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JPEC レポート 1 平成 26 8 12 規制緩和で復活する中国の石炭液化プロジェクト 2013 9 月、 5 年間にわたって凍結され ていた中国の石炭液化計画の象徴的なプロ ジェクトである神華寧夏煤業集団の寧夏自 治区寧東能源化工基地における石炭間接液 化プラント建設が、中国国家発展・改革委員 会(NDRC)の正式承認を取得、計画立案 から 10 年近くを経て、ようやくプロジェク ト遂行の見通しが立った。さらに、この石 炭間接液化プロセスを開発した中科合成油 技術有限公司( Synfuels China )は、内モン ゴルで同プロセス用触媒の生産プラントを建設、今年 9 月から生産を開始する。 中国では、すでに 2008 年末から神華集団が内モンゴル自治区オルドス市で石炭直接液化 プラントを操業しており、寧夏の間接液化プラントが完成すれば、中国は、直接法と間接 法の両プロセスによる商業規模の石炭液化プラントをもつ世界唯一の国になる(小規模な 間接プラントはすでに稼働している)。 また、狭義の石炭液化ではないが、かつてニュージーランドで商業化された天然ガスか らメタノールを経てガソリンを製造する MTGmethanol-to-gasoline )技術を利用して、石 - 石炭ガス化(石炭合成ガス)からメタノールを経てガソリンを製造するプロジェクトも 実証段階を完了して商業プラント建設に入っており、 ExxonMobil プロセス以外に中国プロ セスも開発されている。 都市部における大気汚染の深刻化、右肩上がりの石油の対外依存度、石炭産業の低迷と いった状況下、中国では、石炭由来オレフィンや石炭由来合成天然ガスの生産計画が相次 いで打ち出されており、そのなかで石炭液化プロジェクトも復活した。世界最大の石炭生 産・消費国である中国の石炭液化プロジェクトを紹介する。 1. エネルギー需給と石炭 中国のエネルギー構造の最大の特徴は、石炭の比率が圧倒的に高いことである。発電に は天然ガスや原子力、さらに風力や太陽光など再生可能エネルギーの導入が進められるが、 2014 年度 9 9 1. エネルギー需給と石炭.............................. 1 1.1. エネルギー消費................................ 2 1.2. 化石燃料の生産................................ 3 2. 石炭による石油の代替.............................. 4 2.1. 中国の新石炭化学計画................... 4 2.2. 規制強化から規制緩和へ .............. 5 3. 主要石炭液化プロジェクト..................... 6 3.1. 主要石炭液化プロジェクト.......... 6 3.2. 石炭からの合成ガソリン製造....12

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平成26年8月12日

規制緩和で復活する中国の石炭液化プロジェクト

2013年9月、5年間にわたって凍結され

ていた中国の石炭液化計画の象徴的なプロ

ジェクトである神華寧夏煤業集団の寧夏自

治区寧東能源化工基地における石炭間接液

化プラント建設が、中国国家発展・改革委員

会(NDRC)の正式承認を取得、計画立案

から10年近くを経て、ようやくプロジェク

ト遂行の見通しが立った。さらに、この石

炭間接液化プロセスを開発した中科合成油

技術有限公司(Synfuels China)は、内モン

ゴルで同プロセス用触媒の生産プラントを建設、今年9月から生産を開始する。

中国では、すでに2008年末から神華集団が内モンゴル自治区オルドス市で石炭直接液化

プラントを操業しており、寧夏の間接液化プラントが完成すれば、中国は、直接法と間接

法の両プロセスによる商業規模の石炭液化プラントをもつ世界唯一の国になる(小規模な

間接プラントはすでに稼働している)。

また、狭義の石炭液化ではないが、かつてニュージーランドで商業化された天然ガスか

らメタノールを経てガソリンを製造する MTG(methanol-to-gasoline)技術を利用して、石

炭-石炭ガス化(石炭合成ガス)からメタノールを経てガソリンを製造するプロジェクトも

実証段階を完了して商業プラント建設に入っており、ExxonMobilプロセス以外に中国プロ

セスも開発されている。

都市部における大気汚染の深刻化、右肩上がりの石油の対外依存度、石炭産業の低迷と

いった状況下、中国では、石炭由来オレフィンや石炭由来合成天然ガスの生産計画が相次

いで打ち出されており、そのなかで石炭液化プロジェクトも復活した。世界 大の石炭生

産・消費国である中国の石炭液化プロジェクトを紹介する。

1. エネルギー需給と石炭

中国のエネルギー構造の 大の特徴は、石炭の比率が圧倒的に高いことである。発電に

は天然ガスや原子力、さらに風力や太陽光など再生可能エネルギーの導入が進められるが、

JJJPPPEEECCC レレレポポポーーートトト 2014 年度 第第 99 回回

1. エネルギー需給と石炭 .............................. 1

1.1. エネルギー消費 ................................ 2

1.2. 化石燃料の生産 ................................ 3

2. 石炭による石油の代替 .............................. 4

2.1. 中国の新石炭化学計画 ................... 4

2.2. 規制強化から規制緩和へ .............. 5

3. 主要石炭液化プロジェクト ..................... 6

3.1. 主要石炭液化プロジェクト .......... 6

3.2. 石炭からの合成ガソリン製造 .... 12

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今後も国内で豊富に産する安価な石炭中心の消費構造が、そう簡単に崩れることはない。

1.1. エネルギー消費

中国の1次エネルギー消費(BP統計、以下同様)は、図1に示したように2001年に10

億 toe(石油換算トン)に乗せ、2009 年に 20 億 toe を突破、2013 年には前年比 4.7%増の

28.5億 toeにまで増加した。すでに中国は2010年から米国を抜いて世界 大のエネルギー

消費国となっており、2013年時点で中国のエネルギー消費は世界全体の22.4%を占めてい

る。

このうち石炭消費は、1987年段階で米国を上回り、世界 大となった。2013年の消費量

は前年比4.0%増の19.3億 toeで、総エネルギー消費の67.5%を占めている。また、世界の

石炭消費の実に50.3%を占めている。

図1. 中国の1次エネルギー消費

石油消費は2002 年段階で日本を上回っており、2013 年には前年比3.8%増の5.1 億トン

で、総エネルギー消費の17.8%を占めた。これは世界の12.1%を占め、8億3,100万トンの

米国に次いで世界第2位の位置にある。米国の消費は、2005年の9.4 億トンから減少基調

にあり、2030年代に入れば中国が世界 大の石油消費国になるとみられる。

天然ガス消費は、西気東輸や国際パイプライン、LNG 輸入基地の完成で急速に拡大し、

2008年にドイツを、2009年に日本や英国、2010年にカナダを上回り、2013年は前年比10.8%

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増の1.5億 toe(1.6億m3)となった。これは、エネルギー消費の5.1%、世界の4.8%を占

めるに過ぎないが、中国のガス消費は、今後も上昇が続き、近いうちにイランを抜き、米

国、ロシアに次いで世界第3位の消費国になるものとみられる。

原子力は2013年で2,500万 toe(110.6TWh)、水力は2.1億 toe(911.6TWh)、再生可能エ

ネルギーが4,290万toe(太陽光が270toe、風力が2,980toe、その他地熱/バイオなどが1,040toe)

である。このなかでは、風力の増加スピードが大きく上回り、2013年時点で風力と原子力

が逆転したことが注目される。

1.2. 化石燃料の生産

化石燃料の生産(BP統計、以下同様)は、図2に示したように主力の石炭が2000年以

降に大きく伸び、石油と天然ガスも増加、特に天然ガスは西気東輸パイプライン完成で急

増した。

図2. 中国の化石エネルギー生産

石炭生産は、2000年以降に生産が急増、2000年の6.9億 toe(13.8億トン)から2013年

には前年比1.2%増の18.4億 toe(36.8億トン)に達した。これは、全世界の47.4%という

巨大な量である。

原油生産は緩やかながら拡大基調にあり、1996年に1.5億トン台に乗った後も、1997年

に 1.6 億トン、2004 年に 1.7 億万トン、2005 年に 1.8 億トン、2008 年に 1.9 億トン、2010

年で2 億トン台に乗り、2013 年は前年比0.6%増の2.08 億トンとなった。これは、アジア

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大であるのはもちろん、サウジ以外の中東産油国やアフリカ産油国を遙かに上回る量で

ある。中国の原油生産は世界全体の 5%を占め、サウジ、ロシア、米国に次いで世界第 4

位につけている。しかし、大慶や勝利など東部の大型油田がピークを過ぎて下降に向かっ

ており、西部の油田や海洋油田の増産はあるが、急速な需要拡大が続いたことで、輸入拡

大が続いている。

天然ガス生産は、四川を中心に1980年代から1990年代中期まで1,500万 toe(約170億

m3)前後で推移していたが、その後はパイプライン網の拡充もあって急増、2007 年時点

で、インドネシアやマレーシアを抜いてアジア 大となった。この間、2000 年の2,450 万

toe(272 億m3)から 2013 年は前年比 9.5%増の 1.1 億 toe(1,100 億m3)にまで増加して

いる。

2. 石炭による石油の代替

2.1. 中国の新石炭化学計画

図3に中国で展開中の新石炭化学を示した。中国は、石炭からのアンモニアやコークス、

カーバイドなどの生産を伝統的石炭化学と呼称、これに対して石炭液化や合成天然ガス、

オレフィン製造などを近代的石炭化学として区別している。

図3. 中国で展開中の新石炭化学

石炭は、発電用や鉄鋼用以外に、これまでもガス化(合成ガス)を経て化学肥料原料な

どに使用されてきたが、 近では石炭液化や合成天然ガス、さらに石炭由来メタノールか

らのオレフィン製造(MTO)やプロピレン製造(MTP)、ジメチルエーテル(DME)の製

造といった新たな用途の開発ラッシュが続いている。

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2.2. 規制強化から規制緩和へ

1) 計画乱立と規制強化

中国は、1980年代から直接液化の研究を進め、将来のエネルギーの逼迫に対処するため、

黒龍江省の依蘭で日本、雲南省先鋒でドイツ、陝西省および内モンゴル自治区の神華で米

国に液化プラントの立地可能性調査を委託、3 カ国から実験プラントを導入して、テスト

を進めてきた。日本との間では、1981年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

が中国煤炭工業部(1998年に廃止)との間で石炭液化技術の共同開発に関する協定に調印、

北京煤化学研究所に実験プラントを置いて1983年から2000年まで中国の27炭種で液化の

実験を行った。

2001年2月、中国政府は内モンゴル自治区エジンホロ旗で神華集団が計画している石炭

液化プラント建設を承認した。2003 年 10 月には、石炭液化実証試験基地の建設が天津市

大港区でスタートした。さらに2004年6月、南アフリカSasolとの間で陝西省と寧夏回族

自治区に2基の石炭間接液化プラントを建設することに合意した。この頃から中国では、

石炭企業による石炭液化プロジェクトが相次いで打ち出され、2007年の中国国際石炭会議

で報告されたところによれば、その時点でかなり具体的な計画として、神華集団や神華寧

夏煤業集団のほか、伊泰集団、潞安集団、兖鉱集団、徐鉱集団の計7件のプロジェクトが

あった。

こうした計画乱立に対して中国国家発展・改革委員会(NDRC)は2008年8月、石炭液

化プロジェクトの管理強化に関する通達「関于加強煤制油項目管理有関問題的通知」を公

布、作業継続が可能な石炭液化事業は、すでに着工している神華集団の直接液化事業のみ

とし、神華寧夏煤業集団とSasolが共同で進めている寧夏寧東間接液化事業は厳格なFS作

業を実施した後、手続きに沿って認可を取得する必要があり、これらの事業を除き、すべ

ての石炭液化事業を中止すると通告した。NDRC は 2007 年以降、石炭液化計画の見直し

を発表していたが、2008年8月の通知は、神華集団の1計画のみ進めるという厳しい内容

となった。

NDRCは石炭液化事業について、国際原油価格の高騰と国内石油製品の需要増加に伴い、

多くの企業が石炭液化事業の事前準備を進めており、非常に大規模な建設計画もあるが、

石炭液化は人材・技術・資金集約型事業であり、投資リスクが大きく、現在、技術だけで

なく、運営管理、経済効率などの面でも多くの不確定要素が存在するとし、一斉に全面展

開することは不可能であると指摘した。今後、モデル事業を通じて分析・論証を進め、中

国の国情に適合した技術を発展させ、成功の経験を総括した上で計画を再確定していくと

の方針を示した。

2) 規制緩和

石炭液化計画の停止措置から5年が経過した2013年、中国政府は、モデル事業が徐々に

成熟していることと経済の安定成長確保の要請を背景に、投資規模が巨大で、牽引力の強

い重大プロジェクトの認可を開始し始めた。神華集団の年産 108 万トン、潞安集団の 21

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万トン、伊泰集団の16万トンと計3件のモデル事業が安定操業を実現、自前の知的財産権

を持つ石炭液化技術の商業化が実証されつつあり、凍結されていた象徴的な大型プロジェ

クトである神華寧夏煤業集団の年産 400 万トン計画が、2013 年 9 月に NDRC の承認を取

得した。同計画は Sasol のプロセスではなく、中国科学院山西石炭化学研究所などが立ち

上げた中科合成油(Synfuels China)の技術を採用する。

内蒙古伊泰は年産 1,000 万トン規模のCTL を計画、すでに 16 万トンの 1 期計画は稼働

しており、200万トンのプラント建設もNDRCに申請書が提出されている。このほか、神

華はオルドス直接液化プロジェクトの年産108万トン設備を増強して500万トンに増やす

計画を進めている。神華は18万トンの間接液化設備も操業している。

中国国家能源局(NEA)は今年7月、石炭液化および石炭由来合成天然ガスプラント建

設について、基準を満たさない無秩序な開発を厳格に規制するとの通達を発表した。国務

院が発布した「政府核准的投資項目目録(2013年本)」の合成天然ガス年産20億m3以上、

石炭液化は同100万トン以上との方針に基づき、それに満たないプラント建設は全面禁止

し、条件を満たした計画も関係機関による厳密な審査が必要だとしている。また、国家発

展・改革委員会と国家能源局が近く両事業に関するガイドラインを公布する予定で、開発に

あたっては、十分な水資源の確保、環境負荷が低く効率的であること、実証プロジェクト

の実施や科学的で合理的な計画であること、技術革新の必要性などが求められる。

3. 主要石炭液化プロジェクト

中国においては、国家の支援とともに安価で豊富な石炭と石油価格の高騰、急増する石

油需要が、世界に先駆けてこの技術を利用する重要な前提になってきた。こうした背景の

もと、世界にも類をみない規模の石炭液化事業が計画されている。天津神華集団が世界

大規模の実証試験基地を天津市大港区に建設した。天津の実証プラントでは陝西北部と内

モンゴル南部にわたる神府東勝炭鉱の上湾炭を使って試験を行い、これに続いて神華集団

が内モンゴルで直接液化プラントを建設した。さらに、間接液化についても、南アフリカ

Sasolの提案を蹴って中国技術による実用化に成功した。以下、中国の石炭液化プロジェク

ト(図4参照)の概要を示す。

3.1. 主要石炭液化プロジェクト

1) 神華集団(内モンゴル自治区オルドス市 石炭直接液化)

神華集団が建設した世界初の商業規模となる年産108万トンの直接法石炭液化プラント

は2008年9月に完成、12月30日に試運転を開始し、31日に燃料油規格を満たした石油製

品の生産が確認された。2010年より正式操業に入り、すでに石油製品卸売や製品小売の業

務資格を取得している。2013 年には86.6 万トンの石油製品を生産したと報告されている。

なお、神華集団は2013年現在の条件下で、国際原油価格60ドル前後が同石炭液化事業の

採算分岐点だとしている。

同プロジェクトは、中国の石炭工業発展に関する第 11 次 5 カ年計画(11・5 計画)のモ

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デル事業として推進され、事業の全体規模は石油製品生産能力として年間500万トンで、2

期に分けて実施される。第 1 期計画は、3 系列で 970 万トンの石炭から年間 320 万トンの

石油製品を生産するプラントだが、世界初の商業プラントであることから第1期も段階的

に進める計画で、パイロット事業となる第1系列のプラント建設が2004年8月に着工し、

2008年9月に完成した。年間345万トンの石炭から108万トンの石油製品が生産可能とな

る。この第1系列で安定した運転の確認を行い、そのうえで残りの建設を進める方針。内

訳は、ガソリンが50万トン、軽油が215万トン、液化ガスが31万トン、ベンゼン/混合キ

シレンが24万トン。

神華集団は石炭液化油を販売するため2009年12月に石油製品卸売ライセンスを、2010

年 8 月に石油製品小売ライセンスを取得した。2012 年 6 月には、「中国神華」の看板を掲

げたサービスステーション(SS)をオルドス市烏蘭木倫鎮に開設、これにより、中国石油

化工股份有限公司(Sinopec Corp)、中国石油天然ガス股份有限公司(PetroChina)、中国海

洋石油総公司(CNOOC)、中国中化集団公司(Sinochem)に続き神華集団が石油製品小売

事業に正式参入した。

図4. 主要石炭液化プロジェクト

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【神華集団の直接液化プロセス】

神華集団は1995年に華能煤炭公司が発展解消して設立された国務院直属の石炭生産、発

電、石炭液化、鉄道、港湾、海運を一体化した超大型エネルギー企業グループで、石炭生

産は4億トンを超え、世界 大級。国務院は1998年、「石油石炭代替」基金を神華集団に

移管することを決定、2001 年 2 月に石炭液化プラント建設を承認した。同社は 2002 年 6

月に米国Hydrocarbon Technologies Inc(HTI)との間で石炭液化のライセンスおよびプロセ

ス・デザイン契約を交わしたが、その後、HTI技術をベースに 適化と設備の大型化を進め、

北京石炭化学研究院が新世代のナノ触媒を開発し、完成度の高い直接液化プロセスを確立

したという。神華集団は日本や米国を含め世界各国で特許を取得している。石炭の直接液

化は粉砕した石炭を溶剤と混合して高温・高圧下で水素と反応させるため、水素製造を目

的として、2004年2月にShellから石炭ガス化技術を導入している。

周辺地域の砂漠化や汚水漏洩を指摘されているが、神華集団は2013年8月、汚水は浄化

して循環させ、世界 高水準の環境保護基準を達成したと発表している。本プロセスでは

2基の10万kW発電設備を備え、石油製品中の残渣は発電燃料とし、焼却残灰は建材原料

に利用している。また、米West Virginia Universityと直接液化における二酸化炭素回収・貯

留(CCS)技術協力協定に調印、年間10万トンのCCSパイロット事業を進める。

2) 神華集団(その他)

神華集団は、内モンゴルで中科合成油技術による年産18万トンの間接液化プラントを建

設、2009年に完成した。また、新疆ウルムチ米東区で年産300万トンの石炭液化事業を計

画している。100万トンの直接液化と50万トンの間接液化の組み合わせで、第1期で計150

万トン、第2期で300万トンとする。約80%が軽油生産に向けられる。

3) 神華寧夏煤業集団(寧夏自治区銀川市寧東石炭化学基地 石炭間接液化)

神華集団と寧夏煤業集団が2006年9月に共同出資で設立した神華寧夏煤業集団が計画し

ている間接液化事業。前述したように、計画立案から9年、計画凍結から5年が経過した

2013年9月、NDRCの認可を取得した。寧東基地では、石炭液化のほか、各種石炭化学計

画が進められ、世界 新鋭の巨大な石炭エネルギー・化学コンプレックスとなる見込みで

ある。

この間接液化プラントは単一設備としては世界 大で、年間2,036万トンの石炭から405

万トンの国五規格(EURO-V 相当)の石油製品を生産する。内訳は、ナフサ 98 万トン、

軽油274万トン、LPG33万トン、副産品として硫黄13万トン、混合アルコール7万トン、

硫酸アンモニウム11万トンを生産する。一般的に効率面は直接法が優れるが、軽油のセタ

ン価など品質面で間接法のメリットがでる。

中国における間接液化の計画は、陝西と寧夏でプラントを建設するため2004年9月に南

アフリカSasol と建設協力の覚書に調印したことで本格的にスタートし、2006 年 6 月の温

家宝首相南ア訪問でプラント建設のFSに向けた覚書に調印した。しかし、NDRC は2008

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年 8 月の通達で、陝西の計画は不許可、寧夏の計画は厳格な FS が必要としたため、神華

寧夏煤業集団は同年10月にFoster Wheelerと五環科技股份公司にFSを発注、2011年3月

には環境保護部の環境アセス承認を受けるなど、NDRCの要請に添って準備を進めた。こ

の間、2009 年に中科合成油技術の液化プラントが実証試験に成功、Sasol 技術の採用を取

りやめ、国産技術である中科合成油の採用を決めた。

なお、神華寧夏煤業集団は、この石炭液化プラントおよび Lurgi プロセスによる石炭由

来メタノールからのプロピレン製造 (MTP)プラントで副産するナフサや LPG の総合利用

計画も進める。年間140万トンのナフサやLPGを原料とするクラッカーを建設し、誘導品

として同 40 万トンのポリエチレンプラント、45 万トンのポリプロピレンプラント、さら

に 35 万トンの芳香族プラント、15 万トンのアンモニアプラントを建設する計画である。

また、Shell と神華寧夏煤業集団は 2006 年 2 月、寧東能源化学基地で石炭間接液化プロジ

ェクトのFS実施に合意していたが、Shellは2008年秋以降の原油価格下落時にFSを棚上

げした。

【中科合成油技術の間接液化プロセス】

この間接液化技術開発は、中国のハイテク研究のための高技術研究発展計画(863計画)

と科学技術部および中国科学院知識創新計画の産業化プロジェクトとして進められてきた。

1990年代後期に中国科学院山西煤炭化学研究所合成油品工程研究中心(センター)が、中

国科学院95重大科学研究プロジェクトとして開発したFischer-Tropsch合成(F-T合成)用

スラリー床反応と触媒の技術を発展させたものである。同センターは、863 計画の一環と

して2000年代初めに年産1,000トンの中間試験プラントを建設してパイロット事業を実施

した。安定したプラントの操業と高品質の製品の生産を確認したことにより、商業化のメ

ドが立ち、2006年2月、同研究センターと伊泰集団、神華集団、潞安集団、徐州鉱務集団

が共同で、この石炭間接液化技術を取り扱う中科合成油技術有限公司(Synfuels China)を

設立した。生産した軽油は純度が高く、ディーゼル車両に直接使用でき、国五規格をクリ

アしている。

これに使用する触媒製造のため、内モンゴル自治区オルドス市大路工業区に年産 4.8 万

トンのプラントを建設する計画を進め、1期計画の1.2万トン設備は2014年6月に完成、9

月から生産を開始する運びとなった。プラントが全面完成すれば、神華寧夏煤業集団や内

蒙古伊泰集団などに、石炭液化油生産能力換算で年産 1,200 万トン分の触媒を供給するこ

とができる。なお、中科合成油技術有限公司は、子会社として、触媒を生産する中科合成

油催化剤有限公司と石炭液化プラントの設計・調達・建設(EPC)業務を担当する中科合成

油工程有限公司を設立している。

4) 内蒙古伊泰煤制油有限責任公司(内モンゴル自治区オルドス市 石炭間接液化)

伊泰集団は2006年に内蒙古伊泰煤制油有限責任公司を設立、オルドス市に生産16万ト

ンの中科合成油技術の間接液化モデルプラントを建設した。2009年4月から試運転を開始

し、同年 10 月から安定運転に入った。2010 年 2 月に商務部から石油製品卸販売の業務資

格を得た。次期計画は年産 540 万トンで、うち 200 万トンの液化プラントは 2013 年末に

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NDRCの承認を取得した。石炭液化事業には、冷却用、洗浄用、水蒸気用、人員の生活用

などで大量の水資源が必要で、周辺地域の砂漠化や農業用水不足を招くとの指摘があるが、

伊泰集団はこうした問題に新たな節水システムで対応するとしている。

5) 伊泰伊犁能源有限公司(新疆自治区イリカザフ自治州 石炭間接液化)

伊泰伊犁能源は、2009 年 9 月に新疆石炭液化プロジェクトを実施するために設立され、

イリカザフ自治州チャプチャル・シボ自治県の伊泰イリ工業園で実施する年産540万トン

の石炭間接液化プロジェクトに関して、2010 年 11 月に新疆発展改革委員会の「企業投資

項目備案証明」を取得した。今年7月、年産100万トンのモデルプロジェクトに関する前

期作業を国家発展・改革委員会が承認した。

6) 潞安集団(山西省長治市 石炭間接液化)

中科合成油技術による年産16万トンの間接液化の実証プラントが2009年2月に完成、

同年7月に中国の燃料油規格に適合した石油製品を生産した。 終的には2015年をメドに

年産540万トンに引き上げる。また、同社は2007年1月にカナダWest Hawk Development

と地下石炭ガス化システムの共同開発に合意、石炭ガス化複合発電(IGCC)と石炭液化向

けに利用可能な資源の確定を進める。

7) 兗鉱集団(陝西省楡林 石炭間接液化)

計画によれば、第1期で年産100万トンの間接液化モデルプラントを建設し、これに続

いて2つの技術を採用して年産200万トンの間接液化プラントを2基建設し、年産能力を

500万トンに引き上げる。さらに第2期で年産能力を1,000万トンまで拡張するとともに、

オレフィンなどの化学プラントを建設し、大型石炭・化学工業基地を構築する。

兗鉱集団と傘下の兗州煤業公司は2011年1月、陝西延長石油集団との間で石炭液化合弁

事業契約に調印、陝西未来能源化工有限公司を設立して、石炭液化プラントとこれに石炭

を供給する可採埋蔵量10.1億トン、年産能力800万トンの鶏灘炭鉱の開発および採炭プラ

ント建設を進めることになった。

同集団の開発した高温流動床Fischer-Tropsch(F-T)技術は、2010年2月に中国石油・化

学工業協会技術機構の検定に合格している。同集団は年産 5,000 トンの高温流動床 F-T テ

ストプラントを保有しており、2種類の触媒を使用して1,580時間の連続フル負荷運転など

の試験を行った。間接液化では触媒がカギとなり、従来の高温F-T技術の触媒は溶解型鉄

系触媒であるが、同集団は沈殿型鉄系触媒を初めて高温F-T技術に採用した。同集団では、

低温F-T技術の習得に次ぐ、石炭間接液化での大きな技術的前進だとしている。

8) その他の計画

・ 安徽晋煤中能化工公司/晋煤金石化工投資集団公司/北京航天万源物業管理公司:

2010年9月に3社が共同で新疆自治区マノス塔河低炭素循環経済区の計画を開始

した。年産 120 万トンの石炭液化、石炭由来エチレングリコール、アンモニアお

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よび尿素、メラミンの各プラントを建設する。

・ 山東棗庄(そうしょう)砿業集団/SK Energy:

2010年11月、石炭エネルギー化学事業のFSに合意、棗庄砿業集団の安価な褐炭

資源とSK Energyの石炭ガス化および化学触媒技術を結合した石炭エネルギー化

学事業の経済性と実現可能性を調査する。

・ 安徽省淮南:

北京石油計画院がプログラムを作成、2020年の全面完成をめざし淮南市潘集区祁

集郷に建設する。計画では、年間2,500万トンの石炭を使用し、400万トンのメタ

ノール、300 万トンの石炭液化、100 万トンの DME、170 万トンのオレフィン、

80万トンのアンモニア、濃硝酸などのプラントを建設する。

・ 河南省:

永城煤電集団有限責任公司、義馬煤業(集団)有限責任公司、河南省煤気(集団)

有限責任公司の 3 社は、国有企業の戦略的再編の方針に沿って河南煤業化工集団

公司を設立、年産300万トンのメタノールに加え300万トンのCTLプラント建設

の計画もある。

・ 晋城市欣栄合成油有限公司/北京泰傑興源科技発展有限公司:

山西省晋城市で CTL プラントと石炭由来メタノールプラント建設が計画されて

いる。 終的な生産能力は石油製品が年間100万トン、メタノールが240万トン。

1期計画は年産24万トンのCTLと60万トンのメタノールプラント。

・ 徐州砿務集団:

山東省徐州市の徐州砿務集団は2005年4月、陝西省宝鶏市と石炭間接液化プラン

ト建設に関する協力協定に調印している。宝鶏市の麟北炭田の石炭を間接液化技

術により石油製品に転換する計画で、生産能力は年間300万トンとしている。

・ 雲南石油化工集団:

2003年8月、雲南省曲靖市と大型石炭化学基地建設に合意し、第1段階で年産200

万トン規模のコークス設備や50万トンのアンモニア、160万トンのメタノールプ

ラントなどを、第 2 段階で C1 化学とタール深度処理設備、第 3 段階で石炭液化

プラントとオレフィン製造プラントを建設するという構想である。

・ 雲南省先鋒炭鉱:

早くからCTLプロジェクトが研究されてきた。先鋒炭鉱の経済性はかなり高いと

評価されている。先鋒のプラント能力は年間約200万トン。中国で 初にCTLの

実験に取り組んできた先鋒炭鉱は昆明市尋甸県内にあり、CTLには 適とされる

褐炭の埋蔵量は2億9,200万トンにのぼる。ガソリン、軽油、ジェット燃料88万

300 トン、LPG6 万 7,500 トン、液体アンモニア 3 万 9,000 トン、ベンゼン 8,800

トンを生産する計画で、国家石炭科学研究総院、ドイツDMTや IGOR、雲南省が

事前準備に協力した。また、昆明煤気公司と香港威華達公司は協力に合意した

・ 山西省長治市:

山西省の山西煤基合成油項目管理組合、長治市、中国科学院山西煤炭化学研究所

が2004年12月、山西省の石炭を原料に年産100万トンの間接法CTLプラント建

設に合意した。

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・ 河南省平頂山:

平頂山煤炭集団は平頂山市で年産50万トンのCTLプロジェクトを計画しており、

2001 年 6 月に Sasol との間でCTL プロセス導入の契約に調印した。平煤集団は、

1999 年からCTL プロジェクトの準備を進め、Sasol への視察は何回も行っている

という。

9) Sinopecの石炭液化計画

中国における石炭液化や石炭由来合成天然ガスおよび MTO などの近代的石炭化学産業

は、神華集団に代表される石炭企業が中心となっていたが、中国石油精製・石油化学産業

のリーディングカンパニーであるSinopec もこの分野に参入している。すでにSinopec は、

新疆自治区准東で石炭由来合成天然ガス生産計画や西気東輸パイプラインに匹敵する巨大

な SNG パイプラインの政府認可を取得しており、各地でオレフィン事業を計画、石炭液

化についても検討を進めている。

Sinopec は 2007 年、Syntroleum との間で天然ガスからの液体燃料製造(GTL)および石

炭液化プラントの建設に協力するという覚書に署名して中国でのプロジェクトを開始した。

もともと両社の協力の中心はGTL にあったようで、当時、Sinopec は、傘下の中原油田が

発見した四川省の普光ガス田の天然ガスを原料に、重慶市の長寿化学工業区に中国初とな

るGTLプラント建設を計画していた。しかし、その後、両社の協力は石炭液化も含めたも

のに移行している。

Syntroleum は、F-T プロセスを使用する液化プラントについて、米国を初め中国やドイ

ツなどで建設の可能性を探っており、2009 年にSinopec に対し触媒技術を含む石炭液化技

術と関連の F-T 技術を供与することに合意、パイロットプラントを建設し、中国で SSTC

(Sinopec Syntroleum Technology)の事業展開を開始した。これにより、Sinopecは、米オク

ラホマ州 Catoosa の GTL デモプラントを浙江省の鎮海製油所に移設するとともに、石炭・

アスファルト・石油コークスを高付加価値の合成石油製品に転換する石炭液化デモプラン

トとしてSinopec/Syntroleum Demonstration Facility (SDF)を建設、2011年7月に開所式を

行った。生産能力は日量80bblで、Syntroleum-Sinopec F-T技術を採用、次期ステップで商

業プラント建設の検討に入るとしている。

3.2. 石炭からの合成ガソリン製造

メタノールから合成ガソリンを製造する MTG プロセスは、1970 年代に Mobil(現

ExxonMobil)が開発したもので、もともとは天然ガスからメタノールを経てガソリンを製

造する技術として、1980年代にニュージーランドで商業プラントが建設された。 近では、

中国などで石炭からガソリンを製造する技術として注目され、Uhdeの石炭ガス化技術であ

るPRENFLOとの組み合わせで、石炭-石炭ガス化(合成ガス製造)– メタノール– 合成ガ

ソリンのプラント建設が計画されるようになっている。

もともとMobilは1960年代にメタノールからの芳香族生産の研究を進めていたが、1970

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年代に入って触媒にゼオライト・モレキュラシーブを使用する MTG プロセスの開発に移

行し、芳香族化技術の商業化へと進むことはなかった。ちなみに中国では、メタノールか

らの芳香族製造に向けても技術開発が進められており、清華大学、中国科学院山西煤炭化

学研究所、上海石油化工研究院、北京化工大学などが開発を進めている。世界では、BP

やサウジアラビア基礎産業公社(SABIC)が開発を手がけている。

1) 山西晋城無煙煤砿業集団(晋城MTG事業)

石炭由来メタノールから合成ガソリンを製造するため、ExxonMobilのMTG技術を使用

する年産 100 万トンのプラント建設を進めている。晋煤集団は、年産 1,000 万トンの炭鉱

を開発し、石炭を原料基盤とする 400MW×2 基の IGCC、年産 360 万トンのメタノール、

200万トンのクリーン燃料、164万トンの精密化学品、36万トンのアンモニアおよび60万

トンの尿素などのプラント、220 万トンのセメントプラントなどから構成される晋城市石

炭・電力・石油・化学・輸送循環経済工業ゾーンの建設を進めており、第 1 期計画として 100

万トンの MTG プラントを建設する。投下資金は 30 億元で、完成は 2015 年の予定。

ExxonMobil Researchand Engineering Company(EMRE)の提供する第2世代MTGプロセス

を採用する。EMREのMTGプロセスは、 F-Tプロセスと比較して、水分を除いたガソリ

ンの得率が 87%と高く、ガソリンのオクタン価も 92 あるため、このままでもレギュラー

ガソリンとして使用できるのが特徴で、生産効率とコスト面に優れるといわれる。

晋煤集団は、EMREのMTGプロセスを使用した年産10万トン(2,600bpd)の実証プラ

ントを2009年6月から運転して技術ノウハウを蓄積、商業プラント建設を決定した。前段

の石炭ガス化には Uhde の PRENFLO プロセスを採用する。主要原料には、晋城鉱区の安

価な三高(硫黄分・灰分・灰溶融点の高い)低品位炭を使用し、中国技術でメタノールを生

産する。ガソリンおよび少量のLPGのほか、副産品として医療用や宇宙材料に利用できる

テトラメチルベンゼンを生産する。

2) 中国慶華能源集団有限公司(内モンゴル自治区フフホト)

慶華能源集団は1996年に設立され、石炭の開発・生産やコークス生産、石炭化学など石

炭産業をコア事業に、金属資源開発・生産、クロルアルカリ事業などを行う民間企業。傘

下企業は、内蒙古慶華集団、青海慶華集団公司、寧夏慶華集団、新疆慶華集団などで構成

されている

同社は2013年7月、内モンゴル自治区フフホト市との間で世界 大の石炭由来合ガソリ

ンやオレフィン製造プラント建設に関する協定に調印した。慶華能源集団は、フフホト市

トグト工業地区で年産 3,500 万トンの低品位炭改質設備をもとに、石炭由来メタノールか

ら年産1,000万トンのMTGプラント、500万トンのMTOプラントなど新石炭化学プロジ

ェクトを進めるとともに、300 万トンのコールタール水素化深度処理設備や 100MW の火

力発電設備4基を建設する。全面的な完成は2020年を予定している。投資金額や各プラン

トに採用する技術ライセンスなどの詳細は明らかにされていないが、数百億元規模の巨大

プロジェクトで、各プラントが完成すれば世界 大の新石炭化学基地となる。

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3) 中国雲南先鋒化工公司(雲南省先鋒炭鉱)

雲南先鋒化工公司は、先鋒炭の高度利用を目的に雲南解化清潔能源開発公司と雲南省工

業投資公司が2009年7月に設立した。

雲南省昆明市の雲南先鋒化工公司は2014年5月、世界 大級となる年産20万トンの固

定床一段法による MTG モデルプロジェクトによって合成ガソリンなどの試験生産に成功

した。先鋒炭鉱で生産される褐炭の高度利用を目的とする先鋒褐炭クリーン化利用試験モ

デルプロジェクトの一部で、年産50万トンの石炭由来メタノールプラントとともに昆明市

尋甸(じんてん)県金所工業園区で2009年7 月からMTGプラントの建設を進めていた。

生産技術は、中国科学院山西煤炭化学研究所(ICC)、賽鼎工程有限公司(SEDIN)、雲

南煤化工集団有限公司が共同で開発した。触媒も ICCが開発した。年間20万トンの93号

ガソリン、7.8 万トンの軽油、1.3 万トンのテトラエチルベンゼン、LPG、フェノール、ク

レゾール、キシレノールなど、各種石油製品と石化製品を合計47万トン生産できる。特に、

ガソリンは、オクタン価が高く、硫黄分やベンゼン含有の少ないクリーンな高品質ガソリ

ンで、軽油も硫黄分が少ない。

4) 新疆新業能源化工公司(新疆ウイグル自治区五家渠市)

石炭由来メタノールからの年産10万トンのMTGプラントが2013年10月に試運転に成

功した。同社は、新疆ウイグル自治区新業国有資産経営公司が2009年11 月に資本金3 億

元で設立した国有企業で、石炭および各種金属の採掘、加工および新エネルギー開発、鉱

山機械の生産・販売などをコア事業としている。プラントは、中国化学賽鼎工程有限公司

が自社の一段法プロセスにより設計・調達・建設(EPC)を担当した。

5) その他

・ 香港中華煤気公司:

中国有数の産炭地である山西省運城市新絳県の新絳煤化園区で年産70 万トンのMTG

プラント建設を計画している。

・ 陝西省咸陽市彬県能源化工園区管理委員会:

MTG プラントの建設を計画、企業誘致を行っている。プラントの生産能力は年産 25

万トン。

・ 山西福裕煤化公司:

山西聯盛能源集団公司の全額子会社で、山西省呂梁市の尚家峪工業園区に、年産 20

万トンのMTGプラント建設を計画している。完成は2015年の予定。

・ 香港中華煤気公司:

山西省運城市新絳県の新絳煤化園区で年産70万トンのMTGプラント建設を計画して

いる。運城市近郊は有数の産炭地である。

・ 陝西省彬県能源化工園区管理委員会:年産25万トンのMTGプラント建設に向け企業

誘致を計画している。

・ 内モンゴルウジン旗蘇里格経済開発区:

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年産 30 万トンのメタノールプラントと 10 万トンのMTG プラント建設を計画してい

る。ExxonMobil技術を採用する予定。

・ 甕福(集団)有限責任公司:

貴州省福泉市の馬場坪工業園区にある貴州天福化工公司で国五 93 号ガソリンを生産

するMTGプラント建設を計画している。

・ 陝西省神木県発展改革局:

錦界工業園区で年産10万トンのMTG プラント建設を計画している。完成は 2015 年

の予定。

・ 山西省柳林県森沢煤鋁有限責任公司:

石炭ではなく炭層メタンガス(CBM)からの年産 30 万トンのメタノールプラントを

経て12万トンのMTGプラント建設を計画している。完成は2015年の予定。

<参考資料>

(1) 神華集団 http://www.shenhuagroup.com.cn/cs/sh/index.html

(2) 中科合成油技術有限公司 http://www.synfuelschina.com.cn/

(3) 中国科学院山西煤炭化学研究所 http://www.sxicc.cas.cn

(4) 伊泰集団 http://www.yitaicto.com

(5) 潞安集団 http://www.chinaluan.com

(6) 晋煤集団 http://www.jamg.cn/

(7) 中国慶華能源集団 http://www.chinakingho.com

(8) Statistical Review of World Energy 2014年版(BP)

(9) 東アジアの石油産業と石油化学工業 2013年版(東西貿易通信社)

(10) East & West Report各号(東西貿易通信社)

以上

本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析

したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected] までお願いします。

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次回の JPECレポート(2014年度 第10回)は

「トルコの石油・エネルギー産業」

を予定しています。