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と畜検査結果を用いた養豚農家への駆虫指導

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と畜検査結果を用いた養豚農家への駆虫指導

奈良県家畜保健衛生所 業務第一課 光岡恵子 浦田博文 要約要約要約要約 奈良食肉流通センターのと畜検査結果(H19.10-H20.9)で、A農場(以下A)B農場(以下B)の白斑症による肝臓廃棄率は 3%と 78%である。この差が何によるかを検討した。 肥育舎構造がAはスノコ豚舎、Bはおがくず豚舎であった。母豚の駆虫回数は年 2 回で同じだがBは徹底していなかった。A、Bは離乳後に駆虫効果のある添加物を混餌していた。Bは離乳直後さらに駆虫薬を投与していた。 感染時期を特定するため糞便と肥育舎の環境材料で虫卵検査(浮遊法)を行った。母豚糞便はA、Bとも一部虫卵を認めた。肥育豚糞便と環境材料でAは虫卵を認めなかった。Bは肥育舎で 60 日(感染から回虫卵が出るまでの日数)以上過ごした全豚と、泥濘化したおがくずから虫卵を認めた。このため、おがくずが感染源になっていると思われた。これらA、Bの違いがと畜検査結果にも反映したと思われた。 1111....とととと畜場畜場畜場畜場ののののデータデータデータデータよりよりよりより と畜場において、豚の肝臓にミルキースポットと呼ばれる白斑を認められると、部分廃棄となる。 これは豚に寄生する線虫(※主に豚回虫といわれるが、他に豚鞭虫、豚腎虫、豚糞線虫、豚肺虫にも起因する)の幼虫が体内移行する際に、通過した組織でおこる生体反応だと言われている。 図1)白斑を呈する豚の肝臓 一課の管轄内に位置するA農場とB農場の奈良県食肉流通センターへの一年間の出荷頭数と、肝白斑症での廃棄数を比較した。すると、A農場は出荷頭数707頭のうち21頭、B農場は出荷頭数399頭のうち312頭で肝白斑症が認められた。廃棄率を求めるとA農場が約3%、B農場が約78%であり、明らかにB農場の方がA農場よりも高い値を示した。そこで、この大きな差は一体何によるものなのかを検討した。

※肝白斑症による廃棄に限る 2222....豚舎豚舎豚舎豚舎のののの構造構造構造構造 図2)A農場分娩豚舎① 図3)A農場分娩豚舎スノコ床 図4)A農場肥育豚舎部分スノコ床 図5)A農場肥育豚舎スノコ下 A農場では、分娩舎で生まれそこで約3ヶ月過ごした後、肥育豚舎に移され出荷体重になるまで3~3.5ヶ月肥育される。分娩豚舎の構造は床がスノコになったスノコ豚舎であり、肥育豚舎はコンクリートの床の一部がスノコ状になった部分スノコ豚舎であった。肥育豚舎の1区画 7.5~8㎡でそこに約 5頭ずつ入れられていた。

農場 (2007.10-2008.9) 出荷頭数 707 A 肝臓廃棄率 21 3% 出荷頭数 399 B 肝臓廃棄率 312 78%

肥育豚肥育豚幼豚幼豚母豚母豚 BBBBAAAAAAAA・・・・BBBB農場農場農場農場のののの駆虫駆虫駆虫駆虫プログラムプログラムプログラムプログラムAAAA・・・・BBBB農場農場農場農場のののの駆虫駆虫駆虫駆虫プログラムプログラムプログラムプログラム

離乳直後離乳直後離乳直後離乳直後((((イベルメクチンイベルメクチンイベルメクチンイベルメクチン))))正確に記録 忘れがち・・・年2回(イベルメクチン)人工乳(モランテル含)駆虫なし肥育豚肥育豚幼豚幼豚母豚母豚 BBBBAAAAAAAA・・・・BBBB農場農場農場農場のののの駆虫駆虫駆虫駆虫プログラムプログラムプログラムプログラムAAAA・・・・BBBB農場農場農場農場のののの駆虫駆虫駆虫駆虫プログラムプログラムプログラムプログラム

離乳直後離乳直後離乳直後離乳直後((((イベルメクチンイベルメクチンイベルメクチンイベルメクチン))))正確に記録 忘れがち・・・年2回(イベルメクチン)人工乳(モランテル含)駆虫なし

図6)B農場分娩豚舎 図7)B農場分娩豚舎 図8)B農場肥育豚舎 図9)B農場肥育豚舎おがくず床 B農場では、分娩豚舎で生まれてそこで2ヶ月過ごした後、肥育豚舎に移され出荷体重になるまで 4~5ヶ月肥育される。分娩豚舎はコンクリートの平床豚舎で、床の上におがくずが薄く撒くまれ、肥育豚舎は約 1メートルの厚さでおがくずが入れられたおがくず発酵豚舎であった。肥育豚舎の1区画は6×3メートル四方の18㎡で、中に約20頭ずつ入れられていた。肥育豚舎のおがくずは糞尿と混ざり合い泥濘状になっていた。

3333....駆虫駆虫駆虫駆虫プログラムプログラムプログラムプログラム 両農場とも、母豚に対しては年 2回、イベルメクチン製剤を与えていた。しかし、A農場では秋分・春分と与える日を決めていたのに対し、B農場は日にちを決めておらず、しばらく忘れる事もしばしばであった。 2軒とも、肥育豚舎に移されるまで(A農場生後約3ヶ月間、B農場生後約2ヶ月間)モランテル入りの人工乳を与えられていた。モランテルとは回虫の幼虫、成虫、および鞭虫の幼虫に対して駆虫効果 図10) ある飼料添加物である。 さらに、B農家では離乳直後一週間(生後約1ヶ月)、イベルメクチンの顆粒を餌に混ぜて与えていた。肥育豚には両農家とも駆虫薬は与えていなかった。

結果結果結果結果からからからから推定推定推定推定できるできるできるできる感染時期感染時期感染時期感染時期結果結果結果結果からからからから推定推定推定推定できるできるできるできる感染時期感染時期感染時期感染時期移動分娩豚舎分娩豚舎分娩豚舎分娩豚舎 肥育豚舎肥育豚舎肥育豚舎肥育豚舎移動から2ヶ月1日齢 出荷虫卵が出るまで感染から約40~60日かかるということは・・・この間に虫卵が出たら移動前の感染!この間に虫卵が出たら移動前の感染!結果結果結果結果からからからから推定推定推定推定できるできるできるできる感染時期感染時期感染時期感染時期結果結果結果結果からからからから推定推定推定推定できるできるできるできる感染時期感染時期感染時期感染時期移動分娩豚舎分娩豚舎分娩豚舎分娩豚舎 肥育豚舎肥育豚舎肥育豚舎肥育豚舎移動から2ヶ月1日齢 出荷虫卵が出るまで感染から約40~60日かかるということは・・・この間に虫卵が出たら移動前の感染!この間に虫卵が出たら移動前の感染!

4444....糞便検査糞便検査糞便検査糞便検査((((1111))))方法方法方法方法 実際に豚の糞便を農場で採取してきて寄生虫卵がどのくらい認められるのか調べてみた。肝白斑症は移行幼虫に起因するため、診断に虫卵検査は意味をなさないが、今回は飼育環境の汚染状況の指標にするためと、感染時期を推定するために行った。 方法は以下の通り一般的な浮遊法を用いた。 ①糞便を良く混ぜてから1グラム採取②1~2%洗剤液を 10ml 加える③ろ過用金網(60 メッシュ)でこす④ろ液を 3000ppm10 分間で遠心分離⑤上澄みを捨てしょ糖液を加えて混和⑥1500ppm5 分間で遠心分離⑦約 25分間静置⑧上澄みを取り鏡検する。 また、今回は豚回虫と豚鞭虫に対象をしぼった。理由は共に冒頭で述べた豚の肝白斑症を引き起こす原因と言われているからと、もう一つは両者がおがくず発酵豚舎において最も問題とされる寄生虫だからである。 図11)豚回虫卵 図12)豚鞭虫卵 今回はEPGを求めず、エーゼを用いて上澄みを一部取り虫卵数を数えた。浮遊に用いたチューブとエーゼの面積比から、数えた卵数は全体の約 12%に相当した。個体の状況ではなく、農場全体の状況を把握したかったので、群ごとに数を平均化し、虫卵を認めない場合はマイナス、1~50個ならワンプラス、50~100個ならツープラス、100個以上をスリープラスで示した。 検査材料はA農場は繁殖豚、繁殖候補豚、肥育豚の糞便、空房壁にこびりついた糞、スノコ下の堆肥化前の糞を用いた。繁殖候補豚とは肥育豚と同じ環境下で飼育された豚で、採材時に約 10 ヶ月齢と 7ヶ月齢であった。 B農場は繁殖豚、肥育豚の糞便とおがくず豚舎のおがくずを検査材料とした。 B農場で多発している肝臓の白斑症は再感染がなければ 6週間ほどで完全に治癒してしまうため、と畜場で肝廃棄になったものは肥育豚舎で感染したはずである。しかし感染場所が本当にそこだけかどうかは不明であった。そこで、肥育豚は感染時期を推定図13) するために月齢の異なる群(移動直後、移動から 2ヶ月、移動から 4ヶ月、移動から 5ヶ

虫卵数 0 - 1~50 + 50~100 ++ 100~ +++

月)で糞便を採取した。回虫は経口感染してから虫卵が糞便に出るまで約 60 日、鞭虫は約37~47 日かかる。もし肥育豚舎に移動直後の豚で虫卵が見つかれば、それは移ってからの感染ではなく、分娩豚舎で感染してきたと考えられた。 4444....糞便検査糞便検査糞便検査糞便検査((((2222))))結果結果結果結果とととと考察考察考察考察 A農場虫卵検査結果 A農場の結果、一部の繁殖候補豚以外、寄生虫卵は認めなかった。これより、農場から寄生虫が根絶されてはいないが、適切な駆虫により清浄状態が保たれていると思われた。 B農場虫卵検査結果 検体数 豚回虫 豚鞭虫 母豚 12 + - 移動直後 6 + + 移動から2ヶ月 13 + + 移動から4ヶ月 6 + + 肥育豚 移動から5ヶ月 15 + +++ 環境(おがくず) 8 + + B農場の結果、今回採材した全群で寄生虫卵を認めた。それぞれの群の平均虫卵数は、回虫卵は全群ワンプラスでに大きな差はなかった。鞭虫卵は母豚群がマイナス、おがくず、肥育舎に移動直後、移動から 2ヶ月、移動から 4ヶ月の肥育豚でワンプラス、豚舎移動後約 5ヶ月(出荷直前群)でスリープラスとなった。現在、目に見える病害は出ていないが農場全体が寄生虫に汚染されていると思われた。 母豚の一部からと、肥育舎に移った直後の群の一部から虫卵を認めたことから、母豚の駆虫が徹底していないため、分娩豚舎内で感染がおこっていることが分かった。 肥育豚舎の全マスのおがくずから寄生虫卵を認めたため、B農場の感染源は母豚とおがくずの2つだと思われるが、A農場とのと畜検査結果の違いをふまえると、主な感染源はおがくずだと考えられた。鞭虫卵が出荷直前の群で増えていることから、現在の汚染度合いと飼育期間では病害は出ていないが、もし環境の寄生虫汚染がすすめば出荷までに鞭虫症を発症するようになる可能性があると推測された。 以上2軒の農家の結果はと畜検査の結果を反映するものであった。 5555....問題点問題点問題点問題点のののの見見見見なおしとなおしとなおしとなおしと今後今後今後今後のののの対策対策対策対策

検体数 豚回虫 豚鞭虫 繁殖豚(♂含) 5 + + 繁殖候補豚 5 - - 肥育豚(約6ヶ月齢) 5 - - 環境(空房壁・スノコ下) 2 - -

寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除のためにのためにのためにのために寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除のためにのためにのためにのために環境対策駆虫方法 石灰散布汚染おがくずの交換おがくず豚舎にいって2ヶ月たってから!イベルメクチンは幼虫幼虫幼虫幼虫 に効果なし母豚肥育豚 駆虫の徹底時期の見なおし主な感染場所はおがくず豚舎寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除のためにのためにのためにのために寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除寄生虫駆除のためにのためにのためにのために環境対策駆虫方法 石灰散布汚染おがくずの交換おがくず豚舎にいって2ヶ月たってから!イベルメクチンは幼虫幼虫幼虫幼虫 に効果なし母豚肥育豚 駆虫の徹底時期の見なおし主な感染場所はおがくず豚舎

駆虫法駆虫法駆虫法駆虫法をををを変変変変えたえたえたえた場合場合場合場合のののの経済効果経済効果経済効果経済効果駆虫法駆虫法駆虫法駆虫法をををを変変変変えたえたえたえた場合場合場合場合のののの経済効果経済効果経済効果経済効果フルベンタゾール(約1/7濃度で3週間)添加約1万7400円(年間)約1万7400円(年間)� 飼育期間 枝肉の質が良くなる肺がきれいになる・・・・ということも56万2500円(450頭56万2500円(450頭//1年)の節約1年)の節約� 薬代約10日の短縮現在の約1万7000円(年間)とほぼ同じほぼ同じ駆虫法駆虫法駆虫法駆虫法をををを変変変変えたえたえたえた場合場合場合場合のののの経済効果経済効果経済効果経済効果駆虫法駆虫法駆虫法駆虫法をををを変変変変えたえたえたえた場合場合場合場合のののの経済効果経済効果経済効果経済効果フルベンタゾール(約1/7濃度で3週間)添加約1万7400円(年間)約1万7400円(年間)� 飼育期間 枝肉の質が良くなる肺がきれいになる・・・・ということも56万2500円(450頭56万2500円(450頭//1年)の節約1年)の節約� 薬代約10日の短縮現在の約1万7000円(年間)とほぼ同じほぼ同じ

結果をふまえて、B農場でどのような対策がとれるのか考えた。 環境対策として、分娩舎の石灰散布を考えた。これは寄生虫卵を殺すためではなく、石灰で閉じこめて豚の口に入るのを防ぐためである。次に、おがくずの交換があげられた。おがくず豚舎のおがくずを全て入れ替えることは経済的に難しいが、出荷後に汚染されたおがくずをかきだし、堆肥化したものと交図14) 換すると良いと考えた。そのためには今ある堆肥舎の おがくずを週に一度は切り返して堆肥化をすすめる必要があった。 駆虫薬の使い方についても問題があった。まずは母豚の駆虫日をきちんと決めて行い、分娩豚舎での感染を防ぐ事が第一と考えた。次に、現在B農場では離乳直後(約 1ヶ月齢)にイベルメクチンを与えているがその時期の見なおしを考えた。イベルメクチン製剤は豚回虫の幼虫には効果がない、もしくは成虫直前になるまで効かないと言われている。回虫が成虫になるまで 2ヶ月かかる事と、感染は主におがくず豚舎でおこっていることを考えると、おがくず豚舎に移動後 2ヶ月以上たってから行う方が効果的だと思われた。おがくず豚舎にいるかぎり一度駆虫してもおがくずから再感染するため、と畜場での肝臓廃棄率を改善するには、出荷までにもう一度、計 2 回の駆虫薬投与が必要だと思われた。 しかし、寄生虫による肝白斑症は病害と薬代を比較して、経済的損失が少ないならあえて治療されない場合も多い。B農場がもし寄生虫駆除を行う場合の経済効果を考えた。聞き取りにより、現在離乳後に投与しているイベルメクチンの値段は年間約 17000円であった。これを、イベルメクチンより安価で豚回虫の幼虫にも効くフルベンダゾールに替えても、2 回投与するなら現行の薬代より高くなってしまう。図15) そこで、寄生虫の再感染のサイクルを絶つ方法として通常の 1/7 という低濃度で3週間(通常期間の 7倍)飼料に添加する方法を提案した(※1)。これならばB農場の規模であれば年間約 17400円となり、薬代は現行とほぼ変わらない。 聞き取りによるとAB二軒の農家の間では出荷までにかかる日数が、約 2週間ほどBの方が長かった。これには気候など他にさまざまな要因があると思われるので一概には言えないが、駆虫を行った結果約 9日飼育期間が短縮されたというデータがあった(※2)。 そこで、10 日短縮された場合にエサ代だけを考えると1キロあたり約 50 円(H20.10-12期 56 円、H21.1-3 期 46 円)の餌を1日1頭あたり 2.5 キログラム食べた場合、一頭あたり 1250 円の経費削減となる。B農場では一年間に約 450 頭出荷しているので年間では 56万 2500円経済効果が期待できる。 今回の結果は協力いただいた2農場だけでなく、他の農場の衛生指導にも役立てていきたい。 参考資料

・※1www.gpf.co.jp/business/techinfo/pdf/tech02/070802.pdf 未知の部分が多い豚回虫症 ・※2「食肉衛生検査所と連携した養豚農家指導」平成 14 年度(第 44 回)長崎県家畜保健衛生所業績発表会集録 P30-33 ・ 「豚における寄生虫病とウイルス・細菌感染症の防除対策」全国家畜畜産物衛生指導協会 ・ 「生産獣医医療システム 養豚編」全国家畜畜産物衛生指導協会 ・ 「豚病学 第 4版」近代出版 ・ 「獣医寄生虫学・寄生虫病学2蠕虫他編」講談社サイエンティフィク ・ 「オガコ豚舎における寄生虫病対策」養豚の友 2008年 2月号 P36-44 日本畜産振興会