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1 2013 5 1 【本件に関する問い合わせ先】 日本銀行福島支店 総務課 電話: 024-521-6353 本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行福島支店まで ご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 福島県における農業の現状と課題

福島県における農業の現状と課題 - boj.or.jp · 3 Ⅱ.県農業を巡る最近の状況(原発事故以降の風評被害の影響) このように福島県は、全国でも有数の農業県として

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2 0 1 3 年 5 月 1 日

日 本 銀 行 福 島 支 店

【 本 件 に 関 す る 問 い 合 わ せ 先 】

日 本 銀 行 福 島 支 店 総 務 課

電 話 : 0 2 4 - 5 2 1 - 6 3 5 3

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行福島支店まで

ご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

福島県における農業の現状と課題

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Ⅰ.福島県における農業の位置付け

福島県の県内総生産に占める農業の割合は 1.8%(2010 年度)ながら、農産物の活用に

より農業と密接な関係にある食品や飲料製造、飲食店、宿泊業等の産業を合わせると、県

内総生産の約1割に相当する規模であり、県内経済に大きな影響を与える産業と位置付け

られる。

―― 産業連関表(産業間取引額表)を基に、農業からの原材料購入額が大きい業種(食

料品・たばこ、耕種農業、飲料、畜産、農業サービス、飲食店、宿泊業)の粗付加

価値額を合計すると 7,675 億円で、県内総生産の概ね1割(10.8%)に相当。

また、全国における位置付けをみても、福島県の農業就業人口(109,048 人)は全国3

位、農業産出額(2,330 億円)は全国第 11 位と上位に位置している。

【図表1】農業就業人口と農業産出額(2010 年)

順位 都道府県農業就業人口

(人)順位 都道府県

農業産出額(億円)

1 茨城 113,287 1 北海道 9,946

2 北海道 111,324 2 茨城 4,306

3 福島 109,048 3 千葉 4,048

4 長野 100,244 4 鹿児島 4,011

5 新潟 98,988 5 熊本 3,071

6 千葉 93,901 6 愛知 2,962

7 岩手 89,993 7 宮崎 2,960

8 熊本 87,136 8 青森 2,751

9 青森 80,483 9 新潟 2,563

10 栃木 79,881 10 栃木 2,552

11 愛知 77,359 11 福島 2,330

12 鹿児島 74,364 12 岩手 2,287

(出所)農林水産省、総務省

この間、農産物別の収穫量をみると、水稲のほか、りんご、もも、日本なし等の果物に

加え、きゅうり、トマト、さやいんげん等の野菜など、多種多様な農産物が全国でも上位

に位置している。

【図表2】福島県の主要農産物の収穫量・作付面積(2010 年)

<収穫量> <作付面積>

農産物 収穫量(t) 全国順位 農産物 作付面積(ha) 全国順位

水稲 445,700 4 水稲 80,600 4

きゅうり 49,400 3 そば 3,450 3

りんご 31,600 5 もも 1,560 2

トマト 28,800 7 春植えばれいしょ 1,440 5

もも 28,200 2 りんご 1,370 6

春植えばれいしょ 25,500 6 かき 1,280 5

日本なし 23,200 3 日本なし 1,090 3

はくさい 21,800 9 きゅうり 887 2

かき 14,000 4 はくさい 732 4

ねぎ 11,200 10 ねぎ 710 8

ブロッコリー 5,250 8 さやいんげん 688 1

さやいんげん 4,350 2 ブロッコリー 678 6

にら 3,580 6 アスパラガス 478 3

アスパラガス 1,880 5 トマト 473 6

そば 1,860 4 さやえんどう 355 2

さやえんどう 1,480 4 にら 201 5

  (出所) 東北農政局福島農政事務所、福島県農林水産部

3

Ⅱ.県農業を巡る最近の状況(原発事故以降の風評被害の影響)

このように福島県は、全国でも有数の農業県として、県内はもとより首都圏など県外消

費地への重要な食料供給の役割を担ってきた。また、土産や宿泊、飲食店における地場産

品の提供のほか、田園風景や果樹園などを含め、地域の観光資源として大いに活用されて

きた。もっとも、東日本大震災と原発事故の発生により県農業は、深刻な風評被害の影響

を受けている。

1.農産物の取引数量・価格動向

最近における福島県の農産物の卸売数量をみると、天候要因等による出荷量の振れや

品目によるバラツキがあるが、出荷量は、全体としてみれば震災前とほぼ変わらぬ水準

に戻っている。

【図表3】主な果物、野菜の卸売数量の推移(2010~2012年)

250.0

750.0

1250.0

1750.0

2250.0

中旬 下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬

7月 8月 9月 10月

2010年

2011年

2012年

▽ 「きゅうり」の卸売数量の推移

(t)

250.0

750.0

1250.0

1750.0

2250.0

上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬

9月 10月

2010年

2011年

2012年

▽ 「日本なし」の卸売数量の推移(t)

50.0

550.0

1050.0

1550.0

2050.0

2550.0

3050.0

3550.0

下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬

7月 8月 9月

2010年

2011年

2012年

▽ 「もも」の卸売数量の推移(t)

(注) もも、日本なし、きゅうりは、全国の卸売市場、ね

ぎ、にらは、東京都中央卸売市場の取扱高。

(出所) 農林水産省(もも、日本なし、きゅうり)、独立

行政法人農畜産業振興機構(ねぎ、にら)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12(月)

(t)

2010年

2011年

2012年

▽ 「ねぎ」の卸売数量の推移

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12(月)

(t)

2010年

2011年

2012年

▽ 「にら」の卸売数量の推移

4

もっとも、価格面では、風評被害の影響から厳しい状況を脱していない。「もも」は、

震災直後(2011 年)に他県産との価格差が大きく拡大し、最安値の時には1kg当り

100円台まで落ち込んだ。2012年には 300円台まで回復したが、それでも8月の最盛期

における他県産との価格差は大きい。「日本なし」は、2012 年9月の出荷量は例年の

半分と尐なかったこともあり、他県産との価格差が大幅に縮小しているが、10 月には

価格差が再び拡大している。「きゅうり」は、果物に比べると他県産との価格差は小さ

いが、2010 年は県内産が最高値に張り付いていたのに対し、今は安値圏で推移してい

る。また、「ねぎ」は全国平均を下回って推移しており、その価格差はむしろ広がって

いるようにもみてとれる。

【図表4】主な果物、野菜の卸売価格の推移

345 302

167184

276

355381

0

100

200

300

400

500

600

下旬

7月

上旬

8月

中旬 下旬 上旬

9月

中旬 下旬

2011年(円/1kg)

264

364

335373 375 366

405

0

100

200

300

400

500

600

下旬

7月

上旬

8月

中旬 下旬 上旬

9月

中旬 下旬

2012年(円/1kg)

366

428441

469 486469

542

0

100

200

300

400

500

600

下旬

7月

上旬

8月

中旬 下旬 上旬

9月

中旬 下旬

2010年(円/1kg)

▽ 「もも」の卸売価格の推移

169

201

207 202 207195

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

上旬

9月

中旬 下旬 上旬

10月

中旬 下旬

2011年(円/1kg)

305 308

276

193 191 201

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

上旬

9月

中旬 下旬 上旬

10月

中旬 下旬

2012年(円/1kg)

351346

349

246228 230

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

上旬

9月

中旬 下旬 上旬

10月

中旬 下旬

2010年(円/1kg)

▽ 「日本なし」の卸売価格の推移

(注)棒線は各産地の最高値と最低値を表し、赤丸は福島県産の卸売価格を表す。

5

248 257

196

146

372

336 305

378 341

239

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

中旬

7月

下旬 上旬

8月

中旬 下旬 上旬

9月

中旬 下旬 上旬

10月

中旬

2011年(円/1kg)

195

210

150 151

206168

154

207

216

256

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

中旬

7月

下旬 上旬

8月

中旬 下旬 上旬

9月

中旬 下旬 上旬

10月

中旬

2012年(円/1kg)

250

191201

285

356

307

391

335

351

250

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

中旬

7月

下旬上旬

8月

中旬下旬上旬

9月

中旬下旬上旬

10月

中旬

2010年(円/1kg)

▽ 「きゅうり」の卸売価格の推移

(注)棒線は各産地の最高値と最低値を表し、赤丸は福島県産の卸売価格を表す。

100

150

200

250

300

350

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

2012年

100

150

200

250

300

350

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

2011年

国内産平均

福島県産

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

2011年

国内産平均

福島県産

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

2012年

(円/1kg)

(円/1kg)

(円/1kg)

(円/1kg)

▽ 「ねぎ」の卸売価格の推移

▽ 「にら」の卸売価格の推移

(注)もも、日本なし、きゅうりは、全国の卸売市場、ねぎ、にらは東京都中央卸売市場。

(出所)農林水産省(もも、日本なし、きゅうり)、独立行政法人農畜産業振興機構(ねぎ、にら)

6

この間、米価の動向について、福島県産こしひかりの取引価格を全国平均(全銘柄価

格)と比較してみると、会津産は震災前と大きくは変わらずに全国平均を 500~1,000

円程度上回る水準で推移している。一方、中通り産は、2010 年にほぼ全国平均並みで

あったものが、2011 年産米は▲1,000~▲1,500 円程度まで下落した。2012 年産米は

▲500~▲1,000 円程度まで持ち直しているが、依然として全国平均を下回っている。

県内関係者からは「福島県の米は風評被害から価格が軟調な地合いにあるため、流通業

者が値下げされるまで買い控える動きがみられる。また、生産者の賠償金受給を前提と

した厳しい値決めが行われている」など、他県産対比安値圏での取引が定着してしまっ

た感があるとの懸念の声が聞かれている。

【図表5】福島県産こしひかりの全国(全銘柄平均価格)との差の推移

-2,500

-2,000

-1,500

-1,000

-500

0

500

1,000

1,500

2,000

10/10 11 12 11/1 2 3 4 … 10 11 12 12/1 2 3 4 5 6 … 10 11 12 13/1 2

こしひかり(会津)

こしひかり(中通り)

こしひかり(浜通り)

円/玄米60kg

(出所)農林水産省

2.風評被害の払拭に向けた取り組み

こうした現状に対し、県内の農業関係者は、風評被害の払拭に向け、懸命の努力を

重ねてきた。すなわち、福島県では、県産米の全袋検査を始めとする放射性物質のモニ

タリングや情報発信の強化、農地等除染を積極的に進めてきたほか、知事等による県産

品のトップセールス、物産展・展示会の開催などにより、国内外への安全性PRを図っ

てきた。また、JAや個別農家においても、独自に検査装置を導入の上、農産物や土壌

検査を実施し、ホームページ等で情報公開する取り組みのほか、首都圏などへ度々出向

き地元産品をPRする取り組みなども数多くみられている。こうした関係者の努力もあ

って、前述の通り、福島県の農産物価格は震災直後の大幅な価格下落から持ち直してき

ているが、風評被害はなお完全には払拭されていない状況にある。

7

風評被害の払拭に向けては、今後も農地等除染や、安心できる検査体制の維持とその

情報開示の取り組みを継続・強化していくことが重要である。加えて、検査手法(どの

ような検査を行っているのか)や検査結果に関し、全国対比の計数などを交えながら県

内農産物の安全性をわかりやすく情報発信することも、有効な対策と考えられる。

また、福島県での農業の現状を実際に見に来てもらうことも 1 つの方策である。県内

の農業経営者の中には、農業体験等の形で消費者を呼び込んだり、販売業者向けに生産

現場の見学会を開催するといった活動を展開する動きがみられている。福島県への観光

客の入込は、NHK 大河ドラマ「八重の桜」の放映により増加している状況にある。こ

れを好機と捉え、観光と農業が連携し、県外客に福島県の農業の現状や県産品の魅力を

知ってもらうことも効果的であろう。

Ⅲ.農業における構造的な問題と前向きな取り組み

1.県農業の構造的な問題

このように福島県の農業を巡る現状の最大の問題は風評被害であり、この払拭に取り

組むことが喫緊の課題である。もっとも、これが収束に向かったとしても、県農業には

耕作放棄地の増加や低い生産性といった震災以前から抱えている構造的な問題が立ち

はだかる。県農業が成長分野として発展していくためには、風評被害の払拭に向けた取

り組みと同時に、こうした構造的な問題への対応を強化していく必要がある。

(1)耕作放棄地の拡大

福島県の農地をみると、過去の無理な開墾政策もあって耕作放棄地が多い。その面

積は震災・原発事故前の 2010 年時点で 22 千ヘクタールと全国で最も広く、県内農地

の約2割を占める。2000 年との対比でみても 1 割増加している。

【図表6】県別の耕作放棄地面積(2010 年)

7,411 (24位)

7,443 (23位)

9,720 (17位)

13,933 (7位)

15,212 (6位)

17,146

17,632

17,963

21,120

22,394

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000

秋田

山形

宮城

岩手

青森

長野

北海道

千葉

茨城

福島

(注)グラフは上位5都道府県と東北各県を掲載。

(出所)農林水産省

ヘクタール

8

耕作放棄地拡大の背景には、高齢化の進展と後継者不足が挙げられる。福島県の 65

歳以上就農人口(69,704 人)は全国1位であり、65 歳以上就農人口 100 人に対する

15~29 歳の若年就農人口の割合は僅か 4.39 人(全国 32 位)にとどまる。後継者不

足の問題は深刻であり、今後も耕作放棄地が増え続ける可能性が高い。また、東日本

大震災で県内農地の4%(浜通りの農地の2割に相当)が津波被害に遭ったほか、原

発事故の影響もあって耕作困難な農地はさらに増加しているとみられる。

【図表7】就業者の高齢化等の状況(2010 年)

順位 都道府県65歳以上

就農人口(人)順位 都道府県

65歳以上就農人口<100人>に対する若年就農者(人)

1 福島 69,704 1 北海道 20.29

2 茨城 69,014 2 大阪 9.643 長野 67,033 3 佐賀 9.324 新潟 64,971 4 青森 8.955 岩手 57,1416 千葉 53,699 32 福島 4.397 兵庫 50,154 33 愛媛 4.218 熊本 47,043 34 埼玉 3.96

35 滋賀 3.8244 奈良 14,41145 沖縄 12,329 45 岡山 2.2246 大阪 10,198 46 奈良 1.7347 東京 6,910 47 山口 1.72

(資料)「2010年世界農林業センサス」、若年就農者は、15~29歳の就農人口

(2)農業の低生産性

2010 年度の福島県における耕地1ヘクタール当りの農業産出額(2.01 百万円)は

全国 39 位。就業者1人当り農業産出額(2.1 百万円)は全国 35 位と生産性は劣位に

ある。寒冷な気候や山がちな県土といった克服し難い自然条件はあるにせよ、生産性

の向上は県農業の重要な課題である。

【図表8】単位当たり農業産出額(2010 年)

順位 都道府県耕地1ha当り農業産出額(百万円)

順位 都道府県1人当り農業

産出額(百万円)

1 神奈川 6.2864 1 北海道 8.934

2 宮崎 6.2856 2 鹿児島 5.3943 愛知 6.1100 3 宮崎 5.186

35 島根 2.3925 35 福島 2.13736 岩手 2.3270 36 東京 2.12137 山形 2.2763 37 香川 2.11538 山口 2.2729 38 岡山 2.08539 福島 2.0122 39 秋田 2.08140 新潟 1.9373 40 奈良 2.04341 石川 1.8520 41 鳥取 1.98942 富山 1.8033 42 兵庫 1.97043 宮城 1.7940 43 大阪 1.83644 福井 1.5885 44 山口 1.81845 滋賀 1.3965 45 滋賀 1.80446 秋田 1.3233 46 福井 1.75447 北海道 1.0567 47 島根 1.711

(出所) 農林水産省

9

2.高付加価値化や生産性向上に向けた前向きな取り組み

以上のような県農業が抱える構造的な問題に対し、未だ広がりは限定的とはいえ、近

年、6次産業化を中心とした高付加価値化や生産性の向上を図り、農業経営の収益・競

争力の強化に取り組む動きがみられている。以下では、こうした取り組みの具体的事例

を幾つか紹介してみたい。

(1)農家の6次産業化

まず、県内における農業(第1次産業)と、製造加工(第2次産業)、販売・サービ

ス(第3次産業)を合わせた6次産業化を展開する農業経営の動きをみると、未だ限定

的とはいえ、着実に広がりつつある。6次産業関連の経営体数は、農産物加工、農家レ

ストラン、農家民宿を中心に全国上位に位置しており、積極的な取り組みを展開する農

業経営者が多いと言える。

【図表9】農業生産関連事業を行っている経営体の事業種類別経営体数(2010 年)

順位 都道府県農産物の加工

順位 都道府県貸農園・体験農園等

順位 都道府県観光農園

順位 都道府県農家民宿

順位 都道府県農家レストラン

順位 都道府県海外への輸出

1 長野 3,454 1 北海道 465 1 山梨 817 1 長野 330 1 北海道 116 1 新潟 362 静岡 1,995 2 長野 363 2 長野 811 2 北海道 255 2 長野 79 2 千葉 283 福島 1,593 3 兵庫 347 3 群馬 487 3 青森 182 3 福島 59 2 静岡 284 茨城 1,502 4 埼玉 319 4 千葉 475 4 新潟 118 4 熊本 51 4 山形 225 和歌山 1,470 5 神奈川 301 5 北海道 405 5 福島 117 5 山形 50 5 長野 20

6 北海道 1,087 6 千葉 261 6 山形 394 5 大分 117 6 宮城 46 6 青森 187 青森 999 7 東京 235 7 神奈川 373 7 兵庫 70 7 岩手 43 6 熊本 188 新潟 973 8 静岡 175 8 埼玉 344 8 岩手 65 7 栃木 43 8 秋田 169 岩手 953 9 大阪 174 9 茨城 343 9 長崎 45 9 福岡 36 8 栃木 16

10 福岡 930 10 愛知 164 10 兵庫 297 10 鹿児島 44 10 兵庫 32 8 埼玉 1611 秋田 914 11 福島 161 11 福岡 288 11 宮崎 42 11 埼玉 30 8 山梨 1612 熊本 908 12 京都 159 12 静岡 268 12 福井 36 11 新潟 30 12 岩手 1313 山形 823 13 福岡 140 13 栃木 263 12 熊本 36 13 茨城 28 12 福岡 13

14 鹿児島 809 14 新潟 137 14 福島 202 14 石川 35 13 千葉 28 14 愛知 1215 宮崎 753 15 宮城 133 15 東京 184 14 岐阜 35 13 鹿児島 28 15 北海道 1116 宮城 692 16 岩手 123 16 青森 181 16 群馬 34 16 愛知 27 16 佐賀 1017 埼玉 683 16 山形 123 17 山口 171 17 秋田 32 17 秋田 26 17 福島 9

18 島根 658 18 栃木 117 17 鹿児島 171 17 山形 32 18 静岡 24 17 鳥取 919 千葉 650 19 熊本 112 19 愛知 129 17 和歌山 32 18 広島 24 19 宮城,茨城 820 栃木,愛知 618 20 茨城 103 20 新潟 124 20 沖縄 28 18 大分 24 ,東京,兵庫

(出所)農林水産省

(県内農業経営者の具体的な取り組み事例)

具体的な取り組み事例をみると、生産技術の高度化、有機農法・無添加食品、加工食

品の開発等による付加価値の向上、販路開拓、地域連携等による営業力強化、農業観光

など様々な創意工夫を行い農業経営の革新に取り組む姿がみられている。

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①生産技術の高度化

天候に左右されない屋内生産設備の導入等により製造業のような計画的生産を実施。

また、土壌分析や最適な施肥管理を科学的に行うことで高品質の農産物生産を実現。

農業法人等 取り組み事例

A 西欧で学んだ生産管理技術を使って製造業的な野菜の生産を実践している。農場は効

率的な動線に基づいて設計されており、最小限の人の動きでモノ(農産物、機材等)

を動かせる仕組み。また、生産量は需給動向に応じて調整可能で価格を維持しやすい。

B 水田の状態を科学的に分析し、塩基バランスを調整。減農薬、減化学肥料栽培により、

高品質の米を生産。

C 温度・湿度等を一元管理することが可能な野菜栽培用の温室を建設し、高品質な野菜

を安定的に供給している。

②有機農法、無添加食品、食品加工の開発等による付加価値の向上

消費者の健康志向を捉えた有機農産物や無添加食品の生産、市場に出荷できない規

格外品の有効利用、より高収益を目指した加工工場の建設、地域連携による加工品の

開発、レストラン運営などにより、農産物の単純販売よりも高付加価値を実現。

農業法人等 取り組み事例

D 化学肥料を一切使わずに自ら有機肥料を作ることで消費者の健康志向に合わせた有

機農法を PR した高付加価値の野菜(自然薯、プチベール等)を生産、販売している。

こうしたノウハウは薬学等の専門家からアドバイスを受けて取り入れている。

E 山間の農村で大規模水稲が行えないため、餅米に転作。体に良い無添加の餅を農商工

連携で生産・販売することで付加価値を高めている。

F そのままでは出荷できない規格外の野菜等を有効利用するため、ゼリー、ジュース等

の加工食品を開発し生産・販売。消費者の声を取り入れた試作品を作成したうえで、

生産は県外食品加工メーカーに委託する分業体制としている。

G 農産物の単純販売のみでは収益的に厳しいため、地域で連携して、乾燥野菜等の加工

食品を開発・販売している。また、独自に新種のワインを開発しているほか、自社の

農産物を使った料理を提供するレストランを運営することで、自社農産物のイメージ

アップや付加価値の向上を図っている。

H 食品の加工工場を建設。規格外品の野菜の瓶詰を保存食として生産・販売しているほ

か、パン、菓子の製造販売などを行っている。

I 耕作放棄地が多い山間地域で地域連携を図りながら、野菜の有機栽培、発泡酒製造、

ワイン醸造会社の設立など、消費者に直結する6次化を進め、農業の活性化に取り組

んでいる。

③販路開拓、地域連携等による営業力強化

利益率が高い直販、ネット通販の展開、成長が期待できる首都圏への自前の営業拠

点の設置、近隣や県外農家との農産物の融通等による販売所での品揃え充実など、営

業力を強化。

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農業法人等 取り組み事例

J 直売所や道の駅での販売ルートに切り替えることで、自社が自信を持って生産した農

産物を、妥当と思える価格で販売している。

K 高品質野菜のインターネットでの通販を開始。消費者との直接相対販売の強みから、

震災以降も大きな値崩れなく、販売することができている。

L 直売所やインターネットでの直販に注力。近隣農家の様々な農産物を一緒に販売する

ことで集客力向上に繋がっている。駅ビルに直営店を置き、首都圏にも営業拠点を設

置し販路開拓に注力している。

M 市場を介さない独自の直販ルートを開拓し、地元および首都圏のレストランやホテ

ル、社員食堂向けに野菜を販売している。また、全国各地の農家と連携し、農産物を

融通し合うことで、様々な野菜を販売することができ、相乗効果が上がっている。

N 農産物の直売所を運営。北海道や九州の直売所とネットワークを持ち、農産物を融通

することで、全国でもトップクラスの売上を上げている。

④農業観光

生産現場の見学受入、農業体験等を積極的に実施し、農産物販売のほか、食事、宿

泊等のサービス業に事業を拡大。

農業法人等 取り組み事例

O 観光事業による6次化として、生産施設への見学を積極的に招き入れ、見学者への農

産物・加工品の販売に繋げている。今後は宿泊サービスへの業容拡大を展望。

P 加工食品の販路拡大のため、納入先の小売業者を見学に招致している。また、宿泊業

や調理免許を取得させ人材の専門性を高めることで、農業体験の宿泊サービスや食事

提供などにまで業容を広げている。

Q 長期滞在型の無農薬栽培の農業体験を実施し、消費者に農業の現場を身近に感じて貰

う工夫をしている。

(行政や金融面からの支援状況)

こうした状況下、行政(福島県)では、農業と観光、流通等といった産業との連携を

図る地域産業6次化戦略に取り組んでいる。具体的には、地域毎のネットワークおよび

全県ネットワークを設け、人材育成講座の開講や農家と企業のマッチングを行っている

ほか、豊富な農産物を栽培している割に層が薄い食品加工分野への機材提供等の支援を

行っている。

金融面では、これまで政府系金融機関からの融資や行政の補助金を活用してきた例が

多いが、加えて県では6次産業化の推進に向け、意欲のある農家への助成や出資を行う

「ふくしま農商工連携ファンド」や「ふくしま地域産業6次化復興ファンド」を設立し

た。地域金融機関においても同ファンドへの出資に加え、農業を成長分野と位置付け、

審査ノウハウの蓄積に取り組む動きがみられ始めている。

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(2)農地集約による大規模化

経営効率の向上を目指し、近隣農地等を賃借して農業の大規模化に取り組む動きがみ

られる。もっとも、専業、兼業農家とも農地の売買や貸借には慎重であり、その進展は

必ずしも捗々しくない。また、売主・買主または貸主・借主の情報交換やマッチングが

難しいとか、農業者戸別所得補償が兼業農家にも適用されていることが、却って農地の

有効活用や収益性向上のインセンティブを削ぎ、大規模化が進まない一因になっている

のではないかと指摘する声も聞かれる。

農業法人等 取り組み事例

R 近隣の水田等の賃借により、集積・大規模化を図り、生産効率・競争力を高めている。

大規模化に伴い除草等のコストが増加するが、低生産性作物の栽培の取り止めや除草作

業の外注化などに努めている。

S 高齢化が進展する中、当社に農地を賃貸したいとのニーズは増加しているが、遠隔地の

農地であることも多く、面的拡大による経営効率の向上に繋がりにくい。

T 最近では、担い手への農地利用集積や生産の促進を図るためのほ場整備事業が行われて

おり、一部で農地集約化の事例がみられるが、小規模農地を貸したいというニーズと、

そこを借りて農業をしたいというニーズがうまくマッチしないこともあって、県内全体

としては大規模化はまだまだ進んでいない。また、農業者戸別所得補償制度は、小規模

の兼業農家で生産性が低くなっていても補償されるため、結果的には意欲的に農業に取

り組みたい農業経営者が大規模化を図りにくい背景となっている。

(3)第2次、3次産業企業の農業参入

現状みられている6次産業化は主として1次産業(農業)側から2、3次産業へ業容

を拡げる取り組みが多いが、ごく一部に、食品メーカーが農業に参入し、企業的経営に

より安定的な生産を実現している事例がみられる。こうした企業では明確な出口(販売)

を見据えた経営戦略の下で、価格、生産量、栽培時期等が決定されており、安定した農

業生産、雇用が維持できる仕組みとなっている。

企業 取り組み事例

U 食品加工製造業から農業に参入。需要家への販売動向から逆算して、コスト計算、販売

価格、生産量、品質、栽培・収穫時期等を決定して、農産物を栽培。農業コンサルの助

言を受けつつ、農業参入から漸く3年目に生産が安定。農産物の効用宣伝、料理講習会、

多様な食べ方の啓蒙等といった企業活動で需要創出を図っている。

13

Ⅳ.今後の課題

以上みてきたような農業の高付加価値化や大規模化の取り組みは、県農業の構造的な

問題を解決するうえで有効であり、今後、こうした取り組みが一段と推進される環境を

整備していくことが重要である。この点、国からは農地仲介機能の体制強化を図る方針

が示されており、農地集約の進展に繋がるとみられるが、これに加え、農家の実情に配

慮しながら、農業への企業参入や農地の柔軟な用途転用を認めていくことも必要ではな

いかと考えられる。

すなわち、企業の農業参入は、短期間で撤退した場合に、農地、農業保護の面で問題

が生じる懸念もあろうが、一定期間の継続的な営農を条件に企業の参入を認め、企業の

経営手法や資本力、海外を含めた多様な販売経路、製品開発力等を農業分野で活用出来

れば、生産性の向上に繋がるのではないかと考えられる。

また、農業の高付加価値化を進めている農業経営者から、6次産業化関連施設の建設

や農業の大規模化の際に、農地の用途変更や農地売買を柔軟に認めてほしいとの声が聞

かれている。他方で、県内には多くの耕作放棄地が存在しており、これは大規模化や集

約化等を実施したとしても、全てを農地として維持・再生することは不可能である。農

業継続が困難な農地は、太陽光発電や住宅地、工場立地などへの転用をより柔軟に認め

ることが現実的と思われる。

農業については、食料自給や環境保護、農家の暮らし向きなど、幅広い観点から議論

すべき面があることは確かであるが、長い目でみた農業の品質向上、価格競争力強化に

繋がる方向での改革を推し進めていくことは重要である。そのためには、現実的な農業

経営の将来像をしっかりと見据えたうえで、意欲的な農業経営者の取り組みを促してい

く施策が望まれる。

以 上