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温度(1/T)
寿命
(hr)
● 熱劣化促進試験結果
102040
120250
10
1
0.1
0.01
実使用環境温度
暴露換算温度
寿命
既知の寿命
建築用ガスケットの耐久寿命推定手法に関する研究
建築ガスケット工業会
イワキ化成株式会社
技 術 部 棚 原 守
1.はじめに 1.1 研究の背景
近年、住宅品確法の制定・建築物の長
寿命化の要求の高まりに伴い建築材料・
工法の品質保証がより厳しく要求される
趨勢にある。しかるに、建築材料のうち
特にゴム・プラスチック系材料の耐久寿
命およびその比較的短期間での合理的な
寿命推定手法は、建築学会でも数多く報
告されているが未だ確立されてはいない。
従来寿命予測手法としては図 1.1 に示す
アレニウスプロット法が用いられている
が、寿命推定手法に不可欠な熱劣化促進
温度・促進時間・実際に暴露されている
表面温度(以下、実使用環境温度)などの
検討は十分行われていたとは云い難く寿
命推定の信頼性に乏しいのが現状である。
建築ガスケット工業会では建築用ガスケットの耐久寿命を考える研究会(耐久性研究
会)を発足させ、建築用ガスケットの耐久寿命の推定手法の研究に鋭意取り組むことに
なった。この報文では、建築用ガスケットについて、屋外暴露試験結果と熱劣化促進試
験結果を対比し、その相関性を明らかにしアレニウスプロット法による短期間かつ信頼
性の高い寿命推定手法を検討した結果を報告する。
1.2.建築用ガスケットについて
建築用ガスケットは、主に建築物の外壁に使用される部材である。表 1-1 に代表的な
ガスケットの種類、使用部位および用途を示す。材質は CR・EPDM 等のゴム系材料と
PVC・TPE 等の樹脂系材料があり、いずれの材料も日光、風雨等に直接曝される屋外で
使用されるケースが多い。
表 1-1 主なガスケットの種類、使用部位及び用途
種 類 使用部位 主な用途 材料
目地ガスケット 外壁接合部(目地)
グレイジングガスケット 気密・水密性の確保
ゴム系
樹脂系
構造ガスケット ガラス廻り ・気密・水密性の確保
・ガラスの保持 ゴム系
図 1-1 アレニウスプロット法の概念図
2.耐久寿命推定手法の検討プロセス 本研究では熱劣化促進試験と屋外暴露試験を実施し、アレニウスプロット法による寿命
推定を行った。熱劣化促進試験の結果得られた促進温度と設定寿命到達時間の関係を外挿
することにより、寿命既知のもの(屋外暴露試験において物性値の経年変化が認められたも
の、および文献・実建家調査事例のあるもの)は暴露換算温度を推定し、寿命未知のもの(屋
外暴露試験において物性値の経年変化が認められないもの、および文献・実建家調査事例
のないもの)は実使用環境温度を仮定し寿命推定を行った。本研究におけるアレニウスプロ
ット法に基づいた寿命推定フローを図 2-1 に示す。
2.1 熱劣化促進試験
熱劣化促進試験は、厚さ 2mm のシートを用いて行い、各温度条件とも所定の時間ご
とに試験体の一部を取り出し、引張り強さ(TS)、伸び(Eb)、100%モジュラス(M100)、硬度
(HA)を測定した。
(1)初期値の検討
材料の耐久寿命を推定する上でそれらの初期値(基準値)は重要である。既往の研究で
は製造されて間もない材料の物性値を初期値としたのが通例であった。しかし、ゴム・
プラスチック系材料は、製造されて間もないものは劣化とは云えない経時変化のあるこ
とが多く、寿命推定の上で誤差を生ずる懸念がある。本研究会では各材料について合理
的な初期値を特定した。
(2)熱劣化促進試験条件の特定
熱劣化促進試験より設定寿命到達時間を算定するために、上記初期値を基準とし、熱
劣化促進試験結果を精度良く表す回帰式を算定した。回帰式は線形・対数・指数・累乗
の 4 種類算定し、その寄与率が 0.95 以上の回帰式を採用した。また、寿命推定に必要な
熱劣化促進試験の促進温度・促進時間などを特定した。 2.2 屋外暴露試験
屋外暴露試験は、暴露期間を 5 年間とし千葉県銚子市(財)日本ウエザリングテストセ
ンター銚子暴露試験場に依頼した。屋外暴露試験状況を写真 2-1 に示す。暴露した試験
体は、厚さ 2mm のシート 17 種類と
製品 16 種類(ソリッド 9 種類、スポ
ンジ 7 種類)の計 33 種類である。な
お、5 年間の暴露期間では短すぎ、
顕著な経年変化が見られないものも
あり、「屋外暴露試験結果と熱劣化促
進試験結果を対比し、より合理的な
耐久寿命推定手法を確立する」本研
究会の目的を達するため、経年変化
を調査した多くの既往の文献・実建
屋調査事例などを参考にした。
写真 2-1 屋外暴露試験状況
図 2-1 アレニウスプロット法を用いた寿命推定フロー図
r2 ≧0.95 だいな
r2 ≧0.95
変動開始点の特定
No
Yes
No
試験結果のグラフ化 回帰式・寄与率 r2の算出 (線形・対数・指数・累乗)
RET
Yes
回帰式算定
r2 ≧
回帰式・物性変動領域 の寄与率 r2の算出
変動開始点を仮定して グラフ化
初期値無しでグラフ化 回帰式・寄与率 r2の算出(線
形・対数・指数・累乗)
Yes
No
熱劣化促進試験 屋外暴露試験
指標となる物性値 ・回帰式の算定
寿命既知
本試験での 5 年間屋
外暴露による 経年変化
→寿命①
・既往の屋外暴露試
験結果 ・実建家調査結果に
よる経年変化 →寿命②
・BGA 規格、JIS、JASS に定められ
た寿命 →寿命③
・本研究会で設定し
た寿命 →寿命④
寿命① 寿命② 寿命④
4
END
回帰式算定
START
文献・実建家調査
寿命未知
物性値の経
年変化 ( 寿 命 の 定
義・仮定)
寿命③
実使用環境 温度の仮定
暴露換算温度推定
寿命推定
合理的な暴露換算温度と寿命の推定
アレニウスプロット
3.ゴム系ガスケットの耐久寿命推定手法の検討事例 前述の通り、建築用ガスケットはゴム系材料と樹脂系材料の 2 種類に大別される。ここ
ではゴム系建築用ガスケットの耐久寿命推定手法と寿命推定の事例について報告する。そ
れらの寿命推定の研究は多いが、寿命推定方法・条件が千差万別で、個々の報告の特殊解
に限られるとともに推定手法の信頼性が十分ではなかった。なお紙面の都合上ゴム系ガス
ケットの代表事例として EPDM ガスケットの検討事例を報告する。
3.1 試験体の種類・熱劣化促進試験条件
試験体の種類および熱劣化促進試験条件を表 3-1 に示す。このうち-60・-70 は、各々
硬度の違いを示す。それらの用途は、上から順に構造ガスケット、気密ガスケット、気
密・目地・ビル用グレイジングガスケット、目地・ビル用グレイジングガスケット、気
密ガスケット、ビル用グレイジングガスケットである。
表 3-1 試験体の種類及び熱劣化促進試験条件
3.2 初期値の検討 EPDM の初期値は諸々の検討を行った結果、表 3-2 の様に設定した。
表 3-2 EPDM の初期値
物性 単位 EP-60 EP-70
TS MPa 15.1 12.3
Eb % 500 380
M100 MPa 2.8 5.0
HA 度 65 75
3.3 熱劣化促進試験結果
熱劣化促進試験結果の事例として EP-60 の試験結果を図 3-1 に示す。これらの図を見
ると、どの物性値についても促進試験開始より単調増加または減少傾向がみられるが、
詳細な回帰分析を行った結果、Eb の回帰式が最も寄与率が高く、経年変化の指標として
適当であることが分かった。これに対して TS は低温時の変化が小さく、変曲点が存在
するため指標としては不適当であった。また、M100、HA は回帰式の寄与率は高いが若干
の変曲点が存在するため指標として採用する際は検討を要することが分かった。また熱
劣化促進試験条件は、設定した寿命によって異なるが概ね促進温度 80~170℃で促進時
間は最大 4800 時間程度が適切であることが分かった。
試験体記号 促進温度[℃] 熱劣化促進
時間[hr]
CR-A 80,90,100,120,150 ~14400
CR-G 80,90,100,120,150 ~14400
EP-60 60,70,80,100,120,150,170 ~14400
EP-70 60,70,80,100,120,150,170 ~14400
SR-60 120,150,170,200,230 ~12000
SR-70 120,150,170,200,230 ~12000
物性 単位 初期 0.5年 1年 2年 3年 4年 5年
TS MPa 15.1 14.7 15.3 15.5 15.6 15.2 15.6
Eb % 500 450 460 460 450 420 420
M100 MPa 2.8 3 2.8 3.2 3.4 3.3 3.5
HA 度 65 67 67 66 67 67 68
払拭前 58 27 13 6 3 2.2 2 光沢度
払拭後 - 43 33 37 21 22.3 2
払拭前 9.64 21.21 20.69 20.66 21.4 21.47 21.35 明度
払拭後 - 18.87 17.52 15.65 17.55 17.2 19.5
払拭前 - 11.58 11.07 11.04 11.78 11.85 11.72 △E
払拭後 - 9.23 7.88 6.01 7.92 7.57 9.8
払拭前 無し 無し 無し 無し 無し 無し 無し チョーキング
払拭後 - 無し 無し 無し 無し 無し 無し
払拭前 無し 無し 無し 無し 無し 無し 無し クレージング
払拭後 - 無し 無し 無し 無し 無し 無し
払拭前 無し 有り 有り 有り 有り 有り 有り 汚れ
払拭後 - 無し 無し 無し 無し 無し やや有り
図 3-1 熱劣化促進試験結果(EP-60)
3.4 屋外暴露試験結果
EP-60 の屋外暴露試験結果を表 3-3 に示す。5 年間の屋外暴露の結果、TS は顕著な変
化は認められず、M100、HA は上昇傾向を示した。Eb は 0.5 年で初期値から大きく低下し、
その後 3 年までは変化は認められないが、4 年、5 年でやや低下傾向を示した。0.5 年で
Eb が大きく低下したのは、急激な劣化ではなく 0.5 年より以前に Eb の値が平衡値に達し
たからであると考えられる。
3.5 アレニウスプロット
Eb について得られた回帰式を用いてアレニウスプロットを行った結果を図 3-2 に示す。
Eb、M100 について実使用環境温度を 16.5℃、23℃、30℃、40℃、50℃と仮定した場合の
EP-60 TS
0
5
10
15
20
1 10 100 1000 10000 100000hr
MPa
80℃ 100℃ 120℃ 150℃ 170℃
EP-60 E b
0
200
400
600
1 10 100 1000 10000 100000
hr
%
80℃ 100℃ 120℃ 150℃ 170℃EP-60 M 100
0
2
4
6
8
10
1 10 100 1000 10000 100000
hr
MPa
80℃ 100℃ 120℃ 150℃ 170℃
EP-60 HA
60
80
100
1 10 100 1000 10000 100000
hr
度
80℃ 100℃ 120℃ 150℃ 170℃
表 3-3 屋外暴露試験結果(EP-60)
寿命推定結果の算定事例と 5 年間の屋外
暴露試験結果より求めた暴露換算温度を
表 3-4にまとめて示した。表 3-4に示した、
実使用環境温度 16.5℃および Eb 変化率
16%という設定は各々5 年間の屋外暴露
試験の結果得られたシート表面温度の平
均値および Eb 変化率である。アレニウス
プロットの結果得られたこの条件におけ
る寿命 0.2 年は実際の暴露期間 5 年より
短い結果となっている。これに対して Eb
変化率を 80%と設定したときの推定寿命
は明らかに実際より大きな数値となって
いる。また、5 年間の屋外暴露試験
の結果得られた暴露換算温度-33.8℃
は、実際より明らかに低い温度であ
るのに対し、暴露 30 年の結果より寿
命推定を行った皆葉、小柴らの研究
では、暴露換算温度は 22℃と実際よ
り若干高い数値であった 1),2)。以上の
ことから、暴露期間が短い領域では
熱劣化促進試験の方が屋外暴露より
厳しい条件であるが、暴露期間が長くなるにつれて屋外暴露の方が熱劣化促進試験より
厳しい条件になることが示唆される。この要因としては、風雨、紫外線、オゾン、ヒー
トサイクルといった、熱以外の劣化因子の存在が考えられる。
4.樹脂系ガスケットの耐久寿命推定手法の検討事例 ゴム系ガスケットに続き、樹脂系ガスケットの耐久寿命推定手法と寿命推定の事例につ
いて報告する。樹脂系ガスケットは、熱劣化促進試験において促進時間に対する経時変化
の傾向がゴム系ガスケットと比較して大きく異なることがわかった。それゆえ、アレニウ
スプロット法による寿命推定の手法も相違することが予想され、ゴム系ガスケットとは別
に樹脂系ガスケットの耐久寿命推定手法の検討事例を報告することにした。なお、本報告
では樹脂系ガスケットの代表事例として TPE の検討事例を報告する。
4.1 試験体の種類・熱劣化促進試験条件
試験体の種類・熱劣化促進試験条件を表 4-1 に示す。
表 4-1 熱劣化促進試験条件
試験体記号 促進温度[℃] 熱劣化促進時間[hr]
PVC-70 80,90,100,120 ~5000
TPS-70 80,90,100,110,120,130,135 ~5000
TPE-60 100,120,135,150 ~12000
TPE-70B 100,120,135,150 ~12000
16.5 23 30 40 50
16 y = 2.0×10-4
e4.594x 0.944 0.2 0.1 0.1 0.1 0.0
30 y = 1.0×10-5
e6.27x 0.984 2.9 1.8 1.1 0.6 0.3
50 y = 1.0×10-7
e8.677x 0.998 119 61 31 13 5
80 y = 2.0×10-10e12.27x 0.998 57864 22818 8759 2402 714
0.3
寿命推定の事例(年)
実使用環境温度(℃)
1.60.861 1.1 0.8 0.5
E b
M 100 25 y = 1.3×10-3e4.69x 5 -2.4
実暴年数
暴露換算温度
5 -33.8
物性値
変化率
アレニウスプロット式 寄与率
1
10
100
1000
10000
100000
1000000
10000000
100000000
1000000000
22.533.54
温度 (1000/T)
変化率16% 変化率30% 変化率50% 変化率80%
寿命
(hr)
図 3-2 アレニウスプロット(EP-60)
表 3-4 アレニウス式と寿命推定の事例(EP-60)
TPE-60 HA
0
1020
30
40
5060
70
10 100 1000 10000 100000
hr
度
100℃ 120℃ 135℃ 150℃
4.2 初期値の検討
一般に、架橋型熱可塑性エラストマーは通常
の熱成形によって物性値が変動する要因がない
ため、熱劣化促進試験前の測定データが初期値
となる。設定した初期値を表 4-2 に示す。
4.3 熱劣化促進試験結果
TPE-60 の熱劣化促進試験結果を図 4-1 に示す。この図をみると、促進試験開始よりあ
る時間まではほとんど経年変化が見られない安定領域と、その時間(以下、変動開始点)
を超えると急激に経時変化が見られる変動領域があることが分かる。Eb の回帰式算定事
例を表 4-3 に示す。この表をみると、変動領
域の回帰式は寄与率が高いのは明らかである。
なお変動開始点は、図 4-1 よりビジュアルに
数点仮定してそれぞれ変動領域の回帰式を算
定し、寄与率の最も大きな回帰式と、測定値
の標準偏差との関係から推定する方法を採っ
た。安定領域の回帰式を考慮しなかった理由
は、物性値の温度変化が少ないため寄与率が
低いことは明らかであることによる。変動開
始時間と変動領域の回帰式の傾きの温度依存
性を図 4-2 および図 4-3 に示す。この結果を
みると促進温度が高いほど、変動開始点以後
の経年変化が大きいことが分かる。
初期値 物性 単位
TPE-60 TPE-70B
TS MPa 4.6 7.3
Eb % 530 530
M100 MPa 1.6 2.5
HA 度 58 72
表 4-2 TPE の初期値
TPE-60 TS
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
10 100 1000 10000 100000
hrM
Pa
100℃ 120℃ 135℃ 150℃
TPE-60 E b
0
100
200
300
400
500
600
10 100 1000 10000 100000
hr
%
100℃ 120℃ 135℃ 150℃
TPE-60 M 100
0
0.5
1
1.5
2
10 100 1000 10000 100000
hr
MPa
100℃ 120℃ 135℃ 150℃
促進温度 領域 範囲[hr] 近似法 回帰式 寄与率
線形 y=-0.0032x + 514 0.400
対数 y=-3.41Ln(x) + 528 0.578
線形 y=-0.065x + 918 0.963
対数 y=-604Ln(x) + 5830 0.977
累乗 y=6×1010
x-2.09 0.955
指数 y=2420e-0.0002x 0.972
線形 y=-0.0074x + 501 0.250
対数 y=-5.37Ln(x) + 523 0.742
線形 y=-0.129x + 835 0.841
対数 y=-626Ln(x) + 5490 0.887
累乗 y=4×1019x-4.28 0.926
指数 y=13200e-0.001x 0.949
線形 y=-0.0469x + 508 0.447
対数 y=-8.42Ln(x) + 527 0.922
線形 y=-0.51x + 824 0.869
対数 y=-609Ln(x) + 4510 0.928
累乗 y=2×1011x-2.93 0.982
指数 y=3310e-0.0025x 0.963
線形 y=-0.181x + 495 0.633
対数 y=-15.4Ln(x) + 529 0.953
線形 y=-1.27x + 886 0.895
対数 y=-697Ln(x) + 4570 0.940
累乗 y=4×1013x-4.20 0.993
指数 y=9940e-0.0079x 0.999
100℃
120℃
135℃
150℃
安定領域
変動領域
安定領域
変動領域
安定領域
変動領域
安定領域
変動領域
0~800
800~1600
0~400
400~700
0~7000
7000~12000
0~3000
3000~8500
表 4-3 Eb の回帰式算定事例(TPE-60)
図 4-1 熱劣化促進試験結果(TPE-60)
4.4 屋外暴露試験結果
TPE-60については 5年
間の屋外暴露により変
化は見られなかった。試
験結果を表 4-4 に示す。
4.5 アレニウスプロット 上記の通り TPE-60 に
ついては、5 年間の屋外
暴露による経年変化が
見られなかったこと、実
建物の経年変化の調査
事例が見当たらなかっ
たことにより、暴露換算
温度を特定出来なかっ
た。それゆえ熱劣化促進
試験による寿命推定手
法は確立し得なかった。今後の検討課題である。なお、実使用環境温度を 23℃、30℃、
40℃、50℃と仮定しアレニウスプロットによる寿命推定を行った事例を表 4-5 に示す。
ただし、この結果は実際の暴露結果と対比してないので、紫外線・オゾンなどの劣化要
因に対する影響は含まれていない結果である。
y = -8.30×109e-11024x
R2 = 0.9972
0.0001
0.001
0.01
0.1
0.0023 0.0024 0.0025 0.0026 0.0027
促進試験温度(1/K)
物性
変動
領域
にお
ける
回帰
式の
傾き
図 4-2 促進試験温度と変動開始時間
の関係(TPE-60)
図 4-3 促進試験温度と変動領域にお
ける Eb の回帰式の傾きの関係
y = 8.07×10-8e9454.8x
R2 = 0.9635
100
1000
10000
0.0023 0.0024 0.0025 0.0026 0.0027
促進試験温度(1/K)
変動
開始
時間
(hr)
物性 単位 初期 0.5年 1年 2年 3年 4年 5年
TS MPa 4.6 4.5 4.6 4.5 4.6 4.6 4.5
Eb % 530 480 510 480 520 490 480
M100 MPa 1.6 1.7 1.6 1.7 1.7 1.7 1.6
HA 度 58 57 58 58 58 58 59
払拭前 79.1 7.7 0.8 0.6 0.4 0.3 0.3 光沢度
払拭後 - 7.6 1.0 1.0 0.7 0.5 0.8
払拭前 10.2 20.7 22.0 25.7 22.1 22.9 22.6 明度
払拭後 - 20.6 20.5 24.4 19.7 20.1 21.6
払拭前 - 10.5 11.9 15.8 12.1 13.0 12.8 △E
払拭後 - 10.4 10.3 14.5 9.6 9.9 11.6
払拭前 無し 無し 無し 無し 無し 無し 無し チョーキング
払拭後 - 無し 無 無し 無し 無し 無し
払拭前 無し 無し 無し 無し 無し 無し 無し クレージング
払拭後 - 無し 無し 無し 無し 無し 無し
払拭前 無し 有り 有り 有り 有り 有り 有り 汚れ
払拭後 - 無し 無し 無し 無し 無し 無し
表 4-4 屋外暴露試験結果(TPE-60)
23 30 40 50
20 y = 4.62×10-8
e9700x 0.990 884 415 149 57
50 y = 3.09×10-8
e9930x 0.980 1286 593 208 78
70 y = 2.35×10-8
e10100x 0.973 1736 790 273 100
20 y = 6.06×10-8
e9610x 0.990 856 405 147 57
50 y = 3.96×10-8
e9840x 0.981 1216 565 200 76
70 y = 2.95×10-8
e10000x 0.974 1555 713 249 93
初期値
変動基準点
寿命推定の事例(年)
実使用環境温度(℃)寄与率アレニウスプロット式設定寿命(変化率%)
表 4-5 アレニウス式と寄与率・算出された寿命(TPE-60)
5.屋外暴露によるガスケット製品の経年変化 本研究では、前述のゴム系・樹脂系材料のシートと製品の 5 年間屋外暴露試験を行った。
本章ではガスケット製品の経年変化について、代表事例として構造ガスケットおよび目地
ガスケットの検討結果を報告する。
5.1 試験体・試験方法
暴露試験を実施した構造ガスケット及び目地ガスケットの形状例を図 5-1 に示す。構
造ガスケットは保持力試験、リップシール圧試験を行った。目地ガスケットおよびビル
用グレイジングガスケットは圧縮力試験を行い、基準目地における圧縮荷重を測定し、
圧縮荷重残率(以下荷重残率)および圧縮永久ひずみ(以下永久ひずみ)を算出した。また、
目地ガスケットは比較のため屋内放置の試験体について同様に経年変化を測定した。
5.2 試験結果
(1)構造ガスケット
保持力とリップシール圧試験結果を図 5-2~図 5-3 に示す。リップシール圧とリップ寸
法の関係を図 5-4 に示す。保持力については、Y 型ガスケットが暴露 2 年までは若干増
加するが、その後は一定値に収束する。H 型ガスケットは 5 年間ほぼ変化は見られなか
った。リップシール圧は徐々に低下傾向を
示したが材料の劣化ではなく断面形状が
安定する期間であると考えられる。リップ
シール圧とリップ寸法の関係は相関性が
みられた。なお、この程度の変化は実際の
建物に使用された場合ガスケットの基本
性能に何らの支障もないことは多くの実
大実験の結果などにより明らかである。
44
1814
18
50
6暴露照射面
基準断面形状 暴露試験状況
0
20
40
60
80
100
0 1 2 3 4 5
暴露年数(年)
保持
力(N
/cm
)
正圧(Y型) 負圧(Y型)
正圧(H型) 負圧(H型)
0
2
4
6
8
10
0 1 2 3 4 5
暴露年数(Y)
リッ
プシ
ール
圧(N
/cm
)
Y型 H型
図 5-2 保持力試験結果
図 5-3 リップシール圧試験結果
図 5-1 暴露試験体の形状例 (a) 構造ガスケット
(b) 目地ガスケット
0
2
4
6
8
10
12
0 1 2 3 4 5
リップ
寸法(mm)
リッ
プシ
ール
圧
(N/cm
)
Y型 H型回帰式:y = 1.568x + 1.862
R2 = 0.929
図 5-4 リップシール圧とリップ寸法の関係
(2)目地ガスケット
5 年間暴露による目地ガスケットの経年変化を図 5-5~5-8 に示す。これらの図をみる
と、半年間で荷重残率、永久ひずみともに約 30%の変化が見られるものの、その後は安
定し一定値に収束する傾向を示した。この傾向は全ての目地ガスケットに共通に見られ
た。また、室内放置の試験体についても屋外暴露試験体と類似の傾向を示した。この事
実は半年間程度の初期における変化は材料の劣化による経年変化ではなく、半年間でガ
スケットの断面形状が安定した状態にセットすることを示唆している。これを確認する
ため、室内放置 1 ヶ月間の荷重残率と永久ひずみの変化を測定した。その結果、FSR-1
は放置 2 週間で荷重残率 83.7%、永久ひずみ 7.2%となり、半年後の値とほぼ等しくなっ
た。他の材料でも同様の傾向が確認された(図 5-5~5-8 中に▲にて記載)。以上により、
今回の研究では半年後の荷重残率、永久ひずみを初期値とすべきであり、この値にセッ
トすることをあらかじめ考慮し断面を設計することが重要であることが分かった。なお、
構造ガスケット同様この程度の初期変化については、水密性などの基本性能には全く支
障がないことは多くの実大実験の結果を含め既往の研究より明らかである 3)。
6.屋外暴露気象環境条件と暴露試験体の表面温度の相関性 アレニウスプロット法による寿命推定を行うには、熱劣化促進試験の結果得られる促進
温度と設定寿命到達時間の関係を材料に負荷される表面温度(以下、実使用環境温度と云
う)まで外挿しなければならない(既往の研究では 23℃と仮定していることが多い)。しかる
にアレニウスプロットの時間軸が対数であることもあり、実使用環境温度のわずかな誤差
が推定寿命の精度に影響することになる。本研究では 5 年間の屋外暴露試験より得られた
気象環境条件より信頼性の高い実使用環境温度を推定する方法について検討した。その資
料としては銚子暴露試験場から得られる無料の気象データ月報(日最高気温、ブラックパネ
ル平均温度など)及び有料の暴露気象データ(一時間ごとの平均気温、ブラックパネル温度、
日射量など)がある。そのほか下記に示す気温およびブラックパネル温度と試験体表面温度
0
20
40
60
80
100
0 1 2 3 4 5
暴露
年数
残率
・変
化率
(%)
0
20
40
60
80
100
0 1 2 3 4 5
暴露
年数
残率
・変
化率
(%)
0
20
40
60
80
100
0 1 2 3 4 5
暴露
年数
残率
・変
化率
(%)
0
20
40
60
80
100
0 1 2 3 4 5
暴露
年数
残率
・変
化率
(%)
荷重残率(室内) 荷重残率(屋外)
永久ひずみ(室内) 永久ひずみ(屋外)
図 5-5 屋外暴露試験結果(FSR-1) 図 5-6 屋外暴露試験結果(EP-60)
図 5-7 屋外暴露試験結果(FCR-1)
図 5-8 屋外暴露試験結果(FEP-1)
の関係の補足実験結果と銚子気象台の観測データ(無料)を補足資料とした。
6.1 試料表面温度と気温・ブラックパネル温度との関係(補足実験)
晴天時日中の試料表面温度を推定す
るため、屋外暴露試験の試料と同じ厚
さ 2mm のゴムシート(材質:EPDM)と
ブラックパネル(材質:ステンレス)の温
度変化を銚子暴露試験場と同様の条件
(南面 30゜)で測定した。測定結果を図
6-1 に示す。これよりシート表面温度と
気温・ブラックパネル温度との関係を
求めた結果を図 6-2 に示す。回帰分析
の結果晴天時日中のシート表面温度は
ブラックパネル温度と高い相関があり、 3023.19862.0 += BPR TT ・・・(1)
ここに TR:シート表面温度(℃)
TBP:ブラックパネル温度(℃)
と表される。この回帰式の寄与率は
0.931 であり、精度の高い式であった。
6.2 ブラックパネル温度の推定
屋外暴露試験におけるブラックパネ
ル温度は有料であるため、研究予算の
都合で代表的な日中晴天日のデータの
みを購入し重回帰分析によるブラック
パネル温度の推定を試みた。購入デー
タはブラックパネル温度に影響を与え
ると考えられる気温、日射量、および
風速とした。図 6-1 よりブラックパネ
ル温度は日射量の影響を強く受けるこ
とが示唆されたため、推定精度を高める
ために日中のデータのみを使用して解析
を行った。重回帰分析結果を下式に示す。 VTT ABP 0866.10447.10031.0965.2 -++= f ・・・(2)
ここに φ:日射量(kJ/m2),TA:気温(℃),V 風速(m/sec)
(2)式の寄与率は 0.972 であった。この式を用いてブラックパネル温度の計算値を求め、
測定値との関係をプロットした結果を図 6-3 に示す。 6.3 銚子気象台の気象データを用いたブラックパネル温度の推定
図 6-3 よりブラックパネル温度は、気温、日射量および風速から比較的精度良く推定
可能であることが分かった。同様の方法にて暴露 5 年間の銚子気象台における気温、日
射量および風速の観測結果とブラックパネル温度との関係を考察した。重回帰分析結果
を下式に示す。
0
10
20
30
40
50
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
時刻
温度
(℃)
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
全天
日射
量(M
J/m
2)
気温 試料表面温度
ブラックパネル温度 全天日射量
図 6-1 晴天日日中の各温度測定結果
0
10
20
30
40
50
60
0 20 40 60
気温TA、ブラックパネル温度TBP(℃)
シー
ト表
面温
度T
R(℃
)
横軸TBP 横軸TA
図 6-2 試料表面温度と気温・ブラック パネル温度との関係
VTT ABP 4299.09104.00039.05806.3 -++= f ・・・(3)
(3)式の寄与率は 0.937 であり、銚子気象台の気象データとブラックパネル温度は高い
相関を示した。この式よりブラックパネル温度の計算値を求め測定値との関係を図示し
た。結果を図 6-4 に示す。
6.4 シート表面温度の推定
5 年間暴露期間中の試料表面温度を
推定する。銚子気象台観測データより
晴天日日中のブラックパネル温度を(3)
式を用いて推定した。この推定結果を
(1)式に代入し晴天日日中の試料表面温
度を推定した。図 6-1 より日射の影響
の少ない曇天・雨天および夜間はブラ
ックパネル温度と試料表面温度はほぼ
等しいと考えられることから、これら
の期間については前述の晴天日日中と
同様の方法でブラックパネル温度を推定
し、その温度を試料表面温度とした。全
暴露期間(5 年間)の試料表面温度(計算値)
の累積ヒストグラムを図 6-5 にまとめた。この結果より屋外暴露試料表面温度の平均値
を算出した。この値は試料表面温度が各温度範囲にある時間の割合を求め各温度範囲の
中央値に時間の割合を乗じて算出した。その結果、暴露期間中の試料表面温度の平均値
は約 16.5℃で暴露期間中の平均気温(約 14.5℃)より約 2℃高い値であった。またブラック
パネル温度の平均値(16.0℃)に近似した。5 年の屋外暴露で試料は 45℃以上 1 時間、40
~45℃220 時間、35~40℃1255 時間など、暴露環境条件の平均気温や最高気温に比べ表
面温度がかなり高くなる時間の履歴を受けたことが分かった。
-10
0
10
20
30
40
50
-10 0 10 20 30 40 50
測定値(℃)
計算
値(℃
)
図 6-3 ブラックパネル温度の測定値と 計算値との関係
-10
0
10
20
30
40
50
-10 0 10 20 30 40 50
計算
値(℃
)
図 6-4 ブラックパネル温度の測定値と計算値
との関係(銚子気象台データ)
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
-5~0 5~10 15~20 25~30 35~40 >45
温度範囲(℃)
累計
時間
(×103
hr)
3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月
10月 11月 12月 1月 2月
図 6-5 試料表面温度(計算値)の 累積ヒストグラム
7.まとめ 耐久性研究会では 7 年間に渡り建築用ガスケットの寿命予測手法について取り組んでき
た。その結果、必要な耐久寿命の予測を熱劣化促進試験により比較的短期間かつ速やかに
行うための試験条件、すなわち促進温度範囲・促進時間などについて材料別に明らかにす
ることが出来た。しかるに、建築用ガスケットのみならず建築材料全般の寿命予測は簡単
ではなく困難を極めるのは周知の通りであり、永遠の研究課題であるのは明らかである。
その理由は、本報でも示したとおり建築用ガスケットに対する劣化因子が複雑に絡み合い
複合劣化として負荷するとともに、短期間での促進試験が実際の寿命と相関性を見出すこ
とが困難なことなどによる。
建築物の高信頼性・長寿命化が求められる中、建築用ガスケットの品質及び耐久性に対
する要求は今後ますます高まる事が予想される。その一方で、ガスケット材料や製品の多
様化・国際化等により、コスト競争が激化し製品開発期間も短縮化される状況が続いてい
る。建築ガスケット工業会及びガスケットメーカーは、本報にて詳述した耐久性研究会に
おける 7 年間の研究成果を生かし、このような相反する課題に対応すべく鋭意研究・開発
に取り組んでいる。
参考文献
1) 寺内伸、古賀英明:建築用ガスケットの耐久寿命推定方法に関する実験研究、日本
建築学会構造系論文集、第 535 号、2000 年 9 月
2) 皆葉健、小柴淳一:30 年屋外暴露 EPDM 加硫シートの劣化状況と寿命予測、第 18
回エラストマー討論会講演要旨集、pp.126-127(2006)
3) 何弘安、吉池佑一、寺内伸:目地ガスケットの気密性に関する実験研究(その 1)、日
本建築学会大会学術講演梗概集(中国)、A-1、pp.75-76、1999.9