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冷凍2015年6月号第90巻第1052号 15
日本冷凍空調学会賞 407
1. は じ め に
近年,地球環境保護の観点から CO2 排出量の削減,省エネルギー化のニーズは益々高まっており,自動車に関しても国内外を問わず燃費規制が強化されている.2020 年に向けては,カーエアコンなどを加味した実用燃費低減の取り組みが全世界で検討されており,“カーエアコンの省動力化”は将来の CO2 排出量を削減するうえで重要な課題である.
このような状況に対し,当社では独自の省動力技術であるエジェクタとエバポレータを一体化した,ECS STEP1(Ejector Cycle System STEP1)を 2009 年に製品化している.今回開発した ECS STEP2 は,ECS STEP1からさらなる省動力化を実現したものである.
2. ECSの概要
2.1 システム概要ECS システムの概要を図1に示す.当社の従来型エバポレータは,風上側と風下側に 2 枚
のエバポレータが重なった構造をしていたが,これにエジェクタを一体化したものが ECS エバポレータである
(図 1(a)).機器構成は通常のエバポレータを,このエ
ジェクタ一体型エバポレータに置き換えた形となる.このシステムでは,中間圧まで減圧した膨張弁後流の冷媒を分岐し,一方をエジェクタ側に流し(駆動流 Gn),他方を風下側エバポレータに流す(吸引流 Ge).空気と熱交換した吸引流は,エジェクタに吸引され駆動流と合流する.合流した冷媒は,風上側エバポレータで空気と熱交換しコンプレッサへと流れる(図 1(b)).p-h 線図上の挙動は図 1(c)のようになる.冷凍サイクルの効率を表す指標として COP があるが,このシステムにおける従来サイクルに対する COP の向上効果は,図 1(d)のように表すことができる.さらにシステム全体では,エジェクタの昇圧により圧縮比が低減することによるコンプレッサ自体の効率向上,エバポレータとしても風下側の冷媒流量の減少により低圧損化することによるエバポレータ自体の効率向上効果も含めて COP が向上する.2.2 エジェクタの概要次にエジェクタの概要を示す.ECS ではエジェクタは
図 1 で示したように使われる.エジェクタは,駆動ノズル,吸引ノズル,混合部,ディフューザ部より構成され,ノズルを流れる駆動冷媒 Gn は,ノズル内で風下側エバレータ出口圧力以下まで減
尾形豪太*
Gota OGATA山田悦久*
Etsuhisa YAMADA中川勝文**
Masafumi NAKAGAWA西嶋春幸*
Haruyuki NISHIJIMA
+
P
h
放熱器
風下蒸発器
エジェクタ駆動ノズル
圧縮機
エジェクタ吸引ノズル
エジェクタディフューザ
風上蒸発器
従来サイクルカーエアコン用ECS
Δ
Δ
ΔP
h
ΔL
従来サイクル
カーエアコン用ECS
COP向上効果
(a) ECS エバポレータ
(c) ECS p-h線図上の挙動
(d) 向上効果(b) 機器構成
膨張弁
エジェクタ一体化エバポレータ
コンプレッサ
コンデンサ
エジェクタ
固定絞り
ECS STEP2用エバポレータ
ECS STEP2用エジェクタ(エバポレータ内に一体化)
Gn
Gn
Gn Ge
Ge
Ge
Gn
Gn
Gn Ge
Ge
Ge
+
ieic
i r
∆∆+∆
−−
∆∆
+=
Licirie
irCOPCOPECS
1
111従来
図1 ECSシステムの概要
*㈱デンソー Denso Corp.**国立大学法人豊橋技術
科学大学Toyohashi University of Technology
原稿受理 2015年1月22日図2 エジェクタの構成と流体挙動
駆動ノズル
駆動流(圧力 )
吸引流(圧力 風下エバポレータ出口圧力)
Pre
ssure
V
elo
city
吸引ノズル 混合部 ディフューザ部
駆動流
吸引流
駆動流(ガス) 駆動流(液)
吸引流
昇圧
Gn
Pm
Ge
=Ps
Pm
Ps
日本冷凍空調学会賞 技術賞
ECS STEP2 システムECS STEP2 System
015-016技術賞デンソー.indd 15 2015/06/02 17:30:58
16 冷凍2015年6月号第90巻第1052号
408 日本冷凍空調学会賞
圧・加速する.これにより吸引流 Ge が発生する.ノズルで超音速まで加速した駆動流と吸引流が混合し,混合部にて減速し圧力が上昇,ディフューザでは面積拡大することでさらに減速し圧力が上昇する(図2).このエジェクタの昇圧作用により,コンプレッサの圧縮仕事が低減し COP が向上する.
3. 省動力効果向上に向けた新技術
今回 ECS STEP2で開発した新技術について説明する.3.1 新技術 1 A.R.C.A.R.C.(Active Flow Ratio Control)は,中間圧まで減
圧された膨張弁出口の気液二相冷媒をエジェクタ流入時に旋回させ気液分離し,エジェクタ内に設けた風下エバポレータへとつながるオリフィス(絞り)に液冷媒のみ
を流し,ノズルには残った二相冷媒を分配するものである(図3).
A.R.C. の採用によるサイクル状態の変化を p-h 線図上で示す(図4).風下側エバポレータの冷房能力は,Q風下
= Ge ×Δh 風下と表せる.A.R.C. により,風下側エバポレータの入口のエンタルピーが減少するため,Δh 風下を増やすことができ,Ge を低減できる.その結果,流体ポンプであるエジェクタの流量比(Ge/Gn)を小さくすることができ,効率向上につながる.またノズルは,ガス割合が大きく膨張エネルギーの大きい領域で作動するようになる.エジェクタは,ノズルで回収する膨張エネルギーが昇圧の原資となるため,従来より昇圧が大きくなり,省動力効果向上につながる.3.2 新技術 2 エジェクタ高効率化
エジェクタの高効率化にむけて,豊橋技術科学大学との共同研究により,気液の相変化,および圧縮性
(二相流衝撃波の影響)を考慮できる数値解析を構築した.精度検証の結果を図5に示す.ノズルでは,気液二相流特有の緩慢な衝撃波を捉えており,混合・ディフューザ部も高い精度で計算できている.
この解析技術を活用し,エジェクタの効率向上アイテムとして 3 つのエジェクタ高効率化を行った.概要を図6に示す.
4. 効 果
以上のアイテムを織り込んだ ECS STEP2 のシステムとしての省動力効果は,年間で従来カーエアコンに対し 20%,ECS STEP1 に対しても10%の向上を実現している(図7).
5. お わ り に
当社独自の技術であるエジェクタによりカーエアコンの消費動力低減を実現した.これにより,実用燃費の向上,ひいては地球温暖化抑制に貢献している.
今後も新技術の開発をすすめ,低炭素化社会の実現に貢献していきたい.
図3 A.R.C.の具体的構造
膨張弁からの二相冷媒
ARC部 冷媒旋回
オリフィス
ノズル ディフューザ
風下側エバポレータへ
エジェクタ
旋回分離によって形成された液膜
p
h
Gn:ノズルへ
Ge:風下側蒸発器へ
STEP2
膨張弁p
h
Gn:
ノズルへ
Ge:風下側蒸発器へ
STEP1
STEP1風下エバポレータ Δh風下
STEP2風下エバポレータ Δh風下
Δh風下 増
等エントロピー線
STEP1 膨張エネルギー
STEP2 膨張エネルギー
A.R.C.
図4 A.R.C.の挙動
図5 数値解析の制度検証結果
形状 A 数値計算 形状 B 数値計算
無次元距離(ノズル出口からディフューザ出口距離)/ディフューザ入口径(-)
ディフューザ入口からの
昇圧量
( kP
a)
形状 A実験値 形状 B実験値
計算値
実験値
ノズル出口ノズル喉部ノズル入口
Pres
sure
( MPa
)
無次元距離=(末広長さ-ノズル出口部からの距離)/径(-)
ノズル背圧変化
二相流特有の緩慢な衝撃波
曲面化 ノズルテーパ拡大
衝撃波を考慮した最適化 ⇒ノズル効率向上
合流時の 混合損失低減
ストレート形状=損失大 曲面化で損失低減
吸引加速
従来品 (ストレート+テーパ)
開発品 (曲面形状)
二相流特有 緩慢な衝撃波
背圧
液 ガス ミスト
n,G eG
開発品
従来品
図6 エジェクタ高効率化
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
年間
消費
動力
量
(従
来カーエアコンシステムを1として)
ECS STEP2(応募技術)
ECS STEP1(当社従来技術)
従来カーエアコン(エジェクタなし)
10% Down 20% Down
※条件:自動車工業会TEWI検討時の出現頻度データをベースに設定した当社規定年間動力算定条件(4条件×稼働時間重み付け)
図7 システム省動力効果
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