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―  ― 169 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年) 注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児を対象に、言語指導場面における内発的動 機づけとそれに関与する心理的欲求の変化、およびこれらに影響を与える要因について検討した。 その結果、注意欠陥/多動性障害疑い児では、外的報酬を目標に自分主導で課題を行う場面が多く、 課題を最後までやり遂げることが少なかったため、課題を達成して嬉しい気持ちを基礎とした有能 感や内生的動機づけが発達しにくかった。これには、母親のフィードバックや働きかけに感情豊か な関わり、励まし、叱責などが少ないことが影響していると考えられたが、子どもの方からも母親 を見たり、注目しないといった問題があった。また、不注意、衝動性といった行動特徴がフィードバッ ク情報の受容のしにくさ、達成経験や成功経験の少なさ、不得意な課題への挑戦心の育ちにくさに 影響しており、これらの認知特性に配慮した指導方法の検討が必要であると考えられた。 キーワード:注意欠陥/多動性障害、聴覚障害児、幼児期、内発的動機づけ、言語指導 Ⅰ.問題と目的 先天性の聴覚障害幼児の言語・聴取能力の発達には、教育やリハビリテーション、養育者の関わり・ 態度といった環境的要因や子どもの心理・社会面の発達などの個体的要因が大きく影響している。 近年、難聴診断が早期化し、より早い時期からの対応や取り組みが必要になったことに伴い、前言 語期からの母子コミュニケーションに焦点をあてた研究(Blennerhassett,1984;田中,2003)や母 親の養育態度についての研究(草山,1994;入江・宇田川,1999)が重視されるようになった。これは、 子どもの言語が意味性のある他者(主に母親)との関わりの中で培われていくものであり、養育者と の関わりの中で子どもは言語的・非言語的な情報を積極的にとり入れて自分自身の表現を生み出し、 主体的・能動的にことばを学習すると考えられているからである。 このような主体的・能動的な活動を生起させる生得的な心理過程は内発的動機づけと呼ばれてい るが、これまでの聴覚障害児の言語指導研究では言語理解や音声表出に偏った研究が行われてきた 傾向があり(Robbins,Svirsky,&Kirk,1997)、コミュニケーション能力や母子関係に加え、子ど もの心理・社会面も含めて言語能力を総合的に捉えた実践的研究が十分行われてきたとは言えない。 教育学研究科 博士課程後期 ** 教育学研究科 教授 注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の 言語指導場面における内発的動機づけの変化 森   つくり *  川 住 隆 一 **

注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼 …¼‰や質問紙(Hayamizu, Ito, & Yoshizaki,1989)による調査を実施したり、実験的な課題場面を設

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Page 1: 注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼 …¼‰や質問紙(Hayamizu, Ito, & Yoshizaki,1989)による調査を実施したり、実験的な課題場面を設

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

 注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児を対象に、言語指導場面における内発的動

機づけとそれに関与する心理的欲求の変化、およびこれらに影響を与える要因について検討した。

その結果、注意欠陥/多動性障害疑い児では、外的報酬を目標に自分主導で課題を行う場面が多く、

課題を最後までやり遂げることが少なかったため、課題を達成して嬉しい気持ちを基礎とした有能

感や内生的動機づけが発達しにくかった。これには、母親のフィードバックや働きかけに感情豊か

な関わり、励まし、叱責などが少ないことが影響していると考えられたが、子どもの方からも母親

を見たり、注目しないといった問題があった。また、不注意、衝動性といった行動特徴がフィードバッ

ク情報の受容のしにくさ、達成経験や成功経験の少なさ、不得意な課題への挑戦心の育ちにくさに

影響しており、これらの認知特性に配慮した指導方法の検討が必要であると考えられた。

キーワード:注意欠陥/多動性障害、聴覚障害児、幼児期、内発的動機づけ、言語指導

Ⅰ.問題と目的 先天性の聴覚障害幼児の言語・聴取能力の発達には、教育やリハビリテーション、養育者の関わり・

態度といった環境的要因や子どもの心理・社会面の発達などの個体的要因が大きく影響している。

近年、難聴診断が早期化し、より早い時期からの対応や取り組みが必要になったことに伴い、前言

語期からの母子コミュニケーションに焦点をあてた研究(Blennerhassett,1984;田中,2003)や母

親の養育態度についての研究(草山,1994;入江・宇田川,1999)が重視されるようになった。これは、

子どもの言語が意味性のある他者(主に母親)との関わりの中で培われていくものであり、養育者と

の関わりの中で子どもは言語的・非言語的な情報を積極的にとり入れて自分自身の表現を生み出し、

主体的・能動的にことばを学習すると考えられているからである。

 このような主体的・能動的な活動を生起させる生得的な心理過程は内発的動機づけと呼ばれてい

るが、これまでの聴覚障害児の言語指導研究では言語理解や音声表出に偏った研究が行われてきた

傾向があり(Robbins,Svirsky,&�Kirk,1997)、コミュニケーション能力や母子関係に加え、子ど

もの心理・社会面も含めて言語能力を総合的に捉えた実践的研究が十分行われてきたとは言えない。

  *教育学研究科 博士課程後期 **教育学研究科 教授

注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

森   つくり* 

川 住 隆 一**

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

このような観点から、筆者は、学習(言語指導)場面における聴覚障害幼児の学習への動機づけに着

目し、内発的動機づけと言語・コミュニケーション能力との間には何らかの関連があり、聴覚活用

や言語獲得指導とともに内発的動機づけを促すことも言語指導の目標の1つであると指摘した(森,

2004)。清水・西村・福島(1978)も、「聴覚障害児の言語指導を狭い意味での言語訓練とみなさず、

表現・伝達活動を通して主体的に記号形成するものである」と指摘し、「言語指導が効果をあげるの

は子ども自身に内発する自己学習の過程があるからである」と述べている。これは、学習場面にお

ける内発的動機づけの重要性を指摘したものであると考えられる。

 幼児を対象とした内発的動機づけの研究では、White(1959)がコンピテンス、すなわち、有能感(能

力を発揮したいという心的状況)が内発的動機づけの構成要素であると述べている。Deci�&�Ryan

(2002)は有能感に加え、自己決定感(行為を自ら決めて起こしたいという心的状況)、交流感(他者

やコミュニティに関わりたいという心的状況)という心理的欲求をあげ、これらが満たされる条件

のもとで人は意欲的になると述べ、これらの心理的欲求が内発的動機づけの源であるとしている。

また、Harter(1978)はコンピテンス動機づけの発達モデルにおいて、内発的動機づけを高める過

程には、適度に挑戦的な課題への成功が内的な喜びを生んで内発的動機づけを高める過程と親や大

人からの影響による過程という二つの過程があるが、年少児には親や大人からの影響(社会的強化)

が重要であると述べている。

 しかし、これまでの幼児を対象とした動機づけ研究では、聴覚障害幼児を対象とした研究はあま

り行われていない。これは、動機づけ研究の中で幼児を対象とした研究そのものが少なく、幼児の

動機づけが社会的に重要視されてこなかったこと(高崎,2003)に加え、言語発達に遅れがあり会話

能力が十分に発達していない聴覚障害幼児に従来用いられているインタビュー(Smiley�&�Dweck,

1994)や質問紙(Hayamizu,�Ito,�&�Yoshizaki,1989)による調査を実施したり、実験的な課題場面を設

定して動機づけを測定することが難しいといった研究方法上の問題があるためであると考えられ

る。そこで、先行研究(森・熊井・川住,2008)において、聴覚障害幼児2名を対象に、言語指導場面

における内発的動機づけとそれに関与する心理的欲求(交流感、有能感、自己決定感)の発達変化、

およびこれらに影響を与えている要因の検討を行い、交流感を基礎に内生的動機づけとそれに関与

する有能感が増加し、その後、自己決定感がみられるようになるとともに内発的動機づけが増加す

ること、母親からの感情的なフィードバックや「励まし」「叱責」等の働きかけが有能感や自己決定

感に影響を与えることを指摘した。

 一方、注意欠陥/多動性障害を合併した聴覚障害幼児の場合も、聴覚活用や言語獲得のための指

導を早期から継続的に受けているため、学習や課題を遂行する場面に幼児期から遭遇する機会が多

い。そのため、幼児期の言語指導場面における学習への内発的動機づけの発達変化や内発的動機づ

けに影響を与える要因を検討することは、聴覚障害のみの幼児と同様に子どもの主体的な言語活動

を促し、言語指導をより効果的に進めていくためには重要である。

 注意欠陥/多動性障害児の動機づけについては、注意欠陥/多動性障害を動機づけの障害と捉え

る見方もある(Parry�&�Douglas,1983)。Glow�&�Glow(1979)は、「注意欠陥/多動性障害児は注

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

意の持続に必要なフィードバック・システムにも発達の遅れがあり、行動した結果についてのフィー

ドバック情報が十分に受けられない。そのため、自分が努力したことと外界の変化との関係が捉え

られず、無力感を感じるとともに、行動の遂行でいろいろな問題を生じる」と述べている。しかし、

行動をうまくコントロールできない問題を本人の「やる気のなさ」にのみ関連づけて考えることは

難しく、動機づけの障害が注意欠陥/多動性障害の全体像を捉えたものであるとは言い難い(近藤,

2002)。

 Barkley(1997)は、行動抑制を基礎にして形成される4つの実行機能の障害のひとつとして、情動・

動機づけ・覚醒の自己調節がうまくできないことをあげている。このうち、動機づけの自己調整は、

外的な報酬が存在しない状態でも動機づけのレベルを自ら維持する過程を指し、動機づけの自己調

整がうまくできない注意欠陥/多動性障害児では、「根気がいることでも自分で頑張る」といったこ

とがうまくできないことを意味する。Barkley のハイブリッド・モデル(1997)をもとに注意欠陥/

多動性障害に関するモデルを提案している近藤(2002)、田中(2009)も、動機づけの自己制御に問題

があることを指摘しており、動機づけの障害はワーキングメモリ、再構成といった実行機能の障害

とともに、注意欠陥/多動性障害児の行動上の問題に影響を与える一要因であると考えられる。

 また、動機づけに関与する心理的欲求である有能感(コンピテンス)が自尊感情と類似する概念で

あるという指摘があり(一門・住尾・安部,2008)、注意欠陥/多動性障害児では、「自信を持つこと

が難しく、自己受容もしにくい」といったように自尊感情が低いことが指摘されている(松本・山崎,

2007;中山・田中,2008)。これは、発達過程におけるさまざまな失敗や叱責の悪循環から生じる二

次的な問題であると言われている(田中・毛利,1995)が、このような自尊感情の低さや自信のなさ、

有能感の持ちにくさが学習活動への消極的な取り組みや新たな学習体験を避けたり拒否してしまう

ことにつながっているのである(井上,1999)。これに対し、直接的な学業指導よりも、まず、学業

不適応感を軽減し、動機づけを高めていくことを優先するといった指導によって、学習に対する達

成感を取り戻させ、自己評価を効果的に高めたといった教育・臨床現場での実践的な研究が行われ、

そのための指導や対応についての提案も行われている(星野・増子・橋本・山本,1994;飯田,1997;

加戸・眞田・渡邊・中野・荻野・岡・大塚,2007;鈴木・中野,2002)。

 しかし、これらの臨床的な検討はほとんどが学童期における実践であり、幼児を対象としたもの

ではない。これは、ホロエンコ(2002)が「注意欠陥/多動性障害児は、学校に入ると注意力や集中

力の困難性が次第に明らかになる。学習面での困難性に加え、交友関係もうまくいかず、その結果、

自尊心が低くなる」と指摘しているように、学童期において学習場面や集団場面で自尊感情を持ち

にくく、二次的障害を起こすことが多くなるからであると考えられる。また、注意欠陥/多動性障

害の行動上の問題がある場合でも、幼児期には学習場面や課題遂行を求められる場面に遭遇する機

会が少なく、学習への動機づけが問題として挙げられることがあまりないためであると考えられる。

さらに、注意欠陥/多動性障害を合併した聴覚障害幼児の場合には、幼児期における注意欠陥/多

動性障害の診断上の問題(原,1999;田中,2004)や聴覚障害との鑑別の困難さ(Kelly,Forney,

Parker-Fisher,&�Jones,1993;森・川住・熊井,2009;O'Connell�&�Casale,2004)によって注意欠

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

陥/多動性障害の合併が診断されていることは稀であるため、幼児期の内発的動機づけについて、

教育・医療現場での実践的検討や事例研究がほとんど行われてこなかったという状況にある。

 筆者らは、重度の聴覚障害があるために比較的早期から指導を実施していたにもかかわらず、同

時期に指導を始めた聴覚障害幼児に比べて、すぐに気が散りやすく課題に最後まで取り組めない、

ちょっとしたことで癇癪を起こしたり泣いたりするといった行動が目立ち、聴取能力や言語能力に

顕著な伸び悩みがみられる幼児に出会い、3歳から継続的な指導を行う機会を得た。指導を行う過

程で、徐々にこの幼児には聴覚障害の他に注意欠陥/多動性障害が合併しているのではないかと気

づくようになった。そこで、本児を対象として、先行研究と同様の方法で、言語指導場面における

内発的動機づけとそれに関与する心理的欲求の発達変化、およびこれらに影響を与える要因につい

て検討することを研究の目的とした。

Ⅱ.対 象 注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児1事例(A 児)。1歳11 ヵ月に難聴が発見さ

れ、2歳7 ヵ月からろう学校乳幼児教室に通い、3歳2 ヵ月から個別の言語・コミュニケーション指

導を開始した。聴力レベルは両耳とも110dB 以上、補聴閾値は50dB 前後で、知的発達は IQ100以

上で良好だった(大脇式幼児用知能検査)。社会性の発達は対人関係 DQ65と遅れが認められ、基本

的習慣や手の運動にもやや遅れが認められた(遠城寺式乳幼児分析的発達検査)。母親の養育態度

は、当初、溺愛・盲従型の傾向がみられ(親子関係診断検査)、育児困難感や育児負担感が高かったが、

指導後に徐々に改善がみられるようになった。

 A 児に注意欠陥/多動性障害が疑われたのは、「周囲の刺激によって気が散りやすい」、「注意集

中の持続が困難である」、「課題等で不注意な間違いをする」、「課題に取り組むことを避ける」、「課

題をやり終えないうちに次のことを始めてしまう」、「指示に従えない」、「指示されたことを忘れや

すい」、「落ち着きがない」、「座っていることを要求される課題場面で席を離れる」、「質問が終わら

ないうちに答え始めてしまう」、「順番が待てない、我慢できない」、「感情が高ぶりやすい」、「ちょっ

としたことで泣く」といった行動が6 ヵ月以上観察され、これらの行動特徴が注意欠陥/多動性障

害の診断基準 DSM-IV-TR(American�Psychiatric�Association,2004)を満たしていたためである

(森・熊井,2009)。

Ⅲ.方 法1. 言語・コミュニケーション指導の方法

 聴覚活用の促進、言語・コミュニケーション能力の向上、コミュニケーション手段の拡大を指導

目標として個別指導を行い、A 児の発達状況に応じて難易度の高い課題を段階的に行った。

 母親には指導場面に同席してもらい、指導者が子どもと関わる様子を見てもらい、指導で学んだ

関わりや働きかけの仕方を家庭での毎日の関わりや学習の中で継続してもらうよう助言した。

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

1)指導内容

 ①聴覚活用は、楽器音に対する自覚的反応形成から始め、音声と身ぶり、音声と口型、音声のみの

順に刺激を変えて聴性反応を形成した。次に、数語の単語(幼児語)絵カードを指さして回答する課

題から徐々に選択肢数を増やして音声弁別を促し、最終的には選択肢なしで回答する状況で聴取し

た単語が復唱できるようにした。その後、2語文、3語文も同様に行った。

 ②音声とともに身ぶり・手話、口型、指文字、文字等を活用して、幼児語・擬態語、事物名称、動作

語、形容詞の順に理解・表出語彙を拡大した。語彙数がある程度増加すると、2語文、3語文と文構

造の習得を促し、文構造習得後は文字を使用して助詞の習得を進めた。また、日常的な質問に対す

る応答、自分の経験した事柄・状況・理由の説明、会話練習を行った。

 ③コミュニケーションは、指導開始時には身ぶりや手話を中心に時々音声を使用するといった方

法で行っていたため、既得の手話を幼児語に変換して音声言語の理解・表出を進めた。その後、習

得した幼児語を成人語に移行させる際には指文字を用い、指文字に対応させて文字を習得させた。

2)課題

 はめ板、絵カード、文字カード等の教材を用い、以下の課題を行った。指導者は、小児用の机を挟

んで、子どもと対面して課題を提示した。

 ①発語課題、②聴取課題、③絵 - 文字合わせ課題、④文構成課題、⑤助詞選択課題、⑥仲間分け課題、

⑦書字課題

3)指導時の留意点

 子どもが主体的に課題に取り組めるように、以下の点に配慮した。

 ①視覚的手段を積極的に使用する、②発達段階に応じた目標・課題を設定する、③理解しやすい

手続きを実施する、④興味をひく教材を利用する、⑤即時フィードバックを行う、⑥わからない場

合でもヒントだけ示して自分で考えさせる、⑦課題数を知らせて、見通しを立てさせる、⑧課題を

選択させたり、指導者と役割交替をする。

 また、A 児には、特に以下の点に留意した。

 ①気が散らないように、使用中の教材以外のもの(玩具やその他の教材)はカーテン付きの棚に入

れる、②集中可能な時間に合わせて、1課題あたりの時間を短く設定する、③課題の始まりと終わり

を視覚的に明確に示し、最後まで取り組めるよう促す、④口型への注目が難しいため、口型を指さ

して注目を促す、⑤成功体験を多くし、その都度視覚的なフィードバックを行って褒め、課題に取

り組む時間を少しずつ伸ばす。

2. 母親への指導の方法

 A 児の母親は、特に「聞こえるようになること」(聴覚活用)に対するこだわりが強かったが、母

親への指導では、聴覚活用に対する母親の強い思いは否定せず、指導者と子どもとの関わりを通し

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

て、手話などの視覚的手段を使用すればコミュニケーションが成立しやすくなる様子を見てもらう

ようにした。親子関係診断検査では溺愛・盲従型の傾向がみられ、過度に世話をやいたり、乳児の

ように扱って甘やかすといった面があったが、こういった態度も受容しながら、子どもが課題を達

成できた時には、母親も一緒に褒めたり喜んだりできるように母親に働きかけた。また、指導開始

当初は育児困難感や育児負担感が高かったため、子どもの変化をその都度詳しく伝えることで、母

親の育児を褒めたり励ましたりした。A 児の母親は、分析対象とした期間内に、手話などの視覚的

手段に対する価値観や養育態度、子どもとの関わり方に徐々に変化がみられた。

3. 評価・分析の方法

 先行研究(森ら,2008)において、聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化を

観察したのと同様の時期に同様の方法で、注意欠陥/多動性障害が疑われる聴覚障害幼児の内発的

動機づけとそれに関与する心理的欲求の変化を観察した。

 そのため、3歳10 ヵ月から4歳10 ヵ月(以下4:10)までの13 ヵ月間の全指導場面をビデオ録画し、

子どもの課題への取り組みや動機づけに変化がみられた時期ごとに3期に区分した。Ⅰ期(3:10 ~

4:2)は他者との関わりを楽しむことが中心だったが、Ⅱ期(4:3 ~ 4:6)は課題への取り組みを楽

しむ態度に、Ⅲ期(4:7 ~ 4:10)は自分から課題に取り組もうとする態度に変化がみられた時期で

あった。各期の中ごろの指導場面を選び、指導開始から60分間を分析対象とした。

1)対象児の動機づけの類型化

 ⑴1課題に対する取り組みの開始から終了までを1行動単位とし、学習始発の視点から「自発的/

他発的」、学習目標の視点から「内生的/外生的」に分類した。なお、1課題は、1枚の絵カードに対

する呼称(発語)や1つの単語に対する絵カードの選択(聴取)等について、指導者が教材を提示した

り、声がけを開始した時点から子どもが応答してフィードバックを受けるまでとした。⑵分類の手

がかりは、対象児の視線、表情、姿勢、動作・身ぶり、音声言語、手話、指文字、課題への態度とした。

⑶行動の分類基準は、①自発的…自分から進んで課題に取り組み始める場合。具体例…他人から促

される前に自分から課題を手にとって始める。②他発的…他人から勧められて課題に取り組み始め

る場合。具体例…母親から促されて着席し、課題を行う。③内生的…課題を行うこと自体が目標と

なっている場合。具体例…「好き」「楽しい」「おもしろい」等の理由で自己目的的に課題に取り組む。

④外生的…課題を行うことに付随して得られる報酬が目標となっている場合。具体例…「褒められ

るため」「叱られないため」等の理由で手段的に課題に取り組む、とした。指導者を含む2名の評価

者によって全ての行動単位を独立に分類した結果、分類の一致率はκ= .895だった。不一致の部分

は協議により決定した。⑷動機づけの類型として、学習始発と目標の視点から、①自発的 - 内生的

動機づけ(内発的動機づけ)、②他発的 - 内生的動機づけ、③自発的 - 外生的動機づけ、④他発的 - 外

生的動機づけ、⑤脱動機づけの5つに分類した。なお、脱動機づけは、課題を行うことに対して興味・

関心を全く示さない場合の類型とした。このうち、自発的 - 内生的動機づけが内発的動機づけと呼

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

ばれている。類型ごとに各行動単位の持続時間を合計し、割合(%)を算出した。

2)対象児の交流感、有能感、自己決定感

 ⑴1つの課題や教材に関連した一連の行動の発現から終結までを1エピソードとし、交流感、有能

感、自己決定感を表すと判断されるエピソードを交流感関連エピソード、有能感関連エピソード、

自己決定感関連エピソードに分類した。⑵分類の手がかりは、対象児の視線、表情、姿勢、動作・身

ぶり、音声言語、手話、指文字、課題への態度、課題の達成状況、指導者および母親とのやりとり等

の指導場面の状況や文脈とした。⑶各エピソードの分類基準は、①交流感関連エピソード…「周囲

の人と親しく関わりたい」「周囲の人から受容されたい」という気持ちが表れている場面。具体例…

「自分からアイコンタクトをとって話しかける、働きかける」「相手からの働きかけに喜んで応じ

る」。②有能感関連エピソード…「自分は(課題が)できる」「課題に成功したい」という気持ちが表

れている場面。具体例…「課題に成功すると得意そうな表情をして喜ぶ」「自信を持って応える」。

③自己決定感関連エピソード…「他人に言われて行うのではなく自分で決めて行いたい」という気

持ちが表れている場面。具体例…「勉強すると自分で決めて進んで行おうとする」、とした。指導

者を含む2名の評価者によって全てのエピソードを独立に分類した結果、分類の一致率はκ= .858

だった。不一致の部分は協議により決定した。⑷それぞれのエピソードの回数を算出した。一つの

エピソードが交流感関連エピソードであり、有能感関連エピソードでもある場合、交流感、有能感

それぞれ別々にカウントした。

3)課題達成時の指導者及び母親からのフィードバック

 ⑴1課題達成時に、指導者および母親が行ったフィードバックを1行動単位とし、情報的/感情的

なものに分類した。感情的なフィードバックはさらにポジティブ/ネガティブなものに分類した。

⑵分類の手がかりは、指導者および母親の視線、表情、相づち、動作・身ぶり、音声言語、手話、指文

字とした。⑶各フィードバックの分類基準は、①情報フィードバック:結果の成否を伝えるもの。「そ

う」「あたり」「まる」(成功時)、「ちがう」「ばつ」(失敗時)。②感情フィードバック:フィードバッ

クを与える者の感情や結果の価値を伝えるもの。(i)ポジティブな感情フィードバック:「じょうず

ね」「よくできたね」「すごいね」と賞賛の意味があるもの(成功時)、「おしいね、もう少しでできるよ」

「残念だね、あとちょっとだよ」と励ましの意味のあるもの(失敗時)。(ii)ネガティブな感情フィー

ドバック:「だめだね」「へただね」と否定的な意味があるもの、とした。指導者を含む2名の評価者

によって全ての行動単位を独立に分類した結果、分類の一致率はκ= .826だった。不一致の部分は

協議により決定した。なお、各フィードバック回数の算出にあたっては、一つのフィードバックが

情報的であり感情的でもある場合、情報フィードバック、感情フィードバックそれぞれ別々にカウ

ントした。

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

4)課題実施時の母親からの働きかけ

 ⑴母親が行った1回の働きかけを1行動単位として分類した。⑵分類の手がかりは、母親の視線、

表情、動作・身ぶり、音声言語、手話、指文字とした。⑶母親からの働きかけの分類基準は、①励ま

し…「頑張ればできるよ、大丈夫」と、子どもを励ましたり、慰めたりするもの。②叱責…「ちゃん

とやりなさい、遊んではだめ」と、強い口調で子どもを注意したり、叱ったりするもの。③指示…「聞

いて、言って」と、子どもの行動を直接促したり、方向づけたりするもの。④教示…課題について説

明するもの。⑤反復・模倣…子どもが表出した手話や指文字、ことばをそのまま真似して行うもの、

とした。指導者を含む2名の評価者によって全ての行動単位を独立に分類した結果、分類の一致率

はκ= .889だった。不一致の部分は協議により決定した。⑷それぞれの働きかけの回数と割合(%)

を算出した。

Ⅳ.結 果1. �注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の動機づけ類型と交流感、有能感、自己

決定感の変化

1)動機づけ類型の変化

 各期の動機づけ類型の割合を図1に示した。A 児の自発的 - 内生的動機づけ(内発的動機づけ)は

Ⅰ期に0%、Ⅱ期に9%、Ⅲ期に15%と低い割合のまま推移し、他発的 - 内生的動機づけもⅠ期に

13%、Ⅱ期に1%、Ⅲ期に0%とあまりみられなかったため、内生的動機づけの合計はⅠ期に13%、

Ⅱ期に10%、Ⅲ期に15%と低い水準のままであった。自発的 - 外生的動機づけはⅠ期に14%、Ⅱ期

に51%、Ⅲ期に48%であったため、自発的動機づけの合計はⅠ期には14%と低かったが、Ⅱ期に

60%、Ⅲ期に63%と、Ⅱ期以降は1/2以上の割合になった。一方、他発的 - 外生的動機づけはⅠ期に

56%と高かったが、Ⅱ期に20%、Ⅲ期に24%とあまりみられなくなった。脱動機づけは、Ⅰ期に

18%、Ⅱ期に20%、Ⅲ期に14%と変化がみられず、低い水準ではあるがⅢ期になっても消失しなかっ

た。

 A 児の場合、Ⅰ期には母親や指導者に促されて取り組みを始めることが多かったが、Ⅱ期以降に

は自分から取り組むことが増えた。しかし、課題を達成すること自体を楽しむよりも、教材を操作

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Ⅲ期

Ⅱ期

Ⅰ期

脱動機づけ

脱動機づけ

脱動機づけ

他発-外生 自発-外生

他発-外生 自発-外生 他発-内生 自発-内生

他発-外生 自発-外生 自発-内生

他発-内生

図1 対象児の動機づけ類型の変化

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

したり、課題の手続き(ルール)や人と関わることを楽しむことが多く、自分から取り組む場合も教

材の新奇性や操作を楽しんだり、指導者との勝ち負けの競争、「○、×」をカードに書いた正誤の

フィードバックにこだわるなど、課題以外の外的報酬を目標に取り組むことが多かった。

2)交流感、有能感、自己決定感の変化

 交流感、有能感、自己決定感に関連するエピソード数を図2に、具体的な内容を表1に示した。A

児の交流感関連エピソードは、Ⅰ期に61/65回(関連エピソード数/全エピソード数。以下同様)、

Ⅱ期に79/95回、Ⅲ期に61/83回と、Ⅰ期から高い割合でみられた。A 児は、指導開始当初はコミュ

ニケーションを行う際に手話などの視覚的手段をあまり使用していなかったが、指導を開始してま

もなく手話単語を獲得して自発的な表出が増え、徐々に指文字の使用も可能になった。手話や指文

表1 対象児の交流感関連エピソード、有能感関連エピソード、自己決定感関連エピソード

Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期

交流感

・�絵カードを見て、指文字で「モモ」と表出しながら、母に見せる。

・�手に持った絵カードをみせながら発声し、母の顔を見る。

・�教材を操作しながら、母に向かって自分から声がけ(発声)する。

・�着てきた服を見せながら、指導者に手話で話しかける。

・�持ってきたものをうれしそうに指導者に見せる。

・�絵カードを見ながら、母に手話で表現してみせる。

・�発声しながら、手話や指文字を交えて話しかけることが増える。

・�絵本を手に取り、好きなページを指導者と母に見せながら、笑顔で笑いかける。

有能感

・�課題に成功しても嬉しそうな表情をしないが、拍手されると自分も一緒に拍手する。

・�課題ができると、自分で拍手して、母のほうを嬉しそうに見る。

・�自分から絵カードを指さし、マイクをとって発声しながら、得意そうにする。

・�課題をみて答えがわかると、得意そうにする。

・�課題に成功すると、指で丸(正解)を示しながら、笑顔で指導者を見る。

・�成功した課題を、母の前でもう一度やってみせる。

・�すぐに飽きて、他の教材で遊ぼうとする。

・�難しい課題や不得意な課題は避け、取り組まない。

・�失敗時には、すぐ注意がそれて、態度が崩れる。

自己決定感

図2 対象児の交流感、有能感、自己決定感に関連するエピソード数

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

字といったコミュニケーション手段の拡大により、コミュニケーションがスムーズになり、交流感

が高いまま維持された。

 また、Ⅰ期には、「課題に成功して指導者から拍手されると自分も一緒に拍手して喜ぶが、課題に

成功したことに対して嬉しそうな表情はしない」といった状態であり、有能感関連エピソードはみ

られなかった。Ⅱ期になり、「課題ができると自分から拍手して、母のほうを嬉しそうに見る」、「自

分から絵カードを指さし、マイクをとって発声しながら、得意そうにする」といった行動が徐々にみ

られるようになり、有能感関連エピソードは10/95回になった。しかし、「難しい課題や不得意な課

題は避け、取り組まない」など、「自分はやればできる」のだから「難しい課題でもやってみよう」と

いった気持ちを表すエピソードはみられなかった。Ⅲ期になり、有能感関連エピソードが15/83回

になり、褒められると喜ぶ段階から、課題に成功したことを喜ぶ様子もみられるようになった。し

かし、母親のフィードバック(褒められること)を受けて喜ぶ様子や課題に成功したことを喜ぶ様子

には一貫性がみられなかった。また、自信をもって課題に答えたり、次の課題を期待して待つといっ

た自信や意欲がみられるようにはならず、失敗時には「すぐに注意がそれて、態度が崩れる」ことが

多かった。

 また、自分から指導者や母親に話しかけることは多くみられたが、「自分から決めて課題に取り

組む」といった自己決定感関連エピソードは、Ⅲ期になってもみられなかった。

2. 指導者および母親からのフィードバックと働きかけ

1)課題達成時のフィードバック

⑴指導者からのフィードバック

 指導者からのフィードバック数を図3に示した。成功時の情報フィードバックは、Ⅰ期に51/51

回(フィードバック回数/全課題数。以下同様)、Ⅱ期に80/80回、Ⅲ期に64/64回で、そのうちポジ

図3 課題達成時の指導者からのフィードバック数

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ティブな感情フィードバックは、Ⅰ期に51/51回、Ⅱ期に80/80回、Ⅲ期に64/64回と、情報フィー

ドバックとポジティブな感情フィードバックは課題ごとに同じ回数行われていた。また、A 児の

有能感に高まりがみられず、課題難易度をあまり変化させなかったため、失敗課題数は少なかった。

失敗時の情報フィードバックは、Ⅰ期に3/3回、Ⅱ期に2/8回、Ⅲ期に10/10回、ポジティブな感情

フィードバックは、Ⅰ期に3/3回、Ⅱ期に8/8回、Ⅲ期に7/10回みられ、感情フィードバックの方が

やや多かった。ネガティブな感情フィードバックはいずれの時期もみられなかった。課題成功時に

は、情報・感情フィードバックとも同じ頻度で課題ごとに行われていたが、課題失敗時には、すぐに

注意がそれて課題に取り組まなくなったり、もう一度答え直そうとする態度がみられなくなったた

め、情報フィードバックよりも感情フィードバックが優先して行われていた。

⑵母親からのフィードバック

 母親からのフィードバック数を図4に示した。成功時には、各期とも情報フィードバックとほぼ

同じ頻度で、うなずいたり、拍手するといったポジティブな感情フィードバックがみられた。ただし、

表情を豊かに使用したり、動作や身ぶりで表現してみせたり、スキンシップをとったり、母親の方

から子どもと視線を合わせるといったものではなかった。また、母親がその場(子どものとなり、

または、やや後ろの席)で感情フィードバックを行っても、それが子どもに直接伝わっていないこと

もあった。A 児は課題に成功しても嬉しそうな表情をしなかったが、母親が褒めた後には嬉しそう

な表情をみせたり、課題に成功して指導者に褒められると母親の顔を A 児の方から見る場面もみ

られた。母親は子どもに対して結果を伝えるだけで感情の伝達がほとんどなされないということは

なかったが、感情豊かに子どもを褒め、子どもと一緒に喜んだりすることもなかった。

 失敗時には、情報フィードバック、ポジティブな感情フィードバックともほとんど行われなかっ

た。また、ネガティブな感情フィードバックもなかった。A 児は、失敗時にすぐ注意が逸れ、態度

図4 課題達成時の母親からのフィードバック数

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

が崩れることが多かったが、母親には子どもを励ますような関わりはみられず、また逆に、情報

フィードバックを行ったり、子どもを怒るなどのネガティブな感情フィードバックを行うこともな

かった。

2)課題実施時の母親からの働きかけ

 各期の母親からの働きかけの割合を図5に示した。課題実施時の働きかけの回数は、Ⅰ期に116回、

Ⅱ期に74回、Ⅲ期に95回と多かった。働きかけのうち、教示(課題の説明を行うもの)は平均して

約60%と多く、教示以外の働きかけは、指示が平均20%、反復・模倣が平均21%とほぼ同程度の割

合で占められていたが、「頑張ってね、大丈夫よ」などの励ましや「練習すればできるからやりなさ

い」などの叱責はほとんど行われなかった。先行研究の聴覚障害幼児の母親の働きかけには励まし

や子どもの不適切行動に対する叱責もみられた(森ら,2008)が、子どもの自信を引き出すような励

ましや努力を促すような叱責は、A 児の母親にはほとんどみられなかった。また、A 児の母親には、

子どもの表出した手話や身ぶりに追随して、同じ手話や身ぶりを反復・模倣する行動が指示と同程

度にみられた。

 働きかけの内容では、A 児が音声言語を十分に習得できていなかったため、音声言語だけで母親

が働きかけることはなく、手話や身ぶりを交えた働きかけがほとんどであったが、表情を豊かに使っ

て励ましたり、叱責したりして、子どもと感情の共有をすることはあまりみられなかった。

Ⅴ.考 察1. 動機づけ類型および交流感、有能感、自己決定感の変化

 幼児期前期の言語指導場面における内発的動機づけは、一般的な聴覚障害幼児の場合でもまだあ

まり高くなかったが(森ら,2008)、注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる A 児ではさらに低い

割合であった。しかし、聴覚障害のみの幼児では他発的 - 内生的動機づけが徐々に増加して、自発、

他発を問わず内生的動機づけ全体がⅢ期に90%まで増加した(森ら,2008)。これは、外的報酬を目

標にした行動が徐々に減り、自分から進んで取り組む場合も母親や指導者に勧められる場合も、課

題を行うこと自体を楽しめるようになったことを示している。一方、A 児では、内生的動機づけが

他発的なもの(Ⅰ期)から自発的なもの(Ⅱ期以降)に変化したが、内生的動機づけ自体の増加はみ

図5 課題実施時の母親からの働きかけ

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られなかった(15%)。

 これとは逆に、A 児の自発的動機づけは、Ⅱ期以降に増加し、Ⅲ期には63%と動機づけ全体の大

きな比率を占めるようになり、聴覚障害のみの幼児に比べても高い割合になった。しかし、A 児の

自発性には、自ら進んで課題に取り組むよりも、教材や課題手続き(指導者が利用した勝ち負けの

ルール等)が楽しい場合には自分主導で課題を始めるが、苦手な課題の場合には課題にまったく取

り組まないといった一定しない傾向がみられた。たとえば、約1/2の割合を占めた自発的 - 外生的

動機づけは、課題を達成することを楽しむというより、教材の新奇性や操作を楽しんだり、指導者

との勝ち負けの競争や「○、×」を書いたカード(正誤のフィードバック)にこだわるなどの外的報

酬を目標に自分主導で課題を行うというものであった。こういった行動が多く、内生的動機づけが

増加しにくいといった特徴が、A 児の動機づけの特徴であると考えられた。

 また、内発的動機づけに関与する心理的欲求では、Ⅰ期から指導場面での交流感は高かった。聴

覚障害児の特徴として情報の制限や言語獲得の遅れから生じるコミュニケーションの取りにくさや

母子関係の安定のしにくさがあり、交流感が高まらないことも考えられたが、手話を中心とした母

子コミュニケーションが指導開始後まもなく成立したことに加え、指文字を習得し始めるなど新た

なコミュニケーション手段が拡大したことにより、交流感は高いまま維持されたと考えられる。

 しかし、有能感は、Ⅱ期にみられるようになったものの、Ⅲ期になってもほとんど変化しなかった。

また、自己決定感も、Ⅲ期になってもみられるようにはならなかった。A 児の場合は、注意散漫で

気が散りやすい傾向が強く、1つの課題に集中したり、課題を最後までやり終えられないことが多

かったため、課題を達成すること自体が少なかった。そのため、「課題を達成して嬉しい」気持ちを

基礎とした「自分はやればできる」という有能感が育ちにくかったのではないかと考えられる。ま

た、不得意な課題の場合に、母親が励ましたり手伝ったりしながら課題に取り組ませるように促す

ことが少なく、課題を拒否した場合にも、母親が叱責を行うことなく容認するため、嫌なことは避

ける行動が習慣化し、「最後までやってできた」といった達成感を持つ機会が少なかったと考えられ

る。その結果、A 児では有能感が育ちにくく、また、それを基礎とした自己決定感もみられるよう

にはならなかったと考えられる。

2. 有能感の発達に影響を与える要因

 先行研究(森ら,2008)において、課題成功時に母親が情報フィードバックと同時に「褒める」等の

承認を含む感情フィードバックを身ぶりや表情を豊かに使って行っていた児では有能感が増加した

のに対し、母親からのフィードバック数が少なく、また、情報フィードバックに比べて感情フィー

ドバックが少ない児では「褒められると喜ぶ」様子がみられるようになったものの、「課題に成功し

たことを喜ぶ」ようにはならず、有能感が高まりにくかった。これは、「承認する、褒める」といった

母親からの感情的なフィードバックが「自分ができる」ことに対する認知とそれに伴う感情を喚起

したことによるためであると考えられた。

 本研究の A 児の母親も、課題成功時に情報フィードバックとほぼ同じ頻度でポジティブな感情

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

フィードバックを行っていたが、A 児はⅡ期に有能感がみられるようになったものの、その後、先

行研究の児のように有能感が増加することはなかった。これには、A 児の母親のフィードバック

に感情豊かな関わりやスキンシップ等が少なく、また、感情フィードバックの頻度は高かったもの

の、子どもの隣またはやや後ろの席でうなずいたり、拍手するといった行動にとどまり、課題が達

成できた喜びを積極的に子どもに伝えて、子どもと喜びを共有するといった内容ではなかったこと

が影響しているのではないかと考えられる。しかし、このような母親のフィードバックの仕方だけ

でなく、A 児も褒められることを期待して課題に取り組もうとしたり、できたことを母親に伝えて

褒めてもらおうとするよりも、教材を操作することや指導者が用意した「○、×」カードでフィード

バックを受けることのほうが楽しい様子であった。そのため、母親は、子どもとの関わりに自信が

持てず、積極的な働きかけが行えないといった状況が生じていたと考えられる。

 また、先行研究(森ら,2008)の児では有能感が増加したⅡ期以降、課題失敗時にも次の課題への

意欲がみられるようになった。これは、成功時に母親からポジティブな感情フィードバックを多く

受けていたため、母親から承認されていると感じることができ、失敗しても動機づけが維持された

のだと推察された。また、有能感が増加しなかった児では、指導者が失敗についてフィードバック

をあまり行わず、失敗経験を強化しないようにしたが、母親は正しい答えを教えたり、間違いに気

づかせようとして、感情フィードバックよりも情報フィードバックを多く行った。その結果、この

児では失敗時に取り組みを維持するのが難しかった。

 A 児の母親は、これとは対照的に、失敗時には情報フィードバックも感情フィードバックもほと

んど行わなかった。また、もう少し頑張るように励ましたり、すぐに態度が崩れてしまうことにつ

いて叱責することもなかった。そのため、A 児は母親の働きかけで「がんばってみよう」という挑

戦心が育ちにくく、嫌なことは避ける行動が習慣化していたが、母親はこのような行動を容認し、

過度に甘やかす傾向があったため、できない課題でも最後までやってみて達成することにより、有

能感を感じる機会が少なかったと考えられる。

 また、A 児の母親の働きかけには、反復・模倣といった働きかけが一定の割合でみられた。これは、

A 児の言語的なフィードバックの受容のしにくさを視覚的に補う上で有効な働きかけであると考

えられる。しかし、このような働きかけが母親から積極的に自信を持って行われてはいなかったた

め、子どもには伝わりにくかったのではないかと思われる。このような母親の育児に対する自信の

なさや母子関係の変化を促すことにより子どもへの働きかけを改善していくとともに、表情や動作、

身ぶりを豊かに用いて母親の感情や評価を直接子どもの感情に働きかける(高崎,2001)ような示し

方や働きかけのタイミングなどを今後改善していく必要があると考えられる。

 しかし、母親のフィードバックや働きかけだけでなく、有能感の発達には A 児の行動特徴による

影響も大きいのではないかと考えられる。Barkley(2000)は、注意欠陥/多動性障害児に、「課題

に取りかかろう」、「課題をやり遂げよう」という気持ちを起こさせるには、より早く、より頻繁に

フィードバックを与えることが重要であると指摘している。注意欠陥/多動性障害の傾向がある

A 児に対し、指導者や母親のフィードバックが十分な頻度ではなかった可能性が考えられる。また、

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

自分の答えた内容に対するフィードバックに注意が向きにくい、または、フィードバックを受けて

正誤を確認するまで注意を持続できない可能性も考えられる。これは、A 児の気が散りやすく、指

導者や母親のフィードバック(褒められること)を受けて喜ぶ様子に一貫性がないことからも推察

される。また、相手の口型や相手の言ったことに注意が向きにくい傾向も言語的なフィードバック

の受容のしにくさに影響している可能性があると考えられる。

 また、A 児は、この時期には、「課題持続困難」や「課題完遂困難」といった行動特徴が継続して

おり、このような傾向が課題をやり続けて最後まで取り組み、課題を達成することにより喜びを感

じる経験につながりにくかったと考えられる。これらに加え、「指示に従えない」、「我慢できない」、

「簡単に泣く」といった傾向が強く、不得意な課題や自分の興味がない課題にも指導者や母親の指示

に従って我慢して取り組んでみることができず、特に課題失敗時では、態度が崩れやすいだけでな

く、課題を避けたり、教材を片付けるまで泣き続けることが多かった。また、A児の興味や関心に合っ

た教材や課題である場合とそうでない場合では取り組みにおける態度の差が大きかったため、取り

組める課題や教材の種類が広がりにくく、指導の進度も遅くなりがちだった。こういった A 児の

特徴が課題を達成することによる有能感や自ら進んで課題達成に取り組むといった内発的動機づけ

の発達に負の影響を与える一因になったのではないかと考えられる。

3. まとめ 本研究では、幼児期前期の言語指導場面における内発的動機づけとそれに関与する心理的欲求の

発達変化、およびこれらに影響を与える要因について、注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴

覚障害幼児を対象に検討した。さらに、その結果について、先行研究(森ら,2008)で検討した一般

的な聴覚障害幼児と比較し、考察を加えた。

 聴覚障害のみの幼児の場合、3歳後半から4歳後半の時期では学習場面での内発的動機づけは年

齢的にまだ十分にみられなかったが、内生的動機づけは増加して課題を行うこと自体を楽しめるよ

うになり、また、課題場面での交流感が高く、徐々に有能感が増加し、その後自己決定感がみられる

ようになった(森ら,2008)。

 これに対し、注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる児では、内発的動機づけが高まらず、内生

的動機づけも低い水準のままであった。自発的動機づけは徐々に増加したが、教材や課題手続きが

楽しい場合に自分主導で課題を始めるといった傾向が強いものであった。また、交流感は高かった

が、有能感、自己決定感は高まりにくかった。本児の場合、注意散漫で気が散りやすい傾向が強く、

1つの課題に集中したり、課題を最後まで行いにくかったため、課題を達成すること自体が少なく、

「課題を達成して嬉しい」気持ちを基礎とした有能感が育ちにくかったのではないかと考えられた。

また、不得意、苦手な課題の場合には、他の課題を勝手に始めてしまったり、課題を拒否して離席す

ることもあったが、母親は叱責を行うことなく容認することが多かったため、嫌なことを避ける行

動が習慣化し、「最後までやって、やればできる」といった達成感を持ちにくかったと考えられた。

注意欠陥/多動性障害に関連するこのような認知特性や行動特徴により、達成経験や成功体験が少

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

なく、これが有能感の高まりにくさにも関連していると考えられ、こういった点が聴覚障害のみの

幼児の場合と異なる児の特徴ではないかと考えられた。

 また、先行研究の2事例では有能感の変化に違いがみられ、これらの違いには子どもの関心や指

導の工夫といった要因よりも、母親からの感情的なフィードバックの影響が大きいと考えられた

(森ら,2008)。有能感が増加した児の母親では、「承認する、褒める」といった感情的なフィードバッ

クが多くみられ、これが子どもの「自分ができる」ことに対する認知とそれに伴う感情を喚起したこ

とにより、有能感が変化したと考えられ、表情や動作、身ぶりを用いて感情を豊かに伝えることが

成否の結果を伝えること以上に重要であると考えられた。また、子どもの自信を引き出すような励

ましや、成果を努力に関連づけたり、自分で行動を統制させるように促す叱責は、子どもが独力で

課題を成し遂げようとすることを促し、自分から取り組もうとする試みに強化や承認を与えること

になったと考えられた。

 一方、注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる児の母親も、課題成功時の感情フィードバックを

行っていたが、児の有能感には変化がみられにくかった。これには、母親のフィードバックに感情

豊かな関わりやスキンシップが少なかったこと、子どもとの関わりに自信を持ちきれず、積極的な

働きかけが行えなかったことなどが影響していると考えられた。また、もう少し頑張るように励ま

したり、すぐに態度が崩れてしまうことについて叱責することがなく、このような行動を容認した

り、過度に甘やかす傾向があったため、児には「がんばってみよう」という挑戦心が育ちにくく、で

きない課題でも最後までやってみて達成することにより有能感を感じるといった機会が少なかった

と考えられた。 

 しかし、母親のフィードバックや働きかけの際の質的な違いだけでなく、本児にみられた注意の

問題が課題をやり続けて最後まで取り組み、課題を達成するといった喜びへのつながりにくさに影

響しており、衝動性の問題が不得意な課題や嫌なことでも指示に従って我慢してやってみることが

できないことや、課題失敗時にすぐに態度が崩れたり、教材を片付けるまで泣き続けるといった行

動に影響している可能性があると考えられた。また、自分の答えた内容に対するフィードバックに

注意を向けにくい、フィードバックを受けて正誤を確認するまで注意を持続できない、相手の口型

や相手の言ったことに注意が向きにくい傾向も言語的なフィードバックの受容のしにくさに影響し

ている可能性が考えられ、こういった本児の特徴が有能感や内発的動機づけの発達に影響を与えて

いるのではないかと考えられた。

 このような本児の行動特徴に配慮した関わり方や働きかけの工夫が、聴覚障害のみの幼児への

フィードバックや働きかけとは別に本児には必要であると考えられるが、この点については、母親

だけでなく、指導者からの影響も大きいと考えられるため、フィードバックの内容や示し方、注意

喚起、見通しや合図、課題手続きの工夫や実施時間の調整などの指導上の配慮事項を今後検討して

いく必要があると考えられる。

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注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化

森つくり・川住隆一・熊井正之(2009)注意欠陥・多動性障害の合併およびその傾向がある聴覚障害幼児の聴取・言語

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森つくり・熊井正之・川住隆一(2008)聴覚障害幼児の言語指導場面における内発的動機づけの変化と母親からのフィー

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

� In�the�present�study,� the�motivation�and�related�psychological�needs�of�a�hearing-impaired�

young� child� suspected� of� having� attention� deficit/hyperactivity� disorder�(AD/HD)�were�

continuously�assessed�and�analyzed�as�he�underwent�auditory�and�language�training.�The�factors�

causing�changes�in�his�intrinsic�motivation�and�related�psychological�needs�were�also�investigated.�

The�main�results�were�as�follows:�(a)�The�hearing-impaired�young�child�suspected�to�have�AD/

HD�tended� to�do� tasks� selfishly�on�exogenous�purpose�and� failed� to� complete� them�during�

auditory�and�language�training.�(b)�Subsequently,�his�endogenous�motivation�and�related�feelings�

of�competence�based�on�delight�in�achievement�did�not�increase.�(c)�Thus�things�were�probably�

affected� by� the� poor� feedback� of� the�mother� in� terms� of� her� emotional� attachment,�

encouragement,�and�reproof,�and�her�involvement�with�her�child.�It�was�also�affected�by�the�fact�

that� the� child� did� not� pay�much� attention� to� the�mother.�(d)�Characteristic� behaviors� of�

inattention�and�impulsivity�affected�the�difficulty�to�accept�feedback�information,�little�experience�

of�success�or�achievement,�and�the�difficulty�of�challenging�the�child�with�tasks�not�easy�for�him.�

(e)�The�educational�methods�appropriate�to�these�cognitive�characteristic�warrant�research�and�

development.

Key�words:�attention� deficit/hyperactivity� disorder,� hearing-impaired� young� child,� early�

childhood,�intrinsic�motivation,�auditory�and�language�training

Changes�in�the�Intrinsic�Motivation�of�a�Hearing-Impaired�Young�

Child�Suspected�of�Attention�Deficit/Hyperactivity�Disorder

During�Auditory�and�Language�Training

Tsukuri�MORI(Graduate�Student,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)

Ryuichi�KAWASUMI(Professor,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)

Page 20: 注意欠陥/多動性障害の合併が疑われる聴覚障害幼 …¼‰や質問紙(Hayamizu, Ito, & Yoshizaki,1989)による調査を実施したり、実験的な課題場面を設