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平成28年度製造基盤技術実態等調査 我が国製造業の変革の方向性に関する調査

報告書 - Minister of Economy, Trade and Industry · れた品質の「モノ(ハードウエア)」を提供することが、す なわち顧客価値の実現に直結して収益源となった時代

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平成28年度製造基盤技術実態等調査我が国製造業の変革の方向性に関する調査

報 告 書

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2 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

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3 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

目 次

はじめに 5

I. 調査の背景 9

II. 調査の目的 21

III.顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性 27

IV.念頭におくべき潮流と失ってはいけない強み 39

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4 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

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5 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

はじめに

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6 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

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7 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

はじめに

我が国製造業企業を取り巻く環境は、株価や為替の乱高下や、中国のみならずロシア、ブラジル等の新興国の低迷、地政学的なリスクの顕在化等、グローバル市場の不確実性が増していることに加え、「第4 次産業革命」によるデジタル化の波によってビジネスモデルや産業システムの抜本的な変革が迫られている。

このような環境下において、製造業による「顧客価値の実現」は、モノそのものにとどまらず、顧客起点の考え方のもと、モノと人・モノ・情報等をつなぐことによるサービス・ソリューションの提供等の観点も視野に入れて事業、バリューチェーン全体を捉え全体設計を行い、顧客価値の最大化を図ることが重要であると考えられる。

また、上記のような「全体最適」を志向する上で、欧米企業を中心にシステム思考やデザイン思考といった考え方が浸透しつつあり、製品の企画、製造、市場投入のスピードを極限まで高め、マーケットの評価を踏まえた改良のサイクルを回していくことで、より顧客ニーズを踏まえた価値提供を行っている企業もある。

他方で、「強い現場」の存在は我が国の強みであるが、人手不足の顕在化等により課題が顕在化しつつあり、デジタル技術の活用等の第4 次産業革命が進展する中、時代に即した形での強い現場力の維持・向上を図ることが期待される。

本調査では、製造業が優れた「ものづくり」を目指すに留まらず、サービス・ソリューション事業の展開等を含め、顧客価値の最大化を図るための「全体最適」を志向することの重要性など、新たな製造業の目指すべき方向性を具体的な事例を通じて示すべく、国内外の具体的な先進的な取組事例に関する情報収集を行うことを目的とする。

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8 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

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Ⅰ.調査の背景

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1. 調査の背景

1.1 過去の成功体験から脱却した顧客価値最大化が課題

日本のマーケットは「洗練されている」と言われることが多い。それは「消費者(顧客)の目が厳しい」ことを意味し、厳しい消費者(顧客)に鍛えられることによって、日本のものづくりは世界一の品質を誇るようになったといっても過言ではない。今日、「顧客価値の最大化」「顧客価値の実現」が声高に叫ばれるようになったが、本来、「顧客価値の実現」は日本が得意とするものづくりの精神そのものであったといえる。

これは日本企業だけではなく、外資系企業にもあてはまる。我が国の対内投資が対外投資に比べて極めて少ないことが問題視されていた1990年代においても、立地コストの高い我が国にあえて生産拠点を構える外資系メーカーも存在した。進出理由を尋ねると、決まって「日本の顧客の要求水準が厳しいため、日本のマーケットで通用すれば世界のマーケットで通用する」という言葉が聞かれたものである。これは、BtoBのみならず、BtoCでも同様であった。

しかし、「顧客価値の実現」が目的であるにもかかわらず、作り手の想いが先行してしまい、過剰スペックやガラパゴス化に陥ったり、「ものづくり」そのものが目的化してしまったりと、「顧客価値の実現」という本来のミッションを見失ってしまった点も否めない。日本企業の過度に品質を追求する姿勢は、次第に顧客の要望とはかけ離れたところに向かってしまったのである。

サムスン電子をはじめとする韓国の家電メーカーが世界市場を席巻した際、日本企業はこぞってサムスンの強さ

を分析した。サムスン電子の品質への考え方は日本企

業とは異なり、新興国市場を開拓するためには機能を落

としてでもコストで勝負し、欧州市場ではコストが高くても

デザインで勝負するという両面戦略をとった。新興国市

場のコスト重視の戦略も、「安かろう、悪かろう」戦略では

なく、むしろ徹底した現地のマーケティングを行い、必要

とされる機能を絞り込むことによるコストダウンを図った。

また、クレームやトラブル対応には24時間以内に対処するといった徹底したアフターサービス体制をとった。欲し

い機能だけに絞り込んで安い価格で提供し、アフター

サービスにもきめ細かく対応する、まさしく、顧客価値最

大化経営である。日本との違いは、「機能(ハードウエ

ア)」を顧客価値実現の唯一の手段とは考えなかった点

にある。

日本企業も顧客目線を失ったわけではない。しかし、優れた品質の「モノ(ハードウエア)」を提供することが、す

なわち顧客価値の実現に直結して収益源となった時代

が長らく続き、日本の高度経済成長から続くその成功体

験がハードウエア信仰をつくりあげてしまった。実際、若

い企業経営者ほどハードウエア信仰とは距離を置く傾向

にある。

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1. 調査の背景

1.1 過去の成功体験から脱却した顧客価値最大化が課題

今日、著しい情報革新によって、「モノ」のつくり手と消費者(顧客)の距離はかつてないほど縮まり、つくり手があたり前のように消費者(顧客)に直接働きかけることが可能となった。また、すべてのモノがインターネットにつながる今日においては、モノの所有以上に、モノの利活用が顧客の満足度や利便性に大きなインパクトをもたらす。つまり、「顧客価値の実現」の手段として「モノの提供」よりも「サービスやソリューションの提供」がより重視されるようになってきた。そして、「モノ」が満ちあふれている豊かな時代においては、「モノの所有」よりも「モノの利活用」に着目したサービスやソリューションが顧客価値をより増大させることができ、「モノ」を提供して終わりというビジネスモデルではなく、消費者(顧客)のライフスタイルや時間価値などもすべて考慮した“バリューチェーン全体を捉えたビジネスモデル”が必要とされている。

日本の「ものづくり」には“おもてなしの心”が詰まっており、「顧客価値を最大化したい」という方向性は昔も今も変わっていない。しかし、「顧客価値を最大化するための手段」が日本企業の過去の成功体験とは大きく変化してしまったことを真摯に受け止める必要に迫られている。第4次産業革命による産業社会のデジタル化が加速する中、今後もその傾向はますます強まることは疑う余地がなく、我が国の製造業は今こそ抜本的な変革を迫られている。

顧客価値

機能レベル

機能レベルが高まれば顧客価値も高まる

顧客価値

機能レベル

機能が低くても、サービスやソリューションで顧客価値を高める時代に

サービスやソリューション

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さらに、市場の変化は驚くほど速い。産業社会がデジタル化され、IoTにより人・モノ・情報がつながっていくことで“ネットワーク効果”がますます高まり、いち早く優れたユースケースを見出し普及させた者が優位に立つ時代となった。よって、アジャイルな経営を実践し、完成形にこだわるのではなく、顧客と対話しながらつくりこんでいくスピードも必要である。そのためには、自前主義に陥ることなく、斬新なアイデアや足りない経営資源を広く社外に求めたり、また、サービスやソリューションにつなげる部分を調達するころも含めて異業種との有機的な連携が必要となっている。

また、ビッグデータやAIの活用が急速な勢いで産業社会に浸透しつつあり、データを利活用することの重要性が飛躍的に高まっている。より多くのデータを活用するためには、プラットフォームの構築も重要となる。さらに、グローバルな顧客や市場の取り込みを意識したスケーラブルなビジネスモデルを志向したり、仲間作つくりのためのエコシステム形成も重要となる。特に、新しい市場づくりとルール形成は表裏一体で進めていくことも必要で、その意味でも、エコシステムの重要性はますます高まっていくものと考えられる。

1. 調査の背景

1.2 デザイン思考と全体最適による顧客対話型ものづくり

「顧客価値の最大化」のツールとして「サービスやソリューションの提供」がより重視されるようになったとはいえ、次に課題となるのは、いかにして顧客の価値を高めるか、という思考方法である。

ハーバード大学・クリステンセン教授の「ドリルを買いに来る人は、4分の1インチのドリルを欲しているのではなく、4分の1の穴を欲している」という有名なセリフがある。これは顧客が求める価値とは何か、を端的に表している。顧客が真に何を求めているのか、いかなるモノ・サービス・ソリューションを提供すれば顧客価値が最大化するのかを、常に顧客起点で考えることの重要性を示唆している。

さらに、顧客起点で事業をデザインし、その事業全体のバリューチェーンを視野に入れた全体最適化を図る中で「モノ」の立ち位置を検討していく時代になった。サービスやソリューションが顧客価値最大化の重要なツールになっているとはいえ、「モノ」の価値が失われているわけではなく、どこで付加価値を取るかはビジネスモデルごとに異なる。ただ、従来のように「モノ」を中心とした守備範囲では付加価値が取れなくなりつつある。サービスやソリューションも含めたバリューチェーンの全体最適化を図ることで、「モノ」でも付加価値が取れるビジネス、すなわち日本が強みとする技術を価値に変えることが可能となる。

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産業社会のデジタル化により起業コストが一段と引き下がり、アイデア次第で様々なビジネスを展開できる可能性が広がったこともあり、今、異色のベンチャー企業が次々と誕生している。そして、AI(人工知能)などのハイエンドの領域においては、有望なベンチャー企業の争奪戦が繰り広げられている。

その主戦場はシリコンバレーで、日本の大手企業も情報収集のみに億単位の資金を投じて有望ベンチャーの発掘に力を入れている。特にハイエンドのベンチャー企業との連携は自社ビジネスの行方にとって重要な意味を持つようになっており、ライバルよりもいち早く有望なベンチャーを発掘することが必要不可欠となっている。

1.3 キャスティングボード化するベンチャー1. 調査の背景

(出所) 経済産業省産業技術環境局「オープンイノベーションに係る企業の意思決定プロセスと課題認識について」平成28年1月18日

かつてベンチャー不毛の地といわれた日本においても、近年相次いで有望なベンチャー企業が誕生し、大手企業と提携する事例が急増している。大手企業は豊富な資金や人材を抱えているが、大きな組織になるほど機動力を欠きやすく、リスクの高い事業に手を出しにくい。他方、ベンチャー企業は資金や販路といった経営資源には乏しいが、ハイエンドの尖った技術を持ち、意思決定のスピードが速く機動力に優れる。

このように、ベンチャー企業が拮抗する大手企業の力関係に及ぼすインパクトが、かつてないほど高まっている。ただ、現状では技術力や品質については海外のベンチャー企業の方が高く評価されている。

連携相手先別にみた阻害要因(国内と海外の比較)

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1.3 キャスティングボード化するベンチャー1. 調査の背景

アジリティの高い経営や、短期にハイエンドの技術や異なる能力を獲得する上で、大企業がベンチャー企業と対等な関係で連携し、新しい事業に取り組むようになっている。ベンチャー企業にとっても、大企業のアセットを活用したエコシステムを形成し、いち早くアイデアを事業化できるチャンスが到来している。

また、近年M&Aが増加しているが、M&A件数がピークを迎えた2005年~2007年時点との違いは、「日本企業による外国企業へのM&A」が増えている点にある。アジャイルな経営や有機的なコラボレーションを図る上では、M&Aやオープンイノベーションも有効な手段となるが、もはや日本企業同士で閉じている時代ではなく、海外ベンチャーとの提携が増えているように、国境をまたぐアセットの有機的連携が問われるようになっている。

最近の調査によると、経営者のオープンイノベーションに対する理解も進んでいる。

(出所) 経済産業省産業技術環境局「オープンイノベーションに係る企業の意思決定プロセスと課題認識について」平成28年1月18日

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前述したように、顧客価値の最大化を図る上で「サービスやソリューションの提供」が有効なツールとなってい

るが、付加価値全般がモノからサービスへ移行してい

る背景には、ICT技術の大幅な進展により需要と供給

の瞬時のマッチングが可能になったことが大きい。しか

も、極めて低コストに行うことが可能となっている。

さらに、センサーでデータを集めてビッグデータ解析を行うことで、単なる需給のマッチングではなく、顧客の

ニーズを先取りしたサービスの提供も可能となっている。

しかも、指数関数的にデータ処理能力が高まったことで

ビッグデータの即時利用が可能となり、「モノ」の所有だ

けではなく、「モノ」を利用することで得られる価値の提

供までを視野に入れたビジネスが可能となっている。

今、IoT、ビッグデータ、AIの三位一体による技術的ブレークスルーが大きな話題となっているが、これらの技

術革新がもたらす「シェアリング・エコノミー」こそが、産

業社会の様相を一変させ、世の中の価値観を大きく変

え、それが企業のビジネスモデルに変革を迫っている。

顧客価値の最大化を図るには、 「シェアリング・エコノ

ミー」がもたらすインパクトを正確に理解する必要があ

る。

1.4 シェアリング・エコノミーが変える産業社会の姿

1. 調査の背景

「シェアリング・エコノミー」は働き方や収入源の多様化を通じて、雇用にも大きな影響をもたらす。クラウドソー

シングの活用により、専門知識を活用して働くことも可

能となり、一企業に専属して働く雇用形態が当たり前で

はなくなっていく可能性も秘めている。実際に、より創

造的な人材を確保することをも狙いとして、兼業や副業

を容認する大手企業も現れている。将来は企業に専属

する働き方から、個人事業主として働くことが当たり前

となっているかもしれない。

なお、少子高齢化を背景に人手不足が健在化しつつある中で、人材確保のためにも生産性を高めて長時間労

働を見直そうとの動きもある。そもそも、日本の労働生

産性は諸外国と比べて低く、日独比較をするとその差

は歴然としている。とりわけ、自動化や省人化が進む

工場とは対照的に、間接部門の生産性が極めて低く、

働き方改革を進めるためにも間接部門を含む生産性

の向上は危急の課題となっている。シェアリング・エコノ

ミーによる働き方の多様化は、人材を確保するために

も、企業が生産性の高い魅力的な職場を提供しようと

いうインセンティブにつながっている。

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1.4 シェアリング・エコノミーが変える産業社会の姿

1. 調査の背景

シェアリングエコノミー

AI

IoT

ビッグデータ

世の中の価値観の変化

所有価値から利用価値へ働き方の多様化雇用形態の多様化

ものづくり企業が着目すべき動向

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18 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

日本のものづくりの強みは「現場力」にあると言われており、産業社会のデジタル化が進展したとしても、

時代に即した形でこの強みは維持・継承していく必

要があると考えられる。しかし、そもそも現場力とは

何であろうか。

「2012年版ものづくり白書」では、製造業各社が自らの「現場力」をどう捉えているかについてアンケート

調査を実施している。それによると、「問題発見力・

課題発掘力」、「課題解決の道筋を見出すこと」、「モ

チベーションの維持」、「部門を超えた連携・協力」が

できるについては6割以上が評価しているが、一方、

「独創的なアイデアに富む」、「大局観をもって物事

の本質を見極める」ことに対しては6割以上がマイナ

スの評価をしている。

このアンケート調査結果より、日本のものづくり企業の現場力とは、「自ら課題や問題点を発掘でき、そ

の課題解決に向けた道筋を見出すことができるモチ

ベーションが維持できていること」「必ずしもマニュア

ルどおりの作業ではなく、背景を理解して行動でき

ること」「課題解決に向けて最短のプロセスで実行で

き、かつ、そのためには部門を超えた連携・協力が

できること」と解釈できる。

1.5 我が国製造業が維持すべき「強い現場」とは

1. 調査の背景

(出所) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「平成23年度中小企業支援調査我が国ものづくり産業の競争力の源泉に関する調査報告書」

製造企業各社の国内拠点の現場力についての評価

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また、ものづくり各社にとって「現場力に優れる」ということは、いかなる意味を持つのだろうか。

まず、アンケート調査の結果から、大半の企業が現場力は「技術力で勝るために必要不可欠である」と

みなしていることがわかる。次に多いのは「シェア獲

得など事業で勝るために必要不可欠である」と、ビ

ジネス面での優位性にも結びついているとの見方

である。そして、「日本ブランドの形成に必要不可欠

である」との見方に続く。3つ目は、現場力が揺るぎ

ない品質を維持し、メイド・イン・ジャパンへの信頼を

勝ち得ていると解釈することができる。

一方、「現場力」がマイナスに働くとの見方は少ない。現場力が強いが故に自前主義に陥ったり、個別最

適化を引き起こすような弊害はない、と認識してい

ることがわかる。

1.5 我が国製造業が維持すべき「強い現場」とは

1. 調査の背景

(出所) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「平成23年度中小企業支援調査我が国ものづくり産業の競争力の源泉に関する調査報告書」

現場力に優れるということの認識

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20 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

2012年時点から4~5年しか経過していないとはいえ、当時と今ではIoTやビッグデータ、AIといった製造業をとりまく技術革新の様相も一変している。デジタル化の進

展は、ものづくりの現場のデジタル化を急速に推し進め

る結果となっている。IoT化が進展する中で、人と機械の協働のあり方や、現場の暗黙知やノウハウをデジタ

ル化して共有財産として活用していく方策が問われて

いる。

特に、デジタル技術を活用した現場力の維持・向上と、デジタル化による暗黙知やノウハウの流出(あるいは低

下)懸念という、相反する課題をどう克服しているかに

着目する必要がある。

IoTを活用してものづくりの現場がつながるということは、日本が強みとする製造技術や生産技術がパッケージ化

されて無力化する恐れがあるとの懸念もある。また、も

のづくりの現場がデジタル化していくことでアナログ技

術が失われ、現場力が低下するのではないかとの懸念

もあるからである。

1.5 我が国製造業が維持すべき「強い現場」とは

1. 調査の背景

また、シェアリング・エコノミーの進展や、働き方改革や雇用の多様化などを念頭に、人事制度も含めて現場力

の維持・向上に努めている工夫も把握しておく必要があ

る。

なお、「現場力」とは必ずしも工場内部の「現場力」だけを意味するものではない。顧客起点のものづくりを徹底

するために、技術者が営業マンと一緒に顧客回りをす

ることも含めて「現場力」であり、特に生産性が低いとの

指摘がなされる間接部門の「現場力」も重要な意味を

もっている。

課題解決力の高さといった「強い現場力」の解釈は、おそらく2012年時点から変化していないと思われる。しかし、それを維持するための方策は急速なデジタル化の

進展の下、大きく変わりつつあると認識しなければなら

ない。ベテランが持つ暗黙知や、人から人へとアナログ

的に伝承していたノウハウは、デジタルデータ化して標

準化・共通化して利活用できるようにすべき時代となっ

ており、デジタルアセットを増やしつつ、新たなノウハウ

を生み出す好循環をつくることが必要とされている。

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Ⅱ.調査の目的

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23 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

2.調査の目的

2.1 調査の目的と目標

本調査では、以上のようなものづくりをとりまく背景を踏まえつつ、以下のようなロジックで、ものづくりの変革のあり方についての検討を行った。

主な調査手法は文献調査に加えて、以下のような観点から革新的経営に取り組んでいる企業へのインタビュー調査を実施した。

経済社会の環境変化

強い現場の維持向上

目指す方向性はどこか

求められる思考とは求められる行動特性とは

実現に向けた手段とは

第4次産業革命の影響下の中で、現場力の維持・向上に向けたどのような取組がなされているか、デジタル技術の活用や人事制度などに着目する

我が国の製造業が変革を迫られている背景を正しく捉え、産業社会の仕組みが大きく変化していることを認識することで、過去の成功体験に縛られることなく、顧客価値の最大化を目指す必要性を説く

取るべき方策として、まずビジョンを示し(【目指すべき方向性】)、その実現に向けた考え方を示し(【求められる思考】)、それを実行に移すためのアクション(【求められる行動特性】)とツール(【実現に向けた手段】)を示すことが必要

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2 調査の目的

2.2 ものづくり企業が目指す方向性

前ページのロジックを調査スペックに落とし込むと下記のようになる。

目指す方向性 求められる思考 求められる行動特性実現に向けた手段

経済社会の環境変化

サービス・ソリューション展開

システム思考デザイン思考をベースとした顧客視点による組織再編やビジネスモデルの構築

ベンチャー

M&A

オープンイノベーションの活用

所有から利用へシェアリングエコノミー

プラットフォーム構築スケーラブルなモデルへの志向

エコシステム構築

アジャイルな経営、異業種交流

顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性念頭におくべき潮流と失ってはいけない強み

新たな市場をつくるルール形成

働き方改革雇用の多様化

「強い現場」の維持・向上

日本の強み

間接部門の生産性向上

弱みの克服

強みの維持

【求められる行動特性】として、顧客価値の増大に結びつく新たな市場をつくるための「ルール形成の重要性」にも着目する。

また、【経済社会の環境変化】として、製造現場のみならず、これからは間接部門の圧倒的な生産性向上が製造業の競争力に大きく影響する点にも着目する。

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2 調査の目的

2.3 調査の進め方

仮説・シナリオの検討

文献調査・事例収集

<調査の進め方><調査の内容>

ヒアリング調査

分析・提言

報告書のとりまとめ

Step1: 第4次産業革命の進展が製造業にもたらすインパクトの検討

Step2: 仮説・シナリオの検討①我が国製造業の変革の方向性に関する仮説②強い現場の維持・向上のあり方に関する仮説

Step3: ヒアリング調査の実施【目指す方向性】①サービス・ソリューションの展開【求められる思考】②システム思考・デザイン思考をベースとした組織再編やビジネスモデルの構築【求められる行動特性】③アジャイルな経営、異業種交流④プラットフォーム構築、スケーラブルなモデル志向、エコシステム構築<追加>ルール形成【実現に向けた手段】⑤ベンチャー、M&A、オープンイノベーション【経済社会の環境変化】⑥所有から利用へ、シェアリング・エコノミー⑦働き方改革、雇用の多様化<追加>間接部門の生産性向上

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Ⅲ.顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.1 サービス・ソリューションの展開

モノからサービス・ソリューションへという流れは、「調査の背景」で概観したとおりであるが、これまで高品質のハードウエアの作り込みに邁進してきた多くの製造業にとって、どうサービス・ソリューションへと舵を切るべきか、とまどうケースが多いだろう。実際、インタビューを実施した企業からもそのような指摘を受けている。

1つ留意すべきは、これまでの直接の顧客が必ずしもサービスやソリューションを提供する顧客になるとは限らないという点である。IoTを活用したビジネスモデルを検討する際、モノの出口と、サービスやソリューションによる対価を回収する先が離れている場合がある。つまり、サプライチェーンから離れて、バリューチェーンを検討してみることも重要だ。

たとえば、㈱ブリヂストンはタイヤにセンサを装着し、センサから得られる情報で接地状態を計測し、そのデータを解析することで路面情報やタイヤの状況を把握して顧客に新たな価値を提供するサービスを実施している。このケースでは、サービス&ソリューションを提供しているのは、タイヤの販売先(自動車メーカー)ではなく、高速道路の保守点検等を担っている㈱ネクスコ・エンジニアリング北海道である。同社が管轄する高速道路の大半は積雪寒冷地域を通るため、自動的に路面状態の判別ができるような技術を求めていた。巡回車を走らせて、経験豊富な熟練者が目視で路面状態を判断していたところを、㈱ブリヂストンの技術を用いることで路面状態をリアルタイムに把握し、凍結防止剤の散布を適量にコントロールすることも可能となった。

サービスやソリューションの提供は、どのようなバリューチェーンを構築するかというビジネスモデルが非常に重要になるが、そのためには、まずは世の中にどのようなニーズが存在するか、どのような使われ方をするだろうかという、後述するようなデザイン思考の考え方も重要になる。

モノハードの提供

直接の顧客 顧客の顧客 顧客

モノ(ハードウエア)の提供先と、サービスとソリューションの提供先は意外と離れていることも。

サービス&ソリューションの提供

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.1 サービス・ソリューションの展開

当社がつくっている製品にセンサーやIOTを組み合わせることで、故障や品切れを予め予測し、交換・修理・補充するだけでなく、ユーザーにおける設備の最適な組合せや配置、稼働を提案するといったコンサルティングをも提供することができ

る。ハードウェアのモノづくりから、保守点検・サポート・備品のサプライまで含めた、「トータルソリューション」に事業の基軸

を置く企業に進化しつつある。

これまで1社依存の下請けとして特定顧客のためだけに活用・蓄積してきた技術が、思い切って新規顧客を開拓し、異な

る業界とも取引を始めたことで、我々の技術やノウハウは少し見方を変えることで多くの顧客が抱える課題解決に役立ち、

それが新たなビジネスになることにようやく気づいた。立ち位置を変えることで見えてくることがたくさんある。

標準品をつくっているが、モノの売り切りではなく、定期保守・診断、メンテナンス・修理等のサービスが個別に発生するた

め、顧客とのコミュニケーションは継続的に発生している。これまで、保守・修理を通じて顧客とコミュニケーションする中で、

いろいろな問題提起を受け、それに対して個別対応を図ってきたが、そうした個別診断の情報を生かし、IoTで活用することで、顧客が自ら診断可能な機器を開発するに至った。顧客とつながり続けてきたことが、新たなビジネスの芽につながっ

た。これからは、ハードウェアとソフトウェアを融合したトータルソリューションの提供を目指していきたい。

当社は顧客の要望に応じて、ありとあらゆる金属部品をつくってきた。厳しいコストダウン要請の中でも利益を出せる体質

を構築し、安く良いものを作るノウハウを持っている。これを当社の優位性と捉え、ものづくりの課題解決事業、ソリューショ

ン事業を新たなビジネスモデルとした事業を立ち上げたいと考えた。新たにものづくりに参入しようとする会社は、大がかり

な初期投資せずに1つだけ、小ロットだけという試作づくりを求めている。また、小売流通業は差異化のためにプライベート

ブランドに力を入れており、企画から生産、納品までのものづくりのワンストップサービスを立ち上げれば、必ず需要はある

と感じた。

<インタビュー調査より>

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.2 システム思考・デザイン思考

近年、システム思考、デザイン思考という言葉が重用されるようになっている。デザイン思考とは使う側の立場から物事を考えることである。これまでは新らしいテクノロジーが誕生すると、「こういう使い方ができるのではないか」と、技術起点に考えがちであった。「この技術(発明)を必要としていませんか」と売り込んでも、なかなか技術移転が進まないことと同じである。ハードウエアから、サービスやソリューションに付加価値がシフトするに連れ、使う側の立場に立つデザイン思考の重要性が高まっている。

顧客価値を最大化するには、まず、先に来るのは「顧客が何を求めているか」であり、技術は後からついてくる時代となった。極端に言えば、必要な技術は外部調達すればよい、という考え方もできる。

日本でも、デザイン思考を取り入れた大学が増えつつある。東京大学の「i.school」はイノベーション人材の育成を目的に2009年に設立され、「イノベーション=技術革新」と捉えられてきた従来の解釈とは一線を画し、現実社会において解決が困難な問題やそれを取り巻く複雑な状況に直面した時に、創造的な課題を設定し、解決アイデアを創出するプロセスを主体的にデザイン出来るようになる教育を提供している。(以上、東京大学「i.school」ウェブサイトより)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科は、複雑に絡み合った大規模・複雑な諸問題を、全体統合的な視点から解決するために設立された大学院である。科学技術から国際問題にわたる、あらゆる大規模・複雑システムの問題を解決するための新しい全体統合型学問体系で、多様なバックグラウンドを持つ学生、教員、研究者が、文系・理系や年齢・国籍の壁を超え、新しいシステムのデザインに挑んでいる。(以上、慶應義塾大学のSDMウェブサイトより)

京都大学デザインスクールは、異なる分野の専門家との協働によって「社会のシステムやアーキテクチャ」をデザインできる博士人材の育成に取り組んでいる。そのために、情報学や工学の基礎研究を結集し、複雑化する問題を解決するための、新たなデザイン方法論を構築し、これによって、Cyber(情報学など)とPhysical(工学など)の専門家が、経営学、心理学、芸術系の専門家と協働し問題解決が行えるよう教育を行う。要するに専門家の共通言語としてデザイン学を教育し、社会を変革する専門家を育成しているが、こうした人材を、ジェネラリストを意味する「T字型人材」と対比させ、専門領域を超えて協働できる突出した専門家という意味を込めて「十字型人材」と呼び、本プログラムにより養成すべき人材像としている。(京都大学デザインスクールウェブサイトより)

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.2 システム思考・デザイン思考

製品企画段階からワークショップや派遣指導を通じて、企業に沿ったデジタル技術の使い方提案や現行方法との組み合

わせプロセス開発等、デザイン支援やコンサルティング業務を行っている。超上流から実際の試作まで一貫して支援して

おり、デザイン思考を実践している。

今はデザインといっても、プロダクトデザインよりも「場のデザイン」「人のデザイン(人の交流)」といった観点が重視される

ようになってきている。よって、従来型のエンジニアを変革し、事業部門や生活者と新しいサービスを考えることのできる人

材育成が必要だと考えている。

数年前からモノだけではなく、サービスも含めたデザインが重要だという認識が高まってきており、そのためにはユーザー

や生活者ともっと近いところでデザインする必要があると考えるようになった。そこで、エンジニアの拠点に様々な人と交流

するための共創の場を用意した。お客様と一緒になりながら、試行錯誤しつつ新しいものづくりに挑戦するための道場と位

置づけている。社内のシナジー効果も期待している。

<インタビュー調査より>

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.3 アジャイルな経営、異業種交流、プラットフォーム構築

顧客価値を最大化するための行動特性として、「アジャイルな経営」「異業種交流」「プラットフォーム構築(エコシステムの形成)」などが挙げられる。

「アジャイルな経営」はGEのファストワークスがよく知られている。「ファストワークス」は2012年からGEが導入した新たな製品開発プロセス手法で、文字通り「素早くつくる」ことを意味している。時間をかけてきっちり作り込むことよりも、リーンスタートアップでいち早くモノを市場に投入し、顧客の反応を見ながら作り上げていく手法で、航空機エンジンや大型タービンには似つかわしくない開発プロセスで話題を呼んだ。特にGEのファストワークスは、顧客の声を取り込むフェーズを導入するなど、顧客目線を重視していることが特徴。 「ファストワークス」の導入により、準備に時間をかけるよりも、まずは作ってみるというカルチャーが定着しつつある。

「異業種交流」は、顧客を含む多様なプレーヤーと交わることで、潜在的な顧客ニーズを汲み上げることができるといった、顧客起点に立ったものづくりの実践に有益である。経済産業省が推進しているIoT推進ラボでも多様な業種間でのマッチングが行われており、IoT時代は思いがけないパートナーとの出会いが新たなビジネスを生み出す契機となる。

「プラットフォーム」という言葉は多様な概念で用いられているが、ここではプラットフォーマーがデータを溜める仕組みをつくり、そこに溜められたデータを活用してサービスやソリューションを提供することを意図する。エコシステム形成のコアとなるものに該当する。これまで他社との協業には慎重であったファナック㈱は、IoT時代のプラットフォーム構築に向けて動き出している。その事例が、自社のCNC(コンピュータ数値制御装置)とロボットのみならず、既設機、他社製品、周辺デバイス、センサー等を接続して製造現場を最適化・知能化するためのプラットフォーム、FIELD system(FANUC Intelligent Edge Link & Drive system)を開発している。このFIELD systemの現在のパートナー数は300社ほどになるが、このような規模の大きいものばかりではなく、顧客への価値提供を目的とするものであれば、多種多様なレイヤーでのプラットフォームが存在する。たとえば、テラドローン㈱は、人間の視界範囲内における飛行を前提としているドローン(無人航空機)のさらなる産業利用を拡大するために、Unifly NV(ベルギー)と提携し、無人ドローンにおけるデータを集約し、無人ドローンの安全な飛行を支援するプラットフォーム化を志向している。

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.3 アジャイルな経営、異業種交流、プラットフォーム構築

従来はウォーターフォール型(ビジネス要件→システム要件→設計・実装)のプロセス開発であったが、これからはアジャイル型(情報収集・問題発見→アイデア創出→サービスの実装)の進め方が必要になる。

ハッカソンを積極的に展開し、顧客と共創できる環境をつくり、かつ、正式に作り込む前にモノをフィードバックして反応を確

認することを重視している。今の時代のものづくりは、いかの顧客と「共感」できるかが重要であり、共感を確認できる場づ

くりがとても重要だと認識している。

日本のものづくりはシリコンバレーに勝てないと言われるが、我々もスピーディに良い物を世の中に出していけるはず。そ

の仕組みをきちんとつくることができれば、日本のものづくりは負けていないと思う。

当社は、IoTやICTといった潮流からは乗り遅れている中小企業主体のレガシー産業を束ねて、彼らがワークシェアできるようなプラットフォームをどんどん立ち上げたい。単なるワークシェアのためのプラットフォームではなく、ビジネスモデル革

新を促すようなプラットフォームを目指している。

<インタビュー調査より>

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3.4 新たな市場をつくるルール形成

ダイキン工業のエアコンに代表されるように、海外(特に新興国)への足がかりをつくるため、積極的に現地

政府の制度づくりにコミットして、自国の製品を売り込

むためのルール形成の重要性が近年指摘されてい

る。ダイキンのエアコンは、圧倒的な省エネ・環境配

慮を前面に出し、環境規制づくりに取り組む現地政府

を「顧客」と見なし、顧客価値の最大化を自らの事業

拡大に結びつけた成功事例といえる。

同様に、日本の内視鏡は世界でも優れた医療機器として評価されているが、その市場拡大のため、東南ア

ジアを中心に「日本式内視鏡診療トレーニングシステ

ム」の普及を図っている。このトレーニングシステムは、

実技指導法に特徴がある育成カリキュラムと、日本製

機器/材料がパッケージとなっており、日本式内視鏡

診療トレーニングシステムが普及すればするほど、同

システムで育成された内視鏡医が増加し、その国の

医療に貢献できると同時に、医師の勤務する現地病

院に対する日本製医療機器/材料の市場拡大につ

なげている。

内視鏡普及のための事業スキーム

(出所)名古屋大学コンソーシアム「日本式内視鏡診療トレーニングシステム普及プロジェクト報告書」平成26年2月

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.5 ベンチャー企業、M&A、オープンイノベーション

顧客価値実現に向けた手段として「ベンチャー企業」、「M&A」、そして「オープンイノベーション」を挙げている。

「ベンチャー企業」は調査の背景でも取りあげたように、デジタル化が進展するにつれ、これまでにない存在感を示すようになっている。スピーディな市場の変化、めまぐるしく変わる顧客ニーズに機動的に対処するため、大手企業が自前主義を捨て、ビッグデータやAIといった先端技術を有するベンチャー企業との提携を重視するようになっている。

大手企業においても、新規事業を自社組織から切り離して社内ベンチャー制度で機動的に立ち上げたり、社内組織にとどめるにしても既存の制度やルールの適用を緩和するといった工夫で、ベンチャー的手法で新規事業を立ち上げようとする傾向が認められる。

最近の傾向としては、ベンチャーをM&Aで自社組織に取り込むよりも、有望なベンチャーに出資を行い、緩やかな提携関係を維持しつつ、機動的に新規事業を立ち上げるケースが増えている。ベンチャー企業の創造性や機動力を維持するためには、大手企業の組織の中に封じ込めるよりも、緩やかな提携関係と適度な緊張関係を持った方が適切との考え方もある。大手企業が自社の既存の制度やルールと切り離し、社内ベンチャー制度などを活用してベンチャー事業を立ち上げていることと同じ理由である。

「オープンイノベーション」は、文字通り自前主義からの脱却であり、ベンチャーとの提携ラッシュもこのオープンイノベーションの延長にあるといえる。

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.5 ベンチャー企業、M&A、オープンイノベーション

音声認識技術を軸に、自社の製品を連携させるのみならず、他社製品との連携にまで横展開することで、ユーザー・エクスペリエンスを意識した価値の創出・提供に力を入れている。

当社では、事業部門が直接外部の方とオープンイノベーションを進めるためのツールを用意している。事業部門のエンジニアなども、どんどん外部の人と交流し、視野を広げていく必要がある。会社がそうした環境を用意することで、イノベーターとなるべき人材の裾野が広がると考えている。

当社では、事業のミッシングピースを補うために、オープンイノベーションを推進してきた。外部と連携することで、自社ノウハウの流出等により競争優位が損なわれる懸念は一切ない。外部との連携がなければ、今日では事業は成り立たない。連携先とはバリューチェーン上の棲み分けが明確に出来ていることもあり、シナジーは期待できるが、当社が弱められるような懸念はない。

オープンイノベーションを成功に導くためには、外部の力量以上に、自社の目利き力が不可欠であると考えている。経営が必要だと感じても、現場の方が自前主義にこだわる。特に、社内には技術力はあっても、事業・ビジネスの感覚が不足しがちである。これまではボトムアップにオープンイノベーションを進めてきたが、もう少しシステマティックにオープンイノベーションを推進する方法を模索したいと考えている。

当社はカンパニー制を敷いており、他のカンパニーはまさに別会社のようなもので、これまでは接点がほとんどなかった。さらに、同じ会社であっても他事業部の人間には技術情報を開示するのを嫌がる傾向があった。しかし最近では、オープンイノベーションに取り組む他の部門と、定期的に情報交換の機会を設けており、プロジェクトを一緒に行うことも増えている。組織的にオープンイノベーションに取り組むようになった結果、社内のシナジー効果で新しいソリューション・新しい事業が生まれる可能性が芽生えている。オープンイノベーションを機に、外部に公開できる情報を改めて整理・線引きしたことで、腹の探り合いの必要がなくなり、連携がしやすくなった。

<インタビュー調査より>

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Ⅳ.念頭におくべき潮流と失ってはいけない強み

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41 Mitsubishi UFJ Research and Consulting (出所)「ブロックチェーン、シェアリングエコノミーを活用した新たな産業社会に向けて」経済産業省 産業構造審議会 情報経済小委員会

分散戦略WG(第4回)事務局資料(平成28年6月3日)

3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.6 シェアリングエコノミー

シェアリングエコノミーについては政府の審議会等でも様々な議論が展開されており、シェアする対象はモノ、空間、時間、人のスキルなど、様々な可能性がある。

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42 Mitsubishi UFJ Research and Consulting (出所)「ブロックチェーン、シェアリングエコノミーを活用した新たな産業社会に向けて」経済産業省 産業構造審議会 情報経済小委員会

分散戦略WG(第4回)事務局資料(平成28年6月3日)

3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.6 シェアリングエコノミー

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43 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.7 働き方改革、間接部門の生産性向上

IoTの進展はシェアリングエコノミーへの移行を促している。シェアリングエコノミーとは、「モノ」「時間」「空間」などを保有することよりもシェアすることに価値を生み出す産業社会といえるが、これは人々の働き方にも大きな影響を及ぼす。

まず、物理的な制約から解き放たれ、時間をシェアするような働き方が可能となる。女性やシニアの雇用促進、要介護者を抱えた社員などへの対応として、在宅勤務や短時間勤務などを導入する企業が増えてきた。そして、近年は兼業や副業を認める企業も出てきている。これは、顧客価値最大化を図るには、社員にも幅広い経験をさせた方がメリットがあるという考え方に加えて、能力のある社員をつなぎ止めておくための手段にもなりつつある。シェアリングエコノミーの進展は、一つの企業に就職して働き続けるというよりは、複数の企業で専門性を生かして働くワークスタイルというものを定着させていく可能性もある。

一方、日本の製造業は工場の生産性を極限まで高めてきたのに対して、間接部門の生産性は置き去りにされてきた感があるが、近年になって、この間接部門の生産性向上に着目した各種ツールが開発されるようになってきた。その1つに、RPAテクノロジーズ㈱が開発したホワイトカラーの生産性を革新するソフトウェアロボット“BizRobo!”がある。同社は現在、保険業界、流通・小売業界など幅広い業界で100社を超える企業に4000体以上のロボットを提供している。人では1日かかるようなルーチンワークをミスなく5分で終えることができるなど、ルーチン労働の削減に大きな効果を生み出している。同社の社名にもなっているRPA(Robotic Process Automation)とは、より高度な作業を人間に代わって実施できる認知技術(ルールエンジン、AI、機械学習等)を活用した業務を代行・代替する取り組みで、仮想知的労働者(Digital Labor)とも言われている。

なお、バイオテクノロジーの専門家からは、一般的なバイオ分野の研究生産性の低さも指摘されている。技術と経験を暗黙知的に個人が持ち、囲い込んでいるため、技術移転や再現性が低いことにある。間接部門のみならず、研究分野の生産性向上も待ったなしの課題となっている。

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.7 働き方改革、間接部門の生産性向上

当社は「働き方改革「ダイバーシティ経営」」でもフロントランナーといえる企業である。ワーキングマザーの実態を男性管

理職が自らが実感することが重要だとして、体験男性管理職にも短時間勤務や育児休業の取得を働きかけている。

国内での生き残りを図るため、60歳以上のシニアのパート活用を始めたが、今ではシニアの大半が平日フルタイムで働き、年齢性別を超えた適材適所がなされている。シニアが活躍するようになったことで、超ベテランから若手への技能伝承も

円滑化している。

日本が強みとしている製造業の現場を観察すると、人間と製造機器の間にFA(ファクトリーオートメーション)が存在する三層構造を形成している。FAというレイヤーは人間の作業を代行させるレイヤーである。FAはブルーカラーの工員の作業を代行させ、リードタイムを短縮し、コストダウンを可能にした。このFAによる生産性の向上は日本の製造業の競争力を根底から支えてきたといっても過言ではなく、日本の経済成長の源泉ともいえる。一方で、産業の競争力を支えるホワイトカ

ラーの業務では現在労働者とITが活用される2層構造になっている。しかし、人間はミスをしやすく、ITツールは柔軟性・スピード・費用のいずれかの面で課題が発生することが一般的である。そのため、マンパワーをかけて何とかするといったア

プローチに陥りがちになり、結果生産性の向上が阻まれている。間接部門をきちんと分析し、2層構造から3層構造へと捉

え直してみると、人間がやる必要のない仕事に時間をとられていることがわかる。

米国は多様な人種がいるので、ルールの標準化が前提で、個々の属人性を許さないところがある。 日本は現場に知恵が

あるが、良い意味でも、悪い意味でも、とても属人的で、生産性に問題を生じさせてしまう。この属人的なところを見える化

できれば、日本の持つ“現場力”を形にして直接利益に結びつけることも可能となる。特に間接部門はつかずな状態なの

で、もっと間接部門の生産性向上に取り組むことで、日本が経済成長できる余地は大きいといえる。

米国も欧州もロボットは人の仕事を奪うという前提がある。他方、日本はつくったロボットと協働していこうという発想を持つ。

間接部門の生産性向上ロボットと一緒に働くスキルをつけていくというのが、銀行も保険会社もこの5年で起こっていること。

技術と経験をロボットに移転し、技術と経験が可視化でき、暗黙知を排除する仕組みをつくろうとしている。

<インタビュー調査より>

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3.8 強い現場の維持・向上

「強い現場」とは、生かすべき日本の特長でもあり、デジタル化が進む中においても、我が国が失ってはいけない特長といえる。

ハードウエアからサービスやソリューションへと付加価値が移行したからといって、現場力が不要となるわけでは決してない。むしろ、柔軟な個別対応が求められ、在庫がきかないサービスやソリューションの提供を行うには、より現場力が求められるようになるだろう。デザイン思考やアジャイル経営においても、現場力の重要性はむしろ高まっていく。

ただし、IoT時代の現場力とは、これまでと同じように暗黙知やノウハウを属人的なものにとどめておくようでは、強みとして生かし切れない。ものづくりのプロセスも含めてデジタル化していく中、まずは現場の暗黙知をデジタル化して活用できるようにすることが現場力向上にとって必要不可欠となっている。

当社はセンサー画像で熟練工の技術力の再現に取り組み、若手が熟練工の能力をいち早く取得する仕組みを開発している。

生産設備にタブレットを取り付け、そこから吸い上げたデータを活用して3Dで作業の様子を再現し、設備の無駄な動きを減らすとともに、設備からデータを取得し、データを共有して活用できる仕組みをづくりを行っている。日本の現場には匠が多く、日本でノウハウを全世界の工場で共有することも可能となる。

我々の業界は暗黙知が重視されてきており、形式知化しにくいノウハウが存在することも事実。しかし、今は今の時代のやり方があるので、オールドスタイルの方式をデジタル化していきたい。人がやる必要がないこともまだまだあり、IT等で代替すべきと考えている。現在、極限まで考え続けていくことが求められているが、重大なトラブルも、人に頼るのではなく、IT等を使って技術的に予防することが重要である。

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3. 顧客価値の最大化に向けてものづくり企業が目指すべき方向性

3.8 強い現場の維持・向上

現在、「RFID生産監視システム」を導入し、IoTを活用した高効率生産モデルを確立して、生産リードタイムの50%短縮を実現させた。

同社は社員のことを「人材」ではなく「人財」と表現し、あえて社外でも通用する人財育成に努めている。具体的には、国家試験の有資格者の社員が講師となり、国家試験に合格するまで徹底してフォローする。社員のみならず、同社の協力会社の人材育成もサポートしている。

若手への技術指導の専門員として、シニア人材を中心にした高度な熟練技能者を認定する社内制度を新設した。現在、160~170人のエキスパートが認定され、各部門のユニット単位に配置され、現場での実地指導や座学教育などを行っている。このエキスパートには、当社を退職したOB人材や50代の若い人材も含まれている。

新しい技術を使いこなしていくとそれが徐々に文化になるが、導入時に苦労した経験がないと、本質的な理解が十分に深まらない。今後は、そういった過去の苦労や失敗を含めて、うまく伝えていく必要がある。

生産性向上のためにITやデータ解析等のツールを活用することは必要であるが、そこから考えて、新たなものを作ることは、人間の介在なしにはできないことだと考えている。新しいものを想像するのは引き続き人間の役割であり、ITやデータ解析等のツールを開発するのは人間である。開発する人間が、根底を理解して、ツールで何がしたいのかを深く考えていないと、良いツールはできない。

<インタビュー調査より>