ベジタリアンの健康ベジタリアンの健康ー禅宗修行僧の食生活よりーー禅宗修行僧の食生活よりー

秋田栄養短期大学　東口みづか

肉食忌避の戒律に則り伝統的な食生活が営まれているとされる禅宗修行僧の食事が、生活習慣病の予防に有効であるとの指摘は少なくない。しかし、実際に禅宗僧堂で生活している修行僧を対象として食

事調査や健康調査を行った報告は少なく、未だ不明な点が多い。

1. 禅宗僧堂における食生活の実態2 ．禅宗僧堂における食事日記の栄養学的解析3 ．禅宗修行僧の栄養摂取状況と健康状態4 ．青年期および中年期禅宗修行僧における血清脂質、血糖値の生

理学的相違

研究の背景

研究内容

1. 禅宗僧堂における食生活の実態

これまで書籍、文献等に記されることなく、公にされてこなかった禅宗修行僧の食生活の実態について理解を深めるため、僧堂で典座の経験のある僧侶を対象に、出し汁の使用状況に関する項目を含む、修行僧の食生活全般についての聞き取り調査を行う。

調査方法1. 期間 1999 年 6 ～ 7 月2. 対象 規模の異なる僧堂の元典座（食事係）各 1 名

　 A 僧堂：修行僧数 200 名以上　 B 僧堂：修行僧数 5 名以下

3. 方法 聞き取り調査4. 項目 1) 食事

2) 献立3) 食材4) 設備と食器5) 調理技術と知識6) 出し汁

聞き取り調査の結果： A僧堂

・　献立は、前日典座らによる会議において、過去の記録帳を基に行事や食材の

在庫、御用商店の都合などを考慮の上決定されており、これに従って食材の購

入、調理が極めて合理的かつ規則的に行われる。

・　使用する食材はすべて植物性食品であり、動物性食品を調理することは一切

ない。

・　厨房には、一般的な給食施設と同様の大量調理のできる設備が整っており、

保健所の指導もあり衛生管理を厳しく行っている。調理には炊飯器、ミキサー、

オーブンなどの電化製品も利用している。

・　典座に配役された修行僧は、一週間の見習期間中に、古参の典座より鍋の磨

き方や炊事道具の整理の仕方、調理技術まで一通り個別に教育される。その後

は自己の修練により技術を磨いていく。

聞き取り調査の結果： B僧堂・　 200坪の畑を有しており、そこで収穫される野菜の種類や量を考慮して献立を作成し

ているため、収穫時期によって何日も同じ野菜の献立が続くことが多い。また、信徒

からの贈答品によって献立が決まる場合もある。現金収入は托鉢に頼っているため経

済的に困窮しており、砂糖、みりんなどの甘味料はほとんど使用できず、煮物は手間

がかかり使用する燃料がかさむためほとんど作っていない。

・　最低限必要な食材に限り最も価格の安い店で購入している。贈答品も生活する上で大

きな役割を果たしており、修行僧の健康面を気遣ってあえて動物性食品を施す信徒も

いる。寄進された動物性食品は献立に取り入れられる。

・　電化製品は一切なく、かまどを利用して煮炊きを行っている。燃料となる薪は、山内

で拾い集めたものや材木店、造園店より廃材を譲り受けたものを使用している。

・　料理技術を個別に教育されるようなことはなく、基本的に古参典座の調理を見習うこ

とで技術を習得する。そのため典座の料理への興味によって技術が異なり、個人差が

大きい。

A僧堂 B僧堂

食事 参拝客にも提供 修行僧の食事のみ

献立 会議で決定 食材に左右される

食材 御用商店に発注 自給自足、贈答品

食器と設備 大量調理のできる厨房設備 電化製品なし

調理技術と知識 教育制度あり 教育制度なし

出し汁 昆布出し汁と干椎茸出し汁 風味調味料

聞き取り調査のまとめ

まとめ

1. 僧堂の経済格差は、動物性食品の使用の有無、献立の充実度や安定度に大きな影響を及ぼし、栄養素等摂取状況にも大きく影響することが示唆された。

2. 僧堂の規模の違いは、経済格差や労働力の相違といった状況をもたらし、ひいては調理技術や知識における教育制度の有無にも大きく影響を及ぼすことが示唆された。

3. 僧堂の経済格差は、出し汁の使用状況に影響を及ぼすものと考えられる。

2．禅宗僧堂における食事日記の栄養学的解析

禅宗僧堂で生活するすべての修行僧が共通で摂取している食事内容をもとに、 1 日 3 食の食事から得られる栄養・食品摂取量や食品の使用頻度・特性を把握する。

調査方法

曹洞宗のＡ僧堂（修行僧数約 250 名）の食事日記を入手注）献立名、食品名、盛り付ける器の記載はあるが、分量や作り方　　の記載はない

＜栄養・食品摂取量＞1 ．資料　 2 、 5 、 7 、 11 月の各月 4 ～11 日　 の 7 日間、合計 28 日分2 ．方法　 記載内容をもとに献立を再現　 し、食品の使用重量から栄 養・食品摂取量を算出

　

＜食品の使用頻度・特性＞1 ．資料　 約 1 年分＝ 311 日分2 ．方法　 摂取状況が良好である食品に　 ついて小食、中食、薬石別、 使用料理別に使用頻度を算出3 ．統計解析　 対応分析

食事日記の書式

食事日記の記載内容をもとに再現した食事の一例

＜小食＞菜粥（餅入り）煮物三点盛り（凍り豆腐、里芋、ぜんまい）煮豆

＜中食＞

麦飯

みそ汁（油揚げ、たけのこ、小松菜、わかめ）

うの花（おから、人参、ごぼう、グリンピース

　　　 ひじき）

＜薬石＞わかめ飯みそ汁（じゃが芋、大豆、油揚げ、わかめ）煮物三点盛り（長芋、かぼちゃ、刻み昆布）酢の物（きゅうり、うど、にんじん、焼き麩）

食事日記の記載内容から算出した栄養素等摂取量2月 5月 7月 11月 平均

(エネルギー kcal ) 1,236±220a 1,034±61b 1,123±76 1,044±61 1,119±139

(たんぱく質 g) 30.5±7.3 25.9±3.4 27.3±3.6 22.3±3.8 27.3±5.0

(脂質 g) 15.9±8.8 11.0±3.0 12.6±3.3 8.0±3.9 13.1±5.3

(炭水化物 g) 238.3±32.1a 202.0±17.6b 219.1±24.1 220.2±8.8 218.0±25.0

(カリウム mg) 2,292±835a 1,284±330b 1,297±259b 3,163±691 1,624±688

(カルシウム mg) 360±121a 201±67b 215±27b 322±62b 252±97

(マグネシウム mg) 246±68a 146±42b 142±13b 302±59 181±64

(リン mg) 514±124a 388±44b 420±30 473±63 441±85

(鉄 mg) 6.8±1.4 4.9±1.0 4.9±1.2 4.9±1.5 5.5±1.5

(亜鉛 mg) 5.5±1.1 4.3±0.7 4.5±0.6 4.3±0.6 4.7±0.9

(銅 mg) 1.02±0.23a 0.80±0.09b 0.86±0.09 0.78±0.09 0.87±0.16

ビタミンA(μg) 541±258 409±213 367±127 520±155 392±212

ビタミンD(μg) 0.9±1.7 1.0±1.4 1.8±2.1 0.1±0.2 1.0±1.6

ビタミンE（mg） 4.0±1.8 2.7±0.8 3.0±0.9 3.0±0.8 3.1±1.2

ビタミンK(μg) 184±117 103±40 111±40 87±15 120±73

ビタミンB1(mg) 0.41±0.09a 0.28±0.03b 0.31±0.06 0.41±0.07 0.34±0.08

ビタミンB2(mg) 0.36±0.08a 0.22±0.06b 0.23±0.04b 0.23±0.04b 0.26±0.08

(ナイアシン mg) 5.0±1.0 3.8±0.8a 4.3±0.9 6.2±1.2b 4.6±1.1

ビタミンB6(mg) 0.54±0.13a 0.39±0.06b 0.45±0.08 0.60±0.09 0.48±0.11

ビタミンB12(μg) 0.2±0.2 0.1±0.1 0.1±0.1 0.1±0.3 0.1±0.2

(葉酸 μg) 218±76a 141±41 151±37 89±27b 157±59

(パントテン酸 mg) 2.81±0.55a 2.05±0.24b 2.21±0.34b 2.52±0.22 2.36±0.45

ビタミンC(mg) 57±34 27±15 40±23 37±26 42±26

(コレステロール mg) - - - - -

(食物繊維 g) 16.1±3.9a 10.2±2.5b 9.9±1.0b 16.2±3.0 12.1±3.7

(食塩相当量 g) 6.7±2.5 5.0±1.5 7.2±1.2 6.9±2.0 6.4±2.0

平均値±標準偏差Sheffeの多重比較検定により異なるアルファベット間で有意差有り（p< 0.05）

先行研究の結果

エネルギー たんぱく質 脂質宗派 調査方法 n (kcal) (g) (g) 文献

青木ら 曹洞宗 不明 不明 1,180 33.6 不明 食生活史, 1964

山上ら 臨済宗 実測 16 1,512±152 41.3±4.8 18.8±3.9 栄養学雑誌, 1985

室屋ら 臨済宗 実測と聞き取り 9 2,738~3,092 67.6~76.6 19.9~45.4 臨床栄養, 1985

Otaniら （臨済宗）24時間思い出し法 22 1,809 63.3 44.2 N Engl J Med, 1992

Kitaら （臨済宗）25時間思い出し法 18 2,178±256 62.6±7.4 52.8±2.1 Jpn Circ J, 1998

食事日記の記載内容から算出した食品群別摂取量

(g) 2月 5月 7月 11月 平均穀類 690.7±112.4 640.7±93.6 593.1±143.8 608.5±110.4 633.3±116.2

種実類 4.0±5.8 - 0.4±1.0 0.7±2.0 1.3±3.3

いも類 56.4±43.2 20.4±17.0 20.2±17.5 54.0±42.6 37.7±35.6

砂糖類 11.0±11.1 3.7±2.3 3.6±2.3 6.6±4.3 6.2±6.6

菓子類 - - - - -

油脂類 5.0±4.1 2.8±3.1 4.4±3.0 4.5±3.0 4.2±3.2

豆類 41.3±38.3 29.4±19.3 45.3±22.8 33.8±31.6 37.5±28.0

果実類 16.1±35.6 8.9±18.7 15.5±23.2 14.3±24.4 13.7±24.6

野菜類 85.1±39.4 59.8±30.2 68.0±21.3 54.3±36.7 66.8±33.7

きのこ類 16.0±12.5 7.1±10.2 10.6±6.6 4.6±5.3 9.6±9.6

海藻類 19.7±22.9 9.0±21.4 3.9±2.2 10.2±6.7 10.7±16.2

魚介類 - - - - -

肉類 - - - - -

卵類 - - - - -

乳類 - - - - -

平均値±標準偏差Sheffeの多重比較検定により異なるアルファベット間で有意差有り（p< 0.05）

飯 粥 麺 餅麦飯 296 餅入り白粥 93 うどん 30 雑煮 13

白飯 159 白粥 54 そば 13 あん・きな粉・ごま 7

わかめ飯 27 茶粥 30 ぜんざい 1

茶飯 25 大豆入り白粥 28

青菜飯 17 玄米粥 27

小豆飯 11 とうもろこし入り白粥 11

五目飯 9 さつまいも入り白粥 7

ゆかり飯 9 餅入り茶粥 7

たけのこ飯 5 大豆入り玄米粥 5

巻き寿司 5 小豆入り白粥 4

しめじ飯 4 青菜入り白粥 3

えんどう豆飯 3 大豆入り茶粥 3

むかご飯 2 餅入り玄米粥 3

さつまいも飯 1 大豆・餅入り白粥 2

山菜飯 1 とうもろこし・餅入り白粥 2

高菜飯 1 青菜・餅入り白粥 1

まつたけ飯 1 小豆・餅入り白粥 1

さつまいも・餅入り白粥 1

七草粥 1

わかめ・餅入り白粥 1

576 284 43 21

（回）

主食としての穀類の使用頻度

主食としての穀類の使用特性

中食

薬石

餅

麺

白飯

白飯・麦飯以外の飯

麦飯

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

粥小食

きのこ類の使用頻度

0 20 40 60 80 100 120 140 160

しいたけ

しめじ

えのきたけ

きくらげ

なめこ

まつたけ

ふくろたけ

ひらたけ

複数回答

僧堂数

きのこ類の使用特性

きくらげ

しいたけ

なめこ

中食

小食

すまし汁

みそ汁

煮物

和え物

雑煮

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

-2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

えのきたけ

炒め物 汁物 うどん

しめじ薬石

ご飯 揚げ物

海藻類の使用頻度

0 50 100 150 200 250 300

わかめ

昆布

ひじき

のり

刻み昆布

茎わかめ

もずく

海藻ミックス

複数回答

僧堂数

海藻類の使用特性

ひじき

のり

昆布茎わかめ

海藻ミックス

薬石

中食

小食

すまし汁

酢の物

煮物

佃煮

薬味

-5

-4

-3

-2

-1

0

1

2

-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

サラダ

もずく

ご飯

わかめ

みそ汁刻み昆布

まとめ

1 ．栄養素等摂取量はいずれの栄養素とも非常に低い値であった。特にビタミン B12で顕著であり、コレステロールにいたってはほとんど摂取されていなかった。

2 ．修行僧はおかわりや間食により不足している栄養素等を補っている可能性がある。

3 ．動物性食品は摂取されておらず、穀類、きのこ類、海藻類の摂取状況が非常に良好であった。

4 ．薬石は小食、中食と比較して献立内容等が比較的自由であった。限られた食材を飽きずにおいしく食べる工夫が認められた。

3．禅宗修行僧の栄養摂取状況と健康状態

禅宗僧堂で生活する修行僧について栄養調査および血液検査を含む健康調査を行い、栄養摂取状況と健康状態の実態を把握するとともに、影響を及ぼす要因について検討する。

調査方法：対象

1 ．禅宗修行僧： 20歳代、 47 名

1 ）動物性食品非摂取群： 21

名

A 僧堂 9 名、 B 僧堂 12

名

2 ）動物性食品摂取群： 26 名

C 僧堂 7 名、 D 僧堂 6

名

E 僧堂 13 名

2 ．男子大学生： 20歳代、 50 名

運動習慣あり

( )午前 活動内容 ( )午後 活動内容

12 時 12 時 中食

1 1

2 2

3 3 入浴

4 起床 4 晩課

5 坐禅 5 薬石

6 朝課 6 僧堂掃除

7 小食 7

8 8

9 9 連絡事項会

10 10 開枕

11 11

作務（掃き掃除）

作務（掃き掃除）

夜坐

日中

禅宗修行僧の 1 日

調査方法：食事調査

1 ．禅宗修行僧：連続した 3 日間　 1 ）小食、中食、薬石　　　各禅宗僧堂の典座に料理名および食品名の記録と食事の写 真撮影を依頼し、その記載内容から分量を推量した。　　　 2 ）おかわり、間食　 禅宗修行僧に料理名および食品名と分量の記録を依頼した。

2 ．男子大学生：連続した 3 日間　　料理名および食品名、分量の記載と食前食後の写真撮影　　　依頼した。各対象者にスケールを貸与して食前食後の料理　　および食品の重量を測定してもらい、その重量差を実際に　　摂取した分量とした。

調査方法：身体・精神状況調査

1 ．身体計測 ：身長、体重、体脂肪率

2 ．エネルギー消費量 ：生活活動調査（ 3 日間）の内容から算出

3 ．安静時エネルギー消費量 ： METAVINEⓇ （ VINE社）にて測定

4 ．一般血液、生化学検査

　 1 ） 白血球数 2 ） 赤血球数

　 3 ） ヘモグロビン 　 4 ） ヘマトクリット血小板数

　 5 ） 総たんぱく　 　 6 ） アルブミン

　 7 ） 総コレステロール　 　 8 ） HDL-コレステロール

　 9 ） 中性脂肪　 　 10 ）血糖甲状腺刺激ホルモン

　 11 ）遊離トリヨードサイロニン 12 ）遊離サイロキシン　　　　　　　　

5 ． 健康に関する QOL評価 ： SF-36v2 日本語版を使用したアンケート調査

記録者 月 日（ ）小食料理名 食品名 備 考

食事調査票（ 日目）

禅宗修行僧の食事調査票

月 日（ ）料理名および食品名 おかわり 間 食 外 食 摂取量 備 考

月 日（ ）料理名および食品名 おかわり 間 食 外 食 摂取量 備 考

食事調査票（ 日目）

食事調査票（ 日目）

月 日（ ） 月 日（ ）

午前 3 午前 3

4 4

5 5

6 6

7 7

8 8

9 9

10 10

11 11

午後 12 午後 12

1 1

2 2

3 3

4 4

5 5

6 6

7 7

8 8

9 9

10 10

11 11

午前 12 午前 12

1 1

2 2

生活活動調査票（ 日目） 生活活動調査票（ 日目）

時 刻 活 動 内 容 時 刻 活 動 内 容

禅宗修行僧の生活活動調査票

月 日（ ）時刻（午前）5

6

7

8

9

10

11

12

1

2

3

4

備 考 撮影し ましたか

１日の活動および食事記録食品と飲み物の名前ど こ で 食べ

ましたか

食品と飲み物はどのくらいの量食べましたか

食事区分 料理の名前

男子大学生の食事調査票および生活活動調査票

月 日（ ）

時刻（午後）5

6

7

8

9

10

11

12

1

2

3

4

備 考 撮影し ましたか

１日の活動および食事記録食品と飲み物の名前ど こ で 食べ

ましたか

食品と飲み物はどのくらいの量食べましたか

食事区分 料理の名前

動物性食品非摂取群の食事の一例

＜小食＞玄米粥たくあん、梅干しごま塩

＜中食＞麦飯みそ汁（豆腐、わかめ）肉じゃが風煮物（じゃが芋、人参、グリンピース　　　　　　　　しらたき、グルテン）漬物＜薬石＞大根飯すまし汁（豆腐、わかめ、庄内麩）煮物三点盛り（油揚げ、ぜんまい、れんこん）酢の物（もやし、はるさめ、わかめ）漬物

動物性食品摂取群の食事の一例

＜小食＞玄米粥たくあん、梅干し、酢大豆わかめふりかけ、ごま塩、ゆかり

＜中食＞白飯みそ汁（えのきだけ、小松菜）伊達巻フライドポテト

＜薬石＞白飯みそ汁（豆腐、油揚げ）皿うどん（揚げ麺、白菜、人参、ピーマン　　　　　玉ねぎ、ベーコン）お浸し（小松菜、かつお節）

動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の身体特性、エネルギー消費量、安静時エネルギー消費量

動物性食品非摂取群 男子大学生(n=50)

( )年齢 歳 25.2±3.0a 24.2±2.0a 20.5±0.7b

(身長 cm) 171.4±3.9 173.2±5.5 173.0±5.6

(体重 kg) 63.7±7.1 67.4±8.8 66.0±9.0

BMI(kg/m2) 21.7±2.1 22.5±2.5 22.1±3.0

(体脂肪率 %) 17.1±3.1 18.1±3.7 17.6±4.9

(エネルギー消費量 kcal) 2,749±375 2,731±372 2,746±587

(安静時エネルギー消費量 kcal) 1,504±184 1,600±125 -

平均値±標準偏差Duncunの多重比較検定により異なるアルファベット間で有意差有り（p< 0.05）

(n=21)

動物性食品摂取群(n=26)

エネルギー(kcal) 2,070±583a 2,229±618 2,334±809b 2,224±647

たんぱく質(g) 48.0±16.4a 60.3±26.6b 72.9±28.2ｃ 80.7±27.8

脂質(g) 24.9±9.7a 51.5±22.9b 68.8±32.7c 70.3±29.1

炭水化物(g) 409.6±114.9a 360.7±94.9b 332.9±120.1b 305.2±96.4

ビタミンA(μg) 264±117 350±294 404±660 833±964

ビタミンD(μg) 0.9±0.5a 2.9±4.8b 4.4±5.6b 7.3±8.0

ビタミンE(mg) 4.3±1.4a 6.7±4.2b 7.0±3.3b 9.0±4.0

ビタミンK(μg) 263±216a 208±125b 171±145b 229±187

ビタミンB1(mg) 0.80±0.17a 0.78±0.29a 1.14±0.56b 1.02±0.57

ビタミンB2(mg) 0.56±0.14a 0.84±0.36b 1.15±0.60c 1.22±0.55

ビタミンB12(μg) <0.1a 2.5±3.2b 4.3±4.0c 6.9±6.8

コレステロール(mg) 1±2a 172±240b 375±248c 390±219

食物繊維(g) 22.1±7.3a 15.6±6.8b 11.5±4.8c 12.8±5.7

平均値±標準偏差Duncunの多重比較検定により異なるアルファベット間で有意差有り（p<0.05）※平成14年度国民栄養調査結果

(n=21) (n=26) (n=50) 男性：18-29歳動物性食品非摂取群 動物性食品摂取群 男子大学生 国民標準値※

動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の栄養素等摂取量

動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の一般血液検査値、生化学検査値

男子大学生(n=50)

(白血球数 /μL) 6,135±2,130 6,532±1,411a 5,636±1,153b 3,500-9,700

(赤血球数 104/μL) 494±41 480±29 508±72 438-577

(ヘモグロビン g/dL) 15.4±1.1a 15.2±0.8a 15.8±0.9b 13.6-18.3

( )ヘマトクリット ％ 48.1±3.2 48.3±3.2 49.7±2.6 40.4-51.9

(血小板数 104/μL) 26.0±5.8a 22.4±4.4b 24.0±4.4 14.0-37.9

(総たんぱく質 g/dL) 7.7±0.4a 7.3±0.3b 7.8±0.4a 6.5-8.2

(アルブミン g/dL) 5.0±0.2 4.7±0.2 5.0±0.2 3.7-5.5

(総コレステロール mg/dL) 159±26 168±30 171±32 150-219

HDL- (コレステロール mg/dL) 57±11 55±13a 63±12b 40-80

中性脂肪(mg/dL) 77±28 78±46 66±36 50-149

(血糖 mg/dL) 84±8a 88±9 89±7b 70-109

(甲状腺刺激ホルモン μU/mL) 1.9±1.1 1.7±0.9 1.6±0.7 0.4-4.0

(遊離トリヨードサイロニン pg/mL) 3.3±0.5a 3.4±0.4a 3.7±0.3b 2.2-4.1

遊離サイロキシン（ng/dL) 1.1±0.2a 1.3±0.2b 1.5±0.2c 0.8-1.9

平均値±標準偏差Duncunの多重比較検定により異なるアルファベット間で有意差有り（p< 0.05）※株式会社ビー・エム・エル検査結果報告書

動物性食品非摂取群(n=21)

動物性食品摂取群(n=26) 標準範囲※

動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の健康に関する QOL評価値

男子大学生(n=50)

身体機能 54.6±3.9 54.7±4.6 55.4±5.9 55.4±5.5

日常役割機能 49.4±7.5 51.0±9.6 52.2±6.5 53.1±6.8

身体の痛み 42.6±11.1a 49.3±10.9b 48.0±11.4 52.6±9.4

全体的健康感 45.6±8.7a 51.4±9.8b 52.4±9.6b 52.4±10.4

活力 38.7±10.1a 44.7±12.3b 50.3±9.9c 49.6±9.9

社会生活機能 43.3±12.8 44.7±14.4 47.6±11.4 50.9±8.5

日常役割機能 45.0±11.2 46.4±11.8 47.2±11.2 51.6±9.1

心の健康 38.7±12.2a 43.5±12.7a 51.2±9.8b 49.8±8.7

平均値±標準偏差Duncunの多重比較検定により異なるアルファベット間で有意差有り（p< 0.05）※SF-36v2日本語版マニュアル

動物性食品非摂取群 動物性食品摂取群(n=26) 男性：20~29歳

国民標準値※

(n=21)

栄養摂取状況および健康状態と QOL の関連

高炭水化物

高食物繊維 高食物繊維

低脂肪 低脂肪

低コレステロール 低コレステロール

健康状態

身体の痛み 活力

全体的健康感 心の健康

活力

心の健康

栄養摂取

QOL

動物性食品非摂取群 動物性食品摂取群

良好 良好

傾向非常に強い傾向やや有り

低い

低い

まとめ

1 ．動物性食品非摂取群、摂取群ともに栄養摂取状況は高炭水化物、高食物繊維、低脂肪、低コレステロール傾向があり、特に非摂取群で顕著であった。

2 ．非摂取群、摂取群ともに一般血液検査値および生化学検査値は良好であることから、健康状態に問題が生じる可能性は低いものと考えられた。

3 ．禅宗修行僧の生活は身体の痛み、全体的健康感、活力、心の健康といった QOL に負の影響をもたらすものと考えられるが、食生活以外の要素（例えば集団で生活することでのストレス等）が関連している可能性がある。

4．青年期および中年期禅宗修行僧における血清脂質、血糖値の生理学的相違

生活環境や生活習慣が相似していることから、社会・経済的要因および精神・身体的要因の影響を除外した上での検討が可能であると思われる青年期および中年期修行僧について、血清脂質、血糖値を比較し、加齢による身体の生理変化による影響を検討する。

調査方法

1 ．対象 ：禅宗修行僧 18 名（動物性食品摂取群）

　青年期 12 名（平均年齢 24.2歳）

　中年期 6 名（平均年齢 57.6歳）

2 ．栄養・食品摂取量

3 ．身体計測

4 ．エネルギー消費量

5 ．一般血液、生化学検査 　　　　　　　　　　　　　　　　　　

6 ． 健康に関する QOL評価

先の調査と同様

修行期間に有意差なし

青年期および中年期修行僧の身体特性とエネルギー消費量

Young group Middle-aged group(n=12) (n=6) P -value

Height (m) 1.75±0.04 1.69±0.03 <0.01

Weight (kg) 69.1±8.5 65.4±4.8 0.34

Body mass index (kg/m2) 22.4±2.3 22.9±1.6 0.68

Body fat mass (%) 17.5±2.3 17.3±3.8 0.90

Energy expenditure (kcal) 2,927±298 2,662±243 0.08

All values are means±SD.

青年期および中年期修行僧の栄養素等摂取量Young group Middle-aged group

(n=12) (n=6) P -value

Energy (kcal) 2,612±630 2,471±551 0.42

Carbohydrate (% of energy) 66.7±5.9 66.6±4.6 0.94

Protein (% of energy) 11.8±2.4 11.7±2.1 0.82

Fat (% of energy) 21.5±4.7 21.8±3.4 0.75

SFA (% of energy) 4.7±2.3 4.4±1.4 0.62

MUFA (% of energy) 7.1±2.1 7.3±1.8 0.90

PUFA (% of energy) 6.2±2.0 6.7±1.5 0.33

Omega-6 PUFA (% of energy) 5.2±1.9 5.6±1.6 0.45

Omega-3 PUFA (% of energy) 1.0±0.6 1.1±0.7 0.46

Cholesterol (mg/1,000kcal) 110.9±112.1 102.1±108.7 0.79

Sodium (mg/1,000kcal) 2,600±850 2,501±957 0.70

Potassium (mg/1,000kcal) 1,171±281 1,269±257 0.22

Calcium (mg/1,000kcal) 243.6±98.6 234.7±81.0 0.74

Dietary fiber (g/1,000kcal) 8.1±2.6 9.1±1.6 0.13

All values are means±SD. SFA, saturated fatty acids; MUFA, mono-unsaturated fattyacids; PUFA, poly-unsaturared fatty acids.

青年期および中年期修行僧の健康に関する QOL 評価値

Young group Middle-aged group(n=12) (n=6) P -value

Physical functioning 54.5±5.2 50.4±5.3 0.13

Role physical 51.2±9.1 49.7±9.4 0.72

Bodily pain 47.2±10.2 46.6±10.4 0.70

General health perception 53.1±8.2 52.5±8.3 0.19

Vitality 45.0±11.7 44.3±11.9 0.89

Social functioning 45.5±15.9 44.5±16.2 0.94

Role emotional 47.4±9.2 47.7±9.5 0.47

Mental health 43.2±11.5 42.9±12.0 0.82

All values are means±SD.

青年期および中年期修行僧の血清脂質および血糖値

Young group Middle-aged group(n=12) (n=6) P -value

Total cholestelol (mg/dL) 174±35 219±33 0.02

HDL cholestelol (mg/dL) 54±10 60±11 0.28

Triglyceride (mg/dL) 78±47 113±43 0.14

Blood glucose (mg/dL) 87±5 98±10 0.01

All values are means±SD. HDL, high-density lipoprotein.

まとめ

1 ． BMI 、体脂肪率、エネルギー消費量、栄養素等摂取量、健康関連 QOL において青年期修行僧と中年期修行僧間で有意差は認められなかった。

2 ． HDLコレステロール、中性脂肪で有意差は認められなかったものの、総コレステロール、血糖では青年期修行僧よりも中年期修行僧で有意に高い値を示した 。このことから、総コレステロールおよび血糖値は、加齢による身体の生理変化の

影響を受ける可能性が示唆された。

終わりに

1 ．これまでほとんど報告されることのなかった禅宗僧堂で作られ摂取される食事の特性について、また禅宗修行僧の栄養摂取状況と健康状態について明らかにすることができた。

2 ．本研究の被験者は僧堂で集団生活をしている禅宗修行僧である。したがって、本研究で得られたデータは、普通の調査研究であればデータ解析の段階で調整せざるを得ない交絡因子が、調査開始時点ですでに除外されているという点で精度が高いと言える。

3 ．今後は、本研究のデータを用いて一般人の健康増進・疾病予防に貢献できる研究を行っていきたい。

調査にご協力いただきました禅宗修行僧の皆様、調査の交渉にご尽力を賜りました元駒澤大学理事長池野秀一先生、ご指導・ご助言を賜りました女子栄養大学名誉教授菅原龍幸先生、同じく松本仲子先生、駒沢女子大学准教授篠原能子先生に心より感謝申し上げます。

＜料理の記録と写真撮影をお願いした典座の方々＞