2
Influence of smoking on perioperative oxidative stress after pulmonary resection. 肺切除術後の周術期酸化ストレスに及ぼす喫煙の影響 Vol.65 -5 論文 Research article WISMERLL JOURNAL 酸化ストレスに関して多岐にわたる分野で研究が行われています。 発表された論文の一部をご紹介します。 世界の酸化ストレスに関する論文紹介 ◆発表者 Mizuno Y et al.(岐阜大 学医学部高度先進外科) ◆掲 Surg Today.(2015) http://link.springer.com/article/1 0.1007/s00595-015-1132-4 目的 肺切除術前後の酸化ストレス の変化に及ぼす喫煙の影響を調べ た。 方法 治療的肺葉切除術を受けた原 発性肺癌患者 31 名を対象とした。 周術期の酸化ストレス度を血漿 derivatives of reactive oxygen metabolites(d-ROMs)レ ベ ル と biological antioxidant potential (BAP)を指標として評価した。患 者をグループ A(喫煙年 40 箱未満) とグループ B(喫煙年 40 箱以上) の 2 群に分けた。d-ROMs と BAP は、術 前、術 直 後、術 後 1、2、3 & 5 日後に採血し、測定した。 結果 全 31 症例において、術後 3 & 5 日後の d-ROMs 値は、術前値 よりも高かった。術後 2、3 & 5 後の d-ROMs 値の変化の程度は、 グループ A の方がグループ B より も顕著であった(1.05 ± 0.159 vs. 0.920 ± 0.205, p = 0.008; 1.20 ± 0.233 vs. 1.02 ± 0.186, p = 0.032; 1.34 ± 0.228 vs. 1.07 ± 0.200, p = 0.003)。他方、BAP には有意な差は見られなかった。 d-ROMs 値の最大増加度と BAP 値 の低下度は、それぞれ、喫煙量と有 意な負の相関を示した(|r| = 0.428, p = 0.016 と |r| = 0.357. p = 0.049)。 結論 肺葉切除手術による侵襲は酸化 ストレスを誘導する。その変化度は喫 煙量と相関していると考えられる。 Long-term stability of parameters of antioxidant status in human serum. ヒト血清中の抗酸化能指標の長期安定性 ◆発表者 Jansen E et al (オランダ) ◆掲 Free Radic Res. 2013; 47: 535-40. http://www.tandfonline.com/doi /abs/10.3109/10715762.201 3.797969#.Vvy6W2xf1JU 目的 血清(or 血漿)の抗酸化能を 市販の検査方法を使って測定した。 今回、4 種の検査法、TAS(総抗酸 化能)、TAS2、BAP(生物学的抗 酸化能)、西洋ワサビペルオキシダー ゼを使った酵素活性法(EAOC)を 使って、ヒト血清抗酸化能の長期安 定性を 12 ヵ月間保存サンプルを用 いて調べた。 方法 保管温度としては、一般的な -20, -70 (or -80), -196℃を 選 ん だ。 結論 いずれの保管温度でも 4 種の検 査結果すべてが安定であった。加えて、 保管温度の異なるサンプルの間に、統 計学的な有意差は見られなかった。抗 酸化能に寄与する 3 成分(尿酸、クレ アチニン、ビリルビン)についても、 保管温度間に有意差はなかった。それ 故、抗酸化能保持の為には、-20℃で の保管で充分であるが、より長期の保 存の為には、- 70/80° C での保管が望 ましい。

世界の酸化ストレスに関する論文紹介 Evidence for … of smoking on perioperative oxidative stress after pulmonary resection. 肺切除術後の周術期酸化ストレスに及ぼす喫煙の影響

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 世界の酸化ストレスに関する論文紹介 Evidence for … of smoking on perioperative oxidative stress after pulmonary resection. 肺切除術後の周術期酸化ストレスに及ぼす喫煙の影響

Influence of smoking on perioperative oxidative stress after pulmonary resection.

肺切除術後の周術期酸化ストレスに及ぼす喫煙の影響

Vol.65 -5 Vol.65 - 6

論文 Research article WISMERLL JOURNAL 論文 Research articleWISMERLL JOURNAL世界の酸化ストレスに関する論文紹介

酸化ストレスに関して多岐にわたる分野で研究が行われています。発表された論文の一部をご紹介します。

世界の酸化ストレスに関する論文紹介

5p 6p

◆発 表 者 Schöttker B et al(ド

イツ癌研究センター Heidelberg)

◆掲 載 BMC Med. 2015 Dec

15; 13(1):300.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pu

bmed/26666526

背景 老化とフリーラジカル/酸化

ストレス学説は注目されているが、

酸化ストレスマーカーと致死率との

関連を示す証拠はほとんどない。

方法 ドイツ・ポーランド・チェコ

共和国・リトアニアに住む住民コホー

トから 10,622 名の男女(年齢:

45-85 歳)を対象として、活性酸

素 種 濃 度 の 指 標 活 性 酸 素 代 謝 物

(d-ROMs)を、酸化還元状態の指標、

総チオールレベル(TTL)を測定した。

対象者の内 1,702 名が追跡期間中

に死亡した。

結果 酸化ストレスマーカーは、こ

れまでのコホート研究で示唆されて

いる炎症を含むすべての死亡原因と

は独立した致死要因であることが示

唆 さ れ た。d-ROMs 値 の 低 い(≤340 Carr U)群 に 比 べ て、高 値

(>500 Carr U)群 で は、心 血 管

(CVD)死亡率と強く相関し(相対

リ ス ク:5.09;95% 信 頼 区 間:

2.67-9.69)、がん死亡率(相対リ

ス ク:4.34;95 % 信 頼 区 間:

2.31-8.16)と も 相 関 し た。TTL

においては、CVD 死亡率の低下と

のみ関係していた(相対リスク:

1.30; 95 % 信 頼 区 間 , 1.15-

Evidence for the free radical/oxidative stress theory of ageing from the CHANCES consortium: a meta-analysis of individual participant data.

コンソーシアムからの “老化とフリーラジカル /酸化ストレス仮説” の証拠:個別対象者データによるメタ解析

◆発表者  Mizuno Y et al.(岐阜大

学医学部高度先進外科)

◆掲 載  Surg Today.(2015)

http://link.springer.com/article/1

0.1007/s00595-015-1132-4

目的 肺切除術前後の酸化ストレス

の変化に及ぼす喫煙の影響を調べ

た。

方法 治療的肺葉切除術を受けた原

発性肺癌患者 31 名を対象とした。

周 術 期 の 酸 化 ス ト レ ス 度 を 血 漿

derivatives of reactive oxygen

metabolites(d-ROMs)レベルと

biological antioxidant potential

(BAP)を指標として評価した。患

者をグループ A(喫煙年 40 箱未満)

とグループ B(喫煙年 40 箱以上)

の 2 群に分けた。d-ROMs と BAP

は、術 前、術 直 後、術 後 1、2、3

& 5 日後に採血し、測定した。

結果 全 31 症例において、術後 3

& 5 日後の d-ROMs 値は、術前値

よりも高かった。術後 2、3 & 5 日

後の d-ROMs 値の変化の程度は、

グループ A の方がグループ B より

も顕著であった(1.05 ± 0.159 vs.

0.920 ± 0.205, p = 0.008; 1.20

± 0.233 vs. 1.02 ± 0.186, p =

0.032; 1.34 ± 0.228 vs. 1.07 ±

0.200, p = 0.003)。他方、BAP 値

に は 有 意 な 差 は 見 ら れ な か っ た。

d-ROMs 値の最大増加度と BAP 値

の低下度は、それぞれ、喫煙量と有

意な負の相関を示した(|r| = 0.428,

p = 0 .016 と | r | = 0 .357. p =

0.049)。

結論 肺葉切除手術による侵襲は酸化

ストレスを誘導する。その変化度は喫

煙量と相関していると考えられる。

Long-term stability of parameters of antioxidant status in human serum.

ヒト血清中の抗酸化能指標の長期安定性

◆発表者 Jansen E et al(オランダ)

◆掲 載 Free Radic Res. 2013;

47: 535-40.

http://www.tandfonline.com/doi

/abs/10.3109/10715762.201

3.797969#.Vvy6W2xf1JU

目的 血清(or 血漿)の抗酸化能を

市販の検査方法を使って測定した。

今回、4 種の検査法、TAS(総抗酸

化能)、TAS2、BAP(生物学的抗

酸化能)、西洋ワサビペルオキシダー

ゼを使った酵素活性法(EAOC)を

使って、ヒト血清抗酸化能の長期安

定性を 12 ヵ月間保存サンプルを用

いて調べた。

方法 保管温度としては、一般的な

-20, -70 (or -80), -196℃を選ん

だ。

結論 いずれの保管温度でも 4 種の検

査結果すべてが安定であった。加えて、

保管温度の異なるサンプルの間に、統

計学的な有意差は見られなかった。抗

酸化能に寄与する 3 成分(尿酸、クレ

アチニン、ビリルビン)についても、

保管温度間に有意差はなかった。それ

故、抗酸化能保持の為には、-20℃で

1.48, for one-standard-deviation

-decrease)。TTL と CVD 死亡率

低下との関係は、年齢と共に強く

なっていた(70-85 歳の対象者で

は、相対リスク:1.65; 95 % 信頼

区間 ,1.22-2.24, for one-standard

-deviation-decrease)。

結論 中央&東ヨーロッパの 4 ヵ国

住民を対象としたコホート研究にお

の保管で充分であるが、より長期の保

存の為には、- 70/80°C での保管が望

ましい。

いて、d-ROMs は調査を行ったすべ

ての死因の死亡率と密接な関係にあ

ること、TTL は CVD 死亡率と負の

相関関係にあることを明らかにし

た。本研究は、老化とフリーラジカ

ル / 酸化ストレス学説を支持する疫

学的証拠になり、d-ROMs と TTL

が死亡率と関連する有用な酸化スト

レスマーカーであることを示唆して

いる。

http://www.bbm-japan.com

三重大学教授杉田正明先生は、定義が曖昧な

「疲労」を数値化する指標としてd-ROMs

(酸化ストレス)・BAP(抗酸化力)測定の意義

について話されました。また、数名のアスリート

コーチング・クリニック 2016年5月号

MEDIA掲載

(ベースボール・マガジン社)

酸化度測定を選手のコンディショニングに生かす特集「予防医学」を考える

の具体的なd-ROMs・BAP数値の推移を示し

て、競技成績の裏付けとなるエビデンスの1つと

して活用できるのではないかとされました。

現在発売中

Page 2: 世界の酸化ストレスに関する論文紹介 Evidence for … of smoking on perioperative oxidative stress after pulmonary resection. 肺切除術後の周術期酸化ストレスに及ぼす喫煙の影響

Influence of smoking on perioperative oxidative stress after pulmonary resection.

肺切除術後の周術期酸化ストレスに及ぼす喫煙の影響

Vol.65 -5 Vol.65 - 6

論文 Research article WISMERLL JOURNAL 論文 Research articleWISMERLL JOURNAL世界の酸化ストレスに関する論文紹介

酸化ストレスに関して多岐にわたる分野で研究が行われています。発表された論文の一部をご紹介します。

世界の酸化ストレスに関する論文紹介

5p 6p

◆発 表 者 Schöttker B et al(ド

イツ癌研究センター Heidelberg)

◆掲 載 BMC Med. 2015 Dec

15; 13(1):300.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pu

bmed/26666526

背景 老化とフリーラジカル/酸化

ストレス学説は注目されているが、

酸化ストレスマーカーと致死率との

関連を示す証拠はほとんどない。

方法 ドイツ・ポーランド・チェコ

共和国・リトアニアに住む住民コホー

トから 10,622 名の男女(年齢:

45-85 歳)を対象として、活性酸

素 種 濃 度 の 指 標 活 性 酸 素 代 謝 物

(d-ROMs)を、酸化還元状態の指標、

総チオールレベル(TTL)を測定した。

対象者の内 1,702 名が追跡期間中

に死亡した。

結果 酸化ストレスマーカーは、こ

れまでのコホート研究で示唆されて

いる炎症を含むすべての死亡原因と

は独立した致死要因であることが示

唆 さ れ た。d-ROMs 値 の 低 い(≤340 Carr U)群 に 比 べ て、高 値

(>500 Carr U)群 で は、心 血 管

(CVD)死亡率と強く相関し(相対

リ ス ク:5.09;95% 信 頼 区 間:

2.67-9.69)、がん死亡率(相対リ

ス ク:4.34;95 % 信 頼 区 間:

2.31-8.16)と も 相 関 し た。TTL

においては、CVD 死亡率の低下と

のみ関係していた(相対リスク:

1.30; 95 % 信 頼 区 間 , 1.15-

Evidence for the free radical/oxidative stress theory of ageing from the CHANCES consortium: a meta-analysis of individual participant data.

コンソーシアムからの “老化とフリーラジカル /酸化ストレス仮説” の証拠:個別対象者データによるメタ解析

◆発表者  Mizuno Y et al.(岐阜大

学医学部高度先進外科)

◆掲 載  Surg Today.(2015)

http://link.springer.com/article/1

0.1007/s00595-015-1132-4

目的 肺切除術前後の酸化ストレス

の変化に及ぼす喫煙の影響を調べ

た。

方法 治療的肺葉切除術を受けた原

発性肺癌患者 31 名を対象とした。

周 術 期 の 酸 化 ス ト レ ス 度 を 血 漿

derivatives of reactive oxygen

metabolites(d-ROMs)レベルと

biological antioxidant potential

(BAP)を指標として評価した。患

者をグループ A(喫煙年 40 箱未満)

とグループ B(喫煙年 40 箱以上)

の 2 群に分けた。d-ROMs と BAP

は、術 前、術 直 後、術 後 1、2、3

& 5 日後に採血し、測定した。

結果 全 31 症例において、術後 3

& 5 日後の d-ROMs 値は、術前値

よりも高かった。術後 2、3 & 5 日

後の d-ROMs 値の変化の程度は、

グループ A の方がグループ B より

も顕著であった(1.05 ± 0.159 vs.

0.920 ± 0.205, p = 0.008; 1.20

± 0.233 vs. 1.02 ± 0.186, p =

0.032; 1.34 ± 0.228 vs. 1.07 ±

0.200, p = 0.003)。他方、BAP 値

に は 有 意 な 差 は 見 ら れ な か っ た。

d-ROMs 値の最大増加度と BAP 値

の低下度は、それぞれ、喫煙量と有

意な負の相関を示した(|r| = 0.428,

p = 0 .016 と | r | = 0 .357. p =

0.049)。

結論 肺葉切除手術による侵襲は酸化

ストレスを誘導する。その変化度は喫

煙量と相関していると考えられる。

Long-term stability of parameters of antioxidant status in human serum.

ヒト血清中の抗酸化能指標の長期安定性

◆発表者 Jansen E et al(オランダ)

◆掲 載 Free Radic Res. 2013;

47: 535-40.

http://www.tandfonline.com/doi

/abs/10.3109/10715762.201

3.797969#.Vvy6W2xf1JU

目的 血清(or 血漿)の抗酸化能を

市販の検査方法を使って測定した。

今回、4 種の検査法、TAS(総抗酸

化能)、TAS2、BAP(生物学的抗

酸化能)、西洋ワサビペルオキシダー

ゼを使った酵素活性法(EAOC)を

使って、ヒト血清抗酸化能の長期安

定性を 12 ヵ月間保存サンプルを用

いて調べた。

方法 保管温度としては、一般的な

-20, -70 (or -80), -196℃を選ん

だ。

結論 いずれの保管温度でも 4 種の検

査結果すべてが安定であった。加えて、

保管温度の異なるサンプルの間に、統

計学的な有意差は見られなかった。抗

酸化能に寄与する 3 成分(尿酸、クレ

アチニン、ビリルビン)についても、

保管温度間に有意差はなかった。それ

故、抗酸化能保持の為には、-20℃で

1.48, for one-standard-deviation

-decrease)。TTL と CVD 死亡率

低下との関係は、年齢と共に強く

なっていた(70-85 歳の対象者で

は、相対リスク:1.65; 95 % 信頼

区間 ,1.22-2.24, for one-standard

-deviation-decrease)。

結論 中央&東ヨーロッパの 4 ヵ国

住民を対象としたコホート研究にお

の保管で充分であるが、より長期の保

存の為には、- 70/80°C での保管が望

ましい。

いて、d-ROMs は調査を行ったすべ

ての死因の死亡率と密接な関係にあ

ること、TTL は CVD 死亡率と負の

相関関係にあることを明らかにし

た。本研究は、老化とフリーラジカ

ル / 酸化ストレス学説を支持する疫

学的証拠になり、d-ROMs と TTL

が死亡率と関連する有用な酸化スト

レスマーカーであることを示唆して

いる。

http://www.bbm-japan.com

三重大学教授杉田正明先生は、定義が曖昧な

「疲労」を数値化する指標としてd-ROMs

(酸化ストレス)・BAP(抗酸化力)測定の意義

について話されました。また、数名のアスリート

コーチング・クリニック 2016年5月号

MEDIA掲載

(ベースボール・マガジン社)

酸化度測定を選手のコンディショニングに生かす特集「予防医学」を考える

の具体的なd-ROMs・BAP数値の推移を示し

て、競技成績の裏付けとなるエビデンスの1つと

して活用できるのではないかとされました。

現在発売中