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第63回CRCC研究会
中国の人口変動と
労働市場の構造変化
厳 善平(同志社大学)2013年8月29日(木)
JST東京本部別館1Fホール
要旨
• ここ30年余りの中国で、1人っ子政策を柱とする計画生育政策が採られ
続けている。それによって人口規模の増大速度が抑制されたが、少子高
齢化という先進国型の人口問題も生み出されている。
• 中国の労働力人口は、2012年に減少に転じ、高度成長を支えてきた人
口ボーナスも消失しつつある。一方、高齢人口比率が急上昇し、医療費
や年金といった負担も社会に重く圧し掛かる。
• 中国は日本など先進国と異なり、経済的に豊かになる前に老いてしまう
という「未富先老」の難局に直面している。
• 本報告では、人口センサス等の統計を用いながら、中国における人口変
動の実態と背景を解説し、人口変動の労働市場への影響を分析する。
• 併せて、戸籍制度、定年制度および計画生育政策、といった人口・労働
問題に関わる重要な政策・制度の改革について、それぞれの進捗状況
を紹介し、中国が「未富先老」を乗り越えられるかについて検討する。
2
内容構成
はじめに
Ⅰ
経済成長とそのメカニズム
Ⅱ
中国の人口動態
Ⅲ
労働市場の構造変化
Ⅳ
労働供給の展望
Ⅴ
少子高齢社会への対策
むすび
3
はじめに
• 第18回共産党全国大会で、指導部が交代(2012年11月)
• 第12回全国人民代表大会で、新指導部が本格始動(2013
年3月)
• 新指導部の目標(「中国の夢」=チャイニーズドリーム)
①2020年のGDPおよび1人当たり所得を2010年比で倍増し、比
較的豊かな生活を送る(2021年は中国共産党建党100周年)。
②建国100周年(2049年)に、富強で民主的・文明的・調和的な社
会主義近代国家を作り上げて、中華民族の偉大な復興を成し
遂げる。
4
Ⅰ 経済成長とそのメカニズム
・高度成長⇒経済大国
・人口ボーナス⇒高い貯蓄率による物的資本の投入拡大
・安価で豊富な労働力の供給拡大
・学校教育に現れる人的資本の蓄積
・改革開放の初期条件:毛沢東時代の教育制度、近代的産業 の受け皿、社会経済の組織資源
・政府の統治能力:先進国とのキャッチ=後発者の利益を追求 する能力、社会秩序の維持、インフラ整備、全方位的外交、 集団指導体制・指導者の任期制・指導者選抜の制度化
・中国を取り巻く国際環境:世界平和、国際経済大循環
5
大躍進
運動の
失敗
文化大革命・
失われた十
年
改革開放時代へ:農業改革、企業改革、
対外開放
新中
国成
立
中国統計年鑑より作成。6
1952年を1とする
GDPの倍数(右軸)
経済成長率(左軸)
0
20
40
60
80
100
120
-30
-20
-10
0
10
20
30
1952
1954
1956
1958
1960
1962
1964
1966
1968
1970
1972
1974
1976
1978
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
実質GDP成長率・%
年
中国経済の成長と 変動経済大国への道程
7
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
18000
1980
年
1982
年
1984
年
1986
年
1988
年
1990
年
1992
年
1994
年
1996
年
1998
年
2000
年
2002
年
2004
年
2006
年
2008
年
2010
年
2012
年
(10億
USド
ル)
購買力平価換算のGDP
中国
日本
アメリカ
インド
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
18000
1980
年
1982
年
1984
年
1986
年
1988
年
1990
年
1992
年
1994
年
1996
年
1998
年
2000
年
2002
年
2004
年
2006
年
2008
年
2010
年
2012
年
(10億
USド
ル)
名目GDP(国内総生産)
中国
アメリカ
日本
インド
・名目GDPでみると、2010年に、中国は
日本を抜いて世界第2位に躍進した。・購買力平価でみるなら、2002年に、日
中逆転がすでに起こった。
IMF -
World Economic Outlook Databases より作成。
中国統計年鑑より作成。
8
79.4
62.6
49.8
34.2
47.9
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
1940 1960 1980 2000 2020 2040
(%)中国の人口ボーナス
農村貯蓄率([純収入
-消費支出]/純収入)
都市貯蓄率([可処分
所得-消費支出]/可処分所得)
被扶養人口比率([14歳以下+65歳以
上]/[15-64歳人口])
・社会の負担が軽くなり、家計貯蓄率が高まる。・高い経済成長に伴って個人の収入が増え続ける。・1人っ子政策で少子化が進み、養育費や教育費が少ない。・高齢人口比率が低く、介護、医療にかかる費用が少ない。・社会保障制度の整備が遅れ、老後のための貯蓄が多い。・社会全体として所得が消費を上回り、貯蓄の多い状況が続く。
社会の負担が軽くなる
人口ボーナスが発生する。
9
年
(%) (万人)
60
63
66
69
72
75
78
50000
60000
70000
80000
90000
100000
110000
1982
1987
1990
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
中国の労働力人口
15-64歳人口(万人)
対総人口比(%)
・1970年代までの高い出生率は、80年代以降の労働力人口の急増をもたらした。・1980年代以降の1人っ子政策は、80年代以降の労働力人口比率を押し上げた。
中国統計年鑑より作成。
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800198
5198
6198
7198
8198
9199
0199
1199
2199
3199
4199
5199
6199
7199
8199
9200
0200
1200
2200
3200
4200
5200
6200
7200
8200
9201
0201
1
(万人)最終学歴別新規求職数の推移
中卒求職者 高卒求職者
職業高校新卒者 大学院修了者
大卒等求職者
2.8
8.4
36.7
0
400
800
1200
1600
2000
2400
2800
0
5
10
15
20
25
30
35
40
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(万人)(%)
年
大学等の在校生数および進学率の推移
大学本科・専科等の在
校生数(右目盛)
進学率(入学者の18歳
人口比・左目盛)
中卒以上新規求職者数および最終学歴別構成の推移
年次
新卒求職者総数(万人)
大卒等求職者
(%)
大学院修了者
(%)
職業高校新卒者(%)
普通高卒求職者(%)
中卒求職者(%)
1980 1161.0 1.2 0.0 0.7 50.7 47.4
1985 829.3 3.2 0.2 5.0 16.2 75.3
1990 1059.5 5.5 0.3 8.4 16.2 69.5
1995 1075.3 7.0 0.3 11.5 10.1 71.0
2000 1296.9 6.3 0.5 13.6 6.2 73.4
2005 1585.9 17.0 1.2 10.7 9.9 61.1
2010 1612.1 35.7 2.4 14.5 11.4 40.3
・2011年に、15歳以上人口の平均教育
年数は9年、新規就職者の平均教育年
数は12年に増えた。・18歳人口に占める中卒以上の割合は
1990年の43%から、2000年の56%に、さ
らに10年の87%に上昇した。・大学等の進学率は、1985年に2.8%、
99年に8.4%、2012年に36.7%へ上昇。
高等教育はエリートの養成から大衆の
教養向上に転換した。
中国統計年鑑、人口センサス2010年より作成。10
11総務省統計局より作成。1956-73年平均9.1%、74-90年平均4.2%、
91-2011年平均0.9%
15-64歳人口比率
経済成長率
-4
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
54
56
58
60
62
64
66
68
70
7219
4719
5019
5319
5619
5919
6219
6519
6819
7119
7419
7719
8019
8319
8619
8919
9219
9519
9820
0120
0420
0720
10
(%)日本の生産年齢人口と経済成長
Ⅱ 中国の人口動態
• 圧縮された人口転換
• 速すぎた少子高齢化
• 1人っ子政策と合計特殊出生率
• 合計特殊出生率の読み方
12
1970年代末以来、1人っ子政策を柱とする計画生育政策が採られた結果、
中国の人口転換は早くも先進国型の少産少死局面に突入し、そのプロセス
が大幅に圧縮された。
13
増加率
0
8
16
24
32
40
48
0
2.5
5
7.5
10
12.5
15194
9195
1195
3195
5195
7195
9196
1196
3196
5196
7196
9197
1197
3197
5197
7197
9198
1198
3198
5198
7198
9199
1199
3199
5199
7199
9200
1200
3200
5200
7200
9201
1
(‰)(億人) 中国の人口転換
総人口
出生率
死亡率
中国統計年鑑より作成。
・出産制限で人口の規模増大が抑制され
た。・一方で、少子化も高齢化も急速に進んだ。・中国は日本など東アジアよりも速いスピー
ドで高齢社会に進む見通しだ。
14
33.6 14歳以下
22.9
16.6
15.7
13.6
4.9 7.0 8.9
65歳以上14.0
23.3
0
5
10
15
20
25
30
35
40
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040
(%)
年少・高齢人口割合(2015年以降は予測)
・日本は高齢化社会から高齢社
会(65歳以上人口割合が7% → 14%)への移行に24年間かかる。
・日本は1990年ごろ少子社会(0- 14歳人口割合が18%以下)に突
入した。・日本はいま、超高齢社会である
(65歳以上人口割合が24%)。
中国統計年鑑、日本総務省統計局、世界銀行より作成。
14歳以下人口
17.7
13.2
7.1
65歳以上人口14.1
23.0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
1947
1950
1953
1956
1959
1962
1965
1968
1971
1974
1977
1980
1983
1986
1989
1992
1995
1998
2001
2004
2007
2010
(%)日本の少子・高齢人口比率
国家統計局の人口センサスなどに基づいた合計特殊出生率(TFR)は1992
年に2を下回り、近年は日本のTFRよりも低い。国家人口・計画生育委員会(計生委)のTFR統計では、1.8~1.6という高め
の数字が採用されている。中国のTFRに謎が多い。15
0
300
600
900
1200
1500
1800
2100
2400
0
1
2
3
4
5
6
7
8
1949
1952
1955
1958
1961
1964
1967
1970
1973
1976
1979
1982
1985
1988
1991
1994
1997
2000
2003
2006
2009
(
合計特殊出生率)
合計特殊出生率と人口動態
年次増加数(右軸)合計特殊出生率計生委統計
中国統計年鑑、若林・聂(2012)等より作成。
・2010年センサスの10-21歳人口は2000年センサスの同年齢層(0-11歳)
より1890万人多い(9%相当)。うち、女児が1205万人と64%を占める。・女児を主とする児童人口の過少申告が相当存在すると考えられる。
計生委のTFRを支持する材料①
16
(万人) (%)
-9
-6
-3
0
3
6
9
12
15
18
21
-100
-50
0
50
100
150
200
250
300
350
10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40
2000年、2010年人口センサスにみる申告漏れ
女性(左軸)男性(左軸)2000年調査人口の%
2000年・2010年人口センサスより作成。
人口センサスは最も権威の高い人口統計で、それによるTFRの信憑性
は高いはずだが、小学校入学者数や複数の人口センサスで検証して
みると、計生委のTFRが支持されるデータもある。
計生委のTFRを支持する材料②
17
-500
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
(万人)出生年次別6歳人口数と小学校入学者数の推移
2010年と
の差
2000年と
の差
小学校入
学者数
2000年セ
ンサス
2010年セ
ンサス
2000年・2010年人口センサス、中国統計年鑑より作成。
2005年1.34
2010年
1.18
2000年1.22
0102030405060708090
100110120130140150
15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49
(‰)合計特殊出生率の推移
都市0.89
鎮1.16
農村1.44
0102030405060708090
100110120130140150
15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49
(‰)都市農村別合計特殊出生率(2010年)
時間の経過
とともに、晩
婚化が進み、
合計特殊出
生率も下が
る。
合計特殊
出生率は、
農村>鎮
>都市。
20.0
23.8
19.2
23.2
20.6
25.3
18
20
22
24
26
結婚年代別にみる結婚年齢
(農家調査に基づく)
安徽 江西 浙江
24.9
28.8
21.6
26.4
20
22
24
26
28
30
(
初婚年齢・歳)
結婚年代別上海市戸籍人口の初婚年齢
男性 女性
晩婚化
18
出所:2010年人口センサスより作成。
0
100
200
300
400
500
600
15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35
(万人)
初婚年齢別・学歴別人数分布(2010年)
学歴なし[21.4歳]
小学[22.1歳]
中学校[22.6歳]
高校[23.8歳]
大学専科[24.7歳]
大学本科[25.6歳]
大学院[26.6歳]
高学歴化は晩婚 化をもたらす。
19
省市区別にみる出生率と教育・都市化・所得、所得と余命(2010年)
2010年人口センサス、
中国統計年鑑より作成。
・合計特殊出生率は、
都市化水準、高学歴
者比率、1人当たり
所得と負の相関関係
をもつ。↓
・都市化が進むほど、
平均教育水準が高
いほど、所得が増え
るほど、合計特殊出
生率が下がる傾向
がある。↓
・中国の人口変動は、
出生率に関する基本
法則に合致する。
y = 3320.57 x(0.47)
R² = 0.46
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
0 10 20 30 40
出生率と大専卒以上人口比率
y = 57178.00 x(0.38)
R² = 0.48
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
0 20000 40000 60000 80000
出生率と所得
y = 2,107.312 e(0.012)x
R² = 0.476
0200400600800
100012001400160018002000
0 20 40 60 80 100
出生率と都市人口比率
ln(y) = 0.065 ln(x) +3.65
R² = 0.65
66
68
70
72
74
76
78
80
82
0 20000 40000 60000 80000
(
平均余命)
平均余命と所得(2010年)
20
Ⅲ 労働市場の構造変化
• 買い手市場から売り手市場へ
• 賃金の急上昇
• 人手不足・賃金上昇の虚実
計画生育政策:人口増の減速
戸籍制度:農民工の非効率的利用
定年制度:若すぎた平均退職年齢
「三農政策」:農家の収入増と最低賃金
高等教育の発展:労働需給のミスマッチ
21
0.60
0.65
0.70
0.75
0.80
0.85
0.90
0.95
1.00
1.05
1.10
01年
第1Q
01年
第2Q
01年
第3Q
01年
第4Q
02年
第1Q
02年
第2Q
02年
第3Q
02年
第4Q
03年
第1Q
03年
第2Q
03年
第3Q
03年
第4Q
04年
第1Q
04年
第2Q
04年
第3Q
04年
第4Q
05年
第1Q
05年
第2Q
05年
第3Q
05年
第4Q
06年
第1Q
06年
第2Q
06年
第3Q
06年
第4Q
07年
第1Q
07年
第2Q
07年
第3Q
07年
第4Q
08年
第1Q
08年
第2Q
08年
第3Q
08年
第4Q
09年
第1Q
09年
第2Q
09年
第3Q
09年
第4Q
10年
第1Q
10年
第2Q
10年
第3Q
10年
第4Q
11年
第1Q
11年
第2Q
11年
第3Q
11年
第4Q
12年
第1Q
12年
第2Q
12年
第3Q
12年
第4Q
13年
第1Q
13年
第2Q
中国における求人倍率の推移
労働不足の時代へ突入
不景気と
V字型回復
労働不足の常態化
無制限労働供給の時代
近年の学歴別求人倍率
2011年2012年
1Q2012年
2Q2012年
3Q2012年
4Q2013年
1Q
中卒以下 1.12 1.09 1.05 1.08 1.10 1.09
高卒 1.14 1.14 1.10 1.09 1.12 1.15
職業高校 1.36 1.35 1.31 1.34 1.27 1.37
大学専科 0.94 1.01 1.00 0.96 1.01 1.02
大学本科 0.85 0.96 0.94 1.04 0.93 1.03
修士 0.98 1.03 1.18 1.15 2.24 3.03出所:中国就業網(http://www.chinajob.gov.cn/DataAnalysis/content/2013-07/08/content_822968.htm)
1.00(16-24歳)
1.18(25-34歳)
1.06(35-44歳)
0.77(45歳+)
0.40
0.60
0.80
1.00
1.20
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
年齢階層別求人倍率の推移
22
中国統計年鑑より作成。
都市部における実質平均賃金の推移(正規雇用)
23
全体
5182
(元/人・年)
年
一次産業
2298
製造業
4289
建設業
3817
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
主要産業別の実質賃金の推移
(1978年の都市消費者物価を100とした指数で)
転換点
①全産業の年平均伸び率は
1978-97年4.2%、1997- 2008年13.1%。
②農民工が参入する製造業、
建設業等は全産業との開き
が拡大。
中国統計年鑑より作成。
24
85 190
518
2290
0
500
1000
1500
2000
2500
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
(
元/月)
農民工の名目収入の推移
78 88 119
395
0
50
100
150
200
250
300
350
400
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
(
元/月)
農民工の実質収入( 1980年価格)
期間別にみる年平均伸び率(%)
期間 名目1980-1990年 8.41990-2000年 10.52000-2012年 16.0
期間別にみる年平均伸び率(%)
期間 実質1980-1990年 1.21990-2000年 3.12000-2012年 12.7
注:2000年までは蘆鋒(2012)、01
年以降は国家統計局
「農民工監
測報告」(各年)等、による。
・2000年まで、名目収入が増え続けたが、消費者物価指数で
実質化した実質収入はほぼ安定していた。
・2000年から12年まで、農民工の名目収入が4・42倍になった。
年平均伸び率は名目で16・0
% 、 実 質 で 12
・7
% 、 で あ っ た 。
・都
市 部 の 正 規 雇 用 に 比 べ て 、 農 民 工 の 平 均 月 収 は 20
00年代
以降、製造業で6割程度、全産業で5割強、にとどまる。
企業サンプル
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
(元)上海市外来就業者の初任月給
上海市に来て、最初就職した時の月給を見ると、サンプル数の少ない1995年までを除くと、
初任給がストレートに上がってきたことが分かる。「2009年上海市就業調査」より作成。
25
490
535
570
635
690
750
840
960
960
1120
1280
1450
1620
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
(元/月)
年
上海市における最低賃金の推移
y = 1.0856x - 0.4666R² = 0.6675
0.02.04.06.08.0
10.012.014.016.018.020.0
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0
最低
賃金
農家純収入
上海市の最低賃金と全国農家名目純収入の
伸び率(2002-2012年)
・上海市の最低賃金(月額)は、12年間で3.3倍になった。・年平均伸び率は10.5%だが、2001-12年における全国農家1
人当たり名目収入の年平均伸び率11.5%に及ばなかった。・最低賃金と農家名目収入の伸び率の相関係数は0.82(ただ
し、2009年を除く)。
中国統計年鑑、上海統計年鑑より作成。 26
• 労働力人口の推移
• 法定退職人口と18歳人口の推移
• 就学率と就業率
• 女性の労働市場からの退出
Ⅳ
労働供給の展望
27
・20-39歳の青壮年人口は、実に2002年以降減り始めた。・国際基準では、中国の生産人口は2016年にピークを迎える。・中国の法定退職年齢では、生産人口は2011年以降逓減する。・国際的にみれば、中国に依然膨大な潜在労働力が存在する。 28
(A-B):
潜在労働力
2011年
8億9437万人
B:男性15-59歳
女性15-54歳
2016年
10億935万人
A:15-64歳
2002年
4億5610万人C:20-39歳
0
20000
40000
60000
80000
100000
120000
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
2018
2020
2022
2024
(万人)生産年齢人口の推移
2010年人口
センサスより作成。
・全国の18歳人口と現行制度下の定年人口の推移を見比べると、
2010年代初めに、労働の需給関係が逆転するように見える。
29
出所:人口センサス(2000年、2010年)より筆者作成。
18歳人口
法定の定年人口
(男60歳+女55歳)
0
1000
2000
3000
中国の労働力人口・18歳人口・定年人口
・農村から都市への人口移動を出稼ぎ型から移住型に変えることができ
れば、当分の間、農村は都市の重要な労働供給源であり続ける。
30
出所:人口センサス(2010年)より筆者作成。
0
500
1000
1500
2000
2500 (万人)
定年人口と18歳人口の推移
都市部18歳人口
農村部18歳人口
都市部定年人口
・大学など高等教育の発展で就学率が上昇しているが、就業率はその上昇
幅以上に低下した。・若年女性を中心に労働市場に参加しない人が増えているためである。
31
出所:『中国統計年鑑』より作成。 出所:2000年、2010年人口センサスより作成。
81.3 就業率
75.4
1.8
就学率
(%)
5.6
0
1
2
3
4
5
6
70
72
74
76
78
80
82
1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011
(%)
就業者・就学者比率の推移
男性/2000女性/2000
男性/2010
女性/2010
(%)
20
30
40
50
60
70
80
90
100
性別・年齢階層別就業率の変化
・16歳以上人口は、農村部と都市部がほぼ半々を占める。・就業者は、16歳以上人口の7割弱だが、都市部ではそれが低い。・時代遅れの定年制度は、都市部の就業率を低下させ、労働力の有効
利用を妨げている。
32
16歳以上人口の分布状況および就業状態(2010年) 単位:%
全国 都市 鎮 郷村
全体 100 31.5 19.2 49.3
就業者 68.9 18.5 12.5 37.9
失業者 2.0 1.1 0.5 0.5
非就業者 29.0 11.9 6.2 10.9
就業者 68.9 58.8 65.1 76.9
失業者 2.0 3.5 2.5 0.9
非就業者 29.0 37.7 32.4 22.2
全体 100 100 100 100
出所:2010年人口センサスより作成。
16歳以上人口を100とした構成比
居住地別にみる就業の有無構成比
Ⅴ 少子高齢社会への対策
• 人口オーナス社会の到来
• 戸籍制度改革で目下の人手不足に対応
• 定年制度改革で中期的人手不足に対処
• 人口政策改革で長期的な少子高齢化を克服
33
・2010年までの30年間、従属人口指数が下がり続け、人口ボーナス
が現れた。だが、2010年以降は人口オーナスに変わる。・高齢者を支える現役世代の負担は急速に重くなる。
人口オーナス社会の到来
34
34.2
40.3
従属人口比
率(①+②)
45.1
①年少従属
人口比率
22.3 23.5
②高齢従属
人口比率
11.9 16.8
23.9
0
10
20
30
40
50
60
70
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040
(%)
中国における少子高齢化の推移
(2015年以降は世界銀行の中位予測)
12.5 12.1 12.0
10.8 10.1
9.4 8.4
7.7
5.9 5.0
4.2 3.3
2.7
0
2
4
6
8
10
12
14
1982
1987
1990
1995
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
15-64歳/65歳以上
中国統計年鑑等より作成。
戸籍制度に対する改革
• 2011年の総人口13億4531万人の内、農業戸籍は65.8%、都 市戸籍は34.2%を占める。
• 「一国二戸籍」は1958年制定の戸籍登記条例が根拠法。
• 最大の特徴は、出生時に母親の戸籍を受け継ぎ、農業から 非農業への戸籍転換に厳しい制限があることである。
• 農村から都市への移動≠移住ではない。農村出身の出稼ぎ 労働者=農民工は使い捨て労働者となり、労働力の有効利 用ができずにいる。⇒見かけての人手不足が顕在化。
• 戸籍制度およびそれと関係する社会保障制度を改革し、少 なくとも、1980年代以降生まれの新世代農民工の都市定住 ができるようにする。
35
A.(1984年通知,約900字) E.(2001年通知,約2000字) F.(2011年通知,約2500字)
時代背景 郷鎮企業が急成長し非農就業者が増える。
高度成長に伴い農村から都市への人口移動が大規模化する。
調和社会の構築,都市農村の一体化が理念に掲げられる。
戸籍転入の対象地域
郷鎮政府の役場が設置される町(集鎮)。ただし,県役所の立地する「城関鎮」を除く。
①県級市の市区②県役所の立地する「城関鎮」③その他「建制鎮」
①県級市の市区②県役所の立地する「城関鎮」③その他「建制鎮」④直轄市・省都等を除く中小都市
戸籍転換の必須条件
町に固定の住居を持ち,経営能力を有し,あるいは郷鎮企業で長期的に働いている。
対象地域に固定の住居を持ち,安定した職業あるいは収入源を有する。
安定した職業を有し,かつ,安定的な住居(賃貸を含む)に住んでいる(①~③)。ただし,④については勤続3年以上,社会保険の加入年数も勘案される。
戸籍転換の有資格者
町で非農業に従事する農民とその家族
本人および共に暮らす直系の親族 本人および共に暮らす配偶者,未婚の子供,父母
戸籍転換者の権利義務
①町内会(居民委員会)に加入し,元住民と同等の権利を享受し負うべき義務を履行する。②村から請負った土地を他人にまた請負することができるが,耕作放棄をしてならない。
①土地の請負権を保留することができ,他人へのまた請負いも可能である。②耕作放棄,農地転用を防がなければならない。③入学,入隊,就業等で元住民と同等の権利を享受し同等の義務を履行する。
①農民の持つ宅地の使用権と,農地の請負権が法によって保護され,そうした権利を放棄するか否かは農民自身の意思によって決定されなければならない。②戸籍転入者に元住民と同等の権利を保証する。
出所:法律図書館(http://www.law-lib.com/law/)に基づいて筆者作成。
改革開放期における戸籍制度改革の動向 (発布主体/題名/発布の年月日)
A.国務院/関于農民進入集鎮落戸問題的通知/1984年10月。B.公安部/関於実行当地有効城鎮居民戸口的通知(藍印戸口)/1992年8月。C.公安部/小城鎮戸籍管理制度改革試点方案和関于完善農村戸籍管理制度意見的通知/1997年6月。D.公安部/関于解決当前戸口管理工作中幾箇突出問題意見的通知/1998年7月。E.公安部/関于推進小城鎮戸籍管理制度改革意見的通知/2001年3月。F.国務院弁公庁/関于積極穏妥推進戸籍管理制度改革的通知/2011年2月。
36
非農業人口
伸び率・左目盛
都市人口割合
右目盛
非農業人口
割合・右目盛
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
-10
-5
0
5
10
15
20
25
30194
951
53
55
57
59
61
63
65
67
69
71
73
75
77
79
81
83
85
87
89
91
93
95
97
99
200
1200
3200
5200
7200
9201
1
(%)(%) 都市人口および非農業人口の推移
中国統計年鑑、中国人口統計年鑑等より作成。 37
都市人口と非農業人口の乖離
は、都市部に住む農民工および
その同居家族が2億人以上いる
ことを物語る。
流動人口
960
戸籍人口
1422
常住人口
2383
0
500
1000
1500
2000
2500
1978
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
(万人) 上海市の人口推移
人口類型別年平均伸び率 単位:%
期間 戸籍人口 常住人口 流動人口
1980~1990年 0.11 0.15 2.49
1990~2000年 0.29 1.89 18.94
2000~2010年 0.62 3.27 10.07
2010~2012年 0.36 1.72 3.85
1980~2012年 0.68 2.30 17.52
出所:『上海統計年鑑』(2012年)より筆者作成。 38
常住人口ベースの都市化率は上昇し続けるが、現住
地への戸籍転入が認められない「流動人口」が多く
含まれるため、「農民工」を主体とする流動人口は
中途半端な「市民」でしかなく、統計上の都市化率
も水増しを含んでいるといわれる。
社会保障制度に対する改革
• 現行定年制度は、国務院が1978年に頒布した「労働者、職員の退職に関
する暫定規定」を根拠としており、その原型は国務院が1958年に制定施行
したものである。
• 第1に、退職とは、所定の年齢を満たし、または労災、病気で働く能力を完
全に失った者が職場を退いて年金等の社会保障制度を享受することであ
る。
• 第2に、定年とは、男性が60歳、ホワイトカラーの女性が55歳、ブルーカ
ラーの女性が50歳(ただし勤続10年以上)であることを意味する。
• 第3に、鉱山、高温など特殊な環境下で働く者は5歳前倒しして退職し、病
気や傷害理由の早期退職も認められる。
• 実際の退職年齢が若い。2010年頃に、男女の平均は52歳程度。
• 教育年数が伸長し(新規就職者が12年)、平均寿命も伸び続けている(2012
年、75歳)。
• 制度改革の研究が始まったが、利権関係が絡み、先行きが読めにくい。
39
退職年齢の 引き上げに 関する特権 階級と労働 者階級が激 しく対立
財政網より。
本当は、
この椅子に
さらに500
年居座りた
いんだ!
本当は、明
日にでも退
職したいと
思っている
のにヨ!
40
少子高齢社会の姿
http://www.zqsz.cn/yanjiuwangluo/ html/chengguozhanshi/chengguotu pian/2012/0106/3878_13.htmlより。
作者不詳。 41
中国の計画生育政策の推移
• 1955年3月
中国共産党中央「関於控制人口問題的指示」。
• 1962年末
党中央・国務院「関於認真提唱計画生育的指示」。
• 1973年
国務院直属の計画生育指導小組が成立、「晩・稀・少」がスロー
ガンに。• 1980年9月
党中央は、共産党員・青年団員に1人っ子政策への協力を呼
び掛ける。• 1982年9月 第12回党大会で計画生育政策を基本国策に位置づける。• 1982年11月
憲法を改正し1人っ子政策を柱とする計画出産を義務化。
• 1984年より
農村部では「1人っ子政策」を弾力的に運用する。
• 1985年より
中央政府は、全国の12県・市で「2人っ子政策」を社会実験し、
出生率への影響を検証する。• 2001年末
「人口・計画生育法」が成立、全国16市で人口・計画生育政策
の社会実験を開始(1人っ子であった夫婦同士には2人っ子政策を適用)。• 2006年より
低い出生率を維持する一方、人口素質の向上、歪な男女比
の是正、流動人口へのサービス強化、高齢化対策の検討を開始。• 2012年11月 第18回党大会で計画生育政策の基本方針を修正する。• 2013年3月
国家人口・計画生育委員会に対する機構改革を施行。
『北京晨報』20130807、『新京報』20130810より作成。42
共産党中央の人口政策に関する 基本方針の転換
• 第17回党大会(2007年10月)「坚持计划生育的基本国策、稳定低生育水平、提高
出生人口素质。」
⇒低い出生率を安定させること
• 第18回党大会(2012年11月)「坚持计划生育的基本国策、提高出生人口素质、逐
步完善政策、促进人口长期均衡发展。」
⇒徐々に計画生育政策を改善し、人口の長期的均衡発展 を促進すること
43
2013年3月
2013年3月、全人代の機構改革→国家人口・計画生育委員会の機能
が分解→衛生部・発展改革委員会に吸収
⇒「1人っ子政策」の見直しへの期待が高まり、様々な憶測も
⇒しかし、政府は従来の政策方針の変更を意味しないと否定
前 後44
計画生育政策の見直しに関して、専門家は以下のような 具体策を提案している。
・1人っ子の生育申請に対する許可制を廃止する。
・1人っ子同士の夫婦に加えて、片方が1人っ子であった夫婦 も、2人の子供を儲けることを認める。
・都市部でも農村部の「1人半政策」を実施する。
・2人目の子供を生む間隔への制限を廃止する。
・再婚する夫婦の間で2-3人の子供を生むことを認める。
・無条件に2人っ子政策を施行する。
⇒漸進的で、一元的な計画生育政策を採る方向へ
45
計画生育政策の廃止論
• 中国の人口政策と人口問題を扱った『大国空巣』(2007年)を 著して、広く注目された人口学者・易富賢は、中国が直ちに
現行の計画生育政策を廃止しなければ、近い将来取り返し のつかない事態が生じると警告する。
• 易によれば、今の中国では、生涯に子供を産まない女性の 比率は先進国並みの12.5%に上昇している。これを前提に考
えるなら、出生率1.6の達成も実に簡単ではない。例えば、女 性80人が子供128人を出産し、子供4人、3人、2人、1人、0 人を出産した女性がそれぞれ2人、13人、26人、29人、10人 という状態であれば、出生率は1.6になる。
• 今後、子供の養育費や教育費が高騰し、1人っ子世代の出 産意識も大きく変わる。若い世代には出産制限を加えなくて も、2人以上の子供を望まない人が増える。
46
むすび
• 中所得の中国では、少子高齢化が急進し、生産人口がついに減少する
局面に突入し、人口ボーナスから人口オーナスへの転換も進行している。
「未富先老」の陥穽から脱却するために、中国はしばらくの間、経済成長
を維持していく考えのようである。
• 目下の人手不足は主として、戸籍制度、定年制度、計画生育政策の欠
陥に起因したものであるが、戸籍制度改革を急いで農民工を有効に利用
できれば、労働の需給逼迫が大きく緩和できる。
• 中期的には、法定の退職年齢を引き上げ、就業期間を延ばすことによっ
て労働供給を増やすことも重要な対策になる。
• 長期的には、「1人っ子政策」を柱とする計画生育政策を見直し、出生率
を回復させることは、急激な少子高齢化およびそれによる諸問題を解決
する根本的な対策であろう。
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主要参考文献
• 厳善平『中国の人口移動と民工――マクロ・ミクロ・データに基づく計量
分析』勁草書房
2005年。
• 厳善平『農村から都市へ――1億3000万人の農民大移動』岩波書店
2009年。
• 厳善平『中国農民工の調査研究――上海市・珠江デルタにおける農民
工の就業・賃金・暮らし』晃洋書房
2010年。
• 厳善平「権力移行期の中国・下
7%成長の継続は可能(経済教室)」『日
本経済新聞』2012年11月22日。
• 厳善平「中国における少子高齢化とその社会経済への影響――人口セ
ンサスに基づく実証分析」『JRIレビュー』(日本総研)
No.4
2013年3月。
• 南亮進・牧野文夫編『中国経済の転換点』東洋経済新報社
2013年。
• 中兼和津次編『中国経済はどう変わったか――改革開放以後の経済制
度と政策を評価する』国際書院
2013年(近刊)。
• 蘆鋒「中国農民工工資走勢:1979-2010」『中国社会科学』2012年第7期。
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