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N o . 9 経営のバックボーンとなる 人事評価・賃金制度

人事評価・賃金制度 - satis-corp.jp · ウェルフェア経営. 基本マニュアル. No.9 経営のバックボーンとなる 人事評価・賃金制度

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ウ ェ ル フ ェ ア 経 営

基 本 マ ニ ュ ア ル N o . 9

経営のバックボーンとなる

人事評価・賃金制度

No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 1

目 次 9-1 賃金の決定には業績のオープン化が前提 2 9-2 給与や賞与の決定方法 2 9-3 人事評価表は経営のバックボーン 7 9-4 人事評価制度の策定過程には社員の意思を反映させる 8 9-5 「人事評価表策定プロジェクト」による制度策定の進め方 9 1.職種・等級の設定 9 2.「業務内容整理アンケート」をとる 10 3.業務内容を整理し評価項目を選定する 12 4.人事評価項目の定義づけと評価内容を決定する 14 5.業績達成、経営方針達成、技能・知識・情意項目の評価ウェイトを決定する

16 6.「人事評価表策定プロジェクト」で社員の仕事の理解度を高める 16

9-6 制度運用の流れ 17 1.人事評価は一次評価者がポイント 17 2.本人との面談は能力開発が目的 18 3.毎年の制度見直しで経営環境の激変に対応する 20

No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 2

いくらいい戦略を立てたり、マーケティングを行っても、社員の評価制度がそ

れに対応していなければ、彼らのモチベーションは上がりません。会社の方針

に従っていくら頑張っても評価されない、自分の給料がどんな基準で決定され

ているのかわからない、そんな気持ちでは、社員は納得して働くことができま

せん。 業績が右肩上がりの時代は、人事制度が不明確でも給料は上がりましたから、

まだ不満は押さえられました。しかし、業績が上がらなければ給料を上げるこ

とができない今日、明確な給与の決定基準がなければ、社員の不満は高まりま

す。 社員に納得して働いてもらい、さらに彼らに生き甲斐を感じてもらうためには、

公平かつ明確な賃金決定システムの導入が不可欠です。第5章では、このよう

なシステムの導入法について説明します。

9-1 賃金の決定には業績のオープン化が前提 せっかく賃金制度を整備しても、社員が会社の業績を知らないのでは意味があ

りません。なぜなら、競争がますます激化し、容易に業績を上げられなくなっ

た状況では、人事評価のウェイトも業績評価に重きを置かざるを得ないからで

す。社員の方も、「ガンバって業績を上げて、給料やボーナスをたくさんもらお

う」という意識が必要です。そのためには、業績を社員にオープンにすること

が必要です。 上場会社であれば、全社レベルの業績はオープンです。未上場企業の場合でも、

最近は業績をオープンにする会社が増えてきました。ただ、売上高や粗利益額

程度しかオープンにしていない会社も多くあります。 会社が業績を上げ社員が満足できる賃金を得るためには、彼らが会社の現状を

正確に把握し、業績が目標通りにいっているのかいないのか、もし、業績が低

迷しているのなら、今、何をやらなければならないのか、社員全員が共通認識

をもたなければなりません。 従って、オープンにすべき業績も、売上高や粗利益額だけでなく、経常利益ま

でオープンにすべきです。しかも全社レベルだけでなく、部門別レベルまでオ

ープンにすべきです。なぜなら、経常利益がたくさん残らなければ、社員に多

くを還元することができないからです。

9-2 給与や賞与の決定方法 給与や賞与の決定は通常、人事評価表を作成し、それに基づいて行われます。

次ページの表は人事評価表のサンプルです。人事評価表にはいろいろなタイプ

がありますが、社員の仕事の内容や能力を正しく評価するためには、営業や生

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産、総務など職種別に、しかも社員のレベルに応じて1等級、2等級、3等級

などランク分けして作成すべきだと考えています。 サンプルの人事評価表では、一番下に、 ①×50% + ②×20% + ③×30%

という計算式があります。①は「業績達成項目」の点数です。同様に、②は「経

営方針達成項目」、③は「技能・知識・情意項目」の点数です。それぞれの項目

の満点は100点になるように設計されています。これらの項目については、

後に詳しく説明します。計算式は、①の点数の50%、②の点数の30%、③

の点数の20%をあわせた点数が、人事評価点になることをあらわしています。 業績を重視する評価制度であれば、「業績達成項目」の点数ウェイトが高くな

ります。また、等級レベルでは、上位等級の社員ほど成果を問われることにな

りますから、「業績達成項目」のウェイトが高くなるでしょう。

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No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 5

給与を決める時は、人事評価表に基づいて査定を行います(査定の対象期間は

1年です)。その査定による点数を基準に、賃金テーブルを使用して賃金が決定

されます。

表9-2 賃金テーブル 号棒 1等級 2等級 3等級 4等級 1 160,000 230,000 320,000 430,000 2 164,000 235,000 326,000 437,000 3 168,000 240,000 332,000 444,000 4 172,000 245,000 338,000 451,000 5 176,000 250,000 344,000 458,000 6 180,000 255,000 350,000 465,000 7 184,000 260,000 356,000 472,000 8 188,000 265,000 362,000 479,000 9 192,000 270,000 368,000 486,000 10 196,000 275,000 374,000 493,000 11 200,000 280,000 380,000 500,000 12 204,000 285,000 386,000 507,000 13 208,000 290,000 392,000 514,000 14 212,000 295,000 398,000 521,000 15 216,000 300,000 404,000 538,000 16 220,000 305,000 410,000 545,000 17 224,000 310,000 416,000 552,000 18 228,000 315,000 422,000 559,000 18 232,000 320,000 428,000 566,000 20 236,000 325,000 434,000 573,000

賃金テーブルを用いて給与を決定する方法は様々ありますが、私は、次ページ

のような評価区分表を作成し、給与を決定しています。ここでは、その方法を

説明します。 今、1等級で8号棒の給与をもらっている社員がいるとしましょう。賃金テー

ブルを見ると、彼の給与は18万8千円です。今回、人事評価表によって査定

を行なったところ、点数は72点だったとします。評価区分表に基づけば、評

価はAです。A評価の場合、給与は3号棒アップします。再び賃金表にもどる

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と、彼は8号棒から11号棒になりますから、給与は20万円になります。

表9-3 評価区分表 評価区分 評 価 点 給与の昇降号 賞与係数

S 80点以上 5 1.4 A 60点以上 80点未満 3 1.2 B 40点以上 60点未満 1 1.0 C 20点以上 40点未満 0 0.8 D 20点未満 -1 0.6

さらに、賞与の決定方式についても説明します。この方式も様々な考え方があ

りますが、私は、賞与の支給総額をあらかじめ決めておき、それを明確で公正

なシステムによって配分する方式をとっています。賞与の支給総額をあらかじ

め決めておくのは、人件費の総額コントロールを適切に行い、人件費が経営を

圧迫することにならないようにするためです。 今、2等級で7号棒の社員がいるとします。彼は26万円の給与をもらってい

ます。今回の賞与の査定が58点だったとしましょう(賞与の場合、年2回出

るケースでは査定期間は6ヶ月です)。彼はBランクになります。この場合、賞

与係数は1.0となっています。給与と賞与係数をもとに、次のような計算式

によって持点を計算します。 持点=給与額×賞与係数=26万円×1.0÷10000=26 彼の会社(あるいは事業部別に独立して賞与を支給している場合であればその

事業部)では、総社員数が300名いたとします。今回の賞与では、支給総額

を1億8千万円に決定したとします。上の計算式に従って、彼以外の社員もす

べて査定した結果、持点合計が9000点になったとします。この場合、1点

当りの賞与額を次のように計算します。 1点当りの賞与額=1億8千万円÷9000点=2万円 すると彼の場合の賞与額は、持点が26点ですから、 2万円×26点=52万円

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となります。

9-3 人事評価表は経営のバックボーン ところで、人事評価表を作成する場合、どのような項目を盛り込むことが必要

になるでしょうか。 社員の立場から、経営側に明示してもらいたい項目は、次のようなものでしょ

う。 ①自分にはどんな仕事内容が要求されているのか。 ②その仕事内容を実施した場合、給料はいくらもらえるのか。 ③昇進・昇格するためには、何をしなければならないのか。

一方、経営者側では、社員に次のようなことを理解してもらいたい、実行して

もらいたいと思っています。 ①経営理念が社員に浸透し、彼らの行動指針となってもらいたい ②会社の経営方針・経営計画を理解し、それに基づいた行動をとってもらいた

い ③毎期の業績目標を達成してもらいたい ④営業、総務等、部門別に要求する仕事内容を実践してもらいたい。 ⑤部長、課長等、役職にふさわしい仕事をしてもらいたい

人事評価制度は、これら双方の要求をお互いが納得のもと、評価表という形で

明文化した制度です。そして、評価表の実行レベルによって社員を評価し、賃

金、昇進・昇格等の処遇を決します。さらに、評価の内容に応じて、社員一人ひ

とりの今後の教育テーマが明確になることから、重要な教育ツールにもなりま

す。 サンプルでは、評価項目を大きく、「業績達成項目」、「経営方針達成項目」、「技

能・知識・情意項目」の3つに分類しています。 「業績達成項目」は売上高、粗利益額、営業利益、経常利益など業績の柱とな

る数値目標を達成するために設定された項目です。 「経営方針達成項目」は、経営計画におけるその年度の重点テーマを達成する

ための項目です。経営環境がめまぐるしく変化する今日では、経営の重点テー

マを柔軟に設定し、環境変化に素早く対応していかなければなりません。その

ために、毎年経営計画を作成し、その年の経営方針を明確にします。そして、

その方針を人事評価項目に取り入れることによって、実行の徹底をはかるので

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す。 「技能・知識・情意項目」はその職種、等級で求められる技能や知識、そして

情意(やる気)を規定しています。 以上からも明らかなように、人事評価表は、次のような会社の根幹にかかわる

極めて重要な経営課題を実現するための経営ツールなのです。 ・経営理念の浸透 ・経営方針、経営計画の実行 ・業績目標の達成 ・社員の賃金決定 ・社員の昇進・昇格決定 ・個々の社員の教育テーマの明確化 このように、人事評価表は会社経営のバックボーンになる重要なツールです。

人事評価表が社員に理解され浸透すれば、これを通して会社の方針を早期に徹

底させることができます。 ところが、市販のノウハウ本を購入し、そこで紹介されている人事評価表をほ

ぼそのまま借用している会社をみかけます。しかし、人事評価表はそれぞれの

会社の状況に合った固有の制度であるべきです。その時々の会社固有の経営課

題が評価項目に反映されていることが必要です。ノウハウ本の人事評価表は、

どこの企業でも使えるような一般的な項目しか記載されていません。経営者は

人事評価表の策定およびその効果的な運営について全力投球し、自社にあった

人事評価制度を創るべきです。

9-4 人事評価制度の策定過程には社員の意思を反映させる このように、人事評価制度は会社運営の骨格を形成する制度です。従って、そ

の策定過程には十分な注意を払わなければなりません。 制度内容が経営側からの押しつけであったり、評価項目がどこの会社にも当て

はまる一般的なものばかりであれば、社員は本気で評価項目の要求事項を実行

しようとは思わないでしょう。社員に、自分たちの人事評価制度という意識を

持ってもらわなければなりません。そのためには、制度策定に当たって彼らの

意思を反映させ、「自分たちがつくった人事評価制度」という意識を醸成するこ

とが必要になります。ウェルフェア経営で重視する参加と自己決定の意識です。 ただし、人事評価制度は経営政策上、極めて重要な制度です。これをすべて社

員の意思に任せて作成することはもちろんできません。従って、社員がつくっ

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た方がいい部分は、彼らに任せ、経営側でつくったほうがいい部分は経営側で

つくるべきです。 人事評価表の「技能・知識・情意項目」は、社員がつくった方がいいものがで

きます。現場に関することは、現場の人が一番よく知っているからです。そし

て、彼らがつくったものをベースにして、経営側でどうしても必要だと思う項

目があれば追加・修正するなど、経営側の意思を反映させればいいと思います。 その他の項目に関しては、「業績達成項目」は社員の仕事の成果を問うもので

す。また、「経営方針達成項目」は、経営計画で決められているものの中から重

点テーマを抽出した項目です。これらの項目の策定には重要な経営判断が必要

です。従って、これらは経営側で作成すべき項目になります。しかし、一方的

に経営側で作成して、その実行を社員に押しつけても、彼らは納得しないでし

ょう。私は、これらの項目に関しても、まずは、社員側でたたき台をつくって

もらうようにしています。そして、それをベースに経営側で検討し、最終判断

を下すします。 このように、社員と経営者の意思を融合させながら人事評価表を作成していく

に当っては、「人事評価表策定プロジェクト」を発足させて進めるがいいと思い

ます。メンバーは、担当役員、各部門長および副部門長、それに一般社員も数

名参加してもらう方がいいでしょう。また、労働組合がある場合には、組合代

表の参加も必要です。プロジェクト方式では、定期的な会合の中で経営側と社

員側が意思疎通をはかりながら作業を進めることが可能になります。

9-5 「人事評価表策定プロジェクト」による制度策定の進め方 それでは、プロジェクト方式による人事評価表の作成法について説明します。

1.職種・等級の設定 人事評価を行う場合、対象者の経験や技能レベル、あるいは職種によって、評

価すべき内容が異なってきます。そこで、評価表を等級と職種をベースに分類

して作成することが必要になります。 まず、等級の決定ですが、何等級にするのか、各等級のおもな役割は何かを明

らかにしなければなりません。これは、会社の規模や組織、階層の複雑性によ

って決まりますが、例として、6等級までの等級制を採用した場合の「等級別

職務の役割」を表にまとめました。

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表9-4 等級別 職務の役割 等級 対応役職 主 な 役 割

6 事業部長 統率・開発 会社の経営方針に基づき事業部の執行方

針を定め、事業部の業務全般を統括・管

理する

5 部長・次長 上級管理・

企画立案 事業部の基本方針に基づき部の執行方針

を定め、部の業務全般を統括・管理する

4 課長・課長代理 管理・ 企画立案

部の基本方針に基づき課の運営方針を定

める。課の実務上の業務について責任を

負う。

3 上級社員

(係長・主任) 判断・指導

日常の業務運営の具体的計画を立て、複

雑・困難な業務を行う。業務運営に関し

部下を指導監督する。

2 中級社員 熟練定型 熟練定型的な業務を独自の判断によって

処理し、比較的複雑・困難な業務を行う。

1 初級社員 定型・補助 指示または定められた手順に従って、定

型的な日常業務を行う。 このように等級別職務の役割を明らかにすれば、次は等級と職種を組み合わせ

て、何種類の人事評価表を作らなければならないかを決定します。そのために、

次のような「職種・等級一覧表」を作成します。

表9-5 職種・等級一覧表 職種 等級

総務・経理 生産 営業 開発 購買

6級 ○ ○ ○ ○ ○ 5級 ○ ○ ○ ○ ○ 4級 ○ ○ ○ ○ ○ 3級 ○ ○ ○ ○ ○ 2級 ○ ○ ○ 1級 ○ ○ ○

○は人事評価表を作成する職種・等級

2.「業務内容整理アンケート」をとる 人事評価表を作成する職種・等級が決まると、次は、現状の業務内容を整理し

なければなりません。これも、職種別、等級別に整理することが必要です。

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そのためには、社員全員に「業務内容整理アンケート」を配布し、彼らの業務

内容を自ら整理してもらいます。社員全員にアンケートを記入してもらうのは、

彼らに制度の作成に対する参加の意識を持ってもらうためでもあります。

表9-6 業務内容整理アンケート

職種 店舗販売 等級 3 氏名 鈴木 裕子

業 務 業 務 の 詳 細

1.店舗の清掃 ・店内(売り場・倉庫)の清掃 ・駐車場の清掃 2.商品の陳列 ・商品の補充 ・見やすい陳列の工夫 ・値札、POPの取り付け 3.商品の発注 ・担当売り場の在庫チェック ・商品の発注 ・発注商品の検品 4.接客 ・商品説明 ・クレーム対応 ・レジ業務 5.販促物の作成 ・POPの作成 ・値札の作成

月・年単位で行う業務

1.販売計画の作成 ・月間、年間販売計画の作成 2.販促企画 ・新商品の導入 ・陳列、POPなどの売場企画 ・イベント企画 3.販売会議 ・月単位の業績チェックと次月対策

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3.業務内容を整理し評価項目を選定する 「業務内容整理アンケート」から、職種・等級別に業務内容を整理します。こ

の作業を通して、わが社の社員は日頃どのような仕事をしているのかが明確に

なり、業務内容に関する理解が深まります。 業務内容が整理できれば、その業務がその等級や職種にふさわしい業務かどう

かを判断します。そして、等級や職種にふさわしい業務を明確にし、それをベ

ースに人事評価項目を選定します。次ページの「表5-7 職種・等級別 評価

項目一覧表」は、選定した評価項目を一覧にしたものです。 表では項目を「業績達成項目」、「経営方針達成項目」、「技能、知識、情意項目」

に分類しています。ただ、「業績達成項目」については、営業部門や生産部門は

項目を選びやすいのですが、人事部門や経理部門などの管理部門では選定がむ

ずかしいと思っておられる方も多いでしょう。私の場合は、管理部門にも「全

社売上高目標達成率」、「全社粗利益額目標達成率」、「全社経常利益額目標達成

率」などの業績項目を導入しています。なぜなら、管理部門は営業部門や生産

部門などのライン部門をお客様として、彼らの業績向上を支援する部門である

からです。ですから、管理部門の社員にも、自分たちの部門は会社の業績を向

上させるための部門であり、業績が上がらなければ、給与や賞与も上がらない

ことを理解してもらわなければなりません。 「業績達成項目」、「経営方針達成項目」は経営計画の内容を実行するための項

目です。経営環境の変化のスピードが年々早まる中、経営計画を毎年作成する

ことに対応して、これらの項目は毎年見直しをしていかなければなりません。 このうち、「経営方針達成項目」は、経営計画のバランススコアカードから選

定しています。経営計画を達成するための具体的なアクションプランとして、

バランススコアカードを作成しているため、「経営方針達成項目」に最も適して

いるからです。 「技能、知識、情意項目」は、その職種・等級に必要な技能や知識、それに情

意(やる気)を規定しています。この項目は、ことの性質上、毎年変えるべき

ものではなく、必要に応じて変えていくべき項目です。 このような考えに基づいて人事評価項目を設定すれば、人事評価表は経営方針

を早期に浸透させるツールになり、しかも職種・等級ごとに具体的な能力開発

メニューを提示し、給与や賞与の公平な判断基準を示すツールにもなります。

まさに人事評価表は経営のバックボーンです。

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表9-7 職種・等級別 評価項目一覧表

職種 店舗販売 等級 3

・販売計画の作成 「業績達成」項目

・店舗売上高目標達成率

・販促企画の立案 ・店舗粗利益額目標達成率

・月次単位の業績チェック ・店舗営業利益額目標達成率

・店舗内外の清掃 ・店舗在庫回転率

・商品の陳列 ・店舗労働生産性

・販促物の作成

・在庫管理

「経営方針達成」項目

・3ヶ月先行マーチャンダイジング計画の

・商品の発注 作成と実施

・お客様への接客 ・3ヶ月先行販促計画の作成と

・商品説明 実施

・クレーム対応 ・新カテゴリー商品の開発

・売れ筋情報の収集 ・部下の指導・育成

・部下育成

・パート・アルバイト教育

「技能・知識・情意」項目

・販売計画の作成

・店舗内外の清掃

・商品の陳列

・販促物の作成

・商品発注と在庫管理

・接客

・明るい店舗づくり

・身だしなみ

・積極性

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4.人事評価項目の定義づけと評価内容を決定する 職種・等級別に評価項目が決まれば、その定義づけと評価内容を検討しなけれ

ばなりません。ここで再び、「表5-1 人事評価表」を参考にして、その方法

を説明します。 まず、次ページの人事評価表を見て下さい。「業績達成項目」は数字で評価し

ますので、定義づけや評価内容は明確です。 「経営方針達成項目」や「技能・知識・情意項目」は、評価内容が言葉で表現

される場合が多いので、判断が恣意的にならないように注意が必要です。 まず、評価項目の定義づけですが、その項目を設定する目的を明確にしなけれ

ばなりません。つまり、どんな行為を行ってもらいたいのか、またその行為に

よってどんな効果を期待するのかを明らかにすることです。定義はその項目に

よって実現したいゴールをイメージできる表現にして下さい。これがぼやけて

しまうと、評価がぶれてしまいます。 例えば、「経営方針達成項目」の「マーチャンダイジング」の定義を「3ヶ月

先行のマーチャンダイジング計画の作成と実施」としたのは、新商品の導入や

品揃えなどのマーチャンダイジングを3ヶ月先行で計画・実行し、売上向上に

つなげてもらいたいというゴールをイメージしているのです。定義づけがしっ

かりすれば、「0.自力でマーチャンダイジング計画を立てることができず、3

ヶ月先行で実施することができなかった」、「1.上司のアドバイスを受けなが

らマーチャンダイジング計画を作成することができ、ほぼ3ヶ月先行で実施で

きた」、「2.自力でマーチャンダイジング計画を立てることができ、3ヶ月先

行で実施することができた」、「3.顧客ニーズをとらえたマーチャンダイジン

グ計画を3ヶ月先行で立て、実行することができた」、「4.顧客ニーズを的確

にとらえたマーチャンダイジング計画を3ヶ月先行で立てて実行し、業績向上

に貢献した」といった具合に、評価内容も明確化になります。 評価内容は、表では5段階にしています。この場合、0は「できない」、1は

「あまりできない」、2は「普通」、3は「ある程度できる」、4は「できる」と

いうレベルになります。 5段階評価の場合、3の「普通」を入れると、どうしても3が多くなります。

それを避けて、評価を明確にしたいのであれば4段階評価にすべきです。この

場合は、1は「できない」、2は「あまりできない」、3は「ある程度できる」、

4は「できる」になります。4段階評価では、2か3かで非常に迷うことがあ

ります。評価が甘めの人は3、辛目の人は2をつける傾向が強くなります。 このように4段階か5段階かはそれぞれ一長一短がありますので、自社に合っ

た方式を選択して下さい。 また、社員数が多く、能力の高いハイパフォーマを特定できる企業であれば、

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No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 16

評価内容の決定にコンピテンシーの考え方を導入してもいいでしょう。 会社によっては、評価レベルを1、2,3,4、と規定するだけで、その内容

を記入していないものがあります。しかし、それでは評価者によって評価基準

がバラバラになってしまいます。やはり、それぞれの評価レベルごとにその内

容を明確にして、評価基準の統一をはかることが必要です。 5.業績達成、経営方針達成、技能・知識・情意項目の評価ウェイトを決定する 評価項目、定義づけ、評価内容が決定すると、各評価項目の点数のウェイトづ

けを行います。 サンプルの人事評価表では、「業績達成項目」「経営方針達成項目」「技能・知

識・情意項目」がそれぞれ百点満点になるように設計してあります。例えば、「業

績達成項目」では店舗売上高目標達成率が125%の場合、評価ポイントが

100になります。この時、ウェイトが20%になっていますから、評価点数

は、100×0.2=20(点)です。また、「経営方針達成項目」では、例えば

マーチャンダイジングの項目で評価が4になれば、ウェイトが8ですから、評

価点数は、4×8=32(点)になります。このような計算方法に基づいて、

各評価項目で満点をとれば、それぞれ100点満点になるように設計していま

す。 さらに、「業績達成項目」「経営方針達成項目」「技能・知識・情意項目」の項

目間ウェイトづけは、人事評価表の一番下の、「(①×50%)+(②×20%)

+(③×30%)」の欄に記載されています。この場合、①は「業績達成項目」

の点数で、100点であれば、100×50%=50点になります。同様に、「経

営方針達成項目」「技能・知識・情意項目」が100点のときは、それぞれ20

点、30点になります。これらを合計すると100点になります。 一般に、等級が上に行くに従って業績責任が重くなりますから、「業績達成項

目」のウェイトが高くなります。逆に等級が低ければ、基本をしっかりマスタ

ーしなければなりませんから、「技能・知識・情意項目」のウェイトが高くなり

ます。 以上の作業が完了すれば、人事評価表はでき上がります。

6.「人事評価表策定プロジェクト」で社員の仕事の理解度を高める 人事評価制度策定プロジェクトでは、職種ごとに等級に分けて仕事の内容を整

理し、達成すべき業績目標やマスターすべき技能などを検討します。この作業

をするにはある程度の時間がかかりますが、これを通して、社員の仕事に対す

る理解度が非常に高まってきます。 まず、職種ごとに仕事の全体像が見えてきます。そして、それぞれの等級ごと

No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 17

に何が大事で何を実施しなければならないかが解かってきます。 「人事評価表策定プロジェクト」を立ち上げる狙いは、人事制度に対する参加

の意識を高めることに加えて、社員の仕事に対する理解度を深めることにもあ

ります。 9-6 制度運用の流れ 人事評価表や賃金テーブルができ上がれば、いよいよ制度の運用段階に入りま

す。人事評価制度の目的を整理すると、次の4点になります。 ◆ 給与・賞与の公平・明確な決定 ◆ 昇進・昇格の公平・明確な決定 ◆ 経営方針・経営計画の早期浸透 ◆ 社員個々人に応じた能力開発ポイントの明確化 これらの目的を実施するために、通常は次のような段階で人事評価は実施され

ます。

(1)人事評価 ➀本人評価 ②上司評価

・一次評価 ・二次評価(場合によっては三次以降もあり)

③評価者会議(人事評価の最終決定) (2)賃金、賞与の決定 (3)昇進、昇格の決定 (4)本人との面談 (5)人事評価制度の見直し

以下では、人事評価制度運用にあたっての重点ポイントを説明します。

1.人事評価は一次評価者がポイント 人事評価はまず本人が自己評価をし、それから上司の一次評価、二次評価、・・・

最後に評価者会議で最終決定が行われます。 本人評価を行うのは、本人の能力開発が第1目的です。本人の評価と最終評価

を比較して、どの項目をさらに伸ばし、どの項目を改善しなければならないの

かを判断するための資料となります。また上司評価は、一次は直属の上司、二

次以降は課長、部長、事業部長、社長などが行います。

No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 18

評価は評価者会議で最終的に決定されます。メンバーは通常、一次、二次、…

の評価者および役員で構成します。 この評価者会議で最も重要な役割をはたすのは一次評価者です。人事評価の最

終決定は人事権を有する経営トップが行わなければならないのですが、彼らは

常時、被評価者に接しているわけではないので、彼の状況を詳しく把握してい

るとは限りません。従って、具体的な判断材料は一次評価者が提供しなければ

なりません。評価者会議では、まず一次評価者がなぜそのような評価にしたの

かを報告することから始めます。特に、二次以降の評価と一次評価が異なる項

目は、評価の根拠を詳しく説明すべきです。 私は、評価者会議は評価者の部下指導能力、特に一次評価者の能力を育成する

上で最も重要な場であると考えています。一次評価者の報告を聞けば、彼が普

段、いかに部下に接しているか、部下の状況をどれだけ具体的に把握している

かが一目瞭然になります。一次評価者の側でも、評価者会議があるから、普段

から部下の状況をしっかりと把握しなければならないと言う意識が強く働きま

す。このように、評価者会議の場で部下の状況を説明することによって、一次

評価者の部下育成能力は飛躍的に高まります。 以上の過程を経て、評価の最終決定がなされます。そして、決定後のステップ

として、被評価者の能力開発ポイントを明確にしなければなりません。彼の長

所と短所を抽出し、今後どの方向で伸ばせばいいのかを明らかにするのです。

それを評価項目との関連で検討しますが、評価項目で重要な項目は評価ウェイ

トが高いところです。従って、その項目を中心に被評価者の伸ばすべきポイン

トを明確にしていきます。 また、被評価者本人の納得性を高めるためには、最終評価と本人評価との間で

点数の乖離があるところにも注意が必要です。本人評価が低い場合は、本人に

自信を持たせるようにしなければなりません。この場合はあまり問題がありま

せん。問題は最終評価より本人評価の方が高い場合です。本人は良くできてい

ると思っているのに、それより評価が低ければ不満を持ちます。本人が納得で

きるように、根拠を明確にして評価が低くなった理由を説明しなければなりま

せん。 このように評価者会議は部下評価のための議論を通して、管理者の部下育成力

を養う最適の場であります。あわせて、社員個々人に応じた能力開発ポイント

を明確にする最適の場でもあるのです。

2.本人との面談は能力開発が目的 人事評価が最終決定され、給与、賞与、昇進・昇格が決まれば、その結果を本

人に知らせなければなりません。その場が本人との面談です。

No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 19

本人面談のおもな目的は、本人の能力開発です。よく、「企業は人なり」とい

います。会社によっては教育に力をいれ、社員を外部研修に参加させたり、コ

ンサルタントに依頼して社内研修を実施したりします。しかし、社員一人ひと

りの能力に応じて教育を行っている企業はほれほど多くはないと思います。そ

れを行なうためには、社員一人ひとりの能力開発ポイントを明確にし、それに

基づいて社員を教育しなければなりません。それが人事評価後の本人との面談

と、その後のOJTを中心とした社員教育です。本人との面談の場では、次期

の査定期間までの育成テーマを話し合います。 面談では、面談者は評価者会議の代表者として面談しなければなりません。評

価者会議での決定事項に関し、本人が納得できるようにわかりやすく説明し、

次期の教育テーマに従って本人が能力開発を進められるように、彼のモチベー

ションを高めなければなりません。面談がまずければ逆に上司に対する不満が

残り、本人のモチベーションを下げてしまいます。 面談で一番難しいのは、評価点数が低く本人評価との乖離が大きい時です。面

談者は評価者会議の代表として面談しているのですから、たとえ評価が低くて

も、会議での内容を正確に伝え、本人に理解してもらわなければなりません。

面談者によっては、自分だけがいい子になって、自分はいい点数をつけたのだ

が、誰々さんが低い点数をつけた、などといってしまう時もあります。そうな

れば、低い点数をつけた評価者は一生恨まれることになります。そして、面談

は被評価者のモチベーションアップという目的と、ほど遠い結果になってしま

います。 面談者は本人のモチベーションをアップさせ、彼の持っている能力を向上させ

るために、細心の注意をもって面談に望まなければなりません。面談に際して

は、以下の点に注意が必要です。

(1)威圧的な態度をとり、上司の説教になってしまう

【対策】

●部下に発言機会を多く持たせ、彼の言い分をよく聴く

●部下と対等な気持ちで臨む

●すぐに話の腰を折らない

●「・・・だから出来なかった」ではなく、「・・・するためにはどうすればい

いか」というスタンスで話を進める

(2)上司の憶測・推測・思い込み・偏見により根拠のない説明となってしま

【対策】

●評価の根拠となる事実を資料等にもとづき、納得いくように説明する

No.9 経営のバックボーンとなる人事評価・賃金制度 20

(3)結論があいまい

【対策】

●本人の能力開発ポイントを明確にし、これから何をすべきか、上司とし

て何をフォローするのかを明らかにする

(4)面談で何を話したのか忘れてしまう

【対策】

●面談の記録を必ず残す

3.毎年の制度見直しで経営環境の激変に対応する 人事評価表が出来上がっても、それで終わりではありません。制度の毎年の見

直しが必要です。 会社によっては、長年同じ人事評価表を使用しているところがあります。しか

し、人事評価制度の目的は、給与、賞与、昇進・昇格基準を明確にするだけで

なく、時代に合った評価項目を設定することにより、経営方針や経営計画の早

期浸透を図り、社員の能力開発ポイントを明確にするなど、経営上、重要な施

策を実現するためにあります。従って、経営環境が年々激しく変化する今日で

は、人事評価表は毎年見直しをしていかなければなりません。 この見直しも、人事評価表策定プロジェクトで行います。ただし、メンバーは

一部入れ替えるべきです。なるべく多くの社員が制度作成に参加し、制度に対

する理解を深めてもらうためです。