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新奇遺伝子を用いた有用微生物の生育促進と 生産性向上をもたらす新しい方法 東京農工大学 大学院工学研究院 生命機能科学部門 准教授 山田 晃世

新奇遺伝子を用いた有用微生物の生育促進と 生産 … alba (マヤプシキ) (準絶滅) 危惧種) Avicennia marina (ヒルギダマシ) (絶滅危惧種) Verbenaceae

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新奇遺伝子を用いた有用微生物の生育促進と生産性向上をもたらす新しい方法

東京農工大学 大学院工学研究院

生命機能科学部門

准教授 山田 晃世

研究の背景

東京農工大保有の海洋ラン藻コレクションから見出されたSynechococcus sp. NKBG15041c は最も増殖が早いラン藻の1つである。

この株の優れた増殖能に関する分子機構が明らかになれば、①発酵生産、②バイオマス生産、③高等植物の生育促進やストレス耐性強化、④タンパク質変性抑制等への応用が期待できる。

従来技術とその問題点

◎発酵生産への応用代謝物の生成に伴う、発酵熱・イオン・浸透圧ス

トレスが発生→ 浸透圧調節剤や、冷却機等の導入が必要

◎高等植物のストレス耐塩性強化について(イネは海水の1/50の塩濃度で生育が抑制さ

れる)→ 耐塩性関連遺伝子の導入例が報告されているが、海水に耐える有用植物は未だ得られていない。

環境ストレス耐性遺伝子獲得のための「機能スクリーニング」

野生株 CodA60-1-5 RBP10-1 Mng-65

300 mM NaCl 下の形質転換ユーカリの生育日本製紙(株)、筑波大との共同研究

第70回総合科学技術会議にてマングリン導入ユーカリのお披露目

Synechococcus sp. NKBG15041c

新奇ストレス耐性・増殖促進遺伝子の発見!

機能スクリーニング

ゲノムライブラリー

新奇遺伝子を導入した大腸菌の生育

45℃1.0 M NaCl86 mM NaCl

0

1

2

3

4

5

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7

0 5 10 15 20

cell

conc

entr

atio

n (A

600)

time (h)

A

0

0.1

0.2

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0.4

0.5

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0.8

0.9

0 5 10 15

cell

conc

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n (A

600)

time (h)

B

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

0 5 10 15 20

cell

conc

entr

atio

n (A

600)

time(h)

C

新奇遺伝子を発現した形質転換大腸菌には耐熱性・耐塩性が向上するだけでなく、生育速度、到達濃度を向上も認められている。

新奇遺伝子を発現した大腸菌ベクターのみを導入した対照大腸菌

新奇遺伝子がもたらす生育促進メカニズム①

1 M NaCl0 M NaCl

8-Anilino-1-naphthalenesulfonic acid (1, 8-ANS)

SO3NH NH4

0

10

20

30

40

50

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70

410 460 510 560

Fluo

resc

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inte

nsity

Wavelength (nm)

A

0

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50

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410 460 510 560Fl

uore

scen

ce in

tens

ity

Wavelength (nm)

B

新奇遺伝子を導入した形質転換大腸菌の可溶タンパク質はベクターのみを導入したコントロール大腸菌に比べ、高塩条件下でも正常なフォールディング状態が保たれる。

新奇遺伝子を発現した大腸菌の可溶性画分ベクターのみを導入した対照大腸菌可溶性画分

GST 融合タンパク質の発現誘導・精製

GST-新奇タンパク質融合タンパク質: 61.57 kDa(GST: 27.9 kDa 新奇タンパク質: 33.67 kDa)

80

M EFT EW ① ② ③ ④ ⑥⑤ ⑦C

60

250

30

15

(kDa)

E

生育促進のメカニズム②

タンパク質(クエン酸シンターゼ)の変性抑制

0

200

400

600

800

1000

1200

0 100 200 300 400 500 600

Lig

ht sc

atte

ring

at 5

00 n

m

time (s)

CS BSA+CS UUP+CS 2UUP+CS

● 0.15 µM CS○ 0.15 µM CS + 0.15 µM 新奇タンパク質◇ 0.15 µM CS + 0.30 µM 新奇タンパク質▲ 0.15 µM CS + 0.30 µM BSA

48℃

新奇タンパク質の添加濃度の増大に伴い、タンパク質(クエン酸シンターゼ)の熱変性が抑制される。

生育促進のメカニズム②

新奇タンパク質のタンパク質熱変性抑制効果

48℃におかれたクエン酸シンターゼは可溶状態を保つ事ができず変性・不溶化し、その結果、散乱光強度が増す。新奇タンパク質の添加濃度に応じて、タンパク質の変性が抑制されたため、散乱光強度の増大を抑える事ができた。

大腸菌以外の例:新奇遺伝子を導入したラン藻 (Synechocystis sp. PCC 6803) の生育

0

1

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6

7

0 2 4 6 8 10 12 14 16

cell

conc

entr

atio

n (A

730)

time (days)

新奇遺伝子を導入したラン藻の生育曲線(温度:32℃, 光強度200 µmol m-2 s-1)

新奇遺伝子の発現は大腸菌ばかりでなく、ラン藻の生育も促進する。

新奇遺伝子

発現ベクター

Synechococcus sp. NKBG 15041Cにおける新奇遺伝子の発現

0

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6

8

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14

0

1

2

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0 4 12 28 36

cell

conc

entr

atio

n (A

730)

Rel

ativ

e ex

pres

sion

time (days)

新奇遺伝子はSynechococcus sp. NKBG 15041C が活発な増殖をしている時に強く発現している。

Synechococcus sp. NKBG 15041Cの生育、及び新奇遺伝子の発現

生育促進関連遺伝子獲得のための塩生植物

Sonneratiaceae(ハマザクロ科) Rhizophoraceae (ヒルギ科)

Sonneratia alba (マヤプシキ) (準絶滅)危惧種)

Avicennia marina (ヒルギダマシ)(絶滅危惧種)

Verbenaceae (クマツヅラ科)

Chenopodiaceae (アカザ科)

Salicornia europaea(アッケシソウ) (絶滅危惧種)

Suaeda japonica (シチメンソウ)(絶滅危惧種)

Chenopodiaceae (アカザ科)Combretaceae (シクンシ科)

Bruguiera gymnorhiza(オヒルギ)

Lumnitzera racemosa(ヒルギモドキ)(絶滅危惧種)

SeFLA (アッケシソウのアラビノガラクタンタンパク質)形質転換タバコの生育

L5

L10L11

L3

WT

NaCl 200 mML5

L10L11

L3

WT

Stress freeL5

L10L11

L3

WT

NaCl 250 mM

L5

L10L11

L3

WT

Mannitol 300 mM

L3 L5 L10 L11 WT

抗SeFLA 抗体を用いた各形質転換タバコにおけるSeFLAの検出

低発現体 高発現体

WT FLA11

400 mM mannitol

Fresh weight (g) : 0.19 ±0.02 1.03 ±0.35

浸透圧ストレス下におけるSeFLA (アッケシソウのアラビノガラクタンタンパク質)導入

したタバコの浸透圧耐性

タバコに導入

WT R69 R74 R88

250 mM

NaCl

WT R69 R74 R88 2 weeks

アイスプラント

アイスプラント由来の葉緑体型RNA結合タンパク質

大腸菌を用いた機能スクリーニング

アイスプラント葉緑体型RNA結合タンパク質

想定される用途

• 微生物を用いた有用物質生産の生産性強化

• 農林業における生産性向上、藻類等によるバイオ燃料生産等

• タンパク質変性抑制への利用

新技術の特徴・従来技術との比較

微生物・植物のストレス耐性強化に関係するタンパク質として、イオン輸送タンパク質、浸透圧調節物質合成酵素等があるが、今回紹介した遺伝子群は、これらと全く異なる分子機構であり、既知遺伝子との相乗効果も期待できる。

実用化に向けた課題

大腸菌、高等植物に対し、生育促進・ストレス耐性向上をもたらす複数タイプの遺伝子の「組み合わせ利用」を検討する必要がある。

企業への期待

微生物や植物による物質生産を行なっている企業との共同研究を希望。

今後の展開

機能スクリーニングで得た各種遺伝子群を単独、あるいは複合利用することで農林業・各種発酵産業・微細藻類を用いたバイオ燃料生産、タンパク質変性抑制等の応用が期待できる。

◎発酵生産

◎イネ、トウモロコシ、ユーカリ等:農林業

◎微細藻類を用いたバイオ燃料生産

◎タンパク質変性抑制

本技術に関する知的財産権①

•発明の名称 : 新規ストレス耐性遺伝子

•出願番号 : 特許出願中 未公開

•出願人 : 国立大学法人東京農工大学

•発明者 : 山田晃世、小関良宏、

早出広司、他

本技術に関する知的財産権②

・発明の名称 : 熱又は水分ストレス耐性向上活性を有する

アラビノガラクタンタンパク質

・登録番号 : 特許第4797171号

・出願人 : 国立大学法人東京農工大学

・発明者 : 山田晃世、小関良宏、赤塚 さと子

・発明の名称 :塩又は熱ストレス耐性向上活性を有するRNP-1

モチーフをもつタンパク質及び該タンパク質をコード

するDNA

・登録番号 : 特許第4792552号

・出願人 : 国立大学法人東京農工大学、日本製紙株式会社

・発明者 : 山田晃世、小関良宏、他

お問い合わせ先

東京農工大学

先端産学連携研究推進センター

産学連携推進チーム

TEL042-388-7550

FAX042-388-7553

e-mail [email protected]