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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9 1 リーダーシップ (Leadership) 1 目標 ① 集団における2つのリーダーシップの 機能(働き)を理解する。 ② リーダーシップ理論を理解する。 ☆ Key Words リーダーとフォロワー、 2 重要な用語の定義 ☆集団 (group) ☆リーダー(leader) 集団目標を達成するために集団活動を調 整し、監督する個人 ☆フォロワー(follower) 集団内のリーダー以外の成員(メンバー) 3 4 ☆リーダーシップ(leadership) プ研究の流れ プ研究の流れ 1. リーダーシップ特性論 2. リーダーシップ行動 3. (状況を考慮した)リーダーシップ理論 4. カリスマ的・変革型リーダーシップ 5 (1)リーダーシップ特性 どのような要因が人を有能なリー ダーにするのか? リーダーとなる人には、何か特別な 特性が備わっているのか? 6

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

1

リーダーシップ (Leadership)

1

☆ 目標

① 集団における2つのリーダーシップの

機能(働き)を理解する。

② リーダーシップ理論を理解する。

☆ Key Words

リーダーとフォロワー、

2

重要な用語の定義

☆集団 (group)

☆リーダー(leader)

集団目標を達成するために集団活動を調整し、監督する個人

☆フォロワー(follower)

集団内のリーダー以外の成員(メンバー)

3 4

☆リーダーシップ(leadership)

リ ダ シ プ研究の流れ• リーダーシップ研究の流れ

1. リーダーシップ特性論

2. リーダーシップ行動

3. (状況を考慮した)リーダーシップ理論

4. カリスマ的・変革型リーダーシップ

5

(1)リーダーシップ特性

• どのような要因が人を有能なリーダーにするのか?

• リーダーとなる人には、何か特別な特性が備わっているのか?

6

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

2

• 初期の研究

リーダーとフォロワーに一連のパーソナリティ・テストを実施し、どのような特性が両者を区別できるかを明らかにしようとした。

• グレイト・パーソン理論

効果的なリ ダ の特性は 状況を越えた効果的なリーダーの特性は、状況を越えた普遍的なものである。

• リーダーがフォロワーよりも得点の高い特性 (Stogdill, 1974)

7

• 例)いくつかの研究では、リーダーはフォロワーよりも知能が高いという結果を得た。

– 知能(intelligence): 

(言語、記憶、計算、推理、空間理解など)。

• 知能とリーダーシップ効果性との相関は、平均0.25であり、関連があると言っても関連度はあまり高くない。

一般的な特性でリーダーとフォロワーを区別するのは限界があるようである。

8

(2) リーダーシップ行動の次元

• リーダーは実際にどのようなことを行っているのであろうか?

• Stogdill & Coons (1957)によるLBDQ (Leader Behavior Description Question‐naire)の作成

– 9個の下位尺度(130項目)にしたがって、

フォロワーが自分のリーダーを評定する形式の質問紙。

9

• Halpin & Winer (1957)

– B‐50爆撃機の乗組員300人が、各自のリーダー52人を評定した。

– 評定結果に基づいて130項目を分類し(因子分析)、以下の2因子を抽出した。

• 配慮(consideration, 集団維持機能)

• 構造化(initiating structure, 課題遂行機能)

10

蜂屋(1999)

11

a. 集団維持機能

• 換言すれば、リーダーがメンバーの欲求をよく理解し それに基づいて行動することをよく理解し、それに基づいて行動すること。– Aをよく理解することができる。

– Aは友好的で親しみやすい。

– Aはメンバーの意見を聞くための時間を割いてくれる。

– Aはすべてのメンバーを自分と同等のものとして接している。

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3

b. 課題遂行機能•

• 言い換えれば、自分とメンバーの関係を目標達成へ向けて形作ることを目標達成へ向けて形作ること。– Aはメンバーに特定の課題を割り当てる。

– Aはメンバーに所定の手続きに従ったかどうかを尋ねる。

– Aは集団内における自分の役割をメンバーが理解しているかどうかを確かめる。

13

• ほかの研究でも、同じような2次元が見出されている。

• Bales (1953)

– 課題指向-集団目標の達成へ向けて活動すること。

– 社会的情緒指向-集団メンバーのモラール(士気)や凝集性を高めること。

• どのような集団においても、リーダーシップには2種類の機能(次元)がある。

14

【参考】 Yukl (1989)

リーダーシップ機能を4分類することを提案

1. 

作業に関する問題の発見と原因究明

作業効率の改善

意思決定への参加の促進など意思決定への参加の促進など。

2. 

情動・価値観・論理性に訴えてメンバーの作業に対する情熱を高める。

貢献度に応じた報賞の提供など。

15

3. 

メンバーに親しく接して、共感を示したり助言を与えたりする。

仕事以外のつきあいを通じて情報収集の経路をつくる。

集団内の葛藤を解決するなど。

4. 

作業に必要な情報の提供

作業の役割分担と作業方法の指示

作業状況や結果に関する情報収集など。

16

淵上(2002)

17

• しかし、両機能は背反的である。

– 集団維持機能→ メンバー間の を強調する側面。

– 課題遂行機能→ メンバー間の を強調する側面。

↓↓

– リーダーにとって両次元をうまく組み合わせていくことは、努力を要することである。

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

4

• 例) Greenfield & Andrews (1961)

– 両次元で高得点の教師に教えられた生徒の成績 > そうでない教師に教えられた生徒

• 三隅(1986)のPM理論

– フォロワーの評定に基づいてリーダーシップ・スタイルを4種類に分類した。スタイルを4種類に分類した。

– リーダーシップ・スタイルとリーダーシップ効果性(集団業績、メンバーの満足度)との関連性

(P > p, M > m)

理想型 人情型 専制型 放任型

P:                            ,   M:

19

pM PM

• PM理論における4つのリーダーシップ・スタイル

pm Pm

20

21

永田(1965)

22

• Schneider(1973)– LBDQのように、フォロワーにリーダー行動を

評定させる方法は、フォロワーのリーダーに対する暗黙の見方、リーダーとはこういう人物に違いないという先入観が反映されているに過ぎない。

• リーダーが実際に示している行動を捉えることにはならない。

– しかし、リーダーの行動を客観的に測定する尺度もないので、フォロワーに評定させる方法が最善ではないが、次善の策と してよく使われる。

23

• 暗黙のリーダーシップ仮説が活性化される状況 金城(1993)

な場合は、リーダーシップ行動の過大評価、過小評価が生じやすい。

(Meindl, 1990, 1995)

組織内のメンバーや組織外の観察者は、当該組織の業績の向上や低下の原因を、メンバーの動機づけ、集団内の対人関係、集団の置かれている環境(例えば、景気)よりも高地位者のリーダーシップに帰属する傾向がある。

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

5

• リーダーシップ

の(Den Hortag et al. 1999)

25

(3) 状況を考慮したリーダーシップ理論

• リーダーシップ行動に注目してリーダーシップを明らかにすることに限界を感じた研究者は リ ダ 置かれ る状況研究者は、リーダーの置かれている状況を考慮したモデルの作成を試みるようになった。

• リーダーの置かれている状況をどのように捉えるか?

26

Hersey & Blanchard (1982)

PM理論にメンバーの

成熟度(能力 経験成熟度(能力、経験、動機づけ、自信、意志など)を加味したモデル。

27

② Contingency Model Fiedler (1978)

• リーダーのパーソナリティー

種々の状況において、特定の行動を促すような基本的な欲求構造

– LPC(least preferred coworker)尺度で測定する。

今までに一緒に仕事をした人の中から、最も一緒に仕事をするのがやりづらかった人(LPC)を1人思い浮かべ、その人がどのような人であったかを18個の形容詞対(8点尺度)にしたがって評定する。

– LPC得点(範囲:18~144)は、LPCに対するリーダーの情動的な反応を示している。

(Fiedler, 1972) 28

29

a.  低LPC得点者(18‐56):

a. このリーダーにとって、集団の目標を達成することが重要であり、それを妨害するような人(LPC)はネガティブな存在となる。

b 高LPC得点者(63‐144):b. 高LPC得点者(63‐144):

このリーダーにとって集団内の人間関係が重要であり、メンバーの課題遂行量が低くてもあまり脅威とはならず、LPCをネガティブに評価することもない。

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

6

① リーダー・メンバー関係の良好性

(良・悪)

【具体的な質問項目】【具体的な質問項目】

– 私の部下を信用し、信頼することができる。

– 私の部下は、仕事をするに当たり、非常によく私をサポートしてくれる。

– 私の部下は、互いによく協力し合って仕事をしている。

31

② 課題の構造化の程度 (高・低)–

– 構造化: 目標や課題遂行手順の明確性、意思決定事項の正確さ、課題遂行の良否判断の容易性など

例) お面の製作と創造性テスト例) お面の製作と創造性テスト

【具体的な質問項目】

– 完成品を示すモデル、絵、詳しく記述したものなどがあるか。

– 完成品や作業手順について説明や助言をしてくれる人はいるか。

– 作業が終了したとすぐに判断できるか。

32

③ リーダーの地位に基づいた影響力(大・小)

【具体的な質問項目】

– リーダーは部下に賞や罰を与えることができるかか。

– リーダーは部下に仕事を割り当てたり、その手順を教えるのに必要な知識を持っているか。

– 部下の仕事のでき具合を評価するのは、リーダーか。

33

• 人間関係、構造化、影響力の要因に重みづけをしている。

関係 : 構造 : 影響 =

3つの状況要因を組み合わせて 全部で• 3つの状況要因を組み合わせて、全部で8つの状況(オクタント)に分類している。

(a) リーダーに有利な状況:

(b) リーダーに不利な状況: オクタントⅦ・Ⅷ

34

35

• LPC得点によって最適な状況が異なる。

– 低LPC得点者→

– 高LPC得点者→(a), (b)の中間の状況(リーダー

にとってやりやすくもやりにくくもない状況。オクタントⅣ~Ⅵ)が適している。

• すべての状況で効果的なリーダーは存在しない。

– もしある状況においてリーダーが効果的でなければ、 (リーダーのパーソナリティーを変えるのはむずかしい)。

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

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(4) カリスマ的・変革型リーダーシップ

• リーダーが組織に対して持っていると思われる強力な影響力に対する関心

→ カリスマ的リーダーシップ研究

① M. Weber (1924, 1947)

「社会的および経済的組織の理論」

リーダーの権威をもたらす正統性の3つの基盤

37

a. 合理的根拠: 一連の規則に基づくもの

b. 伝統的根拠: 社会的秩序の神聖さや永久性に基づくもの(王、聖職者など)

c. カリスマ的権威:

カリスマ=才能(ギリシャ語)カリスマ=才能(ギリシャ語)

超自然的な権威によって選ばれた存在であり、神聖さと英雄性、模範となる特質を持ち合わせているとフォロワーから認知される。

• その目標は道徳的に絶対必要なものであり、変革の力となる。

38

(例)

• Mahatma Gandhi (1869-1948)

インドの宗教的政治的指導者

非暴力による抵抗、インドの独立

• Franklin Roosevelt (1882-1945)Franklin Roosevelt (1882 1945)

第32代アメリカ大統領

大恐慌におけるニュー・ディール政策

• Martin Luther King, Jr. (1929-1968)

黒人運動指導者・牧師

黒人の公民権獲得運動39

② House (1976)のカリスマ的リーダーシップ

• カリスマ的リーダーシップの個人的特性

• 行動パタン

a. 役割モデリング(role modeling): 率先垂範。重要な価値観、信念への自我関与を公然と示す。

b. イメージ形成(image building): 天賦の才をもつことをフォロワーに認知させる。

c. フォロワーに対する高い期待: 彼らならば難しい目標を達成できるという信頼を示す。

• フォロワーの反応

並外れたレベルの献身、リーダーへの同一視、競争40

③ Conger & Kanungo (1987)のカリスマ的リーダーシップ・モデル

• リーダーのカリスマ性はフォロワーによって認知されているものである。

→ 何がそのような認知をもたらしているのか?

• カリスマ的リーダーシップのパーソナル・パワー

・ 急進的な変化を伴った企業家的主張

41 42

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

8

④ Bass (1985)の変革型リーダーシップ理論

多次元リーダーシップ尺度(Multiple LeadershipQuesitonnaire; Bass & Avolio, 1990)

a. 変革型リーダーシップ因子

• : フォロワーがリーダーを信頼し、リーダーならば重要なビジョンを達成できると認知ダ ならば重要なビジョンを達成できると認知すること。

• 動機付けの鼓舞:リーダーのビジョンに情緒的アピール力があること。

• : 過去のやり方に疑問を持つことを奨励し、創造的な思考することをリーダーが支援すること。

• 個性発揮の配慮: 公正的な対応をすること。43

b.

• 報酬随伴性

• 例外管理: 事態が間違った方向へ向かった場合にリーダーが介入すること。

c. 非リーダーシップ因子

• 放任性: リーダーの介入拒否や決定 行動が遅放任性: リ ダ の介入拒否や決定、行動が遅れること。

• リーダーの行動は部下の満足度と業績に影響し、変革型因子はより強くこれらの変数と関連していることが見出された。

44

•カリスマ的リーダーシップに関連する、新しいリー

ダーシップ像。

– リーダーのもつカリスマ性、メンバーに対する配慮、メンバーに対する知的刺激が重視される。

– リーダーは各メンバーの自己実現に働きかけるような形で、集団目標の達成がメンバーにとって意味のあることを強調し、リーダーが期待する以上の作業をメンバーが行えるよう導く。

45

【参考】 Maslow (1954)の欲求階層説

自己実現欲求 (理想の現実化)

自尊欲求 (価値ある人間として認められたい)

所属と愛情の欲求(他者との満足な人間関係)

安全の欲求 (危険から身を守りたい)

生理的欲求 (飢え、渇きをいやしたい)

– 下部の欲求が満たされて、上部の欲求が生じてくる。

46

⑥ カリスマ的リーダーシップの道徳性、倫理性の問題

• Adolf Hitler (1889-1945)

ドイツの政治家。第3帝国を確立

• Jim Jones (1931-1978)

カルト指導者 人民寺院のメシアカルト指導者。人民寺院のメシア。

ガイアナで集団自殺。

リーダーがフォロワーの意思を自分の願望にすりかえるパワーをもっている場合、善と同様に悪も創造されうる。

フォロワーを破滅へと導く可能性も秘めている。

47

(5) その他の知見

フォロワーの自主性、自律性を重視する考え方

組織メンバーが自分自身の意志で組織を創造しているプロセスの中にいると認知すること(Block, 1987)

・ をもつメンバーの特徴 (淵上, 1995)

a. 自分には影響力があると信じ、自分の考えや感情に価値があると認識している。

b. 正しいと思うことを行動する勇気を持っている。

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リーダーシップ (Y. Imai.) 2010/3/9

9

(続き)

c. 自分の考えや感情を他者に進んで表明する。

d.

e 他者を支援するe. 他者を支援する。

f. 他者から学ぶべきことを学ぶ。

g.

49

(Manz & Sims, 

1980; Manz, 1989)

フォロワーが

自分で目標を

設定し、自分に

働きかけ、自分

自身に賞罰を

与えるプロセス。

50

これで、終わりです…。

• この授業を通じて「心理学」に興味をもつようになってもらえれば幸いです。

• 最後に、皆さんの

後輩たちのために

この授業に関する

アンケートにご協力

下さい。

51