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1 ケースの作り方と運用の仕方 オープンエンド型ビジネス・ケース・メソッドの 作り方と運用の仕方 経営倫理実践研究センター 主任研究員 星野邦夫 2014.5.19 2014年度BERCケース部会ケースメソッド入門特別セミナーCopyright BERC Hoshino

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ケースの作り方と運用の仕方

オープンエンド型ビジネス・ケース・メソッドの

作り方と運用の仕方

経営倫理実践研究センター

主任研究員

星野邦夫

2014.5.19 2014年度BERCケース部会ケースメソッド入門特別セミナーⅡ

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ケースの作り方

オープンエンド型ビジネス・ケース・メソッド

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1.ケースメソッドの経緯

• ケースメソッドとは「事例研究に基づくディスカッション型授業」のこと。1920年代の

ハーバード大学のロースクールで、判例研究の進め方として形成された学習方法と言われている。

• 与えられた事例をもとに、どのような解決案を策定するかをディスカッションし、発表する方法は、企業のマネージャーの訓練方法としても注目され、同大学のビジネススクールで大いに発展。正しくはオープンエンド型ビジネスケースメソッドという。

• 経営倫理に関するケースメソッドは経営倫理を学び実践してゆく上でも大変効果的である。企業の社員に対しケースメソッドを組織的に継続的に実施してきたのは、1998年に始まる経営倫理実践研究センターのケース研究部会が、おそらく我が国

では唯一のものであろう。最近では経営倫理実践研究センターの協力のもとに、経団連の企業倫理研修会でもケースメソッドが取り入れられるほどになっている。

• 経営倫理は法律と社会的規範を基盤としているが、個々の企業の企業理念、行動規範などの倫理綱領によっても制約される。さらには、短期的には企業が置かれている具体的な局面、長期的には企業風土や個人の信条にも関係してくる為、必ずしも正解は一つとは言えない。オープンエンド型(結論は一つとは限らない)というの

は、一つの結論を押し付けないことによって、多様な考え方を学ぶことが可能となり、自らの適切な判断と意思決定、またその合理的な論拠を構築する訓練としてはなはだ有効であると考えられるからである。

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2.ケースメソッドの目的

1)ビジネスで遭遇するケース、中でも対立する価値観や判断基準の中で自らの意思決定を迫られる場面に対し、適切な判断と、最適な意思決定を下し、合理的な論拠を定式化する訓練を行うこと。

※ ケースメソッドは教育用に作られたフィクションなので、事実はどうであったかは問題としない。この点事実がどうであったかを教訓的にふり返るケーススタディーとは異なる。

2)ディスカッションによって、自分とは異なる考え方とその論拠を学び、その結果自らの考え方の幅を広げること。

※ ディスカッションの結果、意思決定の共有化(集団の規範)に至る場合もあるが、意見が対立したまま終わる場合もある。ディスカッションはディベートとは違うのでそれはそれでよい。ただし何故意見が一致しないのかその論拠は把握しておくべきである。

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ケーススタディー ケースメソッド

目的 情報提供 教育

参加者の作業 情報の摂取 問題発見・分析・意思決定

記述 解釈的・評論的 中立的・客観的をめざす

描写場面 事業の時系列的描写・その解釈・課題提示

意思決定・判断・評価を迫られている場面

問題の提示 明示的 明示されるとは限らない

結論の提示 明示的 明示されない

使用方法 一人で熟読 グループディスカッションおよびクラスディスカッション

梅津光弘『ビジネスの倫理学』より

ケースメソッドとケーススタディーの違い

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3.ケースを作る

(1)テーマ設定

自社社員の経営倫理に関する教育という観点から適切なテーマを設定する。具体的なテーマ抽

出の方法としては以下の方法が現実的である。

1)自社で過去に起きた事件や事故などをヒントにする

自社で起きた事件や事故のなかから、教育的に有効な事案を選び、その事件事故に関係した人のプライバシーやその他の人権などに配慮して、教育用にフィクション化する。

2)一般社会で発生した不祥事をヒントにする

例:2013年に有名ホテルが次々とお詫び会見をした食材偽装問題(食材表示のあり方等をテー

マとして)、オリンパス事件(コーポレート・ガバナンス、公正会計等をテーマとして)、パナソニック温風暖房器事件(製品の安全管理責任、消費者コミュニケーションの在り方等をテーマとして)。これらをヒントとして自社の事業や製品・サービスに置き換えたフィクションにする。

3)企業の社会的責任(例えばISO26000の7つの中核課題等)をヒントにする

①コーポレート・ガバナンス(内部統制、リスクマネジメントを含む)、②人権、③労働慣行、④公正な事業慣行、 ⑤ 消費者課題、 ⑥環境、 ⑦コミュニティー参画・開発

※最新のコーポレート・ガバナンス論では「コーポレート・ガバナンスとは、透明で公正な企業統治をおこなわなければならない」ということに加え、「企業の利益責任 (企業は事業活動を通じて適正な利益を上げなければならない」ことも重視されている。

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出典:Wikipedia

参考:食材偽装問題

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(2)ジレンマを設定する

• ケースとは言いかえればジレンマ(dilemma)の物語である。ジレンマとは「相反する二つの価値観の板ばさみになって、単純にどちらかを決められない状態」。必ずしもA対Bの2元対立とは限らず、A対B対C(トリレンマ)という場合、3つ以上の対立関係の場合もある。

• ジレンマは、「企業の利益責任VS人権」、「企業の利益責任VS消費者に対する説明責任」、「利益責任VS環境の保全」、「職場の健康維持VS人権(プライバシー)」、「納期と品質」など無限の選択肢がある。

• 特にビジネスケースの場合特筆すべきは、従業員はどのような階層にあっても「企業の利益責任」から基本的に逃れることはできないこと。企業の利益責任と他の責任とのジレンマを形成する場合は非常に多く、いわばジレンマの定番である。

• 一方ステークホルダー間のジレンマも定番である。今日CSRの考え方が定着してきた中で、企業は多様なステークホルダーの満足を取るかと言うところで苦労している。同一ステークホルダー内でも実際はダイバーシティが叫ばれ、企業の対応は一筋縄ではいかない。

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①コーポレート・ガバナンス (透明公正な企業統治、

企業の利益責任)

④公正な事業慣行

⑤消費者課題

⑥環境

⑦コミュニティー参画・開発 ③労働慣行

②人権

7つの中核課題(ISO26000)どうしのジレンマの例

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ジレンマの例

●フォード・ピント事件

ジレンマ:フォード・ピントの販売を是とするか非とするか。

日本やドイツに席巻されている米国の小型車市場で国産車を巻き返したいと

フォードは期待しているが、安全性に相当問題がある。

多数の消費者は満足しているが追突された場合は炎上しやすい。

安全性に問題がある小型車VS企業の利益(経営効率)

●ブレントスパーの海洋投棄問題

ジレンマ:海洋投棄を是とするか非とするか。

環境への影響は軽微で比較的低コストVS環境への影響の不安、好ましくない

先例を認めることの懸念。

事業活動に伴う環境汚染はある程度は社会的に容認されるVS海をごみ箱に

していいという考え方は絶対に許せない。

企業の利益(経営効率)VS環境原理主義

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(3).タイトルを決める

・ ストーリー全体を一言で簡潔に表わすようなタイトル。

・ 参加者が後で思い出すとき「○○のケース」と言える

ようなタイトルがいい。

・ あまり抽象的なものは良くない。

・ ストーリーの中でキーワードとなっている一言を使うのもいい。

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(4).ストーリーを作る

1)短い文章の中にバーチャル・リアリティー(虚構だが実際にありそうな話)を作りこみ、臨場感や緊張感を演出して、参加者の大脳を刺激するストーリーにする。A4版で1ページ~2ページ(900語~1800語)。

2)5W1H、時間の推移をわかりやすく。

3)登場人物を不必要に多くしない。ダミーとして不要な人物を入れるのは推理小説ではいいが、ケースメソッドでは無用な混乱をおこす。

4)人物名や会社名などは先入観を持たれないようなネーミングにする。

5)ジレンマをあまり多く作りこまない。せいぜい3つ位までではないか。

6)必要に応じて最低限の注釈を付ける。(注釈を付けないと一般に分かりにくい専門用語や業界用語など)

7)経営倫理のケースだから、テクニカルな法律知識だけを問うようなものは適当ではない。テクニカルな法律知識や判断を試すのは法令ケーススタディー

または、判例研究としてまた別にある。さらに、法的には問題ないが、

果たしてそれで世間が納得するかと言う場合もある。

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社会規範

企業理念・行動規範 民事契約

法令

行動規範は、業務に関係する法令を含み、さらにその企業の企業理念の具体化を示した会社と従業員の民事契約の一つである。ケースメソッドは企業理念や、行動規範を中心に、法令や社会規範を含む領域を対象としている。

ケースメソッドは法令ケーススタディー(判例)とは異なる

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(5).設問を作る

• ビジネスをめぐってさまざまなジレンマがある中で、社員はそれぞれの階層において、ある時期に来れば自分の判断と意思決定を下さなくてはならない。

• 「あなたならどのように判断するか。あなたの意思決定は如何に、そしてその論拠は如何に」というのが設問の基本である。

• くり返すが、設問は、唯一絶対の正解を求めるわけではない。ある会社の会社員であるなら、その企業の企業理念、行動規範等の倫理綱領によって選択肢は拘束される。また、短期的には企業が置かれている具体的な局面、長期的には企業風土や個人の信条も関係してくる。

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設問にはいろいろなバリエーションがある

1)その行為は正しいか(あるいは是認されるか)。

2)A、Bのどちらが正しいか。(3つ以上の場合もあるが、選択肢が用意されている)

3)選択肢を示さず、「あなたなら、このケースではどうするか」と解決策を回答者に考えさせる。

4)あなたがAさんであったらどうしたか。Bさんであったらどうしたか。

※ 初心者のケースでは、漠然と、「あなたはどう思いますか」という設問がよく見られる。その場合、あなたは当事者なのか、部外者の評論家なのかよくわからない。また「思う」と言うのは感想を言えということに近く、情緒的でもあり、判断、意思決定とその合理的な論拠の定式化の訓練としてはやや不適切である。あなたがどういう立場なのかを指定しておくのが良い。

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設問の難易度 設問の難易度のレベルは、社員の階層によって異なる。

1)新入社員~入社3年目

• あまり難しいものは適切でない。通常入社間もない社員の仕事は、主に指示されたことを、決められた時期までに、きちんと実行できるかが求められる。

• したがって、ケースもある程度標準的な正解が用意されていて、先ずそれを学ぶことになる。

2)中堅~マネージャークラス

• 実際のビジネスで遭遇する悩ましい事例を取り上げる。マネージャー以上の仕事は、経営者と一体の立場で、目標達成の方法とプロセスについては自由裁量度が高く、部下や組織を動かして目標を達成することになる。

• したがって正解を一つと限るのではなく、二つ、三つあるというのがむしろ正しい。

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4.ケース作成チェックシートの活用

チェックポイント 評価

①テーマ選定:経営倫理・CSRの教育としては適切か

②タイトル:タイトルが内容を想起させるものか

③ストーリー a.ジレンマが織り込まれているか

b.わかりやすさ・簡潔性があるか

c.バーチャルリアリティーがあるか

④設問 a.判断または意思決定を問うているか

b.その論拠を問うているか

c.回答者の立場を明確にしているか

d.難易度のレベルは適切か(対象階層)

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実際のケースで

作成のポイントを点検してみよう

ケース 1

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ケース1.ケース作成チェックシートの活用例

チェックポイント 評価

①テーマ選定:経営倫理・CSRの教育としては適切か ◯

②タイトル:タイトルが内容を想起させるものか △

③ストーリー a.ジレンマが織り込まれているか △

b.わかりやすさ・簡潔性があるか △

c.バーチャルリアリティーがあるか ○

④設問 a.判断または意思決定を問うているか △

b.その論拠を問うているか ☓

c.回答者の立場を明確にしているか ☓

d.難易度のレベルは適切か(誰を対象) △

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改善案

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◆タイトルが内容を想起させるものか

派遣社員Aさんの悩み→派遣社員Aさんからの通報

◆ジレンマが織り込まれているか

「年長者に向かってそんな言い方をしなくてもいいのに」と思うことが・・・ →「長く生きているんだからわかるでしょ」とか、「こんなことも分からないの」とか・・・ ◆判断または意思決定を問うているか

問1.Aさんの「年長者を敬うべきだ」だという考え方について、どう思いますか

→ヘルプライン責任者として、Aさんにどう対応しますか。それはなぜですか。

問2.仕事上の後輩に教える時の言葉遣いや態度について、Bさんはどうあればよいと思いますか

→ヘルプライン責任者として、Bさん対し、どのように指導しますか。

問3.人に仕事を教える時の心構えはどうあればよいと思いますか

→問3は問2と内容的にダブっているので、不要。

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ケースの運用の仕方

オープンエンド型ビジネス・ケース・メソッドの運用

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1.ケースメソッドの進め方 プロセス 標準所要時間

1.1チーム4人~8人くらいのチームに分け、コの字型かロの字型に机

を配置、チームごとのディスカッションリーダー(司会役)とチーム発表者を決めておく。(輪番制がいい)。チームとは別に全体の記録担当者一人を決めておく。

事前準備

2.ケースをプリントアウト(またはパワーポイントなどで掲載)して、参加者全員に配布。各自で精読して設問の答えを考える。

※ 必要があれば、出題者はこの時点で参加者に対し助言を行う。

5分

3.ディスカッションリーダーの司会のもとにチーム単位で討議して、設問に対する回答およびその論拠をまとめる。チーム発表者は発表に備え、記録しておく。

20分

4.全体司会者(出題者がやる場合が多い)の司会のもとに、各チームの発表者は、設問に対する回答とその論拠を発表する。一つにまとまらなかった場合は、複数の回答も可とする。

5分×チーム数)

5.出題者は、(1)あらかじめ用意した回答を述べるとともに、(2)ケースの狙い、(3)各チームの回答に対する所感などを述べる。出題者の他にアドバイザーがいる場合はアドバイザーも意見を述べる。

5~10分

6.全体の記録担当者は主だった意見の要点を記録し、参加者名簿とともに保存する。(記録のひな型→) Copyright BERC Hoshino

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後日そのケースを使って研修を行う際に、ディスカッションを円滑に進めるための目安として利用できるようなドキュメントを作る。

1)各人の意見を述べてもらう。意見がなかなか出ない時は自分から。

2)議論が一方的な方向に行かないよう、場合により是正する。例えば、もっと違う考え方、多様な考え方があるのではないかと、「揺さぶり」を入れる。

3))時間配分に注意して、時間内にチーム意見をまとめる。

2.ディスカッションリーダーの役割

4.全体記録者の役割

チーム発表者はチーム内の意見を記録し、整理して発表に備える。意見が一つにまとまらない場合は、両論併記でもいい。

3.チーム発表者の役割

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5.ディスカッションの記録(全体記録)のひな型 【設問に対する主な意見】

主だった意見を記載。意見が統一できない場合はそれぞれ記載。何故そうなるのかその根拠も。

【その他の意見】 少数意見や、回答とは直接関係ないが重要と思われる意見など。

【出題者のコメント】

ケースの狙い。ケース作成のヒントとなった事件。皆のディスカッションに対する感想など。

【アドバイザー意見】(あれば記載)

【ケースの評価】 (※今年度は時間がないのでやりません)

ケース作成チェックシートに基づき評価を記載。ただしチームごとの評価は必要ない。全体を大まかに。○~△、△~(◯)、◯~☓

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チェックポイント 評価

①テーマ選定:経営倫理・CSRの教育としては適切か

②タイトル:タイトルが内容を想起させるものか

③ストーリー a.ジレンマが織り込まれているか

b.わかりやすさ・簡潔性があるか

c.バーチャルリアリティーがあるか

④設問 a.判断または意思決定を問うているか

b.その論拠を問うているか

c.回答者の立場を明確にしているか

d.難易度のレベルは適切か(対象階層)

◯ △ ☓

6.ケースの評価 (ケース作成チェックシートと同じ様式)

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1.社会的規範で考える

法律で<自社の行動規範で<社会規範(社会の常識)で

2.帰結か非帰結か(4つの論点)

結果の妥当性か、動機の妥当性か

3. 短期的か長期的か

短期的解決として問題なくても長期的に考えるとどうか

4.リスクの大小か

結局は損得勘定。帰結主義的。ビジネス倫理においては

正義よりリスクが重視されることが少なくない。

7.説得力のある論拠は如何に

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参考:代表的な4つの論点

正義論的考え方

不公平が拡大しないような制度であるべき。社会的弱者を守る。

(効率性を維持できるのか)

倫理的功利主義的考え方

最大多数の最大幸福

(バランス重視、効率主義。 少数者は救わないでもいい)

義務論的考え方

その行為、その動機は人間として正しいのか

(批判はできても現実社会の問題解決への適用は難しい)

倫理的利己主義的考え方

企業活動は法令遵守以外はすべて自由であるべきだ。企業の最大責任は利益の最大化。

(弱肉強食、自己責任)

非帰結主義

帰結主義

現実的

観念的 Copyright BERC Hoshino

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実際のケースで

運用のポイントを会得してみよう

ケース 2

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〈倫理的利己主義的な考え方〉

エアコンの無料クリーニングは我が社独特のビジネスモデルであり、新規販売の大きなチャンスに繋がる。我が社は何ら法令違反はしてないし、顕在化した事故はまだない。よって消費者に対しリスクは説明しておくべきだが、無料クリーニングを受け入れるかどうかは消費者の自己責任。ビジネスは継続する。

〈倫理的功利主義的な考え方〉

エアコンの無料クリーニングで地域の顧客に大いに喜ばれている。我が社にも新規顧客開拓上極めて有効である。また、発火事故の発生率は極めて低く、保険に加入するなどして、不測の事故に備えておけばたとえ事故が起きたとしても大きな問題にはならないはずだ。事業は続行。

ケース2をめぐる多様な考え方の例

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〈正義論的な考え方〉

情報に疎い高齢者は、クリーニング洗浄液によるショートによってエアコンが壊れたかも知れないことをわからないだろう。行政や消費者団体は、エアコン無料クリーニングには、一定の発火リスクがあることを啓発しなければならない。また発火事故に対しては行政や消費者団体が徹底的に調査して、結果を公表するべきである。

〈義務論的な考え方〉

クリーニング洗浄液によるショートの可能性がある。無料クリーニングは、新規顧客開拓のための囮のようなもので、極めて欺瞞的な販売戦略である。消費者をだますような戦略は、我社の長期的な価値を毀損するもので、もうやめた方がいい。

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ケー2の評価

チェックポイント 評価

①テーマ選定:経営倫理・CSRの教育としては適切か ◯

②タイトル:タイトルが内容を想起させるものか ◯~△

③ストーリー a.ジレンマが織り込まれているか ◯

b.わかりやすさ・簡潔性があるか △

c.バーチャルリアリティーがあるか ◯

④設問 a.判断または意思決定を問うているか ◯

b.その論拠を問うているか ◯

c.回答者の立場を明確にしているか ◯

d.難易度のレベルは適切か(階層など) 幅広い層に

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ディスカッションの記録の例 【設問に対する主な意見】 ・ 4チーム中三チームが③を選択。1チームだけ①と③に分かれた。

論拠は、無料エアコンクリーニングはベルク電機成長のビジネスモデルな

のでこれをやめるわけにはいかない。クリーニング手順を徹底すれば事故は

防げる。消費者にわずかに発火リスクが有ることを知らしめておけば、後は

消費者の自己責任。

・①を選んだ人は、発火リスクがある以上、いつか大事故で会社の経営が立ち

行かなる可能性があるとした。

【その他の意見】 ・Yさんに誠意ある説明がなされてないのは大問題。

・訪問販売法に違反している可能性がある。

【出題者のコメント】 ・2006年のパロマのガス給湯器改造事故と地域密着型修理で伸びる

首都圏の家電販売会社を結びつけた。発火、火事、人身事故の可能性が

一定程度ある以上、こんな危険なビジネスモデルを続けるのは危険である。

【アドバイザー意見】 ・銀行がハイリスク・ハイリターン型の会社になかなか融資しない理由が

わかるケース。一方で証券会社は高齢の個人にハイリスク商品を勧めて

いる。 Copyright BERC Hoshino