1
よみカル No.294 8 クローズアップ講座② The Tale of Genji 西10 20 ●平川祐弘さんの講座 荻窪センター 「源氏物語」を日英両語で読む 第2・4土曜13:30~15:00 ●第三巻「空蟬」 光源氏が夏の夜、空蟬の寝所に忍び込み、薄衣を持って帰る場面。 「かの脱ぎすべしたると見ゆる薄衣を取りて出でたまひぬ」 「Utsusemi's thin scarf which had slipped from her shoulders when she fled from the room」 ウェイリーは、薄衣がスカーフでないことはわかっていたが、当時のイギリス社会で 受け入れられるよう、スカーフに置き換えて男の切ない愛情を表現しようとした。しか し、スカーフにしてしまったことで、後日に光源氏と空蟬がやりとりする歌の意味が通 じにくくなってしまう。 ●第四巻「夕顔」 人の住んでいない邸宅の縁側で、夕顔と光源氏が夕景を眺めている場面。 「たとしへなく静かなる夕 ゆうべ の空を眺め給ひて」 「They watched the light of the sunset glowing in each other's eyes」 相手の瞳の中に映っている夕映えに見入っている……と、ウェイリーは自身が思い 描いた光景を付加して臨場感を高めている。 講座では、原文・英語で『源氏物語』を読み 合わせ、その表現の違いをもとに、原作者と 訳者の意図を考察。また、それぞれの国・時 代背景にも言及していく。受講者からもいろ いろな質問や意見が出てくることも面白い。 恵比寿(青山教室・4月期新設) 香からわかる「源氏物語」ワンダーワールド 香十代表 稲坂良弘 第1火曜13:00〜14:30 荻窪 源氏物語と和歌 共立女子大学名誉教授 篠塚純子 第4木曜13:00〜14:30 錦糸町 万葉集を読む 清泉女子大学元教授 北原美紗子 第2・4金曜10:00〜12:00 北千住 源氏物語と平安時代 国文学研究家 西沢伸子 第1・3月曜11:00〜12:30 金町 英語で読む「源氏物語」 元高等学校教師 北澤淳子 第3水曜12:30〜14:00 町屋 「文学」講座は開講していません。 八王子 源氏物語「宇治十帖」を読む 共立女子大学名誉教授 篠塚純子 第2・4金曜13:00〜14:30 大森 源氏物語 元清泉女子大学教授 北原美紗子 第1・3水曜15:30〜17:00 川崎 源氏物語 古典研究誌「並木の里」主宰 増淵勝一 第2・4金曜10:30〜12:00 横浜 読んで楽しむ源氏物語 古典研究誌「並木の里」主宰 増淵勝一 第1・3・5木曜10:05〜12:05 京葉 源氏物語で知る平安時代 国文学研究家 西沢伸子 第3水曜10:30〜12:30 光源氏と出会った女性たち 国文学研究家 西沢伸子 第1・3金曜10:15〜12:00 浦和 くずし字で読む江戸文芸 中央学院大学非常勤講師 安田吉人 第2・4木曜15:30〜17:00 川口 万葉集で学ぶ美しい日本語 国語学者 岡田人篤 第1金曜10:00〜11:30 大宮 源氏物語入門 明星大学教授 上原作和 第2火曜10:30〜12:00 宇都宮 よくわかる!「邪馬台国と卑弥呼の謎」 邪馬台国の会会員 高橋昭夫 第2・4金曜13:00〜15:00 自由が丘 「文学」講座は開講していません。 町田 初学び源氏物語  源氏物語講読会主宰 鎌田清榮  第1・3月曜10:10〜12:10 川越 「老子」「荘子」に学ぶ危機管理 中国古代思想博士 西林真紀子 第1土曜12:00〜13:30 文学 おすすめ 講座 平川Sukehiro-Hirakawa 東京大学名誉教授(比較文学比較文化) 1981年「小泉八雲 西洋脱出の夢」1982年「東 の橘 西のオレンジ」でサントリー学芸賞、1991年 マンゾーニの「いいなづけ」の翻訳で第42回読売 文学賞、2005年「ラフカディオ・ハーン 植民地 化・キリスト教化・文明開化」で和辻哲郎文化賞、 2009年「アーサー・ウェイリー」で日本エッセイス ト・クラブ賞を受賞。その他、多くの著書・訳書があ る。東京大学で師事した島田謹二氏も、かつてよ みうりカルチャーで源氏物語を教えていた。 20 「源氏物語絵巻 柏木(三)絵」(部分) 徳川美術館所蔵 ©徳川美術館イメージアーカイブ/DNPartcom 「アーサー・ウェイリー『源 氏物語』の翻訳者」白水 社。「源氏物語」を西洋に 紹介したアーサー・ウェイ リーの生涯と業績、翻訳の 妙を語る平川さんの著書。

おすすめ 講座 クローズアップ講座② 源氏物語The Tale of Genji は、1925 ることも面白いですね」そうした訳者の工夫を見つけり説明を加えたりしたのです。受け入れられるよう意訳したフとしたように、当時の社会に社会です。そこで、薄衣をスカーするタブーも多かったイギリスした

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • よみカル No.294 8よみカル No.2949

    クローズアップ講座②

    のですね。そこで、スカーフに書

    き換えたわけです。しかし、ス

    カーフでは、セミの抜け殻であ

    る空蟬と、まるで彼女の抜け殻

    であるような薄衣との対比の

    妙が伝わらない。一方、原文を

    読み返せば、光源氏が空蟬に思

    いを馳せる情景や男女の心理

    が、なまなましく表現されてい

    ることを再確認できると思い

    ます」

     

    同時に、翻訳者の生きた世

    界を知ることもできる。

     「アーサー・ウェイリー訳の

    The Tale of Genji

    は、1925

    年に第一分冊が発刊されまし

    た。当時のイギリスは、西洋文

    明以外に文明はないと考えら

    れていた時代です。それゆえに、

    日本の平安期の素晴らしい文

    学を世界に紹介した同作品は

    大きな衝撃を与えました。﹃驚

    嘆すべき美しさ﹄と賞賛されま

    した。しかし、男女の営みに関

    するタブーも多かったイギリス

    社会です。そこで、薄衣をスカー

    フとしたように、当時の社会に

    受け入れられるよう意訳した

    り説明を加えたりしたのです。

    そうした訳者の工夫を見つけ

    ることも面白いですね」

     「﹃源氏物語﹄を原文と英訳

    で読むことは、10世紀の日本と

    20世紀のイギリスの文化や社

    会的背景を比較しながら、﹃源

    氏物語﹄を立体的に理解する

    アプローチです。原文だけでは

    分からなかった意外な面白さ、

    素晴らしさを発見することが

    できます」と平川祐弘さん。

     

    例えば、第三巻「空うつ蟬せみ」。光

    源氏は空蟬の寝所に忍び込む

    が、彼女は気づいて部屋を出て

    しまう。光源氏は彼女が脱ぎ

    捨てていった薄うす衣ぎぬを持ち帰る。

     「英訳では、薄衣をスカーフ

    と訳しています。光源氏は薄

    衣を肌につけて寝るのですが、

    そのまま訳すと、当時のイギリ

    ス社会ではショッキングすぎる

    素晴らしさの再発見

    ●平川祐弘さんの講座荻窪センター

    「源氏物語」を日英両語で読む第2・4土曜13:30~15:00

    ●第三巻「空蟬」光源氏が夏の夜、空蟬の寝所に忍び込み、薄衣を持って帰る場面。

    「かの脱ぎすべしたると見ゆる薄衣を取りて出でたまひぬ」「Utsusemi's thin scarf which had slipped from her shoulders when she fled from the room」ウェイリーは、薄衣がスカーフでないことはわかっていたが、当時のイギリス社会で受け入れられるよう、スカーフに置き換えて男の切ない愛情を表現しようとした。しかし、スカーフにしてしまったことで、後日に光源氏と空蟬がやりとりする歌の意味が通じにくくなってしまう。

    ●第四巻「夕顔」人の住んでいない邸宅の縁側で、夕顔と光源氏が夕景を眺めている場面。

    「たとしへなく静かなる夕ゆうべ

    の空を眺め給ひて」「They watched the light of the sunset glowing in each other's eyes」相手の瞳の中に映っている夕映えに見入っている……と、ウェイリーは自身が思い描いた光景を付加して臨場感を高めている。

    講座では、原文・英語で『源氏物語』を読み合わせ、その表現の違いをもとに、原作者と訳者の意図を考察。また、それぞれの国・時代背景にも言及していく。受講者からもいろいろな質問や意見が出てくることも面白い。

    ■ 恵比寿(青山教室・4月期新設)香からわかる「源氏物語」ワンダーワールド香十代表 稲坂良弘第1火曜13:00〜14:30■ 荻窪源氏物語と和歌共立女子大学名誉教授 篠塚純子第4木曜13:00〜14:30■ 錦糸町万葉集を読む清泉女子大学元教授 北原美紗子第2・4金曜10:00〜12:00■ 北千住源氏物語と平安時代国文学研究家 西沢伸子第1・3月曜11:00〜12:30■ 金町英語で読む「源氏物語」元高等学校教師 北澤淳子第3水曜12:30〜14:00■ 町屋

    「文学」講座は開講していません。■ 八王子源氏物語「宇治十帖」を読む共立女子大学名誉教授 篠塚純子第2・4金曜13:00〜14:30■ 大森源氏物語元清泉女子大学教授 北原美紗子第1・3水曜15:30〜17:00■ 川崎源氏物語古典研究誌「並木の里」主宰 増淵勝一第2・4金曜10:30〜12:00■ 横浜読んで楽しむ源氏物語古典研究誌「並木の里」主宰 増淵勝一第1・3・5木曜10:05〜12:05■ 京葉源氏物語で知る平安時代国文学研究家 西沢伸子第3水曜10:30〜12:30■ 柏光源氏と出会った女性たち国文学研究家 西沢伸子第1・3金曜10:15〜12:00■ 浦和くずし字で読む江戸文芸中央学院大学非常勤講師 安田吉人第2・4木曜15:30〜17:00■ 川口万葉集で学ぶ美しい日本語国語学者 岡田人篤第1金曜10:00〜11:30■ 大宮源氏物語入門明星大学教授 上原作和第2火曜10:30〜12:00■ 宇都宮よくわかる!「邪馬台国と卑弥呼の謎」邪馬台国の会会員 高橋昭夫第2・4金曜13:00〜15:00■ 自由が丘

    「文学」講座は開講していません。■ 町田初学び源氏物語 源氏物語講読会主宰 鎌田清榮 第1・3月曜10:10〜12:10■ 川越

    「老子」「荘子」に学ぶ危機管理中国古代思想博士 西林真紀子第1土曜12:00〜13:30

    文学

    おすすめ講座

    平川祐弘Sukehiro-Hirakawa

    東京大学名誉教授(比較文学比較文化)1981年「小泉八雲 西洋脱出の夢」1982年「東の橘 西のオレンジ」でサントリー学芸賞、1991年マンゾーニの「いいなづけ」の翻訳で第42回読売文学賞、2005年「ラフカディオ・ハーン 植民地化・キリスト教化・文明開化」で和辻哲郎文化賞、2009年「アーサー・ウェイリー」で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。その他、多くの著書・訳書がある。東京大学で師事した島田謹二氏も、かつてよみうりカルチャーで源氏物語を教えていた。

     「翻訳というのは、原作を自

    分のものとする作業です。原

    文を咀そ嚼しゃ

    く・理解し、さらに膨ら

    ませて自分の言語で再表現す

    る創作活動です。成功も失敗

    もありますが、ウェイリーの源

    氏物語は20世紀を代表する英

    語文学の傑作だと思います」

     

    日本人でも、ウェイリー訳の

    ほうが原文より読みやすいと

    いう人もいる。また、講座には、

    英語が苦手な人も古文が苦手

    な人もいるが、回を重ねるほど

    に興味が深まり、熱心に受講

    する方が多い。

     「私は常々、これからのグローバ

    ル社会の中で日本人は、単に英

    語を話せるだけでなく、日本の

    優れた文化や伝統を正しく理

    解し、日本人であることに自信

    「源氏物語絵巻 柏木(三) 絵」(部分) 徳川美術館所蔵 ©徳川美術館イメージアーカイブ/DNPartcom

    を持って世界に出て行ってほしい

    と思っています。源氏物語を二つ

    の言語で学ぶ試みは、まさに複

    眼的な視点から世界の中の日

    本を観察することです。文学を

    楽しみながら視野を広げる一石

    二鳥の機会だと思います」

    源氏物語

    原文と英訳から立体的にアプローチする

    「アーサー・ウェイリー『源氏物語』の翻訳者」白水社。「源氏物語」を西洋に紹介したアーサー・ウェイリーの生涯と業績、翻訳の妙を語る平川さんの著書。

    一石二鳥の試み