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両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure and Ground in Double Image Illusion : Analysis by rough sets derived lattices 園田 耕平 ,北村 有人 , 伊織 , 白川 智弘 , 郡司 ペギオ幸夫 Kohei Sonoda, Eugene S.Kitamura, Iori Tani, Tomohiro Shirakawa, Yukio-Pegio Gunji 神戸大学 東京工業大学 [email protected] (Contact author: Kohei Sonoda) Abstract This research studies the relationship between figure and ground, which is a concept introduced by Gestalt theory. There has been much research done in capturing a figure image against a background and used in applications such as artificial image perception. However, little has been done to understand their relationship. For our investigation we studied double image illusion, which allows us to analyze images with more than one figure-ground interpretation. Rough set derived lattices are introduced to reflect the differing figure-ground contrasts. The two types of indiscernibilities of rough set theory let us consider the two different interpretations of double image illusions. The resulting logical structures are considerably original for those generated by such images. Keywords Illusion, Double Images, Figure-Ground, Double Indiscernibility, Gestalt Theory, Rough Set Theory, Lattice Theory. 1. はじめに ルビンの壺[1]に代表されるような様々な両義図 形が存在する. これらの両義図形は, ゲシュタル ト心理学によると, 図地認識[2]によって可能であ ると説明されている. 図とは形として浮かび上が る領域のことであり, 地は図の背景として知覚さ れる領域のことである. この図と地の関係が逆転 した場合, それは図地反転と呼ばれる. 図と地の関係は画像認識においては特に重要に なってくる. そして近年においては, ヒューマン- コンピューター・インターフェース[3] やコンピ ューター・ビジョン[4] などに関連して画像認識 自体が重要になってきている. また, 心理学にお いても人間の画像認識メカニズムの理解が進んで きている[5] . しかしながら, これらの研究はエッジの検出や 肌理のグルーピングなどの図の抽出に終始したも のである. そこでは, 得られた図と地の関係に関 する議論はほとんどなされていない. 我々は, 義図形における図地の補完関係の二重性に注目し, その図地関係を解析した. まず, 図形の分割について考える. 二次元図形 , その属性においてグルーピングされ分割され . 顔の絵の場合, 属性とは{目, , , , …などの図形の特徴である. 二次元図形が適当な部 分に分割されるとき, 各部分は, 属性に解釈され . 二次元図形から属性集合への写像を“解釈” と呼ぼう. 両義図形においては二つの異なる解釈 が存在すると考えられる. 同一の属性に写される 図形上の点は, 解釈に関する同値関係から得られ , 同値類と考えることができる. 従って, 両義 図形においては異なる同値類の集合が存在するこ とになり, 以下ではこの同値類を扱っていく. そのためにラフ集合という概念を用いる. ラフ 集合は同値関係によって近似された集合概念で, 二種類の近似[6], [7]が提案されている. 具体的に , 「集合 U と同値関係 RU×U とするとき, XU に対し , R*(X)={xU|[x] RX} (下近似) , R * (X)={xU|[x] RX} (上近似) , (ただし [x] R={yU|xRy})」と定義される. その近似から 不動点(R*(X)=X)を集めることによって論理構

両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure …

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両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure and Ground in Double Image Illusion : Analysis by rough sets

derived lattices

園田 耕平†,北村 有人†, 谷 伊織†, 白川 智弘‡, 郡司 ペギオ幸夫†

Kohei Sonoda, Eugene S.Kitamura, Iori Tani, Tomohiro Shirakawa, Yukio-Pegio Gunji

†神戸大学 ‡東京工業大学

[email protected]

(Contact author: Kohei Sonoda)

Abstract This research studies the relationship between figure

and ground, which is a concept introduced by Gestalt theory. There has been much research done in capturing a figure image against a background and used in applications such as artificial image perception. However, little has been done to understand their relationship. For our investigation we studied double image illusion, which allows us to analyze images with more than one figure-ground interpretation. Rough set derived lattices are introduced to reflect the differing figure-ground contrasts. The two types of indiscernibilities of rough set theory let us consider the two different interpretations of double image illusions. The resulting logical structures are considerably original for those generated by such images.

Keywords ― Illusion, Double Images, Figure-Ground, Double Indiscernibility, Gestalt Theory, Rough Set Theory, Lattice Theory.

1. はじめに ルビンの壺[1]に代表されるような様々な両義図形が存在する. これらの両義図形は, ゲシュタルト心理学によると, 図地認識[2]によって可能であると説明されている. 図とは形として浮かび上がる領域のことであり, 地は図の背景として知覚される領域のことである. この図と地の関係が逆転した場合, それは図地反転と呼ばれる. 図と地の関係は画像認識においては特に重要になってくる. そして近年においては, ヒューマン-コンピューター・インターフェース[3] やコンピューター・ビジョン[4] などに関連して画像認識自体が重要になってきている. また, 心理学にお

いても人間の画像認識メカニズムの理解が進んで

きている[5] . しかしながら, これらの研究はエッジの検出や肌理のグルーピングなどの図の抽出に終始したも

のである. そこでは, 得られた図と地の関係に関する議論はほとんどなされていない. 我々は, 両義図形における図地の補完関係の二重性に注目し, その図地関係を解析した. まず, 図形の分割について考える. 二次元図形は, その属性においてグルーピングされ分割される. 顔の絵の場合, 属性とは{目, 口, 鼻, 耳, …}などの図形の特徴である. 二次元図形が適当な部分に分割されるとき, 各部分は, 属性に解釈される. 二次元図形から属性集合への写像を“解釈”と呼ぼう. 両義図形においては二つの異なる解釈が存在すると考えられる. 同一の属性に写される図形上の点は, 解釈に関する同値関係から得られた, 同値類と考えることができる. 従って, 両義図形においては異なる同値類の集合が存在するこ

とになり, 以下ではこの同値類を扱っていく. そのためにラフ集合という概念を用いる. ラフ集合は同値関係によって近似された集合概念で, 二種類の近似[6], [7]が提案されている. 具体的には, 「集合Uと同値関係R⊆U×Uとするとき, X⊆Uに 対 し , R*(X)={x∈U|[x]R⊆X} ( 下 近 似 ) , R*(X)={x∈U|[x]R∩X≠∅}(上近似) , (ただし[x]R={y∈U|xRy})」と定義される. その近似から不動点(R*(X)=X)を集めることによって論理構

Page 2: 両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure …

造(束)をつくることができる. しかしながら, この方法では同値類を単位とした組み合わせからな

る単純な論理構造(ブール代数)しか取り出せな

い. そこで我々が構成した擬閉包不動点による誘導束を用いる. これは異なる同値関係(S, R)からなる二重近似を用いて不動点(S*R*(X)=X)を集めるものである. 構成される束は異なる解釈(同値関係)のズレから情報(同値類の組み合わせ)

が落ちることにより, 上述のような単純な論理構造には成らない. 実際に, ブール代数だけではなく, 任意の束が構成できることが示されている. 我々はこのラフセット誘導束を用いることで両

義図形の図地の二重性を解析した.

2. メソッド ラフセットは集合内の要素の識別不能性という

概念に基づいている. 識別不能な要素は同値関係にあり, したがって同じ同値類に属している. x, y∈UをユニバーサルセットUの要素としU上の関数を f とする. もし f(x)=f(y)ならば, x と y は同値関係をもっている. その同値関係をRと書くと, 同値類は[x]R={y∈U|xRy}と書ける. このとき下近似はR*(X)={x∈U|[x]R⊆X}, 上近似はR*(X)={x∈U|[x]R∩X≠φ}と定義される. 半順序集合の理論によると, ガロア接続は完備束を誘導する. 半順序集合 P と Q が与えられたとしよう. このとき任意の x∈P と y∈Q に対して F(x)≦y ⇔ x≦G(y) ならば, F:PQ ,G:QP である写像の組 (F, G) はガロア接続と呼ばれる. 閉包作用素 C:=FG:PP がガロア接続から構成可能で, それは任意の x, y∈P に対して (i) x≦C(x); (ii) x≦y⇒C(x)≦C(y); (iii) CC(x)=C(x) を満たす. つまりこれは閉包作用素は F と G に対応する半順序集合内の構造を取り出す自然でよい

作用素であることを意味する. そして, 以上から完備束 LT={x∈P|C(x)=x} が導かれる. ラフセットにおいては, ユニバーサルセット U が 与 え ら れ た と き , R*:P(U)P(U) と R*:P(U)P(U) はガロア接続を構成する. 実際に,

任意の X, Y⊆U に対して R*(X)≦Y⇔X≦R*(Y) となっている. 従って C=R*R* が閉包作用素として定義され LC={X∈U|C(X)=X} は完備束となる. しかしながら, この束は集合束以外にあり得ないので, 構造を取り出すにはあまりに単純な形しかでてこない. 事実, この束においては任意のA∈LC に対して A の補元は Ac=U-A と定義される. ユニバーサルセット U 上で二種類の二項関係 R, S と二種類の作用素 S*, R* (もしくは S*, R*)が存在したとき, 作用素のペアはガロア接続を構成しない. 実際, 作用素 T=R*S* が導入されたとき, T は閉包作用素ではない. なぜなら, それは任意の X, Y⊆U に対して(ii) X⊆Y⇒T(X)⊆T(Y) と (iii) TT(X)=T(X) しか満たさないので. 我々はこの作用素を擬閉包作用素と呼ぶことにする . LT={X∈U|T(X)=X} によって擬閉包に対応した不動点を集めると, LT は集合束とはならない. 逆に, 適切な同値関係 S, R を選ぶと任意の有限束が LT の形で表現できることが示せる. 従って, これは両義図形における異なる二つの解釈に対し

て有効なアプローチを提供しうるのである. 束は半順序集合の任意の二つの元が上限(∨)

と下限(∧)をもつような代数的構造である[9], [10] . 上述したように, ユニバーサルセット U 上で二つの同値関係 R, S が与えられたとき , <LT; ⊆> with LT={X⊆U|T(X)=X}, T= R*S* によって束を構成できる. 実際に, LT の要素はユニバーサルセットの部分集合であり順序は包含関係

⊆で定義される. U の全ての部分集合を集めた場合, LT は冪集合(P(U))となり, それは上限と下限がそれぞれ和 (∪) と共通部分 (∩) で定義された集合束である. 一般的に, LT≠P(U) であり, したがって上限・下限は以下のように定義され

る:任意の X, Y∈LT に対して, X∧Y=T(X∩Y), X∨Y=T(X∪Y). LT は上限・下限について閉じていて束であることを示すことができる. LT ={X∈U|T(X)=X}( T= R*S*)をラフセット誘導束とよ

ぶ.

Page 3: 両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure …

一つの同値関係から不動点(R*(R*(X))=X)の束を構成した場合, ただ集合束が得られるだけである. 集合束は束論における二つの重要な性質を持っている. それは分配性(A∧(B∨C)=(A∧B)∨(A∧C) for A, B, C⊆U)と相補性(for any X⊆U, there exists Y⊆U such that X∨Y=U, X∧Y=φ)である. ここで U と φは 束 LT における最大元と最小元である. 分配束であり相補束でもある束はブール束と呼ばれる. しかしながら, 二つの同値関係から不動点(R*(S*(X))=X)の束を構成した場合, 得られる束はブール束または非ブール束が得られる. これは二つの同値関係が互いに全てもしくは部分的にオーバーラップしている結果で

ある. ブール束と非ブール束の違いは次章で触れる. LC={X⊆U|C(X)=X} と LT ={X⊆U|T(X)=X} ( C=R*R*, T=R*S*)の束の違いを図1に図示し

た. W={[a]R, [c]R, [d]R}={{a, b}, {c}, {d, e}}と表記したとき, LC と P(W)は同型となる. この束では R の同値類の全ての組み合わせが得られる(図1(a)). それとは逆に, LT においては, LT の元は R の同値類の可能な和であるが, いくつかの元が失われている(図1(b)). 実際に, R*S*({a, b, c})=R*([a]S∪

[b]S)=R*({a, b, c, d})=[a]R∪[c]R= {a, b, c} から {a, b, c} は LT の元である一方で, 他方では R*S*({a, b, d, e})=R*([a]S∪[b]S∪[e]S)=R*(U)=U≠{a, b, d, e} から {a, b, d, e} は LT で失われている. 情報の消失のため, 得られた束は非ブール束として構成可能である.

図1(a) 単一の同値関係からの不動点を集めた場合ブール束のみが得られる. (b) 二つの同値関係からの不動点を集めた場合, ブール束と同様に非ブール束が得られる. ここでは非ブール束が示されている. (a)内の元 {a, b}, {d, e}, {a, b, d, e} が

(b) においては失われている. 二つの同値関係からラフセット誘導束を構成す

るには, 二つの解釈 R, S が必要である. 例えば図1 (b)における{a, b}, {c} , {d, e} のように, それぞれの不動点 X は解釈 R の同値類である. それぞれの同値類をひとつの単位として扱い, その冪集合を考える:φ, {a, b}, {c}, {d, e}, {a, b, c}, {c, d, e}, {a, b, d, e}, U={a, b, c, d, e}. それぞれの同値類とその冪集合の成分を X としてつかい, 作用素 S* , R* をこの順に適用する. 解釈のグループ R の X に S* を適用するときは, 解釈 S における X の上近似をとらなければならない. 例えば, 解釈 R の{c}をとり, S* を適用してみる. そうすると S*(X)={b, c, d}を得る. 次に, R* を S*(X)に適用すると, 解釈 R 上で R*({b, c, d})={c}となる. というのも, 元 {b, c, d} に完全に包含されている同値類は{c}だけである. まとめると, 我々はX={c} から始めて R*S*(X)={c} を得た. 従って, 同値類{c} は不動点となっている. 解釈 R 上で{a, b}をとり S* を適用し同様の手続きを踏むと , R*S*(X)={a, b, c}を得る. したがって, 同値類{a,

R*(R*(X))=X

(a)

a b

c

d e

{a, b} {c} {d, e}

φ

{a, b, c} {a, b, d, e}

{c, d, e}

{a, b, c, d, e}

(b)

R*(S*(X))=X

Interpretation

R

Interpretation

S

{c}

φ

{a, b, c} {c, d, e}

{a, b, c, d, e}

a b

c

d e

a

b

c

d

e

a

e

c b

d

Page 4: 両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure …

b}は不動点ではない. これらの手続きを冪集合のφから U のすべての要素に適用する. 空集合φとユニバーサルセット U は常に不動点である. したがって, ユニバーサルセットをトップとしφをボトムとして, 不動点を集めそれらを要素として使い包含関係をベースとした束を構成する. 二つの同値関係 R, S の関係は表1に示されているような“リレーションテーブル”を使って表

現されている. 我々は情報をまとめ 2.4 節で説明したようにラフセット誘導束を構成するための不

動点を探すためにそのような表を使用する. 例としてここに示したものは図1(b) の二つの同値関係 R, S を使っている. 1という表記は関係をもっていること(共有元の存在)を表し, 0という表記は関係を持たないこと(共有元の不在)を表

している. 以下の章では, 我々はこのようなリレーションテーブルを参照する. 表1 リレーションテーブルは共有元に基づい

た R, S の関係を示している.

3. 実験 実験サンプルとして六つの異なる両義図形を使

用した(図2). 両義図形は A4サイズの紙に白黒で印刷した. 被験者ごとにランダムな順でサンプルを提示しタスクを行ってもらった. 被験者は20~30代の健常者31人であった. 実験室は常温で刺激条件が一定. プリントは机の上にある状態で向きを固定せずに自由記述してもらった. マーカーペンは直径5ミリで桃色のものを使用し

た. 実験のタスクは両義図形を属性に応じて六つに

分割することであった(図3). 両義図形は二つの

解釈(イメージ)が存在するが, それらをランダムな順に一つずつ実験者が指示した. タスクごとに被験者がその解釈を認識しているかどうか最初

に確認した. していない場合は, 部分や属性を特定しないような形で説明した. 説明後に認識した場合はタスクを開始し, 認識できない場合はもう一方の解釈に関するタスクも含めてその両義図形

のタスクをとばした. ある解釈における属性は目, 鼻, 耳, 首, 肩など被験者が気づく何らかの特徴とした. これらの属性をマーカーでループ状に囲むように設定した. ループの形状とサイズは任意であった. しかしながら, 二つの異なるループ(分割線)は互いに交わってはならない条件にし

た. 六つの両義図形とそれぞれの二つの解釈はランダムな順に提示された. おのおのの両義図形の二つの解釈の順番はランダムで別々の用紙に記入

した. 実験後に, それぞれの二つの解釈の用紙で互いの属性の分割(ループ)の交わりを調べた(同

一解釈の分割では交わりは許されていないが, 異なる解釈間の属性分割ではありえる). 交わりがある場合, 関係をもつとした. 線同士の交わりはオーバーラップしたとみなさず, 線内部の領域の交わりのみをみた. 一つの分割はひとつ以上の属性分割と交わりをもつこともありえた. これらの関係の組み合わせを用いて, 表2のようにリレーションテーブルを作った. そして, 2.4節の手続きにしたがって束を構成した. (a) (b) (c) (d) (e) (f) 図2 実験に使用した両義図形(a) 婦人と老婆 (b) アヒルとウサギ (c) インディアンとイヌイッ

S

a b c d e

a 1 1 1 1 0

b 0 0 0 0 0

c 0 0 1 1 0

d 0 0 0 1 1

R

e 0 1 1 1 1

Page 5: 両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure …

ト(d) メガネの男とネズミ (e) 女性とサックス奏者 (f) 正面を向いた男の顔と横を向いた魔女の顔 (Yuya Maekawa 2008). 図3 マーカーによる六つの属性分割 (a) ア

ヒル (b) ウサギ

表2 図3の分割から求めたリレーションテー

ブル コントロールとして, ランダムな同値類の集合を二組生成しそれらを重ね合わせることでラフセ

ット誘導束をつくった. それを十万回行った. 同値類の数は6つで100×100マス上で以下の

アルゴリズムで生成した. 1全てのマスに0を割り振る(初期化). 2ランダムに1~6の数字をそれぞれ一個のマス

に割り振る(同値類の開始点). 3ランダムに同値類の拡張回数(1~100の間

の整数値)を決めてその回数だけ以下を繰り返す. 4(0,0)~(99, 99)を順に辿る. もし(x, y)の保有する数字が0でないなら, (x+1, y), (x-1, y), (x, y+1), (x, y-1)のうちランダムに一つを選ぶ. もし, その保有する数字が0なら(x, y)の保有する数字と同じものを割り当てる.

この誘導束の解析においては, 図と地を補元関係で定義した. つまり同値類 aと acが a∨ac=1かつ a∧ac=0を満たすときに互いに図地関係(補元関係)にあると定義する. 例えば, ルビンの壺を簡略化すると, a=“壺”が図の時に ac=“向かい

合う顔”が地になり図と地で全体(ルビンの壺)

が表現出来ていることになる. 従って, 補元関係を調べることで論理構造(誘導束)を図と地の文

脈で解析することができる. さらに解析のために非分配性(ND)と相補性(C)という指標を導入する. これは一つの同値類に対して複数の補元が存在しうるためである . ND=平均補元所有率, C=補元存在率と定義する. ただし, 平均補元所有率については補元を有さないものについてはカウントしないので, ND>=1.0となる. この定義から分配束のとき ND=1.0(補元関係が一対一)であり, 可補束のとき C=1.0(全てが補元を持つ)となり束論と整合性が保たれる. ただし, 分配束ならば ND=1.0 であるが, この逆は成り立たない. とはいえ, ND=1.0で分配束でないものは実験においては1%未満であったので, この指標は有効であると考えられる. また, 相補性においては相補束と相補性=1.0は同値である. 例えば, {φ, a, b, ab}を考えてみる. 補元関係は φ= abc, a= bc, b= ac, ab= φc である. したがって, 各元は一つづつ補元を所有していることからND=1.0 となり, また各元はいずれかの補元になっていることから C=1.0である. ちなみにこれはC=1.0かつND=1.0なのでブール束になっている. つぎに{φ, a, b, c, abc}を考える. 補元関係は φ=abcc, a= bc, cc, b= ac, cc, c= ac, bc, abc= φc となっている. 明らかに C=1.0 であるが, 先程の例と異なり補元を二つ以上もつものが存在するので非

分配性は上がる. つまり φc= abc, ac= b, c, bc= a, c, cc= a, b, abcc= φ なので ND= 8/5 = 1.6 となる. したがって, これは分配束ではないが C=1.0であるため相補束である.

4. 結果 束の非分配性・相補性を解析する際に構成さ

S

a b c d e f

a 1 0 0 0 0 0

b 1 0 0 0 0 0

c 1 1 0 0 0 0

d 0 0 1 0 0 0

e 0 0 0 1 1 0

R

f 0 0 0 0 0 1

Page 6: 両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure …

れた束の大きさに注意しなければならない. 束の大きさは束に含まれる元の個数により決まるが, 元の個数が少なければそもそも補元になる確率=

相補性がさがる. また, 補元関係も一対一になり易く, 言い換えると束のサイズが小さくなればそれだけ非分配性が下がる可能性が高くなる. したがって, 束のサイズを制限しなければならない. ここでは簡単のために, 束のサイズ(S)=リレ

ーションのサイズ=(0成分以外をもつ行の数)

×(0成分以外をもつ列の数)で定義する. 例えば, 6次の単位行列のサイズは6×6=36である. 実験・コントロールにおいては同値類の数は6なのでサイズは0~36の値をとる. 本稿においてはリレーションサイズ30以上と制限する. つまり, サイズとしては30または36のみである. 行と列でみると5×6, 6×5, 6×6の三つの場合のみになっている. リレーションサイズの条件を満たすものは, 実

験においては119サンプル, コントロールにおいては92697サンプルであった. したがって, これらのサンプルについて非分配性・相補性を計

算し, その相対的頻度分布を比較する(図4). まず, 一目してわかることはコントロールで

は非分配性・相補性ともに広く分布(図4(a))している一方, 実験の分布(図4(b))は相補性の値がバラけているが非分配性は 1.0 付近に集中していることである. 実際, 平均・分散を計算してみると, 相補性については , コントロールでは平均0.6587・分散 0.06978, 実験では平均 0.7757・分散 0.05367 であった. 非分配性では, コントロールで平均 1.331・分散 0.1391, 実験で平均 1.055・分散 0.03063であった. Student’s t-testでは相補性・非分配性ともに1%水準で有意差がでた(t値は相補性 4.830, 非分配性 8.074). とくに注目すべきは, 実験における非分配性で

ある. この平均値が 1.055 となっており, 百分率では非分配性=1.0 になっているものが実に80.67%(分配束は 79.83%)であった. コントロールでは平均 1.331で 29.94%(非分配性=1.0)であった. つまり, コントロールにくらべ両義図

形では分配性が非常に高くなっている(非分配性

が非常に低くなっている)という結果を得た.

(a) (b) 図4 (a) コントロール (b) 実験(実験では

重ならないように点をCの方向にずらして示した)

5. 考察 図と地は形として浮かび上がる領域とその背景

として知覚される領域のことであるが, 図形認識が成立するときその図形は図と地に分離され知覚

されると考えられる. 例えばルビンの壺の場合では, 図地反転現象が起こるが, 一つの知覚が成立している状態ではその知覚に対応する図地分離が

成立していると考えて良い. 中央の壺が知覚されているときは, 壺が図になり他の部分(向かい合う顔)が地になる. また, 向かい合う顔が知覚されているときは逆の図と地の対応になる. また, 図形のシルエット(形)についてだけで

はなく, 図形の個々の分割に対しても同じことがいえる. 例えば, 顔の絵の分割を考えてみる. 分割が{目, 鼻, 口, 耳, 顎, 髪}となっていたとする. {目}に注視すると, その部分が図となり地は残りの{鼻, 口, 耳, 顎, 髪}になる. あるいは{鼻, 口}が図のときは, 地は{目, 耳, 顎, 髪}となっている. つまり, 図形のシルエットやその分割などに対

Page 7: 両義図形における図と地:ラフセット誘導束を用いた解析 Figure …

して知覚が成立しているときには, 図と地は完全に分離されている. この時, その知覚に応じた図に対して地が決定される. 言い換えれば, 知覚=図地分離が成立しているとき, 図と地が一対一に対応していることになる. 本稿では図と地の関係は補元関係で与えられて

いた. しかし, 補元関係は必ずしも一対一に対応しているとは限らない. 特に論理構造が非分配束の場合は補元関係は一対多になる. これは図と地が一対一に対応していないことであり図地分離が

成立していないことである. 一方, 論理構造が分配束になっている場合は補元関係=図地関係が一

対一対応しているので, 図地分離が成立していることになる. ところで, 実験結果から両義図形の論理構造は

分配性(分配束である割合)が非常に高い. また, コントロールにおいてはその論理構造の分配性は

低い. つまり, 両義図形の論理構造は図地分離が成立している一方, コントロールにおいては成立していないと考えられる. 言い換えると, 両者ともに異なる解釈(属性による分割)が混在してい

るが, 両義図形のみが分配束=図地分離が成立する独特な論理構造を有しているといえる. では, 分配束の出所はどこか?それは両義性そ

のものから来る. 両義性とは二つの異なる解釈において双方で意味を有し, また無視できないものである. 言い換えると, 両義的な点を双方の解釈において同値類で被覆しようとすると, その点において二種類の同値類の間で包含関係が生じざる

おえないことになる. 例えば, 婦人と老婆の両義図形で考えてみる. 婦人の解釈における{{目}, {鼻}}という同値類があったとし, この二つの両義的な点はもう一方の老婆の解釈においてはどの

ような覆い方があるのかみてみる. {右目}という一つの同値類で覆われることになるかもしれな

い. あるいは{両目}というさらに大きな同値類で覆われるかもしれない. いずれにせよ, この両義的な点を経由して二つの解釈の同値類の間で包

含関係({目}, {鼻}⊆{右目}あるいは{目}, {鼻}⊆{両目})が形成されている. もちろん一

方の解釈の同値類が包含するだけでなく逆方向の

包含関係もあり得る. そして, すべてが部分的な包含関係にあるとき, 論理構造はブール束になる. そこから一部がくずれた形になった場合, 包含関係が存在する領域とエンタングルした領域とに分

かれる. 非分配性はこのエンタングルした領域からサブラティスとして非分配束(N5や M3)が形

成されることに起因している. しかし, その部分束は論理構造(リレーションサイズ)が小さくな

るので一般的に非分配束が生じる確率は小さい. したがって部分的な包含関係が存在する領域があ

れば, その論理構造は分配束になる可能性が大きい. 翻って両義性から論理構造としての分配束が抽出されるといえる. もちろんコントロールはランダムでありそのような両義性を有しないことか

ら一般的にはその論理構造は分配束にはならな

い.

参考文献

[1] Rubin, E., (1915) “Synsoplevede Figurer”, Gyldendal, Koebenhavn.

[2] Koffka, K., (1935) “Principles of Gestalt Psychology”, Routledge & Kegan Paul, London.

[3] Huang, K.-C., (2008) “Effects of computer icons and figure/background area ratios and color combinations on visual search performance on an LCD monitor”, Displays, Vol. 29, Issue 3, pp. 237-242.

[4] Loss, L., Bebis, G., Nicolescu, M., Skurikhin, A., (2009) “An iterative multi-scale tensor voting scheme for perceptual grouping of natural shapes in cluttered backgrounds”, Computer Vision and Image Understanding, Vol. 113, Issue 1, pp. 126-149.

[5] Huang, L., Pashler, H., (2007) “A Boolean Map Theory of Visual Attention”, Psychological Review, Vol. 114, No. 3, pp. 599-631.

[6] Pawlak, Z., (1981) “Information

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[7] Pawlak, Z., (1982) “Rough Sets”, International Journal of Computer and Information Science, Vol 11, pp. 341-356.

[8] Gunji, Y.-P., Haruna, T., (2010) “A Non-Boolean Lattice Derived by Double Indiscernibility”, Transactions on Rough Sets Ⅻ, LNCS, vol. 6190, pp. 211-225.

[9] Birkhoff, G., (1967) “Lattice Theory”, Coll. Publ., XXV, American Mathematical Society, Providence.

[10] Davey, B.A., Priestley, H.A., (2002) “Introduction to Lattice and Order, 2nd ed”, Cambridge University Press, Cambridge.

[11] Fig. 2 (a) Lucks Inc. [a blog, in Japanese], http://www.lucks.tv/blog/455.html

[12] Fig. 2 (b) Juggler News [a blog, in Japanese], http://montafresh.exblog.jp/9708641/

[13] Fig. 2 (c) Lalala Meditation [a blog, in Japanese],

http://plaza.rakuten.co.jp/vijay/diary/200507060001/

[14] Fig. 2 (d) Uguisu No Kimyouna Seikatsu [a blog, in Japanese],

http://ugisu.blog71.fc2.com/blog-category-9.html

[15] Fig. 2 (e) Kokoro To Karada No Iyashi No Message (A Healing Message for the Heart and the Body) [a blog, in Japanese], http://kkmessage.exblog.jp/9029398/

[16] Fig. 2 (f) Tayama Lab., Department of Psychology, Hokkaido University, http://www3.psych.let.hokudai.ac.jp/tool/maekawa/ojisamahamajo.gif