ 9,300種のヒトターゲットタンパク質をカバーする抗体が11,000製品以上◦ 1製品あたり700枚以上のIHC、IF、Wb画像を公開◦ 実験プロトコールは全製品共通の、標準化された同一プロトコールで、信頼できます

◦ Human Protein Atlas(HPA)プロジェクトにより開発されました◦ 購入の有無に関わらず、全データをサイト上でご確認いただけます

Prestige抗体は、1,400種類の新製品が追加されて11,000種類の抗体製品となりました。HPAプロジェクトによるヒトターゲットタンパク質のポリクローナル抗体の作製数の目標は3万、さらに一歩目標に近づきました。

Prestige抗体は全てHuman Protein Atlasプロジェクトにより評価されています。その評価方法は、IHC、IF、Wbの結果画像を各製品700枚以上、という驚異の画像データとして、HUPOのヒト抗体イニシアチブであるHPAにより公開されています。

Human Protein Atlas(proteinatlas.org)には、正常・癌細胞、セルライン、プライマリーセルを用いた910万枚以上の染色画像のコレクションが公開されています。このデータベースは、抗体の情報を視覚化して確認できるだけでなく、様々な細胞や組織における構造的・一時的な発現の知見としても有用です。

各抗体ごとに、ヒトの正常組織48種類において3重試験、癌組織20種類(4-12人分)において2重試験、セルライン47種、プライマリーセル12種を用いて、計700枚以上の画像を公開しています。

Figure1: オルガネラ特異的Prestige抗体、抗タイトジャンクションタンパク質ZO-1(密着結合タンパク質-1)を使用したU-2 OS細胞の細胞間接合部の染色。(製品番号HPA001636)

Figure2: Anti-MTHFD1による乳がん組織染色。たんぱく質の存在が褐色染色で示され、細胞核が青色で確認される。(製品番号HPA000704)

URL sigma.com/prestige-jp

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bioperfection

新規のがん関連バイオマーカーの探索

12

Human Protein Atlas(proteinatlas.org)の同定した RBM3は、正常な乳房組織では弱い発現パターンを示しますが、腫瘍組織検体では異なる発現パターンに分類されることがわかりました(Figure A)。また、最近の報告では 3、ステージⅡの閉経前浸潤性乳癌女性 500人のコホート集団のうち 311の組織検体について、RBM3タンパク質の発現を調べた結果が示されています(Figure B)。この研究によって、RBM3の発現が小型で悪性度の低いエストロゲン受容体(ER)陽性腫瘍と関係することが明らかとなり、ER陽性患者の無再発生存率(RFS)に対する独立した予測因子として、乳癌の予後良好を示すマーカーになると期待されています。

悪性メラノーマ悪性メラノーマは代表的な皮膚癌の一種であり、その発生率は急増しています。生存率は高いものの転移が比較的早いため、転移性の患者の予後については5年生存率が10%を下回るという厳しい状況にあります。これに加えて現在までのところ、臨床で予後診断や転移性病変のリスク評価に利用できるようなバイオマーカーも見つかっていません。原発性の皮膚悪性黒色腫で外科治療を受けた患者 157人をコホート集団として、腫瘍検体における RBM3タンパク質の発現を調べた結果(投稿準備中)、皮膚腫瘍のサンプルによって異なる発現パターンを示すことがわかりました(Figure C)。また、RBM3の発現と転移の有無の間に相関関係がみられています(Figure D)。このようなことから、患者が高リスクの転移性疾患で厳重な経過観察が必要であるかを判断する上で、RBM3の発現解析を利用できる可能性があり、その場合、RBM3の発現量をもとに高 RMB3の患者は治療を軽減、低 RMB3の患者はさらに積極的な治療を行う、といったことが実現されるかもしれません。

卵巣上皮癌(EOC)EOCは、世界的に最も多いがんの一種であり、婦人科系の悪性腫瘍では死因の第一位となっています。根治的治療としては、外科手術と術後のパクリタキセル、白金製剤を併用した化学療法が行われますが、再発するケースも多いうえ、白金製剤による激しい副作用を伴います。

原発性の浸潤性 EOCで外科治療を受けた患者 154人をコホート集団として、腫瘍検体における RBM3タンパク質の発現を調べた結果 4、正常な卵巣組織では RBM3の発現が低く、腫瘍検体では発現パターンが分類されることがわかりました(Figure E)。

このことから、補助療法の妥当性を医師が判断する際に、RBM3の発現解析を利用できる可能性があり、その場合、RBM3の発現量をもとに早期癌で高 RMB3の患者は治療を軽減し、低 RMB3の患者はさらに積極的な治療を行うといったことができるかもしれません(Figure F)。

正常組織;弱い がん組織;強い

がん組織;弱い

Figure A : 抗RBM3抗体(製品番号HPA003624)を使用した乳房組織の免疫組織化学分析の結果。正常乳房組織では弱い発現が確認される。乳癌組織の場合、発現の強弱は検体による。

正常組織;弱い 癌組織;強い

がん組織;弱い

Figure C : 正常および腫瘍皮膚検体におけるRBM3発現の免疫組織化学分析の結果、腫瘍組織での発現の強弱は検体により異なることが確認されている。

正常組織;弱い 癌組織;強い

癌組織;弱い

Figure E : 正常および腫瘍卵巣検体におけるRBM3発現の免疫組織化学分析の結果、腫瘍組織での発現の強弱は検体により異なることが確認された。

Years from diagnosis

20151050

Recu

rren

ce F

ree

Surv

ival

1.0

0.8

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0.2

0.0 P=0.06

RBM3 high

RBM3 low

Figure B : ER陽性乳癌患者を対象に、RBM3の発現レベルよるRFS値をカプラン・マイヤー(生存)分析で算出した結果。患者をRBM3の高発現、低発現のグループに分類(カットオフ値:陽性核 75%)。ER陽性腫瘍においてRBM3の発現レベルが高いこととRFSの改善との間に関連性があることがわかる(P = 0.06)。Cox多変量回帰分析(NHG:I-II vs III、nodal status:0 vs 1、腫瘍サイズ:</>20 mmで調整)により、核における RBM3発現量が高いグループ(染色された細胞の割合 >75%)で、RFSの改善が明らかになっている(RR = 0.56、95% CI:0.36-0.90、P = 0.02)。

0%

20%

40%

60%

80%

100%

NF = 0-1% NF > 1%

no metastases metastases

Figure D : 原発性腫瘍を RBM3レベルが低い(NF = 核での割合が 0~ 1%)あるいは高い(NF > 1%)グループに分け、それぞれにおける転移有無の割合を示す図。RBM3発現の低いグループは転移率が 50%を優に超えているが、RBM3発現の高いグループの場合、30%ほどに留まっている。正常および腫瘍皮膚検体におけるRBM3発現の免疫組織化学分析の結果、腫瘍組織での発現の強弱は検体により異なることが確認されている。

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新規のがん関連バイオマーカーの探索

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結腸直腸がん結腸直腸癌は最も多く見られるがんの一種であり、欧米諸国ではがんによる死亡の約 10%を占めています。今日、外科手術が唯一の根治的治療法となっていますが、転移性病変が治療の成功を阻むことも多く、現在までのところ進行性の患者には補助療法として化学療法が行われています。S状結腸癌の根治切除術を受けた患者でレトロスペクティブに特定された331症例のコホート集団のうち、274例の腫瘍検体における RBM3タンパク質の発現について評価が行われています(投稿準備中、Figure G)。また、免疫組織化学分析の結果から、大腸癌の組織サンプルで RBM3の発現に違いがあることもわかっています(Figure H)。これらの結果から、RBM3は、大腸癌の予後マーカーとして患者に対する補助療法の必要性や治療強度のレベルを決定するために役立つ可能性があるとみられています。

結論◦ Human Protein Atlasポータルサイトは新規バイオマーカーの同定に絶好の検索ツールです。

◦ Prestige抗体の利用により、Human Protein Atlasプロジェクトで近年、乳癌の予後マーカーとして特定された RBM3は、その後、他のがんにおいても有望なバイオマーカーであることが明らかにされています。

◦ RBM3は、乳癌、卵巣癌、大腸癌、悪性メラノーマなどの代表的ながんで、患者をリスク別に分類し、階層化するバイオマーカーとして有用であると考えられます。

◦ 主として核における RBM3タンパク質の発現量の増加は、がん患者の全生存率や無再発生存率と関係することが立証されています。

◦ RBM3の高レベルの発現という現象を、制御不能な増殖の継続に対する生体防御の一つであると仮定すれば、RBM3ががんの予後に良い影響を与えるということが説明され、発現が低い場合、おそらくはこの防御機構の低下に伴って、予後不良になると理解することができます。

References(1) Berglund, L., Björling, E., Oksvold, P., Fagerberg, L., Asplund, A., Al-Khalili Szigyarto, C., Persson, A.,

Ottosson, J., Wernérus, H., Nilsson, P., Lundberg, E., Sivertsson, A., Navani, S., Wester, K., Kampf, C., Hober, S., Pontén, F., Uhlén, M., A gene-centric human protein atlas forexpression profiles based on antibodies. Mol. Cell. Proteomics, 7, 2019-2027 (2008).

(2) Uhlén, M., Björling, E., Agaton, C., Szigyarto, C.A., Amini, B., Andersen, E., Andersson, A.C., Angelidou, P., Asplund, A., Berglund, L., Bergström, K., Hansson, M., Hober, S., Kampf, C., Pontén, F., et al., A human protein atlas for normal and cancer tissues based on antibody proteomics. Mol. Cell. Proteomics, 4,1920-1932 (2005).

(3) Jögi, A., Brennan, D.J., Rydén, L., Magnusson, K., Ferno, M., Stål, O., Borgquist, S., Uhlén, M., Landberg, G., Pahlman, S., Pontén, F., Jirström, K., Nuclear expression of the RNA-binding protein RBM3 is associated with an improved clinical outcome in breast cancer. Mod. Pathol., 22, 1564-74 (2009).

(4) Ehlén, Å., Brennan, D.J., Nodin, B., O´Connor, D.P., Eberhard, J., Alvarado-Kristensson, M., Jeffrey, I.B., Manjer, J., Brändstedt, J., Uhlén, M., Pontén, F., Jirström, K. Expression of the RNA-binding protein RBM3 is associated with a favourable prognosis and cisplatin sensitivity in epithelial ovarian cancer. Submitted (2010).

正常組織;弱い 癌組織;強い

癌組織;弱い

Figure H : 正常および腫瘍大腸検体におけるRBM3発現の免疫組織化学分析の結果、腫瘍組織での発現の強弱は検体により異なることが確認された。

2520151050

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RBM3 high

RBM3 lowP=0.004

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Figure F : 図は、EOC癌患者を対象に RBM3の発現による全生存率(OS)をカプラン・マイヤー(生存)分析で算出した結果を表す。患者を RBM3高発現と低発現のグループに分類(カットオフ値:陽性核 75%)。RBM3発現レベルが高いこととOSの改善との間に関連性があることが確認された(P = 0.004)。Cox多変量回帰分析(年齢:連続、ステージ:I-II vs III-IV、グレード:I-II vs IIIで調整)により、核における RBM3発現量が高いグループ(染色された細胞の割合 >75%)で OSの改善が明らかになっている(RR = 0.61、95% CI:0.40-0.92、P = 0.017)。

20151050

1.0

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0.6

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RBM3 high

RBM3 low

P=0.002

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Figure G : 図は、S状結腸癌と診断された患者を対象に、RBM3の発現レベルによる RFS値をカプラン・マイヤー(生存)分析で算出した結果を表す。患者を RBM3高発現と低発現のグループに分類(カットオフ値:陽性核 1%)。腫瘍における RBM3の発現レベルが高いことと RFSの改善との間に関連性があることがわかる(P = 0.002)。Cox多変量回帰分析(年齢:>/<=75歳、性別、ステージ:I-II vs III-IV、分化:高~中分化型 vs 低分化型で調整)により、核における RBM3発現量が高いグループ(染色された細胞の割合 >75%)で、RFSの改善が認められている(RR = 0.49、95% CI:0.36- 0.68、P < 0.001)。

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bioperspective

がん研究:エピジェネティックメカニズム

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世界保健機関(WHO)が 2009年 2月に発表したがんの概況報告書によると、2004年の総死者数の死因に占めるがんの割合は約 13%となっています。がん(悪性腫瘍)という言葉は、細胞増殖が制御不能になることを特徴として分類される様々な疾患を表しており、その多くは隣接する組織へ浸潤してそれらを破壊し、さらにはリンパ液や血液を介して体内の別の場所に転移します。こうした悪性の性質によって、がんと正常細胞や、自己終息的で非浸潤性の傾向にある非転移性の良性腫瘍は区別されています。

がんの大半は、発癌性物質、電離放射線、ウイルス感染、デオキシリボ核酸(DNA)の複製エラーや遺伝的欠陥などの影響を受けた細胞中に、異常性(変異型)の遺伝形質が蓄積されて徐々に発生するものであり、この変異形質の蓄積ががん細胞の浸潤性や転移性をもたらすと同時に、一連の組織環境に定住する能力を与えています。がんを引き起こす遺伝子異常の多くは、がん遺伝子(正常細胞をがん性の腫瘍細胞へ形質転換させる原因となる遺伝子)に生じています。

ras、wnt、myc、erkなどのがん原遺伝子がコードするタンパク質は細胞の増殖・分化の制御に役割を果たしており、多くの場合、分裂シグナルの伝達や実行に関与していることから、これらの遺伝子が変異によって活性化されると細胞の過剰な増殖、分裂や、アポトーシスに対する新たな保護作用が引き起こされます。さらなる原因として、p53や網膜芽細胞腫タンパク質などの腫瘍サプレッサーに生じる変異があります。こうしたタンパク質の発現低下により、細胞周期の調節に対する抑制作用が低下するか、あるいはアポトーシスを促進する効果が発揮され、場合によってはこの両方が同時に起こります 1。また、通常、これらの変異はその他の遺伝的変化とともに遺伝子の機能喪失や機能低下をもたらし、細胞をがん化へと向かわせています。

がん進行における活性化候補遺伝子の発見生物体そのものを研究することは、かなりのデータが得られる反面、組織間の相互作用や生体のエンドクリン、パラクリンパスウェイによって複雑化することも事実です。がん進行のステージの多くは細胞レベルでモデル化することが可能であり、多くの細胞間相互作用の底にある遺伝的メカニズムを解明することができます。既知の反応系やパスウェイ、または疾患の中でがんの原因となる表現型を誘導する分子間相互作用が数多く認められており、この複雑性をさらに理解するためには、こうした経路と因果関係のある有力な候補分子をスクリーニングし、特定することが多くのがん研究の第一歩となります。現在、ゲノムワイド研究による大規模なスクリーニングプロジェクトが多くの研究者たちの間で進められており、生物学的に注目される問題と関連する候補遺伝子の同定が行われています。こうした生物学的相互作用の発見は、さらなる評価が必要とされる多数のキャラクタリゼーション研究やバリデーション研究につながっています。

遺伝子機能の特定化、シグナリング経路の解析や創薬ターゲットの検証を行う研究者たちにとって、RNA干渉(RNAi)はその柔軟性から有効な手段となっており、RNAiを利用して遺伝子発現を配列特異的に阻害し、機能喪失させた表現型をもとに遺伝子活性の役割を特定するというアプローチが行われています。また、利便性の面から、全ゲノムスクリーニングの手段として Short interfering RNA(siRNA)と Short hairpin RNA

がん研究:エピジェネティックメカニズム(shRNA)の両方のプラットフォームが利用されています。スクリーニングで合成 siRNAを使用する際に有利な点は、主として使用の容易さと有効性の高いデリバリー手法が確立されていることにあります。アノテートされたほとんどすべての遺伝子を標的とする有効な siRNAライブラリーが広範に検証されており、強力な遺伝子サイレンシング効果をもたらしています 2。

近年、酵素的に合成された RNA(esiRNA)を利用した選択的 RNAiプール法(Figure 1)が、哺乳動物細胞の全ゲノムスクリーニングに利用されています 3。esiRNAの最初の発見はMichael J. Bishopの研究室によるもので、後にドイツ・マックスプランク研究所の Frank Bucholzによりスクリーニング用として開発されました。この技術では 300~ 600 bp遺伝子の特定の二本鎖 RNA(dsRNA)を in vitro転写した後、エンドリボヌクレアーゼにより siRNA(esiRNA)を調製しており、siRNAsの生成にRNase IIIなどのリボヌクレアーゼを利用した酵素消化の手法が取り入れられています。この消化によって、同じ配列を標的とする複数の siRNA様分子を含む複合プールが得られ、特異的かつ効果的な遺伝子サイレンシングを誘導することができます。

Figure 1. mRNA領域から cDNAトランスクリプトームを作製します。Deqor siRNAデザインプログラムに基づいて、高効率の siRNAターゲット配列が可能な限り含まれた増幅領域を選択しています。続いて PCRを利用し、ロング dsRNAの in vitro転写用としてcDNA に T7プロモーターを導入します。in vitro転写後、最終的にロング dsRNAを酵素消化によってショート dsRNAに切断することで、siRNA様分子の複合プールが得られます。また、残りの DNAテンプレートをはじめ、取り込まれなかったヌクレオチド類や約48 bpを越える dsRNAを除去し消化物を精製しています。

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がん研究:エピジェネティックメカニズム

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複雑な経路の解析やスクリーニングにおいて、安定して長時間のサイレンシングが必要な場合に shRNAが RNAiプラットフォームとして選択される理由は、レンチウイルス粒子による shRNAのデリバリーが形質導入において広範な指向性や組み込みの安定性をもち、さらにインターフェロン応答の影響が低いなど、スクリーニングに有利な数々の特長があるためです。レンチウイルスデリバリーシステムによって宿主の染色体に安定して組み込まれた shRNA配列は、メッセンジャー RNA(mRNA)を長期間低下させることから、解析時間を延長してタンパク質の減少を測定することが可能です。

マサチューセッツ工科大学とハーバード大学のブロード研究所の主導により公的機関と民間企業の共同で組織された RNAiコンソーシアム(TRC)では、ヒト、マウスゲノムをカバーするレンチウイルス shRNAライブラリーが開発され、多数のスクリーニングに利用されています 4。さらに、RNAiプールやアレイなど TRCゲノムワイドライブラリーによる多くの RNAiスクリーニングツールも市販されるようになり、全ゲノムスクリーニングがより柔軟に行えるようになりました。

こうした方法は薬剤の研究開発においてもますます重要となっており、RNAiを利用した創薬ターゲットの同定や検証が進められています。がん研究においても、RNAiは分子ターゲットの特定、遺伝子スクリーニング、特定の薬剤と遺伝子の相互作用の検討などに有効に活用され、ファーマコゲノミクスの分野で不可欠な存在となっています。

エピジェネティックスとがん遺伝子損傷は長年にわたりがん研究の焦点となっていますが、エピジェネティック修飾の異常が腫瘍形成に大きな影響を及ぼすという認識が高まっています。エピジェネティック変化とは DNA配列の変化なしに生じる遺伝的変化を指しており、遺伝子の発現を変化させることによって、がんの発症に影響を与えています 5。さらに、がん進行のあらゆる段階では、ジェネティクスとエピジェネティクスの両方が関わっています。また、遺伝子損傷の蓄積や異常なエピジェネティック制御ががん形成の原因であると同時に、RNA(特にmicroRNA、miRNA)の最終的な役割についても知る必要があります。miRNAは、全身の遺伝子発現とタンパク質産生を調節するネットワークを構成し、抑制的なクロマチン構造の形成と密接にかかわっていることから 6、miRNAが遺伝子全体の発現とがんのプロセスをコントロールする大きな役割を果たしていると考えられています。

エピジェネティクスとは、DNAの配列自体の変化以外に生じる遺伝的修飾を扱う研究領域であり、“genetics”の前に置かれたギリシャ語の接頭語である“epi-”がその特徴を示しています。エピジェネティック修飾はDNAの外観や構造に影響を与えて遺伝子発現を制御しており、例えば、エピジェネティックの一つであるDNAメチル化では、シトシン -リン酸 -グアニン(CpG)ジヌクレオチドのシトシンにメチル基が付加されます。

細胞の DNAメチル化パターンがひとたび定着すると、これらの部位は娘細胞に遺伝して正常な機能や発達に重大な影響を与えます。さらに、エピジェネティック修飾の異常は、がんをはじめ細胞、組織の増殖に異常がある疾病の進行に大きくかかわっており、腫瘍抑制遺伝子やがん遺伝子の不適切なエピジェネティック変化ががん発症の第一歩となる場合もあります。がんにおいては、一部の腫瘍抑制遺伝子が誤ってオフの状態になることで増殖を制限するタンパク質の産生が阻止されるうえに、多くのが

ん遺伝子や増殖促進性の遺伝子が誤ってオンの状態となり、異常な細胞増殖を引き起こしています。

がん細胞では複数の遺伝子が変異による修飾を受けて、それらの遺伝子がコードするタンパク質の本来の機能に変化が生じています。また、エピジェネティクスを通じた染色体の修飾により、遺伝子の発現パターンが変化しています。

こうしたエピジェネティック変化は、DNAのメチル化をはじめ、ヒストンなど、クロマチンを形成するタンパク質のメチル化、アセチル化、リン酸化(タンパク質や有機分子へのリン酸化修飾)を通じて起こります。がん発症におけるエピジェネティクスの理論は、非変異的な DNAの変化により遺伝子発現が変化するというもので、例えば、正常細胞では DNAメチル化によってがん遺伝子は抑制された状態にあり、このメチル化が失われると遺伝子の異常発現が誘導されてがんが進行すると考えられています。さらに、がん発達の期間は腫瘍抑制遺伝子が DNAの過剰メチル化によって抑制された状態となっている場合もあります。現在のエピジェネティック治療では、こうした“エピ変異”の可逆性が利用されています。

がん進行のあらゆる段階では、ジェネティックな現象とエピジェネティックな現象が互いに協調しています。現在、がん形成に関与する分子として同定された変異体の多くは腫瘍の発生と関わるものですが、腫瘍の進行とリンクする特異的な遺伝子変異は数少ないことから、エピジェネティック変化の関与が示唆されています。このシナリオは、遺伝子の変異が、がんを発症させ、DNAメチル化やヒストン修飾を含むエピジェネティック変化ががんの進行を促進するというものですが、エピジェネティック変化が、がんの発症に関与しないという意味ではありません。例えば、メチル化の減少により増殖の制御にかかわる遺伝子のインプリンティングが失われると、がんが誘導されます。また、エピゲノムの変化が細胞を刺激(プライム)することによって、細胞の形質転換やその後の DNAの変異を促進する可能性も考えられています。

DNAメチル化DNAメチル化は正常な発達に不可欠な要素であり、インプリンティング、X染色体不活性化、反復配列の抑制や発がんに関与しています。DNAメチル化とは DNAにメチル基が付加される反応であり、シトシンピリミジン環の C5メチル化などが代表的な例として広く知られています。その他のエピジェネティック機構と同様に遺伝性があり、かつ基本的な DNA配列に変化はありません。ヒトの DNAメチル化は CpGジヌクレオチドに生じ、成人の体細胞組織ゲノムに存在するCpG配列では、60~ 90%がメチル化を受けています。また、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)のメチル化維持活性により、DNAメチル化は複製後の娘鎖においても保存されます。

DNAメチル化の役割として、転写抑制やゲノム安定性の向上が知られていますが、大きく分けて二つの手段で遺伝子の転写に影響を与えています。第一は、転写タンパク質の遺伝子への結合を物理的に妨害することであり、第二は、多くのメチル化 DNAにみられるメチル -CpG-結合ドメイン(MBD)タンパク質との結合です。MBDタンパク質は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)やヒストンデアセチラーゼ(HDAC)などのクロマチンリモデリングタンパク質を含めた他のタンパク質を遺伝子座に動員する働きがあり、その結果、最終的に不活性型のコンパクトなク

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がん研究:エピジェネティックメカニズム

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ロマチン構造が形成されます。

がん細胞において、DNAメチル化は最初に観察されたエピジェネティック変化です 7。多くの遺伝子の 5’調節領域(プロモーター)には DNAのメチル化を回避した”CpGアイランド”が存在していますが、ある種のがんではこれらのCpGアイランドが異常な過剰メチル化を受けた結果、このプロセスで遺伝的な転写抑制がおこっています(Figure 2)。これとは逆に、正常にメチル化された一部の CpGアイランドが異常に低メチル化されて、遺伝子が活性化する場合もあります。

一般的傾向として、老化とともにゲノムは低メチル化しますが、一方で一部の CpGアイランドは過剰メチル化されており、結果としては、年齢とともにがんの発症率が上昇しています。このプロセスをメチル化に関する既知の事実にもとづいて推察すると、どのようにして腫瘍形成が促進されるのかがわかります。例えば、腫瘍抑制遺伝子においては CpGアイランドの過剰メチル化が遺伝子のスイッチオフを引き起こしており、全体的な低メチル化は、ゲノム不安定化とその後のがん遺伝子や転位因子(トランスポゾンが変異原)の活性化を促進すると考えることができます。

DNAメチル化は、対立遺伝子のインプリンティングを支配する重要なエピジェネティック因子です。ゲノムインプリンティングとは、古典的なメンデル遺伝とは別に、ある遺伝子がどちらの親に由来するか(parent-of-origin)に応じて発現するという遺伝現象の一つであり、常染色体遺伝子の大部分(性決定染色体以外のあらゆる染色体に見いだされる遺伝子)は両対立遺伝子に由来して発現が起こりますが、ごくわずかな割合(1%未満)の遺伝子は、一方の対立遺伝子のみが発現します。

インプリント遺伝子には、母親から受け継がれた対立遺伝子のみ発現するもの(H19、CDKN1Cなど)と、父親から受け継がれた対立遺伝子のみ発現するもの(IGF2など)があります。インプリント遺伝子の調節は、生殖細胞の胚発生期間に残されたメチル化の目印によって大きく左右され、体細胞におけるこれらのメチル化領域の安定性は、各細胞の複製を通じてDNMT1により維持されます。様々なヒト腫瘍でインプリント遺伝子発現の異常制御(インプリンティング消失、LOI)が頻繁に生じており、

がんの中で最も豊富で早熟な変化であると考えられています 8。LOIの結果、主として

◦ 通常はコピーが抑制されたインスリン様成長因子 -2(IGF2)のような増殖促進遺伝子コピーの活性化。

◦ 通常活性化状態にある p57、KIP2のような増殖抑制遺伝子コピーのサイレンシング。

がおこります。

遺伝子の発現やサイレンシングとメチル化異常との関係を明らかにするため、DNAのメチル化とヒト疾患に関する研究が行われており、がん、ループス、筋ジストロフィーや先天的欠損症など、インプリンティング機構の異常が原因とみられる多くの疾患についても検討が進められています。

過剰メチル化薬剤Gronbaekの報告では、(過剰メチル化が直接的な原因とみられる)がんに対する現在のアプローチとして、低メチル化薬の使用が提唱されています 5。例えば、ダコジェン ®(5-aza-CdR)は、ある種の造血系癌における治療使用について、既に米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けています。このデオキシシチジンアナログは、DNAに取り込まれるとDNMTに共有結合し、働きを阻害します。その結果、DNMTは複製の間に新たに合成されるDNA鎖のメチル化パターンを維持できなくなり、メチル化のサインが次々と消失します。さらに注目すべきは、脱メチル化活性が活発に分裂中の細胞で発揮されることにあります。通常、がん細胞の増殖速度は正常細胞よりも早いことから、この活性は正常細胞のエピジェネティックなサイレンシングパターンには影響がありません。もし正常細胞に作用してそれらのがん遺伝子が脱メチル化された場合、がんを引き起こす可能性があることから、薬剤のこのような特性は極めて重要です。

Figure2. このゲノムDNA領域は、過剰メチル化されたヘテロクロマチンと、活発に転写される腫瘍抑制遺伝子(TSG)を含んでいます。腫瘍細胞の特徴は、リピート配列の豊富な領域が過剰メチル化から低メチル化へと変化することであり、有糸分裂組換えの結果、ゲノム不安定性が生じます。一方、TSGの上流に位置するCpGアイランドは低メチル化されて転写可能な状態にありますが、腫瘍形成の期間では過剰メチル化されて発現が低下することから、がんが進行します。

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ヒストン修飾真核生物の遺伝子は直鎖状の複数の染色体上に位置し、ヒストンタンパク質との複合体にパッキングされてクロマチンを形成しています。クロマチンの構造は動的であり、凝集した状態のヘテロクロマチンと広がった状態のユークロマチンが存在します。クロマチンの基本ユニットはヌクレオソームと呼ばれ、これらが連続的な一連の高次構造で折り畳まれた結果、最終的に染色体を形成しています。ヌクレオソームは、H2A、H2B、H3、H4が各 2コピーずつで形成されたヒストン八量体に巻き付いた 146 bpの DNAと、リンカーのヒストンH1で構成され、リンカーのヒストンがない場合、凝集がほどけていわゆる数珠状構造(Beads-on-a-String)という緩んだ形を取ります。

HAT遺伝子の過剰発現や変異は様々ながんの要因となっています。その中でも特に、血液や上皮起源のがんに多く、例えば p300 HAT遺伝子の場合、多数の胃腸腫瘍で変異がみられています。HDAC遺伝子の正常機能に影響を与えるような変化ががん形成の原因とされることはまれですが、HDACのターゲティング異常は、細胞周期の進行を阻害するサイクリン依存性キナーゼ阻害因子である p21のような腫瘍抑制遺伝子の転写抑制と関係しています。

この例として、不適切な脱アセチル化を受けたヒストンは、p21遺伝子の調節エレメントと密に結合して転写を妨害するため、結果的に p21の発現が抑制されて、細胞分裂は制御不能な状態に陥ります。HDACのインヒビターは、p21の発現を再活性化して腫瘍細胞の増殖を阻止することから、抗癌剤として臨床で良好な成果を上げるとともに、大幅な抗腫瘍活性を示しています 9。

ヒストンのメチル化は、ヒストンメチルトランスフェラーゼの作用によりリジンとアルギニンの両方の残基で側鎖の窒素原子がメチル化される可能性があることに加え、各アミノ酸残基に一つ以上のメチル基が転移される場合もあり、アセチル化よりもさらに複雑です。この複雑性は、それぞれの事象がクロマチン構造や調節性のタンパク質と相互作用する能力に影響を及ぼすという制御的なポテンシャルをもたらしていますが、ヒストンのリジン、アルギニン残基がメチル化された結果、転写活性化が起こる場合もあります。例えば、ヒストン 3のリジン(K)4(H3K4)のメチル化や、H3、H4のアルギニン(R)残基のメチル化がこれに当たります(Figure 3)。

ヒストンのリジン残基をメチル化する SET(Suppressor of variegation-Enhancer of zeste-Trithorax)ドメイン含有プロテインメチルトランスフェラーゼスーパーファミリーの分子は、その多くががんに関与しています。例えば、SETドメイン含有メチルトランスフェラーゼの一種である SUV39は H3の K9のメチル化を触媒しますが、SUV39とそのファミリー分子を欠損したマウスでは、H3K9メチル化の大幅な減少に伴ってゲノム不安定化が生じます。また、この酵素を欠失させたトランスジェニックマウスは、がんの中でも特に B細胞リンパ腫を発症します。

一方、ヒストンにはリン酸化も確認されていますが、この修飾は有糸分裂、アポトーシスや DNA修復の過程でおこる大規模なクロマチンの再編成にかかわっています。CDK2によるリンカーヒストンH1のリン酸化は細胞周期の進行に関与しており、H1のリン酸化は分裂細胞のマーカーとしても長く利用されています。H1リン酸化の上昇は多くのがん細胞で観察される一方、これが、人為的な影響で増殖が亢進した結果である可能性も考えられますが、それでもなお、ヒストンリン酸化に介在するキナーゼの調節異常と発癌性との関係は否定できません。例えば、オーロラキナーゼは通常、H3をリン酸化して多くの有糸分裂(細胞分裂)事象をコントロールしていますが、悪性の多くのヒトがんではオーロラキナーゼファミリーの 3種類の分子(オーロラ A、B、C)がすべて過剰発現しており、染色体分配の異常や異数性をもたらしています。

エピゲノム研究エピジェネティック制御による遺伝子サイレンシングはがんの大きな原動力であり、DNAメチル化、ヒストン修飾、micro-RNA発現など、疾病におけるエピジェネティック機構の研究によって悪性表現型に寄与する因子が明らかにされています。プロモーター領域におけるシトシンのメチル化や、ヒストンのようなクロマチンタンパク質の共有結合修飾は、転写抑制を引き起こしています。これらのサイレンシングの多くは腫瘍サプレッサー遺伝子に生じており、プロモーター /CpGアイランドの過剰メチル化が予後不良と関係することも少なくありません。よって、こうしたエピジェネティック変化の引き金となる要因を理解することは、その発生を低下、あるいは阻止するためには必要不可欠です。その中で、DNAメチル化は既存の技術で最も容易に研究できることから、最も特徴が知られたエピジェネティック過程であると言えます。現在、DNAメチル化の解析方

Figure3. 真核生物の遺伝子は直鎖状の複数の染色体上に位置しており、ヒストンタンパク質との複合体にパッキングされてクロマチンを形成しています。ヒストンはクロマチンの動的な構造を制御する主要分子であり、クロマチン構造には凝集した状態のヘテロクロマチンと広がった状態のユークロマチンが存在します。クロマチンの活性、不活性はヒストン尾部のアセチル化、メチル化、リン酸化など、転写後修飾に大きく依存しています。

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がん研究:エピジェネティックメカニズム

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法は、大きく分けて網羅的メチル化解析と遺伝子特異的メチル化解析の二種類があります。

ゲノム全体のメチル化状態を測定することは、調節変化を網羅的に把握する上で非常に有効です。網羅的メチル化の測定法には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析、メチル基受容能アッセイがあり、これらの方法でゲノム中の全メチルシトシン量を測定することができます。さらに第四の方法として、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)があります。サンドイッチ ELISAを利用して比色測定によりメチル化 DNAを定量するキットも一部市販されており、サンプル中に存在するメチル化 DNA量は測定された吸光度に比例して求めることができます。HPLC、質量分析と比べてこの方法が有利な点は、実験室において簡単な方法や設備で実施できることにあります。

遺伝子特異的なメチル化を解析する技術も、現在、多数開発されています。最も初期の研究ではメチル化感受性の制限酵素を用いて DNAを消化し、サザンブロット検出やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する手法が採られていましたが、その後、メチル化特異的 PCR(MSP)や亜硫酸水素塩ゲノムシークエンシング PCRなど、亜硫酸水素塩の反応に基づいた方法が普及しました。メチル化シトシン(meC)は亜硫酸水素塩に対して安定ですが、メチル化を受けていないシトシンはウラシルに変換されることから、亜硫酸水素塩で処理した結果、個々のシトシン残基のメチル化状態に応じて DNA配列に特異的な変化が与えられます。亜硫酸水素塩によるDNA処理に必要な試薬が揃ったキット製品も多く市販されており、5-メチルシトシン残基には影響を与えずにシトシン残基をウラシルに変換することが可能なうえ、変換されたDNAはMSP、メチル化シークエンシング、ピロシークエンスなど、以降の様々なアプリケーションに利用することができます。さらに、ゲノム中の未知のメチル化ホットスポットや、メチル化された CpGアイランドを同定する手段として、メチル化に対する制限酵素ランドマークゲノムスキャニング(RLGS-M)、CpGアイランドマイクロアレイなどのゲノムワイドスクリーニング法も開発されています。

一方で、クロマチン修飾も極めて重要なエピジェネティック過程と考えられています。ヒストン修飾はクロマチン構造を変化させることから、エピジェネティック制御を早期に確認できる指標となります。この現象を研究する方法の一つとして、クロマチン免疫沈降法(ChIP)が知られています。この手法は生きた状態の細胞から出発し、あるDNAと、その DNAと相互作用するタンパク質とを架橋試薬を利用して化学的に結合させます。その結果生じたDNAを分離、切断し、タンパク質に特異的な抗体(アセチル化ヒストン抗体など)を利用してバルクから沈殿させます。架橋は可逆性であり、沈殿した DNAには目的タンパク質と相互作用する配列が濃縮されていることから、このサンプルをもとに存在するDNA配列を決定することができます。遺伝子量が少ない場合には、PCRを利用した検出が可能であり、マイクロアレイ(ChIP-チップ)や並列シークエンシング(ChIP-シークエンシング)を実施することもできます。ハイスループット解析用の 96ウェルフォーマットのキットなどChIP解析のキット製品が市販されていますが、ChIP-チップでは、マイクロアレイ解析に必要なDNA量が免疫沈降で十分に得られない場合、濃縮されたDNAサンプルを増幅する必要があります。この問題については、断片化したDNAサンプルから長い DNAを生成させる全ゲノム増幅(WGA)法を応用し、少量の ChIP DNAを増幅させるという方法が開発されています 10。

エピジェネティック薬品開発と評価遺伝子変異とは異なり、エピジェネティック変化は可逆的で回復できる可能性があることから、DNAやヒストンの修飾酵素に対する低分子インヒビターの大規模な開発が本格的に行われています。エピジェネティックターゲットの利用は、がんの化学療法や化学予防に有効かつ効果的な手法として浮上しています。既にHDACインヒビターや 5-aza-CdRのような DNA脱メチル化薬が抗癌剤として成功しているという事実は、このアプローチの原理を証明すると同時に、今後の“エピジェネティック薬”のより包括的なポートフォリオの開発に希望をもたらしています。

10年ほど前の研究計画では、がんにかかわる環境的あるいは遺伝的要因の同定や定量化が焦点となっていましたが、RNAiや低分子化合物など、スクリーニングツールの改良とその利用によってメカニズムの基本的な理解がなされるとともに、遺伝子とのさらに複雑な相互作用も垣間見えてきました。その一方で、腫瘍形成においてエピジェネティック修飾の異常が大きな役割を果たしているという認識が次第に広がり、腫瘍サプレッサー遺伝子、がん遺伝子やがんに関与するウイルス遺伝子など既に 600を越える遺伝子について、エピジェネティック機構による制御が確認されています。

がん形成の推進力となるエピジェネティック機構には、DNAメチル化の変化をはじめ、DNAメチル化にかかわるヒストンコードの修飾や、特定のヒストン修飾酵素に生じる異常といった様々な現象が潜んでいます。これらの研究領域は、がん患者の治療や進行がん患者のリスクレベルの評価など、臨床応用へ向けて急速に広がっており、がんにおけるエピジェネティクスの役割の解明へ向けて、DNA異常メチル化の解析、亜硫酸水素塩による修飾、ハイスループット亜硫酸水素塩ゲノムDNAシークエンシング、網羅的 DNAメチル化の定量や、ヒストンデアセチラーゼインヒビター、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害アッセイ、クロマチン免疫沈降法、RNA干渉など様々な手法が駆使されています。

次世代型ゲノム解析プラットフォーム、全ゲノムスクリーニング法や、その後の創薬ターゲット候補の解析法などを利用することで個々のがんゲノムをコスト効率良く評価できるようになり、ジェネティック、エピジェネティック、あるいは転写レベルの変化について、これらのゲノムを網羅的に特定することが可能となっています。また、RNAiのような創薬ツールの開発や、ハイスループットスクリーニングロボット、データ処理、制御ソフトウェア、リキッドハンドリングデバイスの改良によって、研究の進行はますます加速すると思われます。このような様々な事象とその間に存在する相互の依存関係を徹底して明らかにすることで、腫瘍形成、転移や治療反応のメカニズムがさらに理解されることは間違いありません。

References:(1) Sherr, C.J., Principles of tumor suppression. Cell, 116, 235-246 (2004).(2) Zhou, H., et al., Genome-scale RNAi screen for host factors required for HIV replication. Cell Host

Microbe 4, 495-504 (2008).(3) Ding, L., et al. A genome-scale RNAi screen for Oct4 modulators defines a role of the Paf1 complex

for embryonic stem cell identity. Cell Stem Cell, 4, 403-415 (2009).(4) Root, D.E., Hacohen, N., Hahn, W.C., Lander, E.S., and Sabatini, D.M. Genome-scale loss-of-function

screening with a lentiviral RNAi library. Nat. Methods, 3, 715-719 (2006).(5) Gronbaek, K., Hother, C., and Jones, P.A., Epigenetic changes in cancer. APMIS, 115, 1039-1059

(2007).(6) Djupedal, I. and Ekwall, K., Epigenetics: heterochromatin meets RNAi. Cell Res., 19, 282-295 (2009).(7) Feinberg, A.P. and Tycko, B. The history of cancer epigenetics. Nat. Rev. Cancer, 4, 143-153 (2004).(8) Jelinic, P. and Shaw, P. Loss of imprinting and cancer. J. Pathol., 211, 261-268 (2007).(9) Pan, L.N., Lu, J., and Huang, B., HDAC inhibitors: a potential new category of anti-tumor agents.

Cell. Mol. Immunol., 4, 337-343 (2007).(10) O’Geen, H., et al., Comparison of sample preparation methods for ChIP-chip assays. Biotechniques,

41, 577-80 (2007).

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The MISSION® Non-Coding RNA Product Line Complete Non-Coding RNA solutions from screening to validation

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Validation byMISSION 3'UTR Lenti GoClone™

miRNA

Cellsdie

Cellslive

Ganciclovir selection

miRNA

TK Zeo 3’UTR

TK Zeo

TK Zeo 3’UTR

TranslationNo Translation

Transfection and Zeocin selection • Untransfected cell die• Endogenous miRNA affected cell die

Target ID Library

Identification Targeted 3'UTR • Isolate genomic DNA• Analyze with PCR followed by sequencing

Target IDワークフロー

Target ID Vector map

4878 ,SnaBI

BamHI,1SmaI,7PstI,13EcoRI,19HindIII,31

p3’TKzeo5,190 bps

SnaBI,279

PstI,786

TKzeo

3485 ,ScaI

S�I,1624S�I,1637

EcoRI,1672PvuII,1762

PvuII,2296

4169 ,SspI

CMV5000

1000

20003000

4000

polyA

SmaI,267

4539 ,SpeI

4302 ,Bg1II

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CompoZr® ZFN Zinc Finger Nucleaseで遺伝子改変の可能性を広げよう

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CompoZr Zinc Finger Nuclease Technology遺伝子の機能を理解するため、機能ゲノミクス的アプローチに対する注目が集まっています。これまで哺乳動物の遺伝子解析は技術上の問題により RNAi もしくは遺伝子組み換えマウスに限られていました。ジンクフィンガータンパク質のモジュール性の発見とその後の zinc finger nulcease(ZFN) テクノロジーによって、これら技術的な障壁を超えることが可能となりました。CompoZr ZFN テクノロジーは広い範囲で応用可能であり、これまで困難であった生物種のゲノム改変も可能となります。

ZFNとは?Zinc Finger Nucleases(ZFN)は、任意のゲノム配列中に double Strand Break(DSB)を生じさせることで、簡便にゲノムを改変することができる人工キメラタンパク質です (Figure 1)。ZFNは DNA結合ドメインであるジンクフィンガーとDNAを切断するヌクレアーゼ部位で構成されています。ジンクフィンガードメインには、それぞれ3塩基を認識するC2H2型ジンクフィンガーを用いています。これらジンクフィンガーを 4-6つ連結させることで 12-18塩基対を認識する任意の結合ドメインが作製されます。もちろん 4つ以下のジンクフィンガーを連結させることも可能ですが、その分特異性も低下してしまいます。ZFNを完成させるため、我々はクラス II制限酵素である FokIのヌクレアーゼ部位をジンクフィンガードメインに結合しています。FokIヌクレアーゼ部位はニ量体形成時にDSBを引き起こすため、配列特異性は ZFNが二量体形成後の 24-36塩基対が必要とされます。また、ZFN対の間には FokIにニ量体を形成させるため、5-7塩基対のスペースが必要です。

ZFNの作用機序ZFNはゲノム上の様々な遺伝子や配列に対し特異的にデザインすることが可能です。作製された ZFNはmRNAもしくはプラスミドDNAとして細胞に導入されます。導入された ZFNはたんぱく質として発現した後、核へ移行し、特異的なターゲット配列に結合します。結合後、FokIヌクレアーゼドメインがニ量体を形成し、配列特異的な DSBを引き起こします。生細胞は DSBを修復する幾つかの内在性の修復機構を有しており、これら機構がノックアウトやノックインのために利用されます (Figure 2)。DSB形成後、細胞はNHEJかHRの機構によってDSB部位を修復します。NHEJは不完全なシステムであるため、修復の際にDSB部位への塩基の挿入や欠失が高頻度に起こります。このため欠失、フレームシフトやエキソンスキップ等が生じ、結果的に翻訳阻害やノックアウトが起こります。また、ホモロジーアームを持たせたドナープラスミドを ZFNと一緒に細胞へ導入することで、HR修復機構を利用した内在性遺伝子の特異的な改変やタグの付与も可能です。

Figure 1. ZFNは 2つの機能ドメインで構成されています。DNA結合ドメインは鎖状に連結したジンクフィンガータンパクで構成されています。それぞれ 3塩基対を認識するジンクフィンガータンパク質を 4-6つ結合させることで、認識配列は 12-18塩基対となります。DNA切断ドメインには制限酵素 FokIのヌクレアーゼ部位を使用しています。DNA結合ドメインとDNA切断ドメインを結合させ、また二量体となることで、これら ZFNは24-26塩基対を認識し切断するという、特異性の高い“ゲノムのはさみ”となります。

Figure 2. 細胞へ ZFNを導入すると、ターゲット配列部位でDSBが生じます。この DSBは細胞が有する 2つの内在性修復パスウェイ (non-homologous end joining(NHEJ)、homologous recombination(HR))によって修復されます。NHEJはノックアウトに、HRはノックインに使用されます。

CompoZr Zinc Finger Nuclease Work Shop 開催!2011年 8月23日(火)~25日(木) 大阪ハイテクノロジー専門学校弊社R&Dスタッフによるレクチャーと実際に細胞を使用して実験していただく事でZFNの可能性に対する理解がさらに深まります!

シグマ夏のバイオサイエンスセミナー2011年 8月26日(金) 大阪ハイテクノロジー専門学校分子生物・プロテオミクス・遺伝子分野で活躍される著名な先生方をお招きして 最新の知見をお話いただきます(参加費無料)

上記二つの詳細・お申し込みは:www.sigma.com/zfnjapan をご覧下さい。

CompoZr ZFN 関連 セミナー情報

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CompoZr® ZFN Zinc Finger Nucleaseで遺伝子改変の可能性を広げよう

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ヒト遺伝子改変細胞株ヒト生物学の研究、ドラッグディスカバリーやワクチン製造において、ヒト細胞株を用いることは基本的な手法の1つとなっています。しかし、これまではゲノム改変技術を用いて良い疾患モデル作製や生物学的生産の効率向上は技術的に困難でした。

従来、ヒト細胞のゲノム改変は、幾つかの細胞にのみ限られ、また効率が低いために薬剤マーカーによる選択が必要でした。さらに機能ゲノム的な手法においては、過剰発現系もしくは RNAi法に限られていました。ZFNテクノロジーはこれら技術的な障壁を取り除き、ほとんどのヒト細胞株でノックイン・ノックアウトが可能となり、さらに複数の遺伝子座を改変することも出来ます。ZFNテクノロジーによってゲノム改変されたあらたなヒト細胞は、これからのヒト研究にとって非常に有効であると考えています。

ドラッグディスカバリーでは新たなターゲット探索はもちろん、既存薬の適応拡大にも注力されている一方で、テーラーメイド医療への取り組みも行われています。テーラーメイド医療とは、薬剤の効能を高め、副作用を最小限に抑えるための投薬量を患者の遺伝情報を基にして調節することです。ZFNで改変された細胞株は、さまざまな疾患患者の遺伝的プロファイルを再現することが可能です。これらの ZFN改変細胞株を用いることで、疾患患者の遺伝的バックグラウンドに特異的な化合物スクリーニングを行えるため、リード化合物の選択や臨床試験をより効率的に行うことが可能です。

MCF10A-PTEN ノックアウト細胞株PTENはホスファチジルイノシトール 3,4,5‐トリスリン酸を脱リン酸化するホスファターゼであり、細胞周期の制御に重要な役割を果たしています。このタンパク質は、ホスホイノシチド基質を選択的に脱リン酸化することで、AKT/mTOR経路を抑制し、腫瘍抑制因子として機能しています (Figure 3)。PTEN遺伝子の変異は、PI3K経路の活性化を引き起こし、HER2陽性や basal-like乳癌が発生する原因とされています。PTENの機能を研究するためのツールとして、我々は PTENをノックアウトした細胞株とその対照としてホスト細胞をご提供します。ホスト細胞に対し、PTENノックアウト細胞はアイソジェニックであるため、遺伝的にもエピジェネティクスも同一の細胞株が比較可能となります。Figure 4に示したように、PTENノックアウトクローン (A2A9)では、PTENタンパク質が完全に消失していることが分かります。

PI3K

AKT

mTOR

PTENloss

PTEN

STAT3

Growth Factors (e.g.,RTKs)

PI3K/AKTactivation

Cancer stem-like cell survival/proliferation

Figure 3. PTENのホスファターゼ活性は、細胞増殖を制御している PI3K/AKT/mTOR経路を抑制する重要な役割を担っています。PTENの遺伝子変異は HER2陽性や basal-like癌と関連があることが指摘されています。

500

750

1000

1250

1500

1750

2000

2250

2500

2750

3000

1 10 100 1000

Concentration of Lysate (µg/ml)

Lum

ins

MCF10A-WT

Clone A2A9

Figure 4. PTENノックアウト細胞に含まれている PTENタンパク量の測定結果。A2A9クローンは ZFN処理によって生じた PTENホモ変異株です。PTENタンパク質の濃度はEIA法で測定しています

To learn more,Visit www.wherebiobegins.com/biocells

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CompoZr® ZFN Zinc Finger Nucleaseで遺伝子改変の可能性を広げよう

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B

F E

A

D

A

C

A

E

C

A

C

ご希望のアプリケーションは?

ノックインノックアウト

ノックアウト

置換

ヒ トヒ ト 他の生物 他の生物

いいえ いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

はいはい

はい

はい

はい

ノックイン置換

ラット その他生物種は?

ノックアウトしたい配列の指定がある

ノックインしたい配列の指定がある

ご希望のアプリケーションは?

お客様自身で動物を作製したい

お客様自身で動物を作製したい

カタログ品に希望の遺伝子がある

もしくは

もしくはもしくは

アプリケーション別 ZFN製品選択チャートZinc Finger Nuclease(ZFN) を利用した製品をお客様のアプリケーション別に選択できます!チャート結果は隣のページにてご覧下さい。

Reagent / 遺伝子改変細胞

遺伝子改変動物

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【Knockout ZFNs 製品検索方法(p53の検索例)】

検索ボックスに目的の遺伝子名を入力

目的遺伝子の“Products”の中にある、対象productsをクリック

Sigma.com/yfgjapanにアクセス!

ZFN関連製品は、カタログ製品の他、カスタム作製サービスも行っております。目的の製品が見つけられなかった場合や別の生物種をご検討されている場合は、お問い合わせください。

A CompoZr カスタム ZFN サービスお客様の御興味のある生物種の遺伝子に対し、実験目的に沿った特異的な ZFNを設計いたします。

CAT.NO. CompoZr Custom ZFN

CSTZFN-1KT サービスをご希望の場合はお問い合わせください。

B CompoZr ノックアウト ZFN, Ready-to-made Kitヒト遺伝子用 Ready-to-madeのノックアウトキットです。ほぼ全ての遺伝子に対応する約 22,000種の ZFNがラインアップされています。

CAT.NO. CompoZr Knockout ZFN,Ready-to-made Kit

CKOZFN1XXX¥1,725,000

For Human( 型番はターゲット遺伝子により異なります。 詳細はWebをご確認ください。)

C 遺伝子改変細胞株 作製サービス任意の細胞株を樹立いたします。ノックアウト・ノックインはもちろん、タグの付加や点変異等の改変につきましてもご相談ください。

CAT.NO. Custom Cell Engineering Service

CCESZFN サービスをご希望の場合はお問い合わせください。

D CompoZr Targeted Integration Kitアデノ随伴ウイルスが特異的に組み込まれる領域(AAVS1)を利用したキットです。ヒト 19番染色体の AAVS1領域へご希望の遺伝子を簡単にノックインできるようデザインされています。

CAT.NO. CompoZr Targeted Integration Kit

CTI1-1KT ¥299,000

フローチャートの結果はこちら!

E SAGEspeed™ (カスタム遺伝子改変動物作製サービス)マウス、ラット、ウサギの遺伝子改変が可能です。ノックアウト・ノックインはもちろん、タグの付加や点変異等の改変につきましてもご相談ください。

CAT.NO. SAGEspeed

CSTRKO サービスをご希望の場合はお問い合わせください。上記動物種以外も内容によりお受けできる場合がございます。

F SAGE™ Resarch Models(ノックアウトラット販売 )弊社で作製した KOラットです。対応遺伝子については、以降のページもしくは弊社 HPでご確認ください。

SAGE Research Models改変型 4-8週齢 ¥54,000(/ 匹)改変型 9-12週齢 ¥60,000(/ 匹)改変型 妊娠メス ¥78,000(/ 匹)野生型 ¥6,000(/ 匹) 週齢・性別問わず

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bioengineering

SAGE™ Research Models(ノックアウトラット販売)

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Advancing Cancer Research with the Tp53 Knockout Ratラットは同じ齧歯類のマウスに比べると体格が大きく、その生理機能や薬物反応、行動試験期間中の挙動がヒト疾患の動物モデルとして優れていることから、分子細胞生物学や生理学の実験の中でも、特に外科的な処理が必要な研究に非常に役立っています。ヒト乳癌、前立腺癌や骨髄転移など、がん研究における動物モデルとしても、この例外ではありません。しかし、ラットのゲノム操作では簡便な実験手法がなく、遺伝的モデルとしての応用に限りがあることから、近年、遺伝子操作した ES細胞の導入によってマウスゲノムを操作する手法が、多くのヒト疾患モデルとしてラットより有利であるとされてきました。

ENU変異 2やトランスポゾン 3といった技術でノックアウト系統のラットが作製されていますが、これらはランダム変異であることから、多くのスクリーニングが必要となります。それに比べ、ジンクフィンガーの DNA結合モチーフと Fok1の DNA切断ドメインを組み合わせたハイブリッド型の制限酵素である ZFNは、ゲノム中の単一の標的部位で二本鎖切断(DSB: double strand break)を引き起こします。切断された二本鎖が非相同末端結合(NHEJ: non-homologous end-joining)により修復される際、標的部位に配列の挿入、欠失や変異が生じることにより、目的の遺伝子産物が欠損します1。

今回、がん研究においてラット Tp53にこの技術を導入し、エキソン 3を破壊した結果、ヘテロ欠損型(+/-)とホモ欠損型(-/-)ラットの作製に成功しました。これらのノックアウトラットでTp53タンパク質が発現していないことを確認するとともに(Figure 1)、進行中の試験によって、腫瘍形成の範囲や発生率を明らかにし(Figure 2、Figure 3)、発癌性、悪性化の原因に関する研究や、化学療法試験のモデルとして有効であることを検証しています。p53は Tp53がコードする腫瘍サプレッサータンパク質であり、細胞周期の調節やゲノム安定化などの役割によってゲノム変異を阻止することが、ヒト、齧歯類、カエル、魚類など多岐にわたる多細胞生物で観察されています。

発癌性の早期スクリーニングTp53ノックアウトラットは発癌物質検出の潜伏期が短いことから、現在、発癌性試験に使用されているマウスのバイオアッセイを補うだけでなく、がんの化学療法の中毒症状に関連した代謝作用についても、マウスよりヒトに近いモデルで測定できるという点で大きな手助けとなります。これにより、発癌性試験の期間やコスト面の削減、試験結果の精度の向上を図ることはもちろん、少ない動物数で再現性のある生理学的データを得られるという大きなメリットがあります。

Tumor Incidence

GenotypeAge(weeks) Sex Tumor Locus

(-/-) 12 M Abdominal

(-/-) 22 F Brain

(-/-) 13 M TBD

(-/-) 15 F TBD

(-/-) 15 F TBD

(-/-) 18 F TBD

(+/-) 23 M TBD

(+/-) 34 F TBD

(+/-) 36 F Brain/Limb

(+/-) 54 F Brain

Figure 2. Tp53欠損ラットで観察された腫瘍Tp53ヘテロ欠損型(+/-)とホモ欠損型(-/-)の両方のノックアウトラットで悪性度の高い腫瘍が広範囲に認められています。ホモ欠損型のノックアウトラットでは、早期に高頻度で腫瘍が発生しています。TBD: To be determined

Figure 1. 野生型SDラットとp53ホモ欠損型ノックアウトラットから分離した細胞質ライセートを使用したウェスタンブロットの結果。

75 kDa

50

37

50

37

p53

Actin

kidney liver kidney liver

Wild-type p53 (-/-)

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SAGE™ Research Models(ノックアウトラット販売)

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A B

D E

C

Figure 3. 病変部位のH&E染色A. 原始神経外胚葉性腫瘍-嗅球B. 髄膜肉腫-小脳 C. 未分化星状細胞腫-大脳D. 未分化血管肉腫-四肢 E. 低分化肉腫-小腸

がん治療研究への応用Tp53の機能喪失を伴ったジェネティック、エピジェネティックな事象やその結果生じる悪性腫瘍を調べる手段として、Tp53ホモ欠損型ラットの利用が期待されます。

現在、腫瘍サプレッサータンパク質の機能喪失の影響を回復させる物質が化学療法薬や化学予防薬の候補となっており、体液のサンプリングや経時的な研究が可能な大型の齧歯類を使用した試験が進められています。ホモ欠損型、ヘテロ欠損型の Tp53欠損ラットはいずれも正常に発達しますが、ホモ欠損型の場合、4~ 5月齢で様々な腫瘍が観察されるようになります。

弊社では Tp53ノックアウトラット以外にも同様の技術で Rag1を欠失させた免疫不全モデルラットの作製に成功しており、転移研究のための異種移植やがん治療のための骨髄移植モデルに応用できるほか、ドラッグデリバリーや代謝についても生理的によりヒトに近いモデルで研究することが可能になると考えられます。

References:(1) Geurts , A., et al., Knockout rats via embryo microinjectionof zinc-finger nucleases. Science, 325, 433

(2009).(2) Katida, K., et al., Transposon-tagged mutagenesis in the rat. Nature Methods, 4, 131-133 (2007).(3) Zan, Y., et al., Production of knockout rats using ENU mutagenesis and a yeast-based screening

assay. Nature Biotechnology, 21, 645-651 (2003).

SAGEノックアウトラット アプリケーション別 リスト (以下のリストには販売予定も含まれています)

Neurobiology Cardiovascular Immunology Toxicology

Disc1 ApoE Rag1 Mdr1a

Lrrk2 Leptin Rag2 PXR

Pink1 Ldlr Foxn1 Bcrp

Park2 Prkdc Mrp1

Park7 p53 Mrp2

Snca p53

ApoE

Leptin

Bdnf

SAGE Resarch Models( ノックアウトラット販売 )

改変型 (ノックアウト)4-8 週齢 : ¥54,000(/ 匹)9-12 週齢 : ¥60,000(/ 匹)妊娠メス : ¥78,000(/ 匹)

野生型 : ¥6,000(/ 匹 週齢・性別問わず)

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がん細胞のアポトーシスシグナリング : パスウェイから簡単製品検索p53などのダイナミックな相互作用ネットワーク、他のパスウェイについては sigma.com/yfg をご覧ください。

Your Favorite Gene(YFG)には、文献検索、新規の遺伝子発現ビューアー、発現研究結果など、多くの情報が集約されています。複数のサイトを検索する時間が大幅に短縮できます。-アクセス・ご利用は全て無料

YFGは、研究に必要な製品、関連情報の検索にご利用いただけます。下記のリストでは、がん細胞のアポトーシス研究用製品の一部を紹介しています。YFGのサイトで遺伝子名、シンボル、疾患名、組織名、パスウェイなどから各種検索いただけます。sigma.com/yfg

● Prestige抗体(powered by Atlas Antibodies)は、現在市販されている抗体の中でも極めて高度に洗練された製品です(詳細は本紙11ページ参照)。

● MISSION® esiRNAは、エンドリボヌクレアーゼにより作製されたsiRNAで、同じmRNA配列を標的とする異なった siRNA分子の混合物です。これにより多重のサイレンシングが起こり、特異的な高効率の遺伝子サイレンシングを実現します。

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bioconnect

Interest panel headerInterest panel textYour Favorite Gene powered by Ingenuity

28

p53Product Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesMonoclonal Anti-TP53 antibody produced in mouse

Human WH0007157M1 100 µg

clone 2C3, purified immunoglobulin, buffered aqueous solutionAnti-TP53 (Ab-9) antibody produced in rabbit

Human SAB4300363 100 µg

affinity isolated antibodyNew Anti-phospho-TP53 (pSer37) antibody produced in rabbit

Human SAB4300077 100 µg

affinity isolated antibodyFlag-tag GenesFLAG®-tag Gene human Human FTG100 1 mLTP53Zinc Finger Nuclease, CompoZr® Knockout ZFN KitKnockout ZFN Kit Human CKOZFN1001 1 KitMISSION® shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_000546 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_011640 Custom

MISSION siRNAStart 864–NM_000546 Human SASI_Hs02_00302766 CustomStart 1448–NM_000546 Human SASI_Hs02_00302767 CustomMISSION esiRNA esiRNA human TP53 Human EHU123221 20 µg / 50 µgAnimal Models

NEW P53 -/+ RAT, SD, MALE 4-8 WKS

rat TGRS3990HTM4 4-8 WKS

3'UTR NEW MISSION 3'UTR Lenti

GoClone™ Powered by SwitchGear Genomics, 3'UTR, human, TP53

human HUTR00023 200 µL

miRNA Mimics NEW MISSION microRNA Mimic

hsa-miR-1300 human HMI0170 5NMOL

  = Validated

BidProduct Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-BID antibody produced in rabbit※ 1

Human HPA000722 100 µL

Anti-BID antibody produced in goat

Human SAB2500159 100 µg

affinity isolated antibody, buffered aqueous solutionMonoclonal Anti-BID antibody produced in mouse

Human WH0000637M1 100 µg

clone 3F3-1A3, purified immunoglobulin, buffered aqueous solutionMISSION shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_001196 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_007544 Custom

MISSION siRNAStart 800–NM_001196 Human SASI_Hs01_00047470 CustomStart 715–NM_001196 Human SASI_Hs02_00331335 CustomMISSION esiRNA esiRNA human BID Human EHU157511 20 µg / 50 µgCompoZr ZFN

NEW CompoZr Knockout ZFN Kit Human BID (NM_001196)

human CKOZFN1959 1Kit

3'UTR NEW MISSION 3'UTR Lenti GoClone

Powered by SwitchGear Genomics, 3'UTR, human, Bid

human HUTR00026 200 µL

miRNA Mimics NEW MISSION microRNA Mimic

hsa-miR-362-5p human HMI0516 5NMOL

 = Validated

c-RafProduct Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-RAF1 antibody produced in rabbit※ 1

Human HPA002640 100 µL

Anti-RAF1 (Ab-259) antibody produced in rabbit

Human SAB4300291 100 µg

affinity isolated antibodyAnti-RAF1 (Ab-338) antibody produced in rabbit

Human SAB4300462 100 µg

affinity isolated antibodySmall Molecules–InhibitorsAdenine ≥ 99% A8626 1g / 5g / 25g

/ 100g / 1kgPD 98,059 solid P215 1mg / 5mgGW5074 solid G6416 5mg / 25mgMISSION shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_002880 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_029780 Custom

MISSION siRNA Start 721– NM_002880 Human SASI_Hs01_00174876 Custom Start 935–NM_002880 Human SASI_Hs01_00174878 Custom

MISSION esiRNA esiRNA human RAF1 Human EHU050131 20 µg / 50 µg

  = Validated

BAXProduct Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-BAX antibody produced in rabbit※ 1

Human HPA027878 100 µL

Monoclonal Anti-BAX antibody produced in mouse

Human WH0000581M1 100 µg

clone 1F5-1B7, purified immunoglobulin, buffered aqueous solutionZinc Finger Nuclease, CompoZr Knockout ZFN KitKnockout ZFN Kit Human CKOZFN1006 1 KitMISSION shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_004324 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_007527 Custom  = Validated

Bcl-2Product Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-BCL2 (Ab-56) antibody produced in rabbit

Human SAB4300339 100 µg

affinity isolated antibodyAnti-BCL2 (Ab-70) antibody produced in rabbit

Human SAB4300340 100 µg

affinity isolated antibodyAnti-BCL2 antibody produced in goat

Human SAB2500154 100 µg

affinity isolated antibody, buffered aqueous solutionSmall Molecule–AntagonistGossypol from cotton seeds ≥ 95% (HPLC)

G8761 100mg / 250mg

Small Molecule - InhibitorPaclitaxel from Taxus yannanensis, powder

T1912 1mg / 5mg / 25mg

Zinc Finger Nuclease, CompoZr Knockout ZFN KitKnockout ZFN Kit Human CKOZFN1007 1 KitMISSION shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_000633 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_009741 Custom

MISSION siRNAStart 1678–NM_000633 Human SASI_Hs01_00119086 CustomStart 923–NM_000633 Human SASI_Hs01_00119087 CustomMISSION esiRNA esiRNA human BCL2 Human EHU135281 20 µg / 50 µg

  = Validated

※ 1Prestige Antibodies® Powered by Atlas Antibodies, affinity isolated antibody, buffered aqueous glycerol solution

以下の製品紹介は抜粋です。詳しい製品検索は、sigma.com/yfg からお願いいたします。

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Technical Service 03-5796-7330 [email protected]

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29

DiabloProduct Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-DIABLO antibody produced in rabbit※ 1

Human HPA001825 100 µL

Monoclonal Anti-DIABLO antibody produced in mouse

Human WH0056616M2 100 µg

clone 4F9, purified immunoglobulin, buffered aqueous solutionMISSION® shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_019887 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_023232 Custom

MISSION siRNAStart 557–NM_019887 Human SASI_Hs01_00168383 CustomStart 728–NM_019887 Human SASI_Hs01_00168385 CustomMISSION esiRNA esiRNA human DIABLO Human EHU145751 20 µg / 50 µgCompoZr® ZFN

NEW CompoZr Knockout ZFN Kit Human DIABLO (NM_019887)

human CKOZFN1590 1Kit

3'UTR NEW MISSION 3'UTR Lenti

GoClone™ Powered by SwitchGear Genomics, 3'UTR, human, DIABLO

human HUTR05770 200 µL

  = Validated

Caspase 9Product Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-CASP9 antibody produced in rabbit※ 1

Human HPA001473 100 µL

Monoclonal Anti-CASP9 antibody produced in mouse

Human WH0000842M1 100 µg

clone 3B8-4G2, purified immunoglobulin, buffered aqueous solutionMISSION shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_001229 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_015733 Custom

MISSION siRNAStart 241–NM_001229 Human SASI_Hs01_00141568 CustomStart 1252–NM_001229 Human SASI_Hs01_00141569 CustomMISSION esiRNA esiRNA human CASP9 Human EHU073601 20 µg / 50 µg3'UTR

NEW MISSION 3'UTR Lenti GoClone Powered by SwitchGear Genomics, 3'UTR, human, CASP9

human HUTR05713 200 µL

 = Validated

Caspase 7Product Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-Caspase-7 (ab1) antibody produced in rabbit

Human PRS3465 100 µg

affinity isolated antibody, buffered aqueous solutionMonoclonal Anti-Caspase 7 antibody produced in rat

Human C1104 2 mL

clone 11E4, purified immunoglobulin, buffered aqueous solutionSmall Molecule - InhibitorNSCI ≥ 97% (HPLC), solid N1413 5mg / 25mgN-Acetyl-Asp-Glu-Val-Asp-al ≥ 95%, powder

A0835 1mg / 5mg

MISSION shRNA, Lentiviral Transduction ParticlesLentiviral Particles Human SHCLNV-NM_001227 Custom

Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_007611 CustomMISSION siRNAStart 1476–NM_001227 Human SASI_Hs01_00128361 CustomStart 1284–NM_001227 Human SASI_Hs01_00128362 CustomMISSION esiRNA esiRNA human CASP7 Human EHU090761 20 µg / 50 µg3'UTR

NEW MISSION 3'UTR Lenti GoClone Powered by SwitchGear Genomics, 3'UTR, human, CASP7

human HUTR09294 200 µL

  = Validated

Caspase 3Product Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-CASP3 antibody produced in rabbit※ 1

Human HPA002643 100 µL

Monoclonal Anti-CASP3 antibody produced in mouse

Human WH0000836M2 100 µg

clone 4D3, purified immunoglobulin, buffered aqueous solutionAnti-CASP3 antibody produced in rabbit

Human AV00021 100 µg

IgG fraction of antiserum, lyophilized powderSmall Molecule - Inhibitor1-Methylisatin ≥ 97% 183075 1g / 10gNSCI ≥ 97% (HPLC), solid N1413 5mg / 25mgN-Acetyl-Asp-Glu-Val-Asp-al ≥ 95%, powder

A0835 1mg / 5mg

MISSION shRNA, Lentiviral Transduction Particles Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_004346 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_009810 Custom

MISSION siRNAStart 1347–NM_004346 Human SASI_Hs01_00139105 CustomStart 778–NM_004346 Human SASI_Hs01_00139106 CustomMISSION esiRNA esiRNA human CASP3 Human EHU085021 20 µg / 50 µgCompoZr ZFN

NEW CompoZr Knockout ZFN Kit Human CASP3 (NM_004346)

human CKOZFN2212 1Kit

3'UTR NEW MISSION 3'UTR Lenti

GoClone Powered by SwitchGear Genomics, 3'UTR, human, CASP3

human HUTR09787 200 µL

miRNA MimicsMISSION microRNA Mimic hsa-miR-27a

human HMI0422 5NMOL

  = Validated

AIFProduct Name Species CAT.NO. SizeAntibodiesAnti-AIFM1 antibody produced in rabbit

Human SAB2100079 50 µg

affinity isolated antibody, lyophilized powderAnti-PDCD8 (AB2) antibody produced in rabbit

Human AV00028 50 µg

affinity isolated antibody, lyophilized powderMISSION shRNA, Lentiviral Transduction Particles

Lentiviral Particles Human SHCLNV-NM_004208 Custom Lentiviral Particles Mouse SHCLNV-NM_012019 Custom

MISSION siRNAStart 1642–NM_004208 Human SASI_Hs01_00099631 CustomStart 1651–NM_004208 Human SASI_Hs01_00099633 CustomMISSION esiRNA esiRNA human AIFM1 Human EHU079251 20 µg / 50 µgCompoZr ZFN

NEW Knockout ZFN Kit Human AIFM1 (NM_001130846)

human CKOZFN2982 1Kit

3'UTR MISSION 3'UTR Lenti GoClone Powered by SwitchGear Genomics, 3'UTR, human, AIFM1

human HUTR00944 200 µL

miRNA Mimics MISSION microRNA Mimic hsa-miR-34a

human HMI0508 5NMOL

  = Validated

以下の製品紹介は抜粋です。詳しい製品検索は、sigma.com/yfg からお願いいたします。

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Custom Peptide & Antibody Service - Speedy and Highthroughput -

biomolecules30

がんは日本人死亡原因の第 1位で約3割を占め、3人に 1人はがんが原因で亡くなっています。かつては男女ともに胃癌の患者が多かったのですが、生活習慣の変化に伴い、肺癌、乳癌、大腸癌、前立腺癌などが増加しています。がんは細胞周辺の組織に浸潤するだけでなく、血液やリンパ液にのることにより、時間が経つにつれて全身へ広がっていく可能性が高くなります。そのため、外科手術と抗がん剤治療、放射線療法を駆使してがんを克服するうえで、早期発見、早期治療が重要視されており、がん疾患に特異的なマーカーの探索が盛んにおこなわれています。しかしながら、現在用いられている腫瘍マーカーの診断効率、能力は決して高くはなく、新しいバイオマーカーの発見、開発が急がれるところです。昨今、プロテオーム解析を用いたバイオマーカー探索が数多く見られますが、その解析で見出されたマーカー候補タンパク質が臨床応用された例は非常に少ないのが実状です。

新しいバイオマーカーの開発、患者の血清や血漿を用いたプロテオーム解析を困難とさせている要因は、血中のタンパク質の大部分を占めるアルブミンやグロブリンなど、高分子量タンパク質の存在が問題となり、発現量の少ない低分子量のタンパク質やペプチドの検出が困難であることがあげられます。そのため、これらの高分子量タンパク質を効率よく除去する方法が必要です。血清や血漿のサンプル前処理には、血清、血漿中に含まれる多量タンパク質を抗原としてニワトリに免疫し、その卵黄中に含まれる IgYポリクローナル抗体を精製しビーズに固定した、特異性の高いアフィニティーカラムを使用することが非常に有効です。多量に存在する様々な高分子量タンパク質の中から目的のタンパク質、ペプチドだけを取り出すことは非常に困難ですが、上記 IgYアフィニティーカラムを使用して、がん特異的に発現したタンパク質、ペプチドを損失することなく、高分子量タンパク質を効率よく除去することが可能となります。(Sigma-Aldrich® Seppro® アフィニティーカラム)

病態時の細胞においては、疾患に関係するタンパク質の分泌や、プロテアーゼなどの分解により、様々に代謝・分解された新たなペプチド産物の生成が予想されます。新しいバイオマーカー探索では、疾患特異的な低分子量のペプチドの同定に着目することで、早期発見、早期治療のための臨床応用が可能になると考えます。がん特異的なマーカー候補となるアミノ酸配列の安定同位体標識ペプチドを化学合成し、それを前処理、酵素処理をおこなったサンプルに一定量添加して、血清、血漿中に存在する内在性のターゲットタンパク質のペプチドとMS解析時のピークの高さを比較することで、疾患特異的なペプチドの定量化を可能にしました。これは、化学合成した安定同位体標識ペプチドと、血清、血漿中に元々あるターゲットペプチドは、化学的な性質が分子量以外は全て等しいこと

から、逆相 HPLCでの溶出時間、質量分析計でのイオン化効率が同等であり、しかも安定同位体標識ペプチドは分子量がわずかに大きいので、質量分析計で測定すると両方のペプチドを同時に二本のピークとして検出し、比較することができるためです。したがって、様々な血清、血漿中のターゲットペプチドの含有量を、安定同位体標識ペプチドを使用することで定量解析することが可能となります。また、安定同位体標識ペプチドは化学合成で作製するため、翻訳後修飾(リン酸化、メチル化、アセチル化)を完全に再現することができ、分岐型ペプチドの作製も行えるため、ユビキチン化ペプチドの作製も可能です。(Sigma-Aldrich 受託 AQUAペプチド合成)

ラインナップ導入可能安定同位体ラベルアミノ酸

安定同位体ラベルアミノ酸(Fully Labeled,13C,15N>98 atom%)

未ラベルペプチドとAQUAペプチドの分子量の差

L-Arginine-13C6,15N4 10 DaltonsL-Isoleucine-13C6,15N 7 DaltonsL-Leucine- 13C6,15N 7 DaltonsL-Lysine-13C6,15N2 8 DaltonsL-Phenylalanine-13C9,15N 10 DaltonsL-Proline-13C5,15N 6 DaltonsL-Valine-13C5,15N 6 Daltons

製品仕様・価格価格

製品名 内容物 価格

カスタムAQUAペプチド(定量:アミノ酸分析法 )

1nmol x 5vial x 1peptide ¥115,000

Sample(250 ml)

IgY14

Eluate (E1)HAP 14 Highly- Abundant

ProteinsFlow-Through (F1)

LAP

Flow-Through (F2)

SuperMix

MAP Medium-AbundantProteins

Eluate (E2)

VPQVSTPTL VEVSR

VPQVSTPTL VEVSR*

[ ]

a.i.

m/z

a.i.

m/z

受託 AQUAペプチド合成サービス

MS 解析& 抗体を利用した新規腫瘍マーカー探索

Seppro アフィニティーカラム

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Custom Peptide & Antibody Service - Speedy and Highthroughput -

31Scientific Support 0133-71-2471 [email protected]

現在用いられている血清腫瘍マーカーは、いずれも進行がんでは陽性率が高いものの、早期がんの検出率は非常に低いといえます。したがって、血中に存在する新しい腫瘍マーカーとなり得るがん特異的なタンパク質、ペプチドを見つけることが、がんの早期発見、早期診断には必要不可欠であることは前述したとおりです。最終的な目標としては、がんの早期発見、早期診断をおこなうための診断薬開発、診断方法の確立があげられます。そのため、血清、血漿中の新しい腫瘍マーカー候補ペプチドを探索し、既存腫瘍マーカーとの比較検討をおこない、がん診断用マーカー候補ペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体を作製して、サンドイッチ ELISAを主にアッセイ系の構築をおこなうことは非常に有効です。そこで得られた抗体を使用した診断薬、診断用キット製品の開発に応用されます。また、がんの早期発見、早期診断だけではなく、治療方針の検討や再発予測を行うための診断薬、診断法を開発することも今後の課題になります。

尚、サンドイッチ ELISA用のモノクローナル抗体は、弊社の受託モノクローナル抗体作製サービスで作製が可能です。免疫作業後、ハイブリドーマ作製時の陽性確認だけではなく、実際に抗体がサンドイッチ ELISAにてworkすることを保証した「完全成功報酬制」を導入しているのが特徴です。スクリーニング時に実際にサンドイッチ ELISAの系の構築をおこない、バリデーションをおこなった抗体を納品するシステムです。もし、抗体が期待した働きをしない場合は、一切の費用を請求しない「完全成功報酬制」を適用いたします。診断キット等の製品化も承っており、受託開発を希望する場合は非常に有効なサービスです。尚、「完全成功報酬制」は免疫染色、ウェスタンブロッティング等でも対応が可能で、抗体を使用するあらゆる場面に幅広く活用ができます。また、糖鎖抗体の開発もおこなっており、抗体医薬の受託開発、共同開発が可能で、がん治療薬への展開も視野に入れています。(Sigma-Aldrich® 受託モノクローナル抗体作製)

■ アプリケーション例 ● ケース1

● ケース3

● ケース5 ● お問い合わせについて

● ケース2

● ケース4

■ 抗原に関する情報■ 抗体のご使用方法■ ご希望の保証グレード

(ウエスタンブロッティング、免疫染色、etc.)上記内容のヒアリングをおこないます。以下までお気軽にご連絡ください。

石狩事業所TEL 0120-730-860 / 0133-71-2471e-mail [email protected]

■ 完全成功報酬制  抗体が work しなければ無償対応

■ 最短納期一ヵ月半  陽性クローン樹立まで約 45 日

■ 精製抗体とハイブリドーマを納品  納品後の大量培養・精製も可能!

■ 知財・権利を完全譲渡  製品の商品化にご利用ください!

受託モノクローナル抗体作製サービス

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・�本カタログに掲載の製品及び情報は2011年7月1日現在の内容であり、収載の品目、製品情報、価格等は予告なく変更される場合がございます。�最新の情報は、弊社Webサイト(sigma-aldrich.com/japan)をご覧ください。・掲載価格は希望納入価格(税別)です。詳細は販売代理店様へご確認ください。・弊社の試薬は試験研究用のみを目的として販売しております。医薬品原料並びに工業用原料等としてご購入の際は、弊社ファインケミカル事業部までお問い合わせ願います。

SAJ1352�2011.7

お問合せは下記代理店へ

〒140-0002 東京都品川区東品川 2-2-24 天王洲セントラルタワー 4 階製品に関するお問い合わせは、弊社テクニカルサポートへ

TEL:03-5796-7330 FAX:03-5796-7335 E-mail : [email protected]

在庫照会・ご注文方法に関するお問い合わせは、弊社カスタマーサービスへ TEL:03-5796-7320 FAX:03-5796-7325

E-mail : [email protected]

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©2011 Sigma-Aldrich Co. All rights reserved. SIGMA, SAFC, SIGMA-ALDRICH, ALDRICH, FLUKA, and SUPELCO are trademarks belonging to Sigma-Aldrich Co. and its affiliate Sigma-Aldrich Biotechnology,LP. Dacogen is a registered trademark of SuperGen, Inc. Pfizer is a registered trademark of Pfizer Inc. CompoZr, FLAG, MISSION, Prestige Antibodies and Seppro are registered trademarks of Sigma-Aldrich Biotechnology LP and Sigma-Aldrich Co.. SAGE and SAGEspeed are trademarks of Sigma-Aldrich Biotechnology LP and Sigma-Aldrich Co. GoClone is a trademark of SwitchGear Genomics.

Q1.シグマライフサイエンスニュース夏号掲載記事で興味があったものは?(複数回答可)□ The Cancer Stem Cell Hypothesis □ 葉酸代謝:がんの原因と治療への関連□ 癌学会ランチョンセミナーご案内 □ 新規のがん関連バイオマーカーの探索 □ がん研究:エピジェネティックメカニズム □ Zinc Finger Nucleaseで遺伝子改変の可能性を広げよう □ p53ノックアウトラットのがん研究への応用□ Sigmaの生理活性物質新カタログ、 Pfizer® Drugのご案内□ アポトーシスパスウェイ : YFG □ MS解析 &抗体を利用した新規腫瘍マーカー探索□ 興味をお持ちになった理由をお書きください。(                        )

Q2. シグマライフサイエンスニュースはどのように手に入れられましたか?□代理店が持ってきた(代理店様名 :               ) □郵送で送られてきた□学会 /展示会で手に入れた(学会名 :              ) □シグマ営業担当が持ってきた    □ PDFから

Q3. シグマライフサイエンスニュースに今後のせてもらいたい記事は?□キャンペーン情報 □製品情報 □技術 /学術情報  □その他(               )

Q4. 研究者の方々からの、シグマライフサイエンス製品を使用した実験例寄稿を募集しています。□寄稿を希望する   □希望しない

Q5. シグマライフサイエンスでは、下記学会にセミナー /展示を予定しております。出席される学会は?□癌学会   □トキシコロジー学会   □薬物動態学会   □免疫学会   □分子生物学会   □参加しない

Q6. 最近買われたシグマライフサイエンス製品を教えてください。 (型番        製品名                      )選ばれた理由(                   )

Q7. 気に入って使われている他社製品を教えてください。 (型番        製品名                      )選ばれた理由(                   )

Q8. 弊社で発行しております季刊誌バイオファイル (Bio Files) についてご存知ですか?□知っている  □知らない右記サイトより、最新号およびバックナンバーをご紹介しております。是非一度ご覧下さい ! sigma.com/biofilesjapan

シグマライフサイエンスニュースおよび弊社へお気づきの点、ご要望などございましたらお聞かせください。(                                                                )

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