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26 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 東日本大震災の中小企業への影響 第2章 2011年3月11日14時46分頃、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の国内観 測史上最大の地震が発生した。マグニチュード9.0という強い揺れは、地震のみならず、 津波、原子力発電所事故、電力供給制約等の様々な事象を引き起こし、これらが複合的 に関連し、中小企業にも広範かつ甚大な影響が生じた。2011年3月23日に内閣府が 公表した7道県を対象とした試算結果によると、インフラ等への直接被害額は約16~ 25兆円と、阪神・淡路大震災の際に国土庁が試算した直接被害額の約9.6兆円を大幅 に上回り、今回の東日本大震災の被害の大きさがうかがえる 1 。その被害の態様は様々 であり、全ての実態が明らかとなっていないが、津波による影響、地震による影響、原 子力発電所事故による影響、電力供給制約による影響、その他の全国的な影響に大別し て捉えることができる。 第1-2-1図①は、被災地域の企業数等を示したものであるが、今回の震災では、津波 の影響を受けた地域(以下「津波被災地域」という)には、約8万社 2 、地震の影響を 受けた地域(以下「地震被災地域」という)には約74万社 3 、原子力発電所事故の避難 区域等 4 には約8千社 5 、(株)東京電力(以下「東京電力」という)管内都県には約145 万社 6 が存在している。 1 7道県とは、北海道、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県をいう。 内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議震災対応特別会合資料-東北地方太平洋沖地震のマクロ経済的影響の分析-」を参照。 詳細は、http://www5.cao.go.jp/keizai/bousai/pdf/keizaitekieikyou.pdf 。 2 東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)につい て(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を集計した。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計 した。 3 東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)につい て(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。 4 ここでいう原子力発電所事故の避難区域等とは、原子力災害対策特別措置法に基づいて設定された警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域をいう。 5 原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の 全域を集計した。 6 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県を集計した。

念念念校中俣 第一部 二章本文 - METI...(2008年) 7.4兆円 4.4兆円 75,098社 企業数 (2009年) ②地震被災地域2 商品販売額 (2007年) 製造品出荷額等

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26 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

東日本大震災の中小企業への影響第2章

 2011年3月11日14時46分頃、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の国内観測史上最大の地震が発生した。マグニチュード9.0という強い揺れは、地震のみならず、津波、原子力発電所事故、電力供給制約等の様々な事象を引き起こし、これらが複合的に関連し、中小企業にも広範かつ甚大な影響が生じた。2011年3月23日に内閣府が公表した7道県を対象とした試算結果によると、インフラ等への直接被害額は約16~25兆円と、阪神・淡路大震災の際に国土庁が試算した直接被害額の約9.6兆円を大幅に上回り、今回の東日本大震災の被害の大きさがうかがえる1。その被害の態様は様々であり、全ての実態が明らかとなっていないが、津波による影響、地震による影響、原子力発電所事故による影響、電力供給制約による影響、その他の全国的な影響に大別して捉えることができる。 第1-2-1図①は、被災地域の企業数等を示したものであるが、今回の震災では、津波の影響を受けた地域(以下「津波被災地域」という)には、約8万社2、地震の影響を受けた地域(以下「地震被災地域」という)には約74万社3、原子力発電所事故の避難区域等4には約8千社5、(株)東京電力(以下「東京電力」という)管内都県には約145万社6が存在している。

1 7道県とは、北海道、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県をいう。内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議震災対応特別会合資料-東北地方太平洋沖地震のマクロ経済的影響の分析-」を参照。詳細は、http://www5.cao.go.jp/keizai/bousai/pdf/keizaitekieikyou.pdf 。

2  東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を集計した。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計した。

3  東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」 により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。

4 ここでいう原子力発電所事故の避難区域等とは、原子力災害対策特別措置法に基づいて設定された警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域をいう。5  原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の全域を集計した。

6 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県を集計した。

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第1節

第1部

27中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

さらに、第1-2-1図②は、各被災地域をより詳細に特定し、かつ、被災した企業及び事業所を規模別に分解したものである。これによると、企業数は、津波被災地域で約3万8千社1、地震被災地域で約78万社2、原子力発電所事故の避難区域等で約5千社3、東京電力管内で約136万社4存在し、被災地域においても中小企業が企業数のほとんどを占めていたことが分かる。

1 国土地理院が2011年4月18日に公開した浸水範囲概況図により判明した浸水範囲を含む調査区を集計した。2  東日本大震災により災害救助法の適用を受けた市町村(2011年3月24日時点)から、国土地理院が2011年4月18日に公開した浸水範囲概況図により判明した浸水範囲を含む調査区を除いた地域を集計した。

3 原子力災害対策特別措置法に基づいて設定された警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域を集計した。4 栃木県、群馬県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県の富士川以東を集計した。

第1-2-1図① 被災地域の企業数、製造品出荷額等、商品販売額

④東京電力管内都県4

商品販売額(2007年)

製造品出荷額等(2008年)

262.9 兆円

111.6 兆円

1,454,598社企業数(2009年)

①津波被災地域1

商品販売額(2007年)

製造品出荷額等(2008年)

7.4 兆円

4.4 兆円

75,098社企業数(2009年)

②地震被災地域2

商品販売額(2007年)

製造品出荷額等(2008年)

206.5 兆円

35.6 兆円

742,462社企業数(2009年)

③原子力発電所事故の避難区域等3

商品販売額(2007年)

製造品出荷額等(2008年)

0.3 兆円

0.3 兆円

7,503社企業数(2009年)

~津波の影響を受けた地域には約8万社、地震の影響を受けた地域には約74万社、原子力発電所事故の避難区域等には約8千社、東京電力管内都県には約145万社が存在している~

資料:総務省「平成21年経済センサス - 基礎調査」、経済産業省「平成20年工業統計表」、「平成19年商業統計表」(注) 1. 東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した 「津波による浸水範囲の面積(概略値)

について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を集計した。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計した。

2. 東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」 により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。

3. 原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の全域を集計した。

4.茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県を集計した。

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28 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

 また、第1-2-2図は、青森県、岩手県、宮城県、福島県が把握している商工業等の被害額を示したものであるが、青森県では378億円、岩手県では1,661億円、宮城県では7,300億円、福島県では3,597億円と、工業、商業、観光業全てにおいて、大きな被害が発生した7。

第1-2-1図② 被災地域の企業数、事業所数

企業数

津波被災地域1

地震被災地域2

原子力発電所事故の避難区域等3

東京電力管内4

中小企業数 大企業数 中小企業の割合(%)

事業所数

津波被災地域1

地震被災地域2

原子力発電所事故の避難区域等3

東京電力管内4

38,005

779,261

5,341

1,360,159

46,089

978,722

6,476

1,697,591

37,972

774,058

5,339

1,353,941

41,816

850,386

5,845

1,482,741

33

5,203

2

6,218

4,273

128,336

631

214,850

99.9

99.3

100.0

99.5

90.7

86.9

90.3

87.3

中小企業の事業所数

大企業の事業所数

中小企業の事業所の割合(%)

~企業数は、津波被災地域で約3万8千社、地震被災地域で約78万社、原子力発電所事故の避難区域等で約5千社、東京電力管内で約136万社であり、被災地域においても、中小企業が企業数のほとんどを占めていた~

資料:総務省「平成21年経済センサス - 基礎調査」再編加工1.国土地理院が2011年4月18日に公開した浸水範囲概況図により判明した浸水範囲を含む調査区を集計した。2. 東日本大震災により災害救助法の適用を受けた市町村(2011年3月24日時点)から、国土地理院が2011年4月18日に公開した浸水範囲概況図により判明した浸水範囲を含む調査区を除いた地域を集計した。

3.原子力災害対策特別措置法に基づいて設定された警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域を集計した。4.栃木県、群馬県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県の富士川以東を集計した。5. 浸水範囲概況図は国土地理院が地震後に撮影した空中写真および観測された衛星画像を使用して、津波により浸水した範囲を判読した結果をとりまとめたものであ

り、浸水のあった地域でも把握できていない部分や、雲等により浸水範囲が十分に判読できていないところがある。6. 調査区とは、経済センサス - 基礎調査における最小の地域的集計単位であり、統計調査員が担当する区域を表す単位として設定されている。この集計結果に基づき、

調査区が浸水範囲に該当するもの(一部浸水範囲にかかるものを含む)を集計している。7.経済産業省商務情報政策局サービス政策課児玉直美産業分析研究官が作成。

7  青森県については、商工会議所・商工会からの報告があった被害額のみを集計している。岩手県、宮城県、福島県については、工場は、工業統計を基礎として、各地域の被害状況を勘案して推計している。商業は、沿岸市町村の商店(建物・商品)について商業統計を基礎として、各地域の被害状況を勘案して推計している。観光は、沿岸市町村宿泊施設について、建築着工統計(宿泊業用建築物単価)を基礎として、各地域の被害状況を勘案して推計している。被害状況は公表された時点のものであり、今後変更される可能性がある。

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第1節

第1部

29中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

8  おおむね①人口集中地区の人口が1万人以上で、②周辺市町村から中心市町村への通勤率(通勤者数 /就業者数)が10%以上の圏域であり、単一の市町村を越えて形成される通勤圏を表し、このような都市雇用圏は我が国全体で251ある。付注1-2-1参照。

第1節 津波の影響 今回の震災では、地震発生後に大津波が発生し、東北地方の太平洋沿岸部を中心に、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域コミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受け、中小企業も

甚大な被害を受けることとなった。 以下では、津波被災地域の特徴、津波の中小企業への影響について分析を行う。

●津波被災地域の特徴 第1-2-3図は、青森県、岩手県、宮城県、福島県の都市雇用圏8を示したものであるが、津波被災地域には、宮古、釜石、気仙沼、南相馬等の

6~8万人規模の小規模な都市雇用圏が点在しており、生活面、経済面双方から見て、大きな都市圏に組み込まれていない地域であることが見て取れる。

 以下では、中小企業が震災により受けた具体的な影響について、第1節で津波の影響、第2節で地震の影響、第3節で原子力発電所事故の影響、第4節で電力供給制約の影響、第5節でその他の全国的な影響を示していく。

岩手県被害額

観光業

合計

商業

工業

326億円

1,661億円

445 億円

890 億円

宮城県被害額

観光業

合計

商業

工業

200億円

7,300億円

1,200 億円

5,900 億円

青森県被害額

観光業

合計

商工業

2億円

378億円

376 億円

福島県被害額

商業

合計

工業

1,399億円

3,597億円

2,198 億円

第1-2-2図 青森県、岩手県、宮城県、福島県の商工業等の被害額~震源に近い各県の震災による経済的被害を見ると、工業、商業、観光業全てにおいて大きな被害が発生したことが分かる~

※青森県については、商工会議所・商工会からの報告があった被害額のみを集計している。  岩手県、宮城県、福島県については、工場は、工業統計を基礎として、各地域の被害状況を勘案して推計している。商業は、沿岸市町村の商店(建物・商品)について商業統計を基礎として、各地域の被害状況を勘案して推計している。観光は、沿岸市町村宿泊施設について、建築着工統計(宿泊業用建築物単価)を基礎として、各地域の被害状況を勘案して推計している。※被害状況は公表された時点のものであり、今後変更される可能性がある。

資料: 東日本大震災経済商工観光部所管施設等の状況(第63報、経済商工観光部関係)(2011年4月26日現在)

資料:福島県商工労働部商工総務課まとめ(2011年4月25日現在)(注) 津波・地震による被害額を推計している。福島第一原子力発電所事故

による被害は推計に含めていない。

資料: 平成23年東北地方太平洋沖地震の被害について(第41報)(2011年5月16日現在)

資料:商工労働観光部商工企画室資料(2011年4月11日現在)(注) 津波による流出・浸水被害について推計している。 地震による倒壊等の被害は推計に含めていない。

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30 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

第1-2-4図 津波被災地域における企業及び就業者の業種別割合

農林漁業 建設業 製造業 卸売業,小売業 宿泊業,飲食サービス業

生活関連サービス業,娯楽業 その他

津波被災地域

全国

0.5

0.4

13.4 7.4 27.0 13.2 11.6 26.9

12.3 10.6 24.8 14.3 9.6 28.0

0% 100%

(1)企業の業種別割合

~津波被災地域では、全国と比較して、企業数では、製造業の割合が低く、建設業、卸売業,小売業、生活関連サービス業,娯楽業の割合が高い傾向にある。また、全国と比較して、漁業、建設業、卸売・小売業に就業する者の割合が高い傾向にある~

資料:総務省「平成21年経済センサス - 基礎調査」(注) 産業分類は、2007年11月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業 , 採石業 , 砂利採取業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、

運輸業 , 郵便業、金融業 , 保険業、不動産業 , 物品賃貸業、学術研究 , 専門・技術サービス業、教育 , 学習支援業、医療 , 福祉、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)の合計である。

 第1-2-1図①で見たとおり、津波被災地域には、約8万社の企業が存在するが、企業及び就業者の業種別割合には、どのような特徴があるのであろうか。第1-2-4図により、津波被災地域と全国を

比較すると、企業数では、製造業の割合が低く、建設業、卸売業,小売業、生活関連サービス業,娯楽業の割合が高い一方、就業者数では、漁業、建設業、卸売・小売業の割合が高くなっている。

第1-2-3図 青森県、岩手県、宮城県、福島県における都市雇用圏(2005年)

都市雇用圏人口

30万人以上

10万人未満

10万人以上30万人未満

※1995 年の神戸都市圏の人口は221.9 万人

 (第5位)

~津波被災地域には、生活面、経済面双方から見て小規模な都市雇用圏が点在している~

資料:都市雇用圏ホームページより中小企業庁作成(注) 都市雇用圏とは、おおむね①人口集中地区の人口が1万人以上で、②周辺市町村から中心市町村への通勤率(通勤者数 /就業者数)が10%以上の圏域であり、単一

の市町村を越えて形成される通勤圏を表し、このような都市雇用圏は我が国全体で251ある。

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第1節

第1部

31中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

岩手県宮古市・・・市街地にまで流された船舶 宮城県石巻市・・・がれきに埋め尽くされた商店街

【中小企業の状況】○漁業従事者は若くて60歳くらいの高齢者であり、元々今抱えている借金を返したら廃業しようかと考えている人もいる。多くが廃業するのではないか。〔3月中旬〕(宮城県中小企業団体)

○釜石にあった比較的大きい3つの商店街は、津波で壊滅。大船渡の商店街も中心部は壊滅。〔3月下旬〕 (岩手県商店街振興組合連合会)○店を失った人たちが軽トラックを持ち寄って簡単な市を開催しようとしている。〔3月下旬〕 (宮城県中小企業団体)

第1-2-5図 津波の中小企業への影響~津波により、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域のコミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受けた~

農林業 漁業 建設業 製造業 卸売・小売業 その他

津波被災地域

全国

4.4 10.7 15.0 19.5 48.3

4.5 8.8 17.3 17.9 51.2

0% 100%

2.1

0.4

(2)就業者の業種別割合

資料:総務省「平成17年国勢調査」(注) 産業分類は、2002年3月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、運輸業、金融・保険業、

不動産業、飲食店 , 宿泊業、医療 , 福祉、教育 , 学習支援業、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)、公務、分類不能の産業の合計である。

※津波被災地域とは、東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村をいう。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計した。

●津波の中小企業への影響 津波被災地域の被害は甚大であり、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域コミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受けた。こうした中で、多く

の中小企業が、資金面等の課題に直面し、転廃業できなければ、新たな環境で生活していけないといった声も聞かれた。

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32 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

 2011年5月13日時点で、青森県、岩手県、宮城県、福島県の商工会が把握している会員企業13,708社(会員企業67,156社の約20%)の被災状況によると、沿岸部の商工会では、被災状況が把握できた会員企業6,142社のうち、建屋・家屋の全壊が約54%(3,344社)、半壊が約13%(783社)、一部損

壊が約29%(1,763社)に対し、内陸部の商工会では、被災状況が把握できた会員企業7,566社のうち、建屋・家屋の全壊が約3%(191社)、半壊が約3%(205社)、一部損壊が約83%(6,256社)と、津波の影響を受けた沿岸部の商工会の会員企業でより大きな被害が発生した9(第1-2-6図)。

9 福島県沿岸部からは、原子力発電所事故の影響により、ほとんど回答が得られていない。

第1-2-6図 青森県、岩手県、宮城県、福島県の商工会が把握している会員企業の被災状況

会員企業数(社)

沿岸部 18,560 3,344 (54.4%)

783 (12.7%)

1,763 (28.7%)

175 (2.8%)

77 (1.3%)

0 (0.0%)

内陸部 48,596 191 (2.5%)

205 (2.7%)

6,256 (82.7%)

468 (6.2%)

446 (5.9%)

0 (0.0%)

合計 67,156

6,142

7,566

13,708 3,535 988 8,019 643 523 0

建屋・家屋全壊

建屋・家屋半壊

建屋・家屋一部損壊

機器・設備等 被害 間接被害 被害なし

把握できた企業数(社)

会員企業の被災状況

被災企業数(社)把握できた企業に占める割合(%)

~津波の影響を受けた沿岸部の商工会の会員企業で甚大な被害が発生した~

資料:全国商工会連合会からの報告を基に作成(注) 1.2011年5月13日までに報告のあった商工会の数値を集計している。 2.商工会の地区は、原則として町村の区域であることに留意する必要がある。 3.福島県沿岸部からは、原子力発電所事故の影響により、ほとんど回答が得られていない。

 次に、津波被災地域の主要産業の一つである漁業及び漁業から派生する食品加工業の被害状況を見ると、漁港施設、漁船、水産加工施設のいずれ

も大きな被害を受けており、特に岩手県、宮城県、福島県では、壊滅的な被害が発生した(第1-2-7図)。

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第2節

第1部

33中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

第1-2-7図 青森県、岩手県、宮城県、福島県の水産関連施設の被害状況

(3)水産加工施設

青森県

大半が施設流出・損壊

八戸地区で被害

半数以上が壊滅的被害

119

178

439

135

59

4

323

6

14

17

39

38

詳細不明

水産加工場数

主な被災状況全壊 半壊 浸水 備考

岩手県

宮城県

福島県

(1)漁港施設

青森県  

全漁港で壊滅的な被害

92

111

142

10

18

142

108

10

41

4,167

1,031

810 全漁港で壊滅的な被害

全漁港数 被災漁港数 被害報告額(億円) 備考

岩手県

宮城県

福島県

(2)漁船

青森県

壊滅的被害 5市町村からの報告で5,726隻が被災

 

宮城県からの報告では、登録漁船数13,570のうち12,011が被災

6,990

10,522

9,717

1,068

617

壊滅的被害

873

1,052

調査中  

漁船保険加入隻数(隻)

被災漁船数(隻)

被害報告額(億円) 備考

岩手県

宮城県

福島県

114

113

~今回の津波は、太平洋側の水産関連施設に被害をもたらし、岩手県、宮城県、福島県では、壊滅的な被害が発生した~

資料:農林水産省「東日本大震災について~東北地方太平洋沖地震の被害と対応~」2011年6月1日版より中小企業庁作成(注) 1. 被害状況は2011年5月31日午後5時現在のものである。水産加工場数は農林水産省「2008年漁業センサス」による。なお、公表資料において、青森県の

水産加工場については、全水産加工場のうち太平洋側に立地するもののみを公表している。 2.漁港及び漁船については、各県からの報告、水産加工施設の被害数は水産加工団体からの聞き取りによる。 3.現時点で報告があったもののみであり、今後より被害は大きくなるものと考えられる。 4.その他に、給油施設、水産物鮮度保持施設、漁業用保管施設等の施設に甚大な被害があるが、詳細は調査中である。

 これまで見てきたように、津波は、小規模な都市雇用圏が点在する沿岸部に、産業や生活の基盤が失われるほどの壊滅的な被害を及ぼし、漁業及

び漁業から派生する食品加工業等の主要産業も大きな影響を受けたことを示してきた。続く第2節では、地震の影響について見ていく。

第2節 地震の影響 今回の震災は、前節で見た津波に加え、地震の揺れの大きさも特徴的であり、最も激しい揺れを記録した宮城県栗原市で震度7、仙台市でも地域によっては震度6強が観測されたほか、広い範囲にわたって強い揺れが観測された。このため、津波の影響は受けていないが、地震に

より被害を受けた地域において、建物や設備の破損、物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないことなどにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じることとなった。以下では、地震被災地域の特徴、地震の中小企業への影響について分析を行う。

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34 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

(1)企業の業種別割合

資料:総務省「平成21年経済センサス - 基礎調査」(注) 産業分類は、2007年11月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業 , 採石業 , 砂利採取業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、

運輸業 , 郵便業、金融業 , 保険業、不動産業 , 物品賃貸業、学術研究 , 専門・技術サービス業、教育 , 学習支援業、医療 , 福祉、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)の合計である。

第1-2-8図 地震被災地域の企業及び就業者の業種別割合~地震被災地域では、東京都を除くと、全国の業種構成と比較して、製造業の割合が低く、建設業、卸売業 , 小売業、生活関連サービス業 , 娯楽業の割合が高い傾向にある。また、全国と比較して、農林業、製造業の就業者の割合が高い傾向にある~

農林漁業 建設業 製造業 卸売業,小売業 宿泊業,飲食サービス業

生活関連サービス業,娯楽業 その他

0% 100%

13.7 11.1 25.915.1

0.6

8.2

8.3 7.5

9.6

25.3

13.5 37.1

0.1

22.611.0

14.3 28.012.3 10.6

0.4

24.8

地震被災地域(東京都を除く)

地震被災地域(東京都)

全国

(2)就業者の業種別割合

資料:総務省「平成17年国勢調査」(注) 産業分類は、2002年3月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、運輸業、金融・保険業、

不動産業、飲食店 , 宿泊業、医療 , 福祉、教育 , 学習支援業、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)、公務、分類不能の産業の合計である。

※ 地震被災地域とは、東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」 により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。

農林業 漁業 建設業 製造業 卸売・小売業 その他

0% 100%

16.7 47.4

0.1

8.98.4

6.7

4.5 8.8

18.6

62.9

0.4

18.012.0

51.217.3

0.4

17.9

地震被災地域(東京都を除く)

地震被災地域(東京都)

全国

●地震被災地域の特徴 第1-2-1図①では、地震被災地域では、約74万社の企業が存在することを示したが、企業及び就業者の業種別割合には、どのような傾向が見られるのであろうか。第1-2-8図により、 東京都を除く6県と全国を比較すると、企業数では、製造業の

割合が低く、建設業、卸売業,小売業、生活関連サービス業,娯楽業の割合が高い一方、就業者数では、農林業、製造業の割合が高くなっている。また、東京都と全国を比較すると、企業数では製造業、就業者数では卸売・小売業の割合がやや高くなっている。

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第2節

第1部

35中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

●地震の中小企業への影響 地震被災地域では、どのような被害が発生したのであろうか。今回の地震による強い揺れの影響で、建物や設備の損壊、液状化、設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと、物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないこ

となどにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じた。また、電子部品・デバイス・電子回路製造業や輸送用機械器具製造業では、精密な加工を行うために工作機械の精度調整等に時間が掛かる場合もあり、活発な余震活動の影響等により生産活動が停滞した。

10 コラム1-2-1を参照。

第1-2-9図 地震の中小企業への影響

福島県須賀川市・・・地震により半壊した工場 千葉県香取市・・・液状化により被災した製材業者の敷地

【中小企業の状況】○仙台の工場が電気が止まって操業停止。設備も位置ずれを起こしている。 〔3月中旬〕(東京都大田区、プラスチック成型)○商店街全体が品薄状態で、店は開けられるが売るものがない。 〔3月下旬〕(現地派遣の職員からの報告、宮城県仙台市)○臨海北部の工業団地においては、液状化現象による道路の隆起や陥没、護岸の崩壊等の被害の報告が多い。断水している地域もある。〔3月下旬〕(千葉県庁)

~地震被災地域では、建物や設備の損壊、液状化、設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと、物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないことなどにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じた~

 今回の震災では、津波により太平洋沿岸を中心にコミュニティ自体を喪失するほどの壊滅的被害を受けたのみならず、津波による影響がなかった地域においても、地震や液状化による建物・設備の損壊、物流の停滞による原材料・製品・商品の

仕入・供給への影響等様々な被害が発生した。このような様々な被害状況に柔軟に対応し、ニーズに応じた適切な支援10を行うことが、早期復興のために重要である。

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36 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

コラム1-2-1

コラム1-2-1図② 津波、地震の影響を受けた中小企業に対する支援②~金融支援、雇用支援に加え、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核となる企業グループ支援、商店街の復旧支援、災害復興アドバイス支援事業等を進めている~

【仮設店舗、仮設工場等の整備】( 独)中小企業基盤整備機構が仮設店舗、仮設工場等を整備し、市町村を通じて中小企業等に原則無料で貸出し。

【地域経済の核となる企業グループ支援】  産業ネットワークや雇用吸収力に着目して、「地域経済の核となる企業グループ※」に、政策資源を集中投入。 Ⅰ 地域企業間の経済取引の広がりの観点から、地域にとって重要な産業のクラスター Ⅱ 雇用の規模の観点から、地域における重要な位置付けを有する中核企業とその周辺企業 Ⅲ 我が国の主要産業にとって不可欠な部品供給を担うなど、地域はもとより我が国経済にとって重要なサプライ

チェーンを形成している企業グループ Ⅳ 地域コミュニティにとって不可欠な機能を提供している、地域の中心的な商店街等① 複数の中小企業等から構成されるグループが復興事業計画を作成し、県の認定を受けた場合に、施設・設備の復旧・整備について、国が1/2、県が1/4の補助を行う措置を導入(2011年度第1次補正予算155億円)。② 当該補助金を活用する企業グループに対して、無利子、返済期間20年以内、据置期間5年以内等の大幅に条件 を優遇した貸付制度も創設。

【商店街の復旧支援】①被災した施設の補修や障害物除去に要する費用を補助。② 被災したアーケード等の撤去や破損規模が大きい施設等の修繕等に相当程度期間を要する事業にかかる費用を補助。

【災害復興アドバイス等支援事業】( 独)中小企業基盤整備機構が被災地域に支援拠点を設置するとともに、現地派遣の専門家が経営相談、まちづくり、施設整備に係るアドバイス等を行い、中小企業からの相談に対応。

津波、地震の影響を受けた中小企業に対する支援 第1節、第2節で見たように、津波、地震を始め、今回の震災により、各地の中小企業が甚大な影響を受けており、政府では、これまでに金融支援、雇用支援の大幅な拡充を行っている(コラム1-2-1図①)。

 以上の金融支援、雇用支援に加えて、一刻も早い復興のために、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核となる企業グループ支援、商店街の復旧支援、災害復興アドバイス支援事業等を進めている(コラム1-2-1図②)。

コラム1-2-1図① 津波、地震の影響を受けた中小企業に対する支援①~政府では、これまでに金融支援、雇用支援の大幅な拡充を行っている~

【金融支援】① (株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫による東日本大震災復興特別貸付を創設。貸付限度額の別枠化、貸付期間・据置期間の延長、金利の引下げ等を実施。震災により事務所が全壊・流失した中小企業等に対しては、利子補給により実質無利子化。② 小規模事業者向けの小規模事業者経営改善資金融資(マル経融資)についても、貸付限度額の別枠化、金利の引下げを実施。③ 信用保証協会による東日本大震災復興緊急保証を創設。セーフティネット保証、災害関係保証とは、保証枠を別枠化。

【雇用支援】① 雇用保険失業給付では、震災による事業所の損壊等により、事業所が休止になり休業を余儀なくされた場合、従業者は、離職していなくても、失業給付を受けられる特例措置を実施。② 雇用調整助成金で、震災の影響に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者の雇用を維持するために休業等をした場合、休業に係る手当等の負担相当額の2/3(中小企業の場合は4/5)を助成。③ 被災地で新卒者向け合同就職説明会を開催するとともに、新卒者応援プロジェクトの参加企業から、被災地の新卒者等の雇用の積極的な中小企業のリストを公表。

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第2節

第1部

37中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

 以上、津波、地震の影響を受けた地域の特徴及び津波、地震の中小企業への影響について見てきたが、政府としては、被災地域の一刻も早い復興のために、引き続き中小企業支援に万全を期して

いく。 続く第3節では、今回の震災の影響により発生した原子力発電所事故の影響について見ていく。

コラム1-2-2BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)策定の重要性

 今回の津波及び地震によって被害を受けた企業の中には、緊急事態に備えてBCPを策定していたことにより早期復旧を果たした企業も存在しており、平時からBCPの策定を行い、緊急時の被害を最小限にとどめるための事業活動の方法・手段等を取り決めておくこと、企業間で積極的に連携することの重要性が改めて認識された。こうした中、政府では、引き続き中小企業におけるBCP策定を促進するための取組を行っている。

コラム1-2-2図 中小企業におけるBCP策定の重要性~今回の震災により、平時からBCPの策定を行い、緊急時の被害を最小限にとどめるための事業活動の方法・手段等を取り決めておくことの重要性が改めて認識された~

(注) 1.詳細は経済産業省中小企業庁ホームページを参照。   http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html 2.詳細は経済産業省中小企業庁ホームページを参照。   http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/download/110531Bcp-Reserch.pdf

● BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃等の緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段等を取り決めておく計画をいう。

【中小企業のBCP策定促進に向けた取組】● 中小企業庁では、中小企業へのBCPの普及を目的として、中小企業BCP策定運用指針1を策定し公表している。

● また、BCPを策定する際のポイントを整理し、様々な業種の災害対応事例を紹介した 「中小企業の事業継続計画(BCP)<災害対応事例からみるポイント>2」を取りまとめた。

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38 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

緊急事態に備えてBCPを策定していたことにより早期復旧を果たした企業

 宮城県仙台市の鈴木工業株式会社(従業員67名、資本金6,000万円)は、産業廃棄物の収集運搬、リサイクル等の中間処理、上水・下水施設の清掃等を行う企業である。 同社は、東日本大震災によって、中間処理施設の事務所、施設内で使用していた重機、車両、トラックスケール等といった主要設備のほとんどを流失し、処理施設の建屋の壁が半壊、施設内の焼却炉や水処理施設もヘドロやがれきに埋もれ、敷地内の廃棄物の保管場所等も地面が陥没する被害を受けた。 同社では、2008年8月から緊急事態に備えてBCPの策定検討を始め、2009年9月に第1版を制定した。社内研修会では外部の専門家も参加してもらい、BCPの机上演習や模擬演習を実施したこともあって、中間処理施設からの円滑な避難やお客様のもとで作業している社員の安否確認が迅速に行われ、全員の無事を早い段階で確認することができた。 またBCP策定により緊急用の通信手段として衛星電話を設置していたことによって、処理施設の修理業者に速やかに連絡が取れ、震災の翌日には修理業者が復旧の確認作業に取り掛かることができた。衛星電話の効果は、お客様との連絡にも大いに役立ち、官公庁やお客様との連絡を行い、地震翌日から各市町の復旧作業及びお客様の復旧作業にも参加できた。自社の処理施設が復旧するまでは、県外の産廃業者の協力を得て円滑に廃棄物の処理を行った。 本社の電話やパソコンは3月16日に復旧し、産業廃棄物の収集運搬及び清掃業務、リサイクル業務は震災後約1週間で復旧し、その他の中間処理業務についても約1か月で復旧し、早期に完全復旧を果たした。 同社は、BCPを策定していたことで、今回の震災で事業の早期復旧に一定の効果があったと評価するものの、今回の震災を教訓に見直しを図りより精度の高いBCPの策定を急いでいる。

事例1-2-1

Case

社内研修会における外部の専門家によるBCPの演習

コラム1-2-3津波・地震の直接被害を受けた中でも頑張る中小企業等

 津波及び地震の影響により、事業継続が困難となっている企業が多数存在している。他方で、甚大な被害を受けながらも、地元での復興に強い意志を持って取り組んでいる企業、創意工夫により地元産品の生産を再開している企業、地域住民の消費を支え地元企業の活性化に貢献しているスーパーマーケット、内定を取り消された被災地域の高校の卒業生を積極的に採用する企業、中小企業の事業継続を支援している金融機関も存在する。

地元での復興に強い意志を持って取り組んでいる企業

 宮城県石巻市の株式会社ヤマニシ(従業員194名、資本金1億円)は、中型船を中心とした各種船舶を製造する企業である。2008年には、東北最大級の150トンクレーンを導入し、造船規模も最大2万4,000トン級に拡大するなど、近年は国際需要に対応する態勢を一段と強化してきていた。しかし、震災では、工場施設の1階部分が浸水して生産設備の多くが被害を受け、建造中の大型貨物船も2隻が流された。岸壁も地盤沈下している可能性があり、護岸修復をする必要があり、当面は製造を見合わせる予定であるが、2012年春頃の工場復旧を目指して懸命に復旧・復興に取り組んでいる。国内外の船主からも、同社の操業再開の暁には1番船を建造したいという申出が多く寄せられている。 同社の前田英比古社長は、「漁業が盛んな石巻に根付き、地元で有数の雇用を担っていることを自負して経営してきた。事業が通常どおりに戻れば、利益も出てきて雇用機会も広がる。90年間培った造船の技術、技能、人材を活かすためにもこの石巻の地で必ず復興したい。」と話す。

事例1-2-2

Case

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第2節

第1部

39中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

創意工夫により地元産品の生産を再開している企業

 宮城県気仙沼市の株式会社男山本店(従業員17名、資本金1,500万円)は、1912年創業の老舗酒造メーカーである。同社の社屋は、昭和初期の洋風建築で、築80年の国の登録有形文化財であるが、今回の津波被害で1階・2階部分は崩れ、3階部分だけになり、電気・水道・ガスも不通になるなどの深刻な被害を受けたことから、震災直後は、社員全員が途方に暮れた。しかし、地酒を生産するために必要なもろみのタンクは無事であり、井戸水でタンクを冷やし、発電機で機械を動かすなどの工夫を行いながらもろみを搾り、3月下旬に製造再開にこぎつけ、全国からの注文に対応している。

事例1-2-3

Case

内定を取り消された被災地域の高校の卒業生を積極的に採用する企業

 大阪府堺市の大起水産株式会社(従業員113名、資本金6,000万円)は、鮮魚・水産品の加工販売、回転寿司店の経営を行っている企業である。被災地域での内定取消の動きを見た同社は、大震災後すぐにハローワークを通じて、気仙沼市の向洋高校や水産高校と連絡を取り、最大で10名まで採用可能であることを伝えた。住居についても、家賃の約8割を補助する予定であり、既に具体的な動きも出てきている。 同社の佐伯保信社長は、「故郷から送られた魚が、どのように生活者に届くのかを小売業や外食産業で勉強することで、故郷に戻ってから水産業に従事する際に、色んな面で役立つと思う。何より大消費地である近畿と三陸各県との交流が深まれば、今まで以上に距離感は縮まり、販路の拡大によって魚価を下支えすることができ、長い意味での復興支援につながる。」と考え、今後も被災地域の卒業生の採用を活発化させていく。

事例1-2-5

Case

地域住民の消費を支え、地元企業の活性化に貢献しているスーパーマーケット

 岩手県大船渡市の株式会社マイヤ(従業員700名・資本金9,600万円)は、岩手県沿岸部を中心に食品スーパーマーケットを展開する企業である。 同社が展開する16店舗のうち6店舗が津波の被害にあったが、多くの店舗を有する陸前高田市等では他のスーパーはほとんどなく、同社が供給を止めると住民の生活が成り立たなくなるという状況にあったため、被害のなかった店舗では震災当日の夕方から駐車場で営業を行い、翌日も早朝6時から営業を開始した。また、被災した店舗があった地域には多くの出張店舗を設け、レジがなくても、50円や100円といった均一価格で商品を販売した。 同社は、自社が被災しているにもかかわらず、風評被害を受ける農水産物を中心に、地元の中小企業から積極的に仕入れを行っている。また、震災後、早期に生産を再開した地元の名菓「かもめの玉子」を製造・販売するさいとう製菓株式会社(従業者数169名、資本金5,000万円)に販売場所を提供するなど、相互に協力し、地域の早期復興に寄与している。 同社の米谷春夫社長は、「地元は正に運命共同体であり、今回の被災に際し、地域のライフラインを守ることは当たり前の責務である。」と語る。

事例1-2-4

Case

営業再開した株式会社マイヤの店舗で販売を行うさいとう製菓株式会社

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40 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

中小企業の事業継続を支援する金融機関

 岩手県盛岡市の株式会社岩手銀行は、三陸沿岸地方の店舗を中心に、建物の損傷・破壊等の被害が生じ、営業休止に追い込まれる店舗も出たが、震災直後から臨時出張所や臨時相談窓口を開設するなどしながら、中小企業からの資金繰り、雇用維持、店舗・工場の復興資金に関する相談に対応している。 同行では、復興支援を専担業務とする「復興再生支援チーム」を設置し、中小企業の経営者が抱える多種多様で高度な悩みに一層踏み込んで迅速な課題解決を図っている。 これまで地域の中小企業と共に歩んできた同行だが、「未曾有の震災直後の今こそ、経営者と一緒に悩み問題を解決していく姿勢が非常に大切な時期である。」と考え、全行が一体となって地域の復興支援に邁進している。

事例1-2-6

Case

●原子力発電所事故の避難区域等の特徴 第1-2-1図①では、原子力発電所事故の避難区域等に、約8千社の企業が存在することを示したが、企業及び就業者の業種別割合には、どのような特徴が見られるのであろうか。

 第1-2-10図により、原子力発電所事故の避難区域等と全国、福島県を比較すると、企業数では、建設業、卸売業,小売業、農林漁業の割合が高い一方、就業者数では、農林漁業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業の割合が高くなっている。

 今回の震災では、これまで見てきた地震、津波の影響に加えて、原子力発電所事故が発生したことにより、中小企業でも、事業の継続が困難となり、先行きの見通しも立たないなど、非常に大きな影響を受けることとなった。また、原子力発電所事故の避難区域等の周辺で生産さ

れた商品では、取引の停滞や取りやめが発生し、輸出の際に海外メーカーから放射線検査を要求されるケースも生じることとなった。以下では、原子力発電所事故の避難区域等の特徴、原子力発電所事故の中小企業への影響について分析を行う。

第3節 原子力発電所事故の影響

第1-2-10図 原子力発電所事故の避難区域等における企業及び就業者の業種別割合

0.4

農林漁業 建設業 製造業 卸売業,小売業 宿泊業,飲食サービス業 その他

0% 100%

0.6

0.8

18.4 9.9 27.9 11.6 31.4

15.2 8.9 26.5 13.6 35.2

12.3 10.6 24.8 14.3 37.5全国

福島県

原子力発電所事故の避難区域等

(1)企業の業種別割合

~原子力発電所事故の避難区域等では、建設業、卸売業,小売業、農林漁業といった業種の割合が高い傾向にある。また、農林漁業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業に就業する者の割合が高い傾向にある~

資料:総務省「平成21年経済センサス - 基礎調査」(注) 産業分類は、2007年11月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業 , 採石業 , 砂利採取業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、

運輸業 , 郵便業、金融業 , 保険業、不動産業 , 物品賃貸業、学術研究 , 専門・技術サービス業、生活関連サービス業 , 娯楽業、教育 , 学習支援業、医療 , 福祉、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)の合計である。

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第3節

第1部

41中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

0.5

農林漁業 建設業 製造業 卸売・小売業 電気・ガス・熱供給・水道業 その他

0% 100%

0.7

2.1

全国

福島県

(2)就業者の業種別割合

12.4 14.8 20.6 13.7 36.3

9.2 10.1 20.5 16.3 43.2

4.8 8.8 17.3 17.9 50.7

原子力発電所事故の避難区域等

資料:総務省「平成17年国勢調査」(注) 産業分類は、2002年3月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業、情報通信業、運輸業、金融・保険業、不動産業、飲食店 , 宿泊業、医

療 , 福祉、教育 , 学習支援業、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)、公務、分類不能の産業の合計である。

※原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の全域を集計した。

 また、原子力発電所事故の避難区域等では、化学部品、輸送機械部品、電子機器部品等の特定の分野において高いシェアを有する企業が存在し、当該企業の事業活動の継続が困難となり、自動車やエレクトロニクス等のサプライチェーン全体に影響が波及したとも考えられる。

●原子力発電所事故の中小企業への影響 原子力発電所の避難区域等では、中小企業は、どのような影響を受けたのであろうか。 第1-2-11図によると、原子力発電所の避難区域等の企業は、事業の継続が著しく困難にもかかわ

らず、人件費や固定費の負担が発生し、先行きの見通しも立たないなど、大変厳しい状況にあり、こうした企業の中には、他の事業所での代替生産や事業所の区域外への移転を検討する企業も存在した。 また、原子力発電所事故の避難区域等の区域外であっても、その周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生し、また、国内外を問わず、風評被害が広がっており旅館、ホテルの予約のキャンセル等が相次ぐとともに、取引先から製品の安全性の検査、確認が求められた。

【中小企業の状況】1.原子力発電所事故の避難区域等

○原子力発電所のある町で生業を営んでいた事業者だが、避難して何もできず無収入の状態。既往債務もあり、先が見えない状況。 〔4月上旬〕 (福島県中小企業団体)○従業員は避難所や区域外に待避しているが、生産できないにもかかわらず人件費や固定費が発生して苦しい状況。〔3月下旬〕 (福島県双葉郡浪江町、化学製品)○区域外の工場へ従業員を移転させて生産を開始。半年から一年程度は、代替生産する覚悟。従業員の生活もあるため、双葉町の工場で生産を開始したいが、立入制限が長期に及ぶのであれば、工場の移転を検討せざるを得ない。〔3月下旬〕 (福島県双葉郡双葉町、素形材(鉄))

川俣町

飯舘村

浪江町葛尾村

田村市

小野町

川内村

広野町

楢葉町

富岡町

大熊町

双葉町

福島第一

福島第二

平田村

南相馬市

2.その他の福島県内

○流通業者から福島県内産の食品は不要と言われている。米も要らないと言われていると聞いている。〔3月下旬〕(福島県中小企業団体)○市内のホテル、旅館が軒並みキャンセルされており、大幅な従業員解雇も行われている。〔4月中旬〕(福島県中小企業団体)○海外の取引先からは前倒納品の要請や、放射能の安全性確認の要請が来ている。〔3月中旬〕(東京都大田区、工業用制御機器製造業)

第1-2-11図 原子力発電所周辺地域の企業への影響~まず、原子力発電所事故の避難区域等の企業は、事業の継続が著しく困難にもかかわらず、人件費や固定費の負担が発生し、先行きの見通しも立たないなど、大変厳しい状況にあり、こうした企業の中には、他の事業所での代替生産や事業所の区域外への移転を検討する企業も存在した。また、原子力発電所事故の避難区域等の区域外であっても、その周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生し、また、国内外を問わず、風評被害が広がっており、旅館、ホテルの予約のキャンセル等が相次ぐとともに、取引先から製品の安全性の検査、確認が求められた~

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42 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

 以上、原子力発電所事故の避難区域等では、全国、福島県と比較して建設業の企業、就業者の割合が高いこと、全国のサプライチェーンに影響を及ぼし得る中小企業が存在することなどを示してきた。これまで見てきたように、原子力発電所周辺の避難区域等では、企業の事業活動が困難とな

り、先行きの見通しも立たない状況になっており、避難区域等の周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生するなど、津波、地震による被害とは異なる対応が必要となっており、被災中小企業のために特別な支援を行っていくことが重要である11。

11 コラム1-2-4を参照。

コラム1-2-4原子力発電所事故による影響を受けた中小企業に対する特別支援

 第3節で見たように、原子力発電所事故による影響は、避難区域等のみならず全国の中小企業に及んでおり、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払補償を実施等を行っている。

コラム1-2-4図 原子力発電所事故による影響を受けた中小企業に対する特別支援~政府では、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払い補償の実施等を行っている~

【特別な金融支援】警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域に事業所を有し、その移転を余儀なくされる中小企業等に対して、福島県内の移転先において事業を維持するために必要な事業資金を、(独)中小企業基盤整備機構の高度化融資スキームを活用して、20年を上限に無利子無担保で貸付。

* この他、(株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫による東日本大震災復興特別貸付(利子補給により実質無利子化)、信用保証協会による東日本大震災復興緊急保証が利用可能。

【雇用支援、経営支援】福島県内で、重点分野雇用創造事業による雇用創出、経済産業省・厚生労働省・福島県による産業界への地元雇用の要請、中小企業団体等による雇用機会の創出、福島県内の企業の事業継続のための支援等を実施。

【風評被害への対応支援】日本から製品を輸出する際、製品の放射線検査を希望する輸出事業者に対して、指定検査機関で検査を受ける場合に、検査費用を補助(2011年度第1次補正予算約7億円:補助率は中小企業9/10・大企業1/2)。

【原子力災害被災中小企業者に対する仮払い補償の実施】①仮払い対象:避難区域等1において中小企業者が被った営業損害②仮払い金額:粗利額2(2011年3月12日~5月末日の相当分)の1/2(上限は250万円)③必要書類:(1)粗利額を証する書類3

(2)避難区域等において2011年3月12日時点で事業を営んでいたことの証憑等④請求受付:2011年6月1日から開始

(注) 1.「一次指針」の「第3政府による避難等の指示に係る損害について」に掲げる避難区域等。 2.粗利額(売上金額から売上原価を控除した金額)は、過去の実績額を基に算出。 3.粗利額を証する書類が提出されない場合でも、営業実態等を照明する書類等の提出があれば、20万円の仮払いが可能。

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第4節

第1部

43中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

原子力発電所事故の発生直後から利用者へのガス供給を再開した企業

 福島県南相馬市の相馬ガス株式会社(従業員30名、資本金9,600万円)はグループ企業とともに、都市ガス、LPガス、ガソリンスタンド等のエネルギー事業を経営している。 原子力発電所事故によって管内が屋内退避地域に指定され、住民や社員の多くが避難し、都市ガス原料や石油製品の輸送が滞ったが、都市ガス等利用者1万軒の対応に備え、市民ボランティアの協力を得るなどして、震災直後から営業を再開した。 現在は、緊急時避難準備区域となったが、いまだ売上見通しを立てにくい状況の中でも、同社の渋佐克之社長は、「エネルギー事業は、大切なインフラの一部であるという信念を持っている。今後も、利用者がいる限り、事業を継続していく。」と話す。

事例1-2-7

Case

 東日本大震災を受けて、東京電力の原子力発電所、火力発電所、送電設備等が被災し、3月の平日の平均的な電力需要のピーク4,700万キロワットに対して、同社の供給力が震災直後に3,100万キロワットにまで落ち込み、3月

14日から28日にかけて計画停電が実施された。ここでは、計画停電の影響を受けた地域の特徴、電力供給制約の中小企業への影響について分析を行う。

●計画停電の影響を受けた地域の特徴 計画停電は、第1-2-1図①で見たとおり、首都圏が含め約145万社が立地する地域に影響を及ぼした。第1-2-12図は、東京電力管内都県の企業及

び就業者の業種別割合を全国と比較したものである。企業数、就業者数ともに、卸売業、小売業の割合が高く、全国と比べて大きな違いは見られない。

第4節 電力供給制約の影響

速やかに生産ラインを復旧させ全面稼働した企業

 福島県相馬市の株式会社アリーナ(従業員200名、資本金1,000万円)は、電子機器部品組立製造を行う企業で、チップ電子部品を基板に取り付ける技術で世界最先端の実績を誇っている。この技術は、世界有数の携帯電話製造企業の製品にも活かされており、当社の部品は全世界の携帯電話の約20%の製品に供給されている。 同社の生産が止まると、取引先に大きな影響が出ることから、大震災直後、直ちに社内に災害対策本部を設置し、社員と家族の安否や家屋等の被災状況の把握、社員への支援体制の確立、工場復旧のためのプロジェクトチームの立ち上げを実施した。また、毎日状況報告会を実施し、情報の共有化に努めた。 本部を中心にガソリン不足や地震、津波で家を失って出社できない社員のための支援を相馬市役所に要請し、職場復帰できる生活環境の改善に奔走した。生産設備の修理では、取引業者や機械製造業者の技術者が名古屋方面からも支援にかけつけ、社員と共に連日復旧作業に取り組み、3月22日には全面稼働することができた。同社は福島第一原子力発電所から50キロメートル弱の距離に立地しており、同社の高山慎也社長は、「放射能の安全宣言を出してほしい。」 としている。

事例1-2-8

Case

震災直後(左)と稼働再開後(右)の工場の様子

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44 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

(2) 就業者の業種別割合

0% 100%

農林漁業 建設業 製造業 卸売・小売業 その他

3.1 8.0 17.1 17.4 54.3

4.8 8.8 17.3 17.9 51.2

東京電力管内都県

全国

資料:総務省「平成17年国勢調査」(注) 産業分類は、2002年3月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、運輸業、金融・保険業、

不動産業、飲食店 , 宿泊業、医療 , 福祉、教育 , 学習支援業、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)、公務、分類不能の産業の合計である。

※東京電力管内都県とは、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県をいう。

●電力供給制約の中小企業への影響 東京電力管内の計画停電により、中小企業はどのような影響を受けたのであろうか。まず、計画停電の影響について、業種別に概観していく。製造業では、連続操業が必要な企業を中心に、「生産計画の策定に支障が生じる。」、「操業度が低下する。」、「生産体制の見直しを迫られる。」、「部品の入手が難しくなる。」といった声が聞かれた。小売業、サービス業では、「停電により客足が遠ざかった。」、「営業時間を短縮せざるを得ないために、売上が悪化した。」、卸売業では、「商品の保管が難しくなった。」、運輸業では、「製品出荷量の減少に伴い、荷動きが悪化した。」といった

声が聞かれ、計画停電が業種により様々な影響を及ぼした。 また、計画停電は、東京電力管内に所在していなくても、管内企業と取引を行っている企業に、間接的な影響を及ぼすこととなった。第1-2-13図は、(株)帝国データバンクの「産業調査分析SPECIA」に収録されている管内企業及び管内企業と取引している管外企業の数を示したものである12。これらの企業が全国の企業に占める割合は5割を超え、特に製造業、卸売業では、管内企業と取引している管外企業の数が多く、計画停電の影響が全国的に波及したことがうかがえる。

12 データベースに取引情報が収録されている企業数を集計している。

第1-2-12図 東京電力管内都県の企業及び就業者の業種別割合

(1) 企業の業種別割合

0% 100%

0.3

12.4 10.9 22.9 13.5 40.1

37.514.324.810.612.3

0.4

農林漁業 建設業 製造業 卸売業,小売業

宿泊業,飲食サービス業 その他

東京電力管内都県

全国

~企業の業種別割合は、卸売業 , 小売業、宿泊業,飲食サービス業、建設業、製造業の順に高く、就業者の割合は、卸売・小売業、製造業の順に高い~

資料:総務省「平成21年経済センサス - 基礎調査」(注) 産業分類は、2007年11月改訂のものに従っており、その他は、産業大分類における、鉱業 , 採石業 , 砂利採取業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、

運輸業 , 郵便業、金融業 , 保険業、不動産業 , 物品賃貸業、学術研究 , 専門・技術サービス業、生活関連サービス業 , 娯楽業、教育 , 学習支援業、医療 , 福祉、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)の合計である。

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第4節

第1部

45中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

第1-2-13図 計画停電の中小企業への影響と東京電力の管内企業及び管内企業と直接取引を行う管外企業数

東京電力管内の企業数(a)

農林漁業 434

28,200

27,708

36,498

12,916

53,293

159,049

15%

36%

37%

39%

29%

42%

38%

313

4,674

19,936

17,207

3,472

11,295

56,897

11%

6%

27%

19%

8%

9%

14%

2,861

77,829

74,429

92,403

44,280

126,170

417,972

建設業

製造業

卸売業

小売業

サービス業等

合計

全企業に占める東京電力管内の企業割合(a)/(c)

東京電力管内企業と取引のあるそれ以外の地域の企業数(b)

全企業に占める東京電力管内企業と取引のあるそれ以外の地域の企業割合(b)/(c)

全企業数企業数(c)

【中小企業の状況】○1500℃の溶解炉は、通常は電気を用いて 12 時間かけて冷却するため、計画停電時は稼働率が2割程度に落ちた。計画停電が行われれば、深夜操業も必要となるので、いつ停電になるか早めに教えてほしい。〔3月中旬〕(埼玉県川口市、鋳物鋳造)

○計画停電時には、取引先からの注文が計画停電に影響のない同業他社に流れ、注文は減少。計画停電が続けば、非常に厳しい状況になりかねない。〔3月中旬〕(埼玉県秩父市、半導体研磨)

○計画停電の影響で食事の用意ができないので、ホテル側が断っている例がある。その他、正常な営業が行えないため、売上減、資金繰り圧迫が生じている(飲食業、理容業、学習塾他)。

 〔3月中旬〕(千葉県中小企業団体)

~東京電力の管内企業及び管内企業と直接取引を行う管外企業を合わせると、全国の約5割を占める~

資料:(株)帝国データバンク「産業調査分析SPECIA」再編加工(注) データベースに取引情報が収録されている企業数を集計している。

 以上のように、計画停電は、業種によって様々な影響を及ぼすとともに、我が国の多くの中小企業がその影響を受けることとなった。計画停電は、2011年4月8日に原則不実施となったが、今後、夏期にかけて電力の需要抑制が必要となるため、政府は、東京電力・東北電力管内において2011年7月から9月の平日9時から20時までのピーク期間・時間帯の使用最大電力について、大口需要家13、小口需要家14、家庭で均一15%を抑制する目標を設定している15。中小企業白書(2010年版)

では、中小企業は、大企業と比べてエネルギー消費の効率改善の余地があることや、投資による省エネルギー(以下「省エネ」という)への取組が進んでいないことなどを指摘したが16、電力需要を抑制しつつも、経済活動の水準を維持すべく、より一層の省エネを推進することが求められる。 こうした状況の中で、電力需給緊急対策本部において、夏期の電力需給対策が取りまとめられ、電力需要を抑制するために、中小企業の取組を支援している17。

13 契約電力500キロワット以上の事業者のことをいう。14 契約電力500キロワット未満の事業者のことをいう。15  東北電力においても、太平洋側の火力発電所等を中心に甚大な設備被害が発生し、原子力発電所も安全確保のため停止していることから、今後、電力需給が逼迫

することが予想される。16 中小企業白書(2010年版)p.108参照。17 コラム1-2-5を参照。

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46 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

コラム1-2-5夏期の電力需要を抑制するための中小企業対策

 電力需給緊急対策本部では、夏期に向けて電力需給逼迫が見込まれることから、夏期の電力需給対策を取りまとめた。これに沿って、中小企業等の節電の取組を促進するため、業態別の「小口需要家の節電行動計画の標準フォーマット」の周知、個別訪問・説明会の実施、東京中小企業家同友会作成の「中小企業のための節電対策簡易マニュアル」による節電の啓発・情報提供等の支援が行われており、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商工会連合会、全国商店街振興組合連合会においても、会員企業に向けて節電の自主行動計画作成ガイドラインが作成されている(コラム1-2-5図)。

コラム1-2-5図 夏期の電力需要を抑制するための中小企業対策~夏期に向けて、電力需要を抑制するためにも、中小企業の取組を支援している~

(注) 1.詳細は経済産業省ホームページを参照。    http://www.meti.go.jp/setsuden/20110513taisaku/

04.pdf 2.詳細は東京中小企業家同友会のホームページを参照。   http://www.tokyo.doyu.jp/setuden.pdf 3.詳細は(財)省エネルギーセンターのホームページを参照。   http://www.eccj.or.jp/shindan/index.html 4.詳細は日本商工会議所のホームページを参照。    http : / /www. jcc i .o r . j p/news/ jcc i -news/2011/

0523100432.html

5.詳細は全国中小企業団体中央会のホームページを参照。   http://www.chuokai.or.jp/info/setsuden01.pdf6.詳細は全国商工会連合会のホームページを参照。   http://www.shokokai.or.jp/top/Html/kigyo/2_104/110530

全国連ガイドライン(ver.1).pdf7.詳細は全国商店街振興組合連合会のホームページを参照。   http://www.syoutengai.or.jp/saigaifukkyu/setsuden_

guideline.pdf

【夏期の電力需要を抑制するための支援】① 業態別の節電行動計画の作成・実施のための取組例を示した「小口需要家の節電行動計画の標準フォーマット 1」の周知。  ・工場の取組例:   生産設備の電源オフ、回転機の空転防止、電気炉、電気加熱装置の断熱強化等  ・卸・小売店、飲食店、オフィスビル等の取組例:   照明の間引きや消灯の徹底、空調の温度設定の引上げや使用エリアの限定等

② 節電の必要性、取組方法等について情報提供・協力依頼を行うための個別訪問・説明会の実施。

③ 東京中小企業家同友会「中小企業のための節電対策簡易マニュアル2」で、無料の省エネ診断3や省エネ設備の導入支援等の中小企業向け支援制度の紹介。

④ 日本商工会議所4、全国中小企業団体中央会5、全国商工会連合会6、全国商店街振興組合連合会7においても、会員企業に向けて節電の自主行動計画作成ガイドラインが作成されている。

節電で光熱費約15%削減に成功した企業

 東京都千代田区の株式会社久保工(従業員83名、資本金2億円)は、ビル・住宅の建設や不動産活用のコンサルティング、環境緑化等の事業を行っている企業である。 同社は、2009年より省エネへの取組を開始し、蛍光灯の間引き、こまめな消灯、LED照明の導入、給湯器の不使用時オフ、空調やエレベーター使用の制限等を行っている。また、環境緑化事業部では屋上緑化用の人工軽量土壌を開発し、建設技術を活かして防水工事から施工まで総合的に行っており、本社ビルにも屋上庭園や菜園、藤の壁面緑化を取り入れ、ヒートアイランド現象の防止や空調負荷の軽減に取り組んでいる。こうした取組の結果、2010年には、2008年と比較して電気料金を約15%削減することができた。 同社は、今夏に見込まれる電力需給逼迫に対応し、使用電力15%抑制の目標を達成すべく、クールビズの早期実施、空調の設定温度の引上げといった更なる節電に取り組んでいる。

事例1-2-9

Case

節電のため社員のエレベーター使用の制限を実施

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第5節

第1部

47中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

 今回の震災は、地震、津波による影響、原子力発電所事故、電力供給制約等による直接的な影響を及ぼすにとどまらず、被災地域以外の企業にも、様々な影響が全国的に波及した。 第1-2-14図の日本公庫「全国小企業月次動向調査」では、全国の中小企業1,395社に震災の影響について聞いているが、現在影響が出ている及び今後影響が出そうと回答した企業数の割合は、「取扱商品の不足・価格高騰」が5

割弱と最も高く、次いで「自粛ムード、節約意識の高まり」が約3割、「取引先が被災」が約1割を占めている。以下では、このように多くの中小企業が影響を受けることとなった物流の停滞や取引先の被災等によるサプライチェーンへの影響、企業や消費者の自粛等の消費マインドの低下といった震災の中小企業への全国的な影響について見ていくこととする。

第5節 その他の全国的な影響

●サプライチェーンへの影響 今回の震災は、被災した企業の操業停止や交通インフラの寸断による物流の停滞によって被災地域からの製品供給及び被災地域への製品販売が困難となり、サプライチェーンに多大な影響を与えた。 第1-2-15図は、青森県、岩手県、宮城県、福島

県の被災地域において出荷金額が高い品目上位5位を示したものであるが、自動車部分品・附属品その他の電子部品・デバイス・電子回路、集積回路の出荷額が大きく、産業に不可欠な品目を供給する企業との取引が困難になることにより、サプライチェーンに影響が及んだケースもあった。

第1-2-14図 東日本大震災の影響

0

その他

5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

直接的な影響

間接的な影響

インフラ・物流面での影響

取引先・消費者の行動やマインド

による影響

その他の影響

自社が被災

取引先が被災

計画停電

物流の停滞

通信・情報インフラ障害

燃料の不足・価格高騰

自粛ムード、節約意識の高まり

風評被害

震災特需

取扱商品の不足・価格高騰

現在影響が出ている 今後影響が出そう1.1

8.0

8.0

2.2

0.8

0.16.7

0.5

35.8

6.0 0.4

24.4

1.4 0.2

3.9 1.2

3.4 2.2

5.2

10.0

(%)

~取扱商品の不足・価格高騰、自粛ムード、節約意識の高まり等により全国的に影響が及んだ~

資料:(株)日本政策金融公庫「全国小企業月次動向調査」(2011年4月調査)(注) 1.「現在影響が出ている」、「今後影響が出そう」と回答した企業の合計を分母とした比率を示している。 2.複数回答であるため、合計は必ずしも100にならない。 3.(株)日本政策金融公庫取引先1,395社への調査結果(岩手県、宮城県、福島県、茨城県を除く)である。

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48 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

第1-2-15図 被災地域における出荷金額上位5品目

順位 品目名出荷額(百億円) 構成比

(%)被災地域

その他の電子部品・デバイス・電子回路

集積回路

洋紙・機械すき和紙

自動車(二輪自動車を含む)

全品目

自動車部分品・附属品1

2

3

4

5

67

33

31

30

27

1,165

2,654

30,525

405

431

208

969

2.5

8.1

7.1

14.4

2.8

3.8

全国

~被災地域では、自動車部分品・附属品、その他の電子部品・デバイス・電子回路、集積回路といった品目の出荷額が大きい~

資料:経済産業省「平成20年工業統計表」再編加工(注) 1.被災地域は、青森県、岩手県、宮城県、福島県における災害救助法を適用した市町村 (2011年3月24日時点 )を集計した。 2.工業統計表の商品分類表の製造品番号に基づいた品目単位での集計値である。

 震災が発生した2011年3月の鉱工業生産指数を見ると、直接被害の大きかった東北地方では、前月からの減少率が石油製品工業が9割以上、家具工業、鉄鋼業、パルプ・紙・紙加工製造業が6割前後と大きくなっている一方で、四国を除くその

他の地域では、輸送機械工業の減少率が約3~5割と、他の業種と比較して突出しており、被災地域の企業からの原材料、部品等の供給が滞ったため、全国的な影響が広がることとなったと考えられる(第1-2-16図)。

第1-2-16図 2011年3月の鉱工業生産指数(地域別)及び中小企業への影響

1位

2位

3位

4位

5位

全体

産業 2月 3月 前月比 産業 2月 3月 前月比 産業 2月 3月 前月比 産業 2月 3月 前月比 産業 2月 3月 前月比

輸送機械工業

情報通信機械工業

一般機械工業

家具工業

皮革製品工業

鉱工業

83.5

104.6

108.5

74.1

58.9

101.7

59.3

80.1

89.4

66.6

53.7

96.6

▲29.0

▲23.4

▲17.6

▲10.1

▲ 8.8

▲ 5.0

輸送機械工業

食料品・たばこ工業

金属製品工業

一般機械工業

パルプ・紙・紙加工品工業

鉱工業

111.9

123.9

82.6

80.9

93.4

97.4

79.5

95.8

66.3

65.8

84.4

91.0

▲29.0

▲22.7

▲19.7

▲18.7

▲ 9.6

▲ 6.6

金属製品工業

輸送機械工業

鉱業

石油・石炭製品工業

非鉄金属工業

鉱工業

70.6

105.4

93.6

119.8

107.9

97.5

61.0

99.4

88.4

113.3

104.8

98.4

▲13.6

▲ 5.7

▲ 5.6

▲ 5.4

▲ 2.9

0.9

近畿 中国 四国

輸送機械工業

情報通信機械工業

プラスチック製品工業

一般機械工業

窯業・土石製品工業

鉱工業

127.4

100.3 95.5

105.6

76.4

113.0

116.5

72.4

45.7

104.0

109.5

97.1

▲43.2

▲40.2

▲ 8.0

▲ 6.0

▲ 4.8

▲ 8.0

九州

輸送機械工業

非鉄金属工業

ゴム製品工業

家具工業

一般機械工業

鉱工業

99.3

93.8

96.0

74.9

93.9

97.9

52.9

78.3

81.1

64.0

80.3

82.7

▲46.7

▲16.5

▲15.5

▲14.6

▲14.5

▲15.5

全国

1位

2位

3位

4位

5位

全体

産業 2月 3月 前月比 産業 2月 3月 前月比 産業 2月 3月 前月比 産業 2月 3月 前月比

輸送機械工業

家具工業

木材・木製品工業

繊維工業

鉱工業

142.4

84.6

429.7

100.0

74.2

97.4

100.8

61.9

316.9

86.0

66.1

91.9

▲29.2

▲26.8

▲26.3

▲14.0

▲10.9

▲ 5.6

石油製品工業

家具工業

鉄鋼業

パルプ・紙・紙加工品工業

化学工業

鉱工業

99.6

73.2

102.6

99.1

123.4

99.5

5.9

24.1

35.3

40.3

65.3

64.7

▲94.1

▲67.1

▲65.6

▲59.3

▲47.1

▲35.0

輸送機械工業

ゴム製品工業

石油・石炭製品工業

鉄鋼業

一般機械工業

鉱工業

80.9

79.9

91.3

103.1

93.0

91.1

40.3

58.1

67.0

76.9

71.5

74.2

▲50.2

▲27.3

▲26.6

▲25.4

▲23.1

▲18.6

北海道 東北 関東

輸送機械工業

非鉄金属工業

家具工業

電気機械工業

プラスチック製品工業

鉱工業

101.5

97.8

73.5

104.6

92.4

100.2

56.6

77.9

64.5

93.1

82.4

82.1

▲44.2

▲20.3

▲12.2

▲11.0

▲10.8

▲18.1

中部

非鉄金属工業

(季節調整値 2005年=100)

~輸送機械工業は、関東のみならず、2011年3月の落ち込みが全国的に大きかった~

資料:経済産業省「鉱工業生産指数」(注) 地域別の鉱工業生産指数は、各経済産業局で作成、公表されているものを使用している。

【中小企業の状況】○ 大手自動車メーカーも一部車種の生産を再開したものの、生産量は大幅に減少。東北地域からの供給が滞っている部品もあり、サプライチェーン全体にも大きな影響が生じている。今後、当地域の三次・四次サプライヤーにあたる中小企業の資金繰り等について、大きな影響が顕在化するおそれがあるとの声がある。 〔3月下旬〕(愛知県経済団体)○ 被災地の建物損壊や計画停電による操業停止(短縮)で原材料供給が滞り、部品製造に影響。長期化すると、海外メーカー向け輸出用部品が、別の海外メーカーに取って代わられ、復旧後も戻らないおそれあり。〔3月下旬〕(静岡県浜松商工会議所)

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第5節

第1部

49中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

18 ダイカストとは、溶融金属を精密な金型に圧入することにより、高精度で鋳肌の優れた鋳物を大量生産する鋳造方法の一種。19 光ピックアップとは、CDやDVD等の光ディスクにレーザー光を照射し、データの記録や読み取りを行うための装置。

取引先を支援することにより供給体制を維持した企業

 宮城県石巻市の株式会社堀尾製作所(従業員52名、資本金2,000万円)は、亜鉛ダイカスト18での高精度鋳造を実現し、光ピックアップ19部品で世界シェアの約30%を占めている。同社は、高台に立地していたために津波の被害は免れたが、協力会社の宮城県石巻市の有限会社雄勝無線(従業員14名、資本金300万円)は、最終工程の部品加工や検査を担ってきたその工場が設備ごと流された。有限会社雄勝無線は廃業の危機にあったが、株式会社堀尾製作所から工場の空きスペースと生産設備を無償で借り受けたため、廃業を免れた。一方、株式会社堀尾製作所は、自動車向け部品の在庫に余剰がなくなり、納期が逼迫した状況に陥った。しかし、有限会社雄勝無線の協力を得て、突貫で工作設備を作り、徐々に納期遅延がなくなり、納入先のラインストップは免れることができた。同社は、「他社に仕事を頼んでも対応することは困難であったと思う。雄勝無線さんに作業を続けてもらったおかげで、部品製造が滞らなかった。」と感謝している。

事例1-2-10

Case

自社の金型を他社工場に持ち込んで生産を行い、取引先への影響を抑えた企業

 宮城県岩沼市の株式会岩沼精工(従業員50名、資本金1,000万円)は、精密プレス加工、金型製作、省力化機器の設計・製造を行い、民生用リチウムイオンバッテリー向け端子で高いシェアを有する企業である。 今回の震災により工場が約1.2メートル浸水し、500種類以上の金型や機械設備が被害を受け、同社の千葉喜代志社長は、「工場の被災状況を見た時、一瞬再開の断念も考えたが、取引先への供給責任や従業員とその家族の将来を思い、操業継続を決断した。」と言う。 同社は、取引先への影響を最小限に抑えるべく震災以前の受注には無事だった在庫等で対応し、量産品に不可欠な金型の洗浄と錆び防止を最優先に行い、自社の金型と従業員を借用した同業者の工場に送って生産を行った。自社工場は、被害を受けた機械設備を中古品の購入で代替して生産体制を整え、電力供給が再開するまでは、大型発電機を借り入れるなどの工夫を行い、震災から約1か月で操業を再開した。 同社の千葉社長は、「被害は大きかったが、取引先に迷惑は掛けられないので、客先、同業者の協力、仲間に支えられて早期復旧に全社一丸で取り組み、やっとここまできた。本当に感謝している。」と語る。

事例1-2-11

Case

供給メーカーとしての自覚を持ち、自動車部品供給力の維持に全力を挙げる企業

 宮城県亘理郡の岩機ダイカスト工業株式会社(従業員328名、資本金2億円)は、自動車業界向けのダイカスト製品、モルダロイ製品の製造を手掛けている企業である。震災後、操業再開までは約3週間を要したが、同社の斎藤吉雄社長は、「大半は電力供給の開始を待っていた時間であり、電力供給さえあれば震災後1週間で操業できた。」としている。同社は津波で甚大な被害を受けた山元町に立地しているが、沿岸から数キロメートル離れた場所にあり、津波の影響をほとんど受けていない。現在は震災前の受注をフル生産でこなしているが、「操業は無理だろうと取引先が拙速に判断して、他の企業に離れていくことが何より怖い。」と考えている。

事例1-2-12

Case

 このように、被災地域からの原材料、部品等の供給が停滞することによるサプライチェーンへの影響は全国に及んだが、被災した中小企業の中には、大きな被害を受けた取引先を支援することにより供給体制を維持した企業や自社の金型を他社

工場に持ち込んで生産を行い取引先への影響を抑えた企業、供給メーカーとしての自覚を持ち自動車部品供給力の維持に全力を挙げる企業も存在した。

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50 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

●消費マインドの低下による影響 今回の震災は、被災地への配慮等からの自粛ムードや長引く余震及び計画停電等の影響により小売業や旅館、ホテル等のサービス業を中心に消費マインドの低下を引き起こした。 第1-2-17図の(株)帝国データバンク「震災の影響と復興支援に対する企業の意識調査20」によると、今回の震災が中小企業に及ぼした需要への影響について、需要が減少又はやや減少と回答し

た企業の割合が小売業で約65%、サービス業で60%強と高くなっており、消費マインドの低下による需要の減少の影響が小売業、サービス業で大きかったと考えられる。また、小売業、サービス業への影響を地域別に見ると、東北、関東に加えて、北海道、東海、中国でも、6割以上の企業が、需要が減少又はやや減少と回答しており、影響が全国的に波及したことが分かる。

第1-2-17図 震災による中小企業の需要への影響

需要が減少(見込み含む)影響はない需要が増加(見込み含む)

需要がやや減少(見込み含む)需要がやや増加(見込み含む)分からない

20.420.47.57.5(業種)全体

(地域)全体北海道東北北関東南関東北陸東海近畿中国四国九州

36.036.0 21.221.2 14.914.9 5.05.0 15.415.4 41.941.9 10.510.5 9.29.2 3.13.1 14.914.9

小売業

サービス業

卸売業

製造業

運輸・倉庫業

0% 100% 0% 100%

45.045.0 19.819.8 11.711.7 6.36.3 1.81.8 15.315.3

49.349.3 10.710.7 8.08.0 12.012.0 9.39.3 10.710.7

46.646.6 15.915.9 5.75.7 12.512.5 4.54.5 14.814.8

48.148.1 21.421.4 8.88.8 7.67.6 3.13.1 11.011.0

29.329.3 20.720.7 10.310.3 20.720.7 5.25.2 13.813.8

41.841.8 21.321.3 9.99.9 10.610.6 2.12.1 14.214.2

31.931.9 23.823.8 9.59.5 10.510.5 3.33.3 21.021.0

39.439.4 25.525.5 9.69.6 9.69.6 0.00.0 16.016.0

27.327.3 11.411.4 20.520.5 11.411.4 2.32.3 27.327.3

32.432.4 17.617.6 21.121.1 5.65.6 2.12.1 21.121.1

43.943.9 20.820.8 9.89.8 8.98.9 3.63.6 13.113.1

41.441.4 20.320.3 10.710.7 9.39.3 3.03.0 15.415.4

38.638.6 22.122.1 7.07.0 14.314.3 4.94.9 13.013.0

33.633.6 22.622.6 5.85.8 17.217.2 5.85.8 15.015.0

35.035.0 17.517.5 5.05.0 21.521.5 5.65.6 15.415.4

~業種別に見ると、小売業、サービス業で、需要が減少又はやや減少と回答した企業の割合が高く、小売業、サービス業の中では、東北、関東に加えて、北海道、東海、中国でも、6割以上の企業が、需要が減少又はやや減少と回答しており、全国的に影響が及んだ~

資料: (株)帝国データバンク「震災の影響と復興支援に対する企業の意識調査」(2011年3月)

(注) 1.中小企業のみを集計している。 2.右図は小売業及びサービス業のみを集計している。

【中小企業の状況】○ 3月の売上高は、前年同月比で約4割の減少。原子力発電所事故や計画停電等の影響でとても洋服を買うムードではない。〔4月上旬〕(東京都中央区、婦人服卸売業)○ エコポイントが3月末までで、駆け込み需要を期待したが、地震後は全く売れなくなった。このため、当社が行う家電装置に伴う配線工事も見込みを下回った。〔4月上旬〕(大阪府東大阪市、電気配線工事業)○ 震災直後はチラシの受注が全面キャンセルとなったため、3月の売上は前年比7割減と大幅に落ち込んだ。最近は大手を中心に少しずつ戻りつつあるが、4月一杯までは通常水準に戻らないだろう。ガソリンの高騰も大きく響いており、採算は非常に厳しい。〔4月上旬〕(東京都世田谷区、広告代理業)○ 宮島の近くで和菓子(主に土産物用)の製造小売を営んでいる。宮島は外国人観光客が多いが、震災以降はめっきり少なくなり、当社の売上にも大きく影響している。〔4月上旬〕(広島県廿日市市、和菓子小売業)

 ここまで、今回の震災による消費マインドの低下が小売業やサービス業を中心に全国的に影響を及ぼしたことを述べてきたが、ここからは、小売業と旅館、ホテル等のサービス業のそれぞれへの影響について見ていく。 第1-2-18図は、大型小売店を除く小売業販売額

の前年同月比増減率の推移を示したものであるが、震災が発生した2011年3月は前年同月比が8.9%と大きく低下しており、震災による消費マインドの低下が中小小売業販売額に大きな影響を及ぼしたと考えられる21。

20 (株)帝国データバンクが2011年3月に22,097社を対象に実施した調査。回収率は48.6%。21 総務省 「家計調査」 によると、震災発生後に食料への支出は増加した一方、被服及び履物、教養娯楽への支出は減少した。付注1-2-2参照。

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第5節

第1部

51中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

 次に、サービス業の中で、地震及び原子力発電所事故の影響等による国内外からの観光客の減少により、大きな影響を受けた旅館、ホテル等への影響を見ていく。 第1-2-19図は、(独)国際観光振興機構が公表している訪日外国人数を示したものであるが、2011年3月の訪日外国人数は前年同月比で50.3%減と調査開始以降最も大きく減少した。震災前後を見ると、訪日外国人数は震災の影響を受けていない3月1~11日が約21万5千人で前年同期比4%

増である一方で、影響を受けた3月12~31日が約13万7千人で同73%減となった。さらに、4月の前年同月比は62.5%減となり、2か月連続で単月の減少幅が最大となった。 また、国内でも、旅行の取りやめや自粛が相次いでいおり、観光庁によると、2011年3~4月の旅館、ホテルの宿泊予約のうち、東北では約61%、関東では約48%、全国では約36%が取りやめとなった。

第1-2-18図 小売業販売額(大型小売店を除く)の前年同月比増減率(%)8.0

6.0

4.0

2.0

0.0

▲ 2.0

▲ 4.0

▲ 6.0

▲ 8.0

▲ 10.0

3.8

5.56.2

6.3

4.0 4.3 4.44.9

1.5 1.3

▲ 0.8

▲ 2.7

▲ 0.2 ▲ 0.3

▲ 8.9

▲ 5.8

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4

10 11(年月)

~震災が発生した2011年3月に、大幅な落ち込みが見られる~

資料:経済産業省「商業販売統計月報」(注) 大型小売店とは、従業者50人以上の小売事業所のうち、日本標準産業分類(平成14年3月改定)の百貨店・総合スーパー(551)のうち、スーパー以外で売場面積

が特別区及び政令指定都市で3,000平方メートル以上、その他の地域で1,500平方メートル以上の事業所(百貨店)と、売場面積が1,500平方メートル以上で、かつ、売場面積の50%以上についてセルフサービス方式を採用している事業所(スーパー)のことである。

第1-2-19図 訪日外国人数及び中小観光業への影響

(万人)1009080706050403020100

64 6671

7279

68

8880

72 7363 65

7168

35

30

36

2 3 4 4 511 2 3

(年月)

5 6 7 8 9 10 1110 11

12

~2011年3月以降の訪日外国人数は落ち込みが見られる~

資料:(独)国際観光振興機構「訪日外客統計」(注) 1. 「訪日外客」とは、国籍に基づく法務省集計による外国人正規入国者から日本に居住する外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者

であり、当該国・地域発行の旅券を所持した入国者数を示す。 2.2011年4月、5月は(独)国際観光振興機構が独自に算出した推計値である。

【中小企業の状況】○3月11日以降、4月末までの予約分が全部キャンセルになり、現時も新たな予約が全く入ってこない。〔4月上旬〕(栃木県宇都宮市、旅館業)○ 地震のあった3月11日以降、旅館・ホテルのキャンセルが相次いでいる。特に、外国人観光客のキャンセルが増えており、温泉街への影響が心配。 〔3月中旬〕(北海道登別商工会議所)○市内のホテル、旅館が軒並みキャンセルされており、大幅な従業員解雇も行われている。〔4月中旬〕(福島県中小企業団体)

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52 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

消費マインドの低下の中でも、売上回復に尽力する企業

 宮城県石巻市の株式会社モビーディック(従業員81名、資本金8,300万円)は、人体工学に基づいた高品質のウェットスーツで国内トップシェアを占める企業である。震災の影響でリードタイムは平時を下回っている状況であるが、震災前から取引先と強い信頼関係を有しており、消費マインドが低下する中でも、全国の取引先からの支援を受けて、受注を確保している。 同社の保田守社長は、「当社はレジャー関連製品が中心なので、早期に消費マインドが回復してほしい。」と考えており、工場の稼働状況も徐々に戻していく予定である。

事例1-2-14

Case

22 コラム1-2-6を参照。

自粛ムードを取り払う取組を行っている商店街

 東京都杉並区の高円寺銀座商店会協同組合の飲食店経営者が中心となり、顧客とともに行う被災地支援チャリティプロジェクト 「オー・ド・ヴィー」 を立ち上げた。 消費者に外食や飲酒を自粛するのではなく、飲食店を利用する際に、店舗ごとのチャリティメニューや「もう一品」、「もう一杯」を注文してもらうことで、売上の一部を被災地域に送ろうという事業である。飲食店ならではの募金活動として被災地域への直接支援ができる上に、消費マインドの低下により売上が大きく影響を受ける街を活性化させることにもつながることから、同商店街は、この活動を積極的に支援している。さらに、各方面に働きかけをしたところ、高円寺の10商店街が加盟する 「高円寺商店街連合会」 の後援を得ることもでき、同商店街の取組の認知度が高まり、更なる取組につながることが期待される。

事例1-2-13

Case

 本節では、被災地域からの原材料、部品等の供給停滞によるサプライチェーンへの影響や被災地域への配慮からの自粛等による消費マインドの低下の小売業、サービス業等への影響が、全国的に波及したことを見てきた。こうした影響の全国的

な広がりを受け、政府は、融資や保証による資金繰り支援、雇用調整助成金や雇用保険による雇用支援に加えて、窓口や電話による相談体制設置等の支援を行っている22。

 以上、小売業、旅館、ホテル等のサービス業を中心に、消費マインドの低下が我が国の消費を冷え込ませていることを見てきたが、こうした中で

も、自粛ムードを取り払う取組を行っている商店街や消費マインドの低下の中でも売上回復に尽力する企業も存在する。

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第5節

第1部

53中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

コラム1-2-6相談体制設置等の支援

 政府では、こうした影響の全国的な広がりを受けて、全国の公的金融機関や商工会議所等に特別相談窓口を設置して、中小企業等からの相談に応じている(コラム1-2-6図①)。

コラム1-2-6図① 全国的な相談体制の整備~影響の全国的な広がりを受け、窓口や電話による相談体制設置等により、広範多岐にわたる相談に親身かつ迅速に対応している~

【特別支援窓口の設置】 全国の公的金融機関や商工会議所等において特別相談窓口を設置。震災に関し、広範多岐にわたる相談が寄せられている。【中小企業電話相談ナビダイヤル】 資金繰り、雇用面、税制面等における各種支援策の相談・問い合わせが寄せられている。

お問い合わせ先各種相談 「中小企業電話相談ナビダイヤル」 0570-064-350(9:00~17:30)※融資については、(株)日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、(株)商工組合中央金庫、 保証については、最寄りの信用保証協会で対応1。

【中小企業の状況】○ 事事業所が被災し、現在休業中であるが、金融機関への借入金の返済、資金繰り、下請事業者への支払等で悩んでいる。 〔4月下旬〕(宮城県石巻市、製造業)○ 運転代行業をしているが、震災以降利用客が激減して運転資金が回らない。〔4月下旬〕(栃木県宇都宮市、運送業)○ 避難地域にはなっていないが、お客さんも来ない状況で売上が大幅に減少しており、当面の資金が必要。〔4月中旬〕(福島県田村市、飲食業)○ 観光業をしているが、地震以降の予約が全てキャンセルになり、また今後も全く予約が入ってこない状況。〔4月中旬〕(茨城県土浦市、サービス業)

(注) 1.詳細は経済産業省中小企業庁ホームページを参照。   http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/download/110526NDC.pdf

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54 2011 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2章 東日本大震災の中小企業への影響

コラム1-2-6図② 特別相談窓口における相談実績等~ 特別相談窓口には、多岐にわたる相談が寄せられており、2011年6月13日時点で、累計相談実績が105,538件となっている~

東日本大震災後の資金繰り支援策の実施状況○融資実績

2011年5月23日~6月10日

2011年3月14日~5月22日

東日本大震災復興特別貸付

災害復旧貸付

セーフティネット貸付

件数 58,577件 11,852件 7,369件 39,356件金額 9,527億円 2,496億円 884億円 6,147億円

○保証実績

保証合計(信用保証協会)

2011年5月23日~6月10日

2011年3月14日~6月10日

東日本大震災復興緊急保証

災害関係保証

セーフティネット保証5号

件数 112,488件 4,601件 1,708件 106,179件金額 2兆0,203億円 1,407億円 252億円 1兆8,544億円

貸付合計((株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫)

3,000

(件数)

2,000

1,000

0

2011年6月13日時点で、累計相談実績105,538件

特別相談窓口における相談実績(日ごと)

相談実績

3月14日

3月16日

3月18日

3月23日

3月27日

3月29日

3月31日4月4日4月6日

4月10日

4月12日

4月14日

4月18日

4月20日

4月24日

4月26日5月1日5月8日

5月10日

5月12日

5月16日

5月18日

5月22日

5月24日

5月26日

5月30日6月1日6月5日6月7日6月9日

6月13日

資料:中小企業庁作成

資料:中小企業庁作成(注) 1. 災害復旧貸付とセーフティネット貸付は、貸付限度額、貸付期間、金利引下げ措置等を大幅に拡充して、東日本大震災復興特別貸付に統合されて

いる。 2.数値は、速報値であるため、事後的に修正される可能性がある。

 特別相談窓口には、多岐にわたる相談が寄せられており、2011年6月13日時点で、累計相談実績が105,538件となっている(コラム1-2-6図②)。

Page 30: 念念念校中俣 第一部 二章本文 - METI...(2008年) 7.4兆円 4.4兆円 75,098社 企業数 (2009年) ②地震被災地域2 商品販売額 (2007年) 製造品出荷額等

第5節

第1部

55中小企業白書 2011

最近の中小企業の動向

 本章では、今回の東日本大震災の被害が東日本の極めて広域に及ぶだけでなく、大規模な地震と津波に加え原子力発電所事故が重なるという、未曾有の複合的な大災害であり、その影響が被災地域の中小企業のみならず、被災地域の企業と取引のある中小企業等に広範に及んでいることを見てきた。被災地域の社会生活や経済活動の一刻も早い復興を図り、東日本大震災が我が国経済に与える影響を最小限のものとするためにも、政府としては中小企業の多様なニーズに対応し、中小企業支援に万全を期していく。

 こうした状況を踏まえて、続く第2部では、中小企業が、我が国の産業、生活の基盤をどのように支えているのか、急速な景気低迷や深刻化する構造的課題にどのように対応しているのかを示し、我が国の経済社会における中小企業の重要性について分析を行い、第3部では、震災による厳しい状況の中で、我が国経済が持続的に成長するための取組として、起業、転業、労働生産性の向上、国外からの事業機会の取り込みの現状と課題について分析を行っていく。